説明

亜鉛の回収方法

【課題】四塩化珪素の亜鉛還元法により副生する副生塩化亜鉛から不純物を簡易かつ省エネルギーに除去し、高効率で亜鉛を回収する亜鉛の回収方法を提供すること。
【解決手段】四塩化珪素の亜鉛還元法により副生する副生塩化亜鉛と、金属塩化物(A)とを、混合し溶融させる溶融工程と、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を抜き出す融液分離抜き出し工程と、該融液分離抜き出し工程で抜き出した該塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を、溶融塩電解槽中で溶融塩電解し、生成した塩素ガスを取り出すとともに、生成した溶融亜鉛を取り出す溶融塩電解工程と、該溶融塩電解槽から金属塩化物(A)を回収し、回収金属塩化物(A)を得る金属塩化物回収工程と、を有し、該金属塩化物回収工程で回収した回収金属塩化物(A)を、該溶融工程で用いる金属塩化物(A)として再使用すること、を特徴とする亜鉛の回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛の回収方法に関し、多結晶シリコンの製造方法である四塩化珪素の亜鉛還元法により副生する塩化亜鉛から亜鉛を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CO排出量を削減し省エネ化を促進する手段として、太陽光発電装置が普及しつつあり、これに伴って太陽電池材料である多結晶シリコンの需要も急激に増加する傾向にある。
【0003】
高純度の多結晶シリコンを製造する代表的な方法としては、気化された高純度のトリクロロシラン(SiHCl)を高純度の水素(H)とともに反応炉内に導入し、トリクロロシランを下記反応式(1)に従って還元、分解して、心棒表面に多結晶シリコンを気相成長させるシーメンス法(Siemens Method)が挙げられる。
SiHCl+H→Si+3HCl (1)
【0004】
シーメンス法により製造される多結晶シリコンは、純度がイレブン−ナイン(11−N)と非常に高いことから、半導体用シリコンとして好適に使用されている。太陽電池用多結晶シリコンとしては、従来、上記半導体用の多結晶シリコンが流用されてきたが、太陽電池に用いる多結晶シリコンには11−Nほどの純度が必要とされず、また、シーメンス法においては多くの電力が消費されることから、太陽電池用シリコンに適した安価な製造方法が求められるようになっている。
【0005】
このような状況下、太陽電池用多結晶シリコンの製造方法として、液体または気体状態の四塩化珪素(SiCl)を下記反応式(2)に従って溶融状態の亜鉛(Zn)により還元、分解する、亜鉛還元法による多結晶シリコンの製造方法が提案されている(例えば、特開2008−230871号公報(特許文献1)、特開2010−43310号公報(特許文献2))。
SiCl+2Zn→Si+2ZnCl (2)
【0006】
四塩化珪素の亜鉛還元法による多結晶シリコンの製造方法においては、得られる多結晶シリコンの純度はシックス−ナイン(6−N)程度であり、シーメンス法により得られる半導体用多結晶シリコンに比較すると純度は低いものの、反応平衡上ほぼ全ての四塩化珪素が反応し、シリコン(Si)の分離回収も比較的容易であることから、シーメンス法と比較して収率が5倍程度にも達し、反応効率に優れ、製造コストの低減が可能であるとされている。
【0007】
四塩化珪素の亜鉛還元法による多結晶シリコンの製造方法では、上記のように反応生成物である多結晶シリコンと共に、塩化亜鉛が副生する。そして、生成物である多結晶シリコンは、四塩化珪素と亜鉛との反応が行われる反応炉内に析出し、また、副生した塩化亜鉛は排出ガスとして、反応炉の外に排出される。
【0008】
この反応炉から排出される塩化亜鉛は、電気分解することにより、亜鉛と塩素ガスに分解され、分解により得られた亜鉛は、四塩化珪素の亜鉛還元法による多結晶シリコンの製造方法で、再び四塩化珪素の亜鉛還元に用いられ、塩素ガスは、四塩化珪素の亜鉛還元法による多結晶シリコンの製造方法の原料である四塩化珪素の製造に用いられる。このことにより、原料コストや廃棄物処理費用を抑制できる。
【0009】
ここで、四塩化珪素の亜鉛還元法による多結晶シリコンの製造方法で、反応炉から排出される排出ガス中には、副生する塩化亜鉛ガスに加えて、未反応亜鉛及び未反応四塩化珪素が含まれるため、特許文献1では、塩化亜鉛の電気分解に先だって、反応炉からの排出ガスに塩素ガスを吹き込み、排出ガス中に含まれる亜鉛を塩素化し、次いで、塩化亜鉛とそれ以外の不純物とを分離して、塩化亜鉛を回収することが行われている。
【0010】
また、引用文献2では、塩化亜鉛の電気分解に先だって、反応炉から塩化亜鉛を回収し、回収した塩化亜鉛を蒸留して、塩化亜鉛の精製を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−230871号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2010−43310号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、特許文献1に記載の方法においては、排出ガスに直接塩素ガスを吹き込むことにより、排出ガス中に含まれる未反応亜鉛と塩素とを反応させて、塩化亜鉛を生成させるが、亜鉛は非常に反応性が高いため、内圧や温度の制御が困難であるという問題があった。また、特許文献2に記載の方法では、反応炉から回収した塩化亜鉛を蒸留するため、多大な設備やエネルギーが必要であるという問題があった。
【0013】
従って、本発明は、四塩化珪素の亜鉛還元法により副生する副生塩化亜鉛から不純物を簡易かつ省エネルギーに除去し、高効率で亜鉛を回収する亜鉛の回収方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記技術課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、(1)四塩化珪素の亜鉛還元法により副生する副生塩化亜鉛を、金属塩化物(A)と共に溶融することにより、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)と、副生塩化亜鉛に含まれる亜鉛と、シリコンとを、比重差により層分離させることができ、層分離した塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液層から、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を抜き出すことにより、副生塩化亜鉛に含まれていた亜鉛及びシリコンを容易に除去することができること、及び(2)抜き出した塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を溶融塩電解した後に残存する金属塩化物(A)を回収して得られる回収金属塩化物(A)は、副生塩化亜鉛と共に溶融させる金属塩化物(A)として再使用することができること等を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、四塩化珪素の亜鉛還元法により副生する副生塩化亜鉛と、金属塩化物(A)とを、混合し溶融させる溶融工程と、
