説明

二酸化チタンを含まない多層コーティングシステム

【課題】良好な遮蔽特性と表面特性、例えば、低光沢、柔軟な触感、耐つや出し性、容易な清浄化機能、耐ダートピックアップ性および耐溶媒性などの組み合わせとの双方を有する、TiO2を含まないコーティングシステムの提供。
【解決手段】この多層コーティングシステムは、基体に良好な遮蔽機能を提供するベースコーティングの層、およびコーティングシステムに表面保護機能を提供する透明トップコーティングの第2の層を含む少なくとも2層を含む。ベースコーティング組成物は不透明(コ)ポリマーを含み、この(コ)ポリマーは(コ)ポリマー粒子あたり少なくとも1つのボイドを有する。トップコーティング組成物は、多段階(コ)ポリマー、単一段階架橋(コ)ポリマーおよびこれらの混合物から選択されるダラー(コ)ポリマーを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化チタン(TiO)を含まない水性コーティング組成物から得られる多層コーティングシステムに関する。この多層コーティングシステムは、基体に良好な遮蔽機能を提供するベースコーティングの層、および耐汚れ性、耐ダートピックアップ性、耐湿潤スクラブ性および耐溶媒性のような表面保護機能と共に、柔軟な触感および低光沢外観をコーティングシステムに提供する透明トップコートの第2の層を含む少なくとも2層を含む。
【背景技術】
【0002】
TiOは建築コーティング産業において、基体に遮蔽機能を提供する主たる顔料である。TiO価格の絶え間ない上昇、およびTiO製造プロセスにおける著しいエネルギー消費問題のせいで、塗料技術者は昔から、TiOの使用を低減することを試みている。白色ラテックス塗料においては、TiOの代替物を見いだすことによって、または臨界顔料体積濃度(CPVC)を超える塗料を配合することによって、その必須のコーティング表面特性を犠牲にすることなく、TiOの使用は低減されることができた。
【0003】
上記研究の典型的な例の1つは、焼成クレイを使用して、ラテックスコーティング配合物中のTiOを部分的に置き換えることである(ラテックス塗料中の焼成クレイのコスト効果性(Cost Effectiveness of Calcined Clays in Latex Paints),V.M.Braund(ブラウンド)、Polymers Paint and Colour Journal、1979年10月31日)。さらに、後に、多くの他のエキステンダー供給者は、ウルトラカーブ(ULTRACARB商標)U5(ULTRACARB商標U5、コントラクトマットエマルション塗料、マイコファインミネラルズリミテッド,ペイントアンドレジン(Micofine Minerals Limited, Paint&Resin、1989年12月))のようなTiO置換物を開発するのに打ち込んできた。しかし、開示されたこれらコーティング配合物のすべては、耐汚染性、耐湿潤スクラブ性など他の表面特性を維持しつつ、許容可能な不透明性または遮蔽特性を得るために、依然として、有効濃度のTiOを必要としている。
【0004】
合成不透明ポリマービーズは有用な不透明化剤であり、これはコーティング膜の機械的および/または光学的要求、並びにビーズの特性に従って、様々なビーズから選択されうる。とりわけ、マイクロボイドを含むビーズは、遮蔽機能のための全体的な光散乱に有意に貢献する相乗効果を生じさせる。米国特許第4,427,836号、第4,594,363号、第4,880,842号、および第4,970,241号に開示されるように、膜特性を犠牲にすることなく、不透明性に積極的に貢献するポリマーエキステンダー中の最適なものとして、いくつかの不透明ポリマーはロームアンドハースカンパニーによって開発されてきた。欧州特許出願公開第1,754,729号、および第1,754,730号は、膜が乾燥した場合に高度の白色光散乱を提供できる膜形成性ポリマー粒子の水性分散物を開示した。しかし、上記エキステンダーおよび不透明ポリマーは、結合能力を有するかまたは有しないかにかかわらず、その文献においてTiOの部分的置換物として使用されており、そして、膜の機械的特性を維持しつつ遮蔽機能に貢献するために、そのコーティング配合物は依然として多量のTiOを必要とする。そうでなければ、いくつかの重要な表面特性、例えば、遮蔽、光沢、耐つや出し性および耐スクラブ性は許容できないであろう。
【0005】
膜中で、別々で結合していない粒子間に、より多くの空気ボイドを生じさせがちな、CPVCを超えて塗料を組成変更する他の方法についての試みがある。このような塗料は相互連結空気ボイドを含むコーティング膜を形成し、この相互連結空気ボイドは膜多孔性の増大および、耐スクラブ性、耐汚染性および耐コーキング性をはじめとする塗料品質の低下を生じさせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,427,836号明細書
【特許文献2】米国特許第4,594,363号明細書
【特許文献3】米国特許第4,880,842号明細書
【特許文献4】米国特許第4,970,241号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第1,754,729号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第1,754,730号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ラテックス塗料中の焼成クレイのコスト効果性(Cost Effectiveness of Calcined Clays in Latex Paints),V.M.Braund(ブラウンド)、Polymers Paint and Colour Journal、1979年10月31日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明によって取り組まれる課題は、良好な遮蔽特性と表面特性、例えば、低光沢、柔軟な触感、耐つや出し性、容易な清浄化機能、耐ダートピックアップ性および耐溶媒性などの組み合わせとの双方を有する、TiOを含まないコーティングシステムを見いだすことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、基体上に光学的外観(optical appearance)を提供するベースコーティングの層と、表面保護および機械的特性を提供する透明トップコーティングの層とを含む多層コーティングシステムであって、
多層コーティングシステムはTiOを含まず、
ベースコーティングは水性コーティング組成物Bから得られ、水性コーティング組成物Bは、
コポリマーa)粒子あたり少なくとも1つのボイドを有する不透明(コ)ポリマーa)を、組成物Bの全乾燥重量を基準にした乾燥重量パーセンテージで18%〜55%、および
前記(コ)ポリマーa)と適合性の膜形成性(コ)ポリマーb)を、組成物Bの全乾燥重量を基準にした乾燥重量パーセンテージで45%〜82%含み、
