説明

人工骨材とその製造方法

【課題】クロムを含有する廃棄物原料を用いてもクロムの溶出量が少ない人工骨材とその製造方法を提供する。
【解決手段】クロムを含有する焼却灰または処理土壌からなる廃棄物を原料として用い、顆粒状の還元剤を混合原料中5〜30質量%になるように混合して造粒し、焼成することによって、六価クロムの溶出量が0.05mg/L以下の人工骨材を得る。クロム含有焼却灰等として、石炭焼却灰、コークス灰、重油灰、ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰、製紙スラッジ焼却灰、廃プラスチック焼却灰、または処理土壌を用いることができ、還元剤として、石炭、コークス、活性炭、木炭、プラスチック、ゴミ固形燃料(RDF)の1種または2種以上を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロムを含有する廃棄物原料を用いてもクロムの溶出量が少ない人工骨材とその製造方法に関する。
【0002】
人工骨材は、原料を粉砕し造粒して、ロータリーキルン等の焼成窯で焼成し、焼結させて製造される。原料としては頁岩等の天然資源が従来用いらているが、近年、廃棄物の有効利用を図る観点から、石炭灰等の廃棄物焼却灰が利用されている。しかし、廃棄物焼却灰等はクロムを含有していることがあり、原料中のクロムが六価クロムに酸化され、製造された人工骨材から土壌環境基準値を超える量の六価クロムが溶出する懸念がある。
【0003】
クロム含有原料を用いた場合の六価クロム低減方法として、可燃性物質(副燃料)を投入して炉内の酸素を燃焼消費させることによって低酸素雰囲気を形成してクロムの酸化を抑制する方法が知られている。具体的には、セメントの製造においては、ロータリーキルンで原料を約1450℃に焼成してクリンカーを形成させるが、原料として用いる廃棄物中のクロムが含有されている場合、キルンの最高温度になる位置から出口側の範囲、例えば、キルンのバーナの手前から可燃性物質を投入して低酸素雰囲気を形成し、クロムの酸化を抑制し、また原料中の六価クロムを三価クロムに還元する方法が知られている(特許文献1)。三価クロムは水に対して溶解度が低いので、セメントに含まれていても殆ど溶出せず、環境汚染を避けることができる。
【特許文献1】特願平11−100244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
副燃料を添加する上記方法は、副燃料を最初から原料に混合せずにキルン内の最高温度範囲に供給して酸化を抑制することを特徴としており、セメントの製造では原料を溶融状態にして焼成するためにクリンカー間の空間が少なく、この方法によって十分な酸化抑制効果が得られる。しかし、人工骨材の製造においては、粉末原料を造粒して焼成するため、骨材の間に隙間があり、その空間が広くなるために空気との接触面積が大きく酸化されやすく、セメント製造において副燃料を添加する上記焼成方法では還元効果が十分に得られない。
【0005】
本発明は、人工骨材の製造における上記課題を解決したものであり、クロムを含有する原料を用いても十分にクロムの酸化を抑制して六価クロムの溶出量が少ない骨材を製造する方法、およびその人工骨材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の構成からなる人工骨材およびその製造方法に関する。
(1)粉末原料に還元剤を加えて造粒し焼成してなる人工骨材であって、六価クロムの溶出量が0.05mg/L以下であることを特徴とする人工骨材。
(2)粉末原料がクロムを含有する焼却灰または処理土壌からなる廃棄物である上記(1)に記載する人工骨材。
(3)還元剤が顆粒状であり、炭化物燃料ないしプラスチックである上記(1)または上記(2)に記載する人工骨材。
(4)クロムを含有する焼却灰または処理土壌からなる廃棄物を原料として用い、顆粒状の還元剤を混合原料中5〜30質量%になるように混合して造粒し、焼成することを特徴とする人工骨材の製造方法。
(5)原料として、クロム含有量100ppm〜2000ppmの石炭焼却灰、コークス灰、重油灰、ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰、製紙スラッジ焼却灰、廃プラスチック焼却灰、または処理土壌からなる廃棄物を用いる上記(4)に記載する製造方法。
(6)還元剤として、石炭、コークス、活性炭、木炭、プラスチック、ゴミ固形燃料(RDF)の1種または2種以上を用いる上記(4)または上記(5)に記載する製造方法。
