説明

人工透析患者に対する血液診断方法および透析装置

【課題】汎用性があり、透析処方および臨床効果の評価に貢献する診断マーカーを与えることができる血液診断方法等を提供する。
【解決手段】人工透析患者の透析前後における血液サンプルを採取するステップと、採取された前記血液サンプルについてバイオマーカーに基づく診断を行うステップと、を備える。上記バイオマーカーは、尿素クリアスペース(CS)または細胞膜クリアランス(Kc)とmRNAもしくはタンパク質プロファイルとの間の相関に基づいて予め同定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工透析患者から採取された血液に基づいた診断を行う血液診断方法および当該血液診断方法に適した透析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
透析装置(例えば、特開平9-10301号公報参照)を用いた人工透析に当たっては、患者の状態に合わせた透析膜の選択、患者の原疾患究明、透析後の予後経過の観察、感染症等の合併症併発リスクのモニタリングなど、臨床経過の把握が必要となる。人工透析患者は透析による人工的なバイアスのため老廃物の排泄・除去の機能低下が著しく、健常人と同じ尺度を用いた評価を適用してその臨床経過を把握することは困難である。このため、尿量、体重、筋肉推定量、血中性化学検査、老廃物除去時間などのモニタリングに加えて、例えば、以下の臨床パラメータを診断マーカーとして用いている。
(1)1時間除去率(HrURR)
1時間あたりの尿素窒素除去率であり、30%以下が望ましいとされる。27.5%以上で透析処方の変更が必要とされる(第7回に本HDF学会での発表による)。
(2)クレアチニン産生率(%CrG)
人工透析患者は100%以上、糖尿病透析者は90%以上が目標とされる。タンパク摂取や運動を適切に行うことによって筋肉をつけ、クレアチニン産生速度を高くすることが必要とされる。
(3)標準化透析量(Kt/V)
効率的な尿毒素除去は、一層良好な臨床成績を生むと考えられる。尿毒素の体内蓄積に起因する有病率は周知の事実であるが、従来の透析指標であるKt/Vureaは正確なウレアの透析量、すなわち、除去量を表現しない。
【0003】
しかしながら、これらの診断マーカーを得るためには、複数の臨床データに基づく複雑な数値計算が必要であり、臨床データを取得する作業や臨床データに基づいて診断マーカーを導く作業は煩雑であり、簡便性という点で問題がある。また、同じ人工透析患者といっても、その原疾患により臨床経過が異なるうえ、個人差も大きいため、適切な透析膜の選択や透析条件の設定は困難である。診断マーカーの選択の詳細部分はノウハウとして各医療機関に委ねられているのが現状であり、汎用性があり現場で使いやすい診断マーカーが要請されている。とくに、透析膜の種類は適時、交換する必要があるなど、その選択は難しく、選択の指針となる診断情報が得られれば治療効果に大きく貢献する。
【0004】
また、血液透析療法の臨床効果を左右する因子として、PEM(protein energy malnutrition)等、患者の栄養状態が重要な役割を果たしていることが判明している。しかし、栄養状態は、標準化透析量の指標であるKt/Vureaなど、従来の診断マーカーと負の相関を持つことが報告されており、Kt/Vurea以外に、栄養状態を代弁する新たな指標が望まれている。
【0005】
さらに、末期腎不全患者における尿毒症病態を悪化させる因子として、種々の炎症性サイトカインの関与が報告されており、炎症性サイトカインと相関のある診断マーカーが見出されれば、透析処方の最適化やその臨床効果を評価できる可能性がある。
【特許文献1】特開平9-10301号公報
【特許文献2】特開2008−32395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、標準化透析量の指標として、上記のKt/Vureaの他に尿素クリアスペース(CS)や細胞膜クリアランス(Kc)がある。尿素クリアスペース(CS)は透析患者の5年生存率およびQOLに、そして、細胞膜クリアランス(Kc)は透析患者の臨床に強い影響を及ぼす栄養状態および易罹患性を反映していることが学会で認められ、あるいは経験上分かっており、新たな透析量の指標として用いるには最適であると思われる。しかし、尿素クリアスペース(CS)および細胞膜クリアランス(Kc)の測定には特殊な装置と経験が必要であり、これらを直接測定することにより患者の状態を把握することを普及させることは現実的でない。例えば、尿素クリアスペース(CS)の測定のためには、4時間に渡る透析の全排液をタンクに溜めて、その排液中の有害物質量を測定する必要があるため、装置が大掛かりとなり、また煩雑な測定を要する。また、毒素の抜けた総量は分かるが、経時的な抜け具合の変化等は分からない。
