説明

交流−交流直接変換装置のスイッチングパターン切替方法

【課題】複数の双方向スイッチSru〜Srw、Ssu〜Ssw、Stu〜Stwを備えた交流−交流直接変換装置において、セクター移行過渡時のスイッチング回数を低減したスイッチングパターン切替方法を提供する。
【解決手段】1制御周期あたり5つの空間ベクトルが配列されたスイッチングパターンを複数生成し、例えば、セクターモードが変化せず且つ入力セクターが移行する過渡時に、前記生成されたスイッチングパターンの一端に配置された空間ベクトルのタイミングでスイッチングパターンを更新するときは、次のPWM制御に供されるスイッチングパターンの他端に配置された空間ベクトルに移行し、前記スイッチングパターンの他端に配置された空間ベクトルのタイミングでスイッチングパターンを更新するときは、次のPWM制御に供されるスイッチングパターンの一端に配置された空間ベクトルに移行する更新時切替処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多相の交流電源から任意の電圧または周波数に変換した多相出力を得る交流−交流直接変換装置(マトリックスコンバータ)に係り、特に仮想間接形空間ベクトル変調方式におけるセクター移行過渡時のスイッチングパターンを最適化する交流−交流直接変換装置のスイッチングパターン切替方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から存在するこの種の交流−交流直接変換装置は、自己消弧形の半導体素子を用いた双方向スイッチを高速に切替え、単相または多相の電源交流から任意の周波数・大きさの交流に直接電力変換する変換装置であり、図1のように構成されている。
【0003】
図1は、三相/三相交流−交流直接変換装置の基本構成を示し、三相交流電源1は、リアクトルとコンデンサによる入力フィルタ部2および9つの双方向スイッチ(Sru〜Srw、Ssu〜Ssw、Stu〜Stw)で構成された半導体電力変換部3を介して任意の負荷4に接続される。
【0004】
9つの双方向スイッチSru〜Srw、Ssu〜Ssw、Stu〜Stwは、逆阻止IGBT18個で構成する場合や、通常のIGBT等の半導体素子とダイオードを組み合わせるなど、その細部の構成方法には拘らないが、双方向に電力授受できるスイッチング素子で構成されている。
【0005】
なお、図1に示すように、以下、電源三相をRST相、出力三相をUVW相とする。
【0006】
上記のように構成される交流−交流直接変換装置の9つの双方向スイッチを用いて、空間ベクトル変調法により入力電流と出力電流を同時に正弦波化する手法は、例えば非特許文献1、2に記載されている。
【0007】
交流−交流直接変換装置の基本制御方式には、大別して直接AC/AC変換に基づくもの(直接形)と、仮想の直流リンクをもつ仮想関接形変換器を考えて制御するもの(仮想間接形)がある。
【0008】
非特許文献2の手法は、古くから用いられている仮想間接形に基づくものであり、図2に示すように仮想的なPWM整流器とインバータを考えて、それぞれ独立に制御する。制御方式としては、従来から一般的に用いられているPWMインバータ制御用の空間ベクトル変調方式を適用している。図2において、半導体電力変換部3の9つの双方向スイッチSru〜Srw、Ssu〜Ssw、Stu〜Stwは、12個の仮想スイッチSrp,Srn,Ssp,Ssn,Stp,Stn,Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnに等価的に置換される。
【0009】
図3に入力側と出力側の空間ベクトルの定義を示す。図3(a)において、入力側空間ベクトルは、i1およびi6を用いて電流指令値Ii*に一致するようにPWM制御する(例えばi1ならば、図2の仮想スイッチSrpとSsnがオンする)。
【0010】
入力電流の大きさは負荷に依存するため、位相のみを指令値として与え、常に最大円軌跡を描くように制御する。力率を1としたい場合は、電源電圧位相に一致させればよい。
【0011】
また図3(b)において、出力側空間ベクトルも同様に、v1(PNN)とv2(PPN)を用いて出力電圧指令値Vo*に一致するようにPWM制御する(例えばv1(PNN)ならば、図2の仮想スイッチSup,Svn,Swnがオンする)。
【0012】
インバータの制御に用いる仮想直流電圧Vpnは、入力側の電源電圧位相で決定できるので、出力電圧は大きさと位相の両方を制御する。
【0013】
図4は任意1セクターにおける空間ベクトルおよびその出力時間(デューティ)を定義した例である。図中の数式で示すとおり、仮想整流器のデューティdA,dBおよび仮想インバータのデューティdX,dYは、各々を掛け合わせて合成し、交流−交流直接変換装置のデューティとスイッチングパターンを得る(非特許文献1,2参照)。