(7)還元剤として、80質量%以上が粒径0.5〜3mmの顆粒状還元剤を用いる上記(4)〜上記(6)の何れかに記載する製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の人工骨材は、クロム含有原料を用いても、六価クロムの溶出量が土壌環境基準値(0.05mg/L)以下であり、環境汚染を生じる虞が少ない。また、本発明の製造方法によれば、クロム含有廃棄物を原料としても、六価クロム溶出量が土壌環境基準値以下の人工骨材を製造することができるので、従来は利用することが出来なかった各種焼成灰や残土などの廃棄物を原料として有効に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を実施例と共に具体的に説明する。
本発明の人工骨材は、粉末原料に還元剤を加えて造粒し焼成してなる人工骨材であって、六価クロムの溶出量が0.05mg/L以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明の人工骨材は、原料としてクロムを含有する焼却灰ないし処理土壌を用いることができる。具体的には、粉末原料として、クロム含有量100ppm以上、好ましくは2000ppm以下である焼却灰ないし処理土壌などを用いることができる。原料に含まれるクロム含有量が100ppm以上でも、製造後の六価クロム溶出量が0.05mg/L以下の人工骨材を得ることができる。なお、原料のクロム含有量が2000ppmより多いと、還元剤の添加量が多く必要になり、相対的に原料の使用量が減って製造後の骨材強度が低下する懸念が生じるので、原料のクロム含有量は2000ppm以下が適当である。
【0010】
原料として用いられる焼却灰は、石炭焼却灰、コークス灰、重油灰、ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰、製紙スラッジ焼却灰、、廃プラスチック焼却灰などを使用することができる。灰の粒径は平均粒径44μ以下のものが好ましい。灰の粒径がこれより大きいと造粒し難くなる。
【0011】
原料として用いられる処理土壌としては、建設残土や汚染土壌、あるいは浚渫土などを用いることができる。粒度はシルト質土壌が80質量%以上含まれているものが好ましい。砂分が多いと造粒し難くなる。上記各種焼却灰および上記処理土壌は必要に応じて粉砕し、粉末原料とする。
【0012】
上記粉末原料に還元剤を添加する。この還元剤は焼成温度下で還元効果を有するものであれば良く、例えば、可燃物が用いられる。具体的には、石炭、コークス、活性炭、木炭などの炭化物燃料、あるいはプラスチック、ゴミ固形燃料(RDF)などであり、燃焼して還元ガスを発生するものが好ましい。これは1種または2種以上を用いることができる。
【0013】
還元剤は、その80質量%以上が粒径0.5〜3mmの顆粒状が好ましい。この粒径が0.5mmより小さいと、炉内最高温度の焼成域に移動する間に完全燃焼し、上記焼成域で還元効果が得られない。また、この粒径が3mmより大きいと、原料を造粒したときに造粒強度が低下し、造粒物が崩れやすくなる。
【0014】
還元剤の添加量は、混合原料中5〜30質量%が好ましく、10〜20質量%がより好ましい。還元剤の添加量がこれより少ないと十分な還元効果が得られず、一方、還元剤の添加量がこよれり多いと、十分な造粒強度が得られないために造粒物が崩れやすく、また焼成時の還元剤の燃焼による空隙が大きくなって骨材強度が低下し、さらには未燃焼部分が残る場合があるので好ましくない。
【0015】
上記粉末原料に還元剤を混合し、好ましくは顆粒状の還元剤を混合した後に、水ないしバインダーを添加して、数mm〜十数mmに造粒する。この造粒物を600℃〜1450℃程度の温度、好ましくは800℃〜1100℃程度の温度で焼成して人工骨材を製造する。本発明の場合、1100℃以下の骨材が溶融しない温度で焼成しても六価クロムの溶出の抑制効果が高い。焼成にはトンネルキルン、ローラーハウスキルン、ロータリーキルン等の各種キルン、流動床などを用いることができる。なお、人工骨材の焼成には製造の容易さなどの点から一般にロータリーキルンが用いられている。
【0016】
上記製造方法によって、六価クロムの溶出量が0.05mg/L以下であって、十分な強度を有する人工骨材を得ることができる。
【実施例】
【0017】
以下に本発明の実施例を比較試料と共に示す。
なお、六価クロム溶出量は環境庁告示46号に規定する方法に基づいて溶出操作し、ジフェニルカルバンド吸光光度法によって六価クロム濃度を測定した。
