説明

二重螺子ボルトの製造方法

【課題】ISOやJIS等の寸法規格に適合したボルトを高い製品得率で製造することができ生産安定性に優れ低コストで量産でき、また得られた二重螺子ボルトは、ISOやJIS等で規格化された並目ナットや細目ナットをスムーズに螺合することができ使用性に優れた二重螺子ボルトを製造できる二重螺子ボルトの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ボルト軸部の先端部から所定部まで形成されたピッチP,外径dの規格化された並目螺子部と、少なくとも前記ボルト軸部の前記並目螺子部の全長若しくは先端部から前記並目螺子部の所定部まで前記並目螺子部に重ねて形成されたピッチp(p=P/n、nは1.5〜3。)の規格化された細目螺子部と、を備えた二重螺子ボルトの製造方法であって、外径D=0.875×(1±0.03)dのボルト材料を転造ダイスに押し付けて転造する構成を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、並目螺子部と細目螺子部を備えた緩み防止機能を有する二重螺子ボルトの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、緩み防止機能を有する種々のボルト及びその製造方法が研究・開発されている。例えば、(特許文献1)に記載の二重螺子ボルトについて、以下、図面を参照しながら説明する。
図8(a)は二重螺子ボルトの側面図であり、図8(b)はボルト軸部の要部拡大図である。
図中、101は二重螺子ボルト、102は二重螺子ボルト101のボルト軸部、103はボルト軸部102の後端部に形成されたボルト頭部、104はボルト軸部102の先端部から所定部まで形成されたピッチPの並目螺子部、105は並目螺子部104のフランク、106はボルト軸部102の並目螺子部104の全長若しくは先端部から並目螺子部104の所定部まで重ねて形成されたピッチp(p=P/n、nは2以上の整数)の細目螺子部である。このような構成の二重螺子ボルト101では、並目螺子部104に図示しない並目ナットを螺合させた後、細目螺子部106に図示しない細目ナットを螺合し並目ナットに密着させて、二重螺子ボルト101及び両ナット間を締結させることができる。並目螺子部104に螺合させた並目ナットと細目螺子部106に螺合させた細目ナットのピッチが異なるので、両者が一体になって同一方向に回転すると、両ナット間の接触面(座面)に反発力や摩擦力が働くため並目ナットが緩み方向に回転するのを防止できるものである。
【0003】
このような二重螺子ボルト101は、並目螺子部104を切削により形成した後、並目螺子部104に重ねて細目螺子部106を切削により形成して製造することができる。しかし、1個の二重螺子ボルト101を製造するために並目螺子部104と細目螺子部106の2回の切削を行う必要があり、また重ねて切削した部分に返りが生じるため、この返りをワイヤブラシ等で除去する工程が必要になり生産性に欠け、高コストで量産性に欠けるという問題を有していた。
そこで生産性を高めるため、転造によって二重螺子ボルトの並目螺子部と細目螺子部を形成する技術が研究・開発されている。
【0004】
(特許文献2)には「螺子転造ダイスにボルト材料を押し付けて転造するボルトの製造方法において、螺子転造ダイスが、並目螺子を展開した並目螺子山の山部と、並目螺子山の谷部に並目螺子山の谷部に並目螺子よりもピッチの小さい細目螺子をその谷底が並目螺子山の谷底よりも高い位置となるように展開したときに並目螺子山との位相ずれに応じて並目螺子山の巻きごとに周期的に現れる細目螺子山に対応する突起と、を有するボルトの製造方法」が開示されている。
(特許文献3)には「ピッチの異なる複数条のねじ山が互いに交差した状態に形成されたボルトの製造方法であって、ボルトに複数条のねじ山を造形するための突条の群が交差した状態で形成された平形ダイスや丸形ダイスを用いて転造加工するボルトの製造方法」が開示されている。
(特許文献4)には「一つの転造平形ダイスの前半部に細目ネジ形成用凸条を設け、並目ネジ形成用凸条を後半部に設けた平形ダイスを用いて、転造加工によって軸部に二重ネジを形成するボルトの製造方法」が開示されている。
【特許文献1】WO2002/077466再公表公報
【特許文献2】特許3546211号公報
【特許文献3】特開2003−260532号公報
【特許文献4】特開2003−305528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記従来の技術においては、以下のような課題を有していた。
(1)特許文献2では実施の形態2において、片面に二重螺子ボルト形成用の転写パターンを形成した平板状のダイス(平形ダイス)を用いて二重螺子ボルトを製造することが記載されている。また、平形ダイスに形成した転写パターンは、第1実施形態における丸形ダイスの転写パターンと同様のものを平面状に展開したものであると記載されている。しかしながら、平形ダイスは丸形ダイスの転写パターンと同様のものを平面状に展開して製造するのではない。具体的には、丸形ダイスの場合は、円筒状のダイス材料を少しずつ回転させながら研削砥石で螺子溝に相当する部分を研削して製造するのに対し、平形ダイスの場合は、板状のダイス材料に螺子溝に相当する部分を形成して製造するもので、いずれもボルトの螺子部を平面状に展開して製造する。平形ダイスと丸形ダイスでは、ダイス材料の形状が異なり、そのため加工機械も異なるので、単純に丸形ダイスの転写パターンと同様のものを平面状に展開することができないからである。このため、特許文献2の記載からだけでは二重螺子ボルトを製造する平形ダイスを製造することは極めて困難であるという課題を有していた。
