説明

二枚貝の剥身を蒸してなる蒸貝の生産方法

【課題】ノロウイルス食中毒を起こす危険性の低い安全な牡蠣を、牡蠣の旨味・食感・外観などの低下を抑制しつつ提供する。
【解決手段】二枚貝の剥身を蒸してなる蒸貝の生産方法であって、100℃以上の温度かつ1kgf/cmG以下の圧力の蒸気を用いて前記二枚貝の剥身を蒸す工程を含む、生産方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二枚貝の剥身を蒸してなる蒸貝の生産方法、その生産方法に用いる食品加工装置及びその生産方法で得られる蒸貝に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、従来公知の牡蠣の生産・加工工程における衛生管理を説明するための製造工程図である。このように、生産者、漁連・漁協等は、一般的に、牡蠣の生産や出荷に当たっては、むき身、包装等の加工過程において、衛生的な水を十分に使用して洗浄したり、殺菌された清浄な海水で一定期間畜養したりして、常日頃から製品の管理に取り組んでいる。また、こうした取り組みに加え、主要生産県では独自に適正養殖指針、ノロウイルス対策指針等を定めて、都道府県と生産者が連携し、養殖牡蠣の安全性や信頼の確保を図っている。
【0003】
こうした活動の一環として、生産者、漁連・漁協等は、出荷される養殖牡蠣について定期的な自主検査を実施しており、ノロウイルスの保有の有無を確認している。また、都道府県でも生産者の自主検査に加え、必要に応じて検査を実施している。特に、生食用として出荷される養殖牡蠣については、ノロウイルス対策指針等に基づき検査の結果が、陽性の場合には、生食用としては出荷されないこととなっている。そのため、生牡蠣であっても通常はノロウイルスの感染源となることは滅多にない。
【0004】
実際に、厚生労働省によれば、過去のノロウイルス食中毒の調査結果を見ると、食品から直接ウイルスを検出することは難しく、食中毒事例のうちでも約7割では原因食品が特定できていないとされている。その中には、ウイルスに感染した食品取扱者を介して食品が汚染されたことが原因となっているケースも多いとされている。例えば、厚生労働省が発表しているノロウイルス食中毒の原因食品別発生件数を見ると、平成20年の総件数303件のうち二枚貝を原因とするものは20件にとどまっている。また、厚生労働省によれば、ノロウイルスに汚染された二枚貝による食中毒は生や加熱不足のもので発生しており、十分に加熱すれば、食べても問題ないとされている。
【0005】
しかしながら、テレビをはじめとするマスコミによる過剰な報道によって、一部の消費者の間にはノロウイルス食中毒の主要原因が牡蠣にあるという誤解が広まってしまい、本来であれば家庭で十分に加熱すれば、食べても問題ない牡蠣の消費量に悪影響を与えている。そのため、現在、流通業者・消費者の間でノロウイルス食中毒を起こす危険性の低い安全な牡蠣に対する需要が高まっている。
【0006】
例えば、特許文献1には、かき殻から剥いた生かきを洗浄した後、生かきの中心温度が75℃以上80℃以内の温度で、1分以上3分以内の時間、加熱することにより、生かきの表層肉質部に蛋白質の凝固変性処理を行い、これを迅速に放熱冷却し、衣を付けて油で揚げることにより、衣の水分の蒸発と澱粉質の硬化によって、かきの表面にコーティング層を形成させ、これを急速に冷凍保存する技術が記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、冷凍かきを過熱蒸気を用いて加熱して解凍し、その解凍かきを遠赤外線を用いて加熱することで中心温度を所定温度以上に上昇すると共に、焙焼して焼きかきとする技術が記載されている。
【0008】
また、特許文献3には、生鮮水産物であるかきを温度160℃から300℃の範囲でかつ時間180秒から300秒の範囲で過熱蒸気により直接加熱し、加熱後、冷凍するようにする技術が記載されている。
【0009】
また、特許文献4には、牡蠣供給機で、網状あるいは格子状のトレーに、生あるいは冷凍された牡蠣のむき身を並べ、これを過熱蒸気式焼機で牡蠣のむき身を焙焼し、次に、ガスバーナー等を備えた炙り機で、過熱蒸気で焙焼された牡蠣のむき身の各表面を炙り、これをメッシュ(網)ベルト式トンネルフリーザーによって凍結するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−139420号公報
【特許文献2】特開2003−339356号公報
【特許文献3】特開2004−321018号公報
【特許文献4】特開2009−112210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記文献記載の従来技術は、以下の点で改善の余地を有していた。
第一に、特許文献1記載の技術では、衣を付けて油で揚げたフリッターとしているため、牡蠣の主要な調理法である鍋物に用いることが困難である。また、この技術では蒸煮加熱を行っているため、生かきの中心部の温度を85℃以上で1分間維持してノロウイルスを失活させようとした場合、加熱過多となり、特に、無脊椎でしかも含水率が80%以上と云う軟体性の生物だけに豊満に見えても総ての障害に対して悉く反応が早く、殊に加熱過多は経時変化が大きく瞬時に旨味成分を流出させ、痩せ細り、品質低下は避けることができず、また、歩留まりも極端に低下するため不良品が多く、逆に、原価高となるという問題があった。
