説明

交差型光導波路

【課題】光配線の密度および自由度がより高くなる光路分岐構造を有する交差型光導波路を提供すること。
【解決手段】本発明の交差型光導波路は、所定方向に延在する第1コア部と、前記所定方向と異なる方向に延在する第2コア部と、前記第1コア部と前記第2コア部とが交差する交差領域とを有する交差型光導波路であって、前記交差領域に、ミラー構造体を、前記第1コア部および前記第2コア部のいずれの方向から入射する光に対しても光が3方向に分岐するように設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交差型光導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器は、ますますその小型化および高性能化の要求が高まっている。中でも、信号の高速化に対応するために、電子部品間を光信号によって接続することによる、電子機器内における信号伝送路の高速化が検討されている。光信号による接続を行うため、光配線と電気配線を備えた光・電気混載基板が用いられる。光配線は、コア部とクラッド部とで構成される光導波路を有し、光導波路のコア部を光が伝送することにより光信号が伝達される。
【0003】
光導波路として、光路方向を定める複数のコア部が交差するシート状の交差型光導波路が知られている(特許文献1)。典型例として、コア部12が碁盤目状に配置されている交差型光導波路10を図1に示す。図1に示したように、交差型導波路10のコア部12の交差領域にミラー構造体14を適宜設置することにより、1または2以上の光路LPをそれぞれ任意の方向へ変換できるユビキタス(任意光路変換型)光導波路が提供される。このようなユビキタス光導波路は、光路LPを容易に直角方向へ変換できるため、曲率半径に制限があるコア部または光ファイバを湾曲敷設したシート状光導波路に比べ、光配線の密度および自由度が高くなる。
【0004】
【特許文献1】特開平7−230013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のユビキタス光導波路は、図2に示したように、1つの光路LPを1方向に変換するミラー構造体14を具備している。しかし、1つの光路を他のすべての方向に「分岐」させることができれば、交差型光導波路の光配線の密度および自由度をより一層高めることができ、特に、交差型光導波路の交差領域に導入される4つの光路のすべてを3方向に分岐させることができれば、より複雑な光信号のやり取りが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的は、下記(1)〜(9)を構成とする本発明によって達成される。
【0007】
(1)所定方向に延在する第1コア部と、前記所定方向と異なる方向に延在する第2コア部と、前記第1コア部と前記第2コア部とが交差する交差領域とを有する交差型光導波路であって、
前記交差領域に、ミラー構造体を、前記第1コア部および前記第2コア部のいずれの方向から入射する光に対しても光が3方向に分岐するように設けたことを特徴とする交差型光導波路。
【0008】
(2)該ミラー構造体が、ミラー面を表裏に有する2つのプレート状ミラー部を含む上記(1)に記載の交差型光導波路。
【0009】
(3)該ミラー構造体が、前記第1コア部を伝播する光を第2コア部の延在方向の一方に屈曲する第1ミラーと、前記第1コア部を伝播する光を第2コア部の延在方向の他方に屈曲する第2ミラーとを有し、かつ、前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間に、前記第1コア部を伝播する光の一部が前記第1ミラーにも前記第2ミラーにも当たらずに進行することができるように間隙が設けられている上記(1)または(2)に記載の交差型光導波路。
【0010】
(4)前記第1ミラーと前記第2ミラーとが、前記第2コア部の延在方向に対して垂直方向において互いに離間して配置されている上記(3)に記載の交差型光導波路。
【0011】
(5)さらに該交差領域の外周部に前記コア部よりも屈折率が低い低屈折領域を設けた混信防止クラッド構造を有する上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の交差型光導波路。
【0012】
(6)該ミラー構造体が中空ミラー構造体である上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の交差型光導波路。
【0013】
(7)該交差型光導波路が、光路方向を定めるコア部と、該コア部より屈折率が低いクラッド部とを含むコア層および該コア層の両面に積層されたクラッド層を含む上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の交差型光導波路。
【0014】
(8)該コア層および該クラッド層が高分子材料から構成されている上記(7)に記載の交差型光導波路。
【0015】
(9)該高分子材料が付加重合型ノルボルネンを主体とする主鎖を含む上記(8)に記載の交差型光導波路。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、1つの光路を他のすべての方向に分岐させることができるため、シート状の交差型光導波路の光配線の密度および自由度がより一層高くなる。特に、交差型光導波路の交差領域に導入される4つの光路のすべてを3方向に分岐させることができるため、光配線の密度および自由度が最大限に高められ、より複雑な光信号のやり取りが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明による交差型光導波路は、所定方向に延在する第1コア部と、前記所定方向と異なる方向に延在する第2コア部と、前記第1コア部と前記第2コア部とが交差する交差領域とを有し、前記交差領域に、ミラー構造体を、前記第1コア部および前記第2コア部のいずれの方向から入射する光に対しても光が3方向に分岐するように設けたことを特徴とする。本発明による交差型光導波路において、該ミラー構造体が、ミラー面を表裏に有する2つのプレート状ミラー部を含むことが好ましい。本発明による更に好ましい交差型光導波路においては、該ミラー構造体が、前記第1コア部を伝播する光を第2コア部の延在方向の一方に屈曲する第1ミラーと、前記第1コア部を伝播する光を第2コア部の延在方向の他方に屈曲する第2ミラーとを有し、かつ、前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間に、前記第1コア部を伝播する光の一部が前記第1ミラーにも前記第2ミラーにも当たらずに進行することができるように間隙が設けられており、中でも、前記第1ミラーと前記第2ミラーとが、前記第2コア部の延在方向に対して垂直方向において互いに離間して配置されていることが特に好ましい。
【0018】
本発明の好適な実施態様として、4つの光路のすべてが3方向に分岐する交差型光導波路の交差領域の平面図を図3に示す。図3に示した交差領域には、第1コア部13を伝搬してきた光の一部を第2コア部13’の延在方向の一方に屈曲する第1ミラー14’と、その残余の光の一部を第2コア部13’の延在方向の他方に屈曲する第2ミラー14”とが、第2コア部の延在方向に対して垂直方向において互いに離間した「ずれハの字形」に配置されている。このような「ずれハの字形」配置を採用することにより、第1ミラー14’と第2ミラー14”との間に、第1コア部を伝播する光の一部が第1ミラー14’にも第2ミラー14”にも当たらずに直進することができる間隙が設けられる。図3には、2つの光路LPがいずれも3方向に分岐することが明示されているが、図3の右方および下方から入射する光についても同様に3方向に分岐することは容易に理解されよう。4つの光路のすべてがそれぞれ3方向に分岐されるためには、第1ミラー14’と第2ミラー14”の表裏がそれぞれミラー面を構成する必要がある。また、各ミラー面は4つの光路のいずれの方向に対しても40〜50°の角度、好ましくは約45°の角度、をなしていることが好ましい。第1ミラー14’と第2ミラー14”の配置に制限はなく、所期の効果を奏する限り、交差領域内の上下左右任意の位置に、第1ミラー14’と第2ミラー14”を「ずれハの字形」に配置することができる。図示した態様では、光反射面が異なる2つの第1ミラー14’と第2ミラー14”の間(中央部)を、いずれのミラー構造体にも入射しない光が直進方向に進行しているが、別態様として、第1ミラー14’と第2ミラー14”の一方または両方の位置を上方もしくは下方または右方もしくは左方に移動させることにより、直進する光が2つの第1ミラー14’と第2ミラー14”の下方もしくは上方または左方もしくは右方を通過するようにしてもよい。
【0019】
交差型導波路には、ある光路を伝播してきた光の一部が、交差領域において、交差する別の光路へ進入する混信の問題や、交差する別の光路の側面を透過して散乱する光損失の問題がある。かかる問題を軽減、解消する方法として、交差型導波路の交差領域の外周部にコア部よりも屈折率が低い低屈折領域を設けた混信防止クラッド構造を採用することが知られている。そのような混信防止クラッド構造を有する交差型導波路の一例を図4に示す。図4に示したように、交差領域の外周部にコア部よりも屈折率が低い低屈折領域を設けた混信防止クラッド構造は、コア部12を交差領域12’の前後において寸断することにより形成することができ、この場合、低屈折領域の屈折率は周囲のクラッド部と等しくなる。コア部12を寸断する間隔(低屈折領域の幅)は、光損失を減らすため、可能な限り小さい方がよく、例えば10μm以下、好ましくは5μm以下にすることが望まれる。一方、交差領域12’の側面で光を反射するためには低屈折領域が一定の幅を有することが必要であるため、交差領域12’と低屈折領域との屈折率差にもよるが、低屈折領域の幅は少なくとも1μm、好ましくは2μm以上に設定すべきである。また、低屈折領域の幅が一定であれば、コア部の幅が狭いほど混信は少なくなる。このような混信防止クラッド構造を設けることにより、コア部12の側面で反射を繰り返して光路LPを伝播してくる光は、同様に交差領域12’の側面で反射されることが可能となる。なお、図4に示した交差型導波路は、コア部12の交差構造が直交形であるが、混信防止クラッド構造を設けることにより、コア部12の交差角を90°(直交)より大きくまたは小さくしても混信比率は変わらない。
【0020】
上記の混信防止クラッド構造は、光導波路を製造するに際して適当なフォトマスクを用いて形成させると便利である。例えば、後述する後照射法においてコア層を形成するに際して、図5(A)に示したようなマスク閉口部11、11’を有するフォトマスク用い、コア部の交差領域の外周部に所定の幅のクラッド部を形成させることにより、コア層と同時に混信防止クラッド構造を形成させることができる。図5(B)に示したように、このようなフォトマスクを介して紫外光を照射すると、マスク閉口部11、11’の下方はコア部12、12’となり、紫外光を受けた領域がクラッド部16(低屈折領域)となる。
【0021】
混信防止クラッド構造は、上述のようなパターニング法以外にも、コア部の交差領域の前後をエキシマレーザー等で切削し、切除された部分に屈折率変調液、例えばグリセリン(屈折率1.46)、を充填する方法によって形成することもできる。低屈折領域の屈折率は、コア部の屈折率より低いことが必要であり、特にクラッド部の屈折率と同等であることが好ましい。一方、低屈折領域の屈折率が低すぎると、フレネル反射(屈折率の違いによる反射)が起こるため、好ましくない。また、屈折率の変調方法として、温度で屈折率が変化する現象である熱光学効果(TO効果)や、電圧を印加すると屈折率が変化する現象である電気光学効果(EO効果)を利用することもできる。
【0022】
本発明におけるミラー構造体は、例えば、コア部の交差領域の一部にレーザーを照射し、コア部に対するレーザーの照射領域を相対的に変化させることにより、コア部の構成材料を除去することにより形成することができる。例えば、図6(A)に示したように、コア部12の交差領域において第1ミラー14’と第2ミラー14”を形成すべき部分18を定める。このミラー構造体を形成すべき部分18を、例えば、上述のマスク閉口部11’の対応部分を開口させることにより、クラッド化しておくことが望ましい。次いで、必要によりクラッド化された部分18にレーザーを照射してコア部の構成材料を除去することにより、図6(B)に示したような中空の第1ミラー14’と第2ミラー14”が形成される。このように、レーザーの照射によりミラー面を形成することができるので、任意の位置に、任意のパターンでミラー構造体を容易に形成することができる。
【0023】
レーザーとしては、例えば、ArF及びKrF等のエキシマレーザー、YAGレーザー、COレーザー等が挙げられる。レーザーの照射エネルギーは、コア部の構成材料に依存するが、100〜1000mJ/cmの範囲が好ましく、特に250〜700mJ/cmの範囲が好ましい。照射エネルギーが上記範囲内であると、短時間でコア部の構成材料を除去することができる。レーザーの照射周波数は、コア部の構成材料に依存するが、50〜300Hzの範囲が好ましく、特に50〜200Hzの範囲が好ましい。周波数が上記範囲内であると、特に傾斜面(ミラー面)の平滑性に優れる。また、コア部にレーザーを照射するサイズは、形成するミラー構造体の大きさに依存するが、80〜200μm×80〜200μmであることが好ましく、特に100〜150μm×100〜150μmであることが好ましい。これにより、微細なミラー構造体を形成することができる。
【0024】
本発明におけるミラー構造体は、上述のような中空ミラー構造体の他、その中空部分に屈折率変調液、例えばグリセリン(屈折率1.46)を充填したものであってもよい。ミラー構造体の屈折率は、コア部の屈折率より低いことが必要であり、特にクラッド部の屈折率と同等であることが好ましい。一方、ミラー構造体の屈折率が低すぎると、フレネル反射が起こるため、好ましくない。また、屈折率の変調方法として、上述の熱光学効果(TO効果)や電気光学効果(EO効果)を利用することもできる。
【0025】
光導波路のコア部の一部を欠失させるに際しては、上述の加工を、コア部を含むコア層単独に対して施しても、またコア層の片面にクラッド層を圧着させた積層体の該コア層側から施してもよい。ミラー面が形成されたコア層に、さらにクラッド層を積層させることにより、本発明によるミラー構造体を含む交差型光導波路が完成する。以下、図7および図8を参照しながら、本発明による交差型光導波路の製造に適した方法(後照射法)について説明する。
【0026】
まず、図7に示したように、紫外領域に第1の吸収極大波長を有する第1の光酸発生剤を含有するコアフィルム材料100を提供する。次いで、例えばフォトマスク120を用いて、コアフィルム材料100の一部に、該第1の吸収極大波長を含む波長の第1の紫外光を照射することにより、コアフィルム材料100の照射領域(クラッド部102)と非照射領域(コア部101)との間に屈折率差を生じさせてコア層110を形成する。フォトマスク120に代えて、第1の吸収極大波長を含む波長のレーザー(図示なし)でコアフィルム材料100を選択的に照射することによりコア層110を形成してもよい。得られたコア層110のコア部101に、上述の加工法により、ミラー面を画定する中空ミラー構造体を形成することができる。
【0027】
次いで、図8に示したように、コア層110の少なくとも片面(図8では両面)に、該第1の吸収極大波長とは異なる第2の吸収極大波長を有する第2の光酸発生剤を含有するクラッドフィルム材料200を、例えば貼り合わせにより接触させる。次いで、コア層110とクラッドフィルム材料200とを相互に熱圧着させることにより、コア層110とクラッドフィルム材料200とからなる積層体230を得る。次いで、例えば波長カットフィルター220を用いて、積層体230の全面に、該第2の吸収極大波長を含むが該第1の吸収極大波長は含まない波長の第2の紫外光を照射することにより、クラッドフィルム材料200をクラッド層210へ転化させると共に、コア層110とクラッド層210との間の密着性を向上させる。
【0028】
後照射法では、コアフィルム材料100に含まれる第1の光酸発生剤と、クラッドフィルム材料200に含まれる第2の光酸発生剤とが、紫外光における吸収極大波長において異なる点が重要である。すなわち、上記熱圧着後の積層体の全面に照射される第2の紫外光に対して、第1の光酸発生剤は実質的に感応せず、第2の光酸発生剤のみが実質的に感応するように、第1の光酸発生剤と第2の光酸発生剤とが紫外光の吸収極大波長において異なることが必要である。
【0029】
ここで、第2の吸収極大波長を含むが第1の吸収極大波長は含まない波長の第2の紫外光を照射するに際し、波長カットフィルター220を用いることが便利である。波長カットフィルターは、規定の波長より短い波長の光を遮蔽し、当該波長より長い波長の光のみを透過させる。このような波長カットフィルターを用いる場合、第1の吸収極大波長は第2の吸収極大波長よりも必然的に短くなる。例えば、300nmの波長カットフィルターを用いる場合、第1の光酸発生剤は第1の吸収極大波長が300nmより短いものを選択し、かつ、第2の光酸発生剤は第2の吸収極大波長が300nmより長いものを選択すればよい。もちろん、後照射法は、このような波長カットフィルターを用いる態様に限定されるものではない。第2の紫外光の全面照射に際して第1の光酸発生剤が実質的に感応しない限り、第1の吸収極大波長が第2の吸収極大波長より長い場合もあり得る。
【0030】
第2の紫外光の全面照射に際して第1の光酸発生剤は実質的に感応しないため、コア層110のコア部101に残留する第1の光酸発生剤から酸が発生してコア層110の形成時に生じた屈折率差が縮小または消失することはない。すなわち、積層体への第2の紫外光の全面照射によってコア層の導波路構造が損なわれることはない。一方、クラッドフィルム材料200は、コア層110に対する熱圧着に際して紫外光照射前のTgが低い状態にあるため、熱圧着工程をより低温・低圧下で実施することができる。熱圧着工程の低温・低圧化は、コア部に設けた中空ミラー構造体が潰れにくくなる点で、非常に有意義である。また、クラッドフィルム材料200に含まれる第2の光酸発生剤は、熱圧着工程後の積層体への第2の紫外光の全面照射に際して初めて酸を放出するため、熱圧着工程前からクラッドフィルム材料200における重合性基が反応することはない。
【0031】
コア層110を形成するためのコアフィルム材料100としては、第1の紫外光の照射により、あるいはさらに加熱することにより屈折率が変化する材料であれば、当該技術分野において従来知られているいずれの材料を採用してもよい。例えば、第1の紫外光の照射により活性化して酸を放出する第1の光酸発生剤と、主鎖と該主鎖から分岐し、活性化した第1の光酸発生剤が放出する酸の作用により、分子構造の少なくとも一部が主鎖から離脱し得る離脱性基(離脱性ぺンダントグループ)を有するポリマーとを含有する材料を使用することができる。
【0032】
第1の光酸発生剤としては、例えば、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸塩やヘキサフルオロアンチモン酸塩の他、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ガリウム酸塩、アルミン酸塩類、アンチモン酸塩類、他のホウ酸塩類、ガリウム酸塩類、カルボラン類、ハロカルボラン類等が挙げられる。このような第1の光酸発生剤の市販品としては、例えば、ニュージャージ州クランベリーのRhodia USA社から入手可能な「RHODORSIL(登録商標、以下同様である。) PHOTOINITIATOR 2074(CAS番号第178233−72−2番)」、日本国東京の東洋インキ製造株式会社から入手可能な「TAG−372R((ジメチル(2−(2−ナフチル)−2−オキソエチル)スルフォニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート:CAS番号第193957−54−9番))、日本国東京のみどり化学株式会社から入手可能な「MPI−103(CAS番号第87709−41−9番)」、日本国東京の東洋インキ製造株式会社から入手可能な「TAG−371(CAS番号第193957−53−8番)」、日本国東京の東洋合成工業株式会社から入手可能な「TTBPS−TPFPB(トリス(4−tert−ブチルフェニル)スルフォニウムテトラキス(ペンタペンタフルオロフェニル)ボレート)」等が挙げられる。
【0033】
第1の光酸発生剤として、RHODORSIL PHOTOINITIATOR 2074を用いる場合、第1の紫外光の照射手段として、高圧水銀ランプまたはメタルハライドランプが好適に用いられる。これにより、コアフィルム材料100に対して、300nm未満の十分なエネルギーの紫外光を供給することができ、RHODORSIL PHOTOINITIATOR 2074を効率よく分解して、上記の酸を発生させることができる。
【0034】
離脱性基を有する上記ポリマーとしては、透明性が十分に高く(無色透明であり)、かつ、第1の光酸発生剤が放出する酸、好ましくはプロトンの作用により離脱性基が離脱(切断)して、その屈折率が変化(好ましくは低下)するものが用いられる。離脱性基としては、その分子構造中に、−O−構造、−Si−アリール構造および−O−Si−構造のうちの少なくとも1つを有するものが好ましい。かかる離脱性基は、酸、好ましくはプロトンの作用により比較的容易に離脱する。このうち、離脱によりポリマーの屈折率を低下させる離脱性基として、−Si−ジフェニル構造および−O−Si−ジフェニル構造の少なくとも一方が好ましい。このようなポリマーとしては、例えば、ノルボルネン系樹脂やベンゾシクロブテン系樹脂等の環状オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて(ポリマーアロイ、ポリマーブレンド(混合物)、共重合体など)用いることができる。これらの中でも、特に、ノルボルネン系樹脂(ノルボルネン系ポリマー)を主とするものが好ましい。ポリマーとしてノルボルネン系ポリマーを用いることにより、優れた光伝送性能や耐熱性を有するコア層110を得ることができる。また、ノルボルネン系ポリマーは、高い疎水性を有するため、吸水による寸法変化等を生じ難いコア層110を得ることができる。
【0035】
ノルボルネン系ポリマーとしては、単独の繰り返し単位を有するもの(ホモポリマー)、2つ以上のノルボルネン系繰り返し単位を有するもの(コポリマー)のいずれであってもよい。このようなノルボルネン系ポリマーとしては、例えば、(1)ノルボルネン型モノマーを付加(共)重合して得られるノルボルネン型モノマーの付加(共)重合体、(2)ノルボルネン型モノマーとエチレンやα−オレフィン類との付加共重合体、(3)ノルボルネン型モノマーと非共役ジエン、および必要に応じて他のモノマーとの付加共重合体のような付加重合体、(4)ノルボルネン型モノマーの開環(共)重合体、および必要に応じて該(共)重合体を水素添加した樹脂、(5)ノルボルネン型モノマーとエチレンやα−オレフィン類との開環共重合体、および必要に応じて該(共)重合体を水素添加した樹脂、(6)ノルボルネン型モノマーと非共役ジエン、または他のモノマーとの開環共重合体、および必要に応じて該(共)重合体を水素添加したポリマーのような開環重合体が挙げられる。これらの重合体としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体等が挙げられる。
【0036】
これらのノルボルネン系ポリマーは、例えば、開環メタセシス重合(ROMP)、ROMPと水素化反応との組み合わせ、ラジカルまたはカチオンによる重合、カチオン性パラジウム重合開始剤を用いた重合、これ以外の重合開始剤(例えば、ニッケルや他の遷移金属の重合開始剤)を用いた重合等、公知のすべての重合方法で得ることができる。
【0037】
これらの中でも、ノルボルネン系ポリマーとしては、ノルボルネン系モノマー同士の付加(共)重合体であって、下記化1(構造式B)で表される少なくとも1個の繰り返し単位を有するものが好ましい。このものは、ノルボルネン系ポリマーに共通する高い透明性および可撓性を有することに加え、耐熱性が最も高くなる点から特に好ましい。
【0038】
【化1】