透明トップコーティングは水性コーティング組成物Tから得られ、水性コーティング組成物Tは、
多段階(コ)ポリマー、単一段階架橋(コ)ポリマー、およびこれらの混合物から選択されるダラー(コ)ポリマーc)を、組成物Tの全乾燥重量を基準にした乾燥重量パーセンテージで20%〜85%、ここで、前記(コ)ポリマーc)は1〜20μmの平均粒子サイズを有しかつ−60℃〜75℃のTgを有する、および
前記(コ)ポリマーc)と適合性の膜形成性(コ)ポリマーd)を、組成物Tの全乾燥重量を基準にした乾燥重量パーセンテージで15%〜80%含む;
多層コーティングシステムを提供する。
本発明の第2の形態は、i)水性コーティング組成物Bを裸のまたは下塗りされた基体上に適用し、乾燥させて前記ベースコーティングを形成させる工程;およびii)ベースコーティングでコーティングされた基体上に水性コーティング組成物Tを適用し、乾燥させて前記透明トップコーティングを形成させる工程;を含む、第1の形態のTiOを含まない多層コーティングシステムを適用する方法を提供する。
本発明の第3の形態は本発明の第2の形態の方法によって製造されたコーティングされた基体を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の組成物中の成分を説明する目的のために、丸括弧書きを含む全ての語句は丸括弧書き内の事項を含むか、その事項を含まない、いずれかまたは双方を示す。例えば、語句「(コ)ポリマー」は、選択肢として、ポリマー、コポリマー、およびこれらの混合物を含み;語句「(メタ)アクリラート」は、アクリラート、メタクリラートおよびこれらの混合物を意味し;本明細書において使用される語句「(メタ)アクリル」は、アクリル、メタクリルおよびこれらの混合物を意味する。
【0011】
本明細書において使用される場合、他に示されない限りは、用語「TiOを含まない」とは、TiOを実質的に含まず、コーティング配合物中に、痕跡量のTiOを不純物としてまたは有効量未満のTiOを含むことを意味するものとし;同様に、用語「金属酸化物を含まない」とは、金属酸化物を実質的に含まず、金属酸化物を含まないコーティング配合物中に、痕跡量の金属酸化物を不純物としてまたは有効量未満の金属酸化物を含むことを意味するものとし;さらに、用語「無機顔料を含まない」とは、無機顔料を実質的に含まず、コーティング配合物中に、痕跡量の無機顔料を不純物としてまたは有効量未満の無機顔料を含むことを意味するものとする。
【0012】
本明細書において使用される場合、用語「多層コーティングシステム」とは、基体の表面上に少なくとも2層のコーティング膜を含むコーティング構造を意味するものとする。
本明細書において使用される場合、用語「水性」とは、水、または混合物の重量を基準にして50重量%以下の水混和性溶媒と混合された水を意味するものとする。
本明細書において使用される場合、用語「ポリマー」は、樹脂およびコポリマーを含むものとする。
本明細書において使用される場合、用語「合成ゴム」とは、エチレン−プロピレン−ジエン(EPDM)、スチレン−ブタジエンコポリマー、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ジエンゴム、および熱可塑性ポリオレフィン(TPO)をいうものとする。
【0013】
本明細書において使用される場合、用語「ダラー(duller)」とは、内部および外部反射における前方散乱および後方散乱の双方を含む有意な光散乱特性を有するポリマー粒子をいい、本発明のトップコーティング中に使用される場合に、このような制御されていない光の相互作用は、光沢の損失を引き起こし、好ましくはコーティングされた物品の透明な外観を犠牲にすることはない。
【0014】
本明細書において使用される場合、用語「アクリル」とは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、およびそれらの修飾された形態、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルなどを意味するものとする。
【0015】
本明細書において使用される場合、用語「適合性」とは、ある成分またはポリマー自体が別の成分またはポリマーと均一なブレンドを形成することができることを意味するものとする。
【0016】
本明細書において使用される場合、用語「エキステンダー」とは、1.3を超えて1.8以下の屈折率を有する粒子状無機物質を意味するものとし、例えば、炭酸カルシウム、クレイ、硫酸カルシウム、アルミノシリケート、シリケート、ゼオライト、および珪藻土などが挙げられる。
【0017】
本明細書において使用される場合、用語「平均直径」とは、製造者の推奨する手順に従って、MULTISIZER商標3コールターカウンター(ベックマンコールターインコーポレーティド(Beckman Coulter,Inc.)、フレルトン、カリフォルニア州)を用いて電気インピーダンスによって決定される、粒子の分布のメジアン粒子サイズをいう。このメジアンは分布における粒子の50重量%がそのメジアンよりも小さく、かつ分布における粒子の50重量%がそのメジアンよりも大きいサイズとして定義される。
【0018】
本明細書において使用される場合、用語「60°光沢」とは、MICRO−TRI商標光沢計(BYK−ガードナー(Gardner)GmbH、ゲレトスリード、ドイツより)を用いて視認角60°で測定される、コーティングされた物品またはコーティングの光沢をいう。
【0019】
本明細書において使用される場合、用語「低Tgモノマー」とは、そのホモポリマーが20℃以下のTgを有するであろうモノマーを意味するものとする。
本明細書において使用される場合、他に示されない限りは、用語「分子量」とは、ポリアクリル酸標準と対照させる、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定されるポリマーの重量平均分子量をいう。
【0020】
本明細書において使用される場合、用語「Tg」はサーモグラムにおける変曲点をTg値として採用する示差走査熱量測定(DSC)によって測定されるガラス転移温度を意味するものとする。多段階ポリマーの場合においては、報告されるTg値は、サーモグラムにおいて観察された変曲点の加重平均であるものとする。例えば、1つは−43℃および1つは68℃の2つのDSC変曲点を有する、80%の軟質第1段階および20%の硬質第2段階ポリマーからなる2段階ポリマーは−20.8℃の報告されるTgを有するであろう。
【0021】
本明細書において使用される場合、用語「ビニル」または「ビニルモノマー」は、アクリル、ビニルエステル、ビニルエーテル、モノビニル芳香族化合物、例えば、スチレンおよびα−メチルスチレン、およびハロゲン化ビニルを意味するものとする。
【0022】
本明細書において使用される場合、用語「重量%」は重量パーセントを意味するものとする。
