説明

二酸化炭素回収方法および装置

【課題】 ボイラおよび蒸気タービンを備えた発電プラントから排出される被処理気体から、低エネルギーで二酸化炭素の脱離回収を行う二酸化炭素回収方法および装置を提供する。
【解決手段】
二酸化炭素回収装置20に設けた二酸化炭素吸着材をそれぞれ収納した2つの吸着材充填槽21および31において交互に、ボイラ3から排出された燃焼排ガスに含まれる二酸化炭素の吸着および脱離を行う。二酸化炭素の脱離に際しては、発電プラント1の蒸気タービン4の出口から排出されて凝縮器6に入る前の水蒸気の一部を分岐させて蒸気圧縮機37に送り、ここで圧縮・昇温した後、冷却器29に送る。冷却器29では圧縮・昇温後の水蒸気を冷却することにより、脱離用水蒸気を調製する。冷却器29で調製した水蒸気は、二酸化炭素の脱離のために吸着材充填槽21又は31に供給する。これにより、凝縮器6に入る前の廃蒸気を脱離用水蒸気の調製に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素回収方法及び装置に関し、より詳細には、ボイラおよび蒸気タービンを備えた発電プラントから排出される二酸化炭素を含有する被処理気体から、二酸化炭素を低エネルギーで回収し得る二酸化炭素回収方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化ガスとして知られる二酸化炭素の排出量削減は、地球的規模の課題であり、太陽エネルギー、風力、地熱などの開発が行われる一方で、石炭等の化石燃料使用時に排出される燃焼排ガス中の二酸化炭素を分離回収して地中等に蓄積する技術の開発や実証試験が国際的に進められている。特に、火力発電プラントなど、大量に二酸化炭素を放出する設備については、大規模な二酸化炭素分離回収技術の開発が必要とされている。
【0003】
このような火力発電プラントなどにおいては、アミン化合物を用いて二酸化炭素を選択吸収することにより、排ガス中の二酸化炭素を分離回収する技術が検討されている。この回収技術では、アミン化合物から二酸化炭素を分離回収する際に熱源を必要としている。この二酸化炭素分離回収の際の熱源として、火力発電プラントのボイラから発生する水蒸気を利用することがこれまで検討されている(特許文献2)。
【0004】
図6は、発電プラントとこれに併設される従来の二酸化炭素分離回収装置とを概略的に示している。図6に示すように、発電プラント1では、ボイラ3により発生させた水蒸気を蒸気タービン4に導いて発電機5を回すことにより電力を発生させ、蒸気タービン4で仕事を終えた水蒸気は、凝縮器(復水器)6で凝縮された後、再びボイラ3に戻される。一方、ボイラ3からの燃焼排ガスは、冷却後二酸化炭素分離回収装置2の吸収槽7の下部から供給され、ここで二酸化炭素を回収するための二酸化炭素吸収材であるモノエタノールアミンなどのアミン系水溶液と、例えば40℃で接触することになる。二酸化炭素の回収を終えた燃焼排ガスは、吸収槽7の上部から煙突11に送られた後、大気中に排出される。一方、二酸化炭素を吸収したアミン系水溶液は再生槽8に送られ、この再生槽8でアミン系水溶液から二酸化炭素が脱離回収される。二酸化炭素の脱離回収は、アミン系水溶液を120℃まで加熱することにより行われる。その際、加熱源として、矢印12に示すように、発電プラント1の蒸気タービン4から抽気した120℃以上の高温の水蒸気が使用される。蒸気タービン4から抽気した高温水蒸気は熱交換器9に供給され、熱交換により生成した加熱媒体によりアミン系水溶液からの二酸化炭素の脱離回収が再生槽8で行われる。
【0005】
このような従来の二酸化炭素分離回収装置2では、二酸化炭素の脱離に2.5〜4.0GJ/CO2トン当りといった大きな熱量を必要とすることが知られている(非特許文献1)。このような大きな熱量の水蒸気を蒸気タービン4から抽気すると、発電プラント1における発電量が低減するという問題が生じる。
【0006】