【0039】
かかるノルボルネン系ポリマーは、例えば、後述するノルボルネン系モノマー(後述するノルボルネン系モノマーや、架橋性ノルボルネン系モノマー)を用いることにより好適に合成される。
【0040】
なお、比較的高い屈折率を有するポリマーを得るためには、分子構造中に、芳香族環(芳香族基)、窒素原子、臭素原子や塩素原子を有するモノマーを一般的に選択して、ポリマーが合成(重合)される。一方、比較的低い屈折率を有するポリマーを得るためには、分子構造中に、アルキル基、フッ素原子、エーテル構造(エーテル基)、シロキサン構造等を有するモノマーを一般的に選択して、ポリマーが合成(重合)される。
【0041】
比較的高い屈折率を有するノルボルネン系ポリマーとしては、アラルキルノルボルネンの繰り返し単位を含むものが好ましい。かかるノルボルネン系ポリマーは、特に高い屈折率を有する。アラルキルノルボルネンの繰り返し単位が有するアラルキル基(アリールアルキル基)としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、ナフチルエチル基、ナフチルプロピル基、フルオレニルエチル基、フルオレニルプロピル基等が挙げられるが、ベンジル基やフェニルエチル基が特に好ましい。かかる繰り返し単位を有するノルボルネン系ポリマーは、極めて高い屈折率を有するものであることから好ましい。
【0042】
また、ノルボルネン系ポリマーは、アルキルノルボルネンの繰り返し単位を含むものが好ましい。アルキルノルボルネンの繰り返し単位を含むノルボルネン系ポリマーは、柔軟性が高いため、かかるノルボルネン系ポリマーを用いることにより、光導波路に高いフレキシビリティ(可撓性)を付与することができる。アルキルノルボルネンの繰り返し単位が有するアルキル基としては、例えば、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられるが、ヘキシル基が特に好ましい。なお、これらのアルキル基は、直鎖状または分岐状のいずれであってもよい。
【0043】
ヘキシルノルボルネンの繰り返し単位を含むことにより、ノルボルネン系ポリマー全体の屈折率が低下するのを防止し、かつ、高い柔軟性を保持することができる。また、かかるノルボルネン系ポリマーは、前述したような波長領域(特に、850nm付近の波長領域)の光に対する透過率が優れることから好ましい。このようなノルボルネン系ポリマーの好ましい具体例としては、ヘキシルノルボルネンのホモポリマー、フェニルエチルノルボルネンのホモポリマー、ベンジルノルボルネンのホモポリマー、ヘキシルノルボルネンとフェニルエチルノルボルネンとのコポリマー、ヘキシルノルボルネンとベンジルノルボルネンとのコポリマー等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。特に、離脱性基の離脱により屈折率が低下するポリマーとしては、ジフェニルメチルノルボルネンメトキシシランのホモポリマーや、ヘキシルノルボルネンとジフェニルメチルノルボルネンメトキシシランとのコポリマーが好適に用いられる。
【0044】
また、コア層110を形成するためのコアフィルム材料100は、上記ポリマーと相溶し、かつ、上記ポリマーと異なる屈折率を有するモノマーおよびプロカタリストをさらに含有することもできる。この場合、第1の光酸発生剤は、第1の紫外光を照射した際にさらに弱配位アニオンを放出し、該弱配位アニオンの作用により該プロカタリストの活性化温度が低下し、さらに該活性化温度へ加熱することにより該プロカタリストを活性化させて該モノマーを重合させることができる。
【0045】
このようなモノマーは、第1の紫外光の照射領域において反応して反応物を形成し、この反応物の存在により、コア層110において照射領域と未照射領域とにおいて、屈折率差を生じさせ得るような化合物である。この反応物としては、モノマーがポリマー(マトリックス)中で重合して形成されたポリマー(重合体)、ポリマー同士を架橋する架橋構造、および、ポリマーに重合してポリマーから分岐した分岐構造(ブランチポリマーや側鎖(ペンダントグループ))のうちの少なくとも1つが挙げられる。
【0046】
ここで、コア層110において、照射領域の屈折率が高くなることが望まれる場合には、比較的低い屈折率を有するポリマーと、このポリマーに対して高い屈折率を有するモノマーとが組み合わせて使用され、照射領域の屈折率が低くなることが望まれる場合には、比較的高い屈折率を有するポリマーと、このポリマーに対して低い屈折率を有するモノマーとが組み合わせて使用される。なお、屈折率が「高い」または「低い」とは、屈折率の絶対値を意味するものではなく、ある材料同士の相対的な関係を意味する。そして、モノマーの反応(反応物の生成)により、コア層110において照射領域の屈折率が低下する場合、当該部分がクラッド部102となり、照射領域の屈折率が上昇する場合、当該部分がコア部101となる。
【0047】
このようなモノマーとしては、重合可能な部位を有する化合物であればよく、特に限定されないが、例えば、ノルボルネン系モノマー、アクリル酸(メタクリル酸)系モノマー、エポキシ系モノマー、スチレン系モノマー等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、モノマーとしては、ノルボルネン系モノマーを用いるのが好ましい。ノルボルネン系モノマーを用いることにより、光伝送性能に優れ、かつ、耐熱性および柔軟性に優れるコア層110(光導波路要素)が得られる。ノルボルネン系モノマーとは、下記構造式Aで示されるノルボルネン骨格を少なくとも1つ含むモノマーを総称し、例えば、下記構造式Cで表される化合物が挙げられる。
【0048】
【化2】

