説明

二次電池寿命予測装置、電池システム、及び二次電池寿命予測方法

【課題】より精度の高い二次電池の寿命予測を可能とする二次電池寿命予測装置、電池システム、及び二次電池寿命予測方法を得ることを目的とする。
【解決手段】電池システム10は、電力負荷18へ電力を供給する二次電池28と、二次電池28の劣化に影響を及ぼす因子の大きさを計測する電流計32及び温度計34を備えており、電流計32及び温度計34によって所定期間内に複数回計測された因子の大きさに応じた二次電池28の使用頻度に基づく履歴分布のピーク値と、因子の大きさに応じた二次電池28の予め予測された使用頻度に基づく理想分布のピーク値とを比較し、比較結果及び予め予測された二次電池28の劣化の度合いに基づいて、使用状態にある二次電池28の劣化の度合いを導出し、導出した劣化の度合いに基づいて、二次電池28の寿命を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池寿命予測装置、電池システム、及び二次電池寿命予測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、充放電の繰り返し、高温環境下での使用等によって劣化するため、二次電池には使用可能な期間(寿命)がある。
そこで、二次電池の寿命を予測する技術として、特許文献1には、二次電池の内部抵抗値から、二次電池の蓄電部の抵抗値を算出すると共に、二次電池の使用環境における、蓄電部の抵抗値の増加率を算出し、算出した蓄電部の抵抗値及び蓄電部の抵抗値の増加率と、から二次電池の余寿命を推定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−139260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、リアルタイムで計測された二次電池の電流及び電圧から、電流変化値及び電圧変化値を取得し、取得した電流変化値及び電圧変化値から、二次電池の内部抵抗値を算出し、二次電池の余寿命を推定している。このため、計測される電流及び電圧の誤差によって二次電池の余寿命が突然低下したり、増加する可能性があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、より精度の高い二次電池の寿命予測を可能とする二次電池寿命予測装置、電池システム、及び二次電池寿命予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の二次電池寿命予測装置、電池システム、及び二次電池寿命予測方法は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明に係る二次電池寿命予測装置は、二次電池の劣化に影響を及ぼす因子の大きさを計測する計測手段と、前記計測手段によって所定期間内に複数回計測された前記因子の大きさに応じた前記二次電池の使用頻度に基づく第1の値と、前記因子の大きさに応じた前記二次電池の予め予測された使用頻度に基づく第2の値とを比較する比較手段と、前記比較手段による比較結果、及び前記予め予測された二次電池の劣化の度合いに基づいて、使用状態にある前記二次電池の劣化の度合いを導出する導出手段と、前記導出手段によって導出された前記度合いに基づいて、前記二次電池の寿命を予測する予測手段と、を備える。
【0007】
本発明によれば、計測手段によって、二次電池の劣化に影響を及ぼす因子の大きさが計測される。なお、二次電池の劣化に影響を及ぼす因子とは、例えば、二次電池の電流、二次電池の蓄電量、及び二次電池の温度である。
【0008】
また、本発明では、所定期間内に複数回計測された因子の大きさに応じた二次電池の使用頻度、換言すると二次電池の使用の履歴を求める。なお、上記所定期間とは、例えば二次電池の使用開始から現在に至るまでの期間であり、因子の計測は、例えば1日に10回行われる。この計測手段による因子を計測する期間、及び回数を多くすることによって、二次電池の寿命予測の精度が、より高められる。
また、比較手段によって、計測手段で所定期間内に複数回計測された因子の大きさに応じた二次電池の使用頻度に基づく第1の値と、予め予測された因子の大きさに応じた二次電池の使用頻度に基づく第2の値とが比較される。
【0009】
すなわち、第1の値とは、実測された因子に基づくため二次電池の実際の使用状態に応じた値であり、第2の値とは、二次電池の設計値から求められる理想的な使用状態に応じた値である。そのため、第1の値と第2の値とを比較することによって、二次電池の実際の使用状態と二次電池の理想的な使用状態とを比較することとなる。
【0010】