【0007】
本発明の目的は、汎用性があり、透析処方および臨床効果の評価に貢献する診断マーカーを与えることができる血液診断方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の血液診断方法は、人工透析患者から採取された血液に基づいた診断を行う血液診断方法において、尿素クリアスペース(CS)または細胞膜クリアランス(Kc)とmRNAもしくはタンパク質プロファイルとの間の相関に基づいてバイオマーカーを予め同定するステップと、人工透析患者の透析前後における血液サンプルを採取するステップと、採取された前記血液サンプルについて、同定された前記バイオマーカーに基づく診断を行うステップと、を備えることを特徴とする。
この血液診断方法によれば、尿素クリアスペース(CS)または細胞膜クリアランス(Kc)とmRNAもしくはタンパク質プロファイルとの間の相関に基づいてバイオマーカーを予め同定するので、汎用性があり、透析処方および臨床効果の評価に貢献する診断マーカーを与えることができる。
【0009】
本発明の血液診断方法は、人工透析患者から採取された血液に基づいた診断を行う血液診断方法において、人工透析患者の透析前後における血液サンプルを採取するステップと、採取された前記血液サンプルについてバイオマーカーに基づく診断を行うステップと、を備え、前記バイオマーカーとして、mRNAもしくはタンパク質プロファイルにより、下記遺伝子のうちのいずれかもしくはそれらの組合せを用いることを特徴とする。
TNFSF12,MAFB,SLC2A6,POP7,C1orf144,SLC25A6,EIF1,ATP5B,ETFB,FBXW4,TTC9C,NAGA,MYO1G,GSTK1,UBE2S,AP2S1,DNPEP,TGFBI,LSM12,LIPA,RPML2,CITED2,FUCA1,NUP62,OXA1L ,ASB13,NANS,CD68,TSSC4,COMMD4,F8A1,PCGF1,RAD23A,YY1,MRPL43,GPS1,ARL6IP4,ALDOA,FAM54B,NMT1,ATP5J2,VPS11,CLPTM1,NMRAL1,FKSG30,RRAS,COMT,SNHG5,PSMB1,LRRC8D,HDLBP,SCAND1,CSF1R,C20orf4,TPI1,NAPSB,POLDIP2,SNX15,CTSH,TMED1,POLR3K,C22orf9,KLHDC3,LAIR1,PLXNB2,AGPAT3,VPS26B,COMMD9,AP1M1,GSS,EEF1D,MRPL23,ITGB2,C10orf56,ISCA1,PQBP1,SLC22A18,KRT10,C19orf54,COPZ1,WIPI1,SIGLEC10,MGST3,UQCRC1,ASNA1,SCARB2,TSSC1,C1orf85,ADFP,BAK1,ENO1,POLR2E,DUSP3,IGSF2,H1FX,MRPS15,KCMF1,ZBED1,CRTAP,SUSD1,ALKBH7,GHITM,CENTA2,DYM,DPYSL2,NDFIP1,C2orf47,PLEKHF1,C11orf75,ATOX1,PRICKLE4,PEPD,MDH2,SPNS1,JTV1,HNRNPUL1,ENO1L1,ILF3,RPUSD3,ACO2,CENPB,TCF7L2,MAPKAP1,G6PC3,DHPS,RTN1,RABGGTA,CAMTA1,KBRAS2,FARS1,ESD,PTDSS1,C3orf60,HLA-DQB1,NAGPA,XRCC1,NDUFS7,TTLL12,FH,FLAD1,RSU1,ALDH6A1,DCXR,RSL1D1,NUDC,DTD1,CNDP2,TRPV2,ZNF689,H6PD,RNF26,ABHD12,C17orf63,TP53,SUGT1,IDH3B,VDAC2,AIP,C8orf30A,CSNK2A1,HADH2,OCIAD1,TRIM44,PTBP1,SMARCB1,PSMD2,RNF5,EIF3M,NOB1,RALY,GATAD2A,COG2,SCAMP2,MTHFD1,AKR7A2,POLR3E,ECHS1,ACP5,RPL38,CCDC86,NUBP1,AHCYL2,TP53BP1,FTO,NOL5A,BSCL2,LRRC41,SEC31A,SCLY,MAP4,C4orf14,FVT1,FAHD2A,HNRNPD,FAM50B,SRM,LARP1,ZNF777,FARSA,CALR,ZFP64,NUDT19,FGD2,GTPBP3,POLR1C,PCMTD1
