説明

介護用ベッド

【課題】要介護者が容易且つ楽な姿勢で排便を行い、介護者が腸内洗浄作業を容易に行う。
【解決手段】本発明に係る介護用ベッド1は、要介護者Pの臀部を支持する臀受け部6と、前記臀部より上半身部分を支持する上半身受け部7と、前記臀部より下半身部分を支持する下半身受け部8と、を有するマット体2と、マット体2を支持するベッド枠体3と、臀受け部6が下方に収納されることにより形成される開口部に移動可能な便器装置4と、を備え、下半身受け部8は、要介護者Pの大腿部を支持する大腿受け部14を備え、大腿受け部14が上昇することにより前記大腿部を持ち上げるように構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、要介護者のための介護用ベッドに関し、特に、便器を備えた介護用ベッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ベッドに寝た切りの身体障害者や老人等の要介護者の介護を行う際には、看護士等の介護者に多大な労力の負担を掛けている。そこで、近年、この介護者の労力負担を軽減するため、各種介護用ベッドが提案されている。
【0003】
この種の従来の介護用ベッドとしては、例えば、ベッドに寝ている要介護者がスイッチ操作を行うことにより、使用時には要介護者の臀部に対応する位置に開口部が形成され、この開口部に便器が移動されてセットされる一方、不使用時には、その開口部をマットで閉塞させる介護用ベッドが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−212186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の介護用ベッドでは、要介護者が排便時に排便し易い姿勢を取ることができないため、要介護者が容易に排便をすることができないといった問題や、排便時の姿勢がつらいといった問題があった。
【0006】
一方、介護者が要介護者の腸内洗浄を行う際、マットの上に載って無理な姿勢を取らなければならないため、介護者が腸内洗浄作業を行い難いといった問題や、腸内洗浄作業時にマット等を汚すおそれがあるといった問題などもあった。
【0007】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、要介護者が容易且つ楽な姿勢で排便を行うことができると共に、介護者が腸内洗浄作業を容易に行うことができ、腸内洗浄作業時にマット等を汚すおそれのない介護用ベッドを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため、本発明に係る介護用ベッドは、要介護者の臀部を支持する臀受け部と、前記臀部より上半身部分を支持する上半身受け部と、前記臀部より下半身部分を支持する下半身受け部と、を有するマット体と、該マット体を支持するベッド枠体と、前記臀受け部が下方に収納されることにより形成される開口部に移動可能な便器装置と、を備え、前記下半身受け部は、前記要介護者の大腿部を支持する大腿受け部を備え、該大腿受け部が上昇することにより前記大腿部を持ち上げるように構成されていることを特徴とする。
【0009】
そして、本発明に係る介護用ベッドは、前記大腿受け部を上昇させる大腿受け部駆動機構を備え、該大腿受け部駆動機構は、前記大腿受け部を下方から支持するロッドを伸縮させる昇降装置と、該昇降装置の下部を頭部側又は足元側にスライドさせるスライド装置と、を備え、前記大腿部を持ち上げる際、前記昇降装置が前記ロッドを伸長させると共に前記スライド装置が前記昇降装置の下部を足元側にスライドさせることにより、前記大腿受け部を頭部側に傾動させながら上昇させることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る介護用ベッドにおいて、前記大腿受け部は左右に分割可能に設けられ、前記大腿受け部を左右に離間又は近接する方向にスライドさせる左右スライド装置を備え、大腿部を持ち上げる際、前記左右スライド装置が前記各大腿受け部を互いに左右に離間する方向にスライドさせることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明に係る介護用ベッドにおいて、前記臀受け部の左右外側部分は頭部側部分と足元側部分とに分割され、前記大腿受け部が上昇する際に、前記頭部側部分と前記足元側部分との枢結部が上昇し、前記臀受け部の左右外側部分が山折り形状となり、前記大腿受け部との間に隙間が生じることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明に係る介護用ベッドにおいて、前記ベッド枠体の前記臀受け部を支持する