説明

五員環状アニオン塩及び電解質へのその利用

本発明は、五員環状アニオン塩及び電解質組成物へのその利用に関する。前記化合物は、原子価m(1≦m≦3)の無機的、有機的又は有機金属性カチオンM及び、式(I)のmアニオンを含み、式中、Rfは−CFZ’Z”基であって、Z’はF又は1〜3炭素原子を有するパーフルオロアルキル基であり、Z”はH、F又はCl基、任意にフルオロ化された若しくはパーフルオロ化された、1〜5炭素原子を有するアルコキシ基、任意にフルオロ化された若しくはパーフルオロ化された、1〜5炭素原子を有するオキサアルコキシ基、又は任意にフルオロ化された若しくはパーフルオロ化された、1〜5炭素原子を有するアルキル基であって;Z’がFの場合、Z”はF以外である。本発明の電解質組成物は、液体溶媒又はポリマー溶媒中の上記塩を含む。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用電解質の製造のためのイオン性化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
非水性媒体、特に非プロトン性媒体、更に一般的にはアプロティック媒体と呼ばれる媒体の電解質溶液は、溶媒の分解等の副反応なしに電池を使用可能な範囲を広げることができるため技術的に非常に重要である。但し、この可能な範囲は水中で1.3V値を超えないものであった。
【0003】
塩を溶解可能な媒体は、主に極有機溶媒又は溶媒和性ポリマーであり、特に高分子鎖中に分散されたエーテル基を含むものであり、その構造は直鎖状又は分岐状でも、クシ型でもよく、架橋点があってもなくてもよい。−CH2CH2O−繰り返し単位を有するポリエーテルは、その高い溶媒和能が特に評価されている。
【0004】
イオン性液体も公知であり、その製品は低温で溶融する塩であり、(エチル)(メチル)イミダゾリウム(EMI)、(メチル)(プロピル)ピロリジニウム又はジエチルメチル(2−メトキシエチル)アンモニウム等の非局在化された電荷を有する少なくとも1のカチオン、並びに好ましくはそれ自身大容積中で非局在化された電荷を有するアニオンから構成されており、そのためカチオン及びアニオン間の相互作用が減少して低い凝固温度の達成が可能となっている。
【0005】
電解質に求められるイオン型導電性を導入するための溶質は、金属塩から、及び、N、O、S、P、As又はI等の1以上の元素の遊離電子対をプロトン又は有機ラジカルと結合してカチオンを形成させて得られる「イウム」塩から選ばれる。例えば、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム、ヨードニウム、ピリジニウム、イミダゾリウム、オキサゾリウム及びチアゾリウムイオンが挙げられる。金属でも特に重要なものは、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩、特にリチウム塩である。実際にリチウムイオンは、非常に電気化学的に有利であり、現代の技術において非常に重要な高エネルギー密度を有する電池の製造を可能にする。非水性電解質以外の他の用途として、エレクトロクロミックシステム及びスーパーキャパシタが挙げられる。
【0006】
カチオンの対電荷として働くアニオンは、非局在化された負電荷を示すものから選ばれ、その理由は、非プロトン性電解質は負電荷と一緒になっても水素原子を形成できず、非局在化がこれら条件下では唯一の明確な電離(dissociation)の手法であるためである。例えば、最も公知のアニオンの中からは、ClO4-、BF4-、PF6-、AsF6-又はSbF6-が挙げられる。ClO4-アニオンは爆発性混合物を形成する可能性がある。AsやSb由来のアニオンは、有毒かつ希少である。BF4-アニオンの電離は、かなり僅かである。LiPF6アニオンの塩は、下記主要な問題点はあるがリチウムジェネレータ中で最も広く使用されている塩である:i)それらは非常に容易に加水分解されて、電極材料に対して有毒で腐食性のHFを放出する。HFは正極からカチオン(Mn゜、Fe゜等)を放出し、それらを負極へ移動させ、それら(Mn、Fe等)は還元されてこの電極の界面のインピーダンスを非常に増大させ、利用可能な電力及び寿命を減少させる;ii)下記酸/塩基平衡は、非常に強力なルイス酸を放出し、
【0007】
【化1】

【0008】
ルイス酸は、特に、電解質溶媒を形成する材料であるかもしれないエステル又はエーテルに対し破壊的なカルボカチオン性ケミストリーを誘発可能である;iii)強加熱により非制御反応(暴走反応)が起こった場合、LiPF6はフッ素化剤として作用し、非常に有毒なモノフルオロエタノール又はモノフルオロ酢酸誘導体を生じる可能性がある。
【0009】
例えば、安価な元素を利用するビス(オキサラト)ボレート[B(C242-等のフッ素フリー配位アニオンも公知であるが;そのリチウム塩の導電性には限界がある。このアニオンの剛直性及びその大きいサイズは、エチレンカーボネートを含む標準的電解質中で好ましくない状態図を示す(低温で導電性が低い)。更に、このアニオンは高温(65℃)での酸化に対する安定性が非常に限られており、自己放電及びガス放出問題を生じる。
【0010】
液体中及びポリマー中の両方で、高い電子化学的安定性及び高い導電性を示す他のアニオンも公知である。それらの中でも、アニオン性液体形成能のあるアニオンが最も有効である。主なファミリーは、スルホンイミド[(RFSO22N]-のそれであり、最も重要な代表例はRF=CF3(TFSI)である。これら塩の欠点は、一方では、塩が、アルミニウム製の集電体を備えた電極を有する電池又はスーパーキャパシタ内で使用される場合、約3.6V(vs.Li+/Li°)を超えるアルミニウムのパシベーションの欠如に起因する。別の欠点は、CF3SO2シントン(synthon)の価格に起因する高い製造コストである。[(FSO22N]-アニオンは、アルミニウムの腐食作用に関してより好ましい挙動を見せるが、その製造は非常に高価であり、リチウム塩の安定性には限界がある(130℃)。一般に、電解質が共有アニオンの塩を含む場合、可溶性アルミニウム塩(例えば安定で非常に可溶性であるTFSI塩[(CF3SO22N]3Al等)が形成される可能性があり、その可溶性アルミニウム塩は金属表面を不動態化することができないために、3.6ボルトを超えるとアルミニウムの腐食は不可避となることが明らかであった。一方、PF6-等の配位アニオンは、(PF63Alではなく不溶性で不動態化するAlF3塩を形成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
他のアニオン「ヒュッケルアニオン」は、芳香族系の安定性を予測し、5員環に適用されたヒュッケル(4n+2)則への適合を基礎としており、その負電荷は非常に好ましいものである。これらアニオンで最も公知なのは下式4,5−ジシアノトリアゾール(DCTA)である。
【0012】
【化2】