ボイラ3で発生し蒸気タービン4の最終段で膨張した後の出口蒸気は低温低圧となるが、この低温低圧の水蒸気は、未だ潜在的に熱エネルギーを有しているものの、実際には何らの仕事をすることなく凝縮器で水に戻される。従って、この低温低圧の水蒸気は、ボイラ系統外に取り出して圧縮昇温すれば有効利用し得るものである。しかし、実際には下流の凝縮器6で潜熱を放出して液体(水)に戻されており、この低温低圧の水蒸気の有効利用が望まれている。図6に示す従来の二酸化炭素分離回収装置2では、二酸化炭素の捕獲媒体としてアミン系水溶液を用いているが、同様の問題は、アミン化合物を固体粒子に担持させた吸着材を用いる二酸化炭素分離装置(特許文献1)においても生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2011/013332号
【特許文献2】特開2007−61777号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】平成19年度、二酸化炭素固定化・有効利用技術等対策事業、「低品位廃熱を利用する二酸化炭素分離回収技術開発」成果報告書、平成20年3月、p.21、(財)地球環境産業技術研究機構
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来技術の問題点を解決するものであり、本発明の目的は、ボイラおよび蒸気タービンを備えた発電プラントから排出される二酸化炭素を含有する被処理気体から、低エネルギーで二酸化炭素の脱離回収を行うことができる二酸化炭素回収方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の二酸化炭素回収方法は、ボイラおよび蒸気タービンを備えた発電プラントから排出される二酸化炭素を含有する被処理気体から、二酸化炭素吸着材を用いて二酸化炭素の吸着および脱離を行う二酸化炭素回収方法であって、前記二酸化炭素吸着材を用いて被処理気体から二酸化炭素を吸着する吸着工程と、二酸化炭素を吸着した前記二酸化炭素吸着材から脱離用水蒸気を用いて二酸化炭素を脱離させる脱離工程とを包含し、前記脱離用水蒸気は、蒸気タービン出口から排出される出口蒸気の一部から調製されることを特徴としている。
【0011】
また、本発明の二酸化炭素回収装置は、ボイラおよび蒸気タービンを備えた発電プラントから排出される二酸化炭素を含有する被処理気体から、二酸化炭素吸着材を用いて二酸化炭素の吸着および脱離を行う二酸化炭素回収装置であって、前記二酸化炭素吸着材を充填した少なくとも1つの吸着材充填槽と、前記吸着材充填槽に二酸化炭素を含有する被処理気体を供給することにより前記二酸化炭素吸着材に二酸化炭素を吸着させる被処理気体供給手段と、二酸化炭素を脱離させるための脱離用水蒸気を調製する脱離用水蒸気調製手段と、前記吸着材充填槽に脱離用水蒸気を供給することにより前記二酸化炭素吸着材から二酸化炭素を脱離させる脱離用水蒸気供給手段とを有し、前記脱離用水蒸気調製手段は、蒸気タービン出口から排出される出口蒸気の一部から脱離用水蒸気を調製することを特徴としている。
【0012】
このように、上記二酸化炭素回収方法および装置では、蒸気タービン出口から排出される出口蒸気の一部から脱離用水蒸気が調製されるので、発電プラントの発電量を低減させることなく、二酸化炭素の脱離回収を行うことが可能となる。
【0013】
ここで、上記の二酸化炭素の脱離は、負圧下で行うことが好ましい。蒸気タービン出口から排出される出口蒸気は通常は低温低圧であるからである。
【0014】
また、上記二酸化炭素回収方法および装置において、蒸気タービン出口から排出される出口蒸気の前記一部を圧縮・昇温させて、この圧縮・昇温工程後の水蒸気を用いて前記脱離用水蒸気が調製されるように構成することができる。その場合、前記圧縮・昇温工程後の水蒸気を用いて調製される前記脱離用水蒸気は、7〜70kPaの飽和蒸気であることが好ましい。このように蒸気タービン出口から排出される出口蒸気の一部を圧縮・昇温させることにより、脱離用水蒸気の調製に適した温度の水蒸気を得ることができる。
【0015】
ここで、前記脱離用水蒸気は、前記圧縮・昇温工程後の水蒸気との熱交換により水から調製することができる。この構成では、熱交換後の水蒸気又は水を発電プラントに戻すことにより、発電プラントに悪影響を与えることなく二酸化炭素の脱離回収を行うことが可能となる。
【0016】
また、前記脱離用水蒸気は、前記圧縮・昇温工程後の水蒸気に注水することにより調製することができる。この場合には熱交換が不要となり、二酸化炭素回収装置の簡略化を図ることができる。
【0017】
