説明

仮想顕微鏡スライドデータ構造

【課題】仮想顕微鏡スライドデータ構造を提供すること。
【解決手段】仮想顕微鏡スライドには、所与の光学倍率レベルに対する、データ構造と結合し、かつ、データ構造中に記憶される標本31の画像が含まれている。複数のZ平面画像を有するデータ構造の形成には、主基準焦点面に自動的に焦点を合わせるステップ、光学的に拡大された基準Z画像を捕獲し、かつ、ディジタル化するステップ、および他のZ平面画像を捕獲し、かつ、ディジタル化するために、標本31を所定の増分だけレンズ系15に対してシフトさせるステップが含まれている。ユーザが仮想焦点合せ機能12を利用することができるよう、得られた画像が検索され、かつ表示40される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮想顕微鏡スライドデータ構造に関し、より詳細には、サポート上の標本からの、ガラス顕微鏡スライドなどの仮想スライド全体に渡る、ガラス顕微鏡スライドの両端間の複数の個別の主画像、すなわち基準画像の焦点位置に関連する画像内容であるZ軸画像次元を含んだ仮想顕微鏡スライドを獲得して構成するための仮想顕微鏡スライドデータ構造、および局部または遠隔位置への仮想集束を可能にするための第3者による観察のための、Z軸次元のX、Y平面中に座標化され、かつ継ぎ目のない仮想顕微鏡スライド画像を記憶し、かつ転送するための仮想顕微鏡スライドデータ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、2002年2月22日出願の米国仮出願第60/358,747号の利益を主張するものである。
【0003】
顕微鏡を使用した微小対象物の拡大については良く知られている。顕微鏡により、容易に微小対象物を拡大することができ、それにより微小対象物の細部を観察することができる。顕微鏡は、任意の所与の倍率に対して、対応する視野を有している。一般的には、拡大する量が多くなるほど、対象物に対する対応する視野が狭くなる。
【0004】
図1は、従来の顕微鏡対物レンズ及び対物レンズの焦点面内の対応する被写界深度を示す図である。図1に示すように、顕微鏡対物レンズ10は、任意の所与の焦点距離に対して、被写界深度11(つまり、焦点が合った対象物が現われるZ軸方向の範囲)を有する対応する焦点面を有している。また、一般的には、拡大する量が多くなるほど、対象物に対する対応する被写界深度が小さくなる。これらの顕微鏡視野の単一ディジタル画像の捕獲については良く知られており、その技術の、被写界深度画像内容を記録するための単一対象物位置における画像スタックの捕獲および表示には実績がある。このような画像は、例えば、共焦点顕微鏡検査法機器(confocal microscopy instrument)で使用されており、単一X、Y平面位置における画像スタック中の各画像のZ軸焦点位置を変化させることによって、対象物を通して画像化している。
【0005】
1750年前後の初期の顕微鏡技術における顕微鏡標本は、薄くかつ小型の2枚の円形ガラスプレートの間に置かれ、顕微鏡対物レンズの下側のスロット中で前後に引っ張ることができる細長い象牙の「スライダ」上に取り付けられていた。今日の技術では、スライダは、取付け構造としての長方形ガラス「スライド」に置き換えられ、対象標本は、そのガラススライド上に置かれ、場合によっては、より薄いガラス「カバースリップ」で覆われている。
【0006】
これらのガラススライド取付け構造は、その表面積全体に渡って平らではなく、つまり、40倍乃至100倍の共通顕微鏡対物レンズの被写界深度の許容範囲内にある。ガラススライド取付け構造の一部は他の部分より分厚く、場合によっては、そり(warp)、すなわち曲率(curvature)を有しており、そのために、単一視野画像を獲得する場合と対照的に、仮想顕微鏡スライド(virtual microscope slide)の構成に重大な問題をもたらしている。これは、ほとんどの実例において、対物レンズのZ軸焦点面を標本の断面部分と同じ面に位置付けすることができず、そのために、Z軸次元の標本を何らかの方法で調整しない限り、スライドの表面全体に渡って、すなわち隣接する平面X、Y視野の中で、Z軸次元の「焦点が合わない」ことに起因している。
【0007】
例えば、スライドの一方の端部がもう一方の端部より分厚く、他のすべての要素が同じで、かつ、ステージサポートが平らであると仮定した単純なケースの場合、対物レンズ焦点面内における標本の断面の同じ部分の位置決めに関して、スライドの両端間に傾斜が生成される。この傾斜は、狭い視野の中では明白ではないため、単一視野多重Z次元画像の場合、これは問題ではない。この問題の他の面は、ステージサポートに関連している。
【0008】
市販されているステージは、広く使用されているガラス顕微鏡スライドの全動作距離に渡って平行かつ平らでないことがしばしばであり、また、ミクロトームによる切片化も、一様な厚さの切片をもたらしていないため、標本対象物の断面の厚さが様々な厚さになっている。したがって、多数の要因により、適切な焦点面がスライド上の場所毎に変化している。焦点距離の位置は、顕微鏡の対物レンズによって決まり、また、焦点面の位置を調整するために対物レンズを移動させることができるが、一般的には、ガラススライド構造を保持しているステージプラットホームをZ方向に上下に移動させることによって、所与の標本位置に対する最適焦点面および単一視野すなわち画像タイルを得ている。したがって、当分野で良く知られているように、顕微鏡スライドの平らな表面および顕微鏡スライドに付着された標本に対するZ軸方向の焦点面位置は、所与の標本における正確な焦点に対して、実質的にポイント毎に変化している。
【0009】
また、仮想顕微鏡スライドが知られており、仮想顕微鏡スライドの生成、保管およびインターネットディスプレイまたはイントラネットディスプレイが教示されている(例えば、参照によりその内容が本明細書に組み込まれている特許文献1参照)。特許文献1が教示しているように、仮想顕微鏡スライドは、通常、顕微鏡スライドの一部またはすべてのディジタル化拡大ビュー、および顕微鏡スライド上に配置された対象物(生物学的標本など)からなっている。生成された仮想顕微鏡スライドは、顕微鏡光学視野制限の限界を克服している。つまり、仮想顕微鏡スライドは、スライドの様々な部分からのディジタル画像を記憶するためのデータ構造を有しており、合成画像部分からのX、Y平面ビューの復元を可能にしている。
【0010】
また、観察に関しては、仮想画像(virtual image)において、ユーザによる場所から場所への継ぎ目のない迅速な操作を可能にし、かつ、様々な顕微鏡対物レンズを使用して倍率を変化させつつ仮想画像のズームを可能にするようにインターネットまたはイントラネットビューワソフトウェア(intranet viewer software)を使用することにより、コンピュータ端末ディスプレイスクリーンの有限サイズの限界を克服している。従来技術による仮想スライドは、実際の顕微鏡を通した観察によって得られる観察プロセスおよび検査プロセスを、隣接かつ整列したX、Y平面画像の観察に係るコンピュータ観察を可能にしている。
