説明

人工放射能測定装置及び測定方法

【課題】人工放射能測定装置及び測定方法において、人工放射能の測定作業の簡素化を図る。
【解決手段】コンクリート10の両側に極薄平板型プラスチックシンチレータ検出器12,22と平板型NaI(Tl)シンチレータ検出器13,23とアルミニウム製カット板14,24とからなる一対の放射線検出装置11,21を設け、この一対の放射線検出装置11,21によって同時間に計測される信号を計数する同時計測部31が計測する同時計数率を求め、この同時計数率に基づいて人工放射能量を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電用原子炉の廃止措置に伴う原子炉建屋や放射性物質取扱施設の解体時などに発生する極めて放射能の低い汚染コンクリート中の人工放射能の濃度を測定する人工放射能測定装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート中には天然放射能であるカリウム40(K-40)、ウラン(U)、トリウム(Th)及びその娘核種などが含まれている。一方、施設の運転中に汚染する可能性のあるコンクリートについては、コバルト60(Co-60)、セシウム137(Cs-137)といった人工放射性核種により汚染されている可能性があるが、その想定汚染レベルは極めて低いものとなっている。
【0003】
このような天然放射能を含有すると共に人工放射能により汚染されているコンクリートから、人工放射性核種の濃度を測定する場合、予め人工放射能を含有していないことが明白な代表的な試験体について測定し、その測定結果を、測定対象のコンクリート中の天然放射能からの放射線や宇宙線及び建屋の構造材中の天然放射能からの環境放射線による計数率(補足説明:2種類のBGがあり使い分けが必要)所謂、バックグラウンドとして試料の測定時の計数率から引き去ることにより、人工の放射能濃度に換算する方法が一般的である。
【0004】
ところが、一般に、天然放射能の濃度は試験体の種類により変動する。そのため、この試験体中の天然放射能によるバックグランウンドは測定試料、つまりコンクリート試料の種類、材質、骨材の種類等により変える必要があり、人工放射性核種の汚染レベルが低い場合には、天然放射能濃度の変動が大きな誤差をもたらしてしまう。
【0005】
このような問題を解決するものとして、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。この特許文献1に記載された「コンクリート中の人工放射性核種の放射性濃度測定法」は、γ線エネルギー測定用小型検出器と、γ線用全計数率計測用大型検出器とを組み合わせ、小型検出器の人工放射能の濃度測定値から、大型検出器の天然放射能に起因する計数率分を計算評価し、引き去ることにより人工放射能に起因する正味計数率を求めて放射能換算するものである。ほぼ均一に分布している人工放射性核種のコンクリート中のほぼ均一放射能濃度を測定することができるとしている。
【0006】
【特許文献1】特開平5−333155号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1にあっては、γ線用全計数率計測用大型検出器の全計数率から、天然放射能による計数率と宇宙線や建屋の構造材による環境バックグラウンドの計数率とを減算することで、人工放射能によるグロス計数率を算出している。この場合、天然放射能による計数率を求めるためには、事前に、コンクリート中の天然放射能濃度を求めるか、スペクトル検出器を併設して天然放射能濃度を算出して天然放射能によるグロス計数率を求める必要がある。また、コンクリート中にコバルト60がどのように分布しているかを設定する必要があった。測定しようとするコンクリート中の天然放射能による計数率を評価する為にはコンクリートの形状による計数率の違いやコンクリート中での放射線の減衰効果を補正する必要があり、また放射線の計測には計数誤差が含まれることにより、測定したグロス計数率より天然放射能による計数率や環境バックグラウンドの計数率を減算して人工放射性核種による計数率を算出することは測定誤差の大きい測定法である。また人工放射能による計数率から人工放射能量へ換算する為には人工放射能の分布に対する仮定が必要となる。コンクリート中の人工放射能の量が少くなると特に誤差が大きくなるという問題がある。
【0008】
本発明は上述した課題を解決するものであり、人工放射能からの放射線を直接計測することにより、測定精度の良い人工放射能測定装置及び測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための請求項1の発明の人工放射能測定装置は、天然放射能を含有する測定対象物中の人工放射能を測定する人工放射能測定装置において、前記測定対象物の両側に該測定対象物に検出面を向けて配置され、前記測定対象物から放出されるγ線による計数率を計数する一対の放射線検出手段と、前記一対の放射線検出手段によって同時間に計測された信号を計測する同時計数率測定手段と、前記同時計数率測定手段により測定した同時計数率と前記一対の放射線計測手段において計測された計数率から環境バックグランドによる計数率と測定対象物中の天然放射能濃度とに基づいて前記人工放射能量を求める人工放射能演算手段とを具えたことを特徴とするものである。
【0010】
請求項2の発明の人工放射能測定装置では、前記人工放射能演算手段は、前記各放射線検出手段によって計数された2つの計数率より算出された人工放射能による計数率Ca,Cbと、前記各放射線検出手段によって同時に計数された同時計数率Cとに基づいて下記数式
Q=Ca・Cb/2C
により前記人工放射能量Qを求めることを特徴としている。
【0011】
請求項3の発明の人工放射能測定装置では、前記放射線検出手段は、前記測定対象物に検出面を向けて配置され、前記測定対象物から放出されるβ線を捕獲可能であると共に前記測定対象物から放出されるγ線を透過可能であって、前記天然放射能のβ線による計数率と、前記天然放射能のγ線による計数率と、前記人工放射能のγ線による計数率とを合計した計数率を計数する第1の放射線検出器と、前記第1の放射線検出器の検出面とほぼ同一寸法形状の検出面を有し、該検出面が前記第1の放射線検出器の非検出面側に位置するように重ねて配置され、前記測定対象物から放出されて前記第1の放射線検出器を透過したγ線を捕獲可能であって、前記天然放射能のγ線による計数率と、前記人工放射能のγ線による計数率とをした合計計数率を計数する第2の放射線検出器と、前記第1の放射線検出器の検出面とほぼ同一寸法形状の遮断面を有し、前記第1の放射線検出器の検出面側に位置して前記測定対象物に前記遮断面を向けて重ねて配置され、前記測定対象物から放出された前記天然放射能のβ線を遮断する放射線遮断器とを有することを特徴としている。