また、上記二酸化炭素回収方法および装置において、前記二酸化炭素吸着材がアミン担持吸着剤からなる場合、前記脱離用水蒸気を前記二酸化炭素吸着材の一端から他端に向けて供給し、前記二酸化炭素吸着材の前記他端が所定温度に到達したときに、前記脱離用水蒸気の供給を停止するように構成することができる。これにより、脱離用水蒸気を無駄なく有効に利用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の二酸化炭素回収方法および装置を使用することにより、従来では使用されずに廃棄されていた蒸気タービンの出口蒸気に含まれる熱量を二酸化炭素の脱離回収のための熱源として利用できるので、発電プラントの発電量を低減させることなく、二酸化炭素の脱離回収を行うことが可能となる。また、蒸気タービン出口からの出口蒸気を圧縮昇温して利用することにより、必要な圧縮エネルギーに対して得られる蒸気エネルギー(CO2脱離回収に利用できるエネルギー)を大きくすることができる。更には、発電プラントの蒸気タービン出口から排出される出口蒸気を凝縮させるための凝縮器(復水器)の凝縮負荷も軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る二酸化炭素回収装置および発電プラントの概略構成図である。
【図2】図1の二酸化炭素回収装置における冷却器として熱交換器を用いた場合のエネルギー収支を表す略図である。
【図3】図1の二酸化炭素回収装置における冷却器として減温注水器を用いた場合のエネルギー収支を表す略図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る二酸化炭素回収装置および発電プラントの概略構成図である。
【図5】アミン担持吸着剤からなる二酸化炭素吸着材に水蒸気を供給した場合に二酸化炭素の脱離を生じている部分が移動する様子を表す説明図である。
【図6】発電プラントと、これに併設される従来の二酸化炭素回収装置とを示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら以下に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。図1は本発明の一実施例に係る二酸化炭素回収装置20と、発電プラント1との概略構成を示している。発電プラント1は、石炭等の化石燃料を燃焼させて水蒸気を発生させるボイラ3と、ボイラ3で発生した水蒸気を用いて発電機5を回すための蒸気タービン4と、蒸気タービン4を回し終えた後の水蒸気を凝縮するための凝縮器(復水器)6とを備えている。凝縮器6で凝縮されて液化した水は、再びボイラ3に戻される。また、凝縮器6には、凝縮器6と冷却塔13との間を循環する冷却水が供給されている。
【0021】
本実施形態の二酸化炭素回収装置20は、発電プラント1のボイラ3で発生した燃焼排ガスから二酸化炭素を吸着した後、これを脱離回収するものであり、二酸化炭素の吸着および脱離を行うための二酸化炭素吸着材をそれぞれ収納した2つの吸着材充填槽21および31を備えている。発電プラント1のボイラ3から排出された燃焼排ガスは、脱硫および除塵された後、冷却器38で約40℃に冷却される。冷却後の燃焼排ガスは、2つの吸着材充填槽21および31の何れかに供給されて二酸化炭素の吸着が行われる。本実施形態においては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等のアミン化合物を活性炭等に担持させたものを二酸化炭素吸着材として用いている。
【0022】
一方の吸着材充填槽21と冷却器38とを接続するラインには、冷却器38から送られる燃焼排ガスの供給をオンオフするバルブ22が設けられ、吸着材充填槽21の上部には、二酸化炭素の吸着を行う際に二酸化炭素の吸着を終えた燃焼排ガスを排気するためのバルブ23が設けられている。また、吸着材充填槽21の上部には、二酸化炭素の脱離を行う際に脱離した二酸化炭素を回収するためのバルブ25が設けられている。同様に、もう一方の吸着材充填槽31と冷却器38とを接続するラインには、冷却器38から送られる燃焼排ガスの供給をオンオフするバルブ32が設けられ、吸着材充填槽31の上部には、二酸化炭素の吸着を行う際に二酸化炭素の吸着を終えた燃焼排ガスを排気するためのバルブ33が設けられている。また、吸着材充填槽31の上部には、二酸化炭素の脱離を行う際に脱離した二酸化炭素を回収するためのバルブ35が設けられている。更に、本実施形態では、吸着材充填槽21又は31から脱離した二酸化炭素をバルブ25又はバルブ35を介して回収するための二酸化炭素回収ポンプ27を更に備えている。
