説明

人工関節の製造方法

本出願は、少なくとも一部分がポリエチレンからなる少なくとも一つの負荷表面を有する人工関節の製造方法であって、延伸ゲル紡糸ポリエチレン繊維からなる織布の一層以上を、圧力少なくとも0.05MPaおよび温度120〜165℃で、かつ一般的な温度および圧力におけるポリエチレンの結晶融点未満で、マトリックス材の存在なしに、プラグを用いて中空型部分の所望形状に圧縮する工程を含み、少なくとも、負荷表面上にある層中の織布は、力価1000デニール以下を有する繊維少なくとも90質量%を含む方法、およびしわなし表面を有する人工関節に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一部分が、ポリエチレンからなる少なくとも一つの負荷表面(laoded surface)、特に一つ以上の方向に湾曲される負荷表面を有する人工関節の製造方法に関する。ポリエチレン、特に超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)は、既知の物質であり、また人工または置換関節を製造するに際して、しばしば適用される物質である。生物学的慣性および高い耐磨耗性は、前記物質を、哺乳動物、特にヒトの体内適用に非常に適したものにする。人工関節、特にその負荷部分における適用は既知である。特に、関節ソケットの内側は、負荷が掛かった際にそこで動く関節球(通常は金属からなる)と接触するが、これは、本明細書の例である。例えば、人工の膝、腰、肘、肩、手首、足首、足指、および手指の関節の構成要素である。
【発明の詳細な説明】
【0002】
適切なUHMWPEは、固有粘度(IV、デカリン溶液について135℃で測定される際)4〜40dl/g、好ましくは12〜30、またはさらに15〜25dl/gを有するものである。好ましくは、UHMWPEは、線形ポリエチレンであり、側鎖1個未満/炭素原子100個、好ましくは側鎖1個未満/炭素原子300個を有し、側鎖または分枝は、通常、炭素原子少なくとも10個を含む。線形ポリエチレンは、さらに、一種以上のコモノマー5モル%以下を含みうる。例えば、プロピレン、ブテン、ペンテン、4−メチルペンテン、またはオクテンなどのアルケンである。
【0003】
UHMWPEは、少量の比較的小さな基を側鎖として含みうる。好ましくは、C〜Cアルキル基である。その場合には、UHMWPEは、好ましくはメチルまたはエチル側鎖、より好ましくはメチル基側鎖を含む。その数は、その際、炭素原子1000個あたり好ましくは0.2〜10個、より好ましくは0.3〜5個である。また、異なるタイプのUHMWPE(例えばIV、分子量分布、および/または側鎖数に関して相違する)の混合物が、本発明の方法で適用されうる。人工関節のPE部分は、直接、機械的に、または骨セメントを用いるかのいずれかで、他のポリマー(例えばPMMA)からなる中間層(任意に存在する)を用いて骨に固定されうる。国際公開第00/59701号パンフレットからは、UHMWPE粉末を高温および高圧で圧縮して、ブロック(それから所望形状の部分が機械加工される)を形成することによって、前記部分を製造することが知られる。
【0004】
UHMWPEのこの適用に伴う当面の通常に知られる問題は、その高い耐磨耗性に係わらず、協動する関節部分が互いに動く結果として、使用中にポリエチレン粒子が放出されることである。特に、サイズ0.5〜10μmの粒子は、人体中で生物学的な反応をもたらすことが見出される。これは、周囲の骨の機能喪失および人体の炎症反応に繋がりうる。
【0005】
本発明は、ここで、前記欠点を伴わないか、またはより少ない程度に伴う方法を提供することを目的とする。
【0006】
この目的は、本発明にしたがって、次の工程、すなわち、所望形状への型(mould)において、オス型部分(さらには、プラグと呼ばれる)およびメス中空型部分の間で、延伸ゲル紡糸ポリエチレン繊維の織布の一層以上を、圧力少なくとも0.05MPaおよび温度120〜165℃で、かつ一般的な温度および圧力におけるポリエチレンの結晶融点未満で、マトリックス材の存在なしに圧縮する工程によって達成され、少なくとも、負荷表面上にある層中の織布は、力価(titre)1000デニール以下のポリエチレン繊維を少なくとも90質量%を含む。
【0007】
