説明

人工栽培アンニンコウ

【課題】南米チリやアルゼンチンに自生し、特有の芳香を有し、局地的に賞味されているアンニンコウを、人工的に栽培して食材として大量に供給する。
【解決手段】培地にアンニンコウの種菌を接種し、培養して菌糸体を生育させる第1工程、菌糸体のベンズアルデヒドの含有量が急に減少した段階で、光照射及び/又は低温刺激を与えて原基を形成させる第2工程、原基を培養してアンニンコウの子実体を形成させる第3工程、好ましくは、培養環境の炭酸ガス濃度及び湿度を上昇させた状態で20〜50時間培養を継続する第4工程を経て人工栽培した配列表1に記載するITS−1と配列表2に記載するITS−2を有する、配列表3に記載するITS−1と配列表4に記載するITS−2を有する、配列表5に記載するITS−1と配列表6に記載するITS−2を有するか、或いはベンズアルデヒドを主成分とする芳香を発するアンニンコウ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は南米のチリやアルゼンチンに自生し、特有の芳香を有し、局地的に賞味されているアンニンコウ(杏仁こう)を、人工的に栽培する方法及びかくして得られた人工栽培アンニンコウに関する。アンニンコウは日本に自生せず、日本の舞茸よりやや小ぶりであり、葉幅が広く、色も淡く、黄土色ないし淡褐色の舞茸であり、香気及び味に優れる。
【背景技術】
【0002】
本発明のアンニンコウは学名グリフォラ・ガルガル(Grifola gargal) 或いはグリフォラ・ソルドゥレンタ(Grifola sordulenta) と称し、南米チリのパタゴニア地方とかアルゼンチンに自生する強い芳香を有する食用茸であり、日本では未だ知られていなかった。本出願人は現地におもむいてグリフォラ・ガルガルやグリフォラ・ソルドゥレンタの各種の株を採取し、種菌として10数種類を保有している。本発明においては、これらグリフォラ・ガルガルやグリフォラ・ソルドゥレンタに属する茸をアンニンコウと称する。
グリフォラ属の茸としては、学名グリフォラ・フロンドーサ(Grifola frondosa)、日本名、舞茸が代表的である。舞茸は非常に美味しく、希少価値があるため、見つけると舞い上がって喜ぶとの意味から舞茸の名が付いたとの説がある。
【0003】
舞茸は人工栽培に成功し、広葉樹のおが屑に栄養材を配合した培地を、ポリプロピレン製の袋に入れて人工栽培され、年間を通じて日本各地で容易に購買できる状態にある。更により安価に製造するために、特許文献1には、広葉樹のおが屑に代えて、椎茸等を栽培した後の廃ほだ木を使用する技術が開示されている。また、特許文献2及び特許文献3にはポリプロピレン袋栽培は袋が使い捨てであり、子実体1個が大きいため分断して販売されている現状に対し、ビン栽培により小ぶりな舞茸を多量に製造し、培養ビンを再使用する技術が開示されている。しかしながら、アンニンコウの栽培技術は勿論、アンニンコウ自体に関しては全く開示されていない。
【特許文献1】特開平9−23744号公報
【特許文献2】特開2002−218844号公報
【特許文献3】特開2004−147668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、アンニンコウは強い芳香がある。しかも菌糸体培養の際には特に大量の芳香成分を放出する。芳香成分としてはベンズアルデヒド及びシンナムアルデヒドを特定した。菌糸体の培養は容易に行えるが、子実体を発生させることは困難であった。同様の操作を行っても、子実体が発生する場合としない場合があり、その発生量もまちまちであった。又、原基を形成しても、その発育に長時間を要したり、収量が低かったり、子実体が小さかったりして人工的に栽培することは困難であった。
【0005】
このように、特殊の強い芳香を有し、味にも外観にも優れたアンニンコウを、チリのパタゴニア地方とかアルゼンチンとかでの自生に頼らず、広く一般の人々の食卓に潤沢に供することが望ましい。そこで、収量が多く、確実に子実体を形成する条件を種々検討し、子実体に含まれる特有の芳香成分を追求した。更に、茸の特性を決定するInternal transcribed spacer 1(以下、ITS−1とする)及びInternal transcribed spacer 2(以下、ITS−2とする)の塩基配列を特定する必要があった。
【0006】
本発明は上記課題を解決することを目的とし、その構成は、配列表1に記載するITS−1と配列表2に記載するITS−2の総和の相同性が96〜100%であるか、配列表3に記載するITS−1と配列表4に記載するITS−2の総和の相同性が96〜100%であるか、配列表5に記載するITS−1と配列表6に記載するITS−2の総和の相同性が96〜100%であるか、ベンズアルデヒドを主成分とする芳香を発することを特徴とする。
