説明

任意に水素化されたニトリルゴムから鉄残渣、ロジウム−およびルテニウム含有触媒残渣を除去する方法

【課題】任意に水素化されたニトリルゴムから鉄残渣、ロジウム−およびルテニウム含有触媒残渣を除去する方法を提供する。
【解決手段】鉄残渣、ロジウムおよび/またはルテニウム含有触媒残渣を、このような鉄残渣、ロジウムおよび/またはルテニウム含有残渣を含む任意に水素化されたニトリルゴムの溶液から除去する方法であって、このような溶液を特定の官能化されたイオン交換樹脂と接触させることによる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意に水素化されたニトリルゴムから鉄残渣、ロジウム−およびルテニウム含有触媒残渣を除去するための方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーの水素化は、例えば、(特許文献1)、(特許文献2)、(特許文献3)、および(特許文献4)に開示されているように、周知の操作である。ところが、これに続くポリマーからの水素化触媒の分離については必ずしも詳細に記載されているわけではなく、あるいは記載すらされていない。
【0003】
より具体的には、特定のロジウム含有触媒は、ニトリルゴムの選択的水素化(すなわち、ニトリルゴム中に存在する炭素−窒素三重結合を同時に還元することなく炭素−炭素二重結合を還元すること)に特に好適であることが知られている。このような水素化ニトリルゴムは、不飽和ニトリルゴムと比較すると、熱によって誘発される劣化が起きにくい。
【0004】
例えば(特許文献5)には、不飽和ニトリルゴムを選択的に水素化する方法においてヒドリドロジウムテトラキス(トリフェニルホスフィン)触媒すなわちHRh(PPhを使用することが教示されている。まず不飽和ニトリルゴムを好適な溶媒中に溶解させることによって粘性のあるゴム溶液を得る。次いで、このゴム溶液に触媒を溶解させる。この水素化方法は、基質および触媒が同一相に含まれていることから均一系であると考えられる。得られたHNBRを析出させ、イソプロパノールで単純な洗浄を行う。水素化触媒の除去については、これ以上のことは開示されていない。
【0005】
(特許文献6)には、不飽和ニトリルゴムを水素化する同様の方法においてクロロロジウムトリス(トリフェニルホスフィン)(RhCl(PPh)を触媒として使用することが開示されている。水素化生成物は、水蒸気で処理するかまたはメタノール中に注ぐことによって反応溶液から分離された後、高温減圧下に乾燥される。ここでもやはり、水素化触媒がどのように除去され得るのかという教示はなされていない。
【0006】
さらに、特定のルテニウム含有触媒は、ニトリルゴムの選択的メタセシスまたは水素化のいずれかに特に好適であることが知られている。ニトリルゴムの均一系水素化にルテニウム含有触媒を利用する方法は、例えば(特許文献7)および(特許文献8)に開示されているように周知である。
【0007】
(特許文献7)においては、アンモニアおよびC1〜20第1級アミンから選択されるNH含有化合物の存在下にニトリルゴムを水素化することが開示されている。(特許文献8)には、ニトリルゴムを水素化するためのロジウム−ルテニウム二金属錯体触媒を使用することが教示されている。しかしながら、水素化ニトリルゴムから触媒残渣をそれぞれどのように除去するかについては一切教示されていない。
【0008】
上述の均一系水素化法の利点は、水素化の実施に必要な触媒が最小量となることにある。しかしながら、このような方法の主な欠点は、一旦反応が完結した後に反応混合物から触媒を除去することが困難なことにある。これと比較すると、不均一法、すなわち触媒が反応媒体中に溶解していない場合は、触媒が濾過または遠心分離によって容易に除去されるであろう。
【0009】
さらには、主として非粘性の化学プロセス流体(chemical process stream)である反応混合物から特定の触媒を回収するためにイオン交換樹脂を使用することが先行技術より周知である。
【0010】
(特許文献9)においては、ジチオエート基を含む特定のイオン交換樹脂が開示されており、これは、第VIII族金属の回収に好適であると説明されており、また、ロジウム含有触媒を化学プロセス流体から除去するのに有効であると主張されている。しかしながら、このような樹脂が実際に使用され得る反応混合物の種類については教示も提案もなされていない。
【0011】
イオン交換樹脂を用いてロジウム錯体を非粘性の化学プロセス流体から回収することも周知である。例えば(特許文献10)には、未精製のオキソ反応混合物をCOおよび水素の存在下に塩基性イオン交換体で処理することによって、(低分子量)オキソ反応混合物からロジウムカルボニル触媒を分離することが記載されている。(非特許文献1)には、水素化、ヒドロホルミル化、およびヒドロカルボキシル化に触媒として使用された第VIII族貴金属錯体を回収するために、チオール基で官能化された樹脂を使用することが教示されている。上記触媒残渣を含む有機溶液がイオン交換樹脂で処理される。(非特許文献2)には、(i)廃セラミック触媒担体から貴金属を抽出することにより貴金属含有水溶液を調製し、(ii)次いでこの貴金属をイオン交換樹脂に吸着させるという2段階法が記載されている。最後に、(非特許文献3)は、HClおよびHNOを用いて使用済み触媒から金属を抽出した後、続いてイオン交換塔を用いて金属を吸着させることによって白金およびロジウムを同時に回収することに関連するものである。
【0012】
(特許文献11)には、官能化されたイオン交換樹脂を、水素化ニトリルゴム、ロジウム含有触媒残渣、および炭化水素溶媒を含む炭化水素相と接触させることによってロジウム含有触媒残渣を水素化ニトリルゴムから除去する方法が開示されている。このような方法によって、10ppm未満のロジウム(ロジウム重量/溶液重量基準)を含む粘性溶液からロジウムを除去することができると言われている。使用されるイオン交換樹脂は、好ましくは平均粒径が比較的大きく、0.2〜2.5mmである。
【0013】
(特許文献12)においては、ロジウム系触媒の存在下にニトリルゴムを水素化することによって得られた水素化ニトリルゴムの溶液から鉄およびロジウム含有残渣を除去することが開示されている。任意の金属容器もしくは管において最小限の腐食もしくは劣化が起こり得ることまたはニトリルゴムの重合に鉄含有化合物が活性剤として使用され得るという事実により、鉄含有残渣が存在する場合がある。(特許文献12)の方法は、チオ尿素基を有する特定の単分散性マクロポーラス型架橋スチレン−ジビニルベンゼン共重合体樹脂を利用するものである。イオン交換樹脂が単分散性であるということが、この方法を上首尾に実施することに重要である。
【0014】
ポリマーのメタセシスもよく文書に記載されている操作であり、例えば、(特許文献13)、(特許文献14)、および(特許文献15)に開示されているが、やはり、メタセシス生成物からの触媒残渣の分離については今のところ徹底的に研究されていない。特定のルテニウム含有触媒は、ニトリルゴムの選択的メタセシス、すなわち、ニトリルゴム中に存在する炭素−窒素三重結合を同時に還元することなく炭素−炭素二重結合を開裂させることに特に好適であることが知られている。
【0015】
例えば、(特許文献14)には、分子量が低減されたニトリルゴムを得る方法において、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリドを使用することが教示されている。同様に、(特許文献15)においても、ニトリルゴムのメタセシスに、1,2−ビス−((2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)−ルテニウム(フェニルメチレン)ジクロリドを、たとえコオレフィンの非存在下であっても使用することが教示されている。このいずれの方法においても、まず最初にニトリルゴムを好適な溶媒に溶解することによって粘性ゴム溶液が得られる。必要に応じて反応溶液にコオレフィンが添加される。次いで、触媒がゴム溶液に溶解されてメタセシスが実施される。これらの2つの米国特許出願には、反応混合物から触媒残渣を除去することに関する開示は含まれていない。
【0016】
