説明

伝動ベルト及びその製造方法

【課題】破断強度に優れ、かつ製造が容易な伝動ベルト及びその製造方法を提供する。
【解決手段】伝動ベルトB1は、環状金属コードC1と被覆部70とを備え、環状金属コードC1は、金属素線5を6本撚り合わせてなるストランド材1を所定の環状径に巻いて始端部を仮止めして環状コア部3を形成した状態で、環状コア部3から連続したストランド材1を環状コア部3に対して螺旋状に6周巻き付けることにより、環状コア部3の外周面を覆う外層部4を形成し、その後、ストランド材1の始端部1aと終端部1bとを軸方向に沿って重ねた状態となるように、ストランド材1の直径の2倍未満のスリーブ内径を有するコイルばね状スリーブからなる接続部材7aの内側に収容して接続し、さらに、接続部材7aの外側に露出した末端余長部6a,6bを切断して除去することにより製造されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルト及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、伝動ベルトの一種として、例えば特許文献1に記載されているように、芯材に金属コードを用いたものが知られている。芯材となる金属コードは、中心コアとなる少なくとも1本のフィラメントと、中心コアを取り巻く複数本のフィラメントとを備えている。
また、特許文献2に記載されているように、芯材に撚糸コードを用いた伝動ベルトも知られている。この伝動ベルトでは、一対の撚糸コードの端部を一旦解撚して結合し、結合後に再び撚り合わせたものを芯材としている。
【特許文献1】特開平4−307146号公報
【特許文献2】特開2000−213601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載の伝動ベルトでは、金属コードの両端部を結合して環状にする作業が必要である。金属コードの両端部を結合する際には、特許文献2に記載の撚糸コードの結合方法を金属コードに適用することができる。しかしながら、特許文献2に記載の結合方法を適用した場合には、フィラメントの解撚作業、結合作業、及び撚合作業が発生する。そのため、結合にかかる工程が煩雑となり、伝動ベルトの製造が困難となる。また、フィラメントの端部を再び撚り合わせる際に、結合部分と他の部分とで撚りの状態が異なってしまい、結合部分の機械的強度が低下するおそれがある。結合部分の機械的強度が低下すると、金属コードの破断が生じ、その結果、伝動ベルトも破断しやすくなる。
【0004】
金属コードの両端部を結合する方法としては、金属コードの両端部を突き合わせて結合する方法も考えられる。しかしながら、この方法では、周方向の一箇所に結合部分が集中することとなるため、金属コードの完全破断が生じやすくなる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、破断が生じにくく、かつ、製造が容易な伝動ベルト及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することのできる本発明に係る伝動ベルトは、抗張力体となる環状金属コードと、前記環状金属コードを覆う被覆部とを備え、前記環状金属コードは、金属素線を複数本撚り合わせてなるストランド材により、環状に形成された環状コア部と、前記環状コア部に対して螺旋状に複数周巻き付けられ前記環状コア部の外周面を覆う外層部と、が形成され、前記環状コア部と前記外層部とは連続したストランド材により形成され、前記ストランド材の端部同士が軸方向に沿って重ねられ、前記ストランド材の直径の2倍未満のスリーブ内径を有するコイルばね状スリーブからなる接続部材の内側に収容されて接続されていることを特徴としている。
【0007】
このように、抗張力体となる環状金属コードは、金属素線を複数本撚り合わせてなるストランド材により、環状コア部と、この環状コア部に対して螺旋状に複数周巻き付けられて環状コア部の外周面を覆う外層部とが形成され、環状コア部と外層部が連続したストランド材で形成されているので、環状金属コードを丈夫なものとすることができ、複数のストランド材を周方向の一箇所でまとめて結合する場合と比べて、環状金属コードが完全に破断する可能性を抑制できる。さらに、環状金属コードにかかる外力を連続した環状コア部と外層部により受けることができるため、付与された外力を環状金属コード全体で分散させて局所的に負荷が集中することを回避できる。したがって、ストランド材から環状コア部を形成し、かかる環状コア部を軸芯として連続してストランド材が巻き付けられているため、破断強度の大きい環状金属コードを得ることができる。
【0008】
しかも、外層部を形成する際には、ストランド材を複数本巻き付けるのではなく環状コア部を構成するストランド材が引き続き複数周にわたって巻き付けられているので、ストランド材は1本あればよく、よって、ストランド材を複数本使用する場合と比べて結合箇所が少なくなるため、環状金属コードの破断強度の低下を抑制することができるとともに、製造を容易とすることができる。
【0009】
また、ストランド材の端部同士が軸方向に沿って重ねられた状態で、コイルばね状スリーブからなる接続部材の内側に収容されて接続されている。これにより、ストランド材の端部同士の結合が容易となる。また、コイルばね状スリーブは良好な可撓性を有するため、螺旋状に巻かれたストランド材の湾曲形状に合わせて柔軟に変形し、接続部に対する密着状態を維持するとともに、接続部におけるストランド材の変形を接続部材が阻害しない。すなわち、環状金属コードの機械的特性を全周に亘って略均一にすることができる。さらに、接続部材はストランド材の直径の2倍未満のスリーブ内径を有するため、接続部材内に重ねられたストランド材に対して接続部材から圧縮力(締め付け力)が作用し、接続部材とストランド材の間、及びストランド材相互間の摩擦力により強固に接続される。また、接続部に張力が作用した場合でも、コイルばね状スリーブが軸方向に伸びようとすることでストランド材をさらに強く圧縮して締め付けるため、安定した接続状態が得られる。
【0010】
このように、本発明によれば、製造が容易で破断強度に優れた環状金属コードを得ることができる。したがって、このような環状金属コードを被覆部で覆った伝動ベルトもまた、破断が生じにくく、機械的特性も均一化でき、かつ製造が容易となる。
【0011】
好ましくは、接続部材は、密着コイルばね状スリーブからなる。これにより、コイル隙間のあるばねに比べて、小さい曲率径の曲げに対してもストランド材の締め付け力を維持しやすくなる。また、単位長さ当たりのコイル巻き数を多くすることができるため、ストランド材を強く保持しやすくなる。その結果、伝動ベルトもまた、より破断しにくいものとなる。
【0012】
好ましくは、接続部材を構成するばね素線径が金属素線の径より大径である。ストランド材を締め付けて強固に接続するためには、接続部材を構成するばね素線の強度がある程度要求されるが、ばね素線径がストランド材の金属素線の径より大径であると、接続状態を維持するために必要な接続部材の強度を得やすくなる。その結果、伝動ベルトもまた、より破断しにくいものとなる。
【0013】
上記課題を解決することのできる本発明に係る伝動ベルトは、抗張力体となる環状金属コードと、前記環状金属コードを覆う被覆部とを備え、前記環状金属コードは、金属素線を複数本撚り合わせてなるストランド材により、環状に形成された環状コア部と、前記環状コア部に対して螺旋状に複数周巻き付けられ前記環状コア部の外周面を覆う外層部と、が形成され、前記ストランド材の両端部は、互いに撚り合わされた重複接続部で塑性変形して接続されていることを特徴としている。
【0014】
このように、抗張力体となる環状金属コードは、金属素線を複数本撚り合わせてなるストランド材により、環状コア部と、この環状コア部に対して螺旋状に複数周巻き付けられて環状コア部の外周面を覆う外層部とが形成され、環状コア部と外層部が連続したストランド材で形成されているので、環状金属コードを丈夫なものとすることができ、複数のストランド材を周方向の一箇所でまとめて結合する場合と比べて、環状金属コードが完全に破断する可能性を回避できる。
【0015】
しかも、ストランド材の両端部が、重複接続部で互いに撚り合わされて塑性変形して接続されているので、接続するための別個の部品を不要とすることができ、これにより、コード表面の出っ張りも極力抑えることができ、産業機械の駆動伝達ベルト等に用いて好適なものとすることができる。
【0016】
さらに、環状金属コードにかかる外力を連続した環状コア部と外層部により受けることができるため、付与された外力を環状金属コード全体で分散させて局所的に負荷が集中することを回避できる。したがって、ストランド材から環状コア部を形成し、かかる環状コア部を軸芯として連続してストランド材が巻き付けられているため、破断強度の大きい環状金属コードを得ることができる。
【0017】
しかも、外層部を形成する際には、ストランド材を複数本巻き付けるのではなく環状コア部を構成するストランド材が引き続き複数周にわたって巻き付けられているので、ストランド材は1本あればよく、よって、ストランド材を複数本使用する場合と比べて結合箇所が少なくなるため、環状金属コードの破断強度の低下を抑制できるとともに、製造を容易とすることができる。また、外層部のストランド材の巻き付けを所定の巻き付け角度で行なえば、ストランド材の巻き乱れがなく、表面状態が略均一な環状金属コードを得ることができる。このような環状金属コードには外からの力が特定の部位に集中することが避けられ均一に付与されることとなるため、破断強度の低下を抑制することができる。
