説明

二次元モデルによる解析方法

【課題】 材料の平均結晶粒径及び結晶粒径分布のばらつきの程度(分散)をも任意に決定できる材料の超音波伝播解析方法。
【解決手段】 超音波送受信子の位置、大きさ、周波数特性を含む解析条件を設定し、母材の材質、ヤング率、ポアソン比、密度を含む母材特性を設定し、母材の平均結晶粒径、粒径分布のばらつきの程度(分散)を含む母材の粒径条件を設定し、母材中に含まれる非金属介在物の材質、ヤング率、ポアソン比、密度、位置、大きさ等の欠陥の特性を設定し、所与の数式に従い所望の解析計算を実行するようにした材料の超音波伝播解析方法において、空間を定義し、該空間内で複数の母点を定義し、所定の写像関数により前記母点に対して前記空間内で写像を行い、最も距離が近い写像点が同一である領域を一つの結晶として前記空間を分割することにより粒径条件を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次元モデルによる解析方法に関し、特に鋼材スラブ等の結晶粒分布をボロノイ分割を用いて二次元モデルを構築して、母材内部における超音波の伝播解析するのに好適な解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材スラブ等の材料の内部欠陥を検知するために、母材内へ超音波を送出してその伝播を測定する超音波探傷が行われている。図7に、超音波探傷装置による探傷の一例を示す。この超音波探傷装置は、超音波送受信子10から超音波集束ビーム12を被検材14に送信すると共に、被検材14からの反射を超音波送受信子10により受信し、この受信した反射波に基づいて、被検材14中の異物からの反射波を抽出し、その反射波の振幅を測定して異物を検査するようになっている。超音波集束ビーム12は被検材14内で、図7では深さZの位置で集束するが、深さZは超音波送受信子12の位置を変更することによって調節できる。
【0003】
超音波探傷法を有効に行うためには、被検材14を模擬したサンプル材の内部の所定位置に、例えばアルミナ系材料から形成された小球等を埋設して内部欠陥とし、このサンプル材へ向けて超音波集束ビームを照射し、その反射波や透過波を測定する実験を事前に行っている。より高精度に内部欠陥を測定するためには、実験結果を数値解析を用いて検討するなど、実験と超音波の伝播の数値解析とを併用することが不可欠である。
【0004】
母材内部の超音波の伝播を解析する方法が、例えば非特許文献1に開示されており、この方法では、母材内部の超音波の伝播解析のために、まず平均結晶粒径値を設定し、その値に対応して母点数を決めて解析面内にランダムに母点を配置し、その後結晶粒分布をボロノイ分割で生成するようになっている。
【非特許文献1】有限要素法陽解法による結晶粒界散乱を考慮した超音波伝播解析 伊藤、中村 CAMP-ISIJ, vol. 17 (2004), pp938
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
然しながら、非特許文献1に記載の結晶粒分布の生成方法では、平均結晶粒径は任意に決定することが可能であるが、結晶粒径分布のばらつきの程度(分散)を変化させて解析することができず、十分に解析することができない問題がある。すなわち、結晶粒径分布のばらつきの程度(分散)を変化させて解析できない理由は、平均結晶粒径値を設定し、その値に対応して母点数を決めて解析面内にランダムに母点を配置した段階で、結晶粒径分布のばらつきは一意に定まってしまうためである。
【0006】
そこで、本発明はこうした従来技術の問題点を解決することを技術課題としており、平均結晶粒径のみならず、結晶粒径分布のばらつきの程度(分散)をも任意に決定できる二次元モデルによる解析方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨とするところは、以下のごとくである。
(1)二次元領域内で複数の母点をランダムに配置し、
前記複数の母点の各点に対して前記二次元領域で所定の写像関数により複数の写像点を配置し、
二次元領域内の点を、その点から最も近い距離にある写像点に属するものとして、前記二次元領域内を複数の領域に分割して二次元モデルを構築して数値解析することを特徴とする解析方法である。
【0008】
(2)前記解析方法が超音波伝播解析であり、
多結晶で構成される母材について、母材の平均結晶粒径や結晶粒径分布のばらつきの程度(分散)を含む母材の粒径条件を設定し、該粒径条件に則って前記二次元モデルを構築することを特徴とする(1)に記載の解析方法である。