(特許文献16)には、反応混合物から金属錯体を除去する方法が開示されており、このような方法は、反応後に所望の生成物からルテニウムまたはオスミウムメタセシス触媒を分離するのに特に操作しやすいと言われている。上記分離方法においては、溶解促進化合物(好ましくは、ホスフィンまたはその誘導体)を含む第2の不混和な溶液が元の反応混合物に添加される。金属触媒は、一旦、溶解促進化合物と反応した後は、反応混合物から出て第2溶液中に移行する。次いで、この溶液が、反応溶液から除去される。(特許文献16)においては、Cu、Mg、Ru、およびOs等の金属を除去することが教示されているが、ここには添加剤の添加が含まれており、これは、もし完全に除去されなかった場合は、任意の次の反応ステップ、例えばそれに続く水素化反応に使用される水素化触媒を阻害する可能性がある。第2に、2種の不混和な溶液を分離することは小規模では比較的容易であるが、商業規模または大規模になると極めて複雑な工程になる。
【0017】
(特許文献17)には、反応混合物をナノ濾過膜と接触させることによって反応混合物からメタセシス触媒を分離することが開示されている。反応混合物には、メタセシス触媒に加えて、さらに1種またはそれ以上の未変換の反応体オレフィン、任意に溶媒、および1種またはそれ以上のオレフィン生成物が含まれている。ナノ濾過膜としては、好ましくは、オレフィン反応生成物の実質的な部分、未変換の反応体オレフィン、および任意に溶媒を含む濾液と、メタセシス触媒および任意にメタセシス触媒劣化生成物を含む濾過残渣とが回収されるようにポリイミドナノ濾過膜が使用される。(特許文献17)の方法は、ルテニウム系、モリブデン系、タングステン系、レニウム系、またはこれらの混合物系、好ましくはルテニウム系の均一系メタセシス触媒に適用可能であるとみなされている。(特許文献17)には、このような膜技術をロジウム種の除去にも利用する可能性に関する見解については述べられていない。したがって、上記ニトリルゴムがそれに続くステップで水素化される状況下においては、おそらく2度の別々の金属触媒回収工程が必要となり、その結果として相当なコスト増が生じたり、能力が不足する結果(negative capacity results)になる。
【0018】
(非特許文献4)には、グラブス(Grubbs)触媒を用いたオレフィンメタセシス反応中に生成する望ましくない濃色のルテニウム副生成物を除去するための方法が記載されている。閉環メタセシスによって得られたジアリルマロン酸ジエチル等の未精製の反応生成物は、トリフェニルホスフィンオキシドまたはジメチルスルホキシドで処理され、次いで、シリカゲルで濾過される。こうすることにより着色したルテニウム系の副生成物を除去することが可能になり、この除去が完全でない場合は蒸留時の二重結合の異性化や反応生成物の分解等の複雑化を招くことが知られているので、このことは重要である。しかしながら、(特許文献16)と同様に、ジメチルスルホキシド等の添加剤の使用および導入を後段で水素化される予定のニトリルゴムの溶液に適用すると、これが使用後に完全に除去されない場合は不利になる可能性がある。したがって、このような方法をニトリルゴム溶液に転用するのは実用的な代替策ではない。さらに、商業的方法という観点では、必要となるシリカゲル濾過工程が巨額なコストを招くであろう。
【0019】
(非特許文献5)においては、Ru触媒グラブスIの存在下における閉環メタセシスによって得られるジアリルマロン酸ジエチルを含む反応混合物に水溶性トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィンを添加することが開示されている。未精製の反応混合物をトリス(ヒドロキシメチル)ホスフィンおよびトリエチルアミンの塩化メチレン溶液に添加すると5分以内に溶液が黒/褐色から淡黄色に変化したことが観察されており、これは、トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィンがルテニウムに配位したことを示している。水を加えると、黄色が水相に移動し、無色の塩化メチレン相が残った。NMRによる調査から、所望の生成物はすべて塩化メチレン相に維持されており、ホスフィンはすべて水相に移動したことが示された。代替的実施形態においては、ルテニウム触媒副生成物を含むジアリルマロン酸ジエチル溶液を、過剰のシリカゲルを同時に存在させて、トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィンおよびトリエチルアミンの塩化メチレン中溶液と一緒に撹拌した。トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィンはシリカゲル上にグラフトされることが周知であるため、こうすることにより最良の結果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第4,396,761号明細書
【特許文献2】米国特許第4,510,293号明細書
【特許文献3】米国特許第5,258,467号明細書
【特許文献4】米国特許第4,595,749号明細書
【特許文献5】米国特許第4,464,515号明細書
【特許文献6】英国特許第1,558,491(A)号明細書
【特許文献7】米国特許第5,075,388号明細書
【特許文献8】米国特許第6,084,033号明細書
【特許文献9】米国特許第5,118,716号明細書
【特許文献10】独国特許出願公開1954315号明細書
【特許文献11】米国特許第4,985,540号明細書
【特許文献12】米国特許第6,646,059(B2)号明細書
【特許文献13】米国特許出願公開第2003/0027958(A1)号明細書
【特許文献14】米国特許出願公開第2003/0088035(A1)号明細書
【特許文献15】米国特許出願公開第2004/0132891(A1)号明細書
【特許文献16】米国特許第6,376,690号明細書
【特許文献17】国際公開第2006/047105(A)号パンフレット
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Chemical Abstracts、第85巻、5888k(1976年)
【非特許文献2】Chemical Abstracts、第87巻、26590p(1977年)
【非特許文献3】Chemical Abstracts、第95巻、10502r(1981年)
【非特許文献4】Organic Letters、2001年、第3巻、第9号、pp.1411〜1413
【非特許文献5】Tetrahedron Letters、第40巻、(1999年)、pp.4137〜4140
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
上述の先行技術の方法があるものの、様々な金属残渣、特に貴金属を含む触媒残渣を、任意に水素化されたニトリルゴム、特にこのような任意に水素化されたニトリルゴムの粘性溶液から同時に除去することが可能な方法に関する改善の余地が残されている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、鉄残渣ならびに/またはロジウムおよび/もしくはルテニウム含有触媒残渣を任意に水素化されたニトリルゴムから除去する方法であって、鉄残渣ならびに/またはロジウムおよび/もしくはルテニウム含有触媒残渣を含む任意に水素化されたニトリルゴムの溶液を、(i)マクロレティキュラーであり、(ii)第1級アミン、第2級アミン、チオール、カルボジチオエート、チオ尿素、およびジチオカルバメート基から選択される少なくとも1種の官能基で修飾されており、かつ(iii)平均粒度が乾燥物基準で最小0.05mm〜0.20mm未満である、官能化されたイオン交換樹脂と接触させることを含む、方法に関する。さらに本発明は、鉄および/またはロジウムおよび/またはルテニウム含有量が低い、任意に水素化されたニトリルゴムを包含する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の方法は、鉄残渣ならびに/またはロジウムおよび/もしくはルテニウム含有触媒残渣を含む、任意に水素化されたニトリルゴムの溶液から出発する。
【0025】
任意に水素化されたニトリルゴムの溶液は、使用される任意に水素化されたニトリルゴムを基準として、ルテニウムが5〜1000ppm、好ましくは5〜500ppm、特に5〜250ppmの範囲となる量のルテニウム含有触媒残渣を含んでいてもよい。
【0026】
これに替えて、またはこれに加えて、任意に水素化されたニトリルゴム溶液は、使用される任意に水素化されたニトリルゴムを基準として、ロジウムが5〜200ppm、好ましくは10〜100ppm、特に20〜100ppmの範囲となる量のロジウム含有触媒残渣を含んでいてもよい。
