説明

二次電池とその製造方法

【課題】負極合材層の全体に亘り結着材を分散させることにより集電体と合材層との密着力の向上を実現し得る二次電池を提供する。
【解決手段】本発明によって提供される二次電池において、負極84は、負極集電体82と、該集電体上に形成された合材層であって少なくとも負極活物質85と結着材86とを含む負極合材層90とを備えている。上記負極合材層に含まれる結着材は、相対的に粒径の小さい第1のピークと相対的に粒径の大きい第2のピークとの2つのピークを有する粒度分布を有している。上記負極合材層を厚み方向に二分したときの上記負極集電体に近接する下層部94における上記結着材の平均粒径は、上記負極合材層を厚み方向に二分したときの上記負極集電体よりも対極側に離れた上層部92における上記結着材の平均粒径よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池とその製法に関する。特に負極活物質を含む負極材料が負極集電体に保持された構成を有する負極と該負極を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池その他の二次電池は、例えば、電気を駆動源として利用する車両に搭載される電源、或いはパソコンや携帯端末その他の電気製品等に用いられる電源として重要性が高まっている。特に軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン二次電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられるものとして期待されている。
【0003】
典型的な構成のリチウムイオン二次電池では、導電性部材(電極集電体)の上にリチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出し得る物質(電極活物質)を主体とする負極材料が層状に形成された構成(以下、かかる層状形成物を「負極合材層」という。)の電極を備える。例えば、負極に用いられる電極活物質(即ち負極活物質)としては、天然黒鉛等の炭素材料が挙げられる。かかる負極は、典型的には、負極活物質と結着材(バインダ)等とを適当な溶媒(例えば水)に分散させて混練したペースト状の組成物(ペースト状組成物にはスラリー状組成物及びインク状組成物が包含される。)を調製し、これを負極集電体(例えば銅材)に塗布して乾燥することにより形成されている。負極合材層を備えたこの種の負極に関する従来技術として特許文献1〜5が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−339772号公報
【特許文献2】特開2007−123141号公報
【特許文献3】特開平09−185960号公報
【特許文献4】特開2008−311164号公報
【特許文献5】特開2010−182626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、負極集電体上に塗布されたペースト状の組成物を乾燥して負極合材層を形成する際、組成物の表面から該組成物中の溶媒が蒸発するため、溶媒の対流によって該組成物に含まれる結着材が移動して組成物の表面に偏在(マイグレーション)してしまう場合がある。この結果、負極集電体と負極合材層において十分な密着力が得られないという問題がある。かかる問題に対応すべく、負極集電体の表面に結着材を含む溶液(以下、「結着材溶液」ということもある。)を予め塗布(プレコート)して、その後に負極活物質を含むペースト状の組成物を塗布する方法が提案されている。
しかしながら、結着材溶液に含まれる結着材が所定の平均粒径を有する1種類の結着材からなる場合には、依然として結着材が負極合材層において偏在してしまい、負極集電体と負極合材層との密着力が十分に得られない虞がある。
【0006】
そこで、本発明は、上述した従来の課題を解決すべく創出されたものであり、その目的は、負極合材層の全体に亘り結着材を分散させることにより、集電体と合材層との密着力の向上を実現し得る二次電池を提供することである。また、ここで開示される負極を含む二次電池の製造方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現すべく、本発明により、正極と負極とを備える二次電池が提供される。即ちここで開示される二次電池において、上記負極は、負極集電体と、該集電体上に形成された合材層であって少なくとも負極活物質と結着材とを含む負極合材層と、を備えている。上記負極合材層に含まれる結着材は、相対的に粒径の小さい第1のピークと相対的に粒径の大きい第2のピークとの2つのピークを有する粒度分布を有している。上記負極合材層を(典型的には負極合材層の上層部と下層部の厚みが同じとなる位置で)厚み方向に二分したときの上記負極集電体に近接する下層部における上記結着材の平均粒径は、上記負極合材層を厚み方向に二分したときの上記負極集電体よりも対極側に離れた上層部における上記結着材の平均粒径よりも大きい。
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイス一般をいい、リチウムイオン二次電池等のいわゆる蓄電池ならびに電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する用語である。
また、本明細書において「平均粒径」ならびに所定の粒度分布における「ピーク値(ピーク粒度)」は、光学的に測定された値をいう。典型的にはレーザー回折・散乱法に基づく(種々の粒度分布測定装置が市販されている。)測定値をいう。
【0008】
本発明によって提供される二次電池は、負極合材層中に含まれている結着材が相互に異なる2つの粒径のピークを有する粒度分布を有しており、負極合材層の下層部に含まれる結着材の平均粒径が、負極合材層の上層部に含まれる結着材の平均粒径よりも大きい。
このように、相対的に大きい粒径の結着材が負極合材層の下層部(負極集電体側)に優勢に配置され、且つ相対的に小さい粒径の結着材が負極合材層の上層部(負極合材層の表層側)に優勢に配置されるため、過度なマイグレーション(具体的には負極合材層の上層部(特に表面部)への結着材の偏在)の発生が抑えられて負極合材層中における結着材の良好な分散配置(特に集電体に近接する領域において結着材が不足するのを防止すること)を実現し、この結果、負極集電体と負極合材層との間において十分な密着力が得られる。
【0009】
ここで開示される二次電池の好適な一態様では、上記第1のピークの粒径値は、80nm〜160nmの範囲内にあり、該第1のピークの粒径値をAとし、上記第2のピークの粒径値をBとした場合の比であるB/Aの値が2〜3.2である。かかる構成によると、負極合材層において結着材の分散状態がより良好になるため、負極集電体と負極合材層との間においてより高い密着力が得られる。