該溶融工程で溶融させた溶融物を層分離させ、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液層から、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を抜き出す融液分離抜き出し工程と、
該融液分離抜き出し工程で抜き出した該塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を、溶融塩電解槽中で溶融塩電解し、該溶融塩電解槽の上部から生成した塩素ガスを取り出すとともに、該溶融塩電解槽の下部から生成した溶融亜鉛を取り出す溶融塩電解工程と、
該溶融塩電解槽から金属塩化物(A)を回収し、回収金属塩化物(A)を得る金属塩化物回収工程と、
を有し、
該金属塩化物(A)が、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化カリウム又は塩化ナトリウムであり、
該金属塩化物回収工程で回収した回収金属塩化物(A)を、該溶融工程で用いる金属塩化物(A)として再使用すること、
を特徴とする亜鉛の回収方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、四塩化珪素の亜鉛還元法により副生する副生塩化亜鉛から不純物を簡易かつ省エネルギーに除去し、高効率で亜鉛を回収する亜鉛の回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】溶融工程で溶融された溶融物を示す模式的な断面図である。
【図2】溶融塩電解工程において、溶融塩電解前の状態を示す模式的な断面図である。
【図3】溶融塩電解工程において、溶融塩電解中の状態を示す模式的な断面図である。
【図4】溶融塩電解工程において、溶融塩電解後の状態を示す模式的な断面図である。
【図5】溶融工程で溶融された溶融物の形態例を示す模式的な断面図である。
【図6】溶融塩電解槽の形態例を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の亜鉛の回収方法は、四塩化珪素の亜鉛還元法により副生する副生塩化亜鉛と、金属塩化物(A)とを、混合し溶融させる溶融工程と、
該溶融工程で溶融させた溶融物を層分離させ、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液層から、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を抜き出す融液分離抜き出し工程と、
該融液分離抜き出し工程で抜き出した該塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を、溶融塩電解槽中で溶融塩電解し、該溶融塩電解槽の上部から生成した塩素ガスを取り出すとともに、該溶融塩電解槽の下部から生成した溶融亜鉛を取り出す溶融塩電解工程と、
該溶融塩電解槽から金属塩化物(A)を回収し、回収金属塩化物(A)を得る金属塩化物回収工程と、
を有し、
該金属塩化物(A)が、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化カリウム又は塩化ナトリウムであり、
該金属塩化物回収工程で回収した回収金属塩化物(A)を、該溶融工程で用いる金属塩化物(A)として再使用すること、
を特徴とする亜鉛の回収方法である。
【0019】
本発明の亜鉛の回収方法について、図1〜図4を参照して説明する。図1は、溶融工程で溶融された溶融物を示す模式的な断面図である。図2は、溶融塩電解工程において、溶融塩電解前の状態を示す模式的な断面図である。図3は、溶融塩電解工程において、溶融塩電解中の状態を示す模式的な断面図である。図4は、溶融塩電解工程において、溶融塩電解後の状態を示す模式的な断面図である。
【0020】
先ず、図1に示すように、バルブaが付設されている塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液の抜き出し管6と、バルブbが付設されている溶融亜鉛抜き出し管7と、バルブcが付設されているシリコン抜き出し管8と、を有する溶融槽10内で、四塩化珪素の亜鉛還元法により副生する副生塩化亜鉛と、金属塩化物回収工程で回収された回収金属塩化物(A)とを混合し、混合物を加熱して溶融させることにより、溶融物を得る溶融工程を行う。
【0021】
副生塩化亜鉛は、四塩化珪素の亜鉛還元法により副生する副生塩化亜鉛なので、塩化亜鉛と、塩化亜鉛に加え、主に、亜鉛及びシリコンを含有する。また、回収金属塩化物(A)は、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を溶融塩電解した後の残存物なので、金属塩化物(A)と、金属塩化物(A)に加え、塩化亜鉛を含有する。そのため、溶融工程で溶融された溶融物は、溶融槽10内で、下から順に、溶融亜鉛層2と、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液層1aと、シリコン層3との三層に層分離する。そこで、融液分離抜き出し工程では、溶融工程で溶融させた溶融物を静置して、層分離させ、バルブaを開けて、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液層1aから、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液1aを抜き出す。また、バルブbを開けて、溶融亜鉛抜き出し管7から、溶融亜鉛2を抜き出し、また、バルブcを開けて、スキミングなどの操作で表面に浮かぶシリコン3を抜き出す。
【0022】
次いで、図2に示すように、溶融塩電解槽11aに、抜き出した塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液1aを投入する。溶融塩電解槽11aは、内部に塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を保持するための空間と、上部に生成した塩素ガスを捕集するための空間を有し、上部に塩素ガス17を取り出すための塩素ガス取り出し管13と、下部に溶融亜鉛2を取り出すための溶融亜鉛取り出し管12と、電極14aと、図示しない加熱部と、を有する。塩素ガス取り出し管13には、バルブfが付設されており、溶融亜鉛取り出し管12には、バルブeが付設されている。また、溶融塩電解槽11aは、バルブdが付設されている金属塩化物回収管19を有する。
【0023】
