説明

亜鉛の同位体分離方法およびその装置

【課題】本願発明は、除去の対象とする所定の亜鉛同位体を確実に吸着できる、簡単、かつ経済的な分離方法及びその装置を提供することを目的とする。
【解決手段】含ハロゲン脂肪酸中に、レゾルシノール誘導体、ベンゾクラウンエーテル、およびパラホルムアルデヒドあるいはホルムアルデヒドを加えて溶解し、所定の温度下で所定時間反応させて合成されるクラウンエーテル構造を官能基として側鎖に有するレゾルシノール誘導体の有機高分子を、多孔質シリカ担体中に担持させたもの、または前記の有機高分子自身を多孔質体としたものを充填したカラムに、亜鉛同位体を含む亜鉛塩が溶解された酸性の有機溶剤を通液し、クロマトグラフィーにより前記の亜鉛同位体を前記の有機高分子に吸着させることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、クラウンエーテル構造を有するレゾルシノール誘導体の有機高分子を用いた亜鉛イオンの同位体の分離方法およびその装置に関する。更に詳しくは、亜鉛イオン同位体と有機高分子との間の吸着特性の違いを利用するクロマトグラフィーにより亜鉛イオン同位体を分離する方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軽水炉冷却水中に溶出する放射性コバルトは原子炉作業者の放射線被爆事故の最も大きな原因となっており、放射性コバルトの軽水炉冷却水への溶出を抑制することは原子炉作業者の安全を確保するばかりでなく、原子炉作業者の安全の確保により原子力発電所の安定した運転に寄与することにもなる。
【0003】
放射性コバルトの軽水炉冷却水への溶出を抑制する手段として、亜鉛を軽水炉冷却水中へ注入する方法がある。しかし、天然亜鉛に含まれる亜鉛−64は軽水炉冷却水中で放射化しての半減期243.8年の放射性を有する亜鉛−65に変化する。このため、亜鉛−64を減損させた亜鉛(以下、「減損亜鉛」という。)を注入する必要がある。現在、この減損亜鉛は、米国の企業がウラン濃縮のために開発した遠心分離装置で生産したものを、輸入している。
【0004】
ところで、わが国のウラン濃縮用遠心分離装置は、ウラン濃縮用に特化させたものであり、その他の元素には不向きであるという事情がある。
【0005】
一方、亜鉛イオン同位体を分離するため、クラウンエーテル誘導体抽出剤を用いる方法が知られている。対象とする亜鉛同位体について、大きな分離係数値が報告された例もあるが、再現性がない。更に、抽出分離は装置が複雑となり、実用化は非常に困難であり、分離した亜鉛イオン同位体の中に混在するクラウンエーテル誘導体を取り除くための余分な操作が発生し、且つ分離操作が困難であるという事情もある。
【0006】
分離操作を容易にするために、クラウンエーテルを樹脂化することができれば、あたかもイオン交換樹脂のように汎用性のある分離媒体ができる可能性がある。クラウンエーテルの樹脂化に関して、クラウンエーテル誘導体を有機高分子に含浸させたものはあるが、確実に重合したものはまだない。クラウンエーテル誘導体を有機高分子に結合した報告があるが、有機高分子に結合したクラウンエーテル誘導体の合成は非常に困難、かつ、高価であり、工業的分離など一般的な分離方法としては不適当である。さらに、安価で且つ、水、低級アルコール、低級脂肪酸等の水素性極性溶媒に親和性があるレゾルシノール・ホルムアルデヒド樹脂に、クラウンエーテル誘導体を結合した確実な報告は無い。
【0007】
例えば、金属イオン同位体の分離に関して、伴らによる報告(非特許文献1)があるが、クラウンエーテル誘導体を有する樹脂の製造方法、クラウンエーテル誘導体化合物の構造と性質、金属イオン同位体の分離に関して、詳しい報告がなされていない。
【0008】
クラウンエーテル誘導体を極性溶媒に不溶な高分子とする事も非常に困難であり、また、クラウンエーテル誘導体を安定な有機高分子とする事も非常に困難であって、金属イオン、同位体を効率良く吸着するクラウンエーテル誘導体のレゾルシノール樹脂およびホルムアルデヒド樹脂は存在しない。
【0009】