【0012】
第二に、特許文献2記載の技術では、解凍かきを焙焼して焼きかきとしているため、牡蠣の主要な調理法であるカキフライ及び鍋物に用いることが困難である。また、この技術では、遠赤外線で加熱を行っているため、焼きかきの中心部の温度は65℃にしか到達せず、ノロウイルスを失活させることは困難であるという問題があった。
【0013】
第三に、特許文献3記載の技術では、温度160℃から300℃の範囲でかつ時間180秒から300秒の範囲で過熱蒸気により直接加熱しているため、この文献における記述に反して実際には旨みエキスの流出が起こりやすく、外観の変色も起こりやすいという問題があった。
【0014】
第四に、特許文献4記載の技術では、牡蠣のむき身の各表面を炙っているため、牡蠣の主要な調理法であるカキフライ及び鍋物に用いることが困難である。また、100°C〜450°Cの過熱水蒸気を発生させ、牡蠣に当てて焙焼しているため、この文献における記述に反して実際には旨みエキスの流出が起こりやすく、外観の変色も起こりやすいという問題があった。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ノロウイルス食中毒を起こす危険性の低い安全な牡蠣を、牡蠣の旨味・食感・外観などの低下を抑制しつつ提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、二枚貝の剥身を蒸してなる蒸貝の生産方法であって、100℃以上の温度かつ1kgf/cmG以下の圧力の蒸気を用いて前記二枚貝の剥身を蒸す工程を含む、生産方法が提供される。
【0017】
この方法によれば、100℃以上の温度かつ1kgf/cmG以下の圧力の低温低圧の多湿蒸気を用いるため、飽和水蒸気に含まれる顕熱量に対する潜熱量の割合が大きくなり、短時間で効率的かつ均一に二枚貝の剥身を蒸すことができる。そのため、従来公知の高温高圧の乾燥蒸気を用いる場合に比べて短時間のうちに二枚貝の剥身の中心温度を上昇させることができる。そのため、ノロウイルスを短時間のうちに失活させることができる上に、その間二枚貝の表面温度が中心温度に比べて過度に加熱されにくいため、牡蠣の旨味・食感・外観などの低下を抑制することができる。
【0018】
また、本発明によれば、上記の生産方法を用いて生産されてなる蒸貝が提供される。
【0019】
この蒸貝は、100℃以上の温度かつ1kgf/cmG以下の圧力の低温低圧の多湿蒸気を用いて蒸されているため、飽和水蒸気に含まれる顕熱量に対する潜熱量の割合が大きく、短時間で効率的かつ均一に蒸されている。そのため、従来公知の高温高圧の乾燥蒸気を用いる場合に比べて短時間のうちに二枚貝の剥身の中心温度が上昇する。そのため、ノロウイルスが短時間のうちに失活した上、二枚貝の表面温度が中心温度に比べて過度に加熱されにくいため、牡蠣の旨味・食感・外観などの低下が少ない蒸貝が得られる。
【0020】
また、本発明によれば、二枚貝の剥身を蒸すための蒸貝の製造装置が提供される。ここで、この蒸貝の製造装置は、高圧蒸気を供給するボイラーと、高圧蒸気を減圧蒸気に変換するスチームチェンジャーと、減圧蒸気を用いて二枚貝の剥身を蒸す蒸機と、ボイラー及び前記スチームチェンジャーを接続する高圧蒸気配管と、スチームチェンジャー及び蒸機を接続する減圧蒸気配管と、二枚貝の剥身を搬送するためのメッシュベルトと、を備える。そして、このスチームチェンジャーは、高圧蒸気がスチームチェンジャー内に設けられている貯水槽内に供給されることによって、貯水槽中の水が沸騰して減圧蒸気が発生するように構成されている。また、この減圧蒸気配管は、高圧蒸気配管の内径よりも大きい内径を有している。さらに、この蒸機は、蒸機中を移動するように設けられているメッシュベルト上で搬送される二枚貝の剥身に対して上下方向から蒸気を噴射することによって前記二枚貝の剥身を連続的に蒸すための蒸気噴出口を有する。
【0021】
この蒸貝の製造装置によれば、ボイラーから高圧蒸気配管を介してスチームチェンジャーに供給された高圧蒸気が、スチームチェンジャー内に設けられている貯水槽内に供給されることによって、貯水槽中の水が沸騰して減圧蒸気が発生する。そして、この減圧蒸気は、高圧蒸気配管の内径よりも大きい内径を有している減圧蒸気配管を介して蒸機に供給され、蒸機中を移動するように設けられているメッシュ(網)ベルト上で搬送される二枚貝の剥身に対して上下方向に設けられた蒸機の蒸気噴出口から噴射されて、二枚貝の剥身を連続的に蒸すことができる。
【0022】
すなわち、この蒸貝の製造装置によれば、スチームチェンジャーで減圧された低温低圧の多湿蒸気を用いるため、飽和水蒸気に含まれる顕熱量に対する潜熱量の割合が大きくなり、短時間で効率的かつ均一に二枚貝の剥身を蒸すことができる。そのため、従来公知の高温高圧の乾燥蒸気を用いる場合に比べて短時間のうちに二枚貝の剥身の中心温度を上昇させることができる。そのため、ノロウイルスを短時間のうちに失活させることができる上に、その間二枚貝の表面温度が中心温度に比べて過度に加熱されにくいため、牡蠣の旨味・食感・外観などの低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、低温低圧の多湿蒸気を用いて二枚貝の剥身を蒸すため、ノロウイルスを短時間のうちに失活させることができる上に、牡蠣の旨味・食感・外観などの低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】従来公知の牡蠣の生産・加工工程における衛生管理を説明するための製造工程図である。