言及される全ての範囲は包括的であり、かつ組み合わせ可能である。例えば、1μm以上、または2μm以上、または4μm以上、および20μm以下、または15μm以下平均直径は、1μm〜20μm、1μm〜15μm、2μm〜15μm、2μm〜20μm、4μm〜15μm、および4μm〜20μmの範囲を包含するであろう。
【0023】
他に示されない限りは、全ての温度および圧力単位は標準温度および圧力(STP)である。
【0024】
本発明においては、水性コーティング組成物Bは、中空球状ポリマー顔料として使用される不透明(コ)ポリマーa)を含み、この不透明(コ)ポリマーa)は(コ)ポリマー粒子あたり少なくとも1つのボイドを含む、膜形成性および膜非形成性エマルション(コ)ポリマーから選択される。ベースコーティング組成物Bの乾燥中に、ボイド内の水は(コ)ポリマーシェルを通って拡散しそして空気ボイドを残す。空気と周囲のポリマーとの間の屈折率の違いのせいで、光は効果的に散乱させられ、よってコーティング不透明性および基体遮蔽に寄与する。好ましくは、不透明(コ)ポリマーa)は疎水性である。不透明(コ)ポリマーの例は、中空球状(コ)ポリマー、例えば、米国特許第7,435,783号に記載される多段階ポリマー、およびダウケミカルカンパニーから入手可能なローパック(RHOPAQUE商標)OP−62、ウルトラEおよびOP−3000のような市販の製品などである。
【0025】
本発明の水性コーティング組成物Bは、不透明(コ)ポリマーa)と適合性の(コ)ポリマーb)を含み、この(コ)ポリマーb)はベースコーティング膜形成のためのバインダーとして使用される。好適な(コ)ポリマーb)は10,000〜5,000,000の分子量を有し、かつ−35℃〜60℃、例えば、30℃以下のTgを有する(コ)ポリマーから選択されうる。好ましくは、バインダー(コ)ポリマーb)はアクリルである。
【0026】
好ましい実施形態においては、バインダー(コ)ポリマーb)は単一段階アクリルエマルションコポリマーを含み、かつ不透明(コ)ポリマーa)は多段階アクリルコポリマーを含む。
【0027】
ある実施形態においては、不透明(コ)ポリマーa)は米国特許第7,435,783号に記載されるような逐次的乳化重合によって製造される。
【0028】
本発明においては、水性コーティング組成物Tは、多段階(コ)ポリマー、単一段階架橋(コ)ポリマー、およびこれらの混合物から選択される粒子からなるダラー(コ)ポリマーc)を含む。(コ)ポリマーc)は−60℃〜75℃、好ましくは−10℃〜60℃のTgを有する。
【0029】
好適なダラー(コ)ポリマーc)には、例えば、単一段階ポリマー、例えば、架橋アクリル酸t−ブチル(t−BA)(コ)ポリマー、架橋(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル(コ)ポリマー、架橋(メタ)アクリル酸sec−ブチル(コ)ポリマー、架橋(メタ)アクリル酸エチル(コ)ポリマー、架橋アクリル酸メチル(コ)ポリマー、架橋(メタ)アクリル酸ヘキシル(コ)ポリマー、架橋(メタ)アクリル酸イソブチル(コ)ポリマー、架橋(メタ)アクリル酸ベンジル(コ)ポリマー、架橋(メタ)アクリル酸イソプロピル(コ)ポリマー、架橋(メタ)アクリル酸デシル(コ)ポリマー、架橋(メタ)アクリル酸ドデシル(コ)ポリマー、架橋(メタ)アクリル酸n−ブチル(コ)ポリマー、架橋(メタ)アクリル酸C21〜C30アルキル、架橋プロピオン酸ビニル(コ)ポリマー、ウレタンポリマー、メラミンポリマー、シリコーン官能性(メタ)アクリラートコポリマー、前記架橋ポリマーのいずれかとアクリルモノマーとのコポリマーで−10℃〜75℃のTgを有するコポリマー、ビニルモノマーと前記架橋ポリマーのいずれかとのコポリマーで−10℃〜75℃のTgを有するコポリマー;多段階ポリマー、例えば、アクリル多段階ポリマー、ビニル多段階ポリマー、多段階合成ゴムコポリマー、多段階ウレタンコポリマー、水分散性グラフトコポリマー、これらの混合物および組み合わせ、例えば、ポリ(ウレタンアクリラート):から選択されるポリマーを挙げることができる。好ましくは、ダラー(コ)ポリマーc)は、−10℃〜75℃のTgを有するホモポリマー膜を生じさせるであろうモノマーが50重量%超の重合生成物である単一段階架橋(コ)ポリマーを含む。より好ましくは、ダラー(コ)ポリマーc)は多段階ポリマーを含む。
【0030】
ダラー(コ)ポリマーc)は1−20μmの平均直径を有し、好ましくは狭い粒子サイズ分布(PSD)を有する(コ)ポリマー粒子を含む。好適なダラー粒子は、1μm、好ましくは2μm、より好ましくは5μmの最小平均直径を有する。この粒子の平均直径が1μmよりも小さい場合には、その粒子は凝集し、水性組成物中に適切に分散するのが困難になる傾向がある。好適なダラー粒子は20μm、好ましくは15μm、より好ましくは8μmの最大平均直径を有する。組成物中に存在するダラー粒子の実質的な部分が所望のサイズ範囲より小さい場合には、ダラーのつや消し効果は低減する。組成物中に存在するダラー粒子の実質的な部分が所望のサイズ範囲よりも大きい場合には、コーティング表面は魅力的な度合いが低くなりかつ透明性が低減する。
【0031】
本発明のある好ましい実施形態においては、ダラー(コ)ポリマーc)は、例えば、コア−シェルもしくはマルチローバル(multilobal)構造のような積層構造を有する多段階(コ)ポリマーを含む。多段階ダラー粒子はポリマーコア相と1以上のポリマーシェル相とを含み、好ましくは、段階的な屈折率(grin)の組成物を含む。コアは様々なビニルモノマーから製造されることができ、かつゴム状またはガラス状ポリマーであることができる。コアは、ジオレフィン、例えば、ブタジエンもしくはイソプレン;ビニル芳香族モノマー、例えば、スチレンもしくはクロロスチレン;ビニルエステル、例えば、酢酸ビニルもしくは安息香酸ビニル;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;(メタ)アクリラートエステル、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸フェニル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルおよびアクリル酸ベンジル;塩化ビニル;およびフリーラジカル開始によって重合可能な他のモノマー;のようなモノマーの重合または共重合で製造されうる。
【0032】
別の好ましい実施形態においては、ダラー(コ)ポリマーc)は、ゴム状コアを有する、すなわち20℃以下、または10℃以下のTgを有する多段階ポリマーを含む。ゴム状コアは合成または天然ゴム、または好ましくはアクリルゴムを含むことができる。アクリルゴムコアは、コアモノマーの全重量を基準にして0〜10重量%、好ましくは約5重量%以下、または1重量%以下、または0.05重量%以上の1種以上の架橋剤、コアモノマーの全重量を基準にして0〜10重量%、好ましくは5重量%以下、または2.5重量%以下、および好ましくは、0.1重量%以上、または0.5重量%以上の1種以上のグラフト架橋剤、およびコアモノマーの全重量を基準にして0〜50重量%の1種以上の共重合性ビニルモノマーと共重合された、アルキル基が2〜8個の炭素原子を有するアクリル酸アルキルコポリマーを含む。アクリルゴムを取り囲む1以上のポリマーシェルのなかで、最外シェルはバインダー(コ)ポリマーd)と適合性である。単一または複数のシェルは多段階粒子の0〜40重量%を構成することができる。