(2)特許文献2乃至4に開示の技術は、二重螺子ボルトの並目螺子部と細目螺子部を転造加工によって形成するので、二重螺子ボルトの螺子溝を切削加工で形成するのに比べて生産性に優れるが、二重螺子ボルトは並目螺子部に重ねて細目螺子部を形成する特殊な仕様のため、転造加工後のボルトの呼び径を適正な寸法にすることが困難で、呼び径がISOやJIS等の寸法規格から外れ易く、製品得率が低く生産安定性に欠けるため低コストで量産できないという課題を有していた。
(3)また、二重螺子ボルトの外径に寸法ばらつきが生じるため、ISOやJIS等で規格化された並目ナットや細目ナットを並目螺子部や細目螺子部に螺合させると、ガタが生じたりスムーズに螺合できないことがあり、特に細目螺子部はフランクが小さいため、寸法の適合しない細目ナットを無理に螺合すると細目螺子部の螺子山を壊してしまい、締結できなくなることがあるという課題を有していた。
【0006】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、ISOやJIS等の寸法規格に適合したボルトを高い製品得率で製造することができ生産安定性に優れ低コストで量産でき、また得られた二重螺子ボルトは、ISOやJIS等で規格化された並目ナットや細目ナットをスムーズに螺合することができ、締結時に細目螺子部の螺子山を壊すことがなく使用性に優れた二重螺子ボルトを製造できる二重螺子ボルトの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来の課題を解決するために本発明の二重螺子ボルトの製造方法は、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載の二重螺子ボルトの製造方法は、ボルト軸部の先端部から所定部まで形成されたピッチP,外径dの規格化された並目螺子部と、少なくとも前記ボルト軸部の前記並目螺子部の全長若しくは先端部から前記並目螺子部の所定部まで前記並目螺子部に重ねて形成されたピッチp(p=P/n、nは1.5〜3。)の規格化された細目螺子部と、を備えた二重螺子ボルトの製造方法であって、外径D=0.875×(1±0.03)dのボルト材料を転造ダイスに押し付けて転造する構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)並目螺子部の外径dより小さな外径D=0.875×(1±0.03)dのボルト材料を転造ダイスに押し付けて転造するので、二重螺子ボルトの並目螺子部の外径dが決まればボルト材料の外径Dを簡単に求めることができ、ISOやJIS等の寸法規格に適合したボルトを高い製品得率で製造することができ、生産安定性に優れ低コストで量産できる。
(2)二重螺子ボルトの外径に寸法ばらつきが生じ難いため、ISOやJIS等で規格化された並目ナットや細目ナットをスムーズに螺合することができ、締結時に細目螺子部の螺子山を壊したり締結後に緩みが発生することがなく使用性に優れた二重螺子ボルトを製造できる。
【0008】
ここで、二重螺子ボルトとは、並目螺子部と細目螺子部というピッチの異なる二つの螺子山を同軸上で、かつ同方向にもつ円筒体または円錐体をいう。細目螺子部とは、並目螺子部に比べて外径に対するピッチの割合が細かく、並目螺子部に比べて谷が浅い螺子をいう。
本発明の並目螺子部と細目螺子部は、いずれもISO、JIS等で規格化された寸法を有しており、細目螺子部のピッチpはP/n(但し、Pは並目螺子部のピッチ、nは1.5〜3。)の関係を有している。並目螺子部と細目螺子部の螺子山の形状は、三角螺子、台形螺子、角螺子、鋸刃螺子、丸螺子、その他の特殊螺子等を用いることができ、任意に組み合わせることも可能である。
なお、細目螺子部のピッチpと並目螺子部のピッチPとの関係は、p=P/n(但し、nは1.5〜3)で表されるが、n=2の場合が最適である。nが1.5より小さくなると、材質によっては並目螺子部の形状が崩れ易く、nが3より大きくなると細目螺子部のピッチが小さくなるので、大きな負荷に耐えられなくなるからである。
【0009】
ボルト材料としては、ボルト軸部を形成するために金属製,合成樹脂製等で円筒状又は円錐状に形成されたものを用いることができる。
転造ダイスとしては、平形ダイス、丸形ダイスのいずれも用いることができる。
【0010】
ボルト材料の外径Dとボルトの並目螺子部の外径dとの関係式は、発明者らが鋭意研究した結果、D=0.875×(1±0.03)dで表すことができることを突き止めたものである。外径D,dの単位は、Dとdの単位を同一にすれば、インチ、mmいずれも適用することができる。なお、細目螺子部は並目螺子部に比べて谷が浅いので、ISO、JIS等で規格化された螺子では細目螺子部の谷の径の影響は極めて小さいため、細目螺子部の寸法は考慮せずに、ボルト材料の外径Dとボルトの並目螺子部の外径dとの関係だけで表すことができる。
関係式中、カッコ外の係数が0.875より小さくなるか大きくなると、転造後のボルトの外径が規格値から外れISOやJIS等の規格に適合したボルトを製造できなくなる。また、カッコ内の係数が(1−0.03)より小さくなるとボルト材料の外径公差が小さくなり生産性に欠け、(1+0.03)より大きくなると転造後のボルトの外径の寸法ばらつきが大きくなり、ISOやJIS等で規格化された並目ナットや細目ナットを並目螺子部や細目螺子部に螺合させると、ガタが生じたりスムーズに螺合できないことがあり、また細目螺子部の螺子山を壊してしまい締結できなくなることがあるため、いずれも好ましくない。