驚くべきことに、このように製造された人工体中のポリエチレンは、使用中に、特に上記された範囲の粒子(人体内に望ましくない反応をもたらしうる)を、既知の人工体中のポリエチレンからに比べて、実質的により少なく放出することが見出された。以下に記載されるゲル紡糸方法は、繊維はそれをその先行過程として有するが、これは、本発明の方法によって得られる圧縮された織布の表面に、特定の特性を付与することが見出される。この特性は、粉末から成形され、次いで機械加工される物体の表面の特性とは異なる。これは、人工体の耐用年数を延長し、また患者にとって高価であり、かつ苦痛を伴う早期の置換手術を防止する。
【0008】
本発明の方法のさらなる利点は、得られる人工体の低いクリープである。これは、補完的な協動する関節部分における適合性を、確実に長期間保持する。さらに、人工体の表面は、所望形状が機械加工によって得られる既知の方法と比較して、さらなる手術を全く必要としない。後者(前記既知の方法)は、本発明の方法を用いる場合より、大きな表面粗さ、および粒子が表面から放出され続けるという大きな危険性をもたらす。
【0009】
負荷表面は、本明細書においては、人体へのインプラント後、人工体の使用中に、機械的な荷重に曝される表面であると理解される。
【0010】
本発明の方法により、圧密部分は、別個のマトリックス材を適用することなく得られて、繊維が互いに固着されるか、またはそれらの間のボイドが満たされる。マトリックス材が存在することは、関節が負荷を掛けられた際に、それが、そのサイズが生物学的に危険範囲にある粒子を放出することもあるありうる欠点を有する可能性がある。
【0011】
本発明の方法は、延伸ゲル紡糸ポリエチレン繊維の織布から始まる。これらの繊維は、それ自体既知であり、同様にその製造方法も既知である。これらの繊維を製造する際の実質的な工程は、ポリエチレンを溶剤に溶解する工程、溶液を、数個の孔を有する紡糸口金を通して紡糸して、溶液からなる繊維を形成する工程、繊維を、溶液の溶解点未満に冷却するか、または繊維の紡糸で知られる他の技術によって凝固させる工程、冷却された繊維を、一種以上の工程において、それらがもはやいかなる溶剤も含まない場合には一般的な温度における繊維の結晶融点(または繊維が依然として溶剤を含む場合には溶解温度)未満、好ましくはその近傍で、しかも延伸張力を付して引抜く工程である。溶剤は、延伸の前、その途中、またはその後に除去され、そのために最終的に、少なくとも実質的に溶剤を含まない繊維が得られる。このように得られた繊維においては、延伸の結果として、大部分のPEが、分子的に配向される。この部分は、実質的に、繊維の好ましい特性に寄与することが見出される。概して、小部分は、分子的な配向がより少なく、分子的に配向された部分より低い融点を有することが見出される。延伸ゲル紡糸ポリエチレン繊維のこの独特の特性は、前記繊維を、本発明の方法で適用するのに特に適切にする。
【0012】
このように得られた繊維(以下、ゲル繊維として引用される)の例は、Dyneema(登録商標)およびSpectra(登録商標)の商品名で商業的に入手可能なUHMWPE繊維である。繊維は、ここでは、特に、多数(例えば2〜2,000)のモノフィラメントからなるマルチフィラメントであると理解される。
【0013】
繊維は、織布の形態で適用される。織布にはまた、ここでは、編地布が含まれる。編地布は、ここでは、繊維が種々の絡み合い形態(ある種の凝集の尺度)によって得られたシート形状の繊維構造であると理解される。織布においては、各繊維は、交互に、一つ以上の交差繊維の上およびその下を走り、それにより表面上に規則正しいパターンで現われたり消えたりする。二つの連続する場所の間の表面に現われる繊維部分(繊維が交差繊維の上を走る)の長さは、露出繊維長と呼ばれる。
【0014】
織布中の繊維またはヤーンについて、表面上の露出繊維長は、製造される人工体の磨耗特性に対して実質的な効果を有することが見出されている。この露出繊維長は、ヤーンの力価、および織布中の繊維が互いの交差する方式による。例えば、1−1織布(1−over−1 woven fabric)においては、交差する両方向において、各繊維は、交互に、交差方向の繊維(互いに次に連続して置かれる)の上および下を走る。1−2織布においては、一方向の各繊維は、交互に、交差方向の二つの隣接する繊維の一対の上および下を走る。2−2織布においては、後者(1−2織布)が、両方向の場合である。ここで、i−j織布は、iおよびjいずれも≦3であるが、これは、本発明の方法で良好な耐磨耗性を有する人工体をもたらすことが見出されている。非常に良好な結果は、iおよびjが≦2である場合に達成され、最良の結果は、iまたはjのいずれかが2以下であり、他は1に等しい場合に達成される。いわゆる平織りは、iおよびj何れもが1であるが、これは、最も好ましい。