使用原料を表1に示す。原料には造粒結合剤(バインダー)としてベントナイト(ホージュン社製品:商品名「榛名」)を添加した。使用した還元剤を表2に示す。還元剤はコークスと活性炭を使用した。コークスは粒径0.5mm未満、0.5〜3mm、3〜5mmの三種類を用いた。
【0018】
〔実施例1〕
フライアッシュ(表1のフライアッシュA)に、表2の還元剤、および結合剤と水を、表2に示す配合量に従って混合し、粒径約15mmの球形に造粒した。この造粒物を電気炉で1100℃に焼成して骨材を製造した。焼成温度は1100℃まで30分で昇温させ、1100℃で3分保持した後に、1100℃から室温まで放冷した。この骨材の六価クロム溶出量を測定した。この結果を表2に示した。
【0019】
フライアッシュを原料とし、還元剤を添加しない比較試料No.1の骨材は六価クロムの溶出量が最も多い。コークスの粒径が小さ過ぎる比較試料No.2、No.7の骨材、およびコークスの添加量が少な過ぎる比較試料No.11の骨材は何れも十分な還元効果が得られないため、六価クロムの溶出量が多く、環境基準値を上回る。一方、コークスの粒径が大き過ぎる比較試料No.4は造粒ができず、コークスの添加量が多過ぎる比較試料No.9の骨材は強度が低い。
【0020】
一方、本発明試料は、フライアッシュを原料とし、粒径0.5〜3mmのコークスを混合原料中に10質量%含む試料No.3、粒径1〜3mmの活性炭を混合原料中に10質量%含む試料No.5、粒径0.5〜3mmのコークスを混合原料中に30質量%含む試料No.8の骨材は、何れも六価クロム溶出量が検出されず、定量下限値0.02mg/L未満であり、六価クロム含有量が極めて少ない。また、粒径0.5〜3mmが80質量%のコークスを混合原料中に10質量%含む試料No.6の骨材は六価クロム溶出量が0.05mg/Lであり、環境基準値に適合する。
【0021】
また、都市ゴミ焼却灰、製紙スラッジ焼却灰、建設残土を原料とする本発明試料No.12〜16の骨材は何れも何れも六価クロム溶出量が検出されず、また十分な強度を有する。また、全クロム含有量が多くなるにしたがって六価クロムの溶出量が増加するが(No.13〜15)、含有量が2000ppm以下では環境基準値の0.05mg/Lを下回る。
【0022】
〔実施例2〕
フライアッシュ(表1のフライアッシュA)を用い、表3の配合量に従って混合原料を調製し、パンペレタイザーを用いて直径5mm〜10mmに造粒した。この造粒物を直径1.2m、長さ20mのロータリーキルンを用いて1200℃で焼成し、骨材を製造した。この骨材の六価クロム溶出量を測定した。この結果を表3に示した。還元剤を添加しない比較試料No.20の骨材は六価クロム溶出量が0.18mg/Lと多い。一方、還元剤のコークスを添加した本発明試料No.21の骨材は六価クロム溶出量が0.03mg/Lであり、環境基準値以下である。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末原料に還元剤を加えて造粒し焼成してなる人工骨材であって、六価クロムの溶出量が0.05mg/L以下であることを特徴とする人工骨材。
【請求項2】
粉末原料がクロムを含有する焼却灰または処理土壌からなる廃棄物である請求項1に記載する人工骨材。
【請求項3】
還元剤が顆粒状であり、炭化物燃料ないしプラスチックである請求項1または請求項2に記載する人工骨材。
【請求項4】
クロムを含有する焼却灰または処理土壌からなる廃棄物を原料として用い、顆粒状の還元剤を混合原料中5〜30質量%になるように混合して造粒し、焼成することを特徴とする人工骨材の製造方法。
【請求項5】
原料として、クロム含有量100ppm〜2000ppmの石炭焼却灰、コークス灰、重油灰、ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰、製紙スラッジ焼却灰、廃プラスチック焼却灰、または処理土壌からなる廃棄物を用いる請求項4に記載する製造方法。
【請求項6】
還元剤として、石炭、コークス、活性炭、木炭、プラスチック、ゴミ固形燃料(RDF)の1種または2種以上を用いる請求項4または請求項5に記載する製造方法。
【請求項7】
還元剤として、80質量%以上が粒径0.5〜3mmの顆粒状還元剤を用いる請求項4〜請求項6の何れかに記載する製造方法。

【公開番号】特開2008−273749(P2008−273749A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323189(P2006−323189)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】