説明

二重特異性抗体

単一のポリペプチド鎖上に2つの抗体可変ドメインを含む二重特異性抗体であって、二重特異性抗体の第一部分が、ヒト免疫エフェクター細胞上のエフェクター抗原に特異的に結合することによりヒト免疫エフェクター細胞の活性を補充(recruiting)する能力があり、該第一部分は1つの抗体可変ドメインからなり、かつ、二重特異性抗体の第二部分が、エフェクター抗原以外の標的抗原に特異的に結合し、該標的抗原が該ヒト免疫エフェクター細胞以外の標的細胞上にあり、かつ該第二部分は1つの抗体可変ドメインを含む、二重特異性抗体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体の分野に関する。具体的には、本発明は、単一のポリペプチド鎖上に2つの抗体可変ドメインを含む二重特異性抗体に関する。本発明はさらに、薬学的組成物の調製のための、そのような二重特異性抗体の使用に関する。本発明はさらに、そのような二重特異性抗体の有効量の投与を含む疾患の予防、治療または改善のための方法に関する。最後に、本発明は、そのような二重特異性抗体を含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
異なる特異性の2つの抗原結合部位を単一構築物へ一体化しているので、二重特異性抗体は、優れた特異性で2つの別個の抗原を引き合わせる能力を有し、それゆえに、治療剤として大きな可能性をもつ。この可能性は、早くから認識され、そのような二重特異性抗体を得るためのいくつかのアプローチへと導いた。二重特異性抗体は、当初は、それぞれが異なる免疫グロブリンを産生する能力がある、2つのハイブリドーマを融合することにより作製された。結果として生じたハイブリッド-ハイブリドーマ、すなわち、クアドローマは、第一の親ハイブリドーマの抗原特異性、ならびに第二の親ハイブリドーマの抗原特異性を有する抗体を産生する能力があった(Milstein et al., 1983. Nature 305, 537)。しかしながら、クアドローマによって生じる抗体は、しばしば、Fc抗体部分の存在により望ましくない性質を示した。
【0003】
主としてそのような問題点のため、試みは後に、完全な免疫グロブリンに存在するFc部分を削除すると同時に、2つのscFv抗体断片を連結することによって生じる抗体構築物を作製することに焦点を合わせた。そのような構築物における各scFvユニットは、合成ポリペプチドリンカーを介してお互いと連結した、重(VH)抗体鎖および軽(VL)抗体鎖のそれぞれからの1つの可変ドメインで構成されるが、後者はしばしば、タンパク分解に対して最大限に抵抗性のままでありながら、最小限に免疫原性であるように遺伝子操作される。それぞれのscFvユニットは、2つのscFvユニットを架橋する短い(通常には、10アミノ酸未満の)ポリペプチドスペーサーの組み入れを含むいくつかの技術により連結され、それにより二重特異性一本鎖抗体を作製した。結果として生じた二重特異性一本鎖抗体は、それゆえに、単一のポリペプチド鎖上に異なる特異性の2つのVH/VL対を含む種であり、それぞれのscFvユニットにおけるVHおよびVLドメインは、これらの2つのドメイン間の分子内結合を可能にするのに十分長いポリペプチドリンカーにより分離されており、かつこのように形成されたscFvユニットは、例えば、一方のscFvユニットのVHドメインと他方のscFvユニットのVLの間の望ましくない結合を防ぐのに十分短く保たれたポリペプチドスペーサーを通してお互いに隣接して繋がれている。
【0004】
上記の一般的な型の二重特異性一本鎖抗体は、4つのVドメインをコードするヌクレオチド配列、2つのリンカーおよび1つのスペーサーが、単一のプロモーターの制御下で、適した宿主発現生物体へ組み入れられうるという利点をもつ。これは、これらの構築物が設計されうる柔軟性、加えて、それらの生産中の実験者制御の程度を増加させる。
【0005】
注目に値する実験結果が、悪性腫瘍(Mack, J. Immunol. (1997) 158, 3965-70; Mack, PNAS (1995) 92, 7021-5; Kufer, Cancer Immunol. Immunother. (1997) 45, 193-7; Loffler, Blood (2000) 95, 2098-103)および非悪性疾患(Bruhl, J. Immunol. (2001) 166, 2420-6)の治療のために設計された、そのような二重特異性一本鎖抗体を用いて得られた。そのような二重特異性一本鎖抗体において、一方のscFvユニットは、免疫系内の細胞傷害性細胞、例えば、細胞傷害性細胞上の抗原と特異的に結合することにより、細胞傷害性T細胞を活性化する能力があり、他方のscFvユニットは、破壊を意図された悪性細胞上の抗原に特異的に結合する。このようにして、そのような二重特異性一本鎖抗体は、病的な、特に悪性細胞の破壊へと免疫系の細胞傷害性潜在能力を活性化し、かつ向け直すことが示された。そのような二重特異性一本鎖抗体構築物の非存在下においては、さもなくば悪性細胞は、抑制されずに増殖するであろう。
【0006】
しかしながら、二重特異性一本鎖抗体は、追加の必要条件を満たさなければならない。所望の活性に達するために、二重特異性一本鎖抗体の各scFvユニットは、正しく折り畳まれたままであるべきであるが、大腸菌のような通常の細菌発現系においてしばしば実現できないことがわかっている。より通常ではなく、より扱いにくく、より高価な真核生物の、哺乳動物までもの発現系を用いる必要性は、しばしば、二重特異性一本鎖抗体の生産を複雑にし、かつ/または、得ることができる産物の量を治療的適用のために望まれるものより低いレベルにまで低減させる。
【0007】
二重特異性抗体が治療的使用を目的とする場合において、大量のこの抗体を可溶性でかつ所望の機能性型において生産することが望ましい。機能的活性のある抗体の生産は、1つの部分がヒト免疫エフェクター細胞の細胞傷害性潜在能力を活性化し、かつ補充(recruiting)することができる二重特異性抗体を生産する場合、特に重要になる。例えば、機能的活性を欠いている産生された抗体は、ヒト免疫エフェクター細胞の所望の活性化をもたらさないが、機能的活性のある二重特異性抗体は、例えば二重特異性抗体が複数のアイソマーを含む不均一な型で生産される場合であるような、所望の様式ではないが、予測不可能なおよび/または意図されたものではない様式で、ヒト免疫エフェクター細胞の細胞傷害性潜在能力を活性化しかつ補充しうる。