【0023】
更に、本発明の二酸化炭素回収装置20は、蒸気タービン4の出口蒸気(いわゆるタービン排気)を利用するための蒸気圧縮機37および冷却器29を備えている。即ち、本実施形態の二酸化炭素回収装置20では、発電プラント1の蒸気タービン4の出口から排出された出口蒸気の一部が、凝縮器6に入る前に分岐して二酸化炭素回収装置20に送られるように構成されている。分岐した水蒸気は、蒸気圧縮機37に送られ、ここで圧縮・昇温された後、冷却器29に送られる。冷却器29では圧縮・昇温された水蒸気を冷却することにより、脱離用水蒸気が調製される。冷却器29で調製された水蒸気は、二酸化炭素の脱離に際して前述のバルブ24又はバルブ34を介して吸着材充填槽21又は31に供給される。
【0024】
図1では、 一方の吸着材充填槽21の上下に配されたバルブ22およびバルブ23が開、もう一方の吸着材充填槽31の上下に配されたバルブ32およびバルブ33が閉となっているので、吸着材充填槽21において燃焼排ガスの二酸化炭素の吸着が行われることになる。また、吸着材充填槽21側のバルブ24および25が閉、吸着材充填槽31側のバルブ34および35が開となっているので、吸着材充填槽31において二酸化炭素の脱離が行われることになる。吸着材充填槽31において燃焼排ガスの二酸化炭素の吸着を行い、吸着材充填槽21において二酸化炭素の脱離を行う場合には、バルブ22およびバルブ23が閉、バルブ32およびバルブ33が開、バルブ24および25が開、バルブ34および35が閉となる。
【0025】
ここで、図5を参照して、アミン担持吸着剤からなる二酸化炭素吸着材に、脱離用水蒸気を供給して二酸化炭素の脱離を行う場合の二酸化炭素吸着材で見られる現象について説明する。吸着材充填槽31に充填されている二酸化炭素吸着材19の下部(一端)から脱離用水蒸気の供給が開始されると、図5(a)に示すように、二酸化炭素吸着材19の最下層に水蒸気が凝縮して温度が上昇する。これによりこの層に吸着している二酸化炭素が脱離する。更に水蒸気が継続して供給されると、水蒸気は上記最下部の少し上に位置する温度が低い層状の部分に凝縮し、この部分から二酸化炭素が脱離することになる。このように、二酸化炭素吸着材19における水蒸気が凝縮する層状の部分が順次上方に移動し、これに伴って二酸化炭素の脱離が進行する(図5(b))。脱離後の二酸化炭素は二酸化炭素吸着材19内を徐々に上方に移動し、次第にその濃度が高まり、最終的に二酸化炭素回収ポンプ27により排出される気体の二酸化炭素の濃度は、ほぼ100%となる。このように、二酸化炭素脱離が生じている層状の部分が二酸化炭素吸着材19の上部(他端)に達して所定温度に上昇すると(図5(c))、二酸化炭素の脱離量が急激に低下し、最終的に二酸化炭素回収ポンプ27から排出される気体における二酸化炭素の量は、ほぼ0となる。
【0026】
ここで、二酸化炭素の脱着熱は理論上約1.7MJ/kg_COである。一方、水蒸気の凝縮熱は、約2.3MJ/kg_蒸気であるため、_CO2を1.0kg放出するための必要水蒸気量は、以下に示すように、0.74kg_水蒸気/kg_CO2となる。
【0027】
(1.7MJ/kg_CO2)/(2.3MJ/kg_水蒸気)=
0.74kg_水蒸気/kg_CO2
即ち、これを容積に換算すると、水蒸気が1.24Nm3/kg_水蒸気に対して、CO2は0.51Nm3/kg_CO2であるため、必要水蒸気量は、以下に示すように、容積基準で1.80Nm3_水蒸気/Nm3_CO2となる。
【0028】
(0.74kg_水蒸気 X 1.24Nm3/kg_水蒸気)/(1.0kg_CO2
0.51Nm3/kg_CO2)=
1.80 Nm3_水蒸気/Nm3CO2
本実施形態では、このような二酸化炭素が脱離する際の現象に着目し、二酸化炭素吸着材19の上部(他端)が所定温度に到達したときに、脱離用水蒸気の供給を停止するように制御する制御装置(図示せず)が設けられている。このような制御装置を設けたことにより、脱離用水蒸気の無駄をなくすことができる。
【0029】