【0014】
上記の仮想間接形空間ベクトル変調方式では、PWMの1制御周期において5つのパルスを出力して入出力波形を正弦波化している。そのパルスの出力順序については、スイッチング回数、損失、高調波等を考慮して配置することが望ましい。
【0015】
ここで、図5のように空間を区切って入力・出力セクターを定義する。図5(a)の入力電流空間ベクトルの場合、入力電流指令ベクトルの位相が0度から30度の時をセクター1とし、30度から60度をセクター2とする。同様に360度にわたって続けていくと位相によって1〜12の12個のセクターが定義できる。また図5(b)の出力電圧指令ベクトルの場合は60度毎に6つのセクターを定義できる。
【0016】
そしてこの図5の入力電流空間ベクトルおよび出力電圧空間ベクトルのセクターから、表1のようにセクターモードを定義する。
【0017】
【表1】

【0018】
入力セクターが1,4,5,8,9,12のときに出力セクターが1,3,5または入力セクターが2,3,6,7,10,11のときに出力セクターが2,4,6ならばセクターモード1(sm1)とし、入力セクターが1,4,5,8,9,12のときに出力セクターが2,4,6または入力セクターが2,3,6,7,10,11のときに出力セクターが1,3,5ならばセクターモード2(sm2)と定義する。
【0019】
これらの定義と入力セクターの偶奇性の判別から、表2のようにスイッチング遷移パターンを定義する。
【0020】
【表2】

【0021】
尚、表2中のデューティは、図4で定義したデューティdAX(=dA×dX)の空間ベクトルのパルスおよび出力時間を意味する。他のdAY,dBX,dBY,dZも同様である。
【0022】
表2において、ベクトルv1→v2→v3→v4→v5、もしくはベクトルv5→v4→v3→v2→v1の順で両者を折り返しながらスイッチングすることを意味している。この順序でスイッチングすると、パルス切替時に1相毎切り替わるので、2相以上が同時にスイッチングすることなく、スイッチング回数を最少化できる。
【0023】
上記までのパルス配置順序の工夫は、基本的に非特許文献1,2ですでに開示されている従来技術である。
【非特許文献1】Y.Tadano,S.Urushibata,M.Nomura,Y.Sato,andM.Ishida:“Direct Space Vector PWM Strategies for Three−Phase to Three−Phase Matrix Converter”,IEEE Proc. of the 4th Power Conversion Conference(PCC-Nagoya/Japan),April,2007,LS4-1-3、pp.1064 -1071(2007)
【非特許文献2】“Space Vector Modulated Three-Phase to Three−Phase Matrix Converter with Input Power Factor Correction”L.Huver他IEEE trans.On Industry Applications,vol.31,No.6,1995
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかしながら、前記パターン配置は1制御周期内のみ最適化されており、図5の定義におけるセクターに変化がない場合は最少化できるが、セクターが移行する過渡時についてはその限りではない。すなわち、入力電流指令値や出力電圧指令値が存在するセクターが移行する瞬間というのは、入力電源電圧R相、S相、T相の瞬時値の大中小関係が切り替わる瞬間に相当する。このようなときに、上記の単純な折り返しスイッチングでは必ずしも最適化されない。
【0025】
例えば、図5で定義した出力セクターが「1」のとき、入力セクターが「12→1」に変化する瞬間を考える。このときの入力電源電圧の大中小関係はVr>Vs>Vt、出力電圧指令値の大中小関係はVu>Vv>Vwである。5つのPWMパルスのベクトルとデューティの関係は表3に示すとおりである。
【0026】
【表3】

【0027】
表3において、例えば「RSS」はU相にR相、V相にS相、W相にS相を各々接続するスイッチングパターンを意味している。表3の上段は入力セクター12かつ出力セクター1のとき、下段は入力セクター1かつ出力セクター1のときである。セクターが移行した瞬間、上段から下段のパターンへ移る。折り返しスイッチングでは、ベクトルv1→v2→v3→v4→v5→(更新)→v5→v4→v3→v2→v1→(更新)→v1→v2→…といった順序で繰り返しているので、更新タイミングとしてはv1もしくはv5のときである。