【0011】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の二重螺子ボルトの製造方法であって、前記転造ダイスが、(a)並目螺子形成用歯形を有する第1転造歯形面を備えた第1平形ダイスと、(b)並目螺子形成用歯形と前記並目螺子形成用歯形に交差して形成された細目螺子形成用歯形とを有する第2転造歯形面を備えた第2平形ダイスと、を備えた構成を有している。
この構成により、請求項1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)第1平形ダイスが並目螺子形成用歯形を有する第1転造歯形面を備え、第2平形ダイスが並目螺子形成用歯形と並目螺子形成用歯形に交差して形成された細目螺子形成用歯形とを有する第2転造歯形面を備えているので、塑性変形量の大きな並目螺子部を、第1平形ダイスと第2平形ダイスに形成された並目螺子形成用歯形で形成することができ、塑性変形量の小さな細目螺子部は、第2平形ダイスに形成された細目螺子形成用歯形で形成することができる。また、細目螺子部が形成されるときに各平形ダイスに形成された並目螺子形成用歯形がガイドの役割を果たし、ボルト材料の滑りを防止して細目螺子部を確実に形成でき二重螺子ボルトの品質を確保できる。
(2)また、丸形ダイスを用いて製造する場合に比べて10倍以上の高生産性を実現でき、低コストで量産を可能にすることができる。
【0012】
ここで、転造ダイスの第1平形ダイスと第2平形ダイスは所定間隔で配置し、一方を固定して他方を平行移動させるか、互いに逆方向に平行移動させ、ボルト材料を転造ダイス間に押圧させることにより、二重螺子ボルトを製造することができる。
なお、第1平形ダイスの第1転造歯形面に、並目螺子形成用歯形に交差して細目螺子形成用歯形を形成することもできる。
【0013】
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の二重螺子ボルトの製造方法であって、前記第1平形ダイスの前記第1転造歯形面の一端側に食付き勾配が形成された構成を有している。
この構成により、請求項2で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)第1平形ダイスの第1転造歯形面の一端側に食付き勾配が形成されているので、ボルト材料を転造する際に、ボルト材料が食付き勾配によって第2転造歯形面に少しずつ噛みこまれていくので、螺子成形をスムーズに行うことができ生産安定性に優れる。食付き勾配が形成されていない場合は、ボルト材料が第2転造歯形面と噛み合うときに歯形に衝突するような状態になり、歯形に噛みこんだり歯型を破壊したりすることがあるからである。
【0014】
ここで、食付き勾配としては、分数勾配で示すとh/8d〜h/2d(但し、hは製造する二重螺子ボルトの並目螺子部の山の高さ、dは二重螺子ボルトの並目螺子部の外径)が好適に用いられる。食付き勾配がh/8dより小さくなるかh/2dより大きくなると、平形ダイスにボルト材料が導入される際にボルト材料が第2転造歯形面の歯形に噛みこんだり歯形を破壊したりするため、いずれも好ましくない。
【0015】
本発明の請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載の二重螺子ボルトの製造方法であって、前記第1平形ダイスの前記第1転造歯形面の他端側に逃げ勾配が形成された構成を有している。
この構成により、請求項2又は3で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)第1平形ダイスの第1転造歯形面の他端側に逃げ勾配が形成されているので、第1平形ダイスと第2平形ダイスとの間で押圧された二重螺子ボルトがわずかに弾性回復するのを利用して、逃げ勾配によって二重螺子ボルトを第2転造歯形面からスムーズに離すことができ転造ダイスから排出できるので生産安定性に優れる。
【0016】
ここで、逃げ勾配としては、分数勾配で示すとh/8d〜h/2d(但し、hは製造する二重螺子ボルトの並目螺子部の山の高さ、dは二重螺子ボルトの並目螺子部の外径)が好適に用いられる。逃げ勾配がh/8dより小さくなるかh/2dより大きくなると、転造された二重螺子ボルトが第2転造歯形面に噛みこんだままの状態になって転造ダイスから排出されなくなることがあり、その度に螺子製造装置を停止させて排出されなかった二重螺子ボルトを取り出さなくてはならず装置の稼働率を低下させる原因となるため、いずれも好ましくない。
【0017】
本発明の請求項5に記載の発明は、請求項2乃至4の内いずれか1に記載の二重螺子ボルトの製造方法であって、前記第2平形ダイスの前記並目螺子形成用歯形及び前記細目螺子形成用歯形が、前記ボルト軸部の前記並目螺子部及び前記細目螺子部を平面状に展開した加工用歯形を用いて放電加工によって形成された構成を有している。
この構成により、請求項2乃至4の内いずれか1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)第2平形ダイスの並目螺子形成用歯形及び細目螺子形成用歯形が、加工用歯形を用いて放電加工によって形成されているので、切削加工によって転造ダイスを製造する場合と比較して加工コストを低減できるとともに短期間でダイスを製造することができ、二重螺子ボルトを低原価で量産できる。
【0018】
