説明

交信処理装置および交信処理装置における距離計測方法

【課題】交信処理の効率を損なうことなく、タグまでの距離を精度良く計測する。
【解決手段】コマンドが重畳された搬送波を送出する処理と無変調搬送波(CW)を送出してタグ2からの応答を受け付ける処理とを交互に実行する交信処理装置1において、送信制御部111は、タグ2からの反射波の受信が開始されたことに応じて送受信回路100から送出される無変調搬送波の位相を切り替える。送受信回路110には、タグ2からの反射波に含まれるI信号およびQ信号を分離して検出する回路が含まれており、位相検出部112は、I信号およびQ信号を用いて反射波の位相の変化を検出する。距離算出部113は、無変調搬送波の位相が切り替えられた時点から反射波の位相に無変調搬送波の位相の変化に対応する変化が検出される時点までの時間を計測し、その時間を用いてアンテナ10からタグ2までの距離を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続搬送波を用いてRFIDタグとの交信を行う交信処理装置に関するもので、特に、交信処理装置からのコマンドに応答したRFIDタグ(以下、単に「タグ」という場合もある。)と交信処理装置との間の距離を計測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
RFID方式の交信処理装置では、交信処理装置において、一定の周波数による搬送波を連続的に送出しながらこの搬送波を変調することによりタグへのコマンドを送信する処理と、無変調の搬送波(Continuous Wave;略してCWと呼ばれる。)を送出してタグからの応答を受け付ける処理とを交互に実施する。コマンドを受信したタグでは自回路のインピーダンスを変化させることによりコマンドに応答する。このタグの応答動作により、無変調搬送波にコマンドへの応答信号が重畳された信号(反射波)が交信処理装置に返送され、応答信号が復号される。
【0003】
生産現場や物流現場などでのRFIDシステムでは、あらかじめ定めた交信距離の範囲でタグとの交信を行う必要があるが、使用される電波の波長によっては、必要とする距離を上回る場所にまで電波が届くことがある。また現場の床や壁などに電波が反射して遠くのタグにまで導かれることもある。この結果、交信の必要がない場所に存在するタグがコマンドに応答して、情報処理に問題が生じるおそれがある。その具体例を図5に示す。
【0004】
図5の例は、並列する経路B1,B2の横手に、それぞれ交信処理装置のアンテナA1,A2を配置して、これらのアンテナA1,A2により経路B1,B2を走行する車両Cに取り付けられたタグTから情報を読み取るものである。図示例の場合には、車両Cが位置する経路B1に対応するアンテナA1のみがタグTと交信できるようにする必要があるが、隣の経路B2のアンテナA2からの電波もタグTに届いて、アンテナA2からのコマンドにタグTが応答し、誤った情報の読み書きが実施されるおそれがある。
【0005】
上記の問題点を解決するための方法として、タグからの応答信号の強度に基づいてアンテナからタグまでの距離を推定する方法や、コマンドを送信してからタグからの応答を受信するまでの時間の長さを用いて、タグまでの距離を測定する方法が考えられる(たとえば特許文献1,2を参照。)。
【0006】
また、周波数が異なる2通りの搬送波を順に送出して、周波数毎にタグからの反射波の位相の変化量を検出し、各変化量の差を利用した演算によりタグとの距離を算出する方法も提案されている(特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4462149号公報
【特許文献2】特開2008−232907号公報
【特許文献3】特許第4265686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
反射波の強度に基づいてタグとの距離を推定する方法は、タグにおける反射の強度が一定であり、床や壁などでの電波の反射が起こりにくい場合には有用な方法である。しかし実際には、タグの取り付け状態や指向特性のばらつきによってタグにおける反射の強度にもばらつきが生じる。また電波吸収体のような特殊な設備を配置しない限り、床や壁などからの電波の反射を防ぐのは困難である。
【0009】
コマンドを送信してからタグからの応答を受信するまでの時間の長さに基づいてタグまでの距離を求める方法では、コマンドに対するタグ側の反応時間(コマンドが届いてから応答が開始されるまでの時間)が一定でなければ計測精度を確保できない。パッシブタイプやセミパッシブタイプのタグでは、この反応時間が一定にならないため、上記の方法を採用するのは困難である。