部分を下方に巻き取りながら頭部側に移動することにより前記臀受け部を下方に収納する臀受け部収納装置を備えていることを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明に係る介護用ベッドにおいて、前記便器装置は、上方に開口を有する容器と、該容器内に収容されて上方を開閉可能なビニル袋と、前記容器の足元側において昇降可能で上端に吸引口を有する尿吸引器と、を備え、前記要介護者が男性の場合には前記尿吸引器の吸引口を前記容器の上方まで上昇させ、前記要介護者が女性の場合には前記ビニル袋の足元側部分を前記容器の上方まで上昇させることを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明に係る介護用ベッドにおいて、前記容器の上端の頭部側に設けられる頭部側フックと、前記容器の足元側に設けられて前記尿吸引器と共に昇降する足元側フックとに前記ビニル袋の把手を引っ掛けることにより、該ビニル袋が前記容器内に収容されることを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明に係る介護用ベッドにおいて、前記頭部側フックは足元側にスライド可能に設けられていることを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明に係る介護用ベッドにおいて、前記容器の底部には、前記尿吸引器又は前記足元側フックの上昇動作に伴って足元側部分が上昇して傾斜姿勢を成す底板が設けられていることを特徴とする。
【0017】
さらに、本発明に係る介護用ベッドにおいて、要介護者を吊り上げ移動させるための要介護者吊り上げ移動装置を備え、該要介護者吊り上げ移動装置は、前記ベッド枠体に固定される支柱と、支柱に左右側方及び上下に回転可能に支持されるアームと、該アームの先端に取り付けられる吊り上げ具と、該吊り上げ具に着脱自在に取り付けられ該吊り上げ具を介して前記アームに吊り上げられる要介護者保持具とを備えていることを特徴とする。
【0018】
さらに、本発明に係る介護用ベッドにおいて、前記吊り上げ具は、鉛直姿勢で平行に設けられた鉛直フレームと、該各鉛直フレームの上端部と前記アームとの間に掛け渡された吊りロープと、前記各鉛直フレームの間に介装された背板と、前記各鉛直フレームの下端に接続されたスプリングと、を備えていることを特徴とする。
【0019】
さらに、本発明に係る介護用ベッドにおいて、前記要介護者保持具は、要介護者の正面側に配置されるぬいぐるみと、該ぬいぐるみの両肩部分からそれぞれ前後方向に水平に延出して要介護者の脇の下を支持する腕部と、前記スプリングの下端部に連結されて要介護者の大腿部を支持する大腿受け部と、を備えていることを特徴とする。
【0020】
さらに、本発明に係る介護用ベッドにおいて、前記要介護者保持具は、前記ぬいぐるみの左右下端部からそれぞれ後方に水平に延出する脚部を備え、前記大腿受け部は、円筒形状のスポンジ材と、該スポンジ材に挿通されて前記スプリングの下端部に連結されるベルトとを備え、前記各脚部の後端部にはそれぞれ前記ベルトに掛止可能なフック部が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、要介護者が容易且つ楽な姿勢で排便を行うことができると共に、介護者が腸内洗浄作業を容易に行うことができ、腸内洗浄作業時にマット等を汚すおそれのない介護用ベッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る介護用ベッドを示す平面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る介護用ベッドを示す側面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る介護用ベッドにおいて要介護者が排泄をする時の状態を示す平面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る介護用ベッドにおいて要介護者が排泄をする時の状態を示す側面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る介護用ベッドの便器装置を示す平面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る介護用ベッドの便器装置を示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る介護用ベッドの要介護者吊り上げ移動装置を示す背面図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る介護用ベッドの要介護者吊り上げ移動装置を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