この血液診断方法によれば、バイオマーカーを診断マーカーとして用いるので、汎用性があり、透析処方および臨床効果の評価に貢献する診断マーカーを与えることができる。
【0010】
血液サンプルを採取するステップでは、透析装置を介して前記血液サンプルを採取してもよい。
【0011】
本発明の透析装置は、血液を透析器により浄化する透析装置において、患者から採取された血液を、バイオマーカーに基づく診断を行うための血液サンプルとして採取する血液サンプル採取手段を備え、前記バイオマーカーは、尿素クリアスペース(CS)または細胞膜クリアランス(Kc)とmRNAもしくはタンパク質プロファイルとの間の相関に基づいて予め同定されることを特徴とする。
この透析装置によれば、尿素クリアスペース(CS)または細胞膜クリアランス(Kc)とmRNAもしくはタンパク質プロファイルとの間の相関に基づいてバイオマーカーを予め同定するので、汎用性があり、透析処方および臨床効果の評価に貢献する診断マーカーを与えることができる。
【0012】
本発明の透析装置は、血液を透析器により浄化する透析装置において、患者から採取された血液を、バイオマーカーに基づく診断を行うための血液サンプルとして採取する血液サンプル採取手段を備え、前記バイオマーカーとして、mRNAもしくはタンパク質プロファイルにより、下記遺伝子のうちのいずれかもしくはそれらの組合せを用いることを特徴とする。
TNFSF12,MAFB,SLC2A6,POP7,C1orf144,SLC25A6,EIF1,ATP5B,ETFB,FBXW4,TTC9C,NAGA,MYO1G,GSTK1,UBE2S,AP2S1,DNPEP,TGFBI,LSM12,LIPA,RPML2,CITED2,FUCA1,NUP62,OXA1L ,ASB13,NANS,CD68,TSSC4,COMMD4,F8A1,PCGF1,RAD23A,YY1,MRPL43,GPS1,ARL6IP4,ALDOA,FAM54B,NMT1,ATP5J2,VPS11,CLPTM1,NMRAL1,FKSG30,RRAS,COMT,SNHG5,PSMB1,LRRC8D,HDLBP,SCAND1,CSF1R,C20orf4,TPI1,NAPSB,POLDIP2,SNX15,CTSH,TMED1,POLR3K,C22orf9,KLHDC3,LAIR1,PLXNB2,AGPAT3,VPS26B,COMMD9,AP1M1,GSS,EEF1D,MRPL23,ITGB2,C10orf56,ISCA1,PQBP1,SLC22A18,KRT10,C19orf54,COPZ1,WIPI1,SIGLEC10,MGST3,UQCRC1,ASNA1,SCARB2,TSSC1,C1orf85,ADFP,BAK1,ENO1,POLR2E,DUSP3,IGSF2,H1FX,MRPS15,KCMF1,ZBED1,CRTAP,SUSD1,ALKBH7,GHITM,CENTA2,DYM,DPYSL2,NDFIP1,C2orf47,PLEKHF1,C11orf75,ATOX1,PRICKLE4,PEPD,MDH2,SPNS1,JTV1,HNRNPUL1,ENO1L1,ILF3,RPUSD3,ACO2,CENPB,TCF7L2,MAPKAP1,G6PC3,DHPS,RTN1,RABGGTA,CAMTA1,KBRAS2,FARS1,ESD,PTDSS1,C3orf60,HLA-DQB1,NAGPA,XRCC1,NDUFS7,TTLL12,FH,FLAD1,RSU1,ALDH6A1,DCXR,RSL1D1,NUDC,DTD1,CNDP2,TRPV2,ZNF689,H6PD,RNF26,ABHD12,C17orf63,TP53,SUGT1,IDH3B,VDAC2,AIP,C8orf30A,CSNK2A1,HADH2,OCIAD1,TRIM44,PTBP1,SMARCB1,PSMD2,RNF5,EIF3M,NOB1,RALY,GATAD2A,COG2,SCAMP2,MTHFD1,AKR7A2,POLR3E,ECHS1,ACP5,RPL38,CCDC86,NUBP1,AHCYL2,TP53BP1,FTO,NOL5A,BSCL2,LRRC41,SEC31A,SCLY,MAP4,C4orf14,FVT1,FAHD2A,HNRNPD,FAM50B,SRM,LARP1,ZNF777,FARSA,CALR,ZFP64,NUDT19,FGD2,GTPBP3,POLR1C,PCMTD1