本願出願人らは、簡単な装置で安価な亜鉛同位体を分離できる方法を提供することを目的とした発明を出願し、この発明は特開2001−70757号公報に開示されている。この特開2001−70757号公報に開示の技術は、その解決手段として、クラウンエーテル樹脂を充填したカラムに亜鉛同位体を含む溶液を通し、このクラウンエーテル樹脂に亜鉛を吸着させて亜鉛吸着帯を形成した後、前記のカラムに溶離液を通液し、濃縮された亜鉛同位体を得ることとしている。
【0010】
しかしながら、特開2001−70757号公報に開示の技術で使用されるクラウンエーテル樹脂は、水素性極性溶媒により劣化するため、十数回程度の使用により吸着効率が無視し得ないほど低下し、耐久性が十分ではない。
【非特許文献1】Yasutoshi BAN, Masao NOMURA and Yasuhiko FUJII, Journal of Nuclear Science and Technology, Vol.39,No.2,pp.156-159,February 2002
【特許文献1】特開2001−70757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上の事情を踏まえ、本願発明は、対象とする所定の亜鉛同位体を確実に吸着できる、簡単、かつ、経済的で、さらに繰り返しの使用に耐えることができる耐久性に優れた亜鉛同位体の分離装置とともにその分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本願請求項1に係る亜鉛同位体の分離方法は、含ハロゲン脂肪酸(炭素原子2個ないし4個、かつハロゲンは弗素、塩素)中に、下記一般式(1)で示される1種類以上のレゾルシノール誘導体(式中jは0から9の整数であり、pおよびqは0または1であり、Rは炭素原子が2個ないし10個のアルキレン基であり、RおよびRは水素、炭素数が1から6個であるアルキル基、塩素、または臭素)の混合物と、下記一般式(2)で示されるベンゾクラウンエーテル(式中kは2、3、4、5、6)と、パラホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒドと、を混合し、20℃ないし150℃下で1分ないし36時間反応させて合成されるクラウンエーテル構造を官能基として側鎖に有するレゾルシノール誘導体の有機高分子を、多孔質シリカ担体もしくは溶液中で化学変化しない物質で作られた多孔質担体中に担持させたもの、または前記有機高分子自身を多孔質体としたものを充填したカラムに、亜鉛同位体を含む亜鉛塩が溶解された酸性の有機溶剤を通液し、クロマトグラフィーにより前記亜鉛同位体を前記レゾルシノール誘導体の有機高分子に吸着させることを特徴としている。
【化4】

【化5】

また、本願請求項2に係る亜鉛同位体の分離方法は、前記含ハロゲン脂肪酸中に、下記一般式(3)で示される1種類以上のレゾルシノール誘導体(式中mは0から9の整数であり、rは1ないし5であり、sおよびtは0または1、R4およびR5は水素、炭素数が1から6個であるアルキル基、塩素、または臭素)の混合物と、前記一般式(2)で示されるベンゾクラウンエーテル(式中kは2,3,4,5,6)と、パラホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒドと、を混合し、20℃ないし150℃下で1分ないし36時間反応させて合成されるクラウンエーテル構造を官能基として側鎖に有するレゾルシノール誘導体の有機高分子を、多孔質シリカ担体もしくは溶液中で化学変化しない物質で作られた多孔質担体中に担持させたもの、または前記有機高分子自身を多孔質体としたものを充填したカラムに、亜鉛同位体を含む亜鉛塩が溶解された酸性の有機溶剤を通液し、クロマトグラフィーにより前記亜鉛同位体を前記レゾルシノール誘導体の有機高分子に吸着させることを特徴としている。
【化6】

そして、本願請求項3に係る亜鉛同位体の分離方法は、請求項1または請求項2に記載の亜鉛同位体の分離方法であり、前記含ハロゲン脂肪酸はトリクロロ酢酸であって、モル数1の前記一般式(2)で示されるベンゾクラウンエーテルに対して、前記一般式(1)または前記一般式(3)で示されるレゾルシノール誘導体のモル数の合計は0.1ないし10であることを特徴としている。