さらに、導出手段によって、比較手段による比較結果、及び予め予測された二次電池の劣化の度合いに基づいて、使用状態にある二次電池の劣化の度合いが導出される。なお、予め予測された二次電池の劣化の度合いは、例えば予め行われた実験によって求められている。そして、予測手段によって、導出手段で導出された度合いに基づいて、二次電池の寿命が予測される。
【0011】
このように、本発明は、二次電池の劣化に影響を及ぼす因子の大きさを所定期間内に複数回計測し、計測した因子の大きさに応じた二次電池の使用頻度に基づいて、二次電池の寿命を予測するので、より精度の高い二次電池の寿命予測を可能とする。
【0012】
また、本発明の二次電池寿命予測装置は、前記導出手段が、前記計測手段によって計測された前記因子の大きさが予め定められた閾値を超える頻度に応じて、前記二次電池の劣化の度合いをより大きく導出してもよい。
【0013】
二次電池の劣化に影響を及ぼす因子の大きさが、ある閾値を超えると二次電池の劣化が促進される。このことから、本発明は、計測手段で計測された因子の大きさが予め定められた閾値を超える頻度に応じて、二次電池の劣化の度合いをより大きく導出するので、より精度の高い二次電池の寿命予測が可能となる。
【0014】
また、本発明の二次電池寿命予測装置は、前記第1の値と前記第2の値とのずれ量が小さくなるように、前記二次電池の使用状態を制御する制御手段を備えてもよい。
【0015】
本発明によれば、制御手段によって、上記第1の値と上記第2の値とのずれ量が小さくなるように、二次電池の使用状態が制御されるので、二次電池の劣化の度合いを理想的な劣化に等しくすることができ、二次電池の寿命の管理が容易になる。
【0016】
また、本発明の二次電池寿命予測装置は、前記導出手段が、予め予測された劣化の度合いに前記第1の値と前記第2の値とのずれ量を乗算した値を、使用状態にある前記二次電池の劣化の度合いとして導出してもよい。
【0017】
本発明によれば、予め劣化の度合いが予測されている。なお、この予測された劣化の度合いとは、例えば予め行われた実験によって求められている。そして、予め予測された劣化の度合いに上記第1の値と上記第2の値とのずれ量を乗算した値が、使用状態にある二次電池の劣化の度合いとして導出されるので、本発明は、簡易により精度の高い二次電池の寿命予測を可能とする。
【0018】
また、本発明の二次電池寿命予測装置は、前記導出手段が、前記導出手段によって導出された前記度合いに基づいた、前記二次電池の電池容量の変化、及び前記二次電池の内部抵抗の変化の少なくとも一方から前記二次電池の寿命を予測してもよい。
【0019】
二次電池の電池容量は、二次電池の劣化と共に減少し、二次電池の内部抵抗は、二次電池の劣化と共に上昇する。そのため、本発明によれば、使用状態にある二次電池の劣化の度合いに基づいた、二次電池の電池容量の変化、及び二次電池の内部抵抗の変化の少なくとも一方から二次電池の寿命を予測することによって、より精度の高い二次電池の寿命予測が可能となる。
【0020】
また、本発明の二次電池寿命予測装置は、前記因子を、前記二次電池の電流、前記二次電池の蓄電量、及び前記二次電池の温度の少なくとも一つとしてもよい。
本発明によれば、二次電池の電流、二次電池の蓄電量、及び二次電池の温度は、簡易に計測できるため、簡易により精度の高い二次電池の寿命予測が可能となる。
【0021】
また、本発明に係る電池システムは、負荷へ電力を供給する二次電池と、前記二次電池の寿命を予測する請求項1から請求項6の何れか1項記載の二次電池寿命予測装置と、を備える。
【0022】
本発明によれば、負荷へ電力を供給する二次電池と、二次電池の寿命を予測する上記記載の二次電池寿命予測装置と、を備えるので、より精度の高い二次電池の寿命予測が可能となる。
【0023】
さらに、本発明に係る二次電池寿命予測方法は、二次電池の劣化に影響を及ぼす因子の大きさを計測する計測手段によって所定期間内に複数回計測された前記因子の大きさに応じた前記二次電池の使用頻度に基づく第1の値と、前記因子の大きさに応じた前記二次電池の予め予測された使用頻度に基づく第2の値とを比較する第1工程と、前記第1工程による比較結果、及び前記予め予測された二次電池の劣化の度合いに基づいて、使用状態にある前記二次電池の劣化の度合いを導出する第2工程と、前記第2工程によって導出された前記度合いに基づいて、前記二次電池の寿命を予測する第3工程と、を含む。
【0024】