【図2】実施形態に係る蒸貝の生産方法を説明するための製造工程図である。
【図3】実施形態に係る蒸貝の製造装置の構成を示した概念図である。
【図4】実施形態に係る蒸貝の製造装置に設けられているスチームチェンジャー内での減圧の仕組みを説明するための概念図である。
【図5】実施形態に係る蒸貝の製造装置の変形例の構成を示した概念図である。
【図6】水−水蒸気の状態変化を示すT−V図である。
【図7】実験例1の蒸し後の牡蠣の剥身の芯温の測定データを示すグラフである。
【図8】実験例1の牡蠣の剥身の蒸し工程及び冷凍工程の作業の様子を説明するための写真である。
【図9】実験例1〜4の牡蠣の剥身の蒸し工程及び冷凍工程における牡蠣の剥身の外観を説明するための写真である。
【図10】実験例5の蒸し牡蠣の官能評価の様子を説明するための写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。なお、以下、圧力の単位を、単位面積[cm2]に働く力[kg]である[kg/cm2]で表す。ここで、最後のGはゲージ圧力を意味し、「圧力計に指示される」大気圧を基準とした圧力のことであるため、ゲージ圧力=絶対圧力−大気圧となる。
【0026】
<二枚貝の種類>
本実施形態において、「二枚貝(Bivalvia)」とは、軟体動物の一群である二枚貝綱に属する動物を意味する。また、本実施形態で用いる貝としては、この二枚貝綱に属する貝の中でも、カキ目に属する貝が好ましい。さらに、本実施形態で用いる貝としては、カキ目に属する貝の中でも、イタボガキ科に属する貝が好ましい。そして、本実施形態で用いる貝としては、イタボガキ科に属する貝の中でも、マガキ属又はイタボガキ属に属する貝が好ましい。
【0027】
ここで、マガキ属に属する貝としては、例えば、マガキ(真牡蠣)、イワガキ(岩牡蠣)、スミノエガキ(住之江牡蠣)などが好適に用いられる。また、イタボガキ属に属する貝としては、例えば、イタボガキ(板甫牡蠣)又はヨーロッパヒラガキなどが好適に用いられる。なぜなら、現在、ノロウイルス食中毒を起こす危険性の低い安全な牡蠣に対する需要が高まっていることにくわえて、旨みエキスを失うことなく、外観及び食感も低下させることなく加熱処理する技術が、牡蠣に関しては従来確立していなかったので、本実施形態の技術を特に好適に適用してこれらの問題を解決できるためである。
【0028】
<蒸気の性質>
本実施形態で「蒸気」とは、水蒸気を含む気体を意味する。すなわち、「蒸気」には、水蒸気を含み、かつ水粒子が分散している気体が含まれるものとする。
【0029】
蒸気とは水を加熱して発生する無色透明の気体(ガス)である。水を沸点まで上げるエネルギーを顕熱と呼び、沸騰している水を蒸気に変化させるエネルギーを潜熱と呼ぶ。これらの熱量は圧力や温度条件により異なった値を示す。潜熱変化中は水分を含んだ蒸気であり「湿り蒸気」と呼ばれる。完全に水分が蒸発した蒸気を「飽和蒸気」と呼び、さらに熱を加え続けたものが「過熱蒸気」である。ボイラーを出た直後の蒸気は「飽和蒸気」であり、飽和蒸気は僅かな放熱で凝縮水が発生する。
【0030】
ここで、本発明者等は、下記に示す飽和蒸気表に示すように、「飽和蒸気」では、温度及び圧力が小さいほど潜熱が大きくなることに着目し、「湿り蒸気」の顕熱ではなく潜熱を利用して二枚貝の剥身を蒸すことに想達し、ボイラーを出た直後の蒸気をあえて一旦水をくぐらせて減圧・温度低下させた上で潜熱を多く含む「湿り蒸気」として二枚貝の剥身に上下から噴射してみたところ、ボイラーを出た直後の蒸気に比べて短時間に効率よく二枚貝の剥身の中心部の温度を上昇させることに成功した上、外観及び食感の変化を抑制することができ、旨みエキスの流出も少ないことに気づいて本発明を完成させた。すなわち、本発明者等は、通常の発想であれば二枚貝の剥身の中心部の温度を短時間で上昇させるためには、「湿り蒸気」の温度及び圧力を増大させる発想をしがちであるところ、あえてその逆の試みを行うことによって予想外の効果を得たということができる。
【0031】
【表1】

【0032】
<蒸貝の生産方法>
図2は、実施形態に係る蒸貝の生産方法を説明するための製造工程図である。この図に示すように、具体的には、一連の作業を開始すると、まず、ボイラーで高圧蒸気を発生させる(S102)。そして、この高圧蒸気をスチームチェンジャーで減圧して減圧蒸気を得る(S104)。続いて、この減圧蒸気を用いて二枚貝の剥身を蒸す(S106)。その際、ノロウイルスを確実に失活させるように二枚貝の剥身の中心温度が85℃に到達した後、その中心温度が85℃以上の状態を1分以上維持する(S108)。その後、蒸した二枚貝の剥身を冷凍する(S110)。こうして一連の製造工程が終了する。
【0033】
