説明

二輪自動車の電子調節型ステアリングダンパを制御する方法及びこの方法を実施する装置

【課題】自動車の高い安全レベルを保証するためにウォッブル振動モードとウィーブ振動モードの両方に関して有効な電子調節型ステアリングダンパの制御方法を提供する。
【解決手段】制御システム10は、アクチュエータ30に作用する制御ブロック20を有し、このアクチュエータは、二輪自動車又は他の自動車40に作用する。また、自動車40の瞬時要因を検出し、これら要因を制御ブロック20の入力とする測定ブロック50が設けられている。自動車40に取り付けられたアクチュエータ30は、電子調節型ステアリングダンパ、即ち、調節可能なステアリングトルクを瞬時に分配することができる装置である。好ましくは、かかるアクチュエータ30は、半能動型ステアリングダンパである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二輪自動車又は他の自動車(以下「車両」という場合がある)の電子調節型ステアリングダンパを制御する方法及びこの方法を実施する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータサイクル分野における研究は、強力且つ軽量である車両の製作をますます目指しており、かくして、かかる車両は、高い自然状態における不安定性を示し、かかる不安定性は、車両の受ける振動モードを減少させるのに適したステアリングダンパを設けることにより部分的に制限できる。
【0003】
具体的に説明すると、二輪自動車において低速では、主として3つの振動モード、即ち、自動車のピッチモード、タイヤのホップモード及びウォッブルモードが存在する。ピッチモードは、重心を通る横方向軸線回りの自動車の回転に起因しており、かかるピッチモードにより、一方のサスペンションが圧縮され、他方は伸張され、かかる振動モードは、一般に、低振動数で生じる。というのは、その動力性能又は動的挙動は、自動車の全体的慣性によって制御されるからである。
【0004】
タイヤのホップモードは、ばね下質量とフロントタイヤの剛性の相互作用に起因している。特に、固有振動数はタイヤの剛性で決まる。タイヤの剛性は、通常、インフレーション圧力に起因して非常に高いので、かかるモードは、ピッチよりも高い振動数で生じる。
【0005】
最後に、ウォッブルモードは、それ自体の軸線回りのステアリングの振動であり、かかるウォッブルモードは、典型的には、ステアリングの慣性及びノーマルフロントホイールトレール、即ち、自動車が垂直位置にあり且つステアリング角度がゼロである場合のタイヤと路面の接触点と、ステアリング軸線と路面の交点との間の距離に従って、8Hz〜14Hzの振動数で生じる。
【0006】
ウォッブルモードは、非常に僅かしか減衰されない振動モードであり、かくして、自動車の制御を非常に困難にする場合がある。
【0007】
さらに、かかる振動モードが生じる約10Hzに等しい高い振動数は、ウォッブルモードの振動を運転手にとって抑制するのを困難にし、かくして、運転手の安全性にとって非常に危険である。
【0008】
これらの理由で、一般に二輪自動車に用いられているステアリングダンパは、主として、ウォッブルモードを減衰する役割を果たし、これと関連した振動モードを非常に抑制された状態にすることができる。
【0009】
かかる目的のため、今日、二輪自動車用受動型ステアリングダンパが、あらかじめ定められると共にダンパ製造ステップにおける設計上の選択から得られた減衰係数を有する状態で用いられる場合が多く、又は、電子的に調節可能なステアリングダンパが用いられる場合があり、その特定の一形式は、半能動型ステアリングダンパであり、かかる半能動型ステアリングダンパにより、ステアリングトルクを制御方法により瞬時に調整することができる。
【0010】
特に、受動型ステアリングダンパの場合、減衰係数は、これが高い振動数で生じるウォッブルモードに起因した振動を減衰させることができるよう十分高く選択されている。
【0011】
他方、半能動型ステアリングダンパの場合、今日まで用いられている制御方法は、一般に、自動車の瞬時前進速度又は他の変数、例えば縦加速度を利用しており、ウォッブルモードの減衰を得ることができるようにする制御法則に従う。
【0012】
例えば、自動車が所定範囲内の速度で走行しているとき、自動車の速度及び縦加速度が変化すると、ステアリングダンパの減衰係数を増大させることが知られている。したがって、設定値よりも高い速度の場合、減衰係数は、一定のままであり、最大値に等しい。
【0013】
しかしながら、受動型ダンパにおける減衰係数の選択及び半能動型ダンパの公知の制御方法は、これらがウォッブルモードについて申し分のない減衰結果を既に得ている場合であっても、特に高速でステアリングが受ける他の振動モードの組に対抗することができない。確かに、高速では、ウォッブルモードと共に実際には別の振動モード、即ち、ウィーブモードが生じる。ウィーブモードに起因した振動は、モータサイクル全体に影響する。特に、かかる振動は、ステアリング組立体から生じ、自動車をそれ自体の垂直軸線回りに振動させる。
【0014】
