説明

二段ブロー成形法による熱可塑性樹脂容器の製造方法

【課題】ポリエステル容器の二軸延伸二段ブロー成形法において、一段目の二軸延伸ブロー成形中間体を縦横方向に熱収縮させて中間体の残留応力を緩和させる際の、収縮率予測が困難であるために、一段目のブロー成形金型及びプリフォームの形状の設計に非常に工数が掛かり、当成形法の工業化の経費的かつ時間的な負荷となっている問題を解決する。
【解決手段】プリフォームの1次中間体を1次金型で1次延伸ブロー成形して2次中間体となし、2次中間体を熱収縮させて3次中間体となし、3次中間体を2次金型で2次延伸ブロー成形して容器を製造する際に、1次中間体に円錐形状のプリフォームを使用し、1次延伸ブロー成形において1次中間体をプリフォームの高さ方向に主に延伸配向させ、熱収縮過程でほぼ周方向にのみ収縮させることにより容器を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二段ブロー成形法による熱可塑性樹脂容器の製造方法に関し、詳しくは、プリフォームの延伸配向を制御して熱収縮させるデータに基づいて予め金型及び/又はプリフォーム形状の設計をなして、二段ブロー成形法の工数の簡易化を図る、熱可塑性樹脂容器の製造方法に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂容器におけるポリエステル樹脂容器は、軽量性や経済性及び成形の容易性や優れた各種の物性更には対環境問題適応性や資源再利用性などにより、最近では、従来の金属やガラス製の容器を凌駕して、日常生活や各種の産業分野において重用され、特に、飲料や食品及び化粧品や洗浄剤更には医薬品などの容器として汎用されている。
ポリエステル樹脂容器のなかでも、いわゆるPETボトル(ポリエチレンテレフタレート製の容器)は、飲食品用の容器として認可されて以来非常に需要が高くなっているが、PETボトルは最近まで、耐熱性や耐圧性が不充分で高温の飲料や高温殺菌を要す飲料用には使用できず、日常生活においては夏季の飲料に限られていた。
その後、ペットボトルにおける冬季用の携帯高温飲料やレトルト殺菌食品への消費者の強い要望に応えるべく、二段ブロー成形法などの開発によって、ポリエチレンテレフタレートのプリフォームの延伸や結晶化が充分に行われるようになり、PETボトルの耐熱性と耐圧性が著しく改良され(特許文献1,2を参照)、さらにPETボトルの透明性により内部の飲料が直接見える安心感や清潔感なども相まって、これらの面からもPETボトルの重要性は更に顕著になっている。特に、最近ではPETボトルが携帯用の飲料用小型容器として消費者に重用されており、かかる分野や他の利用における需要は今後ますます増大すると予測される。
【0003】
かかる二段ブロー成形法は二軸延伸ブローと組み合わされて、ポリエステル樹脂容器の耐熱性と耐圧性を著しく向上させ、耐熱性に優れたレトルト殺菌可能な容器を実用化している。
かくして、ポリエステル樹脂容器における二段二軸延伸ブロー成形法は非常に重要な成形法となっているので、更に改良を進めるべく、ブロー成形手法や各工程及び成形条件や熱収縮過程或いは金型設計やプリフォームの材質などの検討が行われている。
【0004】
その中の、改良を進めるべき問題の一面として、一段目の二軸延伸ブロー成形中間体を縦横方向(容器となる中間体の高さと円周方向)に熱収縮させて中間体の残留応力を緩和させる際に、収縮率予測が困難であり、そのために一段目のブロー成形金型及びプリフォームの形状の設計に非常に工数が掛かり、当成形法の工業化の経費的かつ時間的な負荷となっている問題が派生している。
かかる観点からの二軸延伸二段ブロー成形法における改良手法は、特許文献などにおいては未だ見い出すことができない。
【0005】
【特許文献1】特公平4−56734号公報(特許請求の範囲及び第2頁左欄上段)
【特許文献2】特開平5−200839号公報(特許請求の範囲及び段落0006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
