説明

人間行動分析システム及び方法

【課題】集団におけるストレスの特性を利用し、組織を構成する構成員や組織全体のストレス度を推定する。
【解決手段】センサ等で計測されたデータに基づく人間関係を表現する人間関係グラフデータが与えられた場合に(101)、職場組織などを構成する人と人の相互作用を記述するエネルギー関数を定義し、エネルギーを最小化する処理(103)により、組織のストレス度のような系のマクロな指標値(104、105)を求めることができるようにするものである。人間関係グラフを構成する全ノードのうち一部のノードの指標の値(例えばストレス度)がアンケートやその他の推定方法によりわかれば、処理部はそれらを入力して、上記人間関係グラフデータを用いてエネルギー関数を最小化する処理により、その他のノードの状態を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間行動分析システム及び方法に係り、特に、ウェアラブルなセンサ、たとえば名札型センサノードや腕時計型センサノード、あるいは携帯電話の使用ログ、その他の手段によって測定される、人間関係や人間の様々な行動を反映した大量データ全般を解析し、組織経営やサービスの最適化などを行う技術、及び、ストレスやその他の人間の内部状態を表す指標値を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ストレスは現代社会において大きな社会問題の一つであり、世界各国で深刻化し対策が求められている。ストレスの計測方法や推定方法はいくつかの手法が提案されており、音声特徴量(特許文献1)、各種生理情報(特許文献2)、皮膚温度(特許文献3)などを指標にして個人のストレス度を測定する手法などがある。心理学の分野では、アンケート調査をベースにした人間の内部の状態を分析する調査方法が確立されている。たとえば20から40程度の質問に答えることにより得られるCES−D(Center for Epidemiological Studies Depression Scale)と呼ばれる指標を用いることで、人のストレス度合を測定することが可能である。CES−Dは0から60までのスコアとして算出され、16以上はうつ病になるリスクが高いとされている。このCES−Dを用いて、組織のストレス状態を見つもり、適当な施策を施すことにより、健全な組織活動を促す、ことも可能である。一方で、集団におけるストレスの性質に関する研究もあり、たとえばハーバード大学の研究では、親友同士や隣人などの間でストレスが伝搬する、という報告がなされている(非特許文献1)。この研究では、高ストレス者とつながりが深い人もまた高ストレスになりやすい、という分析結果が報告されている。
【0003】
ストレスは、特に職場組織においても深刻な問題となっており、メンタルヘルスケアの重要性が叫ばれている。そのような状況において、人間の行動を小型センサを用いて定量的に計測し、得られた行動データと、ストレス度のような指標との関係を分析することにより、組織の改善につなげられる可能性が高まってきている。近年、ウェアラブルなセンシングデバイスの小型、軽量化が進んだことにより、例えば加速度センサや赤外線センサや小型のマイクロフォンなどを搭載した、名札型や腕時計型のセンサノードを大きな負荷なく使用者が常時装着することが可能になってきた。この結果、研究者は対面時間や会話の有無、物理的な振動の周波数などのデータから「組織における人々のコミュニケーションの状態」や「行動の様子」や「歩行、睡眠などの生活リズム」を反映する大量、多種かつ長期間の時系列データ取得することが可能になった。人と人のコミュニケーションに関する定量的なデータが得られれば、ノードを人、リンクを人と人との間のコミュニケーションとすれば、組織における人と人とのネットワーク構造を得ることができる。この人間関係を表すネットワーク構造とさまざまな指標を解析することにより、これまでの限られた量あるいは種類のデータを解析することでは解明できなかった組織における人間観関係や人間の行動と、目的とする指標、例えば組織の活性度、生産性、あるいはストレス度など、との関係に関する新しい知見が得られ、それをサービスや経営につなげられる可能性が拡がっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−000366号公報
【特許文献2】特開平08−252226号公報
【特許文献3】特開平09−294724号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.N.Rosenquist, J.H.Fowler, and N.A.Christakis, Social Network Determinants of Depression, Molecular Psychiatry, pp.1−9、(2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上に示した非特許文献1では、集団において、とくにつながりが深い関係にある人同士で、ストレスが伝搬する、という知見が述べられており、職場組織におけるストレスケアに応用できる可能性はある。しかしながら、実際にどのように組織の構成員のストレスを推定するか、という方法に関しては示されていない。
【0007】
心理学の分野でよく用いられているCES−Dを組織を構成する全構成員に対して測定すれば、その組織のストレス度合が分かる。しかしながら、組織の規模が大きい場合は、アンケートベースの調査方法では、全員から回答を得ることは容易ではない。また、アンケートの回答基準は個人差があり、結果が正確性に欠ける、という課題もある。また、アンケートに回答するタイミングも回答結果に影響を及ぼす可能性があり、例えば、多忙時と時間的に余裕がある場合には、アンケートの回答結果に大きな違いが生じる可能性もある。さらに、所属する組織が変わると、個人のストレス度も変わるし、新しい組織のストレス度も変化すると考えられるが、それらを測定するためには新しい組織を構成する全構成員に対して改めてアンケート調査によりCES−Dを計測する必要があり、時間と手間がかかる。また、同じ組織でも、座席を変えることにより他人との物理的な距離が変化し、ストレス度が変化することが考えられるが、そのような場合にも、改めてアンケート調査によりCES−Dを測定しなければストレス度を評価できないのが現状である。
【0008】
上述した特許文献1、2、3などを用いれば、アンケート調査を行わなくても個人のストレス値の測定が可能である。しかしながら、これらの方法でも、組織の全構成員に対して測定を実施しなければならないという点は、アンケート調査による測定手法となんら変わりはない。また、非特許文献1に示すように、ストレスは人間関係が大きく影響していると考えられるが、特許文献1、2、3の手法は、個人の指標、たとえば音声特徴量や皮膚温度、を用いてその個人のストレス度を推定する手法であり、職場組織において、他人の状態が自分の状態にどう影響しているか、という人間関係という観点に立ったストレス推定手法ではない。
以上の点に鑑み、本発明の目的は、集団におけるストレスの特性を利用し、組織を構成する構成員や組織全体のストレス度を推定することが可能な、人間行動分析システム及び方法を提供することである。
【0009】
また本発明の他の目的のひとつは、アンケートに基づいたストレス度の調査方法や、個人の指標から個人のストレス度を推定する手法に関するこれらの課題を解決し、一部の人の指標値から組織の残りの人の指標値を推定することが可能な、人間行動分析システム及び方法を提供することである。
【0010】
また、本発明の他の目的のひとつは、センサ等による観測データから系の状態を決めるエネルギー関数を定義し、そのエネルギー関数をより小さくする又は最小化することにより、ストレス度のような指標値を推定することが可能な、人間行動分析システム及び方法を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的のひとつは、人間関係グラフの構造を変えた場合に、ストレスなどの指標値がどのように変化するかを予測することが可能な、人間行動分析システム及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、人間関係を表現する情報である人間関係グラフが与えられた場合に、職場組織などを構成する人と人の相互作用を記述するエネルギー関数を定義し、コンピュータを用いてエネルギーを最小化する処理により、組織のストレス度のような系のマクロな指標を求めることができるようにするものである。本発明は、人間関係グラフを構成する全ノードのうち一部のノードの指標の値、例えばストレス度、がアンケートやその他の推定方法によりわかれば、エネルギー関数を最小化するコンピュータ上の処理によりその他のノードの状態を決定することができるようにするものである。
【0013】
本発明で対象とするデータは、人間関係グラフデータとここでは呼ぶが、人と人とのコミュニケーション状態を表すデータ全般である。たとえば、ウェアラブルなセンサ、例えば赤外線センサや加速度センサ、さらには小型のマイクなどを搭載した名札型センサノードを、組織を構成する構成員に装着させて得られる、人と人とのコミュニケーションを定量的に測定したセンサデータに基づくものである。このようなデータから、コミュニケーションが存在する人と人の間にリンクを張ることにより、人をノードとしたネットワーク構造を得ることができる。人間関係グラフとしては、このようなウェアラブルセンサを意識的に装着して計測するデータ以外にも、たとえば、携帯電話の使用ログやE−メールの送受信関係など、無意識的に構成される人と人との繋がりを反映したデータであってもよい。
【0014】
本発明では、測定したい状態量、たとえばストレス、の人間関係グラフ上における性質に基づくエネルギー関数を予め定義する。このエネルギー関数は、最初はアンケートに基づく調査結果と、ネットワーク構造との関連性を分析して得られるものであり、例えば、「高ストレス者に1リンクで繋がっているノードは低ストレスになりやすく、低ストレス者に1リンクで繋がっているノードは高ストレスになりやすい」といった傾向を反映したものであり、この場合は、反強磁性的な振る舞いを記述するイジングモデルのハミルトニアンをエネルギー関数とすることができる。
【0015】
一旦、組織のストレスに関してこのようなエネルギー関数を定義すれば、組織改革後のような別のタイミングでストレス度を調査する場合には、組織を構成する全構成員に対して改めてアンケート調査を実施しなくても、一部の構成員、たとえばある職位以上の人、についてのみアンケート調査を実施すれば、他の構成員に関しては、ネットワークのエネルギーを最小化する処理により、ストレス状態を推定することが可能になる。
【0016】
