説明

交流交流直接変換器の制御装置

【課題】転流パターンの作成に用いる入力電圧や出力電流の高速検出手段を必要最小限にし、新たな部品を追加せずに転流失敗を防止する。転流に伴う出力電圧誤差を補償し、負荷である電動機の損失やトルク脈動を低減する。
【解決手段】交流交流直接変換器の入力電圧検出手段51及び出力電流検出手段53と、これらの検出値から出力電圧指令値を演算する手段52と、出力電圧指令値から双方向スイッチのPWMパルスを演算する手段54と、PWMパルスに従って所定のスイッチングパターンを発生する転流パターン発生手段56とを備え、この発生手段56は、電圧転流用及び電流転流用の転流パターンを選択可能とし、前記入力電圧情報または出力電流情報のうち何れかを出力電圧指令演算手段52に入力される検出値から得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型のエネルギーバッファを持たず、双方向スイッチを構成する半導体スイッチング素子のオンオフにより多相交流電圧を任意の振幅、周波数を有する多相交流電圧に直接変換する交流交流直接変換器の制御装置に関し、特に、変換器の入力端短絡及び出力端開放を防止するための転流時のスイッチングパターンを発生する手段の改良技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の交流交流直接変換器の一例として、マトリクスコンバータが知られている。
図7は、マトリクスコンバータの出力側一相分の回路図である。三相交流電圧の入力端子をR,S,T(入力相についても同じ符号を用いるものとする)、出力端子をU,V,W(出力相についても同じ符号を用いるものとする)とすると、図7に示す出力側U相分の回路において、オン時にR相からU相へ電流を流す方向に接続されているスイッチング素子をSruとし、以下同様に、各スイッチング素子をSur,Ssu,Sus,Stu,Sutとする。なお、S,S,Sは、互いに逆並列接続された各2個のスイッチング素子からなる双方向スイッチを示す。
【0003】
いま、各相の入力電圧V,V,VがV>V>Vの関係にある場合を考える。このとき、スイッチング素子Sur,Sus、または同Sru,Sut、または同Ssu,Sutが同時にオンすると、それぞれR相とS相、R相とT相、S相とT相の間に入力端の短絡電流が流れてしまう。更に、出力電流(負荷電流)iが図7の矢印方向に流れている場合、スイッチング素子Sur,Ssu,Stuが何れもオフして出力端が開放されると電流iの通流経路がなくなるので、各スイッチング素子に負荷のエネルギーによる過大なサージ電圧が印加されてスイッチング素子の破壊を引き起こす。
【0004】
そこで、上述した入力端の短絡及び出力端の開放を同時に防止するために、一例として次のような転流シーケンス(転流時における各スイッチング素子のスイッチングパターン)を実行している。なお、ここでは、R相とU相との間で電流が流れている状態から、S相とU相との間で電流を流すように転流させる場合について説明する。
まず、初期状態では、スイッチング素子Sruがオン、Surがオン、Ssuがオフ、Susがオフであり、以後の転流シーケンスは以下のようになる。
(1)Ssuオン
(2)Sruオフ
(3)Susオン
(4)Surオフ
【0005】
ここで、スイッチング素子Sruは、Ssuをオンさせてから時間差を設けてオフすることでSru,Ssuの同時オフを防止し、また、SurはSusをオンさせてから時間差を設けてオフすることでSur,Susの同時オフを防止しており、これらによって出力電流iの経路を確保している。更に、スイッチング素子SusはSruをオフさせてから時間差を設けてオンすることでSus,Sruの同時オンを防止しており、これによってR相とS相との間の短絡を防止している。
【0006】
以上より、スイッチング素子の動作に若干のバラツキ等が存在しても、入力端の短絡と出力端の開放を防止してスイッチング素子の破壊を防ぐことができる。このような転流シーケンスは、各相入力電圧の大小関係に基づいてスイッチングの順序を決定しているため、電圧転流と呼ばれる。この電圧転流については、例えば特許文献1に説明されている。
【0007】
一方、上記の電圧転流に対して、出力電流iの極性に応じてスイッチングの順序を決定する方法がある。
図7において、前記同様に出力電流iが矢印の方向に流れているものとし、R相とU相との間で電流が流れている状態から、S相とU相との間で電流を流すように転流させる場合について説明する。