【0011】
前述の特許文献1に示されているように、ディジタル化される対象物の領域は、単一Z平面焦点距離で捕獲された、隣接する複数の顕微鏡対物レンズ光学視野からなっている。なかには、仮想顕微鏡スライドを表すために、数千の顕微鏡対物レンズ光学視野を記録しているものもある。前述の特許文献1に示されているように、ディジタル化された個々の視野は、タイル(tile)と呼ばれている。選択されるZ平面の対象物位置は、所与のタイルに対して、顕微鏡スライド上のX、Y位置によって変化し、また、前述の特許文献1に示されているように、個々の画像被写界深度に対する自動焦点決定、あるいは画像被写界深度の近傍の予め決定されている焦点位置からの延長による、代表的かつ合理的に最適な焦点位置選択として獲得されている。対象物がディジタル化され、得られた画像が、後続するレビューまたは画像処理のための検索が可能なデータ構造中に記憶されている。
【0012】
顕微鏡対物レンズ光学視野の限界により、仮想顕微鏡スライドタイルの捕獲(capture)は、少なくとも1つの平面内の対象物の微小部分のみに常に限定されている。前述の特許文献1に示されているように、ディジタル捕獲は、3色チップCCDセンサを使用して実施され、このCCDセンサは、タイル内の同一の対象物領域のサンプルピクセルポイントおよび個々のタイルを3つのカラーピクセルとして、互いにレジスタ中に捕獲することができる。
【0013】
また、前述の特許文献1に示されていない、走査法の他の実施形態では、例えば、寸法が3×2098ピクセルのラインセンサが使用され、一定の速度で1つの方向に移動することができ、寸法が3×2098の一連のタイルを取得するようにサンプリングを実行し、コンピュータメモリに記憶してより大きい画像セグメントを形成する。しかしながら、この画像セグメントも、光学視野によって依然として一つの方向に制限されており、その後に、仮想顕微鏡スライドを構成するために、隣接するタイル画像セグメントを獲得している。この場合、ラインセンサに沿った所与の各位置における3つのピクセルが、異なるカラーセンシングを行なうため、若干のカラー損失および空間情報損失が存在している。
【0014】
当分野で知られているように、センササンプリングの他の組合せが達成されているが、隣接する捕獲画像部分を復元することができる真の仮想顕微鏡スライド画像捕獲を構成するためには、上記方法は、顕微鏡対物レンズの高倍率における対象物平面の少なくとも1つの次元内の極めて狭い光学視野の限界を克服しなければならない。通常、これは、ステージまたは顕微鏡対物レンズのいずれかを移動して、対象物領域をカバーし、ディジタル化画像データ構造を構成することによって達成される。
【0015】
また、さらなる観察を容易にするために、ディジタル化画像データ構造を様々な方法で記憶することができることを理解されたい。データ構造を記憶するための方法の1つは、各捕獲事象を極めて大型の連続ディジタルメモリすなわち記憶装置に単純に記憶させることである。この場合、このメモリを単純に索引し、コンピュータスクリーンに、例えば、X×Yピクセルサイズの標準二次元画像を表示することによって連続表示が達成される。しかしながら、この方法の場合、仮想スライドインターネットサーバメモリ要求が極めて大きくなる。前述の特許文献1に記載されているように、タイルデータ構造は、サーバメモリおよびインターネット伝送速度に対して、より有効である。
【0016】
また、前述の特許文献1には、標準コンピュータビデオディスプレイに、全仮想スライドの微小部分のみを元の捕獲解像度、すなわち最大倍率で表示することができることについても示されている。これを克服するために、画像データ構造及び記憶に関する様々な方法が記述されており、典型的には、ビューワプログラムが、高倍率被写界深度および低倍率被写界深度を表示するために拡大および縮小し、ディジタル記憶装置またはインターネットサーバから既に伝送され、かつ、観察されている仮想スライド画像データ部分を保管している。ビューワディスプレイプログラムは、ユーザが要求する画像部分のみを提供するために、索引およびアドレス指定を処理しなければならない。また、仮想顕微鏡スライドを様々な方向にスクロールすることにより、顕微鏡対物レンズに対する対象物/スライドの移動を模擬することができる。このような仮想顕微鏡スライドは、教育、訓練、定量分析および定性分析を始めとする様々な目的に使用することができる。
【0017】
このような仮想顕微鏡スライドは、特に、厚さが比較的一様である標本と、単一被写界深度内に存在する重要なフィーチャ(特徴部分)とを有するアプリケーションに対して良好に機能している。このような仮想顕微鏡スライドは、仮想顕微鏡検査法が抱えている2つの重要な技術的課題のうちの第1の問題を解決している。第1の問題は、隣接する微小画像セグメントを整列させ、それらをX、Y位置決めにおいて継ぎ目なく表示する問題である。顕微鏡は、任意の所与の倍率レベルに対して、このような標本、およびディジタル捕獲され、かつ、後の検索および利用のために記憶されている、対応する単一焦点面画像の焦点を自動的に合わせることができる。
【0018】
しかしながら、標本の深さの変化が大きい場合、および/または重要なフィーチャ(特徴部分)が深さに対してより幅広く間隔を隔てている場合、従来技術による仮想顕微鏡スライドには、1つまたは複数の望ましい要素に対して、焦点が完全に合わない画像が含まれることになる。これは、仮想顕微鏡検査法が抱えている第2の主要な技術的課題である。この課題は、第1の位置における画像を表示するための適切な焦点面を見出すことであり、あるいは、スライド全体に渡ってZ軸次元を持たせることであり、それにより、いずれの場合においても、非平坦顕微鏡ガラススライドのサポートの課題、およびガラススライドの平らなX、Y表面に対する最適焦点面の位置を変化させる組織切片化(sectioning)の課題および堆積不規則性(deposition irregularity)の課題が解決される。この第2の課題に固有の問題と矛盾しないよう、多くの異なる非隣接対象物位置から、仮想スライドデータ構造を統合することなく、非座標化方式でZ平面画像のスタック(stack)を取得することは、その適切な記憶および検索がいずれも困難であり、また、インターネットまたはイントラネット環境中における首尾一貫した方式での観察が困難である。
【0019】
図2は、被写界深度の内部および外部の標本中の対象物の細部を示す、従来技術による顕微鏡スライド上の標本を示す図である。図2において、顕微鏡スライド21は、比較的一様な深さ部分22、すなわちZ軸位置、および/または深さが大きく変化している部分23を有する標本を保持している。ある部分22が被写界深度11内を維持しているのに対して、被写界深度11の上側または下側に拡張した他の部分26及び27は、焦点が外れた状態で、得られる画像中に出現するものと思われる。同様に、被写界深度11内に存在している重要なフィーチャ24は、焦点が合った状態で出現するが、被写界深度の範囲外に存在している重要なフィーチャ25は、焦点が外れた状態で出現することになる。