【0012】
請求項4の発明の人工放射能測定装置では、前記人工放射能演算手段は、前記第1の放射線検出器が計数した計数率中のγ線の寄与を考慮してβ線による計数率を求め、このβ線による計数率から検出効率に応じて前記天然放射能のγ線による計数率を求め、前記第2の放射線検出器が計数した計数率から前記天然放射能のγ線による計数率を減算することで前記人工放射能のγ線による計数率を求めることを特徴としている。
【0013】
請求項5の発明の人工放射能測定装置では、前記放射線検出手段は、前記測定対象物に検出面を向けて配置され、前記測定対象物から放出されるγ線を捕獲可能で、前記天然放射能のγ線による計数率と、前記人工放射能のγ線による計数率とを合計した計数率を計数する放射線検出器であって、前記人工放射能演算手段は、前記放射線検出器が計数した計数率から事前分析により設定した前記天然放射能のγ線による計数率を減算することで前記人工放射能のγ線による計数率を求めることを特徴としている。
【0014】
請求項6の発明の人工放射能測定装置では、前記人工放射能演算手段は、前記測定対象物から前記放射線検出手段に入るγ線の入射割合を前記測定対象物の形状から推定し、該γ線の入射割合と前記放射線検出手段に入射したγ線の検出割合とに基づいて前記放射線検出手段の検出効率を求め、前記各放射線検出手段によって同時間に計数された前記同時計数率と前記検出効率とに基づいて前記人工放射能量を求めることを特徴としている。
【0015】
請求項7の発明の人工放射能測定装置では、前記人工放射能演算手段は、前記各放射線検出手段によって計数された2つの計数率から環境バックグラウンドによる計数率を減算した計数率を求め、この環境バックグラウンド成分を除いた計数率と前記コンクリートに含有する天然放射能濃度と前記各放射線検出手段によって同時に計数された同時計数率とに基づいて前記人工放射能量を求めることを特徴としている。
【0016】
請求項8の発明の人工放射能測定装置では、前記人工放射能演算手段は、前記各放射線検出手段によって計数された2つの計数率から環境バックグラウンドによる計数率を減算した計数率を求め、この環境バックグラウンド成分を除いた計数率と前記コンクリートに含有する全ての放射能量と前記各放射線検出手段によって同時に計数された同時計数率とに基づいて前記人工放射能量を求めることを特徴としている。
【0017】
また、請求項9の発明の人工放射能測定方法は、測定対象物の両側に配置された一対の放射線検出手段により前記測定対象物から放出されるγ線による計数率を計数し、前記一対の放射線検出手段によって同時間に計測された同時計数率とに基づいて人工放射能のγ線量を求めることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明の人工放射能測定装置によれば、測定対象物の両側にこの測定対象物から放出されるγ線による計数率を計数する一対の放射線検出手段を配置し、一対の放射線検出手段によって同時間に計測される信号を計数する同時計数率測定手段を設け、人工放射能演算手段が、同時計数率測定手段により測定した同時計数率と一対の放射線計測手段において計測された計数率から環境バックグランドによる計数率と測定対象物中の天然放射能濃度とに基づいて人工放射能量を求めるので、人工放射能の誤差の少い測定及び測定作業の簡素化を図ることができる。
【0019】
請求項2の発明の人工放射能測定装置によれば、人工放射能演算手段は、各放射線検出手段によって計数された2つの同時計数率より算出された人工放射能による計数率Ca,Cbと、各放射線検出手段によって同時に計数された同時計数率Cとに基づいて数式「Q=Ca・Cb/2C」により人工放射能のγ線量Qを求めるので、人工放射能のコンクリート中の分布を仮定する必要がなく誤差の少い測定ができる。
【0020】
請求項3の発明の人工放射能測定装置によれば、放射線検出手段を、天然放射能のβ線による計数率と、天然放射能のγ線による計数率と、人工放射能のγ線による計数率とを合計した計数率を計数する第1の放射線検出器と、第1の放射線検出器を透過した天然放射能のγ線による計数率と、人工放射能のγ線による計数率とを合計した計数率を計数する第2の放射線検出器と、測定対象物から放出された天然放射能のβ線を遮断する放射線遮断器とから構成したので、事前にコンクリート中の天然放射能濃度を求めておく必要はなく測定作業の簡素化を図ることができる。
【0021】
請求項4の発明の人工放射能測定装置によれば、人工放射能演算手段は、第1の放射線検出器が計数した計数率中のγ線の寄与を考慮してβ線による計数率を求め、このβ線による計数率から検出効率に応じて天然放射能のγ線による計数率を求め、第2の放射線検出器が計数した計数率から天然放射能のγ線による計数率を減算することで人工放射能のγ線による計数率を求めるので、事前にコンクリート中の天然放射能濃度を求めておく必要はなく測定作業の簡素化を図ることができる。
【0022】
請求項5の発明の人工放射能測定装置によれば、放射線検出手段を、天然放射能のγ線による計数率と人工放射能のγ線による計数率とを合計した計数率を計数する放射線検出器とし、人工放射能演算手段は、放射線検出器が計数した計数率から事前分析により設定した天然放射能のγ線による計数率を減算することで人工放射能のγ線による計数率を求めるので、人工放射能のコンクリート中の分布を仮定する必要がなく誤差の少い測定ができる。
【0023】
請求項6の発明の人工放射能測定装置によれば、人工放射能演算手段は、測定対象物から放射線検出手段に入るγ線の入射割合を測定対象物の形状から推定し、このγ線の入射割合と放射線検出手段に入射したγ線の検出割合とに基づいて放射線検出手段の検出効率を求め、各放射線検出手段によって同時間に計数された同時計数率と検出効率とに基づいて人工放射能量を求めるので、事前にコンクリート中の天然放射能濃度を求めておく必要はなく測定作業の簡素化を図ることができる。
【0024】