【0008】
前記同様に、初期状態としてはスイッチング素子Sruがオン、Surがオン、Ssuがオフ、Susがオフであり、以後の転流シーケンスは以下のようになる。
(1)Surオフ
(2)Ssuオン
(3)Sruオフ
(4)Susオン
【0009】
ここで、スイッチング素子Ssuは、Surをオフさせてから時間差を設けてオンすることでSsu,Surの同時オンを防止し、また、SusはSruをオフさせてから時間差を設けてオンすることでSus,Sruの同時オンを防止しており、これらによってR相とS相との間の短絡を防止している。更に、スイッチング素子SruはSsuをオンさせてから時間差を設けてオフすることでSru,Ssuの同時オフを防止しており、これによって出力電流iの経路を確保している。
この転流シーケンスは、出力電流iの極性に基づいてスイッチングの順序を決定しているため、電流転流と呼ばれる。この電流転流については、例えば特許文献2に説明されている。
【0010】
電圧転流では、各相入力電圧の大小関係に応じてスイッチングの順序を決定しているので、入力電圧の大きさを誤検出すると入力端の短絡が発生する。例えば、図7において、V>V>Vの状態で転流を行う際にV,Vの大小関係が変わると、スイッチング素子Susをオンした瞬間にはSurがオンしているので、S相からスイッチング素子Susを通ってR相に向かうループに電流が流れる。なお、出力電流の向きが変化しても、スイッチング素子Sur,Ssuは転流が完了するまでオンしているので、出力端が開放されることはない。
従って、電圧転流では、各相入力電圧の大小関係が変化する時点(入力線間電圧がゼロ近傍)において、検出遅れ等による入力端の短絡が起きやすい。
【0011】
一方、電流転流では、出力電流の極性に応じてスイッチング順序を決定しているので、出力電流の極性を誤検出すると出力端の開放が発生する。例えば、図7において、iが矢印の向きに流れているものと検出して転流を行う際にiの向きが変わると、スイッチング素子Surをオフした瞬間に電流経路が絶たれるので、出力端が開放する。なお、入力電圧の大小関係が変化しても、スイッチング素子Sur,Ssuが同時にオンすることはないので、入力端の短絡は発生しない。
従って、電流転流では、出力電流の極性が変化する時点(出力電流がゼロ近傍)において、検出遅れ等による出力端の開放が起きやすい。
【0012】
電圧転流でも電流転流でも、検出器の遅れや精度に起因して転流失敗(誤検出による入力端短絡や出力端開放)が生じる可能性がある。転流失敗が起きると、入力端の短絡時には過大な短絡電流がスイッチング素子に流れ、出力端の開放時には、過大なサージ電圧がスイッチング素子に印加されるので、いずれにしても装置の故障等を引き起こし、好ましくない。
また、これらの対策として大容量のスナバ回路等を取り付けることは、体積増加やコスト上昇の要因となり、好ましくない。
【0013】
上記の点に鑑み、発明者は、特許文献3に示すように、電圧転流と電流転流とを組み合わせて転流失敗を防止する転流方法を既に提案した。以下、この特許文献3に係る従来技術について説明する。
【0014】
図8は、特許文献3に記載された従来技術を示す制御ブロック図である。
この従来技術では、マトリクスコンバータ等の直接形電力変換器20の電源電圧の極性を検出する電圧極性検出手段41と、検出した電圧極性に基づく転流パターン(第1の転流パターン)を発生する転流パターン発生手段42と、変換器20の出力電流の極性を検出する電流極性検出手段43と、検出した電流極性に基づく転流パターン(第2の転流パターン)を発生する転流パターン発生手段44と、電源電圧に応じて第1または第2の転流パターンを切り替えて変換器20に出力する転流パターン切り替え器45と、PWM指令を前記転流パターン発生手段42,44に出力するPWM発生手段46とを備えている。なお、10は三相交流電源、30は交流電動機等の負荷である。
【0015】
図9は、上記転流パターン切り替え器45の構成を示している。絶対値演算器451により電源の線間電圧の絶対値を演算し、その値が電圧切り替えレベル以下になったことを比較器452により検出してスイッチ453を切り替え操作し、第1の転流パターンから第2の転流パターンに切り替える。すなわち、電源の線間電圧の絶対値の小さい領域(各相電圧の大小関係が切り替わる領域)では、各相電圧の大小関係の誤検出による入力端短絡を回避するために、電流転流を行うべく第2の転流パターンを選択して電力変換器20に与える。