本発明によれば、二次電池の劣化に影響を及ぼす因子の大きさを所定期間の間複数回計測し、該計測した因子の大きさに応じた二次電池の使用頻度に基づいて、二次電池の寿命を予測するので、より精度の高い二次電池の寿命予測が可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、より精度の高い二次電池の寿命予測を可能とする、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る電池システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る二次電池の蓄電量と起電圧との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の実施形態に係る二次電池の劣化に影響を及ぼす因子と二次電池の使用頻度とを分布として示した図であり、(A)は、因子が電流の場合を示し、(B)は、因子が蓄電量の場合を示し、(C)は、因子が温度の場合を示す。
【図4】本発明の実施形態に係る二次電池寿命予測プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態に係る二次電池の電池容量の低下率を示す図であり、(A)は、電流に応じた電池容量の低下率を示し、(B)は、蓄電量に応じた電池容量の低下率を示し、(C)は、温度に応じた電池容量の低下率を示す。
【図6】本発明の実施形態に係る二次電池の劣化が促進される閾値を超える因子の大きさが計測された場合の履歴分布の一例を示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係る二次電池の内部抵抗の変化率を示す図であり、(A)は、電流に応じた内部抵抗の変化率を示し、(B)は、蓄電量に応じた内部抵抗の変化率を示し、(C)は、温度に応じた内部抵抗の変化率を示す。
【図8】本発明の実施形態に係る二次電池の寿命の予測結果を示す図であり、(A)は、二次電池の電池容量の変化から寿命を予測した結果を示し、(B)は、二次電池の内部抵抗の変化から寿命を予測した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明に係る二次電池寿命予測装置、電池システム、及び二次電池寿命予測方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0028】
図1は、本実施形態に係る電池システム10の構成を示すブロック図である。
本実施形態に係る電池システム10は、二次電池による電力の充放電を利用するシステムであり、一例として、電気自動車に搭載され、該電気自動車に電力を供給するものとして用いられる。しかし、これに限らず、電池システム10は、例えば、フォークリフト等の産業車両、電車、船、航空機、及び宇宙機等、他の移動体に電力を供給するものであってもよい。また、電池システム10は、例えば家庭用の電力貯蔵システム、並びに風力発電装置及び太陽光発電装置等の自然エネルギーを用いた発電装置と組み合わせた系統連係円滑化蓄電システムに用いてもよい。
【0029】
本実施形態に係る電池システム10は、組電池12、上位制御装置14、表示装置16、電力負荷18、及びBMS(Battery Management System)20を備えている。なお、組電池12とBMS20はバッテリーモジュール22として形成されており、電池システム10に対して交換可能とされている。
【0030】
組電池12は、複数の二次電池(本実施形態では、一例としてリチウムイオン電池)28A〜28Fが接続され、電力負荷18に電力を供給する。なお、以下の説明において、各二次電池28を区別する場合は、符号の末尾にA〜Fの何れかを付し、各二次電池28を区別しない場合は、A〜Fを省略する。
なお、二次電池28は、アルミニウム系材料で形成された電池容器29を有している。電池容器29は箱型の中空容器であり、電池容器29の内部には、正極電極及び負極電極が配置されると共に、リチウムイオンを含む非水電解液が貯留される。
また、本実施形態では、図1に示すように二次電池28A〜28Dが直列に接続されると共に、二次電池28E〜28Hが直列に接続され、さらに、これら直列に接続された二次電池28A〜28D及び二次電池28E〜28Hが並列に接続されているが、図1に示される二次電池28の数及び二次電池28の接続方法は一例であり、複数の二次電池28を直列のみによって接続してもよいし、並列のみによって接続してもよい。
【0031】
さらに、図1に示すように、各二次電池28は、二次電池28の正極電極及び負極電極の端子間の電圧を計測する電圧計30A〜30Hが接続されている。
また、組電池12には、二次電池28A〜28Dが直列に接続されている経路に流れる電流を計測する電流計32A、及び二次電池28E〜28Hが直列に接続されている経路に流れる電流を計測する電流計32Bが設けられている。
さらに、組電池12には、各二次電池28毎に電池容器29の表面温度を計測する温度計34A〜34Hが設けられている。なお、本実施形態では、温度計34A〜34Hとして熱電対を用いるが、これに限らず、抵抗測温体等、他の温度計を用いてもよい。また、温度計34A〜34Hは、対応する電池容器29の表面温度でなく、対応する電池容器29の近傍の温度を計測してもよい。