【0010】
ここで開示される二次電池の好適な他の一態様では、上記負極合材層を100質量%としたとき、該負極合材層に含まれる上記結着材は、0.2質量%〜0.8質量%である。このような割合の結着材を含む負極合材層は、負極集電体と負極合材層との間において十分な密着力を有するとともに、結着材量の低減による電池の内部抵抗(具体的には反応抵抗)の低下を実現することができる。好ましくは、上記負極活物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出可能な炭素材料である。
【0011】
また、本発明によると、上記目的を実現する他の側面として、正極集電体上に正極活物質を含む正極合材層が形成された正極と、負極集電体上に負極活物質を含む負極合材層が形成された負極と、を備える二次電池を製造する方法が提供される。即ちここで開示される二次電池の製造方法は、上記負極を形成する工程において、第1の平均粒径を有する第1の結着材と該第1の平均粒径よりも大きな平均粒径である第2の平均粒径を有する第2の結着材と溶媒とを混合して、第1の結着材に対応する第1のピークと第2の結着材に対応する第2のピークとの2つのピークを有する粒度分布を有する結着材溶液を用意すること、少なくとも上記負極活物質と溶媒とを含むペースト状の負極合材層形成用組成物を用意すること、上記用意した結着材溶液を上記負極集電体の表面に塗布すること、上記用意した負極合材層形成用組成物を上記塗布された結着材溶液上に塗布すること、を包含する。
なお、本明細書において「結着材溶液」とは、結着材を所定の溶媒に溶解させてなる溶液及び結着材を所定の溶媒に分散させてなる分散液を包含する用語である。
【0012】
本発明の二次電池の製造方法では、平均粒径が相互に異なる上記第1の結着材と第2の結着材とを混合した結果として粒度分布において相互に異なる2つのピークを有する結着材溶液を負極集電体に塗布し、次いで、該結着材溶液が乾燥する前に該溶液上にペースト状の組成物を塗布している。塗布された結着材溶液とペースト状の組成物とは、負極合材層が形成される際に(典型的には乾燥の際に)相互に混ざり合う。このとき、相対的に小さい粒径の結着材は、負極合材層(ペースト塗布物)の乾燥工程において当該負極合材層の上層部(即ち負極合材層の表層側)に溶媒とともに移動する傾向にある一方で、相対的に大きい粒径を有する結着材は、負極合材層の下層部(負極集電体側)に留まり当該下層部に優勢に配置される。このため、本構成の方法によると、形成された負極合材層において過度なマイグレーションが発生することを防止することができる。具体的には、負極合材層の下層部において結着材が不足することを防止して負極合材層の全体に亘って結着材の良好な分散状態を実現し、特に負極集電体と負極合材層との間において十分な密着力を有する負極を形成することができる。また、結着材が良好に分散され得るため、結着材の含有量を従来と比較して少なくしても十分な密着力を得ることができる。
【0013】
ここで開示される二次電池の製造方法の好適な一態様では、上記第1の結着材として、上記第1の平均粒径が80nm〜160nmの範囲内にある結着材を用いる。上記第2の結着材として、上記第1の平均粒径をAとし、上記第2の平均粒径をBとした場合の比であるB/Aの値が2〜3.2となる平均粒径の結着材を用いる。
このような平均粒径を有する結着材を用いることによって、負極集電体と負極合材層との間においてより高い密着力を有する負極を形成することができる。
【0014】
ここで開示される二次電池の製造方法の好適な他の一態様では、上記結着材溶液の単位面積当たりの塗布量は、上記形成された負極合材層を100質量%としたときの該負極合材層に含まれる結着材が0.2質量%〜0.8質量%となるように調整する。このような割合の結着材を用いることにより、負極集電体と負極合材層との間において十分な密着力を有するとともに、結着材の低減による反応抵抗の低下を実現し得る負極を形成することができる。好ましくは、上記負極は、リチウムイオン二次電池用負極であり、上記負極活物質として、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出可能な炭素材料を用いる。
【0015】
ここで開示される二次電池は、負極集電体と負極合材層との間において十分な密着力を有しており信頼性に優れる負極を備えている。かかる二次電池は、上記のとおり信頼性に優れることから、特に自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用電源として好適に使用し得る。従って、本発明は、かかる二次電池を電源として備える車両を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の外形を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1中のII‐II線に沿う断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る負極の構造を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る二次電池の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図5】密着強度を示すグラフである。
【図6】密着強度と粒径比との関係を示すグラフである。
【図7】初期抵抗を示すグラフである。
【図8】EPMA分析後の例5に係る負極の状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図9】EPMA分析後の例9に係る負極の状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図10】本発明に係る二次電池を備えた車両(自動車)を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事項は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識に基づいて実施することができる。
【0018】
ここで開示される二次電池を製造する方法の好適な実施形態の一つとして、電極集電体の表面に電極合材層が形成されたリチウムイオン二次電池を製造する方法を例にして詳細に説明するが、本発明の適用対象をかかる電池及びその製造方法に限定することを意図したものではない。
【0019】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の製造方法は、図4に示すように、結着材溶液準備工程(ステップS10)と、組成物準備工程(ステップS20)と、結着材溶液塗布工程(ステップS30)と、組成物塗布工程(ステップS40)とを包含する。
【0020】