また、電源の線間電圧の絶対値が電圧切り替えレベルを上回った場合には、各相電圧の大小関係を誤検出する恐れがなくなるため、スイッチ453を切り替え操作して第2の転流パターンから第1の転流パターンに切り替えることにより、電流転流から電圧転流に切り替えるものである。
このように特許文献3に係る従来技術では、転流失敗の起きやすい領域において転流パターンを切り替えることで転流失敗を未然に防止している。
【0016】
【特許文献1】特開2005−20799号公報([0009]〜[0011]、図13,図14等)
【特許文献2】特開2005−309975号公報(請求項2、図3,図5等)
【特許文献3】特開2003−333851号公報([0022]〜[0026]、図1,図2等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
特許文献3において、切り替えのために2つの転流パターンを作成するには、1制御周期未満の高速なタイミングで各相入力電圧の大小関係や出力電流の極性を判別する検出器が必要になり、1つの転流パターンを有する装置に比べて、装置のコストや体積が増加する。その理由を以下に説明する。
【0018】
通常、スイッチングパターンは、出力電圧指令値とキャリアとを比較するPWM制御により作成されるが、出力電圧指令値を演算するタイミングを1制御周期とすると、一般的には、1制御周期毎に入力電圧や出力電流をADコンバータによりサンプリングして得た情報に基づいて、様々な制御方式により出力電圧指令値を演算している。
しかし、1制御周期でサンプルされた入力電圧と出力電流とを用いてスイッチングパターンを作成し、これに従って転流を行うと、1制御周期内で入力電圧や出力電流の実際値が変化する場合には、検出値と実際値とが乖離してしまい、その結果、作成されるスイッチングパターンによって入力端短絡や出力端開放が発生するおそれがある。特に、演算に使用するプロセッサ(マイコンやDSP等)の性能によって1制御周期が決まるため、その長さも一様ではなく、1制御周期内での検出値と実際値との乖離を無視することができない。
【0019】
従って、2つの転流パターンを切り替えて使用する場合にその選択に用いる入力電圧や出力電流の情報は、出力電圧指令値を演算するプロセッサの性能に左右されない高速周期で検出しなければならない。従って、特許文献3の従来技術では、入力電圧及び出力電流を個別に検出して転流パターンをそれぞれ選択するために、出力電圧指令演算手段に用いる検出器とは別個の高速な検出回路が必要になる。
【0020】
更に、特許文献3のように2つの転流パターンを切り替えると、後述するように転流シーケンスで発生する出力電圧の誤差も各転流パターンに応じて変化する。これらの誤差電圧を補償しないと出力電圧が歪んでしまい、負荷として電動機を駆動する場合にはトルクの脈動、電動機の過熱や異音発生の原因となり、効率も低下する。
しかるに、特許文献3では、上述した2つの転流パターンを用いることに起因した種々の問題について触れられておらず、当然にその解決手段も開示されていない。
【0021】
そこで、本発明の解決課題は、転流パターンを選択するための入力電圧や出力電流の高速検出手段を必要最小限にして、新たな部品の追加を要することなく、転流失敗を防止すると共に、転流に伴って発生する出力電圧の誤差を補償し、負荷としての電動機の損失やトルク脈動を低減可能とした経済性、信頼性の高い制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するため、本発明の特徴は、電圧転流用の転流パターンを選択するために必要な各相入力電圧の大小関係に関する入力電圧情報を、出力電圧指令を演算するための入力電圧検出手段よりも高速な検出手段によって得ると共に、電流転流用の転流パターンを選択するために必要な出力電流極性信号等の出力電流情報については出力電圧指令を演算するための出力電流検出手段から得るようにし、あるいは、電流転流用の転流パターンを選択するために必要な出力電流情報を、出力電圧指令を演算するための出力電流検出手段よりも高速な検出手段によって得ると共に、電圧転流用の転流パターンを選択するために必要な入力電圧情報を、出力電圧指令を演算するための入力電圧検出手段から得ることにより、高速検出手段の数を必要最小限にしたことにある。
【0023】
すなわち、請求項1に係る発明は、交流電源と負荷との間に接続された複数の双方向スイッチを備え、出力電圧指令に応じたPWM制御により前記双方向スイッチをスイッチングして多相交流電圧を任意の大きさ、周波数の多相交流電圧に直接変換する交流交流直接変換器において、
