説明

二酸化炭素排出量算出装置および二酸化炭素排出量算出方法

【課題】製品の生産時に消費されるエネルギーに関わる二酸化炭素排出量を、設備施設にあわせてさらに精度よく算出することができる二酸化炭素排出量算出装置を提供する。
【解決手段】二酸化炭素排出量算出装置100は、ユーティリティ管理装置200、資材管理装置400、ファシリティ管理装置500、製造実行管理装置300からの各装置に記録管理された各実績から二酸化炭素排出量を計算する排出量算出手段と、該排出量算出手段で算出した二酸化炭素排出量を製品一単位量に配賦する排出量配賦手段とを備え、配賦した二酸化炭素排出量データをロット固有データとして管理し、ユーティリティ管理装置200から滞留部を持つユーティリティ設備に流入する用役の流量および流出する用役の流量のデータを取得し、滞留により用役の生産と使用に時間差が生じる場合を考慮して二酸化炭素排出量原単位を計算する排出量原単位計算手段123を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場などの生産現場において製品の生産時に消費されるエネルギーに関わる二酸化炭素排出量算出装置および二酸化炭素排出量算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの増大が地球を温暖化し、自然の生態系に悪影響を及ぼすことが懸念されている。企業にとって、温室効果ガスの排出量削減は、社会貢献の面や、排出量規制、排出枠取引といった観点から重要性が増してきている。
【0003】
このような動向から、特許文献1に記載のように、装置毎の使用電力量を二酸化炭素量換算値に基づいて、装置毎の二酸化炭素排出量に換算して管理するシステムが提案されている。
【0004】
また、特許文献2に記載のように、原動力系のエネルギー製造データ、ファシリティ系のエネルギー消費データ、生産系のエネルギー消費データを、エネルギー種別毎にリアルタイムで収集した情報に基づくエネルギー原単位(エネルギー単価)を算出し、管理するシステムが提案されている。
【0005】
さらに、特許文献3に記載のように、製品単位でその生産に係わる温室効果ガス排出を把握できる管理装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−199495号公報
【特許文献2】特開2007−264704号公報
【特許文献3】特開2010−191832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の従来の技術では、電力の使用に伴う二酸化炭素排出量は算出できるが、蒸気、冷熱、温熱などの他の用役(エネルギー)の使用に伴う二酸化炭素排出量は考慮されていない。
【0008】
さらに、二酸化炭素量換算値は予め定められた値であり、電力会社から購入する場合は良いが、自家発電設備を保有し、自家発電による電力と電力会社から購入する電力との比率を工場の稼働状況に応じて変化させる場合には、二酸化炭素排出量の算出に適切に対応することができない。これは、同一エネルギーを生産する複数のユーティリティ設備が存在する場合に、それぞれの設備の稼働状況を考慮した上で、二酸化炭素排出量を計算できないことに等しい。
【0009】
また、特許文献2に記載の従来の技術では、エネルギー種別毎にリアルタイムでエネルギー原単位を計算しているが、蓄熱槽、蒸気アキュムレータなどのように滞留部があり、エネルギーの製造と使用に時間差が生じる場合の影響は考慮されていない。さらに、生産工程で使用した熱源や熱交換器で使用した高温熱源の排熱を考慮したエネルギー原単位の計算は行われていない。
【0010】
また、特許文献3においても、蓄熱槽、蒸気アキュムレータなどのように滞留部があり、エネルギーの製造と使用に時間差が生じる場合の影響は考慮されていない。
【0011】