【0028】
例えば、v1のときに表3の上段から下段へ移行した場合、スイッチングパターンは「RSS」→「RTT」となり、V相、W相が同時に変化してしまう。v5更新時ならば「TTT」→「SSS」となり、3相全相が同時にスイッチングしてしまう。すなわち、単純な折り返しスイッチング法では、セクター移行過渡時にスイッチング回数を最少化しているとは限らないことがわかる。
【0029】
他のセクター移行のパターンについても、v1→更新→v1,v5→更新→v5では最適化されない場合が発生し得る。
【0030】
本発明は上記の問題点を解消するものでありその目的は、セクター移行過渡時のスイッチング回数を低減した交流−交流直接変換装置のスイッチングパターン切替方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、複数の双方向スイッチを備えた交流−交流直接変換装置における、入力側仮想整流器の空間ベクトルのデューティおよび出力側仮想インバータの空間ベクトルのデューティを合成し、1制御周期あたり5つの空間ベクトルが配列されたスイッチングパターンを複数生成し、該スイッチングパターンにより前記双方向スイッチをPWM制御する交流−交流直接変換装置のスイッチングパターン切替方法であって、前記入、出力側空間ベクトルの空間を各々複数に区切って構成される、入力電流指令値ベクトル、出力電圧指令値ベクトルが各々存在する領域を入、出力セクターと定義し、該入力セクターと出力セクターの組み合わせから2つのセクターモードを定義し、前記入、出力セクターおよびセクターモードに基づいて、スイッチング回数を低減させるためのスイッチングパターンを決定する処理を行い、該決定されたスイッチングパターンによって前記双方向スイッチをPWM制御することを特徴としている。
【0032】
また請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記スイッチングパターンを決定する処理は、前記セクターモードが変化せず且つ入力セクターが移行する過渡時に、前記生成されたスイッチングパターンの一端に配置された空間ベクトルのタイミングでスイッチングパターンを更新するときは、次のPWM制御に供されるスイッチングパターンの他端に配置された空間ベクトルに移行し、前記スイッチングパターンの他端に配置された空間ベクトルのタイミングでスイッチングパターンを更新するときは、次のPWM制御に供されるスイッチングパターンの一端に配置された空間ベクトルに移行する更新時切替処理を行うことを特徴としている。
【0033】
また請求項3に記載の発明は、請求項1において、前記スイッチングパターンを決定する処理は、出力セクターが移行する過渡時に、スイッチングパターンを更新することによりスイッチング回数が2回となるモード時は、移行前のセクター状態を維持しながら、更新前のスイッチングパターンを折り返してPWM制御し、その後前記セクター維持を解除し、スイッチングを伴わない、次のPWM制御に供されるスイッチングパターンの端部に配置された空間ベクトルに移行する1制御周期遅延処理を行うことを特徴としている。
【0034】
また請求項4に記載の発明は、請求項3において、前記スイッチングパターンを決定する処理は、出力セクターが2つ以上移行するときには前記1制御周期遅延処理を行わないことを特徴としている。
【0035】
また請求項5に記載の発明は、請求項1において、前記スイッチングパターンを決定する処理は、出力セクターが移行し、且つ入力セクターが奇数セクターから偶数セクターに移行する過渡時に、前記生成されたスイッチングパターンのいずれか一方の端部に配置された空間ベクトルから、次のPWM制御に供されるスイッチングパターンの前記と同一端部に配置された空間ベクトルに移行する通常更新処理を行い、出力セクターが移行し、且つ入力セクターが偶数セクターから奇数セクターに移行する過渡時に、前記請求項2に記載の更新時切替処理を行うことを特徴としている。
【0036】
また請求項6に記載の発明は、請求項5において、前記スイッチングパターンを決定する処理は、出力セクターが移行し、且つ入力セクターが奇数セクターから偶数セクターに移行する過渡時であり、且つスイッチングパターンの更新によりスイッチング回数が3回となるモード時は、前記通常更新処理に代えて前記請求項3に記載の1制御周期遅延処理を行うことを特徴としている。
【0037】