かかる振動モードの固有振動数は、典型的には、2Hz〜4Hzであり、多くの要因、例えばリヤ部分の重心の位置、ホイールの慣性、ノーマルフロントホイールトレール及びキャスタ角、即ちステアリング軸線と自動車の垂直軸線との間の角度によって決定される。
【0015】
ウィーブモードは、一般に、平均的速度では非常に良く抑制されるが、高速では非常に僅かしか抑制されない状態になる場合があり、操縦者が制御することは非常に困難である。というのは、ウィーブモードは、自動車全体に影響を及ぼすからである。
【0016】
かくして、結果として、高速では、自動車のステアリング軸線回りに2種類の共振、即ち、低振動数におけるウィーブ共振及び高振動数におけるウォッブル共振が存在する。
【0017】
ウォッブル振動モードとウィーブ振動モードは、共に、ステアリングダンパの減衰係数の影響を受けるが、逆の仕方で受け、即ち、高い減衰値により、高振動数共振を減衰させることができるが、かかる高い減衰値は、低振動数共振を増幅させる。
【0018】
したがって、ステアリングダンパの高い減衰係数により、ウォッブル共振の良好な減衰が保証されるが、ウィーブ共振が増幅される。
【0019】
減衰係数の特定の一値が2つの振動モードに関して有する効果相互間の対比により、受動型ステアリングダンパは、これらの両方の振動モードを共に減衰させるのが全く不適当になる。
【0020】
実質的にウォッブルだけの状況を把握する高速に関するステアリングダンパの公知の制御方法も又、ウィーブの効果的な減衰作用も又保証することができない。
【0021】
かくして、自動車の高い安全レベルを保証するため、ウォッブル振動モードとウィーブ振動モードの両方に関して有効な電子調節型ステアリングダンパの制御方法が提供されることが要望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の目的は、上述の欠点を解決すると共に特に、ウォッブルモードに起因した振動とウィーブモードに起因した振動の両方を効果的に減衰させることができる二輪自動車の電子調節型ステアリングダンパの制御方法を提供することにある。
【0023】
本発明の別の目的は、低速と高速の両方においてステアリング組立体の振動モードを減衰させる上で申し分のない性能を提供する二輪自動車の電子調節型ステアリングダンパの制御方法を提供することにある。
【0024】
本発明の別の目的は、上述の方法を実施する装置であって、二輪自動車の電子調節型ステアリングダンパを制御するようになった装置を製作することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の上記目的及び他の目的は、請求項1記載の二輪自動車の電子調節型ステアリングダンパを制御する方法を提供することによって達成される。
【0026】
二輪自動車の電子調節型ステアリングダンパを制御する方法のそれ以上の特徴は、従属形式の請求項の内容である。
【0027】
本発明に従って二輪自動車の電子調節型ステアリングダンパを制御する方法の特徴及び利点は、本発明を限定する目的ではなく、例示として与えられている以下の説明を添付の図面を参照して読むと、明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1a】二輪自動車の略図であり、そのステアリング軸線回りの回転動的挙動に影響を及ぼす要因を示す図である。
【図1b】車両の略図であり、その垂直動的挙動に影響を及ぼす要因を示す図である。
【図2a】第1の制御方式に従って固定的に連結された二輪自動車の平面図である。
【図2b】第2の制御方式に従って固定的に連結された二輪自動車の平面図である。
【図3】二輪自動車のステアリングダンパの制御システムの略図である。
【図4a】図3の制御システムの測定ブロックの第1の実施形態の略図である。
【図4b】図3の制御システムの測定ブロックの第2の実施形態の略図である。
【図5】振動数に関して、低速においてステアリングトルクとステアリング角度との間で生じる動的挙動を本発明の制御が行われる場合と行われない場合について比較したグラフ図である。
【図6】振動数に関して、高速においてステアリングトルクとステアリング角度との間で生じる動的挙動を本発明の制御が行われる場合と行われない場合について比較したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図を参照すると、制御システムが、全体を参照符号10で指示された状態で図示されており、この制御システムは、アクチュエータ30に作用する制御ブロック20を有し、このアクチュエータは、二輪自動車又は他の自動車40に作用する。
【0030】
また、自動車40の瞬時要因を検出し、これら要因を制御ブロック20の入力とする測定ブロック50が設けられている。
【0031】
自動車40に取り付けられたアクチュエータ30は、電子調節型ステアリングダンパ、即ち、調節可能なステアリングトルクを瞬時に分配することができる装置である。好ましくは、かかるアクチュエータ30は、半能動型ステアリングダンパである。
【0032】
本発明に従って二輪自動車の電子調節型ステアリングダンパを制御する方法を開発する際、本出願人は、非限定的な例として、比例定数が電子的に調節可能なステアリングの回転速度