本発明は、前記の課題を解決するための発明であって、製品の生産時に消費されるエネルギーに関わる二酸化炭素排出量を、設備施設にあわせてさらに精度よく算出することができる二酸化炭素排出量算出装置および二酸化炭素排出量算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため、本発明の二酸化炭素排出量算出装置は、外部からの受電電力、受入冷温熱量、自家発電設備運転実績、冷温熱設備運転実績を記録管理するユーティリティ管理手段(例えば、ユーティリティ管理装置200)と、資材および原材料使用実績を記録管理する資材管理手段(例えば、資材管理装置400)と、製造期間中のファシリティ設備の使用エネルギーを記録管理するファシリティ管理手段(例えば、ファシリティ管理装置500)と、製品の生産実績を管理する製造実行管理手段(例えば、製造実行管理装置300)と、前記ユーティリティ管理手段、前記資材管理手段、前記ファシリティ管理手段、前記製造実行管理手段に記録管理された各実績から二酸化炭素排出量を計算する排出量算出手段(例えば、生産設備の排出量計算手段133、資材・原材料の排出量計算手段143、ファシリティ設備の排出量計算手段153)と、該排出量算出手段で算出した二酸化炭素排出量を製品一単位量に配賦する排出量配賦手段(例えば、製品・ロット毎排出量配賦手段160)と、を備え、製造ロットに対して配賦した二酸化炭素排出量データを、ロット固有データとして管理する二酸化炭素排出量算出装置であって、前記ユーティリティ管理手段から滞留部を持つユーティリティ設備に流入する用役の流量および流出する用役の流量のデータを取得し、滞留により用役の生産と使用に時間差が生じる場合を考慮して二酸化炭素排出量原単位を計算する、前記排出量算出手段で用いる排出量原単位を計算する排出量原単位計算手段(例えば、排出量原単位計算手段123)を有することを特徴とする。
【0013】
また、前記排出量原単位計算手段は、排熱を生じるユーティリティ設備に流入する用役の流量と温度および前記流入した用役が排熱となって流出する際の流量と温度を測定して、用役の温度からの情報を考慮した二酸化炭素排出量原単位を計算するものである。
【0014】
また、前記排出量原単位計算手段は、同一の用役を生産する複数の用役設備から用役の合流部に流入するそれぞれの用役の流量を測定して、用役の流量比を考慮した二酸化炭素排出量原単位を計算するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、製品の生産時に消費されるエネルギーに関わる二酸化炭素排出量を、設備施設にあわせてさらに精度よく算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の二酸化炭素排出量算出装置の一実施形態を示すシステム構成図である。
【図2】製造ロットでの二酸化炭素排出量の分布を示す画面例である。
【図3】ユーティリティ設備での二酸化炭素排出量原単位のトレンドを示す画面例である。
【図4】生産設備での二酸化炭素排出量と生産量の相関関係を示す画面例である。
【図5】エネルギーを生産するユーティリティ設備における二酸化炭素排出量原単位の計算方法を示す説明図である。
【図6】滞留部を持つユーティリティ設備における二酸化炭素排出量原単位の計算方法を示す説明図である。
【図7】排熱を生じるユーティリティ設備における二酸化炭素排出量原単位の計算方法を示す説明図である。
【図8】合流部を持つユーティリティ設備における二酸化炭素排出量原単位の計算方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の二酸化炭素排出量算出装置の一実施形態を示すシステム構成図である。本実施形態のシステムは、二酸化炭素排出量算出装置100と、受変電設備、油圧ポンプや空気圧縮機など油空圧設備、冷凍機やボイラなどの冷温熱設備、自家発電設備などのユーティリティ設備250を制御・管理するユーティリティ管理装置200と、生産設備1〜nなどの生産設備350を制御・管理する製造実行管理装置300と、空調設備、照明設備を備えた倉庫450を制御・管理する資材管理装置400と、空調設備、照明設備、計算機設備、通信設備などのファシリティ設備550を制御・管理するファシリティ管理装置500などを備えている。
【0018】
ユーティリティ設備250は、外部から電力、ガス、燃料などのエネルギーを受け入れて、工場内で使用する電力、蒸気、冷熱、温熱、圧縮空気などの用役(エネルギー)を生産する。
【0019】
ユーティリティ管理装置200は、ユーティリティ設備250と通信し、外部から受け入れるエネルギー量や、用役の生産量、ユーティリティ設備250の運転実績などの運転データを、測定機器から直接または、DCS(Distributed Control System、分散型制御システム)やPLC(Programmable Logic Controller、シーケンス制御専用の制御装置)などを経由して一定周期(例えば1分周期)でリアルタイムに自動収集し、管理装置内の運転データ記録部に記録し管理している。運転データには、設備毎・用役毎の流量、温度、圧力などがある。