また請求項7に記載の発明は、請求項1ないし6のいずれか1項において、前記スイッチングパターンのうち、更新前のスイッチングパターンのベクトルのデューティを第1のキャリア波と比較し、次のPWM制御に供されるスイッチングパターンのベクトルのデューティを、前記第1のキャリア波とは180度位相のずれた第2のキャリア波と比較して、前記PWM制御を行うためのスイッチング信号を得ることを特徴としている。
【発明の効果】
【0038】
(1)請求項1〜7に記載の発明によれば、交流−交流直接変換装置において、入力セクターが移行する過渡時(入力電流指令値ベクトルが存在するセクターが移行する瞬間、すなわち入力電源電圧R相、S相、T相の瞬時値の大中小関係が切り替わる瞬間)や、出力セクターが移行する過渡時(出力電圧指令値ベクトルが存在するセクターが移行する瞬間、すなわち出力電圧U相、V相、W相の指令値の大中小関係が切り替わる瞬間)に、スイッチング回数を低減することができる。これによってスイッチング損失を低減することができる。
(2)また請求項2に記載の発明によれば、セクターモードが変化せず且つ入力セクターが移行する過渡時に更新時切替処理を行うことにより、当該過渡時のスイッチング回数を低減することができる。
(3)また請求項3に記載の発明によれば、1制御周期遅延処理を行うことにより、出力セクターが移行する過渡時に、一時的に1制御周期分の遅れが発生するものの、スイッチング回数ゼロ回で移行することができる。
(4)また請求項4に記載の発明によれば、急激な負荷変動やトルク指令/速度指令値のステップ変化などにより出力電圧指令値ベクトルが急変し、過渡的に出力セクターが2つ以上変化する場合に、前記1制御周期遅延処理を行わないので、スイッチング回数は1回又は2回発生するものの、当該急変時の過渡応答を優先することができる。
(5)また請求項5に記載の発明によれば、入力セクターと出力セクターが同時に移行する過渡時に通常更新処理又は更新時切替処理を行うことにより、当該過渡時のスイッチング回数を低減することができる。
(6)また請求項6に記載の発明によれば、1制御周期遅延処理を行うことにより、スイッチグ回数が3回となる移行パターンを完全になくすことができ、スイッチング回数を低減することができるとともに、3相同時スイッチングによる電流・電圧の脈動成分を低減することができる。
(7)また請求項7に記載の発明によれば、キャリア比較方式によりPWM制御を行う場合に、前記(1)〜(6)と同様の効果が得られ、セクター移行の過渡時にスイッチング回数を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、交流−交流直接変換装置は、前記双方向スイッチをPWM制御するマトリックスコンバータとして、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。
【0040】
本発明では、空間ベクトル変調法のスイッチングパターンの並べ替えの自由度を活かして、前記図5のように定義される入力セクター、出力セクターと、それらの組み合わせから定義した表1のセクターモードとに基づいて、セクター移行過渡時のスイッチング回数を低減させるためのスイッチングパターンを決定し、スイッチングパターンの配列順序を切り替えるように構成した。
【0041】
(実施例1)
本実施例では前記セクターモードおよび入力セクターの変化に着目した。前記表3の事例(入力セクターが12→1に変化し、出力セクター1は変わらない例)に着目すると、上段v1(スイッチングパターンの一端に配置されたベクトル)更新時は下段v5(スイッチングパターンの他端に配置されたベクトル)へ、上段v5更新時は下段v1に移行する、更新時切替処理を行うと、スイッチングパターンは、RSS→SSS,TTT→RTTとなり、どちらもU相のみのスイッチングとなる。したがってこの事例では、単純な折り返しスイッチングを行う場合に比べて、スイッチング回数を1〜2回低減できることが分かる。
【0042】
上記のように、入力セクターが変化する瞬間について全パターンを考えると、結果として表4のように最適移行パターンを定義することができる。
【0043】
【表4】

【0044】
表4は、入力セクターの変化を前記表1で定義したセクターモードの変化に集約してv1,v5の各タイミングで移行すべき最適パターンを示している。v1→v1,v5→v5は通常の折り返しパターン、v1→v5,v5→v1は瞬時に折り返し方を切り替えているパターンである。
【0045】
尚、入力は電源に接続しているものと仮定しているので、セクターの移行順序は…11→12→1→2→3→…となる。逆転パターンについては通常発生しないが、同じテーブルを用いれば、その場合でも最適化されている。
【0046】