前記変換器の入力電圧を検出する手段と、
前記変換器の出力電流を検出する手段と、
前記入力電圧及び出力電流の検出値から前記変換器の出力電圧指令値を演算する出力電圧指令演算手段と、
前記出力電圧指令値から前記双方向スイッチのPWMパルスを演算する手段と、
前記PWMパルスに従って、前記変換器の入力端短絡及び出力端開放を防止するための前記双方向スイッチのスイッチングパターンを発生する転流パターン発生手段と、を備え、
前記転流パターン発生手段は、前記変換器の入力電圧情報を用いた電圧転流用の第1の転流パターンと、前記変換器の出力電流情報を用いた電流転流用の第2の転流パターンとを有し、これら第1または第2の転流パターンを選択可能であると共に、
前記入力電圧情報または出力電流情報のうち何れかの情報を、前記出力電圧指令演算手段に入力される検出値から得るものである。
【0024】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載した交流交流直接変換器の制御装置において、
第1の転流パターンを選択するための前記入力電圧情報を、前記出力電圧指令演算手段に入力される入力電圧検出値よりも高速なタイミングで更新される情報とし、かつ、第2の転流パターンを選択するための前記出力電流情報を、前記出力電圧指令演算手段に入力される出力電流検出値から得るようにしたものである。
【0025】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載した交流交流直接変換器の制御装置において、
第1の転流パターンを選択するための前記入力電圧情報を、前記出力電圧指令演算手段に入力される入力電圧検出値から得ると共に、第2の転流パターンを選択するための前記出力電流情報を、前記出力電圧指令演算手段に入力される出力電流検出値よりも高速なタイミングで更新される情報としたものである。
【0026】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか1項に記載された交流交流直接変換器の制御装置において、
前記変換器の転流により発生する出力電圧の誤差を補償するために前記双方向スイッチのオン時間に対する補償量を演算する手段を備え、
電圧転流または電流転流を判別してその判別結果により前記補償量の符号を切り替えるものである。
【発明の効果】
【0027】
請求項1,2に係る発明では、各相入力電圧の大小関係を示す入力電圧情報を出力電圧指令演算手段に入力される入力電圧検出値よりも高速に検出して電圧転流用の第1の転流パターンを選択すると共に、出力電圧指令演算手段に入力される出力電流検出値から得た出力電流極性信号を用いて電流転流用の第2の転流パターンを選択する。
また、請求項1,3に係る発明では、出力電圧指令演算手段に入力される入力電圧検出値から各相入力電圧の大小関係を示す入力電圧情報を得て電圧転流用の第1の転流パターンを選択すると共に、出力電流極性信号を出力電圧指令演算手段に入力される出力電流検出値よりも高速に検出して電流転流用の第2の転流パターンを選択する。
このように本発明では、電圧転流、電流転流の何れを選択する場合でも、出力電圧指令演算手段に入力される入力電圧情報または出力電流情報を用いて一方の転流パターンを選択するため、入力電圧及び出力電流に対してそれぞれ個別に高速な検出手段を備える必要がない。すなわち、転流パターンを切り替えるために必要最小限の高速検出手段を備えていれば良いから、新たな部品を要することなく経済性を向上させると共に、転流失敗を確実に防止可能として信頼性の高い制御装置を提供することができる。
【0028】
また、請求項4に係る発明によれば、転流に伴って発生する双方向スイッチのオン時間の誤差を補償するための補償オン時間を転流時間及び出力電流の極性から求め、更に、この補償オン時間の符号を電圧転流、電流転流に応じて切り替えてオン時間指令値を補正することにより、前記オン時間の誤差に起因する出力電圧の誤差を解消することができる。これにより、変換器の出力電圧の歪みを低減して負荷としての電動機の騒音や過熱を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、請求項1,2に係る本発明の第1実施形態を示すブロック図であり、10は三相交流電源、20Aは交流交流直接変換器としてのマトリクスコンバータ、30は交流電動機等の負荷である。