請求項7の発明の人工放射能測定装置によれば、人工放射能演算手段は、各放射線検出手段によって計数された2つの計数率から環境バックグラウンドによる計数率を減算した計数率を求め、この環境バックグラウンド成分を除いた計数率とコンクリートに含有する天然放射能濃度と各放射線検出手段によって同時に計数された同時計数率とに基づいて人工放射能のγ線量を求めるので、コンクリート形状を基にコンクリート中の天然放射能濃度から天然放射能による計数率を評価する必要はなく、人工放射能の誤差の少い測定及び測定作業の簡素化を図ることができる。
【0025】
請求項8の発明の人工放射能測定装置によれば、人工放射能演算手段は、各放射線検出手段によって計数された2つの計数率から環境バックグラウンドによる計数率を減算した計数率を求め、この環境バックグラウンド成分を除いた計数率とコンクリートに含有する全ての放射能量と各放射線検出手段によって同時に計数された同時計数率とに基づいて人工放射能のγ線量を求めるので、コンクリート形状を基にコンクリート中の天然放射能濃度から天然放射能による計数を評価する必要はなく、人工放射能の誤差の少い測定及び測定作業の簡素化を図ることができる。
【0026】
また、請求項9の発明の人工放射能測定方法によれば、測定対象物の両側に配置された一対の放射線検出手段により測定対象物から放出されるγ線による計数率を計数し、一対の放射線検出手段によって同時間に計測された同時計数率に基づいて人工放射能量を求めるようにしたので、人工放射能によるγ線計数率を用いて人工放射能量を評価しているので、誤差の少い測定ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る人工放射能測定装置及び測定方法の好適な実施例を詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
図1は、本発明の実施例1に係る人工放射能測定装置の概略図、図2は、実施例1の人工放射能測定装置によるコンクリートから放出される放射線の測定方法を表す概略図、図3は、コバルト60の崩壊を説明するための説明図、図4は、実施例1の人工放射能測定装置に入力する測定信号波形を表す模式図ある。
【0029】
実施例1の人工放射能測定装置は、図1に示すように、天然放射能を含有する測定対象物としてのコンクリート10中の人工放射能を測定するものである。即ち、本実施例の人工放射能測定装置は、コンクリート10の両側にこのコンクリート10に検出面を向けて配置され、コンクリート10から放出されるγ線による計数率を計数する一対の放射線検出装置11,21と、この一対の放射線検出装置11,21によって同時間に計数された信号のみを計数する同時計測部(同時計数率測定手段)31と、この同時計測部31により計測される同時計測計数率と一対の放射線検出装置11,21により計数された2つの計数率に基づいて人工放射能の放射能量を求める人工放射能量演算部(人工放射能演算手段)32とから構成されている。
【0030】
この放射線検出装置11,21は、第1の放射線検出器としての極薄平板型プラスチックシンチレータ検出器12,22と、第2の放射線検出器としての平板型NaI(Tl)シンチレータ検出器13,23と、放射線遮断器としてのアルミニウム製カット板14,24と、計数率演算部15,25とを有している。ここで、天然放射能は、カリウム40(K-40)、ウラン(U)、トリウム(Th)及びその娘核種などがある。天然放射能の大部分はK-40であるため、以下天然放射能をK-40で代表させる。人工放射能は、コバルト60(Co-60)、セシウム137(Cs)がある。人工放射能はCo-60で代表させて考える。
【0031】
図1及び図2に示すように、極薄平板型プラスチックシンチレータ検出器12,22は、その検出面がコンクリート10に向けて互いに対向して配置されており、コンクリート10から放出されるβ線を捕獲可能であると共に、コンクリート10から放出されるγ線を透過可能である。そして、この極薄平板型プラスチックシンチレータ検出器12,22は、天然放射能(カリウム40)のβ線による計数率AP,BPと、天然放射能のγ線による計数率Kpa,Kpbと、人工放射能(コバルト60)のγ線による計数率Cpa,Cpbと、環境バックグラウンド成分による計数率GBpa,GBpbとを合計した計数率APa,APbを計数することができる。この場合、極薄平板型プラスチックシンチレータ検出器12,22の厚みは0.1〜0.3mm程度である。
【0032】
平板型NaI(Tl)シンチレータ検出器13,23は、極薄平板型プラスチックシンチレータ検出器12,22の検出面とほぼ同一寸法形状の検出面を有し、この検出面が極薄平板型プラスチックシンチレータ検出器12,13の非検出面側に位置するように重ねて配置され、コンクリート10から放出されて極薄平板型プラスチックシンチレータ検出器12,22を透過したγ線を捕獲可能である。そして、天然放射能のγ線による計数率Ka,Kbと、人工放射線のγ線による計数率Ca,Cbと、環境バックグラウンド成分による計数率GBa,GBbとを合計した計数率Aa,Abを計数することができる。この場合、平板型NaI(Tl)シンチレータ検出器13,23の厚みは1cm程度である。
【0033】
アルミニウム製カット板14,24は、極薄平板型プラスチックシンチレータ検出器12,22の検出面とほぼ同一寸法形状の遮断面を有し、この極薄平板型プラスチックシンチレータ検出器12,13の検出面側に位置してコンクリート10に遮断面を向けて重ねて配置され、コンクリート10から放出された人工放射能のβ線を遮断することができる。即ち、天然放射能であるカリウム40におけるβ線の最大エネルギは、1.314MeVであり、人工放射能としてのコバルト60におけるβ線の最大エネルギは、0.318MeVであり、また、最大エネルギのβ線のアルミニウム中での飛程は、カリウム40で約1.9mm、コバルト60で約0.3mmである。そのため、アルミニウム製カット板14,24の厚さを0.3mm以上とすることで、コバルト60におけるβ線(最大エネルギ=0.318MeV)を遮断することができる。
【0034】