【0024】
図1及び図2に示されているように、本発明の実施の形態に係る介護用ベッド1は、マット体2と、マット体2を支持するベッド枠体3と、マット体2の下方に設けられる便器装置4と、ベッド枠体3の頭部側に取り付けられる要介護者吊り上げ移動装置5とを備えて構成されている。
【0025】
マット体2は、介護用ベッド1に横たわった要介護者Pの臀部を支持する臀受け部6と、前記臀部より上半身部分を支持する上半身受け部7と、前記臀部より下半身部分を支持する下半身受け部8と、に分割されている。
【0026】
臀受け部6は、中央部分9と、左右外側部分10,11とに分割され、中央部分9はマット体2の下方に収納可能なように形成されている。さらに、左右外側部分10,11は、それぞれ、頭部側部分10a,11aと、足元側部分10b,11bと、頭部側部分10a,11aと足元側部分10b,11bとの枢結部10c,11cと、に分割されており、各枢結部10c,11cが上昇することにより、頭部側部分10a,11aと足元側部分10b,11bとが傾斜し、左右外側部分10,11が山折り形状となるように形成されている。
【0027】
上半身受け部7は、介護用ベッド1に横たわった要介護者Pの頭部を支持する頭受け部12と、要介護者Pの胴部を支持する胴受け部13と、に分割されて構成されている。そして、頭受け部12は取り外し可能に設けられ、胴受け部13の中央部分13aはその左右両側部分13b,13cより僅かに凹んで形成されている。また、上半身受け部7は、図示しない駆動源及び伝達機構を介して、足元側部分を支点に回動可能に設けられており(図4参照)、この駆動源としては、モータやアクチュエータ等の電動式或いは空圧式等の各種駆動源を使用可能であり、また、伝達機構としては、リンク機構や歯車、ベルト等を使用可能であるが、いずれも従来の公知技術により実現可能であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0028】
下半身受け部8は、介護用ベッド1に横たわった要介護者Pの大腿部を支持する大腿受け部14と、要介護者Pの下腿部を支持する下腿受け部15と、に分割されて構成されている。大腿受け部14は、さらに左右の大腿受け部14a,14bに分割され、左右の大腿受け部14a,14bはお互いに左右に離間又は近接する方向にスライド可能且つ頭部側に傾動しながら上昇可能なように構成されている。また、下腿受け部15は、左右外側部分15a,15bと中央部分15cとに分割され、中央部分15cは取り外し可能に形成されている。
【0029】
ベッド枠体3は、内部に空間16を有するように金属製角パイプを外周に配設することにより形成されている。ベッド枠体3の頭部側にはヘッドボード17が取り付けられ、ベッド枠体3の四隅の下部にはそれぞれ脚部18が高さ調整可能なように取り付けられている。そして、ベッド枠体3の空間16には、頭部側から順に、洗面装置19、臀受け部収納装置20、臀受け部の左右外側部分駆動装置21、及び大腿受け部駆動機構22が配設されている。
【0030】
洗面装置19は、頭受け部12の下方に配置される洗面器23と、洗面器23の下方に配置されるバケツ24とを備えて構成されており、洗面器23の排水管25がバケツ24上で開放されている。そして、洗面器23は、マット体2の頭受け部12を取り外すことにより使用できるようになっている。
【0031】
臀受け部収納装置20は、アクチュエータ等の駆動源により頭部側又は足元側にスライドするスライド装置26と、臀受け部6を支持する部分27を下方に巻き取り可能な巻き取り装置28とを備えて構成されている。
【0032】
左右外側部分駆動装置21は、マット体2の頭部側部分10a,11aと足元側部分10b,11bとの各枢結部10c,11cの下方にそれぞれ設けられ、各枢結部10c,11cを昇降させるアクチュエータ等により構成されている。
【0033】
大腿受け部駆動機構22は、大腿受け部14を下方から支持するロッド29を伸縮させる昇降装置30と、この昇降装置30の下部を頭部側又は足元側にスライドさせるスライド装置31と、を備えて構成されており、昇降装置30がロッド29を伸長させると共にスライド装置31が昇降装置30の下部を足元側にスライドさせることにより、大腿受け部14を頭部側に傾動させながら上昇させることができるようになっている。また、大腿受け部駆動機構22は、各大腿受け部14a,14bを左右に離間又は近接する方向にスライドさせる左右スライド装置(図示省略)をさらに備えている。
【0034】