に比例したステアリングトルクを提供することができる形式の半能動型ステアリングダンパ30への取り組みを開始した。
【0033】
かかるステアリングダンパ30は、例えば電磁弁によるような又は磁気流体学的技術を備えた任意の利用可能な作動技術に従って製作可能である。
【0034】
本出願人は、不規則な路面輪郭形状又はステアリングトルクに作用する外乱により引き起こされるかかる二輪自動車のステアリング振動を制御する問題が、車両の垂直動的挙動を制御する問題と多くの類似性があることを発見した。
【0035】
図1a及び図1bは、2種類の動的挙動、即ち、ステアリング軸線回りの回転動的挙動及び垂直動的挙動に影響を及ぼす要因の概略比較図である。車両の垂直動的挙動を制御するシステムの分析にあたり、路面輪郭形状と車体の運動との間の伝達関数が通常考慮され、車体においては、2種類の共振、即ち、低振動数における「車体」の共振と高振動数における「ホイール」の共振が存在する。
【0036】
同様に、上記において概略的に説明したように、路面輪郭形状(又はステアリングトルク)と高速で走行している自動車のステアリング角度との間の回転動的挙動を分析する際、2種類の共振、即ち、低振動数ウィーブ共振と高振動数ウォッブル共振に注目するのが良い。
【0037】
垂直動的挙動を制御する場合と同様、ステアリング軸線回りの回転動的挙動を制御する際にも、高い減衰値は、高振動数共振を減衰させることができるが、低振動数共振を増幅させることが分かる。本出願人は、ステアリング軸線回りの回転動的挙動の効果的な制御を達成するために、垂直動的挙動を制御する場合における車体の共振がウィーブの共振に類似し、自動車のステアリング軸線回りの回転動的挙動を制御する場合、ホイールの共振がウォッブルの共振に類似しているという仮説から始めた。
【0038】
かかる仮説に基づき、制御方法が設計上基づくべきステアリング軸線回りの回転動的挙動に影響を及ぼす要因を突き止めた。
【0039】
特に、ステアリング軸線回りの動的挙動を制御する方法を設計する上での制御変数を自動車のヨーレート

、即ち自動車の重心を通る垂直軸線回りの回転速度及びステアリングの回転速度

として特定した。
【0040】
車両の垂直動的挙動により突き止められた類似性に従って、本出願人は、当初、2つの別々の制御方式に取り組み、次いで、これら制御方式から、最適化された制御方式を導き出し、それにより、高振動数振動モードと低振動数振動モードの両方について良好な減衰結果を得た。
【0041】
第1の制御方式によれば、自動車の車体41を固定された基準に取り付けられた状態に保つ振動モードの減衰が行われることが望ましく、固定された基準の原点は、自動車の出量中心に固定的に取り付けられ、固定された基準は、自動車それ自体と一緒に剛性的に動くが、自動車の垂直軸線回りに回転することができない。
【0042】
ステアリングダンパの減衰係数の値は、かくして、理想的には第1のダンパ42を車体41と固定された基準との間に配置し、次式、即ち、
【数1】