このように、本発明によれば、製造が容易で破断強度に優れた環状金属コードを得ることができる。したがって、このような環状金属コードを被覆部で覆った伝動ベルトもまた、破断が生じにくく、かつ製造が容易となる。
【0018】
好ましくは、前記ストランド材の両端部の重複接続部における互いの撚り合わせ方向が、前記ストランド材における前記金属素線の撚り方向と同一方向である。これにより、少ない撚り回数で容易にストランド材を塑性変形させて、重複接続部においてさらに高強度に接続することができるとともに、疲労強度も向上させることができる。その結果、伝動ベルトもまた、より破断しにくいものとなる。
【0019】
好ましくは、前記重複接続部が、当該環状金属コードにおける内周と外周との略中間に配置されている。このように、引張力、圧縮力の作用が最小な内周と外周との略中間に重複接続部を配置したので、環状金属コードが径方向に変形しても、重複接続部に作用する負荷の低減を図ることができ、重複接続部における破断を抑制できる。その結果、伝動ベルトもまた、より破断しにくいものとなる。
【0020】
好ましくは、前記ストランド材の重複接続部における撚り回数が2〜5回である。これにより、ストランド材の端部同士を十分な強度で接続することができ、しかも、撚り過ぎによる塑性変形量のばらつきを抑制して金属素線の脆弱化を抑え、高強度な接続状態を維持させることができる。その結果、環状金属コードひいては伝動ベルトをより耐久性に優れたものとすることができる。
【0021】
好ましくは、1本のストランド材によって環状コア部と外層部とが形成され、ストランド材の両端部同士が結合されている。これにより、ストランド材を複数本使用する場合と比べて結合箇所が少ない一箇所のみとなるため、環状金属コードの破断強度をより大きくすることができるとともに、製造を容易とすることができる。したがって、伝動ベルトについても破断強度をより大きくすることができ、製造を容易とすることができる。
【0022】
好ましくは、ストランド材の一方の端部が環状コア部を形成した始端部であり、ストランド材の他方の端部が外層部を形成した終端部である。これにより、環状コア部を形成したストランド材の始端部と、外層部を形成したストランド材の終端部とが結合された破断強度の大きな環状金属コードとすることができる。その結果、伝動ベルトもまた、より破断しにくいものとなる。
【0023】
もしくは、ストランド材の一方の端部が環状コア部を形成した際の余長部とされ、余長部が外層部の一部を構成してもよい。これにより、環状コア部を形成した際の余長部の端部と外層部を形成したストランド材の終端部とが結合されて、余長部が外層部の一部とされた破断強度の大きな環状金属コードとすることができる。その結果、伝動ベルトもまた、より破断しにくいものとなる。
【0024】
好ましくは、金属素線の直径は、0.06mm以上0.40mm以下である。これにより、ストランド材に適度な剛性をもたせることができ、ストランド材を良好な耐疲労性を有するものとすることができる。その結果、環状金属コードひいては伝動ベルトをより耐久性に優れたものとすることができる。また、金属素線の直径が0.06mm以上0.22mm以下であると、さらに好ましい。
【0025】
好ましくは、金属素線の撚り方向と、環状コア部に対する前記外層部の巻き付け方向とが逆である。これにより、ストランド材の巻き付け後において、表面外観に凹凸の少ない環状金属コードを得ることができる。また、環状金属コードを捩れにくいものとすることができる。このような環状金属コードを用いることにより、伝動ベルトは更に破断しにくいものとなる。
【0026】
好ましくは、環状コア部の中心軸に対するストランド材の巻き付け角度が4.5度以上13.8度以下である。これにより、ストランド材の巻き付け作業が容易となる。また、適度な伸度を有し、かつストランド材の巻き緩みがない環状金属コードを得ることができる。これにより、伝動ベルトの破断強度を更に向上させることができる。
【0027】
好ましくは、ストランド材が、環状コア部の外周面に沿って5周または6周巻き付けられている。もしくは、前記ストランド材が、前記環状コア部として環状に3周巻き付けられ、その外周面に沿って7周以上9周以下巻き付けられている。これにより、外層部が環状コア部を密に覆うこととなるため、環状金属コードを幾何学的に安定したものとすることができる。その結果、破断強度に優れ、径方向の変形に耐え得る環状金属コードを確実に得ることができる。その結果、伝動ベルトもまた、破断強度及び耐疲労性に優れ変形にも耐え得るものとなる。
なお、ストランド材を環状コア部として環状に3周巻き付け、その外周面に外層部として7周以上9周以下巻き付ける場合には、外層部の巻き付け方向は、環状コア部と逆方向にすることが好ましいが、同方向とする場合には、環状コア部の巻き付けピッチを小さくし、外層部の巻き付けピッチを大きくする(すなわち環状コア部と外層部の巻き付けピッチ差を大きくする)ことにより、外層部のストランド材が環状コア部のストランド材の撚り目に落ち込むことを防止できる。
【0028】
好ましくは、環状コア部及び外層部には低温焼鈍処理が施されている。これにより、金属素線の内部歪みを除去することができる。よって、環状金属コードひいては伝動ベルトを、いっそう破断しにくいものとすることができる。
【0029】
また、上記課題を解決することのできる本発明に係る伝動ベルトの製造方法は、環状に形成された環状コア部と、前記環状コア部に対して螺旋状に複数周巻き付けられて前記環状コア部の外周面を覆う外層部とを有する伝動ベルトの製造方法であって、金属素線を複数本撚り合わせてなるストランド材を所定の環状径に巻いて始端部あるいは始端部近傍を仮止めして環状コア部を形成した状態で、前記ストランド材を前記環状コア部に対して螺旋状に複数周巻き付けることにより前記環状コア部の外周面を覆う外層部を形成し、その後、前記ストランド材の始端部と終端部とを、軸方向に沿って重ねた状態となるように、前記ストランド材の直径の2倍未満のスリーブ内径を有するコイルばね状スリーブからなる接続部材の内側に収容して接続し、さらに、前記接続部材の外側に露出した前記始端部及び前記終端部の末端を切断して除去することを特徴としている。
【0030】
このように、金属素線を複数本撚り合わせてなるストランド材を所定の環状径に巻いて始端部あるいは始端部近傍を仮止めして環状コア部を形成した状態で、ストランド材を環状コア部に対して螺旋状に複数周巻き付けることにより環状コア部の外周面を覆う外層部を形成し、その後、ストランド材の始端部と終端部とを接続させることにより、丈夫な環状金属コードを製造することができ、全てのストランド材をまとめて結合する場合と比べて、完全に破断する可能性を抑制できる環状金属コードを得ることができる。つまり、ストランド材から環状コア部を形成し、かかる環状コア部を軸芯として連続してストランド材を巻き付けるため、破断強度の大きい環状金属コードを得ることができる。
【0031】
しかも、外層部を形成する際には、ストランド材を複数本巻き付けるのではなく環状コア部を構成するストランド材を引き続き複数周にわたって巻き付けるので、ストランド材は1本あればよく、よって、ストランド材を複数本使用する場合と比べて結合箇所が少なくなるため、環状金属コードの破断強度をより大きくすることができるとともに、製造を容易とすることができ、さらには、環状コア部の外周面に沿って、外層部のストランド材を実質的に隙間無く巻き付けることが可能となる。また、外層部のストランド材の巻き付けは所定の巻き付け角度で行なうので、ストランド材の巻き乱れがなく、表面状態が略均一な環状金属コードを得ることができる。このような環状金属コードには外からの力が均一に付与されることとなるため、破断強度の低下を抑制することができる。
【0032】
さらに、ストランド材の始端部と終端部とを接続する際には、コイルばね状スリーブからなる接続部材を用いて、その内側にストランド材の始端部と終端部とが軸方向に沿って重ねた状態で収容するため、ストランド材の端部同士の結合が容易となる。また、コイルばね状スリーブは良好な可撓性を有するため、螺旋状に巻かれたストランド材の湾曲形状に合わせて柔軟に変形し、接続部に対する密着状態を維持するとともに、接続部におけるストランド材の変形を接続部材が阻害しない。すなわち、環状金属コードの機械的特性を全周に亘って略均一にすることができる。さらに、接続部材はストランド材の直径の2倍未満のスリーブ内径を有するため、接続部材内に重ねられたストランド材に対して接続部材から圧縮力(締め付け力)が作用し、接続部材とストランド材の間、及びストランド材相互間の摩擦力により強固に接続される。また、接続部に張力が作用した場合でも、コイルばね状スリーブが軸方向に伸びようとすることでストランド材をさらに強く圧縮して締め付けるため、安定した接続状態が得られる。
【0033】
さらに、接続部材の外側に露出した始端部及び終端部の末端を切断して除去するため、接続部におけるストランド材を接続部材の内側に収めて環状金属コードの他の箇所と形状を揃え、環状方向に略均一な構造としている。
【0034】
このように、本発明によれば、製造が容易で破断強度に優れた環状金属コードを得ることができる。したがって、このような環状金属コードを被覆部で覆った伝動ベルトもまた、破断が生じにくく、機械的特性も均一化でき、かつ製造が容易となる。
【0035】