【0008】
上で述べられた、意図されたものではない活性化の種類の一つの例は、破壊を意図された標的細胞の代わりに他のヒト免疫エフェクター細胞へ効果を発揮しうるヒト免疫エフェクター細胞の活性化の可能性である。この型の免疫エフェクター細胞の相討ちは、ヒト免疫エフェクター細胞の活性に依存する治療法の有効性を危うくしうる。
【0009】
しかしながら、大腸菌のような原核生物発現系からの大量の機能性一本鎖抗体、特に大量の機能性二重特異性一本鎖抗体の信頼できる生産は、費用のかかる最適化を必要とするため、しばしば、制限される(Baneyx 1999. Curr Op in Biotechnol 10, 411-21)。
【0010】
要約すれば、二重特異性抗体構築物は、罹患細胞の破壊を達成しうる身体自身の免疫系の強力な潜在能力を向け直すことにおいて、大いに治療的に有益でありうる。しかしながら、同じ理由によって、望まれていない細胞を撲滅するまたは中和するそのような強力な手段の活性化は、この力が、免疫系の細胞傷害性潜在能力が、意図された、かつ他ではない方向においてのみ補充および適用されるように、できる限り正確に制御されることを必要とする。
【0011】
明らかに、二重特異性一本鎖抗体の1つの特定の結合アームがヒト免疫エフェクター細胞、例えば、細胞傷害性T細胞の活性を補充することができる場合、上記のような制限を克服する二重特異性一本鎖抗体についての、特に高まりつつあり、かつ今までのところ満たされていない必要性が存在する。
【発明の開示】
【0012】
本発明者らは、上記の制限が、単一のポリペプチド鎖上に2つの抗体可変ドメインを含む二重特異性抗体で克服されうることを見出した。ここで、二重特異性抗体の第一部分は、ヒト免疫エフェクター細胞上に位置したエフェクター抗原に特異的に結合することによりヒト免疫エフェクター細胞の活性を補充する能力があり、その第一部分が1つの抗体可変ドメインからなり、かつ、二重特異性抗体の第二部分は、エフェクター抗原以外の標的抗原に特異的に結合する能力があり、その標的抗原がそのヒト免疫エフェクター細胞以外の標的細胞上に位置していて、かつその第二部分が抗体可変ドメインを含む(本発明の第一局面)。
【0013】
本発明の第一局面の一つの態様により、二重特異性抗体の第二部分は、2つの抗体可変ドメインを含む。
【0014】
本発明の第一局面のもう一つの態様により、二重特異性抗体の第二部分は、1つの抗体可変ドメインを含む。
【0015】
本発明の第二局面は、単一のポリペプチド鎖上に2つの抗体可変ドメインを含む二重特異性抗体を提供し、ここで、二重特異性抗体の第一部分は、ヒト免疫エフェクター細胞上に位置するエフェクター抗原に特異的に結合することによりヒト免疫エフェクター細胞の活性を補充する能力があり、その第一部分が抗体可変ドメインを含み、かつ、二重特異性抗体の第二部分は、エフェクター抗原以外の標的抗原に特異的に結合する能力があり、その標的抗原がそのヒト免疫エフェクター細胞以外の標的細胞上に位置していて、かつその第二部分が1つの抗体可変ドメインからなる。
【0016】
本発明の第二局面の一つの態様により、二重特異性抗体の第一部分は、2つの抗体可変ドメインを含む。
【0017】
最小の形態において、本発明による二重特異性抗体における抗体可変領域の総数は、このように、2つのみである。ここで、2つの可変ドメインではなく、むしろ1つのみの可変ドメインが、対象となる各抗原に特異的に結合するために必要である。本発明の二重特異性抗体は、従って、4つの抗体可変ドメインを含む従来の二重特異性一本鎖抗体のサイズの約半分である。
【0018】
本発明の二重特異性抗体の分子設計における、より高い単純さは、機能的活性型でのそれの生産に用いられる宿主発現系における、より高い可能性のある単純さに相関する。このように、本発明の二重特異性抗体の小さなサイズは、4つの抗体可変ドメインをもつ従来の二重特異性一本鎖抗体に対してこれまで閉ざされていた生産の手段を開く。例えば、本発明の二重特異性抗体は、治療的適用に望まれる量で、大腸菌のような通常の、よく理解され、かつ安価な細菌発現系で容易に生産されうる。
【0019】
生産性の増加は、少なくとも2つの高度に有利な効果をもつ。第一に、4つの抗体可変ドメインをもつ一本鎖二重特異性抗体について以前に可能であったものよりも、バッチあたり、より大量の本発明の二重特異性抗体が機能型として生産される可能性があり、生産においてより大きな効率性、かつ最終的には、節約を可能にする。第二に、4つの抗体可変ドメインをもつ二重特異性構築物の低い細胞傷害性活性が、今や、本発明の二重特異性抗体を用いる有効な治療剤のより多い量により補われうるため、本発明の二重特異性抗体の型式における多数の構築物は、今や、治療用候補として考えられうる。それにより、本発明の二重特異性抗体についての可能性のある治療的適用の範囲は、4つの抗体可変ドメインをもつ一本鎖二重特異性抗体のそれと比較して拡大される。
【0020】
同時に、分子設計におけるより少ない複雑性もまた、望ましくない分子間結合が起こりうるより少ない可能性と相関する。すなわち、本発明の二重特異性抗体は、4つの抗体可変ドメインをもつ一本鎖抗体型について可能であるものよりも均一に生産されうる。上で説明されているように、生産物不均一性は、免疫エフェクター細胞へ結合する能力がある二重特異性抗体から予想されうる治療の予後および/または製品安全性プロフィールを脅かしうる。本発明の二重特異性抗体における抗体可変ドメインの数を減少させることは、分子間結合についての可能性のあるパートナーの数を減少させる。これは、分子間結合が起こりうる経路を排除する。従って、意図されていない様式で宿主免疫応答を起動させうる分子間結合生成物の形成を最小限にするか、または消失させるまでにすると同時に、意図された治療のプロフィールを保持する二重特異性抗体が得られる。
【0021】