そして、図3に示すように、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液1aを加熱しながら、電極14aに対し外部電源から電圧を印加して、溶融塩電解槽11a中で、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液1aを溶融塩電解する。溶融塩電解することにより、塩化亜鉛が電気分解され、塩素ガス17及び溶融亜鉛2が生成する。生成した塩素ガス17は、溶融塩電解槽11aの上部に貯まるので、バルブfを開けて、塩素ガス取り出し管13より塩素ガス17を取り出す。また、生成した溶融亜鉛2は、溶融塩電解槽11aの下部に貯まるので、バルブeを開けて、溶融亜鉛取り出し管12より溶融亜鉛2を取り出す。このようにして、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液1aを溶融塩電解しながら、溶融塩電解槽の上部から生成した塩素ガスを取り出し、下部から生成した溶融亜鉛を取り出して、溶融塩電解工程を行う。
【0024】
金属塩化物(A)として、塩化亜鉛より溶融塩電解され難い金属塩化物を用いているので、図3に示す溶融塩電解では、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)のうち、塩化亜鉛が電気分解され、金属塩化物(A)は電気分解されない。そのため、溶融塩電解が進むにつれ、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液中の塩化亜鉛の含有量が低くなり、金属塩化物(A)の含有割合が高くなっていく。そして、溶融塩電解後には、溶融塩電解前よりも金属塩化物(A)の含有量が高くなった塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液が残存する。そこで、図4に示すように、溶融塩電解槽11a内の残存物を加熱しながら、バルブdを開けて、溶融塩電解槽11aに残存している塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を、回収金属塩化物(A)18として、金属塩化物回収管19から回収する金属塩化物回収工程を行う。
【0025】
次いで、回収金属塩化物(A)18を、新たに得た副生塩化亜鉛と、溶融槽10内で混合し、混合物を加熱して溶融させることにより、溶融物を得る溶融工程を行う。以降は、上記と同様にして、融液分離抜き出し工程、溶融塩電解工程及び金属塩化物回収工程を行う。
【0026】
そして、回収金属塩化物(A)18と四塩化珪素の亜鉛還元法により副生する副生塩化亜鉛とを混合し、混合物を加熱して溶融させることにより、溶融物を得る溶融工程、融液分離抜き出し工程、溶融塩電解工程及び金属塩化物回収工程を繰り返し行う。
【0027】
本発明の亜鉛の回収方法に係る溶融工程は、四塩化珪素の亜鉛還元法により副生する副生塩化亜鉛(単に、副生塩化亜鉛とも記載する。)と、金属塩化物回収工程で回収される回収金属塩化物(A)とを、溶融槽内で、混合し溶融させる工程である。
【0028】
溶融工程で用いられる副生塩化亜鉛は、塩化亜鉛を主成分とする。この副生塩化亜鉛は、下記反応式:
SiCl+2Zn→Si+2ZnCl
で示す四塩化珪素と亜鉛を反応させてシリコンを得る四塩化珪素の亜鉛還元法により副生する塩化亜鉛であり、四塩化珪素の亜鉛還元法の反応炉から排出される排出ガスを冷却して得られる反応炉排出ガスの冷却物である。四塩化珪素の亜鉛還元法の反応炉より排出される反応炉排出ガス中には、副生する塩化亜鉛ガス、未反応亜鉛ガス及び未反応四塩化珪素ガス等のガスが含まれている。また、これらのガスに伴われて、反応炉内で生成したシリコンの一部が排出されてしまうので、反応炉排出ガスには、シリコンも含まれている。そのため、四塩化珪素の亜鉛還元法の反応炉より排出される反応炉排出ガスを冷却して得られる反応炉排出ガスの冷却物、すなわち、副生塩化亜鉛は、塩化亜鉛を主成分とし、塩化亜鉛に加え、亜鉛及びシリコンを含有する。なお、反応炉排出ガス中に含まれている四塩化珪素ガスは、沸点が低いため、反応炉排出ガスを冷却しても凝縮しないので、反応炉排出ガスの冷却物である副生塩化亜鉛中には含まれない。なお、反応炉排出ガスを冷却する際に、酸素や水が存在すると、反応炉排出ガス中の成分が、空気中の酸素又は水と反応して酸化物になってしまうので、空気に触れないようにして、反応炉排出ガスを冷却する。
【0029】
副生塩化亜鉛は、四塩化珪素の亜鉛還元法の反応炉より排出される反応炉排出ガスを冷却して得られる固体状のもの、又は固体状のものと溶融状態のもとの混合物であり、四塩化珪素の亜鉛還元法の反応炉より排出される反応炉排出ガスを冷却して得られるものであれば、特に制限されないが、副生塩化亜鉛を構成する各成分の沸点や蒸気圧を考慮すると、四塩化珪素の亜鉛還元法の反応炉より排出される反応炉排出ガスを、58〜730℃で冷却することにより得られたものであることが好ましく、58〜420℃で冷却することにより得られたものであることが特に好ましく、58〜283℃で冷却することにより得られたものであることが更に好ましい。
【0030】
四塩化珪素ガスを亜鉛ガスで還元反応させることにより生じる反応炉排出ガス中には、未反応ガスである四塩化珪素ガス(沸点57.6℃、融点−70℃)及び亜鉛ガス(沸点907℃、融点420℃)と、副生成ガスである塩化亜鉛ガス(沸点732℃、融点283℃)が含まれている。この反応炉排出ガスを、58〜283℃で冷却することにより、四塩化珪素ガス以外のガス(亜鉛ガス及び塩化亜鉛ガス)を容易に粉末化することができるので、副生塩化亜鉛中の亜鉛含有成分の含有割合を高めることができる。また、反応炉排出ガスを、283℃〜420℃で冷却することにより、塩化亜鉛を溶融状態で溶融工程に用いることができ、また、反応炉排出ガスを、420〜730℃で冷却することにより、塩化亜鉛に加えて亜鉛も溶融状態で溶融工程に用いることができる。
【0031】
副生塩化亜鉛中の塩化亜鉛の含有量は、特に制限されないが、好ましくは50〜100質量%、特に好ましくは70〜90質量%である。また、副生塩化亜鉛中の亜鉛の含有量は、特に制限されないが、四塩化珪素の亜鉛還元法の反応炉から排出される排出ガスを冷却して得られる冷却物は、通常、10〜40質量%の亜鉛を含有する。また、副生塩化亜鉛中のシリコンの含有量は、特に制限されないが、四塩化珪素の亜鉛還元法の反応炉から排出される排出ガスを冷却して得られる冷却物は、通常、0.1〜5質量%のシリコンを含有する。また、副生塩化亜鉛は、塩化亜鉛、亜鉛及びシリコンの他に、ナトリウム、カリウム、アルミニウム等の微量の不純物を含有してもよい。
【0032】
溶融工程で副生塩化亜鉛と混合する金属塩化物(A)は、塩化亜鉛より溶融塩電解され難い金属塩化物であり、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化カリウム又は塩化ナトリウムである。金属塩化物(A)は、1種単独でも、2種以上の組み合わせでもよい。そして、金属塩化物(A)は、好ましくは、塩化カリウム又は塩化ナトリウムである。なお、溶融工程で副生塩化亜鉛と混合する金属塩化物を、金属塩化物(A)とも記載する。
【0033】