好ましくは、前記外層部を形成した後、前記ストランド材の前記始端部または前記終端部の一方を、前記接続部材における一方側端部から内側を通して他方側端部まで挿通させ、前記接続部材における他方側端部のばね素線を隣り合うばね素線とのコイル隙間が広がるように移動させ、広げたコイル隙間に前記ストランド材の前記始端部または前記終端部の他方を挿し入れて、さらにコイル隙間に沿って前記接続部材における一方側端部まで通すことにより、前記ストランド材の始端部と終端部とを、軸方向に沿って重ねた状態で前記接続部材の内側に収容して接続する。
【0036】
このように、ストランド材の始端部または終端部の一方を、接続部材の内側に挿通させ、他方を、接続部材における端部のばね素線間のコイル隙間に挿し入れて、挿し入れた側と反対側の端部までコイル隙間に沿って通すことで、ストランド材の直径の2倍未満のスリーブ内径を有する接続部材の内側にストランド材の始端部と終端部とを重ねて収容することが容易である。よって、環状金属コードひいては伝動ベルトをより容易に製造することができ、破断しにくい伝動ベルトを得ることができる。
【0037】
また、好ましくは、前記外層部を形成した後、前記ストランド材の前記始端部を、前記接続部材における一方側端部から内側を通して前記接続部材における軸方向中間部まで挿し入れて前記接続部材における軸方向中間部の隣り合うばね素線同士のコイル隙間から引き出し、前記ストランド材の前記終端部を、前記接続部材における他方側端部から内側を通して前記接続部材における軸方向中間部まで挿し入れて前記接続部材における軸方向中間部の隣り合うばね素線同士のコイル隙間から引き出し、コイル隙間から外側に突出する前記ストランド材の前記始端部を、コイル隙間に沿って前記接続部材における前記他方側端部まで通すとともに、コイル隙間から外側に突出する前記ストランド材の前記終端部を、コイル隙間に沿って前記接続部材における前記一方側端部まで通すことにより、前記ストランド材の前記始端部と前記終端部とを前記接続部材の内側に収容し軸方向に沿って重ねた状態で接続する。
【0038】
このように、ストランド材の始端部と終端部をそれぞれ、接続部材の端部から内側を通して接続部材における軸方向中間部まで挿し入れ、接続部材における軸方向中間部のばね素線間のコイル隙間から引き出して、挿し入れた側と反対側の端部までコイル隙間に沿って通すことで、ストランド材の直径の2倍未満のスリーブ内径を有する接続部材の内側にストランド材の始端部と終端部とを重ねて収容することが容易である。
【0039】
また、上記課題を解決することのできる本発明に係る伝動ベルトの製造方法は、ストランド材の両端部の重複接続部における互いの撚り合わせ方向が、ストランド材の撚り方向と同一方向である環状金属コードを有する伝動ベルトを製造する方法であって、前記ストランド材を保持可能な一対の保持部が間隔をあけて設けられた一対の板体を間隔をあけて配設し、前記板体の前記保持部にそれぞれのストランド材の端部近傍をそれぞれ保持させて互いのストランド材の端部近傍を軸方向に重なるように架け渡し、前記板体を、前記一対の保持部の間を回転中心として逆方向へ相対的に回転させることにより、これら板体の間で前記ストランド材同士を撚り合わせて塑性変形させた重複接続部を形成して接続し、前記環状金属コードを形成することを特徴としている。
【0040】
このように、環状金属コードを形成する際、板体の保持部にそれぞれのストランド材の端部近傍をそれぞれ保持させて互いのストランド材の端部近傍を軸方向に重なるように架け渡し、板体を、保持部の間を回転中心として逆方向へ相対的に回転させることにより、これら板体の間で、ストランド材同士を均一に撚り合わせて容易にかつ低コストで強固に接続することができる。
このように、本発明によれば、製造が容易で破断強度に優れた環状金属コードを得ることができる。したがって、このような環状金属コードを被覆部で覆った伝動ベルトもまた、破断が生じにくく、且つ製造が容易なものとなる。
【0041】
好ましくは、前記板体の前記保持部として、前記板体の外周側が開放され、前記回転中心近傍まで延びるスリットを形成し、このスリットに前記ストランド材を挿入することにより、前記ストランド材をスリット内で保持させる。これにより、スリットへストランド材を挿入し、このスリットからなる保持部でストランド材を容易に保持させることができる。よって、環状金属コードひいては伝動ベルトを、いっそう破断しにくいものとすることができる。
【0042】
好ましくは、前記板体は、前記保持部の一方が、前記スリットからなり、前記保持部の他方が、前記ストランド材が挿通可能な挿通孔からなる。このように、他方の保持部が挿通孔からなるので、この挿通孔にストランド材を挿入して保持させた場合、ストランド材を撚り合わせる際に、挿通孔の内縁でストランド材の外周が確実に保持され、重複接続部でさらに均一に撚り合わせることができる。よって、環状金属コードひいては伝動ベルトを、いっそう破断しにくいものとすることができる。また、重複接続部を形成した後、それぞれの板体の挿通孔からストランド材の端部を引き抜き、さらに、スリットからストランド材を径方向に取り外すことで、ストランド材を一対の板体から容易に取り外すことができ、作業効率を向上させることができる。
【0043】
好ましくは、前記ストランド材の端部同士を撚り合わせて接続する際に、前記ストランド材の端部の撚り代の長さを前記重複接続部の長さよりも長くしておく。これにより、ストランド材の端部を確実に撚り合わせて所定の長さの重複接続部で接続することができる。よって、環状金属コードひいては伝動ベルトを、いっそう破断しにくいものとすることができる。
【0044】
好ましくは、前記ストランド材の撚り代を撚り合わせて塑性変形させた後、前記撚り代における非撚り余長部を切断除去する。これにより、不要な余長部分を残すことなくストランド材が接続された状態とすることができる。よって、金属コードひいては伝動ベルトをより容易に製造することができ、破断しにくい伝動ベルトを得ることができる。
【0045】
好ましくは、前記ストランド材の端部同士を撚り合わせて接続する際に、前記ストランド材における互いに接続する接続対象部位以外の非接続対象部位に対して、複数の係止部を引っ掛け、これら係止部により前記非接続対象部位を前記接続対象部位から離間する方向へ移動させておく。これにより、接続対象のストランド材の端部同士を容易に撚り合わせて接続することができ、作業の円滑化を図ることができる。よって、環状金属コードひいては伝動ベルトをより容易に製造することができ、破断しにくい伝動ベルトを得ることができる。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、破断強度及び耐疲労性に優れ、かつ製造が容易な伝動ベルト及びその製造方法を提供することができる。したがって、本発明の伝動ベルトを産業機械に用いれば、当該産業機械を耐久性に優れたものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0048】
図1は、本実施形態に係る伝動ベルトの断面斜視図である。本実施形態に係る伝動ベルトB1は、一般産業用のVベルトである。伝動ベルトB1は、抗張力体である環状金属コードC1と、被覆部20とを備えている。被覆部20は環状金属コードC1を覆っており、この被覆部20の上面及び下面には、布層22が設けられている。被覆部20は、例えばゴムといった材料を含んでいる。
【0049】
伝動ベルトB1は、5本の環状金属コードC1を有している。図2は環状金属コードC1の斜視図であり、図3は環状金属コードを示す径方向の断面斜視図である。図4は、環状金属コードが備える環状コア部にストランド材を1周巻き付けた様子を示す斜視図である。図5(a)は、環状金属コードを示す径方向の断面図であり、図5(b)は、環状金属コードの側面図である。図6は、環状金属コードの一部を示す拡大斜視図である。
【0050】
図2及び図3に示されるように、環状金属コードC1は、環状コア部3と、環状コア部3の外周面を覆う外層部4とを備えるものである。
【0051】
環状コア部3は、図3に示されるように、ストランド材1を所定の径で1周分湾曲(ループ)させて環状にすることにより形成される。そして、この環状コア部3の周囲の外層部4は、環状コア部3を軸芯として、環状コア部3を構成するストランド材1を引き続き環状コア部3に巻き付けることにより形成される。
【0052】
ストランド材1は、図5(a)に示されるように、金属素線5を複数本撚り合わせたものである。本実施形態においては、ストランド材1は、図3に示されるように、1本の金属素線5を中心とし、この金属素線5の外周面に6本の金属素線5をS撚りに巻き付けたものである。このように、ストランド材1は幾何学的に安定した7本撚りであるため、丈夫で破断が生じにくいものとなっている。
【0053】
金属素線5は、材料として0.60質量%以上のCを含む高炭素鋼を用いる。0.60質量%以上のCを含む材料を選定することで、金属素線5をより破断強度に優れた鋼線とすることができる。但し、金属素線5の材料は、これに限られない。
【0054】
金属素線5の直径は、0.06mm以上0.40mm以下となっている。ここで、金属素線5の直径が0.06mm以上であるので、ストランド材1の剛性が十分となり、環状コア部3を変形しにくいものとすることができる。また、金属素線5の直径が0.40mm以下であるので、ストランド材1の剛性が適度に大きくならず、環状金属コードC1を繰り出し応力による疲労破断が生じにくいものとすることができる。なお、より好ましい金属素線5の直径は、0.06mm以上0.22mm以下である。
【0055】
つまり、このような直径の金属素線5でストランド材1を形成すると、適度な剛性を有するストランド材1を得ることができ、よって、環状コア部3に対するストランド材1の巻き付けが容易となり、かつストランド材1の巻き緩みが生じにくくなる。