一つの態様において、本発明の二重特異性抗体の第二かまたは第一のいずれかの部分が、上記のように2つの抗体可変ドメインを含む場合、これらの2つの抗体可変ドメインは、お互いに結合しているVHおよびVLドメインである。しかしながら、第二かまたは第一のいずれかの部分に含まれる2つの抗体可変ドメインが、お互いに結合している2つのVHドメインまたは2つのVL領域でありうることも企図される。第一または第二部分の2つの抗体可変ドメインがお互いに共有結合性に結合している場合において、2つの抗体可変ドメインは、scFv断片として設計されてよく、2つのドメインは、これらの2つのドメイン間に分子間結合を可能にするのに十分長いペプチドリンカーによりお互いから分離されていることを意味する。この目的に適したリンカーの設計は、先行文献に、例えば、登録された欧州特許第623679 B1号、米国特許第5258498号、欧州特許第573551 B1号および米国特許第5525491号に記載されている。
【0022】
換言すれば、本発明のこの態様による二重特異性抗体は、合計3つの抗体可変ドメインをもつ構築物である。ここで、1つの抗体可変ドメインが、単独で、すなわち、もう一つの抗体可変ドメインと対形成されることなく、(a)ヒト免疫エフェクター細胞上のエフェクター抗原へ特異的に結合することによりヒト免疫エフェクター細胞に特異的に結合するか、または標的細胞に特異的に結合し、一方、残りの2つの抗体可変ドメインは共に、(b)標的細胞上の標的抗原 へ特異的に結合するか、またはそれぞれヒト免疫エフェクター細胞上のエフェクター抗原へ特異的に結合することによりヒト免疫エフェクター細胞へ特異的に結合する。
【0023】
本発明者らは、二重特異性抗体における3つの抗体可変ドメインの存在が独特な利点を伴うことを見出した。しばしば、標的抗原に対する所望の結合特異性を示すscFvは、もはや既知で最適化されており、その2つの抗体可変ドメインの1つを削除することは、その結合特性を消失させるか、または少なくとも弱める。そのようなscFvは、本発明の本態様による二重特異性抗体の部分を構成しうる。具体的には、そのような3ドメイン抗体は、そのエフェクター抗原かまたは標的抗原のいずれかを与える部分としてscFv全体を有利に含みうる。
【0024】
そこで、効果的には、本発明の本態様は、scFvのような同じポリペプチド鎖への1つのみの追加の抗体可変ドメインの単純な組み入れにより、二重特異性抗体が望ましいscFvを出発として形成されるのを可能にし、組み入れられた1つの追加の抗体可変ドメインは、scFvのものとは異なる抗原結合特異性をもっている。
【0025】
これに関連して、本態様による3ドメイン二重特異性一本鎖抗体を形成しうる第三の抗体可変ドメインのそのような組み入れは、本発明の2ドメイン二重特異性抗体についての上記と同一、または実質的に同一の生産特性へ導くことを見出した。例えば、4つの抗体可変ドメインをもつ二重特異性抗体について上で列挙された低収量、複雑な発現系への制限、不均一な生産物などのような問題は、この態様により3ドメイン二重特異性抗体を発現させる場合には、わずかであるか、または問題が無い。
【0026】
そこで、本発明のこの態様による、かつ3つを超えない抗体可変ドメインを含む二重特異性抗体は、研究者がscFv構築物のような既存の結合分子を用いることをなお可能にしながら、高収量の均一な生産が可能である、抗体可変ドメインの数における上限を表しているように思われる。このように、この態様による分子構造は、最小型における本発明の二重特異性抗体に関連した利点をなお与えると同時に、研究時間および資源における節約を可能にする。
【0027】
本発明のさらなる態様によれば、本発明による、または本発明の上記態様のいずれかによる二重特異性抗体の第一および第二部分は、第一部分のC末端を第二部分のN末端と、または第二部分のC末端を第一部分のN末端と、いずれかで共有結合性に(すなわち、ペプチド的に)連結する、合成ポリペプチドスペーサー部分によりお互いから分離されうる。このように、この態様による二重特異性抗体の部分は、N-(第一部分)-(第二部分)-Cか、またはN-(第二部分)-(第一部分)-Cのいずれかとして並列されうる。
【0028】
用語「ヒト免疫エフェクター細胞」とは、活性化された場合、標的細胞の生存度において変化を引き起こすことができる、ヒト免疫系における細胞の天然のレパートリー内の細胞を指す。用語「標的細胞の生存度」とは、本発明の範囲内において、生存する、増殖するおよび/または他の細胞と相互作用する標的細胞の能力を指しうる。そのような相互作用は、直接的に、例えば標的細胞が別の細胞と接触する場合、または、間接的に、例えば、標的細胞が別の遠位の細胞の機能に影響を及ぼす物質を分泌する場合のいずれかでありうる。標的細胞は、ヒトに対して内在か、または外来かのいずれかでありうる。細胞がヒトに内在する場合において、標的細胞は、有利には、悪性細胞になる転換を起こした細胞である。内在の細胞は、さらに、病理学的に改変された本来の細胞、例えば、ウイルス、プラズモディウムまたは細菌のような生物体に感染した内在の細胞でありうる。細胞がヒトに対して外来である場合において、標的細胞は、有利には、侵入している病原体、例えば、侵入している細菌またはプラズモディウムである。
【0029】
本発明のさらなる態様により、第一および/または第二部分の抗体可変ドメインは、同一または別々の動物種由来でありうる。これは、二重特異性抗体の各部分について、最適な抗体可変ドメインが、特定のエフェクターおよび/または標的抗原に対して最良の抗体を生じることが公知の動物種由来であるように選択されうるという利点をもつ。このように、この態様は、研究者が、本明細書に記載されているような二重特異性抗体を開発するにおける作業の流れの効率が最大となるように、公知の、開発された、および/または最適化された特異性を利用することを可能にする。
【0030】
一つの好ましい態様において、二重特異性抗体の第一および/または第二部分は、独立して、霊長類、齧歯類、核脚亜目、または軟骨魚において産生される抗体由来である。
【0031】
この態様による二重特異性抗体の第一および/または第二部分は、天然に存在するかまたは遺伝子操作されているかのいずれかでありうる。または、天然に存在する抗体の部分が、さらなる遺伝子操作が行われる基質として用いられ、最終的には、この態様による二重特異性抗体の第一または第二部分に用いる抗体の天然に存在する部分の誘導体を生じることは、本態様の範囲内である。
【0032】
二重特異性抗体の第一および/または第二部分が齧歯類由来である場合において、その第一および/または第二部分は、有利には、独立して、マウスまたはラット抗体由来でありうる。このように、本発明のこの態様による二重特異性抗体を開発および/または最適化しようとしている者は、関連したヒト抗原を結合する公知のマウスおよびラット抗体配列の、既存の、かつ高度に多様な範囲から利益を得ることができる。