【0009】
(3)前記超音波伝播解析は、
超音波送受信子の位置、大きさ、周波数特性を含む解析条件を設定し、
母材の材質、ヤング率、ポアソン比、密度を含む母材特性を設定し、
母材中に含まれる非金属介在物の材質、ヤング率、ポアソン比、密度、位置、大きさ等の欠陥の特性を設定し、
所与の数式に従い所望の解析計算を行うものである(2)に記載の解析方法である。
【0010】
(4)前記写像関数は周期関数である(1)〜(3)のうちの一つに記載の解析方法である。
【0011】
(5)前記二次元領域を二次元直交座標系(X、Y)で表すことを特徴とする(1)〜(4)のうちの一つに記載の解析方法である。
【0012】
(6)前記写像関数は以下の式1及び式2にて定義される(5)に記載の解析方法である。
f=X+Asin(nπY)sin2(nπX) …式1
f=Y+Asin(nπX)sin2(nπY) …式2
ここで、
(X、Y):変換前の母点の座標
(Xf、Yf):変換後の写像点の座標
である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、例えば、鋼材スラブ内の超音波の伝播を有限要素法等により数値解析する場合に、鋼材スラブをモデル化する際に、平均結晶粒径のみならず、結晶粒径分布のばらつきの程度(分散)をも任意に決定することができる。したがって、多結晶粒で構成される組織等の解析を行うとき、より自由度の高い組織構造が構築できて、信頼性のある解析が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1を参照すると、本実施形態による数値解析方法によれば、先ず、超音波送受信子の位置、大きさ、周波数特性等の解析条件が設定され(ステップS10)、母材の材質、ヤング率、ポアソン比、密度等の母材の特性が設定され(ステップS12)、母材の平均結晶粒径、粒径分布のばらつきの程度(分散)が設定され(ステップS14)、母材中に含まれる非金属介在物の材質、ヤング率、ポアソン比、密度、位置、大きさ等の欠陥の特性が設定され(ステップS16)、数値解析に必要な条件が設定される。次いで、ステップS18において所与の数式に従い所望の解析計算が実行され、解析結果はモニタ(図示せず)やプリンタ(図示せず)等により出力される。
【0015】
本実施形態では、ステップS14における母材の結晶粒径分布を設定する際、二次元空間(X−Y空間)の二次元領域内の母点をランダムに配置して、前記二次元領域内の点をその点から最も近い距離にある写像点に属するものとして、前記二次元領域を複数の領域に分割する、所謂ボロノイ分割によって設定される。ボロノイ分割によれば、母点の数を変更することによって、平均結晶粒径は変更することが可能である。つまり、母点の数を増加すると分割数が増加し平均結晶粒径は小さくなり、母点の数を低減すると分割数が減少して平均結晶粒径は大きくなる。
【0016】
ここで、図2を参照すると、ある鋼材の組織観察による結晶粒径の測定データを示すグラフが示されている。図2において符号A、B、Cは夫々異なる鋼材を示している。図2に示すように、鋼材A、B、Cは、ピーク値を与える結晶粒径は概ね同じであるので、平均結晶粒径は鋼材A、B、Cで概ね同じ値となるが、結晶粒径分布の分散が大きく異なっている。こうした場合、単にランダムに配置したボロノイ分割で結晶をモデル化しても、様々な鋼材について良好に超音波伝播解析することができない。
【0017】
そこで、本発明では、母点をランダムに配置した後に、該母点位置を前記二次元領域で所定の関数で変換して写像することによって、結晶粒径分布の分散を変化させるようにしている。母点位置の変換用の関数としては種々のものが考え得るが、周期関数は、ピーク値を与える結晶粒径をあまり変化さずに、分散のみ変化させることができ好ましい。こうした周期関数として、以下の式1及び式2を例示する。
f=X+Asin(nπY)sin2(nπX) …式1
f=Y+Asin(nπX)sin2(nπY) …式2
ここで、
(X、Y):変換前の母点の座標
(Xf、Yf):変換後の写像点の座標
である。
【0018】