【0010】
特許文献3に記載された方法は、タグに対して送出された搬送波とタグからの反射波との間にはタグとの距離と搬送波の周波数とに応じた位相差が生じる、という原理を応用したものである。この方法により計測精度を確保するには、2種類の搬送波間の周波数の差をできるだけ大きくする必要があるが、電波法の制約があるため、周波数を大きく変更するのは不可能である。またタグからアンテナに直接戻る反射波(直接波)のほか、タグから床や壁などでの反射を経由してアンテナに戻る反射波をアンテナが受信し、これらの反射波の合成波の位相が検出されると、反射波の位相の変化量は、タグとの距離を正確に表さないものになる。
したがって、この方法を実用化するのは困難である。また実用化されても、複数回の交信処理が必要になるため、移動するタグへの適用は困難である。
【0011】
本発明は上記の各問題を考慮し、交信処理の効率を損なうことなく、タグまでの距離を精度良く計測することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による交信処理装置は、搬送波を変調することによってRFIDタグに対するコマンドを送信するコマンド送信処理と、無変調の搬送波(CW)を送出しながらこの無変調搬送波に対するRFIDタグからの反射波を受信する受信処理と、受信した反射波からRFIDタグからの応答信号を復号する復号処理とを実行するもので、受信処理により受信した反射波の位相を検出する位相検出手段と、受信処理において反射波の受信が開始されたことに応じて無変調搬送波の位相を変化させる位相変更手段と、無変調搬送波の位相が変更された時点から位相検出手段により検出される反射波の位相に無変調搬送波における位相の変化に対応する変化が生じる時点までの時間を計測し、計測された時間と無変調搬送波の伝搬速度とを用いて反射波を返したRFIDタグまでの距離を測定する距離測定手段とを具備する。
【0013】
上記の構成によれば、コマンドの受信後にタグからの応答を受けるために無変調搬送波を送出している期間中に、タグからの反射波が交信処理装置に届いたことに応じて無変調搬送波の位相を変更する。そして位相を変更した時点からタグから受信した反射波に同様の位相の変化が検出されるまでの時間を計測する。この計測時間から交信処理装置とタグとの間での電波の往復時間を割り出すことができるので、タグまでの距離を精度良く計測することが可能になる。
【0014】
上記交信処理装置における一実施形態では、位相変更手段は、復号処理により応答情報中のプリアンブルが検出されたことに応じて無変調搬送波の位相を変更する。応答信号中のプリアンブルは、「1」および「0」のビット信号が一定のパターンで配列された構成を有するから、このパターンを検出することによって反射波の受信が開始されたことを容易に判別し、位相を切り替えることができる。また床や壁などで反射して交信処理装置に戻ったノイズ反射波がタグからの反射波として誤認識されるのを防ぐことができる。
【0015】
他の実施形態では、位相変更手段は、前記復号処理により応答信号中のプリアンブルが検出されたことに応じて無変調搬送波の位相を変更し、位相検出手段は、プリアンブルが検出されている間に送信される無変調搬送波に対する反射波の位相の変化を検出する。
この実施形態によれば、一定のパターンで配列された信号を含む反射波を受信している間に、距離の計測処理を終了することができるので、1サイクルの交信処理の間に確実に距離を計測することが可能になる。
【0016】
他の実施形態による交信処理装置は、距離計測手段により計測された距離に基づき反射波を返したRFIDタグが交信対象として適切であるか否かを判別する判別手段を、さらに具備する。このようにすれば、定められた距離の範囲内にあるタグからの応答信号のみを採用することが容易になり、誤った情報処理が実施されるのを防ぐことができる。
【0017】
本発明の交信処理装置の好ましい形態は、RFIDタグに対する情報の読み出しおよび書き込みを行うRFIDリーダライタであるが、これに限らず、情報の読み出しのみを行うRFIDリーダとして構成してもよい。
【0018】
