説明

亜臨界あるいは超臨界流体噴射用ノズル及び微粒子の作製方法

【課題】 より微細なオリフィスを実現、ノズルの閉塞を簡単修復、粒径100ナノメートルオーダーで、粒径分布の狭い微粒子を効率よく作製すること。
【解決手段】 ノズル2の中にステンレス鋼製のニードル1を挿入し、ノズル出口を貫通する。ニードル1をノズルの中心軸に保持することで、ノズル出口の内壁とニードル1の外壁の間に数マイクロメートル幅を持ち微細オリフィス3を形成する。らせん状の溝5から流れてきた超臨界流体4が回転しながら微細オリフィス3から吹き出す、ナノあるいはサブマイクロメートルサイズの小滴を生成する。超臨界流体の急速膨張法又は貧溶媒法による、粒径が100ナノメートルオーダーの微粒子を作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜臨界あるいは超臨界流体を含む高温高圧流体を使用する噴射用ノズル及び微粒子の作製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノズルを介して亜臨界あるいは超臨界流体を噴出することにより微粒子を得る方法はよく使われている。代表的な方法として、高圧エアゾール噴霧造粒法、RESS法(Raid Expansion of Supercritical Solutions)、SAS法(Supercritical Anti-solvent)、ASES法(Aerosol Solvent Extraction System)及びSEDS法(Solution Enhanced Dispersion by Supercritical Fluids)がある。これらの技術に基づいて、製膜やパターニングや微粒子のコーティングも発展してきた。これらに共通する特徴は、高圧流体をノズルを通して噴射させて小滴を生成することである。ノズル噴射口のサイズは微粒子のサイズを制御する要因のひとつである。その噴射口のサイズを小さくするほど粒径の揃った微細な粒子が得られる。
【0003】
従来の技術は、孔形のノズルを設け、そのノズルの出口内径を小さくし、微粒子作製を実施したものがある(特許文献1、2参照)。噴射量を増やすため、複数のノズルを採用する例もある。また、新しいノズル形状として、多孔質体を備えたフリットノズルを使用する例も報告されている(非特許文献1参照)。報告された改良SAS 法(SAS-EM)では、噴射口を超音波で表面振動させ、従来のSAS法よりも小さな小滴を作製可能であり、100−500ナノメートルの高分子微粒子を得ている。
【特許文献1】米国特許第4,582,731号
【特許文献2】米国特許第4,734,451号
【非特許文献1】C.Domingo 外2, J.ofSupercritical Fluids,10(1997)39-55.
【非特許文献2】J.Jung 外1, J.ofSupercritical Fluids,20(2001)179-219.
【非特許文献3】P.Chattopadhyay外1, AIChEJournal, 48(2002)235-243.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の孔形ノズルの場合、約40μm以下の微小ノズルを作るのは困難である。特に、金属ノズル出口の直径は大体40μmから数百μmまでである。このようなノズルを用いたRESS法やSAS法で得られる粒径は大体数百ナノメートル以上であり、100ナノメートルオーダーの微粒子を得ることは難しい。微粒子の量産のため、複数のノズルを採用する例もあるが、得た粒子の粒径分布は単一ノズルの結果より悪い。多孔質体を備えたフリットノズル(Frit nozzle)を使用する場合は、粒径分布の低下や連続使用が困難などの問題がある(非特許文献2参照)。また、これらの微細ノズルは高価であり、混入したホコリや偶然に出来た大粒子に弱く、目詰まりになるとノズルの修復が大変難しい。一方、改良SAS 法(SAS-EM)では、高圧容器に超音波装置を導入することが必要である。このような問題のため、微粒子作製の効率が低下し、実用化されにくい。
【0005】
本発明の目的は、より微細な噴射オリフィスで、従来の複数ノズルに匹敵する噴射能力を持ち、目詰まりしにくく修復しやすいノズルを作製し、粒径100ナノメートルオーダーで粒径分布の狭い微粒子を作製することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の(1)〜(5)の微粒子作製用ノズルを要旨としている。
(1)先端中央に吐出孔を有するノズルと、その中に挿入しノズルの中心軸に保持しノズル吐出孔まで貫通する一定直径のニードルとよりなり、吐出孔の内面とニードルの外面の間に微細オリフィスを形成し高圧流体の噴射口としたことを特徴とする微粒子作製用ノズル。