さらに、本発明は、組織改革を行うに当たって現実には実施できない、あるいは試行が困難である人員配置変更や所属変更に関して、人間関係グラフのリンクを繋ぎ変えたり、リンクやノードの数を増減させたり、あるいは、ノードの属性を変化させることにより、エネルギー関数の最小化処理の結果得られるマクロな組織の状態、たとえば組織のストレス度、を評価することで、実際に人員配置変更や所属変更を行った場合にどういう状態になるかを推定する、シミュレータ機能を提供する。
【0017】
本発明の第1の解決手段によると、
ネットワークのノードが人に対応し、リンクが人の間の関係に対応した人間関係グラフを用い、該人間関係グラフにおいてリンクで結ばれた隣接する人の間で傾向が逆になる指標について、一部の人の既知の指標値に基づいて他の人の指標値を推定するための人間行動分析システムであって、
ノード識別子に対応して、指標値が既知のノード識別子についての既知の指標値と、指標の推定値と、リンク先ノード識別子とが対応して記憶されるノード属性データベースと、
前記ノード属性データベースを参照して、ノードの指標を推定する処理部と
を備え、
前記処理部が、前記ノード属性データベースに既知の指標値が記憶されているノードの少なくとも一部について、該既知の指標値応じた該ノードの指標の推定値を定める処理と
前記処理部が、他のノードについてノードの指標の推定値の初期値を定める処理と、
前記処理部が、各ノードの指標の推定値と、ノード識別子とリンク先ノード識別子との対応関係で表されるリンク情報とに基づき、各ノードで構成される系のエネルギーをイジングモデルにより求める処理と、
前記処理部が、各ノードの指標の推定値を変化させて系のエネルギーを再度計算することを所定回数繰り返し、系のエネルギーがより小さくなるようにする処理と、
前記処理部が、所定回数繰り返した後の各ノードの指標の推定値又は繰り返し計算過程における各ノードの指標の推定値の統計値を、指標の推定値と決定して前記ノード属性データベースに記憶する処理と
を実行する前記人間行動分析システムが提供される。
【0018】
本発明の第2の解決手段によると、
ネットワークのノードが人に対応し、リンクが人の間の関係に対応した人間関係グラフを用い、該人間関係グラフにおいてリンクで結ばれた隣接する人の間で傾向が逆になる指標について、一部の人の既知の指標値に基づいて他の人の指標値を推定するための人間行動分析方法であって、
処理部が、ノード識別子に対応して、指標値が既知のノード識別子についての既知の指標値と、指標の推定値と、リンク先ノード識別子とが対応して記憶されるノード属性データベースに、既知の指標値が記憶されているノードの少なくとも一部について、該既知の指標値応じた該ノードの指標の推定値を定めるステップと
処理部が、他のノードについてノードの指標の推定値の初期値を定めるステップと、
処理部が、各ノードの指標の推定値と、ノード識別子とリンク先ノード識別子との対応関係で表されるリンク情報とに基づき、各ノードで構成される系のエネルギーをイジングモデルにより求めるステップと、
処理部が、各ノードの指標の推定値を変化させて系のエネルギーを再度計算することを所定回数繰り返し、系のエネルギーがより小さくなるようにするステップと、
処理部が、所定回数繰り返した後の各ノードの指標の推定値又は繰り返し計算過程における各ノードの指標の推定値の統計値を、指標の推定値と決定して前記ノード属性データベースに記憶するステップと
を含む人間行動分析方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、集団におけるストレスの特性を利用し、組織を構成する構成員や組織全体のストレス度を推定することが可能な、人間行動分析システム及び方法を提供することが可能になる。
また本発明により、アンケートに基づいたストレス度の調査方法や、個人の指標から個人のストレス度を推定する手法に関するこれらの課題を解決し、一部の人の指標値から組織の残りの人の指標値を推定することが可能である。
【0020】
また、本発明により、センサ等による観測データから系の状態を決めるエネルギー関数を定義し、そのエネルギー関数をより小さくする又は最小化することにより、ストレス度のような指標値を推定することが可能である。
本発明により、人間関係グラフの構造を変えた場合に、ストレスなどの指標値がどのように変化するかを予測することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の人間行動分析手法およびシステムの全体概略図を示す図である。
【図2】本発明の、人間関係グラフ上の距離、すなわちパス数と、指標値の関係を示す図である。
【図3】本発明の、システム構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の、対面情報データベースに格納するデータセットの例を示す図である。
【図5】本発明の、ノード属性データベースに格納するデータセットの例を示す図である。
【図6】本発明の、指標値の推定を行う処理を示すフローチャートである。
【図7】本発明の、シミュレーションの例(1)を示す図である。
【図8】本発明の、シミュレーション(1)のフローチャートを示す図である。
【図9】本発明の、シミュレーション(1)の実験結果を示す図である。
【図10】本発明の、指標値が未知の人の指標値を推定するシミュレーションの例(2)を示す図である。
【図11】本発明の、シミュレーション(2)のフローチャートを示す図である。
【図12】本発明の、シミュレーション(2)の実験結果を示す図である。
【図13】本発明の、あるノードの指標値を変えた場合の全体の指標値を推定するシミュレーションの例(3)を示す図である。
【図14】本発明の、シミュレーション(3)の実験結果を示す図である。
【図15】本発明の、2パスで繋がった人の指標値を用いて推定値を補正することを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
1.人間行動分析システム及び方法
図1は、本実施の形態における人間行動分析手法およびシステムの処理の流れを説明する概略図である。符号101は人間関係を表すデータである人間関係グラフデータの入力、符号102は人間関係グラフの分析処理、符号103は人間関係グラフの分析処理のうちエネルギー最小化計算、符号104は人間関係グラフの分析処理のうち各ノードの状態決定処理、符号105は人間関係グラフの分析処理のうち系のマクロな状態の決定処理、符号106は人間関係グラフの分析処理の結果のデータを出力する処理、である。
【0023】
図1において、人間関係グラフデータ101とは、たとえば加速度センサ、赤外線センサ、小型マイクなどを搭載したウェアラブルなセンサ、例えば名札型センサ、を人に装着して得られる対面データや、対面と会話を合わせたコミュニケーションデータを反映したネットワーク情報である。対面データは、例えば人に装着した名札型センサに搭載された赤外線照射部と赤外線センサにより、対面する人の赤外線照射部からの赤外線を赤外線センサで検出することにより得られる対面時間である。人と人との対面がセンサにより検出されてデータ化される。また、対面と会話を合わせたコミュニケーションデータは、例えば赤外線センサ等で得られる上述の対面時間のほかに、小型マイクにより検出した発話時間を加味してデータ化(指標化)したものを用いることが出来る。これら以外にも、適宜のセンサで検出したセンサデータにより人と人とのコミュニケーションが数値化されてもよい。
【0024】
この場合、ネットワークのノードが人に対応し、リンクは、ある一定時間以上コミュニケーションしている場合にノード間にリンクを張る、というルールに基づいてノード間に引かれる。例えば、ノード間を関連付けるデータを記憶して人間関係データが作成される。なお、このようにウェアラブルなセンサを意識して装着することにより作成される人間グラフでなくても、携帯電話の使用ログやE−メールの送受信記録などから構築できる人と人との繋がりを反映した情報を人間関係グラフデータとして、本実施の形態の人間行動分析手法およびシステムに入力してもよい。
【0025】
同図において、人間関係グラフ分析処理102は、101で入力された人間関係グラフデータから、系のエネルギー最小化計算103の結果、グラフの各ノードの状態を決定104し、全ノードの平均値の計算などにより系のマクロな状態を決定105する処理である。ここでの系は、例えば各ノードに対応する複数の人で構成される組織に対応する。
同図において、エネルギー最小化計算103では、各ノードの状態(たとえば各ノードのストレス度、ストレスの指標値)を確率的に変化させながらできるだけ系全体のエネルギーが小さくなるように各ノードの状態を変化させ、ある一定時間あるいは一定計算回数経過した場合に計算を終了する。
【0026】
同図において、エネルギー最小化計算103の結果、各ノードの状態が決定104される。
同図において、各ノードの状態が決定104されると、例えば全ノードの指標値の平均値を計算することにより、系のマクロな状態、たとえば組織のストレス度、が決定105される。系のマクロの状態を決定するためには平均値を計算する以外にも、マクロな指標の定義に従ってさまざまな計算式により各ノードの指標の値から系のマクロな指標の値を計算してもかまわない。たとえば、系のマクロな量である比熱は、同じく系のマクロな量であるエネルギーの2乗平均とエネルギーの平均と温度パラメタを用いて計算される。
同図において、人間関係グラフ分析処理102の結果、各ノードの状態(個人のストレス度)と系のマクロな状態(組織のストレス度)とが決定されると、その結果を反映した人間関係グラフデータを出力106する。たとえば、ネットワーク図に結果を視覚的に反映して表示してもよいし、組織のストレス度のようなマクロな値を数値としてあるいはグラフとして出力してもよいし、あるいはマトリクスの形で出力してもよい。
【0027】
図2は、本実施の形態で分析対象とする、人間関係グラフにおいて隣接する人の間で傾向が逆になるある指標(反強磁性的指標)を説明する図である。
図2(a)において、符号201は人間関係グラフにおいて人を表すノード番号、符号202はノード自身のストレス度を表すCES−D値、符号203はノード番号iのノードと1パス、すなわち1本のリンクで繋がっている複数のノードのCES−D値の平均値、符号204はノード番号iのノードと2パス、すなわち2本のリンクを辿って繋がっている複数のノードのCES−D値の平均値、符号205はノード番号iのノードとrパス(rは自然数)、すなわちr本のリンクを辿って繋がっている複数のノードのCES−D値の平均値を示す。また、図2(b)の符号206はrに対してノードiのCES−D値と、ノードiとrパスで繋がっているノードのCES−Dの平均値との相関係数Rをプロットした図である。図2(c)の符号207は人間関係グラフの例を示す。符号208は着目するノードi、符号209はノードiと1パスで繋がっているノード、符号210はノードiと2パスで繋がっているノードを示す。
【0028】
図2では、人間関係グラフを構成する人数、すなわちノードの数が100の場合を示してあるが、ノード数はそれ以上でも以下でも構わない。