【0027】
これに替えて、またはこれに加えて、任意に水素化されたニトリルゴムの溶液は、使用される任意に水素化されたニトリルゴムを基準として、鉄が2〜500ppm、好ましくは5〜250ppm、特に10〜100ppmの範囲となる量の鉄残渣を含んでいてもよい。鉄残渣は、重合容器または管内において起こる最小限の腐食により(特に、水素化されたニトリルゴムの場合において、水素化が塩化物含有触媒、特にウィルキンソン(Wilkinson’s)触媒(Cl−Rh[P(C)を使用して実施され、したがって水素化中にHClが副生成物として形成された場合)、任意に水素化されたニトリルゴムの溶液中に生じる場合がある。あるいは、鉄含有化合物がニトリルゴムの重合における活性化剤として使用され得ることから、鉄残渣が生じる場合がある。
【0028】
本発明に従う方法に付される任意に水素化されたニトリルゴムの溶液は、任意に水素化されたニトリルゴムを、0.5〜20%b.w.、好ましくは3〜12%b.w.含んでいてもよい。したがって、このような溶液は粘性を有している。
【0029】
任意に水素化されたニトリルゴムは、溶媒(典型的には有機溶媒)、好ましくはジクロロメタン、ベンゼン、モノクロロベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、およびシクロヘキサン中に溶解される。
【0030】
任意に水素化されたニトリルゴムの溶液を得る方法は、鉄残渣ならびに/またはロジウムおよび/もしくはルテニウム含有触媒残渣を含んでいる限りは、決定的に重要ではない。関連する先行技術より様々な方法が周知である。
【0031】
典型的には、任意に水素化されたニトリルゴムのこの種の溶液は、(i)ニトリルゴムのメタセシスによって、および/または(ii)ニトリルゴム中に存在する炭素−炭素二重結合の水素化によって得たものであってもよい。
【0032】
一実施形態においては、ニトリルゴムを特にルテニウム含有触媒の存在下においてメタセシスすることによって得ることができるニトリルゴムの溶液が、本発明による方法に付される。
【0033】
他の実施形態においては、(i)ニトリルゴムを特にルテニウム含有触媒の存在下においてメタセシスし、そして(ii)これに続いて、ニトリルゴム中に存在する炭素−炭素二重結合の水素化を特にロジウムまたはルテニウム含有触媒を用いることによって実施することにより得られる入手可能な水素化されたニトリルゴムの溶液が、本発明による方法に付される。
【0034】
第3の実施形態においては、ニトリルゴムの炭素−炭素二重結合の水素化を特にロジウムまたはルテニウム含有触媒の存在下に実施することによって得られる水素化ニトリルゴムの溶液が、本発明の方法に付される。
【0035】
第4の実施形態においては、それぞれのモノマーを重合することによって得られるニトリルゴムの溶液が、本発明による方法に付される。
【0036】
本明細書における「ルテニウム含有触媒残渣」および「ロジウム含有触媒残渣」という用語は、それぞれ、任意のルテニウム(ロジウム)含有触媒だけでなく、その任意の分解生成物(ルテニウム(ロジウム)イオンを含む)を包含するものとする。
【0037】
本明細書における「鉄残渣」という用語は、任意の鉄含有化合物だけでなく、その任意の分解生成物(鉄イオンを含む)を包含するものとする。
【0038】
ニトリルゴム(短縮して「NBR」とも称される)は、少なくとも1種の共役ジエン、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、および任意に1種またはそれ以上のさらなる共重合可能なモノマーの繰り返し単位を含む共重合体または三元共重合体である。
【0039】
共役ジエンはどのような性質のものであってもよい。好ましくは、(C〜C)共役ジエンが使用される。1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、ピペリレン、またはこれらの混合物が特に好ましい。1,3−ブタジエンおよびイソプレンまたはこれらの混合物が特に非常に好ましい。その中でも1,3−ブタジエンが特に好ましい。
【0040】
α,β−不飽和ニトリルとしては、任意の周知のα,β−不飽和ニトリル、好ましくは、(C〜C)α,β−不飽和ニトリル(アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、またはこれらの混合物等)を使用することが可能である。アクリロニトリルが特に好ましい。
【0041】
したがって、特に好ましいニトリルゴムは、アクリロニトリルおよび1,3−ブタジエンの共重合体である。
【0042】
共役ジエンおよびα,β−不飽和ニトリルとは別に、当業者に周知の1種またはそれ以上のさらなる共重合可能なモノマー、例えば、α,β−不飽和モノカルボン酸またはジカルボン酸、これらのエステルまたはアミドを使用することが可能である。
【0043】
α,β−不飽和モノカルボン酸またはジカルボン酸としては、フマル酸、マレイン酸、アクリル酸、およびメタクリル酸が好ましい。
【0044】
α,β−不飽和カルボン酸のエステルとしては、これらのアルキルエステルおよびアルコキシアルキルエステルを使用することが好ましい。特に好ましいα,β−不飽和カルボン酸のアルキルエステルは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、およびアクリル酸オクチルである。特に好ましいα,β−不飽和カルボン酸のアルコキシアルキルエステルは、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、および(メタ)アクリル酸メトキシエチルである。アルキルエステル(例えば、上述したもの)とアルコキシアルキルエステル(例えば、上述した形態のもの)との混合物を使用することも可能である。
【0045】
NBRポリマー中に使用される共役ジエンとα,β−不飽和ニトリルとの比率は広い範囲内で変化させることができる。共役ジエンまたはその合計の比率は、通常、ポリマー全体を基準として40〜90重量%の範囲にあり、好ましくは50〜85重量%の範囲にあり、より好ましくは50〜82重量%、最も好ましくは50〜75重量%である。α,β−不飽和ニトリルまたはその合計の比率は、通常、ポリマー全体を基準として、10〜60重量%、好ましくは15〜50重量%、より好ましくは18〜50重量%、最も好ましくは25〜50重量%である。各場合におけるモノマーの比率の合計は100重量%である。さらなるモノマーを存在させることもできる。その場合、これらは、ポリマー全体を基準として、0超〜40重量%まで、好ましくは0.1〜40重量%、特に好ましくは1〜30重量%の量で存在する。この場合、各場合においてモノマー全体の比率の合計が100重量%となるように、共役ジエンおよび/またはα,β−不飽和ニトリルの対応する比率をさらなるモノマーの比率で置き換える。
【0046】
上述のモノマーを重合させることによるニトリルゴムの調製自体は当業者が十分に周知しており、ポリマーの文献に包括的に記載されている。典型的には、このようなニトリルゴムは、ラジカル乳化重合によって調製される。ニトリルゴムは、例えば、ランクセス・ドイチュラント・ゲーエムベーハー(Lanxess Deutschland GmbH)からペルブナン(Perbunan)(登録商標)およびクライナック(Krynac)(登録商標)の商品名の製品範囲の製品としても市販されている。
【0047】
重合後に得られるニトリルゴムは、典型的には、ムーニー粘度(ML(1+4)、100℃)が、5〜70、好ましくは30〜50の範囲にある。これは、重量平均分子量Mwが50000〜500000の範囲、好ましくは200000〜400000の範囲にあることに相当する。さらにこのニトリルゴムは、多分散度PDI=Mw/Mn(Mwは重量平均分子量であり、Mnは数平均分子量である)が1.7〜6.0、好ましくは2.0〜3.0の範囲にある。ムーニー粘度の測定は、ASTM標準D 1646に従い実施される。
【0048】
このようなニトリルゴムを、本発明による方法に直接付すか、または次いでメタセシスに付すか、またはメタセシスに付した後に水素化を行うかのいずれかを行ってもよい。
【0049】