従って、コンクリート10から各放射線検出装置11,21に向けて放出された放射線は、まず、アルミニウム製カット板14,24の遮断面に到達するが、ここで、人工放射能のβ線だけがカットされ、天然放射能のβ線、天然放射能及び人工放射能の各γ線が透過する。次に、コンクリート10から放出された残りの放射線は、極薄平板型プラスチックシンチレータ検出器12,22の検出面に到達するが、このうち、天然放射能及び人工放射能の各γ線は透過力が強いため、そのほとんどが極薄平板型プラスチックシンチレータ検出器12,22を透過してしまい、平板型NaI(Tl)シンチレータ検出器2の検出面に到達する。一方、極薄平板型プラスチックシンチレータ検出器12,22に到達した天然放射能のβ線は、ここでエネルギが奪われて透過力がなくなるため、極薄平板型プラスチックシンチレータ検出器12,22を透過して厚型NaI(Tl)シンチレータ検出器13,23に到達することができない。
【0035】
なお、極薄平板型プラスチックシンチレータ検出器12,22及び平板型NaI(Tl)シンチレータ検出器13,23はコンクリートからの放射線が検出器に入射する割合が増加する様、大面積の平板状の検出器とし、検出器で発行した螢光を信号として取り出すために検出器12,22,13,23の放射線が入射してくる側とは反対の面に螢光性ファイバーを設定し、検出器で発生した螢光を集光・伝搬して信号として取り出す様にすると良い。
【0036】
そして、取り出した光信号は、図示しない光電子増倍管により電気信号に変換し、変換した電気信号を計数率演算部15,25に出力する。そして、この計数率演算部15,25では、極薄平板型プラスチックシンチレータ検出器12,22が検出した計数率APa,APbと、平板NaI(Tl)シンチレータ検出器13,23が検出した計数率Aa,Abとに基づいて、人工放射能、つまり、コバルト60のγ線による計数率Ca,Cbを算出し、同時計測部31では同時計数率Cを算出する。
【0037】
ここで、計数率演算部15,25によるコバルト60のγ線による計数率Ca,Cbの算出方法について説明する。薄型プラスチックシンチレータ検出器12,22による計数率APa,APbは、天然放射能のβ線による計数率AP,BPと、天然放射能のγ線による計数率Kpa,Kpbと、人工放射能(コバルト60)のγ線による計数率Cpa,Cpbと、環境バックグラウンド成分による計数率GBpa,GBpbとを合計したものであり、下記数式により表すことができる。
APa=AP+Kpa+Cpa+GBpa
APb=BP+Kpb+Cpb+GBpb
【0038】
また、厚型NaI(Tl)シンチレータ検出器13,23による計数率Aa,Abは、天然放射能のγ線による計数率Ka,Kbと、人工放射線のγ線による計数率Ca,Cbと、環境バックグラウンド成分による計数率GBa,GBbとを合計したものであり、下記数式により表すことができる。
Aa=Ka+Ca+GBa
Ab=Kb+Cb+GBb
ここで、求めるものは、天然放射線(コバルト60)γ線による計数率Ca,Cbであるため、上記数式を変形する。
Ca=Aa−Ka−GBa
Cb=Ab−Kb−GBb
【0039】
この場合、コンクリート10は平板形状であるため、天然放射能のβ線による計数率AP,BPからその検出効率に基づいて天然放射能の濃度を設定し、コンクリート10の形状測定データ(高さと面積)より天然放射能のγ線による計数率Ka,Kbを求めることができる。なお、薄型プラスチックシンチレータ検出器12,13のγ線による計数率と厚型NaI(Tl)シンチレータ検出器13,23のγ線による計数率との比Ma,Mbは一定であることから下記数式が成り立つ。Ma,Mbは検出器に依存する値であり、事前に評価できる。
Cpa/Ca=Kpa/Ka=Ma−GBa
Cpb/Cb=Kpb/Kb=Mb−GBb
従って、天然放射能のβ線による計数率AP,BPは、下記数式により求められる。
AP=APa−Aa・Ma
BP=APb−Ab・Mb
【0040】
また、環境バックグラウンド成分による計数率GBa,GBbは、コンクリートを計測器に設置しない時の計数率もしくは必要があれば環境バックグランド成分のγ線のコンクリートによる減衰効果を補正した計数率であり、事前に計測して求めるか、事前に計測した計数率に対してコンクリートの形状・密度を考慮して評価できる値である。
【0041】
ところで、コバルト60のγ線による計数率Ca,Cbは、コンクリート10中の人工放射能のγ線量Qから放出されるγ線発生数に、コンクリート10から放射線検出装置11,21に入る人工放射能のγ線の入射割合ωa,ωbと、放射線検出装置のγ線検出器13,23に入射した人工放射能のγ線の検出割合εa,εbとを乗算して求めることができる。
Ca=Q・ωa・εa
Cb=Q・ωb・εb
なお、γ線の入射割合ωa,ωbには、コンクリート10中での減衰効率と立体角の効果を含んでおり、また、散乱によるエネルギが減少したγ線も含んだ、コバルト60のBq当たりの2γ/secの放出に対する割合である。
【0042】
また、本実施例では、同時計測部31は、γ線検出器13,23における同時計測の信号を計測し、同時計測の計数率を求めるようにしている。
【0043】
即ち、図3に示すように、人工放射能であるコバルト60(Co-60)は、図3に示すように、β線を放出した後、1173KeVのガンマ線のエネルギを放出し、続いて1333KeVのガンマ線のエネルギを放出する。そして、上述した各γ線検出器13,23は、図4に示すように、人工放射能としてのコバルト60の信号C1(1173KeV),C2(1333Kevによる)他に、天然放射能としてのカリウム40の信号Kや環境γ線の信号Bを検出すると共に、ノイズの信号nを検出する。従って、同時計測部31は、同時刻に、一方のγ線検出器13がコバルト60から放出されるγ線の1つを検出し、他方のγ線検出器23がコバルト60の残りのγ線を検出したとき、同時計測部31は人工放射能であるコバルト60からのγ線を検出したものと判定し、同時計測信号Cを出力する。
【0044】
そして、人工放射能量演算部32は、このときのコバルト60のγ線による同時計数率Cとγ線検出器13,23の計数率から天然放射能によるγ線計数率と環境γ線による計数率を除いて求めたコバルト60のγ線による計数率Ca,CbとよりCo-60の放射能量Qを算出する。
ここで、
Ca=Q・ωa・εa
Cb=Q・ωb・εb
であるため、コバルト60のγ線による同時計数率Cは、次の様に記述できる。
C=Q・ωa・εa・ωb・εb・(1/2)
そして、上記3つの数式より下記数式を求めることができ、この数式にコバルト60のγ線による計数率Ca,Cb及びコバルト60のγ線による同時計数率Cを入力することで、コンクリート10中の人工放射能の量Qを求めることができる。
Q=(Ca・Cb)/2C
