説明

二槽式メタン発酵装置及び方法

【課題】酸生成過程を行う反応槽内の反応状況をリアルタイムで把握可能とする。
【解決手段】有機物から酸を生成する酸生成槽3と該酸生成槽3で生成された酸をメタン発酵させるメタン発酵槽11とからなる二槽式メタン発酵装置Aであって、酸生成槽3内の酸化還元電位を測定する酸化還元電位測定部5と、酸生成槽3内のpHを測定するpH測定部6と、酸化還元電位測定部5から入力されるORP測定値とpH測定部6から入力されるpH測定値とに基づいて酸生成槽3内の反応状態を評価する酸生成槽評価部9とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸生成過程とメタン発酵過程とを個別の反応槽で行う二槽式メタン発酵装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排水や廃棄物の処理としては、脱焼却の動きなどから、微生物による浄化(生物処理)の適用分野が拡がりつつある。特にメタン発酵処理は、非特許文献1に記載の通り、ビール、食品などの溶解性有機物を含む排水処理には、広く用いられるようになってきた。さらに近年では、生ごみ、畜産糞尿などの固形の有機廃棄物にも適用されるようになってきた。
【0003】
メタン発酵処理は、一般に、原料となる有機物の加水分解過程、酸生成過程及びメタン発酵過程との3つの反応過程からなる。これら反応過程のうち、加水分解過程は、有機物を加水分解してグルコースを生成する反応であり、酸生成過程及びメタン発酵過程は、嫌気性処理であり、メタン発酵に寄与する複数種の微生物の複合体(一般にメタン発酵菌と称する)による微生物反応である。酸生成過程は、さらに下記の3つの反応過程からなる。すなわち、グルコースから蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの低級脂肪酸を生成する酸発酵過程と、プロピオン酸または酪酸から酢酸を生成する酢酸発酵過程と、プロピオン酸または酪酸から水素を生成する水素発酵過程である。メタン発酵過程は、このような酸生成過程で生成された低級脂肪酸をメタンガスと二酸化炭素とに分解するものである。
【0004】
このようなメタン発酵処理を行うメタン発酵装置には、上記酸生成過程とメタン発酵過程とを単一の反応槽で行う一槽式(一相式)のメタン発酵装置と、両者を個別の反応槽で行う二槽式(二相式)のメタン発酵装置とがあり、従来では一槽式メタン発酵装置が主流であった。しかしながら、一槽式メタン発酵装置は単一の反応槽で酸生成過程とメタン発酵過程とを同時に進行させるので、複数種の微生物をバランスよく共存させる必要があり、槽内環境の適正化とその維持管理が困難であるという問題がある。これに対して二槽式メタン発酵装置は、各反応槽をより最適な条件で運転することができるため、維持管理が容易である上に、メタン発酵処理の高速化が図れるというメリットがある。
【0005】
ところで、一槽式、二槽式のいずれのメタン発酵装置であっても、その不調の一因は、メタン発酵過程の環境が一定に維持できないためであり、発酵環境の適正化と維持に関しては、既に種々の提案が成されている。
例えば、特許文献1には、有機性排液をA2O法で処理した際に発生する余剰汚泥を減容化する方法が開示されている。そして、活性汚泥処理水中から余剰汚泥を分離して、その中から嫌気性汚泥を選択的に分離する際に、その嫌気度を酸化還元電位で識別することと、酸化還元電位によって嫌気度が規定された余剰汚泥を用いることにより、メタン発酵過程を適正環境下で行えることが、記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、有機性排水のメタン発酵と脱窒処理とを同一の嫌気性消化処理槽内で行う方法と装置とが開示されており、消化処理槽内が一定の嫌気度になるように制御する際の指標として、酸化還元電位を使用することが記載されている。さらに、消化処理槽の前段に、酸生成槽を設けた二槽式の発酵処理設備についての記載がある。
【0007】
これら特許文献1あるいは特許文献2に記載された装置及び方法は、メタン発酵過程を適正環境で行えるように、メタン発酵過程へ投入する被処理物の嫌気度を限定し、嫌気度の指標として酸化還元電位を用いるものである。なお、反応槽内の環境の適正化と維持には、被処理物の供給方法、温度、pH、攪拌条件、滞留時間の他、嫌気度の管理が有効であることが一般的に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−239510号公報