その製法は、培地にアンニンコウの種菌を接種し、培養して菌糸体を生育させる第1工程、次いで、菌糸体のベンズアルデヒドの含有量が急に減少した段階で、光照射及び/又は低温刺激を与えて原基を形成させる第2工程、次いで、原基を更に培養してアンニンコウの子実体を形成させる第3工程、更に好ましくは、培養環境の炭酸ガス濃度及び湿度を上昇させた状態で20〜50時間培養を継続する第4工程を経ることを特徴とする。
【0007】
すなわち、アンニンコウの芳香成分は菌糸体では、主としてベンズアルデヒド及びシンナムアルデヒドである。更に栽培にあたっては、菌糸体は実質的に暗所が好ましく、この段階で大量のベンズアルデヒドを主成分とする芳香成分を放散する。しかし、本発明者らは、この芳香成分の放散が急激に減少する時期があることを見出し、この時期を逸することなく光照射、温度変化或いはその両者を用いて刺激することにより、確実に原基を形成することを見出した。適正な時期に形成させた原基を培養すると、大量の子実体を確実に得ることができる。原基は白色から灰色を経て黒色に変化し、製品アンニンコウは芳香を有し、味もよく、黄褐色の淡色であり、料理の外観も向上させる。
【0008】
アンニンコウの特性は、外観は舞茸に似ているが、やや小ぶりで淡色であり、Grifola gargal Iwade GG010株、Grifola sordulenta AY854085 株及びGrifola sordulenta AY049142 株の茸特有の部分の塩基配列を同定した。すなわち、Grifola gargal Iwade GG010株のITS−1の塩基配列は配列表1に記載した通りであり、ITS−2の塩基配列は配列表2に記載した通りである。また、Grifola sordulenta AY854085 株のITS−1の塩基配列は配列表3に記載し、ITS−2の塩基配列は配列表4に記載し、Grifola sordulenta AY049142 株のITS−1の塩基配列は配列表5に記載し、ITS−2の塩基配列は配列表6に記載した。
【0009】
塩基配列は、国際塩基配列データベース(genbank)に登録してある通常の舞茸、Grifola frondosaとの相同性は91%である。ちなみに、Grifola frondosaは国際塩基配列データベースに16株登録されており、登録されたGrifola frondosa同士ITS−1とITS−2の総和の相同性は、96〜100%である。この事実に基づいて、Grifola gargal Iwade GG010株、Grifola sordulenta AY854085 株及びGrifola sordulenta AY049142 株のみのITS−1及びITS−2の塩基配列に限定せず、96〜100%の相同性の範囲まで本発明の技術的範囲は認められるべきである。仮に限定しても、ITS−1とITS−2の総和の97〜100%の相同性の範囲まで本発明の権利は認められるべきである。
【0010】
人工栽培するにあたっては、菌糸体の培養中に強いベンズアルデヒドの芳香を発生するが、この芳香が急激に減少する時期に刺激を与えることにより、確実に原基を形成することが判明した。更に、そのまま培養を継続してもよいが、より芳香の強いアンニンコウを製造するには、子実体が80〜95%形成された段階で、炭酸ガス濃度及び湿度を上昇させた状態で20〜60時間培養を継続することにより得られることを確認した。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、アルゼンチンとかチリのパタゴニア地方に自生する天然茸を見つけない限り、食することができなかったアンニンコウを、季節を問わず市場に供給することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係るアンニンコウは、南米のチリやアルゼンチンを現実に訪れ、南極ブナ等の林に入りアンニンコウを探索することによって採取することができる。採取したアンニンコウから胞子或いは菌糸体を分離して、本発明の栽培方法によってアンニンコウを人工的に栽培することができる。或いは、本出願人が販売する栽培アンニンコウの子実体を購入して胞子又は菌糸体を得ることもできる。
アンニンコウの子実体は、形状は舞茸と近似しているが、やや小ぶりで、葉幅が広く、色も淡く、黄土色ないし淡褐色の舞茸であり、芳香を有し、味にも優れる。
【0013】
アンニンコウを栽培するにあたっては、培地は舞茸の栽培に通常使用される培地でもよく、南米に生育する南極ブナ(ノトファグス)のおが屑を併用した培地が好ましい。例えば、培地基材として南極ブナ及び他の広葉樹のおが屑を用い、栄養材として米ぬか、フスマ、ビール粕等を、培地基材/栄養材=4/1〜11/1、好ましくは5/1〜9/1(容量比)の割合で混合し、含水率を60〜70%に調整して培地とする。使用に際しては、これら培地を培養ビンや培養袋に入れて、高圧下で滅菌し、冷却後に使用する。