入力電圧検出手段51は、分圧抵抗回路やホール電圧センサ等を用いてマトリクスコンバータ20Aの入力電圧を検出する。そして、下記の出力電圧指令演算手段52がマイコン等のプロセッサにより出力電圧指令を演算する場合には、入力電圧検出手段51が入力電圧検出値をAD(アナログ/ディジタル)変換して出力電圧指令演算手段52に出力する。
【0030】
出力電流検出手段53は、シャント抵抗やホールCT等によりマトリクスコンバータ20Aの出力電流を検出し、この出力電流検出値を、入力電圧検出手段51と同様に必要に応じてAD変換してから出力電圧指令演算手段52に出力する。
出力電圧指令演算手段52は、入力電圧及び出力電流の両検出値から、例えばベクトル制御等によるマトリクスコンバータ20Aの出力電圧指令を演算する。なお、マトリクスコンバータの制御方式は、ベクトル制御以外にもV/f一定制御等、種々考えられるが、本発明ではこれらの制御方式は何ら限定されない。
PWMパルス演算手段54は、出力電圧指令と三角波キャリアとを比較してPWMパルスを生成する。勿論、三角波キャリア比較方式以外のPWMパルス演算手段を用いても良い。
【0031】
一方、大小判別手段55は、電源10の各相電圧から最大電圧相と中間電圧相と最小電圧相とを判別し、表1に示す判別表に従って大小判別信号1〜6を出力する。一例として、最大電圧相がT相、中間電圧相がR相、最小電圧相がS相である場合には、大小判別信号として「1」を転流パターン発生手段56に出力する。
ここで、前述したように転流失敗を防止するため、出力電圧指令演算手段52の1制御周期に左右されないように、大小判別手段55では、入力電圧検出手段51とは別の高速な検出回路を用いて各相電源電圧の大小関係を判別するものとする。
【0032】
【表1】

【0033】
一方、出力電圧指令演算手段52では、出力電流検出値から、U,V,W各相の出力電流極性信号をそれぞれ作成し、この極性信号は転流パターン発生手段56に入力されている。上記出力電流極性信号としては、例えば、出力電流の極性が正であれば「1」、負であれば「0」という信号を作成する。
また、後述するように出力電圧指令演算手段52では転流選択信号が作成され、この転流選択信号も転流パターン発生手段56に入力されている。
【0034】
ここで、図2は転流パターン発生手段56の構成を示している。
転流パターン発生手段56は、前述した表1により求めた入力電圧の大小判別信号に基づいて電圧転流用の第1の転流パターンを発生する電圧転流発生手段561と、出力電流極性信号に基づいて電流転流用の第2の転流パターンを発生する電流転流発生手段562と、上記第1,第2の転流パターンを転流選択信号により切り替えて出力する転流選択手段563とから構成されている。なお、電圧転流発生手段561及び電流転流発生手段562には、図1のPWMパルス演算手段54により演算したPWMパルスが入力されている。
【0035】
図3は、出力電圧指令演算手段52における転流選択信号の作成方法を説明するための図である。
図3に示すように、出力電流検出値に判別レベルを設け、出力電流が判別レベル以下の領域では電圧転流を選択し、判別レベルを超える領域では電流転流を選択するように転流選択信号を作成する。上記判別レベルは、出力電流検出手段53等の検出遅れやスイッチング周波数のリプル等に依存するが、定格電流に対して20%程度に設定すると、検出遅れ等が存在しても転流失敗が起きることなく、特性の改善が確認された。
【0036】
なお、図3では、転流選択信号を作成するための判別レベルの絶対値を小さく設定して出力電流のゼロ付近で電圧転流を選択するようにしたが、各相入力電圧の大小関係が切り替わる時点の近傍で電流転流を選択するように、転流選択の基準となる信号を入力電圧から作成してもよい。
また、本実施形態において、PWMパルス演算手段54及び転流パターン発生手段56をFPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)やPLD(プログラマブル・ロジック・デバイス)等によって集積化すれば、単一の転流パターンを用いるマトリクスコンバータに外付けの部品を追加することなく構成することが可能である。
【0037】
次に、図4は請求項3に係る本発明の第2実施形態を示すブロック図である。図1と同一の構成要素には同一の番号を付して説明を省略し、以下では異なる部分を中心に説明する。
【0038】