【特許文献2】特開2009−039643号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】R.E.Speece原著、産業廃水処理のための嫌気性バイオテクノロジー、技術堂出版、1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上述したようにメタン発酵過程については種々の提案が成されているが、酸生成過程を行なう反応槽及びその運転方法については考慮されることはなく、pHと温度の管理と間欠的な攪拌が行われているに過ぎないのが現状である。特に、反応槽における酸生成過程が順調に進行しているかの評価は殆ど行われず、酸発酵、酢酸発酵、水素発酵のうちのどの発酵が現時点で進行しているかについて顧られることもなかった。
【0011】
このような状況は、酸の生成確認には、反応槽の内容物の採取に続いて、精密な化学機器分析を行う必要があるためである。また、反応状況を把握するためには、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの低級脂肪酸を個別に測定する必要があり、分析費用が高くなるという問題がある上に、事後分析とならざるを得ない。このため、上述した従来技術には、反応槽内で同時進行している複数の発酵をリアルタイムで把握することができなく、酸生成過程が不調になる予兆を確認できないという問題点がある。
【0012】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、酸生成過程の進行状態をリアルタイムで把握することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明では、二槽式メタン発酵装置に係る第1の解決手段として、有機物から酸を生成する酸生成槽と該酸生成槽で生成された酸をメタン発酵させるメタン発酵槽とからなる二槽式メタン発酵装置であって、酸生成槽内の酸化還元電位を測定する酸化還元電位測定部と、酸生成槽内のpHを測定するpH測定部と、酸化還元電位測定部から入力されるORP測定値とpH測定部から入力されるpH測定値とに基づいて酸生成槽内の反応状態を評価する酸生成槽評価部とを備える、という手段を採用する。
【0014】
二槽式メタン発酵装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、酸生成槽評価部は、酸生成槽内で進行する各反応過程に関する酸化還元電位とpHとの関係を示す評価チャートを記憶し、当該評価チャート上にORP測定値及びpH測定値をマッピングすることにより酸生成槽内の反応状態を評価する、という手段を採用する。
【0015】
二槽式メタン発酵装置に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、酸生成槽の反応条件を規定する反応条件設定手段と、酸生成槽評価部の評価結果に基づいて反応条件設定手段を制御することにより酸生成槽の反応条件を調節する制御装置とを具備する、という手段を採用する。
【0016】
また、本発明では、二槽式メタン発酵方法に係る第1の解決手段として、有機物から酸を生成する酸生成過程と該酸生成過程で生成された酸をメタン発酵させるメタン発酵過程とを個別の反応槽で行う二槽式メタン発酵方法であって、酸生成過程における酸化還元電位とpHをとを測定し、該測定によって得られたORP測定値とpH測定値とに基づいて酸生成過程の反応状態を評価する、という手段を採用する。
【0017】
二槽式メタン発酵方法に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、酸生成槽内で進行する各反応過程に関する酸化還元電位とpHとの関係を示す評価チャートを予め作成し、当該評価チャート上にORP測定値及びpH測定値をマッピングすることにより酸生成槽内の反応状態を評価する、という手段を採用する。
【0018】
二槽式メタン発酵方法に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、酸生成過程の反応状態の評価結果に基づいて酸生成過程の反応条件を調節する、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、酸生成過程の進行状態をリアルタイムで把握することが可能であると共に、酸生成過程の不調の予兆を容易に検知することができるので、酸生成過程の反応条件の適正化と維持管理とを容易に行うことが可能である。
また、検知した予兆に基づいて、それを回避する対策案を実施でき、酸生成過程を安定的に行うことが可能である。