【0049】
【化3】

【0050】
上式中、aは、単結合または二重結合を表し、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、置換もしくは無置換の炭化水素基、または官能置換基を表し、mは、0〜5の整数を表す。ただし、aが二重結合の場合、RおよびRのいずれか一方、RおよびRのいずれか一方は存在しない。
【0051】
無置換の炭化水素基(ハイドロカルビル基)としては、例えば、直鎖状または分岐状の炭素数1〜10(C〜C10)のアルキル基、直鎖状または分岐状の炭素数2〜10(C〜C10のアルケニル基、直鎖状または分岐状の炭素数2〜10(C〜C10)のアルキニル基、炭素数4〜12(C〜C12)のシクロアルキル基、炭素数4〜12(C〜C12)のシクロアルケニル基、炭素数6〜12(C〜C12)のアリール基、炭素数7〜24(C〜C24)のアラルキル基(アリールアルキル基)等が挙げられ、その他、RおよびR、RおよびRが、それぞれ炭素数1〜10(C〜C10)のアルキリデニル基であってもよい。
【0052】
アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基およびデシル基が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。アルケニル基の具体例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基およびシクロヘキセニル基が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。アルキニル基の具体例としては、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基および2−ブチニル基が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。シクロアルキル基の具体例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基およびシクロオクチル基が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。アリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基およびアントラセニル(anthracenyl)基が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。アラルキル(aralkyl)基の具体例としては、ベンジル基およびフェニルエチル(フェネチル:phenethyl)基が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。また、アルキリデニル(alkylidenyl)基の具体例としては、メチリデニル(methylidenyl)基およびエチリデニル(ethylidenyl)基が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0053】
置換された炭化水素基としては、前記の炭化水素基が有する水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換されたもの、すなわち、ハロハイドロカルビル(halohydrocarbyl)基、パーハロハイドロカルビル(perhalohydrocarbyl)基であるか、パーハロカルビル(perhalocarbyl)基のようなハロゲン化炭化水素基が挙げられる。これらのハロゲン化炭化水素基において、水素原子に置換するハロゲン原子としては、塩素原子、フッ素および臭素から選択される少なくとも1種が好ましく、フッ素原子がより好ましい。このうち、パーハロゲン化された炭化水素基(パーハロハイドロカルビル基、パーハロカルビル基)の具体例としては、例えば、パーフルオロフェニル基、パーフルオロメチル基(トリフルオロメチル基)、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられる。なお、ハロゲン化アルキル基には、炭素数1〜10のもの以外に、炭素数11〜20のものも好適に用いることができる。すなわち、ハロゲン化アルキル基には、部分的または完全にハロゲン化され、直鎖状または分岐状をなし、一般式:−CX’’2Z+1で表される基を選択することができる。ここで、X’’は、それぞれ独立して、ハロゲン原子または水素原子を表し、Zは、1〜20の整数を表す。また、置換された炭化水素基としては、ハロゲン原子の他、直鎖状または分岐状の炭素数1〜5(C〜C)のアルキル基またはハロアルキル基、アリール基およびシクロアルキル基で更に置換された、シクロアルキル基、アリール基およびアラルキル基(アラアルキル基)等が挙げられる。
【0054】
また、官能置換基としては、例えば、−(CH−CH(CF−O−Si(Me)、−(CH−CH(CF−O−CH−O−CH、−(CH−CH(CF−O−C(O)−O−C(CH、−(CH−C(CF−OH、−(CH−C(O)−NH、−(CH−C(O)−Cl、−(CH−C(O)−O−R、−(CH−O−R、−(CH−O−C(O)−R、−(CH−C(O)−R、−(CH−O−C(O)−OR、−(CH−Si(R、−(CH−Si(OR、−(CH−O−Si(Rおよび−(CH−C(O)−OR等が挙げられる。ここで、前記各式において、それぞれ、nは、0〜10の整数を示し、Rは、それぞれ独立して、水素原子、直鎖状または分岐状の炭素数1〜20(C〜C20)アルキル基、直鎖状または分岐状の炭素数1〜20(C〜C20)のハロゲン化もしくはパーハロゲン化アルキル基、直鎖状または分岐状の炭素数2〜10(C〜C10)のアルケニル基、直鎖状または分岐状の炭素数2〜10(C〜C10)のアルキニル基、炭素数5〜12(C〜C12)のシクロアルキル基、炭素数6〜14(C〜C14)のアリール基、炭素数6〜14(C〜C14)のハロゲン化もしくはパーハロゲン化アリール基または炭素数7〜24(C〜C24)のアラルキル基を表す。なお、Rで示される炭化水素基は、R〜Rで示されるものと同一の炭化水素基を示す。R〜Rで示すように、Rで示される炭化水素基は、ハロゲン化またはパーハロゲン化されていてもよい。例えば、Rが炭素数1〜20(C〜C20)のハロゲン化またはパーハロゲン化アルキル基である場合、Rは、一般式:−CX’’2Z+1で表される。ここで、zおよびX’’は、それぞれ、上記の定義と同じであり、X’’の少なくとも1つは、ハロゲン原子(例えば、臭素原子、塩素原子またはフッ素原子)である。ここで、パーハロゲン化アルキル基とは、前記一般式において、すべてのX’’がハロゲン原子である基であり、その具体例としては、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、−C15、−C1123が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。パーハロゲン化アリール基の具体例としては、ペンタクロロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。また、Rとしては、例えば、−C(CH、−Si(CH、−CH(R)−O−CHCH、−CH(R)OC(CHおよび下記化4の環状基等が挙げられる。
【0055】
【化4】

【0056】
ここで、Rは、水素原子、あるいは直鎖状または分岐状の炭素数1〜5(C〜C)のアルキル基を表す。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル、ペンチル基、t−ペンチル基、ネオペンチル基が挙げられる。なお、上記化4で表される環状基では、環構造から延びる単結合と酸置換基との間でエステル結合が形成される。R6の具体例としては、例えば、1−メチル−1−シクロヘキシル基、イソボルニル(isobornyl)基、2−メチル−2−イソボルニル基、2−メチル−2−アダマンチル基、テトラヒドロフラニル(tetrahydrofuranyl)基、テトラヒドロピラノイル(tetrahydropyranoyl)基、3−オクソシクロヘキサノイル(3−oxocyclohexanonyl)基、メバロンラクトニル(mevalonic lactonyl)基、1−エトキシエチル基、1−t−ブトキシエチル基等が挙げられる。また、他のRとしては、例えば、下記化5で表されるジシクロプロピルメチル基(Dcpm)、ジメチルシクロプロピルメチル基(Dmcp)等が挙げられる。
【0057】
【化5】

【0058】
また、モノマーには、上記のモノマーに代えて、または、上記のモノマーとともに架橋性モノマー(架橋剤)を用いることもできる。この架橋性モノマーは、後述する触媒前駆体の存在下で、架橋反応を生じ得る化合物である。架橋性モノマーを用いることにより、次のような利点がある。すなわち、架橋性モノマーは、より速く重合するので、コア層110の形成(プロセス)に要する時間を短縮することができる。また、架橋性モノマーは、加熱しても蒸発し難くいので、蒸気圧の上昇を抑えることができる。さらに、架橋性モノマーは、耐熱性に優れるため、コア層110の耐熱性を向上させることができる。
【0059】
このうち、架橋性ノルボルネン系モノマーは、前記構造式Aで表されるノルボルネン系部位(ノルボルネン系二重結合)を含む化合物である。架橋性ノルボルネン系モノマーとしては、連続多環環系(fused multicyclic ring systems)の化合物と、連結多環環系(linked multicyclic ring systems)の化合物とがある。連続多環環系の化合物(連続多環環系の架橋性ノルボルネン系モノマー)としては、下記化合物が挙げられる。
【0060】
【化6】