に等しいトルクを及ぼすことを考慮して選択される。
【0043】
しかしながら、実際に半能動型ステアリングダンパ30を介して及ぼすことができるトルクは、次式で与えられる。
【0044】
【数2】

【0045】
2つのトルクを等しくすることにより、ヨーレート

とステアリングの回転速度

が一致し又は調和する場合、半能動型ダンパ30は、最大減衰係数cmaxをもたらさなければならず、その他の場合には、最小減衰係数cminをもたらさなければならないことが分かる。
【0046】
かくして、本発明に従って自動車の電子調節型ステアリングダンパを制御する方法に用いられる第1の制御アルゴリズムは、次のように形式化される。
【0047】
【数3】

【0048】
第2の方式は、ステアリング45の振動を減少させるようホイール43を固定基準に理想的には「フッキング(hooking)」を推定する。
【0049】
かくして、ステアリングダンパの減衰係数値は、第2のダンパ44をフロントホイール43と固定基準との間に理想的に配置することを考慮して選択される。
【0050】
固定基準に対するステアリング45の運動は、2つの原因、即ち、自動車の垂直軸線回りの回転に起因した第1の原因及び実際のステアリング角度

に起因した第2の原因の結果である。
【0051】
かくして、この場合に用いられる論理は、次式に等しいトルクを及ぼすことを推定している。
【0052】
【数4】

【0053】
これに対して、実際のトルクは次のように変わらない。
【0054】
【数5】

【0055】
2つのトルクを等しくすることにより、第2の制御アルゴリズムが得られ、かかる第2の制御アルゴリズムは、本発明に従って自動車の電子調節型ステアリングダンパを制御する方法で用いることができ、第2の制御アルゴリズムは、次のように形式化される。
【0056】
【数6】

【0057】
上述の2つの制御方式により、車体‐ステアリング組立体41,45(第1の方式)又はステアリング45(第2の方式)に関与する振動の観点から優れた性能を得ることができ、特に、第1の方式は、自動車40が低振動数で受ける外乱を効果的に減衰させ、これに対し、高振動数外乱は、第2の方式によって良好にフィルタリングされ、かかる第2の方式は、フロントホイール43を固定慣性基準のところにフッキングする傾向があり、それにより、ステアリング組立体45に関するあらゆる現象が減衰される。
【0058】
第1の選択規則は、もっぱら加速度測定値及びヨーレート測定値を用いて自動車に関与する振動がスイッチング振動数αよりも高い振動数を有しているか低い振動数を有しているかどうかを比較してかかる振動が高い振動数の領域に属するか低い振動数の領域に属するかどうかを判定する静的関数を利用している。かかる静的関数は、以下の表現を有する。
【0059】
【数7】

【0060】
かかる静的関数は、設計パラメータαにより特徴づけられ、かかる設計パラメータの値(単位:rad/s)は、第1の制御アルゴリズムと第2の制御アルゴリズムとの間のスイッチング振動数を表している。
【0061】
設計パラメータアルファは、ウィーブ共振とウォッブルの共振の両方を最適な仕方で減衰させるように選択される。かかるパラメータの値は、実験的に較正され、この値は、自動車に応じ、自動車それ自体の幾何学的特性に基づいて様々な場合がある。かかる値は、いずれの場合においても、ウィーブモードの固有パルス(代表的には12〜25rad/s)とウォッブルモードの固有パルス(代表的には50〜95rad/s)との間に位置する。
【0062】
静的関数f(t)がゼロよりも小さい場合、第1の制御アルゴリズムが用いられ、他方、静的関数f(t)がゼロ以上である場合、第2の制御アルゴリズムが用いられる。
【0063】
かくして、本発明に従って自動車の電子調節型ステアリングダンパを制御する方法で用いることができる第1のハイブリッド制御アルゴリズムが得られ、この第1のハイブリッド制御アルゴリズムは、静的関数f(t)に基づく選択規則を考慮している。
【0064】
【数8】

