説明

二重ビーム装置

【課題】SEMレンズに電流を流しながらイオン・ビームを操作することのできる二重ビーム装置を提供すること。
【解決手段】二重ビーム装置はイオン・ビーム装置および磁気対物レンズを備える走査電子顕微鏡を含む。イオン・ビーム装置がSEM対物レンズからの磁界の存在下で最適に動作するようにされるので、対物レンズはイオン・ビームの動作中に停止しない。任意選択的な二次粒子検出器および任意選択的な荷電中和フラッド銃が磁界の存在下で動作するようにされる。磁気対物レンズは、焦点を変化させたときに、レンズを構成する各部におけるエネルギー放散が時間的に略一定となるように設計されるので、磁界を変化させたとき装置を安定化させる時間を必要としない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷電粒子ビーム装置に関し、詳細には磁気対物レンズを使用するイオン・ビーム・カラムおよび電子ビーム・カラムを含む装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子ビーム装置は、集積回路や磁気記録ヘッド、フォトリソグラフ・マスクなどの微小デバイスの製造、修理、検査を含んで、多くの用途に使用される。二重ビーム装置は、目標物の損傷を最小にしながら高い解像度を提供することのできる走査電子顕微鏡(SEM)、および基板の改質や像を形成できる、集束または成形ビーム装置などのイオン・ビーム装置をしばしば含む。
【0003】
二重ビーム装置の1つの通常の用途は、基板の埋め込まれた部分を露出し、次いで露出表面の像を形成することである。例えば、集束または成形イオン・ビームは、基板を垂直に切断して表面の断面を露出し、次いで電子ビームは新たに露出した表面を走査してその像を形成することができる。
【0004】
それらの装置の1つの困難性は、走査電子顕微鏡の最終レンズが磁界を生成し、それがイオン・ビームの軌道を変化させ、また、二重ビーム装置の他の様々な機能を妨害することである。例えば、基板の組成に関する像または情報は、一次イオン・ビームが目標物を叩くときに放出される二次粒子を集めることによって得ることができる。しかし、SEMの磁界は二次粒子の通路を変化させ、それらを収集するのが難しくなる。
【0005】
荷電粒子ビーム装置中の試料が、石英などの絶縁材料からなるとき、試料は電荷を累積する傾向があり、一次ビームおよび二次粒子に有害な影響を与える。変化を緩和する1つの方法は、電子を試料に導いて正の荷電を中和する、電子フラッド銃(flood gun)の使用を伴う。電子フラッド銃は、フラッド銃が精密な光学系を選択する自由がなく、比較的広い低エネルギーの電子を生成する点で、電子顕微鏡とは異なる。SEMの磁界はフラッド銃からの緩和電子の通路を変化させ、それを正確に試料に導くことが困難になる。
【0006】
磁界妨害のこの問題の通常の解決策は、イオン・ビームを使用するとき、またはイオン・ビーム装置のある種の機能を使用するとき、SEMを停止することである。例えば、イオン・ビームで誘起された二次粒子の収集を可能にするため、または荷電中和フラッド銃を使用するとき、SEMは停止することができる。SEMのレンズを起動・停止させることによってその自らの問題が発生する。
【0007】
SEMの磁気対物レンズは多くの電流を使用し、したがって多大の熱を発生し、熱は電流の二乗に比例する。SEMから放散される熱は二重ビーム装置の構成要素を膨張させる。SEMの解像度はナノメートル程度の大きさであり、物理的に非常に安定な積載台を必要とし、したがって、装置は起動の後熱平衡に達して安定になるまで多大の時間を必要とする。装置の解像度が高くなると、安定性はより重要になり、より長く待つ必要がある。荷電粒子ビーム装置は、元来サンプルを分析するために実験室で使用されるだけであり、熱平衡に達する時間は許容できるものであった。装置は今や生産装置として使用され、その遅れは許容できない。
【0008】
逆方向に同じ巻き数を有する2個のコイルを使用する「磁気レンズ」が知られてくる(例えば、特許文献1参照。)。2個のコイルの電流配分を変えることによって、電流の総計、したがって熱出力を一定に保ちながら、磁界を調節して電子ビームを集束させることができる。巻き数の同じ2個のレンズを使用することによって、レンズの電流総計を変化させることなく磁界を変化させる、または相殺することが可能になる。したがって、レンズの熱出力を変化させることなく磁界を排除することができる。
【0009】
SEMで観察される表面はしばしばSEMの軸に対して垂直の角度ではなく、試料の一部は他の部分よりもレンズにより近い。距離の相違を補正するために、いくつかのSEMは走査中に対物レンズの焦点を変化させており、これによって、より鮮明な像を形成させることができる。これは、しばしば「動的合焦」と呼ばれる。動的合焦には磁界を急速に変化させる能力が必要とされ、対物レンズのコイル中の電流を急速に変化させることが必要である。巻き数に関係するコイルのインダクタンスは電流変化に抵抗する。