【0033】
霊長類抗体が二重特異性抗体の第一および/または第二部分の基礎として用いられる場合において、その第一および/または第二部分は、有利には、独立して、ヒト抗体由来である。公知のヒト抗体のますます増加する多様性から利益を得ることの他に、ヒト抗体可変ドメインの使用は、結果として生じる二重特異性抗体が、ヒト患者における治療法の一部として投与される場合、免疫原性応答をほとんど誘発しないか、または全く誘発しないというさらなる利点を伴う。そのような二重特異性抗体は、従って、特にヒトに用いる治療剤として適している。
【0034】
核脚亜目由来抗体可変ドメインが本発明のこの態様による二重特異性抗体の第一および/または第二部分に用いられる場合において、その第一および/または第二部分は、有利には、独立して、ラクダ、ラマまたは/およびヒトコブラクダ由来でありうる。そのような「ラクダ科」抗体のこの使用は、本発明のこの態様による二重特異性抗体を開発または最適化しようとしている研究者が、これらの種により産生されることが公知の抗体の固有型を利用することを可能にする。これらの種は、すなわち、たった1つの可変ドメインの高親和性抗体を産生することが知られている。核脚亜目抗体が、二重特異性抗体の第一および/または第二部分における抗体可変ドメインの供給源として用いられる場合において、VHHドメインまたはその改変された変異体を用いることが有利である。
【0035】
用語「VHH」は、いわゆる「ラクダ科」抗体の重鎖の可変領域を表す。ラクダ科抗体は、重鎖を含むが、軽鎖を欠く。それとして、そのようなラクダ科抗体由来のVHH領域は、これらの種における対象となる抗原に特異的に結合するために必要とされる最小限の構造要素を表す。ラクダ科VHHドメインは、高親和性で抗原に結合し(Desmyter et al. 2001. J Biol Chem 276, 26285-90)、かつ溶液において高安定性をもつ(Ewert et al. 2002. Biochemistry 41, 3628-36)ことが見出されている。
【0036】
二重特異性抗体のその第一および/または第二部分が軟骨魚由来である場合において、その軟骨魚は、有利には、サメである。
【0037】
齧歯類または霊長類抗体が、本発明のこの態様による二重特異性抗体の第一および/または第二部分における抗体可変ドメインの供給源として用いられる場合において、VHドメインまたはその改変された変異体を用いることが有利である。これらの種における抗体のVHドメインは、与えられた抗体について観察される結合特異性および親和性に有意に寄与していることが公知である。絶対最小値において、二重特異性抗体の第一および/または第二部分を設計するにおいてそのような親抗体のVHドメイン由来の少なくとも第三の相補性決定領域(CDR)を用いることが有利である。これは、VH-CDR3が、VHおよびVLのそれぞれにおいて3つあるすべてのCDR領域の結合の特異性および親和性において主要な役割を果たしていることが公知であるという事実による。
【0038】
本発明のさらなる態様により、二重特異性抗体は、ヒトに投与される場合、それをより少ない免疫原性にする改変に曝されうる。そのような改変は、キメラ化、ヒト化、CDRグラフティング(CDR-grafting)、脱免疫化および/または最も近いヒト生殖系列配列に対応するようなフレームワーク領域アミノ酸の突然変異(ジャームライニング(germlining))として一般に公知の技術の1つまたは複数を含みうる。本発明の二重特異性抗体をそのような改変に曝すことは、さもなくば宿主免疫応答を誘発したであろう二重特異性抗体が、そのような免疫応答が生じないように、または低減するように、宿主免疫系に対して、より多く、または完全に、「見えない(invisible)」ようにされるという利点をもつ。この態様により記載されているように改変した二重特異性抗体は、それゆえに、少しのそのような改変も受けなかった対応する二重特異性抗体より、免疫応答関連の副作用が低減し、または無く、より長い期間、投与可能のままでありうる。当業者は、望ましくない宿主免疫応答を誘発することを防ぐために抗体が改変されなければならないかどうか、および、どの程度までか、決定する方法を理解するであろう。
【0039】
本発明のもう一つの態様によれば、ヒト免疫エフェクター細胞は、ヒトリンパ細胞系列のメンバーである。この態様において、エフェクター細胞は、有利には、ヒトT細胞、ヒトB細胞またはヒトナチュラルキラー(NK)細胞でありうる。有利には、そのような細胞は、標的細胞へ細胞傷害性、またはアポトーシスのいずれかの効果を生じる。特に有利には、ヒトリンパ球は、活性化された場合、標的細胞へ細胞傷害性効果を発揮する細胞傷害性T細胞である。この態様により、その時、ヒトエフェクター細胞の補充される活性は、この細胞の細胞傷害性活性である。
【0040】
好ましい態様により、細胞傷害性T細胞の活性化は、本発明のこの態様の二重特異性抗体による細胞傷害性T細胞の表面上のエフェクター抗原としてのCD3抗原の結合を介して生じうる。ヒトCD3抗原は、ヘルパーT細胞および細胞傷害性T細胞の両方に存在する。ヒトCD3は、多分子性T細胞複合体の一部としてT細胞上に発現され、かつ3つの異なる鎖:CD3-ε、CD3-δおよびCD3-γを含む抗原を表す。
【0041】
T細胞の細胞傷害性潜在能力の活性化は、複数のタンパク質の相互作用を必要とする複雑な現象である。T細胞受容体(「TCR」)タンパク質は、2つの異なる糖タンパク質サブユニットからなる膜結合型ジスルフィド結合ヘテロ二量体である。主要組織適合複合体(「MHC」)タンパク質の高度に多様なクラスのメンバーによりそれ自身、結合されており、かつ抗原提示細胞(「APC」)の表面上に、MHCに結合して提示されている外来ペプチド性抗原に対して、TCRは認識かつ結合する。
【0042】
上記の概略のように可変性TCRは外来抗原と結合するが、この結合が生じたことをT細胞へシグナル伝達することは、TCRに結合した、他の不変のシグナル伝達タンパク質の存在に依存する。結合した形でのこれらのシグナル伝達タンパク質は、集合的にCD3複合体と呼ばれ、本明細書では、集合的にCD3抗原と呼ばれている。
【0043】