ステップ(i)におけるメタセシス反応の後に得られるニトリルゴムのムーニー粘度(ML(1+4)、100℃)は、典型的には2〜30の範囲、好ましくは5〜20の範囲にある。これは、重量平均分子量Mwが10000〜200000の範囲、好ましくは10000〜150000の範囲にあることに対応する。また、得られたニトリルゴムの多分散度PDI=Mw/Mn(Mnは数平均分子量である)は1.5〜4.0の範囲、好ましくは1.7〜3.0の範囲にある。
【0050】
ニトリルゴムのメタセシスは有機溶媒中で実施されることが多いので、分解されたニトリルゴムは、この種の有機溶媒中の溶液として得られる。典型的な溶媒は、使用されるメタセシス触媒を失活させないだけでなく、反応にいかなる他の形の悪影響も与えないものである。好ましい溶媒としては、これらに限定されるものではないが、ジクロロメタン、ベンゼン、モノクロロベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、およびシクロヘキサンが挙げられる。ハロゲン化溶媒が好ましく、特に好ましい溶媒はモノクロロベンゼンである。しかしながら、メタセシスは有機溶媒の非存在下に実施してもよい。このような場合は、分解されたニトリルゴムが得られたら、次いでこれを適切な溶媒、例えば、上述したもののいずれかに分散させる。
【0051】
このようなメタセシス反応は当該技術分野において周知であり、例えば、国際公開第02/100905(A)号パンフレットおよび国際公開02/100941(A)号パンフレットに開示されている。このようなメタセシスに典型的に使用され得る触媒に関する広範囲にわたる概説は、出願番号07114656の欧州特許出願(未公開)に見ることができる。
【0052】
このようなメタセシス反応は当該技術分野において周知であり、例えば、国際公開第02/100905(A)号パンフレットおよび国際公開第02/100941(A)号パンフレットに開示されている。このようなメタセシスに典型的に使用され得るルテニウム含有触媒に関する広範囲にわたる概説は、出願番号07114656の欧州特許出願(未公開)において見ることができる。
【0053】
好適なメタセシス触媒は、一般式(A)、
【化1】

(式中、
Mは、ルテニウムであり、
R基は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、アルキル、好ましくはC〜C30アルキル、シクロアルキル、好ましくはC〜C20シクロアルキル、アルケニル、好ましくはC〜C20アルケニル、アルキニル、好ましくはC〜C20アルキニル、アリール、好ましくはC〜C24アリール、カルボキシレート、好ましくはC〜C20カルボキシレート、アルコキシ、好ましくはC〜C20アルコキシ、アルケニルオキシ、好ましくはC〜C20アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、好ましくはC〜C20アルキニルオキシ、アリールオキシ、好ましくはC〜C24アリールオキシ、アルコキシカルボニル、好ましくはC〜C20アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、好ましくはC〜C30アルキルアミノ、アルキルチオ、好ましくはC〜C30アルキルチオ、アリールチオ、好ましくはC〜C24アリールチオ、アルキルスルホニル、好ましくはC〜C20アルキルスルホニル、またはアルキルスルフィニル、好ましくはC〜C20アルキルスルフィニル基であり、それぞれ、任意に、1種またはそれ以上のアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール、またはヘテロアリール基で置換されていてもよく、
およびXは、同一であっても異なっていてもよい、2個の配位子、好ましくはアニオン性配位子であり、
Lは、同一または異なる配位子、好ましくは無電荷の電子供与体を表す)の化合物である。
【0054】
一般式(A)の触媒において、XおよびXは、同一であっても異なっていてもよい2個の配位子、好ましくはアニオン性配位子である。
【0055】
およびXは、例えば、水素、ハロゲン、擬ハロゲン、直鎖もしくは分岐のC〜C30アルキル、C〜C24アリール、C〜C20アルコキシ、C〜C24アリールオキシ、C〜C20アルキルジケトナート、C〜C24アリールジケトナート、C〜C20カルボキシレート、C〜C20アルキルスルホネート、C〜C24アリールスルホネート、C〜C20アルキルチオール、C〜C24アリールチオール、C〜C20アルキルスルホニル、またはC〜C20アルキルスルフィニル基であってもよい。上述の基XおよびXは、1種またはそれ以上のさらなる基、例えば、ハロゲン、好ましくはフッ素、C〜C10アルキル、C〜C10アルコキシ、またはC〜C24アリールで置換されていてもよく、これらの基は、今度は、ハロゲン、好ましくはフッ素、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、およびフェニルからなる群から選択される1種またはそれ以上の置換基で置換されていてもよい。好ましい実施形態においては、XおよびXは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、ハロゲン、特にフッ素、塩素、臭素、またはヨウ素、ベンゾエート、C〜Cカルボキシレート、C〜Cアルキル、フェノキシ、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルキルチオール、C〜C24アリールチオール、C〜C24アリール、またはC〜Cアルキルスルホネートである。特に好ましい実施形態においては、XおよびXは同一であり、それぞれ、ハロゲン、特に塩素、CFCOO、CHCOO、CFHCOO、(CHCO、(CF(CH)CO、(CF)(CHCO、PhO(フェノキシ)、MeO(メトキシ)、EtO(エトキシ)、トシレート(p−CH−C−SO)、メシレート(2,4,6−トリメチルフェニル)、またはCFSO(トリフルオロメタンスルホネート)である。
【0056】
一般式(A)において、Lは、同一または異なる配位子、好ましくは無電荷の電子供与体を表す。
【0057】
この2個の配位子Lは、例えば、それぞれ互いに独立に、ホスフィン、スルホン化ホスフィン、ホスフェート、ホスフィナイト、ホスホナイト、アルシン、スチビン、エーテル、アミン、アミド、スルホキシド、カルボキシル、ニトロシル、ピリジン、チオエーテル、またはイミダゾリジン(「Im」)配位子であってもよい。好ましくは、2個の配位子Lは、それぞれ互いに独立に、C〜C24アリールホスフィン、C〜Cアルキルホスフィン、もしくはC〜C20シクロアルキルホスフィン配位子、スルホン化C〜C24アリールホスフィンもしくはC〜C10アルキルホスフィン配位子、C〜C24アリールホスフィナイトもしくはC〜C10アルキルホスフィナイト配位子、C〜C24アリールホスホナイトもしくはC〜C10アルキルホスホナイト配位子、C〜C24アリールホスファイトもしくはC〜C10アルキルホスファイト配位子、C〜C24アリールアルシンもしくはC〜C10アルキルアルシン配位子、C〜C24アリールアミンもしくはC〜C10アルキルアミン配位子、ピリジン配位子、C〜C24アリールスルホキシドもしくはC〜C10アルキルスルホキシド配位子、C〜C24アリールエーテルもしくはC〜C10アルキルエーテル配位子、またはC〜C24アリールアミドもしくはC〜C10アルキルアミド配位子であり、これらはそれぞれ、フェニル基で置換されていてもよく、このフェニル基は、今度は、ハロゲン、C〜Cアルキル基、またはC〜Cアルコキシ基で置換されていてもよい。
【0058】
配位子Lに関する「ホスフィン」という用語の意味には、例えば、PPh、P(p−Tol)、P(o−Tol)、PPh(CH、P(CF、P(p−FC、P(p−CF、P(C−SONa)、P(CH−SONa)、P(iso−Pr)、P(CHCH(CHCH))、P(シクロペンチル)、P(シクロヘキシル)、P(ネオペンチル)、およびP(ネオフェニル)が含まれる。
【0059】
ホスフィナイトとしては、例えば、トリフェニルホスフィナイト、トリシクロヘキシルホスフィナイト、トリイソプロピルホスフィナイト、およびメチルジフェニルホスフィナイトが挙げられる。
【0060】
ホスファイトとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト、トリ−tert−ブチルホスファイト、トリイソプロピルホスファイト、およびメチルジフェニルホスフェートが挙げられる。
【0061】
スチビンとしては、例えば、トリフェニルスチビン、トリシクロヘキシルスチビン、およびトリメチルスチベン(trimethylstibene)が挙げられる。