この実施形態では、出力電圧指令演算手段52において、入力電圧検出手段51により検出した入力電圧検出値から各相入力電圧の大小判別信号を求めて電圧転流用の転流パターンの発生に用いるようにし、電流転流用の転流パターンの発生に用いる出力電流極性判別信号については、高速な極性検出、判別動作が可能な出力電流極性判別手段57により検出するようにした。
【0039】
すなわち、出力電圧指令演算手段52では、入力電圧検出値から、前述した表1に従って大小判別信号を求め、この大小判別信号は転流パターン発生手段56に入力される。また、出力電流極性判別手段57は、出力電流のゼロクロスをコンパレータ等の比較器を用いて高速に検出して極性を判別し、この出力電流極性信号は転流パターン発生手段56に入力される。
なお、出力電圧指令演算手段52において、転流選択信号は、図3のように出力電流検出値を判別レベルと比較して作成しても良いし、入力電圧検出値が別の判別レベル以下の領域では電流転流を選択し、判別レベルを超える領域では電圧転流を選択するようにしても良い。
転流パターン発生手段56以降の動作は第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0040】
前述した第1実施形態では、図1の大小判別手段55に高速な検出回路を用いて各相電圧の大小関係を判別し、また、第2実施形態では、出力電流極性判別手段57に高速な検出回路を用いて出力電流の極性を判別するようにした。
しかし、これらに代えて、第1実施形態では出力電圧指令演算手段52に入力された入力電圧検出値を用いて各相電圧の大小関係を判別し、第2実施形態では、同じく出力電圧指令演算手段52に入力される出力電流検出値を用いて出力電流の極性を判別しても良い。
これらの場合には、判別レベルに用いる信号の位相遅れ補償を行う等の方法により、転流失敗を極力防止することが望ましい。
【0041】
以上のように第1または第2実施形態は特許文献3と同様に二つの転流パターンを切り替える構成であるが、必要最小限の高速な検出回路を用いて適切な転流パターンを選択するようにしたので、転流パターンを発生、選択するために入力電圧検出用及び出力電流検出用の高速な検出回路をそれぞれ個別に備える必要がなく、装置全体の小型化及び低コスト化を実現することができる。
【0042】
次に、請求項4に係る本発明の第3実施形態について説明する。この実施形態は、転流に伴って発生する変換器の出力電圧の誤差を補償するためのものである。
マトリクスコンバータでは、どのような制御を行ってもキャリア1周期中に出力側1相(例えばU相)に現れる電圧は入力側の最大電圧相、中間電圧相、最小電圧相の何れかの電圧であり、入力側の最大電圧相と出力側U相との間、同じく中間電圧相とU相との間、同じく最小電圧相とU相との間にそれぞれ接続されている双方向スイッチのオンオフ時間比率をDmax,Dmid,Dminとすると、これらの間には数式1の関係が成り立つ。
[数1]
max+Dmid+Dmin=1
ただし、0≦Dmax≦1,0≦Dmid≦1,0≦Dmin≦1
【0043】
ここで、最大電圧相をR相、中間電圧相をS相、最小電圧相をT相としてキャリア1周期当たりのスイッチングを例にとり、転流シーケンスによる誤差の時間比率について説明する。
【0044】
図5は、キャリア周期TにおけるマトリクスコンバータのPWMパルス例を示している。PWMパルスは、R,S,T相のオンオフ時間比率指令値(図5におけるR,S,T相の各パルス指令)に基づいてオン時間が決定され、R相→S相→T相→S相→R相の順に転流するものとする。図5の囲み線a〜dまたはa’〜d’に示すように、キャリア1周期中に4回の転流動作が存在している。
ここで、転流シーケンスは電圧転流によるものとし、例えば、R相とU相との間で電流が流れている状態からS相とU相との間で電流を流すように転流させる場合、各スイッチング素子は、前記同様に(1)Ssuオン、(2)Sruオフ、(3)Susオン、(4)Surオフの順序でオン、オフする。
【0045】
いま、R,S,T相のオンオフ時間比率指令値をそれぞれDru,Dsu,Dtuとすると、R相のスイッチング素子Sruのオン時間の指令値Tru、S相のスイッチング素子Ssuのオン時間の指令値Tsu、T相のスイッチング素子Stuのオン時間の指令値Ttuは、それぞれ数式2によって表される。
【0046】
【数2】

【0047】
上記の数式2は、キャリア周期Tが一定であれば、オン時間はオンオフ時間比率に比例することを示している。
図5における囲み線a〜d内の転流動作(U相電流i>0の場合)について説明すると、前述したように入力端短絡及び出力端開放を防止するための転流シーケンスにより、それぞれの囲み線における転流動作、及び、U相に現れる実際の電圧からみたパルス指令の変化は、次のようになる。