T細胞細胞傷害性の活性化は、それゆえに、通常には、別の細胞上に位置した、それ自身外来抗原に結合したTCRのMHCタンパク質との結合に第一に依存する。この最初のTCR-MHC結合が生じた場合のみ、T細胞クローン増殖および最終的には、T細胞の細胞傷害性に関与するCD3依存性シグナル伝達カスケードが後に続くことができる。
【0044】
しかしながら、ヒトCD3抗原の、本発明の二重特異性抗体の第一または第二部分による結合は、独立したTCR-MHC結合の非存在下において、T細胞を活性化して、他の細胞へ細胞傷害性効果を発揮する。これは、T細胞が、クローン的に無関係の様式で、すなわち、T細胞により所有される特定のTCRクローンとは無関係な様式で、細胞傷害性に活性化されうることを意味する。これは、あるクローンアイデンティティ(clonal identity)の特定のT細胞のみよりも、むしろT細胞コンパートメント全体の活性化を可能にする。
【0045】
前記の考察に照らせば、本発明の特に好ましい態様は、エフェクター抗原がヒトCD3抗原である二重特異性抗体を提供する。本発明のこの態様による二重特異性抗体は、合計2つまたは3つのいずれかの抗体可変ドメインをもちうる。
【0046】
本発明のさらなる態様により、本発明の二重特異性抗体により結合した他のリンパ球結合性エフェクター抗原は、ヒトCD16抗原、ヒトNKG2D抗原、ヒトNKp46抗原、ヒトCD2抗原、ヒトCD28抗原またはヒトCD25抗原でありうる。
【0047】
本発明のもう一つの態様により、ヒトエフェクター細胞は、ヒト骨髄細胞系列のメンバーである。有利には、エフェクター細胞は、ヒト単球、ヒト好中性顆粒球、またはヒト樹状細胞でありうる。有利には、そのような細胞は、標的細胞へ細胞傷害性か、またはアポトーシスのいずれかの効果を生じる。本発明の二重特異性抗体により結合されうるこの態様内の有利な抗原は、ヒトCD64抗原またはヒトCD89抗原でありうる。
【0048】
本発明のもう一つの態様により、標的抗原は、疾患状態において標的細胞上に固有に発現されているが、健康な状態においては発現されていないか、低レベルで発現されているままであるか、または接近できないままであるかのいずれかである、抗原である。本発明の二重特異性抗体により特異的に結合されうるそのような標的抗原の例は、有利には、EpCAM、CCR5、CD19、HER-2 neu、HER-3、HER-4、EGFR、PSMA、CEA、MUC-1(ムチン)、MUC2、MUC3、MUC4、MUC5AC、MUC5B、MUC7、βhCG、ルイスY、CD20、CD33、CD30、ガングリオシドGD3、9-O-アセチル-GD3、GM2、Globo H、フコシルGM1、ポリSA、GD2、カルボアンヒドラーゼIX(MN/CA IX)、CD44v6、Sonic Hedgehog(Shh)、Wue-1、形質細胞抗原(Plasma Cell Antigen)、(膜結合型)IgE、メラノーマコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(MCSP)、CCR8、TNF-α前駆体、STEAP、メソテリン、A33抗原、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、Ly-6;デスモグレイン4、E-カドヘリンネオエピトープ(neoepitope)、胎児アセチルコリン受容体(Fetal Acetylcholine Receptor)、CD25、CA19-9マーカー、CA-125マーカーおよびミューラー管抑制物質(MIS)受容体II型、sTn(シアル酸付加Tn抗原;TAG-72)、FAP(線維芽細胞活性化抗原)、エンドシアリン、EGFRvIII、LG、SASならびにCD63から選択されうる。
【0049】
好ましい態様によれば、二重特異性抗体が特異的に結合する標的抗原は、癌関連抗原である可能性があり、それは、悪性状態に関連した抗原である。そのような抗原は、悪性細胞上に発現されているかまたは接近可能であるかのいずれかであるが、非悪性細胞上では、抗原は、存在しないか、有意には存在しないかか、または接近可能でないかのいずれかである。このように、本発明のこの態様による二重特異性抗体は、標的抗原を有する、または標的抗原を接近可能にしている悪性標的細胞に対してヒト免疫エフェクター細胞の活性を補充する二重特異性抗体である。
【0050】
本発明の特に好ましい態様において、二重特異性抗体は、エフェクター抗原としてヒトCD3抗原に、および標的抗原としてヒトCD19抗原に、特異的に結合する。ヒトCD19抗原は、プロB細胞から成熟B細胞までの全ヒトB系統において発現されており、それは、脱落せず、すべてのリンパ腫細胞上で一律に発現され、幹細胞には存在しない。従って、この態様による二重特異性抗体、すなわち、エフェクター抗原としてヒトCD3抗原に、および標的抗原としてヒトCD19抗原に特異的に結合するものは、悪性B細胞の根絶のための治療用物質として大きな潜在的価値をもつ。この態様による二重特異性抗体は、上記のようなスペーサーおよび可能性のあるリンカーポリペプチドにより分離された、2つまたは3つの抗体可変ドメインからなる。
【0051】
本発明のさらなる特に好ましい態様において、二重特異性抗体は、エフェクター抗原としてヒトCD3抗原に、および標的抗原としてヒトEpCAM抗原に、特異的に結合する。EpCAM(「上皮細胞接着分子」、17-1A抗原、KSA、EGP40、GA733-2、ksl-4またはesaとも呼ばれる)は、特定の上皮における、および多くのヒト癌腫上における特異的発現を有する314アミノ酸、40kDaの、膜に組み込まれた糖タンパク質である。EpCAMは、様々な癌腫の診断および治療において有益であることが様々な研究で示されている。さらになお、多くの場合、腫瘍細胞は、それらの親上皮またはその癌のより侵襲性の少ない型より、ずっと高い程度でEpCAMを発現させることが観察された。従って、この態様による二重特異性抗体、すなわち、エフェクター抗原としてヒトCD3抗原に、および標的抗原としてヒトEpCAM抗原に特異的に結合する抗体は、悪性上皮細胞の根絶のための治療用物質として大きな潜在的価値をもつ。この態様による二重特異性抗体は、上記のようなスペーサーおよび可能性のあるリンカーポリペプチドにより分離された、2つまたは3つの抗体可変ドメインからなる。
【0052】