【0015】
布の織りパターンに加えて、その密度はまた、織布の表面上の繊維の露出繊維長に対する効果を有する。この密度は、好ましくは高く、ヤーンの力価は制限因子である。力価tデニールの繊維が、i−j布に適用される場合には、繊維密度n、すなわち表面上の繊維数/cmは、好ましくは少なくとも250/√tcm−1、より好ましくは少なくとも330/√tcm−1、最も好ましくは少なくとも350/√tcm−1である。力価tデニールの繊維のi−j織布については、表面上の対応する露出繊維長mは、好ましくは√t/(250/max(i,j))cm以下、より好ましくは√t/(330/max(i,j))cm以下、最も好ましくは√t/(350/max(i,j))cm以下である。ここで、max(i,j)は、iおよびjのより大きい値である。
【0016】
前記値は、圧縮前の繊維に適用される。多層布が適用される場合には、前記値は、少なくとも、人工体の負荷表面に置かれる布に適用される。類似の考え方は、編地布にも適用される。負荷表面中にない織布層については、より低い繊維密度の値が許容される。さらに、関節運動の結果としての磨耗粒子(0.5〜10μmの範囲)の量は、繊維が力価0.5〜10デニール/フィラメント(dpf)、好ましくは1〜5dpfのモノフィラメントからなる場合には、比較的より低いことが見出された。繊維自体、多数のモノフィラメントからなるが、これは、同じ有利な効果を考慮すると、当該繊維の力価は少なくとも10デニールあることが好ましく、少なくとも20デニールであることが好ましく、少なくとも40デニールであることがより好ましく、また、1000デニール以下、好ましくは900デニール以下、より好ましくは750デニール以下または500デニール以下であることがされに好ましい。
【0017】
さらに、織布が、圧縮前に、張力下に熱処理を受ける場合には、繊維密度は、増大され、そのために露出繊維長は、減少されうることが見出された。適用される張力は、いくらか縮ませるのに適切でなければならない。しかし、ここで、織布が、しわになるかまたは発泡するのを防止する注意が払われるべきである。適切な温度は、120〜145℃であるが、いかなる場合においても一般的な温度および張力におけるポリプロピレンの結晶融点未満である。標準的には、温度および張力を1〜30分間保持することは、織布の密度を実質的に増大するのに適切である。好ましくは、熱処理後の繊維密度は、少なくとも360/√t、またはさらに少なくとも380/√tcm−1である。
【0018】
織布は、単一層(単層の織布)からなりうる。しかし、織布は、好ましくは、互いに積み重ねられた数層(多層布)からなる。織布はまた、三次元(3D)織物、または編物の構造であってもよい。これは、織布が、目に見える繊維端(さらなる仕上げを必要とする場合もある)を全く有さないという利点を有する。単層および多層の布の組合せはまた、多層布で適用されてもよい。織布および編地布の組合せはまた、適用されうる。多層または3D構造は、好ましくは細い糸を用いて、好ましくは表面上の織布のそれより大きな露出繊維長を有する糸が導入されることなく綴じられうる。繊維密度nおよび対応する露出繊維長の値mについて特定の要件のものが、少なくとも90%、好ましくは少なくとも98%、さらには100%、負荷表面上にある織布または編地布に適用されることが必ず保持される。人工体の負荷表面上に直接置かれない織布は、より低いn値、またはより高いm値を有してもよい。
【0019】
織布は、所望形状に圧縮される。この形状は、人工体に置換されるべき関節部分によって決定される。補完的な関節部分に面する表面(例えば、股関節ソケットに面する表面)は、協動する補完的な関節部分の表面と一致する形状を有するであろう。この場合には、股関節部分の球は、大腿骨に接続される。人工体の反対側の表面は、身体に面し、身体に接続されうるように配置される。その結果、身体に取付けられるのに適切な金属またはプラスチック構造が、中空型部分内に提供される。圧縮中、織布は、その際、圧縮の作用下で直接的に、または接着剤によるかのいずれかで、それに固着しうる。本発明の方法は、その場合には、直接人工体を提供しうる。これは、例えば、機械的に、もしくはそれ自体既知の骨セメントまたは樹脂による。他の実施形態においては、中空型部分の内側は、裏打されず、本発明の方法は、単に、身体に取付けられるのに適切な構造に未だ固着されないUHMWPE層を提供する。人工体を身体に取付ける技術は、それ自体知られており、この発明の一部分を構成しない。
