説明

人工芝生

【課題】無捲縮のポリオレフイン系樹脂のフィラメントテープヤーンを葉軸に使用した耐久性のある人工芝生を得る。
【解決手段】パイル糸を基布11に差し込んでパイル長hが30mm以上の葉軸12を形成した人工芝生原反の裏面に、裏打ち用接着剤を塗布して裏面に介在するパイル糸のバックステッチを基布11に接着固定して構成され、パイル糸は、複数本の無捲縮のポリオレフイン系樹脂のモノフィラメントから成り、パイル糸を構成する個々のモノフィラメントは、単繊維繊度が200dtex以上であり、厚みtが100μm以上で幅wが厚みtの2倍以上である扁平断面形状を成し、裏打ち用接着剤は、自己架橋型のカルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体を樹脂成分とし、ジフェニルメタンジイソシアナートが配合されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイル糸を基布に差し込んで葉軸を形成した人工芝生に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パイル糸を基布に差し込んで葉軸を形成した人工芝生原反の裏面には、パイル糸のバックステッチを基布に接着固定するための裏打ち用接着剤が塗布される。
裏打ち用接着剤には、ポリアクリル酸エステルエマルジョン、酢酸ビニル・エチレン共重合体エマルジョン、スチレン・アクリル酸エステルエマルジョン、スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体ラテックス、カルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス等の合成樹脂エマルジョン・ラテックスコンパウンドが使用される。
裏打ち用接着剤には、炭酸カルシウム(CaCO3 )、硫酸カルシウム(CaSO4 ・2H2 O)、亜硫酸カルシウム、水酸化カルシウム(Ca(OH)2 )、塩基性炭酸マグネシウム(3MgCO3 ・Mg(OH)2 ・3H2 O〜4MgCO3 ・Mg(OH)2 ・4H2 O)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2 )、水酸化アルミニウム(Al23 ・3H2 O)、ケイ酸アルミニウム(Al2 (SiO33 )、ケイ酸マグネシウム(MgSiO3 、Mg2 SiO4 )、ケイ酸カルシウム(CaSiO3 )、カオリンクレー(天然ケイ酸アルミニウム;Al23 ・2SiO2 ・2H2 O)、タルク(天然ケイ酸マグネシウム;Mg3 SiO10 (OH)2 )、 雲母(白雲母・マスコバイト;K2 Al4 (Si3 Al)220 (OH)4 、 金雲母・フロゴパイト;K2 Mg6 (Si3 Al)220 (OH)4 )、 セピオライト( Mg8 Si1230 (OH)4 (OH24 ・8H2 O)、ゾノライト(6CaO・6SiO2 ・H2 O)、チタン酸カリ(K2 O・(TiO2n )、アタパルジャイト(5MgO・8SiO2 ・9H2 O)等の充填剤が配合される。
【0003】
人工芝生のパイル糸には、繊度が100〜20000dtexのフィラメントテープヤーンやフィラメントスプリットヤーンが用いられている(特許文献1)。
フィラメントテープヤーンは、複数本の扁平断面形状を成すフィラメントテープを合撚して成り、各フィラメントテープの厚みは概して20〜400μmであり、幅は概して1〜3mmになっている。
フィラメントスプリットヤーンの厚みは、フィラメントテープと同様に概して20〜400μmであるが、フィラメントスプリットヤーンの幅は、帯状フィルムのように複数本のフィラメントテープの幅を合計した程度に広幅になっている。
フィラメントスプリットヤーンは、その広幅のフィルムに施されたスリットによって複数本のフィラメントテープに分割れているかの如き観を呈しているが、そのスリットはエンドレスではなく、スリットによって分割されて隣り合うフィラメントテープとフィラメントテープの間は部分的に連結されてネット状になっている。
【0004】