まず、結着材溶液準備工程(S10)について説明する。結着材溶液準備工程には、第1の平均粒径を有する第1の結着材と該第1の平均粒径よりも大きな平均粒径である第2の平均粒径を有する第2の結着材と溶媒とを混合して、第1の結着材に対応する第1のピークと第2の結着材に対応する第2のピークとの2つのピークを有する粒度分布を有する結着材溶液を用意することが含まれている。
【0021】
上記結着材(バインダ)としては、一般的なリチウムイオン二次電池の負極に使用される結着材と同様のものを適宜採用することができる。例えば、負極合材層を形成するために水系の組成物を用いる場合には、水に溶解または分散するポリマー材料を好ましく採用し得る。水に分散する(水分散性の)ポリマー材料としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム類;ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂;酢酸ビニル共重合体等が例示される。
ここで、「水系の組成物」とは、上記所定の溶媒(分散媒)として水または水を主体とする混合溶媒(水系溶媒)を用いた組成物を指す概念である。該混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコール、低級ケトン等)の一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。
【0022】
上記結着材の構成粒子(典型的には一次粒子)の平均粒径(例えばレーザー回折・散乱法に基づいて測定される粒度分布におけるメジアン径(D50))は、典型的には、凡そ80nm〜520nm(例えば凡そ80nm〜360nm)の範囲内である。
結着材溶液には、平均粒径が相互に異なる結着材(粒子)が含まれている。典型的には、結着材溶液には、第1の平均粒径を有する第1の結着材と、該第1の平均粒径よりも大きな平均粒径である第2の平均粒径を有する第2の結着材とが含まれている。ここで、上記結着材溶液に含まれる第1の結着材と第2の結着材との合計含有量は、後述する負極合材層を100質量%としたときに0.2質量%〜5質量%(例えば0.2質量%〜0.8質量%、好ましくは0.4質量%〜0.8質量%)の範囲内であり得る。また、結着材溶液に含まれる第1の結着材と第2の結着材との質量比は、3:2〜1:1の範囲内であることが好ましい。なお、第1の結着材と第2の結着材とは同種の材料であってもよい。例えば、第1の結着材及び第2の結着材は、いずれもSBRであってもよい。或いは、第1の結着材及び第2の結着材は、異種の材料であってもよい。典型的には、平均粒径の異なる同種材料の組み合わせ、特にSBR同士の組み合わせを好ましく採用し得る。
【0023】
上記第1の結着材の平均粒径(第1の平均粒径)Cは凡そ80nm〜160nm(例えば80nm〜110nm)の範囲内であり、上記第2の結着材の平均粒径(第2の平均粒径)Dは凡そ160nm〜520nm(例えば160nm〜360nm)の範囲内であって、第1の平均粒径Cに対する上記第2の平均粒径Dの比、即ちD/Cの値が凡そ2〜3.2の範囲内(例えば、凡そ2.3〜3.2の範囲内にあることが好ましく、凡そ2.4〜2.9の範囲内にあることがより好ましい。)にあることが好ましい。D/Cが2より小さすぎる場合には、粒径の異なる2種類の結着材を混在させる効果が小さくなり、負極合材層中での結着材の偏在を効果的に防止することができない虞がある。また、D/Cが3.2よりも大きすぎる場合には、負極合材層中の上方(即ち負極合材層の表層側)及び下方(負極集電体側)に結着材の濃度の高い層ができ(即ち結着材が偏析し)、その中間層における結着材が少なくなり該中間層が剥がれやすくなるため、負極集電体と負極合材層との密着力が低下する虞がある。
【0024】
上記結着材溶液には、平均粒径が相互に異なる第1の結着材と第2の結着材が含まれているため、結着材全体の粒度分布(粒径分布)は、第1の結着材に対応する第1のピークと、第2の結着材に対応する第2のピークとの2つのピークを有するバイモーダルな粒度分布となる。
【0025】
次に、組成物準備工程(S20)について説明する。組成物準備工程には、少なくとも負極活物質と溶媒とを含むペースト状の負極合材層形成用組成物(以下、単に「組成物」ということもある。)を用意することが含まれている。
【0026】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の負極に用いられる負極活物質は、本発明の目的を実現し得る性状の負極活物質である限りにおいて、その組成や形状に特に制限はない。例えば、黒鉛(グラファイト)等の炭素材料、リチウム・チタン酸化物LiTi12)等の酸化物材料、スズ、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、ケイ素(Si)等の金属若しくはこれらの金属元素を主体とする金属合金からなる金属材料、等が挙げられる。典型例として、黒鉛等から成る粉末状の炭素材料が挙げられる。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛を好ましく用いることができる。
【0027】
また、ここで開示されるリチウムイオン二次電池の負極に用いられる増粘材としては、水若しくは溶剤(有機溶媒)に溶解又は分散するポリマー材料を採用し得る。水に溶解する(水溶性の)ポリマー材料としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等のセルロース系ポリマー;ポリビニルアルコール(PVA);等が挙げられる。負極合材層形成用組成物の混練(調製)の際の作業性および安定性等の観点からCMC等のセルロース誘導体が好ましく使用される。
増粘材の添加量(含有量)は、負極活物質の種類や量に応じて適宜選択すればよく、例えば、負極合材層を100質量%としたときに凡そ0.5質量%〜10質量%(例えば凡そ1質量%〜5質量%)とすることができる。
【0028】
上記負極活物質と増粘材とを溶媒中で混ぜ合せる(混練)操作は、例えば、適当な混練機(プラネタリーミキサー、ホモディスパー、クレアミックス、フィルミックス等)を用いて行うことができる。上記ペースト状の組成物を調製するにあたっては、先ず、負極活物質と増粘材とを少量の溶媒(例えば水)で固練りし、その後、得られた混練物を適量の溶媒で希釈してもよい。特に限定するものではないが、乾燥効率を向上させるためにペースト状の負極合材層形成用組成物の固形分濃度(不揮発分、即ち負極合材層形成成分の割合。以下「NV」とする。)は、例えば凡そ45質量%以上(典型的には50〜80質量%)であることが好ましい。
【0029】
次に、結着材溶液塗布工程(S30)及び組成物塗布工程(S40)について説明する。結着材溶液塗布工程には、上記用意した結着材溶液を負極集電体の表面に塗布することが含まれている。また、組成物塗布工程には、負極集電体の表面に塗布された結着材溶液上に該溶液が乾燥する前に上記用意した負極合材層形成用組成物を塗布することが含まれている。