【0061】
上式中、Yは、メチレン(−CH−)基を表し、mは、0〜5の整数を表わす。ただし、mが0である場合、Yは、単結合である。なお、簡略化のため、ノルボルナジエン(norbornadiene)は、連続多環環系に含まれ、重合性ノルボルネン系二重結合を含むものと考えることとする。この連続多環環系の化合物の具体例としては、下記化合物が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0062】
【化7】

【0063】
一方、連結多環環系の化合物(連結多環環系の架橋性ノルボルネン系モノマー)としては、下記化合物が挙げられる。
【0064】
【化8】

【0065】
上式中、aは、それぞれ独立して、単結合または二重結合を表し、mは、それぞれ独立して、0〜5の整数を表し、R9は、それぞれ独立して二価の炭化水素基、二価のエーテル基または二価のシリル基を表す。また、nは、0または1である。ここで、二価の置換基とは、端部にノルボルネン構造に結合し得る結合手を2つ有する基のことを言う。二価の炭化水素基(ハイドロカルビル基)の具体例としては、一般式:−(C2d)−で表されるアルキレン基(dは、好ましくは1〜10の整数を表す。)と、二価の芳香族基(アリール基)とが挙げられる。二価のアルキレン基としては、直鎖状または分岐状の炭素数1〜10(C〜C10)のアルキレン基が好ましく、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基が挙げられる。なお、分岐アルキレン基は、主鎖の水素原子が、直鎖状または分岐状のアルキル基で置換されたものである。一方、二価の芳香族基としては、二価のフェニル基、二価のナフチル基が好ましい。また、二価のエーテル基は、−R10−O−R10−で表される基である。ここで、R10は、それぞれ独立して、Rと同じものを表す。この連結多環環系の化合物の具体例としては、下記化9、化10、化11、化12、化13で表される化合物の他、化14、化15で表されるフッ素含有化合物(フッ素含有架橋性ノルボルネン系モノマー)が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0066】
【化9】

【0067】
【化10】

【0068】
この化10で表される化合物は、ジメチルビス[ビシクロ[2.2.1]へプト−2−エン−5−メトキシ]シランであり、またの命名では、ジメチルビス(ノルボルネンメトキシ)シラン(「SiX」と略される。)と呼ばれる。
【0069】
【化11】