段落0004に前述したように、ポリエステル樹脂容器の二軸延伸二段ブロー成形法においては、一段目の二軸延伸ブロー成形中間体を縦横方向に熱収縮させて中間体の残留応力を緩和させる際の、収縮率予測が困難であり、そのために一段目の二軸延伸ブロー成形中間体をあらかじめどのくらい大きく作るかを決めるための一段目のブロー成形金型の設計、及び延伸倍率をどのくらいに設定しておき熱収縮加減を調整するかを決めるためのプリフォームの形状の設計に非常に工数が掛かり、当成形法の工業化の経費的かつ時間的な負荷となっている問題が派生しているので、本発明は、かかる収縮率予測を容易化かつ簡易化して当問題の解決をなすことを、発明が解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題の解決を目指して、ポリエステル樹脂容器の二軸延伸二段ブロー成形法における、一段目の二軸延伸ブロー成形中間体を縦横方向(容器となる中間体の高さと円周方向)に熱収縮させる際の、熱収縮手法や各種収縮条件及びプリフォームの材質や形状更には1次ブロー金型の構造などに関して多角的に思考を巡らし改良手法を求めて実験的な検索と勘案を行った。
その過程において、容易かつ簡易な手段により経済的に収縮率予測を行うために、特定の延伸配向と熱収縮手法を採用し、更には特異なプリフォーム形状を使用する新しい手段を知見し得て、その知見の認識により、一段目のブロー成形金型及びプリフォームの形状の設計に非常に工数が掛かることに因る、二軸延伸二段ブロー成形法の工業化における経費的かつ時間的な負荷を解消し得る、本発明を創作することができた。
【0008】
本発明における特定の延伸配向と熱収縮の手法は、基本的に、1次延伸ブロー成形において1次中間体をプリフォームの高さ方向に主に延伸配向させ、熱収縮過程でほぼ周方向にのみ収縮させる手法であり、この手法を本発明の第一の特徴とし、また、1次延伸ブロー成形において1次中間体をプリフォームの高さ方向に主に延伸配向させ、熱収縮過程でほぼ周方向にのみ収縮させるために、プリフォームの1次中間体として、特異な形状のプリフォームである円錐形状のプリフォームを使用することを、本発明の第二の特徴とするものであり、かかる要件が本発明の構成における基礎的な要素を構成している。
【0009】
そして、1次延伸ブロー成形において1次中間体をプリフォームの高さ方向に主に延伸配向させ、熱収縮過程でほぼ周方向にのみ収縮させることにより得られる熱収縮のデータに基づいて、1次金型及び/又はプリフォーム形状の設計を容易にかつ簡易にそして経済的に行うことができる。
更に、かかる熱収縮のデータを得るために、1次ブロー後の成形中間体の高さと周方向における熱収縮量の差を、熱機械分析(TMA)測定による無荷重変形量の差にて評価する手段をも採用し得る。
【0010】
本発明においては、段落0008に前記したように、1次延伸ブロー成形において1次中間体をプリフォームの高さ方向に主に延伸配向させ、熱収縮過程でほぼ周方向にのみ収縮させる手法を採用しており、また、1次延伸ブロー成形において1次中間体をプリフォームの高さ方向に主に延伸配向させ、熱収縮過程でほぼ周方向にのみ収縮させるために、プリフォームの1次中間体として、特異な形状のプリフォームである円錐形状のプリフォームを使用するものであり、かかる新規な二要素を発明の特徴としており、発明がこれらの二つの要素を併せ持つこと、及びそれにより本発明の課題が解決されることは注目されるべきであるといえる。
また、本発明は、一段目のブロー成形金型及びプリフォームの形状の設計を容易化することを目的として、容易にかつ簡易な手段により経済的に収縮率予測を行うために、上記の二要素を発明の構成の要件としており、かかる目的のために当構成の要件を採用することも更に特異的な知見であるといえる。
【0011】
ところで、一段目の二軸延伸ブロー成形中間体を縦横方向に熱収縮させて中間体の残留応力を緩和させる際に、収縮率予測が困難であるために、一段目のブロー成形金型及びプリフォームの形状の設計に非常に工数が掛かるという問題の観点からの、二軸延伸二段ブロー成形法における改良手法は、段落0004に前記したように、特許文献などにおいては未だ開示されていない。
先行文献を精査すると、特開平9−314650号公報には、ポリエステル樹脂容器の二軸延伸二段ブロー成形法において、「1次中間成形品から加熱収縮成形される2次中間成形品の収縮程度をより正確に制御し、もって内部残留応力のより少ないそして寸法制度の高いかつ適正肉厚分布の壜体を得るには、1次ブロー金型の型温を成形される1次中間成形品の熱収縮量をコントロールできるように110℃〜230℃に設定するのが良い」と記載され(段落0018)、熱収縮量を制御する手法は窺えるが、また、要約(第1頁)においては中間成形品を横方向にのみ収縮させるような図面も記載されているが、それ以上の説明はなく、いずれも、本発明における段落0010に前記した目的と特異な構成の要件と具体的な関連があるものではない。