【0013】
この純粋な共有性アニオンは、ニトリル基のC≡N結合の電子を考慮に入れても入れなくても6「π」電子構成配置又は10「π」電子構成配置を有すると考えることができ、これらそれぞれの構成配置は安定である。DCTA塩は、300℃まで熱的に安定である。更に、DCTAアニオンは、フッ素を含まず、工業的前駆体、下式ジアミノマレオニトリル(DAMN)から容易に製造される:
【0014】
【化3】

【0015】
しかし、このアニオンは、そのリチウム塩の比較的中程度の導電性(2.9mS・cm-1、EC−DMC50/50中)及び3.7V(vs.Li+/Li°)の酸化電位を示す欠点を有する。後者は特に、遷移金属酸化物LiXM2(0≦x≦1、TM=Mn、Ni又はCo)、リン酸マンガンLiMnPO4又はそのリン酸鉄との固溶体LiMn1-yFeyPO4(0≦y<1)等の電極材料の使用を完全に不可能とする。3.5V(vs.Li+/Li°)の電位を有するリン酸鉄(y=1)でさえ、電極チャージのエンドの安全域は、非常に小さい。
【0016】
下式に対応するアニオン塩:
【化4】

【0017】
(式中、Rは、パーフルオロアルキルスルホニル基又はパーフルオロアルキルカルボニル基等の電子吸引基である)は、例えばEP−0850933A等で公知である。しかし、R基の高い吸引力にも拘わらず、カチオンとの非常に強力な相互作用を生じる酸素の存在(C=O及びO=S=O)は、解離を制限する。更に、C=O又はS=O基は、環と共役し「π」電子数は4の倍数である。この結果、系は「反芳香族」となり、そのためそれらは、酸化及び還元に対してより低い安定性を示す。更に、この種の化合物の製造は非常に困難であり、DAMNから単一ステージで行うことはできない。
【0018】
2−トリフルオロメチル−4,5−ジシアノイミダゾールの合成は、M.Bukowskaらにより開示されている[Polish J.Chem.,78,417-422(2004)]。対応するリチウム塩は、炭酸リチウムとの反応により得ることができる。
【0019】
本発明の目的は、リチウム電子化学的装置中の電解質として使用可能な塩を提供することであり、その塩は、高温で4V(vs.Li+/Li°)を超える電位でも安定である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の化合物(I)は、原子価m(1≦m≦3)のカチオンM及び、下式に対応するmアニオンを含む:
【0021】
【化5】

【0022】
式中、Rfは−CFZ’Z”基であって、Z’はF又は1〜3炭素原子を有するパーフルオロアルキル基であり、Z”はH、F又はCl基、任意にフルオロ化された若しくはパーフルオロ化された、1〜5炭素原子を有するアルコキシ基、任意にフルオロ化された若しくはパーフルオロ化された、1〜5炭素原子を有するオキサアルコキシ(oxaalcoxy)基、又は任意にフルオロ化された若しくはパーフルオロ化された、1〜5炭素原子を有するアルキル基であって;MがLiでZ’がFの場合、Z”はF以外である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1の3種のポリマー電解質の導電性を、導電性C(単位:オーム-1.cm-1)を、温度の関数として表した図である。
【図2】実施例12の3種の「Swagelok」型電池の電気容量維持能を示すための、完全放電時間のRagone曲線である。
【図3】実施例13の電池のサイクリックボルタンメトリーで測定した結果である。
【図4】実施例14の3種の「ボタン電池」型電池の電気容量維持能を示すための、完全放電時間のRagone曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
f基として、例えば下記が挙げられる:CF2H、CF2Cl、C25、CF2CF2H、C37、C49、CF2OCH3、CF2OC25、CF2OC24OCH3、CF2OC24OC25、CF2OCH2OCF3、CF(CF3)OCH3、CF(CF3)OC25、CF(CF3)OC24OCH3、CF(CF3)OC24OC25及びCF(CF3)OCH2CF3
【0025】
カチオンは、無機的カチオン、有機金属性カチオン及び有機的カチオンから選ばれる。
無機的カチオンは、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン及びアンモニウムイオンから選ばれてもよい。特に好ましくはLi+、Na+、K+、NH4+、Ca++及びBa++イオンである。
有機金属性カチオンは、フェリシニウム、チタノセニウム及びジルコノセニウムイオンから選ばれてもよい。特に、フェリシニウムカチオン[(C552Fe]+、チタノセニウムカチオン[(C552Ti]2+及びジルコノセニウムカチオン[(C552Zr]2+等が挙げられる。
【0026】
有機的カチオンは、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム、ヨードニウム、ピリジニウム、イミダゾリウム、ピラゾリウム、アセトアミジウム、オキサゾリウム、チアゾリウム、ピロリジニウム及びピペリジニウムイオンから選ばれてもよい。特に下式に対応するカチオンが挙げられる:
式中、R1〜R37は、それぞれH、又は1〜20炭素原子を有する、アルキル、アリール若しくはオキサアルキル基を表し;R5〜R13は、それぞれアリール基、アルキルアリール基又はジアルキルアミノ基R3738N(R37及びR38基は1〜20炭素原子を有するアルキル基である)を表し;又は、隣接した炭素原子により保持されている2個のR基であって、一緒に1個の二末端遊離基(diradical)となり脂肪族又は芳香族環を形成する基である。
【0027】
【表1】