【0020】
織布は、対応するプラグおよび中空型部分を用いて、型内の所望形状に圧縮される。プラグの表面は、圧縮中に織布と接触するが、これは、関節における協動する補完部分の表面に必要な形状を有する。中空型部分の内側表面は、好ましくは、プラグの形状および人工体の所望形状に適合され、織布が圧縮される際に、得られる層は、所望の厚さ分布および所望形状を有するようになっている。所望の層厚さは、表面全体で等しいこともある。しかし、それはまた、いくつかの場所においては、関連する関節の操作中の将来荷重に関して、他の場所におけるより大きな厚さを有することが好ましいこともある。厚さの変動は、より多くの、またはより厚い層を局部的に適用することによって提供されうる。三次元織布が適用される場合には、所望の厚さ変動は、既に、織布中に提供されうる。局部的な厚さ変動は、機械的挙動を局部領域における機械負荷に適合するように適用されうる。局部的により大きな厚さは、より大きな曲げ剛性および強度を、局部領域にもたらす。これは、金属支持構造への、またはさらに直接に骨への良好な負荷移動を達成させる。
【0021】
圧縮は、高い温度および圧力で行われる。圧縮が適用圧力で行われる温度は、織布のUHMWPEの単に一部分が、その圧力下で融解または流動しうる範囲内にあるべきである。この部分(前記一部分)の程度は、一方では十分な物質が融解するか、または液体になって、圧縮後に所望の密度が得られ、かつ他方では十分な物質が配向状態のままにあって、本来の繊維の特性が効果的に保持されるという要件によって決定される。高度に引抜かれたUHMWPE繊維については、この温度は、典型的には、135℃〜165℃である。温度が上昇するにつれて、圧力はまた、繊維が完全に融解されないように、より高く選択される必要があろう。非常に高い圧力はまた、適切な圧密を達成するのに、より長い圧縮時間との組合せで、特定範囲のより低い方の温度で必要とされる。上記の指針により、当業者は、日常実験によって、圧縮温度、圧縮圧力、および圧縮時間の適切な組合せを決定して、適切な圧密を達成しうる。人工体はまた、いくつかの工程において、異なる圧力および温度で圧縮されうる。
【0022】
UHMWPEの流動または融解部分は、適用される圧縮圧力の作用下で、織布中のボイドが埋められ、好ましくは平滑な表面がプラグのそれに対応して形成されることを確実にする。プラグおよび中空型部分の表面は、表面が人工体上に所望の表面特性を有して形成されるように選択される。これは、一般には、できるだけ平滑である。
【0023】
温度は、非常に低く保持されるので、延伸によって分子的に配向された繊維中のUHMWPEの一部分は、少なくとも相当程度にこの配向を保持して、好都合な摩耗特性が保持されるべきである。好ましくは、人工体における圧縮された織布の初期の曲げ弾性率は、布試料についてASTM D790Mにより測定されて、長さ/厚さ比率少なくとも32を有するが、これは、出発物質における繊維のそれの少なくとも20%である。前記比率を得ることが必要である場合には、表面から遠く除かれた布中の層は、剥離されうる。織布が所望形状に圧縮される圧力は、少なくとも非常に大きいので、織布は、圧密一体部分になるべきである。これは、UHMWPEの融解部分が、完全にまたは殆ど完全に、織布中のボイドを埋めることを意味する。織布上またはその中には、例えば、医薬的効果を有するか、もしくはX線放射に対するか、または通常のスキャニング技術による対比効果を有する物質が存在することがある。これらは、しかし、織布パッケージを圧密する際に、いかなる機能も有さない。かかる添加剤は、適用される圧縮温度に十分に耐性があり、そのために依然として、既に作製された人工体においては、目的の機能に役立つことが可能である。圧密された織布中に存在するボイド量の尺度は、圧密された織布の密度である。これは、好ましくは、繊維が製造されるUHMWPEの密度の少なくとも90%である。好ましくは、それらの少なくとも95であり、さらに98%または99%である。圧力は、したがって、少なくとも0.05MPaに達する。100以下、およびさらに200MPa以下の圧力が、許容可能である。その際、圧縮時間は、圧縮圧力の増大と共に、より短くなる。一般に、より高い圧力は、より良い結果をもたらす。