図2は、図1の冷却器29として熱交換器29aを用いた場合の二酸化炭素の回収におけるエネルギー収支を表す説明図である。図2では、二酸化炭素を1t/hで回収する場合について記載されている。図1で説明したように、蒸気タービン4の出口から凝縮器6に送られる出口蒸気のうち、一部が取り出されて蒸気圧縮機37へ送られる。凝縮器6に入る前の出口蒸気は、一般的には低温低圧の飽和蒸気であり、図2に示す例では、35℃、5.6kPaの飽和水蒸気が0.89t/hで取り出される。このような低温低圧の飽和蒸気は、従来の発電プラントでは利用されず、何ら仕事をすることなく凝縮器6で水に戻されていたものである。本実施形態では、この低温低圧の飽和蒸気は蒸気圧縮機37で圧縮されて、二酸化炭素の脱着に適した蒸気条件まで昇圧される。図2では、183℃、20kPaの過熱蒸気となるまで昇圧されている。その際に蒸気圧縮機37で必要とされる動力は69kWである。これを熱交換器29aで冷却することにより、目的とする60℃、20kPaの飽和蒸気が脱離用水蒸気として得られる。この脱離用水蒸気の供給量は0.89t/hである。この飽和蒸気は、図1に示す吸着材充填槽21又は31に供給されて二酸化炭素の脱離に使用される。更に、吸着材充填槽21又は31の内部で脱離した二酸化炭素は減圧下にあるため、常圧の気体として取り出すために二酸化炭素回収ポンプ27において45kWの動力が必要となる。
【0030】
ここで、二酸化炭素の回収動力について説明すると、上述のように、二酸化炭素脱着(再生)の水蒸気は、蒸気タービン出口の低温蒸気を圧縮して、二酸化炭素脱着に適した蒸気条件まで昇温、昇圧される。図2の例では、タービン出口の蒸気圧力は、5.6kPaであり、そのまま吸着剤に供給すれば、蒸気圧縮動力は不要である。しかし、ここで放出される二酸化炭素(100%)の圧力も5.6kPaであるため、二酸化炭素を系外に回収するためには、二酸化炭素分離回収ポンプを用いて、5.6kPaから大気圧(100kPa)まで圧縮することが必要となる。逆に、タービン出口蒸気を大気圧(100kPa)まで圧縮して吸着剤に供給すれば、放出する二酸化炭素(100%)も大気圧(100kPa)であるため、二酸化炭素分離回収ポンプを用いることなくそのまま回収できることになる。また、再生温度(圧力)が5.6kPaと大気圧(100kPa)の中間にある場合、図2の例のように2種類の昇圧装置(蒸気圧縮機37及び二酸化炭素回収ポンプ27)を使用する。気体の圧縮動力は、その容積に比例するが、上述のように、水蒸気量と二酸化炭素量の関係から、水蒸気は容積比で二酸化炭素の1.8倍必要とする。そのため、同じ量の二酸化炭素を回収するためには、水蒸気を圧縮して使用するより、二酸化炭素を圧縮する方がエネルギー消費量は少なくなる。
【0031】
また、適正な再生温度(=回収蒸気の温度、圧力)について説明すると、二酸化炭素が吸着剤に吸着されるときに発生する吸着熱によって吸着剤の温度は上昇し、その程度は二酸化炭素の濃度に比例するが、火力発電所等の燃焼排ガスの二酸化炭素濃度は10〜15%であり、その場合に吸着剤の温度は50〜60℃に達する。二酸化炭素の脱着は、二酸化炭素の吸着直後に行うため、再生温度は吸着温度に近いほど消費熱量が小さくなる。たとえば、吸着後の温度が60℃に対して、蒸気温度が80℃である場合、吸着剤を20℃昇温させるエネルギーが必要であり、エネルギー効率が低下する。逆に、蒸気温度が40℃である場合、再生プロセスで蒸気が凝縮せずに吸着剤層をすり抜け、エネルギー効率が低下する。吸着後の吸着剤温度は、上述のように排ガス温度や二酸化炭素の濃度によって左右され、適用するプラントによって変動することから、一概には言えないが、本発明における再生温度の範囲は、COPが高くなる40℃〜90℃とするのが好ましく、50〜70℃とするのがより好ましく、最適の温度は約60℃である。
【0032】