さらに、本願請求項4に係る亜鉛同位体の分離方法は、請求項1、請求項2、または請求項3に記載の亜鉛同位体の分離方法であって、前記ベンゾクラウンエーテルは前記一般式(2)で示される式中のkが3または4であることを特徴としている。
また、本願請求項5に係る亜鉛同位分離装置は、請求項1、請求項2、請求項3、または請求項4のいずれかに記載の亜鉛同位体の分離方法に使用する分離装置であって、1つ以上の前記カラムを直列および/または並列に接続したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本願請求項1または請求項2に係る発明に使用されるクラウンエーテル樹脂は、パラホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒドを用いて、クラウンエーテルとレゾルシノール誘導体を縮合してクラウンエーテル樹脂を得ることとしている。この合成方法により極性溶媒に不溶なクラウンエーテル構造を有するレゾルシノール誘導体の有機高分子であるクラウンエーテル樹脂を得ることができる。
【0014】
そして、この極性溶媒に不溶なクラウンエーテル樹脂を多孔質シリカ担体もしくは溶液中で化学変化しない物質で作られた多孔質担体中に担持させたもの、または前記のクラウンエーテル樹脂自身を多孔質体としたものを充填したカラムを用いて、所定の水溶液中または有機溶剤中で、亜鉛同位体をクロマトグラフィーで分離することとしている。このため、この分離方法を使用する装置は、遠心分離機などのような動的で大掛かりな装置を必要とすることなく、静的で簡便な装置とすることができる。
【0015】
なお、液体である含ハロゲン脂肪酸の温度は、クラウンエーテル誘導体、レゾルシノール誘導体、およびパラホルムアルデヒドあるいはホルムアルデヒドを溶解し、共有結合反応を生ぜしめるため、20℃ないし150℃に維持する必要があり、より好ましくは60℃から140℃、さらに好ましくは80℃から130℃である。また、反応時間は1分ないし36時間、より好ましくは1時間ないし24時間である。
【0016】
また、含ハロゲン脂肪酸はトリクロロ酢酸がより好ましいが、テトラフルオロプロピオン酸であっても構わない。本願請求項3に係る発明で、含ハロゲン脂肪酸はトリクロロ酢酸としているのは、経済的な理由によるためである。そして、ベンゾクラウンエーテルに対してレゾルシノール誘導体のモル比は0.5ないし4としているが、当該モル比はより好ましくは0.75から2.0である。
【0017】
本願請求項4に係る発明では、上記式(2)に示すベンゾクラウンエーテルのnを3または4であるとしている。nの数が増えるにつれてベンゾクラウンエーテルが作る環が大きくなり、それとともに吸着される金属イオンの大きさも大きくなることから、吸着の対象となる金属イオンによってnを適宜選択することができる。nを3または4とすることにより、亜鉛−64を効率的に吸着させることができる。
【0018】
本願請求項5に係る発明は、請求項1、請求項2、請求項3または請求項4に記載の1つ以上のカラムを直列および/または並列に接続している。このため、段落番号(0014)に記載したように、この装置は、静的で簡便な装置であるとともに、前記カラムを複数本使用することにより、吸着効率のよいコンパクトな亜鉛同位体の分離装置とすることができる。この分離装置は、前記のカラムに亜鉛同位体を含む溶液を通し、前記のカラム内に充填されたクラウンエーテル樹脂に所定の亜鉛同位体を吸着させて亜鉛吸着帯を形成した後、前記のカラムに溶離液を通液し、濃縮された所定の亜鉛同位体を分離させることとしている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
発明を実施するための最良の形態に係る実施例1ないし実施例6について、図1および図2に基づいて説明する。図1は、本願発明を実施するための実験用分離装置の概略図であり、図2は、実施例1に係る実験データのグラフである。