この結果として、本発明によれば、高速かつ安定したメタン発酵処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態に係るメタン発酵装置Aのプロセス構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態における酸生成過程を示す概略図である。
【図3】本発明の第1実施形態における評価チャートの模式図である。
【図4】本発明の第1実施形態における酸化還元電位の変動パターンの一例を示すグラフである。
【図5】本発明の第2実施形態に係るメタン発酵装置Bのプロセス構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
最初に、本発明の第1実施形態について、図1〜図4を参照して説明する。
第1実施形態に係る二槽式メタン発酵装置Aは、図1に示すように、原料貯留槽1、pH調整液貯留槽2、酸生成槽3、攪拌機4、酸化還元電位測定部5(以下、ORP計5と略記する)、pH測定部6(以下、pH計6と略記する)、加熱装置7、保温装置8、演算装置9(酸生成槽評価部)、供給ポンプ10、メタン発酵槽11、調整液供給管12、13、調整バルブ14、15、原料供給管16、信号線17、18、移送管19、排気管20、排出配管21を備えている。
【0022】
本二槽式メタン発酵装置Aは、外部から供給された有機性の原料に嫌気性処理である酸生成処理及びメタン発酵処理を施すことによりメタンガスに分解するものである。すなわち、本二槽式メタン発酵装置Aは、嫌気性雰囲気下でメタン発酵菌(メタン発酵に寄与する複数種の微生物の複合体)を作用させることにより有機性の原料をメタンガスに分解する装置である。なお、上記有機性の原料は、畜産糞尿などの畜産廃棄物、生ごみや下水汚泥などの有機性廃棄物、食品工場や製紙工場などから排出される有機性廃水等である。
【0023】
原料貯留槽1は、上記有機性の原料を受け入れてスラリー状原料として貯留すると共に当該スラリー状原料を原料供給管16を介して酸生成槽3に供給する。上記スラリー状原料は、上記有機性の原料を破砕・粉砕し、適度な水を添加することによりスラリー化し、またpH調整液貯留槽2から供給されたpH調整液によってpHが5〜7の範囲に調整された液状物である。原料貯留槽1は、このようなスラリー状原料を所定の供給速度で酸生成槽3に供給する。なお、このような原料貯留槽1は、有機性の原料が比較的細かいものであったり、柔らかいものである場合等には省略しても良い。
【0024】
pH調整液貯留槽2は、水酸化ナトリウム水溶液などのpH調整液を貯蔵するものであって、調整液供給管12を介して原料貯留槽1に接続されると共に、調整液供給管13を介して酸生成槽3に接続されている。各々の調整液供給管12、13には、調整バルブ14、15がそれぞれ備えられており、これら調整バルブ14,15の開閉によって、適量のpH調整液が原料貯留槽1及び酸生成槽3に供給される。
【0025】
酸生成槽3は、内部にメタン発酵菌を蓄えており、当該メタン発酵菌の作用によって上記原料貯留槽1から供給されたスラリー状原料に対して酸生成処理(酸生成過程)を行う反応槽である。すなわち、この酸生成槽3は、スラリー状原料にメタン発酵菌を作用させることにより、後続するメタン発酵過程の基質となる各種酸を生成するものである。この酸生成槽3における酸生成過程は、加水分解、酸発酵、酢酸発酵及び水素発酵の4つの反応過程からなる。
【0026】
図2は、このような酸生成過程における各反応過程の進行状態を示している。この図2に示しているように、スラリー状原料に含まれるセルロースは、加水分解反応を経ることによってセロオリゴ糖((C10)からグルコース(C12)に分解される。この加水分解反応で生成したグルコースは、酸発酵反応を経ることによって蟻酸(HCOOH)、酢酸(CHCOOH)、プロピオン酸(CCOOH)、酪酸(C3HCOOH)などの低級脂肪酸となる。この酸発酵反応で生成したプロピオン酸及び酪酸は、酢酸発酵反応を経ることによってそれぞれが酢酸とされる一方、水素発酵反応を経ることによって水素と二酸化炭素とに分解される。なお、このような酸生成過程の全体的な反応時間は、例えば2時間〜2日間程度である。
【0027】
さらに詳細には、酸発酵反応は、以下の反応式(1)〜(4)で示される反応過程からなり、酢酸発酵反応は、以下の反応式(5)、(6)で示される反応過程からなり、また水素発酵反応は、以下の反応式(7)、(8)で示される反応過程からなる。図2における(1)〜(8)は、このような反応式(1)〜(8)に対応するものである。
【0028】
【化1】