【0010】
特許文献1の2個のコイルはインダクタンスが高く、電流を急速に変化させることができない。また、動的合焦用に個別の小さなレンズを使用する方法も知られている。それらのレンズは低いインダクタンスを有するが、レンズの電流変化はレンズのエネルギー放散を変化させ、装置の熱平衡を乱し、それによって解像度が低下する。
【0011】
SEMの対物レンズからの一定磁界の影響を補正するための装置を設計しても、磁界が一定ではないので問題は完全には解決されないであろう。SEMを合焦に保つには、対物レンズの磁界を、試料の高さ、倍率、および電子エネルギーによって変化させる必要がある。ある装置では、電子ビームの焦点を変化させるために対物レンズの磁界を変化させることよりも、試料の電圧を変化させる「遅延磁界光学系」を用いて、磁界の動作変動を低減することが可能である。多くの二重ビーム装置では、FIBが垂直に搭載され、SEMはFIBによる垂直な切断面を観察する角度に搭載される。SEMが傾斜した装置では、傾斜によって遅延電界の対称性がなくなり、一次電子ビームに望ましくない収差が生じ、二次電子の収集が困難になるので、遅延磁界光学系の選択肢を用いることが容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第4,345,152号
【特許文献2】特開平11−329331号公報
【特許文献3】特開平06−208838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、SEMレンズに電流を流しながらイオン・ビームを操作することのできる二重ビーム装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様は、装置の他の機能を使用しながら、SEMの対物レンズを励起することのできる二重ビーム装置を含む。好ましい実施形態は、いくつかの発明態様を含み、これらは個別に特許取得が可能であると考えられる。SEMが一定の熱を発生するので、磁界強度を変化させてビームを合焦させるとき、装置は熱平衡に達するまで余分な時間待つ必要がない。いくつかの実施形態では、荷電中和フラッド銃は、磁界が中和電子を目標物に導くのを助けるように配置される。いくつかの実施形態では、フラッド銃の電極の操縦によってビームの方向を変え、磁界の変動が補正される。
【0015】
いくつかの実施形態は、SEMレンズの磁界が二次粒子の収集を助けるように配置された二次粒子検出器を含む。他の実施形態は、単一同位元素のガリウムを使用し、異なるガリウム同位元素によるSEM磁界の異なる効果に起因するイオン・ビームのぼけを除去する。
【0016】
上記は、以下の発明の詳細説明をより良く理解するために、本発明の特徴および技術的な利点をやや広範囲に概説した。本発明の他の特徴および利点は以下に説明する。当業者であれば、本発明の同じ目的を実施するために、開示された概念および特定の実施形態を他の構造の修正または設計の基礎として容易に使用できることを認識するはずである。また、当業者であれば、それらの同等の構造が従属の請求項に記載された本発明の精神と範囲から逸脱しないことを認識するはずである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の態様を実施する二重ビーム装置の部分を示す図である。
【図2】図1に示した装置の部分の底部を示す俯瞰図である。
【図3】磁界の中和電極の望ましい軌道を示す図である。
【図4】図1の装置に使用することのできる電子フラッド銃を示す図である。
【図5】図4のフラッド銃に使用される電子光学要素を示す図である。
【図6】図1の装置の底部を示す図である。
【図7】図1の装置の部分の断面を示す図である。
【図8】磁界の存在下、イオン・ビームで誘起された二次電子の軌道を示すシミュレーション図である。
【図9】磁界の存在下、二次電子の望ましい軌道を示す図である。
【図10】磁界の存在下、二次荷電粒子の好ましい軌道を示すシミュレーション図である。
【図11】図1の装置に使用される好ましい走査電子顕微鏡カラムを示す図である。
【図12】天然産出ガリウムからなる原料を用いる合焦イオン・ビーム中のガリウム・イオンの軌道を示す図である。
【図13A】近傍の走査電子顕微鏡の磁気対物レンズで形成された最小の磁界の存在下、二重ガリウム同位元素を用いて形成された合焦イオン・ビーム像を示す図である。
【図13B】近傍の走査電子顕微鏡の磁気対物レンズで形成された最大の磁界の存在下、二重ガリウム同位元素を用いて形成された合焦イオン・ビーム像を示す図である。
【図14】単一同位元素のガリウムを用いる合焦イオン・ビーム中のガリウム・イオンの軌道を示す図である。