この後者の態様による抗CD3 x 抗EpCAM二重特異性抗体は、有利には、SEQ ID NO:1に示されているアミノ酸配列を有しうる。この態様による二重特異性抗体は、その第一部分として、エフェクター抗原としてヒトCD3抗原と特異的に結合するマウス由来VH、およびその第二部分として、標的抗原としてヒトEpCAM抗原と特異的に結合するscFvユニットを有する。このように、SEQ ID NO:1は、3つの抗体可変ドメインをもつ二重特異性抗体を表している。この型の構築物の利点は、上に記載されている。
【0053】
本発明のさらなる局面は、増殖性疾患、腫瘍性疾患、炎症性疾患、免疫不全、自己免疫疾患、感染性疾患、ウイルス性疾患、アレルギー反応、寄生反応、移植片対宿主疾患、もしくは宿主対移植片疾患の予防、治療または改善のための薬学的組成物の調製として上に開示されているような二重特異性抗体の使用を提供する。
【0054】
本発明のさらなる局面は、増殖性疾患、腫瘍性疾患、炎症性疾患、免疫不全、自己免疫疾患、感染性疾患、ウイルス性疾患、アレルギー反応、寄生反応、移植片対宿主疾患、もしくは宿主対移植片疾患の予防、治療または改善のための、それを必要としている対象における方法であって、上に開示されているような二重特異性抗体の有効量の投与の段階を含む方法を提供する。
【0055】
好ましい態様によれば、予防、治療または改善は、ヒトにおいて起こる。腫瘍性疾患は、好ましくは、B細胞障害、例えば、リンパ腫、B細胞リンパ腫およびホジキンリンパ腫の群から選択される。さらなる態様において、B細胞リンパ腫は、非ホジキンリンパ腫である。さらなる態様において、自己免疫疾患は、関節リウマチ、多発性硬化症、1型糖尿病、炎症性腸疾患、全身性エリトマトーデス、乾癬、強皮症および自己免疫甲状腺疾患から選択される。
【0056】
さらなる態様によれば、上に記載されているような二重特異性抗体の任意の投与は、有利には、免疫エフェクター細胞に対して活性化シグナルを供給する能力があるタンパク性化合物の投与と共役されうる。そのようなタンパク性化合物は、有利には、二重特異性抗体と同時に、または非同時に投与されうる。
【0057】
本発明のさらなる局面は、上に開示されているような二重特異性抗体を含むキットである。
【0058】
本出願を通して、単数形での用語の使用は、適切な場合には、複数形でのそれぞれの用語の使用を含意しうることが理解されるべきである。同様に、複数形での用語の使用は、適切な場合には、単数形でのそれぞれの用語の使用を含意しうる。
【0059】
実施例
実施例1:3つの抗体可変ドメインをもつ二重特異性抗体の設計、原核生物発現および精製
分子の抗EpCAM部分においてVLおよびVH、ならびに分子のCD3部分においてただ1つの抗体可変ドメイン(VH)を有する抗EpCAM x 抗CD3二重特異性抗体をコードするDNAが、pET-20b(+)ベクター(Novagen)の多重クローニング部位(MCS)にクローニングされる。ヒスチジン(x6)タグを有する二重特異性抗体の発現は、IPTGで誘導される。ベクターの選択は、組換えタンパク質の周辺質への輸送を促進する。pBAD-gIII(Invitrogen)、pET-32シリーズ(+)ベクター(Novagen)のような他のクローニングベクターもまた用いられうる。pBAD-gIIIに基づいた発現について、アラビノースは、IPTGの代わりに組換え遺伝子発現を誘導するために用いられる。いずれの場合においても、二重特異性抗体をコードするDNAは、組換えタンパク質の周辺質への輸送を媒介するシグナルペプチド(例えば、PelB、OmpA)をコードする配列とインフレームでクローニングされる。
【0060】
上記の抗EpCAM x 抗CD3二重特異性抗体をコードするDNAを含むpET-20b(+)は、細菌宿主株DH5においてクローニングされ、かつ増殖される。組換え二重特異性抗体は、BL21(DE3)細菌宿主株(Novagen)を用いて発現される。または、Rosetta (DE3)細菌宿主株(Novagen)は、上記のようにpETベクターを用いる場合に利用できる。または、pBAD-gIIIベクターは、TOP10大腸菌株(Invitrogen)と共に用いられうる。
【0061】
上記の抗EpCAM x 抗CD3二重特異性抗体をコードするDNAを含むベクターpET-20b(+)で形質転換された宿主細胞の単一コロニーが選択され、必須の抗生物質を含む50 ml LBへ接種される。細胞は、供給業者の使用説明マニュアルにより増殖され、収集される。培養物は、0.4〜1.0(理想的な値は0.6)のOD600に到達するまで37℃でインキュベートされ、続いて、適切な量のIPTGの添加により発現が誘導される。インキュベーションは、さらに2〜3時間続けられる。
【0062】
記載された培養物は、遠心分離により収集される。細胞ペレットは、30 mlの30 mM トリス-HCl、pH 8、20%ショ糖に懸濁される。この懸濁液に、60 μlのEDTA(0.5 M、pH 8)が1 mMの最終濃度まで添加される。細胞は、遠心分離により回収され、細胞ペレットは、冷却されたMgSO4(5 mM、30 ml)溶液で低温において10分間、ペレットを完全に再懸濁することにより、ショックに曝される。ショックを受けた細胞は、周辺質(上清)および細胞(沈殿)の画分を分離するために遠心分離に供される。上清は、その後、SDS-PAGEによりさらに分析され、活性についても試験される。
【0063】
上記のように作製されたHisタグを有する二重特異性抗体は、Ni-NTAスピンカラムキット(Qiagen、カタログ番号31314)を用いて、Qiagen使用説明マニュアルに提供されているプロトコールに従って精製される。または、Ni-NTA磁気アガロースビーズ(Qiagen、カタログ番号36113)もまた、用いられうる。
【0064】
このように精製されたポリペプチドは、同じポリペプチド鎖上に位置する3つの抗体可変ドメインをもつ二重特異性抗体として記載されうる。アミノ末端からカルボキシ末端へ進む場合、二重特異性一本鎖抗体は、以下の要素を含む:抗ヒトEpCAM VL;配列(Gly4Ser)3の15アミノ酸リンカー;抗ヒトEpCAM VH;配列Gly4Serの5アミノ酸スペーサー;抗ヒトCD3 VH;His6。配列は、SEQ ID NO:1に示されているとおりである。
【0065】
実施例2:細胞傷害性アッセイ
ヒトEpCAM抗原を有する細胞の死滅をもたらすヒト細胞傷害性T細胞の細胞傷害性潜在能力を補充しうる、SEQ ID NO:1に示された配列をもつ二重特異性抗体の能力は、以下のように細胞傷害性アッセイで測定された。
