説明

二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法

【課題】 滑剤として炭酸カルシウムを用いた時に、所望のフィルム表面のRaを実現する製造方法を提供する。
【解決手段】 炭酸カルシウム粒子を含有するポリエステルフィルムの製造方法であって、当該フィルムの表面粗さ(Ra(単位:nm))、縦延伸倍率(FDR)と横延伸倍率(SDR)との比(FDR/SDR)が下記式(1)および(2)を同時に満足することを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
−5≦Ra−32(FDR/SDR)≦15 …(1)
0.4≦FDR/SDR≦1 …(2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として炭酸カルシウム粒子を含有するポリエステルフィルムの表面設計を精度よく制御できる製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートに代表される二軸延伸ポリエステルフィルムは、機械的強度、寸法安定性、平坦性、耐熱性、耐薬品性、光学特性等に優れた特性を有し、コストパフォーマンスに優れるため、各種の用途において使用されている。
【0003】
従来、ポリエステルフィルム中の粒子は、フィルムの滑り性、巻き特性を確保するために通常使用されるが、適度な粒径と配合量を満足しなければ、所望の滑り性を確保できなかったり、巻き特性が悪化したりして、その結果、生産性の悪化を招いてしまう。
【0004】
フィルムの表面粗さは、フィルム中の粒子の粒径、粒子量に加え、適用するフィルムの延伸処方で決まると考えられている。すなわち、延伸比が高いほど突起高さが大きくなるが(表面が粗くなるが)、突起の間隔が広がることで表面が平坦になり、これら二つの背反現象のバランスによって表面形状が制御される、と考えられてきた。
【0005】
これまで、一般的な工業用途の二軸延伸ポリエステルフィルムには、透明性に優れた無定型シリカ粒子が多く使用されてきた。一方、炭酸カルシウム粒子といった、無定型シリカに比べて、応力変形度が低い粒子も、粒子の変形による粒子内部、および粒子周辺の光学歪みが少ない材料として、工業用途の二軸延伸ポリエステルフィルムに適用されるようになってきたが、これらの用途において、十分な滑り特性、巻き特性を得られる比較的粒径の大きな炭酸カルシウムにおいては、上記のような、延伸処方による表面設計法が必ずしも適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−226894号公報
【特許文献2】特開平6−226937号公報
【特許文献3】特開平7−138458号公報
【特許文献4】特開平8−228713号公報
【特許文献5】特開平11−228713号公報
【特許文献6】特開2000−103874号公報
【特許文献7】特開2002−283450号公報
【特許文献8】特開2005−125700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その解決課題は、フィルムの滑剤として炭酸カルシウムを用いた時に、所望の表面特性を実現することのできる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、縦延伸比と横延伸比の関係を特定の範囲とすることにより、上記課題を容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、炭酸カルシウム粒子を含有するポリエステルフィルムの製造方法であって、当該フィルムの表面粗さ(Ra(単位:nm))、縦延伸倍率(FDR)と横延伸倍率(SDR)との比(FDR/SDR)が下記式(1)および(2)を同時に満足することを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法に存する。
【0010】
−5≦Ra−32(FDR/SDR)≦15 …(1)
0.4≦FDR/SDR≦1 …(2)
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のフィルムを構成するポリエステルとは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものである。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(PEN)等が例示される。また、用いるポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。共重合ポリエステルの場合は、30モル%以下の第三成分を含有した共重合体であればよい。かかる共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸およびオキシカルボン酸(例えば、P−オキシ安息香酸など)等から選ばれる一種または二種以上が挙げられ、グリコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等から選ばれる一種または二種以上が挙げられる。
【0012】