上記負極集電体としては、従来のリチウムイオン二次電池の負極に用いられている集電体と同様、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、銅材やニッケル材或いはそれらを主体とする合金材を用いることができる。負極集電体の形状は、リチウムイオン二次電池の形状等に応じて異なり得るため、特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。
上記結着材溶液及び組成物を塗布する方法としては、従来公知の方法と同様の技法を適宜採用することができる。例えば、グラビアコーター、コンマコーター、スリットコーター、ダイコーター等の適当な塗布装置を使用することにより、負極集電体の表面に結着材溶液を塗布し、該結着材溶液上に組成物を好適に塗布することができる。結着材溶液の塗布量は固形分基準で集電体の片面当たり凡そ0.01mg/cm〜0.5mg/cm(0.02mg/cm〜0.3mg/cm)であり、組成物の塗布量は固形分基準で集電体の片面当たり凡そ2mg/cm〜20mg/cm(3mg/cm〜15mg/cm)である。
【0030】
次に、上記結着材溶液と上記負極合材層形成用組成物とを適当な乾燥手段(例えば乾燥炉)で同時に乾燥(典型的には、乾燥温度は70℃〜200℃、好ましくは120℃〜180℃。乾燥時間は、10秒〜120秒、好ましくは30秒〜60秒。)させて、結着材溶液及び組成物中の溶媒を除去することによって負極合材層を形成する。その後、必要に応じて圧縮(プレス)する。これにより、負極集電体と、該負極集電体上に形成された負極合材層とを備える負極を作製することができる。圧縮方法としては、従来公知のロールプレス法、平板プレス法等の圧縮方法を採用することができる。
【0031】
次に、上記の製造方法により作製された負極の構造について説明する。図3は、本発明の一実施形態に係る負極84の構造を模式的に示す断面図である。
図3に示すように、本実施形態に係る負極84は、負極集電体82と、該集電体82上に形成された負極合材層90とを備えている。負極合材層90は、負極活物質としての黒鉛粒子85と結着材86とを含んでいる。結着材86は、上記第1の平均粒径を有する第1の結着材87と、上記第2の平均粒径を有する第2の結着材88とからなる。
本実施形態に係る負極合材層90に含まれる結着材86は、平均粒径が相互に異なる第1の結着材87と第2の結着材88が含まれているため、相対的に粒径の小さい第1のピークと相対的に粒径の大きい第2のピークとの2つのピークを有する粒度分布を有している。さらに、相対的に平均粒径の大きい第2の結着材88は負極集電体82側に優勢に配置され、相対的に平均粒径の小さい第1の結着材87は対極側に優勢に配置される傾向にあるため、負極合材層90中における結着材87,88の良好な分散配置が実現され、該負極合材層90を負極集電体82に近接する下層部94と負極集電体82よりも対極(典型的には正極)側に離れた上層部92とに厚み方向に二分(典型的には図3中の二点鎖線で示すように厚み方向に二等分)した場合、下層部94における結着材86の平均粒径は、上層部92における結着材86の平均粒径よりも大きくなる。
このとき、上記第1のピークにおける粒径値(モード径)Aは80nm〜160nm(例えば80nm〜110nm)の範囲内であり、上記第2のピークにおける粒径値(モード径)Bは凡そ160nm〜520nm(例えば160nm〜360nm)の範囲内であって、第1の粒径値Aに対する上記第2の粒径値Bの比、即ちB/Aの値が凡そ2〜3.2の範囲内(凡そ2.3〜3.2の範囲内にあることがより好ましく、凡そ2.4〜2.9の範囲内にあることがさらに好ましい。)にあることが好ましい。かかる範囲内にあることにより、負極合材層において結着材の分散状態がより良好になるため負極集電体82と負極合材層90との間においてより高い密着力が得られる。
【0032】
次に、正極活物質を含む正極を形成する工程について説明する。まず、正極活物質と、導電材と結着材(バインダ)等とを所定の溶媒に分散させてなるペースト状の正極合材層形成用組成物を調製する。
上記正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な材料であって、リチウム元素と一種または二種以上の遷移金属元素を含むリチウム含有化合物(例えばリチウム遷移複合酸化物)が挙げられる。例えば、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムマンガン複合酸化物(LiMn)、あるいは、ニッケル・コバルト系のLiNiCo1−x(0<x<1)、コバルト・マンガン系のLiCoMn1−x(0<x<1)、ニッケル・マンガン系のLiNiMn1−x(0<x<1)やLiNiMn2−x(0<x<2)で表わされるような、遷移金属元素を2種含むいわゆる二元系リチウム含有複合酸化物、或いは、遷移金属元素を3種含むニッケル・コバルト・マンガン系のような三元系リチウム含有複合酸化物でもよい。
また、一般式がLiMPOあるいはLiMVOあるいはLiMSiO(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種以上の元素)等で表記されるようなポリアニオン系化合物(例えばLiFePO、LiMnPO、LiFeVO、LiMnVO、LiFeSiO、LiMnSiO、LiCoSiO)を上記正極活物質として用いてもよい。
【0033】
上記結着材(バインダ)としては、一般的なリチウムイオン二次電池の正極に使用される結着材と同様のものを適宜採用することができる。水系の組成物を調製する場合には、上記負極に使用されるものを適宜採用することができる。また、溶剤系の組成物を調製する場合には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)等の有機溶媒(非水溶媒)に溶解するポリマー材料を用いることができる。ここで、「溶剤系の組成物」とは、正極活物質の分散媒が主として有機溶媒である組成物を指す概念である。有機溶媒としては、例えば、N‐メチルピロリドン(NMP)等を用いることができる。
【0034】
また、上記導電材としては、従来この種のリチウムイオン二次電池で用いられているものであればよく、特定の導電材に限定されない。例えば、カーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料を用いることができる。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック等)、グラファイト粉末等のカーボン粉末を用いることができる。これらのうち一種又は二種以上を併用してもよい。