【0028】
ピロリジニウム及びピペリジウムイオンは、重要な四級アンモニウムの二個の例であり、その構造内では窒素の二個の置換基が1の環を形成している。
【0029】
特別な例として、本発明のイオン性化合物は、化合物の電子的中性を提供するために必要なアニオンの数に関連する有機的ポリカチオン性部分を含む。ポリカチオン性部分は、それぞれカチオン性基を有する少なくとも二個の繰り返し単位を含む。別の態様によれば、ポリカチオン性部分の繰り返し単位はカチオン性側基を有するユニットでもよく、カチオン性側基は例えば上記カチオンの一つであって、R基の一個は、繰り返し単位と結合するための二末端遊離基でありポリカチオン性基の鎖を形成する。また別の態様によれば、カチオン性基はポリカチオン性基の鎖の部分を形成し、カチオン性基上の2個のR置換基は二末端遊離基であって、隣接したカチオン性基との結合を形成してもよい。
【0030】
カチオンが有機的又は有機金属性カチオンである本発明のイオン性化合物は、それが対電極として機能できるエレクトロクロミックシステム、特に低い吸引性(absorbency)のフェロセン/フェリシニウムシステムで使用できる。このような化合物は、電気的シグナルを機械的動作に変換する電子化学的アクチュエータ、特にポリチオフェン又はポリアニリン型の共役ポリマーを含むアクチュエータにも使用でき、その場合は嵩高いカチオンを利用してそのドーピング/脱ドーピングを行うと印加電流により制御可能な機械的動作をもたらす。
【0031】
カチオンが有機的又は有機金属性カチオンであって、100℃未満の温度では液体である本発明のイオン性化合物は、特に電子化学的ジェネレータ内で、アルカリ金属塩用溶媒として使用可能なイオン性液体を形成する。このような化合物は、それが不燃性である事実から特に使用に有利である。
【0032】
カチオンがカチオン性又は有機金属性カチオンである本発明のイオン性化合物は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、錫、銅、クロム、プラチナ、パラジウム及び亜鉛等の金属の電子化学的電着を行うためにも使用できる。これら金属は、腐食作用に対する保護(材)又は、特にナノ粒子形状での、触媒として重要である。金属のナノ粒子は、本発明のイオン性液体へ金属塩を溶解し、溶液表面へ電子ビームを照射するかコールドプラズマを作用させることにより金属塩の還元を行い、特に容易に得ることができる。この金属ナノ粒子の製造方法は、そのカチオンが有機的又は有機金属性であって蒸気圧を持たないため、本発明のイオン性化合物に特有である。
【0033】
カチオンが有機的又は有機金属性カチオンである本発明のイオン性化合物は、Si、Ge又はそれらの固溶体等の半導体の製造にも使用でき、それらの前駆体(例えば塩化物又は臭化物)は液体イオン性化合物中に溶解されて出発原料とされる。
【0034】
本発明の別の目的は、イオン性化合物及び溶媒を含む電解質組成物であり、イオン性化合物は原子価m(1≦m≦3)のカチオンM及び、下式に対応するmアニオンを含むことを特徴とする:
【0035】
【化6】

【0036】
式中、Rfは−CFZ’Z”基であって、Z’はF又は1〜3炭素原子を有するパーフルオロアルキル基であり、Z”はH、F又はCl基、任意にフルオロ化された若しくはパーフルオロ化された、1〜5炭素原子を有するアルコキシ基、任意にフルオロ化された若しくはパーフルオロ化された、1〜5炭素原子を有するオキサアルコキシ基、又は任意にフルオロ化された若しくはパーフルオロ化された、1〜5炭素原子を有するアルキル基であって;カチオンは無機的カチオン、特にアルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン又はアンモニウムカチオン、好ましくはリチウムイオン又はナトリウムイオンである。
【0037】
溶媒は、任意にポリマーでゲル化された液体有機溶媒、液体溶媒で任意に可塑化された溶媒和性(solvating)ポリマー、非溶媒和性ポリマーと、極性液体又はイオン性液体との混合物、及びイオン性液体から選ばれる
【0038】
用語「液体有機溶媒」は、本発明の塩を溶解可能な、極性液体又は極性液体の混合物を意味する。例えば極性液体として特に、直鎖状エーテル及び環状エーテル、エステル、ニトリル、ニトロ化誘導体、アミド、スルホン、スルホラン、アルキルスルファミド及び部分的にハロゲン化された炭化水素が挙げられる。特に好ましい溶媒は、ジメトキシエタン、グリム、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メチルテトラヒドロフラン、メチルホルメート、エチルホルメート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、アルキルカーボネート(特にジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びメチルプロピルカーボネート)、ブチロラクトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ニトロメタン、ニトロベンゼン、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、N−メチルピロリジドン、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン、ジメチルスルホキシド及び、5〜10炭素原子を有するテトラアルキルスルホンアミド、又はこれらの混合物である。
【0039】
用語「イオン性液体」は、100℃以下の融点を有する、塩又は無機的若しくは有機的カチオン塩混合物である。特にイオン性液体として例えば、有機的カチオンと、BF4-、CF3SO3-、TFSI、FSI、C(CN)3-及びN(CN)2-の群から選ばれたアニオンとの塩が挙げられる。更に、有機的又は有機金属性カチオンを有する本発明の化合物として例えば、、特にアンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム、ヨードニウム、ピリジニウム、イミダゾリウム、ピラゾリウム、アセトアミジウム、オキサゾリウム、チアゾリウム、ピロリジニウム又はピペリジニウムカチオンの塩、特に(エチル)(メチル)イミダゾリウム、(ブチル)(メチル)イミダゾリウム、(メチル)(プロピル)ピロリジニウム、(メチル)(ブチル)ピロリジニウム、(メチル)(プロピル)ピペリジニウム、ブチルピリジニウム、(2−メトキシエチル)トリエチルアンモニウム及びヘキシルトリメチルアンモニウムカチオンから選ばれたカチオンの塩が挙げられる。
【0040】
用語「溶媒和性ポリマー」は、上記金属塩との複合体の形成が可能な、充分な量の機能性基を有するポリマーである。これらのポリマーは、架橋され又は非架橋された、グラフト化イオン性基を有する又は有さない溶媒和性ポリマーから選ばれることができる。溶媒和性ポリマーとして例えば、直鎖状、櫛形又はブロック構造であって、ネットワークを形成し又は形成せず、ポリ(エチレンオキシド)、又は、エチレンオキシド若しくはプロピレンオキシド又はアリルグリシジルエーテルユニットを含むコポリマーをベースとするポリエーテル、ポリホスファゼン、イソシアネートによって架橋されたポリエチレングリコールをベースとする架橋されたネットワーク、又は、重縮合及び架橋可能な基の組み込みを可能とする基を含有することにより得られるネットワーク、が挙げられる。いくつかのブロックが、レドックス特性を示す機能性基を有するブロックコポリマーも挙げられる。
【0041】
溶媒が極性有機溶媒タイプ又はイオン性液体タイプである、本発明の液体電解質組成物中のイオン性化合物の濃度は、好ましくは10-3mol/l〜3.5mol/lである。
【0042】
ポリマーがオキシアルキレン繰り返し単位からなるポリマー溶媒を含む電解質組成物中で、イオン性化合物の濃度は、好ましくはイオン性化合物1モル当たりの酸素原子(又は繰り返し単位)の数が1〜200となる濃度である。
【0043】
予測されなかったことであるが、本発明の化合物は、導電性及び電子化学的安定性の点から、他の従来のヒュッケルアニオンのものより非常に優れた特性を有する。特に、本発明の塩のアニオンは、4.5V(vs.Li+/Li°)を超えるアノードの安定性を有する。この酸化耐性は、DCTAタイプのアニオン及び本発明の塩のアニオンが、下記反応スキームに従いDAMNとの縮合によって[ZO2-酸から由来することを考慮すると完全に例外的なものである:
【0044】
【化7】

