説明

伝動ベルト用プーリ及びベルト伝動装置

【課題】伝動ベルト3の蛇行を防止すると共に、ベルトの走行位置を切り換え可能にする。
【解決手段】プーリ本体5をプーリ軸C1周りに回転自在にかつ、プーリ本体5の回転方向前側に傾倒角αで傾倒した枢軸C2周りに揺動自在に支持する。軸荷重が枢軸C2の位置に対してずれたときに、プーリ本体5を少なくとも軸荷重の方向において高低差を生ずるように傾斜させ、軸荷重が枢軸C2の位置となるように伝動ベルト3を戻す力を発生させる。移動機構6によって、枢軸C2を構成するピン17をプーリ軸C1方向に往復動させ、それによって伝動ベルト3に作用する力によって、伝動ベルト3の走行位置を移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルト用プーリ及びベルト伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
平ベルトを用いた伝動装置においては、平ベルトが走行中に蛇行したり、プーリの片側に寄る片寄り走行をすることがある。これは、平ベルトが、他の伝動ベルトに比べて、プーリ軸の正規位置からのずれや、軸荷重の変化によるプーリ軸のたわみ、プーリの揺れなど、伝動装置構成要素の変化に敏感なためである。このような蛇行・片寄り走行を生じた場合、平ベルトが平プーリのフランジに接触して、該平ベルト側面の毛羽立ちや心線のほつれを生ずる。
【0003】
この問題に対して、平プーリの外周面にクラウンをつける(中高曲面に形成する)ことが知られている。また、プーリ外周面のクラウンを該プーリの回転中心を中心とする球状に形成するという提案もある(特許文献1参照)。これは、平ベルトの左側部と右側部とに張力差を生じてプーリ軸が傾き、それに伴って平ベルトがプーリ上で片寄ったときに、平ベルトの張力によってプーリに回転モーメントが働くことを利用して、プーリ軸の傾き及び平ベルトの蛇行を解消せんとするものである。
【0004】
また、平プーリの外周面に多数の溝を周方向に間隔をおいて形成したものが知られている(特許文献2参照)。すなわち、その溝は、プーリの幅中央から両側へ「く」の字状になるように対称に延びたものであり、平ベルトとプーリとの間に平ベルトを中央に寄せるような摩擦力を発生させることにより、該ベルトの蛇行を防止するようにしている。
【0005】
さらに、平ベルトの両側にガイドローラを配置し、この平ベルトの走行位置を規制することも知られている(特許文献3参照)。
【特許文献1】実開昭59−45351号公報
【特許文献2】特開平6−307521号公報
【特許文献3】実公昭63−6520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、プーリにクラウンを形成する場合、平ベルトの走行安定性(蛇行や片寄りの防止)を重要視してクラウンの曲率半径を小さくすれば、ベルトの幅中央に応力が集中し、ベルト幅全体を伝動に有効に利用することができず、心線の早期疲労及び伝動能力の低下を招く。
【0007】
また、プーリのクラウンを該プーリの回転中心を中心とする球状に形成した場合、仮に伝動ベルトの蛇行防止の効果が高まるとしても、プーリのクラウンによってベルトの幅中央に応力が集中するという問題は依然として残る。
【0008】
また、平プーリに上述の如き溝加工をすると、該平プーリの製造コストが高くなり、しかも、溝加工だけでは平ベルトの蛇行を確実に防止することは難しい。
【0009】
さらに、平ベルトの両側にガイドローラ等を配置してその走行位置を規制する方式を採用すると、平ベルトの両側がそのような規制部材に常時接触することになるため、その側面のほころび、心線のほつれを生じ易くなる。従って、それらを防止するための平ベルトに特殊な加工を施すことが必要になり、平ベルトの製造コスト低減に不利になる。
【0010】
以上のような理由から、平ベルト伝動装置は、Vベルトなど他のベルトに比べて、ベルトの曲げによるロスが少なく伝動効率が非常に高いにも拘わらず、十分に活用されていないのが実情である。
【0011】
そこで、本発明は、平ベルト、その他の伝動ベルトの蛇行を確実に防止することができるようにして、ベルト伝動装置を各種の産業機械、その他の機器に有効利用できるようにせんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、伝動ベルトの片寄りを生じたときに、この伝動ベルトの張力によってプーリ軸にかかる軸荷重の位置が変化することを利用してプーリを変位させ、伝動ベルトの蛇行を防止するようにした。