すなわち、本実施形態の二枚貝の剥身を蒸してなる蒸貝の生産方法は、100℃以上の温度かつ1kgf/cmG以下の圧力の蒸気を用いて二枚貝の剥身を蒸す工程を含む。この方法によれば、100℃以上の温度かつ1kgf/cmG以下の圧力の低温低圧の多湿蒸気を用いるため、飽和水蒸気に含まれる顕熱量に対する潜熱量の割合が大きくなり、短時間で効率的かつ均一に二枚貝の剥身を蒸すことができる。そのため、従来公知の高温高圧の乾燥蒸気を用いる場合に比べて短時間のうちに二枚貝の剥身の中心温度を上昇させることができる。そのため、ノロウイルスを短時間のうちに失活させることができる上に、その間二枚貝の表面温度が中心温度に比べて過度に加熱されにくいため、牡蠣の旨味・食感・外観などの低下を抑制することができる。
【0034】
図3は、実施形態に係る蒸貝の製造装置の構成を示した概念図である。本実施形態に係る二枚貝の剥身を蒸すための蒸貝の製造装置1000は、高圧蒸気を供給するボイラー102と、高圧蒸気を減圧蒸気に変換するスチームチェンジャー106と、減圧蒸気を用いて二枚貝の剥身を蒸す蒸機110と、を備える。また、この蒸貝の製造装置1000は、ボイラー102及びスチームチェンジャー106を接続する高圧蒸気配管104と、スチームチェンジャー106及び蒸機110を接続する減圧蒸気配管108と、二枚貝の剥身120を搬送するためのメッシュ(網)ベルト118と、を備える。
【0035】
ここで、減圧蒸気配管108は、高圧蒸気配管104の内径よりも大きい内径を有している。また、蒸機110には、蒸機110中を移動するように設けられているメッシュベルト118上で搬送される二枚貝の剥身120に対して上下方向から蒸気124a、124bを噴射することによって二枚貝の剥身120を連続的に蒸すための蒸気噴出口122a、122bを有する。
【0036】
図4は、実施形態に係る蒸貝の製造装置に設けられているスチームチェンジャー内での減圧の仕組みを説明するための概念図である。このように、スチームチェンジャー106の内部は、高圧蒸気204が該スチームチェンジャー106内に設けられている貯水槽208内に供給されることによって、貯水槽208中の水202が沸騰して減圧蒸気206が発生するように構成されている。なお、この際、高圧蒸気204が減圧されて減圧蒸気206となることによって蒸気の体積が著しく膨張するが、減圧蒸気配管108は、高圧蒸気配管104の内径よりも大きい内径を有しているため、問題なく減圧蒸気配管108内を流通していく。
【0037】
すなわち、このような100℃以上の温度かつ1kgf/cmG以下の圧力の減圧蒸気206は、ボイラーにおいて発生させられた高圧蒸気を用いてスチームチェンジャー106中で水202を沸騰させることによって得ることができる。このとき、減圧される前の高圧蒸気204の温度及び圧力は、特に限定されるものではないが、例えば、100℃以上の温度かつ3kgf/cmG以上の圧力であることが好ましい。通常の食品工場に設置されている業務用のボイラー102から供給される高圧蒸気204の温度及び圧力が100℃以上の温度かつ3kgf/cmG以上であることが多く、このような高圧蒸気204を用いれば、スチームチェンジャー106中で100℃以上の温度かつ1kgf/cmG以下の圧力の減圧蒸気206を効率よくかつ大量に発生させることが可能だからである。
【0038】
また、この高圧蒸気204の温度は、110℃以上、120℃以上、130℃以上、140℃以上又は150℃以上であってもよい。この高圧蒸気204の温度が高いほどスチームチェンジャー中で100℃以上の温度かつ1kgf/cmG以下の圧力の減圧蒸気206を効率よくかつ大量に発生させることが可能だからである。もっとも、この高圧蒸気204の温度は、ボイラー102の能力及びコストパフォーマンスの問題から、300℃以下又は200℃以下であってもよい。一方、この高圧蒸気204の圧力は、4kgf/cmG以上、5kgf/cmG以上、6kgf/cmG以上、7kgf/cmG以上、8kgf/cmG以上、9kgf/cmG以上又は10kgf/cmG以上であってもよい。この高圧蒸気204の圧力が高いほどスチームチェンジャー106中で100℃以上の温度かつ1kgf/cmG以下の圧力の減圧蒸気206を効率よくかつ大量に発生させることが可能だからである。もっとも、この高圧蒸気204の圧力は、ボイラー102の能力及びコストパフォーマンスの問題から、30℃kgf/cmG以下又は20kgf/cmG以下であってもよい。
【0039】
ここで、上記の二枚貝の剥身120を蒸す際に用いる減圧蒸気206の温度は、100℃以上の温度かつ1kgf/cmG以下の圧力であればよく、特に限定するものではない。ただし、この減圧蒸気206の温度の上限としては、105℃以下であれば好ましく、104℃以下、103℃以下、102℃以下又は101℃以下であればより好ましい。この温度が100℃に近づくほど飽和水蒸気の潜熱量が増大するためである。
【0040】