また、円錐形状のプリフォームの使用は、特開平11−157524号公報に見られるように(第1頁の要約の図面)、先行文献において僅かに散見されるが、いずれの文献も単に円錐形状のプリフォームを使用しているだけであり、その形状に関連した、縦横方向の延伸や熱収縮についての記載は何も無く、本発明における段落0010に前記した目的と特異な構成の要件とは関連があるものではない。
【0012】
以上においては、本発明が創作される経緯と、本発明の基本的な特徴と構成要素について、本発明を概観的に記述したので、ここで、本発明全体を俯瞰すると、本発明は、次の発明単位群から構成されるものであって、[1]〜[3]の発明を基本的な発明とし、それ以下の発明は、基本的な発明を具体化ないしは実施態様化するものである。(なお、発明群全体をまとめて「本発明」という。)
【0013】
[1]予め熱可塑性樹脂により形成したプリフォームの1次中間体を1次金型で1次延伸ブロー成形して2次中間体となし、2次中間体を熱収縮させて3次中間体となし、3次中間体を2次金型で2次延伸ブロー成形して熱可塑性樹脂容器を製造する際に、1次延伸ブロー成形において1次中間体をプリフォームの高さ方向に主に延伸配向させ、熱収縮過程でほぼ周方向にのみ収縮させることを特徴とする、二段ブロー成形法による熱可塑性樹脂容器の製造方法。
[2]1次延伸ブロー成形において1次中間体をプリフォームの高さ方向に主に延伸配向させ、熱収縮過程でほぼ周方向にのみ収縮させるために、プリフォームの1次中間体として、円錐形状のプリフォームを使用することを特徴とする、[1]における二段ブロー成形法による熱可塑性樹脂容器の製造方法。
[3]1次延伸ブロー成形において1次中間体をプリフォームの高さ方向に主に延伸配向させ、熱収縮過程でほぼ周方向にのみ収縮させることにより得られる熱収縮のデータに基づいて、1次金型及び/又はプリフォーム形状の設計をなすことを特徴とする、[1]又は[2]における二段ブロー成形法による熱可塑性樹脂容器の製造方法。
[4]2次延伸ブロー成形が二軸延伸ブローであることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかにおける二段ブロー成形法による熱可塑性樹脂容器の製造方法。
[5]熱可塑性樹脂がポリエステル樹脂であることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかにおける二段ブロー成形法による熱可塑性樹脂容器の製造方法。
[6]2次中間体の高さと周方向における配向度は、高さ方向の配向度が周方向の配向度を上回っていることを特徴とする、[1]〜[5]のいずれかにおける二段ブロー成形法による熱可塑性樹脂容器の製造方法。
[7]熱可塑性樹脂容器の高さと周方向における配向度は、高さ方向の配向度が周方向の配向度を上回っていることを特徴とする、[6]における二段ブロー成形法による熱可塑性樹脂容器の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、ポリエステル樹脂容器の二軸延伸二段ブロー成形法における、一段目の二軸延伸ブロー成形中間体を縦横方向に熱収縮させる際に、容易かつ簡易な手段により経済的に収縮率予測を行うことができ、それにより、一段目のブロー成形金型及びプリフォームの形状の設計に非常に工数が掛かることを解消して、二軸延伸二段ブロー成形法の工業化における経費的かつ時間的な負荷の問題を解決し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本願の発明については、課題を解決するための手段として、本発明の基本的な構成に沿って前述したが、以下においては、前述した本発明群の発明の実施の形態を、図面を参照しながら、具体的に詳しく説明する。
【0016】
1.本発明の基本構成
(1)二段ブロー成形法
本発明は、二段ブロー成形法による熱可塑性樹脂容器の製造方法において、プリフォームの延伸配向を制御して熱収縮させるデータに基づいて予め金型及び/又はプリフォーム形状の設計をなして、二段ブロー成形法の工数の簡易化を図る、熱可塑性樹脂容器の製造方法に係わるものである。