図5及び図6に示されているように、便器装置4は、上方に開口を有するポリエチレン製でバケツ状の容器33と、舟形状の内容器71を介して容器33内に収容されて上方を開閉可能なビニル袋34と、容器33の足元側において昇降可能で上端に吸引口40を有する尿吸引器35と、尿吸引器35を昇降させる尿吸引器昇降装置36と、を備えて構成されている。そして、便器装置4は、臀受け部6の下方から足元側に平行に延出する2本のレール37に沿ってスライド可能に設けられており、このレール37はベッド枠体3の足元側から外側に引き出し可能となっている(図2〜図4参照)。
【0035】
容器33の上端には、足元側と頭部側の方向にスライド可能なように横架材38が設けられ、この横架材38の上面には左右2か所に頭部側フック39がそれぞれ設けられている。また、容器33の上方には、左右に分割された台座(図示省略)が左右に離間又は近接する方向にスライド可能に設けられており、要介護者Pの排泄時には、この台座により要介護者Pの臀部を支持できるようになっている。
【0036】
尿吸引器35は、蛇腹ホース製で、上端の吸引口40が頭部側に向かって水平姿勢を成すように角パイプ状の支持部材41によって支持されている。そして、尿吸引器35は、この支持部材41に支持された状態で尿吸引器昇降装置36により平行なガイドレール32に沿って容器33の上方に上昇し、尿吸引器35の下端の開口42が容器33内に収容されたビニル袋34上で開放されるようになっている。なお、尿吸引器35の下端の開口42は、別体のバキューム式装置(図示省略)に接続したり、或いは、専用の容器(図示省略)に流すようにしたりしてもよい。
【0037】
また、支持部材41の頭部側には左右2か所に足元側フック43がそれぞれ設けられており、頭部側フック39と足元側フック43とにビニル袋34の把手44を引っ掛けることにより、ビニル袋34が容器33内に収容されるようになっている。ビニル袋34としては、スーパーやコンビニ等で買い物をした時に提供されるビニル袋を使用することができ、ビニル袋34の内部には吸水性の良い使い捨て用便処理材45が設けられている。
【0038】
容器33の底部には底板46が設けられ、この底板46の頭部側端部46aにはローラ47が枢設されており、底板46の足元側端部(図示省略)は支持部材41に枢設されている。これにより、支持部材41に支持された尿吸引器35の上昇動作に伴って、底板46の前記足元側部端部が上昇すると共に頭部側端部46aが足元側に移動することにより、底板46が傾斜姿勢を成すように構成されている。
【0039】
要介護者吊り上げ移動装置5は、鉛直姿勢で下端部がベッド枠体3の頭部側角部に立設される伸縮自在の支柱48と、支柱48の上端部に片持ち支持され、左右側方及び上下に回転可能なアーム49と、アーム49の先端に取り付けられる吊り上げ具50と、図示しない駆動装置の駆動により吊り上げ具50を介してアーム49に吊り上げられる要介護者保持具51とを備えて構成されている。
【0040】
支柱48は、図1及び図3において二点鎖線で示されているように、マット体2から離間する側方にスライド可能に設けられている。
【0041】
吊り上げ具50は、鉛直姿勢で平行に設けられた鉛直フレーム52と、各鉛直フレーム52の上端部とアーム49との間に掛け渡された吊りロープ53と、各鉛直フレーム52の間に介装された背板54と、各鉛直フレーム52の下端に接続されたスプリング55と、を備えて構成されており、背板49の表面はスポンジ等のクッション材(図示省略)により覆われている。
【0042】
要介護者保持具51は、要介護者Pの正面側に配置されるぬいぐるみ56と、ぬいぐるみ56の両肩部分からそれぞれ前後方向に水平に延出して要介護者Pの脇の下を支持する腕部57と、ぬいぐるみ56の左右下端部からそれぞれ後方に水平に延出する脚部58,59と、スプリング55の下端部に連結されて要介護者Pの大腿部を支持する大腿受け部60と、を備えている。
【0043】
ぬいぐるみ56は、パンダ、熊、ゴリラ、さる、豚等の形状を有しており、要介護者Pに正面を向けるように設けられている。
【0044】
腕部57は、前後方向に平行に延出する筒状の左右外フレーム61,62と、左右外フレーム61,62の内部に前後方向にスライド可能に貫挿される平面視コの字状の内フレーム63と、を有し、ぬいぐるみ56の両肩部を支点に鉛直方向(図8の矢印方向)に90度回転可能に設けられている。また、腕部57の内フレーム63は、左右外フレーム61,62との間に介装されたスプリング(図示省略)を介して左右外フレーム61,62に対しての前方に付勢されており、左右後端部にはそれぞれ結合部材64,65が取り付けられ、この結合部材64,65は背板54の左右両端に掛脱自在に設けられている。これにより、内フレーム63の前端部を前記スプリングの付勢力に抗して後方に押圧して左右外フレーム61,62に対して後方にスライドさせると、結合部材64,65が左右外フレーム61,62の後端から突出し、結合部材64,65が背板54の左右両端に掛止することにより腕受け部57が吊り上げ具50に固定されるようになっている。さらに、腕部57は、ダイヤル式の操作部(図示省略)を左右に回転させることにより前フレーム63が左右に伸縮するように形成されており、吊り上げる要介護者Pの肩幅に合わせて左右方向の幅を調整できるようになっている。