本発明の亜鉛の回収方法は、溶融塩電解工程で溶融塩電解された後に、溶融塩電解槽内に残った塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を、金属塩化物回収工程で、回収金属塩化物(A)として回収し、回収した回収金属塩化物(A)を、溶融工程で用いる金属塩化物(A)として再使用することにより、溶融工程、融液分離抜き出し工程、溶融塩電解工程及び金属塩化物回収工程の工程を、金属塩化物(A)を循環させて、繰り返し行う方法なので、溶融工程で用いられる金属塩化物(A)は、金属塩化物回収工程で回収した回収金属塩化物(A)である。なお、初回の溶融工程を行う際には、金属塩化物回収工程で回収した回収金属塩化物(A)はないので、別途、金属塩化物(A)を用意する。
【0034】
溶融工程で用いる金属塩化物(A)は、金属塩化物回収工程で回収された回収金属塩化物(A)である。回収金属塩化物(A)は、金属塩化物(A)に加え、塩化亜鉛を含有する。回収金属塩化物(A)中の金属塩化物(A)の含有量は、特に制限されないが、回収金属塩化物(A)中の金属塩化物(A)の含有量が多過ぎると融点が高くなるので、好ましくは40〜55質量%、特に好ましくは40〜50質量%である。また、回収金属塩化物(A)は、塩化亜鉛の他に、シリコン、亜鉛等の微量の不純物を含有してもよい。また、初回の溶融工程を行う際に別途用意する金属塩化物(A)の純度は、特に制限されないが、好ましくは99.5質量%以上である。
【0035】
溶融工程で、副生塩化亜鉛と回収金属塩化物(A)とを混合する際の両者の混合量は、適宜選択されるが、溶融物中の塩化亜鉛の質量と金属塩化物(A)の質量の合計に対する金属塩化物(A)の質量の比(質量%)((金属塩化物(A)/(塩化亜鉛+金属塩化物(A)))×100)が、20〜50質量%となるような混合量が好ましく、30〜45質量%となるような混合量が特に好ましい。なお、1つ前のサイクル(溶融工程から金属塩化物回収工程までのサイクル)における融液分離抜き出し工程で、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液層から、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液の一部を抜き出していた場合、溶融槽には、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液が残っているので、今回のサイクルにおける溶融工程では、溶融槽中で、残存していた塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液に、副生塩化亜鉛と回収金属塩化物(A)とを混合して、溶融させることになるため、溶融物中の金属塩化物(A)の質量とは、溶融槽に残存していた塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液に含まれている金属塩化物(A)と回収金属塩化物(A)に含まれている金属塩化物(A)との合計質量であり、溶融物中の塩化亜鉛の質量とは、溶融槽中に残存していた塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液に含まれている塩化亜鉛と副生塩化亜鉛に含まれている塩化亜鉛と回収金属塩化物(A)に含まれている塩化亜鉛との合計質量である。また、1つ前のサイクルにおける融液分離抜き出し工程で、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液層から、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液の全部を抜き出していた場合、溶融槽には、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液は残存していないので、今回のサイクルにおける溶融工程では、溶融槽中で、副生塩化亜鉛と回収金属塩化物(A)とを混合して、溶融させることになるため、溶融物中の金属塩化物(A)の質量とは、回収金属塩化物(A)に含まれている金属塩化物(A)の質量であり、溶融物中の塩化亜鉛の質量とは、副生塩化亜鉛に含まれている塩化亜鉛と回収金属塩化物(A)に含まれている塩化亜鉛との合計質量である。なお、初回の溶融工程の場合は、初回の溶融工程で、副生塩化亜鉛と別途用意する金属塩化物(A)とを混合する際の両者の混合量は、適宜選択されるが、溶融物中の塩化亜鉛の質量と金属塩化物(A)の質量の合計に対する金属塩化物(A)の質量の比(質量%)((金属塩化物(A)/(塩化亜鉛+金属塩化物(A)))×100)が、20〜50質量%となるような混合量が好ましく、30〜45質量%となるような混合量が特に好ましい。
【0036】
溶融工程で、副生塩化亜鉛と回収金属塩化物(A)とを混合し溶融させる際の溶融温度は、特に制限されないが、好ましくは300〜600℃、特に好ましくは400〜550℃である。
【0037】
そして、溶融工程では、前のサイクルにおける融液分離抜き出し工程で、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液の全部を抜き出した場合は、副生塩化亜鉛と回収金属塩化物(A)とを混合し溶融させることにより、また、前のサイクルにおける融液分離抜き出し工程で、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液の一部を抜き出した場合は、溶融槽に残存している塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液に、副生塩化亜鉛と回収金属塩化物(A)とを混合し溶融させることにより、溶融物を得る。なお、溶融工程で溶融させて得られる溶融物を、溶融物(B)とも記載する。
【0038】
溶融工程では、副生塩化亜鉛と回収金属塩化物(A)を混合し溶融する方法としては、先に、溶融槽に、混合する全ての副生塩化亜鉛及び回収金属塩化物(A)を入れ、次いで、加熱して溶融させる方法や、先に、溶融槽中で、副生塩化亜鉛及び回収金属塩化物(A)のいずれか又は両方の一部又は全部を加熱して溶解させ、次いで、加熱しながら、残りの副生塩化亜鉛及び回収金属塩化物(A)を添加して、全部を溶融させる方法等が挙げられる。特に、溶融塩電解工程を行った後の溶融塩電解槽には、回収金属塩化物(A)となる塩化亜鉛及び金属塩化物(A)が、溶融状態で残存するので、金属塩化物回収工程で、溶融状態の回収金属塩化物(A)を回収し、溶融状態のままで回収金属塩化物(A)を、溶融槽に入れ、そこに、副生塩化亜鉛を添加して、全部を溶融させる方法が、効率的である点で好ましい。
【0039】
融液分離抜き出し工程は、溶融工程で溶融させた溶融物(B)を層分離させ、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液層から、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を抜き出す工程である。
【0040】