図3は、X−Y空間内の二次元領域にランダムに配置した母点を示し、図4(a)、(b)および図5(a)、(b)は、図3の母点の各々の位置を式1及び式2においてn=2としてAの値を0.04、0.08、0.12、0.16に変化させた図である。Aの値を大きくすると、次第に図3の状態よりも母点間の距離のばらつきが大きくなっており、粒径分布の分散が大きくなることが理解されよう。また、図6は、同じく式1及び式2においてn=4、A=0.08とした例であるが、図4、5と比較して、nの値を大きくすると、写像点の密集する部分が増加することが理解されよう。これは、式1及び式2で示す周期関数の一周期が小さくなることに起因している。
【0019】
本実施形態によれば、例えば、鋼材スラブ内の超音波の伝播を有限要素法等により数値解析する場合に、鋼材スラブをモデル化する際に、Aおよびnの値を適宜選択することにより、ボロノイ分割のための母点間の距離のばらつきを制御できるため、平均結晶粒径のみならず、結晶粒径分布のばらつきの程度(分散)をも任意に決定することが可能となる。また本実施形態のように、写像関数として周期関数を選択することにより、変換後の母点の座標がX−Y空間内の二次元領域の特定の位置に密集してしまうことが防止できる。
【0020】
母点位置を変換する周期関数として、式1及び式2を示したが、本発明は、これに限定されず、以下の式3及び式4でもよい。
f=X+Asin(nπY)sin4(nπX) …式3
f=Y+Asin(nπX)sin4(nπY) …式4
ここで、
(X、Y):変換前の母点の座標
(Xf、Yf):変換後の母点の座標
である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の好ましい実施形態による材料の超音波伝播解析方法のフローチャートである。
【図2】ある鋼材の組織観察による結晶粒径の測定データを示すグラフである。
【図3】X−Y空間内にランダムに分散した母点を示している。
【図4】図3の母点の各々の位置をn=2として式1及び式2により変換し写像した状態を示した図であり、(a)はA=0.04とした図であり、(b)はA=0.08とした図である。
【図5】図3の母点の各々の位置をn=2として式1及び式2により変換し写像した状態を示した図4と同様の図であり、(a)はA=0.12とした図であり、(b)はA=0.16とした図である。
【図6】図3の母点の各々の位置をn=4、A=0.08として式1及び式2により変換し写像した状態を示した図4と同様の図である。
【図7】超音波探傷装置の一例を示す略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次元領域内で複数の母点をランダムに配置し、
前記複数の母点の各点に対して前記二次元領域で所定の写像関数により複数の写像点を配置し、
二次元領域内の点を、その点から最も近い距離にある写像点に属するものとして、前記二次元領域内を複数の領域に分割して二次元モデルを構築して解析することを特徴とする解析方法。
【請求項2】
前記解析方法は超音波伝播解析であり、
多結晶で構成される母材について、母材の平均結晶粒径や結晶粒径分布のばらつきの程度(分散)を含む母材の粒径条件を設定し、該粒径条件に則って前記二次元モデルを構築することを特徴とする請求項1に記載の解析方法。
【請求項3】
前記超音波伝播解析は、
超音波送受信子の位置、大きさ、周波数特性を含む解析条件を設定し、
母材の材質、ヤング率、ポアソン比、密度を含む母材特性を設定し、
母材中に含まれる非金属介在物の材質、ヤング率、ポアソン比、密度、位置、大きさ等の欠陥の特性を設定し、
所与の数式に従い所望の解析計算を行うものである請求項2に記載の解析方法。
【請求項4】
前記写像関数は周期関数である請求項1乃至請求項3のうちの一項に記載の解析方法。
【請求項5】
前記二次元領域を二次元直交座標系(X、Y)で表すことを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの一項に記載の解析方法。
【請求項6】
前記写像関数は以下の式1及び式2にて定義される請求項5に記載の解析方法。
f=X+Asin(nπY)sin2(nπX) …式1
f=Y+Asin(nπX)sin2(nπY) …式2
ここで、
(X、Y):変換前の母点の座標
(Xf、Yf):変換後の写像点の座標
である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−284457(P2006−284457A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−106820(P2005−106820)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】