また、この減圧蒸気206の圧力の下限としては、通常の海抜ゼロメートル前後の標高に設けられた製造設備の場合には、l大気圧以上の0kgf/cmG以上となる。また、この減圧蒸気206の圧力の上限としては、1kgf/cmG以下であればよく、特に限定するものではない。ただし、この減圧蒸気206の圧力の上限としては、0.9kgf/cmG以下、0.8kgf/cmG以下、0.7kgf/cmG以下、0.6kgf/cmG以下、0.5kgf/cmG以下、0.4kgf/cmG以下、0.3kgf/cmG以下、0.2kgf/cmG以下、0.1kgf/cmG以下、0.09kgf/cmG以下、0.08kgf/cmG以下、0.07kgf/cmG以下、0.06kgf/cmG以下、0.05kgf/cmG以下、0.04kgf/cmG以下、0.03kgf/cmG以下、0.02kgf/cmG以下又は0.01kgf/cmG以下であれば好ましい。この減圧蒸気206の圧力が0kgf/cmGに近づくほど飽和水蒸気の潜熱量が増大するためである。
【0041】
また、このとき、この減圧蒸気206の供給量としては、特に限定するものでなく、食品加工の目的に応じて適宜調整することができるが、例えば、二枚貝の剥身1kgあたり蒸気量0.1kg/h以上の蒸気を用いて二枚貝の剥身120を蒸すことが好ましい。すなわち、この減圧蒸気206の供給量としては、二枚貝の剥身1kgあたり蒸気量0.1kg/h以上、0.2kg/h以上、0.3kg/h以上であればより好ましい。この減圧蒸気206の供給量を増加させるほど二枚貝の剥身120の中心温度の上昇速度も大きくなるからである。また、この減圧蒸気206の供給量の上限は特に定めるものではないが、製造設備の能力の問題及びコストパフォーマンスの問題から二枚貝の剥身1kgあたり蒸気量10kg/h以下、1kg/h以下又は0.5kg/h以下であることが好ましい。
【0042】
また、このとき、二枚貝の剥身120への減圧蒸気206の暴露方法としては、特に限定するものではないが、例えば一方向から蒸気を噴射してもよく、対向する二方向から減圧蒸気124a、124bを噴射してもよく、上下左右前後をとりまくように全体から均一に減圧蒸気を噴射してもよい。もっともこれらの中でも製造設備の設計の容易性、コストパフォーマンスの良さ及び二枚貝の剥身120の中心部の加熱効率の面からは対向する二方向から減圧蒸気124a、124bを噴射することが好ましい。すなわち、二枚貝の剥身120を蒸す際には、メッシュ(網)ベルト118上で搬送される二枚貝の剥身120に対して下方向から蒸気を噴射することによって二枚貝の剥身120を連続的に蒸すことが好ましい。
【0043】
ここで、ノロウイルスの失活化の温度と時間については、現時点においてこのウイルスを培養細胞で増やす手法が確立していないため、正確な数値は確定していないが、厚生労働省の調査報告書においては、同じようなウイルスから推定すると、食品の中心温度85℃以上で1分間以上の加熱を行えば、感染性はなくなるとされている。そのため、二枚貝の剥身120を蒸す際には、二枚貝の剥身120の中心温度が85℃以上である状態を1分間以上維持することが好ましい。もっとも、この二枚貝の剥身120の中心温度は、90℃以上、95℃以上に上昇されてもよい。この二枚貝の剥身120の中心温度が高いほど二枚貝の剥身120に内在しているノロウイルスの感染力を低減させやすくなるためである。ただし、この二枚貝の剥身120の中心温度は、200℃以下、150℃以下又は100℃以下であることが好ましい。この二枚貝の剥身120の中心温度を上昇させすぎると加熱しすぎることになり、二枚貝の剥身120の旨みが失われたり、食感が変化したりしてしまう可能性があるからである。
【0044】
また、この二枚貝の剥身120の中心温度が85℃以上である状態は、2分間以上、3分間以上、4分間以上、5分間以上維持されてもよい。この二枚貝の剥身120の中心温度が85℃以上である状態が長く続くほど二枚貝の剥身120に内在しているノロウイルスの感染力を低減させやすくなるためである。ただし、この二枚貝の剥身120の中心温度が85℃以上である状態は、1時間以内、30分以内又は10分以内であることが好ましい。この二枚貝の剥身120の中心温度が85℃以上である状態が長すぎると加熱しすぎることになり、二枚貝の剥身120の旨みが失われたり、食感が変化したりしてしまう可能性があるからである。
【0045】
<冷凍工程を含む変形例>
図5は、実施形態に係る蒸貝の製造装置の変形例の構成を示した概念図である。この蒸貝の製造装置1100は、上記の蒸貝の製造装置1000と基本的には同様の構成であるため、同様の構成については説明を省略する。以下、この蒸貝の製造装置1100について特有の点について説明する。
【0046】
本実施形態に係る蒸貝の製造装置1100は、上記の蒸貝の製造装置1000の有する構成にくわえて、さらに、蒸貝を冷凍するための冷凍機112と、冷凍機112にフロンを供給するためのフロン供給部114と、を備える。そして、冷凍機112には、冷凍機112中を移動するように設けられているスチールベルト119上で搬送される二枚貝の剥身120に対して上下方向からフロンで冷却された冷気128a、128bを噴射することによって二枚貝の剥身120を連続的に冷凍するための冷気噴出口126a、126bが設けられている。
【0047】
そのため、本実施形態では、上記の実施形態で得られる蒸貝を好適に冷凍することができる。このとき、蒸貝を冷凍する工程が、−20℃以下の冷気を用いて二枚貝の剥身120を冷凍する工程を含むことが好ましい。また、蒸貝を冷凍する際の冷気の温度は、特に限定するものではないが、例えば−30℃以下、−40℃以下であってもよい。二枚貝の剥身120に対して暴露される冷気の温度が低いほど蒸貝を短時間で効率よく冷凍することができるからである。もっとも、冷凍機112の能力及びコストパフォーマンスの観点から、二枚貝の剥身120に対して暴露される冷気の温度は、−100℃以上又は−80℃以上であってもよい。