適用される圧力は、したがって、好ましくは、少なくとも0.5、1、5、10、25、またはさらに少なくとも50MPaである。基本的には、適用可能な圧縮圧力は、単に、利用可能な装置によって限定される。繊維物質は、実際には、いかなる現実的に達成可能な圧力にも耐えうる。例えば100MPa以下、またはさらに200MPa以下の圧力、およびさらに高い圧力は、支障なく繊維物質に適用されうる。また、高い圧力においては、所望の密度を達成するのに、より低い圧縮温度を用いることが可能である。一方、高い圧力においては、分子配向が失われる温度は、より高い。高圧および高温を組合せることにより、必要とされる圧縮時間がより短くなる。一般に、全温度負荷(温度レベル、およびそれが適用される時間によって決定される)を低く保持して、ポリエチレンの劣化および延伸によって得られる特性の悪化を、可能な限り防止することが好都合である。
【0024】
高い圧力および温度が、所望の圧密を達成するのに十分に長く維持されるべきである。すなわち、繊維間のボイドが、未配向(または低い分子配向)の融解物質(または流動物質)で充填される。圧力、温度、および時間の必要な組合せは、簡単な実験によって、それぞれの場合に、得られる圧密織布の密度およびその弾性率を決定することにより確立されうる。所望により、圧密は、圧力および温度の異なる組合せをうまく用いることによって、行ってもよい。
【0025】
繊維構造を圧縮するのに適切なプロセス(本発明の方法で、織布を圧縮するのに適用してもよい)は、米国特許第5628946号明細書に開示されるものである。その文献には、幅広い種類の繊維構造(一軸配列または撚り繊維束、マットのスフ糸、織物バンドル、および平行繊維束の交差層などであり、これは全て多種類のポリマーからなる)が、圧密されて、良好な機械特性を有する物体が得られる方法が記載される。人工体が、ゲル紡糸UHMWPE繊維の織布を特定的に圧縮することによって製造され、それから粒子が、人体にとって有害なサイズで、殆ど放出されないという洞察は、しかし、この文献には完全に欠落している。
【0026】
繊維構造を圧縮するのに適切な他のプロセス(本発明の方法の織布を圧縮するのに適用してもよい)は、米国特許第6482343号明細書に開示されるものである。この文献には、多様な物理的形状のポリマー(粉末、細粒、テープ、繊維、ディスク、環などであり、これは多種類のポリマーからなる)が、圧密されて、良好な機械特性を有する物体が得られる方法が記載される。人工体が、ゲル紡糸UHMWPE繊維の織布を特定的に圧縮することによって製造され、それから粒子が、人体にとって有害なサイズで、殆ど放出されないという洞察は、この文献には完全に欠落している。
【0027】
布を、型の所望形状に圧縮するのに適切な既知の方法の欠点は、しわが、平坦な織布を三次元形状に圧縮する間に、表面上に生じることである。しわは、特に、目の詰まった織布(好ましくは本発明の方法で適用される)が用いられる場合には、既に、わずかな変形で生じうる。このしわは、人工関節においては、極めて望ましくない。何故なら、互いに関連する協動する関節部分の滑動のために、しわは、より長い期間の内に剥離し、部分的にまたはさらに完全に自由に、これらの部分の間で移動することもあるからである。かかる移動は、深刻な摩耗、および恐らくはさらに関節のブロッキングを引き起こすであろう。したがって、しわは防止されるべきである。
【0028】
本発明の方法のさらなる目的はまた、したがって、人工関節(特に、一つ以上の方向に湾曲され、しわなし負荷表面を有する人工関節)を、高密度の織布から、特に、繊維密度少なくとも250/√t、さらに少なくとも330/√t、または少なくとも350/√tcm−1を、もしくは別段の指定がある場合には、表面上の繊維の露出繊維長√t/(250/max(i,j))以下、√t/(330/max(i,j))以下、またはさらに√t/(350/max(i,j))cm以下を有する織布から製造する方法を提供することである。
【0029】
表面上のしわは、次の場合に、完全に、または殆ど完全に防止されうることが見出された。すなわち、方法が、織布に、圧縮が行われる温度より0〜5℃低い温度で張力をかける工程、必要な温度にされた織布を、プラグの圧力下で1〜30分間、中空型部分と接触させる工程、および織布を、圧力少なくとも0.05MPa下で2〜30分間、温度120〜165℃で、かつ一般的な温度および圧力におけるポリエチレンの結晶融点未満で圧縮する工程を含む場合である。
【0030】