【0020】
生産設備350は、ユーティリティ設備250から供給される用役と倉庫450から供給される原材料などを使用して製品を生産する。生産設備1からnは、例えば工程1からnに相当し、工程(設備)毎に使用する用役や原材料の種類や量が異なる。
【0021】
製造実行管理装置300は、生産設備350と通信し、製品毎・ロット毎に、用役や原材料などの使用量、設備の運転実績などの運転データを、測定機器から直接または、DCSやPLCなどを経由して一定周期でリアルタイムに自動収集し、管理装置内の運転データ記録部に記録し管理している。
【0022】
倉庫450は、資材や原材料を保管しておくための空調設備と照明設備が備えられており、これらの設備にユーティリティ設備250から用役(主に電力)が供給される。
【0023】
資材管理装置400は、倉庫450と通信し、資材および原材料の保管状況、入出庫状況、空調や照明の使用による用役使用量などの運転データを測定機器から直接または、DCSやPLCなどを経由して一定周期でリアルタイムに自動収集し、管理装置内の運転データ記録部に記録し管理している。
【0024】
ファシリティ設備550は、事務所や工場建屋内にある空調設備、照明設備、計算機設備、通信設備などであり、これらの設備にユーティリティ設備250から用役(主に電力)が供給される。
【0025】
ファシリティ管理装置500は、ファシリティ設備550と通信し、空調や照明、計算機、通信の使用による用役の使用量、設備の運転実績などの運転データを、測定機器から直接または、DCSやPLCなどを経由して一定周期でリアルタイムに自動収集し、管理装置内の運転データ記録部に記録し管理している。
【0026】
二酸化炭素排出量算出装置100、ユーティリティ管理装置200、製造実行管理装置300、資材管理装置400、ファシリティ管理装置500は、通信用ネットワークで接続されている。
【0027】
次に二酸化炭素排出量算出装置100の構成について説明する。
データ収集手段121は、ユーティリティ管理装置200内の運転データ記録部からユーティリティ設備運転データを収集し、ユーティリティ設備運転データ記録部122(122a、122b、122c)に記録し管理する。
【0028】
データ収集手段131は、製造実行管理装置300内の運転データ記録部から生産設備運転データを収集し、生産設備運転データ記録部132に記録し管理する。
【0029】
データ収集手段141は、資材管理装置400内の運転データ記録部から資材および原材料の使用実績データを収集し、資材・原材料使用実績データ記録部142に記録し管理する。
【0030】
データ収集手段151は、ファシリティ管理装置500内の運転データ記録部からファシリティ設備運転データを収集し、ファシリティ設備運転データ記録部152に記録し管理する。
【0031】
前述のそれぞれの運転データの収集については、一定周期でリアルタイムに自動収集してもよいし、後述する二酸化炭素排出量原単位計算あるいは二酸化炭素排出量計算を実行する時に収集するようにしてもよい。
【0032】
ユーティリティ設備の排出量原単位計算手段123(123a、123b、123c)は、ユーティリティ設備運転データ記録部122(122a、122b、122c)に記録された運転データを用いて、用役毎に二酸化炭素の排出量原単位を計算し用役毎排出量原単位データとして、用役毎排出量原単位データ記録部124に記録し管理する。
【0033】
ここで、用役毎排出量原単位とは、単位量の用役を生産するときに必要となるエネルギー量を二酸化炭素排出量に換算した値を意味している。例えば、電力ではkg−CO2/kWh、蒸気ではkg−CO2/tonが単位となる。具体的な用役毎排出量原単位の計算方法については後述する。
【0034】
生産設備の排出量計算手段133は、生産設備運転データ記録部132に記録された運転データと用役毎排出量原単位データ記録部124の用役毎排出量原単位データを用いて、生産設備毎の二酸化炭素排出量を計算し、生産設備毎排出量データ記録部134に記録し管理する。二酸化炭素排出量は、生産設備で使用している用役毎に、用役の使用量と用役の排出量原単位の積とを取ることで計算できる。
【0035】