【0033】
ダラー(コ)ポリマーc)のゴム状コアポリマーにおいては、好ましいアクリル酸アルキルはt−BAまたはBAである。1種または複数種の共重合性ビニルモノマーはメタアクリル酸アルキルのようなモノビニルモノマー、およびスチレンのようなモノビニルアレーンでありうる。前記モノビニルアレーンには、スチレンのようなモノエチレン性不飽和芳香族モノマー、メチルスチレンおよびエチルスチレンのようなアルキルスチレン、置換基が重合を妨げない他の置換ビニルベンゼン、および同様のビニル多環式芳香族モノマーが挙げられる。コアポリマーの屈折率およびバインダー(コ)ポリマーd)の屈折率は、場合によっては、ほとんど完全に透明な組成物を生じさせるために正確に一致することができる。ある例においては、好ましい2段階での5μm平均直径のコポリマーは、メタクリル酸アリルで架橋されたゴム状ポリ(BA)を含み、かつシェルが粒子の20重量%を構成する、ポリメタクリル酸メチル(pMMA)の硬質シェルを有する。
【0034】
コアポリマーにおける使用に好適な架橋性モノマーは概して、複数のエチレン性不飽和基がほぼ等しい反応性を有し、他のコアモノマーと共重合可能なジ−または多−エチレン性不飽和モノマーであり、例えば、ジビニルベンゼン(DVB);グリコールジ−およびトリ−(メタ)アクリラート、例えば、1,4−ブチレングリコールジメタクリラート、1,2−エチレングリコールジメタクリラート、および1,6−ヘキサンジオールジアクリラート;トリオールトリ(メタ)アクリラート、フタル酸ジアリルなどである。好ましい架橋性モノマーはブチレングリコールジアクリラートである。
【0035】
コアポリマーに使用するのに好適なグラフト架橋性モノマーは、概して、他のコアモノマーと共重合可能で、かつその重合後に有意な残留不飽和がコアポリマー中に残るのを可能にする不飽和基の実質的に低い反応性を有するジ−または多−エチレン性不飽和モノマーであり、例えば、メタクリル酸アリル(ALMA)、アクリル酸アリル、マレイン酸ジアリル、アクリルオキシプロピオン酸アリルなどである。好ましいグラフト架橋性モノマーはALMAである。
【0036】
多段階ポリマー粒子のコアを取り囲むのはポリマーの1以上のシェルである。シェルポリマーは、全粒子重量を基準にして約0.1〜約40%、好ましくは約5〜約40%、より好ましくは約15〜約35%を構成することができる。
【0037】
水性コーティング組成物Tにおける多段階ダラー粒子c)の外側シェルポリマーはバインダー(コ)ポリマーd)と適合性である。例えば、ポリ(メタクリル酸メチル)のシェルはポリ(メタクリル酸メチル)またはポリ(塩化ビニル)のマトリックスポリマーと適合性であろう。同様に、単一段階ダラー(コ)ポリマーc)はバインダー(コ)ポリマーd)と適合性である。例えば、シェルおよびマトリックスポリマーについてのメタクリル酸メチルポリマーの上記例におけるように、化学的類似性の結果として、多段階ダラーポリマーc)のシェルまたは架橋コポリマーダラーc)はバインダー(コ)ポリマーd)と適合性であり得るか、または全モノマー重量を基準にして約25〜約30%のアクリロニトリルもしくはスチレンと共重合されているt−BAのコポリマーにおけるように、適合性であることは経験的に決定されることができ、このコポリマーダラーはポリ(メタクリル酸メチル)、他の(コ)ポリマー(メタ)アクリラートバインダーのいずれかとも適合性である。
【0038】
ダラー(コ)ポリマーc)粒子は、1〜20μmの平均粒子直径を有する粒子を生じさせる任意のプロセスによって製造されうる。所望のサイズ範囲の上限での粒子は、懸濁重合技術によって製造されうるが、これは重合後の粒子分類を必要とする。好ましくは、ダラー(コ)ポリマーc)は米国特許出願公開第2007/0218291号に記載されるように乳化重合によって形成される。
【0039】
本発明の水性コーティング組成物Tはダラー(コ)ポリマーc)と適合性の(コ)ポリマーd)を含み、この(コ)ポリマーd)は、透明トップコーティング膜形成のためのバインダーとして使用される。好適なバインダー(コ)ポリマーd)は、10,000〜5,000,000の分子量を有し、−35℃〜60℃の、例えば、30℃以下のTgを有するバインダーから選択されうる。
【0040】
好ましい実施形態においては、バインダー(コ)ポリマーd)は単一段階アクリルエマルションコポリマーを含み、かつダラー(コ)ポリマーc)は多段階アクリルコポリマーを含む。
【0041】
本発明においてバインダーb)およびバインダーd)のいずれかまたは双方として使用される好適なバインダーは、アクリル、ビニル、例えば、酢酸ビニルまたは酢酸ビニル−エチレン、ポリウレタン、シロキサン、天然ゴム、合成ゴムポリマー、例えば、スチレン−ブタジエン(SBR)ブロックコポリマー、並びにこれらの混合物および組み合わせから選択される、水性エマルション(コ)ポリマー、またはあらかじめ形成された(コ)ポリマーの水性エマルション、すなわち水中油を含むことができる。好ましくは、バインダー(コ)ポリマーb)および/またはバインダー(コ)ポリマーd)はアクリルである。
【0042】
上記前記アクリルエマルション(コ)ポリマーは(i)30〜99.9重量%、または60重量%以上、または70重量%以上、または95重量%以下の1種以上のアクリルモノマー;(ii)0〜60重量%、または30重量%以下の1種以上の共重合性エチレン性不飽和モノマー;(iii)0〜10重量%、好ましくは0.1重量%以上、またはより好ましくは0.5重量%以上、または5重量%以下の1種以上のモノエチレン性不飽和カルボン酸または酸無水物モノマー、またはこれらの塩;(iv)0〜10重量%、好ましくは5重量%以下の1種以上の極性共重合性モノエチレン性不飽和モノマー;(v)0〜20重量%、好ましくは0〜10重量%の1種以上の官能性共重合性モノエチレン性不飽和モノマー;および(vi)0〜10重量%、好ましくは0〜5重量%の1種以上の架橋性またはグラフト架橋性モノマー;の重合反応生成物を含むことができ、ここで、全ての比率は(コ)ポリマーを製造するために使用される全てのモノマーの重量を基準にする。
【0043】
好適なアクリルモノマー(i)には、例えば、1種以上の(メタ)アクリル酸C1−30アルキルモノマー、(メタ)アクリル酸C5−30シクロアルキル、または(メタ)アクリル酸C5−30(アルキル)アリールモノマー、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソデシルおよび低Tgアクリルモノマーが挙げられうる。好適な低Tgモノマーには、これに限定されないが、アクリル酸エチル(EA)、アクリル酸ブチル(BA)、アクリル酸t−ブチル(t−BA)、アクリル酸2−エチルヘキシル(2−EHA)、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸エイコシル、(メタ)アクリル酸セチルエイコシル、(メタ)アクリル酸ベへニル、アクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル(BMA)が挙げられる。好ましいバインダーは、EA、BAおよび2−EHAから選択されるモノマーの重合生成物である(コ)ポリマーを含むことができる。