【0020】
このような仮想顕微鏡スライドが学術的に使用されているかどうかに関係なく、組織微小配列(tissue microarray)を画像化する場合(例えば、特許文献2参照)、あるいは診断を目的としている場合、焦点外れの要素は、所望の活動のためのこのような画像を不適切にしていることがしばしばである。
【0021】
【特許文献1】米国特許第6,272,235号明細書
【特許文献2】米国特許第6,466,690号明細書
【特許文献3】米国特許第6,396,941号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明によれば、顕微鏡標本から仮想顕微鏡スライドを構成し、記憶し、かつ観察するための、被写界深度画像内容を保存するための複数のZ平面画像捕獲ステップを含んだ、新しく、かつ改良された集束可能な仮想顕微鏡装置及びその方法が提供される。また、上述した改良型の方法及び装置には、個々のタイル画像すなわち捕獲画像のデータ構造を、Z平面画像を含み、かつ、選択された最適画像タイルに関連するフォーマットで記憶するステップが含まれており、複数のZ平面内の隣接する領域の完全な復元を可能にし、かつ、遠隔位置にいる第3者による観察のための、インターネット仮想顕微鏡サーバによる、複数のZ平面を有する仮想スライド画像の効果的な転送を可能にしている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上述した改良された方法及び装置の提供は、好ましい実施形態によって達成され、複数のZ軸画像シーケンスが捕獲され、所与のX、Y位置における単一タイルの、自動的に取得され、選択されるZ軸焦点位置によって参照される。このような走査については、前述の特許文献に示されている。所与の基準タイルの上側および下側の複数のZ平面画像が獲得され、データ構造の中で基準タイルと結合される。
【0024】
また、好ましいデータ構造は、所有権を主張できる仮想スライドインターネット/イントラネットブラウザ、および汎用コンポーネントパネルビューイングプログラム、例えばActiveXコンポーネントおよびJava Appletを備えており、所有権を主張できるインターネット/イントラネットブラウザ中であれ、あるいはユーザ独自のアプリケーションプログラム中であれ、もしくは汎用インターネット/イントラネットブラウザ中であれ、これらのすべてが、遠隔ユーザによる仮想スライド画像を観察する際のZ平面画像次元の操作を可能にしている。
【0025】
データ構造は、インターネットまたはイントラネットを介して転送することができるため、ユーザは、Z軸の全深さに渡って仮想スライド標本を観察するために、所与の対象物位置で焦点を上下させることができ、したがって、記録されているZ焦点深度タイル1つだけでは見ることができない対象物の細部に焦点を合わせることができる。
【0026】
本発明による好ましい実施形態では、コンピュータのマウスホイールを前後に移動させることによって、あるいはコンピュータキーボードの上矢印または下矢印を異なるZ平面画像を通して移動させることによって、このような観察が達成されている。また、ビューイングプログラムは、ユーザによるスクロール、隣接するタイルの隣接する画像領域の観察、および関連するZ平面画像の観察を可能にしている。
【0027】
次に、本発明の態様をより詳細に考察すると、画像焦点面に対するZ平面画像の内容の追加の問題が、本発明によるシステムによって解決されている。このシステムには、顕微鏡対物レンズ10の下側の特定の固定距離にガラススライド21を保持し、かつ、サポートする顕微鏡ステージが含まれており、したがって、ガラススライド上の標本は、所与の顕微鏡対物レンズの焦点深度11内に適切な対象物を有している。この顕微鏡ステージは、精密ステッピングモータによってコンピュータ制御され、X、Y平面内およびZ軸次元内を移動している。
【0028】
本発明の好ましい方法によるX、Y平面内の走査は、画像タイルを取得するために、X、Yステッピングモータを使用して、1つの画像視野から他の画像視野へステージを正確に移動させることによって達成されている。X方向またはY方向への各移動に対するステップサイズは、タイルが互いに隣接し、かつ、整列するよう、増分ステップサイズが予め決定されている。ガラススライドは、ステージによって保持され、かつ、堅固にサポートされており、また、標本は、ガラススライド上に堅固に保持されているため、その効果は、ガラススライドを移動させることであり、したがって、新しい標本部分を顕微鏡対物レンズの視野の中にもたらすことにあるが、画像の内容は、対物レンズの所与の焦点深度11によって決まる。視野内ではあっても、焦点深度領域外の標本部分は画像内容には含まれない。
【0029】
また、顕微鏡スライドをサポートしている顕微鏡ステージは、Z軸方向に対しても制御されているため、スライド上の視野内の、Z軸焦点深度領域外の標本部分を、所望のZ軸焦点深度領域に移動させることができる。顕微鏡ステージのZ軸方向の移動は、コンピュータによって、Z軸ステップサイズのディジタル増分で制御されている。ディジタルユニットの各々は、最小可能増分ステップを表している。例えば、一自動顕微鏡システムでは、モータを備えた内部Zドライブを備えたOlympus BX61(Olympus America Inc.2 Corporate Center Drive,Melville,NY 11747,USAが販売している)の1増分は、0.01μmである。セットアップ段階の間に、走査の起動に先立って、自動焦点手順および後続するZスタック画像タイル保管手順のための特定のZ軸ステップサイズパラメータが定義される。
【0030】
任意の所与のタイルに対して、Zスタック保管手順は、所与の基準Z軸位置の上側に4つの画像タイルセット(set of 4 image tiles)を保管し、また、そのZ軸基準位置の下側に4つの画像タイルを保管している。上記セット中の各画像タイルは、Z軸次元内の次の画像タイルから、Z軸ステップサイズパラメータだけ分離されている。新しい視野タイルの各々に対する相対基準位置は、以下に示す反復自動焦点手順によって得られる。
【0031】