本発明による距離計測方法は、搬送波を変調することによってRFIDタグに対するコマンドを送信するコマンド送信処理と、無変調の搬送波を送出しながらこの無変調搬送波に対するRFIDタグからの反射波を受信する受信処理と、受信した反射波に含まれるRFIDタグからの応答信号を復号する復号処理とを実行する交信処理装置において実施される。この方法は、受信処理において反射波の受信が開始されたことに応じて無変調搬送波の位相を変化させた後に、反射波の位相を検出しながら当該位相に前記無変調搬送波における位相の変化に対応する変化が生じる時点までの時間を計測し、計測された時間を用いて反射波を返したRFIDタグまでの距離を計測することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、コマンドに対するRFIDタグからの反射波の受信が開始されたことに応じて無変調搬送波の位相を変化させ、この変化の時点から反射波に同様の位相の変化が生じる時点までの時間の長さを用いてタグまでの距離を計測するので、コマンドに対するタグの反応時間や反射強度のばらつきに影響されることなく、距離を計測することができる。また床などで反射した電波によって、必要以上に離れた場所にあるタグとの交信が可能になっている場合には、計測時間も途中の反射の分だけ長くなるので、距離の計測値も大きな値となり、床などからの反射の影響を受けにくい計測を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明が適用されるリーダライタの構成を示すブロック図である。
【図2】交信処理の流れを示すタイムチャートである。
【図3】無変調搬送波(CW)および反射波の位相の変化と、これらに基づき計測される時間Tとの関係を示すタイミングチャートである。
【図4】交信処理装置の制御部における処理手順を示すフローチャートである。
【図5】誤った交信処理の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明が適用された交信処理装置の一例であるリーダライタの構成を示す。
この実施例のリーダライタ1は、UHF帯域の電波を用いてパッシブタイプまたはセミパッシブタイプのRFIDタグ2と交信をして、このタグ2から情報を読み出したり、タグ2に情報を書き込む処理を実施するもので、アンテナ10を含む送受信回路100と、この送受信回路の動作を制御する制御部110とを具備する。なお、使用する電波はUHF帯域に限らず、他の帯域の電波を使用してもよい。
【0022】
送受信回路100には、アンテナ10のほか、サーキュレータ11、発振器12、変調回路13、分配器14,15、ミキサ16A,16B、90度位相器17、アンプ18A,18B、A/D変換器19A,19Bなどが含まれる。制御部110の実体はプログラムロジック回路(FPGA)であって、送信制御部111、位相検出部112、距離算出部113、復号処理部114、出力処理部115の各機能が設けられる。
【0023】
また図1には示していないが、このリーダライタ1には、図示しない上位機器に対するインタフェース回路が設けられる。制御部110は、上位機器から送信される指示に基づいてタグとの交信処理を実施し、その処理結果を上位機器に送信する。
【0024】
発振器12からは、搬送波のベースとなる周波数信号が出力される。変調回路13は、送信制御部111からデータ信号の提供を受け、このデータ信号により連続搬送波を変調する。変調後の信号はサーキュレータ11を介してアンテナ10に導かれ、電磁波として送出される。
実質的な変調が生じるのはコマンドが送信される期間であり、タグ2からの応答を受け付ける期間には、無変調搬送波CW(以下「無変調波」という。)が送出される。
【0025】
また変調回路13には、搬送波の位相をずらすための位相切替回路が含まれている。この回路は、送信制御部111からの位相切替コマンドに応じて作動し、これにより搬送波の位相が切り替えられる。この実施例では、直交変調器により変調回路13を形成し、搬送波の位相を90度ずらすようにしているが、変調回路13の構成はこれに限定されるものではない。
【0026】
アンテナ10がタグ2から受信した反射波は、サーキュレータ11を介して分配器15へと導かれ、各ミキサ16A,16Bに分配される。またもう一方の分配器14によって、発振器12からの発振信号が分配され、分配された一方の信号はミキサ16Aに直接入力され、他方の信号は90度位相器17を介してミキサ16Bに入力される。これによりミキサ16Aからは反射波に含まれるI信号が出力され、ミキサ16Bからは反射波に含まれるQ信号が出力される。I信号およびQ信号は、それぞれアンプ18A,18Bにより増幅された後にA/D変換回路19A,19Bによりディジタル変換されて制御部110に入力される。
【0027】
制御部110に入力されたI信号およびQ信号は、位相検出部112および復号処理部114により処理される。
位相検出部112は、I信号とQ信号とを用いて反射波の位相の変化を検出する。この検出処理は、たとえば、I信号に対するQ信号の強度比率Q/Iを求める演算処理と、毎回の演算結果を前回の演算結果と比較する処理とにより実施される。