(2)前記ニードルが、前記ノズル内壁と一定の間隙を形成するらせん状溝を有する外壁と、前記吐出孔を貫通する先端部と、先端部と外壁を結ぶ円錐状の弁座とから構成されることを特徴とする(1)の微粒子作製用ノズル。
(3)前記ニードルは、前記ノズルと着脱可能であることを特徴とする(1)または(2)の微粒子作製用ノズル。
(4)前記ノズルの内径と、前記ニードルの外径とを同時に増加することにより、微細オリフィスの噴射口断面積を増やすことを特徴とする(1)、(2)または(3)の微粒子作製用ノズル。
(5)上記ニードルが、耐熱・耐腐食鋼からなることを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかの微粒子作製用ノズル。
【0007】
また、本発明は以下の(6)〜(9)の微粒子作製用ノズルを要旨としている。
(6)(1)ないし(5)のいずれかの微粒子作成用ノズルを用いて、高圧流体を渦巻き状に吹き出すことを特徴とする微粒子の作製方法。
(7)上記高圧流体が亜臨界あるいは超臨界流体であり、急速膨張法(RESS)または貧溶媒法(SAS)において、亜臨界あるいは超臨界流体を噴射することを特徴とする(6)の微粒子の作製方法。
(8)前記内壁と、前記ニードルの外面との間隙を減少することにより、粒径が小さく、かつ、粒径分布の狭い微粒子を製造することを特徴とする(6)または(7)の微粒子の作製方法。
(9)上記粒径が小さく、かつ、粒径分布の狭い微粒子が、粒径分布の狭い100ナノメートルオーダーの微粒子である(8)の微粒子の作製方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の微細オリフィスは、ノズルとニードルで構成されるものであり、ノズル内径とニードルの直径の組み合わせにより、間隙幅が数マイクロメートルまでの微細オリフィスを構成しやすく、従来法では難しい数マイクロメートルの噴射オリフィスが可能になる。
この微細オリフィスを用いて急速膨張法又は貧溶媒法により作製した微粒子の粒径は、従来ノズルを使用する場合より大幅に減少できる。実施例では、粒径分布の狭い100ナノメートルオーダーの微粒子を作製することができた。
微細オリフィスからの噴射量は従来法の複数ノズルに相当、効率よく造粒できる。
ノズルが目詰まりになった場合、中心にあるニードルを抜きノズルを洗浄することで、簡単に修復可能である。
本発明のノズルにより作製する膜は、より微細な微粒子から形成されており、薄膜作製、微細パターニング及び微粒子のコーティングなどの応用に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明では、通常のノズルの中に一定直径の耐熱・耐腐食鋼ニードルを挿入し、ノズル出口(吐出孔)まで貫通させる。ニードルをノズルの中心軸に保持することで、ノズル出口の内面とニードルの外面の間に微細オリフィスを簡単に形成することができる。
この微細オリフィスを使うRESS法やSAS法などでは、粒径の揃ったより小さい微粒子が作れる。ノズル内壁とニードルの外面との隙間の幅を数マイクオーダーにすることにより、より小さい粒径と狭い粒径分布が得られる。
ニードルの表面に数本のらせん形の溝を付け、流体をノズルに導入する時に渦巻き状にさせることにより、安定な噴射状態を保持することができる。オリフィスが詰った場合、ノズルのニードル部分だけを抜いて、ノズルを洗浄し、簡単に回復させることも可能である。
量産性のために、ノズル内径とニードルの直径を同時に増加することにより、微細オリフィスの噴射口の全断面積を増やして、超臨界流体の噴射量を増加することも可能である。
RESS法でこの微細オリフィスを使えば、より微細な粒子を作製できるので、微細製膜、微細パターニング及び微粒子のコーティング等へ応用できることが考えられる。
なお、ニードルを構成する好ましい耐熱・耐腐食鋼としてはステンレス鋼が例示される。
【0010】
本発明は、微細オリフィスを構成し、より小さい微粒子を作製することを実現した。
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
図1に本発明の微細オリフィスの構造を示す。実施例として、直径0.79mmのステンレス鋼ニードルと出口内径0.8mmのノズルを採用した。形成した微細オリフィスは、長さ2mm、内径0.79mm、外径0.8mmを持つ環状オリフィスであり、間隙幅は約5μmであった。図2に本発明ノズルの噴射状態を示す。噴射口の断面積は、従来法で5×5μm単一孔形ノズル約100本の累計断面積と同等であった。
【実施例2】
【0012】
図3は本発明を実施するRESS装置構成例の概略説明図である。溶質1.5グラム塩酸ロペラミドを約10ccの助溶剤クロロホルムに溶かし、容積500ccの高圧容器の中に入れ、50℃に昇温した。容器に炭酸ガスを導入し20MPaに増圧し、超臨界状態にした。薬品が超臨界炭酸ガスに溶解するまで、2時間程度撹拌した。