この透析装置によれば、バイオマーカーを診断マーカーとして用いるので、汎用性があり、透析処方および臨床効果の評価に貢献する診断マーカーを与えることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の血液診断方法によれば、尿素クリアスペース(CS)または細胞膜クリアランス(Kc)とmRNAもしくはタンパク質プロファイルとの間の相関に基づいてバイオマーカーを予め同定するので、汎用性があり、透析処方および臨床効果の評価に貢献する診断マーカーを与えることができる。
【0014】
本発明の血液診断方法によれば、バイオマーカーを診断マーカーとして用いるので、汎用性があり、透析処方および臨床効果の評価に貢献する診断マーカーを与えることができる。
【0015】
本発明の透析装置によれば、尿素クリアスペース(CS)または細胞膜クリアランス(Kc)とmRNAもしくはタンパク質プロファイルとの間の相関に基づいてバイオマーカーを予め同定するので、汎用性があり、透析処方および臨床効果の評価に貢献する診断マーカーを与えることができる。
【0016】
本発明の透析装置によれば、バイオマーカーを診断マーカーとして用いるので、汎用性があり、透析処方および臨床効果の評価に貢献する診断マーカーを与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明による血液診断方法の一実施形態について説明する。
【0018】
本発明は、人工透析患者の透析前後の血液サンプルの特定mRNAもしくはタンパク質群のプロファイル量が、従来の診断マーカーと相関があることの発見に基づくものである。本発明の発明者は、それらのmRNAもしくはタンパク質群の中でとくに相関の強い遺伝子を絞り込むことで、臨床状態と遺伝子診断情報との有益相関データを得られるとの知見を得ている。患者の原疾患や特定の臨床パラメータと相関の高いmRNAもしくはタンパク質群を診断マーカーとして用いることにより、汎用性、簡便性のある診断ツールを提供することができる。
【0019】
本実施形態の血液診断方法の手順は以下の通りである。
(1)透析前の患者の血液サンプルを採取する。
(2)透析装置を用いて人工透析を行う。
(3)透析後の患者の血液サンプルを採取する。
(4)透析前後の血液サンプルのそれぞれについて、mRNAもしくはタンパク質プロファイルを取得する。
(5)特定のmRNAもしくはタンパク質群をマーカーとして使用し、上記mRNAもしくはタンパク質プロファイルに基づく診断を行う。
【0020】
このように、本実施形態の血液診断方法では、血液中の特定のmRNAもしくはタンパク質群をマーカーとして使用する。マーカーとして使用する遺伝子群は、尿素クリアスペース(CS)および細胞膜クリアランス(Kc)との間で高い相関関係のあるものが選択される。
【0021】
これらは、種々の観点で選択できる。例えば、慢性肝炎患者群の血液サンプルについて、透析によりアップレギュレイション(up-regulation)している遺伝子およびダウンレギュレイション(down-regulation)している遺伝子群を「慢性肝炎バイオマーカー」として同定することができる。これらの遺伝子群のプローブを配列させることで、カートリッジを構成することができる。この場合、すべての患者について透析による挙動を示さない遺伝子群のプローブをコントロールプローブとして用いることができる。
【0022】
同様に、糖尿病性腎症患者群や全腎疾患患者群についてもバイオマーカーを同定することで、「糖尿病性腎症バイオマーカー」、「全腎疾患バイオマーカー」などを選定できる。これらのマーカーを用いることで、病状の重度や原疾患を推定できる。
【0023】
また、臨床パラメータと相関の高い遺伝子群を抽出し、バイオマーカーとして同定すれば、臨床パラメータを得る代わりにバイオマーカーによる診断が可能となる。例えば、治療効果や患者の栄養状態の判定指標として有用な臨床マーカーであるクレアチニン産生速度と相関がある遺伝子群をバイオマーカーとして用いることができる。同様に、従来マーカーとして用いられている他の指標と相関がある遺伝子群をバイオマーカーとして用いることもできる。
【0024】