図3は、図2における熱交換器29aに代えて減温注水器29bを使用した場合の二酸化炭素の回収におけるエネルギー収支を表す説明図である。図3においても、二酸化炭素を1t/hで回収する場合について記載されている。減温注水器29bは、蒸気圧縮機37で圧縮昇温された過熱蒸気に常温の水を注水して所定の温度の飽和蒸気を生成するものである。減温注水器29bを使用する場合、最終的に得られる60℃の飽和蒸気は、蒸気圧縮機37で圧縮昇温された過熱蒸気と、減温注水器29bにおいて注水される水との両方から調製されるため、蒸気タービン4から取り出される水蒸気の量は、図2の場合の0.89t/hより少なく、0.81t/hと少なくなっており、その差0.08t/hが減温注水器29bにおける注水量となっている。従って、蒸気圧縮機37における圧縮機動力も図2の場合の69kWより少なく、63kWとなっている。図3の場合も、蒸気圧縮機37で圧縮した後は、183℃、20kPaの過熱蒸気となる。減温注水器29bにおいてこの過熱蒸気に注水することにより、図2と同様に60℃、20kPaの飽和蒸気が脱離用水蒸気として得られその供給量も、図2と同様の0.89t/hである。脱離した二酸化炭素を減圧下にある吸着材充填槽21又は31から常圧の気体として取り出すための二酸化炭素回収ポンプ27における動力も、図2の場合と同様に45kWである。
【0033】
上記では二酸化炭素の脱離用水蒸気として、60℃、20kPaの飽和蒸気を使用したが、脱離用水蒸気としての飽和蒸気の温度および圧力を変化させると、COP(熱回収率)は変化すると考えられる。表1は、脱離用水蒸気の温度および圧力を変化させた場合に、COPがどのように変化するかを示している。表1における第1行目には、得るべき脱離用水蒸気(飽和蒸気)の温度が記載され、第2行目の「回収ポンプ動力」は二酸化炭素回収ポンプ27における動力を表している。また、第3行目の「蒸気圧縮動力」は蒸気圧縮機37における動力を表し、「回収ポンプ動力」と「蒸気圧縮動力」との合計が「必要動力」の欄に熱量換算後の数値とともに記載されている。第4行目の「使用蒸気流量」は蒸気タービン4から蒸気圧縮機37に導かれる飽和蒸気の流量であり、第5行目の「注水蒸気流量」は減温注水器29bにおいて注水される水の流量である。従って、第6行目の「脱離用水蒸気流量」は、「使用蒸気流量」と「注水蒸気流量」との合計である。最下行の「COP」は、加えた動力(蒸気圧縮機37および二酸化炭素回収ポンプ27の動力)に対して、どれくらいの脱離用水蒸気を得ることができるかを表している。表1における「脱離用水蒸気温度」が60℃の場合が図3に相当し、図3の場合のCOPは2.2となっている。
【0034】
表1から、脱離用水蒸気の温度が低くなるとCOPは高くなることが分かる。しかし、低温では二酸化炭素の脱離速度が小さくなる傾向があるので、温度を下げ過ぎることは好ましくない。また、脱離用水蒸気の温度が高くなるとCOPは小さくなり、脱離用水蒸気を得るのに大きなエネルギーが必要となることが分かる。また、脱離用水蒸気の温度が高くなるとアミンの劣化が起こりやすくなるので好ましくない。特に、130℃ではCOPは1となり、水蒸気を有効に利用しているとは言えなくなる。表1の結果から、脱離用水蒸気の温度は、40〜90℃の範囲(7〜70kPaの飽和蒸気)であることが好ましく、50〜70℃の範囲(12〜30kPaの飽和蒸気)であることがより好ましい。
【0035】
【表1】

【0036】
このように、図2および図3に示す実施形態においては、従来の発電プラント1では利用されていなかった凝縮器6に入る前の廃蒸気を比較的低い圧縮比で圧縮昇温して利用しているため、たとえ蒸気圧縮機37および二酸化炭素回収ポンプ27により動力を費やしたとしても、従来より低いエネルギーで二酸化炭素を脱離・回収することが可能となっている。また、発電プラント1の凝縮器6における凝縮負荷も低減され、冷却塔13における冷却水量も低減される。
【0037】
表2は、従来の二酸化炭素回収装置と本発明の二酸化炭素回収装置とにおける二酸化炭素の分離回収に要する熱量の比較を示している。前述の非特許文献1に記載されている従来技術(MEA吸収法)では、主動力は不要ではあるが発電用の水蒸気の一部を抽気しているため、蒸気エネルギーの損失が大きいことが分かる。また、新吸収液の開発によって蒸気消費量は改善される可能性もあるが、やはり発電用の水蒸気の一部を抽気しているため、蒸気エネルギーの損失は小さくならないことが分かる。これに対して、本実施形態の二酸化炭素回収装置では、蒸気タービン4を出て凝縮器6に入る前のこれまで利用されていなかった水蒸気を脱離用水蒸気の調製に使用しているため、60℃まで圧縮昇温の動力を必要としているにも拘わらず、大きなエネルギー削減を達成していることが分かる。
【0038】
【表2】

【0039】