フィルム中に配合する主たる滑剤は、炭酸カルシウムであり、炭酸カルシウムの配合量は、フィルムを構成するポリエステルに対し通常1重量%以下、好ましくは0.01〜1重量%、さらに好ましくは0.02〜0.6重量%の範囲である。滑剤の含有量が少ない場合には、フィルム表面を適度な粗面にすることができないことがあり、フィルム製造工程において、表面のキズが発生しやすかったり、巻き特性が劣ったりする傾向がある。また、滑剤の含有量が1重量%を超える場合には、フィルム表面の粗面化の度合いが大きくなりすぎて透明性が損なわれることがある。
【0013】
ポリエステルフィルム中に含有する滑剤の平均粒径は、通常0.02〜5μmであり、好ましくは0.1〜3μm、さらに好ましくは0.4〜1.8μmの範囲である。粒径が0.02μm未満の場合には、フィルム表面を適度な粗面にすることができず、フィルム製造工程における巻き特性が劣る傾向がある。粒径が5μmを超える場合には、偏光板離型用フィルムとして用いられた場合、輝点となり異物検査に支障を来す恐れがある。
【0014】
一方、フィルムの透明性を向上させるため、2層以上の積層フィルムとした場合、表層のみに滑剤を配合する方法も好ましく採用される。この場合の表層とは、少なくとも表裏どちらか1層であり、もちろん表裏両層に滑剤を配合することもできる。かかる積層フィルムとした場合の滑剤の配合量は、表層を構成するポリエステルに対し、好ましくは0.01〜1重量%、さらに好ましくは0.02〜0.6重量%の範囲である。
【0015】
本発明で得られるポリエステルには、本発明の要旨を損なわない範囲で、炭酸カルシウム以外の滑剤を含んでいてもよく、例えば、酸化ケイ素、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、ゼオライト、カオリン、酸化チタン等のような無機微粒子や、シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン、アクリル樹脂等の有機微粒子、および析出粒子等を挙げることができる。
本発明において、ポリエステルに滑剤を配合する方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用し得る。例えば、ポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後重縮合反応開始前の段階でエチレングリコール等に分散させたスラリーとして添加し重縮合反応を進めてもよい。またベント付き混練押出機を用い、エチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または、混練押出機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法などによって行われる。
【0016】
なお、ポリエステルは、溶融重合後これをチップ化し、加熱減圧下または窒素等不活性気流中に必要に応じてさらに固相重合を施してもよい。得られるポリエステルの固有粘度は0.40dl/g以上であることが好ましく、0.40〜0.90dl/gであることがさらに好ましい。
【0017】
本発明においては、通常のオリゴマー含有量のポリエステルからなる層の少なくとも片側の表面に、かかるオリゴマー含有量の少ないポリエステルを共押出積層した構造を有するフィルムであってもよく、かかる構造を有する場合、本発明で得られる離型フィルム用ポリエステルフィルムにおいて、析出したオリゴマーによる輝点を防止する効果が得られ、特に好ましい。
【0018】
本発明において、Ra−32(FDR/SDR)が、−5より小さくなる場合、縦延伸比(FDR)と横延伸比(SDR)を非常に小さくする必要があり、延伸比不足によりフィルムの平面性が極端に悪化する。Ra−32(FDR/SDR)が15より大きくなる場合、FDR,SDRを極端に大きくせねばならず、フィルムの連続性が悪化し、また、横延伸機の大型化による建設コストが大きくなる。
【0019】
本発明においては、縦延伸比(FDR)と延伸比(SDR)との比FDR/SDRが、0.4〜1の範囲である必要がある。FDR/SDRが0.4を下回る場合、縦延伸比不足によりフィルムの平面性が極端に悪化する、もしくは縦延伸比をフィルムの平面性が確保できる程度に延伸した場合、非常に大きな横延伸機を必要とし、設備建設に多大なコストを要する。また、FDR/SDRが1を上回る場合、横延伸比不足によりフィルムの平面性が極端に悪化する、もしくは縦延伸比を極端に大きくする必要があり、フィルムの連続性を悪化させる。
【0020】
本発明のフィルムの総厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲で有れば特に限定されるものではないが、通常4〜100μm、好ましくは9〜50μmの範囲である。
【0021】
本発明で得られるポリエステルには、本発明の要旨を損なわない範囲で、耐候剤、耐光剤、帯電防止剤、潤滑剤、遮光剤、抗酸化剤、蛍光増白剤、マット化剤、熱安定剤、および染料、顔料などの着色剤などを配合してもよい。
【0022】