【0029】
【化2】

【0030】
【化3】

【0031】
【化4】

【0032】
【化5】

【0033】
【化6】

【0034】
【化7】

【0035】
【化8】

【0036】
酸生成槽3には、攪拌機4が備えられており、スラリー状原料を適宜攪拌し、上記の各反応を進行させる。この攪拌機4は、間欠攪拌または連続攪拌のいずれでもよく、その方式も特に限定されなく、パドル式攪拌機による間欠攪拌等を例示できる。また、酸生成槽3には、加熱装置7と保温装置8とが配設されており、これらによって酸生成槽3内の液温が上記各反応に適した温度(例えば20〜40℃)に維持されている。
【0037】
また、酸生成槽3には、反応液の酸化還元電位(Oxidation Reduction Potential:以下、ORPと略記する)を測定するORP計5と、水素イオン濃度(以下、pHと略記する)を測定するpH計6とが設置されている。酸生成槽3内における反応液のpHは、pH調整槽2から供給されるpH調整液により概ね4〜6.5に調整される。
【0038】
上記ORP計5は、信号線17によって演算装置9に接続され、酸生成槽3内の反応液に関するORP測定値を演算装置9に出力する。pH計6は、信号線18によって演算装置9に接続され、酸生成槽3内の反応液に関するpH測定値を信号線18を介して演算装置9に出力する。
【0039】
演算装置9は、一種のコンピュータであり、所定の評価プログラムに従って上記ORP測定値及びpH測定値を信号処理することにより酸生成槽3における酸生成過程の進行状態を評価し、当該評価結果を酸生成過程評価情報として外部に出力する。詳細は後述するが、演算装置9は、酸生成槽3内で進行する各反応過程に関する酸化還元電位とpHとの関係を示す評価チャートを予め記憶し、当該評価チャート上に上記ORP測定値及びpH測定値をマッピングすることにより、酸生成槽3における酸生成過程の進行状態を評価する。
【0040】
このような酸生成槽3は、供給ポンプ10が配設された移送管19を介してメタン発酵槽11と接続されている。酸生成槽3内の反応液は、供給ポンプ10の動力によって酸生成槽3から移送管19を介してメタン発酵槽11に移送される。
【0041】
メタン発酵槽11は、内部にメタン発酵菌を蓄えており、酸生成槽3から供給された反応液をさらに発酵させてメタンガスと二酸化炭素とに分解する。メタンガスは、排気管20を介してメタン発酵槽11から外部に排気され、有価物として利用される。また、二酸化炭素は、外部に排気される。一方、メタン発酵後の固形分は、消化汚泥として排出配管21を介してメタン発酵槽11の外部に排出される。
【0042】
次に、このような二槽式メタン発酵装置Aを用いたメタン発酵方法について、図3及び図4をも参照して詳しく説明する。
【0043】