図4は本発明の他の実施形態に係る二酸化炭素回収装置40と、発電プラント1の概略構成を示している。本実施形態は、冷却器29に代えて蒸気発生器39が使用されている点と、蒸気発生器39で生ずる凝縮器6に戻すためのドレンライン36が設けられている点とが前述の図1の実施形態とは異なっており、それ以外の点については図1の実施形態と同様である。従って、図4における図1に対応する構成要素には、図1と同じ符号が付されている。
【0040】
本実施形態では、蒸気タービン4を出て凝縮器6に入る前の飽和蒸気は、図1の実施形態と同様に蒸気圧縮機37で圧縮することにより過熱蒸気を得ている。この過熱蒸気は、次に蒸気発生器39に熱媒体として導かれ、熱交換により水から60℃の飽和蒸気である脱離用水蒸気が調製される。この脱離用水蒸気は、前述の図1の実施形態と同様に、吸着材充填槽21又は31に供給されて二酸化炭素の脱離に使用される。脱離用水蒸気の調製に使用された過熱蒸気は、温度が低下して最終的にはドレンとしてドレンライン36を介して凝縮器6に戻される。
【0041】
本実施形態では、凝縮器6に入る前に蒸気圧縮機37に送られた飽和蒸気は、脱離用水蒸気の調製に使用された後、全てドレンライン36を介して凝縮器6に戻されるため、発電プラント1に全く悪影響を与えることなく二酸化炭素の脱離回収を行うことが可能となっている。逆に、ドレンライン38を介して発電プラント1の凝縮器6に戻される水は既に熱を失っているため、凝縮器6における凝縮負荷も低減され、冷却塔13における冷却水量も低減される。また、本実施形態においても、従来の発電プラント1では利用されていなかった凝縮器6に入る前の蒸気タービン4の出口蒸気を比較的低い圧縮比で圧縮昇温して利用しているため、たとえ蒸気圧縮機37および二酸化炭素回収ポンプ27により動力を費やしたとしても、従来より低いエネルギーで二酸化炭素を脱離・回収することが可能となっている。
【0042】
なお、上記各実施形態では、二酸化炭素吸着材としてアミン担持吸着剤を使用した場合を中心に説明されているが、本発明は、二酸化炭素吸着材としてアミン吸収液を使用する場合にも、同様に適用することができる。この場合、上述のように図6に示す再生槽8には吸収槽7で吸収したアミン系水溶液が送られ、再生槽8の上部から二酸化炭素が分離回収される従来の構成において、蒸気タービン出口から排出される出口蒸気の一部が凝縮器6に入る前に分岐し、これを圧縮・昇温して熱交換器9に供給するように構成される。再生槽8は、負圧下で作動させることでアミン系水溶液から二酸化炭素を分離でき、再生槽8の上部に二酸化炭素回収ポンプを設けて回収する。
【0043】
また、上記各実施形態では、2つの吸着材充填槽を備えた二酸化炭素回収装置について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、3つ以上の吸着材充填槽を備えた二酸化炭素回収装置についても適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の二酸化炭素回収方法および装置によれば、発電プラントから排出される二酸化炭素を含有する被処理気体から二酸化炭素を低エネルギーで回収し得るので、火力発電、環境保全産業等の分野で利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 発電プラント
2 二酸化炭素回収装置(アミン吸収方式)
3 ボイラ
4 蒸気タービン
5 発電機
6 凝縮器(復水器)
7 吸収槽
8 再生槽
9 熱交換器
10 熱交換器
11 煙突
12 加熱用蒸気抽気ライン
13 冷却塔
19 二酸化炭素吸着材
20 二酸化炭素回収装置
21 吸着材充填槽
22 バルブ
23 バルブ
24 バルブ
25 バルブ
27 二酸化炭素回収ポンプ
29 冷却器
29a 熱交換器
29b 減温注水器
31 吸着材充填槽
32 バルブ
33 バルブ
34 バルブ
35 バルブ
36 ドレンライン
37 蒸気圧縮機
38 冷却器
39 蒸気発生器
40 二酸化炭素回収装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラおよび蒸気タービンを備えた発電プラントから排出される二酸化炭素を含有する被処理気体から、二酸化炭素吸着材を用いて二酸化炭素の吸着および脱離を行う二酸化炭素回収方法であって、