【0045】
このように実施例1の人工放射能測定装置及び測定方法にあっては、コンクリート10の両側に極薄平板型プラスチックシンチレータ検出器12,22と平板型NaI(Tl)シンチレータ検出器(γ線検出器)13,23とアルミニウム製カット板14,24とからなる一対の放射線検出装置11,21を設け、この一対のγ線検出器である平板型NaI(T?)シンチレータ検出器13,23により同時に計測された信号を検出する同時計測部31で計測される同時計測計数率Cに基づいて人工放射能量を求めるようにしている。この場合、コンクリート10が平板形状であるため、天然放射能のβ線による計数率AP,BPからその検出効率に基づいて天然放射能の濃度を設定し、コンクリート10の形状測定データより天然放射能のγ線による計数率Ka,Kbを求めている。
【0046】
従って、平板型NaI(Tl)シンチレータ検出器13,23が検出した計数率Aa,Abと、極薄平板型プラスチックシンチレータ検出器12,22が検出した計数率APa,APbから求めた天然放射能のγ線による計数率Ka,Kbに基づいて、コバルト60のγ線による計数率Ca,Cbと、同時計測したコバルト60のγ線による同時計数率Cと求め、これらに基づいてコンクリート10中の人工放射能量Qを求めることができ、コンクリート10から放射線検出装置11,21に入る人工放射能のγ線の入射割合ωa,ωbや、放射線検出装置11,21に入射した人工放射能のγ線の検出割合εa,εbを直接求めることなく、人工放射能量または人工放射能濃度を求めることができ、その結果、人工放射能の誤差の少ない測定及び測定作業の簡素化を図ることができる。
【実施例2】
【0047】
図5は、本発明の実施例2に係る人工放射能測定装置の概略図である。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0048】
実施例2の人工放射能測定装置は、図5に示すように、測定対象物としてのコンクリート40の両側にこのコンクリート40に検出面を向けて配置され、コンクリート40から放出されるγ線による計数率を計数する一対の放射線検出装置41,51と、この一対の放射線検出装置41,51によって同時間に計測された信号を計数する同時計測部(測定時期設定手段)61と、この同時計測部61により計測された同時計数率に基づいて人工放射能量を求める人工放射能量演算部(人工放射能演算手段)62とから構成されている。
【0049】
そして、この放射線検出装置41,51は、平板型NaI(Tl)シンチレータ検出器であって、計数率演算部42,52を有している。即ち、放射線検出装置(平板型NaI(Tl)シンチレータ検出器)41,51は、コンクリート40から放出されたγ線を捕獲可能であり、人工放射能のγ線による計数率Ca,Cbと、天然放射能のγ線による計数率Ka,Kbと、環境バックグラウンド成分による計数率GBa,GBbとを合計した合計計数率Aa,Abを計数することができる。
【0050】
そして、求めたコンクリート40から放出された放射能のγ線による計数率Aa,Abに基づいて、計数率演算部42,52では、人工放射能であるコバルト60のγ線による計数率Ca,Cbを算出し、人工放射能量演算部62に出力する。
【0051】
ここで、計数率演算部42,52によるコバルト60のγ線による計数率Ca,Cbの算出方法について説明する。放射線検出装置41,51による計数率Aa,Abは、天然放射能のγ線による計数率Ka,Kbと、人工放射能のγ線による計数率Ca,Cbと、環境バックグラウンド成分による計数率GBa,GBbとが合計されたものであり、下記数式により表すことができる。
Aa=Ka+Ca+GBa
Ab=Kb+Cb+GBb
ここで、求めるものは、人工放射能(コバルト60)のγ線による計数率Ca,Cbであるため、上記数式を変形する。
Ca=Aa−Ka−GBa
Cb=Ab−Kb−GBb
【0052】
この場合、事前分析、つまり、コンクリート40の形状、重量、組成により天然放射能のγ線による計数率Ka,Kbを設定する。
【0053】
また、本実施例では、同時計測部61が、各放射線検出装置41,51によって同時間に計測される信号を計数にする同時計測部61により計測される同時計数率Cを求めるようにしている。なお、コバルト60のγ線による同時計数率Cの同時計測方法は、前述した実施例と同様である。
【0054】
そして、下記数式にコバルト60のγ線による計数率Ca,Cb及びコバルト60のγ線による合計計数率Cを入力することで、コンクリート40中の人工放射能量Qを求めることができる。
Q=(Ca・Cb)/2C
【0055】
このように実施例2の人工放射能測定装置及び測定方法にあっては、コンクリート40の両側に平板型NaI(Tl)シンチレータ検出器からなる一対の放射線検出装置41,51を設け、同時計測部61で同時計数率を求め、この同時計数率に基づいて人工放射能量を求めるようにしている。この場合、コンクリート40の天然放射能による計数率が不明であるため、事前の分析により天然放射能の密度を求め、コンクリート中の天然放射能濃度は均一としコンクリートの形状を基に天然放射能のγ線による計数率Ka,Kbを求めている。
【0056】
従って、放射線検出装置41,51が検出した合計計数率Aa,Abと、事前分析により求めた天然放射能のγ線による計数率Ka,Kbに基づいて、コバルト60のγ線による計数率Ca,Cbと、同時計測したコバルト60のγ線による同時計数率Cと求め、これらに基づいてコンクリート40中の人工放射能のγ線量Qを求めることができ、コンクリート中の人工放射能の分布について仮定を設けることなくコンクリート中の人工放射能量又は人工放射能濃度を求めることができ、その結果精度の良い測定ができる。
【実施例3】
【0057】
図6−1は、本発明の実施例3に係る人工放射能測定装置の概略図、図6−2は、放射能の分布位置に対する単位放射能量当りの同時計数率を表すグラフ、図7−1は、異なるコンクリート形状に対応した実施例3の人工放射能測定装置の概略図、図7−2は、放射能の分布位置に対する単位放射能量当りの同時計数率を表すグラフある。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0058】