復号処理部114は、I信号およびQ信号をIQ平面におけるベクトルとして、これらの合成ベクトルの長さを求め、その長さの時系列変化から反射波に含まれるタグからの応答信号を復号する。
【0028】
送信制御部111は、コマンドを構成するデータ信号を出力した後は、連続波を送信する。さらに送信制御部111は、復号処理部114により応答信号の復号が開始されたことに応じて、変調回路13に位相切替コマンドを出力する。これらの処理により、アンテナ10から送出される電磁波は、コマンドが重畳された搬送波から無変調波(CW)に移行し、さらに位相が90度ずれた無変調波に移行する。
【0029】
距離算出部113は、位相切替コマンドが出力されたことに応じて計時処理を開始し、位相検出部112によって反射波の位相に無変調波に生じたのと同様の変化が検出されるまでの時間を計測する。そして計測された時間を用いて後述する演算を実行することにより、アンテナ10からタグ2までの距離を算出する。
【0030】
出力処理部115は、距離算出部113により算出された距離をあらかじめ上位機器から送信された基準の距離と比較し、基準の距離以内の距離が算出されたタグからの応答信号を上位機器に送信する。距離算出部113により算出された距離が基準の距離を上回った場合には、復号処理部114は、交信中のタグは交信対象として適切ではないと判別して、復号処理を中止する。
【0031】
以下、アンテナ10からタグ2までの距離を計測する方法を中心に、リーダライタ1において実施される交信処理を詳細に説明する。
【0032】
まず図2は、上記のリーダライタ1とタグ2との間で実施される交信処理の流れを、時間軸に沿って示したものである。この実施例では、EPCglobal C1 Gen2仕様に基づき、リーダライタ1において、コマンドが重畳された搬送波を送出する期間と無変調波(CW)を送出しながらタグ2からの応答を受け付ける期間とを交互に実施する。タグ2までの距離を計測するための処理も無変調波の送出期間中に実施される。
【0033】
図2を参照して、交信処理の具体的な流れを説明する。まずリーダライタ1は、交信可能な範囲に含まれる全てのタグ2を対象に、検出用のコマンド(クエリーコマンド)を送信する(図2の(a))。このコマンドを受信したタグ2では乱数を生成し、この乱数をリーダライタ1に送信する(図2の(b))。乱数を受信したリーダライタ1は、その受信数により交信可能なタグの数を認識し、以下、受信した乱数により交信相手を特定して情報の読み出しを求めるコマンド(Ackコマンド)を送信する処理と、当該コマンドに対するタグからの応答信号を受け付ける処理とを、タグ毎に順に実行する(図2の(c)(d))。またこのAckコマンドに対する応答信号を受信している間に、無変調波の位相を切り替える処理および距離の計測処理を実施する(図2の(e))。
【0034】
図3は、無変調波の位相とタグ2からの反射波の位相との関係を模式的に示す。
当初送出される無変調波(発振器12からの周波数信号に同期するもの)の位相を0度とすると、位相の切り替え後の無変調波の位相は90度となる。
【0035】
アンテナ10から送出された無変調波に対するタグ2からの反射波は、送出から所定時間後にアンテナ10に戻るが、このときの反射波には、アンテナ10からタグ2までの距離と無変調波の周波数とに応じた位相のずれが生じる。ここで、このずれ量をφとする。
無変調波の周波数は一定であるので、タグ2の位置が殆ど変わらないものとすると、無変調波の位相が切り替えられた後の反射波の位相のずれ量も同様にφとなる。よって0度の位相の無変調波に対する反射波と90度の位相の無変調波に対する反射波との間の位相差もほぼ90度となる。
【0036】
この実施例では、上記の現象を利用して、タグ2からの反射波の受信が開始されたことに応じて無変調波の位相を0度から90度に切り替える。反射波の受信が開始されたことは、復号処理部114により応答信号の先頭のプリアンブルが検出されたことによって判別することができる。よってこの実施例では、プリアンブルの先頭の数ビットが検出されたことに応じて無変調波の位相を切り替え、その切り替えの時点から反射波の位相に90度近い変化が生じる時点までの時間Tを計測する。
【0037】
上記のとおり、タグ2がコマンドへの応答を開始したことにより生じた反射波がリーダライタ1に届いたことに応じて速やかに計時処理を開始し、無変調波の位相の切り替わり部分に対するタグ2からの反射波がリーダライタ1に届いた時点で計時処理を終了するので、タグ2がコマンドを受信してから応答するまでに要する遅延時間を含まない時間を計測することができる。計測された時間Tには、リーダライタ1の回路特性に起因する遅延時間T0とアンテナとタグとの間で電波が往復した時間T1とが含まれると考えられるが、遅延時間T0は、制御部110とアンテナ10との間の信号の伝搬速度や信号線の長さなどから割り出すことができる固定時間である。