前記二酸化炭素吸着材を用いて被処理気体から二酸化炭素を吸着する吸着工程と、
二酸化炭素を吸着した前記二酸化炭素吸着材から脱離用水蒸気を用いて二酸化炭素を脱離させる脱離工程と
を包含し、
前記脱離用水蒸気は、蒸気タービン出口から排出される出口蒸気の一部から調製されることを特徴とする二酸化炭素回収方法。
【請求項2】
前記脱離工程は、負圧下で行われることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素回収方法。
【請求項3】
前記出口蒸気の一部を圧縮・昇温させる圧縮・昇温工程を含み、該圧縮・昇温工程後の水蒸気を用いて前記脱離用水蒸気が調製されることを特徴とする請求項1又は2に記載の二酸化炭素回収方法。
【請求項4】
前記圧縮・昇温工程後の水蒸気を用いて調製される前記脱離用水蒸気は、7〜70kPaの飽和蒸気である請求項3に記載の二酸化炭素回収方法。
【請求項5】
前記脱離用水蒸気は、前記圧縮・昇温工程後の水蒸気との熱交換により水から調製される水蒸気である請求項3又は4に記載の二酸化炭素回収方法。
【請求項6】
前記脱離用水蒸気は、前記圧縮・昇温工程後の水蒸気に注水することにより調製される水蒸気である請求項3又は4に記載の二酸化炭素回収方法。
【請求項7】
前記二酸化炭素吸着材はアミン担持吸着剤からなり、前記脱離用水蒸気は前記二酸化炭素吸着材の一端から他端に向けて供給され、前記二酸化炭素吸着材の前記他端が所定温度に到達したときに、前記脱離用水蒸気の供給を停止する制御工程を更に含むことを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の二酸化炭素回収方法。
【請求項8】
ボイラおよび蒸気タービンを備えた発電プラントから排出される二酸化炭素を含有する被処理気体から、二酸化炭素吸着材を用いて二酸化炭素の吸着および脱離を行う二酸化炭素回収装置であって、
前記二酸化炭素吸着材を充填した少なくとも1つの吸着材充填槽と、
前記吸着材充填槽に二酸化炭素を含有する被処理気体を供給することにより前記二酸化炭素吸着材に二酸化炭素を吸着させる被処理気体供給手段と、
二酸化炭素を脱離させるための脱離用水蒸気を調製する脱離用水蒸気調製手段と、
前記吸着材充填槽に脱離用水蒸気を供給することにより前記二酸化炭素吸着材から二酸化炭素を脱離させる脱離用水蒸気供給手段と
を有し、
前記脱離用水蒸気調製手段は、蒸気タービン出口から排出される出口蒸気の一部から脱離用水蒸気を調製することを特徴とする二酸化炭素回収装置。
【請求項9】
前記脱離用水蒸気を用いた前記二酸化炭素吸着材からの二酸化炭素の脱離は、負圧下で行われることを特徴とする請求項8に記載の二酸化炭素回収装置。
【請求項10】
前記脱離用水蒸気調製手段は、前記出口蒸気の一部を圧縮・昇温させる圧縮・昇温装置を備え、該圧縮・昇温後の水蒸気を用いて前記脱離用水蒸気を調製することを特徴とする請求項8又は9に記載の二酸化炭素回収装置。
【請求項11】
前記圧縮・昇温装置による圧縮・昇温後の水蒸気を用いて調製される前記脱離用水蒸気は、7〜70kPaの飽和蒸気である請求項10に記載の二酸化炭素回収装置。
【請求項12】
前記脱離用水蒸気は、前記圧縮・昇温工程後の水蒸気の熱交換により水から調製されることを特徴とする請求項10又は11に記載の二酸化炭素回収装置。
【請求項13】
前記脱離用水蒸気は、前記圧縮・昇温工程後の水蒸気に注水することにより調製される水蒸気である請求項10又は11に記載の二酸化炭素回収装置。
【請求項14】
前記二酸化炭素吸着材はアミン担持吸着剤からなり、前記脱離用水蒸気供給手段は脱離用水蒸気を前記二酸化炭素吸着材の一端から他端に向けて供給し、前記二酸化炭素吸着材の前記他端が所定温度に到達したときに、前記脱離用水蒸気の供給を停止する制御手段を更に備えたことを特徴とする請求項8乃至13の何れか一項に記載の二酸化炭素回収装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−250142(P2012−250142A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122535(P2011−122535)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】