実施例3の人工放射能測定装置は、図6−1及び図7−1に示すように、測定対象物としてのコンクリート70,80の両側にこのコンクリート70,80から放出されるγ線による計数率を計数する一対の放射線検出装置41,51と、この一対の放射線検出装置41,51によって同時間に計測される信号を計数する同時計測部61と、この同時計測部61により計測される同時計数率を求め、この合計計数率に基づいて人工放射能量を求める人工放射線量演算部62とから構成されている。
【0059】
そして、この放射線検出装置41,51は、平板型NaI(Tl)シンチレータ検出器であって、計数率演算部42,52を有している。即ち、放射線検出装置41,51は、コンクリート40から放出されたγ線を捕獲可能であり、人工放射能のγ線による計数率Ca,Cbと、天然放射能のγ線による計数率Ka,Kbと、環境バックグラウンド成分による計数率GBa,GBbとを合計した合計計数率Aa,Abを計数することができる。
【0060】
そして、求めたコンクリート70,80から放出されたγ線による計数率Aa,Abに基づいて、計数率演算部42,52では、人工放射能、つまり、コバルト60のγ線による計数率Ca,Cbを算出し、人工放射能量演算部62に出力する同時計測部61に出力する。なお、天然放射能のγ線による計数率Ka,Kbと、環境バックグラウンド成分による計数率GBa,GBbとの求め方は、前述した実施例2と同様である。
【0061】
また、同時計測部61は、各放射線検出装置41,51によって同時間に計測される信号を計数する同時計測部61により同時計測される同時計数率Cを求める。
【0062】
ところで、本実施例では、コンクリート70,80が平板形状ではなく、異形をなしており、人工放射能の分布状態が不明となっている。ところが、コンクリート70にて、図6-2に示すように、人工放射能が均一に分布しているものと、人工放射能が中心部に分布しているものと、人工放射能が表面70aに分布しているもので、放射線検出装置41,51を用いた同時計測により求めた単位放射能量当りの同時計数率はほぼ同程度となっている。また、コンクリート80にて、図7-2に示すように、人工放射能が均一に分布しているものと、人工放射能が上面80aに分布しているものと、人工放射能が側面80bに分布しているものと、工放射能が下面80cに分布しているものとで、放射線検出装置41,51を用いた同時計測により求めた単位放射能当りの同時計数率はほぼ同程度となっている。
【0063】
従って、コンクリート70,80の形状に拘らず、放射線検出装置41,51への放射能の検出効率ZTを人工放射能の分布が均一であるとしてコンクリートの形状を基に評価し、下記数式によりこの検出効率ZTを設定する。
T=ωa・ωb・εa・εb・(1/2)
そして、下記数式にこの検出効率ZTとコバルト60のγ線による同時計数率Cを入力することで、コンクリート10中の人工放射能のγ線量Qを求めることができる。
Q=C/ZT
【0064】
このように実施例3の人工放射能測定装置及び測定方法にあっては、コンクリート70、80の両側に平板型NaI(Tl)シンチレータ検出器からなる一対の放射線検出装置41,51を設け、同時計測部61が設定した計測する同時計数率Cを求め、この同時計数率Cに基づいて人工放射能量を求めるようにしている。この場合、コンクリート70,80の形状に拘らず、放射線検出装置41,51での同時計測の検出効率ZTを人工放射能の分布が均一と設定して同コンクリート形状を基に評価している。
【0065】
従って、放射線検出装置41,51での同時計測の検出効率ZTと、放射線検出装置41,51の同時計測により求めた同時計数率Cに基づいて、コンクリート70,800中の人工放射能量Qを求めることができ、環境バックグラウンド成分による計数率GBa,GBbや、天然放射能の濃度情報がなくても、人工放射能量または人工放射能の濃度を求めることができ、その結果、事前にコンクリート中の天然放射能濃度を求めておく必要はなく、人工放射能の測定作業の簡素化を図ることができる。
【実施例4】
【0066】
実施例4の人工放射能測定装置の構成は、前述した実施例2と同様であるため、図5を用いて説明する。実施例4の人工放射能測定装置は、図5に示すように、コンクリート40の両側にこのコンクリート40に検出面を向けて配置され、コンクリート40から放出されるγ線による計数率を計数する一対の放射線検出装置41,51と、この一対の放射線検出装置41,51によって同時間に計測される信号を計数する同時計測部61と、この同時計測部61により計測する同時計数率を求め、この合計計数率に基づいて人工放射能のγ線量を求める人工放射線量演算部62とから構成されている。
【0067】
放射線検出装置41,51は、平板型NaI(Tl)シンチレータ検出器であり、人工放射能のγ線による計数率Ca,Cbと、天然放射能のγ線による計数率Ka,Kbと、環境バックグラウンド成分による計数率GBa,GBbとを合計した計数率Aa,Abを計数することができるが、実施例4では、環境バックグラウンド成分による計数率GBa,GBbを除いた計数率Aa-BG,Ab-BGについて考える。
【0068】
即ち、前述したように、
Aa=Ka+Ca+GBa
Ab=Kb+Cb+GBb
であり、この数式を変形すると、下記数式となる。
Aa-BG=Aa−BGa=Ca+Ka=Qωa・εa+βaS
Ab-BG=Ab−BGb=Cb+Kb=Qωa・εb+βbS
ここで、Sは、コンクリート40中の天然放射能としてのカリウム40の放射能量(濃度とコンクリート重量で算出できる)であり、βa、βbは、このカリウム40の放射能量に比例した検出効率である。
【0069】
そして、人工放射線としてのコバルト60とこのカリウム40は、コンクリート40中で均一に分布すると考えると、下記数式が成り立つ。ここで、β0は、比例定数であり、天然放射能によるγ線と人工放射能によるγ線との放射線検出装置41,51での応答性の違いである。
βa/(ωa・ωb)=βb/(εa・εb)=β0
この数式を上記Aa-BG、Ab-BGの数式に適合すると、
Aa-BG=ωa・εa(Q+β0S)
Ab-BG=ωb・εb(Q+β0S)
また、
2C=Q・ωa・εa・ωb・εb
そして、
Aa-BG・Ab-BG=(2C/Q)・(Q+β0S)2
また、
f=(Aa-BG・Ab-BG)/2Cとおくと、人工放射能量Qは下記数式より求められる。
【0070】
【数1】

【0071】