【0062】
スルホネートとしては、例えば、トリフルオロメタンスルホネート、トシレート、およびメシレートが挙げられる。
【0063】
スルホキシドとしては、例えば、CHS(=O)CHおよび(CSOが挙げられる。
【0064】
チオエーテルとしては、例えば、CHSCH、CSCH、CHOCHCHSCH、およびテトラヒドロチオフェンが挙げられる。
【0065】
イミダゾリジン基(Im)は、通常は、一般式(Ia)または(Ib)、
【化2】

(式中、
、R、R10、R11は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素、直鎖もしくは分岐のC〜C30アルキル、C〜C20シクロアルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C24アリール、C〜C20カルボキシレート、C〜C20アルコキシ、C〜C20アルケニルオキシ、C〜C20アルキニルオキシ、C〜C20アリールオキシ、C〜C20アルコキシカルボニル、C〜C20アルキルチオ、C〜C20アリールチオ、C〜C20アルキルスルホニル、C〜C20アルキルスルホネート、C〜C20アリールスルホネート、またはC〜C20アルキルスルフィニルである)の構造を有する。
【0066】
所望により、R、R、R10、R11の基のうちの1種またはそれ以上は、互いに独立に、1種またはそれ以上の置換基、好ましくは直鎖もしくは分岐のC〜C10アルキル、C〜Cシクロアルキル、C〜C10アルコキシ、またはC〜C24アリールで置換されていてもよく、この上述の置換基は、今度は、好ましくは、ハロゲン、特に塩素または臭素、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、およびフェニルからなる群から選択される1種またはそれ以上の基で置換されていてもよい。
【0067】
特に、RおよびRが、それぞれ互いに独立に、水素、C〜C24アリール(特に好ましくはフェニル)、直鎖もしくは分岐のC〜C10アルキル(特に好ましくはプロピルまたはブチル)であるかまたはこれらが結合している炭素原子を含めてシクロアルキルもしくはアリール基を一緒に形成し、上述の基がいずれも、今度は、直鎖または分岐のC〜C10アルキル、C〜C10アルコキシ、C〜C24アリール、ならびにヒドロキシ、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボキシル、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート基、およびハロゲンからなる群から選択される官能基からなる群から選択される1種またはそれ以上のさらなる基で置換されていてもよい、一般式(A)の触媒を使用してもよい。
【0068】
一実施形態においては、R10およびR11基が、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、直鎖または分岐のC〜C10アルキル(特に好ましくはi−プロピルまたはネオペンチル)、C〜C10シクロアルキル(好ましくはアダマンチル)、C〜C24アリール(特に好ましくはフェニル)、C〜C10アルキルスルホネート(特に好ましくはメタンスルホネート)、C〜C10アリールスルホネート(特に好ましくはp−トルエンスルホネート)である一般式(A)の触媒が使用される。上述した種類のR10およびR11基は、直鎖または分岐のC〜Cアルキル(特にメチル)、C〜Cアルコキシ、アリール、ならびにヒドロキシ、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボキシル、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート、およびハロゲンからなる群から選択される官能基からなる群から選択される1種またはそれ以上のさらなる基で任意に置換されていてもよい。特に、R10およびR11基は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、i−プロピル、ネオペンチル、アダマンチル、またはメシチルである。
【0069】
ここで明瞭化のみを目的として確認しておくが、イミダゾリジン(「Im」)基の構造に関し本明細書において一般式(Ia)および(Ib)で表される構造は、この種のイミダゾリジン基に関し関連文献にしばしば示されたり使用されている、イミダゾリジン基のカルベン様構造を強調する以下の構造(Ia’)および(Ib’)、
【化3】

として表される構造と同義であるものとする。
【0070】
基本的には、様々な式(A)の代表的な触媒が、例えば、国際公開96/04289(A)号パンフレットおよび国際公開97/06185(A)号パンフレットより周知である。
【0071】
特に好ましくは、一般式(A)の配位子Lは、両方とも同一または異なるトリアルキルホスフィン配位子であり、そのアルキル基の少なくとも1つは、第2級アルキル基またはシクロアルキル基、好ましくはイソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、ネオペンチル、シクロペンチル、またはシクロヘキシルである。
【0072】
特に好ましくは、一般式(A)の配位子Lの1つは、アルキル基の少なくとも1つが第2級アルキル基またはシクロアルキル基、好ましくは、イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、ネオペンチル、シクロペンチル、またはシクロヘキシルである、トリアルキルホスフィン配位子である。
【0073】
一般式(A)に従う好ましい2種の触媒は、構造(II)(グラブス(I)触媒)および(III)(グラブス(II)触媒)、
【化4】

(式中、Cyはシクロヘキシルである)を有するものである。
【0074】
メタセシスは、一般式(B)、
【化5】

(式中、
Mは、ルテニウムであり、
およびXは、同一であっても異なっていてもよい、アニオン性配位子であり、
R’基は、同一であっても異なっていてもよい有機基であり、
Imは、置換または無置換のイミダゾリジン基であり、
Anは、アニオンである)の触媒を用いて実施してもよい。
【0075】
これらの触媒は基本的に周知である(例えば、Angew.Chem.Int.Ed.、2004年、第43巻、pp.6161〜6165参照)。
【0076】
一般式(B)のXおよびXは、式(A)の一般的な意味、好ましい意味、および特に好ましい意味と同義であってもよい。
【0077】
イミダゾリジン基(Im)は、通常、式(A)の種類の触媒に関し上述した一般式(Ia)または(Ib)の構造を有する。
【0078】
一般式(B)のR’基は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、直鎖もしくは分岐のC〜C30アルキル、C〜C30シクロアルキル、またはアリール基であり、C〜C30アルキル基は、任意に1つまたはそれ以上の二重もしくは三重結合または1種またはそれ以上のヘテロ原子、好ましくは酸素もしくは窒素が挿入されていてもよい。
【0079】
アリールには、6〜24個の骨格炭素原子を有する芳香族基が包含される。6〜10個の骨格炭素原子を有する好ましい単環、二環、三環炭素環式芳香族基としては、一例として、フェニル、ビフェニル、ナフチル、フェナントレニル、またはアントラセニルが挙げられるであろう。
【0080】
一般式(B)のR’基は、好ましくは同一であり、それぞれ、フェニル、シクロヘキシル、シクロペンチル、イソプロピル、o−トリル、o−キシリル、またはメシチルである。
【0081】
メタセシスに使用されるさらなる好適な触媒は、一般式(C)、
【化6】

(式中、
Mは、ルテニウムであり、
13およびR14は、それぞれ、互いに独立に、水素、C〜C20アルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C24アリール、C〜C20カルボキシレート、C〜C20アルコキシ、C〜C20アルケニルオキシ、C〜C20アルキニルオキシ、C〜C24アリールオキシ、C〜C20アルコキシカルボニル、C〜C20アルキルチオ、C〜C20アルキルスルホニル、またはC〜C20アルキルスルフィニルであり、
は、アニオン性配位子であり、
は、単環であるか多環であるかに拘わらず、無電荷のΠ結合性配位子であり、