次のタイルに移動すると、Z軸焦点位置が、自動焦点ステップサイズで4回増分変化して上昇し、各ステップ毎に画像が取得される。次に、自動焦点ステップサイズで下降し、各ステップ毎に画像が取得される。各画像に対する焦点コントラストパラメータ(focus contrast parameter)が計算される。次に、基準画像および8つの画像タイルセット(set of 8 image tiles)から、焦点パラメータ(focus parameter)の最大値と結合したZ軸位置を選択することによって自動焦点位置(automatic focus position)が決定される。最大値がシーケンスの一方の端部に存在する場合、最大値がタイルのシーケンス(sequence of tile)の中間レンジ内で見出されるまで、帰納的に手順が繰り返され、それにより基準タイル画像が得られる。その時点で、システムは、Z軸ステップサイズを使用する手順へ進行し、Zスタック保管手順(Z stack save procedure)が実行される。これらのZスタック画像平面(Z stack image plane)がタイル画像データ構造に付加され、後の検索および表示の際のアクセスを容易にするために、基準タイルに結合される。仮想顕微鏡スライドの捕獲に関連するすべての視野に対して、一連の同じ事象が反復される。
【0032】
走査のための入力パラメータとして選択されるステップサイズは、主として、組織切片を切片化する厚さ、あるいは血液または細胞塗抹の塗抹厚さによって決定される、顕微鏡システムのZ軸増分分解能、選択される顕微鏡対物レンズ、および標本の要求事項に関連している。例えば、増分Z軸サイズが0.01μm、自動焦点ステップサイズが40ユニットの場合、移動範囲は、上側に1.6μm、下側に1.6μmであり、組織切片中における1シーケンスの総移動範囲は、3.6μmである。この移動範囲は、例えば、広く使用されている5μmの組織切片厚さに匹敵している。Zスタックステップサイズが20の場合も、同様に、事実上、本発明の装置および方法による9つの個別かつ異なる被写界深度焦点面内で調査することができる1.8μmの焦点レンジが得られる。
【0033】
次の相対焦点位置を最初に決定する2つのステップ手順に続いて、全選択Zスタックレンジを記録することにより、ガラススライド基板の非平坦性に起因し、かつ、組織の非一様な切片化および血液中および塗抹標本中に凝集した細胞の付着に起因する不規則性を補償することができることを理解すべきである。また、帰納的アスペクト、自動焦点のための調整可能な異なるZ軸ステップサイズ、およびZスタック捕獲のための調整可能な異なるZ軸ステップサイズを備えたこの好ましい方法は、標本中の基準焦点被写界深度傾斜のロバストな上下追跡を可能にしている。また、この好ましい方法は、事実上、Z軸次元の使用可能な画像内容を増加させる画像情報の有効な記憶を可能にしている。このことは、特に、ガラススライド上に取り付けられたプラント材料、あるいは微小生物および昆虫の全体標本を始めとする分厚い切片など、標本が極めて分厚い場合に云える。仮想スライドインターネットサーバおよびビューワソフトウェアと共に使用する場合、この好ましい方法は、ユーザによる有効な目視検査および追加Z軸画像内容の観察を可能にしている。
【0034】
各図に示す構成要素は、簡潔に分かり易く示したものであり、必ずしもスケール通りに描写されていないことは、当分野の技術者には理解されよう。例えば、各図に示すいくつかの構成要素の寸法は、本発明の様々な実施形態をより良く理解するために、他の構成要素に対して誇張されている。また、いくつかのフィーチャは、数を制限して示され、共通の構成要素は、簡潔かつ分かり易くするために省略されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
図3は、本発明に従って構成された実施形態のブロック図で、仮想スライド全体に渡ってZ軸画像次元を含んだ仮想顕微鏡スライドを得るためのシステムのブロック図を示したものである。このシステムには、ガラス顕微鏡スライド21をサポートするためのディジタル制御ステージプラットホーム28を備えた顕微鏡サブシステム15が含まれている。ディジタルステージプラットホーム28は、極めて多数の増分を介して動作し、ステージを水平方向のXおよびY平面内に高精度で位置付けすることができる。そのステージ28の上に、ガラス顕微鏡スライドまたは他の基板21が配置されている。また、このシステムには、キーボード37、マウスホイールコントロール39を備えたマウス38、およびディスプレイモニタ40を備えた制御コンピュータシステム32が含まれている。制御コンピュータシステムのキーボードおよびマウスは、自動焦点ステップサイズパラメータを入力するための自動焦点ステップサイズセットアップウィンドウ12を介して使用され、また、Zスタックステップサイズパラメータは、Zスタックステップサイズセットアップウィンドウ13を使用して入力される。
【0036】
図3Aは、焦点セットアップステップサイズ55の入力コントロールを示した図である。また、図3Aには、焦点周波数(frequency of focus)56のための関連するセットアップコントロール、特定の視野に対する自動焦点を実行すべきかどうかを制御するための閾値、および顕微鏡ステージ28を垂直方向に増分ユニットで上または下に移動させるために、Z軸次元を手動で増加させるためのコントロール58が示されている。
【0037】
前述の説明および以下の説明から理解されるように、また、当分野で良く知られているように、高倍率かつ小被写界深度での焦点の制御は複雑であり、かつ、多くの変数が必要である。また、仮想顕微鏡スライド画像データセットを構成または捕獲する際に、すべての標本画像視野に対して実行する場合、多大な時間を要することになる。したがって、好ましい実施形態では、また、後述する他の実施形態では、主要な可変性を克服し、かつ、総仮想スライド走査捕獲時間の短縮を可能にするために、制御パラメータおよびセットアップパラメータが追加されている。
【0038】
図3Aは、これらのパラメータのいくつかを示したものである。例えば、焦点周波数(frequency of focus)56のパラメータを1にセットすると、隣接するすべての視野に対して自動焦点を実行することができ、あるいは、焦点周波数56のパラメータを2にセットすると、1つおきの視野に対する自動焦点を実行することができる、等々である。以下の詳細説明においては、焦点周波数は1にセットされているものとする。しかしながら、もっと大きい数字にセットすると、焦点の合っていない視野の基準タイルの値が、焦点の合った直前の画像タイルのデフォルト焦点コントラスト値を取ることになる。
【0039】
本発明による他の実施形態では、場合によっては、上述した実施形態による方法とは異なる方法で基準タイル位置を得ている。すべての視野に焦点を合わせないことにより、走査速度に対する大きな利点が得られるが、多くの標本に対して、そのような走査によって得られる被写界深度位置が、基準画像に対して最適ではないという欠点がある。また、複数のZスタック画像のうちの1つが、より最適な画像を画像の最終遠隔観察者に提供することになることについても理解されよう。また、例えば、視野が実質的にブランクすなわち空白である場合、自動焦点を得るための十分な画像構造が視野中に存在していないことがしばしばであり、その場合は、コントロール57が、このような被写界深度の省略を可能にするためにチェックすることができる焦点コントラスト閾値入力パラメータを可能にしている。また、この場合、焦点合わせの要求される次の画像のためのデフォルト基準Z軸位置は、焦点が合った直前の画像タイルである。