【0066】
American Type Cell Culture Collection(ATCC、米国)からのCHO細胞は、標的抗原としてヒト上皮細胞接着分子(EpCAM)を発現させるようにトランスフェクションされた。その結果生じた細胞クローンから培養された細胞は、CHO-EpCAM細胞と呼ばれるが、その後、標的細胞として細胞傷害性実験に用いられた。ヒト細胞株MC15は、エフェクター抗原CD3を有するエフェクター細胞の供給源として用いられた。その細胞クローンは、University of Erlangen/Nurnberg, GermanyのFickenscher博士のご厚意により提供されたCD4陽性ヒトT細胞クローンである細胞クローンCB15に由来する。細胞は、それぞれの供給業者により推奨されているように培養された。
【0067】
1.5×107個の標的細胞は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄され、製造業者の使用説明書によりPKH26色素(Sigma-Aldrich Co.)で標識された。染色後、細胞は、20 mlのPBSで2回洗浄された。標識されたCHO-EpCAM細胞(標的細胞)およびMC15細胞(エフェクター細胞)は、それぞれ、1:5の比で共に混合された。その結果生じた細胞懸濁液は、1 mlあたり400,000個の標的細胞および2×106個のエフェクター細胞を含んだ。BiTEは、αMEM/10%FCS媒体において異なる濃度に希釈された。
【0068】
典型的には、各反応(容量100μl)は、20,000個の標的細胞、1×105個のエフェクター細胞、および特定の濃度の、SEQ ID NO:1に示されているような二重特異性抗体を含んだ。二重特異性抗体の各濃度での測定は、三連で行われた。反応物は、37℃/5%CO2で、約20時間インキュベートされた。
【0069】
ヨウ化プロピジウムは、1μg/mlの最終濃度まで添加された。ヨウ化プロピジウムは、死んだ細胞を染色する。反応試料は、フローサイトメトリー(例えば、FACS-Calibur Becton Dickinson)により分析された。PKH26標識標的細胞の集団は、FSC対FL-2プロットにおいてゲートされ、このゲート内で同定された細胞集団についてのみ、細胞のその後の分析が行われた。死んでいる細胞(ヨウ化プロピジウム染色された)のパーセントは、FSC(前方散乱)対FL-3プロットにおいて測定された。平均値は、対数スケールにおける二重特異性抗体の濃度に対してプロットされ、結果として、典型的な用量依存性曲線を生じた(図1参照)。EC50(最大値の半分の細胞傷害性応答を誘発するのに必要とされる二重特異性抗体の濃度)値は、GraphPad Prismソフトウェアで得られたデータの非線形フィッティング(fitting)後、得られた。
【0070】
図1において見出されうるように、SEQ ID NO:1に示されている配列を有する二重特異性抗体は、細胞傷害性T細胞を補充するものとしての活性を示した。これは、標的細胞が、細胞傷害性T細胞の存在下において、各反応混合物へ添加される二重特異性抗体の濃度に依存する様式で効率的に死滅させられる(約12ng/mlのEC50値で)という事実から理解される。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】3つの可変ドメインを含む抗EpCAM x 抗CD3抗体の細胞傷害性活性。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重特異性抗体の第一部分が、ヒト免疫エフェクター細胞上に位置するエフェクター抗原に特異的に結合することによりヒト免疫エフェクター細胞の活性を補充(recruiting)する能力があり、該第一部分が1つの抗体可変ドメインからなり、かつ、
二重特異性抗体の第二部分が、エフェクター抗原以外の標的抗原に特異的に結合する能力があり、該標的抗原が該ヒト免疫エフェクター細胞以外の標的細胞上に位置しており、かつ該第二部分が抗体可変ドメインを含む、
単一ポリペプチド鎖上に2つの抗体可変ドメインを含む二重特異性抗体。
【請求項2】
第二部分が2つの抗体可変ドメインを含む、請求項1記載の二重特異性抗体。
【請求項3】
二重特異性抗体の第一部分が、ヒト免疫エフェクター細胞上に位置するエフェクター抗原に特異的に結合することによりヒト免疫エフェクター細胞の活性を補充する能力があり、該第一部分が抗体可変ドメインを含み、かつ、
二重特異性抗体の第二部分が、エフェクター抗原以外の標的抗原に特異的に結合する能力があり、該標的抗原が該ヒト免疫エフェクター細胞以外の標的細胞上に位置しており、かつ該第二部分が1つの抗体可変ドメインからなる、
単一ポリペプチド鎖上に2つの抗体可変ドメインを含む二重特異性抗体。
【請求項4】
第一部分が2つの抗体可変ドメインを含む、請求項3記載の二重特異性抗体。
【請求項5】
第一および第二部分が同じ種または異なる種に由来する、請求項1〜4のいずれか一項記載の二重特異性抗体。
【請求項6】
第一および/または第二部分が、独立して、霊長類、齧歯類、核脚亜目(tylopoda)または軟骨魚の種に由来する、請求項5記載の二重特異性抗体。
【請求項7】
霊長類由来の第一および/または第二部分がヒト由来である、請求項6記載の二重特異性抗体。
【請求項8】
齧歯類由来の第一および/または第二部分がマウスまたはラット由来である、請求項6記載の二重特異性抗体。
【請求項9】
マウスもしくはラット由来の第一および/または第二部分が、マウスまたはラット由来の重鎖由来の可変ドメイン(VH)である、請求項8記載の二重特異性抗体。
【請求項10】
核脚亜目由来の第一および/または第二部分が、ラクダ、ラマまたはヒトコブラクダ由来である、請求項6記載の二重特異性抗体。
【請求項11】
ラクダ、ラマもしくはヒトコブラクダ由来の第一および/または第二部分がVHHドメインである、請求項11記載の二重特異性抗体。
【請求項12】
ヒトに投与された場合に、より少ない免疫原性となるように改変を受けている、請求項1〜11のいずれか一項記載の二重特異性抗体。
【請求項13】
改変が、以下の技術の1つまたは複数を含む、請求項12記載の二重特異性抗体:キメラ化、ヒト化、CDRグラフティング(CDR-grafting)、脱免疫化、最も近いヒト生殖系列配列に対応するフレームワーク(framework)アミノ酸の突然変異(ジャームライニング(germlining))。