【図15A】近傍の走査電子顕微鏡の磁気対物レンズで形成された最小の磁界の存在下、単一同位元素のガリウムのビームを用いて形成された合焦イオン・ビーム像を示す図である。
【図15B】近傍の走査電子顕微鏡の磁気対物レンズで形成された最大の磁界の存在下、単一同位元素のガリウムのビームを用いて形成された合焦イオン・ビーム像を示す図である。
【図16A】図1の装置に使用することのできる分離モードでの連結機構を示す図である。
【図16B】図1の装置に使用することのできる連結モードでの連結機構を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明およびその利点をより完全に理解するために、付随する図面と共に以下の説明に参照を加える。
【0019】
図1は、走査電子顕微鏡(SEM)100が搭載されたターレット(turret)98と、イオン・ビーム・カラム(FIB)102と、光学顕微鏡105と、1個または複数のガス注入装置(GIS)110と、およびSEM100のレンズによって収集された電子および一次電子ビーム軸から偏向する電子を検出する電子検出器114とを含む二重ビーム装置96の部分を示している。イオン・ビーム・カラム102は、磁気浸漬対物レンズおよび静電偏向器を有する。図2は、下から見た、すなわち試料表面から見た同じ構成要素を示している。図2には、荷電中和フラッド銃(電子銃、電子フラッド銃)204、およびイオン・ビーム・カラム102からのイオン・ビーム(一次イオン・ビーム)の衝突によって試料から発生する粒子を検出するチャンネル検出器の電子乗算器(CDEM)などの二次粒子検出器205を見ることができる。
【0020】
イオン・ビームと電子ビームが試料の同一点に向かうことが理想的であるが、イオン・ビーム・カラムと電子ビーム・カラム(SEM100)の物理的なサイズのため、それらを表面に非常に近接して配置し、同じ目標物の点に導くことができない。両方のビームが同じ点に向かうためには、一般に1つまたは両方のビームが表面から後退しなければならない。カラムを表面から後退させると、仕事距離、すなわち、カラムの最終レンズから試料表面への距離が増加する。仕事距離の増加はカラムの解像度を低下させる。
【0021】
両方のカラムに短い仕事距離を提供する好ましい実施形態では、SEM100およびFIB104からの衝突点は、例えば、約50mm互いにオフセットされる。試料は、どちらのビームが使用されているかによって試料を急速かつ正確に2つの点の間で動かす試料保持器または台(図示されていない)に搭載される。台が試料を適切なビーム・カラムの下に配置するためにX−Y面で動くとき、台は試料の表面高さの変動を補正するために垂直にも動く。それらの表面高さの変動は、例えば、半導体ウェハのねじれに起因することがある。
【0022】
容量センサ206(図2)などの高さセンサは、台が動くと試料表面の高さの変化を検出し、試料が真空チャンバ内のいかなる器具にも衝突しないよう、かついずれのビームが試料に用いられていようとも試料に合焦するように、台を上昇または降下させる。一実施形態では、容量センサ206は任意選択的な顕微鏡105の上に従来通りに搭載されまたは展延する。光学顕微鏡105は試料の一次配列に使用することができる。
【0023】
SEM100、FIB102、およびGIS110などの装置の様々な構成要素はターレット98の上に搭載され、このターレット98はサンプル真空チャンバの上部に含まれる。ターレットは、様々な開口部を含み、その上に器具を搭載することができ、または不要であれば容易に封止することができる。そのターレットを使用することによって、異なる荷電粒子ビーム装置を同じ基本装置から容易に構成することができる。例えば、異なる種類の検出器または異なる数のガス注入装置をターレットに搭載して、ゼロから完全に装置設計するまでもなく、特殊なまたは汎用性の荷電粒子ビーム装置を作製することができる。
【0024】
フラッド銃
フラッド銃からの中和電子は、電荷が累積される点、すなわち一次イオン・ビームの衝突点の近くで試料に到達することが好ましい。また、荷電中和電子は最小のエネルギーで試料に到達することが好ましい。SEM対物レンズが励起された状態に保たれる好ましい装置では、対物レンズからの磁界はフラッド銃204からの電子軌道を歪曲し、電子が中和すべき領域を見失うことがある。SEM対物レンズからの磁界は、一般に試料のビーム衝突点の近傍で約20ガウスである。SEM対物レンズの動作中に、レンズが異なる条件で合焦するように調節されるので、磁界は2倍またはそれ以上の率で変動することがある。
【0025】