ここで、加工用歯形としては、例えば、銅−タングステン合金、銀−タングステン合金、銅、黄銅、グラファイト、銅−グラファイト等の放電加工電極に適した材質で形成されたものが用いられる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明の二重螺子ボルトの製造方法によれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)二重螺子ボルトの並目螺子部の外径dが決まればボルト材料の外径Dを簡単に求めることができ、ISOやJIS等の寸法規格に適合したボルトを高い製品得率で製造することができ、生産安定性に優れ低コストで量産できる二重螺子ボルトの製造方法を提供することができる。
(2)二重螺子ボルトの外径に寸法ばらつきが生じ難いため、ISOやJIS等で規格化された並目ナットや細目ナットをスムーズに螺合することができ、締結時に細目螺子部の螺子山を壊すことがなく、また締結後は緩みが発生することがなく使用性に優れた二重螺子ボルトを製造できる二重螺子ボルトの製造方法を提供することができる。
【0020】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1)塑性変形量の大きな並目螺子部を、第1平形ダイスと第2平形ダイスに形成された並目螺子形成用歯形で形成することができ、塑性変形量の小さな細目螺子部は、第2平形ダイスに形成された細目螺子形成用歯形で形成することができ、また細目螺子部が形成されるときに各平形ダイスに形成された並目螺子形成用歯形がガイドの役割を果たし、ボルト材料の滑りを防止して細目螺子部を確実に形成でき二重螺子ボルトの品質を確保できるとともに、丸形ダイスで転造加工する場合と比較して単位時間当たりの生産量を10倍以上にすることができ生産性に著しく優れた二重螺子ボルトの製造方法を提供することができる。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、請求項2の効果に加え、
(1)ボルト材料を転造する際に、ボルト材料が食付き勾配によって第2転造歯形面に少しずつ噛みこまれていくので、ボルト材料が第2転造歯形面の歯形に噛みこんだり歯型を破壊したりすることがなく、螺子成形をスムーズに行うことができ生産安定性に優れた二重螺子ボルトの製造方法を提供することができる。
【0022】
請求項4に記載の発明によれば、請求項2又は3の効果に加え、
(1)第1平形ダイスと第2平形ダイスとの間で押圧された二重螺子ボルトがわずかに弾性回復するのを利用して、逃げ勾配によって二重螺子ボルトを第2転造歯形面からスムーズに離すことができ転造ダイスから排出できるので生産安定性に優れた二重螺子ボルトの製造方法を提供することができる。
【0023】
請求項5に記載の発明によれば、請求項2乃至4の内いずれか1の効果に加え、
(1)第2平形ダイスの並目螺子形成用歯形及び細目螺子形成用歯形が、加工用歯形を用いて放電加工によって形成されているので、第2平形ダイスを切削加工によって製造する場合と比較して加工コストを低減できるとともに短期間で製造でき、その結果二重螺子ボルトを低原価で量産できる二重螺子ボルトの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における二重螺子ボルトの製造方法を示す側面図であり、図2(a)は転造ダイスの第1平形ダイスの平面図であり、図2(b)は第1平形ダイスの側面図であり、図3(a)は転造ダイスの第2平形ダイスの平面図であり、図3(b)は第2平形ダイスの側面図であり、図4(a)は第2平形ダイスの第2転造歯形面の拡大平面図であり、図4(b)はB−B線における要部断面模式図であり、図4(c)はB−B線から位相が90°ずれたC−C線における要部断面模式図であり、図4(d)はB−B線から位相が180°ずれたD−D線における要部断面模式図であり、図4(e)はB−B線から位相が270°ずれたE−E線における要部断面模式図であり、図4(f)はB−B線から位相が360°ずれたF−F線における要部断面模式図である。なお、図2乃至図4では、並目螺子形成用歯形の山頂線を実線で示し、細目螺子形成用歯形の山頂線を破線でそれぞれ示すとともに、谷底線を省略して図示している。
図1及び図2において、1は実施の形態1における二重螺子ボルトを製造する転造ダイス、100は二重螺子ボルト101のボルト軸部102を形成するための金属製,合成樹脂製等で円筒状又は円錐状に形成された外径Dのボルト材料、2は合金工具鋼や高速度工具鋼等で一面側の両端が傾斜状に形成された第1平形ダイス、3はボルト材料100の外周面を転造加工するために複数の螺子山が刻設され第1平形ダイス2の一面側に形成された第1転造歯形面、3a(図2参照)は第1転造歯形面3の長手方向に対して二重螺子ボルト101の並目螺子部104のピッチP及びリード角と同じピッチP及びリード角で刻設された複数の螺子山からなり第1転造歯形面3に形成された並目形成用歯形、4は第1転造歯形面3に形成され、転造時には後述する第2平形ダイス7の第2転造歯形面8と平行に配置される仕上げ部、5は第1転造歯形面3の一端側に形成された食付き勾配、6は第1転造歯形面3の他端側に形成された逃げ勾配である。並目形成用歯形3aは食付き勾配5、仕上げ部4、逃げ勾配6に亘って連続して形成されている。
ここで、本実施の形態においては、食付き勾配5の分数勾配a/b、逃げ勾配6の分数勾配A/Bは、いずれもh/8d〜h/2d好ましくはh/6d〜h/3d(但し、hは二重螺子ボルト101の並目螺子部104の山の高さ、dは二重螺子ボルト101の並目螺子部104の外径)の範囲で形成されている。
【0025】