【0035】
そして、上記調製した正極合材層形成用組成物を正極集電体の表面に塗布し、乾燥させて正極合材層を形成した後、必要に応じて圧縮(プレス)する。これにより、正極集電体と、正極活物質を含む正極合材層を備える正極を作製することができる。
上記正極集電体としては、従来のリチウムイオン二次電池の正極に用いられている集電体と同様、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、アルミニウム材又はアルミニウム材を主体とする合金材を用いることができる。正極集電体の形状は、負極集電体の形状と同様であり得る。
【0036】
次に、上述した方法を適用して製造された負極(負極シート)84及び上記作製された正極を電解液とともに電池ケースに収容してリチウムイオン二次電池を構築する工程について説明する。上記負極及び正極を計二枚のセパレータシートとともに積層して捲回して捲回電極体を作製する。次いで、電池ケース(例えば扁平な直方体状のケース)に該捲回電極体を収容すると共に、電解液を電池ケース内に注液する。そして、電池ケースの開口部を蓋体で封止することにより、リチウムイオン二次電池を構築することができる。ここで、上記電解液としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水電解液は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、EC、PC、DMC、DEC、EMC等から選択される一種又は二種以上を用いることができる。また、上記支持塩(支持電解質)としては、例えば、LiPF,LiBF等のリチウム塩を用いることができる。また、上記セパレータシートとしては、多孔質ポリオレフィン系樹脂等で構成されたものが挙げられる。
【0037】
以下、上記構築されたリチウムイオン二次電池の一形態を図面を参照しつつ説明するが、本発明をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。即ち、負極合材層90に含まれる結着材86が相対的に粒径の小さい第1のピークと相対的に粒径の大きい第2のピークとの2つのピークを有する粒度分布を有しており、負極合材層90の下層部94における結着材86の平均粒径は、負極合材層90の上層部92における結着材86の平均粒径よりも大きくなる限りにおいて、構築されるリチウムイオン二次電池の形状(外形やサイズ)には特に制限はない。以下の実施形態では、捲回電極体および電解液を角型形状の電池ケースに収容した構成のリチウムイオン二次電池を例にして説明する。
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は、必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。
【0038】
図1は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10を模式的に示す斜視図である。図2は、図1中のII−II線に沿う縦断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10は、金属製(樹脂製又はラミネートフィルム製も好適である。)の電池ケース15を備える。このケース(外容器)15は、上端が開放された扁平な直方体状のケース本体30と、その開口部20を塞ぐ蓋体25とを備える。溶接等により蓋体25は、ケース本体30の開口部20を封止している。ケース15の上面(すなわち蓋体25)には、捲回電極体50の正極シート(正極)64と電気的に接続する正極端子60および該電極体の負極シート84と電気的に接続する負極端子80が設けられている。また、蓋体25には、従来のリチウムイオン二次電池のケースと同様に、電池異常の際にケース15内部で発生したガスをケース15の外部に排出するための安全弁(図示せず)が設けられている。ケース15の内部には、正極シート64および負極シート84を計二枚のセパレータシート95とともに積層して捲回し、次いで得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって作製される扁平形状の捲回電極体50及び上記電解液が収容されている。
【0039】
上記積層の際には、図2に示すように、正極シート64の正極合材層非形成部分(即ち正極合材層66が形成されずに正極集電体62が露出した部分)と負極シート84の負極合材層非形成部分(即ち負極合材層90が形成されずに負極集電体82が露出した部分)とがセパレータシート95の幅方向の両側からそれぞれはみ出すように、正極シート64と負極シート84とを幅方向にややずらして重ね合わせる。その結果、捲回電極体50の捲回方向に対する横方向において、正極シート64および負極シート84の電極合材層非形成部分がそれぞれ捲回コア部分(すなわち正極シート64の正極合材層形成部分と負極シート84の負極合材層形成部分と二枚のセパレータシート95とが密に捲回された部分)から外方にはみ出ている。かかる正極側はみ出し部分に正極端子60を接合して、上記扁平形状に形成された捲回電極体50の正極シート64と正極端子60とを電気的に接続する。同様に負極側はみ出し部分に負極端子80を接合して、負極シート84と負極端子80とを電気的に接続する。なお、正負極端子60,80と正負極集電体62,82とは、例えば、超音波溶接、抵抗溶接等によりそれぞれ接合することができる。
【0040】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0041】
[負極シートの作製]
<例1>
負極活物質としての平均粒径10μmの天然黒鉛と、増粘材としてのCMCと、結着材としての平均粒径Cが102nmの第1のSBRと、平均粒径Dが206nmの第2のSBRとの質量比が98.2:1:0.4:0.4となるように秤量し、天然黒鉛とCMCとをイオン交換水に分散させ、5L容量の2軸プラネタリ混練機で混練してNVが50%の例1に係るペースト状の負極合材層形成用組成物を調製した。
また、上記第1のSBRと第2のSBRとを含むNVが10%の例1に係る結着材溶液を調製した。このとき、第1のSBRと第2のSBRとの平均粒径の比(D/C)の値は2.02であった。
そして、例1に係る結着材溶液を厚さ10μmの銅箔の両面にグラビアコーターを用いて片面当たり塗布量0.304mg/cmで塗布した後、該結着材溶液が乾燥する前に、例1に係る負極合材層形成用組成物を該結着材溶液上にコンマコーターを用いて片面当たり塗布量15.08mg/cmで塗布した(2層塗工)。このとき上記結着材溶液と負極合材層形成用組成物との合計塗布量が片面当たり7.6mg/cm(固形物基準)となるように塗布した。その後、150℃で20秒乾燥させた。乾燥後、該塗布物をプレスして密度が1.5g/cmの負極合材層を備える例1に係る負極シートを作製した。