SEMの対物レンズから発生する磁界は、中和電子がフラッド銃から出た後だけではなく、フラッド銃の内部で電子ビームが生成されているときも電子に影響を与える。フラッド銃は「ミュー金属(mu−metal)」材料と呼ばれる高磁化材料を用いて遮蔽することが可能であるが、それらの磁気遮蔽は真空チャンバ内の磁界を変化させ、SEMの合焦に悪い影響を与える。1つの解決はFIBビームで荷電中和を使用するときにSEMレンズを停止することであるが、上記のように、SEM対物レンズの起動、停止は装置の熱平衡を乱し、装置が熱平衡に達するまで待機する必要がある。
【0026】
好ましい実施形態は、SEM対物レンズの変動する磁界の存在下で荷電中和を可能にする2個の組合せ対策を用いてこの問題を克服する。第1の態様は磁界の影響を考慮したフラッド銃の配置と配向を含む。言い換えれば、磁界が中和電子を目標物から逸らすのではなく、目標物に向けて加速するように、フラッド銃が配置し配向される。図3は、紙面の中の方に向けた磁界302に影響されたフラッド銃204からの電子の軌道304を示している。フラッド銃204を好ましい配置と配向に配置することによって、フラッド銃からの電子は試料表面306に正しい位置、かつ角度90°で衝突する。
【0027】
磁界を補正する第2の態様は、フラッド銃を磁界の中で動作させるように設計することを含む。図4は、本発明に関して有用なフラッド銃204を示している。フラッド銃204は、加熱して電子を放出するタングステン線を含む発射ユニット404と、電子を加速し、操縦し、合焦させる操縦電極等の電子光学部品を含む加速/操縦/合焦ユニット406の2つの主要部分を含む。この操縦電極は、電子の通路を調節して磁界の変化による影響を補正するために用いられる。両方のユニットは真空チャンバ上に搭載されたブラケット408の上で支持される。フラッド銃204は、対物レンズの磁界の歪曲を低減するために非磁性材料からなることが好ましい。
【0028】
フラッド銃204は電子のビームを誘導することの可能な操縦電極を含む。ビームは平均磁界の存在で荷電中和が最大になるように最初に配向される。配向は経験的に決定することができる。磁界がSEMレンズ上で変化すると、中和ビーム中の電子軌道が変化する。次いで操縦電極の電圧を調節し、荷電中和が行われるように目標物からわずかに電子を後退させる。操縦は理想的なフラッド銃の配置と配向からの偏りを補正する。
【0029】
好ましい実施形態では、電子ビームの合焦と操縦の両方に同じ光学構成要素を使用することができる。好ましい構成は、図5に示すように4つの部分に分割される円筒形の電極要素としての静電レンズ502を含む。合焦電圧は4つの部分に等しく印加することができ、操縦電圧は対向する要素の合焦電圧の頂部に重ね合わせることができる。ビームの操縦と加速のために同じ要素を使用することによって、フラッド銃内部の電子の通路は構成要素の数を少なくすることによって短く保たれる。フラッド銃内部の電子の通路を短く保つことによって、磁界がフラッド銃のビーム中の電子に働く時間が短くなる。他の実施形態では、湾曲したフラッド銃を磁界によって湾曲したフラッド銃内の電子軌道の補正に用いることができる。
【0030】
また、フラッド銃は、フラッド銃を出る電子が目標物から逸れるよりも磁界によって目標物に向かって動くように配置されることが好ましい。フラッド銃の好ましい配置は特定の用途によって変動する。フラッド銃の好ましい配置はSEM対物レンズによって発生する磁界の三次元シミュレーションを行うこと、およびその磁界をフラッド銃内部の静電界の三次元シミュレーションと組み合わせることによって決定することができる。例えば、出願人はLondon、UK(英国、ロンドン)のMEBS Ltd.から入手可能なMunro電子ビーム・シミュレーション・ソフトウェアを用いて、様々な磁界の電子軌道をシミュレートした。SEM対物銃レンズの構成をMEBSのプログラムにインプットし、次いでプログラムは磁界を求め、フラッド銃からの電子の軌道を計算する。シミュレーションにおけるフラッド銃の配置と配向は、電子が望ましい場所に到達するまで変更することができる。
【0031】
図6および7は、垂直FIBカラム102および試料600、例えば300mmシリコン・ウェハ上のFIB目標物から約50mmの点に向けられた45°に配向されたSEMカラム100を有する、一実施形態におけるフラッド銃204および他の構成要素の好ましい配向を示している。SEMカラム100の対物レンズは目標点から約1.4mmに配置される。図6は、下方から、すなわち頁の中に向かって展延するイオン・ビーム・カラム102の軸で見た様々な構成要素を示している。図7は、図6の装置の部分断面図を示している。図6は、フラッド銃204が、垂直面、すなわち下方から見て、SEM100を含む垂直面から時計方向に90°の面に配置されるのが好ましいことを示している。
【0032】