【0056】
ストランド材1は、環状コア部3に対して複数周にわたって巻き付けられるとともに、図3及び図4に示されるように、螺旋状に巻き付けられる。ストランド材1は、捩れが無いように巻き付けられる。捩れ無く巻き付けることによって、ストランド材1の巻き緩みを抑制することができる。
【0057】
本実施形態において、外層部4を構成するストランド材1は環状コア部3の外周面に沿って6周巻き付けられている。環状コア部3に巻き付けるストランド材1は環状コア部3と連続した1本のストランド材1からなるので、環状コア部3の外周面には、ストランド材1が実質的に隙間無く巻き付けられる。よって、外層部4が環状コア部3を密に覆うこととなる。環状金属コードC1の断面は、図5(a)に示されるように、環状コア部3であるストランド材1の周りに6つのストランド材1が配列された形状となる。この断面形状は、ストランド材1を7本撚りした場合の断面形状と同一である。このように、環状金属コードC1は省スペース化に有利な横断面最密充填撚り構造であり、幾何学的に安定した構造を有しているため、破断強度及び耐疲労性に優れ、かつ径方向における変形に耐え得るものとなっている。
【0058】
外層部4を構成するストランド材1は、図4に示されるように、環状コア部3の外周面にZ撚りに巻き付けられる。ストランド材1自体はS撚りで形成されているため、環状金属コードC1はS撚り構造とZ撚り構造を組み合わせたものとなる。よって、金属素線5の撚り方向と、環状コア部3に対する外層部4の巻き付け方向とが逆であり、捩れにくく、表面外観に凹凸の少ない環状金属コードC1を得ることができる。
【0059】
また、外層部4を構成するストランド材1は、環状コア部3の中心軸に対して所定の巻き付け角度で巻き付けられている。このため、ストランド材1が乱れなく巻かれ、表面状態が略均一な環状金属コードC1を得ることができる。本実施形態においては、図5(b)に示されるように、X方向、すなわち環状コア部3の中心軸が延びる方向に対するストランド材1の巻き付け角度θは、4.5度以上13.8度以下となっている。巻き付け角度θを4.5度以上とすることで、ストランド材1の巻き緩みが生じにくくなる。巻き付け角度θを13.8度以下とすることで、ストランド材1の伸度が過度に大きくなることを防ぐことができる。つまり、環状コア部3に巻き付ける外層部4のストランド材1の巻き付け角度θを4.5度以上13.8度以下とすることで、適度な伸度を有し、かつしなやかな環状金属コードC1を得ることができる。
【0060】
図6に示されるように、環状コア部3及び外層部4を構成するストランド材1の巻き付け始端部1aと巻き付け終端部1bとは、互いに軸方向に沿って重ねられた状態で、コイルばね状スリーブからなる接続部材7aの内側に収容されて接続されている。
この接続部材7aは、コイルばね状に形成された可撓性に優れたスリーブからなるもので、ストランド材1の直径の2倍未満のスリーブ内径を有するものである。コイルばね状スリーブは良好な可撓性を有するため、螺旋状に巻かれたストランド材1の湾曲形状に合わせて柔軟に変形し、接続部分に対する密着状態を維持する。また、接続部分の径はストランド材1の約2本分であり、接続部分が過度に大きくなることもない。すなわち、環状金属コードC1の機械的特性を全周に亘って略均一にすることができる。
【0061】
さらに、接続部材7aはストランド材1の直径の2倍未満のスリーブ内径を有するため、接続部材7a内に重ねられたストランド材1から接続部材7に対して拡径させるように力が作用するとともに、接続部材7aの弾性力により反力が発生し、接続部材7a内に重ねられたストランド材1に対して接続部材7から圧縮力が作用して、ストランド材1を締め付ける。そして、接続部材7aとストランド材1の間、及びストランド材1相互間の摩擦力により強固に接続される。また、この接続部分に張力が作用した場合でも、コイルばね状スリーブが軸方向に伸びようとすることで内側のストランド材1をさらに強く圧縮して締め付けるため、安定した接続状態を維持することができる。
【0062】
図6に示した接続部材7aは、隣り合うばね素線の間隔(コイル隙間)を有するものでも良いが、好ましくは、コイル隙間のない密着コイルばね状スリーブからなる。これにより、コイル隙間のあるばねに比べて、小さい曲率径の曲げに対してもストランド材1の締め付け力を維持しやすくなる。また、単位長さ当たりのコイル巻き数を多くすることができるため、ストランド材1を強く保持しやすくなる。
【0063】
また、図6に示した接続部材7aを構成するばね素線径がストランド材1を構成する金属素線5の径より大径であると良い。ストランド材1を締め付けて強固に接続するためには、接続部材7aを構成するばね素線の強度がある程度要求されるが、相対的に比較してばね素線径がストランド材1の金属素線5の径より大径であると、接続状態を維持するために必要な接続部材の強度を得やすくなる。
【0064】
また、図6に示した形態の代わりに、図7に示されるように、環状コア部3及び外層部4を構成するストランド材1の巻き付け始端部1aと巻き付け終端部1bとは、重複接続部7bで接続されていてもよい。この重複接続部7bでは、ストランド材1が、互いに均等に撚り合わされており、その撚り合わせ部分では、互いのストランド材1同士が塑性変形して一体化されている。このように、ストランド材1の巻き付け始端部1aと巻き付け終端部1bとが、重複接続部7bで互いに撚り合わされて塑性変形して接続されているので、接続するための別個の部品を不要とすることができ、これにより、コード表面の出っ張りも極力抑えることができ、伝動ベルトB1に用いて好適なものとすることができる。
【0065】
また、重複接続部7bは結合部分におけるストランド材1の変形を阻害しないため、結合部分とその他の箇所とのストランド材1の可撓性を同等にでき、環状金属コードC1の機械的特性を全周に亘って略均一にすることができる。
また、ストランド材1の重複接続部7bにおける互いの撚り合わせ方向は、ストランド材1における金属素線5の撚り方向と同一方向とされている。これにより、この重複接続部7bでは、金属素線5の撚り戻しを生じさせずに、少ない撚り回数で容易にストランド材1を塑性変形させることができるため、強度低下を抑制した状態で接続され、疲労強度の低下も抑制されている。
【0066】
重複接続部7bにおける具体的な撚り回数としては、2〜5回が好ましく、この撚り回数とすれば、ストランド材1の巻き付け始端部1aと巻き付け終端部1bとを十分な強度で接続することができ、しかも、撚り過ぎによる塑性変形量のばらつきを抑制して金属素線5の脆弱化を抑え、強固な接続状態を維持させることができる。
【0067】
また、図6及び図7に示した始端部1aと終端部1bとの接続部分(接続部材7a、重複接続部7b)は、環状金属コードC1の円弧に対して、その円弧の内周側及び外周側を除く両側部側の一方、すなわち、環状金属コードC1における内周と外周との略中間に配置されている。このように、引張力、圧縮力の作用が最小な環状金属コードC1の内周と外周との略中間に接続部分を配置したので、環状金属コードC1が径方向に変形しても、接続部分に作用する負荷の低減を図ることができ、接続部分における破断を抑制できる。
【0068】
このように、環状金属コードC1は、環状コア部3を構成するストランド材1に外層部4を構成するストランド材1を巻き付けた後に、接続部材7aを用いるか、または重複接続部7bを形成してストランド材1の始端部1aと終端部1bとを接続することによって形成されている。
【0069】
続いて、環状金属コードC1の製造方法について説明する。図8は、環状金属コードC1を製造するための製造装置の一例を示す斜視図である。
この製造装置M1は、環状コア部3を周方向に回転させるドライビングユニット40と、リール51に巻かれたストランド材1を環状コア部3の巻き付け部に供給するストランド材1のサプライ部50とを有する。
【0070】
上記ストランド材1のサプライ部50は、所定位置に固定されている。
ドライビングユニット40は、弓形の保持アーム41に設置され、駆動モータと連結された、環状コア部3を周方向に回転させる2つのピンチローラ42a,42bを有する。
【0071】
上記保持アーム41には、環状コア部3の回転方向と逆方向に位置するストランド材1の供給側に、環状コア部3の周囲を囲むクランプユニット43を設けている。このクランプユニット43は、2個のローラ43a,43bからなり、環状コア部3の横方向の振れを防止し、安定した周方向回転を維持し、ストランド材1の巻き付け点の位置決めを行い、高い巻き付け性を得ている。なお、この例では環状コア部3を垂直にして横振れを抑えて、周方向に回転させている。
【0072】
上記2個のローラ43a,43bからなるクランプユニット43は、環状コア部3の横方向の振れを防止し、最終仕上げコード径でも環状コア部3の周囲を囲んで、安定した周方向回転を維持し、ストランド材1の撚り口として、巻き付け点を固定する機能を持たせればよいので、溝形状は特に拘らず、コ字形の溝形状のほか、円弧状の溝形状、V字形の溝形状でもよい。
【0073】
上記保持アーム41は、クランプユニット43の部分を支点にして、回転円盤61とクランクシャフト62からなる揺動機構60によって振り子運動するように、スタンド44に揺動可能に設置されている。
保持アーム41に保持された環状コア部3は、振り子運動の周期の一端で、図9の実線で示すように、リール51が、環状コア部3の輪の外に位置し、環状コア部3の振り子運動の周期の他端で、図10の実線で示すように、環状コア部3の輪の中に位置するように、スイングする。