PEM(protein energy malnutrition)等の栄養状態を示す指標と相関がある遺伝子群をバイオマーカーとして用いることにより、従来の診断マーカーとは観点の異なる新たな指標を得ることができる。また、炎症性サイトカインと相関のある遺伝子群をバイオマーカーとして用いることで、とくに末期腎不全患者における尿毒症病態の改善が可能となる。また、高齢者特有の肺炎、気管支炎等の感染症についてもバイオマーカーの選定により、易罹患性などを把握可能となる。
【0025】
さらに、使用される透析膜と相関の高いmRNAもしくはタンパク質群をバイオマーカーとして抽出することにより、バイオマーカーを透析膜の選択のための指標として利用できる。
【0026】
バイオマーカーの同定、およびバイオマーカーを用いた診断は、通常の統計学的手法に基づいて行うことができる。バイオマーカーを用いて診断を行った患者の臨床データをフィードバックすることで、継続的に診断精度が向上する。新たな指標に対するバイオマーカーを追加し、あるいは同一指標に対するバイオマーカーを更新することも可能となる。
【0027】
腎性貧血は透析患者のQOLに影響を及ぼす大きな要因となっているが、Kc/CSなどの透析量の最適化で貧血に関するmRNAをアップレギュレイション(up-regulation)できる。それらのバイオマーカーを用いることにより、エリスロポエチン投与量を減量でき、医療経済的にも有用となる。
【0028】
バイオマーカーによる診断は、血液サンプルを直接、あるいは前処理を施したうえで遺伝子診断システムによる遺伝子解析にかけることで行われる。
【0029】
上記のように、臨床データと相関のあるバイオマーカーを予め選定することにより、例えば、以下の効果を発揮する。
(1)患者の状態に合致する透析膜を選択できる。バイオマーカーにより迅速な診断が可能となるため、常に適切な透析膜を選択可能となる。
(2)慢性透析療法患者の原疾患の解明が容易となる。
(3)個体差を反映した診断評価および透析処方を得ることができる。
(4)感染症等の合併症の回避が可能となる。合併症の指標となるバイオマーカーを用いることで、従来の診断マーカーでは抽出できない合併症に関連する評価や適切な透析処方が得られる。
(5)原因同定により適切な治療計画の策定が可能となる。例えば、臨床データと付き合わせたバイオマーカーを用いることで、慢性腎炎、糖尿病由来腎疾患等の原因が判定できる。
(6)患者の栄養状態を把握できる。上記のように、PEM等の栄養状態を示す指標と相関がある遺伝子群をバイオマーカーとして用いることで、栄養状態の向上による病状改善を図ることができる。
(7)臨床データとmRNAもしくはタンパク質プロファイルとの相関の蓄積により、患者の原疾患や病状と、そのような患者における透析(の有無)による治療効果との関係が、明らかになるため、透析の開始時期を適切に判断可能となる。したがって、保存期を長くできる可能性がある。
【0030】
上記のように、本発明による血液診断方法では、尿素クリアスペース(CS)および細胞膜クリアランス(Kc)との間で高い相関関係のある遺伝子群をマーカーとして使用する。とくに、尿素クリアスペース(CS)と延命性との関係は、日本の腎学会で認められている。したがって、尿素クリアスペース(CS)との間で高い相関関係のある遺伝子を同定することは、延命性と相関性の高い遺伝子を、尿素クリアスペース(CS)という中間のマーカーを介して間接的に同定することを意味している。
【0031】
図1〜図4は、尿素クリアスペース(CS)および細胞膜クリアランス(Kc)との間で高い相関関係のあるものとして、本発明の発明者により同定された遺伝子群を示している。図1〜図4では、尿素クリアスペース(CS)との相関係数が大きい順に遺伝子を並べるとともに、各遺伝子について細胞膜クリアランス(Kc)との相関係数および発現量を示している。
【0032】
尿素クリアスペース(CS)あるいは細胞膜クリアランス(Kc)との間で高い相関関係を示し、ある程度の発現量のある遺伝子をマーカーとして使用することができる。このような観点で抽出される遺伝子として、TNFSF12,MAFB,SLC2A6,POP7,C1orf144,SLC25A6,EIF1,ATP5B,ETFB,FBXW4,TTC9C,NAGA,MYO1G,GSTK1,UBE2S,AP2S1,DNPEP,TGFBI,LSM12,LIPA,RPML2,CITED2,FUCA1,NUP62,OXA1L ,ASB13,NANS,CD68,TSSC4,COMMD4,F8A1,PCGF1,RAD23A,YY1,MRPL43,GPS1,ARL6IP4,ALDOA,FAM54B,NMT1,ATP5J2,VPS11,CLPTM1,NMRAL1,FKSG30,RRAS,COMT,SNHG5,PSMB1,LRRC8D,HDLBP,SCAND1,CSF1R,C20orf4,TPI1,NAPSB,POLDIP2,SNX15,CTSH,TMED1,POLR3K,C22orf9,KLHDC3,LAIR1,PLXNB2,AGPAT3,VPS26B,COMMD9,AP1M1,GSS,EEF1D,MRPL23,ITGB2,C10orf56,ISCA1,PQBP1,SLC22A18,KRT10,C19orf54,COPZ1,WIPI1,SIGLEC10,MGST3,UQCRC1,ASNA1,SCARB2,TSSC1,C1orf85,ADFP,BAK1,ENO1,POLR2E,DUSP3,IGSF2,H1FX,MRPS15,KCMF1,ZBED1,CRTAP,SUSD1,ALKBH7,GHITM,CENTA2,DYM,DPYSL2,NDFIP1,C2orf47,PLEKHF1,C11orf75,ATOX1,PRICKLE4,PEPD,MDH2,SPNS1,JTV1,HNRNPUL1,ENO1L1,ILF3,RPUSD3,ACO2,CENPB,TCF7L2,MAPKAP1,G6PC3,DHPS,RTN1,RABGGTA,CAMTA1,KBRAS2,FARS1,ESD,PTDSS1,C3orf60,HLA-DQB1,NAGPA,XRCC1,NDUFS7,TTLL12,FH,FLAD1,RSU1,ALDH6A1,DCXR,RSL1D1,NUDC,DTD1,CNDP2,TRPV2,ZNF689,H6PD,RNF26,ABHD12,C17orf63,TP53,SUGT1,IDH3B,VDAC2,AIP,C8orf30A,CSNK2A1,HADH2,OCIAD1,TRIM44,PTBP1,SMARCB1,PSMD2,RNF5,EIF3M,NOB1,RALY,GATAD2A,COG2,SCAMP2,MTHFD1,AKR7A2,POLR3E,ECHS1,ACP5,RPL38,CCDC86,NUBP1,AHCYL2,TP53BP1,FTO,NOL5A,BSCL2,LRRC41,SEC31A,SCLY,MAP4,C4orf14,FVT1,FAHD2A,HNRNPD,FAM50B,SRM,LARP1,ZNF777,FARSA,CALR,ZFP64,NUDT19,FGD2,GTPBP3,POLR1C,PCMTD1 等を挙げることができる。
【0033】
本発明による血液診断方法によれば、透析の対象となる血液自体をサンプルとしているため、他の臨床データによる診断に比べ、透析の作用を効率的に抽出できる。また、血液サンプルには透析の作用が迅速に現れるため、迅速な診断が可能となる。
【0034】
さらに、mRNAもしくはタンパク質は血液が透析膜を通過する際の刺激により促進されるため、遺伝子解析をより有効なものとできる。
【0035】
また、本発明の血液診断方法によれば、バイオマーカーを適宜選択することで、患者の炎症状態、栄養状態および筋肉融解の状態を把握できる。また、サイトカイン産生状態を把握し、その結果エリスロポエチン不応性、インスリン抵抗性、急アディポサイトカイン亢進を把握することができる。
【0036】
図5は透析装置の構成例を示す図である。
【0037】
血液サンプルは、透析装置1から直接採取することができる。患者の血液は、透析装置1の送液装置12および透析器11を順次通って、患者の体内に戻される。図5に示すように、透析器11の手前には血液サンプルを採取するためのバルブ13が設けられており、透析開始時および透析終了時にバルブ13を開くことで、患者の血液サンプルを採取し、上記のバイオマーカーを用いた診断を実行できる。なお、本発明において、透析前後は透析開始前および透析終了後のみを意味せず、複数回、血液サンプルを採取する間に、透析が進行することを意味する。したがって、透析中に血液サンプルを採取してもよい。透析中に血液サンプルを採取し、これを遺伝子解析システム2で検査することにより、透析中の患者の状態を経時的にモニタリングすることもできる。
【0038】
図5に示す透析装置1を用いれば、血液サンプルの採取のために患者に一切負担をかけることはない。また、血液サンプル採取のための手間も不要である。透析装置1で採取された血液サンプルを自動的に遺伝子解析システム2に導入するようにしてもよい。この場合、血液サンプルの必要量を抑制できる。
【0039】
以上説明したように、本発明の血液診断方法によれば、採取された血液サンプルについてバイオマーカーに基づく診断を行うので、汎用性、簡便性があり、かつ有用な診断結果を得ることができる。
【0040】