そのようにフィラメントスプリットヤーンでは、隣り合うフィラメントテープとフィラメントテープの間は部分的に連結されていて収束性を有するので、図1に示すように葉軸22のパイル長hが20mm未満の人工芝生20に適用する場合は、フィラメントテープヤーンの場合のように加撚結束する手間を要せず、その点で、フィラメントスプリットヤーンは、フィラメントテープヤーンに比してコスト的に有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−248802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フィラメントスプリットヤーンをサッカー場やフットサル場等に使用される葉軸32のパイル長hが30mm以上の人工芝生30に使用する場合、図2に示すようにパイル長hが長いが故に個々の葉軸32a・32b・32c………がそれぞれ纏まって倒れ、隣り合う複数本の葉軸32a・32b・32c………それぞれの先端33a・33b・33c………が部分的に集まり、各葉軸32a・32b・32c………の先端33a・33b・33c………が均等に分散せず、その人工芝生30の施工されたグランド表面の滑り具合や外観にバラツキが生じ、人工芝生30の施工面が貧相になる。
そこで、パイル長が30mm以上の人工芝生を施工する場合には、複数本の葉軸の先端が均等に分散するように、複数本のフィラメントテープを加撚セットせず、フィラメントテープヤーンを実質的に無撚状態でパイル糸に使用することが試みられた。
【0007】
しかし、無撚状態で植設された複数本の葉軸は、その根元において引き揃え状態にあり、特に、極性が低く接着性を欠くポリオレフイン系樹脂に成る無捲縮のフィラメントテープヤーンでは、パイル長が30mm以上で引っ張り易いこともあって、個々の葉軸が基布から引き抜かれ易く、激しい競技に耐える耐久性のある人工芝生は得られない。
そのように、極性が低く接着性を欠くとは言え、ポリオレフイン系樹脂に成る無捲縮のフィラメントテープヤーンは、摩擦抵抗が小さく、競技中に滑り込んで生じる摩擦熱も少ないことから、サッカー場等の人工芝生への強い需要がある。
【0008】
そこで本発明は、無捲縮のポリオレフイン系樹脂のフィラメントテープヤーンを葉軸に使用した耐久性のある人工芝生を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る人工芝生は、(イ) パイル糸を基布11に差し込んでパイル長hが30mm以上の葉軸12を形成した人工芝生原反の裏面に、裏打ち用接着剤を塗布して裏面に介在するパイル糸のバックステッチを基布11に接着固定して構成される人工芝生において、
(ロ) 前記パイル糸は、複数本の無捲縮のポリオレフイン系樹脂のモノフィラメントから成り、
(ハ) 前記パイル糸を構成する個々のモノフィラメントは、単繊維繊度が200dtex以上であり、厚みtが100μm以上で幅wが厚みtの2倍以上である扁平断面形状を成し、
(ニ) 前記裏打ち用接着剤は、自己架橋型のカルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体を樹脂成分とし、ジフェニルメタンジイソシアナートが配合されたものであることを第1の特徴とする。
【0010】
本発明に係る人工芝生の第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、前記ジフェニルメタンジイソシアナートの配合量が、前記カルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体100重量部に対して10重量部以上80重量部以下である点にある。
【0011】
本発明に係る人工芝生の第3の特徴は、上記第1および第2の何れかの特徴に加えて、前記裏打ち用接着剤に充填剤が配合されており、この充填剤の配合量が、前記カルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体100重量部に対して50重量部以上200重量部以下である点にある。
【0012】
本発明に係る人工芝生の第4の特徴は、上記第1、第2および第3の何れかの特徴に加えて、前記モノフィラメントは、単繊維繊度が1000dtex以上であり、厚みtが200μm以上である点にある。
【0013】
本発明に係る人工芝生の第5の特徴は、上記第1、第2、第3および第4の何れかの特徴に加えて、前記モノフィラメントは、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂から成り、前記パイル糸の総繊度が5000dtex以上である点にある。
【0014】
本発明に係る人工芝生の第6の特徴は、上記第1、第2、第3、第4および第5の何れかの特徴に加えて、前記裏打ち用接着剤は、乾燥塗布量が600g/m2 以上1000g/m2 以下である点にある。
【0015】