溶融物(B)では、塩化亜鉛、金属塩化物(A)及び亜鉛は、溶融した状態で存在しており、シリコンは、固体の状態で存在しているが、溶融物(B)を静置すると、溶融物(B)は、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液層と、溶融亜鉛の層と、シリコンの層とに、層分離する。そして、シリコンの密度は2.3g/cm程度、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液の密度は2.0〜2.8g/cm、溶融亜鉛の密度は6.6g/cm程度なので、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液の密度が、シリコンの密度より大きい場合は、図1に示すように、下から順に、溶融亜鉛2の層、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液1aの層、シリコン3の層が形成され、また、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液の密度が、シリコンの密度より大きい場合は、図5に示すように、下から順に、溶融亜鉛2の層、シリコン3の層、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液1bの層が形成される。なお、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の密度は、金属塩化物(A)の種類及び塩化亜鉛と金属塩化物(A)との比率により異なる。
【0041】
塩化亜鉛を金属亜鉛の存在下で溶融させると、塩化亜鉛の溶融物中に、金属亜鉛が溶け込んでいく現象(金属霧)が発生するため、塩化亜鉛と亜鉛との分離が困難となる。そこで、本発明の亜鉛の回収方法では、亜鉛を含有する副生塩化亜鉛を金属塩化物(A)と共に溶融させて、塩化亜鉛の融液中に金属塩化物(A)を存在させることにより、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液中に、金属霧が発生するのを防止することができる。
【0042】
融液分離抜き出し工程では、溶融槽中で層分離した塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液層から、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を抜き出す。塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液層から、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を抜き出す方法としては、特に制限されないが、例えば、溶融槽内の塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液層の上側近傍と下側近傍とに仕切り板を設置し、それらの仕切り板の間に設置されている融液の抜き出し管から、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を抜き出す方法が挙げられる。融液分離抜き出し工程では、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液層から、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液の全部を抜き出してもよく、又は塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液の一部を抜き出してもよい。
【0043】
また、融液分離抜き出し工程では、溶融槽中で層分離した溶融亜鉛の層から、溶融亜鉛を抜き出し、シリコンの層から、シリコンを抜き出す。なお、溶融工程で用いられる副生塩化亜鉛及び回収金属塩化物(A)中の亜鉛及びシリコンの量は、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の量に比べれば少量なので、溶融工程後、層分離させ、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液層から、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を抜き出した後、溶融亜鉛又はシリコンを溶融槽から抜き出すことなく、溶融槽に、副生塩化亜鉛及び回収金属塩化物(A)を加え、混合し溶融させる溶融工程と、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液層から、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を抜き出す融液分離抜き出し工程とを繰り返し、溶融槽に蓄積される亜鉛又はシリコンの量が多くなってから、溶融亜鉛又はシリコンを抜き出してもよい。
【0044】
溶融物(B)から溶融亜鉛を抜き出した後、抜き出した亜鉛を、そのまま四塩化珪素の亜鉛還元に用いる亜鉛ガスとして再使用してもよいし、蒸留して不純物を除去した後に、四塩化珪素の亜鉛還元に用いる亜鉛ガスとして再使用してもよいし、塩酸に溶解させた後水溶液電解を行い、得られた亜鉛を四塩化珪素の亜鉛還元に用いる亜鉛ガスとして再使用してもよいし、再使用せず廃棄してもよい。また、溶融物(B)からシリコンを抜き出した後、抜き出したシリコンを、四塩化珪素の原料製造工程に供給し、塩素化して、四塩化珪素の亜鉛還元に用いる四塩化珪素として使用してもよし、再使用せず廃棄してもよい。
【0045】
溶融塩電解工程は、溶融分離抜き出し工程で抜き出した塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を、溶融塩電解槽中で溶融塩電解して、塩素ガス及び亜鉛を生成させ、生成した塩素ガス及び亜鉛を、溶融塩電解槽から取り出す工程である。
【0046】
溶融塩電解工程で用いる溶融塩電解槽は、内部に塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を保持する空間と、その上に溶融塩電解により生成する塩素ガスを捕集するための空間と、上部に塩素ガスを溶融塩電解槽から取り出すための塩素ガス取り出し部と、下部に溶融塩電解により生成する溶融亜鉛を溶融塩電解槽から取り出すための溶融亜鉛取り出し部と、溶融塩電解槽内の溶融塩に電圧を印加するための電極と、を有する。また、溶融塩電解槽は、金属塩化物回収工程で、溶融塩電解槽中の塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を、回収金属塩化物(A)として、溶融塩電解槽から回収するための金属塩化物(A)の回収部を有する。
【0047】
溶融塩電解槽としては、例えば、図2に示す形態の溶融塩電解槽11aまたは図6に示す形態の溶融塩電解槽11bが挙げられる。以下、溶融塩電解の具体的内容を、適宜図2及び図6を参照しつつ説明する。図2に示す形態の溶融塩電解槽11aと図6に示す形態の溶融塩電解槽11bは、電極4を構成する陽極(「+」記号で表記される)と陰極(「−」記号で表記される)の数が異なるだけで、それ以外は共通することから、以下、特に断らない限り、図2に示す形態の溶融塩電解槽を用いる場合及び図6に示す形態の溶融塩電解槽を用いる場合をまとめて説明することとする。