本発明のポリエステルフィルムは、本発明の効果を損なわない範囲であれば、延伸工程中にフィルム表面を処理する、いわゆるインラインコーティングを施すこともできる。それは以下に限定するものではないが、例えば、1段目の延伸が終了して、2段目の延伸前に、帯電防止性、滑り性、接着性等の改良、2次加工性改良、耐候性および表面硬度の向上等の目的で、水溶液、水系エマルジョン、水系スラリー等によるコーティング処理を施すことができる。また、フィルム製造後にオフラインコートで各種のコートを行ってもよい。このようなコートは片面、両面のいずれでもよい。コーティングの材料としてはオフラインコーティングの場合は水系および/または溶媒系のいずれでもよいが、インラインコーティングの場合は水系が好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、主たる滑剤に炭酸カルシウムを用いた時にフィルム表面粗さを所望な範囲に制御でき、本発明の工業的価値は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中「部」とあるのは「重量部」を示す。また、本発明で用いた測定法は次のとおりである。
【0025】
(1)ポリエステルの極限粘度の測定
ポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0026】
(2)粒子の平均粒径(d50)
島津製作所製遠心沈降式粒度分布測定装置(SA−CP3型)を用いて測定した等価球形分布における積算体積分率50%の粒径を平均粒径d50とした。
【0027】
(3)フィルムの中心線平均粗さ(Ra)の測定
小坂研究所社製表面粗さ測定機 SE3500型を用いて、JIS B0601−1994に準じて測定した。なお測定長は2.5mmとした。
【0028】
実施例1〜6:
<ポリエステル(A)の製造>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム四水塩を加えて反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェートを添加した後、重縮合槽に移し、三酸化アンチモン0.04部を加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.63に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、ポリエステルのチップ(A)を得た。この、ポリエステルの極限粘度は0.63であった。
【0029】
<ポリエステル(B)の製造>
ポリエステル(A)の製造方法において、エチルアシッドフォスフェートを添加後、平均粒子径0.8μmの合成炭酸カルシウム粒子のエチレングリコールスラリーを粒子のポリエステルに対する含有量が1重量%となるように添加した以外は、ポリエステル(A)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(B)を得た。得られたポリエステル(B)は極限粘度0.63であった。
【0030】
<フィルムの製造>
上記ポリエステル(A)チップと、ポリエステル(B)チップとを、それぞれ70部、30部の割合で混合した混合原料を最外層(表層)の原料とし、ポリエステル(A)チップ100部を中間層の原料として、2台の押出機に各々供給し、290℃で溶融押出した後、静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定した冷却ロール上で冷却固化して未延伸シートを得た。次いで、90℃にてロール巻き取り方向(縦方向)に、テンター内で予熱工程を経て110℃で横延伸を施した後、10秒間の熱処理を行い、その後180℃で幅方向に10%の弛緩を加え、二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。なお、縦方向の延伸倍率(FDR)とその延伸温度(FDT)、および、熱処理温度はそれぞれ表1および2に示すとおりである。得られたフィルムの全厚みは40μm、それぞれの層厚みは4μm/32μm/4μmであった。比較例1〜3においては、延伸不足によりフィルムの平面性が極端に悪化し、製品として耐えうるフィルムではなかった。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、表面特性が優れ、各種用途において有用なポリエステルフィルムを容易に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウム粒子を含有するポリエステルフィルムの製造方法であって、当該フィルムの表面粗さ(Ra(単位:nm))、縦延伸倍率(FDR)と横延伸倍率(SDR)との比(FDR/SDR)が下記式(1)および(2)を同時に満足することを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
−5≦Ra−32(FDR/SDR)≦15 …(1)
0.4≦FDR/SDR≦1 …(2)

【公開番号】特開2010−201837(P2010−201837A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51570(P2009−51570)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】