【0038】
よって、この実施例の制御部110には、あらかじめ求めた遅延時間T0が登録されており、距離算出部113において、登録された時間T0と計測された時間Tとを用いた下記の演算式を実行することにより、アンテナ10からタグ2までの距離Rを導出する。
R=c・(T−T0)/2 (cは光速)
【0039】
この実施例では、アンテナ10が受信した信号から応答信号の先頭部分のプリアンブルの復号が開始されたことに応じて直ちに無変調波の位相を切り替えるので、殆どの場合には、プリアンブルの復号が終了するまでの間に反射波の位相の変化を検出して、距離Rを算出することが可能になる。
プリアンブルでは、「1」および「0」の信号が特定のパターンで配列されているので、反射波の受信の開始を確実に検出することができる。また位相の変化を検出する処理においても、「1」が復号されるタイミングで得られたI信号およびQ信号から検出された位相を用いることによって、検出の確度を高めることができる。
ただし、無変調波の位相を切り替えるタイミングは、プリアンブルが検出されている期間に限らず、プリアンブルの後の応答信号の具体的な内容が検出されている間に位相を切り替えてもよい。また切り替え前の無変調波と切り替え後の無変調波との位相差は90度に限らず、I信号およびQ信号を用いてタグ2からの反射波の位相の変化を検出できるのであれば、位相差はどのような角度であってもよい。
【0040】
図4は、図2および図3に示した処理を実現するためにリーダライタ1の制御部110において実施される一連の処理の流れを示す。
まずステップS1では、クエリーコマンドの送信およびタグ2からの応答を受信して復号する処理を実施して、交信が可能なタグ2を検出する。
【0041】
この後は、検出されたタグ2毎にステップS2以下の処理を実行する。
まず、ステップS2ではAckコマンドを送信し、つぎのステップS3では無変調波の送信および復号処理を開始する。この後は、復号処理において応答信号のプリアンブルの復号が開始されるまで待機する(ステップS4)。
【0042】
プリアンブルの復号が開始されると(ステップS4が「YES」)、無変調波の位相を0度から90度に切り替えると共に、計時処理を開始する(ステップS5)。この後は、プリアンブル中の「1」の信号が復号されるタイミングで得られるI信号およびQ信号を用いて反射波の位相を検出しながら、その位相にほぼ90度の変化が生じるまで待機する(ステップS6)。
【0043】
上記の変化が生じたと判別すると(ステップS6が「YES」)、その変化が生じた時点までの計時時間Tを用いて前出の演算式[R=c・(T−T0)/2]を実行することにより、アンテナ10からタグ2までの距離Rを算出する(ステップS7)。
【0044】
つぎに算出された距離Rを基準の距離R0と比較する。R≦R0であれば(ステップS8が「YES」)、引き続き復号処理を続けて全ての応答信号を復号する(ステップS9)。さらに、復号された応答信号を距離Rと共に上位機器に送信する(ステップS10)。一方、R>R0となった場合(ステップS8が「NO」)には、ステップS11に進み、復号処理を中止する。
【0045】
以下、同様の処理を実施することにより、距離Rが基準の距離R0以内となったタグからの応答信号のみが復号され、距離Rと共に上位機器に送信される。全てのタグに対する処理が終了したことをもってステップS12が「YES」となると、処理を終了する。
なお、無変調波の位相の切替は、応答信号の復号が終了または中止された後に解除され、次のタグに対するAckコマンドは0度の位相の搬送波により送信される。また、ステップS9,S10の処理が実行されたタグに対しては、再度、別のコマンドを送信して応答を受け付けることもできるが、その場合に、再度、距離Rを算出するための処理(ステップS4〜S8)を実施する必要はない。
【0046】
先にも説明したとおり、この実施例の計測時間Tには、コマンドに対するタグ2の反応時間に起因する遅延時間は含まれておらず、アンテナ10とタグ2との間での電波の往復に要した時間を精度良く割り出して距離Rを求めることが可能である。また、アンテナ10には、タグ2で反射してアンテナ10へと直接戻る反射波(直接波)のほか、タグ2から床などでの反射を経由してアンテナ10に戻る反射波も届く可能性があるが、前者は後者より確実に早くアンテナ10に到着する。したがって、タグ2からの反射波の受信が開始されたことに応じて無変調波の位相を変更し、その後の反射波に最初に生じる位相の変化を検出することにより、位相を変更した直後の無変調波に対する直接波の到着を容易に検出することができる。よって上記実施例により算出された距離Rには床などからの反射波の影響は及ばず、アンテナ10からタグ2までの距離を精度良く求めることができる。