本発明の適用範囲は上記実施形態に限定されることはない。本発明は、人工透析患者から採取された血液に基づいた診断を行う血液診断方法等に対し、広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】同定された遺伝子群を示す図。
【図2】同定された遺伝子群を示す図。
【図3】同定された遺伝子群を示す図。
【図4】同定された遺伝子群を示す図。
【図5】透析装置の構成例を示す図。
【符号の説明】
【0042】
1 透析装置
11 透析器
13 バルブ(血液サンプル採取手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工透析患者から採取された血液に基づいた診断を行う血液診断方法において、
尿素クリアスペース(CS)または細胞膜クリアランス(Kc)と遺伝子発現プロファイルとの間の相関に基づいてバイオマーカーを予め同定するステップと、
人工透析患者の透析前後における血液サンプルを採取するステップと、
採取された前記血液サンプルについて、同定された前記バイオマーカーに基づく診断を行うステップと、
を備えることを特徴とする血液診断方法。
【請求項2】
人工透析患者から採取された血液に基づいた診断を行う血液診断方法において、
人工透析患者の透析前後における血液サンプルを採取するステップと、
採取された前記血液サンプルについてバイオマーカーに基づく診断を行うステップと、
を備え、
前記バイオマーカーとして、mRNAもしくはタンパク質プロファイルにより、下記遺伝子のうちのいずれかもしくはそれらの組合せを用いることを特徴とする血液診断方法。
TNFSF12,MAFB,SLC2A6,POP7,C1orf144,SLC25A6,EIF1,ATP5B,ETFB,FBXW4,TTC9C,NAGA,MYO1G,GSTK1,UBE2S,AP2S1,DNPEP,TGFBI,LSM12,LIPA,RPML2,CITED2,FUCA1,NUP62,OXA1L ,ASB13,NANS,CD68,TSSC4,COMMD4,F8A1,PCGF1,RAD23A,YY1,MRPL43,GPS1,ARL6IP4,ALDOA,FAM54B,NMT1,ATP5J2,VPS11,CLPTM1,NMRAL1,FKSG30,RRAS,COMT,SNHG5,PSMB1,LRRC8D,HDLBP,SCAND1,CSF1R,C20orf4,TPI1,NAPSB,POLDIP2,SNX15,CTSH,TMED1,POLR3K,C22orf9,KLHDC3,LAIR1,PLXNB2,AGPAT3,VPS26B,COMMD9,AP1M1,GSS,EEF1D,MRPL23,ITGB2,C10orf56,ISCA1,PQBP1,SLC22A18,KRT10,C19orf54,COPZ1,WIPI1,SIGLEC10,MGST3,UQCRC1,ASNA1,SCARB2,TSSC1,C1orf85,ADFP,BAK1,ENO1,POLR2E,DUSP3,IGSF2,H1FX,MRPS15,KCMF1,ZBED1,CRTAP,SUSD1,ALKBH7,GHITM,CENTA2,DYM,DPYSL2,NDFIP1,C2orf47,PLEKHF1,C11orf75,ATOX1,PRICKLE4,PEPD,MDH2,SPNS1,JTV1,HNRNPUL1,ENO1L1,ILF3,RPUSD3,ACO2,CENPB,TCF7L2,MAPKAP1,G6PC3,DHPS,RTN1,RABGGTA,CAMTA1,KBRAS2,FARS1,ESD,PTDSS1,C3orf60,HLA-DQB1,NAGPA,XRCC1,NDUFS7,TTLL12,FH,FLAD1,RSU1,ALDH6A1,DCXR,RSL1D1,NUDC,DTD1,CNDP2,TRPV2,ZNF689,H6PD,RNF26,ABHD12,C17orf63,TP53,SUGT1,IDH3B,VDAC2,AIP,C8orf30A,CSNK2A1,HADH2,OCIAD1,TRIM44,PTBP1,SMARCB1,PSMD2,RNF5,EIF3M,NOB1,RALY,GATAD2A,COG2,SCAMP2,MTHFD1,AKR7A2,POLR3E,ECHS1,ACP5,RPL38,CCDC86,NUBP1,AHCYL2,TP53BP1,FTO,NOL5A,BSCL2,LRRC41,SEC31A,SCLY,MAP4,C4orf14,FVT1,FAHD2A,HNRNPD,FAM50B,SRM,LARP1,ZNF777,FARSA,CALR,ZFP64,NUDT19,FGD2,GTPBP3,POLR1C,PCMTD1