資材・原材料の排出量計算手段143は、資材・原材料使用実績データ記録部142に記録された使用実績データと用役毎排出量原単位データ記録部124の用役毎排出量原単位データを用いて、資材・原材料毎の二酸化炭素排出量を計算し、資材・原材料毎排出量データ記録部144に記録し管理する。二酸化炭素排出量は、生産設備で使用した資材・原材料の使用量と資材・原材料の排出量原単位の積を取ることで計算できる。また、倉庫での保管時に空調設備や照明設備を使ったことによる二酸化炭素排出量は、倉庫での設備に使用している用役毎に、用役の使用量と用役の排出量原単位との積を取ることで計算できる。
【0036】
ファシリティ設備の排出量計算手段153は、ファシリティ設備運転データ記録部152に記録された運転データと用役毎排出量原単位データ記録部124の用役毎排出量原単位データを用いて、ファシリティ設備毎の二酸化炭素排出量を計算し、ファシリティ設備毎排出量データ記録部154に記録し管理する。二酸化炭素排出量は、ファシリティ設備で使用している用役毎に、用役の使用量と用役の排出量原単位との積を取ることで計算できる。
【0037】
製品・ロット毎排出量配賦手段160(排出量配賦手段)は、生産設備毎排出量データ記録部134に記録された排出量データ、資材・原材料毎排出量データ記録部144に記録された排出量データおよびファシリティ設備毎排出量データ記録部154に記録された排出量データを用いて、製品・ロット毎の二酸化炭素排出量を計算し、製品・ロット毎排出量データ記録部161に記録し管理する。二酸化炭素排出量を製品・ロット毎に配賦するためには、その製品・ロットが、どの生産設備で生産されたか、その生産設備のどの期間に生産されたか、その時に用役はどのくらい使用したか、その時に原材料はどのくらい使用したか、その時にファシリティ設備でどのくらい用役を使用したか、などの情報が必要となる。
【0038】
製品・ロット毎排出量配賦手段160は、必要に応じて生産設備毎排出量データ記録部134、資材・原材料毎排出量データ記録部144、ファシリティ設備毎排出量データ記録部154だけでなく、生産設備運転データ記録部132、資材・原材料使用実績データ記録部142、ファシリティ設備運転データ記録部152を参照して(データの流れは図示していない)、二酸化炭素排出量を製品・ロット毎に配賦する。
【0039】
計算結果表示手段162は、製品・ロット毎排出量データ記録部161に記録された排出量のデータを、図2から図4に示すようにグラフや表の形式で画面表示を行い、二酸化炭素排出量算出装置のユーザーに提示する。なお、画面表示に用いるデータは、必要に応じて生産設備毎排出量データ記録部134、資材・原材料毎排出量データ記録部144、ファシリティ設備毎排出量データ記録部154だけでなく、生産設備運転データ記録部132、資材・原材料使用実績データ記録部142、ファシリティ設備運転データ記録部152を参照する(データの流れは図示していない)。
【0040】
次に、二酸化炭素排出量算出装置100のハードウェア構成について説明する。
二酸化炭素排出量算出装置100は、図示していないが、プロセッサ(処理部)、メモリ(記憶部)、入力装置、出力装置を有し、ディスクインタフェースを介して外部記憶装置と接続される。プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)で構成され、メモリ上に読み込まれた各手段(例えば、排出量原単位計算手段123)を処理する処理プログラムを実行することで、各手段の処理を実行する。
【0041】
各手段は、それぞれの処理プログラムをプロセッサで実行することにより実現するが、これらはデータ収集手段121,131,141,151など、各処理を行う処理部として集積回路化するなどしてハードウェアで実現することもできる。
【0042】
メモリは、例えばRAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリなどの記憶媒体で構成される。入力装置は、例えばキーボードやマウスなどの装置で構成され、出力装置は例えば液晶モニタなどの装置で構成される。前記で説明した各種データ(例えば、生産設備運転データ)は、常時は、外部記憶装置に記憶されており、必要に応じてメモリに記憶される。
【0043】
図2は、製造ロットでの二酸化炭素排出量の分布を示す画面例である。出力装置に表示される画面には、製品・ロット毎排出量データ記録部161からある製品のロットにおける二酸化炭素排出量を工程別(工程1〜3)、原因別(原料A〜G、電力、蒸気など)に割合が示されている。