Qは、従来技術のDCTAタイプの化合物ではNであり、本発明の化合物ではCRf、特にCF3Cである。
【0045】
従って、DCTA及び本発明のアニオンの酸性及び酸化電位を、それらの酸前駆体のそれを比較することにより比べることができる。即ち、DCTAタイプの化合物として、そのpKaが3.4である硝酸NO2-が参照され、RfがCF3である本発明の化合物として、25℃でそのpKaが0.23であるトリフルオロ酢酸CF3CO2-が参照される。これらの価から、本発明のアニオン(Rf=CF3)の酸化電位は、アノード電位側へ56×(3.4−0.23)=178mV、即ちほぼ4V(vs.Li+/Li°)シフトされると考えられる。この電位は、LixM2(0≦x≦1)タイプの酸化物、又はリン酸マンガンLiMnPO4若しくはLiMn1-yFeyPO4(0≦y<1)の電子化学的操作を提供するためには充分ではない。電解質4.3Vのアノードの安定性が、これらカソード材料を使用する電子化学的ジェネレータに求められると考えられる。
【0046】
実際に、Rfがそれぞれ−CF3、−CF2Cl、−CF2OCH3、−CF2OCF3、−C25、−C24H、−C37、又は−C49である本発明の種々の化合物に対して行われたボルタンメトリーサイクルは、本発明の化合物の酸化電位が、4.3Vを超え、上記理論により予測された値よりかなり上であることを示した。
【0047】
驚くべきことに、本発明の化合物のリチウム塩は、4.6V未満の電位でアルミニウムを腐食しないため、集電体がアルミニウムシートであり、重量及びコストに有利なリチウム電池のための優れた候補になる。
【0048】
いくつかの本発明の化合物の興味深い利点は、出発材料コストが低いことである。Rf=CF3の場合、トリフルオロ酢酸は、冷却溶媒(例えばCF3CH2F等)の製造に由来する工業製品である。
【0049】
本発明の電解質組成物は、特にアノード及びカソード間のリチウムイオンの交換により作動する電子化学的装置で使用される。それらは特にリチウム電池、リチウムイオン電池、ウルトラコンデンサ及びエレクトロクロミック装置である。従って、使用されるイオン性化合物は、好ましくはリチウム塩である。
【0050】
本発明の化合物(I)は、下記ステージを含むプロセスにより製造可能である:
−下記酸を用意することからなる第一ステージ
【化8】

【0051】
−酸がカチオンMの塩へ変換される第二ステージ。
化合物(3)はDAMN及びRf基を提供する反応物質との間の反応により得ることができる。
【0052】
第1の態様では、第一ステージは下記反応スキームに従い行われる:
【化9】

【0053】
式中、Rfは上記記載の意味であり、Yは、RfC(=O)O、Cl、F、CF3SO3、OCH3、OC25、OCH2CF3、OC64NO2(ニトロフェニル)、イミダゾリル基、又はスクシンイミジルオキシ基を表す。
【0054】
第2の態様では、第一ステージは下記反応スキームに従いアルデヒド(4)O=CHRfから出発して行われる:
【化10】

fは上記記載の意味である。
【0055】
第3の態様では、プロセスの第一ステージは下記反応スキームに従いアセタール(6)から出発して行われる:
【化11】

【0056】
第2及び第3の態様は、例えばR’及びR”がCH3、C25、n−C37又はi−C37である場合等、アルデヒドRfCHO又はそのアセタールRfCH(OH)(OR')、RfCH(OH)2及びRfCH(OR’)(OR”)が市販されている場合には有利である、。
アルデヒド又はアセタールを使用するプロセスでは、臭素は化合物(5)の環化のための同様な強度を有する別の酸化剤で置き換えられてもよい。例えば、臭素は低温で塩素と置換されても良く、N−クロロスクシンイミド又はN−ブロモスクシンイミド、次亜塩素酸塩又はN、N’−ジクロロシアヌル酸のナトリウム塩等のイミドで置換されてもよい。
【0057】
第一ステージの最後に得られる酸化合物(3)は、当業者に公知の方法及び技術により、目的のカチオンMの塩へ変換できる。例えば、化合物(3)とカチオンMの、炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩、メチル炭酸塩又は水酸化物との反応が挙げられる。カチオンMが有機的カチオンの場合、転換は二段階で行うことができる:酸化合物(3)のナトリウム又はカリウム塩への転換、次に、アセトニトリル等のナトリウム又はカリウム塩は不溶な非プロトン性溶媒中で、ナトリウム又はカリウム塩と化学量論的量の有機的カチオン化合物(例えばクロライド、ブロマイド又はアルキルスルフェート)との反応。
【0058】
fのR’基はFであり、R”基及びY基はそれぞれアルコキシ又はオキサアルコキシ基OZ1(化合物2’として示す。)を表す化合物(2)は、下記反応スキームに従い、化合物HOZ1(8)とテトラフルオロオキシラン(7)との反応により得ることができる:
【0059】
【化12】