本実施例では、入力セクターが移行する過渡時に着目し、表4の最適移行パターンに従ってスイッチングするので、スイッチング回数を低減できるとともに、同時スイッチングによる電流・電圧の脈動成分を低減することができる。
【0047】
(実施例2)
実施例1は入力セクターの変化に着目したが、本実施例では出力セクターの変化に着目する。例えば、出力電圧指令値が正転方向(セクターの移行が図5(b)の1→2→3→4→5→6→1→…の順序)として、入力セクター1、出力セクター1→2に変化する瞬間に着目すると、表5のようなスイッチングパターンとなる。
【0048】
【表5】

【0049】
表5において、上段は入力セクター1かつ出力セクター1、下段は入力セクター1かつ出力セクター2の場合である。
【0050】
上段から下段へ移行する際、v1更新時はv1に移行した方がスイッチング回数は少ない。すなわちv1→v1:RTT→TRT(スイッチング2回)、v1→v5:RTT→SSS(スイッチング3回)となる。また、v5更新時はそのままv5に移行した方がスイッチング回数は少ない。すなわちv5→v1:SSS→TRT(スイッチング3回)、v5→v5:SSS→SSS(スイッチング0回)となる。また、出力電圧指令値が逆転するパターン(出力セクターの移行が図5(b)の6→5→4→3→2→1→6→…の順序)の場合も同様に、そのままの移行パターンで良い。
【0051】
上記の結果から、出力セクター移行時は特別な処理をせずに、従来通りに通常の折り返しパターンでも良いことになるが、本実施例では、正転v1更新時と逆転v1更新時に発生するスイッチング回数を1回以下にする手法を提案する。表6は、出力セクター変化時の移行パターンについてまとめたものである。
【0052】
【表6】

【0053】
表6の上側(a)は正転、下側(b)は逆転パターンを各々示している。表6の×印の付いている箇所が、スイッチング回数2回となる上述のモードであるので、このときはセクター移行せずに、1つ前のセクター状態を維持しながら通常の折り返しパターンv1→v1を行う(同一段のv1→v1に移行する)。そして例えば表5の同一段のv1→v2→v3→v4→v5をスイッチングし、1制御周期の時間だけ遅れて発生するv5→v5のタイミングでセクター情報のラッチを解除し、スイッチング回数0回で移行できるv5更新パターンにおいて移行を完了する(表5ではv5→v5:SSS→SSS)。
【0054】
本実施例によれば、一時的に1制御周期分の遅れを発生するが、出力セクターが変化する過渡時に全くスイッチングを伴わない(0回で移行できる)パターンで移行することが可能となる。
【0055】
(実施例3)
入力電源電圧に関しては、商用交流電源であれば50HZないし60HZで動作させる場合が多く、ガスタービン等の分散電源を入力にした場合でも、大きな変動を伴って入力セクターが2つ以上セクターを飛び越える状態は発生し難い。一方、出力電圧指令値に関しては、急激な負荷変動やトルク指令/速度指令値のステップ変化などにより、出力セクターが2つ以上飛び越えて発生する場合も考えられる(上述までの実施例では、セクターが1つずつ変化する場合のみ考えている)。入力セクター1、出力セクター1〜6の事例を表7にまとめて示す。
【0056】
【表7】

【0057】
表7において、v5更新時についてはそのままv5→v5で折り返せば、常にSSSであるのでスイッチング回数0回で移行できる。次に、v1更新時に着目すると、v1→v1のときに、スイッチング回数1回もしくは2回で移行できることが分かる。したがって、出力セクターがどこからどこへ飛んだとしても、1回もしくは2回で移行できるが、実施例2と同様にv5での移行パターンに限定するかどうかを選択できるようにする。つまり、出力セクターが1つずつ移行するときは実施例2の1制御周期遅延処理により1制御周期の遅れを持ってもさほど影響がないが、セクターが2個以上飛ぶような電圧指令が加えられたときは、過渡的な応答を要求するモードであるので、1制御周期遅れる実施例2の処理はパスしてスイッチング回数1回又は2回の発生を許容するように切り換える。
【0058】
(実施例4)
本実施例では、入力セクターと出力セクターが同時に変化する場合を考える。入力セクターは前述のとおり、正転方向で1つずつ移行し、出力セクターはどのようなセクター状態にも飛ぶ可能性があると仮定する。
【0059】
表8は、入力セクター1〜3、出力セクター1〜6の5つのパルスパターンを抜粋して示したものである。
【0060】
【表8】

【0061】
表8において、例えば、入力セクターが1→2(奇数セクター→偶数セクター)に変化し、出力セクターは1〜6までどこからどこに移行するか限定しない場合を考える。
【0062】