【0044】
図3は、ユーティリティ設備での二酸化炭素排出量原単位のトレンドを示す画面例である。出力装置に表示された画面には、用役毎排出量原単位データ記録部124からユーティリティ設備250で生産された用役の二酸化炭素排出量原単位の時系列データが示されている。
【0045】
図4は、生産設備での二酸化炭素排出量と生産量の相関関係を示す画面例である。出力装置に表示される画面には、生産設備毎排出量データ記録部134からある製品を生産した時の二酸化炭素排出量とその生産量との相関が示されている。
【0046】
図5は、エネルギーを生産するユーティリティ設備における二酸化炭素排出量原単位の計算方法を示す説明図である。本実施形態では、図5を参照してエネルギーを生産するユーティリティ設備250における二酸化炭素排出量原単位の計算方法を説明する。
【0047】
ユーティリティ設備250では、消費エネルギー1〜nを使用して、供給エネルギー1〜mを生産する。例えば、ユーティリティ設備250としてボイラの場合を考えると、消費エネルギーは、燃料となる都市ガスや重油とポンプや制御盤などの補機を動かすための電力であり、供給エネルギーは、蒸気や温水である。また、ガスタービンシステムによるコジェネレーション発電であれば、消費エネルギーは、燃料となる都市ガスと補機を動かすための電力であり、供給エネルギーは、電力と蒸気である。
【0048】
消費エネルギーiの流量をFin,i、二酸化炭素排出量原単位をβin,i、供給エネルギーjの流量をFout,j、二酸化炭素排出量原単位をβout,j、二酸化炭素排出割合をαjとする。ここで、エネルギーの流量の単位は、都市ガスであればm3/h、重油であればkg/h、電力であればkW、蒸気や温水であればton/h、二酸化炭素排出量原単位の単位は、都市ガスであればkg−CO2/m3、重油であればkg−CO2/kg、電力であればkg−CO2/kWh、蒸気や温水であればkg−CO2/tonなどである。供給エネルギーjの二酸化炭素排出割合αjは、全供給エネルギーのうち供給エネルギーjに関わる二酸化炭素排出量の割合を示しており、次式を満たす。
【0049】
【数1】

【0050】
消費エネルギーの流量と二酸化炭素排出量原単位および供給エネルギーの流量と二酸化炭素排出割合は既知であり、供給エネルギーの二酸化炭素排出量原単位は未知とする。なお、供給エネルギーの二酸化炭素排出割合は、ユーティリティ設備250のスペックなどからユーザーが設定することもできる。
【0051】
供給エネルギーjの二酸化炭素排出量原単位βout,jは、二酸化炭素のマスバランスから次式により求められる。
【0052】
【数2】

【0053】
前述の計算手法により、ユーティリティ設備250が供給するエネルギーの二酸化炭素排出量原単位を求めることが可能となる。
【0054】
図6は、滞留部を持つユーティリティ設備における二酸化炭素排出量原単位の計算方法を示す説明図である。図6を参照して滞留部を持つユーティリティ設備における二酸化炭素排出量原単位の計算方法を説明する。
【0055】
滞留部を持つユーティリティ設備とは、複数のユーティリティ設備で生産された同一エネルギーを一度蓄えた後、複数の生産設備などへ供給する設備である。例えば、夜間電力を利用して冷凍機で生産した冷水を、昼間の冷水需要の多い時に使用する蓄熱槽がある。また、定格運転のボイラで生産する蒸気のうち、蒸気需要の少ない時に蓄えておき、需要が多い時に供給する蒸気アキュムレータがある。いずれも、滞留部によって用役を生産した時と用役を使用する時のズレがある。
【0056】
入口側エネルギーiの流量をFin,i、二酸化炭素排出量原単位をβin,i、出口側エネルギーjの流量をFout,j、二酸化炭素排出量原単位をβout、滞留部の滞留量をMとする。なお、滞留部の二酸化炭素排出量原単位および出口側エネルギーjの二酸化炭素排出量原単位は、すべてβoutとなる。
【0057】
入口側エネルギーの流量と二酸化炭素排出量原単位、出口側エネルギーの流量、および滞留部の滞留量は既知であり、出口側エネルギーおよび滞留部の二酸化炭素排出量原単位は未知とする。
【0058】
出口側エネルギーおよび滞留部の二酸化炭素排出量原単位βoutは、時刻tと時刻t+Δtとの間における二酸化炭素のマスバランスを解くことで、次式により求められる。
【0059】
【数3】

【0060】