【0040】
図3Bは、Zスタックステップサイズ60の入力コントロールを示した図である。このパラメータを個々の標本に対して変更する必要のある多数の要因が存在していることが理解されよう。しかしながら、標本の種類および標本の推定厚さが相俟って、各々のレンズが異なる被写界深度仕様を有しているため、これらの要因の中で最も重要な要因は、通常、使用している特定の顕微鏡対物レンズの倍率である。また、図3Bには、特定の仮想顕微鏡データの捕獲走査(capture scan)に対してZスタック画像の保管をイネーブルあるいはディスエーブルするためのチェックボックスコントロール59が示されている。
【0041】
前述の特許文献によれば、精密ステージ28を新しい対物レンズ10の視野に移動させるためのステージコントローラ14を使用してコンピュータ制御顕微鏡を移動させることにより、標本対象物31全体の走査が開始され、その位置における初期画像が取得され、その画像の焦点コントラストパラメータが計算される。本発明によれば、反復自動焦点手順によって、第1の新しい視野画像タイルのための相対Z軸基準位置が取得される。制御コンピュータシステム32によって、顕微鏡サブシステム15にZ軸制御信号が送信され、それによりZ軸位置コントロールが変化して、ステージが自動焦点ステップサイズで4回増分上昇移動し、続いて、自動焦点ステップサイズで4回下降する。Z軸位置が増分変化する毎に画像収集エレクトロニクス17が制御され、画像が取得される。取得した画像の各々に対して焦点コントラストパラメータが計算される。
【0042】
次に、焦点パラメータの最大値と結合したZ軸位置を選択することにより、初期基準画像および8つの画像のセットから自動焦点Z軸位置が決定される。最大値がシーケンスの一方の端部、つまり、基準画像から4回目に下降した時点の画像あるいは4回目に上昇した時点の画像に存在する場合、その画像が基準画像になり、最大焦点コントラスト値が、両末端画像ではなく、画像シーケンスの中間レンジ内で見出されるまで、帰納的に手順が繰り返され、それにより、新しい視野画像に対する相対Z軸基準位置が得られる。以下でより詳細に説明するが、次に、この相対Z軸位置と結合した画像タイルが、仮想スライドデータ構造中に記憶される。
【0043】
本発明による好ましい実施形態では、制御コンピュータシステムは、ウィンドウズオペレーティングシステム(Microsoft Corporation,Redmond,Washington,USA)の下で動作している。図3Aを参照すると、仮想顕微鏡スライドデータ構造は、ウィンドウズオペレーティングシステムファイルフォルダとして記憶されており、各タイル画像は、制御コンピュータシステムソフトウェアプログラムによって自動的に割り当てられる増分画像名称を有する .jpg画像ファイルである。 .jpg画像名称には番号が振られており、したがって、最初に取得された画像は、DA0.jpgと呼ばれ、第2の画像はDA1.jpg、第3の画像はDA3、等々と呼ばれている。
【0044】
図3Cは、仮想スライドデータフォルダ42を、データ構造部分43、44、45、46および47と共に示した図である。DA98の名称が付された9つの画像タイル43、45および46のセットは、特定のX、Y標本画像平面位置と結合し、DA99の名称が付された、隣接するセット44および48は、隣接する他の特定のX、Y標本画像平面位置と結合している。2つの基準タイルが、2つのX、Y位置におけるデータ構造用として、43および44で示されている。これらのタイルは、自動焦点決定されたZ軸位置にあり、また、記憶された .jpg画像には、そのZ軸位置およびそれぞれのX、Y位置における視野と結合した構造を有する被写界深度画像が含まれている。
【0045】
仮想顕微鏡スライドを生成するために、システムプログラムが動作している間、制御コンピュータシステムは、さらに、ウィンドウズオペレーティングシステムフォーマット .iniの追加テキスト情報ファイルを生成している。図3Cに示すように、このファイル47には、FinalScan.iniの名称が付されている。とりわけこのファイルには、仮想顕微鏡データ構造中の基準タイルの各々に対応する名称のリストが含まれている。リスト中の各基準タイルに対して、そのタイルのX、YおよびZディジタル位置が一覧表に作成されている。前述の特許文献に示されているように、次に、遠隔観察者による連続した仮想スライド画像領域の観察を可能にするために、様々なタイル画像を隣接させ、かつ、復元するために、仮想インターネットサーバおよび仮想顕微鏡ビジュアルディスプレイプログラムによってこの情報が使用される。
【0046】
図3Cの実施例に示されているデータ構造の成分は、基準画像および全Zスタック成分への迅速な順次アクセスを可能にするデータベースまたは他の任意の形態に記憶することができることは理解されよう。このデータ構造の新規な態様は、これらの画像成分の閉結合(close association)であり、遠隔インターネット観察におけるクライアントサーバの対話を著しく容易にしている。
【0047】
以下の説明から理解されるように、この種のデータ構造は、クライアントコンピュータへのZ軸画像内容の迅速な伝送を容易にしている。インターネットサーバコンピュータの中には、異なるレベルの画像ズームが、元の画像から予め構成され、かつ、同時にメモリまたは仮想メモリ中に保管されるピラミッドデータ構造を使用することによって、拡大を必要とする極めて大型の画像の提供を容易にしているものもあるが、そのためには、例えば、図9に概念的に示すような画像構造の複数の平面を維持する要求事項を考慮した場合、極めて大量のメモリが必要である。本発明によるデータ構造は、本質的に、これらの小型基準画像ユニットおよびZスタック画像ユニット中のメモリまたはディジタルディスク記憶装置から基準画像およびZスタック画像を迅速に提供するように事前に構成されているため、とりわけ専用ビューイングプログラムを備えた仮想顕微鏡スライド用に使用する場合、本発明によるデータ構造は、はるかに有効である。
【0048】
所与のX、Y標本平面位置におけるZ軸位置のための関連した画像タイルが捕獲されると、本発明によるシステムは、Z軸ステップサイズを使用する手順に進行し、Zスタック保管手順が実行される。そのために、制御コンピュータシステム32を指示し、最初にZ軸をZ軸ステップサイズの増分で下に向かって移動し、各ステップで画像タイルを取得するように顕微鏡サブシステム15のZ軸位置決めコントロール16を制御する。これらの画像タイル45は、図3のデータ構造セットDA98の実施例に示すデータ構造中に記憶される。次に、制御コンピュータシステム32を指示し、Z軸をZ軸ステップサイズの増分で基準Z軸位置から上に向かって移動し、各ステップで画像タイルを取得するように顕微鏡サブシステム15のZ軸位置決めコントロール16を制御する。これらの画像タイル46は、図3のデータ構造セットDa98の実施例に示すデータ構造中に記憶される。