本発明に係る人工芝生の第7の特徴は、上記第1、第2、第3、第4、第5および第6の何れかの特徴に加えて、前記基布11の表面に形成された葉軸12と葉軸12の間に顆粒を詰め込み、この顆粒によって葉軸12を起立状態に保って使用される点にある。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る人工芝生では、自己架橋型のカルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体を樹脂成分とし、ジフェニルメタンジイソシアナートが配合されたことでカルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体の架橋性が向上し、ジフェニルメタンジイソシアナートと共にカルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体が自己架橋して粘着性が高まり耐水性が向上し、雨天時に水に濡れても葉軸の抜糸強度が低下しない。
【0017】
本発明では、カルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体100重量部に対するジフェニルメタンジイソシアネートの配合重量部数が10重量部以上80重量部以下であって格別多くはなく、人工芝生原反の裏面への塗布過程で支障を来さない十分な使用可能時間を確保することが出来る。
【0018】
本発明では、カルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体100重量部に対して50重量部以上200重量部以下の充填剤が配合されており、その充填剤によって裏打ち用接着剤の接着性や耐水性が維持され、裏打ち用接着剤の増量やコスト低減を実現できると共に、裏打ち用接着剤の強度や耐久性などを改善できる。
【0019】
本発明に係る人工芝生において、モノフィラメントを、単繊維繊度が1000dtex以上で、扁平断面の厚みを200μm以上としたり、モノフィラメントをポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂にて構成し、パイル糸の総繊度を5000dtex以上とすることで、モノフィラメントの幅を0.5mm以上6mm以下の幅を確保することが可能となって、使用者が競技中に滑り込んで摩擦熱が生じても、人工芝生の葉軸を切れにくく出来る。
【0020】
本発明に係る人工芝生は、裏打ち用接着剤の乾燥塗布量を400g/m2 以上1000g/m2 以下とすることで、パイル糸のバックステッチを基布に強固に接着固定するための適正な量の裏打ち用接着剤を塗布すること出来る。
【0021】
本発明に係る人工芝生を、基布の表面に形成された葉軸と葉軸の間に顆粒を詰め込み、この顆粒によって葉軸を起立状態に保って使用することで、天然の芝生に近い質感や毛足を容易に再現することが出来、人工芝生を施工し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】パイル長が20mm未満のフィラメントスプリットヤーンを適用した人工芝生の斜視図である。
【図2】パイル長が30mm以上のフィラメントスプリットヤーンを適用した人工芝生の斜視図である。
【図3】本発明に係る人工芝生の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
ポリオレフイン系モノフィラメントを葉軸12に使用するのは、冒頭に記した通り、極性が低く、摩擦抵抗が小さく、競技中に滑り込んで生じる摩擦熱も少ないことにより、競技者が滑り込んだときに火傷を負い難くするためである。
【0024】
葉軸12のパイル長hを30mm以上にするのは、サッカーやフットサルなどの競技では、ボールの転がるスピードなどがパイル長hによって変わるため、天然芝生の毛足や質感に近いパイル長hが競技者に好まれるだけでなく、競技者が滑り込む際に怪我をし難くなるからである。
天然芝生の葉丈のパイル長hを30mm以上にするとしても、そのパイル長hは、概ね120mmを限度とする。
【0025】
モノフィラメントの厚みtを100μm以上にするのは、厚みtが100μm未満では、人工芝生10で競技者がサッカー等に使用すると、その使用に耐える強度が確保できずに、競技者のスパイクで踏まれることによって葉軸12が切断されたり、スパイクのピンに多くの葉軸12が絡まっても、絡まった葉軸12が千切れて競技者が踏ん張れないからである。
尚、モノフィラメントの厚みtは、過度に厚くなると葉軸12が不必要に硬くなり、天然芝生のような質感が損なわれるため、400μm以下であると良い。
【0026】
このとき、モノフィラメントの単繊維繊度は、200dtex以上で、幅wは厚みtの2倍以上とすると良い。
【0027】