【0042】
<例2>
天然黒鉛と、CMCと、平均粒径Cが80nmの第1のSBRと、平均粒径Dが206nmの第2のSBRとの質量比が98.2:1:0.4:0.4となるように秤量し、該秤量した第1のSBRと第2のSBRとを含むNV10%の例2に係る結着材溶液を調製した。このとき、平均粒径の比(D/C)の値は2.58であった。例2に係る結着材溶液を用いた他は例1と同様にして、例2に係る負極シートを作製した。
<例3>
天然黒鉛と、CMCと、平均粒径Cが80nmの第1のSBRと、平均粒径Dが250nmの第2のSBRとの質量比が98.2:1:0.4:0.4となるように秤量し、該秤量した第1のSBRと第2のSBRとを含むNV10%の例3に係る結着材溶液を調製した。このとき、平均粒径の比(D/C)の値は3.13であった。例3に係る結着材溶液を用いた他は例1と同様にして、例3に係る負極シートを作製した。
<例4>
天然黒鉛と、CMCと、平均粒径Cが102nmの第1のSBRと、平均粒径Dが152nmの第2のSBRとの質量比が98.2:1:0.4:0.4となるように秤量し、該秤量した第1のSBRと第2のSBRとを含むNV10%の例4に係る結着材溶液を調製した。このとき、平均粒径の比(D/C)の値は1.49であった。例4に係る結着材溶液を用いた他は例1と同様にして、例4に係る負極シートを作製した。
<例5>
天然黒鉛と、CMCと、平均粒径Cが80nmの第1のSBRと、平均粒径Dが206nmの第2のSBRとの質量比が98.6:1:0.2:0.2となるように秤量し、天然黒鉛とCMCとをイオン交換水に分散させ、5L容量の2軸プラネタリ混練機で混練してNVが50%の例5に係るペースト状の負極合材層形成用組成物を調製した。
また、上記第1のSBRと第2のSBRとを含むNV10%の例5に係る結着材溶液を調製した。このとき、第1のSBRと第2のSBRとの平均粒径の比(D/C)の値は2.58であった。例5に係る組成物及び結着材溶液を用いた他は例1と同様にして、例5に係る負極シートを作製した。
【0043】
<例6>
天然黒鉛と、CMCと、平均粒径Cが80nmの第1のSBRとの質量比が98.2:1:0.8となるように秤量し、該秤量した第1のSBRを含むNV10%の例6に係る結着材溶液を調製した。例6に係る結着材溶液を用いた他は例1と同様にして、例6に係る負極シートを作製した。
<例7>
天然黒鉛と、CMCと、平均粒径Cが102nmの第1のSBRとの質量比が98.2:1:0.8となるように秤量し、該秤量した第1のSBRを含むNV10%の例7に係る結着材溶液を調製した。例7に係る結着材溶液を用いた他は例1と同様にして、例7に係る負極シートを作製した。
<例8>
天然黒鉛と、CMCと、平均粒径Cが80nmの第1のSBRとの質量比が98:1:1となるように秤量し、該秤量した第1のSBRを含むNV10%の例8に係る結着材溶液を調製した。例8に係る結着材溶液を用いた他は例1と同様にして、例8に係る負極シートを作製した。
<例9>
天然黒鉛と、CMCと、平均粒径Cが80nmの第1のSBRとの質量比が98.2:1:0.8となるように秤量し、これら材料をイオン交換水に分散させて、NVが50%の例9に係るペースト状の負極合材層形成用組成物を調製した。そして、例9に係る組成物を厚さ10μmの銅箔の両面にグラビアコーターを用いて片面当たり塗布量7.6mg/cm(固形物基準)で塗布した(1層塗工)。その後、150℃で20秒乾燥させた。乾燥後、該塗布物をプレスして密度が1.5g/cmの負極合材層を備える例9に係る負極シートを作製した。
【0044】
[剥離強度試験]
上記のように作製した例1から例9に係る負極シートに対して、JIS K6854−1に準じて90°剥離試験を行った。即ち、各負極シートをそれぞれ引張試験機の架台に固定して、負極集電体の両面に形成された負極合材層のいずれか一方を該負極集電体から一部剥がし、剥がした負極合材層を引張冶具(例えばクランプ)に固定した。そして、引張冶具を鉛直方向上側に20mm/minの速度で引張上げて、負極合材層が負極集電体から剥がれたときの剥離強度(引っ張り強度)[N/m]を測定した。測定結果を表1、表2及び図5に示す。また、図6に密着強度と粒径比との関係を示す。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
表1、表2及び図5に示すように、結着材の含有量が同じ場合には、例9のように1種類のSBRを含む組成物により形成された負極の密着強度が最も低く、次いで、例6及び例7のように1種類のSBRを含む結着材溶液を塗布した後に組成物を塗布して形成された負極の密着強度が低いことが確認できた。例1〜例4のように平均粒径が相互に異なる2種類のSBRを含む結着材を塗布した後に組成物を塗布して形成された負極の密着強度は例6、例7及び例9に係る負極と比較して高い密着強度を有していることが確認できた。特に例1〜例3に係る負極は高い密着強度を有していることが確認できた。図6に示すように、粒径比(D/C)が2〜3.2のときに密着強度が高いことが確認できた。好ましくはD/Cが2.3〜3.2の範囲内であり、さらに好ましくは2.4〜2.9の範囲内であることが確認できた。また、例1〜例3に係る負極は例9に係る負極と比較してSBR(結着材)の含有量が2質量%も低いにも関わらず高い密着強度を示していることが確認された。また、例5に係る負極は、例6〜例9に係る負極と比較して、負極合材層に含まれるSBRの含有量が半分(例8に関しては6割減)であるにも関わらず例6〜例9に係る負極よりも高い密着強度を有していることが確認できた。
【0048】
<EPMA分析>
上記のように作製した例5及び例9の負極シートに対して、それぞれの負極シートを臭素で染色して、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて元素分析を行った。図8及び図9はEPMA分析後の負極シートの状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図9に示すように、1層塗工で形成された負極シートでは、負極合材層において結着材(図中の白い部分)が対極側(図の上側)に偏在しているのが確認された。一方、図8に示すように、本発明に係る方法によって形成された負極シートでは、負極合材層において結着材(図中の白い部分)が良好に分散していることが確認された。
【0049】
[リチウムイオン二次電池の構築]
正極活物質としてのLiNi1/3Mn1/3Co1/3と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、結着材としてのPVDFとの質量比が90:5:5となるように秤量し、これら材料をNMPに分散させてペースト状の例1に係る正極合材層形成用組成物を調製した。該ペーストを厚さ15μmのアルミニウム箔上に片面当たり塗布量6mg/cmで塗布布し、ロールプレスによる処理を行って、該アルミニウム箔上に正極合材層を備える例1に係る正極シートを作製した。