【0049】
タイルセットDa98のデータ構造、例えば、図3に示すデータ構造セットDa99等々を捕獲するために、上で説明した事象と同じ一連の事象が、仮想顕微鏡スライドの捕獲に関連するすべての視野に対して繰り返される。
【0050】
上述した本発明によるシステムの好ましい実施形態により、事実上、先ず、捕獲画像タイルに対して、スライドのX、Y表面上の最適焦点位置におけるZ軸の不規則性の要因が除去すなわち無効化され、次に、各平面が標本中の異なる被写界深度位置に関連する、凝集性のあるZ軸次元化された捕獲画像平面が生成される。第1のZ軸位置は、平行位置決め捕獲をもたらし、すなわち各標本の最適被写界深度位置をもたらし、また、Zスタック捕獲により、その最適被写界深度位置の上側および下側の画像平面が得られる。この画像シーケンスサンプリングは、データ構造エレメント47に記憶されているX、Y位置情報と共に使用する場合、データ構造記憶エレメント43、44、44、45、46および48から復元することができる。図4の断面図および図9の略斜視図は、得られた完全な仮想顕微鏡スライドデータ構造を視覚化する補助として、この復元を理想化して示したものである。
【0051】
以下で説明するように、一般的に使用されているコンピュータスクリーンの画像表示に限界があるため、実際に遠隔観察者が同時に見ることができるのは、完全な仮想顕微鏡スライドデータ構造の微小部分にすぎないが、スクロールし、かつ、仮想顕微鏡スライドサーバに追加画像タイルを要求することによって、すべての仮想顕微鏡スライドデータ構造を利用することができる。
【0052】
本発明による実施形態についての上述の好ましい説明を他の方法で改変し、Z軸画像情報を有する仮想顕微鏡スライドを生成することができることは、この技術に習熟した人達には理解されよう。この点に関して、本発明を実践する代替方法について説明する。
【0053】
この代替方法は、広い領域をカバーしていない標本対象物、あるいはステージプラットホーム28および顕微鏡スライド21が、合理的に平らな平面内に標本31を提供するように位置付けされた実例、もしくは、より深い被写界深度を有する、より集光力の小さい対物レンズが使用されている実例に、より良好に適用することができる。所与の倍率レベル(例えば10倍)に対して、関連するビデオカメラを備えた顕微鏡対物レンズ10が上下に調整され、あるいは好ましい実施形態の場合と同様に、ステージが上下に調整される。いずれの調整においても、目に見えるようにするために、初期基準画像が顕微鏡対物レンズ10の焦点面被写界深度内にもたらされ、標本平面内の所与のX、Y位置における標本31の拡大画像を生成するために使用される。
【0054】
好ましい実施形態の中で説明したように、基準タイルセットとして第1のシリーズの平面隣接画像タイルが取得され、かつ、既に説明した、図3Cの実施例における基準タイル43および44の例で示すデータ構造中に記憶される。この実施形態における基準タイルのZ軸位置は、既知のZ軸値を有する3つのX、Yポイントを使用することによってZ軸平面に適合させる計算によって、標本上の3つの個別位置におけるZ軸位置が決定され、かつ、数学的Z軸平面が標本のX、Y平面全体に渡って決定されるセットアップ手順の結果を使用して計算される。この場合、走査プロセスの間、反復帰納自動焦点手順の代わりにこの計算位置が使用され、それにより、走査プロセスおよび画像捕獲プロセスがより高速化される。
【0055】
図4は、この平面内における完全なタイルセットの捕獲を、被写界深度41の断面で視覚化した図である。この走査により、標本31の上部表面のほとんどの画像が捕獲される。この実施形態によれば、次に、ステージZ軸位置が1つのZスタック増分に従って変更され、もう1つの画像シリーズが捕獲され、図3Cに示すデータ構造中に記憶される。例えば、第1の画像シリーズが、参照番号43によって表される被写界深度に対応する焦点距離を使用した場合、ステージZ軸位置を顕微鏡対物レンズに近づけることにより、次の画像シリーズは、参照番号46aによって表されることになる。逆に、ステージZ軸位置を顕微鏡対物レンズから遠ざけることにより、次の画像シリーズは、参照番号45aによって表されることになる。同様に、対物レンズの被写界深度領域内に異なるZ軸平面を位置付けすることにより、次の画像シリーズが捕獲される。
【0056】
図4に示す実施形態では、捕獲した原始画像シリーズ43以外に、参照番号46aおよび46bで表される2つの他のシリーズ、および参照番号45aおよび45bで表される2つの追加シリーズが捕獲されている。標本の異なる領域からこれらの追加画像を捕獲し、かつ、記憶することにより、以下でより詳細に説明するように、仮想焦点合せ機能が実現される。また、この走査方法を、3×2098センサとして上で説明した三重ピクセル(triple pixel)タイプのラインセンサにより適したものにすることができる。
【0057】
このラインセンサは、単一ラインセンサと呼ばれることもある。この場合、微小離散個別タイルを利用することができないため、計算によって、あるいは完璧に平らで、かつ、平行なX、Y平面を単純に仮定することによって基準平面を予測することが好ましい。この種の走査により、より長い帯状タイルの画像が、顕微鏡対物レンズ10の視野内の1つの方向に、2098ピクセル幅で保管されるが、保管される画像は、他の方向の連続走査および記憶により、視野を越えて拡張する。まとめて取得された、隣接する2098ピクセル幅の帯状タイルにより、仮想顕微鏡スライドが形成される。
【0058】
同じく図4に示すように、初期基準設定値に対して、上側および下側にそれぞれ2つの焦点被写界深度が存在している。所与のアプリケーションにおいては、上下にわずかに異なる焦点被写界深度(すなわち焦点面)を1つだけ使用して、単一の追加画像セットのみを提供することが適切であるが、ほとんどの目的に対しては、複数の異なる焦点面で捕獲した画像が適切である。好ましい実施形態では、原始基準焦点面以外に、上下にいずれも4つの焦点面が使用され、合計9セットの焦点面画像が提供されている。焦点面画像の各セットは、基準設定値からの所与の焦点距離に対応し、すべてのセットが同じ倍率レベルを共有している。この多くのセットを基準焦点面の上下に提供することにより、有効焦点合せレンジ内において、実際の顕微鏡による焦点合せの見掛けおよび感覚を良好に模擬した、比較的滑らかで、かつ、細かい仮想焦点合せが実現される。
【0059】