【0044】
好適な共重合性エチレン性不飽和モノマー(ii)には、例えば、ケイ素またはフッ素含有(メタ)アクリラート、共役ジエン、例えば、ブタジエン;酢酸ビニルまたは他のビニルエステル;ビニルモノマー、例えば、スチレンもしくは置換スチレン、例えば、α−メチルスチレン、塩化ビニルおよび塩化ビニリデンが挙げられうる。
【0045】
好適な共重合性モノエチレン性不飽和カルボン酸モノマー(iii)には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸モノメチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノブチル、無水マレイン酸、スチリル酸(styrylic acid)、並びにこれらの無水物および塩などが挙げられる。好ましいカルボン酸モノマーはアクリル酸、(メタ)アクリル酸、およびイタコン酸である。このようなモノマーはアクリルおよびビニルエマルションポリマーバインダーに水分散性をもたらす。
【0046】
エマルションポリマーバインダーは、別の形態においては、当該技術分野において知られている化学修飾によって水分散性にされていても良い。例えば、酢酸ビニルポリマーは部分的に加水分解されることができ、ポリオレフィンは、例えば、マレイン化を介して酸官能化されうる。
【0047】
好適な極性共重合性モノエチレン性不飽和モノマー(iv)には、例えば、(メタ)アクリル酸ホスホエチル、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS商標、ルブリゾールコーポレーション(Lubrizol Corp.)、ウィックライフ、オハイオ州)、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸アミノアルキル、N−ビニルピロリジノン、(メタ)アクリルアミド、N−ビニルイミダゾール、およびカチオン性モノマー、例えば、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド[(M)APTAC]、およびジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)が挙げられうる。
【0048】
好適な官能性共重合性モノエチレン性不飽和モノマー(v)には、例えば、アセトアセタートまたはアセトアセトアミド基を含むモノエチレン性不飽和モノマー、例えば、アセト酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸アセトアセトキシエチル、(メタ)アクリル酸アセトアセトキシプロピル、アセト酢酸アリル、(メタ)アクリル酸アセトアセトキシブチル、(メタ)アクリル酸2,3−ジ(アセトアセトキシ)プロピル、ビニルアセトアセトアミド、およびアセトアセトキシエチル(メタ)アクリルアミドアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリラート;ジアセトンアクリルアミド、およびニトリル基を含むモノエチレン性不飽和モノマー、(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられることができ、好ましくはメタクリル酸アセトアセトキシエチル(AAEM)である。このようなモノマーは、アクリルおよびビニルエマルションポリマーバインダーを化学物質に対してより耐性にするのを助ける。
【0049】
好適な架橋性またはグラフト架橋性多エチレン性不飽和モノマー(vi)は、ダラー(コ)ポリマーc)製造のと同じモノマーを含む。
【0050】
バインダー(コ)ポリマーb)およびバインダー(コ)ポリマーd)のそれぞれは、30〜1000nm、または50nm以上、100nm以上の平均直径を有する粒子の形態をとることができる。建築用途のためには、エマルション中のこのポリマーは30〜500nm、好ましくは50nm以上、または好ましくは400nm以下の平均直径を有する粒子の形態をとる。
【0051】
本発明のある実施形態においては、建築コーティング用途に好適なバインダー(コ)ポリマーb)および/またはd)は、30〜90重量%の低Tgモノマーと、以下のものとが共重合された共重合反応生成物を含むことができる:70〜10重量%の(i)1種以上のアクリルおよび/または(ii)低Tgモノマー以外の共重合性エチレン性不飽和モノマー、0.5〜10重量%の(iii)1種以上のエチレン性不飽和カルボン酸もしくは酸無水物モノマー、またはその塩、並びに、(iv)極性、(v)官能性または(vi)架橋性またはグラフト架橋性モノマーのいずれかの1種以上を含む残部;ここで、全てのモノマー比率は、この(コ)ポリマーを製造するために使用される全モノマーの重量を基準にする。
【0052】
バインダー(コ)ポリマーb)およびバインダー(コ)ポリマーd)のいずれかまたは双方について、水性エマルションポリマーおよび多段階エマルションポリマーを製造するのに使用される重合技術は当該技術分野において、例えば、米国特許第4,325,856号、第4,654,397号および第4,814,373号において周知である。多段階重合プロセスにおいては、組成が異なる少なくとも2つの段階が逐次的な様式でそして任意の順に形成される。
【0053】
本発明において使用されるようなポリマー組み合わせ、不透明(コ)ポリマーa)とバインダー(コ)ポリマーb)、並びにダラー(コ)ポリマーc)とバインダー(コ)ポリマーd)の適合性は当業者に知られており、そして他の組み合わせは、所定の実験によって、例えば、提案されたダラーおよびバインダーポリマーのブレンドを調製し、そしてそのブレンドを、曇りの不存在、単一のガラス転移温度の存在などの適合性の証拠について検討することなどにより、容易に決定されうる。
【0054】
本発明の水性組成物ベースコーティングまたは多官能性透明トップコーティングを形成するために、不透明(コ)ポリマーa)と水性膜形成性バインダー(コ)ポリマーb)、または水性ダラーc)と水性膜形成性バインダー(コ)ポリマーd)が単純に混合されうる。使用においては、そのような組成物は、建築および産業用途における使用のためには、組成物の全重量を基準にして40〜90重量%、好ましくは40〜80重量%の水を含む。逆に、水性組成物BまたはTの全固形分は、建築および産業用途においては、組成物BまたはTの全重量を基準にして、10〜60重量%、より好ましくは20〜60重量%の範囲であり得る。
【0055】