そして、上記作製した例1に係る正極シート及び例1に係る負極シートを厚さ25μmのセパレータシート(ポリプロピレン/ポリエチレン複合体多孔質膜)を挟んで対向配置させ(積層させ)、これを電解液と共にラミネート型のケース(ラミネートフィルム)に収容することにより例1に係るリチウムイオン二次電池を構築した。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との体積比3:3:4の混合溶媒に1mol/LのLiPFを溶解させたものを使用した。また、例2から例9に係る負極シートを用いて、上記例1に係るリチウムイオン二次電池と同様にして例2から例9に係る二次電池を構築した。
【0050】
<初期抵抗(DCIR)測定試験>
上記のように作製した例1から例9に係るリチウムイオン二次電池に対して、初期抵抗(DCIR、直流内部抵抗)を算出した。即ち、定電流定電圧(CC‐CV)充電によって各電池をSOC(State of Charge)60%の充電状態に調整した。その後、25℃において、4Cの電流値で10秒間の放電を行い、放電開始から10秒後の電圧降下量から初期抵抗[mΩ]を算出した。測定結果を表1、表2及び図7に示す。
表1、表2及び図7に示すように、初期抵抗は、塗工方法や負極合材層に含まれるSBRの平均粒径、種類によってはほとんど値に差がないことが確認でき、負極合材層に含まれるSBRの含有量に依存していることが確認できた。即ち、SBRの含有量が多くなると初期抵抗も高くなり、SBRの含有量が少なくなると初期抵抗も小さくなる。
【0051】
以上の測定結果より、平均粒径が相互に異なる2種類の結着材を含み、粒径比が2〜3.2の負極合材層は、より少ない結着材でも高い密着強度を有し、初期抵抗の低減を実現することができることを確認できた。
【0052】
[負極シートの作製]
<例10>
負極活物質としての平均粒径10μmの天然黒鉛と、CMCと、平均粒径Cが102nmの第1のSBRと、平均粒径Dが206nmの第2のSBRとの質量比が98:1:0.5:0.5となるように秤量し、天然黒鉛とCMCとをイオン交換水に分散させ、5L容量の2軸プラネタリ混練機で混練してNVが50%の例10に係るペースト状の負極合材層形成用組成物を調製した。
また、上記第1のSBRと第2のSBRとを含むNV10%の例10に係る結着材溶液を調製した。例10に係る組成物及び結着材溶液を用いた他は例1と同様にして、例10に係る負極シートを作製した。
<例11>
天然黒鉛と、CMCと、第1のSBRと、第2のSBRとの質量比を98.2:1:0.4:0.4とした点以外は例10と同様にして、例11に係る負極シートを作製した。
<例12>
天然黒鉛と、CMCと、第1のSBRと、第2のSBRとの質量比を98.4:1:0.3:0.3とした点以外は例10と同様にして、例12に係る負極シートを作製した。
<例13>
天然黒鉛と、CMCと、第1のSBRと、第2のSBRとの質量比を98.6:1:0.2:0.2とした点以外は例10と同様にして、例13に係る負極シートを作製した。
<例14>
天然黒鉛と、CMCと、第1のSBRと、第2のSBRとの質量比を98.8:1:0.1:0.1とした点以外は例10と同様にして、例14に係る負極シートを作製した。
【0053】
<例15>
天然黒鉛と、CMCと、平均粒径Cが80nmの第1のSBRと、平均粒径Dが206nmの第2のSBRとの質量比が98:1:0.5:0.5となるように秤量し、これら材料をイオン交換水に分散させて、NVが50%の例15に係るペースト状の負極合材層形成用組成物を調製した。例15に係る組成物を用いた他は例9と同様にして、例15に係る負極シートを作製した。
<例16>
天然黒鉛と、CMCと、第1のSBRと、第2のSBRとの質量比を98.2:1:0.4:0.4とした点以外は例15と同様にして、例16に係る負極シートを作製した。
<例17>
天然黒鉛と、CMCと、第1のSBRと、第2のSBRとの質量比を98.4:1:0.3:0.3とした点以外は例15と同様にして、例17に係る負極シートを作製した。
<例18>
天然黒鉛と、CMCと、第1のSBRと、第2のSBRとの質量比を98.6:1:0.2:0.2とした点以外は例15と同様にして、例18に係る負極シートを作製した。
<例19>
天然黒鉛と、CMCと、第1のSBRと、第2のSBRとの質量比を98.8:1:0.1:0.1とした点以外は例15と同様にして、例19に係る負極シートを作製した。
【0054】
<例20>
天然黒鉛と、CMCと、平均粒径Cが80nmの第1のSBRとの質量比が98:1:1となるように秤量し、天然黒鉛とCMCとをイオン交換水に分散させ、5L容量の2軸プラネタリ混練機で混練してNVが50%の例20に係るペースト状の負極合材層形成用組成物を調製した。
また、上記第1のSBRを含むNV10%の例20に係る結着材溶液を調製した。例20に係る組成物及び結着材溶液を用いた他は例1と同様にして、例20に係る負極シートを作製した。
<例21>
天然黒鉛と、CMCと、第1のSBRとの質量比を98.2:1:0.8とした点以外は例20と同様にして、例21に係る負極シートを作製した。
<例22>
天然黒鉛と、CMCと、第1のSBRとの質量比を98.4:1:0.6とした点以外は例20と同様にして、例22に係る負極シートを作製した。
<例23>
天然黒鉛と、CMCと、第1のSBRとの質量比を98.55:1:0.45とした点以外は例20と同様にして、例23に係る負極シートを作製した。
<例24>
天然黒鉛と、CMCと、第1のSBRとの質量比を98.8:1:0.2とした点以外は例20と同様にして、例24に係る負極シートを作製した。
【0055】
<例25>
天然黒鉛と、CMCと、平均粒径Cが80nmの第1のSBRとの質量比が98:1:1となるように秤量し、これら材料をイオン交換水に分散させて、NVが50%の例25に係るペースト状の負極合材層形成用組成物を調製した。例25に係る組成物を用いた他は例9と同様にして、例25に係る負極シートを作製した。
<例26>
天然黒鉛と、CMCと、第1のSBRとの質量比を98.2:1:0.8とした点以外は例25と同様にして、例26に係る負極シートを作製した。
<例27>
天然黒鉛と、CMCと、第1のSBRとの質量比を98.4:1:0.6とした点以外は例25と同様にして、例27に係る負極シートを作製した。
<例28>
天然黒鉛と、CMCと、第1のSBRとの質量比を98.55:1:0.45とした点以外は例25と同様にして、例28に係る負極シートを作製した。
<例29>
天然黒鉛と、CMCと、第1のSBRとの質量比を98.8:1:0.2とした点以外は例25と同様にして、例29に係る負極シートを作製した。