以上に説明したように、様々な被写界深度が実質的に互いに隣接している。他の実施形態では、図5に示すように、所与の画像シリーズに対する所与の被写界深度51が、異なる画像シリーズに対する他の被写界深度52と部分的にオーバラップしている。あるいは必要に応じて、図6に示すように、異なる画像シリーズに対応する異なる被写界深度61と62の間に微小ギャップを介在させることにより、2つの被写界深度が互いにオーバラップせず、また、隣接もしない被写界深度にすることもできる。一般的には、焦点距離は、被写界深度がほとんど、あるいは全くオーバラップしないよう、互いに実質的に隣接するように調整され、それが恐らくは最適構成であると思われるが、場合によっては、ユーザの要求に応じた他の代替構成も有用である。
【0060】
図7を参照すると、顕微鏡が第1の位置10Aに設置された場合、視野内に存在する標本(図示せず)の特定の切片を画像化する際に、対応する被写界深度41Aを有する初期焦点面71(初期決定されているか、あるいは予め手動または自動的に決定されている)が適切に使用されている。つまり、顕微鏡がこのように位置付けされると、ユーザがいかなる標準を適用しようとも、この初期焦点距離71は最適焦点を表している。上述の様々な実施形態によれば、1つまたは複数の追加画像が、この同じ視野で、若干異なる焦点距離で取得される。しかし、スライドの他の部分では、顕微鏡が第2の位置10Bに位置付けされると、既に適用されている標準と同じ標準を使用する場合、異なる初期焦点面72が最適焦点になる。この異なる初期焦点距離72は、スライド21からの距離が異なる位置に位置付けされた第1の位置における初期焦点距離71に対する被写界深度41Aと実質的に同じサイズの対応する被写界深度41Bを有することになる。
【0061】
これは、例えば特許文献2に記載されているように、組織微小配列(TMA;(tissue microarray))コアを画像化する場合にしばしば生じる。画像は、本質的にガラス顕微鏡スライドの表面全体に配列された極めて多数の異なる対象物、すなわちTMAコアから捕獲される。したがって、得られる画像は同じく対象物の隣接合成表現からなっているが、それらの画像には、異なる基準画像焦点面が参照されている。また、この実施形態によれば、対象物毎の初期焦点基準焦点面の間に存在する差に無関係に、得られる各画像は、ユーザによる微細な焦点合せに利用することができる同じ数のZスタック焦点面を有している。
【0062】
上述したように、好ましい実施形態の場合のように多数の微小タイルから生成されたものであれ、あるいは帯状線分に生成されたものであれ、また、タイルデータ構造中に記憶されるものであれ、あるいは図9に示す5つの焦点面のセット91のうちの1つの焦点面などの大型復元画像の1つとしてメモリに記憶されるものであれ、遠隔観察者のコンピュータディスプレイスクリーンのサイズおよびピクセル寸法が有限であるため、仮想顕微鏡スライドは、一般的にはそれらの全体を初期捕獲解像度で観察することができない。
【0063】
図8に示すように、この点に関して有用な従来技術による手法の1つは、タイルと呼ばれる複数の個別画像83を利用して、スライド81および標本82のより大きい合成画像を形成している。仮想顕微鏡スライドのインターネットディスプレイまたはイントラネットディスプレイについては既に示されている(例えば、この参照によりその内容が本明細書に組み込まれる特許文献3参照)。特許文献3に示されているように、仮想顕微鏡スライドは、通常、顕微鏡スライドおよび顕微鏡スライド上に配置された対象物(生物学的標本など)の一部またはすべてのディジタル化された拡大視野(digitized magnified view)からなっている。
【0064】
また、前述の特許文献3には、様々なインターネットサーバおよび若干のクライアント、および遠隔観察者のための仮想顕微鏡画像内容の復元を可能にする他のJava AppletおよびActiveXビューワ方式についても教示されている。単一焦点面被写界深度の観察は、画像がタイル化データベース構造として、あるいは完全な単一画像平面としてコンピュータコアメモリに記憶されているかどうかにかかわらず達成されることについては理解されよう。
【0065】
しかし、本発明による好ましい実施形態では、遠隔観察者が重要な定義済み領域に対する基準画像タイル焦点をサーバに要求した場合、サーバによって、その重要な領域に対するすべての関連Zスタック画像が逐次送信される。関連するZスタック画像は、ローカルコンピュータによって保管され、それにより、滑らかで、かつ、迅速な局所観察による、実際の顕微鏡のアナログ光学焦点合せ操作をシミュレートすることができる。
【0066】
次に、図10を参照すると、実施形態では、ユーザは、標準計算プラットホーム(standard computing platform)を使用して、仮想スライドサーバおよび所与の標本に対する、上述した仮想顕微鏡スライド情報を保持しているデータ記憶装置(data strage facility)とインタフェースすることができる。標準クライアント/サーバモデルは、このような関係を容易にするように良好に機能しているが、他のデータ転送機構を所与のアプリケーションに適切に使用することも可能である。関連するプロセスは、ユーザプラットホームが、所望の画像を特定の倍率X(例えば、40倍)で検索101することによって開始される。
【0067】
前述の特許文献3に記載されているように、対象物のすべての画像を直ちに検索し、局所利用を可能にする必要はない。ネットワークトランザクションを最小にするために、実際に直ちに検索し、かつ、表示する必要があるのは、単一視野の表示に必要なデータのみである。本発明によるシステムおよび方法、および上述した様々な実施形態では、視野の各々が、対応する複数の画像を有しており、各画像はそれぞれ異なる焦点面を表している。したがって、第1の画像を検索し、表示する場合、最初にこれらの画像のうちの1つを選択しなければならない。
【0068】
好ましい実施形態では、この選択により、遠隔観察者の画像ディスプレイスクリーンのビューウィンドウを満たすタイルに対応する基準画像セットが選択される。また、各基準タイルに対する関連Zスタック画像がローカルコンピュータに転送され、保管される。自動的に決定される初期最適焦点面画像が、4つの異なる焦点面画像によって両側に配置される一実施形態では、初期検索101および表示102に対して、初期画像自体が自動的に選択される。プロセスは、次に、ユーザからの焦点修正命令をモニタ103している。ユーザからの焦点修正命令が出現しない場合、プロセスは、どのようなものであるにせよ、サポートされている他の機能に従って継続104する(例えば、特定の方向への画像のスクロール要求を示すユーザからの入力を受け取り、対応する画像の検索および表示に使用することができる)。しかし、焦点修正命令を受け取ると、プロセスは、その命令に対応する視野に対する画像をローカルメモリキャッシュから検索105し、検索した画像を表示106する。
【0069】