前述の計算手法により、滞留部を持つユーティリティ設備において、滞留部によって用役を生産した時と用役を使用する時のズレが生じた場合の二酸化炭素排出量原単位を求めることが可能となる。
【0061】
本実施形態によれば、滞留部の影響を考慮することで、滞留部を通過した用役の二酸化炭素排出原単位をリアルタイムに把握することができ、二酸化炭素排出量の計算精度が向上することができる。
【0062】
図7は、排熱を生じるユーティリティ設備における二酸化炭素排出量原単位の計算方法を示す説明図である。図7を参照して排熱を生じるユーティリティ設備における二酸化炭素排出量原単位の計算方法を説明する。排熱を生じるユーティリティ設備とは、高温(一次側)の熱源から低温(二次側)の熱源へエネルギーを移動させる熱交換器がある。
【0063】
一次側入口エネルギーの流量をFin,1、二酸化炭素排出量原単位をβin,1、温度をTin,1、一次側出口エネルギーの二酸化炭素排出量原単位をβout,1、温度をTout,1、二次側入口エネルギーの流量をFin,2、二酸化炭素排出量原単位をβin,2、二次側出口エネルギーの二酸化炭素排出量原単位をβout,2とする。
【0064】
一次側出口エネルギーの二酸化炭素排出量原単位および二次側出口エネルギーの二酸化炭素排出量原単位は未知であり、その他の値は既知とする。
【0065】
一次側出口エネルギーの二酸化炭素排出量原単位βout,1は、出入口のエンタルピ比率により規定されると仮定し、温度Tにおけるエネルギーのエンタルピをh(T)で表すと、次式により求められる。なお、温度T0は、ユーザーが設定する基準温度とする。
【0066】
【数4】

【0067】
また、二次側出口エネルギーの二酸化炭素排出量原単位βout,2は、二酸化炭素のマスバランスから次式により求められる。
【0068】
【数5】

【0069】
この時、一次側エネルギーのうち二次側へ移動したエネルギーに関わる二酸化炭素排出量は、次式により求められる。
【0070】
【数6】

【0071】
また、一次側エネルギーのうち排熱となったエネルギーに関わる二酸化炭素排出量は、次式により求められる。
【0072】
【数7】

【0073】
前述の計算手法により、排熱を生じるユーティリティ設備において、一次側エネルギーの出入口温度を測定することにより、二酸化炭素排出量原単位を求めることが可能となる。また、一次側エネルギーのうち二次側へ移動したエネルギーおよび排熱となったエネルギーを求めることが可能となる。
【0074】
本実施形態によれば、排熱評価を行うことで、排熱に関わる二酸化炭素排出量をリアルタイムに見える化できる。また、見える化できた排熱の有効利用を検討することで、排熱そのものを減らすことができ、二酸化炭素排出量の削減、すなわち省エネルギーに貢献できる。
【0075】
図8は、合流部を持つユーティリティ設備における二酸化炭素排出量原単位の計算方法を示す説明図である。図8を参照して合流部を持つユーティリティ設備における二酸化炭素排出量原単位の計算方法を説明する。
【0076】
合流部を持つユーティリティ設備とは、複数のユーティリティ設備で生産された同一エネルギーを集めた後、複数の生産設備などへ供給する設備である。例えば、電力会社から購入した電力と工場内の自家発電装置からの電力を受電し、工場内の生産設備や他のユーティリティ設備へ配電する受配電設備がある。また、蒸気ボイラや排熱回収ボイラからの蒸気を集め、複数の生産設備へ供給する蒸気ヘッダ(ただし、ヘッダでの滞留時間が十分に短い場合)がある。
【0077】
入口側エネルギーiの流量をFin,i、二酸化炭素排出量原単位をβin,i、出口側エネルギーjの流量をFout,j、二酸化炭素排出量原単位をβoutとする。なお、出口側エネルギーjの二酸化炭素排出量原単位は、下記の計算式のように、すべてβoutとなる。
【0078】
入口側エネルギーの流量と二酸化炭素排出量原単位および出口側エネルギーの流量は既知であり、出口側エネルギーの二酸化炭素排出量原単位は未知とする。
出口側エネルギーの二酸化炭素排出量原単位βoutは、二酸化炭素のマスバランスから次式により求められる。
【0079】
【数8】

【0080】
前述の計算手法により、合流部を持つユーティリティ設備において、二酸化炭素排出量原単位の異なる同一エネルギーが集まった場合の二酸化炭素排出量原単位を求めることが可能となる。
【0081】