図1、図3及び図4において、7は合金工具鋼や高速度工具鋼等で略直方体状に形成された第2平形ダイス、8はボルト材料100の外周面を転造加工するために複数の螺子山が刻設され第2平形ダイス7の一面側に平面状に形成された第2転造歯形面、8a(図3参照)は第2転造歯形面8の長手方向に対して二重螺子ボルト101の並目螺子部104のピッチP及びリード角と同じピッチP及びリード角で刻設された複数の螺子山からなり第2転造歯形面8に形成された並目形成用歯形、8b(図3参照)は二重螺子ボルト101の細目螺子部106のピッチp(p=P/n、nは1.5〜3)及びリード角と同じピッチp及びリード角で刻設された複数の螺子山からなり並目形成用歯形8aと交差して第2転造歯形面8に形成された細目形成用歯形である。本実施の形態においては、細目形成用歯形8bのピッチpは並目形成用歯形8aのピッチPの1/2に形成されている。
【0026】
ここで、図4を参照して第2転造歯形面8について詳述する。なお、図4(b)乃至図4(f)において、細目螺子形成用歯形の螺子山形状を、理解を容易にするために、二点鎖線を用いて仮想的に図示している。並目螺子形成用歯形及び細目螺子形成用歯形の断面形状を鋭角的に図示しているが、実際には山頂及び谷底は平ら又は丸みが付けられている。
図4(a)に示すように、並目螺子形成用歯形8a、細目螺子形成用歯形8bは互いに交差して形設されている。本実施の形態においては、細目形成用歯形8bのピッチpは並目形成用歯形8aのピッチPの1/2に形成されているので、図4(b)乃至図4(f)に示すように、細目螺子形成用歯形8bは、隣り合った並目螺子形成用歯形8aの一方の傾斜面から他方の傾斜面に向かって、断面積を少しずつ変化させながらずれていき、転造方向(第2転造歯形面8の長手方向)の位相が360°ずれるごとに細目螺子形成用歯形8bが並目螺子形成用歯形8aを横切ることになる。
なお、本実施の形態においては、細目螺子形成用歯形8bの谷底は、並目螺子形成用歯形8aの谷底と一致する深さに形成されている。これにより、転造ダイス1で転造された二重螺子ボルト101の細目螺子部106の谷底部(並目螺子部の山部から切除される部分)を浅くできるので、並目螺子部104の山部に細目螺子部106の谷底部が重なっても並目螺子部104の山部が削減される部分が少なく、並目螺子部104のフランク105が必要以上に小さくなることがないため、並目螺子部104の締結力を大きい状態で保つことができ、ナットの着脱や締結を繰り返し行うことができる何度も使用可能な二重螺子ボルト101を製造できる。
【0027】
次に、以上のように構成された第2平形ダイス7の第2転造歯形面8の製造方法について、図面を参照しながら説明する。
図5(a)は第2平形ダイスの第2転造歯形面を形成するための放電加工電極の平面図であり、図5(b)は放電加工電極の側面図であり、図6(a)は放電加工電極の加工用歯形面の拡大平面図であり、図6(b)はB−B線における要部断面模式図であり、図6(c)はB−B線から位相が90°ずれたC−C線における要部断面模式図であり、図6(d)はB−B線から位相が180°ずれたD−D線における要部断面模式図であり、図6(e)はB−B線から位相が270°ずれたE−E線における要部断面模式図であり、図6(f)はB−B線から位相が360°ずれたF−F線における要部断面模式図である。なお、図5乃至図6では、加工用歯形面の並目加工用歯形の山頂線を実線で示し、細目加工用歯形の山頂線を破線でそれぞれ示すとともに、谷底線を省略して図示している。また、図6(b)乃至図6(f)において、細目加工用歯形の螺子山形状を、理解を容易にするために、二点鎖線を用いて仮想的に図示している。また、並目加工用歯形及び細目加工用歯形の断面形状を鋭角的に図示しているが、実際には山頂及び谷底は平ら又は丸みが付けられている。
【0028】
図中、10は銅−タングステン合金、銀−タングステン合金、銅、黄銅、グラファイト、銅−グラファイト等で略直方体状に形成された放電加工電極、11は放電加工電極10の一面側に平面状に形成された加工用歯形面、12は加工用歯形面11の長手方向に対して二重螺子ボルト101の並目螺子部104のピッチP及びリード角と同じピッチP及びリード角を平面状に展開して刻設された複数の螺子山からなり加工用歯形面11に形成された並目加工用歯形、13は二重螺子ボルト101の細目螺子部106のピッチp(p=P/n、nは1.5〜3)及びリード角と同じピッチp及びリード角を平面状に展開して刻設された複数の螺子山からなり並目加工用歯形12と交差して加工用歯形面11に形成された細目加工用歯形である。
ここで、本実施の形態においては、細目加工用歯形13のピッチpは並目加工用歯形12のピッチPの1/2に形成されている。そのため、細目加工用歯形13は、図6(b)乃至図6(f)に示すように、隣り合った並目加工用歯形12の一方の傾斜面から他方の傾斜面に向かって、断面積を少しずつ変化させながらずれていき、加工用歯形面11の長手方向の位相が360°ずれるごとに細目加工用歯形13が並目加工用歯形12を横切ることになる。
【0029】
以上のように構成された放電加工電極10は、銅−タングステン合金、銀−タングステン合金、銅、黄銅、グラファイト、銅−グラファイト等で形成された放電加工電極素材の一面側に、並目螺子部104に対応する並目加工用歯形12を研削し、次いで、細目螺子部106に対応する細目加工用歯形13を研削する。これにより、一面側に並目加工用歯形12と細目加工用電極14を平面状に展開した加工用歯形面11が形成された放電加工電極10が得られる。