本発明における「無捲縮」とは、モノフィラメントの軸芯が曲折しておらず真っ直ぐになっており、「捲縮」(即ち、加撚熱セット、或いは、ニット・熱セット・デニット等によって軸芯の曲折状態が熱セット)されていないことを意味する。
【0028】
葉軸形成過程、つまり、タフティング工程におけるニードルからルーパーへの引き渡し過程で複数本のモノフィラメントが個々に分離してニードルからルーパーへの引き渡しが困難にならない程度に結束するために、1mに付き10〜20回程度にパイル糸が加撚されるとしても、その程度の「加撚」は「捲縮」を意味しない。
何故なら、ニードルからルーパーへの引渡時に加撚状態にあっても、その引き渡されてルーパーに係止された複数本のモノフィラメントは、その引渡直後にルーパーとナイフに剪断されて複数本の葉軸12となり、その各葉軸12に解撚トルクが作用し、各葉軸12が無捲縮状態になるからである。
【0029】
本発明において、「葉軸」とは、複数本のモノフィラメントによって構成される1本のパイル糸が、ニードルによって基布11に差し込まれ、ニードルからルーパーへと引き渡され、次いで、ルーパーとナイフに剪断されて一対のパイル片を形成するとき、その1本のパイル糸を構成していた複数本のモノフィラメントが個々に分離して形成する個々のモノフィラメントの剪断片を意味する。
【0030】
本発明においては、上述したように、モノフィラメントを敢えて扁平断面形状で無捲縮としているのは、葉軸12の摩擦抵抗が小さくなって、競技中に滑り込んで生じる摩擦熱も少ないことから、競技者の安全性が向上するためである。
また、人工芝生10の施工面から見ても、サッカー等の競技は、葉軸12を起立状態で使用するため、砂などの顆粒を各葉軸12の間に入れるが、この顆粒を、基布11の表面に形成された葉軸12と葉軸12の間に詰め込み易くなり、個々の葉軸12を容易に起立させることが出来、施工性が向上する。
【0031】
人工芝生10の施工時に葉軸12と葉軸12の間に詰め込む顆粒には、天然砂、合成樹脂ペレット、タイヤ粉砕ゴムペレットが使用され、捲縮させた繊維材も必要に応じて葉軸12と葉軸12の間に詰め込むことも出来る。
【0032】
ここまで述べた単繊維繊度が200dtex以上で、扁平断面の厚みtが100μm以上のポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂のモノフィラメントによって葉軸12が構成された人工芝生10は、滑りやすく、競技中に滑り込んでも摩擦熱が生じ難く、葉軸12が切れ難い。
図3に示す如く、1本のパイル糸を構成している複数本のモノフィラメントによって形成される複数本の葉軸12a・12b・12c………は、それらが無捲縮であって絡まり合っておらず、これらの葉軸12a・12b・12c………の先端13a・13b・13c………は個々に分散し、顆粒を詰め込んで施工された人工芝生10の表面を構成することになる。
【0033】
自己架橋型のカルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体を、裏打ち用接着剤に樹脂成分として適用するのは、加硫剤や加硫促進剤などの配合を必要とせずに、架橋するためである。
ジフェニルメタンジイソシアナートを、裏打ち用接着剤に配合するのは、カルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体のカルボキシル基に作用して、カルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体の架橋の度合いを高め、カルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体の耐水性の向上が期待されるからである。
【0034】
ジフェニルメタンジイソシアナートの配合量を、カルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体100重量部に対して10重量部以上80重量部以下とするのは、ジフェニルメタンジイソシアナートの配合量が10重量部未満のときには、ジフェニルメタンジイソシアナートを配合したことによる効果は少なく、ジフェニルメタンジイソシアナートの配合量が80重量部を超えるときには、裏打ち用接着剤の可使時間が短くなり、人工芝生原反の裏面に塗布する過程で、裏打ち用接着剤が硬化し始め、裏打ち用接着剤を塗布することが困難になるからである。
【0035】
充填剤を裏打ち用接着剤に配合するのは、裏打ち用接着剤の塗膜を硬く変形しにくくし、パイル糸のバックステッチが裏打ち用接着剤の塗膜によって強固に把持されるようにするためである。