【0070】
上式中、nは、0〜4の整数を表す。
【0071】
【化12】

【0072】
【化13】

【0073】
上式中、mおよびnは、それぞれ、1〜4の整数を表す。
【0074】
【化14】

【0075】
【化15】

【0076】
各種の架橋性ノルボルネン系モノマーの中でも、特に、ジメチルビス(ノルボルネンメトキシ)シラン(SiX)が好ましい。SiXは、アルキルノルボルネンの繰り返し単位および/またはアラルキルノルボルネンの繰り返し単位を含むノルボルネン系ポリマーに対して十分に低い屈折率を有する。このため、後述する第1の紫外光を照射する照射領域の屈折率を確実に低くして、クラッド部102とすることができる。また、コア部101とクラッド部102との間における屈折率差を大きくすることができ、コア層110の特性(光伝送性能)の向上を図ることができる。なお、以上のようなモノマーは、単独または任意に組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0077】
プロカタリストは、前記のモノマーの反応(重合反応、架橋反応等)を開始させ得る物質であり、第1の紫外光の照射により活性化した第1の光酸発生剤の作用により、活性化温度が変化する物質である。
【0078】
このプロカタリスト(触媒前駆体ともいう)としては、第1の紫外光の照射に伴って活性化温度が変化(上昇または低下)するものであれば、いかなる化合物を用いてもよいが、特に、第1の紫外光の照射に伴って活性化温度が低下するものが好ましい。これにより、比較的低温による加熱処理でコア層110を形成することができ、他の層に不要な熱が加わって、光導波路の特性(光伝送性能)が低下するのを防止することができる。
【0079】
このようなプロカタリストとしては、下記式(Ia)および(Ib)で表わされる化合物の少なくとも一方を含む(主とする)ものが好適に用いられる。
(E(R)Pd(Q) (Ia)
[(E(R)Pd(Q)(LB)[WCA] (Ib)
式Ia、Ib中、それぞれ、E(R)は、第15族の中性電子ドナー配位子を表し、Eは、周期律表の第15族から選択される元素を表し、Rは、水素原子(またはその同位体の1つ)または炭化水素基を含む部位を表し、Qは、カルボキシレート、チオカルボキシレートおよびジチオカルボキシレートから選択されるアニオン配位子を表す。また、式Ib中、LBは、ルイス塩基を表し、WCAは、弱配位アニオンを表し、aは、1〜3の整数を表し、bは、0〜2の整数を表し、aとbとの合計は、1〜3であり、pおよびrは、パラジウムカチオンと弱配位アニオンとの電荷のバランスをとる数を表す。
【0080】
式Iaに従う典型的なプロカタリストとしては、Pd(OAc)(P(i−Pr)、Pd(OAc)(P(Cy)、Pd(OCCMe(P(Cy)、Pd(OAc)(P(Cp)、Pd(OCCF(P(Cy)、Pd(OCC(P(Cy)が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。ここで、Cpは、シクロペンチル(cyclopentyl)基を表し、Cyは、シクロヘキシル基を表す。
【0081】
また、式Ibで表されるプロカタリストとしては、pおよびrが、それぞれ1および2の整数から選択される化合物が好ましい。このような式Ibに従う典型的なプロカタリストとしては、Pd(OAc)(P(Cy)が挙げられる。ここで、Cyは、シクロヘキシル基を表し、Acは、アセチル基を表す。
【0082】
これらのプロカタリストは、モノマーを効率よく反応(ノルボルネン系モノマーの場合、付加重合反応によって効率よく重合反応や架橋反応等)することができる。
【0083】
また、活性化温度が低下した状態(活性潜在状態)において、プロカタリストとしては、その活性化温度が本来の活性化温度よりも10〜80℃程度(好ましくは、10〜50℃程度)低くなるものが好ましい。これにより、コア部101とクラッド部102との間の屈折率差を確実に生じさせることができる。かかるプロカタリストとしては、Pd(OAc)(P(i−Pr)およびPd(OAc)(P(Cy)のうちの少なくとも一方を含む(主とする)ものが好適である。なお、以下では、Pd(OAc)(P(i−Pr)を「Pd545」と、また、Pd(OAc)(P(Cy)を「Pd785」と略すことがある。
【0084】
コアフィルム材料100の形成に際しては、上記ポリマー、第1の光酸発生剤その他所要の添加剤を含むコア用ワニスを調製する。コア用ワニスの調製に用いる溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、ジエチレングリコールエチルエーテル(カルビトール)等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチル等のエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒等の各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒等が挙げられる。
【0085】
また、必要に応じて、コア用ワニスに増感剤を添加してもよい。増感剤は、第1の紫外光に対する第1の光酸発生剤の感度を増大して、その活性化(反応または分解)に要する時間やエネルギーを減少させる機能や、その活性化に適する波長に第1の紫外光の波長を変化させる機能を有するものである。このような増感剤としては、光酸発生剤の感度や増感剤の吸収のピーク波長等に応じて適宜選択され、特に限定されないが、例えば、9,10−ジブトキシアントラセン(CAS番号第76275−14−4番)のようなアントラセン類、キサントン類、アントラキノン類、フェナントレン類、クリセン類、ベンツピレン類、フルオラセン類(fluoranthenes)、ルブレン類、ピレン類、インダンスリーン類、チオキサンテン−9−オン類(thioxanthen−9−ones)等が挙げられ、これらを単独または混合物として用いられる。増感剤の具体例としては、2−イソプロピル−9H−チオキサンテン−9−オン、4−イソプロピル−9H−チオキサンテン−9−オン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、フェノチアジン(phenothiazine)またはこれらの混合物が挙げられる。なお、9,10−ジブトキシアントラセン(DBA)は、日本国神奈川県の川崎化成工業株式会社から入手が可能である。コア用ワニス中の増感剤の含有量は、特に限定されないが、0.01質量%以上であるのが好ましく、0.5質量%以上であるのがより好ましく、1質量%以上であるのがさらに好ましい。なお、上限値は5質量%以下であるのが好ましい。
【0086】
さらに、必要に応じて、コア用ワニスに酸化防止剤を添加してもよい。これにより、望ましくないフリーラジカルの発生や、ポリマーの自然酸化を防止することができる。その結果、得られたコア層110の特性の向上を図ることができる。この酸化防止剤としては、ニューヨーク州タリータウンのCiba Specialty Chemicals社から入手可能なCiba(登録商標、以下同様である。) IRGANOX(登録商標、以下同様である。) 1076およびCiba IRGAFOS(登録商標、以下同様である。) 168が好適に用いられる。また、他の酸化防止剤として、例えば、Ciba Irganox(登録商標、以下同様である。) 129、Ciba Irganox 1330、Ciba Irganox 1010、Ciba Cyanox(登録商標、以下同様である。) 1790、Ciba Irganox(登録商標) 3114、Ciba Irganox 3125等を用いることもできる。
【0087】
コア用ワニスは、後述する塗布法および所期の膜厚に応じて、粘度(常温)が好ましくは100〜10000cP程度、より好ましくは150〜5000cP程度、さらに好ましくは200〜3500cP程度になるように適宜溶媒量を調節することにより調製することができる。
【0088】
上記のコア用ワニスを支持基板上に塗布することによりコアフィルム材料100を形成することができる。支持基板としては、例えば、シリコン基板、二酸化ケイ素基板、ガラス基板、石英基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等が用いられる。塗布法としては、例えば、ドクターブレード法、スピンコート法、ディッピング法、テーブルコート法、スプレー法、アプリケーター法、カーテンコート法、ダイコート法等の方法が挙げられるが、これらに限定はされない。塗膜の厚さに特に限定はないが、乾燥前の状態で5〜200μm程度、好ましくは15〜125μm程度、より好ましくは25〜100μm程度とすればよい。
【0089】
次いで、塗膜中の溶媒を除去(脱溶媒)、すなわち、乾燥することによりコアフィルム材料100を得ることができる。脱溶媒(乾燥)の方法としては、例えば、加熱、大気圧または減圧下での放置、不活性ガス等の噴き付け(ブロー)等の方法が挙げられるが、例えばホットプレートを用いた加熱による方法が好ましい。これにより、比較的容易かつ短時間での脱溶媒が可能となる。加熱する場合、加熱温度は、25〜60℃程度であるのが好ましく、30〜45℃程度であるのがより好ましい。また、加熱時間は、15〜60分程度であるのが好ましく、15〜30分程度であるのがより好ましい。
【0090】
得られたコアフィルム材料100は、上記支持基板から剥離することなく第1の紫外光を選択的に照射することができる。第1の紫外光を選択的に照射する方法として、開口(窓)が形成されたマスク(マスキング)120を用意し、このマスク120を介して、コアフィルム材料100に対して第1の紫外光を照射することができる。図7に示す例では、第1の紫外光の照射領域がクラッド部102となる。したがって、マスク120には、形成すべきクラッド部102のパターンと等価な開口(窓)が形成されている。この開口は、照射する第1の紫外光が透過する透過部を形成するものである。
【0091】
マスク120は、予め形成(別途形成)されたもの(例えばプレート状のもの)でも、コアフィルム材料100上に例えば気相成膜法や塗布法により形成されたものでもよい。マスク120として好ましいものの例としては、石英ガラスやPET基材等で作製されたフォトマスク、ステンシルマスク、気相成膜法(蒸着、スパッタリング等)により形成された金属薄膜等が挙げられるが、これらの中でもフォトマスクやステンシルマスクを用いるのが特に好ましい。微細なパターンを精度良く形成することができるとともに、ハンドリングがし易く、生産性の向上に有利であるからである。
【0092】
用いる第1の紫外光は、第1の光酸発生剤に対して光化学的な反応(変化)を生じさせ得るものであればよい。特に、第1の紫外光は、用いた第1の光酸発生剤の種類、また増感剤を含有する場合には増感剤の種類等によって適宜選択され、波長200〜450nmの範囲にピーク波長を有するものを使用することが好ましい。また、第1の紫外光の照射量は、0.1〜9J/cm程度であるのが好ましく、0.2〜6J/cm程度であるのがより好ましく、0.2〜3J/cm程度であるのがさらに好ましい。これにより、第1の光酸発生剤を確実に活性化させることができる。
【0093】
マスク120を介して、第1の紫外光をコアフィルム材料100に照射すると、第1の紫外光が照射された照射領域内に存在する離脱剤は、第1の紫外光の作用により反応(結合)または分解して、カチオン(プロトンまたは他の陽イオン)と、弱配位アニオン(WCA)とを遊離(発生)する。そして、カチオンは、離脱性基そのものを主鎖から離脱させるか、または、離脱性基の分子構造の途中から切断する(フォトブリーチ)。これにより、照射領域では、未照射領域よりも完全な状態の離脱性基の数が減少し、第1の屈折率より低い第2の屈折率へと低下する。なお、このとき、未照射領域940の屈折率は、第1の屈折率が維持される。このようにして、照射領域と未照射領域との間に屈折率差(第2の屈折率<第1の屈折率)が生じて、コア部101(未照射領域)とクラッド部102(照射領域)とが形成される。なお、この場合、第1の紫外光の照射量は、0.1〜9J/cm程度であるのが好ましく、0.3〜6J/cm程度であるのがより好ましく、0.6〜6J/cm程度であるのがさらに好ましい。これにより、離脱剤を確実に活性化させることができる。
【0094】
次いで、必要に応じて、コアフィルム材料100に対して加熱処理を施す。加熱処理により、ポリマーから離脱(切断)された離脱性基が、例えば、照射領域から除去され、あるいはポリマー内において再配列または架橋する。さらに、このとき、クラッド部102(照射領域)に残存する離脱性基の一部がさらに離脱(切断)すると考えられる。したがって、このような加熱処理を施すことにより、コア部101とクラッド部102との間の屈折率差をより大きくすることができる。この加熱処理における加熱温度は、特に限定されないが、70〜195℃程度であるのが好ましく、85〜150℃程度であるのがより好ましい。また、加熱時間は、照射領域から離脱(切断)された離脱性基を十分に除去し得るに設定され、特に限定されないが、0.5〜3時間程度であるのが好ましく、0.5〜2時間程度であるのがより好ましい。また、必要に応じて、1回または複数回の加熱処理(例えば、150〜200℃×1〜8時間程度)の工程を追加することもできる。なお、例えば、加熱処理を施す前の状態で、コア部101とクラッド部102との間に十分な屈折率差が得られている場合等には、このような加熱工程を省略することができる。以上の工程を経て、コア部101とクラッド部102とを含むコア層110が形成される。その後、コア層110を支持基板から剥離する。
【0095】
好ましい態様では、コア部101とクラッド部102とが、主鎖と主鎖から分岐し、分子構造の少なくとも一部が主鎖から離脱し得る離脱性基とを有するノルボルネン系ポリマーを主材料として構成され、コア部101とクラッド部102とは、主鎖に結合した状態の離脱性基の数が異なることにより、それらの屈折率が異なっている。
【0096】
コアフィルム材料100が、上記ポリマーと相溶し、かつ、上記ポリマーと異なる屈折率を有するモノマーおよびプロカタリストをさらに含有する場合には、マスク120を介して、第1の紫外光をコアフィルム材料100に照射すると、第1の紫外光が照射された照射領域内に存在する第1の光酸発生剤は、第1の紫外光の作用により反応または分解して、カチオン(プロトンまたは他の陽イオン)と、弱配位アニオン(WCA)とを遊離(発生)する。そして、これらのカチオンや弱配位アニオンは、照射領域内に存在するプロカタリストの分子構造に変化(分解)を生じさせ、これを活性潜在状態(潜在的活性状態)に変化させる。ここで、活性潜在状態(または潜在的活性状態)のプロカタリストとは、本来の活性化温度より活性化温度が低下しているが、温度上昇がないと、すなわち、室温程度では、照射領域内においてモノマーの反応を生じさせることができない状態にある触媒前駆体のことを言う。したがって、第1の紫外光照射後においても、例えば−40℃程度で、コアフィルム材料100を保管すれば、モノマーの反応を生じさせることなく、その状態を維持することができる。このため、第1の紫外光照射後のコアフィルム材料100を複数用意しておき、これらに一括して加熱処理を施すことにより、コア層110を得ることができる点で利便性が高い。
【0097】
なお、第1の紫外光として、レーザー光のように指向性の高い光を用いる場合には、マスク120の使用を省略してもよい。
【0098】
次いで、コアフィルム材料100に対して加熱処理(第1の加熱処理)を施す。これにより、照射領域内では、活性潜在状態のプロカタリストが活性化して(活性状態となって)、モノマーの反応(重合反応や架橋反応)が生じる。そして、モノマーの反応が進行すると、照射領域内におけるモノマー濃度が徐々に低下する。これにより、照射領域と未照射領域との間には、モノマー濃度に差が生じ、これを解消すべく、未照射領域からモノマーが拡散して照射領域に集まってくる。その結果、照射領域では、モノマーやその反応物(重合体、架橋構造や分岐構造)が増加し、当該領域の屈折率にモノマー由来の構造が大きく影響を及ぼすようになり、第1の屈折率より低い第2の屈折率へと低下する。なお、モノマーの重合体としては、主に付加(共)重合体が生成する。一方、未照射領域では、当該領域から照射領域にモノマーが拡散することにより、モノマー量が減少するため、当該領域の屈折率にポリマーの影響が大きく現れるようになり、第1の屈折率より高い第3の屈折率へと上昇する。このようにして、照射領域と未照射領域との間に屈折率差(第2の屈折率<第3の屈折率)が生じて、コア部101(未照射領域)とクラッド部102(照射領域)とが形成される。
【0099】
この加熱処理における加熱温度は、特に限定されないが、30〜80℃程度であるのが好ましく、40〜60℃程度であるのがより好ましい。また、加熱時間は、照射領域内におけるモノマーの反応がほぼ完了するように設定するのが好ましく、具体的には、0.1〜2時間程度であるのが好ましく、0.1〜1時間程度であるのがより好ましい。
【0100】
次いで、コアフィルム材料100に対して第2の加熱処理を施す。これにより、未照射領域および/または照射領域に残存するプロカタリストを、直接または第1の光酸発生剤の活性化を伴って、活性化させる(活性状態とする)ことにより、各領域に残存するモノマーを反応させる。このように、各領域に残存するモノマーを反応させることにより、得られるコア部101およびクラッド部102の安定化を図ることができる。
【0101】
この第2の加熱処理における加熱温度は、プロカタリストまたは第1の光酸発生剤を活性化し得る温度であればよく、特に限定されないが、70〜100℃程度であるのが好ましく、80〜90℃程度であるのがより好ましい。また、加熱時間は、0.5〜2時間程度であるのが好ましく、0.5〜1時間程度であるのがより好ましい。
【0102】
次いで、コアフィルム材料100に対して第3の加熱処理を施す。これにより、得られるコア層110に生じる内部応力の低減や、コア部101およびクラッド部102の更なる安定化を図ることができる。
【0103】
この第3の加熱処理における加熱温度は、第2の加熱処理における加熱温度より20℃以上高く設定するのが好ましく、具体的には、90〜180℃程度であるのが好ましく、120〜160℃程度であるのがより好ましい。また、加熱時間は、0.5〜2時間程度であるのが好ましく、0.5〜1時間程度であるのがより好ましい。以上の工程を経て、コア部101とクラッド部102とを含むコア層110が形成される。その後、コア層110を支持基板から剥離する。
【0104】
クラッド層210を形成するためのクラッドフィルム材料200としては、例えば、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ベンゾシクロブテン系樹脂やノルボルネン系樹脂等の環状オレフィン系樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて(ポリマーアロイ、ポリマーブレンド(混合物)、共重合体、複合体(積層体)など)用いることができる。これらのうち、特に耐熱性に優れるという点で、エポキシ樹脂、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ベンゾシクロブテン系樹脂やノルボルネン系樹脂等の環状オレフィン系樹脂、またはそれらを含むもの(主とするもの)を用いるのが好ましく、特に、ノルボルネン系樹脂(ノルボルネン系ポリマー)を主とするものが好ましい。
【0105】
ノルボルネン系ポリマーは、極めて耐熱性が高いため、これをクラッド層210の構成材料として使用する光導波路240では、光導波路240に導体層(図示なし)を形成する際、該導体層を加工して配線を形成する際、光学素子を実装する際等に加熱されたとしても、クラッド層210が軟化して、変形するのを防止することができる。また、ノルボルネン系ポリマーは、高い疎水性を有するため、吸水による寸法変化等を生じ難いクラッド層210を得ることができる。さらに、ノルボルネン系ポリマーまたはその原料であるノルボルネン系モノマーは、比較的安価であり、入手が容易であることからも好ましい。
【0106】
クラッド層210の材料として、ノルボルネン系ポリマーを主とするものを用いると、コア層110の構成材料として好適に用いられる材料と同種となるため、コア層110との密着性がさらに高いものとなり、クラッド層210とコア層110との間での層間剥離を防止することができる。このようなことから、耐久性に優れた光導波路240が得られる。
【0107】
このようなノルボルネン系ポリマーとしては、例えば、(1)ノルボルネン型モノマーを付加(共)重合して得られるノルボルネン型モノマーの付加(共)重合体、(2)ノルボルネン型モノマーとエチレンやα−オレフィン類との付加共重合体、(3)ノルボルネン型モノマーと非共役ジエン、および必要に応じて他のモノマーとの付加共重合体のような付加重合体、(4)ノルボルネン型モノマーの開環(共)重合体、および必要に応じて該(共)重合体を水素添加した樹脂、(5)ノルボルネン型モノマーとエチレンやα−オレフィン類との開環共重合体、および必要に応じて該(共)重合体を水素添加した樹脂、(6)ノルボルネン型モノマーと非共役ジエン、または他のモノマーとの開環共重合体、および必要に応じて該(共)重合体を水素添加したポリマーのような開環重合体が挙げられる。これらの重合体としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体等が挙げられる。
【0108】
これらのノルボルネン系ポリマーは、例えば、開環メタセシス重合(ROMP)、ROMPと水素化反応との組み合わせ、ラジカルまたはカチオンによる重合、カチオン性パラジウム重合開始剤を用いた重合、これ以外の重合開始剤(例えば、ニッケルや他の遷移金属の重合開始剤)を用いた重合等、公知のすべての重合方法で得ることができる。これらの中でも、ノルボルネン系ポリマーとしては、付加(共)重合体が好ましい。このものは、透明性、耐熱性および可撓性に富むことからも好ましい。特に、ノルボルネン系ポリマーは、重合性基を含む置換基を有するノルボルネンの繰り返し単位や、アリール基を含む置換基を有するノルボンネンの繰り返し単位を含むものが好ましい。
【0109】
重合性基を含む置換基を有するノルボルネンの繰り返し単位を含むことにより、クラッド層210において、ノルボルネン系ポリマーの少なくとも一部のものの重合性基同士を、直接または架橋剤を介して架橋させることができる。また、重合性基の種類、架橋剤の種類、コア層110に用いるポリマーの種類等によっては、このノルボルネン系ポリマーとコア層110に用いるポリマーとを架橋させることもできる。換言すれば、かかるノルボルネン系ポリマーは、その少なくとも一部のものが重合性基において架橋しているのが好ましい。その結果、クラッド層210自体の強度や、クラッド層210とコア層110との密着性の更なる向上を図ることができる。
【0110】
このような重合性基を含むノルボルネンの繰り返し単位としては、エポキシ基を含む置換基を有するノルボルネンの繰り返し単位、(メタ)アクリル基を含む置換基を有するノルボルネンの繰り返し単位、および、アルコキシシリル基を含む置換基を有するノルボルネンの繰り返し単位がのうちの少なくとも1種が好適である。これらの重合性基は、各種重合性基の中でも、反応性が高いことから好ましい。また、このような重合性基を含むノルボルネンの繰り返し単位を、2種以上含むものを用いれば、架橋密度をさらに向上させることができ、前記効果がより顕著となる。
【0111】
一方、アリール基を含む置換基を有するノルボンネンの繰り返し単位を含むことにより、アリール基は、疎水性が極めて高いため、クラッド層210の吸水による寸法変化等をより確実に防止することができる。また、アリール基は、脂溶性(親油性)に優れ、前述したようなコア層110に用いられるポリマーとの親和性が高いため、クラッド層210とコア層110との間での層間剥離をより確実に防止することができ、より耐久性に優れた光導波路240が得られる。
【0112】
さらに、ノルボルネン系ポリマーは、アルキルノルボルネンの繰り返し単位を含むものが好ましい。なお、アルキル基は、直鎖状または分岐状のいずれであってもよい。アルキルノルボルネンの繰り返し単位を含むことにより、ノルボルネン系ポリマーは、柔軟性が高くなるため、クラッド層210に高いフレキシビリティ(可撓性)を付与することができる。
【0113】
また、アルキルノルボルネンの繰り返し単位を含むノルボルネン系ポリマーは、前述したような波長領域(特に、850nm付近の波長領域)の光に対する透過率が優れることからも好ましい。
【0114】
なお、クラッド層210に用いるノルボルネン系ポリマーは、比較的屈折率の低いものが好適であるのに対して、アリール基を含む置換基を有するノルボルネンの繰り返し単位を含むと、一般に屈折率が高くなる傾向を示すが、アルキルノルボルネンの繰り返し単位を含むことにより、屈折率の上昇を防止することもできる。
【0115】
このようなことから、クラッド層210に用いるノルボルネン系ポリマーとしては、下記化16〜19や、化23で表されるものが好適である。
【0116】
【化16】