実施形態によれば、各増分によってZ軸次元における次の隣接画像が検索され、表示されるよう、段階的プロセスにおける、ユーザによるマウスホイール93またはキーボード37の上矢印キーまたは下矢印キーを使用した焦点の移動が制限されている。好ましい実施形態では、ユーザすなわち遠隔観察者は、ホイールマウスコントロールを使用して移動させ、仮想顕微鏡スライドに焦点を合わせることができ、基本的には、物理的な顕微鏡およびスライドを使用した場合と同様に移動させ、かつ、焦点を合わせることができる。この機能により、広範囲に渡る様々な標本を容易に観察し、良好な結果を得ることができる。得られる仮想顕微鏡スライドは、教育および訓練に使用することができるばかりでなく、様々な診断プロセスをサポートするために、定性分析および定量分析にも使用することができる。
【0070】
図11を参照すると、一任意選択実施形態によれば、ユーザが、上で説明した焦点の修正103を要求した場合、プロセスは、焦点合せの限界に達したかどうかを判定111することができる。例えば、ユーザプラットホームが、基準タイルから最も遠いZ軸次元における焦点面を使用して捕獲された画像を既に検索、表示済みであり、かつ、ユーザが、さらに遠くの距離への焦点合せをプラットホームに命令している場合、現行の表示を維持112することができる。任意選択で、テキストメッセージまたは他のインディケータをユーザに提供113し、焦点限界に到達したことをユーザに知らせることができる。他の実施形態では、現在の焦点位置が焦点合せ可能な範囲内であることを示す視覚インディケータをユーザに提供し、それによりユーザは、そのような状態であることをユーザ自ら確認することができる。
【0071】
上述した実施形態に関して、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、広範囲に渡る様々な改変、変更、および組合せを加えることができること、および、それらの改変、変更、および組合せが、本発明の概念の範囲内であると見なすべきであることは、当分野の技術者には認識されよう。特許請求の範囲の各請求項には、本発明の真の精神および範囲に帰属するこれらのすべての変更および改変が包含されているものとする。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】従来の顕微鏡対物レンズ及び対物レンズの焦点面内の対応する被写界深度を示す図である。
【図2】被写界深度の内部及び外部の標本中の対象物の細部を示す、従来の顕微鏡スライド上の標本を示す図である。
【図3】本発明による実施形態のブロック図である。
【図3A】自動焦点セットアップステップサイズパラメータの入力を可能にするウィンドウを示す図である。
【図3B】Zスタックセットアップステップサイズパラメータの入力を可能にするウィンドウを示す図である。
【図3C】基準データ構造画像タイル、Z軸次元焦点データ構造画像タイル、および所与の仮想スライドのための .iniデータファイル間の対応を示す、データ構造部分を有する仮想スライドフォルダの実施例を示す図である。
【図4】本発明による実施形態の顕微鏡スライド上の標本の側面図である。
【図5】本発明による実施形態における重畳被写界深度を示す図である。
【図6】本発明による実施形態における非重畳被写界深度を示す図である。
【図7】本発明による他の実施形態の側面図である。
【図8】合成仮想顕微鏡スライドの平面図である。
【図9】本発明による仮想顕微鏡スライドの記号モデルの斜視図である。
【図10】本発明の実施形態に従って構成される流れ図である。
【図11】本発明の他の実施形態に従って構成される詳細な流れ図である。
【符号の説明】
【0073】
10 顕微鏡対物レンズ
11 被写界深度
12 自動焦点ステップサイズセットアップウィンドウ
13 Zスタックステップサイズセットアップウィンドウ
14 ステージコントローラ
15 顕微鏡サブシステム
16 Z軸位置決めコントロール
17 画像収集エレクトロニクス
21 顕微鏡スライド
22 深さ部分
23 変化している部分
24,25 フィーチャ
26,27 他の部分
28 ディジタル制御ステージプラットホーム
32 制御コンピュータシステム
31 標本
35 ローカルコンピュータ記憶装置
37 キーボード
38 マウス
39 マウスホイールコントロール
40 ディスプレイモニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡レンズに関して標本を動かし、かつ前記標本全体からの、隣接して重なり合わない視野画像を捕獲することによって生成され、顕微鏡スライド上に設けられた前記標本の第1及び第2の仮想顕微鏡スライド画像集合と、
前記第1の画像集合が、複数の画像を有し、各々の画像が、主焦点面からもたらされる前記標本のx,y平面位置と関連しており、
前記第2の画像集合が、複数の画像を有し、各々の画像が、前記第1の仮想顕微鏡スライド画像集合に関して一つ又はそれ以上の異なる焦点面からもたらされる前記標本のx,y平面位置と関連しており、
前記主焦点面と該主焦点面に関して一つ又はそれ以上の異なる焦点面において前記標本の少なくともの一つの部分を検索及び見るために、前記第1及び第2の仮想顕微鏡スライド画像集合のx,y平面位置の座標を与える情報を得るように構成されている
ことを特徴とする仮想顕微鏡スライドデータ構造。
【請求項2】
インターネット伝送チャンネル又は汎用インターネットブラウザを用いるイントラネット伝送チャンネルで見ることのできることを特徴とする請求項1に記載の仮想顕微鏡スライドデータ構造。
【請求項3】
前記主焦点面が、基準画像平面で、前記第2の画像集合が、前記基準画像平面の上側または下側に間隔を隔てて位置付けされた異なる焦点面に焦点合わせされていることを特徴とする請求項1に記載の仮想顕微鏡スライドデータ構造。
【請求項4】
前記第1及び第2の画像集合が、単一の仮想顕微鏡スライドを示す一つ又はそれ以上のタイル化されたデータ構造に記憶されることを特徴とする請求項1に記載の仮想顕微鏡スライドデータ構造。
【請求項5】
記憶され、ディジタル化された画像タイル又はストリップが、所与の重要領域の異なる倍率レベルの画像間のズームを可能にするために、前記所与の重要領域に対して近接した前記主焦点面において異なる倍率レベルを示していることを特徴とする請求項4に記載の仮想顕微鏡スライドデータ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−104163(P2009−104163A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328808(P2008−328808)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【分割の表示】特願2003−571983(P2003−571983)の分割
【原出願日】平成15年2月24日(2003.2.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.JAVA
【出願人】(503222477)バクス ラボラトリーズ インコーポレイテッド (7)
【Fターム(参考)】