しかし、充填剤の配合量が余り多くなると、裏打ち用接着剤の塗膜が脆くなり、バックステッチに対する把持力が低下する。
このことを考慮して、充填剤の配合量は、カルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体100重量部に対して50重量部以上200重量部以下にするとよい。
【0036】
単繊維繊度が200dtex以上で厚みtが100μm以上のポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂のモノフィラメントによって構成される葉軸12は、先端13a・13b・13c………が個々に分散し易い利点がある反面、剛直で滑り易く、引き抜かれ易い。
【0037】
しかしながら、本発明に係る人工芝生10では、自己架橋型のカルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体を樹脂成分とし、ジフェニルメタンジイソシアナートが配合されたことでカルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体の架橋性が向上し、ジフェニルメタンジイソシアナートと共にカルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体が自己架橋して粘着性が高まり耐水性が向上し、雨天時に水に濡れても葉軸12の抜糸強度が低下しない。
【実施例】
【0038】
扁平断面形状を成し、その厚みtが200μm、幅wが厚みtの約5倍となる1020μmであり、単繊維繊度が1880dtexであり、無捲縮のポリエチレンモノフィラメント6本引き揃えのパイル糸を、ニードルゲージ(タフティング幅方向でのパイル間隔)を15.3mm(5/8吋/ゲージ)とし、ステッチゲージ(タフティング長さ方向でのパイル間隔)を6.1mm(16.3ステッチ/10cm)とし、経糸と緯糸がポリプロピレンフィラメントテープヤーン(扁平断面糸)に成る織基布(基布11)に差し込んでモノフィラメントに成るパイル長hが55mmの葉軸12を基布11に植設して人工芝生原反を形成した。
その人工芝生原反の裏面に裏打ち用接着剤を塗布して裏面に介在するパイル糸のバックステッチを基布11に接着固定して実施例と比較例の人工芝生10を形成した。
【0039】
[実施例1]
固形分濃度50質量%のカルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス500重量部(固形分250重量部)、ジフェニルメタンジイソシアナート100重量部、分散剤(ポリカルボン酸系)3重量部、充填剤(炭酸カルシウム)500重量部、黒色顔料(カーボンブラック)3重量部とから成る裏打ち用接着剤を人工芝生原反の裏面に乾燥塗布量を827g/m2 に設定して塗布する。
【0040】
[実施例2]
固形分濃度50質量%のカルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス500重量部(固形分250重量部)、ジフェニルメタンジイソシアナート150重量部、分散剤(ポリカルボン酸系)3重量部、充填剤(炭酸カルシウム)500重量部、黒色顔料(カーボンブラック)3重量部とから成る裏打ち用接着剤を人工芝生原反の裏面に乾燥塗布量を827g/m2 に設定して塗布する。
【0041】
[比較例1]
固形分濃度50質量%のカルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス500重量部(固形分250重量部)、分散剤(ポリカルボン酸系)3重量部、充填剤(炭酸カルシウム)500重量部、黒色顔料(カーボンブラック)3重量部とから成る裏打ち用接着剤を人工芝生原反の裏面に乾燥塗布量を827g/m2 に設定して塗布する。
【0042】
[比較例2]
固形分濃度50質量%のカルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス250重量部(固形分125重量部)、固形分濃度50質量%のポリウレタン・エマルジョン250重量部(固形分125重量部)、分散剤(ポリカルボン酸系)3重量部、充填剤(炭酸カルシウム)500重量部、黒色顔料(カーボンブラック)3重量部とから成る裏打ち用接着剤を人工芝生原反の裏面に乾燥塗布量を827g/m2 に設定して塗布する。
【0043】
[抜糸強度]
実施例1と2と比較例1と2の乾燥時の人工芝生10と湿潤時の人工芝生10の各1本のパイル糸によって形成される一対のパイル片(葉軸12本)の抜糸強度をJIS−L−1021−8(パイル糸の引抜き強さ試験方法)に従って測定し、表1に示す結果を得た。