【0117】
上式中、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を表し、aは、0〜3の整数を表し、bは、1〜3の整数を表し、p/qが20以下である。上記化16で表されるノルボルネン系ポリマーの中でも、特に、Rが炭素数4〜10のアルキル基であり、aおよびbがそれぞれ1である化合物、例えば、ブチルボルネンとメチルグリシジルエーテルノルボルネンとのコポリマー、ヘキシルノルボルネンとメチルグリシジルエーテルノルボルネンとのコポリマー、デシルノルボルネンとメチルグリシジルエーテルノルボルネンとのコポリマー等が好ましい。
【0118】
【化17】

【0119】
上式中、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは、水素原子またはメチル基を表し、aは、0〜3の整数を表し、p/qが20以下である。上記化17で表されるノルボルネン系ポリマーの中でも、特に、Rが炭素数4〜10のアルキル基であり、aが1である化合物、例えば、ブチルボルネンとアクリル酸2−(5−ノルボルネニル)メチルとのコポリマー、ヘキシルノルボルネンとアクリル酸2−(5−ノルボルネニル)メチルとのコポリマー、デシルノルボルネンとアクリル酸2−(5−ノルボルネニル)メチルとのコポリマー等が好ましい。
【0120】
【化18】

【0121】
上式中、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を表し、Xは、それぞれ独立して、炭素数1〜3のアルキル基を表し、aは、0〜3の整数を表し、p/qが20以下である。上記化20で表されるノルボルネン系ポリマーの中でも、特に、Rが炭素数4〜10のアルキル基であり、aが1または2、Xがメチル基またはエチル基である化合物、例えば、ブチルボルネンとノルボルネニルエチルトリメトキシシランとのコポリマー、ヘキシルノルボルネンとノルボルネニルエチルトリメトキシシランとのコポリマー、デシルノルボルネンとノルボルネニルエチルトリメトキシシランとのコポリマー、ブチルボルネンとトリエトキシシリルノルボルネンとのコポリマー、ヘキシルノルボルネンとトリエトキシシリルノルボルネンとのコポリマー、デシルノルボルネンとトリエトキシシリルノルボルネンとのコポリマー、ブチルボルネンとトリメトキシシリルノルボルネンとのコポリマー、ヘキシルノルボルネンとトリメトキシシリルノルボルネンとのコポリマー、デシルノルボルネンとトリメトキシシリルノルボルネンとのコポリマー等が好ましい。
【0122】
【化19】

【0123】
上式中、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を表し、AおよびAは、それぞれ独立して、下記化22〜24で表される置換基を表すが、同時に同一の置換基であることはない。また、p/q+rが20以下である。
【0124】
【化20】

【0125】
上式中、aは、0〜3の整数を表し、bは、1〜3の整数を表す。
【0126】
【化21】

【0127】
上式中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、aは、0〜3の整数を表す。
【0128】
【化22】

【0129】
上式中、Xは、それぞれ独立して、炭素数1〜3のアルキル基を表し、aは、0〜3の整数を表す。上記化19で表されるノルボルネン系ポリマーとしては、例えば、ブチルボルネン、ヘキシルノルボルネンまたはデシルノルボルネンのいずれかと、アクリル酸2−(5−ノルボルネニル)メチルと、ノルボルネニルエチルトリメトキシシラン、トリエトキシシリルノルボルネンまたはトリメトキシシリルノルボルネンのいずれかとのターポリマー、ブチルボルネン、ヘキシルノルボルネンまたはデシルノルボルネンのいずれかと、アクリル酸2−(5−ノルボルネニル)メチルと、メチルグリシジルエーテルノルボルネンとのターポリマー、ブチルボルネン、ヘキシルノルボルネンまたはデシルノルボルネンのいずれかと、メチルグリシジルエーテルノルボルネン、ノルボルネニルエチルトリメトキシシラン、トリエトキシシリルノルボルネンまたはトリメトキシシリルノルボルネンのいずれかとのターポリマー等が挙げられる。
【0130】
【化23】