そして、電圧計30A〜30Hで計測された電圧、電流計32A,32Bで計測された電流、及び温度計34A〜34Hで計測された温度を示す各計測値は、BMS20へ送信される。
なお、以下の説明において、各電圧計30、及び各温度計34を区別する場合は、符号の末尾にA〜Fの何れかを付し、各電圧計30、及び各温度計34を区別しない場合は、A〜Fを省略する。また、以下の説明において、各電圧計32を区別する場合は、符号の末尾にA,Bの何れかを付し、各電流計32を区別しない場合は、A,Bを省略する。
【0032】
BMS20は、CMU(Cell Monitor Unit)40A,40B、及びBMU(Battery Management Unit)42を備えている。
CMU40Aは、電圧計30A〜30D、電流計32A、及び温度計34A〜34Dに接続されることによって各種計測値が入力される。一方、CMU40Bは、電圧計30E〜30H、電流計32B、及び温度計34E〜34Hに接続されることによって各種計測値が入力される。
そして、CMU40A,40Bは、各々不図示のADC(Analog Digital Converter)を備えており、アナログ信号である電圧計30、電流計32、及び温度計34の各種計測値を各々デジタル信号に変換し、該デジタル信号をBMU42へ送信する。なお、本実施形態では、BMS20は、CMU40A,40Bを備えるが、CMUは一つでもよいし、3つ以上でもよく、CMUが一つの場合は、各種計測値が全て一つのCMUに入力され、CMUが3つ以上の場合は、各種計測値が分散されて対応する各CMUに入力される。
【0033】
一方、BMU42は、CMU40A,40Bから入力されたデジタル化された各計測値に基づいて、後述する二次電池寿命予測処理を行いその結果を上位制御装置14へ送信する。また、BMU42は、後述する二次電池寿命予測プログラム、CMU40A,40Bから入力された各計測値、その他各種情報等を記憶する記憶部44を備えている。
【0034】
上位制御装置14は、ユーザの指示(例えば、ユーザによるアクセルの踏み込み量)に応じて電力負荷18を制御すると共に、BMS20から送信される組電池12に関連する関連情報(電圧計30、電流計32、及び温度計34の計測値、BMS20で演算される各二次電池28の蓄電量、並びに後述する二次電池寿命予測処理の結果等)を受信する。また、上位制御装置14は、表示装置16と接続されており、表示装置16の画面に上記関連情報等種々の情報に基づいて画像を表示させる等、表示装置16にユーザに対する種々の報知を行わせる。
【0035】
表示装置16は、例えば音響装置を備えた液晶パネル等のモニターであり、上位制御装置14によって制御されることによって、ユーザに対する種々の報知を行う。
【0036】
電力負荷18は、例えば、回転軸が電気自動車の車軸に機械的に連接された電気モータ、ワイパーを駆動させるための電気モータ、インバータ等の電力変換機等である。
【0037】
ここで、二次電池28は、充放電の繰り返し、高温環境下での使用等によって劣化し、寿命に達すると、使用ができなくなる。このような、二次電池28の劣化に影響を及ぼす因子(ファクター)としては、例えば、二次電池28の電流、蓄電量、及び温度が挙げられる。
そこで、本実施形態に係る電池システム10では、二次電池28の劣化に影響を及ぼす因子に基づいて、二次電池28の寿命を予測する二次電池寿命予測処理を行う。
なお、本実施形態に係る電池システム10は、二次電池寿命予測処理を実行するにあたり、電流計32で計測された電流、及び温度計32で計測された温度が、CMU40A,40Bを介してBMU42の記憶部44に逐次記憶される。
【0038】
また、二次電池28の蓄電量もBMU42の記憶部44に記憶される。
ここで、二次電池28の蓄電量は、電流計32で計測された電流から下記(1),(2)式から算出される。なお、下記式において、SOC(State Of Charge)が蓄電量を示し、Qが二次電池28の初期の電池容量を示し、ΔQが二次電池28の電池容量の変化量を示し、Iが二次電池28の電流を示す。
【数1】

【数2】

【0039】
なお、二次電池28の起電圧と蓄電量とは、図2に示すような1対1の比例関係を有しており、起電圧Vと二次電池28の電圧Vとは、内部抵抗をRとした場合に、下記(3)式のような関係を有する。
【数3】

そこで、BMU42は、(1),(2)式で求められた蓄電量を、(3)式で求められる起電圧を用いて、蓄電量と起電圧とが1対1の関係となるように適宜補正することが望ましい。なお、上記起電圧Vとしては、二次電池28毎に設けられている電圧計30で計測された電圧の値が用いられるが、これに限らず、電力負荷18側に電圧計を設け、該電圧計で計測された電圧の値を用いてもよい。
【0040】