【0074】
ストランド材1のサプライ部50には、前後一対の対向するカセットスタンド52が、保持アーム41に保持された環状コア部3の振り子運動を妨げない距離をおいて水平に設置され、カセットスタンド52の先端に、環状コア部3の面を挟んで対向するリール受け渡し機構が設けられている。
【0075】
サプライ部50は、ストランド材1を巻き取ったリール51と、このリール51の外径より少し大きい径で、且つ少なくともリール内幅に相当する円筒形状の外周壁を有するカセット53とからなる。リール51は、ストランド材1の巻き面全体を被うようにカセット53内に回転可能に収容され、所謂カートリッジ化されている。カセット53の外周壁には、巻き出し穴が形成され、この巻き出し穴からストランド材1が環状コア部3の巻き付け点のクランプユニット43に向かって引き出されている。ストランド材1は、予め調整されたコイル径でリール51に巻かれており、サプライ部50のカセット53内にセットされている。
【0076】
前記一対のカセットスタンド52の先端の対向位置には、それぞれカセット53を抜き差し自在に装着することができるガイドロッドと、一方のガイドロッドに装着されたカセット53を他方のガイドロッドに移し替える受け渡し機構とが設置されている。この受け渡し機構は、エアーシリンダによってロッドを出入りさせ、カセット53の中心部を押すことにより、一方のガイドロッドに装着されたカセット53を他方のガイドロッドに移し替えることができる。
【0077】
このような構成を有する製造装置M1を用いた場合、環状金属コードC1は以下の工程を経て製造される。
【0078】
図11に示すように、1本のストランド材1の始端側を環状に湾曲(ループ)させ、環状コア部3を形成する。
次いで、始端部1a近傍部分における2本分のストランド材1が重なる部分を、粘着テープ、紐あるいはスプリング等を巻き付けることによって仮止めする。
仮止め後、環状コア部3を製造装置M1のドライビングユニット40にセットし、この環状コア部3を周方向に回転させて、ストランド材1の環状コア部3への巻き付けを開始する。
【0079】
環状コア部3を周方向に回転させ、Z巻きの場合は、ストランド材1のリール51が環状コア部3の面に対して左側に位置し、図9に実線で示すリール51が環状コア部3の輪の外に位置する状態から、環状コア部3を、クランプユニット43を支点にして、図10に実線で示すリール51が環状コア部3の輪の中に入る位置まで、環状コア部3を振り子運動させ、カセットスタンド52の先端に設けてあるエアーシリンダにより、リール51を環状コア部3の面に対して直角に移動させ、他方のカセットスタンド52のガイドロッドにカセット53を移し替えると、巻き付けが半巻き行われる。その後、図10に実線で示すリール51が環状コア部3の輪の中に位置する状態から、環状コア部3を、クランプユニット43を支点にして、図9に実線で示すリール51が環状コア部3の輪の外に出る位置まで、環状コア部3を振り子運動させ、環状コア部3の輪の外で、再びエアーシリンダによりカセット53とともにリール51を環状コア面に対して直角に移動させると、1巻き付けが完了する。このような動作を繰り返すことにより、外層部4となるストランド材1は環状コア部3の外周面に螺旋状に巻き付けられることとなる。
【0080】
リール51は、所定位置で環状コア部3のコア面を横断往復し、環状コア部3は、ストランド材1の巻き付け点となるクランプユニット43を支点にして、振り子運動するので、リール51からストランド材1の巻き付け点までの距離がほぼ一定に保たれ、巻き付けの際に、リール51から引き出されるストランド材1が緩んだりせず、一定の張力下でストランド材1が環状コア部3に巻き付けられる。
【0081】
ストランド材1を巻いたリール51の移動軌跡と、振り子運動する環状コア部3の移動軌跡とを、図示すると、図12のようになる。
即ち、リール51が、環状コア部3の外側の図12(a)に示す位置にある状態から、図12(b)に示す環状コア部3の輪の中にリール51が位置する状態まで環状コア部3を振り子運動させ、この図12(b)に示す位置で、リール51を図10(c)に示す環状コア部3の反対面に移し替え、次いで、環状コア部3の反対面にリール51がある状態で、図12(c)に示す位置から図12(d)に示す環状コア部3の輪の外にリール51が位置する状態まで、環状コア部3を振り子運動させ、リール51を環状コア部3の反対面から元の面の始点位置(図12(a)の位置)に戻すというサイクルを繰り返す。このように、本実施形態では、図12の(a)→(b)→(c)→(d)→(a)のように、リール51に対して、環状コア部3を振り子移動させ、図12の(b)→(c)、(d)→(a)のように、環状コア部3のコア面に対してリール51を直角移動させることにより、ストランド材1を環状コア部3の周囲に螺旋状に巻き付けている。
【0082】
接続部分を図6の形態とするには、ストランド材1の巻き付け終了後、ストランド材1の始端部1a近傍部分の仮止めを取り外し、始端部1aと終端部1bとを、軸方向に沿って重ねた状態となるように、接続部材7aの内側に収容して接続する。
始端部1aと終端部1bを接続部材7aの内側に収容するには、まず、図13(a)に示すように、接続部材7aにおける一方側端部(図中右前側)からストランド材1の終端部1bを挿し入れていき、他方側端部(図中左奥側)から先端が露出するまで接続部材7aの内側に通す。また、接続部材7aにおける他方側端部(図中左奥側)のばね素線を隣り合うばね素線とのコイル隙間が広がるように移動させ、広げたコイル隙間にストランド材の始端部1aを挿し入れる。このとき挿し入れる長さは、接続部材7aより長くなるようにする。なお、最初に接続部材7aの内側に通す側を始端部1aとして、コイル隙間に挿し入れる側を終端部1bとしても良い。
【0083】
次いで、図13(a)に示すように、コイル隙間に挿し入れた始端部1aを、矢印に示す方向に沿って、すなわち接続部材7aの周囲を回るようにして、挿し入れた側と反対側の端部まで通すように、コイル隙間に沿って移動させる。これにより、始端部1aの非末端側は接続部材7aの端部内側に挿入された状態となり、始端部1aの末端側はコイル隙間から外側に飛び出た状態となり、始端部1aの非末端側から徐々に接続部材7aの内側に収容されていく。このとき、接続部材7aの内側では、予め挿入された終端部1bに対して始端部1aの非末端側が徐々に重ねられていく。
【0084】
そして、始端部1aを接続部材7aのコイル巻数の半分の回数まで接続部材7aの周囲を回していくと、図13(b)に示すように、接続部材7aの中央位置のコイル隙間から始端部1aの末端側が飛び出した状態となる。さらに始端部1aを回してコイル隙間に沿って移動させていくと、接続部材7aの中央位置からさらに終端部1bの端部に向かって徐々に始端部1aと終端部1bが重ねられた状態で接続部材7aの内側に収容されていく。
【0085】
さらに、始端部1aを回してコイル隙間に沿って移動させていき、コイル隙間に挿し入れた側と反対側の端部まで到達すると、図13(c)に示すように、接続部材7aの全長にわたって、始端部1aと終端部1bとが軸方向に沿って重なった状態で接続部材7aの内側に収容される。これにより、接続部材7aの圧縮力により始端部1aと終端部1bが強固に接続される。
その後、接続部材7aの外側に露出した始端部及び終端部の末端余長部6a,6bを切断して除去する。それにより、接続部分におけるストランド材1を接続部材7aの内側に収めて環状金属コードC1の他の箇所と形状を揃え、環状方向に略均一な構造となる。
【0086】
このように、本実施形態の接続方法では、ストランド材1の一方の端部を接続部材7aの内側に挿入し、他方の端部を接続部材7aにおける端部のばね素線間のコイル隙間に挿し入れて、挿し入れた側と反対側の端部までコイル隙間に沿って通すことで、ストランド材1の直径の2倍未満のスリーブ内径を有する接続部材7aの内側にストランド材1の始端部1aと終端部1bとを重ねて収容することが容易である。
【0087】
また、図14を参照して、始端部1aと終端部1bを接続部材7aの内側に収容して接続する他の方法について説明する。
まず、図14(a)に示すように、ストランド材1の始端部1aを、接続部材7aにおける一方側端部(図中左奥側)から接続部材7aの内側を通して接続部材7aにおける軸方向中間部まで挿し入れる。次に、接続部材7aの内側にあるストランド材1の始端部1aを、接続部材7aにおける軸方向中間部の隣り合うばね素線同士のコイル隙間から、図14(a)に示すように、接続部材7aの外側に引き出す。このとき、引き出す始端部1aに十分な余長をとる。
【0088】
また、ストランド材1の終端部1bも、始端部1aと同様にして、接続部材7aにおける他方側端部(図中右前側)から接続部材7aの内側を通して接続部材7aにおける軸方向中間部まで挿し入れる。さらに、接続部材7aの内側にあるストランド材1の終端部1bを、始端部1aを引き出したコイル隙間から、図14(a)に示すように接続部材7aの外側に引き出す。このときも、引き出す終端部1bに十分な余長をとる。
なお、始端部1a及び終端部1bを引き出す接続部材7aの軸方向中間部は、予めコイル隙間を広げた(例えばストランド材1の直径の1.5倍〜4.5倍)ものとしておくことで、引き出す作業を行ないやすくなる。
【0089】
その後、それぞれコイル隙間に挿し入れた始端部1aと終端部1bを、それぞれ矢印に示す方向に沿って、すなわち接続部材7aの周囲を回るようにして、挿し入れた側と反対側の端部まで通すように、コイル隙間に沿って移動させる。これにより、接続部材7aの中央位置から両端部に向かって徐々に始端部1aと終端部1bが重ねられた状態で接続部材7aの内側に収容されていく。