同図において、ストレス度を表すCES−Dは0から60までの値をとり、値が高いほどストレス度が高く、16以上はうつ病になるリスクが高いとされている。
同図において、ノード番号iのCES−D値202と、ノード番号iのノードと1パス、すなわち1本のリンクで繋がっているノードのCES−D値の平均値203とを見比べると、一方が高いと他方が低く、逆に一方が低いと他方が高い、という傾向がうかがわれる。このように、CES−D値は、人間関係グラフにおいて隣接する人の間で傾向が逆になるある指標(反強磁性的指標)である。実際にこの2つ(列202と203)の相関係数を計算するとグラフ206に示すようにr=1の場合に負の値をとる。なお、同図において、相関係数の値を示すグラフ206において、r=0の場合は、自分のCES−D同士の相関であるから、当然、相関係数Rは1になる。
【0029】
同図において、パス数(距離)rに対する相関係数のグラフ206に示すように、相関係数は、パス数rの増加に伴って正負の値を交互にとりながら、除々に減衰する。このような相関係数の傾向は、磁性体において、反強磁性と呼ばれる物質における、スピン相関関数の振る舞いとよく似ている。このことから、以下のことが示唆される。
隣接するノード間でストレス度の高低が逆になるという傾向は、磁性体において隣接する電子のスピンの向きを逆向きにそろえようとする相互作用を表現する、反強磁性イジングモデルを想起させる。イジングモデルは磁性体の基本的なモデルとして磁性体材料科学において重要な役割を果たしてきた。これは、スピン同士の相互作用(交換相互作用)に関する項と、外部磁場に関する項からなるエネルギー関数を最小化するように電子のスピン配位が決まる、とするモデルである。イジングモデルのハミルトニアンHは以下で与えられる。
【数1】

ここで、S及びSはi番目、j番目のスピンであり、+1または−1をとる。Jはスピン間の交換相互作用であり、隣接するスピンiとjの間でのみ値をとる。J>0の場合は隣り合うスピンを同じ向きにそろえるように(強磁性)作用し、J<0の場合は逆向きにそろえるように(反強磁性)作用する。hは外から加えられる磁場である。
【0030】
本実施の形態の人間行動分析手法およびシステムにおいて、グラフ206に示すようにストレス度は反強磁性的な性質を示す。そこで、スピンの向きを組織を構成する個人のストレスの高低に対応させ、他人との関係を負の交換相互作用J<0(例えば、J=−1)で表し、外部磁場hを製品の納期や顧客対応などのストレッサ(ストレスを与える要因、刺激)だとすれば、組織におけるストレスをイジングモデルによりモデル化できる。これは、磁性体において外部磁場hを加えたときにスピン間で相互作用してエネルギーが極小になるようにスピンの向きが定まり、その平均としてマクロな磁化Mがあらわれるのと同じように、納期や顧客対応などのストレッサhが組織に加わったときに、組織構成員間の相互作用の結果、組織のマクロな特性としてストレス度が決まる、というモデルである。ここでは、ストレス度を表すスピンは±1の2値をとり、ストレッサhの方向を+1とする。平均スピンの値が1に近いほどその組織は高ストレスであることを表す。
【0031】
実際、名札型センサのようなウェアラブルなセンサを用いて計測したコミュニケーションデータから構築した組織のネットワーク構造に対して、各ノードにスピンを割り当て、エネルギー最小化計算を行った結果定まる各ノードのスピンの値を用いて、ノード番号iのスピンの値と、ノード番号iのノードとrパス、すなわちr本のリンクで繋がっているノードのスピンの値の平均値との相関係数を計算すると、符号206に示すグラフと同じような形状のグラフを描くことができる。
同図において、符号207は人間関係グラフの一例を示す図であり、ノードとリンクで構成されるネットワーク図である。ここでは、CES−Dが30以上60以下の高ストレス者を白丸で、0以上30未満の低ストレス者を黒丸で表現するものとし、以降も同じである。
【0032】
同図において、符号206に示すようなCES−Dの相関関係がある場合、人間関係グラフはたとえば同図207に示すような状態になる。すなわち、着目するノードi208が高ストレス者である場合、すなわち白丸である場合、ノードiと1パス(及び奇数パス)で繋がっているノード209は低ストレス、すなわち黒丸になる傾向があり、ノードiと2パス(及び偶数パス)で繋がっているノード210は高ストレス、すなわち白丸になる傾向がある。図には示していないが、白黒を反転させた場合も成立し得て、着目するノードi208が低ストレス者である場合、すなわち黒丸である場合、ノードiと1パスで繋がっているノード209は高ストレス、すなわち白丸になる傾向があり、ノードiと2パスで繋がっているノード210は低ストレス、すなわち黒丸になる傾向がある。
【0033】
図3は、本実施の形態の人間行動分析システムの構成を示す図である。
人間行動分析システムは、例えば、表示装置303と、入力装置304と、通信装置305と、CPU(処理部)306と、ハードディスク307と、メモリ308と備える。なお、入力装置304と通信装置305の双方を備えてもよいし、一方でもよい。また、人間行動分析システムは、データ管理サーバ302をさらに備えてもよい。さらに、上述のウェアラブルなセンサなどの人と人との関係を示すデータを測定する各種センサを備えても良い。
【0034】
図3において各符号は、301は対面時間などの人間関係グラフデータと一部あるいは全ノードの指標値(たとえばアンケートなどの手法により得られたストレス度を表すCES−D値)を格納したDVDなどの記録メディア、302は人間関係グラフと一部あるいは全ノードの指標値を格納したデータ管理サーバを示す。また、303は表示装置、304は入力装置、305は通信装置、306はCPU、307はハードディスク、308はメモリを示す。309は人間関係グラフデータである対面時間情報を格納する対面情報データベース、310はノードごとの指標値などを格納するノード属性データベース、311は人間関係グラフ分析プログラムを示す。312は人間関係グラフ分析プログラム311のうちエネルギー最小化計算処理、313は人間関係グラフ分析プログラム311のうち各ノードの状態決定処理、314は人間関係グラフ分析プログラム311のうち系のマクロな状態決定処理、315はインタネット網を示す。
【0035】
同図において、人間関係グラフを表すデータは、たとえば名札型センサのようなウェアラブルセンサから得られたり、携帯電話やE−メールの使用ログから得られたり、そのほかの方法で得られる「誰と誰が何分対面しているか」というような対面情報と、アンケートなどから得られる既知の指標値、例えばストレス度、であり、これらはDVDなどの記録メディア301に記録されているか、あるいは、データ管理サーバ302に蓄積されている。
同図において、分析対象とする人間関係グラフデータのうち対面時間のデータと一部あるいは全ノードの既知の指標値は、本実施の形態の人間行動分析処理を実行するハードウェア構成のうち、通信装置305がインタネット網315を介してデータ管理サーバ302から入力するか、入力装置304がDVDなどの記録媒体に記録されたメディアデータ301として入力する。
【0036】
同図において、入力装置304あるいは通信装置305を介して入力された、分析対象とする人間関係グラフデータの対面情報は、一旦、ハードディスク307の中の対面情報データベース309に格納される。同図において、入力装置304あるいは通信装置305を介して、分析対象とする一部あるいは全ノードの指標値が入力された場合も、一旦、ハードディスク307の中のノード属性データベース310に格納される。
同図において、人間関係グラフデータのうち対面時間のデータと一部あるいは全ノードの指標値の分析を行うときには、ハードディスク307に格納したこれらのデータをメモリ308に読み出し、CPU306が分析プログラム311を実行することで、分析処理が実行される。
同図において、エネルギー最小化計算処理312を行うためには、イジングモデルを用いて系のエネルギー関数を定義し、そのエネルギー関数を最小化する計算を行う。エネルギー最小化計算に関して、メトロポリス法を例に詳細に説明する。
【0037】
(メトロポリス法)
まず、メトロポリス法に基づく処理の流れを説明する。これらの処理は、CPU306で実行される。ハードウェア資源を用いたより具体的な処理は、データベース、フローチャートを参照して後に詳述する。
【0038】
エネルギーEは上述の式(1)で定義される。式(1)のHがEとなる。ここで、Sは各ノードの指標値であり、例えばストレス度を表す値である。ここでは、Sは+1あるいは−1のどちらかをとるものとして説明を行う。
操作1:まず、初期状態のエネルギーEを(1)式に従い計算する。
操作2:次に、系の状態を変化させる。ここで変化とは、例えば、あるひとつのノードiの指標値Sを反転させる操作であり、もしSが初期状態で+1ならば−1に、初期状態で−1ならば+1に変える操作である。
操作3:状態を変化させたら、再びエネルギーを計算し、E’とする。
操作4:状態を変化させた後のエネルギーE’と状態を変化させる前のエネルギーEの差ΔE=E’−Eを計算する。
操作5:もしΔE<0ならば、状態を変化させた新しい状態の方がエネルギーが低いので、その状態を受け入れ、E=E’として操作2、3、4、5あるいは6を所定回数だけ繰り返す。
操作6:もしΔE≧0ならば、状態を変化させた新しい状態の方がエネルギーが高い、あるいは同じであるが、この場合には、確率的に新しい状態を受け入れるか否かを決定する。具体的には、0から1までの乱数randを発生させ、ある確率pと比較してrand<pならば新しい状態を受け入れ、E=E’とし、操作2、3、4、5あるいは6を行う。そうでなければ状態を変化させる前の状態に戻す。すなわち、状態を変化させたSを再び反転させて元の状態に戻す。このように、ΔE≧0の場合も確率的に新しい状態を受け入れ、例えば、ローカルミニマムに陥ることを回避する。そのあと、操作2、3、4、5あるいは6を繰り返す。ここで確率pは、たとえば系のエネルギー分布がカノニカル分布に従う場合には、p=exp(−ΔE/T)であり、Tは温度パラメタである。
上記の操作1、2、3、4、5あるいは6を所定回数行い、計算を終了する。
なお、エネルギー最小化計算はメトロポリス法以外の計算方法を用いてもかまわない。
【0039】
同図において、エネルギー最小化計算処理312を行う場合に、全てのノードの指標値が未知の場合には、操作1における初期状態はランダムに決める。すなわち、乱数を用いて各ノードの指標値を+1か−1に決め、エネルギー最小化計算を所定回数繰り返す。このとき、指標値は、ノード属性データベース310に格納されているデータセットに設定され、エネルギー最小化計算を行う度に更新された値が再設定される(図5の説明を参照)。