不透明(コ)ポリマーa)は、水性コーティング組成物Bの全乾燥重量を基準にした乾燥重量パーセンテージで18%〜55%、好ましくは26%〜44%、より好ましくは30%〜40%の好適な量で使用されるものとする。当該(コ)ポリマーa)の、18%未満のような低いパーセンテージはベースコーティングの遮蔽特性を不充分にする。これに対して、55%を超える場合には、その膜表面はひび割れやすくなる。
【0056】
ベースコーティング組成物B中のバインダー(コ)ポリマーb)の好適な量は、水性組成物Bの全乾燥重量を基準にした乾燥重量パーセンテージで45%〜82%、好ましくは56%〜74%、より好ましくは60%〜70%の範囲であり得る。
【0057】
多官能性透明トップコーティング組成物T中のダラー(コ)ポリマーc)の好適な量は、水性組成物Tの全乾燥重量を基準にした乾燥重量パーセンテージで20〜85%、望ましくは20〜65%、または好ましくは65〜85%の範囲であり得る。
【0058】
多官能性透明トップコーティング組成物T中のバインダー(コ)ポリマーd)の好適な量は、水性組成物Tの全乾燥重量を基準にして15〜80%、望ましくは15〜35%、または35〜80%の範囲であり得る。
【0059】
本発明の水性ベースコーティングおよび多官能性トップコーティング組成物は水性分散物、例えば、アルカリ性、アニオン性または非イオン性の形態をとることができ、並びに、例えば、触感添加剤(feel additives)、追加のダラー、流動剤または湿潤剤、増粘剤またはレオロジー改変剤またはこれらの混合物、硬化剤、顔料もしくは着色剤、不透明化剤、エキステンダー、酸化防止剤および可塑剤のような添加剤をさらに含むことができる。
【0060】
水性コーティング組成物Tは、光散乱および表面粗化を介した光沢のさらなる低減のために、(コ)ポリマーc)以外の追加のダラーを含むことができる。この追加のダラーは、例えば、シリカ、焼成シリカ、アルミナ、シリケート、(次)炭酸塩、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、フィロシリケート、タルク、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、およびアルカリ水酸化物のような既知の無機ダラーから選択されることができ、サブミクロンから30μmまでの平均直径を有し、本質的にTiOを含まず、好ましくは金属酸化物を含まず、より好ましくは、無機顔料を含まない;または、例えば、2−30μmの平均直径のポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、シリコーン、ポリウレタン、尿素−ホルムアルデヒド、またはポリフッ化ビニリデンビーズのような他の有機ダラーを含むことができる。この有機ダラーは膜強度を強化させることも可能である。有用な比率は、固形分を基準にして30重量%以下のダラー(コ)ポリマーc)と追加のダラーとの合計量を含むことができる。
【0061】
エキステンダーまたは着色剤は、組成物を着色するように、ベースコーティング組成物Bおよび/または透明トップコーティング組成物T中に添加されうる。透明トップコーティングは透明または半透明膜でありうる。好ましくは、多官能性トップコーティングは透明である。
【0062】
溶媒、殺生物剤、湿潤剤、保湿剤、界面活性剤、中和剤、緩衝剤、凍結融解添加剤、消泡剤、増粘剤などをはじめとする他の物質が場合によってはアジュバント中に含まれる。
【0063】
さらに、例えば、離れた場所での使用のために、組成物BおよびTの全固形分を所望の範囲に低減させるためなど、希釈用の水が添加されうる。よって、水性組成物は、例えば、界面活性剤、流動剤、または湿潤剤を含み、例えば、水性組成物の全重量を基準にして80〜90重量%の高さの固形分量を有する水性組成物のような、任意の安定な濃縮形態で運ばれうる。
【0064】
ベースコーティング組成物BがTiOを含まないで、好ましくは金属酸化物を含まないで、より好ましくは無機顔料を含まないで、基体の遮蔽が空気ボイドによって提供されることが必須である。
【0065】
良好な遮蔽を提供するベースコーティングの好適な乾燥膜厚は2mil以上、好ましくは3mil以上、より好ましくは4mil以上の範囲であることができる。多官能性トップコーティングの好適な乾燥膜厚は1mil以上、好ましくは2mil以上の範囲であることができる。
【0066】
基体は裸の基体またはあらかじめ塗装された基体であることができ、例えば、これに限定されないが、裸のまたはあらかじめ塗装されたセメント、セラミック、タイル、塗装物、ガラス、プラスチック、木材、金属、織物および不織布、並びに紙などであることができる。
【0067】
本発明の実施形態においては、多層コーティングシステムを使用する方法はベースコーティングおよび多官能性トップコーティング組成物を形成し、1以上の裸のまたはあらかじめ塗装された基体にベースコーティング組成物を適用し、ベースコーティング組成物を乾燥させ、場合によっては硬化させ、次いで、多官能性トップコーティング組成物を、ベースコーティングの上に適用し、多官能性トップコーティング組成物乾燥させ、場合によって硬化させることを含む。乾燥は、例えば、空気乾燥、または基体およびコーティングを損傷させないであろう温度、例えば、150℃以下、または100℃以下での加熱乾燥のような既知の方法で行われうる。
【0068】
ベースコーティング組成物Bおよび多官能性トップコーティング組成物Tは、例えば、エアアトマイズドスプレー、エアアシストスプレー、エアレススプレー、高体積低圧スプレー、およびエアアシストエアレススプレーのような噴霧方法によって、ロールコーティングまたはナイフコーティングによって、建築または産業用基体に適用されうる。
【0069】
本発明の鍵となる利点は少なくとも1つのベースコーティングおよび少なくとも1つの透明トップコーティングを含むコーティングシステムが、TiOを含まないコーティング組成物からもたらされることである。コーティングされた表面の遮蔽は、ベースコーティング膜中の空気ボイドによって提供される。トップコーティングは、低光沢、柔軟な触感、耐つや出し性、透明性、容易な清浄化機能、良好な洗浄可能性、耐ダートピックアップ性および耐溶媒性を含む表面特性の独特の組み合わせを提供する。
【0070】
本発明においては、他に示されない限りは、各好ましい技術的解決策およびより好ましい技術的解決策における技術的特徴は互いに組み合わせられることができ、新たな技術的解決策を形成することができる。簡単に言うと、出願人は、これらの組み合わせについての説明を省略する。しかし、これらの技術的特徴を組み合わせることにより得られる全ての技術的解決策は、明確な様式で本明細書に文字通り記載されているとみなされるべきである。
【0071】
実施例
以下の実施例において、略語は以下のような所定の意味を有する:
EA=アクリル酸エチル;BA=アクリル酸ブチル;AN=アクリロニトリル;AA=アクリル酸;EHA=アクリル酸2−エチルヘキシル;AAEM=メタクリル酸2−アセトアセチルエチル;ALMA=メタクリル酸アリル;DVB=ジビニルベンゼン;MMA=メタクリル酸メチル;BMA=メタクリル酸ブチル;t−BA=アクリル酸t−ブチル;STY=スチレン;w./o.=なしで。