本発明の二軸延伸二段ブロー成形法は、図1に概略的にその成形過程図が示されており、図面の左側から順次に見て、熱可塑性樹脂により予め形成した円錐形状のプリフォームの1次中間体を、1次金型内で1次ブロー成形し、主として中間体の高さ方向(縦方向)に延伸配向して2次中間体となし、次いで熱収縮させ、中間体のほぼ周方向にのみ収縮させて、3次中間体となし、最後に3次中間体を、2次金型内で2次ブロー成形し、二軸延伸を行って、ジャー(広口の容器)の完成品となしている。
【0017】
(2)特異な延伸配向と熱収縮
本発明における主要な構成の要件のひとつとして、プリフォームの1次中間体を、1次金型内で1次ブロー成形する際に、主として中間体の高さ方向(縦方向)に延伸配向して2次中間体となし、中間体内の残留歪を緩和させる熱収縮過程でほぼ周方向にのみ収縮させる。
なお、従来のポリエステル樹脂容器の二軸延伸二段ブロー成形法では、高さと周方向の両方向へ延伸配向されるために、熱収縮過程では、通常は高さと周方向の両方向へほぼ同等に収縮されている。
【0018】
本発明においては、延伸における配向が主として高さ方向に生じ、周方向には配向があまり生じず、その結果として、熱収縮は高さ方向には殆ど生じず、ほぼ周方向にのみ生じることとなる。
熱収縮は高さ方向には殆ど生じず、ほぼ周方向にのみ生じるから、1次ブロー成形の金型の設計時に高さ方向の収縮を考慮する必要が無くなる。
よって、容易かつ簡易な手段により経済的に収縮率予測を行うことができ、それにより、更に後述するTMA測定による熱収縮のデータを勘案して、一段目のブロー成形金型又はプリフォームの形状の設計を、或いは双方の設計を簡易化することが可能となり、一段目のブロー成形金型及びプリフォームの形状の設計に非常に工数が掛かることを解消して、二軸延伸二段ブロー成形法の工業化における経費的かつ時間的な負荷を解決し得る。
【0019】
(3)円錐形状のプリフォーム
本発明における主要な構成の要件のひとつとして、図2における実施例に例示されるような、特異な形状である円錐形状(円錐型)のプリフォームを採用し、それにより、1次延伸ブロー成形において1次中間体をプリフォームの高さ方向に主に延伸配向させ、熱収縮過程でほぼ周方向にのみ収縮させることを容易に行うことができる。
円錐形状のプリフォームを用いると、延伸配向が高さ方向にのみ発生することが知見され、かかる現象は、本発明者による実験により判明したものであり、後述する実施例における表1の記載により実証されている。
【0020】
2.二段ブロー成形法におけるその他の構成
(1)プリフォーム
通常の二軸延伸二段ブロー成形法では円柱形状(円筒型)のプリフォームが専ら使用されるが、本発明におけるプリフォーム(いわゆるパリソン;有底筒状予備形成品)は、好ましくは円錐形状のプリフォームが使用され、射出成形機や押出成形機或いは、圧縮成形機、特に回転式連続圧縮成形機などによる通常の手段により予備形成される。
好ましくは熱可塑性ポリエチレンテレフタレート(PET)を素材とするが、他のポリエステル樹脂或いはポリエチレンやポリプロピレン更にはポリカーボネートなど任意の樹脂も使用し得る。また、適宜に積層プリフォームの使用もでき、例えば、ポリアミドやエバールなどと積層すると酸素遮蔽性が向上する。更に、酸素吸収層を中間層に設けて酸素吸収性を向上させても良い。酸素吸収層に用いる酸化可能有機成分はポリエンから誘導される重合体が好ましい。
【0021】
(2)1次ブロー成形
1次ブローの高さ方向の縦延伸倍率は2.0〜3.5倍程度とされ、結晶の高配向と延伸の均質化がもたらされる。また、周方向の延伸は高さ方向に比べ少ない。
1次ブローの金型温度条件は、PETにおいては20〜160℃程度とされ他の樹脂では適宜通常の条件が採用される。
【0022】
(3)熱収縮過程
適宜に熱風オーブンや赤外線ヒーターなどで加熱して、2次中間体を専ら円周方向に収縮させるが、その表面温度が150〜220℃、好ましくは200℃において加熱収縮させて、円周方向に好ましくは30〜60%程度収縮させ、最終製品の容器より小さい形状の3次中間体となす。
【0023】
(4)2次ブロー成形
熱収縮した3次中間体のブロー成形部分の温度が120〜220℃の状態で、3次中間体を150〜230℃に温調された二次金型内表面に向けて、縦1.05〜1.2倍、横1.05〜1.2倍程度に二軸延伸ブロー成形し、次いで二次金型内で、ブローエア圧を保持したままブロー成形品外表面を二次金型内表面に、好ましくは2秒間程度、接触保持することでヒートセットする。