この方法においては、織布の一部分は、織布を中空型部分と接触させるのに適用される張力下で、高温で伸長され、その伸長がしわを防止することが見出される。
【0031】
これに対する可能な解釈は、適用される条件下では、さらなる延伸が、PE繊維(特にゲル紡糸UHMWPE繊維)の他の特性の保持し、または向上さえすることである。これは、したがって、好ましくは本方法で適用される。
【0032】
この好ましい方法は、特に、比較的小さな極率半径を有する形状を含む人工体(股関節ソケットなど)を作製するのに好都合である。これはまた、しかし、湾曲がより少ないか、またはアーチ形状の表面を有する人工体に好都合に適用されうる。
【0033】
本方法の一実施形態においては、製造されるべき人工体の寸法に必要とされるより大きな布パッケージが用いられる。このパッケージを型の開口部の中、またはその上に配置する際には、一部分は、開口部の外側に突出するであろう。この突出部分は、例えばそれを型の外側表面に押付けることによって固定される。圧力は、非常に高いので、固定された織布は、プラグが織布を中空型の形状に圧縮する際に、滑り去らないか、またはほんの極僅かに滑ることができる。
【0034】
一実施形態においては、織布、または布パッケージは、型の開口部の上に置かれ、型は、最終的な圧密が行われる温度より0〜5℃低い温度であるが、布パッケージを、以下に記載される工程(所望形状の織布が、完全に、中空型部分およびプラグと接触される)で、適切に成形可能にするのに十分に高い温度に予熱されている。その意味で、環形状の要素は、織布(型の開口部の外側に突出し、かつ型体上にある)の一部分の上に強く圧縮される。環形状の要素はまた、好ましくは、型について上述された範囲の温度に予熱される。接触力は、織布の繊維が、次の処理工程中に環形状の要素の下で移動しないか、または殆ど移動しない摩擦を生じるのに十分に高い。次に、プラグは、同様に前記範囲の温度に予熱されるが、これは、織布と接触されて、それが所望の温度にされる。良好な接触を得るために、プラグは、繊維が僅かに張力を掛けられるまで押し下げられる。適用される張力は、織布の繊維中の強化された鎖がプラグ温度で緩むのを防止するのに十分に高い。得られる伸びは、一般的な条件下での破断時の伸びより少なく、そのために繊維の破断が防止されるであろう。この条件は、布パッケージが、少なくとも実質的に、プラグ温度(いかなる場合においても、布パッケージを、次の成形工程に対して適切に成形可能にするのに十分に高い)に達するまで保持される。加熱処理は、布に、プラグとの接触によるとは違う他の方法で、例えば加熱空気を用いることにより、さらに熱を加えることによって促進されうる。布パッケージの表面温度は、しかし、緩和および融解に関する上記の要件がもはや満たされない温度未満に留まるべきである。次の工程においては、プラグは、それらの間に織布を有するプラグおよび型が、1〜30分または2〜30分間後に、完全に接触する速さで、さらに下方に移動される。適切な時間は、簡単な実験によって決定されうる。これは、例えば繊維中のポリエチレンの分子量、ならびに型およびプラグの温度に依存する。この工程中の繊維の延伸速度は、好ましくは、0.0009〜0.025秒−1、より好ましくは0.001〜0.02秒−1である。この段階においてはまた、繊維の破断は、可能な限り防止されるべきである。この時間中、繊維は、クリープ変形およびさらなる延伸の結果として、張力下で伸長され、しわなし形状が得られることが見出される。完全な接触が達成され、それにより織布が、プラグおよび中空型部分の両者と、その全表面で接触された後、圧力は、所望の圧縮圧力に上げられる。簡単な実施形態においては、圧密は、圧縮が適切に長い時間行われる場合には、既に、この圧縮圧力で達成されうる。好ましくは、中空型部分およびプラグの温度は、圧縮圧力が到達された際に、所望の最大圧縮温度に上昇される。圧力が増大するにつれて、より高い最大温度が、繊維の配向が融解によって許容できない程度に失われることなく、選択されうる。これらの温度および圧力は、上記のように、必要な時間保持される。概して、2〜30分間の時間が適切である。次に、中空型部分、プラグ、および織布の全アセンブリは、繊維の融点より十分低い温度に、例えば20〜100℃未満に冷却され、プラグは、引戻される。圧力は、十分に低い温度が達成されるまで保持される。最終的には、織布は、中空型部分から取り出され、室温に冷却される。成形された製品は、しわがない。密度は、実質的に、繊維物質のそれであり、典型的にはそれらの98または99%超、またはさらにその100%以下である。形成された人工体の端部は、必要ならば、突出部分を除去することによって仕上げられる。