【0072】
【表1】

【0073】
試験方法
光沢決定:表面光沢はMICRO−TRI商標光沢計を用いて、60および85度の位置で乾燥コーティング表面の光沢を測定することによって決定された。
不透明度決定:カラー分光光度計(カラーガイド球体分光光度計、BYKガードナー)によって、乾燥膜のコントラスト比が決定された。
耐汚れ性:複数のコーティングシステムの汚れ性能を試験するために、黒色ビニルチャートP−121−10N(レネタ(Leneta))が、ベースコーティング組成物によってコーティングされ、次いで、恒温室内(CTR、25℃、50%R.H.)でそれを1日間乾燥させた。次いで、ベースコーティングの半分の領域が多官能性トップコーティング組成物でコーティングされ、次いで、CTR内でそれをさらに6日間乾燥させた。最低で4つの疎水性および4つの親水性の汚れが使用された。口紅、鉛筆、ボールペン、クレヨン、油性マジックのような疎水性の汚れが、これらの汚れを押し付け動かすことにより、ベースコーティングおよびトップコーティングセクションにわたってサンプル表面上に適用された。赤ワイン、コーヒー、黒色茶、緑茶、醤油およびインクはじめとする親水性汚れが、対応する汚れで飽和されたチーズクロスを、ベースコーティングおよびトップコーティングセクションにわたってサンプル表面上に置き、それをサンプル表面上に2時間おいておくことにより適用された。汚れ試験の前に、過剰な液体汚れはペーパータオルまたはチーズクロスでぬぐい取られた。汚れ除去試験は、1%家庭用洗剤溶液で飽和された3M商標市販スポンジで満たされたボートを備えた、改変されたスクラブ装置上で行われた。1KGの重りがそのボート上に配置され、全てのサンプルが同じ圧力下で試験されることを確実にした。各サンプルは100サイクル間洗浄された。読み取りの前に、サンプルチャートは通常の水ですすがれ、次いで室温で完全に乾燥させた。汚れ性能は表2において記載される標準に従って目視でランク付けすることによって評価された。
従来のTiO含有コーティングの汚れ試験を行う場合には、従来のTiO含有コーティングをベースコーティングとして使用した。
【0074】
【表2】

【0075】
耐つや出し性:耐つや出し性は機械式洗浄によるコーティング表面の光沢変化によって評価された。耐つや出し性試験のためのコーティングは、3milバードアプリケーションを用いて、試験塗料をフォームP−121−10N黒色ビニルレネタチャート上にキャスティングし、次いで、CTR内で一週間乾燥させることによって得られた。機械式洗浄は、汚れを使用することなく前記汚れ試験装置を用いて行われた。コーティング表面は200サイクルの間洗浄され、次いですすがれ、室温で乾燥させられた。表面光沢は洗浄の前および後で測定された。より小さな光沢変化はより良好な耐つや出し性を示す。
【0076】
耐ダートピックアップ性(DPUR):DPUR試験サンプルは120μm湿潤膜厚を有するベースコーティング組成物を、アスベストパネル上に、ローラーを用いて適用し、CTR内で4時間の間乾燥させ、次いで、同じローラーを用いて別の80μmの湿潤膜厚のベースコーティングをキャスティングし、CTR内で一晩乾燥させた。ブラシまたはローラーを用いて100μm湿潤膜厚をキャスティングすることにより、多官能性トップコーティング組成物が乾燥ベースコーティング表面上に適用され、CTR内で6日間乾燥させた。チャイナナショナルスタンダードに従った合成灰が特定の比率で脱イオン水と混合され、加速DPUR試験のための汚染源(灰スラリー)を製造した。この灰スラリーは準備されたアスベストパネルの表面上に、ブラシを用いて適用され、サンプルはCTR内で2時間乾燥させられ、その後、1分間水ですすがれた。このプロセスが5サイクル繰り返された後で、表面反射率を測定した。DPURは、DPUR試験の前および後での反射率の変化によって特徴づけられた。結果は1〜5の異なる水準にランク付けされた。5は最良であり、1は最悪である。
【0077】
柔軟触感決定:柔軟触感特性は、さわった手の感覚によってYまたはNでランク付けして決定された。Yは柔軟な触感の特性を有することを意味し、一方Nは柔軟な触感の特性を有していないことを意味する。
【0078】
耐湿潤スクラブ性:ASTM試験方法D2486−74Aの改変されたバージョンを使用して、塗料の耐スクラブ性が決定された。標準のASTM方法と比較して、ここで使用された試験方法に4つの改変があった。第1に、塗料のためのスクラブ媒体が0.5重量%の家庭用洗剤溶液であり、ASTM試験方法D2486−74Aにおける研磨スクラブ媒体を置き換えた。第2に、コーティング膜がビニルチャート上に、長手方向に対して垂直に置かれた。第3に、スクラブ装置のアルミニウム金属板上にシムが存在しなかった。最後の相違は、試験ブラシの毛を作成するために使用された物質であった。ここで使用されたブラシは、ナイロン繊維ではなく、ブタの毛から造られていた。各ビニルチャート上に4つのコーティングが適用され、常に、同じ塗料に由来するもののうちのひとつを対照とし、そしてその他の3つをサンプルとして、対照とサンプルとの間の相対的な評定が決定されうる。所定の塗料について、4つのコーティング標本が作成され、この4つの標本の結果を平均することによって最終評定が得られた。このコーティングは、スクラブ試験前に、25℃の温度で50%の湿度の恒温室内で7日間乾燥させられた。
【0079】
耐溶媒性:耐溶媒性についてのコーティングは、7milバードアプリケーションを用いてフォームP−121−10N黒色ビニルレネタチャート上に試験塗料をキャスティングし、CTR内で7日間乾燥させることによって得られた。エタノールで飽和したチーズクロスが使用されて、試験される膜の表面を、特定の圧力を加えつつ50サイクル擦った。耐溶媒性はチャート上に残った膜のパーセンテージを評価することによって決定された。結果は目視で、1〜5の異なる水準にランク付けされた。5が最良であり、1が最悪である。
【0080】
実施例1
この実施例は、本発明の好ましいダラーであるコア/シェル粒子製造において使用するためのエマルションポリマーの調製を示した。他に示されない限りは、用語「入れる」または「添加」は混合物の全ての1回での添加を示す。次の混合物が調製された:
【0081】
【表3】

【0082】
攪拌機および凝縮器を備え、窒素でブランケットされた反応器に混合物Aを入れて、82℃に加熱した。反応器内容物に15%の混合物Bおよび25%の混合物Cを添加した。温度は82℃に維持され、反応混合物は1時間攪拌され、その後、残りの混合物Bおよび混合物Cを反応器に、90分間にわたって、攪拌しつつ、計り入れた。攪拌が82℃で2時間続けられ、その後で反応器内容物は室温まで冷却された。得られたエマルション粒子の平均直径は、ニューヨーク州、11742、ホルツビル、ブルーポイントロード750のブルックハーベンインスツルメンツカンパニーからのBI−90PLUS商標装置を用いて光散乱によって測定して、0.2μmであった。