【0013】
さらに本発明は、その伝動ベルトの蛇行が防止される機構を利用して、伝動ベルトをプーリ上でプーリ軸方向に移動させ、それによってベルトの走行位置を変更可能にした。
【0014】
すなわち、本発明の伝動ベルト用プーリは、伝動ベルトが巻き掛けられるプーリ本体と、上記プーリ本体を、プーリ軸周りに回転自在にかつ、所定の枢軸周りに揺動自在に支持する支持手段と、を備え、上記枢軸は、上記プーリ軸方向に沿って見て軸荷重の方向に対して上記プーリ本体の回転方向前側に所定の傾倒角で傾倒し、上記支持手段は、上記枢軸を、上記プーリ本体のプーリ幅内において上記プーリ軸方向に往復動可能に構成される。
【0015】
この伝動ベルト用プーリによれば、枢軸をプーリ軸方向に対して静止させた状態において、伝動ベルトが上記枢軸に対してプーリ軸方向にずれることによって、軸荷重が枢軸の位置からプーリ本体幅方向の片側にずれて作用するようになると、その軸荷重によって、このプーリ本体に枢軸を中心とする回転モーメントが働き、プーリ本体が枢軸回りに回転変位する。
【0016】
このときに、詳しくは後述するが、上記枢軸はプーリ軸方向に沿って見て軸荷重の方向に対して上記プーリ本体の回転方向前側に所定の傾倒角で傾倒しているため、その傾倒角が90度であるときは、上記プーリ本体は、上記軸荷重が枢軸に対してずれた側とは反対側が高くなるように傾斜し、上記傾倒角が0度を超え90度未満であるときは、上記プーリ本体は傾斜するだけでなく、上記軸荷重が枢軸に対してずれた側がベルト走行方向の先側になった斜交い状態になる。
【0017】
このプーリ本体の傾斜及び/又は斜交いによって、プーリ本体から伝動ベルトに枢軸側への力が働き、伝動ベルトは枢軸の位置に移動する。
【0018】
つまり、軸荷重が枢軸の位置に作用しているときには、プーリ本体に回転モーメントが働かずにつり合った状態となる。このため、上記伝動ベルト用プーリでは、伝動ベルトは上記枢軸の位置において走行し、その結果、伝動ベルトの蛇行が防止される。
【0019】
上記は枢軸を静止させた状態で伝動ベルトがプーリ軸方向に移動した場合であるが、上記枢軸をプーリ軸方向に移動させたときにも、軸荷重が枢軸の位置からずれて作用することになる。その軸荷重によって、上述したように、プーリ本体は枢軸回りに回転変位し、プーリ本体から伝動ベルトに枢軸側への力が働く。その結果、伝動ベルトは移動後の枢軸の位置において走行する。つまり、上記枢軸のプーリ軸方向の位置を、上記プーリ本体のプーリ幅内において変えることによって、伝動ベルトの走行位置が変更される。このように、上記伝動ベルト用プーリは、伝動ベルトをプーリ本体から働く力によって移動をさせるものであり、例えばフランジに当てることによって伝動ベルトの走行位置を強制的に移動させるものではないため、上記プーリ本体にフランジは必要ない。つまり、フランジ接触によるベルト寿命の低下はない。
【0020】
従って、上記伝動ベルト用プーリは、枢軸を静止させた状態では伝動ベルトの蛇行を防止しつつ、枢軸を移動させることによって伝動ベルトの走行位置を変更することが可能であり、例えばクラッチ機構、変速機構等を含む、種々のベルト伝動装置に利用可能である。
【0021】
上記枢軸の傾倒角は、0度を超え90度を超えない角度範囲に設定されていることが好ましい。
【0022】
上記傾倒角が90度である場合、すなわち、枢軸が軸荷重の方向と直交している場合、プーリ本体は、伝動ベルトが枢軸に対してずれた側が軸荷重の方向に移動するように回転変位することになる。つまり、軸荷重の方向で高低をみれば、枢軸を挟んで伝動ベルトがずれた側が低く反対側が高くなるように傾斜する。言わば、プーリ本体の外周面がクラウンと同様に傾斜した状態となる。これにより、伝動ベルトには上記枢軸に対してずれた方向とは反対の方向への力が働く。
【0023】
上記傾倒角が90度未満である場合、伝動ベルトが枢軸に対してずれたときのプーリ本体の回転変位には、上記軸荷重の方向の成分だけでなく、軸荷重方向に直交する前後方向(上記伝動ベルトが上記プーリ本体に接触して走行している方向)の成分が加わる。つまり、プーリ本体は軸荷重方向に傾斜するだけでなく、伝動ベルトに対して斜交いになって接触した状態になる。