そして、本実施形態に係るBMU42は、所定期間内に複数回計測された因子の大きさに応じた二次電池28の使用頻度、換言すると二次電池28の使用の履歴を求める。図3は、二次電池28の使用の履歴を、計測された因子と使用頻度との分布として示した図であり、図3(A)は、因子が電流の場合を示し、図3(B)は、因子が蓄電量の場合を示し、図3(C)は、因子が温度の場合を示す。
【0041】
なお、本実施形態では、上記所定期間を、例えば二次電池28の使用開始から現在に至るまでの期間とし、各因子の計測を、例えば1日に10回行う。本実施形態に係る二次電池寿命予測処理では、因子を計測する期間、及び回数を多くすることによって、二次電池の寿命予測の精度が、より高められる。
【0042】
また、図3(A)〜(C)において、破線は、実測された因子に基づいた分布(以下、「履歴分布」という。)、すなわち、二次電池28の実際の使用状態に応じた因子の分布を示す。一方、実線は、二次電池28の設計値から求められる理想的な使用状態に応じた因子と使用頻度との関係を示した分布(以下、「理想分布」という。)を示す。このため、履歴分布は、因子である二次電池28の電流、蓄電量、及び温度が計測され記憶部44に記憶される毎に、各因子の大きさ毎の使用頻度が追加されるので、時々刻々と変化するが、理想分布は、一定のままである。
【0043】
また、図3(A)に示すように、二次電池28の電流の履歴分布は、電流の2乗を横軸としている。この理由は、二次電池28は、放電及び充電両方によって劣化するため、充電及び放電の違いを除去するためである。
【0044】
図4は、二次電池寿命予測処理を行う場合に、BMU42によって実行される二次電池寿命予測プログラムの処理の流れを示すフローチャートであり、この二次電池寿命予測プログラムは記憶部44の所定領域に予め記憶されている。なお、本プログラムは、二次電池寿命予測処理の開始指示が、電池システム10のユーザ(管理者)によって、不図示の操作部を介して入力された場合に実行されるとしてもよいし、予め定められた時間間隔毎に実行されるとしてもよい。
【0045】
まず、図4に示すステップ100では、理想分布と履歴分布との比較を行う。
具体的には、理想分布の代表値として、理想分布のピーク値Pを抽出し、履歴分布の代表値として、履歴分布のピーク値P’を抽出する。
そして、抽出した理想分布のピーク値Pと履歴分布のピーク値P’とのずれ量ΔPを導出する。なお、各因子毎のずれ量は、下記(4)〜(6)式から求められる。
【0046】
下記(4)式は、二次電池28の電流の理想分布のピーク値をPI2とし、二次電池28の電流の履歴分布のピーク値をP'I2とした場合の、ずれ量ΔPI2を示している。
【数4】

下記(5)式は、二次電池28の蓄電量の理想分布のピーク値をPSOCとし、二次電池28の電流の履歴分布のピーク値をP'SOCとした場合の、ずれ量ΔPSOCを示している。
【数5】

下記(6)式は、二次電池28の温度の理想分布のピーク値をPとし、二次電池28の電流の履歴分布のピーク値をP'とした場合の、ずれ量ΔPを示している。
【数6】

【0047】
次のステップ102では、ステップ100の比較結果であるずれ量ΔP、及び予め予測された二次電池28の劣化の度合いに基づいて、使用状態にある二次電池28の劣化の度合いを示す劣化加速係数を導出する。
予め予測された二次電池28の劣化の度合いとは、例えば、図5(A)〜(C)に示されるように、二次電池28の電流、蓄電量、及び温度に応じた二次電池28の電池容量の低下率(以下、「容量低下率」という。)の傾きα,β,γである。図5(A)は、二次電池28の電流に応じた容量低下率を示し、図5(B)は、二次電池28の蓄電量に応じた容量低下率を示し、図5(C)は、二次電池28の温度に応じた容量低下率を示す。なお、この容量低下率は、例えば予め行われた実験によって求められている。
【0048】
そして、本ステップでは、下記(7)式に示すように、各因子に応じた容量低下率の傾きα,β,γに各因子のずれ量ΔPI2,ΔPSOC,ΔPを乗算した値を、使用状態にある二次電池28の劣化加速係数Kとして導出する。
【数7】

【0049】
また、図5(A)〜(C)に示すように、容量低下率は、各因子の大きさが所定の閾値を超えると、閾値以下の容量低下率に比較して、大きくなる(傾きα<傾きa、傾きβ<傾きb、傾きγ<傾きc)。因子の大きさが閾値を超えると、例えば、リチウムイオン電池では、電池容器29からリチウムイオンを含む非水電解液が漏れだし、その結果二次電池28の劣化が促進される。
【0050】
そこで、本実施形態に係る電池システム10では、図6の一例に示すように、各因子毎に閾値を超えた使用頻度(回数)を検知する。そして電池システム10は、下記(8)式に示すように、閾値を超えた回数に応じて、劣化加速係数Kがより大きくなるように導出する。