【0060】
上記化合物(2’)は、特にZ1はアルキル又はアルキルオキシアルキルであるものであり、上記基は任意でフルオロ化された若しくはパーフルオロ化されている。OZ1基として、例えばOCH3、OC25、OC24OCH3、OC24OC25、OCH2CF3及びOCF3基が挙げられる。
【0061】
塩基性媒体中での反応の改変は、アニオンCF3-から出発してCF3OCF2CO2H”の誘導体を得ることを可能とする。この代替的形式はRf基がCF2OCF3である化合物を製造することを可能とする。
fのR’基がCF3であり、R”基及びY基はそれぞれアルコキシ又はオキサアルコキシ基OZ2(化合物2”として示す。)を表す化合物(2)は、化合物HOZ2(8)とオキシラン(10)との反応により、下記反応スキームに従い得ることができる。
【0062】
【化13】

【0063】
上記化合物(2”)は、特にOCH3、OC25、OC24OCH3、OC24OC25又はOCH2CF3等のOZ2基を含むものである。
f基がCF3、CF2H、CF2Cl、C25、HC24、C37又はC49である化合物O=C(Rf)Yは、酸、無水物又はエステルの形状で市販されており、それらからジシアノイミダゾール環の形成が可能である。
【0064】
式O=C(Rf)Yに対応する化合物(2)は、当業者に公知のプロセスにより、対応する酸O=C(Rf)OHから適切な試薬との反応によって調製できる。試薬は例えば、YがClの場合は塩素化剤(例えばSOCl2)であり、Yがイミダゾール基の場合はカルボニルイミダゾールであり、Yがニトロフェニル基の場合はニトロフェニルカーボネートであり、Yがスクシンイミジロキシ基の場合はスクシンイミジルカーボネートである。
【実施例】
【0065】
本発明を下記実施例により示すが、これらは本発明を限定するものではない。
実施例1
【化14】

【0066】
2.42gの無水トリフルオロ酢酸を、1.14gのDAMNを含む11mlジオキサン溶液が入っている反応器中に投入した。混合物をアルゴン雰囲気下に置き、反応物が完全に消滅するまで還流攪拌した。溶媒及びトリフルオロ酢酸を真空下で除去した後、固体残渣を50mlエーテルに溶解した。エーテル溶液を、1gの炭酸リチウムを含む90ml水の懸濁液で4回抽出し、次にリチウム塩水溶液をエーテルで洗浄した。回転式エバポレーターで水を除去した後、暗色残渣を真空下100℃で乾燥した。次に、暗色固体をアセトニトリル(4×10ml)で抽出し、残った溶液をろ過した。次にアセトニトリルを除去し、粗塩を、アセトニトリル/ベンゼン2/1混合物を溶出液として使用してクロマトグラフィーによりアルミナ上で精製した。乾燥後、1.45g(収率71%)のリチウム2−トリフルオロメチル−4,5−ジシアノイミダゾールを無色固体の形状で得た。リチウム塩(LiTDCI)は、再結晶後の二溶媒和物の形状で得られた。精製物は、真空下150℃で処理して得られた。
【0067】
ポリマー電解質の複数のサンプルを、モル質量Mwが105であるポリ(エチレンオキシド)680mg、モル質量Mwが5×106であるポリ(エチレンオキシド)200mg、及び13mlのアセトニトリル中のLiTDCIを材料として、僅かに乳白色で粘性の溶液が得られるまで攪拌溶解して調製した。
その結果、それぞれ180mg、320mg及び240mgのLiTDCIを使用して、3種のサンプルを調製した。
【0068】
それぞれの溶液は、PTFEで覆われたガラスシート上に置かれた直径50cmのガラスリング中に注入された。乾燥空気流の下でアセトニトリルを蒸発させて、弾性のある透明な複合体フィルムが得られた。
【0069】
これら電解質の導電性を温度の関数として測定した。温度の関数としての導電性C(単位:オーム-1・cm-1)を、1000/T(K)で表して図1中に示す。曲線及びサンプルの関係を下記表中に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
LiTDCIの導電性は、ポリマー電解質の導電性に関する比較塩であるLi[CF3SO22N](LiTFSI)のそれと同等であった。
【0072】
実施例2
【化15】

【0073】
10.5ml(53.8mmol)の無水ペンタフルオロプロピオン酸を、4.84g(44.8mmol)のジアミノマレオニトリルを含む47mlジオキサン溶液へ添加した。混合物を、沈殿物が消滅するまで(薄層クロマトグラフィー(TLC)により確認、約6h)アルゴン雰囲気下で加熱還流した。得られた混合物を真空下90℃で1時間維持し、次に高度の真空ラインで120℃で1時間乾燥して溶媒及び酸を除去した。固体残渣を40mlエーテルに溶解し、得られた溶液を、3g(40.5mmol)の炭酸リチウムを含む100ml水の懸濁液で3回抽出した。塩水溶液をエーテル50mlで2回洗浄した。次に、脱色剤として活性炭を水溶液へ添加し、スラリーを1時間加熱した。濾紙によるろ過で活性炭を除去後、溶液を真空下80℃で2時間乾燥した。次に、残渣を無水アセトニトリルに溶解し、固体残渣を再度ろ過した。アセトニトリル溶液を真空下90℃で1時間維持した。アセトニトリル/ベンゼン1/1混合物から2回再結晶して、得られた結晶を高度の真空ラインで真空下120℃で4時間維持した。5.12gのリチウム4,5−ジシアノ−2−(ペンタフルオロエチル)イミダゾール[LiPDCI]無色結晶が得られた(収率:47.2%)。
【0074】
実施例3
【化16】