は、ホスフィン、スルホン化ホスフィン、フッ素化ホスフィン、3個までのアミノアルキル、アンモニオアルキル、アルコキシアルキル、アルコキシカルボニルアルキル、ヒドロカルボニルアルキル、ヒドロキシアルキル、またはケトアルキル基を有する官能化ホスフィン、ホスファイト、ホスフィナイト、ホスホナイト、ホスフィンアミン、アルシン、スチビン、エーテル、アミン、アミド、イミン、スルホキシド、チオエーテル、およびピリジンの群からの配位子であり、
は、非配位性アニオンであり、
nは、0、1、2、3、4、または5である)のものである。
【0082】
メタセシスの実施に好適なさらなる触媒は、一般式(D)、
【化7】

(式中、
Mは、ルテニウムであり、
およびXは、同一であっても異なっていてもよい、一般式(A)および(B)におけるXおよびXの意味をすべて想定することができるアニオン性配位子であり、
Lは、同一であっても異なっていてもよい、一般式(A)および(B)におけるLの一般的な意味および好ましい意味をすべて想定することができる配位子であり、
19およびR20は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素または置換もしくは無置換のアルキルである)のものである。
【0083】
メタセシスの実施に好適なさらなる触媒は、一般式(E)、(F)、および(G)、
【化8】

(式中、
Mは、ルテニウムであり、
およびXは、同一であっても異なっていてもよい配位子、好ましくはアニオン性配位子であり、
およびZは、同一であっても異なっていてもよい中性の電子供与性配位子であり、
およびRは、同一であっても異なっていてもよい、水素またはアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、カルボキシレート、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルスルホニル、およびアルキルスルフィニル基からなる群から選択される置換基であり、これらは、それぞれ、任意に、1種またはそれ以上の置換基、好ましくはアルキル、ハロゲン、アルコキシ、アリール、またはヘテロアリール基で置換されていてもよく、
Lは、配位子である)のものである。
【0084】
先行技術には、金属がルテニウムではないが、例えばオスミウムである他の金属系メタセシス触媒も開示されているので、明瞭化のため、ニトリルゴムのメタセシスはこの種の他の触媒の存在下においても実施してもよいことをここに述べておく。
【0085】
メタセシスされたニトリルゴムのこのような溶液を本発明に従う方法に直接付すことが可能である。
【0086】
しかしながら、本発明のさらなる実施形態においては、ニトリルゴムをメタセシス後に水素化反応に付すことによって得られる水素化ニトリルゴムの溶液を使用することも可能である。本発明の好ましい実施形態においては、ニトリルゴムの水素化は、第1ステップにおいてメタセシスを実施した後に実施される。このような水素化の際は、ニトリルゴム中に元々存在していた炭素−炭素二重結合の少なくとも50mol%、好ましくは少なくとも80mol%、より好ましくは85〜99.5mol%が水素化される。
【0087】
このような任意的な水素化は、例えば、ロジウム含有錯体触媒またはルテニウム含有錯体触媒のような、異なる金属系の多種多様な異なる触媒を用いて実施してもよい。好ましい一実施形態においては、ニトリルゴムが予めルテニウム含有触媒の存在下にメタセシスに付されていた場合は、このような水素化にはロジウム含有触媒が用いられる。しかしながら、水素化は、ロジウム含有触媒を使用するものに限定されるわけではない。ロジウム含有錯体をニトリルゴムの水素化のための触媒として使用することが英国特許第1,558,491(A)号明細書に記載されている。
【0088】
ニトリルゴムの水素化は、典型的には、有機溶媒中でも実施され、そうすると、水素化されたニトリルゴムは、このような溶媒中に存在することになる。典型的な溶媒は、使用される水素化触媒を失活させないだけでなく、反応にいかなる他の形の悪影響も与えないものである。好ましい溶媒としては、これらに限定されるものではないが、ジクロロメタン、ベンゼン、モノクロロベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、およびシクロヘキサンが挙げられる。ハロゲン化溶媒が好ましく、特に好ましい溶媒は、モノクロロベンゼンである。しかしながら、水素化は、有機溶媒の非存在下にバルクで実施してもよい。このような場合、得られた水素化ニトリルゴムは、その後に適切な溶媒中、例えば、上述したもののうちの1種に溶解される。
【0089】
イオン交換樹脂:
本発明の方法は、
(i)マクロレティキュラーであり、
(ii)第1級アミン、第2級アミン、チオール、カルボジチオエート、チオ尿素、およびジチオカルバメート基から選択される少なくとも1種の官能基で修飾されており、かつ
(iii)平均粒径が、乾燥物基準で、最小0.05〜0.2mm未満の範囲にある、官能化されたイオン交換樹脂を使用するものである。
【0090】
このようなイオン交換樹脂は、任意に水素化されたニトリルゴムから鉄、ロジウム、およびルテニウム含有触媒残渣を除去する能力に優れている。
【0091】
「マクロレティキュラー」という用語は、イオン交換の専門用語における従来の意味を指す。マクロレティキュラーイオン交換樹脂は、2つの連続相である、連続細孔相および連続ゲル状高分子相からなっており、窒素BETによって測定可能な永久孔を有している。マクロレティキュラーイオン交換樹脂は、典型的には、表面積が7〜1500m/gの範囲にあり、平均細孔径が50〜1000000Åの範囲にある。典型的なマクロレティキュラー樹脂は、平均細孔容積が0.7ml/gを超える場合が多い。このような樹脂は、典型的には、架橋共重合体、特に、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体を含む。
【0092】
イオン交換樹脂はマクロレティキュラーであることが必要であるが、この条件(i)はそれ自体では不十分であり、それと同時に条件(ii)および(iii)を満たさなければならない。したがって、好適なイオン交換樹脂は、第1級アミン、第2級アミン、チオール、カーボジチオエート、チオ尿素、およびジチオカルバメート基から選択される官能基のうちの少なくとも1種で官能化されていることをさらなる特徴とする。
【0093】
典型的には、上記イオン交換樹脂は、官能基の濃度が0.2〜7.0mol/Lの範囲、好ましくは0.5〜5.0mol/Lの範囲、より好ましくは0.7〜3.0mol/Lの範囲、最も好ましくは1.0〜2.0mol/Lの範囲にあることを特徴とする。
【0094】
さらに、このイオン交換樹脂は、平均粒径が、乾燥物基準で、最小0.05〜0.2mm未満までの範囲にあり、好ましくは、乾燥物基準で、最小0.15〜0.2mm未満の範囲にある。このような平均粒径は、窒素やアルゴン等の不活性気体を用いたBET分析によって測定することも水銀圧入を用いて測定することも可能であり、どちらの方法も化学工業において標準的な方法である。
【0095】
適用可能なイオン交換樹脂は、商業的に入手するかまたは当業者に周知であるかもしくは文献(例えば、米国特許第4,985,540号明細書、米国特許第5,118,716号明細書、または米国特許第6,646,059号明細書)に記載されている手順に従い調製してもよい。
【0096】
本発明に従う手順は、回分(不連続)方式または連続方式のどちらで実施してもよい。
【0097】
本発明による典型的な不連続な実施形態においては、イオン交換樹脂を、鉄残渣ならびに/またはロジウムおよび/もしくはルテニウム含有触媒残渣を含む、任意に水素化されたニトリルゴムの溶液に添加し、この混合物を、触媒残渣が樹脂によって除去されるのに十分な時間撹拌する。反応時間は、5〜100時間の間で変化させてもよく、好ましくは48〜72時間の範囲にある。樹脂は、単純な濾過によって除去してもよく、任意に水素化されたニトリルゴムは、当該技術分野において周知の減圧下における蒸発等の標準的な技法を用いて溶媒を除去することによって回収される。
【0098】
反応は、不活性雰囲気中で、例えば窒素置換して実施してもよい。
【0099】
好ましくは、本発明の実施に用いられる樹脂の量は、溶液中の任意に水素化されたニトリルゴムの量を基準として、0.1〜10重量%の範囲にある。より好ましくは、使用される任意に水素化されたニトリルゴムを基準として、0.5〜5重量%の樹脂が使用される。
【0100】