図7は、フラッド銃204が水平から好ましくは約40°の角度702で配向され、フラッド銃の末端部が目標物から約8mmの距離704に配置されていることを示している。また図6は、SEMの対物レンズによって収集され、次いで軸から逸れてシンチレーター(scintillator、蛍光体)へ向かう電子を検出する二次電子収集デバイスとしての二次粒子検出器205の部分を示しており、シンチレーターは次いで電子を光に変換し、次いで光は真空チャンバから光導管を経由して検出器へ導出される。
【0033】
FIB用二次粒子検出器
FIB装置は一般に一次イオン・ビーム中のイオンが試料に衝突するときに発生する二次粒子を検出する、チャンネル検出電子乗算器(CDEM)などの二次粒子検出器205を含む。一般に、それらの粒子検出器は、収集器に印加された電圧次第で電子またはイオンのいずれも検出することができる。
【0034】
SEMの対物レンズの磁界に起因する他の問題は、目標物から放射された二次粒子のいくつかが二次粒子検出器の入力から逸れることである。図8は、イオン・ビーム・カラム102、粒子検出器205、および二次電子の軌道802を示す荷電粒子のシミュレーションである。粒子検出器205は、電子を誘引するために正の電位に保持されたスクリーン804、および電子が検出器205に入る導入部806を含む。図8は、SEM対物レンズからの磁界の存在下、一次ビームのイオンの衝突によって試料表面で発生する電子の大部分が導入部806に入らず、したがって検出されないことを示している。
【0035】
問題は、対物レンズの磁界が二次粒子の軌道を検出器の導入部の方へ曲げるように、二次粒子検出器を効果的に配置することによって解決される。検出器の理想的な配置および配向は、上記のフラッド銃の位置を配置したのと同じようにシミュレーションを用いて決定することができる。図9は、検出器を適切に配置し配向することによって、一次イオン・ビーム902によって発生した二次粒子が軌道904に追随して、二次粒子を磁界302の存在下で検出器205の導入部に導くことを示している。図10はFIB102からの一次イオン・ビームの衝突によって発生した電子の軌道1002を示すシミュレーションである。図10は、粒子のすべてが粒子検出器の導入部806に入ることを示している。
【0036】
図6は、二次粒子検出器205が、SEMの光学軸を含む縦の面に直角な縦の面に配置されるのが好ましいことを示している。フラッド銃が存在する場合、粒子検出器はフラッド銃と同じ縦の面ではあるが装置の反対側に配置される。すなわち、粒子検出器はSEMを含む半分の面から90°(上方から見て)時計回り方向に回転した半分の面にある。図7は粒子検出器が試料表面から約30°の角度710に配向され、検出器が試料600の表面の上約0.6mmの距離712に配置されることを示している。FIBカラム102は表面600の上約16mmの距離720に配置される。
【0037】
他の実施形態では、二次粒子検出器810(点線の外形で示されている)は、図8に示すように二次粒子が検出器に入るであろう場所に配置することができるが、一方この配置は、フラッド銃が装置に存在する場合に物理的にそれの妨げになることがある。
【0038】
SEM
好ましい実施形態の一態様は、焦点を変化させるために磁界を調節しても熱の徴候(signature)が比較的一定のSEM対物レンズを使用することである。一定の熱の徴候とは、全エネルギーの放散が時間的に略一定であるばかりでなく、レンズのすべての空間的な配置での出力放散も時間的に略一定であることを意味する。それらのSEM対物レンズは、Bierhoff等の「改善された磁気レンズ(Improved Magnetic Lens)」の名称で2003年7月14日出願された譲受人の共出願に記載されており、これは参照して本明細書に組み込まれている。対物レンズは、どのビームを使用するかにかかわらず、SEM対物レンズを通って流れる電流を略一定にして励起状態を維持し、冷やされた冷却水を常に流してレンズを冷却することが好ましい。装置は熱平衡状態に保たれ、装置が安定化するのを待機することが省かれる。
【0039】
図11は好ましいSEMカラム100を示す。SEMは上記で参照した特許出願の磁気対物レンズ1104を含み、静電偏向器1106を使用することが好ましい。静電偏向器を使用することによって電子ビームおよびイオン・ビームの両方を同じ機構を用いて制御することが可能になり、装置の運転がより容易になる。また、静電偏向器は高速走査を可能にし、磁気偏向器の熱変動が起きない。磁気偏向器を使用する場合、顕微鏡の倍率を変更するときに磁気偏向器の電流を変化させることが必要であろう。偏向器の電流変化は熱出力を変化させ、装置の安定性に悪い影響を与えるであろう。
【0040】
イオン・ビーム
また、SEMレンズの磁界は一次イオン・ビームのイオンの軌道にも影響を与える。従来のようにしてイオン・ビームを操縦し、磁界による位置の移動を補正することは可能であるが、ビームの解像度は磁界の存在下で低下する。出願人は単一同位元素のガリウムの液体金属イオン源を使用することによって、イオン・ビーム装置の解像度が高まることを見出した。