【0024】
3.熱機械分析(TMA)測定
本発明においては、2次中間体の高さと周方向における熱収縮のデータを得るために、1次ブロー後の2次中間体の高さと周方向における熱収縮量の差を、熱機械分析(TMA)測定による無荷重変形量の差にて評価することをも採用している。
測定方法は実施例において後述し、測定結果は後述する実施例における図3のグラフ図に例示されており、横軸が昇温温度(℃)で縦軸が試料片の長さ変形量(μm)を表すグラフである。
【実施例】
【0025】
以下において、実施例によって、比較例を対照して図面を参照しながら、本発明をより詳細に具体的に示すが、これらは、本発明の好ましい具体例を示し、本発明をより鮮明にして、本発明における構成の要件の合理性と有意性を明らかにし、その範囲の適応性をより広く顕すものである。
【0026】
[各種の測定法]
1.)ラマン分光による配向度の評価
レーザーラマン分光法により、容器の切片(胴の中央部)の断面方向(縦横2方向)からラマンスペクトルを測定する。分子構造におけるベンゼン骨格振動に起因するピークは約1616cm−1に顕われ、この強度を測定する。
ベンゼン環の配向度合いが高いほど、入射レーザーの偏光を0°方向にした場合の強度が高くなる。このことを利用し、配向パラメーターの数値化をOP(=入射レーザー0°偏光時の1616cm−1ピーク強度/入射レーザー90°偏光時の1616cm−1ピーク強度)と規定し、測定を行った。
(ラマン測定条件)
分光機器:日本分光Laser Raman Spectrophotometer NRS−1000 使用レーザー:532nm 測定波長範囲:1800〜600cm−1 測定秒数:5秒 積分回数:2回
【0027】
2.)TMA無荷重変形量の測定
2次中間体の高さと周方向における熱収縮のデータを得るために、1次ブロー後の2次中間体の高さと周方向における熱収縮量の差を、熱機械分析(TMA)測定による無荷重変形量の差にて評価する。
容器の胴の中央部より縦(高さ)方向と横(周)方向に切り出した短冊状試験片を、TMA(熱機械分析法)により測定する。その二方向の変形量を、横軸が昇温温度(℃)で縦軸が試料片の長さ変形量(μm)を表すグラフで表わす。
(TMA測定条件)
測定機器:SIIナノテクノロジー社製DMS6100 温度プログラム:30〜250℃まで5℃/min昇温 試験片:40×5mm
なお、図3に後述する実施例と比較例における、TMA無荷重変化量の差の測定結果を表すグラフ図を例示する。
【0028】
3.)結晶化度の測定
容器の胴部より試験片を切り出し、硝酸カルシウム水溶液にて作成した密度勾配管法により試験片の密度ρ(g/cm)を求める。その結果、結晶化度は次式により計算される。
結晶化度(%)={ρc(ρ−ρa)/ρ(ρc−ρa)}×100
ρc:結晶密度(1.455g/cm
ρa:非晶密度(1.335g/cm
【0029】
[実施例]
本発明の二段ブロー成形法による熱可塑性樹脂容器の製造方法における、図1に示された、(a)円錐形状(円錐型)のプリフォームを、(b)1次ブローし、(c)熱収縮し、(d)2次ブローする、各工程を実施した。
(a)円錐形状のプリフォーム
市販のポリエチレンテレフタレート(PET)を使用してブロー成形を行う、胴部の最外径φ47.6mm・肉厚3.0mm・高さ25mmで、テーパ角度が30度(テーパ比が1:0.866)である略円錐形のプリフォームを射出成形により予備成形し、1次中間体とした。
(b)1次ブロー
空気を吹き込んで120℃の1次金型により1次ブローし、主に高さ80mmに延伸膨張させ、また、外径はφ105mmである2次中間体とした。
(c)熱収縮
2次中間体を、200℃にて10秒収縮固定して、外径55mmに、ほぼ円周方向にのみ収縮した3次中間体とした。
(d)2次ブロー成形
180℃まで温度が低下した3次中間体に空気を吹き込んで210℃の2次金型により2次ブロー成形を行い、縦1.1倍、横1.1倍に二軸延伸ブロー成形し、二次金型内で次いでブロー成形品を前述の210℃の表面温度の金型においてヒートセットして、完成品のジャーを成形した。
【0030】
[比較例]
実施例のプリフォームの代わりに、ほぼ円柱形状(円筒型;テーパ角度は0.5度)のプリフォームを使用して、実施例と同様にブロー成形を行った。