【0065】
第2のハイブリッド制御アルゴリズムは、自動車が低振動数で応力を受けたか高振動数で応力を受けたかどうかを判定するためにステアリング角度

の測定値に基づいて第2の選択規則の使用を予想している。
【0066】
かかる目的のため、ステアリング角度

の測定値は、好ましくは非常に僅かしか減衰されない極を有する二次の2つの共振帯域フィルタによりフィルタリングされ、その共振振動数は、実質的に、ウィーブモード及びウォッブルモードの固有振動数と一致し、かくして、それぞれ低振動数での共振フィルタの出力として得られたステアリング角度の測定値

及び高振動数での共振フィルタの出力として得られたステアリング角度の測定値

を表す2つの要因が得られる。
【0067】
次に、2つのフィルタリングされた信号

のべき指数

を計算し、平均値

を出し、べき指数

を低域フィルタにより又は移動平均フィルタを用いてフィルタリングし、かかる要因を比較する。
【0068】
低振動数におけるフィルタリングされた信号の平均べき指数

が大きい場合、ウィーブ共振が励起され、そうでなければ、ウォッブル共振が励起される。
【0069】
自動車に関与する振動の振動数における内容をいったん見積もると、ウィーブを減衰させることが必要な場合に第1のアルゴリズムを適用し、或いは、ウォッブルを減衰させることが必要な場合には第2のアルゴリズムを適用する。
【0070】
かくして、特に、次の論理に基づいてステアリングダンパの減衰係数を選択する第2のハイブリッド制御アルゴリズムが得られる。
【0071】
【数9】

【0072】
本発明に従って自動車の電子調節型ステアリングダンパを制御する方法で用いることができる第3のハイブリッド制御アルゴリズムは、静的選択関数f(t)に応じ又は信号のべき指数に基づく規則に応じて、最小減衰係数cmin又は最大減衰係数cmaxを選択することを予想している。特に、自動車の受ける振動がこれら振動に低振動数が含まれていることを指示している振動数場を区別するために選択の基準が用いられる場合には最小減衰係数cminが選択され、これに対し、かかる振動が高振動数で作用することが選択規則により判定された場合には最大減衰係数cmaxが選択される。
【0073】
このように、単一のセンサを用いることが可能であり、特に、ヨーレート

の測定が第1の場合に利用され、ステアリング角度

の測定が第2の場合に利用される。
【0074】
上述したように、本出願人により突き止められた自動車の電子調節型ステアリングダンパを制御する上での制御変数は、自動車のヨーレート

及びステアリングの回転速度

である。
【0075】
本発明の制御方法に用いることができる制御アルゴリズムは、確かに、かかる制御変数を用いて所望の減衰係数

を選択する。
【0076】
かかる要因は、適当なセンサを用いることにより測定できる。特に、ステアリングの回転速度

は、例えば線形又は回転ポテンショメータの使用及び関心のある振動数帯域における理想的なシャントに近似する帯域フィルタによる適当なディジタルフィルタリングによってステアリング角度

の測定からも得ることができるが、高振動数における測定ノイズは減衰される。
【0077】
例えばレートジャイロにより得られたヨーレート

の測定値は、好ましくは、例えば30Hzの周波数に実際の極を備えた二次の帯域フィルタでフィルタリングされる。
【0078】
2つのセンサが利用可能な場合における制御方式10の測定ブロック50は、かくして、ステアリング角度

の測定値を導き出すと共にヨーレート

の測定値をフィルタリングするために使用される。
【0079】
しかしながら、センサの使用を減少させるため、状態オブザーバを用いて他方の要因を測定することにより一方の要因を予想する。
【0080】
図4aに示されているように、ステアリング角度

のみを測定する場合、ステアリングの回転速度

を計算するために帯域フィルタ51が用いられ、ステアリングの回転速度

に基づいてヨーレート

を推定することができる適当なオブザーバ52が用いられる。好ましくは、オブザーバは、リューエンバーガ(Luenberger)型のものである。
【0081】
かかる測定ブロック50は、好ましくは、第2のハイブリッド制御アルゴリズムで用いられ、この第2のハイブリッド制御アルゴリズムは、ステアリング角度