【0131】
上式中、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは、水素原子、メチル基またはエチル基を表し、Arは、アリール基を表し、Xは、酸素原子またはメチレン基を表し、Xは、炭素原子またはシリコン原子を表し、aは、0〜3の整数を表し、cは、1〜3の整数を表し、p/qが20以下である。上記化23で表されるノルボルネン系ポリマーの中でも、特に、Rが炭素数4〜10のアルキル基であり、Xが酸素原子、Xがシリコン原子、Arがフェニル基、Rがメチル基、aが1、cが2である化合物、例えば、ブチルボルネンとジフェニルメチルノルボルネンメトキシシランとのコポリマー、ヘキシルノルボルネンとジフェニルメチルノルボルネンメトキシシランとのコポリマー、デシルノルボルネンとジフェニルメチルノルボルネンメトキシシランとのコポリマー等や、Rが炭素数4〜10のアルキル基であり、Xがメチレン基、Xが炭素原子、Arがフェニル基、Rが水素原子、aが0、cが1である化合物、例えば、ブチルボルネンとフェニルエチルノルボルネンとのコポリマー、ヘキシルノルボルネンとフェニルエチルノルボルネンとのコポリマー、デシルノルボルネンとフェニルエチルノルボルネンとのコポリマー等が好ましい。また、p/qまたはp/q+rは、20以下であればよいが、15以下であるのが好ましく、0.1〜10程度がより好ましい。これにより、複数種のノルボルネンの繰り返し単位を含む効果が如何なく発揮される。
【0132】
以上のようなノルボルネン系ポリマーは、前述した特性に加えて、比較的低い屈折率のものであり、かかるノルボルネン系ポリマーを主材料としてクラッド層210を構成することにより、光導波路240の光伝送性能をより向上させることができる。
【0133】
なお、ノルボルネン系ポリマーが、(メタ)アクリル基を含む置換基を有するノルボルネンの繰り返し単位を含む場合、(メタ)アクリル基同士は、加熱により比較的容易に架橋(重合)させることができるが、クラッドフィルム材料中に、ラジカル発生剤を混合することにより、(メタ)アクリル基同士の架橋反応を促進することができる。
【0134】
ラジカル発生剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1,1−ビス(t−ブチルペロキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等が好適に用いられる。
【0135】
また、ノルボルネン系ポリマーが、エポキシ基を含む置換基を有するノルボルネンの繰り返し単位や、アルコキシシリル基を含む置換基を有するノルボルネンの繰り返し単位を含む場合、これらの重合性基同士を直接架橋させるためには、クラッドフィルム材料中に、前述した光酸発生剤を混合しておき、この物質の作用により、エポキシ基やアルコキシシリル基を架橋させればよい。
【0136】
一方、エポキシ基同士、(メタ)アクリル基同士やアルコキシシリル基同士を架橋剤を介して架橋させるためには、さらに、クラッドフィルム材料中に、架橋剤として、各重合性基に対応する重合性基を少なくとも1つを有する化合物を混合するようにすればよい。
【0137】
エポキシ基を有する架橋剤としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(γ−GPS)、シリコーンエポキシ樹脂等が好適に用いられる。(メタ)アクリル基を有する架橋剤としては、例えば、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラントリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート等が好適に用いられる。アルコキシシリル基を有する架橋剤としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランのようなシランカップリング剤等が好適に用いられる。
【0138】
また、クラッドフィルム材料200中に、各種の添加剤を添加(混合)するようにしてもよい。例えば、クラッドフィルム材料200中には、前記コアフィルム材料100で挙げたモノマーおよびプロカタリストを混合してもよい。これにより、クラッド層210中において、モノマーを反応させて、クラッド層210の屈折率を変化させることができる。特に、モノマーとしては、架橋性モノマーを含むものを用いると、クラッド層210において、ノルボルネン系ポリマーの少なくとも一部のものを、架橋性モノマーを介して架橋させることができる。また、架橋剤の種類、コア層110に用いるポリマーの種類等によっては、このノルボルネン系ポリマーとコア層110に用いるポリマーとを架橋させることもできる。
【0139】
その他の添加剤としては、前述したような酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤を混合することにより、クラッドフィルム材料200(ノルボルネン系ポリマー)の酸化による劣化を防止することができる。
【0140】
クラッドフィルム材料200に含まれる第2の光酸発生剤としては、紫外光における吸収極大波長(第2の吸収極大波長)が第1の光酸発生剤の第1の吸収極大波長とは異なるものが用いられる。第1の吸収極大波長より第2の吸収極大波長の方が長いことが好ましく、特に第1の吸収極大波長が300nm未満であり、かつ、第2の吸収極大波長が300nm以上であることがより好ましい。
【0141】
このような第2の光酸発生剤としては、例えば、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸塩やヘキサフルオロアンチモン酸塩の他、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ガリウム酸塩、アルミン酸塩類、アンチモン酸塩類、他のホウ酸塩類、ガリウム酸塩類、カルボラン類、ハロカルボラン類等が挙げられる。
【0142】
このような第2の光酸発生剤の市販品としては、例えば、日本国東京の東洋インキ製造株式会社から入手可能な「TAG−382」、日本国東京のみどり化学工業株式会社より入手可能な「NAI−105(CAS番号第85342−62−7番)」等が挙げられる。
【0143】
第2の光酸発生剤として、TAG−382を用いる場合、第2の紫外光の照射手段として、高圧水銀ランプまたはメタルハライドランプが好適に用いられる。これにより、クラッドフィルム材料200に対して、300nm以上の十分なエネルギーの紫外光を供給することができ、TAG−382を効率よく分解して、上記の酸を発生させることができる。
【0144】
クラッドフィルム材料200の形成に際しては、上記ポリマー、第2の光酸発生剤その他所要の添加剤を含むクラッド用ワニスを調製する。クラッド用ワニスの調製に用いる溶媒としては、上述のコア用ワニスの調製に用いる溶媒と同一のものが挙げられる。また、必要に応じて、クラッド用ワニスに、第2の紫外光に対する第2の光酸発生剤の感度を増大して、その活性化(反応または分解)に要する時間やエネルギーを減少させる機能や、その活性化に適する波長に第2の紫外光の波長を変化させる機能を有する増感剤を添加してもよい。このような増感剤としては、上述のコア用ワニスに添加される増感剤と同一のものが挙げられる。さらに、必要に応じて、クラッド用ワニスに、望ましくないフリーラジカルの発生や、ポリマーの自然酸化を防止する酸化防止剤を添加してもよい。このような酸化防止剤としては、上述のコア用ワニスに添加される酸化防止剤と同一のものが挙げられる。
【0145】
クラッド用ワニスは、後述する塗布法および所期の膜厚に応じて、粘度(常温)が好ましくは100〜10000cP程度、より好ましくは150〜5000cP程度、さらに好ましくは200〜3500cP程度になるように適宜溶媒量を調節することにより調製することができる。
【0146】
上記のクラッド用ワニスを支持基板上に塗布することによりクラッドフィルム材料200を形成することができる。支持基板としては、例えば、シリコン基板、二酸化ケイ素基板、ガラス基板、石英基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等が用いられる。塗布法としては、例えば、ドクターブレード法、スピンコート法、ディッピング法、テーブルコート法、スプレー法、アプリケーター法、カーテンコート法、ダイコート法等の方法が挙げられるが、これらに限定はされない。塗膜の厚さに特に限定はないが、乾燥前の状態で5〜200μm程度、好ましくは10〜100μm程度、より好ましくは15〜65μm程度とすればよい。
【0147】
次いで、塗膜中の溶媒を除去(脱溶媒)、すなわち、乾燥することによりクラッドフィルム材料200を得ることができる。脱溶媒(乾燥)の方法としては、例えば、加熱、大気圧または減圧下での放置、不活性ガス等の噴き付け(ブロー)等の方法が挙げられるが、例えばホットプレートを用いた加熱による方法が好ましい。これにより、比較的容易かつ短時間での脱溶媒が可能となる。加熱する場合、加熱温度は、25〜60℃程度であるのが好ましく、30〜45℃程度であるのがより好ましい。また、加熱時間は、15〜60分程度であるのが好ましく、15〜30分程度であるのがより好ましい。
【0148】
得られたクラッドフィルム材料200は、上記支持基板から剥離され、その後コア層110の片面または両面に接触させて相互に熱圧着させる。熱圧着には、例えばラミネータを便利に用いることができる。後照射法によると、熱圧着されるクラッドフィルム材料200は紫外光未照射のTgの低い状態にあるため、コア部に設けた中空ミラー構造体が潰されないような低温・低圧において熱圧着工程を実施することができる。熱圧着の温度としては、一般に80〜130℃、好ましくは100〜120℃の範囲に設定すればよい。熱圧着の圧力としては、一般に0.1〜10MPa、好ましくは0.1〜4MPaの範囲に設定すればよい。なお、熱圧着に際して、クラッドフィルム材料200に含まれる第2の光酸発生剤から酸が放出されることはない。
【0149】
上述の熱圧着工程に際しては、必要に応じて、減圧雰囲気または真空を適用することにより、積層時にクラッドフィルム材料200とコア層110の間に連行されて残留し得る空気等の気体成分を最小限に抑えることが、接触部におけるボイドの発生を抑え、平坦性の良好な積層体230を得る上で好ましい。この場合、中空ミラー構造体の内部も減圧空気または真空となるが、クラッド層の陥没等、中空ミラー構造体が変形しない限り、問題はない。減圧雰囲気または真空は、クラッドフィルム材料200とコア層110の接触時に、もしくはクラッドフィルム材料200とコア層110の熱圧着時に、またはこれらの両方に、適用することができる。減圧雰囲気または真空の適用は、真空ラミネート、真空プレス等を採用することにより可能である。
【0150】
次いで、積層体230の全面に、例えば波長カットフィルター220を用いて、第2の吸収極大波長を含むが第1の吸収極大波長は含まない波長の第2の紫外光を照射することにより、クラッドフィルム材料200をクラッド層210へ転化させると共に、コア層110とクラッド層210との間の密着性を向上させる。例えば、第1の吸収極大波長が300nm未満であり、第2の吸収極大波長が300nm以上である場合、波長300nm以上の第2の紫外光を積層体230の全面に照射することができる。第2の紫外光の全面照射により、クラッドフィルム材料200に含まれる第2の光酸発生剤から酸が放出される。一方、コア層110に含まれる第1の光酸発生剤は第2の紫外光には実質的に感応しないため、コア部101の屈折率が変化または低下(クラッド化)することはない。第2の光酸発生剤から放出された酸は、クラッドフィルム材料200の構成ポリマーの重合性基を介した架橋反応を触媒する。例えば、構成ポリマーがエポキシ基を含有する場合、第2の光酸発生剤から放出された酸によりエポキシのカチオン重合が開始し、クラッドフィルム材料200の内部に架橋構造が形成され、クラッド層210の強度が向上する。また、隣接するコア層110の構成ポリマーに当該架橋反応に関与し得る重合性基(例、エポキシ基)が含まれる場合、上記カチオン重合がコア層110にも及び、クラッド層210とコア層110との間に架橋構造が形成され、それらの間の密着性が向上する。
【0151】
第2の紫外光の照射量は、10〜1000J/cm程度であるのが好ましく、10〜500J/cm程度であるのがより好ましく、10〜300J/cm程度であるのがさらに好ましい。これにより、第2の光酸発生剤を確実に活性化させることができる。
【0152】
その後、必要に応じて、積層体230に対して加熱処理を施してクラッド層210の架橋反応を完了させる。この加熱処理は、加圧することなくバッチ処理(オーブン加熱)で複数の積層体230を同時に処理することが可能であるため、光導波路240の生産性が向上する。加熱温度は、特に限定されないが、100〜180℃程度であるのが好ましく、120〜150℃程度であるのがより好ましい。また、加熱時間は、架橋(硬化)反応を十分に停止し得るように設定され、特に限定されないが、30〜120分程度であるのが好ましく、45〜90分程度であるのがより好ましい。
【実施例】
【0153】
以下、本発明をより具体的に説明するための実施例を提供する。
実施例1
1.中空ミラー構造体を有するコア層の調製
<ヘキシルノルボルネン(HxNB)/ジフェニルメチルノルボルネンメトキシシラン(diPhNB)系コポリマーの合成>
HxNB(CAS番号第22094−83−3番)(9.63g、0.054モル)、diPhNB(CAS番号第376634−34−3番)(40.37g、0.126モル)、1−ヘキセン(4.54g、0.054モル)およびトルエン(150g)を、ドライボックス内の500mL容シーラムボトルに入れて混合し、さらにオイルバスにおいて80℃に加熱しながら撹拌して溶液とした。この溶液に、Pd1446(1.04×10−2g、7.20×10−6モル)およびN,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(DANFABA)(2.30×10−2g、2.88×10−5モル)を、それぞれ濃縮ジクロロメタン溶液(0.1mL)の形態で添加した。添加後の混合物を、マグネチックスターラで80℃において2時間撹拌した。その後反応混合物(トルエン溶液)をより大きなビーカーに移し変え、これに貧溶媒であるメタノール(1L)を滴下すると、繊維状の白色固形分が沈殿した。固形分をろ過して集めて60℃のオーブン内で真空乾燥させたところ、乾燥質量19.0g(収率38%)の生成物が得られた。生成物の分子量をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:THF溶媒、ポリスチレン換算)で測定したところ、質量平均分子量(Mw)=118,000および数平均分子量(Mn)=60,000であった。生成物をH−NMRで測定し、下記構造式で表されるHxNB/diPhNB系コポリマー(x=0.32、y=0.68、n=5)であることを同定した。このコポリマーの屈折率をプリズムカップリング法で測定したところ、波長633nmにおいて、TEモードが1.5695、そしてTMモードが1.5681であった。
【0154】
【化24】