転造ダイス1の第2平形ダイス7は、合金工具鋼等で形成された第2平形ダイス7用のダイス素材を略直方体状に切断し、熱処理を施した後、放電加工電極10を用いて放電加工を行うことで製造できる。具体的には、ダイス素材を加工液に浸漬して固定した後、図示しない放電加工機に装着した放電加工電極10の加工用歯形面11をダイス素材の一面側に対向させ、放電加工電極10の加工用歯形面11との距離を調整しながら、加工用歯形面11とダイス素材との対向面間に放電を発生させることにより、加工用歯形面11の形状をダイス素材の一面側に転写し、並目螺子形成用歯形8a及び細目螺子形成用歯形8bが形成された第2転造歯形面8を備えた第2平形ダイス7を得ることができる。
【0030】
また、転造ダイス1の第1平形ダイス2は、合金工具鋼等で形成された第1平形ダイス2用のダイス素材を略直方体状に切断し、熱処理を施した後、ダイス素材の一面側に研削加工によって、仕上げ部4、食付き勾配5、逃げ勾配6を形成し、次いで研削加工によって、並目形成用歯形3aが形成された第1転造歯形面3を備えた第1平形ダイス2を得ることができる。
【0031】
以上のように構成された第1平形ダイス2、第2平形ダイス7を用いた本発明の実施の形態1における二重螺子ボルトの製造方法では、目的とする外径dの並目螺子部104を有する二重螺子ボルト101を製造する際に、始めに、図7に示す関係を満足する外径D=0.875×(1±0.03)dのボルト材料100を準備する。
図7は並目螺子部の外径とボルト材料の外径との関係を示す図である。
次に、このボルト材料100を、転造ダイス1の第1平形ダイス2の第1転造歯形面3と第2平形ダイス7の第2転造歯形面8との間に挟持し、第1平形ダイス2に対して第2平形ダイス7を平行に相対移動させる。これにより、ボルト材料100は第1転造歯形面3と第2転造歯形面8の上を転動し、並目螺子部104に重ねて細目螺子部106が形成された規格化された二重螺子ボルト101が、並目螺子形成用歯形3a,8a、細目螺子形成用歯形8bによって一度の転造加工で同時に形成される。
【0032】
以上のような本発明の実施の形態1における二重螺子ボルトの製造方法によれば、以下のような作用が得られる。
(1)二重螺子ボルト101の並目螺子部104の外径dより小さな外径D=0.875×(1±0.03)dのボルト材料100を転造ダイス1に押し付けて転造するので、二重螺子ボルト101の並目螺子部104の外径dが決まればボルト材料100の外径Dを簡単に求めることができ、ISOやJIS等の寸法規格に適合したボルトを高い製品得率で製造することができ、生産安定性に優れ低コストで量産できる。
(2)二重螺子ボルト101の外径に寸法ばらつきが生じ難いため、ISOやJIS等で規格化された並目ナットや細目ナットをスムーズに螺合することができ、締結時に細目螺子部106の螺子山を壊すことがなく使用性に優れた二重螺子ボルト101を製造できる。
(3)転造ダイス1が、第1平形ダイス2と第2平形ダイス7とを備えているので、丸形ダイスで転造加工する場合と比較して、単位時間当たりの生産量を10倍以上にすることができ生産性に著しく優れる。
(4)第1平形ダイス2が、並目螺子形成用歯形3aを有する第1転造歯形面3と、第1転造歯形面に形成された仕上げ部4と、仕上げ部4から傾斜角θで第1転造歯形面3の一端側に形成された逃げ勾配6と、を備え、第2平形ダイス7が、並目螺子形成用歯形8aと並目螺子形成用歯形8aに交差して形成された細目螺子形成用歯形8bとを有する第2転造歯形面8を備えているので、塑性変形量の大きな並目螺子部104を、第1平形ダイス2と第2平形ダイス7に形成された並目螺子形成用歯形3a,8aで形成することができ、塑性変形量の小さな細目螺子部106は、第2平形ダイス7に形成された細目螺子形成用歯形8bで、一回の転造加工動作で形成することができる生産性に優れる。
(5)細目螺子部106が形成されるときに第1平形ダイス2、第2平形ダイス7に形成された並目螺子形成用歯形3a,8aがガイドの役割を果たし、ボルト材料100の滑りを防止して細目螺子部106を確実に形成でき二重螺子ボルト101の品質を確保できる。
(6)食付き勾配5の分数勾配a/b、逃げ勾配6の分数勾配が、いずれもh/8d〜h/2d好ましくはh/6d〜h/3dの範囲で形成されているので、転造時にはボルト材料100が食付き勾配5によって第2転造歯形面8に少しずつ噛みこまれていくので、ボルト材料100が第2転造歯形面8の歯形に噛みこんだり歯型を破壊したりすることがなく、螺子成形をスムーズに行うことができ生産安定性に優れる。また、第1平形ダイス2と第2平形ダイス7との間で押圧され転造された二重螺子ボルト101がわずかに弾性回復するのを利用して、逃げ勾配6によって第2転造歯形面8からスムーズに離し転造ダイス1から排出できるので生産安定性に優れる。
(7)第2平形ダイス7の並目螺子形成用歯形8a及び細目螺子形成用歯形8bが、並目加工用歯形12及び細目加工用歯形13が形成された加工用歯形11を用いて放電加工によって形成されているので、切削加工によって転造ダイスを製造する場合と比較して加工コストを低減でき、二重螺子ボルト101を低原価で量産できる。なお、第2平形ダイス7の第2転造歯形面8は平面状に形成されているので、放電加工電極10の加工用歯形面11も平面状であれば良く、研削加工で容易に形成できるため加工性に優れる。
【0033】
なお、本実施の形態においては、転造ダイス1の第2平形ダイス7の第2転造歯形面8に形成された細目形成用歯形8bのピッチpが、並目形成用歯形8aのピッチPの1/2に形成された場合について説明したが、細目形成用歯形8bのピッチpが並目形成用歯形8aのピッチPの1/3〜2/3で形成された場合は、同一の関係式を用いてボルト材料100の外径を算出し、このボルト材料100を転造して二重螺子ボルト101を製造することができる。