v1更新時で、v1→v1の移行パターンでは「RTT/TRT/TTR」のいずれかから、「RRT/TRR/RTR」のいずれかに移行し、スイッチング回数は1回か3回のどちらかである。v1→v5の移行パターンでは「RTT/TRT/TTR」のいずれかから、「SSS」に移行して常に3回のスイッチングとなるので、この場合はv1→v1の移行パターンを選択する。また、v5更新時では、v5→v5であれば「SSS」→「SSS」となってスイッチング回数0回となるので、この移行パターン(通常更新処理)を常に選択する。
【0063】
次に、入力セクターが2→3(偶数セクター→奇数セクター)に変化し、出力セクターは1〜6までどこからどこに移行するか限定しない場合を考える。
【0064】
v1更新時は、v1→v1の移行パターンだと「RRT/TRR/RTR」のいずれかから、「SST/TSS/STS」のいずれかに移行することになり、2回もしくは3回のスイッチング回数となる。v1→v5の移行パターンでは「RRT/TRR/RTR」のいずれかから「RRR」に移行して常に1回のスイッチング回数となるので、この場合はv1→v5の移行パターン(更新時切替処理)を選択する。また、v5更新時は、v5→v5であれば「SSS」→「RRR」となって常に3回スイッチングするので、v5→v1の移行パターン(更新時切替処理)「SSS」→「SST/TSS/STS」を選択して、常に1回のスイッチングで移行する。
【0065】
以上をまとめると、表9のように表現することができるので、入力セクターと出力セクターが同時に移行する場合は、表9の移行パターンに従って処理する。
【0066】
【表9】

【0067】
表9の上段は、出力セクターが移行し且つ入力セクターが奇数セクターから偶数セクターに移行する場合にv1→v1又はv5→v5の通常更新処理を行うことを示し、表9の下段は、出力セクターが移行し且つ入力セクターが偶数セクターから奇数セクターに移行する場合にv1→v5又はv5→v1の更新時切替処理を行うことを示している。
【0068】
(実施例5)
実施例4のv1更新時で、スイッチング回数が1回もしくは3回となる移行パターンについて、3回となる可能性を回避するため、実施例2と同様に1制御周期のラッチ処理(1制御周期遅延処理)を施し、v5更新時に移行パターンを実施する。すなわち、入力と出力が同時に移行する場合には、表10の処理を行う。
【0069】
【表10】

【0070】
表10において、括弧内の数字はスイッチング回数を意味している。表10の×印の付いている箇所が、スイッチング回数0又は3回となるモードであるので、このときはセクター移行せずに、1つ前のセクター状態を維持しながら通常の折り返しパターンv1→v1を行う(例えば表8の同一段のv1→v1に移行する)。そして表8の同一段のv1→v2→v3→v4→v5をスイッチングし、1制御周期の時間だけ遅れて発生するv5→v5のタイミングでセクター情報のラッチを解除し、スイッチング回数0回で移行できるv5更新パターンにおいて移行を完了する。ただし、出力指令値が急変する場合であるので、上記ラッチ処理を行うかどうかは選択できるようにしておく。
【0071】
本実施例により、入、出力セクターが同時に移行する場合でもスイッチング回数を常に1回以下にすることが可能となる。
【0072】
(実施例6)
上述までの実施例はマトリックスコンバータの一般的な仮想間接形空間ベクトル変調法に適用する場合を述べてきたが、上記の処理はキャリア比較方式でも同様に行うことができる。例えば図6のように、互いに180度位相のずれた2つのキャリア三角波信号を予め用意しておき、セクター移行時には2つのキャリア波のうち一方から他方の逆位相のキャリア波に瞬時に切り換えることで、v1→v5,v5→v1に相当する移行パターン(更新時切替処理)を形成することができる。そのほか、ラッチ処理(1制御周期遅延処理)などについても空間ベクトル変調法かキャリア比較方式かで限定される処理ではないので、同様の作用、効果をキャリア比較方式でも実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明が適用される交流−交流直接変換装置の基本構成図。
【図2】仮想DCリンク方式の交流−交流直接変換装置の等価回路図。
【図3】空間ベクトルを表し、(a)は入力仮想整流器側の空間ベクトル図、(b)は出力仮想インバータの空間ベクトル図。
【図4】入力電流指令ベクトル図及び出力電圧指令ベクトル図。
【図5】空間ベクトルの入力側セクターと出力側セクターの定義例の説明図。
【図6】本発明のキャリア比較方式による実施例の説明図。
【符号の説明】
【0074】