【0047】
また、タグ2からの応答信号を復号する処理を行いながら距離Rを計測するので、通常の交信処理のサイクルの中で距離の計測を完了すると共に、タグ2の情報を取得することができる。したがって、移動するタグ2との交信においても支障が生じるおそれがない。また、距離Rが基準の距離R0を上回るタグに対しては応答信号の復号を中止するので、効率良く処理を進めることができ、上位機器に不要な情報が送信されるのを防ぐことができる。また、復号された応答信号と共に距離Rの算出結果を上位機器に送信するので、上位機器では、タグ2の情報を識別すると共にこのタグ2とアンテナ10との距離を認識することが可能になる。
【0048】
ただし、タグ2からの応答信号をリーダライタ1で選別することは必須ではない。すなわち距離Rの値に関わらず、交信対象の全てのタグ2からの応答信号を復号し、各応答信号を距離Rと共に上位機器に送信してもよい。または、距離Rと基準の距離R0との比較処理までを実施し、各タグからの応答信号に距離の比較結果を示すデータを紐付けたものを上位機器に送信してもよい。このようにすれば、上位機器において応答信号を容易に選別することができる。
【0049】
また上記の実施例では、無変調波の位相を90度変化させたが、この変化量も90度に限るものではなく、別の角度に設定することもできる。その場合にも、無変調波の位相を切り替えた時点から反射波に無変調波における位相の変化に対応する変化が生じる時点までの時間を計測することにより、距離Rを精度良く求めることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 交信処理装置(リーダライタ)
2 RFIDタグ
100 送受信回路
110 制御部
111 送信制御部
112 位相検出部
113 距離算出部
114 復号処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送波を変調することによってRFIDタグに対するコマンドを送信するコマンド送信処理と、無変調の搬送波を送出しながらこの無変調搬送波に対するRFIDタグからの反射波を受信する受信処理と、受信した反射波からRFIDタグからの応答信号を復号する復号処理とを実行する装置であって、
前記受信処理により受信した反射波の位相を検出する位相検出手段と、前記受信処理において反射波の受信が開始されたことに応じて無変調搬送波の位相を変化させる位相変更手段と、前記無変調搬送波の位相が変更された時点から前記位相検出手段により検出される反射波の位相に前記無変調搬送波における位相の変化に対応する変化が生じる時点までの時間を計測し、計測された時間を用いて前記反射波を返したRFIDタグまでの距離を測定する距離測定手段とを具備する、交信処理装置。
【請求項2】
前記位相変更手段は、前記復号処理により応答信号中のプリアンブルが検出されたことに応じて無変調搬送波の位相を変更する請求項1に記載された交信処理装置。
【請求項3】
前記位相変更手段は、前記復号処理により応答信号中のプリアンブルが検出されたことに応じて無変調搬送波の位相を変更し、前記位相検出手段は、プリアンブルが検出されている間に送信される反射波の位相の変化を検出する請求項1に記載された交信処理装置。
【請求項4】
前記距離計測手段により計測された距離に基づき前記反射波を返したRFIDタグが交信対象として適切であるか否かを判別する判別手段を、さらに具備する請求項1に記載された交信処理装置。
【請求項5】
搬送波を変調することによってRFIDタグに対するコマンドを送信するコマンド送信処理と、無変調の搬送波を送出しながらこの無変調搬送波に対するRFIDタグからの反射波を受信する受信処理と、受信した反射波に含まれるRFIDタグからの応答信号を復号する復号処理とを実行する交信処理装置において実施される方法であって、
前記受信処理において反射波の受信が開始されたことに応じて無変調搬送波の位相を変化させた後に、反射波の位相を検出しながら当該位相に前記無変調搬送波における位相の変化に対応する変化が生じる時点までの時間を計測し、計測された時間を用いて前記反射波を返したRFIDタグまでの距離を計測する、
ことを特徴とする交信処理装置における距離計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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