また、第1平形ダイス2の第1転造歯形面3に並目螺子形成用歯形3aが形成された場合について説明したが、第2平形ダイス7と同様に、細目螺子形成用歯形を並目螺子形成用歯形3aに交差して形成することもできる。この場合も実施の形態1で説明したのと同様の作用が得られる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(二重螺子ボルトの転造加工に用いたダイス)
表1は本実施例と比較例において使用したダイスを特定するためのものであり、各ダイスで転造加工できる二重螺子ボルトの寸法(単位:mm)を示している。A〜Eは平形ダイス、Fは丸形ダイスである。表1に示す寸法は、A〜Fの各ダイスを用いて転造できる二重螺子ボルトの並目螺子部と細目螺子部のピッチ,外径,谷の径である。これらの寸法は、JIS B 0205−1997に規定されるメートル並目螺子、JIS B 0207−1997に規定されるメートル細目螺子の基準寸法であり、各ダイスには、これらの並目螺子部、細目螺子部が形成できるように、所定の大きさの歯形が所定のピッチで形成されている。なお、平形ダイスは実施の形態1で説明したものと同様に、一面側に並目形成用歯形が形成された第1転造歯形面を有する第1平形ダイスと、一面側に並目形成用歯形と細目形成用歯形が交差して形成された第2転造歯形面を有する第2平形ダイスと、を有している。
なお、ダイスA、Bは細目螺子形成用歯形のピッチが並目螺子形成用歯形のピッチの1/2に形成されており、ダイスC、Fは細目螺子形成用歯形のピッチが並目螺子形成用歯形のピッチの1/1.75に形成されており、ダイスDは細目螺子形成用歯形のピッチが並目螺子形成用歯形のピッチの1/1.5に形成されており、ダイスEは細目螺子形成用歯形のピッチが並目螺子形成用歯形のピッチの1/3に形成されている。
【0035】
【表1】

【0036】
以上のダイスを用いて、実施例1〜18、比較例1〜12の二重螺子ボルトを製造した。
(実施例1)
外径Dが5.25mmのボルト材料を用意してダイスAを用いて転造加工して、外径dが6.00mmの並目螺子部に細目螺子部が重ねて形成された実施例1の二重螺子ボルトを得た。
【0037】
(実施例2〜18、比較例1〜12)
外径Dを種々変えたボルト材料を用意してA〜Fのダイスを用いて転造加工して、外径dが異なる並目螺子部に細目螺子部が重ねて形成された実施例2〜18、比較例1〜12の二重螺子ボルトを得た。
以上の実施例1〜18、比較例1〜12のボルト材料Dの外径(mm)、使用したダイスの種類、製造された二重螺子ボルトの並目螺子部の外径d(mm)を表2にまとめて示した。また、表2には、A〜Fのダイスを用いて転造できる二重螺子ボルトの並目螺子部の外径dとボルト材料の外径Dとの関係を表す係数α(但し、α=D/(0.875×d))を示した。
なお、係数αは外径D=0.875×(1±0.03)dの関係式におけるカッコ内の数値を示しているので、0.97≦α≦1.03の場合は上記の関係式を満たしており、α<0.97又はα>1.03の場合は上記の関係式を満たしていないことを示している。
【0038】
【表2】

【0039】
従って、実施例1〜18はD=0.875×(1±0.03)dの関係式を満たす外径Dのボルト材料を加工したものであり、比較例1〜12はD=0.875×(1±0.03)dの関係式を満たさない外径Dのボルト材料を加工したものである。
【0040】
(実施例1〜18、比較例1〜12の二重螺子ボルトの評価)
実施例1〜18、比較例1〜12の二重螺子ボルトを振動バーレルに挿通し、二重螺子ボルトの並目螺子部に適合するJIS B 0205−1997に規定される並目ナットと、二重螺子ボルトの細目螺子部に適合するJIS B 0207−1997に規定される細目ナットを螺合し同一の締付トルクで締結した。なお、実施例1〜3、比較例1,2の二重螺子ボルトに螺合したナットは谷の径が6mmのナットであり、実施例4〜6,10〜12、比較例3,4,7,8の二重螺子ボルトに螺合したナットは谷の径が10mmのナットであり、実施例7〜9,16〜18、比較例5,6,11,12の二重螺子ボルトに螺合したナットは谷の径が12mmのナットであり、実施例13〜15、比較例9,10の二重螺子ボルトに螺合したナットは谷の径が11mmのナットである。
次いで、振動バーレルに締結した二重螺子ボルト及びナットに、NAS式高速緩み試験機(米国航空機規格NAS3350に準じる)を用いて、二重螺子ボルトの軸方向と直交する方向に振動を繰り返し与える振動試験を17分間(30000回)行った。振動数は1780rpmm、加振ストロークは11mm、インパクトストロークは19mmとした。
評価は、試験後又は試験中に並目ナットに緩みが発生しなかったものを○、試験後又は試験中に並目ナットに緩みが発生したか、試験開始時にナットが締結できなかったものを×として、表2にまとめて示した。
【0041】
表2に示すように、外径D=0.875×(1±0.03)dの関係式を満たす外径Dのボルト材料を加工した実施例1〜18は、評価基準を満足することがわかった。なお、丸形ダイスで転造した実施例16〜18の二重螺子ボルトは、平形ダイスで転造した実施例1〜15と比較して、生産速度が1/10程度しかなく生産性に欠けることがわかった。