【0020】
まず、実施例1ないし実施例6について説明する前に、本願発明に係る使用するクラウンエーテル構造を官能基として側鎖に有するレゾルシノール誘導体の有機高分子を担持させた多孔質シリカ担体の生産方法について参考例1および参考例2として説明する。
【0021】
(参考例1)
1dmナスフラスコ中で3,3′−ペンタメチレンジオキシジフェノール(18.7g、65.0mmol)およびベンゾ−15−クラウン−5(14.5g、54.0mmol)をトリクロロ酢酸140gに加え、90℃に加熱撹拌して溶解する。この溶液に70℃で撹拌しながらパラホルムアルデヒド(2.05g、ホルムアルデヒド換算68.3mmol)を少量ずつ添加する。添加後90℃に昇温し2時間加熱する。ついで60℃以下に冷却後、シリカ(水澤化学工業社製:登録商標名「シルビード」)120gを加え、攪拌棒にて撹拌して溶液全量をシリカに均一に吸着させる。次にパラホルムアルデヒドを同量(2.05g)添加し、再度攪拌棒にて均一に撹拌する。ナスフラスコ中の溶液を吸着したシリカを、ロータリーエバポレーターにて回転混合させながら90℃で3時間加熱する。加熱終了後室温に冷却し、最後のパラホルムアルデヒド(4.1g、ホルムアルデヒド換算135.3mmol)を加え、同様に攪拌棒で均一に混合する。混合後再度ロータリーエバポレーターで90℃で2時間、さらに110℃で4時間加熱し反応を終了する。室温に冷却後、メタノール500cmを加えてシリカを洗浄する。この洗浄を、洗浄液の着色がほぼ無くなるまで約3回繰り返す。洗浄終了後濾過し、60℃で12時間減圧乾燥して粗シリカ担持樹脂154.0gを得る。有機分のみの収率は92%であった。
この粗樹脂を100メッシュ(0.154mm)目の篩をかけ、残分は軽く潰して通過させる。篩を通過した樹脂をメタノール500cmに分散し、デカンテーション法により微細なシリカ担持樹脂を除く操作を3回程度繰り返す。濾過後、乾燥して茶褐色のシリカ担持の3,3′−ペンタメチレンジオキシジフェノール、ベンゾ−15−クラウン−5、およびパラホルムアルデヒドの共縮合物であるクラウンエーテル樹脂を得る。この樹脂の収量は130gであった。
【0022】
(参考例2)
参考例1における3,3′−ペンタメチレンジオキシジフェノール(18.7g、65.0mmol)を3,3′−エチレンジオキシジフェノール(16.0g、65.0mmol)に、およびベンゾ−15−クラウン−5(14.5g、54.0mmol)をベンゾ−18−クラウン−6(16.9g、54.0mmol)に変更した以外は、参考例1と同条件で反応し、茶褐色のシリカ担持の3,3′−エチレンジオキシジフェノール、ベンゾ−18−クラウン−6、およびパラホルムアルデヒドの共縮合物であるクラウンエーテル樹脂を得る。この樹脂の収量は134gであった。
【0023】
以下に、実施例1ないし実施例6について説明するが、まず、本願発明を実施するための実験用分離装置について、図1を基に概説する。図1において、符号10は実験用分離装置、符号12はカラム、符号14は原料容器、符号16は回収容器、符号18は注入用切替バルブ、符号20は循環用切替バルブ、符号22は第1の送液ポンプ、符号24は第2の送液ポンプ、符号26は注入配管、符号30は排出配管、符号32はバイパス配管である。
【0024】
実験用分離装置10は、大別して、カラム12と、注入用切替バルブ18および循環用切替バルブ20と、第1の送液ポンプ22および第2の送液ポンプ24と、これらの機器を接続する配管と、から構成されている。そして、カラム12には、本願発明に係る所定のクラウンエーテル樹脂を担持させたシリカが充填されていて、クロマトグラフィーにおける固定相を形成している。また、このカラム12は、直径が0.8cm、長さが1mの水冷ジャケット付カラムである。
【0025】
注入配管26、カラム12、および排出配管30はこの順に接続されて、第1の通液管路が形成され、注入配管26の中間部には、上流側から順に第1の送液ポンプ22および注入用切替バルブ18が介挿され、排出配管30の中間部には、循環用切替バルブ20が介挿されている。そして、バイパス配管32が注入用切替バルブ18と循環用切替バルブ20とを接続し、バイパス配管32の中間部には第2の送液ポンプ24が介挿されている。このため、注入配管26の一部、カラム12、排出配管30の一部およびバイパス配管32により、カラム12を循環する第2の通液管路が形成される。