【0048】
また、このとき、二枚貝の剥身120への冷気の暴露方法としては、特に限定するものではないが、例えば一方向から冷気を噴射してもよく、対向する二方向から冷気128a、128bを噴射してもよく、上下左右前後をとりまくように全体から均一に冷気を噴射してもよい。もっともこれらの中でも製造設備の設計の容易性、コストパフォーマンスの良さ及び二枚貝の剥身120の中心部の冷却効率の面からは対向する二方向から冷気フロン128a、128bを噴射することが好ましい。すなわち、二枚貝の剥身120を冷凍する工程としては、スチールベルト119上で搬送される二枚貝の剥身120に対して上下方向から冷気を噴射することによって二枚貝の剥身120を連続的に冷凍することが好ましい。
【0049】
ここで、二枚貝の剥身120を冷凍する際には、二枚貝の剥身120の中心温度が−10℃以下である状態を1分間以上維持することが好ましい。もっとも、この二枚貝の剥身120の中心温度は、−20℃以下、−30℃以下にまで冷却されてもよい。この二枚貝の剥身120の中心温度が低いほど二枚貝の剥身120が短時間で凍結しやすくなるからである。ただし、この二枚貝の剥身120の中心温度は、−70℃以上又は−60℃以上であることが好ましい。この二枚貝の剥身120の中心温度を冷却させすぎると、二枚貝の剥身120の解凍に時間がかかり過ぎたり、食感が変化したりしてしまう可能性があるからである。
【0050】
また、この二枚貝の剥身120の中心温度が剥き身を冷凍する場合、いったん−10℃以下、−20℃以下、−30℃以下などに冷却した後には、その温度を解凍するまでは維持することが好ましい。冷凍製品は、温度変化を小さくすることが品質維持のポイントであるからである。
【0051】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
<実験例1>
図5に示す蒸貝の製造装置1100を用いて実際に牡蠣を各種条件で蒸す実験を行った。具体的には、下記の表2及び表3に示すように、広島産の牡蠣の剥身120を蒸機110の内部を通るメッシュ(網)ベルト118上に載せて、実験例1(製品1)ではボイラー102から発生した130℃、5〜6kgf/cmGの高圧蒸気をそのまま蒸機110に牡蠣の剥身1kgあたり蒸気量0.4kg/hで供給して蒸し工程を行った。その際、牡蠣の剥身120の中心部の温度が85℃に到達してから1分間85℃の状態を維持するまでにかかった時間を測定したところ、16分25秒かかった。その際の蒸し後の芯温の測定データを図7に示す。その後、この蒸し工程を経た牡蠣の剥身120をスチールベルト119によって冷凍機112に投入して11分かけて冷凍した。その際、上下方向からフロンで冷却した−50℃の冷気を噴霧した。その結果について表3、図8及び図9に示す。その結果、冷凍後の重量(D)/洗浄後重量(B)の歩留まりは80.8%となり、牡蠣の剥身120から多くの旨みエキスが流出していることが判明した。また、十分なトレーニングを積んだ複数の官能パネラーが肉眼で観察したところ、牡蠣の剥身120が黄色く変色しており外観が劣化していた。さらに、これらの官能パネラーが実際に試食してみたところ、牡蠣の剥身120の食感及び旨みの面で劣化が著しかった。
【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
<実験例2>
実験例1と同様の実験を広島牡蠣に代えて兵庫牡蠣を用いて行った。その結果について表3、図8及び図9に示す。その結果、牡蠣の剥身120の中心部の温度が85℃に到達してから1分間85℃の状態を維持するまでにかかった時間を測定したところ、15分45秒かかった。また、冷凍後の重量(D)/洗浄後重量(B)の歩留まりは75.3%となり、牡蠣の剥身120から多くの旨みエキスが流出していることが判明した。また、十分なトレーニングを積んだ複数の官能パネラーが肉眼で観察したところ、牡蠣の剥身120が黄色く変色しており外観が劣化していた。さらに、これらの官能パネラーが実際に試食してみたところ、牡蠣の剥身120の食感及び旨みの面で劣化が著しかった。
【0057】
<実験例3>
実験例1と同様の実験を蒸し工程の加熱時間を6分に固定して行った。その結果について表3、図8及び図9に示す。その結果、牡蠣の剥身120の中心部の温度が6分後には73.2℃〜77.0℃までしか上昇しなかった。そのため、ノロウイルスの失活は不十分である可能性がある。なお、冷凍後の重量(D)/洗浄後重量(B)の歩留まりは88.1%となり、牡蠣の剥身120から多くの旨みエキスの流出が抑制されていることが判明した。また、十分なトレーニングを積んだ複数の官能パネラーが肉眼で観察したところ、牡蠣の剥身120がほとんど変色しておらず外観が良好であった。さらに、これらの官能パネラーが実際に試食してみたところ、牡蠣の剥身120の食感及び旨みの面で良好であった。
【0058】
<実験例4>