の測定値に基づいて選択規則を用いる。このように、ステアリング角度

の同一の測定値に基づいて、一方においては、信号のべき指数に基づく選択規則に従って、自動車の振動が低振動数で作用するか高振動数で作用するかを判定し、他方において、ステアリングダンパの所望の減衰係数値

を計算するためにヨーレート

が推定される。
【0082】
しかしながら、ヨーレート

を測定するためにレートジャイロだけが用いられる場合、オブザーバが利用するモデルは、ヨーレート

に基づいてステアリングの回転速度

を推定することができるようなものである。
【0083】
この場合、図4bに示されている測定ブロック50では、ヨーレート

は、2つのセンサが利用可能な場合と関連して説明した低域フィルタ53でフィルタリングされ、それにより、高振動数での測定ノイズを減衰させる。
【0084】
かかる測定ブロック50は、好ましくは、静的関数f(t)に基づく振動数選択規則を用いた第1のハイブリッド制御アルゴリズムと関連して用いられる。
【0085】
かかる第1のハイブリッド制御アルゴリズムでは、ヨー加速度

は、関心のある周波数帯域における理想的なシャントに近似した帯域フィルタによりヨーレート

から計算される。
【0086】
有利には、本発明の二輪自動車の電子調節型ステアリングダンパの制御方法は、制御変数、例えばヨーレート及び/又はステアリング角度の少なくとも1つの測定手段に結合された処理手段を有する制御装置によって実施される。
【0087】
処理手段は、少なくとも1つの測定手段により入力される少なくとも1つの測定変数の瞬時値に対応した信号を受け取り、これに基づいて、処理手段は、ステアリングダンパの減衰係数の瞬時値を計算し、そして、場合によっては利用可能ではない変数を推定する。
【0088】
減衰係数を計算するため、処理手段は、本発明の二輪自動車の電子調節型ステアリングダンパを制御する方法を実施する。
【0089】
本発明の二輪自動車の電子調節型ステアリングダンパを制御する方法で用いられるアルゴリズムを検証するため、種々のシミュレーションが実施され、最小減衰係数cminを備えた受動型ステアリングダンパにより提供される性能及び最大減衰係数cmaxを有する受動型ステアリングダンパにより提供される性能で制御される半能動型ステアリングダンパの性能を比較した。
【0090】
比較されたアルゴリズムは次の通りであり、
‐2つのセンサが用いられる静的選択基準に基づいて第1の制御アルゴリズムを用いるか第2の制御アルゴリズムを用いるかどうかを識別する第1のハイブリッド制御アルゴリズム、
‐ヨーレートを検出するためにセンサが1つだけ用いられ、これに対し、ステアリングの回転速度がオブザーバによりヨーレートから推定される同一のアルゴリズム、
‐静的選択関数f(t)の符号に対応した最小又は最大減衰係数を設定し、ヨーレートを検出するためにセンサが1つだけ用いられる第3のハイブリッド制御アルゴリズム。
【0091】
試験は、種々の速度でステアリングトルクの外乱に直面したときに制御アルゴリズムを試験するために計画された。かくして、関心のある振動数の範囲で作用するステアリングトルクのプロフィールとして正弦波スイープが設定された。
【0092】
かかる試験により、ウィーブ共振及びウォッブル共振の減衰を評価し、関心のある振動数範囲全体に関する結論を集めることが可能である。
【0093】
図5は、50km/hに等しい速度に関してステアリングトルクとステアリング角度の間の振動数の応答を示しており、即ち、高速度において関心のある唯一の共振は、これがモータサイクルの安定性にとって重要なので、高振動数の共振(ウォッブル)である。かくして、最善の減衰結果は、最大減衰係数cmaxを有する受動型ステアリングダンパにより得られるということが分かる。
【0094】
しかしながら、本発明の二輪自動車の電子調節型ステアリングダンパを制御する方法も又、低速において良好な性能を提供する。
【0095】
特に、第1のハイブリッドアルゴリズム、即ち、静的選択規則を含む制御アルゴリズムを用いた制御方法は、センサが1つしか用いられない場合であっても共振ピークの最適減衰を保証する。
【0096】
これよりも高い速度に関し、ウィーブ共振とウォッブル共振の両方が起こり、受動型ダンパは、周波数範囲全体において適当な減衰を保証することができない。
【0097】
図6は、140km/hの速度の場合におけるステアリングトルクとステアリング角度との間の振動数の応答を示している。
ハイブリッド制御アルゴリズムを用いた本発明の二輪自動車の電子調節型ステアリングダンパを制御する方法は、ウィーブ共振を非常に良く減衰させ、ウォッブル共振についても良好な減衰性能を提供する。
【0098】
さらに、第1のハイブリッドアルゴリズムを用いた制御方法は、測定が単一のセンサ又は2つのセンサによって実施される場合において同様な性能を提供することにより共振を減衰させることができる。
【0099】
上記説明から、本発明の目的である二輪自動車の電子調節型ステアリングダンパを制御する方法の特徴は、明らかなはずであり、それと同様に、関連の利点も又明らかなはずである。
【0100】
本発明の二輪自動車の電子調節型ステアリングダンパを制御する方法は、確かに、低速と高速の両方におけるステアリングの振動モードの優れた減衰性能を提供することができる。
【0101】
特に、高速では、かかる制御方法は、高振動数におけるウォッブルモードと低振動数におけるウィーブモードの両方を効果的に相殺することができる。
【0102】
最後に、このように構成された制御方法は、全て本発明に含まれる種々の改造及び変形を行うことができることは明らかなはずであり、更に、細部は全て、技術的に均等な要素によって置き換え可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二輪自動車(40)の電子調節型ステアリングダンパ(30)を制御する方法であって、前記ステアリングダンパ(30)は、ステアリング速度