同図において、エネルギー最小化計算を行う場合に、一部あるいは全てノードの指標値が、たとえばアンケート調査やその他の推定法により既知の場合は、それらのノード指標値をあるしきい値により2値化し+1あるいは−1の値を割り当て、指標値が未知のノードに関してはランダムに+1あるいは−1を割り当てたものを、初期状態とする。この時も、指標値は、ノード属性データベース310に格納されているデータセットに設定され、エネルギー最小化計算を行う度に更新された値が再設定される。なお、上述のしきい値は予め定められることができる。
【0040】
同図において、エネルギー最小化計算312の結果、各ノードの状態を決定313することができる。各ノードの状態を決定する方法としては、所定回数のエネルギー最小化計算を終了したときの各ノードの状態、すなわち各ノードのストレス値である+1あるいは−1、を採択してもよいし、所定回数のエネルギー最小化計算を行う途中でサンプリングした状態の値をサンプリング回数で割った値、いわゆる熱力学的平均値を用いてもよい。ある量Aの熱力学的な平均値<A>は以下で計算される。
【数2】

Qは状態数であり、例えば所定計算回数を300,000回とし、このうち5回ごとにAを計算するとすれば、Q=60,000である。この方法により各ノードの状態を決定313する場合には、Sは+1あるは−1の2値をとるが、(2)式のAをSとした平均<A>を計算するために、状態は−1以上1以下の実数値になる。
【0041】
同図において、各ノードの状態が決定313されれば、系のマクロな状態を決定314することができる。たとえば、組織の平均のストレス度をMとすれば、Mは各ノードのSの値の平均値として計算され、
【数3】

となる。Nはノード数である。なお、上述のMは、熱力学的な平均値をとっても良いし、通常の平均値でもよい。
同図において、分析プログラム311の計算結果は、その結果を反映した人間関係グラフデータをネットワーク図として視覚的に表示部303に表示されたり、マトリクス形式のデータとしてハードディスク307に格納される。
【0042】
図4は、本実施の形態の人間行動分析手法およびシステムにおいて、外部から入力する人間関係グラフデータのうち対面時間情報に関するデータセットの例を示す図(a)と、それを用いて描くことができるネットワーク図の例を示す図(b)である。対面時間情報に関するデータセットは図3において対面情報データベース309に格納されるものである。
同図において、各符号401、402、403、404はユーザIDを行方向に並べたものであり、各符号405、406、407、408はユーザIDを列方向に並べたものである。また、各符号409、410、411、412はユーザをノードとして描いたネットワーク図における各ノードである。
同図において、マトリクス要素は組織を構成するユーザ同士の対面時間を表しており、たとえば、赤外線センサを搭載した名札型のウェアラブルセンサを組織の構成員に装着させて得られる対面時間などである。このように、対面情報データベース309は、各ユーザIDの組み合わせに対応して、ユーザ同士の対面情報(例えば対面時間)が記憶される。なお、図示のようなマトリクス形態でなくても適宜のフォーマットでもよい。
【0043】
同図において、マトリクス要素の対面時間は、たとえば1日ごとの平均対面時間を分で表している。対面時間の計測方法は、上述したようなウェアラブルなセンサを用いて計測してもよいし、それ以外の方法を用いてもかまわない。
同図において、同じユーザ同士、例えばUser1(401と405)、User2(402と406)、User3(403と407)、User100(404と408)では、自分自身との対面であるから情報としてはゼロであるため、0と記入してある。実際のデータでは、0以外の適宜のデータが記憶されてもよいし、ブランクでもよい。
同図において、一例としてUser1(401)とUser2(406)のマトリクス要素は13.55であり、これは、たとえば一日平均13.55分User1とUser2が対面していることを示している。
同図に示すような対面時間に関するデータセットをもちいれば、組織において誰と誰がどの程度対面しているかという情報が得られる。
【0044】
このような対面関係を示すデータから組織における人と人との関係を表すネットワーク図を描くことができる。この場合、ユーザをノードとし、たとえば「対面時間が5分以上のノード間にリンクを描く」というルールを定義すれば、ノードとリンクから構成されるネットワーク図を描くことができる。
同図において、「対面時間が5分以上のノード間にリンクを描く」というルールを用いてネットワーク図を描く場合、User1(401)とUser2(406)のマトリクス要素は13.55であるからノード1(409)とノード2(410)の間にリンクを引く。同様に、User1(401)とUser3(407)のマトリクス要素は15.7であるからノード1(409)とノード3(411)の間にもリンクを引く。User2(402)とUser3(407)のマトリクス要素は3.75であるからノード2(410)とノード3(411)の間にはリンクを引かない。同様にして、ノード100(412)とノード1(409)、およびノード100(412)とノード3(411)の間にはリンクが引かれる。このようにして図4(b)に示すネットワーク図を描くことができる。なお、5分を閾値とする以外にも予め定められた適宜の時間を閾値としてもよい。
【0045】
図5は、図3で説明したシステム構成のうち、ノード属性データベース310の構成を説明する図である。
ノード属性データベース310は、図中501で示すノード番号(ノード識別子)と、502で示すアンケート調査により測定したCES−D値(観測値、既知の指標値)と、503で示す指標の推定値と、504で示すリンク先ノード番号とを対応して記憶する。図中505はアンケートなどの手法によりストレス度などの指標値が得られているノードであり、507はアンケート調査により回答が得られずCES−D値が未知であるノード、である。
同図において、アンケートにより得られたCES−D値は、値が得られているノード505に関してはその値(入力される値)がそのままデータセットの列502に格納され、値が得られていないノード506に関しては、「未回答」であることを示すたとえばnull文字などが列502に設定される。
【0046】
同図に示すデータセットにおいて、推定値の列503には、たとえば初期値として+1あるいは−1を割り当てておいて、エネルギー最小化計算312を繰り返すたびに、各ノードに対して列503の値を更新する。
同図において、図3及び図4で説明した対面情報データベース309を用いて、ある閾値以上の対面時間の場合にリンクを引くとした場合に、各ノードのリンク先ノードの番号をデータセットの列504に格納する。例えば、リンクの両端のノードの一方のノードに対し、他方のノードの番号をリンク先ノード番号に格納し、逆も同様である。これにより、人間関係グラフを作成することができる。なお、リンク先ノード番号は、入力される対面情報に基づき、CPU306が記憶する以外に、データ管理サーバ302等の適宜の装置によって予めノード番号501とリンク先ノード番号504の対応関係(リンク情報)が作成されて、データ管理サーバ302や記録メディア301等から入力されてもよい。
【0047】
図6は、ストレス度を推定する処理のフローチャートを示す図である。
同図において、処理601は人間関係グラフデータ入力処理、処理602は初期状態のエネルギーEの計算、処理603は状態を変化させたときのエネルギーE’の計算、処理604はエネルギー差ΔE=E’−Eの計算、処理605はΔEが正か負の判定処理、処理606は状態変更を受け入れ系のエネルギーEをE’にする処理、処理607はエネルギー最小化計算を所定回数行ったかどうかを判定する処理、処理608は0以上1以下の乱数発生処理、処理609は発生させた乱数がある値pより大きいか小さいかを判定する処理、処理610は系の状態を変化させる前の状態に戻す処理、処理611は各ノードの指標値を決定する処理、処理612は系のマクロな状態を決定する処理、である。
【0048】
まず、CPU306は、人間関係グラフデータ入力処理601において、記録メディア301やデータ管理サーバ302から人間関係グラフデータを入力し、ノード属性データベース310等に格納する。人間関係グラフデータ入力処理601において入力する人間関係グラフデータは、加速度センサや赤外線センサや小型マイクなどを搭載したウェアラブルなセンサで計測した対面情報データセット309から作成したリンク先ノード情報、アンケートなどの手段で計測したあるノードについての既知の指標値となどを格納したノード属性データセット310である。なお、リンク先ノード情報が作成されていない場合には、CPU306は、データ管理サーバ302等から対面情報データを入力して対面情報データベース309に格納し、対面情報データから上述のリンクを張るルールに従いノード属性データベース310のリンク先ノード情報を作成する。例えば、入力された対面情報データにおける各ノードID同士について対面情報データ(対面時間)を閾値と比較し、閾値より大きい場合には関係があるとして、一方のノードIDに対応するリンク先ノード情報に他方のノードIDを書き込む。逆も同様にして、双方のノードIDに対して書き込む。
【0049】
初期状態のエネルギーEの計算602では、CPU306が、ノード属性データベース310に格納されているデータセットを参照して、推定値として+1あるいは−1の値が割り振られている各ノードのスピンの値(指標値)を取得し、式(1)に従いエネルギー関数Eを計算する。CPU306は、指標の推定値及び求められたエネルギー関数を、例えばメモリ308に記憶しておく。このとき、全てのノードの指標値502が未知の場合には、たとえば乱数を用いて各ノードの指標値の推定値503を+1か−1に決め、エネルギーEを計算する。一部あるいは全てノードの指標値502が、たとえばアンケート調査やその他の推定法により既知の場合は、それらのノード指標値502を予め定められたしきい値により2値化して推定値503に+1あるいは−1の値を割り当てる。それ以外の指標値502が未知のノードに関しては、推定値503にランダムに+1あるいは−1を割り当てたものを、初期状態とし、エネルギーEを計算する。
【0050】
なおここでは上述の式(1)において、Hは系のエネルギー、S及びSはノード識別子i、jに対応する指標の推定値であって+1または−1をとり、Jはスピン間の交換相互作用に対応するパラメータであり、ノード属性データベースにおいてノード識別子iの指標の推定値と、該ノード識別子iに対応するリンク先ノード識別子jの指標の推定値との積については負の値をとり、他の場合は0であり、hは予め定められる値である。CPU306は、式(1)におけるパラメータJ及びhを、J=−1、h=1に設定しておく。ここで、式(1)の第1項については、ノード属性データベース310のノード番号501(ノードiに相当)及びリンク先ノード番号504(ノードjに相当)に従い、リンクのあるノードi、jについて計算される。リンクのないノードについては0である。
【0051】