【0090】
さらに、始端部1aと終端部1bを回してコイル隙間に沿って移動させていき、挿し入れた側と反対側の端部まで到達すると、図14(b)に示すように、接続部材7aの全長にわたって、始端部1aと終端部1bとが軸方向に沿って重なった状態で接続部材7aの内側に収容される。これにより、接続部材7aの圧縮力により始端部1aと終端部1bが強固に接続される。
その後、接続部材7aの外側に露出した始端部及び終端部の末端余長部6a,6bを切断して除去する。それにより、接続部分におけるストランド材1を接続部材7aの内側に収めて環状金属コードC1の他の箇所と形状を揃え、環状方向に略均一な構造となる。
【0091】
このように、図14に示した形態の接続方法では、ストランド材1の始端部1aと終端部1bをそれぞれ、接続部材7aの両側から挿し入れ、接続部材7aにおける軸方向中間部のばね素線間のコイル隙間から引き出して、挿し入れた側と反対側の端部までコイル隙間に沿って通すことで、ストランド材1の直径の2倍未満のスリーブ内径を有する接続部材7aの内側にストランド材1の始端部1aと終端部1bとを重ねて収容することが容易である。
【0092】
図6の形態の接続部分を形成する際、ストランド材1は、環状コア部3側の始端部1aに対して外周層4側の終端部が傾斜されるため、結合部分が多少湾曲するが、接続部材7,7aはコイルバネ状スリーブからなる可撓性に優れたものであるので、接続部材7,7aを結合部分へ容易に装着することができる。
そして、上記のように、環状コア部3にストランド材1を巻き付けて始端部1aと終端部1bとを結合することにより、環状コア部3の周囲に外層部4を設けることができる。
【0093】
接続部分を図7の形態とするには、図15に示す円板(板体)71を2枚用いてストランド材1の始端部1aと終端部1bとを接続する。
【0094】
この円板71は、その中心に対して近接した偏心位置に、ストランド材1の径よりも僅かに大径の挿通孔73が形成されており、この挿通孔73にストランド材1が挿通可能とされている。また、この円板71には、その外周側で開放されたスリット74が円板71の中心まで形成されており、このスリット74は、その底部が円板71の中心位置に配置されている。このスリット74は、ストランド材1の径よりも僅かに大きな幅寸法を有しており、このスリット74にストランド材1が、円板71の外周側の開放部分から挿入可能とされている。また、スリット74の底部近傍ではスリット74の形成方向が曲げられており、それにより底部近傍に配置したストランド材1を円板71の径方向外側に移動させにくいようにしている。すなわち、ストランド材1をスリット74の底部で保持しやすい。
【0095】
上記円板71を用いてストランド材1の始端部1aと終端部1bと接続する場合は、図16に示すように、間隔をあけて平行に配置させた2枚の円板71のそれぞれのスリット74に、接続するストランド材1の始端部1a及び終端部1bを挿入し、さらに、対向側の円板71の挿通孔73を通して外部に所定寸法だけ延出させ、重複接続部7の長さとなる円板71同士の間隔よりも撚り代の長さを長くしておく。
【0096】
また、このとき、ストランド材1における互いに接続する接続対象部位以外の非接続対象部位に対して、複数のピンあるいは小径ローラを引っ掛け、これらピンあるいは小径ローラからなる係止部をストランド材1の接続対象部位から離間する方向へ移動させることで、接続対象部位から非接続対象部位の複数のストランド材1を引き離しておく。
【0097】
この状態で、円板71を互いに逆方向へ回転させる。これにより、円板71の挿通孔73及びスリット74に通されて拘束されたストランド材1が、円板71同士の間で撚り合わされる。
所定回数だけ撚り合わせたら円板71の回動を止め、円板71を互いに離間する方向へ移動させ、それぞれの円板71の挿通孔73からストランド材1の始端部1a及び終端部1bを引き抜き、さらに、円板71のスリット74からストランド材1を径方向に引き出すことにより取り外す。
【0098】
その後、図17に示すように、重複接続部7から延在する撚り代における非撚り余長部7cを、カッタ等によって切断除去する。
【0099】
これにより、図7に示されるように、金属線状体であるストランド材1は、その始端部1aと終端部1bとが互いに均等に撚り合わされ、その撚り合わされた重複接続部7bで塑性変形して一体化されて強固に接続された状態とされる。
【0100】
上記のようにストランド材1を接続すれば、円板71の間で、ストランド材1同士を容易にかつ低コストで均一に撚り合わせて塑性変形させて、強固に接続することができる。
また、円板71は、挿通孔73及びスリット74がストランド材1の保持部とされているので、スリット74へストランド材1を挿入し、このスリット74からなる保持部でストランド材1を容易に保持させることができ、また、挿通孔73にストランド材1を挿入して保持させた場合、ストランド材1を撚り合わせる際に、挿通孔73の内縁でストランド材1の外周を確実に保持させることができ、さらに均一に撚り合わせることができる。
【0101】
また、一対の円板71を用いてストランド材1同士を接続するので、設備費を大幅に低減することができる。
【0102】
そして、上記のように、環状コア部3にストランド材1を巻き付けて始端部1aと終端部1bとを結合することにより、環状コア部3の周囲に外層部4を設けることができる。
【0103】
図6または図7の何れかの形態で始端部1a及び終端部1bを結合した後、上述の環状コア部3及び外層部4に低温焼鈍処理を施すと良い。より具体的には、真空中又は減圧雰囲気中にアルゴンを導入した圧力室内で、環状コア部3及び外層部4に対して熱処理を施す。熱処理する際の温度は、70℃〜380℃である。これにより、金属素線5の内部歪みを除去することができ、歪みのない環状金属コードC1を得ることができる。このような環状金属コードC1を伝動ベルトに用いた場合、蛇行せずに回転する伝動ベルトを得ることができる。蛇行せずに回転する伝動ベルトは、周囲の部品と接触して磨耗することが無いため、長期間にわたって高性能を維持することができる。
【0104】
以上のように、本実施形態の伝動ベルトB1は、抗張力体として環状金属コードC1を有している。環状金属コードC1は、金属素線5を7本撚り合わせてなるストランド材1により、環状コア部3と、この環状コア部3に対して螺旋状に複数周巻き付けられて環状コア部3の外周面を覆う外層部4とが形成され、環状コア部3と外層部4が連続したストランド材1で形成されているので、環状金属コードC1を丈夫なものとすることができ、従来のように複数のストランド材を周方向の一箇所でまとめて結合する場合と比べて、環状金属コードC1が完全に破断する可能性を回避できる。つまり、ストランド材1から環状コア部3を形成し、かかる環状コア部3を軸芯として連続してストランド材1を巻き付けるため、破断強度の大きい環状金属コードを得ることができる。さらに、環状金属コードC1にかかる外力を連続した環状コア部3と外層部4により受けることができるため、付与された外力を環状金属コードC1全体で分散させて局所的に負荷が集中することを回避できる。
【0105】
しかも、外層部4を形成する際には、ストランド材1を複数本巻き付けるのではなく環状コア部3を構成するストランド材1を引き続き6周にわたって巻き付けるので、ストランド材1は1本あればよく、よって、ストランド材1を複数本使用する場合と比べて結合箇所が少なくなるため、環状金属コードC1の破断強度の低下を抑制できるとともに、製造を容易とすることができる。また、外層部4のストランド材1の巻き付けは所定の巻き付け角度で行なうので、ストランド材1の巻き乱れがなく、表面状態が略均一な環状金属コードC1を得ることができる。このような環状金属コードC1には外からの力が均一に付与されることとなるため、破断強度の低下をさらに抑制することができる。
【0106】
また、金属素線5の直径は、0.06mm以上0.40mm以下、もしくは0.06mm以上0.22mm以下であり、この場合、ストランド材1に適度な剛性をもたせることができ、ストランド材1を良好な耐疲労性を有するものとすることができる。
【0107】
また、環状コア部3と外層部4とが連続した1本のストランド材1から形成されている。この場合、環状コア部3の外周面に沿って、外層部4のストランド材1を実質的に隙間無く巻き付けることが可能となる。
【0108】
また、ストランド材1は金属素線5をS撚りしたものであるが、環状コア部3に対する外層部4となるストランド材1の巻き付けはZ撚りとなっている。この場合、表面外観に凹凸が少ないうえに捩れにくく、且つ環状コア部3に対する外層部4のストランド材1の巻き緩みが生じにくい環状金属コードC1を得ることができる。
【0109】
また、環状コア部3の中心軸に対するストランド材1の巻き付け角度は4.5度以上13.8度以下となっている。この場合、ストランド材1の巻き付け作業が容易となる。また、適度な伸度を有し、且つストランド材1の巻き緩みがない環状金属コードC1を得ることができる。
【0110】
また、外層部4となるストランド材1は環状コア部3の外周面に沿って6周巻き付けられている。これにより、外層部4が環状コア部3を密に覆うこととなるため、環状金属コードC1を幾何学的に安定したものとすることができる。その結果、破断強度及び耐疲労性に優れ、径方向の変形に耐え得る環状金属コードC1を確実に得ることができる。
【0111】