【0014】
第1工程においては、種菌の接種及び培養は通常の舞茸と同様であってもよいが、温度18〜30℃、好ましくは18〜25℃、相対湿度50〜80%、好ましくは60〜70%の実質的に暗黒の条件が望ましい。第1工程において、菌糸が培地全体に蔓延し、ベンズアルデヒドを主成分とする強い芳香が培養室全体に広がる。この強烈な芳香がアンニンコウに特徴的である。このときの培地表面の菌糸体のベンズアルデヒドの含有量は数100〜700μg/g、多くは、200〜500μg/gである。菌糸体が蔓延するにしたがい炭酸ガス濃度が上昇するが、炭酸ガス濃度は1000ppm以下、好ましくは700ppm以下に維持する。
【0015】
第2工程は充分に蔓延した菌糸体に刺激を与える工程である。刺激は光照射、低温又は光照射と低温刺激の両者を使用する。光刺激は、照度100〜3000Lx 程度である。低温刺激も使用でき、第1工程の温度より7〜17℃、好ましくは10〜15℃低下させる。
刺激を与える時期は極めて重要であり、遅すぎても、早すぎても、安定した原基を確実に形成させることはできない。前述の通り、菌糸培養中にベンズアルデヒドを主成分とする強い芳香を放散するが、この芳香が急に激減する時がある。この時の培地表面の菌糸体のベンズアルデヒド含有量は100μg/g以下、例えば30〜80μg/gである。この時期を逃さずに刺激を与える。
【0016】
第2工程で形成した原基を成長させる第3工程は通常の舞茸とほぼ同様であり、相対湿度90〜100%で培養する。原基は培養を続けると、表面が白色から灰色を経て黒色へと変化していく。原基の表面が黒色化した後、培養ビンの蓋を外したり、培養袋を開封する等の方法で培地の空気の循環を促し、培地中の二酸化炭素の濃度を下げることにより培養を促進することができる。
本発明の方法によれば、種菌の接種から80〜120日程度で、培地1kgからアンニンコウの子実体80〜120gを安定して収穫することができる。
【0017】
第3工程において、子実体が充分に発育する寸前に第4工程を行うこともできる。すなわち、子実体が80〜95%生育した状態で、炭酸ガス濃度及び湿度を上昇させて20〜60時間培養を継続することにより、強度の芳香を有するアンニンコウを得ることができる。炭酸ガス濃度及び湿度を上昇させるには、培養棚の周囲を透明な板で囲ったり、培養基を個別に囲ったり、袋を被せたりすることにより達成される。
第4工程を経て得られた栽培アンニンコウは強い芳香を有し、芳香の主成分はベンズアルデヒドである。
【0018】
本発明の方法で栽培されたアンニンコウは、淡色の舞茸様外観とベンズアルデヒドを主成分とする強い芳香で判別できる。
更に、本発明アンニンコウは、配列表1に記載したITS−1及び配列表2に記載したITS−2と96〜100%の相同性有するものであり、配列表3に記載したITS−1及び配列表4に記載したITS−2と96〜100%の相同性有するものであり、配列表5に記載したITS−1及び配列表6に記載したITS−2と96〜100%の相同性有するものである。
【0019】
人工栽培の方法によっては、ベンズアルデヒド臭を発生しない場合もある。その場合でも、下記の方法で栽培アンニンコウを同定することができる。
本出願人は自社で所有する種菌(Iwde GG010株)と(Iwade GG000株)から得られたそれぞれの子実体、舞茸子実体(ホクト社製、雪国まいたけ社製)、マッシュルーム(長谷川農産社製)及びヤマブシタケ(K's社製)の6子実体について、下記の方法で試験を行った。
【0020】
各検体から試料1gを分取し、細かくきざんで遠沈管に入れる。次いでエチル−エチル−エーテル(以下、単にエーテルとする)1mLを加えてガラス棒で潰しながら混ぜ合わせた。それぞれのサンプルを2時間振とうさせながら室温でエーテル溶解性成分の抽出を行った。抽出したサンプルからエーテル層のみを分離し、エーテルを室温で蒸発させて抽出成分を濃縮した。得られた濃縮物にエーテル30μlを加えてその溶解物をガスクロマトグラフィーで分析した。リテンションタイム2分以降に現れたピークの時間とその高さとその面積(%)を計算して表1に示した。
更に、内部標準として、ベンズアルデヒドを同様にして測定し、その結果とベンズアルデヒドのリテンションタイムを1.00とした場合の相対リテンションタイムを表1に併記した。
【0021】
ガスクロマトグラフィーの分析条件は、