【0024】
そうして、上記枢軸は上記軸荷重方向を基準として上記プーリ本体の回転方向前側に傾倒しているから、伝動ベルトが枢軸に対してずれたときには、プーリ本体は伝動ベルトがずれた側がベルト走行方向の先側になった斜交い状態になる。このプーリ本体が斜交い状態で回転することにより、伝動ベルトにはプーリ本体から上記ずれをなくす方向の力が与えられる。
【0025】
結局、上記傾倒角が0度を超え且つ90度未満である場合は、伝動ベルトが枢軸に対してずれたときに、この伝動ベルト用プーリには、プーリ本体が軸荷重の方向に高低差を生ずるように傾斜することによる力と、プーリ本体が伝動ベルトに対して斜交いになることによる力との双方が働くことになる。
【0026】
上記傾斜による力と上記斜交いによる力とでは、後者の方がベルトを移動させる効果が高い。
【0027】
従って、好ましいのは、上記傾倒角を0度を超え90度未満とすることである。さらに好ましいのは、上記斜交いによる力を有効に利用するために、上記傾倒角を0度を超え45度以下とすることである。一方、上記傾倒角が0度近くになると、上述の枢軸を中心とする回転モーメントが発生しにくくなる。従って、さらに好ましいのは、上記傾倒角を5度以上45度以下、或いは10度以上30度以下とすることである。
【0028】
そうして、傾倒角を0度を超え90度未満とすることによって、伝動ベルトの移動を効果的に行い得ることは、伝動ベルトの走行位置の切り替えも効果的に行い得ることと等価である。
【0029】
上記プーリ本体は、上記プーリ軸方向に並んだ2以上のベルト走行位置にわたる幅を有し、上記支持手段は、上記枢軸を上記各ベルト走行位置に位置付けるように構成することが好ましい。
【0030】
この構成によれば、上記枢軸が2以上のベルト走行位置それぞれに位置付けられことによって、伝動ベルトは2以上の走行位置それぞれにおいて走行することになる。そのため、例えばクラッチ機構、変速機構等を含む、種々のベルト伝動装置に利用する上で有利になる。
【0031】
上記支持手段は、上記プーリ本体に一体に設けられて、該プーリ本体を上記プーリ軸周りに回転自在に支持する筒状の軸部材と、上記筒状の軸部材に内挿されかつ、上記プーリ軸と同軸に延びる支持ロッドと、上記支持ロッドに対してその軸方向に往復動可能に支持されかつ、上記軸部材を上記プーリ本体と共に上記支持ロッドに対して揺動可能に支持するピンと、上記ピンを往復動させるための動力を発生する動力源と、を含む、としてもよい。
【0032】
この構成によると、動力源が発生させた動力によってピンを支持ロッドの軸方向に移動させると、それに伴い軸荷重が枢軸に対してずれることになり、プーリ本体は上記ピン回りに回転変位して、当該ずれがなくなる方向に伝動ベルトに力が働く。そうして、伝動ベルトはピンの移動に追従してプーリ軸方向に移動をする。
【0033】
上記動力源としては、バキュームシリンダ、モータ、リニアモータ、ソレノイド、油圧シリンダ等、種々の動力源を採用可能である。
【0034】
本発明のベルト伝動装置は、上記の伝動ベルト用プーリと、原動側プーリと、従動側プーリと、上記伝動ベルト用プーリ、原動側プーリ及び従動側プーリ間に巻き掛けられた伝動ベルトと、を備えている装置である。
【0035】
従って、伝動ベルト用プーリの枢軸をプーリ軸方向に対し静止させた状態では、伝動ベルトに対して安定した張力を与えながら、該伝動ベルトの蛇行を防止することができ、伝動ベルトの伝動能力を十分に発揮させる上で有利になる。
【0036】
一方、上記伝動ベルト用プーリの枢軸をプーリ軸方向に移動させることによって、伝動ベルトの走行位置を切り換えることができるため、上記ベルト伝動装置は、変速機構、及びクラッチ機構を備えた装置とすることができる。
【0037】
ここで、上記原動側プーリ及び従動側プーリの内のいずれか一方は、その回転軸方向に並設されかつ、互いに略面一の外周面を有する複数のプーリを有する、としてもよい。
【0038】
すなわち、複数のプーリのいずれか一つをクラッチプーリと、他のプーリを動力伝達プーリとすれば、上記ベルト伝動装置はクラッチ機構を備えた装置となる。また、複数のプーリを互いに速比の異なるプーリとすれば、上記ベルト伝動装置は変速機構を備えた装置となる。
【0039】