本メタン発酵方法では、最初に、前工程として原料貯留槽1においてスラリー状原料を生成する。すなわち、原料貯留槽1に上述した有機性の原料を投入して細かく粉砕し、水及びpH調整液を添加することによりスラリー状原料を生成する。上記pH調整液は、スラリー状原料のpHが5〜7程度となるように適量添加される。このようにして原料貯留槽1で生成されたスラリー状原料は、原料供給管16を介して酸生成槽3に供給される。なお、このような前工程は、有機性の原料が比較的細かいものであったり、柔らかいものである場合には、割愛することができる。
【0044】
続いて、酸生成過程として、スラリー状原料を酸生成槽3において低級脂肪酸に分解する。すなわち、攪拌機4によってスラリー状原料にメタン発酵菌を攪拌・混合させてスラリー状原料にメタン発酵菌を作用させることにより、上述した加水分解、酸発酵、酢酸発酵及び水素発酵の4つの反応過程を経て低級脂肪酸が生成される。そして、このような酸生成槽3の反応液は、供給ポンプ10及び移送管19を介してメタン発酵槽11に供給される。
【0045】
また、このような酸生成過程では、pH調整液貯留槽2から酸生成槽3にpH調整液が供給されることにより、酸生成槽3内における反応液のpHが、酸生成過程が最も活発になる4〜6.5程度に調整される。また、この酸生成過程では、加熱装置7及び保温装置8によって、酸生成槽3内における反応液の温度が、酸生成過程が最も活発になる温度に設定される。
【0046】
続いて、このような酸生成過程の反応液は、メタン発酵槽11におけるメタン発酵過程を経ることによりメタンガスと消化汚泥等に分解される。すなわち、酸生成過程の反応液は、メタン発酵槽11に充填されたメタン発酵菌の作用によってメタンガスと消化汚泥等に分解される。
【0047】
ここで、上述した酸生成過程では、本メタン発酵方法の特徴的な処理として、酸生成過程の進行状態が評価される。すなわち、本二槽式メタン発酵装置Aでは、酸生成槽3内における反応液のORPはORP測定値としてORP計5から演算装置9に順次出力され、また酸生成槽3内における反応液のpHはpH測定値としてpH計6から演算装置9に順次出力される。そして、演算装置9は、このようにして時系列的に順次入力されるORP測定値及びpH測定値を評価チャートにマッピングすることにより、酸生成過程の進行状態を以下のように評価する。
【0048】
図3は、上記評価チャートの模式図である。酸生成槽3では、上記反応式(1)〜(4)で表される4種の酸発酵反応と、上記反応式(5)と(7)で表される2種の酢酸発酵反応と、上記反応式(6)と(8)で表される2種の水素発酵反応とが起こるが、評価チャートは、これら反応式(1)〜(8)で示される各反応に関するORPとpHとの関係、つまり反応式(1)〜(8)で示される各反応におけるORPとpHとの関係を示す下記関係式(1´)〜(8´)によって与えられる値をプロットした特性図である。このような評価チャートは、酸生成槽3内における酸生成過程の化学平衡状態を示すものである。
【0049】
【数1】