【0155】
<コア用ワニスの調製>
イエローライト下、上記HxNB/diPhNB系コポリマーをメシチレンに溶解して10wt%のコポリマー溶液(30g)を調製した。これとは別に、100mL容ガラス瓶に、HxNB(42.03g、0.24モル)およびビス−ノルボルネンメトキシジメチルシラン(SiX、CAS番号第376609−87−9番)(7.97g、0.026モル)を入れ、さらに2種類の酸化防止剤[Ciba社製Irganox1076(0.5g)およびIrgafos168(0.125g)]を加えてモノマー酸化防止剤溶液を得た。上記のコポリマー溶液30.0gに、上記のモノマー酸化防止剤溶液3.0gと、Pd(PCy(OAc)(Pd785)(4.95×10−4g、6.29×10−7モル、メチレンクロライド0.1mL中)と、吸収極大波長220nmの第1の光酸発生剤[RHODORSIL(登録商標)PHOTOINITIATOR 2074(CAS番号第178233−72−2番)(2.55×10−3g、2.51×10−6モル、メチレンクロライド0.1mL中)とを加えて均一に溶解させた後、細孔径0.2μmのフィルターでろ過してコア用ワニスを調製した。
【0156】
<混信防止クラッド構造を有する交差型導波路コア層の作製>
厚さ250μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上に、コア用ワニス10gを注ぎ、これをドクターブレードでほぼ一定の厚さになるように広げてコア用ワニスの塗膜を形成させた(乾燥前の厚さ70μm)。この塗膜をPETフィルムと共にホットプレート上に配置して50℃で45分間加熱することによりトルエンを蒸発させて厚さ50μmの乾燥塗膜を得た。この乾燥塗膜に、図5(A)に示したようなコア部に対応する所定の閉口パターン(コア幅50μm:コア本数/縦12本;横12本:コアピッチ/縦125μm;横125μm:直交形)と、クラッド部および低屈折領域に対応する所定の開口パターン(低屈折領域幅5μm)を有するフォトマスクを通して、高圧水銀ランプまたはメタルハライドランプを用いて波長300nm未満または365nm以下の第1の紫外光を照射した(照射量500mJ/cm)。照射後の塗膜をオーブンに入れ、最初に50℃で30分間、続いて85℃で30分間、その後150℃で60分間の加熱処理を施した。最初の50℃で10分間加熱した時点で、塗膜内の導波路パターンを目視で確認することができた。加熱処理後、塗膜をPETフィルムから剥離して、混信防止クラッド構造を有する交差型導波路コア層とした。
【0157】
<エキシマレーザーの調整>
上記コア層に、中空ミラー構造体を形成するのに先立ち、エキシマレーザー装置(ATL LaserTechnik社製、ATLEX−300SI)を以下のように調整した。エキシマレーザー装置に設けられたチャンバー内の圧力を、一旦10ミリバール以下になるまで排気した後、上記チャンバー内にArFプレミックスガス(Ar:4.13%、F:0.17%、ネオンガス:残部)を6500ミリバールになるまで充填した。上記エキシマレーザー装置において、レーザー光は、レンズを介して集光された後、1000×1000μmの角穴が加工されたステンレスマスクを通ることでさらに縮小投影されて最終的に照射エリアが実質100×100μmになるように調整した。周波数100Hzでエキシマレーザーを発振させ、(上記マスクを通り)最終的に加工面に到達したレーザー光の出力をパワーメーター(OPHIR Japan株式会社製、PE50−DIF−U)で測定したところ、3.5mWであった。
【0158】
<ミラー加工>
上記コア層(混信防止クラッド構造を有する交差型導波路コア層)(厚さ50μm、コア幅50μm)のミラー加工面とは反対側の面を、粘着性を有する基盤(マジックレジン:トーヨーコーポレーション株式会社製)上に貼り付けた。その基盤を、エキシマレーザー装置の微動ステージ上に配置し、基盤の固定面を吸引して固定した。次いで、3層導波路のコア部の長手方向と微動ステージの可動方向とが一致するようにステージを回転させてアライメントを調整した後、図6(A)に示したような予めパターニング(クラッド化)しておいたミラー構造体を形成すべき部分18に、レーザー照射エリアを定めた。次いで、コア部のミラー加工部位に、アシストガスとしてHeガスを2.0L/分で流しながら、微動ステージを、ミラー構造体を形成すべき部分18に沿って5μm/秒の速度で移動させ、その間に周波数100Hzのレーザーを照射した。照射後、その切削面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、切削面に堆積したスミア(炭化したレーザー融除物)はほとんど認められず、切削面は非常に平滑であった。
【0159】
2.クラッドフィルム材料の調製
<デシルノルボルネン(DeNB)/メチルグリシジルエーテルノルボルネン(AGENB)系コポリマーの合成>
DeNB(CAS番号第22094−85−5番)(16.4g、0.07モル)、AGENB(CAS番号第3188−75−8番)(5.41g、0.03モル)およびトルエン(58.0g)を、ドライボックス内の500mL容シーラムボトルに入れて混合し、さらにオイルバスにおいて80℃に加熱しながら撹拌して溶液とした。この溶液に、(η−トルエン)Ni(C(0.69g、0.0014モル)のトルエン溶液(5g)を添加した。添加後の混合物を、マグネチックスターラで室温において4時間撹拌した。その混合物に、トルエン(87.0g)を加えて激しく撹拌した。その後反応混合物(トルエン溶液)をより大きなビーカーに移し変え、これに貧溶媒であるメタノール(1L)を滴下すると、繊維状の白色固形分が沈殿した。固形分をろ過して集めて60℃のオーブン内で真空乾燥させたところ、乾燥質量17.00g(収率87%)の生成物が得られた。生成物の分子量をGPC(THF溶媒、ポリスチレン換算)で測定したところ、Mw=75,000およびMn=30,000であった。生成物をH−NMRで測定し、下記構造式で表されるDeNB/AGENB系コポリマー(x=0.77、y=0.23、n=10)であることを同定した。このコポリマーの屈折率をプリズムカップリング法で測定したところ、波長633nmにおいて、TEモードが1.5153、そしてTMモードが1.5151であった。
【0160】
【化25】

【0161】
<クラッド用ワニスの調製>
イエローライト下、上記コポリマー10gを脱水トルエンに溶解して20wt%のコポリマー溶液(50g)を調製した。この溶液に、2種類の酸化防止剤[Ciba社製Irganox1076(0.01g)およびIrgafos168(0.0025g)]と吸収極大波長335nmの第2の光酸発生剤(東洋インキ製造社製TAG−382、0.2g)とを加えて均一に溶解させた後、細孔径0.2μmのフィルターでろ過してクラッド用ワニスを調製した。
【0162】
<クラッドフィルム材料の作製>
水平台の上に配置した厚さ100μmのPETフィルムの上に、クラッド用ワニス10gを注ぎ、ドクターブレードでほぼ一定の厚さになるように広げてクラッド用ワニスの塗膜を形成させた(乾燥前の厚さ30μm)。この塗膜をPETフィルムと共に乾燥機に入れて50℃で15分間加熱することによりトルエンを蒸発させて厚さ20μmの乾燥塗膜を得た。その後、乾燥塗膜をPETフィルムから剥離してクラッドフィルム材料とした。
【0163】
3.3層光導波路の一括製造
中空ミラー構造体を有する上記コア層(大きさ20×20cm)の各面に上記クラッドフィルム材料(大きさ25×25cm)を1枚ずつ積層した。この3層積層体を、120℃に設定されたラミネータに投入して、0.2MPaの圧力下、5分間熱圧着させた。その後3層積層体を室温・常圧に戻し、これと高圧水銀ランプとの間に300nm以下の波長を遮蔽する波長カットフィルターとして厚さ100μmのPETフィルムを配置した。次いで、高圧水銀ランプから波長カットフィルターを通して第2の紫外光を照射した(照射量100mJ/cm)。照射後の3層積層体を、放置することなく直ちに(放置時間0分)乾燥機に入れ、150℃で30分間加熱することにより、クラッドフィルム材料の硬化(クラッド層化)およびコア層/クラッド層間の密着力強化を完了させた。その後、平均厚さ45μmの銅層(導体層)と3層積層体の間に両面テープを挿入してロールラミネートによって両者を接合し、下記の評価を行った。
【0164】
4.評価
<伝搬損失>
得られた3層光導波路の伝搬損失について、レーザーダイオードから発生させた光を、光ファイバを通してコア部の一端から入力し、他端からの出力を測定し、コア部の長さを数段階の長さにカットして、各長さについて光出力を測定するカットバック法で測定した。各長さのコア部での総光損失は、下記式で表される。
総光損失(dB)=−10log(Pn/P0)
上式中、Pnは、P1、P2、…Pnの各長さのコア部の他端での測定された出力であり、P0は、光ファイバをコア部の一端に結合する前の光ファイバの端部における光源の測定出力である。
次に、総光損失のデータの回帰直線は、下記式によって表わされる。
y=mx+b
上式中、mは、光伝搬損失を示し、bは、結合損失(coupling loss)を示す。実施例1の光導波路の伝搬損失は0.06dB/cmであった。
【0165】
<ミラー損失>
得られた3層光導波路のミラー部の損失について、レーザーダイオードまたは面発光型レーザ(VCSEL)から発生させた光を、光ファイバを通してコア部の一端から入力し、ミラー傾斜部で反射してクラッド層を通り抜けてきた光の出力を測定し、下記式で表される総光損失を求めた。
総光損失(dB)=−10log(P1/P0)
上式中、P1は傾斜部上部で測定された出力であり、P0は、光ファイバをコア部の一端に結合する前の光ファイバの端部における光源の測定出力である。得られた総光損失から直線部分の損失および光ファイバとコア部との結合部での損失を差し引いて、ミラー部の損失を算出した。実施例1の光導波路のミラー部の損失は0.5dB/cmであった。
【0166】
<ミラー部の平滑性>
得られた3層光導波路のミラー部の平滑性について、共焦点レーザー顕微鏡(オリンパス社製LXET OLS−3100)を用い、3層光導波路のミラー面がほぼ水平になるように設置してミラー表面の突起物の最大高さを直接測定した。実施例1の光導波路のミラー部の平滑性は100nm未満であった。
【0167】
<引っ張り強度>
得られた3層光導波路を、JIS K7127指定の試験片の形状に切り出すに際し、試験片の中央に相当する最も狭い平行部にミラー部が配置されるようにした。この試験片の両端部を、引っ張り試験機(エー・アンド・ディ株式会社製引っ張り試験機テンシロンSTM−T−50)のチャック部に挟み、そしてクロスヘッド速度を5cm/分に保ちながら試験機を作動させて、試験片が破断するときの強度を測定した。実施例1の光導波路の引っ張り強度は500gf/cm以上であった。
【0168】
<スミア発生量>
3層光導波路のミラー部(中空ミラー構造体)を形成する際に、エキシマレーザーによって融除されてミラー部に付着した微細な炭化粉塵(スミア)の発生量(付着面積)を目視で観察した。実施例1の光導波路においては、スミアはほとんど観察されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】交差型光導波路の典型例を模式的に示す平面図である。
【図2】交差型光導波路における光路を変換するミラー構造体を模式的に示す平面図である。
【図3】4つの光路のすべてが3方向に分岐するミラー構造体を模式的に示す平面図である。
【図4】混信防止クラッド構造を有する交差型導波路の一例を模式的に示す平面図である。
【図5】混信防止クラッド構造の製造に適した方法の工程例の一部を模式的に示す平面図(A)および横断面図(B)である。
【図6】本発明によるミラー構造体を交差型導波路の交差領域に設けるのに適した方法の工程の一部を模式的に示す平面図である。
【図7】本発明による光導波路の製造に適した方法(後照射法)の工程例の一部を模式的に示す横断面図である。
【図8】本発明による光導波路の製造に適した方法(後照射法)の工程例の一部を模式的に示す横断面図である。
【符号の説明】
【0170】
LP 光路
10 交差型光導波路
11、11’ マスク閉口部
12 コア部
12’ 交差領域
13 第1コア部
13’ 第2コア部
14 ミラー構造体
14’ 第1ミラー
14” 第2ミラー
16 クラッド部
18 ミラー構造体を形成すべき部分(レーザー照射部)
100 コアフィルム材料
101 コア部
102 クラッド部
110 コア層
120 フォトマスク
200 クラッドフィルム材料
210 クラッド層
220 波長カットフィルター
230 積層体
240 光導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に延在する第1コア部と、前記所定方向と異なる方向に延在する第2コア部と、前記第1コア部と前記第2コア部とが交差する交差領域とを有する交差型光導波路であって、
前記交差領域に、ミラー構造体を、前記第1コア部および前記第2コア部のいずれの方向から入射する光に対しても光が3方向に分岐するように設けたことを特徴とする交差型光導波路。
【請求項2】
該ミラー構造体が、ミラー面を表裏に有する2つのプレート状ミラー部を含む請求項1に記載の交差型光導波路。
【請求項3】
該ミラー構造体が、前記第1コア部を伝播する光を第2コア部の延在方向の一方に屈曲する第1ミラーと、前記第1コア部を伝播する光を第2コア部の延在方向の他方に屈曲する第2ミラーとを有し、かつ、前記第1ミラーと前記第2ミラーとの間に、前記第1コア部を伝播する光の一部が前記第1ミラーにも前記第2ミラーにも当たらずに進行することができるように間隙が設けられている請求項1または2に記載の交差型光導波路。
【請求項4】
前記第1ミラーと前記第2ミラーとが、前記第2コア部の延在方向に対して垂直方向において互いに離間して配置されている請求項3に記載の交差型光導波路。
【請求項5】
さらに該交差領域の外周部に前記コア部よりも屈折率が低い低屈折領域を設けた混信防止クラッド構造を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の交差型光導波路。
【請求項6】
該ミラー構造体が中空ミラー構造体である請求項1〜5のいずれか1項に記載の交差型光導波路。
【請求項7】
該交差型光導波路が、光路方向を定めるコア部と、該コア部より屈折率が低いクラッド部とを含むコア層および該コア層の両面に積層されたクラッド層を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の交差型光導波路。
【請求項8】
該コア層および該クラッド層が高分子材料から構成されている請求項7に記載の交差型光導波路。
【請求項9】
該高分子材料が付加重合型ノルボルネンを主体とする主鎖を含む請求項8に記載の交差型光導波路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−145729(P2010−145729A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322635(P2008−322635)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【Fターム(参考)】