以上のように本実施例によれば、目標とする二重螺子ボルトの並目螺子部の外径dが決まればボルト材料の外径Dを簡単に求めることができ、ISOやJIS等の寸法規格に適合したボルトを高い製品得率で製造することができ、規格化された並目ナットや細目ナットをスムーズに螺合することができ、また締結後は緩みが発生することがない使用性に優れた二重螺子ボルトを製造できることが明らかになった。また、平形ダイスで転造した実施例1〜15の二重螺子ボルトは、丸形ダイスで転造した実施例16〜18の二重螺子ボルトと比較して生産性に著しく優れることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、並目螺子部と細目螺子部を備えた緩み防止機能を有する二重螺子ボルトの製造方法に関し、二重螺子ボルトの並目螺子部の外径dが決まればボルト材料の外径Dを簡単に求めることができ、ISOやJIS等の寸法規格に適合したボルトを高い製品得率で製造することができ生産安定性に優れ低コストで量産でき、また得られた二重螺子ボルトは、ISOやJIS等で規格化された並目ナットや細目ナットをスムーズに螺合することができ、締結時に細目螺子部の螺子山を壊すことがなく、また締結後は緩みが発生しない使用性に優れた二重螺子ボルトを製造できる二重螺子ボルトの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施の形態1における二重螺子ボルトの製造方法を示す側面図
【図2】(a)転造ダイスの第1平形ダイスの平面図 (b)第1平形ダイスの側面図
【図3】(a)転造ダイスの第2平形ダイスの平面図 (b)第2平形ダイスの側面図
【図4】(a)第2平形ダイスの第2転造歯形面の拡大平面図 (b)B−B線における要部断面模式図 (c)B−B線から位相が90°ずれたC−C線における要部断面模式図 (d)B−B線から位相が180°ずれたD−D線における要部断面模式図 (e)B−B線から位相が270°ずれたE−E線における要部断面模式図 (f)B−B線から位相が360°ずれたF−F線における要部断面模式図
【図5】(a)第2平形ダイスの第2転造歯形面を形成するための放電加工電極の平面図 (b)放電加工電極の側面図
【図6】(a)放電加工電極の加工用歯形面の拡大平面図 (b)B−B線における要部断面模式図 (c)B−B線から位相が90°ずれたC−C線における要部断面模式図 (d)B−B線から位相が180°ずれたD−D線における要部断面模式図 (e)B−B線から位相が270°ずれたE−E線における要部断面模式図 (f)B−B線から位相が360°ずれたF−F線における要部断面模式図
【図7】並目螺子部の外径とボルト材料の外径との関係を示す図
【図8】(a)二重螺子ボルトの側面図 (b)二重螺子ボルトのボルト軸部の要部拡大図
【符号の説明】
【0044】
1 転造ダイス
2 第1平形ダイス
3 第1転造歯形面
3a 並目形成用歯形
4 仕上げ部
5 食付き勾配
6 逃げ勾配
7 第2平形ダイス
8 第2転造歯形面
8a 並目形成用歯形
8b 細目形成用歯形
10 放電加工電極
11 加工用歯形面
12 並目加工用歯形
13 細目加工用歯形
100 ボルト材料
101 二重螺子ボルト
102 ボルト軸部
103 ボルト頭部
104 並目螺子部
105 フランク
106 細目螺子部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルト軸部の先端部から所定部まで形成されたピッチP,外径dの規格化された並目螺子部と、少なくとも前記ボルト軸部の前記並目螺子部の全長若しくは先端部から前記並目螺子部の所定部まで前記並目螺子部に重ねて形成されたピッチp(p=P/n、nは1.5〜3。)の規格化された細目螺子部と、を備えた二重螺子ボルトの製造方法であって、
外径D=0.875×(1±0.03)dのボルト材料を転造ダイスに押し付けて転造することを特徴とする二重螺子ボルトの製造方法。
【請求項2】
前記転造ダイスが、(a)並目螺子形成用歯形を有する第1転造歯形面を備えた第1平形ダイスと、(b)並目螺子形成用歯形と前記並目螺子形成用歯形に交差して形成された細目螺子形成用歯形とを有する第2転造歯形面を備えた第2平形ダイスと、を備えていることを特徴とする請求項1に記載の二重螺子ボルトの製造方法。
【請求項3】
前記第1平形ダイスの前記第1転造歯形面の一端側に食付き勾配が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の二重螺子ボルトの製造方法。
【請求項4】
前記第1平形ダイスの前記第1転造歯形面の他端側に逃げ勾配が形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の二重螺子ボルトの製造方法。
【請求項5】
前記第2平形ダイスの前記並目螺子形成用歯形及び前記細目螺子形成用歯形が、前記ボルト軸部の前記並目螺子部及び前記細目螺子部を平面状に展開した加工用歯形を用いて放電加工によって形成されていることを特徴とする請求項2乃至4の内いずれか1に記載の二重螺子ボルトの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−229760(P2007−229760A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−54086(P2006−54086)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【出願人】(300032123)財団法人佐賀県地域産業支援センター (11)
【出願人】(593012882)大喜工業株式会社 (2)
【出願人】(392027254)株式会社佐賀鉄工所 (2)