に従って調節できる減衰トルクを前記二輪自動車(40)のステアリング組立体(45)に及ぼすことができ、前記方法が、前記二輪自動車(40)の少なくとも1つの制御変数

を求めるステップと、前記少なくとも1つの制御変数

に基づいて前記電子調節型ステアリングダンパ(30)の瞬時減衰係数

を計算するステップとを有する、方法において、前記少なくとも1つの制御変数は、前記二輪自動車のヨーレート

を含む、方法。
【請求項2】
前記方法は、前記ヨーレート

を測定してフィルタリングするステップを有する、請求項1記載の二輪自動車(40)の電子調節型ステアリングダンパ(30)を制御する方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの制御変数は、前記二輪自動車の前記ステアリング速度

を更に含み、前記方法は、前記ヨーレート

に基づいて前記ステアリング速度

を評価するステップを有する、請求項2記載の二輪自動車(40)の電子調節型ステアリングダンパ(30)を制御する方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの制御変数は、前記二輪自動車の前記ステアリング速度

を更に含み、前記方法は、前記二輪自動車のステアリング角度

を測定し、前記ステアリング速度

をコンピュータ処理するステップを有する、請求項1記載の二輪自動車(40)の電子調節型ステアリングダンパ(30)を制御する方法。
【請求項5】
前記方法は、前記ステアリング速度

に基づいて前記ヨーレート

を評価するステップを有する、請求項4記載の二輪自動車(40)の電子調節型ステアリングダンパ(30)を制御する方法。
【請求項6】
前記瞬時減衰係数

を計算する前記ステップは、第1の制御アルゴリズムに基づいて実施され、前記第1の制御アルゴリズムは、次式、即ち、
【数1】

で形式化される、請求項1〜5のうちいずれか一に記載の二輪自動車(40)の電子調節型ステアリングダンパ(30)を制御する方法。
【請求項7】
前記瞬時減衰係数

を計算する前記ステップは、第2の制御アルゴリズムに基づいて実施され、前記第2の制御アルゴリズムは、次式、即ち、
【数2】

で形式化される、請求項1〜5のうちいずれか一に記載の二輪自動車(40)の電子調節型ステアリングダンパ(30)を制御する方法。
【請求項8】
前記方法は、前記二輪自動車(40)が低い振動数の振動を受けるか高い振動数の振動を受けるかを確立するステップを有する、請求項1〜7のうちずれか一に記載の二輪自動車(40)の電子調節型ステアリングダンパ(30)を制御する方法。
【請求項9】
前記二輪自動車(40)の動的挙動を定める前記ステップは、