表1に表示した単位「N/2W」における「2W」とは、対を成す2本のパイル片を意味する。
表1において、ジフェニルメタンジイソシアナートの配合量に関して「P.H.R.」とあるのは、カルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体の固形分100重量部に対するジフェニルメタンジイソシアナートの配合重量部数を意味する。
又、表1において、充填剤の配合量に関して「P.H.R.」とあるのは、カルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体とジフェニルメタンジイソシアナートとから成る樹脂の固形分100重量部、又は、カルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体の固形分100重量部、或いは、カルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体とポリウレタンの合計固形分100重量部に対する充填剤の配合重量部数を意味する。
【0044】
【表1】

【0045】
上記の表1によると、比較例1及び2は、カルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体ラテックスに対して、ジフェニルメタンジイソシアナートを加えなかったため、湿潤時の抜糸強度が乾燥時の抜糸強度の約半分となっており、湿潤時と乾燥時で抜糸強度が大きく異なる。
しかし、実施例1及び2では、カルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体ラテックスに対してジフェニルメタンジイソシアナートを加えることによって、100N/2Wに近い抜糸強度を確保できると共に、乾燥時と湿潤時における抜糸強度の差を0.3N/2Wや、4.8N/2Wに留めており、湿潤時の抜糸強度の低下を抑制し、耐水性が向上している。
【0046】
さらに、実施例1と2は、カルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体ラテックスに、143P.H.R.や125P.H.R.の充填剤を加えたとしても、乾燥時と湿潤時の抜糸強度の差を5N/2W以下に抑えることが可能となっており、充填剤の添加時においても、カルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体ラテックスに対して、ジフェニルメタンジイソシアナートを加えたとしても、十分な耐水性を発揮できる。
つまり、充填剤により、裏打ち用接着剤を増量し、コストを低減できると同時に、裏打ち用接着剤の強度や耐久性等が向上する。
【0047】
尚、乾燥時、湿潤時を問わず、実施例2の抜糸強度の方が、実施例1の抜糸強度を上回っていることから、カルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体ラテックスに対して、より多くのジフェニルメタンジイソシアナートを配合させることで抜糸強度を向上させることが出来る。
【0048】
[実施例3]
固形分濃度50質量%のカルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス500重量部(固形分250重量部)、ジフェニルメタンジイソシアナート50重量部、分散剤(ポリカルボン酸系)3重量部、充填剤(炭酸カルシウム)500重量部、黒色顔料(カーボンブラック)3重量部とから成る裏打ち用接着剤を人工芝生原反の裏面に乾燥塗布量を619g/m2 に設定して塗布する。
【0049】
[実施例4]
固形分濃度50質量%のカルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス500重量部(固形分250重量部)、ジフェニルメタンジイソシアナート75重量部、分散剤(ポリカルボン酸系)3重量部、充填剤(炭酸カルシウム)500重量部、黒色顔料(カーボンブラック)3重量部とから成る裏打ち用接着剤を人工芝生原反の裏面に乾燥塗布量を619g/m2 に設定して塗布する。
【0050】
[実施例5]
固形分濃度50質量%のカルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス500重量部(固形分250重量部)、ジフェニルメタンジイソシアナート100重量部、分散剤(ポリカルボン酸系)3重量部、充填剤(炭酸カルシウム)500重量部、黒色顔料(カーボンブラック)3重量部とから成る裏打ち用接着剤を人工芝生原反の裏面に乾燥塗布量を619g/m2 に設定して塗布する。
【0051】