【0013】
微細オリフィスを介して微粒子回収容器内に噴射した。捕集した微粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、生成した微粒子の形態を確認した。図4は、RESS法で生成した塩酸ロペラミド微粒子の電子顕微写真である。図5は、同じ条件で、直径100μmのキャピラリーノズルを用いて作製した塩酸ロペラミド微粒子である。表面張力の高い塩酸ロペラミドの場合、従来法では粒径が数マイクロメートル以下の微粒子は得にくいが、本実施例では、一桁小さい約0.4−0.5μmの微粒子を得た。
【実施例3】
【0014】
500ccの超臨界CO2に1.5グラムのリドカインを溶解し、本発明の微細オリフィスを用いてリドカイン微粒子を作製した。動的レーザー光散乱法を用いた粒度分析装置(HONEYWELL社製、マイクロトラックUPA)で、微粒子の粒径分布を測定した。図6は、回収したリドカイン微粒子の測定結果を示す。リドカイン微粒子の平均粒径は約96nmであった。10%、50%、90%累計平均径はそれぞれ75.5,95.5,118.0nmであり、標準偏差は1.54%であった。従来法では、100nm程度の粒径を得るためには、本例より10倍低濃度(約0.15グラムのリドカイン)とする必要があるが、本実施例の微細オリフィスでは、高濃度薬品を使用しでも、小さい粒径と狭い粒径分布が得ることが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明、微粒子の作製(高分子微粒子、金属微粒子、非金属微粒子、セラミックス微粒子など)、薄膜の形成、パターニング、微粒子のコーティングなど多方面に使用できるものである。例えば、医療業界においては、医薬品の微粒子化およびマイクロカプセル化が挙げられる。その他にも、様々な材料の微細加工技術に幅広く応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】微細オリフィスの構造を示した説明図である。
【図2】本発明ノズルの噴射状態の写真である。
【図3】RESS法微粒子作製装置を示した説明図である。
【図4】本発明で形成した塩酸ロペラミド微粒子の顕微鏡写真である。
【図5】従来法で形成した塩酸ロペラミド微粒子の顕微鏡写真である。
【図6】本発明で形成したリドカイン微粒子の粒径分布である。
【符号の説明】
【0017】
1 ニードル
2 ノズル
3 超臨界流体
4 オリフィス
5 溝


【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端中央に吐出孔を有するノズルと、その中に挿入しノズルの中心軸に保持し吐出孔まで貫通する一定直径のニードルとよりなり、吐出孔の内面とニードルの外面の間に微細オリフィスを形成し高圧流体の噴射口としたことを特徴とする微粒子作製用ノズル。
【請求項2】
前記ニードルが、前記ノズル内壁と一定の間隙を形成するらせん状溝を有する外壁と、前記吐出孔を貫通する先端部と、先端部と外壁を結ぶ円錐状の弁座とから構成されることを特徴とする請求項1の微粒子作製用ノズル。
【請求項3】
前記ニードルは、前記ノズルと着脱可能であることを特徴とする請求項1または2の微粒子作製用ノズル。
【請求項4】
前記ノズルの内径と、前記ニードルの外径とを同時に増加することにより、微細オリフィスの噴射口断面積を増やすことを特徴とする請求項1、2または3の微粒子作製用ノズル。
【請求項5】
上記ニードルが、耐熱・耐腐食鋼からなることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかの微粒子作製用ノズル。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかの微粒子作成用ノズルを用いて、高圧流体を渦巻き状に吹き出すことを特徴とする微粒子の作製方法。
【請求項7】
上記高圧流体が亜臨界あるいは超臨界流体であり、急速膨張法(RESS)または貧溶媒法(SAS)において、亜臨界あるいは超臨界流体を噴射することを特徴とする請求項6の微粒子の作製方法。
【請求項8】
前記内壁と、前記ニードルの外面との間隙を減少することにより、粒径が小さく、かつ、粒径分布の狭い微粒子を製造することを特徴とする請求項6または7の微粒子の作製方法。
【請求項9】
上記粒径が小さく、かつ、粒径分布の狭い微粒子が、粒径分布の狭い100ナノメートルオーダーの微粒子である請求項8の微粒子の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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