状態を変化させたときのエネルギーE’の計算603では、CPU306は、例えば、あるひとつのノードiの指標値Sを、もし現在の状態で+1ならば−1に、現在の状態で−1ならば+1に変え、その状態で式(1)にしたがってエネルギーを計算する(ここではエネルギーE’とする)。なお、所定の計算回数が経過607するまでは、指標の推定値はメモリ上に保存されている。ここで値が変更されるノードはランダムに選択することができる。
CPU306は、求められたエネルギーE’が元のエネルギーEより小さいか判定する。例えば、CPU306は、エネルギー差の計算604で、初期状態のエネルギーEと状態を変化させた場合のエネルギーE’の差ΔE=E’−Eを計算し、判定処理605でΔEが正か負か判定する。
CPU306は、もしΔE<0ならば、状態を変化させた新しい状態の方がエネルギーが低いので、その状態を受け入れ、E=E’とする(処理606)。
【0052】
一方、ΔE≧0ならば、状態を変化させた新しい状態の方がエネルギーが高い、あるいは同じであるが、この場合には、CPU306は確率的に新しい状態を受け入れるか否かを決定する。具体的には、CPU306は、例えば0から1までの乱数randを発生させ(処理608)、乱数randと予め定められた確率pと比較して(処理609)、rand<pならば新しい状態を受け入れてE=E’とし(処理606)、そうでなければ状態を変化させる前の状態に戻す(処理610)。すなわち、CPU306は、処理603で変更したノードの指標の推定値Sを再び反転させて、すなわちSに−1を乗じて、元の状態に戻す。
CPU306は、処理603〜処理606、処理608〜610のエネルギー最小化計算を所定回数行ったかどうかの判定処理を行う(処理607)。CPU306は、判定の結果、所定回数に満たない場合は、処理603に戻り再び状態を変化させた場合のエネルギーE’の計算603を行い、以降、上述した処理604、605、606、609及び610を実行する。処理603では、上述のようにノードがランダムに変更される。例えば直前の処理で変更されたノードと異なるノードの状態が変更されるようにしてもよい。
【0053】
一方、CPU306は、エネルギー最小化計算を所定回数行ったかどうかの判定処理(607)の結果、所定回数に達した場合は、各ノードの状態を決定する(処理611)。なお、上述の所定回数は予め定めておくことができる。各ノードの状態を決定する方法としては、所定回数のエネルギー最小化計算を終了したときの各ノードの状態Sを採択してもよいし、所定回数のエネルギー最小化計算を行う途中でサンプリングした状態(サンプリング間隔毎にサンプリングした状態)の値をサンプリング回数で割った値、いわゆる熱力学的平均値を用いてもよい。ある量Aの熱力学的な平均値は、上述したように、式(2)で計算されることができる。サンプリング間隔は予め設定することができる。また、サンプリングした状態の値(又はその累積値)、サンプリング回数はメモリ308に記憶しておくことができる。
【0054】
CPU306は、決定された各ノードの状態に基づき、系のマクロな状態を決定する(処理612)。たとえば、組織の平均のストレス度をMとすれば、Mを決定された各ノードの指標値Sの平均値として定義し、CPU306は、上述の式(3)に従い組織の平均ストレス度Mを計算する。
CPU306は、所定の計算回数が経過し(607)、決定された各ノードの指標値の推定値(処理611)や系のマクロな状態を表す量(処理612)を、ハードディスク307に格納する。また、CPU306は、たとえばネットワーク図として視覚的に表示部303に表示する。
本実施の形態の、人間行動分析手法およびシステムを用いれば、系のエネルギーを最適化するという操作により、シミュレーションにより、系を構成する人のストレス度を推測したり、構成員の状態から系のマクロな状態、すなわち組織のストレス度、を推測したりすることができる。
【0055】
以下、本人間行動分析システムによるシミュレーションの例を示す。

2.1 シミュレーション例1
図7は、シミュレーションの例(1)を説明する図である。
同図において、701は実際の人間関係グラフとストレス度、702はノード間のリンク数を減らした場合の人間関係グラフとストレス度、703はノード間のリンク数を増やした場合の人間関係グラフとストレス度、704はノード数とリンク数を減らした場合の人間関係グラフとストレス度、705はノード数とリンク数を増やした場合の人間関係グラフとストレス度、706はノード数を一定にしたままリンクを繋ぎ変えた場合の人間関係グラフとストレス度を表す。また、707〜718はノード、719は削除したノード、720はノード、721は追加したノード、722から729はノード、である。
【0056】
同図において、ストレス度は+1あるいは−1の2値で表現されており、高ストレスは+1で白丸、低ストレスは−1で黒丸、でそれぞれ表現されている。
同図において、実際の人間関係グラフとストレス度701は、隣接するノード間で大きさの傾向が逆になる指標、たとえばストレス度、を対象とした場合、図2で示した人間関係グラフ207のように、高ストレスを白丸、低ストレスを黒丸で表現すれば、ある着目するノードが高ストレス者である場合、すなわち白丸である場合、そのノードと1パスで繋がっているノードは低ストレス、すなわち黒丸になる傾向があり、2パスで繋がっているノードは高ストレス、すなわち白丸になる傾向がある。図示はしていないが、人間関係グラフ701の白黒を反転した状態も実現し得る。
同図において、リンクを減らす場合702とリンクを増やす場合703は、実際の組織における人間関係に適用すると、例えば、上長の指示や組織的な施策や座席の配置変更などの物理的な制約により、組織構成員のうち特定の人同士のコミュニケーション機会が消滅したり、従来コミュニケーションしていなかった人と人の間にコミュニケーションが発生したり、することにそれぞれ対応する。
【0057】
図7(a)のように、リンク数を減らす場合702には、たとえば従来1パスで繋がっていたノードi707とノードj708の間のリンクが切れたため、従来低ストレス、すなわち黒丸だったノードj708が高ストレス、すなわち白丸に714なり、ノードjに1パスで繋がっているノードk709およびノードl710は従来ともに高ストレス、すなわち白丸であったものが低ストレス、すなわち黒丸になる715および716、というようなことが発生する。
【0058】
図7(b)のように、リンク数を増やす場合703には、たとえばノードn711やノードo713にリンクが追加された場合、従来高ストレス、すなわち白丸だった状態が低ストレス状態、すなわち黒丸717および718に変化する、ということが発生する。
図7において、ノードを減らす場合704とノードを増やす場合706は、実際の組織における人間関係に適用すると、例えば、所属変更や人事異動などによりある組織からある組織構成員がいなくなった場合、あるいはある人が新しく組織に加わった場合、にそれぞれ対応する。
例えば、CPU306は、操作者による入力に従い、ノード属性データベース310のリンク先ノード識別子を追加又は削除し、リンクを追加又は削除した場合の系のマクロな指標をシミュレーションする。
【0059】
図7(c)のように、ノード数を減らす場合704には、たとえばノードm712あるいは719を削除した場合、従来直接は繋がっていなかったノードi707とノードn711の間に新しいリンクが発生し、この結果ノードnが高ストレス711から低ストレス720へ、すなわち白丸から黒丸へ状態が変化する、というようなことが発生する。
【0060】
図7(d)のように、ノード数を増やす場合705には、たとえばノード721が追加された結果ネットワーク構造が変化し、従来低ストレス、すなわち黒丸だったノードj708が高ストレス、すなわち白丸に722なり、ノードjに1パスで繋がっているノードk709およびノードl710は従来ともに高ストレス、すなわち白丸であったものが低ストレス、すなわち黒丸になる723および724、というようなことが発生する。
例えば、CPU306は、操作者による入力に従い、ノード属性データベース310のノード識別子を追加又は削除し、ノードを追加又は削除した場合の系のマクロな指標をシミュレーションする。
【0061】
図7(e)のように、ノード数を一定、総リンク数も一定に保ったまま、リンクを繋ぎ変える場合706は、実際の組織における人間関係にあてはめると、例えば、上長の指示や組織的な施策や座席の配置変更などの物理的な制約により、全体のコミュニケーション量と組織の構成員は同じにした条件下で、組織構成員のうち特定の人同士のコミュニケーション機会を無くしたり、従来コミュニケーションしていなかった人と人の間にコミュニケーションの時間を作ったり、することにそれぞれ対応する。このような場合においても、ネットワーク構造が変わるために、各ノードの状態が変化することになり、同図706に示す例では、従来、高ストレスであったノードk709、l710、n711が低ストレスに726、727、729なり、従来低ストレスだったノードj708とノードm712が高ストレスになる715、728。
例えば、CPU306は、操作者による入力に従い、ノード属性データベース310の所定のノードに対応するリンク先ノード識別子の少なくともひとつを削除して他のノード識別子をリンク先ノード識別子として追加し、リンクをつなぎかえた場合の系のマクロな指標をシミュレーションする。
【0062】
このようにリンクの増減により、各ノードの状態に変化が生じ、その結果、例えば(3)式で計算される組織全体のストレス度Mも変わる。このようにして、シミュレーションによりさまざまなリンク増減によるMの変化を試算し、組織全体のストレス度Mが最も小さくなるように、職場のコミュニケーションを制御することができる。
【0063】
2.2 フローチャート1
図8は、図7で説明したシミュレーションの例(1)のうち、ノード数を一定にしてリンク数を増やした場合703のフローチャートを示す図である。
同図に示すフローチャートは、基本的には図6で示したフローチャートと同じであるが、図6では、CPU306は、人間関係グラフデータ入力601において対面情報データベース309に格納されているデータセットからノード属性データベース310に格納されるデータセットを作成し、それを人間関係グラフデータとして入力した。
【0064】
図7におけるリンク数を増やす場合703のシミュレーションを行う場合には、CPU306は、図5におけるデータセットのうちリンク先ノード番号504が、もとのデータセットから変更(ここでは追加)801されたものを人間関係グラフデータとして入力601する。なお、CPU306は、既に入力されノード属性データベース310に格納されたノード番号501を追加又は削除することでノードを追加又は削除し、リンク先ノード番号504を追加又は削除することでリンクを追加又は削除し、あるノードに対するリンク先ノード番号504の少なくともひとつを削除して他のノードの番号を追加することでリンクをつなぎかえ(処理801)、このように作成された新たな人間関係グラフデータを用いて処理602以降の各処理を実行してもよい。