【0056】
<耐屈曲性評価試験>
上記のように作製した例10から例29に係る負極シートに対して、JIS K5600‐5‐1に準じて耐屈曲性(柔軟性)評価試験を行った。即ち、円筒形の芯材に各負極シートを巻き付けたときに、負極シートの負極合材層に亀裂が入らない芯材の直径(芯径)の最小値を測定した。測定結果を表3〜表6に示す。なお、例19及び例29については、負極合材層中においてSBRが十分に分散していなかったため、負極合材層形成時点で亀裂が入っていた。
【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
【表5】

【0060】
【表6】

【0061】
表3〜表6に示すように、SBR含有量が1質量%及び0.8質量%の場合には、いずれも芯材の直径の最小値が2μmであって、塗工方法及びSBRの種類によって耐屈曲性に差がないことが確認できた。しかしながら、本評価試験において負極合材層に求められる耐屈曲性を示す芯径を50μmとした場合には、2種類のSBRを1層塗工で作製した負極シート及び1種類のSBRを1層塗工で作製した負極シートは例17及び例27に示すようにSBR含有量を0.6質量%までしか減らすことができず、また、1種類のSBRを2層塗工で作製した負極シートは例23に示すようにSBR含有量を0.45質量%までしか減らすことができないが、2種類のSBRを用いた2層塗工で作成された負極シートは、例14に示すようにSBR含有量を0.2質量%まで減らしても十分な耐屈曲性を備えていることが確認された。
【0062】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係るリチウムイオン二次電池10は、各種用途向けの二次電池として利用可能である。例えば、図10に示すように、自動車等の車両100に搭載される車両駆動用モータ(電動機)の電源として好適に利用することができる。車両100の種類は特に限定されないが、典型的には、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等である。かかるリチウムイオン二次電池10は、単独で使用されてもよく、直列および/または並列に複数接続されてなる組電池の形態で使用されてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10 リチウムイオン二次電池
15 電池ケース
20 開口部
25 蓋体
30 ケース本体
40 安全弁
50 捲回電極体
60 正極端子
62 正極集電体
64 正極シート(正極)
66 正極合材層
80 負極端子
82 負極集電体
84 負極シート(負極)
85 黒鉛材料
86 結着材
87 第1の結着材
88 第2の結着材
90 負極合材層
92 上層部
94 下層部
95 セパレータシート
100 車両(自動車)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とを備える二次電池であって、
前記負極は、負極集電体と、該集電体上に形成された合材層であって少なくとも負極活物質と結着材とを含む負極合材層と、を備えており、
前記負極合材層に含まれる結着材は、相対的に粒径の小さい第1のピークと相対的に粒径の大きい第2のピークとの2つのピークを有する粒度分布を有しており、
前記負極合材層を厚み方向に二分したときの前記負極集電体に近接する下層部における前記結着材の平均粒径は、前記負極合材層を厚み方向に二分したときの前記負極集電体よりも対極側に離れた上層部における前記結着材の平均粒径よりも大きい、二次電池。
【請求項2】
前記第1のピークの粒径値は、80nm〜160nmの範囲内にあり、
該第1のピークの粒径値をAとし、前記第2のピークの粒径値をBとした場合の比であるB/Aの値が2〜3.2である、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記負極合材層を100質量%としたとき、該負極合材層に含まれる前記結着材は、0.2質量%〜0.8質量%である、請求項1又は2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記負極活物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出可能な炭素材料である、請求項1から3のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項5】
正極集電体上に正極活物質を含む正極合材層が形成された正極と、負極集電体上に負極活物質を含む負極合材層が形成された負極と、を備える二次電池を製造する方法であって、
前記負極を形成する工程において、
第1の平均粒径を有する第1の結着材と該第1の平均粒径よりも大きな平均粒径である第2の平均粒径を有する第2の結着材と溶媒とを混合して、第1の結着材に対応する第1のピークと第2の結着材に対応する第2のピークとの2つのピークを有する粒度分布を有する結着材溶液を用意すること、
少なくとも前記負極活物質と溶媒とを含むペースト状の負極合材層形成用組成物を用意すること、
前記用意した結着材溶液を前記負極集電体の表面に塗布すること、
前記用意した負極合材層形成用組成物を前記塗布された結着材溶液上に塗布すること、
を包含する、二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記第1の結着材として、前記第1の平均粒径が80nm〜160nmの範囲内にある結着材を用い、
前記第2の結着材として、前記第1の平均粒径をCとし、前記第2の平均粒径をDとした場合の比であるD/Cの値が2〜3.2となる平均粒径の結着材を用いる、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記結着材溶液の単位面積当たりの塗布量は、前記形成された負極合材層を100質量%としたときの該負極合材層に含まれる結着材が0.2質量%〜0.8質量%となるように調整する、請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記負極は、リチウムイオン二次電池用負極であり、
前記負極活物質として、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出可能な炭素材料を用いる、請求項5から7のいずれか一項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−156061(P2012−156061A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15533(P2011−15533)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】