実験例1と同様の実験を、ボイラー102から発生した130℃、5〜6kgf/cmGの高圧蒸気を、一旦スチームチェンジャー106を通して100℃、0〜0.07kgf/cmGの減圧蒸気にした上で、蒸機110に牡蠣の剥身1kgあたり蒸気量0.4kg/hで供給して蒸し工程を行った。その結果について表3、図8及び図9に示す。その結果、牡蠣の剥身120の中心部の温度が6分後には85.7℃〜87.5℃まで上昇したので、そのままさらに1分間加熱した。そのため、ノロウイルスの失活は十分であると考えられる。なお、冷凍後の重量(D)/洗浄後重量(B)の歩留まりは84.2%となり、牡蠣の剥身120から多くの旨みエキスの流出が抑制されていることが判明した。また、十分なトレーニングを積んだ複数の官能パネラーが肉眼で観察したところ、牡蠣の剥身120がほとんど変色しておらず外観が良好であった。さらに、これらの官能パネラーが実際に試食してみたところ、牡蠣の剥身120の食感及び旨みの面で良好であった。
【0059】
<実験例5>
実験例1と同様の実験を、岡山産、兵庫産、広島産の生牡蠣に対して、それぞれ高圧蒸気(130℃、5〜6kgf/cmG)および低圧蒸気(100℃、0〜0.07kgf/cmG)を用いて、牡蠣の剥身1kgあたり蒸気量0.4kg/hで供給して蒸し工程を行った。その際、牡蠣の剥身120の中心部の温度が85℃に到達してから1分間85℃の状態を維持するまで加熱を継続した。なお、特に冷凍工程は行わなかった。その後、蒸し工程の前後の牡蠣の全体重量の変化を比較して歩留を計算した。その結果について表4に示す。
【0060】
【表4】

【0061】
その結果、蒸し工程後重量/蒸し工程前重量の歩留まりはいずれの場合も75〜100%の範囲内となり、低圧蒸気の場合と高圧蒸気の場合とで歩留まりには大きな違いは見られなかった。また、一部の生牡蠣については、蒸し工程の前後の牡蠣の個別重量の変化を比較して歩留を計算した。その結果、やはり個別重量で見ても蒸し工程後重量/蒸し工程前重量の歩留まりはいずれの場合も75〜100%の範囲内となり、低圧蒸気の場合と高圧蒸気の場合とで歩留まりには大きな違いは見られなかった。
【0062】
また、これらの生牡蠣、高圧蒸気処理した牡蠣、低圧蒸気処理した牡蠣について、それぞれ2つずつサンプルを選び出して栄養成分の検査を行った。なお、栄養成分の検査法としては栄養表示基準に基づく公定法により検査を行った。その結果について表5に示す。
【0063】
【表5】

【0064】
その結果、生牡蠣に比べて、高圧蒸気処理した牡蠣および低圧蒸気処理した牡蠣の場合には、水分が若干減少する一方で、タンパク質、熱量、亜鉛、グリコーゲンが明らかに増加することが明らかになった。しかしながら、高圧蒸気処理した牡蠣および低圧蒸気処理した牡蠣の間では、水分、タンパク質、熱量、亜鉛、グリコーゲンに大きな違いは見られなかった。また、タウリンについては、生牡蠣、高圧蒸気処理した牡蠣、低圧蒸気処理した牡蠣のいずれにおいても大きな違いは認められなかった。
【0065】
また、上記の岡山産の生牡蠣、高圧蒸気処理した牡蠣、低圧蒸気処理した牡蠣について、豊富な経験を積んだ複数の官能パネラー(10人)が実際に試食して味を官能評価した。その結果について表6および図10に示す。
【0066】
【表6】

【0067】
その結果、高圧蒸気処理した牡蠣および低圧蒸気処理した牡蠣の間では、表5で示したように、水分、タンパク質、熱量、亜鉛、グリコーゲン、タウリンに大きな違いは見られなかったにも関わらず、味の面では予想外に大きな違いが存在していることが明らかになった。すなわち、高圧蒸気処理した牡蠣では、身がパサパサであり、味が薄く、牡蠣の身が歯にくっついて歯に残る(おそらく牡蠣の表面が乾燥していると考えられる)感じがあった。その反対に、低圧蒸気処理した牡蠣では、ジューシーで、味が濃く、旨みが残っており、甘く、ふっくら柔らかく、ふわふわ柔らかく、肉汁が多く、後味がしつこくなかった。このような官能検査の結果は、繰り返しになるが、上記の表5で示した栄養成分の検査結果からは予想が困難な結果であった。
【0068】
<結果の考察>
上記の実験例1〜4の実験結果から、100℃以上の温度かつ1kgf/cmG以下の圧力の低温低圧の多湿蒸気を用いれば、飽和水蒸気に含まれる顕熱量に対する潜熱量の割合が大きくなり、短時間で効率的かつ均一に二枚貝の剥身を蒸すことができることがわかる。そのため、従来公知の高温高圧の乾燥蒸気を用いる場合に比べて短時間のうちに二枚貝の剥身の中心温度を上昇させることができる。そのため、ノロウイルスを短時間のうちに失活させることができる上に、その間二枚貝の表面温度が中心温度に比べて過度に加熱されにくいため、牡蠣の旨味・食感・外観などの低下を抑制することができる。
【0069】
また、上記の実験例5の実験結果から、100℃以上の温度かつ1kgf/cmG以下の圧力の低温低圧の多湿蒸気を用いた場合には、従来公知の高温高圧の乾燥蒸気を用いる場合に比べて、水分、栄養成分の面では同等な蒸し牡蠣が得られることがわかった。しかしながら、驚くべきことに、100℃以上の温度かつ1kgf/cmG以下の圧力の低温低圧の多湿蒸気を用いた場合には、従来公知の高温高圧の乾燥蒸気を用いる場合に比べて、旨味・食感の面では、ジューシーで、味が濃く、旨みが残っており、甘く、ふっくら柔らかく、ふわふわ柔らかく、肉汁が多く、後味がしつこくないという予想外の優れた特性を有する蒸し牡蠣を得ることができることがわかった。