[抜糸強度]
実施例3と4と5の乾燥時の人工芝生10と湿潤時の人工芝生10における葉軸1本の抜糸強度をJIS−L−1021−8(パイル糸の引抜き強さ試験方法)に従って測定し、表2に示す結果を得た。
【表2】

【0052】
上記の表2にて示したように、実施例3と4と5を比べると、カルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体ラテックスに対して、ジフェニルメタンジイソシアナートを配合することによって、モノフィラメント1本当りの乾燥時と湿潤時の抜糸強度の差を3.7N以内に留まっており、湿潤時の抜糸強度の低下が抑制され、耐水性が向上する。
さらに、ジフェニルメタンジイソシアナートの配合量を徐々に上げることで、乾燥時と湿潤時の抜糸強度の差も徐々に小さくなっており、特に、配合量が40P.H.R.の時には、乾燥時と湿潤時における抜糸強度の差が0.8Nに抑えられている。
【0053】
尚、表2で示す如く、ジフェニルメタンジイソシアナートの配合量を上げることで、架橋反応が速くなり、裏打ち用接着剤としての可使時間が徐々に短くなっている。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明における人工芝生10は、サッカー場やフットサル場のみならず、テニスやゴルフなどの芝生の上で行う競技に用いることが出来、さらには、屋上緑化等の目的で、芝生のタイルとして利用したり、店舗の出入口に置くダストコントロールマットの裏打ちにも使用できる。
【符号の説明】
【0055】
10 人工芝生
11 基布
12 葉軸
13 葉軸の先端
20 人工芝生
22 葉軸
30 人工芝生
32 葉軸
33 葉軸の先端
h パイル長
t モノフィラメントの厚み
w モノフィラメントの幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ) パイル糸を基布(11)に差し込んでパイル長(h)が30mm以上の葉軸(12)を形成した人工芝生原反の裏面に、裏打ち用接着剤を塗布して裏面に介在するパイル糸のバックステッチを基布(11)に接着固定して構成される人工芝生において、
(ロ) 前記パイル糸は、複数本の無捲縮のポリオレフイン系樹脂のモノフィラメントから成り、
(ハ) 前記パイル糸を構成する個々のモノフィラメントは、単繊維繊度が200dtex以上であり、厚み(t)が100μm以上で幅(w)が厚み(t)の2倍以上である扁平断面形状を成し、
(ニ) 前記裏打ち用接着剤は、自己架橋型のカルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体を樹脂成分とし、ジフェニルメタンジイソシアナートが配合されたものであることを特徴とする人工芝生。
【請求項2】
前記ジフェニルメタンジイソシアナートの配合量が、前記カルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体100重量部に対して10重量部以上80重量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の人工芝生。
【請求項3】
前記裏打ち用接着剤に充填剤が配合されており、この充填剤の配合量が、前記カルボキシル変性スチレン・ブタジエン共重合体100重量部に対して50重量部以上200重量部以下であることを特徴とする請求項1と2の何れかに記載の人工芝生。
【請求項4】
前記モノフィラメントは、単繊維繊度が1000dtex以上であり、厚み(t)が200μm以上であることを特徴とする請求項1と2と3の何れかに記載の人工芝生。
【請求項5】
前記モノフィラメントは、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂から成り、前記パイル糸の総繊度が5000dtex以上であることを特徴とする請求項1と2と3と4の何れかに記載の人工芝生。
【請求項6】
前記裏打ち用接着剤は、乾燥塗布量が400g/m2 以上1000g/m2 以下であることを特徴とする請求項1と2と3と4と5の何れかに記載の人工芝生。
【請求項7】
前記基布(11)の表面に形成された葉軸(12)と葉軸(12)の間に顆粒を詰め込み、この顆粒によって葉軸(12)を起立状態に保って使用されることを特徴とする請求項1と2と3と4と5と6の何れかに記載の人工芝生。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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