カラムとして、内径0.25mm、長さ30m、カラム内層に厚み0.25μmのポリジメチルシロキサンの固定相を有するJ&W Science社製のDB−1を用いた。キャリヤーガスはヘリウムを用い、Injection 温度250℃、流速1.8ml/分で行った。検出器はFDIで、島津製作所社製のGL18Aを用い、Detector温度250℃で測定した。
温度スケジュールは、40℃で5分間保持し、10℃/分で200℃まで昇温し、200℃で20分間保持した。
【0022】
【表1】

【0023】
表1から明らかなように、アンニンコウの子実体は約9.9分後、12分後及び24.7分後にピークが発現した。9.9分後及び12分後のピークはアンニンコウに固有であり、他の茸からは見出せなかった。この成分はベンズアルデヒドとは異なるが、ベンズアルデヒドを内部標準とし、同一条件におけるベンズアルデヒドの発現が、9.20分であることからベンズアルデヒドの発現時間を1.00分とした場合の相対リテンションタイムを計算すると、アンニンコウは1.08及び1.31であった。計測にはある程度の誤差を許容する必要上、本発明のアンニンコウは相対リテンションタイム1.08±0.05、好ましくは1.08±0.03及び1.31±0.05、好ましくは1.31±0.03に、ベンズアルデヒドを1.00とした場合のピークが発現するものである。
【実施例1】
【0024】
南米チリのパタゴニア地方に自生し、食用に供されているアンニンコウを採取し、菌糸体を分離し、種菌として保存した。培地基材として南極ブナのおが屑を用い、栄養材として米ぬか及びフスマを用いて培地基材/栄養材=5/1(容量比)の割合で混合した。この混合物に水分を加えて含水率65%に調整して培地とした。内容量1Lの培養ビン10本に培地を装入し、120℃で120分間高圧滅菌した。冷却後、各培養ビン中の培地に1本あたり10gの種菌を接種し、各培養ビンに通気性の蓋を被せて、温度20℃、相対湿度60%、炭酸ガス濃度500ppmの実質的に暗黒の条件下で培養を続けた。
【0025】
培養の進行に伴い、ベンズアルデヒドを主成分とする芳香が強まり、芳香の強い日が続いて培地に菌糸が充分に蔓延した後、60日目にこの芳香が急激に弱くなった。培養期間を通じてガスクロマトグラフィーにより、培地表面の菌糸体中のベンズアルデヒドの含有量の測定を続けたが、培養30日目及び40日目は250〜450μg/gであったが、培養60日目は65μg/gになっていた。
【0026】
ここで、培養ビンを培養室から発生室に移し、照度1000Lx の光照射と温度13℃の温度刺激を与えた。この刺激から20日前後を経過した後、各培養ビンの培地表面に原基が形成された。原基は最初白色であったが、灰色を経て黒色へと変化した。原基の表面が黒色化したとき、各培養ビンの蓋を外し、空気の循環をよくして培地中の二酸化炭素の濃度を低下させながら相対湿度95%で更に10日間培養した。培養開始から90日前後に各培養ビンからアンニンコウの子実体を収穫した。収量の平均は培地1kg当たり150gであった。
【0027】
収穫2日前に第3工程を終了して第4工程に入った。すなわち、培養棚の周囲を透明な板で粗く囲い、2日間培養して収穫した。第4工程を行った結果、強い芳香を有するアンニンコウが得られた。
【0028】
芳香成分の測定
得られたアンニンコウ約10gを袋に入れ、活性炭カラムを通過させて袋内の気体のみを1時間吸引し香り成分を活性炭に吸着させた。その後、エーテルにて香り成分を溶出させ、得られた香り成分をガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、大量のベンズアルデヒドを検出した。他にも芳香成分を示すピークが現れたが物質の同定はできなかった。
【実施例2】
【0029】
培地基材として南極ブナのおが屑:日本産の広葉樹のおが屑の比を3:7にして、日本産広葉樹のおが屑を用い、第4工程を行わなかった以外は実施例1と同様にしてアンニンコウを培養した。培養開始から100日前後に各培養ビンからアンニンコウの子実体を収穫したところ、収量の平均は培地1kg当たり110gであった。得られたアンニンコウは実施例1で得られたアンニンコウと比べて香気が弱かった。
【実施例3】
【0030】
原基の表面が黒色なるのを待って培養ビンの蓋を開ける実施例1に代えて、原基の表面が灰色になったときに培養ビンの蓋を外した以外は実施例1と同様にしてアンニンコウを培養した。培養開始から120日前後に各培養ビンからアンニンコウの子実体を収穫した。収量の平均は培地1kg当たり95gであった。
【0031】
比較例1
刺激を与える時期が、培養60日目の菌糸体中のベンズアルデヒド濃度が65μg/gになったときである実施例1に代えて、培養40日目の菌糸体中のベンズアルデヒド濃度が350μg/gであるときに、各培養ビンを培養室から発生室に移して刺激を与えた以外は実施例1と同様にしてアンニンコウを培養した。この場合は原基の形成に時間を要し、しかも不安定であったので、結局は培養開始から150日前後に各培養ビンからアンニンコウの子実体を収穫した。収量は大きくばらつき、その平均は、培地1kg当たり30gであった。