【0045】
大腿受け部60は、円筒形状のスポンジ材68と、スポンジ材68に挿通されて両端部にそれぞれ連結具(図示省略)が取り付けられた帯状のベルト70とを備えており、各連結具はスプリング55の下端部に着脱可能となっている。
【0046】
左右の脚部58,59の後端部にはそれぞれフック部66,67が取り付けられており、このフック部66,67はベルト70に掛止可能となっている。
【0047】
このような構成を備えた要介護者保持具51により要介護者を吊り上げて移動させる場合、要介護者Pがぬいぐるみ56に対峙するように要介護者Pの上半身部分をぬいぐるみ56と背板54との間に入れ、要介護者Pの両脇の下に腕部57の左右フレーム61,62をそれぞれ配置すると共に、要介護者Pの臀部の下にスポンジ材68を配置する。そして、この状態で要介護者Pを吊り上げると、要介護者Pは前傾し、ぬいぐるみを抱きかかえた姿勢となり、要介護者Pを所望な位置に安全且つ確実に移動させることができる。また、要介護者Pの吊り上げ時、要介護者Pの正面にぬいぐるみ56が接触し、背面に背板54の表面を覆うクッション材が接触し、臀部にスポンジ材68が接触すると共に、スプリング55により要介護者Pの座高に合わせて要介護者保持具51の高さが調整されるため、要介護者Pに不快感を与えることはない。
【0048】
次に、図面を参照しつつ、上記した構成を備えた介護用ベッド1の動作について説明する。
【0049】
先ず、要介護者Pが排泄する時の介護用ベッド1の動作について説明すると、リモートコントローラ(図示省略)から排泄用の操作釦が選択されることにより、図3及び図4に示されているように、前記駆動源及び伝達機構が足元側部分を支点に上半身受け部7を上方(図4の反時計回り方向)に回転させ、要介護者Pの上半身部分が起こされる。
【0050】
また、大腿受け部駆動機構22の昇降装置30がロッド29を伸長させると共にスライド装置31が昇降装置30の下部を足元側にスライドさせることにより左右の大腿受け部14a,14bがそれぞれ頭部側に傾動しながら上昇する。さらに、前記左右スライド装置が左右の大腿受け部14a,14bをお互いに左右に離間する方向にスライドさせることにより、要介護者Pの大腿部は持ち上げられながら左右に開脚される。
【0051】
また、この時、左右外側部分駆動装置21が頭部側部分10a,11aと足元側部分10b,11bとの各枢結部10c,11cを上昇させることにより、頭部側部分10a,11aと足元側部分10b,11bとが傾斜し、左右外側部分10,11はそれぞれ山折り形状となり、臀受け部6の左右外側部分10,11と上半身受け部7の足元側部分及び左右の大腿受け部14a,14bの頭部側部分との間にそれぞれ隙間が生じる。これにより、上記した上半身受け部7の回転動作及び左右の大腿受け部14a,14bの上昇動作を円滑且つ確実に行わせることができる。
【0052】
さらに、臀受け部収納装置20のスライド装置26が頭部側にスライドしながら巻き取り装置28が臀受け部6を支持する部分27を下方に巻き取ることにより、臀受け部6の中央部分9の下方に開口が形成され、この開口を介して空間16に臀受け部6の中央部分9が垂下される。
【0053】
また、この時、下腿受け部15の中央部分15cを取り外し、便器装置4をレール37に沿って前記開口の下方までスライドさせて所定位置にセットし、尿吸引器昇降装置36により尿吸引器35を容器33の上方に上昇させる。そして、要介護者Pの臀部を便器装置4の台座上に載せ、要介護者Pが男性の場合には尿吸引器35の吸引孔40に男性の性器を挿入させた上で、要介護者Pに排泄姿勢を取らせ、ビニル袋34内に排泄を行わせる。
【0054】
この場合、要介護者Pは左右の大腿受け部14a,14bにより大腿部を持ち上げられているため、無理のない楽な排泄時に力の入り易い姿勢を取ることができる。また、排泄時、要介護者Pが男性の場合には尿が尿吸引器35を通ってビニル袋34内に回収される一方、要介護者Pが女性の場合にはビニル袋34の足元側部分34a(図5参照)によって尿のビニル袋34の外部への飛散が防止されると共に、容器33の底板46が尿吸引器35の上昇動作に伴って傾斜姿勢を成す(図6参照)ことによりビニル袋34に溜まった排泄物を1箇所に簡単に集めることができる。したがって、排泄物の回収作業を容易に行うことができ、介護者の労力の軽減を図ることができる。