1…三相交流電源、2…入力フィルタ部、3…半導体電力変換部、4…負荷。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の双方向スイッチを備えた交流−交流直接変換装置における、入力側仮想整流器の空間ベクトルのデューティおよび出力側仮想インバータの空間ベクトルのデューティを合成し、1制御周期あたり5つの空間ベクトルが配列されたスイッチングパターンを複数生成し、該スイッチングパターンにより前記双方向スイッチをPWM制御する交流−交流直接変換装置のスイッチングパターン切替方法であって、
前記入、出力側空間ベクトルの空間を各々複数に区切って構成される、入力電流指令値ベクトル、出力電圧指令値ベクトルが各々存在する領域を入、出力セクターと定義し、該入力セクターと出力セクターの組み合わせから2つのセクターモードを定義し、
前記入、出力セクターおよびセクターモードに基づいて、スイッチング回数を低減させるためのスイッチングパターンを決定する処理を行い、該決定されたスイッチングパターンによって前記双方向スイッチをPWM制御することを特徴とする交流−交流直接変換装置のスイッチングパターン切替方法。
【請求項2】
前記スイッチングパターンを決定する処理は、
前記セクターモードが変化せず且つ入力セクターが移行する過渡時に、前記生成されたスイッチングパターンの一端に配置された空間ベクトルのタイミングでスイッチングパターンを更新するときは、次のPWM制御に供されるスイッチングパターンの他端に配置された空間ベクトルに移行し、前記スイッチングパターンの他端に配置された空間ベクトルのタイミングでスイッチングパターンを更新するときは、次のPWM制御に供されるスイッチングパターンの一端に配置された空間ベクトルに移行する更新時切替処理を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の交流−交流直接変換装置のスイッチングパターン切替方法。
【請求項3】
前記スイッチングパターンを決定する処理は、
出力セクターが移行する過渡時に、スイッチングパターンを更新することによりスイッチング回数が2回となるモード時は、移行前のセクター状態を維持しながら、更新前のスイッチングパターンを折り返してPWM制御し、その後前記セクター維持を解除し、スイッチングを伴わない、次のPWM制御に供されるスイッチングパターンの端部に配置された空間ベクトルに移行する1制御周期遅延処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の交流−交流直接変換装置のスイッチングパターン切替方法。
【請求項4】
前記スイッチングパターンを決定する処理は、
出力セクターが2つ以上移行するときには前記1制御周期遅延処理を行わないことを特徴とする請求項3に記載の交流−交流直接変換装置のスイッチングパターン切替方法。
【請求項5】
前記スイッチングパターンを決定する処理は、
出力セクターが移行し、且つ入力セクターが奇数セクターから偶数セクターに移行する過渡時に、
前記生成されたスイッチングパターンのいずれか一方の端部に配置された空間ベクトルから、次のPWM制御に供されるスイッチングパターンの前記と同一端部に配置された空間ベクトルに移行する通常更新処理を行い、
出力セクターが移行し、且つ入力セクターが偶数セクターから奇数セクターに移行する過渡時に、
前記請求項2に記載の更新時切替処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の交流−交流直接変換装置のスイッチングパターン切替方法。
【請求項6】
前記スイッチングパターンを決定する処理は、
出力セクターが移行し、且つ入力セクターが奇数セクターから偶数セクターに移行する過渡時であり、且つスイッチングパターンの更新によりスイッチング回数が3回となるモード時は、前記通常更新処理に代えて前記請求項3に記載の1制御周期遅延処理を行うことを特徴とする請求項5に記載の交流−交流直接変換装置のスイッチングパターン切替方法。
【請求項7】
前記スイッチングパターンのうち、更新前のスイッチングパターンのベクトルのデューティを第1のキャリア波と比較し、次のPWM制御に供されるスイッチングパターンのベクトルのデューティを、前記第1のキャリア波とは180度位相のずれた第2のキャリア波と比較して、前記PWM制御を行うためのスイッチング信号を得ることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の交流−交流直接変換装置のスイッチングパターン切替方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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