【0026】
実施例に係る実験は、上述の第1の通液管路を使用しておこなった。すなわち、注入配管26の先端に亜鉛を含む溶液が入った原料容器14を配置し、第1の通液管路が開放されるように注入用切替バルブ18および循環用切替バルブ20を開閉して、第1の送液ポンプ22を稼動させる。その結果、原料容器14中の亜鉛を含む溶液が、順次、注入配管26からカラム12へ注入され、カラム12を通って排出配管30から排出されて回収容器16に貯留される。
【0027】
亜鉛を含む溶液がカラム12内を流下していく間に、カラム12内に充填された所定のクラウンエーテル樹脂の吸着特性により所定の亜鉛同位体が吸着される。したがって、原料容器14の質量分布と回収容器16内の亜鉛同位体の質量分布とを比較することにより、カラム12内の所定のクラウンエーテル樹脂の吸着特性が分析できることになる。
【0028】
なお、前述の実験用分離装置10の第2の通液管路は、亜鉛を含む溶液をカラム12内で循環させることにより、所定の亜鉛同位体の吸着率を高める効果を奏するものである。第2の通液管路は、注入用切替バルブ18および循環用切替バルブ20を開閉して第2の通液管路を開放させ、第2の送液ポンプ24を稼動させることにより使用することができるが、今回の実験では使用しなかった。また、実験用分離装置10では1本のカラムを使用しているが、2本以上であっても良いことは勿論、2本以上の場合には、直列および/または並列であっても良いことは勿論ある。そして、商用ベースにおける分離装置についての基本的な構成要素は、実験用分離装置10と略同一であり、異なるところは、分離装置の大きさと規模である。
【0029】
そして、塩化水素濃度が0.1mol/dmの濃度になるように塩化水素を溶解させたメタノールの溶媒に、塩化亜鉛を0.1 mol/dm溶かした溶液を、室温(略20℃)中でカラム12に毎時6cmの流速で流下させて亜鉛同位体比を変動させた。同位体比の測定はThermo electron社の四重極型誘導結合プラズマ質量分析装置で行なった。
【0030】
図2は、実施例1に係る実験データのグラフである。図2は、横軸を溶離液量(単位:cm)、縦軸を亜鉛濃度値(亜鉛−68の亜鉛−64に対する値)としたものであり、原料容器14における亜鉛濃度値を1.000とした場合に、回収容器16における亜鉛濃度値が溶離液量によってどのように変化するかを示したグラフである。重い亜鉛同位体である亜鉛−68が溶液中に、軽い亜鉛同位体である亜鉛−64が樹脂中に分配され、カラムから溶出される亜鉛同位体は亜鉛−68が、実施例1では先端値で1.006まで濃縮されていて、亜鉛−64が効果的に上記一般式(2)におけるk=3であるクラウンエーテル樹脂に吸着されていることが判る。
【0031】
実施例2〜6は、上述のクラウンエーテル樹脂を充填し、溶媒を様々に代えて実施例1と同様の手順を踏んで実験を行った。その結果を表1に示す。実施例2〜6のいずれも実施例1と同様に、亜鉛を含む溶液は重い亜鉛−68が溶液中に、軽い亜鉛−64がクラウンエーテル樹脂中に分配され、カラムから排出される溶液には重い亜鉛−68が濃縮される。なお表中の先端値は亜鉛−68が亜鉛−64に対して元の値からどれだけ濃縮したかを示しているものであり、いずれの場合も、亜鉛−64が効果的に本願発明に係るクラウンエーテル樹脂に吸着されていることが判る。
【0032】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本願発明を実施するための実験用分離装置の概略図である。
【図2】図2は、実施例1に係る実験データのグラフである。
【符号の説明】
【0034】
10 実験用分離装置
12 カラム
14 原料容器
16 回収容器
18 注入用切替バルブ
20 循環用切替バルブ
22 第1の送液ポンプ
24 第2の送液ポンプ