本方法の好適な運転温度は、60℃〜150℃の範囲にある。好ましくは、運転温度は、90℃〜120℃の範囲にある。一般に、160℃を超える温度は、イオン交換樹脂が分解する可能性があるため用いるべきではない。
【0101】
本発明のさらなる態様においては、本方法は、連続的に実施される。このような場合、ルテニウム含有触媒残渣を任意に水素化されたニトリルゴムから除去する方法は塔内で実施され、それによって系全体にわたる圧力損失がはるかに小さくなり、したがって、体積処理量(volume throughput)をより高くすることができ、それによって生産能力が高くなる。
【0102】
このような実施形態においては、イオン交換樹脂を床配置(例えば、樹脂を塔すなわち円筒形の容器に充填することによる)に集合させ、任意に水素化されたニトリルゴム溶液の溶液を連続方式で塔に流通させる。
【0103】
このような連続運転の際に好適な運転温度も同様に、典型的には60℃〜150℃の範囲にある。好ましくは、運転温度は、90℃〜120℃の範囲にある。一般に、160℃を超える温度は、イオン交換樹脂が分解する可能性があるため用いるべきではない。
【0104】
連続運転に関する任意に水素化されたニトリルゴムの溶液中の濃度は、0.5〜30%b.w.、好ましくは2〜20%b.w.、より好ましくは3〜15%b.w.、最も好ましくは3〜12%b.w.の範囲にある。
【0105】
連続運転に用いられる樹脂の実用可能な量は当業者によって調整されるであろう。
【0106】
本発明の他の実施形態においては、ゴム溶液を塔に2回以上の回数で通過させてもよく、こうすることにより、できるだけ多くの触媒残渣が確実に樹脂から除去される。
【0107】
溶液を流して小粒子の床を通過させることによってかなりの圧力損失が生じることは当業者に理解されるであろう。この現象は、特に、溶液が粘性を有し、粒子が非常に細かくかつ粒度にばらつきがある場合に顕著である。しかしながら、本発明の好ましい実施形態においては、ルテニウムを含有する水素化ニトリルゴム溶液をイオン交換樹脂床に流して通過させることにより生じる圧力損失は、床高さ1フィート当たり0.5〜30ポンド毎平方インチ(ゲージ)(psig)であり、全体の圧力損失は10psig〜180psigである。
【0108】
本発明による方法の利点は、鉄残渣、ロジウム−およびルテニウム含有触媒残渣を任意に水素化されたニトリルゴムの溶液から除去することに優れており、しかも驚くべきことに、イオン交換樹脂との接触時間が周知の方法よりも短縮されていることにある。
【0109】
任意に水素化されたニトリルゴムは、本発明に従う方法に付した後に、ポリマー溶液からポリマーを回収するための当該技術分野において一般に周知の方法によって溶液から単離してもよい。その例としては、ポリマー溶液を水蒸気に直接接触させる水蒸気凝固法、ポリマー溶液を加熱された回転ドラム上に滴下して溶媒を蒸発させるドラム乾燥法、およびポリマー溶液に貧溶媒を加えてポリマーを析出させる方法がある。上記ポリマーをこの種の分離手段によって溶液から分離し、水分を除去し、そして結果として得られたポリマーを、熱風乾燥、真空乾燥、押出乾燥等の手順を用いて乾燥することによって、ポリマーを固体生成物として回収する。好ましくは、任意に水素化されたニトリルゴムを、水蒸気凝固を用いて単離する。
【0110】
本発明に従う方法によって得ることができる任意に水素化されたニトリルゴムは、ルテニウム含有触媒残渣、ロジウム含有触媒残渣、および鉄残渣の含有量が非常に少ないことによって特徴づけられる。
【0111】
本発明はまた、ロジウムを最大で20ppm、ルテニウムを最大で20ppm、および鉄を最大で50ppm含む、任意に水素化された新規なニトリルゴム、好ましくは、ロジウムを最大で10ppm、ルテニウムを最大で10ppm、および鉄を最大で40ppm含み、より好ましくは、ロジウムを最大で5ppm、ルテニウムを最大で5ppm、および鉄を最大で30ppm含み、最も好ましくは、ロジウムを最大で3ppm、ルテニウムを最大で3ppm、鉄を最大で10ppm含む(いずれも、任意に水素化されたニトリルゴムを基準とする)、任意に水素化されたニトリルゴムにも関する。このような任意に水素化された新規なニトリルゴムは、微量の金属さえも有害な影響を及ぼし、したがって、非常に純度の高いゴムが必要とされるあらゆる用途に極めて適している。
【0112】
以下の非限定的な実施例により本発明のさらなる詳細を示す。
【実施例】
【0113】
本発明の実施例1、2、3、5、7、および8は、ルテニウム、ロジウム、および鉄含有触媒残渣を水素化されたニトリルゴムの溶液から回分法で除去するための数種類の官能化樹脂(表1参照)の使用を例示するものである。
【0114】
【表1】

【0115】
実施例1〜3および比較例4:
ニトリルブタジエンゴム(アクリロニトリル34%b.w.、ブタジエン66%)を触媒としてのRhCl(PPh(Ph=フェニル)の存在下に水素化することによって調製された、アクリロニトリルを34%b.w.含み、残留二重結合が0.9%未満であり、ムーニー粘度(ML(1+4)、100℃)が65である水素化されたニトリルゴムを用いた。
【0116】
このような水素化されたニトリルゴムのモノクロロベンゼン中6.0%b.w.溶液を以下の実施例の基準として用いた。以下の実施例に用いられる「水素化されたニトリルゴム」という用語はこの溶液を指す。
【0117】
実施例1〜3においては、500mlの三頚丸底フラスコに、規定の樹脂(表1参照)0.5gを水素化ニトリルゴム溶液180gと一緒に加えた。窒素中、各反応混合物を約100℃で66時間撹拌した。次いで、樹脂を混合物から濾過によって除去し、ロータリーエバポレーターで溶媒を蒸発させた後、60℃のオーブンで減圧乾燥することによってゴムを回収した。回収したゴム試料のRhおよびFe含有量を誘導結合プラズマ(ICP−AES:誘導結合プラズマ−原子発光分光分析)で分析した。結果を表2に示す。
【0118】
比較例C4においては、未処理の状態の基準の水素化ニトリルゴム溶液試料180gから、上述した蒸発/乾燥手順によってゴムを回収した。この「対照試料」中のRhおよびFeの量を再びICP−AESで測定した。
【0119】
この対照試料とは対照的に、処理後に回収された水素化ニトリルゴムのRh含有量は、2.9〜14ppmの範囲内にあることがわかり、一方、処理後に回収されたゴムのFe含有量は12〜23ppmの範囲内にあることがわかった。この結果は、Rhの72〜94%およびFeの58〜78%がそれぞれ除去された(すなわち、基準のニトリルゴム試料中のRhおよびFeと比較して)ことを示すものである。
【0120】
【表2】

【0121】
実施例5
ニトリルブタジエンゴム(アクリロニトリル34%b.w.、ブタジエン66%)を、式(III)のルテニウム含有触媒を利用したメタセシス工程と、さらにそれに続く、触媒としてのRhCl(PPh(Ph=フェニル)の存在下における水素化工程とに付すことによって調製された、アクリロニトリルを34%b.w.含み、残留二重結合が0.9%未満であり、ムーニー粘度(ML(1+4)、100℃)が40である水素化されたニトリルゴムを用いた。
【0122】
水素化の前にメタセシス工程を行ったこのような水素化ニトリルゴムのモノクロロベンゼン中6.0%b.w.溶液を、以下の実験の基準として用いた。本明細書において用いられる「水素化されたニトリルゴム」という用語は、この溶液を指す。
【0123】
500mlの三頚丸底フラスコに、規定の樹脂(表1参照)を0.5gを水素化ニトリルゴム溶液180gと一緒に加えた。窒素中、反応混合物を約100℃で66時間撹拌した。次いで、樹脂を混合物から濾過によって除去し、ロータリーエバポレーターで溶媒を蒸発させた後、60℃のオーブンで減圧乾燥することによってゴムを回収した。回収したゴム試料のRu、Rh、およびFeをICP−AESで分析した。結果を表3および4に示す。
【0124】
比較例6においては、未処理の水素化ニトリルゴム溶液試料180gから、上述した蒸発/乾燥手順によってゴムを回収した。この「対照試料」中のRu、Rh、およびFeの量を誘導結合プラズマによって測定した。以下に示す結果はすべて、初期に存在した量を基準として引用したものである。
【0125】
表3に結果の概要を示したが、ここから、それぞれ、Rhの90%、Feの47%、およびRuの60%(すなわち、基準のニトリルゴム試料のRhおよびFe含有量と比較して)が除去されたことが示される。
【0126】
【表3】

【0127】
実施例7