また、環状コア部3及び外層部4には低温焼鈍処理が施されている。この場合、金属素線5の内部歪みを除去することができる。内部歪みが除去された金属素線5を用いることで、更に破断しにくい環状金属コードC1を確実に得ることができる。
【0112】
また、図6の形態では、ストランド材1の端部同士が軸方向に沿って重ねられた状態で、コイルばね状スリーブからなる接続部材7aの内側に収容されて接続されており、ストランド材1の端部同士の結合が容易である。また、コイルばね状スリーブは良好な可撓性を有するため、螺旋状に巻かれたストランド材1の湾曲形状に合わせて柔軟に変形し、接続部に対する密着状態を維持するとともに、接続部におけるストランド材1の変形を接続部材7aが阻害しない。すなわち、環状金属コードC1の機械的特性を全周に亘って略均一にすることができる。さらに、接続部材7aはストランド材1の直径の2倍未満のスリーブ内径を有するため、接続部材7a内に重ねられたストランド材1に対して接続部材7aから圧縮力が作用し、強固に接続される。また、接続部に張力が作用した場合でも、コイルばね状スリーブが軸方向に伸びようとすることでストランド材1をさらに強く圧縮して締め付けるため、安定した接続状態が得られる。
【0113】
また、図7の形態では、ストランド材1の両端部が、重複接続部7bで互いに撚り合わされて塑性変形して接続されているので、接続するための別個の部品を不要とすることができ、これにより、コード表面の出っ張りも極力抑えることができ、伝動ベルトB1に用いて好適なものとすることができる。
【0114】
以上のように、破断強度及び耐疲労性に優れ、且つ製造が容易な環状金属コードC1を用いるため、伝動ベルトB1もまた、破断強度及び耐疲労性に優れ、かつ製造が容易なものとなる。
【0115】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されることなく、種々の変形が可能である。
例えば、環状コア部3を形成する際に、ストランド材1の一端側に余長部を形成して仮止めすることにより、この余長部によって外層部4の一部を構成させるようにしても良い。
【0116】
また、例えば、本実施形態の環状金属コードC1では、ストランド材1を環状コア部3の外周面に沿って6周巻き付けて外層部4を形成したが、これを、5周巻き付けとしてもよい。
または、図18に示すように、ストランド材1で1周分のループを形成し、続いてその周りに2周に亘り巻き付けることで、ストランド材1を3周巻き付けた環状コア部3を形成した後、引き続き7周から9周巻き付けてもよい。図18に示す構成によっても、外層部4が環状コア部3を密に覆うこととなるため、幾何学的に安定した構造となる。
なお、図18に示す形態で、外層部4のストランド材1を巻き付ける方向は、環状コア部3と逆方向にすることが好ましいが、同方向とする場合には、環状コア部3の巻き付けピッチを小さくし、外層部4の巻き付けピッチを大きくする(すなわち環状コア部3と外層部4の巻き付けピッチ差を大きくする)ことにより、外層部4のストランド材1が環状コア部3のストランド材1同士の撚り目に落ち込むことを防止できる。
【0117】
また、本実施形態の伝動ベルトB1の環状金属コードC1では、図5(a)に示されるように、環状コア部3の外周面を1層のストランド材1が覆っている。これを、環状コア部3の外周面を複数層のストランド材1が覆うようにしてもよい。例えば、環状コア部3の外周面を2層のストランド材1で覆う場合には、ストランド材1を環状コア部3の外周面に6周巻き付けて1層目を形成した後、かかる1層目の外周面にストランド材1を12周巻き付けて2層目を形成することとなる。なお、2層目に相当する12周の巻き付け方向は、1層目に相当する6周の巻き付け方向とは逆方向とすることが好ましいが、1層目と2層目の巻き付けピッチの差を大きくすれば同方向でも良い。このように巻き付け方向とピッチを工夫することは、良好な巻き付け性を得、凹凸の少ない外面を得る上で重要である。
【0118】
また、本実施形態の伝動ベルトB1の環状金属コードC1では、ストランド材1をS撚りとし、環状コア部3に対する外層部4のストランド材1の巻き付けをZ撚りで行なうこととしたが、ストランド材1をZ撚りとし、環状コア部3に対する外層部4のストランド材1の巻き付けをS撚りで行なうこととしてもよい。
【0119】
また、本実施形態の伝動ベルトB1の環状金属コードC1は、図5(a)に示されるように、断面が略円形状となっているが、断面を扁平形状としてもよい。この場合、略円形状の環状金属コードC1にプレス等を施して、変形させることとなる。
【0120】
また、本実施形態の伝動ベルトB1は、環状金属コードC1を5本有するとしたが、環状金属コードC1の本数はこれに限られない。求められる耐屈曲性及び耐久性に応じて、環状金属コードC1の本数を調整することが可能である。
【0121】
また、伝動ベルトの種類は一般産業用Vベルトに限られない。図19は、伝動ベルトの他の変形例を示す断面斜視図である。図19に示される伝動ベルトB2は、歯付タイミングベルトであって、環状金属コードC1を抗張力体とし被覆部80で覆ったものである。被覆部80は、例えばゴムといった材料を含んでいる。このような伝動ベルトB2もまた、破断強度及び耐疲労性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本実施形態に係る伝動ベルトの断面斜視図である。
【図2】伝動ベルトに使用される環状金属コードの斜視図である。
【図3】伝動ベルトに使用される環状金属コードを示す径方向の断面斜視図である。
【図4】伝動ベルトに使用される環状金属コードに含まれる環状コア部にストランド材を1周巻き付けた様子を示す斜視図である。
【図5】(a)は伝動ベルトに使用される環状金属コードを示す径方向の断面図であり、(b)はその環状金属コードの側面図である。
【図6】伝動ベルトに使用される環状金属コードの一部(接続部分)を示す拡大斜視図である。
【図7】伝動ベルトに使用される環状金属コードの一部(接続部分)を示す他の例の拡大斜視図である。
【図8】伝動ベルトに使用される環状金属コードを製造するための製造装置の一例を示す斜視図である。
【図9】環状コア部の振り子運動の周期の一端でリールが環状コア部の輪の外に位置する状態を実線で示し、環状コア部の振り子運動の周期の他端でリールが環状コア部の輪の中に位置する状態を鎖線で示した図6の装置の正面図である。
【図10】図7とは反対に、環状コア部の振り子運動の周期の一端でリールが環状コア部の輪の中に位置する状態を実線で示し、環状コア部の振り子運動の周期の他端でリールが環状コア部の輪の外に位置する状態を鎖線で示した図6の装置の正面図である。
【図11】伝動ベルトに使用される環状金属コードの環状コア部を形成する際の概念図である。
【図12】伝動ベルトに使用される環状金属コードを製造する際のリールの移動状態を上面から見たときの概念図である。
【図13】伝動ベルトに使用される環状金属コードを製造する際の接続工程を段階的に示す斜視図である。
【図14】伝動ベルトに使用される環状金属コードを製造する際の他の接続工程を段階的に示す斜視図である。
【図15】ストランド材の始端部と終端部との接続に用いる円板の平面図である。
【図16】ストランド材の始端部と終端部との接続の方法を説明する斜視図である。
【図17】接続後のストランド材の重複接続部の斜視図である。
【図18】環状金属コードの他の例を示す断面図である。
【図19】伝動ベルトの他の変形例を示す断面斜視図である。
【符号の説明】
【0123】
1…ストランド材、1a…始端部(端部)、1b…終端部(端部)、3…環状コア部、4…外層部、5…金属素線、7a…接続部材、7b…重複接続部、71…円板(板体)、73…挿通孔(保持部)、74…スリット(保持部)、20,80…被覆部、B1,B2…伝動ベルト、C1…環状金属コード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗張力体となる環状金属コードと、前記環状金属コードを覆う被覆部とを備え、
前記環状金属コードは、
金属素線を複数本撚り合わせてなるストランド材により、環状に形成された環状コア部と、前記環状コア部に対して螺旋状に複数周巻き付けられ前記環状コア部の外周面を覆う外層部と、が形成され、
前記環状コア部と前記外層部とは連続したストランド材により形成され、
前記ストランド材の端部同士が軸方向に沿って重ねられ、前記ストランド材の直径の2倍未満のスリーブ内径を有するコイルばね状スリーブからなる接続部材の内側に収容されて接続されていることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項2】
請求項1に記載の伝動ベルトであって、
前記接続部材は、密着コイルばね状スリーブからなることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項3】
請求項1または2に記載の伝動ベルトであって、
前記接続部材を構成するばね素線径が前記金属素線の径より大径であることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項4】
抗張力体となる環状金属コードと、前記環状金属コードを覆う被覆部とを備え、
前記環状金属コードは、
金属素線を複数本撚り合わせてなるストランド材により、環状に形成された環状コア部と、前記環状コア部に対して螺旋状に複数周巻き付けられ前記環状コア部の外周面を覆う外層部と、が形成され、
前記環状コア部と前記外層部とは連続したストランド材により形成され、