【数8】

【0051】
(8)式において、Aは、二次電池28の電流が閾値を超えた回数に対する劣化の度合いの感度を示し、Bは、二次電池28の蓄電量が閾値を超えた回数に対する劣化の度合いの感度を示し、Cは、二次電池28の温度が閾値を超えた回数に対する劣化の度合いの感度を示し、NI2は、二次電池28の電流が閾値を超えた回数を示し、NSOCは、二次電池28の蓄電量が閾値を超えた回数を示し、Nは、二次電池28の温度が閾値を超えた回数を示す。なお、感度A,B,Cの大きさは、例えば予め行われた実験によって求められている。
【0052】
また、本実施形態では、予め予測された二次電池28の劣化の度合いとして、図7(A)〜(C)に示されるように、二次電池28の電流、蓄電量、及び温度に応じた二次電池28の内部抵抗の変化率(以下、「抵抗変化率」という。)の傾きα’,β’,γ’からも劣化加速係数K’を導出する。
そして、本ステップでは、下記(9)式に示すように、各因子に応じた抵抗変化率の傾きα’,β’,γ’に各因子のずれ量を乗算した値を、使用状態にある二次電池28の劣化加速係数K’として導出する。
【数9】

【0053】
さらに、図7(A)〜(C)に示すように、抵抗変化率は、容量変化率と同様に、各因子の大きさが所定の閾値を超えると、閾値以下の内部抵抗の低下率に比較して、大きくなる(傾きα’<傾きa’、傾きβ’<傾きb’、傾きγ’<傾きc’)。
【0054】
そこで、本実施形態に係る電池システム10では、上記と同様に、各因子毎に大きさが閾値を超えた使用頻度(回数)を検知し、下記(10)式に示すように、閾値を超えた回数に応じて、劣化加速係数K’がより大きくなるように導出する。
【数10】

【0055】
(10)式において、A’は、二次電池28の電流が閾値を超えた回数に対する劣化の度合いの感度を示し、B’は、二次電池28の蓄電量が閾値を超えた回数に対する劣化の度合いの感度を示し、C’は、二次電池28の温度が閾値を超えた回数に対する劣化の度合いの感度を示す。なお、感度A’,B’,C’ の大きさは、例えば予め行われた実験によって求められている。
【0056】
また、傾きα,β,γ,α’,β’,γ’、及び感度A,B,C,A’,B’,C’に対して、重み付けを行ってもよい。この重み付けは、例えば電池システム10の使用環境によって異なるものとする。例えば、二次電池18は、温度が高温となると劣化が促進されるため、温度に応じた傾きγ,γ’及び感度C,C’に対して、より劣化加速係数K,K’に対する影響が大きくなるように重み付けをすることが好ましい。
【0057】
図4に示すステップ104では、ステップ102で導出した劣化加速係数K,K’に基づいて、二次電池28の寿命を予測する。なお、本実施形態では、二次電池28の電池容量の変化、及び二次電池28の内部抵抗の変化から二次電池28の寿命を予測する。
【0058】
図8は、二次電池28の寿命の予測結果を示す図であり、図8(A)は、二次電池28の電池容量の変化(以下、「容量変化」という。)から寿命を予測した結果である。容量変化ΔCapは、二次電池28の電池容量の初期値をCapとすると、下記(11)式から算出される。なお、二次電池28の電池容量は、二次電池28の劣化と共に低下する。
【数11】

【0059】
図8(A)において、実線は、履歴分布のピーク値と理想分布のピーク値が一致する場合、すなわち、ずれ量ΔPI2=1,ΔPSOC=1,ΔP=1であり、劣化加速係数K=α+β+γの場合(以下、「基準劣化」という。)である。本実施形態では、容量変化が寿命に達したと判定される判定値(例えば、電池容量の初期値の70%)となる年数を二次電池28の寿命とする。
【0060】
一方、図8(A)の破線は、劣化加速係数Kの値が、基準劣化よりも小さく劣化の度合いが小さいことを示している。すなわち、破線は、二次電池28の寿命が基準劣化よりも長くなることを示している。
【0061】
また、図8(A)の一点鎖線は、劣化加速係数Kの値が、基準劣化よりも大きく、劣化の度合いが大きいことを示している。すなわち、一点鎖線は、二次電池28の寿命が基準劣化の場合よりも短くなることを示す。
【0062】
一方、図8(B)は、二次電池28の内部抵抗の変化(以下、「抵抗変化」という。)から寿命を予測した結果である。抵抗変化ΔRは、二次電池28の内部抵抗の初期値をRとすると、下記(12)式から算出される。なお、二次電池28の内部抵抗は、二次電池28の劣化と共に上昇する。
【数12】

【0063】
図8(B)において、実線は、履歴分布のピーク値と理想分布のピーク値が一致する場合、すなわち、ずれ量ΔPI2=1,ΔPSOC=1,ΔP=1であり、劣化加速係数K’=α’+β’+γ’の場合(基準劣化)である。本実施形態では、抵抗変化が寿命に達したと判定される判定値(例えば、内部抵抗の初期値の200%)となる年数を二次電池28の寿命とする。