【0048】
a.R相からS相への転流であり、R相パルス指令が転流時間Tだけ延び、S相パルス指令がTだけ縮んだのと等価になる。
b.S相からT相への転流であり、S相パルス指令が転流時間Tだけ延び、T相パルス指令がTだけ縮んだのと等価になる。
c.T相からS相への転流であり、T相パルス指令が転流時間T×2だけ延び、S相パルス指令がT×2だけ縮んだのと等価になる。
d.S相からR相への転流であり、S相パルス指令が転流時間T×2だけ延び、R相パルス指令がT×2だけ縮んだのと等価になる。
以上より、キャリア1周期で見ると、R,S,T相それぞれのスイッチング素子Sru,Ssu,Stuの実際のオン時間Tru,Tsu,Ttuは、数式3となる。
【0049】
【数3】

【0050】
数式3から明らかなように、R相のオン時間Truは指令値TruからTだけ削られ、T相のオン時間Ttuは指令値TtuよりTだけ延びるが、S相のオン時間Tsuについて見ると、キャリア1周期では誤差(転流時間T)がキャンセルされて指令値Tsu通りになることが分かる。
一方、図5における囲み線a’〜d’内の転流動作(U相電流i<0の場合)を解析すると、R,S,T相それぞれのスイッチング素子Sru,Ssu,Stuの実際のオン時間Tru,Tsu,Ttuは数式4のようになる。
【0051】
【数4】

【0052】
数式3,4より、U相電流i(負荷電流)の正負に関わらずS相のオン時間Tsuは誤差がキャンセルされ、R相及びT相のオン時間Tru,Ttuは、負荷電流の極性によって誤差の時間が削られるか、延びることになる。
なお、上述した転流時の誤差については、特願2005−358379号(本件出願時において、未だ出願公開されていない)に記載されている。
【0053】
以上をまとめて一般化すると、電圧転流の場合には、出力1相に対して、入力電圧の最大電圧相のオン時間Tmaxと最小電圧相のオン時間Tminは転流時間Tにより誤差が発生し、中間電圧相のオン時間Tmidは誤差がキャンセルされる。ここで、それぞれのオン時間指令値をTmax,Tmid,Tminとすれば、数式3,数式4に相当する実際のオン時間Tmax,Tmid,Tminは、数式5によって表される。
[数5]
max=Tmax−T×sign(i)
mid=Tmid
min=Tmin+T×sign(i)
ただし、sign(i):出力電流の符号(正で1,負で−1)
【0054】
一方、電流転流の場合には、実際のオン時間Tmax,Tmid,Tminは数式6となる。
[数6]
max=Tmax+Tc×sign(i)
mid=Tmid
min=Tmin−Tc×sign(i)
【0055】
数式5,6を比較すると、電圧転流と電流転流とでは、オン時間指令値に対して実際のオン時間に発生する誤差の符号が変わることがわかる。従って、電圧転流か電流転流かに応じて補償するべきオン時間を変更しなければ誤差が増大することになり、出力電圧が指令通りに制御されずにその波形が歪む。この歪んだ出力電圧によって電動機等を駆動すると、トルクや速度に悪影響を与えてしまう。
【0056】
そこで第3実施形態では、以下のようにして転流に伴う出力電圧の誤差を補償するようにした。
図6は、本実施形態における転流誤差補償のためのブロック図である。図示するように、予め設定した転流時間Tと出力電流検出値から判別した符号sign(i)と転流選択信号に基づく符号Kcommとに基づいて、補償オン時間T’を数式7のように求める。
[数7]
’=T×sign(i)×Kcomm
ただし、符号Kcommは、電圧転流の場合に1、電流転流の場合に−1とする。
【0057】
数式7により求めた補償オン時間T’を、数式8のようにオン時間指令値Tmax,Tmid,Tminに加えることにより、補償後のオン時間指令値Tmax**,Tmid**,Tmin**を求める。
[数8]
max**=Tmax+T
mid**=Tmid
min**=Tmin−T
【0058】
数式8に示すオン時間指令値Tmax**,Tmid**,Tmin**を数式5、数式6におけるオン時間指令値Tmax,Tmid,Tminの代わりに用いて転流を行えば、電圧転流、電流転流の何れの場合にもKcommにより所定の符号が設定され、指令値通りのオン時間を持つPWMパルスを得て各スイッチング素子をオン、オフさせることができる。