【0083】
実施例2
この実施例においては、実施例1のエマルション中の粒子が、BAおよびSTYのエマルションを使用して0.5μmの平均直径まで成長させられた。次の混合物が調製された:
【0084】
【表4】

【0085】
混合物Aは実施例1の反応器に入れられ、攪拌しつつ88℃に加熱された。混合物B、CおよびDは3時間にわたって反応器に計り入れられ、その後、攪拌しつつその温度は90分間88℃に維持された。この反応器内容物は65℃に冷却され、混合物EおよびFが添加され、攪拌しつつ1時間の間、反応器内容物が65℃に維持され、その後、反応器内容物は室温に冷却された。得られたエマルションポリマー粒子は、BI−90PLUS商標装置を用いる光散乱によって測定して、0.5μmの平均直径を有していた。
【0086】
実施例3および4
以下の実施例3および4のそれぞれにおいて、攪拌機および凝縮器を備え、窒素でブランケットされた反応器に混合物Aを入れて、92℃に加熱した。混合物BおよびCは、安定なエマルションが得られるまで(0.8〜3分間)、ハンドヘルド高剪断ミキサーを用いて別々に乳化された。混合物Bは、次いでゆっくりと、1時間にわたって反応器に供給された。反応器内容物を64℃に維持しつつ、混合物Cが1ショットで添加され、反応を開始させ、反応は約1.5時間後に完了した。次いで、適用可能である場合には、混合物D、EおよびFは別々に、90分間にわたって反応器内に計り入れられた。得られた混合物は室温まで冷却され、光学顕微鏡およびコールターカウンターによって検討することによって分析された。得られた混合物は室温まで冷却され、光学顕微鏡およびコールターカウンターによって分析された。
【0087】
実施例3:5μm架橋BA粒子
この例は、0.5μmの平均直径エマルションシード粒子を成長させて5μmの平均直径の粒子にすることを示す。
以下の混合物が調製され、上述のように処理された。
【0088】
【表5】

【0089】
ほとんどの粒子は均一なサイズであり、ほぼ5μmの平均直径であった。これらのうちの幾分かは1〜20μmの範囲内にあった。
【0090】
実施例4:6μmの平均サイズのコア−シェル粒子ダラー
この例は、実施例3のコアポリマー上にメタクリル酸メチルおよびアクリル酸エチルの外側シェルを重合するためのワンポットプロセスを示す。
以下の混合物が調製され、上述のように処理された。
【0091】
【表6】

【0092】
得られる粒子のほとんどは均一なサイズであり、約6μmの平均直径であった。これらのうちの幾分かは1〜20μmの範囲内にあった。
【0093】
実施例5:ベースコーティング組成物の製造
以下の表に示された成分が従来のラボミキサーを用いて添加された。
【0094】
【表7】

【0095】
実施例6:多官能性トップコーティング組成物の製造
以下の表に示された成分(レットダウン)が従来のラボミキサーを用いて攪拌しつつ添加された。
【0096】
【表8】

【0097】
実施例7:TiOを含む従来の塗料
以下の手順を用いて塗料が製造された。表9に示された成分(グラインド)は高速カウレス分散装置を用いて混合された。同じ表に示された成分(レットダウン)が従来のラボミキサーを用いて攪拌しつつ添加された。塗料10は以下のように配合された:
【0098】
【表9】

【0099】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に光学的外観を提供するベースコーティングの層と、表面保護および機械的特性を提供する透明トップコーティングの層とを含む多層コーティングシステムであって;
多層コーティングシステムはTiOを含まず、
ベースコーティングは水性コーティング組成物Bから得られ、水性コーティング組成物Bは、
コポリマーa)粒子あたり少なくとも1つのボイドを有する不透明(コ)ポリマーa)を、組成物Bの全乾燥重量を基準にした乾燥重量パーセンテージで18%〜55%、および
前記(コ)ポリマーa)と適合性の膜形成性(コ)ポリマーb)を、組成物Bの全乾燥重量を基準にした乾燥重量パーセンテージで45%〜82%含み、
透明トップコーティングは水性コーティング組成物Tから得られ、水性コーティング組成物Tは、
多段階(コ)ポリマー、単一段階架橋(コ)ポリマー、およびこれらの混合物から選択されるダラー(コ)ポリマーc)を、組成物Tの全乾燥重量を基準にした乾燥重量パーセンテージで20%〜85%、ここで、前記(コ)ポリマーc)は1〜20μmの平均粒子サイズを有しかつ−60℃〜75℃のTgを有する、および
前記(コ)ポリマーc)と適合性の膜形成性(コ)ポリマーd)を、組成物Tの全乾燥重量を基準にした乾燥重量パーセンテージで15%〜80%含む;
多層コーティングシステム。
【請求項2】
多層コーティングシステムが金属酸化物を含まない、請求項1に記載の多層コーティングシステム。
【請求項3】
多層コーティングシステムが無機顔料を含まない、請求項2に記載の多層コーティングシステム。
【請求項4】
組成物Bの全乾燥重量を基準にした乾燥重量パーセンテージで、(コ)ポリマーa)の量が26%〜44%であり、かつ(コ)ポリマーb)の量が56%〜74%である、請求項1に記載の多層コーティングシステム。
【請求項5】
組成物Bの全乾燥重量を基準にした乾燥重量パーセンテージで、(コ)ポリマーa)の量が30%〜40%であり、かつ(コ)ポリマーb)の量が60%〜70%である、請求項4に記載の多層コーティングシステム。
【請求項6】
組成物Tの全乾燥重量を基準にした乾燥重量パーセンテージで、(コ)ポリマーc)の量が20〜65重量%であり、かつ(コ)ポリマーd)の量が35〜80%である、請求項1に記載の多層コーティングシステム。
【請求項7】
組成物Tの全乾燥重量を基準にした乾燥重量パーセンテージで、ダラー(コ)ポリマーc)の量が65〜85重量%であり、かつバインダー(コ)ポリマーd)の量が15〜35%である、請求項1に記載の多層コーティングシステム。
【請求項8】
(コ)ポリマーb)および(コ)ポリマーd)が単一段階アクリルコポリマーを含み、および/または(コ)ポリマーa)が多段階アクリルコポリマーを含む、請求項1に記載のコーティングシステム。
【請求項9】
i)水性コーティング組成物Bを裸のまたは下塗りされた基体上に適用し、乾燥させて、前記ベースコーティングを形成させる工程;および
ii)ベースコーティングでコーティングされた前記基体上に水性コーティング組成物Tを適用し、乾燥させて前記透明トップコーティングを形成させる工程;を含む、請求項1のTiOを含まない多層コーティングシステムを適用する方法。
【請求項10】
請求項9の方法により製造されたコーティングされた基体。

【公開番号】特開2011−143713(P2011−143713A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−271844(P2010−271844)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】