【0064】
一方、図8(B)の破線は、劣化加速係数K’の値が、基準劣化よりも小さく、劣化の度合いが小さいことを示している。すなわち、破線は、二次電池28の寿命が基準劣化の場合よりも長くなることを示す。
【0065】
また、図8(B)の一点鎖線は、劣化加速係数K’の値が、基準劣化よりも大きく、劣化の度合いが大きいことを示している。すなわち、一点鎖線は、二次電池28の寿命が基準劣化の場合よりも短くなることを示す。
【0066】
そして、本ステップでは、容量変化と抵抗変化とが判定値に達する年数から二次電池28の寿命を予測する。なお、本実施形態では、一例として、容量変化と抵抗変化とが判定値に達する年数の早い方を寿命として予測し、予測した寿命と二次電池28の使用を開始してからの経過年数との差を余寿命として算出する。
【0067】
次のステップ106では、上位制御装置12を介して、予測した二次電池28の寿命(本実施形態では、余寿命)を表示装置16に報知させる。また、本ステップでは、ステップ102で導出した劣化加速係数K,K’の少なくとも一方が、二次電池28の劣化の度合いが高いことを示す予め定められた値(例えば、ずれ量ΔPI2=1,ΔPSOC=1,ΔP=1のときの劣化加速係数の2倍)を超えている場合に、二次電池28の劣化の度合いが高いことを示す情報を、二次電池28の余寿命と共に表示装置16に表示させ、本プログラムを終了する。
【0068】
また、本実施形態に係る電池システム10では、上位制御装置12が、BMU42から二次電池寿命予測処理で導出された各値(ずれ量ΔPI2,ΔPSOC,ΔP等)を受信し、履歴分布のピーク値と理想分布のピーク値とのずれ量が小さくなるように、二次電池28の使用状態を制御する。
【0069】
具体例としては、電流のずれ量ΔPI2が1を超える所定値となった場合、すなわち、二次電池28の電流が大きい状態で使用される頻度が多い場合、上位制御装置12が、例えば、電流の使用範囲が−300Aから+300Aまでの間であったものを、−200Aから+200Aまでの間とし、電流のずれ量ΔPI2が小さくなるように二次電池28の電流を制御する。また、例えば、蓄電量のずれ量PSOCが1未満の所定値となった場合、すなわち、二次電池28の畜電量が小さい状態で使用される頻度が多い場合、上位制御装置12が、例えば、蓄電池の使用範囲40%から60%までの間であったものを、30%から70%までの間とし、蓄電量のずれ量ΔPSOCが小さくなるように二次電池28の蓄電量を制御する。
【0070】
これによって、二次電池28の劣化の度合いが、理想的な劣化である基準劣化により等しくなるため、二次電池28の寿命の管理が容易になり、例えば、二次電池28の再利用等が容易になる。
【0071】
以上説明したように、本実施形態に係る電池システム10は、電流負荷18へ電力を供給する二次電池28と、二次電池28の劣化に影響を及ぼす因子の大きさを計測する電流計32及び温度計32を備えており、電流計32及び温度計32によって所定期間内に複数回計測された因子の大きさに応じた二次電池28の使用頻度に基づく履歴分布のピーク値と、因子の大きさに応じた二次電池28の予め予測された使用頻度に基づく理想分布のピーク値とを比較し、比較結果及び予め予測された二次電池28の劣化の度合いに基づいて、使用状態にある二次電池28の劣化の度合いを導出し、導出した劣化の度合いに基づいて、二次電池28の寿命を予測する。これにより、本実施形態に係る電池システム10は、より精度の高い二次電池の寿命予測を可能とする。
【0072】
以上、本発明を、上記実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更または改良を加えることができ、該変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0073】
例えば、上記実施形態では、電池システム10が、BMU42とCMU40A,40Bとを備える形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、電池システム10がCMU40A,40Bを備えず、BMU42がCMU40A,40Bの機能を有する形態としてもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、二次電池28の使用頻度の履歴分布のピーク値と理想分布のピーク値とのずれ量から、二次電池28の寿命を予測する形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、二次電池28の使用頻度の履歴分布の平均値と理想分布の平均値とのずれ量から、二次電池28の寿命を予測する形態としてもよい。