【0065】
図8において、処理602以降のフローは図6に示したものと同じである。
なお、リンク数を増やす場合以外に、図7(a)、(c)〜(e)に示す各ケースについては、CPU306は処理801において、上述の各ケースに対応する処理を行う。
【0066】
2.3 実験結果1
図9は、図7で説明したシミュレーションの例のうち、ノード数を一定にしてリンク数を増やした場合703と、ノード数とリンク数を一定にしたままリンクを繋ぎ変えた場合706の実験結果を示す図である。
同図において、901はノード数を一定にしてリンク数を増やした場合703における組織の平均ストレス度、すなわち(3)式で計算されるM、とノードあたりのリンク数の相関を示す図、902はノード数とリンク数を一定にしたままリンクを繋ぎ変えた場合706における組織の平均ストレス度Mと系のエネルギーの相関を示す図、であり、それぞれの図において相関係数Rと統計的な有意性を示すp値を示してある。
【0067】
同図において、リンクの数が異なるネットワーク(人間関係グラフ)を35個作成し、各ネットワークのノードがストレス度に相当する+1あるいは−1の値をとる指標値を有する場合に、エネルギーの式(1)を計算し、エネルギーが小さくなるように図8に示すフローチャートに従って計算を行うことにより、組織の平均ストレス度Mとノードあたりのリンク数の相関を示す図901を得ることができる。
同図において、ノード数とリンク数を一定にしたまま、リンクを繋ぎ変えたネットワーク(人間関係グラフ)を20個作成し、各ネットワークのノードがストレス度に相当する+1あるいは−1の値をとる指標値を有する場合に、エネルギーの式(1)を計算し、エネルギーが小さくなるように図8に示すフローチャートに従って計算を行うことにより、組織の平均ストレス度と系のエネルギーの相関を示す図902を得ることができる。
【0068】
同図において、リンク数を多くすれば、組織の平均ストレスMが下がることが図901から分かる。これは、実際の組織においては、多くの人とコミュニケーションをとる方が、コミュニケーションが少ない組織に比べてストレス度Mが下がることを示している。
同図において、ノード数とリンク数を一定にしたまま繋ぎ変えることにより、さまざまなエネルギー状態のネットワークが構築され、エネルギーが低い組織ほど、組織の平均ストレスMが下がることが図902から分かる。これは、実際の組織においては、同じ構成員で総コミュニケーション量が一定でも、コミュニケーションの取り方を変えることにより、全体として組織のストレス度を下げることができることを示している。

【0069】
3.1 シミュレーション例2
図10は、一部のノードの指標値から、他のノードの指標値を推定するシミュレーションの例(2)である。
同図において、1001は一部のノードの指標値のみ既知の場合の人間関係グラフ、1002はすべてのノードの指標値が推定された状態の人間関係グラフである。また、1003は指標値が既知である高ストレスノード、1004〜1006は指標値が既知である低ストレスノード、である。
【0070】
同図において、シミュレーションを行う前1001は、ひとつのノード1(1003)が高ストレス、すなわち白丸であり、3つのノード2(1004)、ノード3(1005)、ノード4(1006)が低ストレス、すなわち黒丸である、ということが、例えばこの4人に対して行ったCES−Dを計測するためのアンケート調査から明らかであるものとする。この4人の指標値は、いま述べたようにアンケートにより取得したものでもよいし、その他のストレス値推定手段を用いて推定された値を用いてもかまわない。
同図において、シミュレーション実行前1001は、そのほかのノードのストレス度は未知であり、図中1001では灰色丸で表現されている。
同図において、本実施の形態の人間行動分析手法およびシステムを用いてシミュレーションを実行すると、シミュレーション前に未知であった灰色丸で表現されたノードのストレス値を、以下に述べる手順で決定することができる。
【0071】
まず、エネルギー関数(1)に従って図6に示したフローチャートに従ってエネルギー最小化計算を行う場合に、高ストレスであるノード1は常にスピンの値Sを+1、低ストレスであるノード2、3、4はスピンの値S、S、Sを常に−1に固定した状態で、計算を行う。すなわち、図6に示すフローチャートにおいて、状態を変化させる処理603において、もしノード1、2、3、あるいは4の状態が変化させられた場合には即座に状態を元に戻し、指標値が既知ではない他のノードの状態を変化させて、エネルギー最小化計算を行う。
同図において、エネルギー最小化計算を所定回数実行すれば、指標値が未知であったノードの指標値を決定することができ、その結果を反映した人間関係グラフ1002を出力することができる。
同図において、本実施の形態は、限られた数の既知のノードの指標値から、系のエネルギーを最小化する計算により指標値が未知のノードの指標値を推定する手法であるが、本手法により、従来は組織を構成する構成員全員に対してアンケート調査を行うことでストレス度を測定しなければならなかったのに対して、少ないコストで全体のストレス度を推定することが可能になる。
【0072】
3.2 フローチャート2
図11は、図10で説明したシミュレーションのフローチャートを示す図である。
同図に示すフローチャートは、基本的には図6で示したフローチャートと同じであるが、図6では、人間関係グラフデータ入力601において対面情報データベースに格納されているデータセット309からノード属性データベースに格納されるデータセット310を作成し、それを人間関係グラフデータとして入力した。
【0073】
図10で説明したシミュレーションを行う場合には、図5におけるノード属性データベースに格納されるデータセットの指標の推定値503のうち一部が固定値に設定1101されたものを人間関係グラフデータとして入力601とする。
図11において、そのあとのフローは図6に示したものと同じである。処理603−2は、図8の処理603と同様であるが、上述の図10の説明で述べたように、指標の推定値を固定するノードについては、推定値を変更しないようにする。どのノードを固定するかは、予め定められることが出来る。例えば、指標値(観測値)が既知のノードの一部又は全てとすることができる。
【0074】
3.3 実験結果2
図12は、図10で説明した一部のノードの指標値から、他のノードの指標値を推定するシミュレーションの実験結果の例である。同図において、(a)はシミュレーション前、(b)はシミュレーション後の各値を示す。
同図において、1201はノード番号、1202はアンケート調査により測定したCES−D値、1203は指標の推定値、1204はリンク先のノード番号、1205は指標値の推定値が既知であるとして−1に固定するノード、1206は指標値の推定知が未知であるとするノード、1207はアンケート調査により回答が得られずCES−D値が未知であるノード、1208はアンケート調査によりCES−D値が得られているノード、である。
【0075】
実験の概要を説明する。
構成員の人数が17人である組織に対して、アンケート調査によりCES−Dを測定し、11人から回答を得た。このうち、CES−D値が16以下で、心理学の分野でストレス度が低いとされる3人1205について、シミュレーションにおける指標値の推定値をー1に固定し、エネルギー最小化計算により他の人の値を推定する、というシミュレーション実験を行った。アンケートによりCES−Dの値が分かっているが高ストレスであるノード1206と、アンケートにより回答が得られず値が未知であるノード1207については、推定値はシミュレーションで求めるものとする。ここで、シミュレーションにおいては(1)式のエネルギー関数を最小化する計算を、ノードiのストレス度、すなわち指標値Sが+1と−1の2値として、メトロポリス法により実施した。また、計算が所定回数に達したあとの各ノードの指標値の計算と、組織の平均のストレス度の計算は、熱力学平均(式3)により計算した。したがって、推定値は−1以上+1以下の実数値をとる。
実験では、実際にはアンケートにより回答が得られているがCES−Dが16より大きい人1206の推定値と、アンケートにより回答が得られていない人1207の推定値をシミュレーションにより計算した。
【0076】
本実施の形態の手法を用いたシミュレーションの結果、同図(b)に示すように全てのノードに関して推定値が得られる。
同図において、アンケートによりCES−D値が分かっている人1208について、CES−D値と推定値の相関係数Rを計算したところ、R=0.687であり有意性を示すp値は0.019であった。このことから、シミュレーションの結果得られたストレス度の推定値の人間関係グラフにおける分布は、実際にアンケートで得られたCES−D値の人間関係グラフの分布と同じ傾向を示し、アンケート調査の結果を再現することが分かる。
同図において、シミュレーションにより、アンケート調査で回答が得られずCES−D値が未知であったノード1207に関しても推定値が得られている。このことは、組織を構成する全員に対してアンケート調査を行わなくても、一部に対してのみ行えば、本実施の形態で提案するエネルギー最小化計算により、アンケート調査を行わなかった人の指標値の推定が可能であることを示している。

【0077】
4.1 シミュレーション例3
図13は、あるノードの指標値を変えた場合に、その他のノードの指標値を推定するシミュレーションの例(3)を示す図である。
同図において、1301はシミュレーション実行前の人間関係グラフ、1302はシミュレーション実行後の人間関係グラフである。また、1303は指標値を変化させるノードである。
同図において、シミュレーション実行前には、ノードi1303は高ストレス状態、すなわち白丸であるものとする。この状況に対して、何らかの理由によりノードi1303の状態が低ストレス状態、すなわち黒丸に変化した場合に、本実施の形態の手法により他のノードの状態の変化を推定するシミュレーションを行うことができる。ここで何らかの理由とは、実際の組織においては、たとえば高ストレス者iさんに対する周囲の全面的な心配りやケア、あるいはiさんの報酬アップなど環境の変化、などが考えられる。あるいは、iさんの代わりに、ストレッサに対して非常に強い、いわば楽天家タイプの別のi’さんをiさんのポジションに置く、という組織における人事的な理由であってもかまわない。
同図において、シミュレーションの目的は、組織を構成するどの人をサポートすれば組織のストレス度Mを下げることができるか、ということを推測することである。
【0078】
同図において、ノードiの状態を高ストレス状態、すなわち白丸から低ストレス状態、すなわち黒丸に変え、ノードiの指標値(推定値)を常に−1に保った状態で、式(1)に従って図6に示したフローチャートに従ってエネルギー最小化計算を行えば、その結果を反映した人間関係グラフ1302を得ることができ、ノードiの状態変化に伴う全体の状態、すなわち組織のストレス度Mの変化を推定することが可能である。