【0035】
固定されず、クリープ変形によって伸張されていない同様に製造された製品はまた、認めるところ、繊維密度に殆ど等しい密度を有する。これは、しかし、しわが表面に沿った多数の位置に存在することが見出される。これらのしわは、製品の壁の製品の頂部端から、製品の最深部への距離の約25%に亘って伸びる。
【0036】
織布が圧縮される場合には、そこにある繊維(フィラメント束)の断面は、一般に、特に表面の繊維に関して扁平化を示すであろう。繊維の断面は、ここでは、縦の繊維方向に直角をなし、かつ表面に平行、または湾曲表面に沿った方向の繊維寸法と、表面に直角をなす方向の繊維寸法との比率によって記載される。比較的目の粗い織布においては、圧縮後の前記寸法の比率は、典型的には20より高い。本発明の方法により、高密度、および対応する表面上の小さな露出繊維長(上記に定義される)を有する織布から形成される部分(本発明によらない方法ではしわを生じるであろう)においては、この比率は、15以下である。これらの寸法は、圧縮された布を、極低温で新しい鋭利なダイヤモンドナイフを用いて切取った後、顕微鏡により決定されうる。寸法は、残りの基体で測定され、切取られた薄片についてではないことに留意されたい。多くの場合には、表面の寸法は、直接、本来の布構造から生じるパターンで目に見える。この目的のためには、光学または電子顕微鏡(例えばSEM)を用いることができる。
【0037】
負荷表面に小さな露出繊維長を有する稠密な織布からのしわなし人工体は、それ自体しわを形成するが、これは、知られない。したがって、本発明はまた、しわなし負荷表面を有し、互いの上に圧縮された延伸ゲル紡糸ポリエチレンの一層以上の織布から形成される人工関節に関する。ここで、その縦方向に直角をなし、かつ表面に沿って測定される負荷表面上の圧縮繊維の寸法と、表面に直角をなす対応する寸法との平均比率は、15以下である。
【0038】
好ましくは、前記比率は、9以下、またはさらに7.5以下である。人工体の密度は、好ましくは、繊維物質の密度の少なくとも98または99〜さらに実質的100%である。これらの高密度に圧縮された人工体が、圧縮繊維の前記寸法間のこれらの低い比率との組合せで製造されうることは、予想外である。それらはまた、しわなしであることに加えて、高い耐磨耗性および非常に良好な機械特性を示す。
【0039】
好ましくは、ポリエチレンは、UHMWPEである。人工体は、好ましくは、互いの上に圧縮された一つ以上の布層からなる。さらに好ましくは、本方法の説明で上記されたものに同じである。
【0040】
本発明の方法は、股関節ソケット、肩関節ソケット、脛骨トレー、膝関節の大腿骨部分、膝蓋骨、ならびに指、手首、足指および顎関節の協動する補完部分などの人工関節またはその部分の負荷表面を製造するのに適用されうる。
【0041】
記載された好ましい方法は、次の図面に基づいて説明される。
【0042】
図1(a)は、頂部端3を有するソケット形状の型を示す。この頂端部3上には、多数の布層からなるパッケージ5が載置される。パッケージ5は、環状加圧要素7により、頂端部3にぴったり押付けられる。プラグ9は、パッケージから自在である。部分1、3、および9は、135℃に加熱されている。
図1(b)においては、プラグ9は、パッケージ7と接触し、このパッケージを少し下方へ押し、そのために張力が、パッケージにもたらされる。アセンブリは、布パッケージが、ほぼ、プラグ温度に達するまで、この状態で保持される。
図1(c)は、プラグ9がさらに押し下げられた状態を示す。布パッケージ5は、図1(d)で、プラグ9および中空型部分1の間に締付けられるまで、さらに押し下げられる。プラグは、次いで、圧力15MPaまで押付けられ、この状態が、12分間保持される。最終的に、中空型部分、プラグ、圧力要素、および織布からなるアセンブリは、加えられた圧力が保持されながら80℃に冷却され、その後プラグが取外される。