【0055】
要介護者Pによる排泄の終了後は、尿吸引器昇降装置36により尿吸引器35を降下させると共に、横架材38を容器33の上端に沿って足元側の方向にスライドさせて、ビニル袋34の上方の開口を閉塞させた上で、便器装置4をレール37に沿ってベッド枠体3の足元側から外側に引き出し、介護者がビニル袋34の把手44を各フック39,43から取り外し、ビニル袋34ごと排泄物を所定の場所に廃棄する。
【0056】
次に、要介護者Pの腸内洗浄を行う時に介護用ベッド1の動作について説明すると、腸内洗浄用の操作釦が選択されることにより、上記した要介護者Pが排泄する場合と同様に、半身受け部7により要介護者Pの上半身部分が起こされると共に、大腿受け部14a,14bにより要介護者Pの大腿部が持ち上げられながら左右に開脚される。
【0057】
また、各枢結部10c,11cの上昇により左右外側部分10,11がそれぞれ山折り形状となり、臀受け部6の左右外側部分10,11と上半身受け部7の足元側部分及び左右の大腿受け部14a,14bの頭部側部分との間にそれぞれ隙間が生じる。
【0058】
さらに、臀受け部収納装置20により臀受け部9の中央部分9が垂下されて形成された空間に、上記した便器装置4の代わりにレール37にセットされた容器33より大容量の容器を備えた便器装置(図示省略)が前記空間までスライドされてセットされる。この状態で、要介護者Pの臀部を前記便器装置の台座上に載せ、下腿受け部15の中央部分15cを取り外すことにより形成された空間に配置した椅子(図示せず)に介護者が着座して姿勢で要介護者Pの腸内洗浄を行う。このように、介護者は、腸内洗浄時、マッ体2の上に載って無理な姿勢を取る必要がなく、腸内洗浄作業を容易に行うことができると共に、腸内洗浄作業時にマット等を汚すおそれもない。
【0059】
介護者による腸内洗浄の終了後、前記便器装置をレール37に沿ってベッド枠体3の足元側から外側に引き出し、介護者がビニル袋をフックから取り外し、所定の場所に廃棄する。
【0060】
なお、上記した本発明の実施の形態の説明は、本発明に係る介護用ベッドにおける好適な実施の形態を説明しているため、技術的に好ましい種々の限定を付している場合もあるが、本発明の技術範囲は、特に本発明を限定する記載がない限り、これらの態様に限定されるものではない。さらに、上記した本発明の実施の形態における構成要素は適宜、既存の構成要素等との置き換えが可能であり、かつ、他の既存の構成要素との組合せを含む様々なバリエーションが可能であり、上記した本発明の実施の形態の記載をもって、特許請求の範囲に記載された発明の内容を限定するものではない。
【符号の説明】
【0061】
1 介護用ベッド
2 マット体
3 ベッド枠体
4 便器装置
5 要介護者吊り上げ移動装置
6 臀受け部
7 上半身受け部
8 下半身受け部
10 左外側部分
11 右外側部分
14 大腿受け部
20 臀受け部収納装置
22 大腿受け部駆動機構
29 ロッド
30 昇降装置
31 スライド装置
33 容器
34 ビニル袋
35 尿吸引器
39 頭部側フック
40 吸引口
43 足元側フック
46 底板
48 支柱
49 アーム
50 吊り上げ具
51 要介護者保持具
52 鉛直フレーム
53 吊りロープ
54 背板
55 スプリング
56 ぬいぐるみ
57 腕部
59 脚部
60 大腿受け部
66,67 フック部
68 スポンジ材
70 ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
要介護者の臀部を支持する臀受け部と、前記臀部より上半身部分を支持する上半身受け部と、前記臀部より下半身部分を支持する下半身受け部と、を有するマット体と、
該マット体を支持するベッド枠体と、
前記臀受け部が下方に収納されることにより形成される開口部に移動可能な便器装置と、
を備え、
前記下半身受け部は、前記要介護者の大腿部を支持する大腿受け部を備え、該大腿受け部が上昇することにより前記大腿部を持ち上げるように構成されていることを特徴とする介護用ベッド。
【請求項2】
前記大腿受け部を上昇させる大腿受け部駆動機構を備え、該大腿受け部駆動機構は、前記大腿受け部を下方から支持するロッドを伸縮させる昇降装置と、該昇降装置の下部を頭部側又は足元側にスライドさせるスライド装置と、を備え、前記大腿部を持ち上げる際、前記昇降装置が前記ロッドを伸長させると共に前記スライド装置が前記昇降装置の下部を足元側にスライドさせることにより、前記大腿受け部を頭部側に傾動させながら上昇させることを特徴とする請求項1に記載の介護用ベッド。
【請求項3】