【0032】
比較例2
第1工程において培地室内の炭酸ガス濃度が2000ppmであった以外は、実施例1と同様にしてアンニンコウの栽培を行った。この場合、第1工程に80日を要し、その後の育成も遅く、子実体形成まで150日以上を要した。培地1kg当たりの収量も90〜130gと大きくばらついた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記、第1工程、第2工程及び第3工程を経ることを特徴とするアンニンコウの人工栽培方法。
第1工程:培地にアンニンコウの種菌を接種し、培養して菌糸体を生育させる工程。
第2工程:第1工程の培養中に菌糸体が培地に蔓延した後、培地表面の菌糸体のベンズアルデヒドの含有量が急に減少した段階で、光照射、低温刺激又は光照射と低温刺激の両者を与えて原基を形成させる工程。
第3工程:第2工程で形成させた原基を更に培養してアンニンコウの子実体を形成させる工程。
【請求項2】
第1工程において、培地に接種した種菌を温度18〜30℃、相対湿度50〜80%の実質的に暗黒の条件下で培養することを特徴とする請求項1に記載するアンニンコウの人工栽培方法。
【請求項3】
第1工程において、培養室中の炭酸ガス濃度を1000ppm以下にすることを特徴とする請求項1に記載するアンニンコウの人工栽培方法。
【請求項4】
第2工程において、照度100〜3000Lxの光照射及び/又は第1工程の培養温度より5〜15℃低下させる温度刺激を与えることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載するアンニンコウの人工栽培方法。
【請求項5】
子実体が80〜95%形成された段階で第3工程を終了し、第4工程として、炭酸ガス濃度及び湿度を上昇させた状態で20〜60時間培養を継続することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載するアンニンコウの人工栽培方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかの方法で栽培した、配列表1に記載するInternal transcribed spacer 1 (ITS−1)と配列表2に記載するInternal transcribed spacer 2 (ITS−2)の総和の相同性が96〜100%であることを特徴とする人工栽培アンニンコウ。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかの方法で栽培した、配列表3に記載するInternal transcribed spacer 1 (ITS−1)と配列表4に記載するInternal transcribed spacer 2 (ITS−2)の総和の相同性が96〜100%であることを特徴とする人工栽培アンニンコウ。
【請求項8】
請求項1ないし5のいずれかの方法で栽培した、配列表5に記載するInternal transcribed spacer 1 (ITS−1)と配列表6に記載するInternal transcribed spacer 2 (ITS−2)の総和の相同性が96〜100%であることを特徴とする人工栽培アンニンコウ。
【請求項9】
請求項1ないし5のいずれかの方法で栽培した、ベンズアルデヒドを主成分とする芳香を発することを特徴とする人工栽培アンニンコウ。
【請求項10】
請求項1ないし5のいずれかの方法で栽培した、子実体1gに対しエーテルを1mLの割合で加え、室温で抽出したサンプルからエーテル層を取出し、エーテルを室温で蒸発させて得られた抽出成分をエーテルに溶解し、下記の条件下でガスクロマトグラフィーによる測定を行った場合に、内部標準としてのベンズアルデヒドのリテンションタイムを1.00分とすると、相対リテンションタイム1.08±0.05にピークが現れることを特徴とする人工栽培アンニンコウ。
ガスクロマトグラフィーの条件:
(1) 固定相: ポリジメチルシロキサン
(2) カラム: キャピラリーカラム
(3) 温度スケジュール:40℃で5分保持、200℃まで10℃/分で昇温、200℃で 20分保持

【公開番号】特開2007−20560(P2007−20560A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−59499(P2006−59499)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(000141381)株式会社岩出菌学研究所 (14)
【Fターム(参考)】