この形態の場合、履歴分布の平均値及び理想分布の平均値は、例えば、因子の大きさと使用頻度との積を因子の計測回数で除算することによって求められる。これにより、例えば、履歴分布に2つ以上のピークが生じている場合等に、履歴分布と理想分布とのずれ量を容易に求めることが可能となる。
【0075】
また、上記実施形態では、電池システム10が、BMU42とCMU40A,40Bとを備える形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、電池システム10がCMU40A,40Bを備えず、BMU42がCMU40A,40Bの機能を備える形態としてもよい。
【0076】
また、上記実施形態では、二次電池28の劣化に影響を及ぼす因子として、二次電池28の電流、蓄電量、及び温度を用いて二次電池28の寿命を予測する形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、二次電池28の劣化に影響を及ぼす因子として、二次電池28の電流、蓄電量、及び温度の少なくとも一つを用いて二次電池28の寿命を予測する形態としてもよい。
【0077】
さらに、上記実施形態では、二次電池28の電池容量の変化、及び二次電池28の内部抵抗の変化から二次電池28の寿命を予測する形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、二次電池28の電池容量の変化、又は二次電池28の内部抵抗の変化から二次電池28の寿命を予測する形態としてもよい。
【符号の説明】
【0078】
10 電池システム
12 上位制御装置
28 二次電池
30 電圧計
32 電流計
42 BMU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の劣化に影響を及ぼす因子の大きさを計測する計測手段と、
前記計測手段によって所定期間内に複数回計測された前記因子の大きさに応じた前記二次電池の使用頻度に基づく第1の値と、前記因子の大きさに応じた前記二次電池の予め予測された使用頻度に基づく第2の値とを比較する比較手段と、
前記比較手段による比較結果、及び前記予め予測された二次電池の劣化の度合いに基づいて、使用状態にある前記二次電池の劣化の度合いを導出する導出手段と、
前記導出手段によって導出された前記度合いに基づいて、前記二次電池の寿命を予測する予測手段と、
を備えた二次電池寿命予測装置。
【請求項2】
前記導出手段は、前記計測手段によって計測された前記因子の大きさが予め定められた閾値を超える頻度に応じて、前記二次電池の劣化の度合いをより大きく導出する請求項1記載の二次電池寿命予測装置。
【請求項3】
前記第1の値と前記第2の値とのずれ量が小さくなるように、前記二次電池の使用状態を制御する制御手段を備えた請求項1又は請求項2記載の二次電池寿命予測装置。
【請求項4】
前記導出手段は、予め予測された劣化の度合いに前記第1の値と前記第2の値とのずれ量を乗算した値を、使用状態にある前記二次電池の劣化の度合いとして導出する請求項1から請求項3の何れか1項記載の二次電池寿命予測装置。
【請求項5】
前記導出手段は、前記導出手段によって導出された前記度合いに基づいた、前記二次電池の電池容量の変化、及び前記二次電池の内部抵抗の変化の少なくとも一方から前記二次電池の寿命を予測する請求項1から請求項4の何れか1項記載の二次電池寿命予測装置。
【請求項6】
前記因子は、前記二次電池の電流、前記二次電池の蓄電量、及び前記二次電池の温度の少なくとも一つである請求項1から請求項5の何れか1項記載の二次電池寿命予測装置。
【請求項7】
負荷へ電力を供給する二次電池と、
前記二次電池の寿命を予測する請求項1から請求項6の何れか1項記載の二次電池寿命予測装置と、
を備えた電池システム。
【請求項8】
二次電池の劣化に影響を及ぼす因子の大きさを計測する計測手段によって所定期間内に複数回計測された前記因子の大きさに応じた前記二次電池の使用頻度に基づく第1の値と、前記因子の大きさに応じた前記二次電池の予め予測された使用頻度に基づく第2の値とを比較する第1工程と、
前記第1工程による比較結果、及び前記予め予測された二次電池の劣化の度合いに基づいて、使用状態にある前記二次電池の劣化の度合いを導出する第2工程と、
前記第2工程によって導出された前記度合いに基づいて、前記二次電池の寿命を予測する第3工程と、
を含む二次電池寿命予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−181066(P2012−181066A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43260(P2011−43260)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】