【0048】
図2に示す溶融塩電解槽11a及び図6に示す溶融塩電解槽11bは、内部に塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を保持するための空間を有するとともに、その上に塩素ガスの捕集するための空間を有している。また、溶融塩電解槽11a、11bは、溶融塩電解槽の上部に設けられ、塩素ガスを捕集するための空間に連通し、捕集した塩素ガスを溶融塩電解槽11a、11bから取り出すための塩素ガス取り出し管13と、溶融塩電解槽の下部に設けられ、生成する溶融亜鉛を溶融塩電解槽11a、11bから取り出すための溶融亜鉛取り出し管12と、金属塩化物回収管19と、電極14a、14bと、図示しない電解槽加熱部と、を有する。また、塩素ガス取り出し管13には、バルブfが付設されており、溶融亜鉛取り出し管12には、バルブeが付設されており、金属塩化物塩回収管19には、バルブdが付設されている。溶融塩電解槽11a、11bは、効率的な加熱を可能にするために槽内部が外部から断熱されたものであることが好ましい。
【0049】
溶融塩電解槽に設けられる電極は、単極式であってもよいし複極式であってもよいが、複極式であることが好ましい。また、電極は、図2に示すように、陽極一つと陰極一つが一対になったものであってもよいし、図6に示すように、複数の陽極と複数の陰極とが交互に配置されたものであってもよい。電極の材料は、特に限定されないが、グラファイトなどの炭素系材料が好ましい。また、電極の形状、材料は、特に限定されないが、材料としてはグラファイトなどの炭素系材料が望ましく、形状としては平板状又は溝のついた平板状が挙げられる。そして、電極としては、平板状又は溝のついた平板状であり、その片面が陽極であり他方の面が陰極である複極式の電極を複数個、陽極と陰極が対向するように平行に並べ、両端の電極に通電する複極式電極が望ましい。
【0050】
電極を複極式電極とすることによって、電極間の電気的接続による抵抗損をきわめて小さくすることができ、電力消費を最小限に抑えることができる。陰極と陽極が対面する電極間には液/ガス流れのためのすき間を空けて組み立てることにより、陽極と陰極間において、電解生成物である塩素ガスを電極に沿って上方に移動させ、生成した溶融亜鉛を溶融塩電解槽の下方に速やかに移動させることができる。
【0051】
複極式電極を用いる場合、電極間距離については特には制限されないが、5〜10mm程度が適当であり、10mmを超えると電解電圧が高くなるとともに複極式電解槽で問題となりやすい漏洩電流が大きくなり、5mmより小さいと運転温度にも依るが、発生気泡及び生成亜鉛の電解部分からの分離が困難となる。
【0052】
溶融塩電解工程において、溶融塩電解する際の塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液の温度、すなわち、溶融塩電解温度は、好ましくは420〜730℃、特に好ましくは450〜550℃、更に好ましくは480〜500℃である。
【0053】
そして、溶融塩電解工程では、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を加熱しながら、電極に対し、図示しない外部電源から電圧を印加することにより、溶融塩電解を行う。溶融塩電解の際の印加電圧は、好ましくは1〜10V、特に好ましくは1〜5Vであり、更に好ましくは1.5〜4Vである。溶融塩電解の際の電解電流密度は、好ましくは5〜100A/dm、特に好ましくは10〜100A/dm、更に好ましくは20〜100A/dmである。
【0054】
溶融塩電解工程では、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液中の塩化亜鉛が電気分解されて、溶融亜鉛と塩素ガスが生成する。そして、溶融塩電解工程では、溶融塩電解を行いながら、溶融塩電解により生成する塩素ガスを上部から取り出し、溶融亜鉛を下部から取り出すか、あるいは、溶融塩電解を行った後、溶融状態を保ったまま、溶融塩電解により生成する塩素ガスを上部から取り出し、溶融亜鉛を下部から取り出すことにより、溶融塩電解により生成する塩素ガス及び溶融亜鉛を、溶融塩電解槽から取り出す。例えば、図2及び図6中に「+」記号で表記する陽極から生成した塩素ガスを、溶融塩電解槽11a、11bの上部の空間に一旦捕集し、この塩素ガスの捕集空間に連通する塩素ガスの取り出し管13から、捕集された塩素ガスを取り出す。また、図2及び図6中に「−」記号で表記する陰極上で生成した溶融亜鉛は、陰極を伝って下方に落ちて、溶融塩電解槽11a、11bの下部に貯まるので、生成した溶融亜鉛を、溶融塩電解槽11a、11bの下部に一旦集め、溶融塩電解槽11a、11bの下部に繋がる溶融亜鉛取り出し管12から、溶融亜鉛を取り出す。
【0055】
金属塩化物(A)としては、塩化亜鉛より溶融塩電解され難い金属塩化物を用いているので、溶融塩電解工程では、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)のうち、塩化亜鉛が電気分解され、金属塩化物(A)は電気分解されない。そのため、溶融塩電解が進むにつれ、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液中の塩化亜鉛の含有量が低くなり、金属塩化物(A)の含有割合が高くなっていく。溶融塩電解工程を行った後の溶融塩電解槽には、溶融塩電解を行う前より金属塩化物(A)の含有割合が高くなった塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液が残存する。
【0056】
溶融塩電解工程では、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液中の塩化亜鉛の含有量が予め定めた含有量となるまで、溶融塩電解を行う。塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液中の塩化亜鉛の含有量が、どの程度の含有量となるまで、溶融塩電解を行うかは、適宜選択される。溶融塩電解工程では、塩化亜鉛の溶融塩電解が進むにつれ、金属塩化物(A)の含有量が高くなっていくが、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液中の金属塩化物(A)の含有量が多くなり過ぎると、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液の融点が高くなり過ぎるので、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液中の金属塩化物(A)の含有量が50質量%を超えない範囲で溶融塩電解を行うことが好ましい。
【0057】
金属塩化物回収工程は、溶融塩電解工程を行った後に、溶融塩電解槽に残存している塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を、回収金属塩化物(A)として回収し、回収金属塩化物(A)を得る工程である。