【請求項14】
ヒトエフェクター細胞がヒトリンパ細胞系列のメンバーである、請求項1〜13のいずれか一項記載の二重特異性抗体。
【請求項15】
エフェクター細胞が、標的細胞に対して細胞傷害性またはアポトーシス効果を発揮する能力がある、請求項14記載の二重特異性抗体。
【請求項16】
エフェクター抗原が、ヒトCD3抗原、ヒトCD16抗原、ヒトNKG2D抗原、ヒトCD2抗原、ヒトCD28抗原およびヒトCD25抗原のうちの1つまたは複数から選択される、請求項14または15記載の二重特異性抗体。
【請求項17】
エフェクター抗原がヒトCD3抗原である、請求項16記載の二重特異性抗体。
【請求項18】
ヒトエフェクター細胞がヒト骨髄細胞系列のメンバーである、請求項1〜13のいずれか一項記載の二重特異性抗体。
【請求項19】
エフェクター細胞が、標的細胞に対して細胞傷害性またはアポトーシス効果を発揮する能力がある、請求項18記載の二重特異性抗体。
【請求項20】
エフェクター抗原が、ヒトCD64抗原もしくはヒトCD89抗原のうち1つまたは複数から選択される、請求項18または19記載の二重特異性抗体。
【請求項21】
標的抗原が、EpCAM、CCR5、CD19、HER-2 neu、HER-3、HER-4、EGFR、PSMA、CEA、MUC-1(ムチン)、MUC2、MUC3、MUC4、MUC5AC、MUC5B、MUC7、βhCG、ルイスY、CD20、CD33、CD30、ガングリオシドGD3、9-O-アセチル-GD3、GM2、Globo H、フコシルGM1、ポリSA、GD2、カルボアンヒドラーゼIX(MN/CA IX)、CD44v6、Sonic Hedgehog(Shh)、Wue-1、形質細胞抗原(Plasma Cell Antigen)、(膜結合型)IgE、メラノーマコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(MCSP)、CCR8、TNF-α前駆体、STEAP、メソテリン、A33抗原、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、Ly-6;デスモグレイン4、E-カドヘリンネオエピトープ(neoepitope)、胎児アセチルコリン受容体(Fetal Acetylcholine Receptor)、CD25、CA19-9マーカー、CA-125マーカーおよびミューラー管抑制物質(MIS)受容体II型、sTn(シアル酸付加Tn抗原;TAG-72)、FAP(線維芽細胞活性化抗原)、エンドシアリン、EGFRvIII、LG、SASならびにCD63から選択され、かつ、すべての該抗原がヒト抗原である、請求項1〜20いずれか一項記載の二重特異性抗体。
【請求項22】
標的抗原が癌関連抗原である、請求項1〜21のいずれか一項記載の二重特異性抗体。
【請求項23】
標的抗原がヒトCD19抗原であり、かつエフェクター抗原がヒトCD3抗原である、請求項22記載の二重特異性抗体。
【請求項24】
標的抗原がヒトEpCAM抗原であり、かつエフェクター抗原がヒトCD3抗原である、請求項22記載の二重特異性抗体。
【請求項25】
抗体がSEQ ID NO:1に示された配列を有する、請求項24記載の二重特異性抗体。
【請求項26】
SEQ ID NO:1をコードするヌクレオチド配列またはそれと少なくとも70%の相同性を示すヌクレオチド配列であって、
配列アラインメントにより、SEQ ID NO:1をコードするヌクレオチド配列と検討対象のヌクレオチド配列とを比較することで相同性を決定することができ、
検討対象の配列におけるヌクレオチドが、SEQ ID NO:1をコードするヌクレオチド配列における対応ヌクレオチドと同一である場合か、または、検討対象の配列におけるヌクレオチドの、SEQ ID NO:1をコードするヌクレオチド配列における対応ヌクレオチドからの逸脱が、翻訳された場合、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列における対応位置でのアミノ酸と同一アミノ酸か、もしくは、その保存的置換アミノ酸か、いずれかのアミノ酸を生じるヌクレオチドトリプレットを生じる場合に、相同であるとみなされる、ヌクレオチド配列。
【請求項27】
増殖性疾患、腫瘍性疾患、炎症性疾患、免疫不全、自己免疫疾患、感染性疾患、ウイルス性疾患、アレルギー反応、寄生反応、移植片対宿主疾患、もしくは宿主対移植片疾患の予防、治療または改善のための薬学的組成物の調製のための、請求項1〜25のいずれか一項記載の二重特異性抗体の、または、請求項26記載のヌクレオチド配列の、使用。
【請求項28】
増殖性疾患、腫瘍性疾患、炎症性疾患、免疫不全、自己免疫疾患、感染性疾患、ウイルス性疾患、アレルギー反応、寄生反応、移植片対宿主疾患、もしくは宿主対移植片疾患の予防、治療または改善のための、それを必要とする対象における方法であって、該方法が、請求項1〜25のいずれか一項記載の二重特異性抗体または請求項26記載のヌクレオチド配列の有効量の投与段階を含む、方法。
【請求項29】
対象がヒトである、請求項28記載の方法。
【請求項30】
免疫エフェクター細胞へ活性化シグナルを供給する能力があるタンパク性化合物の投与をさらに含む、請求項28または29記載の方法。
【請求項31】
タンパク性化合物が、請求項1〜25のいずれか一項記載の二重特異性抗体と同時に、または非同時に投与される、請求項30記載の方法。
【請求項32】
請求項1〜25のいずれか一項記載の二重特異性抗体を含むキット。

【図1】
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【公表番号】特表2008−523783(P2008−523783A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546068(P2006−546068)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【国際出願番号】PCT/EP2004/014643
【国際公開番号】WO2005/061547
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(505298825)マイクロメット アクツィエン ゲゼルシャフト (14)
【Fターム(参考)】