なお、実施例と比較例において使用したプリフォームの形状を、図2に掲示する。また、実施例と比較例における、各種の測定結果を表1に、TMAの測定結果のグラフを図3に掲示する。
【0031】
【表1】

【0032】
[実施例と比較例の結果の考察]
実施例及び比較例を対比すると、本発明の実施例においては、円錐型プリフォームを使用し、1次中間体をプリフォームの高さ方向に主に延伸配向させ、熱収縮過程でほぼ周方向にのみ収縮させているので、2次中間体のレーザーラマン法による配向度は、高さ方向が周方向よりかなり高く、逆にTMAによる収縮量は高さ方向が周方向より非常に低く、それらの結果、高さ方向には1次ブロー後の熱収縮過程では殆ど収縮せず、ほぼ周方向にのみ収縮する所望の結果が得られている。
一方、比較例においては、円筒型プリフォームを使用しているので、2次中間体レーザーラマン法による配向度は、高さ方向が周方向よりかなり低く、逆にTMAによる収縮量は高さ方向が周方向よりかなり高く、それらの結果、高さ方向には1次ブロー後の熱収縮過程で収縮し、周方向にも収縮する所望しない結果が得られている。
また、2次中間体を熱収縮及び2次ブローさせたジャー完成品についても配向度の高さ方向と周方向に関する大小関係の傾向は維持されている。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の二軸延伸二段ブロー成形法における、概略的な成形過程図である。
【図2】実施例と比較例において使用したプリフォームの形状を示す概略図である。
【図3】実施例と比較例におけるTMA無荷重変化量の測定結果を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め熱可塑性樹脂により形成したプリフォームの1次中間体を1次金型で1次延伸ブロー成形して2次中間体となし、2次中間体を熱収縮させて3次中間体となし、3次中間体を2次金型で2次延伸ブロー成形して熱可塑性樹脂容器を製造する際に、1次延伸ブロー成形において1次中間体をプリフォームの高さ方向に主に延伸配向させ、熱収縮過程でほぼ周方向にのみ収縮させることを特徴とする、二段ブロー成形法による熱可塑性樹脂容器の製造方法。
【請求項2】
1次延伸ブロー成形において1次中間体をプリフォームの高さ方向に主に延伸配向させ、熱収縮過程でほぼ周方向にのみ収縮させるために、プリフォームの1次中間体として、円錐形状のプリフォームを使用することを特徴とする、請求項1に記載された二段ブロー成形法による熱可塑性樹脂容器の製造方法。
【請求項3】
1次延伸ブロー成形において1次中間体をプリフォームの高さ方向に主に延伸配向させ、熱収縮過程でほぼ周方向にのみ収縮させることにより得られる熱収縮のデータに基づいて、1次金型及び/又はプリフォーム形状の設計をなすことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載された二段ブロー成形法による熱可塑性樹脂容器の製造方法。
【請求項4】
2次延伸ブロー成形が二軸延伸ブローであることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載された二段ブロー成形法による熱可塑性樹脂容器の製造方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂がポリエステル樹脂であることを特徴とする、請求項1〜請求項4に記載された二段ブロー成形法による熱可塑性樹脂容器の製造方法。
【請求項6】
2次中間体の高さと周方向における配向度は、高さ方向の配向度が周方向の配向度を上回っていることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれかに記載された二段ブロー成形法による熱可塑性樹脂容器の製造方法。
【請求項7】
熱可塑性樹脂容器の高さと周方向における配向度は、高さ方向の配向度が周方向の配向度を上回っていることを特徴とする、請求項6に記載された二段ブロー成形法による熱可塑性樹脂容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−36956(P2008−36956A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−213973(P2006−213973)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】