ニトリルブタジエンゴム(アクリロニトリル34%b.w.、ブタジエン66%)を触媒としてのRhCl(PPh(Ph=フェニル)の存在下において水素化することによって調製された、アクリロニトリル34%b.w.を含み、残留二重結合が0.9%未満であり、ムーニー粘度(ML(1+4)、100℃)が65である、水素化されたニトリルゴムを用いた。
【0128】
このような水素化されたニトリルゴムのモノクロロベンゼン中6.0重量%溶液を以下の実施例の基準として用いた。以下の実施例で用いられる「水素化されたニトリルゴム」という用語は、この溶液を指す。
【0129】
500mlの三頚丸底フラスコに、表1に示す規定の樹脂0.5gを、水素化されたニトリルゴム溶液180gと一緒に加えた。窒素中、反応混合物を約100℃で様々な時間(表4参照)撹拌した。次いで、樹脂を混合物から濾過によって除去し、水素化されたニトリルゴムをロータリーエバポレーターで溶媒を蒸発させることによって回収した後、60℃のオーブンで減圧乾燥した。回収した水素化ニトリルゴム試料のRhをICP−AESで分析した。結果を表4に示す。
【0130】
比較例9においては、未処理の水素化ニトリル溶液試料180gから、上述した蒸発/乾燥手順によって水素化ニトリルゴムを回収した。この「対照試料」中のRhの量を誘導結合プラズマにより測定した。以下に示す結果はすべて、初期に存在した量を基準として引用したものである。
【0131】
表4に概要を示した結果から、実施例7も8もそれぞれロジウム金属の92および90%が回収されたが、実施例8(表1)で使用された樹脂よりもかなり粒度の小さい実施例7(表1)においては、より短い時間枠の中でより高い効率でロジウムが回収されたことが示される。
【0132】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄残渣ならびに/またはロジウムおよび/もしくはルテニウム含有触媒残渣を任意に水素化されたニトリルゴムから除去する方法であって、鉄残渣ならびに/またはロジウムおよび/もしくはルテニウム含有触媒残渣を含む任意に水素化されたニトリルゴムの溶液を、(i)マクロレティキュラーであり、(ii)第1級アミン、第2級アミン、チオール、カルボジチオエート、チオ尿素、およびジチオカルバメート基から選択される少なくとも1種の官能基で修飾されており、かつ(iii)平均粒度が、乾燥物基準で、最小0.05mm〜0.20mm未満である、官能化されたイオン交換樹脂と接触させることを含む、方法。
【請求項2】
官能化された前記イオン交換樹脂と接触させようとする、任意に水素化されたニトリルゴムの前記溶液が、前記ルテニウム含有触媒残渣を、使用される前記の任意に水素化されたニトリルゴムを基準として、ルテニウムが5〜1000ppm、好ましくは5〜500ppm、特に5〜250ppmの範囲となる量で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
官能化された前記イオン交換樹脂と接触させようとする、任意に水素化されたニトリルゴムの前記溶液が、前記ロジウム含有触媒残渣を、使用される前記の任意に水素化されたニトリルゴムを基準として、ロジウムが5〜200ppm、好ましくは10〜100ppm、特に20〜100ppmの範囲となる量で含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
官能化された前記イオン交換樹脂と接触させようとする、任意に水素化されたニトリルゴムの前記溶液が、鉄残渣を、使用される前記任意に水素化されたニトリルゴムを基準として、鉄が2〜500ppm、好ましくは5〜250ppm、特に10〜100ppmとなる量で含む、請求項1、2、または3に記載の方法。
【請求項5】
任意に水素化されたニトリルゴムの前記溶液が、前記任意に水素化されたニトリルゴムを、0.5〜20%b.w.、好ましくは3〜12%b.w.含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
任意に水素化された前記ニトリルゴムの、ジクロロメタン、ベンゼン、モノクロロベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、またはシクロヘキサン中の溶液が使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
官能化された前記イオン交換樹脂と接触させようとする、任意に水素化されたニトリルゴムの前記溶液が、(i)ニトリルゴムの、好ましくはルテニウム含有触媒の存在下におけるメタセシスによって、および/または(ii)前記ニトリルゴム中に存在する炭素−炭素二重結合の、好ましくはロジウムもしくはルテニウム含有触媒を用いることによる水素化によって得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記官能化されたイオン交換樹脂と接触される前記水素化されたニトリルゴムの前記溶液が、前記重合後にニトリルゴムの炭素−炭素二重結合の水素化を実施することによって得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1種の共役ジエン、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、および任意に1種またはそれ以上のさらなる共重合可能なモノマーの繰り返し単位を含む任意に水素化された共重合体または三元重合体、好ましくは、アクリロニトリル、1,3−ブタジエン、および任意にさらなる共重合可能なモノマーの任意に水素化された共重合体を表す任意に水素化されたニトリルゴムの溶液が使用される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ニトリルゴム中に元々存在していた炭素−炭素二重結合の少なくとも50mol%、好ましくは少なくとも80mol%、より好ましくは85〜99.9mol%、最も好ましくは90〜99.5mol%が水素化されている水素化ニトリルゴムが使用される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記官能化されたイオン交換樹脂の官能基の濃度が、0.2〜7.0mol/Lの範囲、好ましくは0.5〜5.0mol/Lの範囲、より好ましくは0.7〜3.0mol/Lの範囲、最も好ましくは1.0〜2.0mol/Lの範囲にあることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記官能化されたイオン交換樹脂の平均粒径が、乾燥物基準で、最小0.05〜0.2mm未満までの範囲、好ましくは、乾燥物基準で、最小0.15〜0.2mm未満の範囲にあることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
回分(不連続)式または連続式で実施される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記イオン交換樹脂が塔に充填されており、前記ルテニウム含有触媒残渣を含む前記任意に水素化されたニトリルゴムの前記溶液を、連続方式で前記塔に通過させ、好ましくは2回以上、前記塔を通して循環させる、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
任意に水素化されたニトリルゴムであって、いずれも前記任意に水素化されたニトリルゴムを基準として、ロジウムを最大で20ppm、ルテニウムを最大で20ppm、および鉄を最大で50ppm、好ましくは、ロジウムを最大で10ppm、ルテニウムを最大で10ppm、および鉄を最大で40ppm、より好ましくは、ロジウムを最大で5ppm、ルテニウムを最大で5ppm、および鉄を最大で30ppm、最も好ましくは、ロジウムを最大で3ppm、ルテニウムを最大で3ppm、および鉄を最大で10ppm含む、任意に水素化されたニトリルゴム。

【公開番号】特開2009−149893(P2009−149893A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−324622(P2008−324622)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(505422707)ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー (220)
【Fターム(参考)】