26 注入配管
30 排出配管
32 バイパス配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含ハロゲン脂肪酸(炭素原子2個ないし4個、かつハロゲンは弗素、塩素)中に、
下記一般式(1)で示される1種類以上のレゾルシノール誘導体(式中jは0から9の整数であり、pおよびqは0または1であり、Rは炭素原子が2個ないし10個のアルキレン基であり、RおよびRは水素、炭素数が1から6個であるアルキル基、塩素、または臭素)の混合物と、下記一般式(2)で示されるベンゾクラウンエーテル(式中kは2、3、4、5、6)と、パラホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒドと、を混合し、20℃ないし150℃下で1分ないし36時間反応させて合成されるクラウンエーテル構造を官能基として側鎖に有するレゾルシノール誘導体の有機高分子を、
多孔質シリカ担体もしくは溶液中で化学変化しない物質で作られた多孔質担体中に担持させたもの、または前記有機高分子自身を多孔質体としたものを充填したカラムに、
亜鉛同位体を含む亜鉛塩が溶解された酸性の有機溶剤を通液し、
クロマトグラフィーにより前記亜鉛同位体を前記レゾルシノール誘導体の有機高分子に吸着させることを特徴とする亜鉛同位体の分離方法。
【化1】

【化2】

【請求項2】
前記含ハロゲン脂肪酸中に、下記一般式(3)で示される1種類以上のレゾルシノール誘導体(式中mは0から9の整数であり、rは1ないし5であり、sおよびtは0または1、RおよびRは水素、炭素数が1から6個であるアルキル基、塩素、または臭素)の混合物と、前記一般式(2)で示されるベンゾクラウンエーテル(式中kは2,3,4,5,6)と、パラホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒドと、を混合し、20℃ないし150℃下で1分ないし36時間反応させて合成されるクラウンエーテル構造を官能基として側鎖に有するレゾルシノール誘導体の有機高分子を、多孔質シリカ担体もしくは溶液中で化学変化しない物質で作られた多孔質担体中に担持させたもの、または前記有機高分子自身を多孔質体としたものを充填したカラムに、
亜鉛同位体を含む亜鉛塩が溶解された酸性の有機溶剤を通液し、
クロマトグラフィーにより前記亜鉛同位体を前記レゾルシノール誘導体の有機高分子に吸着させることを特徴とする亜鉛同位体の分離方法。
【化3】

【請求項3】
前記含ハロゲン脂肪酸はトリクロロ酢酸であって、モル数1の前記一般式(2)で示されるベンゾクラウンエーテルに対して、前記一般式(1)または前記一般式(3)で示されるレゾルシノール誘導体のモル数の合計は0.1ないし10であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の亜鉛同位体の分離方法。
【請求項4】
前記ベンゾクラウンエーテルは前記一般式(2)で示される式中のkが3または4であることを特徴とする請求項1、請求項2、または請求項3に記載の亜鉛同位体の分離方法。
【請求項5】
1つ以上の前記カラムを直列および/または並列に接続したことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3、または請求項4に記載の亜鉛同位体の分離方法に使用する亜鉛同位体の分離装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−272193(P2006−272193A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−96473(P2005−96473)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度革新的実用原子力技術開発提案公募事業、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【出願人】(000230940)日本原子力発電株式会社 (130)
【Fターム(参考)】