【0041】
天然に産出するガリウムは二重同位元素である。すなわち、2種類の同位元素の混合物であって、天然産出のガリウムの約60パーセントの原子を含む1つの同位元素は原子量が約69であり、天然産出のガリウムの約40パーセントの原子を含む第2の同位元素は原子量が約71である。2種類の同位元素は強い磁界の中で偏向が異なるので、異なる同位元素は2つのビームに分離し、わずかにずれた点で目標物に衝突する。この「二重点(double spot)」は像品質を低下させ、微細加工の解像度を悪くする。
【0042】
図12は、SEM対物レンズから発生する磁界302の中での、原子量約71のガリウム・イオン1202および原子量約69のガリウム・イオン1204の通路を示している。磁界302は紙面の中に向かう方向である。図13Aおよび13Bは、SEM対物レンズの磁界の存在下で、液体金属イオン源ガリウムからの天然産出の二重同位元素のガリウム・イオンを使用して形成したFIB像を示している。図13Aにおいて磁界の強度は最小であり、像は比較的シャープである。図13Bにおいて磁界の強度は最大であり、像は明らかにボケている。
【0043】
図14は図12と似ているが、単一同位元素のガリウムの使用を示している。2種類の同位元素のいずれも使用することができよう。単一同位元素のガリウムは飛行時間質量分析器(time−of−flight mass spectrometer)に使用されているので、容易に入手可能である。図14は単一同位元素で単一のビームが存在することを示している。図15Aおよび15Bは、SEM対物レンズの磁界の存在下で、ガリウムの液体金属イオン源からの単一同位元素のガリウム・イオンを使用して形成したFIB像を示している。図15Aにおいて磁界の強度は最小であり、像は比較的シャープである。図15Bにおいて磁界の強度は最大であり、像はやはりシャープである。
【0044】
ビーム到達の位置は磁界強度の変化によって変化するが、位置の変化はイオン・ビーム操縦光学系を使用することによって補正することができる。どちらの像にもボケはない。単一同位元素は飛行時間質量分析器に使用されてきたが、出願人の知識によれば、ガリウム・イオン・ビームに与える磁界の作用に起因する問題解決のために単一同位元素が二重ビーム装置に使用されたことはない。図7はFIBが試料600の表面上16mmの距離714に配置されることを示している。
【0045】
ロード・ロック装置
製造環境の中では、作業者が試料を二重ビーム装置に迅速に出し入れできることが好ましい。イオンおよび電子ビームは真空チャンバ内で操作されるので、試料を取り出しまたは挿入するためにチャンバを開き、次いで装置を再び排気することが必要である。排気プロセスは時間を消費する。
【0046】
図16Aおよび図16Bは、主真空装置1606から分離して封止および排気することのできる「エアロック(airlock)」チャンバ1604を使用する好ましい装置1602を示している。排気された主装置の真空チャンバ1606で装置1602を運転している間に、試料はエアロック・チャンバ1604の中に挿入することができる。エアロック・チャンバ1604が排気された後、それを主装置の真空チャンバ1606に開いて、主装置の真空チャンバ1606を大気に開放する必要なく、2つのチャンバの間で試料を交換することができる。ロボット腕(ロボット搬送腕)1608はウェハ1609などの試料をエアロック・チャンバ1604中のウェハ保持具(示されていない)上に装填する。枠1612は主真空チャンバおよびロボット腕1608を支持する。
【0047】
エアロック・チャンバ1604は、新しい試料と完成された試料を保持できるように、少なくとも2個の試料を収容することが好ましい。エアロック・チャンバ1604は、それを排気するのに必要な時間を短くするために小さな容積を有することが好ましい。
【0048】
SEMおよびFIBの高い解像度は装置を振動に対して敏感にする。イオンおよび電子ビーム・カラムが搭載される浮遊部分としての主真空チャンバ1606は、床からの振動の伝播を止めるため、装置枠1612上の空圧シリンダー1610の上に「浮遊(float)」する。一般に、装置1602は、真空チャンバ1606装置が浮遊するとき水平であるように、空圧シリンダー1610中の空気を調節する自動水平機(示されていない)を含む。エアロック・チャンバ1604に試料を出し入れするには、ロボット腕1608が試料をエアロック・チャンバ1604中に正確に配置しまたは持ち上げて取り出すことができるように、主真空チャンバ1606の「浮遊を止め(unfloat)」、エアロック・チャンバ1604を正確に位置決めすることが必要である。従来技術では、一般にこの位置決めは主チャンバ1606を支持する空圧シリンダー1610の空気を抜くことを伴った。空圧シリンダー1610の空気を抜くには時間がかかる。