従って、人工放射線量演算部62は、この数式1にf(環境バックグラウンド成分による計数率GBa,GBbを除いた計数率Aa-BG、Ab-BG、コンクリート40中の人工放射能による同時計数率Cより求められる、比例定数β0、コンクリート40中の天然放射能としてのカリウム40の放射能量Sを代入することで、コンクリート40中の人工放射能のγ線量Qを求めることができる。
【0072】
このように実施例4の人工放射能測定装置及び測定方法にあっては、コンクリート40の両側に厚型NaI(Tl)シンチレータ検出器からなる一対の放射線検出装置41,51を設け、同時計測部61が計測する同時計数率Cを求め、この同時計数率に基づいて人工放射能量を求めるようにしている。この場合、環境バックグラウンド成分による計数率GBa,GBbを除いた計数率Aa-BG,Ab-BGを用いて人工放射能のγ線量Qを求めている。
【0073】
従って、放射線検出装置41,51が検出した同時計測よるコバルト60のγ線の同時計数率Cと、環境バックグラウンド成分による計数率GBa,GBbを除いた計数率Aa-BG,Ab-BGと、コンクリート40中の天然放射能としてのカリウム40の放射能量Sとを求め、これらに基づいてコンクリート40中の人工放射能量Qを求めることができ、コンクリート40の形状データを求めることなく、人工放射能量または人工放射能の濃度を求めることができ、その結果、人工放射能算出時の演算操作に伴う誤差が少なく、人工放射能量が少くても測定でき、人工放射能の測定作業の簡素化を図ることができる。
【実施例5】
【0074】
実施例5の人工放射能測定装置の構成は、前述した実施例2、4と同様であるため、図5を用いて説明する。実施例5の人工放射能測定装置は、図5に示すように、コンクリート40の両側にこのコンクリート40に検出面を向けて配置され、コンクリート40から放出されるγ線による計数率を計数する一対の放射線検出装置41,51と、この一対の放射線検出装置41,51によって同時間に計測される信号を計数する同時計測部61と、この同時計測部61により計測する同時計数率を求め、この同時計数率に基づいて人工放射能量を求める人工放射線量演算部62とから構成されている。
【0075】
放射線検出装置41,51は、平板型NaI(Tl)シンチレータ検出器であり、人工放射線のγ線による計数率Ca,Cbと、天然放射能のγ線による計数率Ka,Kbと、環境バックグラウンド成分による計数率GBa,GBbとを合計した計数率Aa,Abを計数することができるが、コンクリート40中にコバルト60以外の人工放射能が存在する場合、または、コンクリート40中の天然放射線能量が不明の場合、実施例5では、環境バックグラウンド成分による計数率GBa,GBbを除いた計数率Aa-BG,Ab-BGによりコンクリート40中の総放射能量Tを求める。このコンクリート40中の総放射能量Tは、例えば、前述した実施例1の装置または、特開2003−4886号公報に記載されたもので求める。
【0076】
コンクリート40中の天然放射能の放射能量もしくは天然放射能量とCo-60を除いた人工放射能量を加算した放射能量S(Sは放射能濃度とコンクリート重量の積で求まる)は、下記数式のように、コンクリート40中の総放射能量Tから人工放射能のCo-60量Qを減算して求めることができる。
S=T−Q
ここで、前述した実施例4の測定方法を用いると、
Aa-BG・Ab-BG=(2C/Q)・{(1−β0*)Q+β0*T)2
また、上記数式は、Qについての2次式であるため、コンクリート40中の人工放射能のCo-60量Qを求めることができる。β0*は比例定数である。
【0077】
また、比例定数β0*が1に近似した数値の場合、下記数式でもコンクリート40中の人工放射能のγ線量Qを求めることができる。
Q=(2C・β*02・T2)/Aa-BG・Ab-BG
【0078】
従って、人工放射線量演算部62は、この上記各数式に各数値を代入することで、コンクリート40中のCo-60人工放射能量Qを求めることができる。
【0079】
このように実施例5の人工放射能測定装置及び測定方法にあっては、コンクリート40の両側に平板型NaI(Tl)シンチレータ検出器からなる一対の放射線検出装置41,51を設け、同時計測部61が計測した同時計数率Cを求め、この同時計数率に基づいて人工放射能のCo-60量を求めるようにしている。この場合、コンクリート40中にコバルト60以外の人工放射能が存在する場合、また、コンクリート40中の天然放射能量が不明の場合に、環境バックグラウンド成分による計数率GBa,GBbを除いた合計計数率Aa-BG,Ab-BGによりコンクリート40中の総放射能量Tを求めてから、人工放射能Co-60量Qを求めている。
【0080】
従って、放射線検出装置41,51が検出した合計計数率Aa,Abに基づいて同時計測したコバルト60のγ線による同時計数率Cと、環境バックグラウンド成分による計数率GBa,GBbを除いた合計計数率Aa-BG,Ab-BGと、コンクリート40中の総放射能量Tとを求め、これらに基づいてコンクリート40中の人工放射能Co-60量Qを求めることができ、コンクリート40の形状データを求めることなく、また、コンクリート40中にコバルト60以外の天然放射能が存在していたり、コンクリート40中の天然放射能量が不明であっても、人工放射能量または人工放射能濃度を求めることができ、その結果、コンクリート形状を基にコンクリート中の天然放射能濃度から天然放射能による計数率を評価する必要もなく、人工放射能の誤差の少い測定及び測定作業の簡素化を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係る人工放射能測定装置及び測定方法は、2つの検出器による同時計測で人工放射線量を検出するものであり、いずれの種類の測定対象物の人工放射能測定装置及び方法にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施例1に係る人工放射能測定装置の概略図である。
【図2】実施例1の人工放射能測定装置によるコンクリートから放出される放射線の測定方法を表す概略図である。
【図3】コバルト60の崩壊を説明するための説明図である。
【図4】実施例1の人工放射能測定装置に入力する測定信号波形を表す模式図である。
【図5】本発明の実施例2に係る人工放射能測定装置の概略図である。
【図6−1】本発明の実施例3に係る人工放射能測定装置の概略図である。
【図6−2】放射能の分布位置に対する単位放射能量当りの同時計数率を表すグラフである。
【図7−1】異なるコンクリート形状に対応した実施例3の人工放射能測定装置の概略図である。