の形態の静的選択関数(f(t))が、ゼロ未満であるかゼロを超えるか、ゼロに等しいかをチェックするステップを含む、請求項8記載の二輪自動車(40)の電子調節型ステアリングダンパ(30)を制御する方法。
【請求項10】
前記二輪自動車(40)の動的挙動を定める前記ステップは、
‐第1及び第2の共振帯域フィルタにより前記ステアリング角度

の前記測定値をフィルタリングする段階を含み、前記第1の帯域フィルタは、前記第2の帯域フィルタの第2の共振振動数よりも低い第1の共振振動数を有し、第1のフィルタリングされた信号

及び第2のフィルタリングされた信号

を得る段階を含み、
‐前記フィルタリングされた信号

のべき指数

を計算し、前記計算されたべき指数

の平均値

を求める段階を含み、
‐前記求めた平均値

を互いに比較する段階を含み、前記第1のフィルタリングされた信号

の前記べき指数

の前記平均値

が前記第2のフィルタリングされた信号

の前記べき指数

の前記平均値

よりも大きい場合、前記二輪自動車(40)は、低い振動数の振動を受け、前記第2のフィルタリングされた信号

の前記べき指数

の前記平均値

が前記第1のフィルタリングされた信号

の前記べき指数

の前記平均値

よりも大きい場合、前記二輪自動車(40)は、高い振動数の振動を受ける、請求項8記載の二輪自動車(40)の電子調節型ステアリングダンパ(30)を制御する方法。
【請求項11】
前記方法は、前記二輪自動車(40)が低い振動数の振動を受ける場合、前記第1の制御アルゴリズムを適用し、前記二輪自動車(40)が高い振動数の振動を受ける場合、前記第2の制御アルゴリズムを適用するステップを有する、請求項8〜10のうちいずれか一に記載の二輪自動車(40)の電子調節型ステアリングダンパ(30)を制御する方法。
【請求項12】
前記方法は、前記二輪自動車(40)が高い振動数の振動を受ける場合、前記瞬時減衰係数

を最大減衰係数(cmax)に等しく設定し、前記二輪自動車(40)が低い振動数の振動を受ける場合、前記瞬時減衰係数

を最小減衰係数(cmin)に等しく設定するステップを有する、請求項8〜10のうちいずれか一に記載の二輪自動車(40)の電子調節型ステアリングダンパ(30)を制御する方法。
【請求項13】
二輪自動車(40)の電子調節型ステアリングダンパ(30)を制御する装置であって、前記ステアリングダンパ(30)は、ステアリング速度

に従って調節できる減衰トルクを前記二輪自動車(40)のステアリング組立体(45)に及ぼすことができ、前記制御装置が、少なくとも1つの制御変数

を測定する少なくとも1つの手段に接続された処理手段を有し、前記処理手段が、前記ステアリングダンパの減衰係数

の瞬時値を計算するのに適している、装置において、前記少なくとも1つの測定手段は、前記二輪自動車(40)のヨーレート

を測定する手段及び/又はステアリング角度

を測定する手段を有する、装置。
【請求項14】
前記処理手段は、ステアリング角度

を測定する前記手段によって測定されたステアリング角度

に基づくと共に/或いはヨーレート

を測定する前記手段によって測定されたヨーレート

に基づいてステアリング角度

を計算する手段を含む、請求項13記載の二輪自動車(40)の電子調節型ステアリングダンパ(30)を制御する装置。
【請求項15】
前記処理手段は、前記計算されたステアリング速度

に基づいてヨーレート

を計算する手段を含む、請求項14記載の二輪自動車(40)の電子調節型ステアリングダンパ(30)を制御する装置。
【請求項16】
前記処理手段は、請求項1〜12のうちいずれか一に記載の制御方法を実施するのに適している、請求項13〜15のうちいずれか一に記載の二輪自動車(40)の電子調節型ステアリングダンパ(30)を制御する装置。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−269789(P2010−269789A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−131449(P2010−131449)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(501441773)ピアジオ アンド コンパニア ソシエタ ペル アチオニ (15)
【出願人】(501193001)ポリテクニコ ディ ミラノ (18)
【氏名又は名称原語表記】POLITECNICO DI MILANO
【住所又は居所原語表記】Piazza Leonardo da Vinci,3220133 MILANO−Italy
【Fターム(参考)】