【0075】
10.8gのDAMN及び22gの無水クロロジフルオロ酢酸(ClF2CO)2Oを、100mlのジグリム中に投入し、保護用窒素雰囲気下で還流し、反応を48時間継続した。反応生成物をろ過し、12gの炭酸ナトリウムで処理し、溶液をエバポレートした。固体残渣に80ml水及び25gスルファミン酸を添加した。2−クロロジフルオロエチル−4,5−ジシアノイミダゾール及び反応副成生物クロロジフルオロ酢酸の混合物を3回の50mlエーテルで抽出した。エーテル抽出液を一緒にしてエバポレートした。粗2−クロロジフルオロメチル−4,5−ジシアノイミダゾールを、低真空下90℃でビュッヒ社製オーブン内で昇華により精製した。
【0076】
リチウム塩は、5gのイミダゾールの酸形状を、アセトニトリル中で化学量論的にやや過剰の炭酸リチウム(1.1g)と反応させて得られた。懸濁液を遠心分離し、リチウムLi[CClF232(CN)2]を吸湿性白色粉形状として得た。
【0077】
実施例4
【化17】

【0078】
16.2gの市販のカルボニルジイミダゾールを、75mlジグリム中9.6gの市販のジフルオロ酢酸へ添加した。数分後、CO2の発生が起こった。得られた透明溶液へ、10.8gのDAMNを添加した。反応を窒素雰囲気下24時間還流して維持した。ジグリムを減圧下エバポレートし、100mlの2M HClを添加した。2−ジフルオロメチル−4,5−ジシアノイミダゾールを3回のエーテル30mlで抽出した。一緒にした抽出液をエバポレート後、生成物を低真空下115℃で昇華により精製した。リチウム塩は、上記実施例と同様に、アセトニトリル中でやや過剰の炭酸リチウムと反応させて得られた。
【0079】
実施例5
3,3,3−トリフルオロメトキシ−2−フルオロ−2−メトキシプロパン酸のメチルエステルを、16gのエポキシヘキサフルオロプロペンC36Oを75ml無水メタノール中−30℃で縮合して調製した。エステルを、水で希釈し、ジクロロメタンで抽出して蒸留して分離した。8.5gのCF3C(OCH3)FC(=O)OCH3を、エタノール中で2.4gの水酸化ナトリウムで加水分解し、溶媒をエバポレートし、固体をCF3C(OCH3)FCO2Naのみが可溶なアセトニトリル中に投入した。次に目的の塩を、ろ過及びエタノールのエバポレートにより分離した。
【0080】
9.9gの上記ナトリウム塩及び4.95gトリホスゲン(CCl3O)2C=Oを、触媒として50mgジメチルホルムアミド(DMF)存在下でジオキサン中0℃で反応させた。5.40gのDAMNを添加し、混合物を窒素雰囲気下24時間還流した。イミダゾールA5は、炭酸リチウムの作用によりリチウム塩B5へ変換された。
【0081】
【化18】

【0082】
実施例6
イオン性液体を、30ml水中で4.75gの(エチル)(メチル)イミダゾリウムエチルスルフェートN24SC816へ、3.84gの実施例1のリチウム塩を作用させて調製した。分離したイオン性液体を、ジクロロメタンで抽出し、水で3回洗浄した。溶媒をエバポレート後、下式に対応する流体オイルが得られた:
【0083】
【化19】

この流体は検出可能な蒸気圧を持たず、375℃まで安定であった。
【0084】
実施例7
ジフルオロ(2−メトキシエトキシ)酢酸の2−メトキシエチルエステルを、16.6gのエポキシテトラフルオロエチレンC24Oを250ml無水メトキシエタノール中−30℃で縮合して調製した。
エステルCH3O−C24O−F2C−C(=O)−OCH2CH2OCH3を蒸留して分離した。11.4gのエステルを、エタノール中で3gの水酸化カリウムで加水分解し、溶媒及び生成したメトキシエタノールをエバポレートし、次に固体を真空下70℃で乾燥した。固体をカリウム塩CH3O−C24O−CF2−CO2Kのみが可溶なアセトニトリル中に投入した。目的の塩を、ろ過及びエバポレートにより回収した。
【0085】
6.6gのカリウム塩、4gのチオニルクロライドSOCl2及び、触媒として50mgのジメチルホルムアミド(DMF)を、35mlのジグリム中0℃で反応させた。1時間後、3.6gのDAMNを添加し、混合物を窒素雰囲気下24時間還流した。イミダゾールA7は、実施例5と同様に抽出精製され、炭酸リチウムの作用によりリチウム塩B7へ変換された。
【0086】
【化20】

【0087】
実施例8
ブチルピリジニウムブロマイドを、27.5gの1−ブロモブタンを15.8gのピリジンと40℃で24時間、溶媒無しに反応させるMenshutkin反応により調製した。得られた固体は低真空50℃で乾燥させた。
【0088】
イオン性液体を、25ml水中で、4.35gのブチルピリジニウムブロマイドへ、4.84gの実施例2のリチウム塩(CN)23225Liを作用させて調製した。分離したイオン性液体を、ジクロロメタンで抽出し、水で3回洗浄した。溶媒をエバポレート後、下式に対応する流体オイルが得られた:
【0089】
【化21】

この流体は検出可能な蒸気圧を持たず、375℃まで安定であった。
【0090】
実施例9
(プロピル)(メチル)ピロリジニウムブロマイドを、12.4gの1−ブロモプロパンを8.5gのN−メチルピロリジンと常温で反応させて調製した。
イオン性液体を、25ml水中で4.18gの(プロピル)(メチル)ピロリジニウムブロマイドへ、3.84gの実施例1で得られた塩(CN)232CF3Liを作用させて調製した。分離したイオン性液体を、ジクロロメタンで抽出し、水で3回洗浄した。溶媒をエバポレート後、下式に対応する流体オイルが得られた:
【0091】
【化22】