前記大腿受け部は左右に分割可能に設けられ、前記大腿受け部を左右に離間又は近接する方向にスライドさせる左右スライド装置を備え、大腿部を持ち上げる際、前記左右スライド装置が前記各大腿受け部を互いに左右に離間する方向にスライドさせることを特徴とする請求項1又は2に記載の介護用ベッド。
【請求項4】
前記臀受け部の左右外側部分は頭部側部分と足元側部分とに分割され、前記大腿受け部が上昇する際に、前記頭部側部分と前記足元側部分との枢結部が上昇し、前記臀受け部の左右外側部分が山折り形状となり、前記大腿受け部との間に隙間が生じることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1の請求項に記載の介護用ベッド。
【請求項5】
前記ベッド枠体の前記臀受け部を支持する部分を下方に巻き取りながら頭部側に移動することにより前記臀受け部を下方に収納する臀受け部収納装置を備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1の請求項に記載の介護用ベッド。
【請求項6】
前記便器装置は、上方に開口を有する容器と、該容器内に収容されて上方を開閉可能なビニル袋と、前記容器の足元側において昇降可能で上端に吸引口を有する尿吸引器と、を備え、前記要介護者が男性の場合には前記尿吸引器の吸引口を前記容器の上方まで上昇させ、前記要介護者が女性の場合には前記ビニル袋の足元側部分を前記容器の上方まで上昇させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1の請求項に記載の介護用ベッド。
【請求項7】
前記容器の上端の頭部側に設けられる頭部側フックと、前記容器の足元側に設けられて前記尿吸引器と共に昇降する足元側フックとに前記ビニル袋の把手を引っ掛けることにより、該ビニル袋が前記容器内に収容されることを特徴とする請求項6に記載の介護用ベッド。
【請求項8】
前記頭部側フックは足元側にスライド可能に設けられていることを特徴とする請求項7に記載の介護用ベッド。
【請求項9】
前記容器の底部には、前記尿吸引器又は前記足元側フックの上昇動作に伴って足元側部分が上昇して傾斜姿勢を成す底板が設けられていることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1の請求項に記載の介護用ベッド。
【請求項10】
要介護者を吊り上げ移動させるための要介護者吊り上げ移動装置を備え、該要介護者吊り上げ移動装置は、前記ベッド枠体に固定される支柱と、支柱に左右側方及び上下に回転可能に支持されるアームと、該アームの先端に取り付けられる吊り上げ具と、該吊り上げ具に着脱自在に取り付けられ該吊り上げ具を介して前記アームに吊り上げられる要介護者保持具とを備えていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1の請求項に記載の介護用ベッド。
【請求項11】
前記吊り上げ具は、鉛直姿勢で平行に設けられた鉛直フレームと、該各鉛直フレームの上端部と前記アームとの間に掛け渡された吊りロープと、前記各鉛直フレームの間に介装された背板と、前記各鉛直フレームの下端に接続されたスプリングと、を備えていることを特徴とする請求項10に記載の介護用ベッド。
【請求項12】
前記要介護者保持具は、要介護者の正面側に配置されるぬいぐるみと、該ぬいぐるみの両肩部分からそれぞれ前後方向に水平に延出して要介護者の脇の下を支持する腕部と、前記スプリングの下端部に連結されて要介護者の大腿部を支持する大腿受け部と、を備えていることを特徴とする請求項10又は11に記載の介護用ベッド。
【請求項13】
前記要介護者保持具は、前記ぬいぐるみの左右下端部からそれぞれ後方に水平に延出する脚部を備え、前記大腿受け部は、円筒形状のスポンジ材と、該スポンジ材に挿通されて前記スプリングの下端部に連結されるベルトとを備え、前記各脚部の後端部にはそれぞれ前記ベルトに掛止可能なフック部が設けられていることを特徴とする請求項12に記載の介護用ベッド。


【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−90700(P2012−90700A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239177(P2010−239177)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【特許番号】特許第4698762号(P4698762)
【特許公報発行日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(507034229)
【Fターム(参考)】