前記ストランド材の両端部は、互いに撚り合わされた重複接続部で塑性変形して接続されていることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項5】
請求項4に記載の伝動ベルトであって、
前記ストランド材の両端部の重複接続部における互いの撚り合わせ方向が、前記ストランド材における前記金属素線の撚り方向と同一方向であることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項6】
請求項5に記載の伝動ベルトであって、
前記重複接続部が、前記環状金属コードにおける内周と外周との略中間に配置されていることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項7】
請求項5または6に記載の伝動ベルトであって、
前記ストランド材の重複接続部における撚り回数が2〜5回であることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項8】
請求項1から7の何れか一項に記載の伝動ベルトであって、
1本の前記ストランド材によって前記環状コア部と前記外層部とが形成され、前記ストランド材の両端部同士が結合されていることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項9】
請求項1から8の何れか一項に記載の伝動ベルトであって、
前記ストランド材の一方の端部が前記環状コア部を形成した始端部であり、前記ストランド材の他方の端部が前記外層部を形成した終端部であることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項10】
請求項1から8の何れか一項に記載の伝動ベルトであって、
前記ストランド材の一方の端部が前記環状コア部を形成した際の余長部とされ、前記余長部が前記外層部の一部を構成していることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項11】
請求項1から10の何れか一項に記載の伝動ベルトであって、
前記金属素線の直径は、0.06mm以上0.40mm以下であることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項12】
請求項1から10の何れか一項に記載の伝動ベルトであって、
前記金属素線の直径は、0.06mm以上0.22mm以下であることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項13】
請求項1から12の何れか一項に記載の伝動ベルトであって、
前記金属素線の撚り方向と、前記環状コア部に対する前記外層部の巻き付け方向とが逆であることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項14】
請求項1から13の何れか一項に記載の伝動ベルトであって、
前記環状コア部の中心軸に対する前記ストランド材の巻き付け角度が4.5度以上13.8度以下であることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項15】
請求項1から14の何れか一項に記載の伝動ベルトであって、
前記ストランド材が、前記環状コア部の外周面に沿って5周または6周巻き付けられていることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項16】
請求項1から4の何れか一項に記載の伝動ベルトであって、
前記ストランド材が、前記環状コア部として環状に3周巻き付けられ、その外周面に沿って7周以上9周以下巻き付けられていることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項17】
請求項1から11の何れか一項に記載の伝動ベルトであって、
前記環状コア部及び前記外層部には低温焼鈍処理が施されていることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項18】
抗張力体となる環状金属コードと、前記環状金属コードを覆う被覆部とを備え、前記環状金属コードが、環状に形成された環状コア部と、前記環状コア部に対して螺旋状に複数周巻き付けられて前記環状コア部の外周面を覆う外層部とを有する伝動ベルトの製造方法であって、
金属素線を複数本撚り合わせてなるストランド材を所定の環状径に巻いて始端部あるいは始端部近傍を仮止めして環状コア部を形成した状態で、前記ストランド材を前記環状コア部に対して螺旋状に複数周巻き付けることにより前記環状コア部の外周面を覆う外層部を形成し、
その後、前記ストランド材の始端部と終端部とを、軸方向に沿って重ねた状態となるように、前記ストランド材の直径の2倍未満のスリーブ内径を有するコイルばね状スリーブからなる接続部材の内側に収容して接続し、
さらに、前記接続部材の外側に露出した前記始端部及び前記終端部の末端を切断して除去することを特徴とする伝動ベルトの製造方法。
【請求項19】
請求項18に記載の伝動ベルトの製造方法であって、
前記外層部を形成した後、
前記ストランド材の前記始端部または前記終端部の一方を、前記接続部材における一方側端部から内側を通して他方側端部まで挿通させ、
前記接続部材における他方側端部のばね素線を隣り合うばね素線とのコイル隙間が広がるように移動させ、広げたコイル隙間に前記ストランド材の前記始端部または前記終端部の他方を挿し入れて、さらにコイル隙間に沿って前記接続部材における一方側端部まで通すことにより、
前記ストランド材の始端部と終端部とを、軸方向に沿って重ねた状態で前記接続部材の内側に収容して接続することを特徴とする伝動ベルトの製造方法。
【請求項20】
請求項18に記載の伝動ベルトの製造方法であって、
前記外層部を形成した後、
前記ストランド材の前記始端部を、前記接続部材における一方側端部から内側を通して前記接続部材における軸方向中間部まで挿し入れて前記接続部材における軸方向中間部の隣り合うばね素線同士のコイル隙間から引き出し、
前記ストランド材の前記終端部を、前記接続部材における他方側端部から内側を通して前記接続部材における軸方向中間部まで挿し入れて前記接続部材における軸方向中間部の隣り合うばね素線同士のコイル隙間から引き出し、
コイル隙間から外側に突出する前記ストランド材の前記始端部を、コイル隙間に沿って前記接続部材における前記他方側端部まで通すとともに、コイル隙間から外側に突出する前記ストランド材の前記終端部を、コイル隙間に沿って前記接続部材における前記一方側端部まで通すことにより、前記ストランド材の前記始端部と前記終端部とを前記接続部材の内側に収容し軸方向に沿って重ねた状態で接続することを特徴とする伝動ベルトの製造方法。
【請求項21】
請求項5から7の何れか一項に記載の伝動ベルトを製造する方法であって、
前記ストランド材を保持可能な一対の保持部が間隔をあけて設けられた一対の板体を間隔をあけて配設し、
前記板体の前記保持部にそれぞれのストランド材の端部近傍をそれぞれ保持させて互いのストランド材の端部近傍を軸方向に重なるように架け渡し、
前記板体を、前記一対の保持部の間を回転中心として逆方向へ相対的に回転させることにより、これら板体の間で前記ストランド材同士を撚り合わせて塑性変形させた重複接続部を形成して接続し、前記環状金属コードを形成することを特徴とする伝動ベルトの製造方法。
【請求項22】
請求項21に記載の伝動ベルトの製造方法であって、
前記板体の前記保持部として、前記板体の外周側が開放され、前記回転中心近傍まで延びるスリットを形成し、このスリットに前記ストランド材を挿入することにより、前記ストランド材をスリット内で保持させることを特徴とする伝動ベルトの製造方法。
【請求項23】
請求項22に記載の伝動ベルトの製造方法であって、
前記板体は、前記保持部の一方が、前記スリットからなり、前記保持部の他方が、前記ストランド材が挿通可能な挿通孔からなることを特徴とする伝動ベルトの製造方法。
【請求項24】
請求項21から23の何れか一項に記載の伝動ベルトの製造方法であって、
前記ストランド材の端部同士を撚り合わせて接続する際に、前記ストランド材の端部の撚り代の長さを前記重複接続部の長さよりも長くしておくことを特徴とする伝動ベルトの製造方法。
【請求項25】
請求項21から24の何れか一項に記載の伝動ベルトの製造方法であって、
前記ストランド材の撚り代を撚り合わせて塑性変形させた後、前記撚り代における非撚り余長部を切断除去することを特徴とする伝動ベルトの製造方法。
【請求項26】
請求項21から25の何れか一項に記載の伝動ベルトの製造方法であって、
前記ストランド材の端部同士を撚り合わせて接続する際に、前記ストランド材における互いに接続する接続対象部位以外の非接続対象部位に対して、複数の係止部を引っ掛け、これら係止部により前記非接続対象部位を前記接続対象部位から離間する方向へ移動させておくことを特徴とする伝動ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−249126(P2008−249126A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−148297(P2007−148297)
【出願日】平成19年6月4日(2007.6.4)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【出願人】(504211429)栃木住友電工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】