この流体は検出可能な蒸気圧を持たず、375℃まで安定であった。
【0092】
実施例10
18gの市販のペンタフルオロプロピオンアルデヒドヘミアセタールC25CH(OH)OCH3を、50mlのアセトニトリル中で10.8gのDAMNへ添加した。混合物を50℃で24時間攪拌維持した。次に、反応混合物を−10℃まで冷却し、16gのブロマイドのアセトニトリル溶液を滴下した。溶媒をエバポレートした。粗2−ペンタフルオロエチル−4,5−ジシアノイミダゾールを、真空下100℃でビュッヒ社製オーブン内で昇華により精製した。リチウム塩を、上記と同様に炭酸リチウムの作用により調製した。
【0093】
実施例11
実施例1のリチウム塩LiTDCI及び実施例2の塩LiPDCIの導電性を、リチウム電池用に従来公知の種々の塩のものと比較した。測定は、20℃で、エチレンカーボネート/メチルカーボネート(EC/DMC)50/50v/v混合物中でそれぞれ塩の1M溶液から開始された。
【0094】
【表3】

上記表は、LiTDCI及びLiPDCIの性能が、LiDCTAのものより顕著に良く、導電性は2倍以上であることを示す。
【0095】
実施例12
「Swagelok」型の3種の電池:(Li)/(EC−DMC電解質中の1M塩)/(LiFePO4)であって、リチウムアノード、EC/DMC50/50混合物中1M塩溶液からなる液体電解質、及びPt集電体上のカーボンSP(商品名)15重量%を含むLiFePO4混合物からなるカソードから構成される電池を組み立てた。
塩はそれぞれ、実施例1の塩LiTDCI、実施例2の塩LiPDCI、及び比較用の塩LiPF6である。
【0096】
目的とされる電力機能としてその電気容量を維持する能力を、下記プロセスに従いそれぞれの電池で測定した。それぞれ電池は、22℃で異なる印加電流により数回処理され、完全放電に必要な理論的時間の関数として、完全放電に必要な時間を記録した。結果を図2のRagone曲線に示す。図2の縦座標「%C」は、横座標で示される放電t(xc)の速度の関数としての残存電気容量のパーセントを示す。T(xc)は、時間(単位)の逆関数を示す。
【0097】
これら曲線は、電解質の塩が本発明の化合物である電池は、電解質が、液体電解質リチウム電池内で現在使用されている最も導電性の高い塩の一つとして知られているLiPF6である電池のものと同等の性能を有することを示す。
【0098】
実施例13
実施例12のものと類似の電池を、種々の電解質組成物の機能として、耐アルミニウム腐食作用の試験のため、カソードとしてアルミニウム集電体を使用して組み立てた。
塩はそれぞれ、実施例1の塩LiTDCI、実施例2の塩LiPDCI、及び比較用の塩LiPF6及び塩LiTFSIである。
【0099】
それぞれ電池を、10mV/min条件下でサイクリックボルタンメトリーにかけた。
結果を図3に示す。mA単位の酸化電流Ioxが、ボルト単位のP(vs.Li+/Li°電位)の関数として縦座標に示される。
予測されるとおり、LiPF6は明らかな腐食作用を示さない一方、LiTFSIは高度の腐食性を示した。本発明の塩LiTDCI及びLiPDCIは、4.6V(vs.Li+/Li°)でそれらが酸化する前は腐食作用を示さなかった。酸化物又はLi1-xFexPO4型の多くの電極材料は4.3V(vs.Li+/Li°)でその再充電を終了することを考慮すると、この電位でアルミニウムを腐食しない本発明の化合物の利点は明らかである。
【0100】
実施例14
「ボタン電池」型の3種の電池:(Li)/(塩+POE電解質)/(LiFePO4)であって、リチウムアノード、ポリ(オキシエチレン)POE中の塩固溶体からなるポリマー電解質、並びにステンレススチールからなる集電体上の40重量%のLiFePO4、10重量%のカーボンSP及び50重量%のPEOの混合物からなる正極から構成される電池を組み立てた。
【0101】
それぞれの電解質は、実施例1の手順に従い調製し、O/Li比20となるための量のポリマー及びリチウム塩を使用して厚さほぼ100μmのフィルムを形成した。
塩はそれぞれ、実施例1の塩LiTDCI、実施例2の塩LiPDCI、及び比較として、塩LiTFSIである。
【0102】
目的とされる電力機能としてその電気容量を維持する能力を、下記プロセスに従いそれぞれの電池で測定した。それぞれ電池は、80℃で異なる印加電流により数回処理され、完全放電に必要な理論的時間の関数として、完全放電に必要な時間を記録した。結果を図4のRagone曲線に示す。図4の縦座標「%C」は、横座標で示される放電t(xc)の速度の関数としての残存電気容量のパーセントを示す。T(xc)は、時間(単位)の逆関数を示す。
【0103】
これら曲線は、電解質の塩が本発明の化合物である電池は、電解質が、ポリマー電解質リチウム電池内で現在使用されている最も導電性の高い塩の一つとして知られているLiTFSIである電池のものと同等の性能を有することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子価m(1≦m≦3)の無機的、有機的又は有機金属性カチオンM及び、下式に対応するmアニオンを含む化合物:
【化1】