【請求項3】
血液サンプルを採取するステップでは、透析装置を介して前記血液サンプルを採取することを特徴とする請求項1または2に記載の血液診断方法。
【請求項4】
血液を透析器により浄化する透析装置において、
患者から採取された血液を、バイオマーカーに基づく診断を行うための血液サンプルとして採取する血液サンプル採取手段を備え、
前記バイオマーカーは、尿素クリアスペース(CS)または細胞膜クリアランス(Kc)とmRNAもしくはタンパク質プロファイルとの間の相関に基づいて予め同定されることを特徴とする透析装置。
【請求項5】
血液を透析器により浄化する透析装置において、
患者から採取された血液を、バイオマーカーに基づく診断を行うための血液サンプルとして採取する血液サンプル採取手段を備え、
前記バイオマーカーとして、mRNAもしくはタンパク質プロファイルにより、下記遺伝子のうちのいずれかもしくはそれらの組合せを用いることを特徴とする透析装置。
TNFSF12,MAFB,SLC2A6,POP7,C1orf144,SLC25A6,EIF1,ATP5B,ETFB,FBXW4,TTC9C,NAGA,MYO1G,GSTK1,UBE2S,AP2S1,DNPEP,TGFBI,LSM12,LIPA,RPML2,CITED2,FUCA1,NUP62,OXA1L ,ASB13,NANS,CD68,TSSC4,COMMD4,F8A1,PCGF1,RAD23A,YY1,MRPL43,GPS1,ARL6IP4,ALDOA,FAM54B,NMT1,ATP5J2,VPS11,CLPTM1,NMRAL1,FKSG30,RRAS,COMT,SNHG5,PSMB1,LRRC8D,HDLBP,SCAND1,CSF1R,C20orf4,TPI1,NAPSB,POLDIP2,SNX15,CTSH,TMED1,POLR3K,C22orf9,KLHDC3,LAIR1,PLXNB2,AGPAT3,VPS26B,COMMD9,AP1M1,GSS,EEF1D,MRPL23,ITGB2,C10orf56,ISCA1,PQBP1,SLC22A18,KRT10,C19orf54,COPZ1,WIPI1,SIGLEC10,MGST3,UQCRC1,ASNA1,SCARB2,TSSC1,C1orf85,ADFP,BAK1,ENO1,POLR2E,DUSP3,IGSF2,H1FX,MRPS15,KCMF1,ZBED1,CRTAP,SUSD1,ALKBH7,GHITM,CENTA2,DYM,DPYSL2,NDFIP1,C2orf47,PLEKHF1,C11orf75,ATOX1,PRICKLE4,PEPD,MDH2,SPNS1,JTV1,HNRNPUL1,ENO1L1,ILF3,RPUSD3,ACO2,CENPB,TCF7L2,MAPKAP1,G6PC3,DHPS,RTN1,RABGGTA,CAMTA1,KBRAS2,FARS1,ESD,PTDSS1,C3orf60,HLA-DQB1,NAGPA,XRCC1,NDUFS7,TTLL12,FH,FLAD1,RSU1,ALDH6A1,DCXR,RSL1D1,NUDC,DTD1,CNDP2,TRPV2,ZNF689,H6PD,RNF26,ABHD12,C17orf63,TP53,SUGT1,IDH3B,VDAC2,AIP,C8orf30A,CSNK2A1,HADH2,OCIAD1,TRIM44,PTBP1,SMARCB1,PSMD2,RNF5,EIF3M,NOB1,RALY,GATAD2A,COG2,SCAMP2,MTHFD1,AKR7A2,POLR3E,ECHS1,ACP5,RPL38,CCDC86,NUBP1,AHCYL2,TP53BP1,FTO,NOL5A,BSCL2,LRRC41,SEC31A,SCLY,MAP4,C4orf14,FVT1,FAHD2A,HNRNPD,FAM50B,SRM,LARP1,ZNF777,FARSA,CALR,ZFP64,NUDT19,FGD2,GTPBP3,POLR1C,PCMTD1
【請求項6】
前記血液サンプル採取手段は、前記透析器の手前で前記血液サンプルを採取することを特徴とする請求項4または5に記載の透析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−107461(P2010−107461A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281987(P2008−281987)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】