本実施形態によれば、合流部を考慮することで、複数のユーティリティ設備からのエネルギーの二酸化炭素排出原単位をリアルタイムに把握することができ、二酸化炭素排出量の計算精度を向上することができる。
【0082】
以上、説明したように、本発明の図6に示す実施形態によれば、製品の生産時に消費されるエネルギーに関わる二酸化炭素排出量を、エネルギーの製造と使用に時間差が生じる滞留部の影響を考慮して計算することができる。また、図7に示す生産工程や熱交換器で発生する排熱を考慮して計算することができる。さらに、図8に示す同一エネルギーを生産する複数のユーティリティ設備がある場合を考慮して計算することができる。
【0083】
本実施形態によれば、二酸化炭素排出量算出装置の排出量原単位計算手段は、エネルギーの製造と使用に時間差が生じる滞留部の影響を考慮したり、生産工程や熱交換器で発生する排熱を考慮したり、同一エネルギーを生産する複数のユーティリティ設備がある場合を考慮したりすることのできる。したがって、本実施形態の二酸化炭素排出量算出装置は、製品の生産時に消費されるエネルギーに関わる二酸化炭素排出量を、設備施設にあわせてさらに精度よく計算することができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の実施形態は、組み立て加工工場、化学工場、食品工場などで行われる製造工程を管理する情報処理システムなどに活用できる。
【符号の説明】
【0085】
100 二酸化炭素排出量算出装置
121,131,141,151 データ収集手段
122 ユーティリティ設備運転データ記録部
123 排出量原単位計算手段
124 用役別排出量原単位データ記録部
132 生産設備運転データ記録部
133 生産設備の排出量計算手段(排出量計算手段)
134 生産設備毎排出量データ記録部
142 資材・原材料使用実績データ記録部
143 資材・原材料の排出量計算手段(排出量計算手段)
144 資材・原材料毎排出量データ記録部
152 ファシリティ設備運転データ記録部
153 ファシリティ設備の排出量計算手段(排出量計算手段)
154 ファシリティ設備毎排出量データ記録部
160 製品・ロット毎排出量配賦手段(排出量配賦手段)
161 製品・ロット毎排出量データ記録部
162 計算結果表示手段
200 ユーティリティ管理装置
250 ユーティリティ設備
300 製造実行管理装置
350 生産設備
400 資材管理装置
450 倉庫
500 ファシリティ管理装置
550 ファシリティ設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からの受電電力、受入冷温熱量、自家発電設備運転実績、冷温熱設備運転実績を記録管理するユーティリティ管理手段と、資材および原材料使用実績を記録管理する資材管理手段と、製造期間中のファシリティ設備の使用エネルギーを記録管理するファシリティ管理手段と、製品の生産実績を管理する製造実行管理手段と、前記ユーティリティ管理手段、前記資材管理手段、前記ファシリティ管理手段、前記製造実行管理手段に記録管理された各実績から二酸化炭素排出量を計算する排出量算出手段と、該排出量算出手段で算出した二酸化炭素排出量を製品一単位量に配賦する排出量配賦手段と、を備え、製造ロットに対して配賦した二酸化炭素排出量データを、ロット固有データとして管理する二酸化炭素排出量算出装置であって、
前記ユーティリティ管理手段から滞留部を持つユーティリティ設備に流入する用役の流量および流出する用役の流量のデータを取得し、滞留により用役の生産と使用に時間差が生じる場合を考慮して二酸化炭素排出量原単位を計算する、前記排出量算出手段で用いる排出量原単位を計算する排出量原単位計算手段を有する
ことを特徴とする二酸化炭素排出量算出装置。
【請求項2】
前記排出量原単位計算手段は、
前記滞留部を持つユーティリティ設備の入口側エネルギーの流量、入口側エネルギーの二酸化炭素排出量原単位、出口側エネルギーの流量、滞留部の滞留量のデータに基づいて、出口側エネルギーおよび滞留部の二酸化炭素排出量原単位について、時刻tと時刻t+Δt(時間刻み)との間における二酸化炭素のマスバランスを計算することで、各時刻の二酸化炭素排出量原単位を計算する
ことを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素排出量算出装置。
【請求項3】