例えば、CPU306は、例えば操作者からの入力等により特定のノードを選択し、ノード属性データベース310の該当するノード番号の推定値を反転し、固定する。この状態で、上述のフローチャートの処理602以降を実行して、ノードの指標の推定値を反転した場合の系のマクロな第2指標を求める。また、CPU306は、推定値の反転前の系のマクロな指標、求められた第2指標、ノードの指標の推定値等を表示してもよい。
【0079】
4.2 実験結果3
図14は図13で説明したシミュレーションの実験結果を示す図である。
同図において、1401はアンケート調査により得たストレス度CES−Dを±1に2値化して計算した組織のストレス度、1402は同じ組織でCES−D値が最大のノード、すなわち高ストレス者、の指標値の推定値を−1に固定してシミュレーションを行った場合の組織のストレス度、1403は同じ組織でCES−D値が16以下のあるひとつのノード、すなわち低ストレス者、の指標値の推定値を−1に固定してシミュレーションを行った場合の組織のストレス度、である。
【0080】
実験の内容を説明する。
まず、17名からなる組織の各構成員のストレス度CES−Dをアンケートにより計測し、値が16以下の人はストレスの推定値が−1、16より大きい人は+1として、組織のストレス度Mを(3)式に従って計算した。すなわち、具体的には、(3)式においてN=17、Sが+1あるいは−1をとり、この場合は熱力学平均をとる必要がない。この計算の結果、M=0.454545であった1401。
【0081】
次に、同じ組織で、最もCES−D値が高くストレスが高い人を、何らかのサポートにより救済し、ストレスが下がるような施策を実世界で行った場合にどうなるかをシミュレーションした。このために、もっともCES−D値が高いノード(CES−D=46)の推定値を−1に固定し、図6に示すフローチャートに従って、本実施の形態の手法を用いてエネルギー最小化計算により各ノードの指標値Sを求め、(3)式に従って組織のストレス度Mを計算した。この結果M=0.447であった1402。
さらに、同じ組織で、CES−D値が低くストレスが低い人に対して、より一層の何らかのサポートにより、より一層ストレスが下がるような施策を実世界で行った場合にどうなるかをシミュレーションした。このために、CES−D=14のノードの推定値を−1に固定し、図6に示すフローチャートに従って、本実施の形態の手法を用いてエネルギー最小化計算により各ノードの指標値Sを求め、(3)式に従って組織のストレス度Mを計算した。この結果M=0.462であった1403。
【0082】
同図に示す結果より、この実験においては、高ストレス者に対して何らかの支援をすることにより組織全体のストレス度を下げることができることが分かる。逆に、もともと低ストレスの人を支援すれば、組織全体としてはストレス度が上がる、という結果を示している。
同図に示す結果より、この実験においては、図13で述べたような特定の人1303のストレスを制御することで、全体のストレス度を調節できることが分かる。したがって、本実施の形態の手法に基づいたシミュレータを例えばマネージャーの組織運営支援などに利用すれば、ストレスの制御が可能であることを示している。

【0083】
5. 補正に人間関係の2パス先の値を用いる方法
図15は、組織を構成する構成員のストレス値を推定する場合の補正方法の例(変形例)を示す図である。
同図において、1501は指標値の推定を行う対象ノードi、1502はノードiと1パスで繋がっているノードj、1503はノードjと1パスで繋がりノードiとは2パスで繋がっているノードk、である。
同図において、ノードiと1パスで繋がっているノードj、およびノードiと2パスで繋がっているノードkは、それぞれ一つ以上ある。
同図において、これまで説明してきた本実施の形態の手法では、ノードiと、ノードiと1パスで繋がっているノードjで、指標値の大きさが逆傾向になることを利用し、式(1)で定義されるエネルギー関数において、交換相互作用を表すJが負であるとして、エネルギー最小化計算を行った。
【0084】
図2のグラフ206に示すように、ノードiと、ノードiと2パスで繋がっているノードkでは、指標値の大きさの相関係数が正になり、ノードiのストレス度が高ければ2パスで繋がったノードkのストレス度も高く、逆に、ノードiのストレス度が低ければノードkのストレス度も低くなる、という傾向がある。
そこで、ノードiのストレス度の推定の精度を上げるために、ノードiと2パスで繋がっているノードkの指標値を用いることが、推定値の補正の方法のひとつとして(本実施の形態の変形例として)可能である。
【0085】
たとえば、エネルギー関数(1)式の代わりに、ノードkの効果を加えた以下のエネルギー関数を用いる。
【数4】

ここで、Hは系のエネルギー、S、S、Sは(1)式と同様±1の2値をとり、ストレス度の高低を表す。この場合、第1項は1パスで繋がったノードiとjの相互作用を表し、Jが負(例えばJ=−1)で、互いにS、Sを逆向きに揃わせようとする効果がある。第2項が補正項に相当する項であるが、2パス離れたノードiとkの相互作用を表し、J’は正(例えばJ’=1)で、互いにS、Sを同じ向きに揃わせようとする効果がある。2パスのリンクないノード間については、J’=0である。hは(1)式と同様である。
このエネルギー関数を用いることにより、指標値を推定する対象ノードiの指標値、例えばストレス度を、1パスで繋がったノードjのストレス度と、2パスで繋がったノードkのストレス度から推定することが可能になる。
【0086】
なお、第2項は、2パスで繋がったノードに対して計算されるが、ノード属性データベース310のノード番号501に対応するリンク先ノード番号504を2回参照することで2パスで繋がったノードを判断できる。例えば、ノード属性データベース310を参照し、対象ノードのノード番号501(例えばノードi)に対応するリンク先ノード番号504(例えばノードj)を取得し(1パス)、取得された1パスの各ノード番号(ノードj)についてノード属性データベース310のノード番号501を検索して、対応するリンク先ノード番号(例えばノードk)を取得する(2パス)。
なお、2パス以外にも、それ以上の有限数パスで接続された人の指標値を加味して、各ノードの指標値を推定してもよい。

【0087】
6.その他
本人間行動分析手法およびシステムによると、人間関係グラフを外部から入力して、グラフにおいて隣接する人の間で傾向が逆になるある指標(反強磁性的指標、たとえばストレス度)において、いくつかの人の指標値から他人の指標値を推定することができる。ストレス度のような人間の内部状態を計測するには従来アンケート調査が主体であったが、本手法では、系のエネルギーを最小化することにより、系を構成する要素、すなわち組織の構成員の指標値を推定し、その結果から系のマクロな状態を表す指標値を決定することができるため、構成員全員に対してアンケート調査を行わなくても、一部の人のアンケート結果あるいは推定値から他の人の指標の値を推定することができる。さらに、エネルギーの最小化により人間関係の安定状態を求めることにより、人間関係グラフにおいて隣接する人の指標だけでなく、2パスあるいはそれ以上の有限パスで接続されたサブネットワークの指標の推定値を用いて、個人の指標を推定することができる。
【0088】
また本発明の技術を、基本アルゴリズムとして実装すれば、人間関係グラフにおいて、隣接するノード間で反対の傾向を持つ、反強磁性的な、指標値の解析において利用が可能であるため、経済学、心理学、サービス、経営など、幅広い分野で応用が可能である。
また、本発明の人間行動分析方法およびシステムは、その各手順をコンピュータに実行させるための人間行動分析プログラム、人間行動分析プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体、人間行動分析プログラムを含みコンピュータの内部メモリにロード可能なプログラム製品、そのプログラムを含むサーバ等のコンピュータ、等により提供されることができる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、例えば、ウェアラブルなセンサ、たとえば名札型センサノードや腕時計型センサノード、あるいは携帯電話の使用ログ、その他の手段によって測定される、人間関係や人間の様々な行動を反映した大量データ全般をコンピュータで解析するシステムに利用可能である。
【符号の説明】
【0090】
101 人間関係グラフデータ入力
102 人間関係グラフ分析処理
103 エネルギー最小化計算
104 各ノードの状態決定
105 系のマクロな状態決定
106 結果データ出力
201 ノード番号
202 自分のCES−D値
203 1パスで繋がっているノードの平均CES−D値
204 2パスで繋がっているノードの平均CES−D値
205 rパスで繋がっているノードの平均CES−D値
206 自分のCES−D値と、rパスで繋がっているノードの平均CES−D値との相関係数をプロットしたグラフ
207 人間関係グラフの例
208 着目するノード
209 低ストレスノード
210 高ストレスノード
301 記録メディア
302 データ管理サーバ
303 表示装置
304 入力装置
305 通信装置
306 CPU
307 ハードディスク
308 メモリ
309 対面情報データベース
310 ノード属性データベース
311 分析部プログラム
312 エネルギー最小化計算
313 各ノードの指標値決定
314 系のマクロな指標値計算
315 インタネット網
401〜408 ユーザID
409〜412 ノード番号
502 アンケート調査により得られたCES−D値
503 指標値の推定値
504 リンク先のノード番号
505 アンケート調査によりCES−D値が得られたノード
506 アンケート調査により回答が得られずCES−D値が未知のノード
601 人間関係グラフデータ入力
602 初期状態のエネルギーE計算
603 状態を変化させたときのエネルギーE’計算
604 エネルギー差ΔE=E’−E計算
605 ΔEの正負の判定
606 E=E’とする
607 所定の計算回数経過判定
608 0以上1以下の乱数発生
609 乱数と確率pの大きさ比較
610 状態を変化させる前の状態に戻す処理
611 各ノードの指標値決定
612 系のマクロな指標値計算
701 現状の人間関係グラフ
702 ノード数一定でリンク数を減らした場合の人間関係グラフ
703 ノード数一定でリンク数を具やした場合の人間関係グラフ
704 ノードを減らした場合の人間関係グラフ
705 ノードを増やした場合の人間関係グラフ
706 ノード数、リンク数一定にしてリンクを繋ぎ変えた場合の人間関係グラフ
707〜718 ノード
719 削除したノード
720 ノード
721 追加したノード
722〜729 ノード
801 ノード属性データベースのデータセットのリンク先ノード番号を変更
901 ノード数一定でリンク数を増やした場合の実験結果