【0058】
金属塩化物回収工程において、溶融塩電解槽に残存している塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を回収して、回収金属塩化物(A)を得る方法としては、特に制限されず、例えば、溶融塩電解を行った後、電極への電圧の印加を止め、加熱を続け、溶融塩電解槽に残存する塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液が溶融している状態のまま、溶融塩電解槽に設けられている金属塩化物回収管等から、溶融塩電解槽に残存している塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を取り出し、回収する方法が挙げられる。
【0059】
上記では、溶融塩電解工程を行った後に、金属塩化物回収工程を行う形態を説明したが、本発明の亜鉛の回収方法では、溶融塩電解工程及び金属塩化物回収工程を、同時に連続して行うこともできる。溶融塩電解工程及び金属塩化物回収工程を同時に連続して行う場合、溶融塩電解槽内の塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を電解しながら、溶融塩電解槽内に塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を連続的に供給しつつ、溶融塩電解槽から塩化亜鉛及び金属塩化物の混合融液、すなわち、回収金属塩化物(A)を連続的に取り出し、生成した塩素ガス及び生成した溶融亜鉛も連続的に取り出す。
【0060】
そして、本発明の亜鉛の回収方法では、金属塩回収工程を行い得られる回収金属塩化物(A)を、溶融工程で用いる金属塩化物(A)として再使用して、溶融工程、融液分離抜き出し工程、溶融塩電解工程及び金属塩化物回収工程を繰り返し行う。
【0061】
本発明の亜鉛の回収方法では、四塩化珪素の亜鉛還元法により副生する副生塩化亜鉛に、不純物として亜鉛及びシリコンが含まれていても、金属塩化物(A)と混合し溶融させることで、容易に亜鉛及びシリコンの分離が可能となるので、亜鉛の回収効率を向上させることができ、多結晶シリコンの製造コストや環境負荷を低減することができる。
【0062】
また、本発明の亜鉛の回収方法では、金属塩化物(A)が、溶融塩電解のときに、溶融塩の抵抗値を低下させ電力消費を抑えるための支持電解質として作用するので、亜鉛製造の電力原単位が抑えられ、多結晶シリコンの製造コストや環境負荷を低減することができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例により説明するが、これらは例示であって、本発明はこれら実施例によりなんら制限されるものではない。
【0064】
(実施例1)
<副生塩化亜鉛の製造(四塩化珪素の亜鉛還元法)>
四塩化珪素ガスと亜鉛ガスとを反応炉で反応させて、反応炉から排出される排出ガスを、酸素と接触させずに100℃で冷却することにより、粉末状の副生塩化亜鉛を得た。この粉末状の副生塩化亜鉛中、塩化亜鉛の含有量は80質量%であり、不純物(シリコン及び亜鉛)の含有量が20質量%であった。
【0065】
<溶融操作1>
次いで、上記で得た副生塩化亜鉛10kg(塩化亜鉛として8kg含有)と、金属塩化物として塩化カリウム5kgとを、図1に示す容量20Lの溶融槽に投入し、500℃まで加熱し溶融させた。このとき、副生塩化亜鉛に含まれる塩化亜鉛の質量と塩化カリウムの質量の合計に対する塩化カリウムの質量の比(質量%)((KCl/(ZnCl+KCl))×100)は、38.5質量%であった。
【0066】
<融液の分離抜き出し操作1>
溶融物を加熱しながら静置したところ、溶融物が三層に層分離した。次いで、塩化亜鉛及び金属塩化物の混合融液の抜き出し管から、塩化亜鉛及び塩化カリウムの混合融液5kgを抜き出した。抜き出した塩化亜鉛及び塩化カリウムの混合融液中の塩化亜鉛の含有量は61.5質量%であり、塩化カリウムの含有量は38.5質量%であった。なお、溶融槽には、8kg分の塩化亜鉛及び塩化カリウムの混合融液が残っている。
【0067】
<溶融塩電解操作1>
次いで、抜き出した塩化亜鉛及び塩化カリウムの混合融液5kgを、図2に示す5Lの溶融塩電解槽に投入し、外部電源に電気的に接続する電極から直流電流を電解電流密度60A/dmで供給し、溶融塩電解温度500℃で、溶融塩電解を8時間行った。なお、電極として、グラファイト板(縦100mm、横100mm、厚さ8mm)を平行に2枚並べたものを用い、各電極の端部から導線を取り出して、外部電源に電気的に接続した。グラファイト板間に隔膜は設けなかった。
【0068】
そして、溶融塩電解により生成した塩素ガスを、塩素ガス取り出し管から取り出して、572gの塩素ガスを得た。また、溶融塩電解により生成した溶融亜鉛を、溶融亜鉛の取り出し管から取り出して、亜鉛527gを得た。この亜鉛の純度を測定したところ、フォーナイン(4−N)以上であり、溶融塩電解における電流効率は90%であった。
【0069】
<金属塩化物回収操作1>
溶融塩電解終了後、溶融塩電解槽内を加熱したまま、金属塩化物回収管から、溶融状態で回収塩化カリウム3.9kgを抜き出し、溶融操作1で用いた溶融槽に返送した。回収塩化カリウム中の塩化亜鉛の含有量は51質量%であり、塩化カリウムの含有量は49質量%であった。
【0070】
<溶融操作2>
次いで、融液の分離抜き出し操作1で溶融槽内に残った溶融物10kgに、返送した回収塩化カリウム3.9kg(塩化カリウムとして1.9kg、塩化亜鉛として2.0kg含有)を混合し、更に、溶融塩電解操作1で電気分解された塩化亜鉛を補うために上記副生塩化亜鉛の製造と同様にして得た副生塩化亜鉛1.4kg(塩化亜鉛として1.1kg含有)とを、溶融槽に投入して、500℃まで加熱し溶融させた。このとき、溶融物中に含まれる塩化亜鉛の質量と塩化カリウムの質量の合計に対する塩化カリウムの質量の比(質量%)((KCl/(ZnCl+KCl))×100)は、38.5質量%であった。
【0071】
<融液の分離抜き出し操作2>
融液の分離抜き出し操作1と同様にして、溶融操作2で溶融させた溶融物を、加熱しながら静置したところ、溶融物が三層に層分離した。次いで、シリコン抜き出し管から表面のシリコン0.3kgを抜き出し、塩化亜鉛及び金属塩化物の混合融液の抜き出し管から、塩化亜鉛及び塩化カリウムの混合融液5kgを抜き出し、溶融亜鉛抜き出し管から、溶融亜鉛2kgを抜き出した。抜き出した塩化亜鉛及び塩化カリウムの混合融液中の塩化亜鉛の含有量は61.5質量%であり、塩化カリウムの含有量は38.5質量%であった。
【0072】
<溶融塩電解操作2>
融液の分離抜き出し操作2で得た塩化亜鉛及び塩化カリウムの混合融液5kgを、溶融塩電解操作1と同様にして、溶融塩電解し、572gの塩素ガスと、フォーナイン(4−N)以上の純度の亜鉛527gを得た。
【0073】
<金属塩化物回収操作2>
金属塩化物回収操作1と同様にして、溶融塩電解終了後、溶融状態で回収塩化カリウム3.9kgを抜き出した。回収塩化カリウム中の塩化亜鉛の含有量は49質量%であった。