【0070】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0071】
102 ボイラー
104 高圧蒸気配管
106 スチームチェンジャー
108 減圧蒸気配管
110 蒸機
112 冷凍機
114 フロン供給部
118 メッシュ(網)ベルト
119 スチールベルト
120 二枚貝の剥身
122a、122b 蒸気噴出口
124a、124b 蒸気
126a、126b 冷気噴出口
128a、128b 冷気
202 水
204 高圧蒸気
206 減圧蒸気
208 貯水槽
1000 蒸貝の製造装置
1100 蒸貝の製造装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
二枚貝の剥身を蒸してなる蒸貝の生産方法であって、
100℃以上の温度かつ1kgf/cmG以下の圧力の蒸気を用いて前記二枚貝の剥身を蒸す工程を含む、生産方法。
【請求項2】
請求項1記載の生産方法において、
前記蒸す工程が、100℃以上105℃以下の温度かつ0kgf/cmG以上0.1kgf/cmG以下の圧力の蒸気を用いて前記二枚貝の剥身を蒸す工程を含む、生産方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の生産方法において、
前記蒸す工程が、前記二枚貝の剥身1kgあたり蒸気量0.1kg/h以上の蒸気を用いて前記二枚貝の剥身を蒸す工程を含む、生産方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の生産方法において、
前記蒸す工程が、メッシュ(網)ベルト上で搬送される前記二枚貝の剥身に対して下方向から前記蒸気を噴射することによって前記二枚貝の剥身を連続的に蒸す工程を含む、生産方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の生産方法において、
前記蒸す工程が、前記二枚貝の剥身の中心温度が85℃以上である状態を1分間以上維持する工程を含む、生産方法。
【請求項6】
請求項5記載の生産方法において、
前記蒸す工程が、前記二枚貝の剥身に内在しているノロウイルスの感染力を低減させる工程を含む、生産方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれかに記載の生産方法において、
100℃以上の温度かつ3kgf/cmG以上の圧力の高圧蒸気を用いて水を沸騰させることによって、100℃以上の温度かつ1kgf/cmG以下の圧力の減圧蒸気を得る工程をさらに含む、生産方法。
【請求項8】
請求項1〜7いずれかに記載の生産方法において、
前記蒸す工程で得られる蒸貝を冷凍する工程をさらに含む、生産方法。
【請求項9】
請求項8記載の生産方法において、
前記冷凍する工程が、−20℃以下の冷気を用いて前記二枚貝の剥身を冷凍する工程を含む、生産方法。
【請求項10】
請求項9記載の生産方法において、
前記冷凍する工程が、スチールベルト上で搬送される前記二枚貝の剥身に対して上下方向から前記冷気を噴射することによって前記二枚貝の剥身を連続的に冷凍する工程を含む、生産方法。
【請求項11】
請求項1〜10いずれかに記載の生産方法において、
前記二枚貝が、牡蠣である、生産方法。
【請求項12】
請求項1〜11いずれかに記載の生産方法を用いて生産されてなる蒸貝。
【請求項13】
二枚貝の剥身を蒸すための蒸貝の製造装置であって、
高圧蒸気を供給するボイラーと、
前記高圧蒸気を減圧蒸気に変換するスチームチェンジャーと、
前記減圧蒸気を用いて前記二枚貝の剥身を蒸す蒸機と、
前記ボイラー及び前記スチームチェンジャーを接続する高圧蒸気配管と、
前記スチームチェンジャー及び前記蒸機を接続する減圧蒸気配管と、
前記二枚貝の剥身を搬送するためのメッシュベルトと、
を備え、
前記スチームチェンジャーが、前記高圧蒸気が該スチームチェンジャー内に設けられている貯水槽内に供給されることによって、前記貯水槽中の水が沸騰して減圧蒸気が発生するように構成されており、
前記減圧蒸気配管が、前記高圧蒸気配管の内径よりも大きい内径を有し、
前記蒸機が、該蒸機中を移動するように設けられている前記メッシュベルト上で搬送される前記二枚貝の剥身に対して下方向から前記蒸気を噴射することによって前記二枚貝の剥身を連続的に蒸すための蒸気噴出口を有する、製造装置。
【請求項14】
請求項13記載の製造装置において、
蒸貝を冷凍するための冷凍機と、
前記冷凍機にフロンを供給するためのフロン供給部と、
前記二枚貝の剥身を搬送するためのスチールベルトと、
をさらに備え、
前記冷凍機が、該冷凍機中を移動するように設けられている前記スチールベルト上で搬送される前記二枚貝の剥身に対して上下方向から前記フロンによって冷却された冷気を噴射することによって前記二枚貝の剥身を連続的に冷凍するための冷気噴出口を有する、
製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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