【0050】
【数2】

【0051】
【数3】

【0052】
【数4】

【0053】
【数5】

【0054】
【数6】

【0055】
【数7】

【0056】
【数8】

【0057】
このような評価チャートから、上述した反応式(2)〜(4)で示される酸発酵反応のORPと、反応式(5)〜(8)で示される酢酸発酵反応及び水素発酵反応のORPとは大きく異なり、また酸発酵反応における各反応過程間でもORPが異なるので、このようなORPの違いに基づいて酸生成槽3内で進行している酸生成過程の進行状況の概要を知ることができる。
【0058】
すなわち、蟻酸を生成する酸発酵反応を除外した酸発酵反応はORPが小さい(図3では上側になる)のに対して、蟻酸を生成する酸発酵反応と、酢酸発酵反応と、水素発酵反応のORPは大きい(図3では下側になる)。また、ORPが大きくなるに従って酸発酵反応の生成物がプロピオン酸、酪酸、酢酸に順次変化する。
【0059】
この評価チャートは、酸生成槽3内で進行する各反応過程の熱力学的な平衡関係を示すものであり、進行中の反応過程を直接扱うものではないが、この評価チャート上にORP測定値及びpH測定値をマッピングすることにより、少なくとも酸生成槽3内で進行する上記4つの反応過程(加水分解反応、酸発酵反応、酢酸発酵反応及び水素発酵反応)のうち、酸生成槽3内で何れの反応過程が主体となって進行しているかを把握することが可能である。
【0060】
例えば、上記4つの反応過程に関するORPの領域は、以下の通りである。
(1) 加水分解反応:−1100mVvs.SHE以下
(2) 酸発酵反応:−1100〜―500mVvs.SHE
(3) 酢酸発酵反応及び水素発酵反応:−500〜0mVvs.SHE
【0061】
また、本メタン発酵方法では、ORPに関連性を有するpHを測定するので、酸生成槽3内で何れの反応過程が主体となって進行しているかをより正確に把握することができる。例えば、pHが4〜6の場合の各反応過程に対応するORPの領域は以下の通りである。図3では、下記(4)〜(6)の各領域を斜線部で示している。
(4) 加水分解反応:−1150〜―1300mVvs.SHE
(5) 酸発酵反応:−550〜−1300mVvs.SHE
(6) 酢酸発酵反応及び水素発酵反応:−250〜−350mVvs.SHE
なお、ORPの領域間に空白域があるが、これは各反応過程が同時に進行している状態を示している。
【0062】
このような本実施形態によれば、酸生成槽3から試料サンプルを採取することなく、ORP測定値とpH測定値とに基づいて酸生成槽3内における酸生成過程の進行状態を把握することができる。したがって、酸生成槽3における酸生成が順調に進行しているか、あるいは何らかの原因によって不調な状態にあるのかを容易に把握することができる。
【0063】
なお、時間の経過に従って、酸生成槽3内での主体となる反応過程が加水分解反応→酸発酵反応→酢酸発酵反応及び水素発酵反応の順で移行するので、これに伴って酸生成槽3のORPとpHは一定のパターンをもって変動する。このORPに関する変動パターンは、原料の種類、滞留時間などの運転条件の他、酸生成槽3の構造などによってそれぞれ異なるため正確なモデル化は困難であるが、酸生成槽3の運転条件が固有の条件に特定された場合には十分な確度の固有モデルを求めることが可能である。
【0064】
したがって、上記固有モデルを加味した評価チャートにORP測定値とpH測定値を逐次マッピングすることによって、酸生成槽3が安定運転下にあるかどうかを判断することができる。また、ORP測定値とpH測定値が固有モデル(固有の変動パターン)から逸脱する傾向を示した場合には、酸生成槽3内における酸生成過程の不調の予兆として捉えることができる。
【0065】
図4は、上記変動パターンの一例を示すグラフである。このグラフにおいて、縦軸はORP測定値、横軸は時間である。このグラフが示すように、酸生成槽3にスラリー状原料を投入する前では、上記(3)に示された酢酸発酵反応及び水素発酵反応に対応するORP測定値を示す。これに対して、スラリー状原料を酸生成槽3に供給すると、ORP測定値は、一旦、低下した後に上昇傾向を示して、投入前のORP測定値に近づく。
【0066】
すなわち、原料投入を境にして、ORP測定値は、(3)の酢酸発酵反応及び水素発酵反応を示す領域値から、(2)の領域を瞬時に経過して(1)の加水分解反応の領域値、(2)の酸発酵反応の領域値を経て、投入前の(3)の酢酸発酵反応及び水素発酵反応の領域値に移行する。したがって、原料投入に同期してORPとpHとを測定し、このORP測定値とpH測定値とを変動パターンに対応する評価チャートにマッピングすることにより、酸生成槽3が安定的に運転されているか否かを把握することができる。
【0067】