前記ユーティリティ管理手段が管理するユーティリティ設備には、1次側の熱源から2次側の熱源へエネルギーを移動させる熱交換器を有する、排熱を生じるユーティリティ設備があり、
前記排出量原単位計算手段は、さらに、
前記排熱を生じるユーティリティ設備に流入する1次側の用役の流量と温度および前記流入した用役が排熱となって流出する際の流量と温度のデータを、前記ユーティリティ管理手段から取得し、用役の温度の情報を考慮した二酸化炭素排出量原単位を計算する
ことを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素排出量算出装置。
【請求項4】
前記排出量原単位計算手段は、
前記用役の温度の情報が、用役のエンタルピである
ことを特徴とする請求項3に記載の二酸化炭素排出量算出装置。
【請求項5】
前記排出量原単位計算手段は、さらに、
前記ユーティリティ管理手段から同一の用役を生産する複数の用役設備から用役の合流部に流入するそれぞれの用役の流量のデータを取得し、用役の流量比を考慮して二酸化炭素排出量原単位の計算する
ことを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素排出量算出装置。
【請求項6】
外部からの受電電力、受入冷温熱量、自家発電設備運転実績、冷温熱設備運転実績を記録管理するユーティリティ管理手段と、資材および原材料使用実績を記録管理する資材管理手段と、製造期間中のファシリティ設備の使用エネルギーを記録管理するファシリティ管理手段と、製品の生産実績を管理する製造実行管理手段と、前記ユーティリティ管理手段、前記資材管理手段、前記ファシリティ管理手段、前記製造実行管理手段に記録管理された各実績から二酸化炭素排出量を計算する排出量算出手段と、該排出量算出手段で算出した二酸化炭素排出量を製品一単位量に配賦する排出量配賦手段と、を備え、前記排出量算出手段で用いる排出量原単位を計算する排出量原単位計算手段を有する、製造ロットに対して配賦した二酸化炭素排出量データを、ロット固有データとして管理する二酸化炭素排出量算出方法であって、
前記排出量原単位計算手段は、
前記ユーティリティ管理手段から滞留部を持つユーティリティ設備に流入する用役の流量および流出する用役の流量のデータを取得し、滞留により用役の生産と使用に時間差が生じる場合を考慮して二酸化炭素排出量原単位を計算する
ことを特徴とする二酸化炭素排出量算出方法。
【請求項7】
前記排出量原単位計算手段は、
前記滞留部を持つユーティリティ設備の入口側エネルギーの流量、入口側エネルギーの二酸化炭素排出量原単位、出口側エネルギーの流量、滞留部の滞留量のデータに基づいて、出口側エネルギーおよび滞留部の二酸化炭素排出量原単位について、時刻tと時刻t+Δt(時間刻み)との間における二酸化炭素のマスバランスを計算することで、各時刻の二酸化炭素排出量原単位を計算する
ことを特徴とする請求項6に記載の二酸化炭素排出量算出方法。
【請求項8】
前記ユーティリティ管理手段が管理するユーティリティ設備には、1次側の熱源から2次側の熱源へエネルギーを移動させる熱交換器を有する、排熱を生じるユーティリティ設備があり、
前記排出量原単位計算手段は、さらに、
前記排熱を生じるユーティリティ設備に流入する1次側の用役の流量と温度および前記流入した用役が排熱となって流出する際の流量と温度のデータを、前記ユーティリティ管理手段から取得し、用役の温度の情報を考慮した二酸化炭素排出量原単位を計算する
ことを特徴とする請求項6に記載の二酸化炭素排出量算出方法。
【請求項9】
前記排出量原単位計算手段は、
前記用役の温度の情報が、用役のエンタルピである
ことを特徴とする請求項8に記載の二酸化炭素排出量算出方法。
【請求項10】
前記排出量原単位計算手段は、さらに、
前記ユーティリティ管理手段から同一の用役を生産する複数の用役設備から用役の合流部に流入するそれぞれの用役の流量のデータを取得し、用役の流量比を考慮して二酸化炭素排出量原単位の計算する
ことを特徴とする請求項6に記載の二酸化炭素排出量算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−108691(P2012−108691A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256531(P2010−256531)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】