式中、Rfは−CFZ’Z”基であって、Z’はF又は1〜3炭素原子を有するパーフルオロアルキル基であり、Z”はH、F又はCl基、任意にフルオロ化された若しくはパーフルオロ化された、1〜5炭素原子を有するアルコキシ基、任意にフルオロ化された若しくはパーフルオロ化された、1〜5炭素原子を有するオキサアルコキシ基、又は任意にフルオロ化された若しくはパーフルオロ化された、1〜5炭素原子を有するアルキル基であって;Z’がFでMがLiの場合、Z”はF以外である。
【請求項2】
fは、CF2H、CF2Cl、C25、CF2CF2H、C37、C49CF2OCH3、CF2OC25、CF2OC24OCH3、CF2OC24OC25、CF2OCH2OCF3、CF(CF3)OCH3、CF(CF3)OC25、CF(CF3)OC24OCH3、CF(CF3)OC24OC25及びCF(CF3)OCH2CF3の群から選ばれる請求項1記載の化合物
【請求項3】
カチオンは、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン及びアンモニウムイオンから選ばれる無機的カチオンである請求項1記載の化合物。
【請求項4】
カチオンは、フェリシニウムイオン、チタノセニウムイオン又はジルコノセニウムイオンである請求項1記載の化合物。
【請求項5】
カチオンは、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム、ヨードニウム、ピリジニウム、イミダゾリウム、ピラゾリウム、アセトアミジウム、オキサゾリウム、チアゾリウム、ピロリジニウム及びピペリジニウムイオンから選ばれる有機的カチオンである請求項1記載の化合物。
【請求項6】
溶媒内の溶液中の塩からなる電解質組成物であって、塩は、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン及びアンモニウムイオンから選ばれる無機的カチオンM及びmアニオンを含む、下式に対応する化合物である電解質組成物:
【化2】

式中、Rfは−CFZ’Z”基であって、Z’はF又は1〜3炭素原子を有するパーフルオロアルキル基であり、Z”はH、F又はCl基、任意にフルオロ化された若しくはパーフルオロ化された、1〜5炭素原子を有するアルコキシ基、任意にフルオロ化された若しくはパーフルオロ化された、1〜5炭素原子を有するオキサアルコキシ基、又は任意にフルオロ化された若しくはパーフルオロ化された、1〜5炭素原子を有するアルキル基である。
【請求項7】
fは、CF3、CF2H、CF2Cl、C25、CF2CF2H、C37、C49、CF2OCH3、CF2OC25、CF2OC24OCH3、CF2OC24OC25、CF2OCH2OCF3、CF(CF3)OCH3、CF(CF3)OC25、CF(CF3)OC24OCH3及びCF(CF3)OC24OC25の群から選ばれる請求項6記載の電解質組成物。
【請求項8】
電解質の塩のカチオンは、リチウムイオンである請求項6記載の電解質組成物。
【請求項9】
溶媒は、ポリマーで任意にゲル化された液体有機溶媒、液体溶媒で任意に可塑化された溶媒和性ポリマー、及びイオン性液体から選ばれる請求項6記載の電解質組成物。
【請求項10】
イオン性液体は、原子価m(1≦m≦3)のカチオンM及び、下式に対応するmアニオンを含む化合物である請求項9記載の電解質組成物:
【化3】

式中、Rfは−CFZ’Z”基であって、Z’はF又は1〜3炭素原子を有するパーフルオロアルキル基であり、Z”はH、F又はCl基、任意にフルオロ化された若しくはパーフルオロ化された、1〜5炭素原子を有するアルコキシ基、任意にフルオロ化された若しくはパーフルオロ化された、1〜5炭素原子を有するオキサアルコキシ基、又は任意にフルオロ化された若しくはパーフルオロ化された、1〜5炭素原子を有するアルキル基であって;
カチオンは、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム、ヨードニウム、ピリジニウム、イミダゾリウム、ピラゾリウム、アセトアミジウム、オキサゾリウム、チアゾリウム、ピロリジニウム及びピペリジニウムイオンから選ばれる有機的カチオンである。
【請求項11】
イオン性液体を形成する化合物のカチオンは、(エチル)(メチル)イミダゾリウム、(ブチル)(メチル)イミダゾリウム、(メチル)(プロピル)ピロリジニウム、(メチル)(ブチル)ピロリジニウム、(メチル)(プロピル)ピペリジニウム、ブチルピリジニウム、(2−メトキシエチル)トリエチルアンモニウム及びヘキシルトリメチルアンモニウムカチオンから選ばれる請求項10記載の電解質組成物。
【請求項12】
溶媒は、極性液体又は極性液体の混合物であって、塩の濃度は10-3mol/l〜3.5mol/lである請求項9記載の電解質組成物。
【請求項13】
溶媒は、オキシアルキレン繰り返し単位を含む溶媒和性ポリマーであり、塩の濃度は、塩1モルに対する酸素原子(又は繰り返し単位)数が1〜200の間である請求項9記載の電解質組成物。
【請求項14】
溶媒は、イオン性液体であり、塩の濃度は、10-3mol/l〜3.5mol/lである請求項9記載の電解質組成物。
【請求項15】
エレクトロクロミックシステムの、又は電子化学的アクチュエータ内の対電極用材料としての請求項4又は5記載の化合物の使用。
【請求項16】
100℃未満の温度で液体である請求項4又は5記載の化合物の中に溶液中のアルカリ金属塩を含む電解質組成物。
【請求項17】
金属の塩を溶媒中に溶解し、次に溶液表面へ電子ビームを照射するかコールドプラズマを適用して金属塩を還元する金属ナノ粒子の製造方法であって、溶媒は、100℃未満の温度で液体である請求項4又は5記載の化合物である方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−500833(P2012−500833A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524438(P2011−524438)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051642
【国際公開番号】WO2010/023413
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(506369944)サントル ナスィオナル ド ラ ルシェルシュ スィアンティフィク (45)
【出願人】(510252782)ユニベルシテ・ド・ピカルディ・ジュール・ヴェルヌ (4)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE PICARDIE JULES VERNE
【住所又は居所原語表記】33 rue de Saint Leu,F−80039 Amiens,France
【出願人】(508369847)ユニベルシテ・ド・テクノロジー・ド・ヴァルソヴィ (2)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE TECHNOLOGIE DE VARSOVIE
【住所又は居所原語表記】Noakowskiego 3,PL−00664 Varsovie,POLOGNE
【出願人】(511053827)ウニヴェルシテ・ド・ローマ“ラ・サピエンツァ” (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE ROME‘LA SAPIENZA’
【住所又は居所原語表記】Piazzale A.Moro,1,I−00185 Rome Italy
【Fターム(参考)】