以上のように、本第1実施形態によれば、酸生成槽3における酸生成過程の進行状態を把握し、酸の生成状態をリアルタイムで確認することができる。また、酸生成槽3毎に固有のORPの変動パターンに対応する評価チャートにORP測定値とpH測定値とをマッピングすることにより、酸生成槽3の運転不調の予兆を捉えることができる。そして、この結果として、酸生成過程の反応条件の適正化を容易に行うことが可能であると共に、適正化された反応条件の維持管理を容易に行うことができる。
【0068】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について、図5を参照して説明する。
第2実施形態に係る二槽式メタン発酵装置Bは、図5に示すように、上述した第1実施形態に係る二槽式メタン発酵装置Aとの対比において、制御装置22を備える点で相違する。図5では、図1と同一の構成要素については同一の符号を付している。
【0069】
制御装置22は、信号線23によって演算装置9と接続され、信号線24によってpH調整液貯留槽2と接続され、信号線25によって攪拌機4と接続され、また信号線26によって加熱装置7と接続されている。このような制御装置22は、信号線23を介して演算装置9から入力される酸生成過程評価情報に基づいてpH調整液貯留槽2、攪拌機4及び加熱装置7を制御することにより、酸生成槽3における酸生成過程の反応条件、つまりpH、攪拌速度及び温度を調節する。なお、制御装置22の制御対象物であるpH調整液貯留槽2、攪拌機4及び加熱装置7は、本第2実施形態における反応条件設定手段を構成する。
【0070】
このような本実施形態によれば、酸生成過程の反応状態に応じて酸生成過程の反応条件を最適設定することが可能であり、よって酸生成過程の不調状態の招来を防止して安定したメタン発酵処理、つまりメタンガスを安定して発生させることが可能である。
【0071】
なお、本第2実施形態では、pH調整液貯留槽2、攪拌機4及び加熱装置7を反応条件設定手段としたが、これらの何れか1つあるいは2つを反応条件設定手段としても良い。また、必要に応じてpH調整液貯留槽2、攪拌機4及び加熱装置7に加えて他の反応条件を規定する装置を反応条件設定手段としても良い。
【符号の説明】
【0072】
A、B…メタン発酵装置、1…原料貯留槽、2…pH調整液貯留槽、3…酸生成槽、4…攪拌機、5…ORP計(酸化還元電位測定部)、6…pH計(pH測定部)、7…加熱装置、8…保温装置、9…演算装置(酸生成槽評価部)、10…供給ポンプ、11…メタン発酵槽、12、13…調整液供給管、14、15…調整バルブ、16…原料供給管、17、18、23、24、25、26…信号線、19…移送管、20…排気管、21…排出配管、22…制御装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物から酸を生成する酸生成槽と該酸生成槽で生成された酸をメタン発酵させるメタン発酵槽とからなる二槽式メタン発酵装置であって、
酸生成槽内の酸化還元電位を測定する酸化還元電位測定部と、
酸生成槽内のpHを測定するpH測定部と、
酸化還元電位測定部から入力されるORP測定値とpH測定部から入力されるpH測定値とに基づいて酸生成槽内の反応状態を評価する酸生成槽評価部と
を備えることを特徴とする二槽式メタン発酵装置。
【請求項2】
酸生成槽評価部は、酸生成槽内で進行する各反応過程に関する酸化還元電位とpHとの関係を示す評価チャートを記憶し、当該評価チャート上にORP測定値及びpH測定値をマッピングすることにより酸生成槽内の反応状態を評価することを特徴とする請求項1記載の二槽式メタン発酵装置。
【請求項3】
酸生成槽の反応条件を規定する反応条件設定手段と、
酸生成槽評価部の評価結果に基づいて反応条件設定手段を制御することにより酸生成槽の反応条件を調節する制御装置と
を具備することを特徴とする請求項1または2記載の二槽式メタン発酵装置。
【請求項4】
有機物から酸を生成する酸生成過程と該酸生成過程で生成された酸をメタン発酵させるメタン発酵過程とを個別の反応槽で行う二槽式メタン発酵方法であって、
酸生成過程における酸化還元電位とpHをとを測定し、該測定によって得られたORP測定値とpH測定値とに基づいて酸生成過程の反応状態を評価することを特徴とする二槽式メタン発酵方法。
【請求項5】
酸生成槽内で進行する各反応過程に関する酸化還元電位とpHとの関係を示す評価チャートを予め作成し、当該評価チャート上にORP測定値及びpH測定値をマッピングすることにより酸生成槽内の反応状態を評価することを特徴とする請求項4記載の二槽式メタン発酵方法。
【請求項6】
酸生成過程の反応状態の評価結果に基づいて酸生成過程の反応条件を調節することを特徴とする請求項4または5記載の二槽式メタン発酵方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−115721(P2011−115721A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275576(P2009−275576)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】