【図7−2】放射能の分布位置に対する単位放射能量当りの同時計数率を表すグラフである。
【符号の説明】
【0083】
10,40,70,80 コンクリート(測定対象物)
11,21,41,51 放射線検出装置
12,22 極薄平板型プラスチックシンチレータ検出器(第1の放射線検出器)
13,23 平板型NaI(Tl)シンチレータ検出器(第2の放射線検出器)
14,24 アルミニウム製カット板(放射線遮断器)
31,61 同時計測部(同時計数率測定手段)
32,62 人工放射能量演算部(人工放射能演算手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然放射能を含有する測定対象物中の人工放射能を測定する人工放射能測定装置において、
前記測定対象物の両側に該測定対象物に検出面を向けて配置され、前記測定対象物から放出されるγ線による計数率を計数する一対の放射線検出手段と、
前記一対の放射線検出手段によって同時間に計測された信号を計測する同時計数率測定手段と、
前記同時計数率測定手段により測定した同時計数率と前記一対の放射線計測手段において計測された計数率から環境バックグランドによる計数率と測定対象物中の天然放射能濃度とに基づいて前記人工放射能量を求める人工放射能演算手段と
を具えたことを特徴とする人工放射能測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の人工放射能測定装置において、前記人工放射能演算手段は、前記各放射線検出手段によって計数された2つの計数率より算出された人工放射能による計数率Ca,Cbと、前記各放射線検出手段によって同時に計数された同時計測計数率Cとに基づいて下記数式
Q=Ca・Cb/2C
により前記人工放射能のγ線量Qを求めることを特徴とする人工放射能測定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の人工放射能測定装置において、前記放射線検出手段は、
前記測定対象物に検出面を向けて配置され、前記測定対象物から放出されるβ線を捕獲可能であると共に前記測定対象物から放出されるγ線を透過可能であって、前記天然放射能のβ線による計数率と、前記天然放射能のγ線による計数率と、前記人工放射能のγ線による計数率とを合計した合計計数率を計数する第1の放射線検出器と、
前記第1の放射線検出器の検出面とほぼ同一寸法形状の検出面を有し、該検出面が前記第1の放射線検出器の非検出面側に位置するように重ねて配置され、前記測定対象物から放出されて前記第1の放射線検出器を透過したγ線を捕獲可能であって、前記天然放射能のγ線による計数率と、前記人工放射線のγ線による計数率とを合計した計数率を計数する第2の放射線検出器と、
前記第1の放射線検出器の検出面とほぼ同一寸法形状の遮断面を有し、前記第1の放射線検出器の検出面側に位置して前記測定対象物に前記遮断面を向けて重ねて配置され、前記測定対象物から放出された前記天然放射能のβ線を遮断する放射線遮断器と
を有することを特徴とする人工放射能測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の人工放射能測定装置において、前記人工放射能演算手段は、前記第1の放射線検出器が計数した計数率中のγ線の寄与を考慮してβ線による計数率を求め、このβ線による計数率から検出効率に応じて前記天然放射能のγ線による計数率を求め、前記第2の放射線検出器が計数した合計計数率から前記天然放射能のγ線による計数率を減算することで前記人工放射能のγ線による計数率を求めることを特徴とする人工放射能測定装置。
【請求項5】
請求項1に記載の人工放射能測定装置において、前記放射線検出手段は、前記測定対象物に検出面を向けて配置され、前記測定対象物から放出されるγ線を捕獲可能で、前記天然放射能のγ線による計数率と、前記人工放射能のγ線による計数率とを合計した計数率を計数する放射線検出器であって、前記人工放射能演算手段は、前記放射線検出器が計数した計数率から事前分析により設定した前記天然放射能のγ線による計数率を減算することで前記人工放射能のγ線による計数率を求めることを特徴とする人工放射能測定装置。
【請求項6】
請求項1に記載の人工放射能測定装置において、前記人工放射能演算手段は、前記測定対象物から前記放射線検出手段に入るγ線の入射割合を前記測定対象物の形状から推定し、該γ線の入射割合と前記放射線検出手段に入射したγ線の検出割合とに基づいて前記放射線検出手段の検出効率を求め、前記各放射線検出手段によって同時間に計数された前記同時計数率と前記検出効率とに基づいて前記人工放射能量を求めることを特徴とする人工放射能測定装置。
【請求項7】
請求項1に記載の人工放射能測定装置において、前記人工放射能演算手段は、前記各放射線検出手段によって計数された2つの同時計数率から環境バックグラウンドによる計数率を減算した計数率を求め、この環境バックグラウンド成分を除いた計数率と前記コンクリートに含有する天然放射能濃度と前記各放射線検出手段によって同時に計数された同時計数率とに基づいて前記人工放射能量を求めることを特徴とする人工放射能測定装置。
【請求項8】
請求項1に記載の人工放射能測定装置において、前記人工放射能演算手段は、前記各放射線検出手段によって計数された2つの同時計数率から環境バックグラウンドによる計数率を減算した計数率を求め、この環境バックグラウンド成分を除いた計数率と前記コンクリートに含有する全ての放射能量と前記各放射線検出手段によって同時に計数された同時計数率とに基づいて前記人工放射能量を求めることを特徴とする人工放射能測定装置。
【請求項9】
測定対象物の両側に配置された一対の放射線検出手段により前記測定対象物から放出されるγ線による計数率を計数し、前記一対の放射線検出手段によって同時間に計測された同時計数率とに基づいて人工放射能のγ線量を求めることを特徴とする人工放射能測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【公開番号】特開2006−208192(P2006−208192A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−20541(P2005−20541)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】