【0049】
好ましい実施形態では、空圧シリンダー1610の空気を抜いて、主チャンバ1606を嵌合い位置に降下させるのではなく、嵌合い位置に上昇させる。チャンバは、例えば、空圧または油圧シリンダー1620、電動機、または他の手段を用いて上昇させることができる。主チャンバ1606は、例えば、主真空チャンバ1606上に搭載された第1の嵌合い構造(第2の嵌合部分)1622、および枠1612(固定部分)の上に搭載された第2の嵌合い構造(第1の嵌合表面)1624の2個の嵌合い構造を使用することによって位置決めされる。
【0050】
例えば、浮遊する主チャンバに搭載された1個または複数のエーコン・ナット(acorn nut)が固定装置枠に搭載された1個または複数の嵌合い孔に挿入される。他の位置決め構造は良く知られている。浮遊部分が上昇すると、エーコン・ナットは孔に挿入され、主チャンバを三次元で位置決めする。エアロックが主真空チャンバに位置決めされると、枠に搭載されたロボット腕1608は試料をエアロックの中へ動かし、ウェハをエアロックから取り出すことができる。自動水平機を停止し、エアロックの傍の主チャンバの側だけを上昇させることが好ましい。一方の側だけを動かすことによる主チャンバの僅かな角度は試料の移送を妨害しない。試料を移送した後、主チャンバはシリンダー1620によって開放され、空圧シリンダー1610の上に戻って固定され、自動水平機を起動し、装置の運転を継続することができる。「上方(up)」の位置で合体することによって、空圧シリンダーの空気を抜き、次いで空気を満たすことが不要になるので、大きな時間の節約になる。
【0051】
本発明およびその利点を詳細に説明したが、付随する請求項で定義された本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変形、置換、および変更を本明細書に加えることができることを理解すべきである。さらに、本出願の範囲は、本明細書に記載したプロセス、機械、製造、物質の組成、手段、方法および工程の特定の実施形態に制限されるものではない。当分野の通常の技術者であれば、本発明の開示から、現在存在しまたは後に開発される、本明細書に記載された実施形態に対応する実質上同一の機能を実施し、または同一の結果が得られるプロセス、機械、製造、物質の組成、手段、方法および工程を本発明に従って使用できることを容易に認識するであろう。したがって、付随する請求項はそれらのプロセス、機械、製造、物質の組成、手段、方法および工程をその範囲に含むものである。
【符号の説明】
【0052】
96 二重ビーム装置
98 ターレット
100 走査電子顕微鏡
102 イオン・ビーム・カラム
104 FIB
105 光学顕微鏡
110 ガス注入装置(GIS)
114 電子検出器
204 荷電中和フラッド銃
205 二次粒子検出器
206 容量センサ
302 磁界
304 電子の軌道
306 試料表面
404 発射ユニット
406 加速/操縦/合焦ユニット
408 ブラケット
502 静電レンズ
600 試料
702、710 角度
712、720 距離
802 二次電子の軌道
804 スクリーン
806 導入部
810 二次粒子検出器
902 一次イオン・ビーム
904 軌道
1002 電子の軌道
1104 磁気対物レンズ
1106 静電偏向
1202 原子量約71のガリウム・イオン
1204 原子量約69のガリウム・イオン
1602 好ましい装置
1606 主真空装置
1604 エアロック(air lock)チャンバ
1608 ロボット腕
1609 ウェハ
1610 空圧シリンダー
1612 装置枠
1620 シリンダー
1622 嵌合い構造
1624 第2の嵌合い構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次イオン・ビームを発生するイオン・ビーム・カラムと、
焦点を変化させるときに、レンズを構成する各部におけるエネルギー放散が時間的に略一定である磁気対物レンズを有する電子ビーム・カラムと、
を備える二重ビーム装置。
【請求項2】
前記一次イオン・ビームによって発生した二次粒子を収集する二次電子収集デバイスをさらに備え、
前記電子ビーム・カラムの磁界が二次電子を前記二次電子収集デバイスへ操縦することを助けるように前記二次電子収集デバイスが配置されている請求項1に記載の装置。
【請求項3】
荷電中和電子を提供する電子銃をさらに備え、
前記電子銃は、前記電子ビーム・カラムの磁界が、合焦された前記イオン・ビーム・カラムの目標点に向けて、前記荷電中和電子を加速するように、配置と向きが設定され、
前記電子銃は、前記荷電中和電子の通路を調節して前記電子ビーム・カラムの磁界の変化による影響を補正するための操縦電極を有する請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記電子銃が、電子ビームを合焦し操縦する4個の電極要素を有する請求項3に記載の装置。