以上のように本実施形態によれば、転流に伴うスイッチング素子のオン時間の誤差を簡単な符号関数を用いて解消することができ、歪みのない出力電圧を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1実施形態を示すブロック図である。
【図2】図1における転流パターン発生手段の構成図である。
【図3】第1実施形態における転流選択信号の作成方法を説明するための図である。
【図4】本発明の第2実施形態を示すブロック図である。
【図5】キャリア周期におけるマトリクスコンバータのPWMパルス例を示す図である。
【図6】本発明の第3実施形態における転流誤差補償のためのブロック図である。
【図7】マトリクスコンバータの出力相一相分の回路図である。
【図8】特許文献3に記載された従来技術を示す制御ブロック図である。
【図9】図8における転流パターン切り替え器の構成図である。
【符号の説明】
【0060】
10:三相交流電源
20A:マトリクスコンバータ
30:負荷
51:入力電圧検出手段
52:出力電圧指令演算手段
53:出力電流検出手段
54:PWMパルス演算手段
55:大小判別手段
56:転流パターン発生手段
561:電圧転流発生手段
562:電流転流発生手段
563:転流選択手段
57:出力電流極性判別手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源と負荷との間に接続された複数の双方向スイッチを備え、出力電圧指令に応じたPWM制御により前記双方向スイッチをスイッチングして多相交流電圧を任意の大きさ、周波数の多相交流電圧に直接変換する交流交流直接変換器において、
前記変換器の入力電圧を検出する手段と、
前記変換器の出力電流を検出する手段と、
前記入力電圧及び出力電流の検出値から前記変換器の出力電圧指令値を演算する出力電圧指令演算手段と、
前記出力電圧指令値から前記双方向スイッチのPWMパルスを演算する手段と、
前記PWMパルスに従って、前記変換器の入力端短絡及び出力端開放を防止するための前記双方向スイッチのスイッチングパターンを発生する転流パターン発生手段と、を備え、
前記転流パターン発生手段は、前記変換器の入力電圧情報を用いた電圧転流用の第1の転流パターンと、前記変換器の出力電流情報を用いた電流転流用の第2の転流パターンとを有し、これら第1または第2の転流パターンを選択可能であると共に、
前記入力電圧情報または出力電流情報のうち何れかの情報を、前記出力電圧指令演算手段に入力される検出値から得ることを特徴とする交流交流直接変換器の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載した交流交流直接変換器の制御装置において、
第1の転流パターンを選択するための前記入力電圧情報を、前記出力電圧指令演算手段に入力される入力電圧検出値よりも高速なタイミングで更新される情報とし、かつ、第2の転流パターンを選択するための前記出力電流情報を、前記出力電圧指令演算手段に入力される出力電流検出値から得るようにしたことを特徴とする交流交流直接変換器の制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載した交流交流直接変換器の制御装置において、
第1の転流パターンを選択するための前記入力電圧情報を、前記出力電圧指令演算手段に入力される入力電圧検出値から得ると共に、第2の転流パターンを選択するための前記出力電流情報を、前記出力電圧指令演算手段に入力される出力電流検出値よりも高速なタイミングで更新される情報としたことを特徴とする交流交流直接変換器の制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載された交流交流直接変換器の制御装置において、
前記変換器の転流により発生する出力電圧の誤差を補償するために前記双方向スイッチのオン時間に対する補償量を演算する手段を備え、
電圧転流または電流転流を判別してその判別結果により前記補償量の符号を切り替えることを特徴とする交流交流直接変換器の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−48535(P2008−48535A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221874(P2006−221874)
【出願日】平成18年8月16日(2006.8.16)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】