図1(e)は、最終状態を示し、中空型部分およびプラグの間で形成された製品11は、さらなる仕上げ工程のために取外される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】(a)〜(e)は、連続工程を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部分がポリエチレンからなる少なくとも一つの負荷表面を有する人工関節の製造方法であって、所望形状への型において、中空型部分およびプラグの間で、延伸ゲル紡糸ポリエチレン繊維からなる織布の一層以上を、圧力少なくとも0.05MPaおよび温度120〜165℃で、かつ一般的な温度および圧力における前記ポリエチレンの結晶融点未満で、マトリックス材の存在なしに圧縮する工程を備え、少なくとも、負荷表面上にある層中の前記織布は、力価1000デニール以下のポリエチレン繊維を少なくとも90質量%含む、人工関節の製造方法。
【請求項2】
前記負荷表面上にある層中の織布は、力価tデニールの繊維のi−j織布であり、表面上の露出繊維長が√t/(250/max(i,j))cm以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記表面上の露出繊維長は、√t/(330/max(i,j))cm以下である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記織布は、圧縮前に、温度120〜145℃で、1〜30分間張力下に保持される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリエチレンは、デカリン中135℃で測定される際の固有粘度が4〜40dl/gである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも、前記負荷表面上にある層中の織布は、フィラメントあたり10デニール以下の力価を有するモノフィラメントからなる繊維を少なくとも90質量%含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも、前記負荷表面上の層中にある織布は、1×1平織布である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記織布は、多層織布である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記織布は、三次元織布である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記織布を、張力下に、圧縮が起こる温度より0〜5℃低い温度にする工程、所望温度にされた前記織布を、前記プラグの圧力下に、前記中空型部分と1〜30分間接触させる工程、および前記織布を、圧力少なくとも0.05MPa下で、2〜30分間圧縮する工程を含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも、負荷表面上にある層中の前記織布は、表面上の露出繊維長√t/(250/max(i,j))cm以下を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
人工関節は、股関節ソケットである、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
しわなし負荷表面を有し、互いに圧縮された延伸ゲル紡糸ポリエチレン繊維の織布の一層以上から形成される人工関節であって、その縦方向に対して直角をなし、表面に沿って測定された表面上の圧縮繊維の寸法と、表面に直角をなす対応する寸法との平均比率は、15以下である人工関節。
【請求項14】
前記比率は、9以下である、請求項13に記載の人工関節。
【請求項15】
前記比率は、7以下である、請求項14に記載の人工関節。
【請求項16】
前記ポリエチレンは、デカリン中135℃で測定される際の固有粘度が4〜40dl/gである、請求項13〜15のいずれか一項に記載の人工関節。

【図1】
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【公表番号】特表2007−519445(P2007−519445A)
【公表日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549162(P2006−549162)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【国際出願番号】PCT/NL2005/000005
【国際公開番号】WO2005/065911
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】