【0074】
(実施例2)
【0075】
<溶融操作1>
実施例1と同様にして得た副生塩化亜鉛10kg(塩化亜鉛として8kg含有)と、金属塩化物として塩化カリウム3kgとを、図1に示す容量20Lの溶融槽に投入し、500℃まで加熱し溶融させた。このとき、副生塩化亜鉛に含まれる塩化亜鉛の質量と塩化カリウムの質量の合計に対する塩化カリウムの質量の比(質量%)((KCl/(ZnCl+KCl))×100)は、27.3質量%であった。
【0076】
<融液の分離抜き出し操作1>
溶融物を加熱しながら静置したところ、溶融物が三層に層分離した。次いで、塩化亜鉛及び金属塩化物の混合融液の抜き出し管から、塩化亜鉛及び塩化カリウムの混合融液5kgを抜き出した。抜き出した塩化亜鉛及び塩化カリウムの混合融液中の塩化亜鉛の含有量は72.7質量%であり、塩化カリウムの含有量は27.3質量%であった。なお、溶融槽には、6kg分の塩化亜鉛及び塩化カリウムの混合融液が残っている。
【0077】
<溶融塩電解操作1>
次いで、抜き出した塩化亜鉛及び塩化カリウムの混合融液5kgを、実施例1と同様の条件で、溶融塩電解を12時間行い、828gの塩素ガスと、フォーナイン(4−N)以上の純度の亜鉛764gを得た。溶融塩電解における電流効率は87%であった。
【0078】
<金属塩化物回収操作1>
溶融塩電解終了後、溶融塩電解槽内を加熱したまま、金属塩化物回収管から、溶融状態で回収塩化カリウム3.4kgを抜き出し、溶融操作1で用いた溶融槽に返送した。回収塩化カリウム中の塩化亜鉛の含有量は59質量%であり、塩化カリウムの含有量は41質量%であった。
【0079】
<溶融操作2>
次いで、融液の分離抜き出し操作1で溶融槽内に残った溶融物8kgに、返送した回収塩化カリウム3.4kg(塩化カリウムとして1.4kg、塩化亜鉛として2.0kg含有)を混合し、更に、溶融塩電解操作1で電気分解された塩化亜鉛を補うために上記副生塩化亜鉛の製造と同様にして得た副生塩化亜鉛2.0kg(塩化亜鉛として1.6kg含有)とを、溶融槽に投入して、500℃まで加熱し溶融させた。このとき、溶融物中に含まれる塩化亜鉛の質量と塩化カリウムの質量の合計に対する塩化カリウムの質量の比(質量%)((KCl/(ZnCl+KCl))×100)は、27.3質量%であった。
【0080】
<融液の分離抜き出し操作2>
融液の分離抜き出し操作1と同様にして、溶融操作2で溶融させた溶融物を、加熱しながら静置したところ、溶融物が三層に層分離した。次いで、シリコン抜き出し管から表面のシリコン0.3kgを抜き出し、塩化亜鉛及び金属塩化物の混合融液の抜き出し管から、塩化亜鉛及び塩化カリウムの混合融液5kgを抜き出し、溶融亜鉛抜き出し管から、溶融亜鉛2.1kgを抜き出した。抜き出した塩化亜鉛及び塩化カリウムの混合融液中の塩化亜鉛の含有量は72.7質量%であり、塩化カリウムの含有量は27.3質量%であった。
【0081】
<溶融塩電解操作2>
融液の分離抜き出し操作2で得た塩化亜鉛及び塩化カリウムの混合融液5kgを、溶融塩電解操作1と同様にして、溶融塩電解し、828gの塩素ガスと、フォーナイン(4−N)以上の純度の亜鉛764gを得た。
【0082】
<金属塩化物回収操作2>
金属塩化物回収操作1と同様にして、溶融塩電解終了後、溶融状態で回収塩化カリウム3.4kgを抜き出した。回収塩化カリウム中の塩化亜鉛の含有量は41質量%であった。
【0083】
以上の結果から、副生塩化亜鉛と金属塩化物(A)と混合し溶融させることで、塩化亜鉛から不純物である亜鉛及びシリコンを分離することができ、且つ、金属塩化物(A)の再利用が可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0084】
1a、1b 塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液
2 溶融亜鉛
3 シリコン
6 塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液の抜き出し管
7 溶融亜鉛の抜き出し管
8 シリコンの抜き出し管
10 溶融槽
11a、11b 溶融塩電解槽
12 溶融亜鉛取り出し管
13 塩素ガス取り出し管
14a、14b 電極
17 塩素ガス
18 回収金属塩化物(A)
19 金属塩化物回収管
a、b、c、d、e、f バルブ
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、四塩化珪素の亜鉛還元法に用いる亜鉛を、副生塩化亜鉛から、簡易、省エネルギー且つ高効率で亜鉛を回収することができるので、多結晶シリコンを安価に製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四塩化珪素の亜鉛還元法により副生する副生塩化亜鉛と、金属塩化物(A)とを、混合し溶融させる溶融工程と、
該溶融工程で溶融させた溶融物を層分離させ、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液層から、塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を抜き出す融液分離抜き出し工程と、
該融液分離抜き出し工程で抜き出した該塩化亜鉛及び金属塩化物(A)の混合融液を、溶融塩電解槽中で溶融塩電解し、該溶融塩電解槽の上部から生成した塩素ガスを取り出すとともに、該溶融塩電解槽の下部から生成した溶融亜鉛を取り出す溶融塩電解工程と、
該溶融塩電解槽から金属塩化物(A)を回収し、回収金属塩化物(A)を得る金属塩化物回収工程と、
を有し、
該金属塩化物(A)が、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化カリウム又は塩化ナトリウムであり、
該金属塩化物回収工程で回収した回収金属塩化物(A)を、該溶融工程で用いる金属塩化物(A)として再使用すること、
を特徴とする亜鉛の回収方法。
【請求項2】
前記金属塩化物(A)が、塩化カリウム又は塩化ナトリウムであることを特徴とする請求項1記載の亜鉛の回収方法。
【請求項3】
前記副生塩化亜鉛が、四塩化珪素の亜鉛還元法の反応炉より排出される反応炉排出ガスを、58〜730℃で冷却することにより得られたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の亜鉛の回収方法。
【請求項4】
前記溶融塩電解工程において、420〜730℃で溶融塩電解を行うことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の亜鉛の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−102353(P2012−102353A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249700(P2010−249700)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【Fターム(参考)】