902 ノード数、リンク数一定にしてリンクを繋ぎ変えた場合の実験結果
1001 一部のノードの指標値が既知の人間関係グラフ
1002 全ノードの指標値を推定した人間関係グラフ
1003 指標値が既知で高ストレスであるノード
1004〜1006 指標値が既知で低ストレスであるノード
1101 ノード属性データベースのデータセットの推定値を設定
1201 ノード番号
1202 アンケート調査により得られたCES−D値
1203 指標値の推定値
1204 リンク先のノード番号
1205 推定値が既知であるとして固定してシミュレーションを行うノード
1206 指標値が未知であるとしてシミュレーションにより推定を行うノード
1207 アンケート調査により回答が得られずCES−D値が未知のノード
1208 アンケート調査により回答が得られCES−D値が既知のノード
1301 シミュレーション前の人間関係グラフ
1302 あるノードの指標値を変えてシミュレーションした後の人間関係グラフ
1303 指標値を変えるノード
1401 アンケート結果から得られた組織構成員のストレス度から組織全体のストレス度を計算した結果
1402 高ストレス者のストレス度の推定値を−1に固定してシミュレーションした結果
1403 低ストレス者のストレス度の推定値を−1に固定してシミュレーションした結果
1501 着目するノード
1502 着目するノードと1パスで繋がっているノード
1503 着目するノードと2パスで繋がっているノード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワークのノードが人に対応し、リンクが人の間の関係に対応した人間関係グラフを用い、該人間関係グラフにおいてリンクで結ばれた隣接する人の間で傾向が逆になる指標について、一部の人の既知の指標値に基づいて他の人の指標値を推定するための人間行動分析システムであって、
ノード識別子に対応して、指標値が既知のノード識別子についての既知の指標値と、指標の推定値と、リンク先ノード識別子とが対応して記憶されるノード属性データベースと、
前記ノード属性データベースを参照して、ノードの指標を推定する処理部と
を備え、
前記処理部が、前記ノード属性データベースに既知の指標値が記憶されているノードの少なくとも一部について、該既知の指標値応じた該ノードの指標の推定値を定める処理と
前記処理部が、他のノードについてノードの指標の推定値の初期値を定める処理と、
前記処理部が、各ノードの指標の推定値と、ノード識別子とリンク先ノード識別子との対応関係で表されるリンク情報とに基づき、各ノードで構成される系のエネルギーをイジングモデルにより求める処理と、
前記処理部が、各ノードの指標の推定値を変化させて系のエネルギーを再度計算することを所定回数繰り返し、系のエネルギーがより小さくなるようにする処理と、
前記処理部が、所定回数繰り返した後の各ノードの指標の推定値又は繰り返し計算過程における各ノードの指標の推定値の統計値を、指標の推定値と決定して前記ノード属性データベースに記憶する処理と
を実行する前記人間行動分析システム。
【請求項2】
前記指標は、ノードに対応する人のストレスを表す指標である請求項1に記載の人間行動分析システム。
【請求項3】
前記処理部が、求められた各ノードの指標の推定値の平均を求めることにより系のマクロな指標を求める請求項1に記載の人間行動分析システム。
【請求項4】
前記系のマクロな指標は、ノードに対応する人により構成される組織全体のストレスを表す指標である請求項3に記載の人間行動分析システム。
【請求項5】
繰り返し計算過程における各ノードの指標の推定値の統計値は、各ノードの指標の推定値の熱力学的平均である請求項1に記載の人間行動分析システム。
【請求項6】
前記イジングモデルは、以下の式で表される請求項5に記載の人間行動分析システム。
【数1】

ここで、Hは系のエネルギー、S及びSはノード識別子i、jに対応する指標の推定値であって+1または−1をとり、Jはスピン間の交換相互作用に対応するパラメータであり、前記ノード属性データベースにおいてノード識別子iの指標の推定値と、該ノード識別子iに対応するリンク先ノード識別子jの指標の推定値との積については負の値をとり、他の場合は0であり、hは予め定められる値である。
【請求項7】
前記各ノードの指標の推定値を変化させて系のエネルギーを最小化する又は所定回数の計算の中で最小にする請求項1に記載の人間行動分析システム。
【請求項8】
各ノードに対応するそれぞれの人に装着されるウェアラブルなセンサにより、人と人との対面及び会話の少なくともいずれかを含むコミュニケーションが数値化された対面情報が、各ノード識別子の組み合わせに対応して記憶される対面情報データベース
をさらに備え、
前記処理部が、前記対面情報データベースに記憶された各ノード識別子の組み合わせに対応する対面情報と、予め定められた閾値とを比較して、該ノードの組み合わせの間にリンクを張るか判断し、リンクを張る場合に、該ノード識別子の組み合わせのそれぞれのノード識別子について、前記ノード属性データベースの対応するリンク先ノード識別子に、該組み合わせの他方のノード識別子を記憶する請求項1に記載の人間行動分析システム。
【請求項9】
前記処理部は、データ管理サーバ又は記録媒体から前記ノード識別子の組み合わせと対面情報とを入力し、前記対面情報データベース記憶する請求項8に記載の人間行動分析システム。
【請求項10】
各ノードに対応するそれぞれの人に装着され、人と人との対面及び会話の少なくともいずれかを含むコミュニケーションを数値化する前記センサ
をさらに備える請求項8に記載の人間行動分析システム。
【請求項11】
前記処理部は、データ管理サーバ又は記録媒体から、ノード識別子と、リンク先ノード識別子とが対応した前記リンク情報を入力し、前記ノード属性データベースに記憶する請求項1に記載の人間行動分析システム。
【請求項12】
前記データ管理サーバをさらに備え、
該データ管理サーバは、
各ノードに対応するそれぞれの人に装着されるウェアラブルなセンサにより、人と人との対面及び会話の少なくともいずれかを含むコミュニケーションが数値化された対面情報が、各ノード識別子の組み合わせに対応して記憶される第2対面情報データベースと、
第2処理部と
を有し、
前記第2処理部が、前記対面情報データベースに記憶された各ノード識別子の組み合わせに対応する対面情報と、予め定められた閾値とを比較して、該ノードの組み合わせの間にリンクを張るか判断し、リンクを張る場合に、該ノード識別子の組み合わせのそれぞれのノード識別子について、前記第2ノード属性データベースの対応するリンク先ノード識別子に、該組み合わせの他方のノード識別子を記憶し、
前記処理部は、該データ管理サーバから、ノード識別子と、リンク先ノード識別子とが対応した前記リンク情報を入力する請求項11に記載の人間行動分析システム。
【請求項13】
前記処理部は、
操作者による入力に従い、前記ノード属性データベースのリンク先ノード識別子を追加又は削除し、
リンクを追加又は削除した場合の系のマクロな指標をシミュレーションする請求項1に記載の人間行動分析システム。
【請求項14】
前記処理部は、
操作者による入力に従い、前記ノード属性データベースのノード識別子を追加又は削除し、
ノードを追加又は削除した場合の系のマクロな指標をシミュレーションする請求項1に記載の人間行動分析システム。
【請求項15】
前記処理部は、
操作者による入力に従い、前記ノード属性データベースの所定のノードに対応するリンク先ノード識別子の少なくともひとつを削除して他のノード識別子をリンク先ノード識別子として追加し、
リンクをつなぎかえた場合の系のマクロな指標をシミュレーションする請求項1に記載の人間行動分析システム。
【請求項16】
前記処理部は、前記系のエネルギーがより小さくなるようにする処理において、
該既知の指標値に応じた指標の推定値を定めたノードについては指標の推定値を固定して変化させず、他のノードの指標の推定値を変化させる請求項1に記載の人間行動分析システム。
【請求項17】
前記処理部は、系のマクロな指標が求められた後に、所定のノードの指標の推定値を反転して固定し、再度上記各ステップを実行して、ノードの指標の推定値を反転した場合の系のマクロな第2指標を求め、
前記系のマクロな指標と、前記系のマクロな第2指標を表示する請求項1に記載の人間行動分析システム。
【請求項18】
前記イジングモデルとして、補正項を加えた以下の式を用いる請求項1に記載の人間行動分析システム。
【数2】

ここで、
Hは系のエネルギー、
、S及び、Sはノード識別子i、j、kに対応する指標の推定値であって+1または−1をとり、
Jはスピン間の交換相互作用に対応するパラメータであり、前記ノード属性データベースにおいてノード識別子iの指標の推定値と、該ノード識別子iに対応するリンク先ノード識別子jの指標の推定値との積については負の値をとり、他の場合は0であり、
J’は、前記ノード属性データベースにおいて該ノード識別子iに対応するリンク先ノード識別子jについて、該ノード識別子jにさらに対応するリンク先ノード識別子kの指標の推定値と、ノード識別子iと指標の推定値との積については正の値をとり、他の場合は0であり、
hは予め定められる値である。
【請求項19】
ネットワークのノードが人に対応し、リンクが人の間の関係に対応した人間関係グラフを用い、該人間関係グラフにおいてリンクで結ばれた隣接する人の間で傾向が逆になる指標について、一部の人の既知の指標値に基づいて他の人の指標値を推定するための人間行動分析方法であって、
処理部が、ノード識別子に対応して、指標値が既知のノード識別子についての既知の指標値と、指標の推定値と、リンク先ノード識別子とが対応して記憶されるノード属性データベースに、既知の指標値が記憶されているノードの少なくとも一部について、該既知の指標値応じた該ノードの指標の推定値を定めるステップと
処理部が、他のノードについてノードの指標の推定値の初期値を定めるステップと、
処理部が、各ノードの指標の推定値と、ノード識別子とリンク先ノード識別子との対応関係で表されるリンク情報とに基づき、各ノードで構成される系のエネルギーをイジングモデルにより求めるステップと、
処理部が、各ノードの指標の推定値を変化させて系のエネルギーを再度計算することを所定回数繰り返し、系のエネルギーがより小さくなるようにするステップと、
処理部が、所定回数繰り返した後の各ノードの指標の推定値又は繰り返し計算過程における各ノードの指標の推定値の統計値を、指標の推定値と決定して前記ノード属性データベースに記憶するステップと
を含む人間行動分析方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−217518(P2012−217518A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83873(P2011−83873)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】