【請求項5】
合焦した前記イオン・ビーム・カラムが、単一同位元素のガリウム・イオン源を有する請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記イオン・ビーム・カラムが、集束したイオン・ビーム・カラムである請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記イオン・ビーム・カラムが、成形したイオン・ビーム・カラムである請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記イオン・ビーム・カラムが、磁気浸漬対物レンズおよび静電偏向器を有する請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記イオン・ビーム・カラムおよび前記電子ビーム・カラムがその上に搭載される浮遊部分と、
前記浮遊部分に搭載されるエアロックと、
固定部分の上に搭載されたロボット搬送腕と、
前記浮遊部分が上昇するときに、嵌合表面が前記浮遊部分を前記固定部分に位置決めして前記ロボット搬送腕が試料を前記エアロックへ、あるいは、前記エアロックから移動可能なように前記嵌合表面が配向された、前記固定部分上の第1の嵌合い構造および前記浮遊部分上の第2の嵌合い構造と、
前記浮遊部分を上昇させ、前記固定部分に位置決めして合体させる手段とをさらに含む請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記磁気対物レンズは、水で冷却される請求項1に記載の装置。
【請求項11】
焦点を変化させたときに、前記磁気対物レンズに流れる電流が実質的に一定に保たれる請求項9に記載の装置。
【請求項12】
前記イオン・ビーム・カラムがイオンの衝突点を有し、前記電子ビーム・カラムが電子の衝突点を有し、前記イオンの衝突点および前記電子の衝突点がオフセットされており、試料上の目標点を前記二つの衝突点の間で正確に移動させる移動可能な台をさらに備える請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記目標点が複数の前記二つの衝突点の間で移動したときに、前記試料の表面の高さの変化を検出し、前記試料に合焦するように前記台を上昇あるいは降下させる高さセンサをさらに備える請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記イオン・ビーム・カラムおよび前記電子ビーム・カラムが搭載されたターレットをさらに含み、
前記ターレットは、構成要素を搭載可能な複数の開口部を有し、
前記開口部は、不使用時に封止可能である請求項1に記載の装置。
【請求項15】
前記ターレットに搭載されたガス注入装置をさらに備える請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記電子銃は非磁性材料からなる請求項3に記載の装置。
【請求項17】
前記電子ビーム・カラムは、第1の垂直面に配置され、前記電子銃は第2の垂直面に配置されており、下方から見て前記第2の垂直面は、前記第1の垂直面から時計回り方向に90°向いており、
前記電子ビーム・カラムの対物レンズの磁界が、前記電子銃からの前記電子を前記試料の方へと誘導し、
前記第1および第2の垂直面は、試料表面に対して垂直な面である請求項3に記載の装置。
【請求項18】
二次電子検出器をさらに備えており、
前記二次電子検出器は、前記電子銃を含む垂直面であって、前記電子銃からは前記電子ビーム・カラムの反対側に配置されており、
前記電子銃を含む垂直面は、試料表面に対して垂直な面である請求項17に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16A】
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【図16B】
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【公開番号】特開2011−210740(P2011−210740A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163178(P2011−163178)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【分割の表示】特願2004−206750(P2004−206750)の分割
【原出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(501419107)エフ・イ−・アイ・カンパニー (78)
【Fターム(参考)】