そうして、上記ベルト伝動装置は、複数のプーリ間で伝動ベルトを変位させることによって、動力伝達の断続や変速を行うため、電磁クラッチが不要になると共に、動力伝達の断続又は変速をスムースに行って、伝動ベルトの負荷変動を小さくする上で有利になる。
【0040】
上記伝動ベルトとしては、平ベルト、歯付ベルト(タイミングベルト)などその種類は問わない。平ベルトの場合は、その内面(伝動面)及び外面(背面)のいずれをプーリ本体に接触させるようにしてもよいが、歯付ベルトでは外面(背面)をプーリ本体に接触させることが好ましい。
【発明の効果】
【0041】
以上のように、本発明によれば、プーリ本体を支持手段によってプーリ軸周りに回転自在にかつ枢軸周りに揺動自在に支持し、上記枢軸を上記プーリ軸方向に沿って見て軸荷重の方向に対して上記プーリ本体の回転方向前側に所定の傾倒角で傾倒したから、伝動ベルトがプーリ軸方向に移動して軸荷重が枢軸に対してずれたときに、プーリ本体を少なくとも傾斜した状態にすることができ、上記枢軸をプーリ軸方向に対して静止させた状態では、伝動ベルトの蛇行を速やかに且つ確実に解消することができる。
【0042】
そして、上記枢軸を上記プーリ軸方向に往復動可能にしたから、プーリ本体から伝動ベルトに働く力によって、伝動ベルトを枢軸の移動に追従して移動させることができ、簡単な構造で伝動ベルトの走行位置を変えることができる。
【0043】
また、伝動ベルト用プーリを備えたベルト伝動装置によれば、伝動ベルトに対して安定した張力を与えながら、該伝動ベルトの蛇行を防止することができ、伝動ベルトの伝動能力を十分に発揮させる上で有利になる一方で、伝動ベルトの走行位置を変えることができるから、例えばクラッチ機構、変速機構等を含む、種々のベルト伝動装置を構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0045】
図1に示すベルト伝動装置において、1は原動側プーリ(平プーリ)、2は従動側プーリ(平プーリ)であり、この両プーリ1,2に伝動ベルト(平ベルト)3が巻き掛けられ、この伝動ベルト3に張力を付与すべくテンションプーリ4が伝動ベルト3に押し当てられている。このベルト伝動装置は、後述するように、クラッチ機構を含む伝動装置である。
【0046】
上記原動側プーリ1は、図示省略の原動軸に嵌め込まれて、この原動軸と回転一体にされている。この原動側プーリ1は、上記伝動ベルト3の幅の2倍以上の幅を有するプーリであって、後述するように、伝動ベルト3の走行位置が変更されても、常にベルト3が巻き掛けられた状態を保つ。
【0047】
上記従動側プーリ2は、互いに同軸とされた動力伝達プーリ22と、クラッチプーリ23との2つのプーリからなり、動力伝達プーリ22にはギヤ24が回転一体に取り付けられている。上記動力伝達プーリ22及びクラッチプーリ23は、その2つのプーリ面の間に僅かな隙間が形成されるように配設されていると共に、2つのプーリ面は略面一の状態にされている。そうして、図1に仮想線で示すように伝動ベルト3が動力伝達プーリ22に巻き掛けられた状態では、その伝動ベルト3によって原動軸の動力がギヤ24に伝達される動力伝達状態となり、図1に実線で示すように伝動ベルト3がクラッチプーリ23に巻き掛けられた状態では、原動軸の動力がギヤ24に伝達されない動力遮断状態となる。
【0048】
上記テンションプーリ4は、付勢アーム16の先端に取り付けられてこのアーム16によって伝動ベルト3に押し付けられている。このテンションプーリ4は、図1〜3に示すように、伝動ベルト3が巻き掛けられるプーリ本体5と、プーリ本体5をプーリ軸C1周りに回転自在にかつ枢軸C2周りに揺動自在に支持する支持手段10と、を備えている。
【0049】
上記支持手段10は、プーリ本体5をベアリング12によって支持する筒状の軸部材11と、支持ロッド13と、枢軸C2を構成するピン17と、上記ピン17を上記プーリ軸C1方向に往復動させる移動機構6と、備えて構成される。上記移動機構6は、本実施形態では、後述するようにエアシリンダ71とピストン72とを含むピストン・シリンダ機構が採用されているが、これに限るものではない。
【0050】
上記支持ロッド13は、上記付勢アーム16の先端にナットによって固定される取付部13aと、該取付部13aの一端に続いて設けられた支持部13bとからなる。
【0051】
この支持部13bは、円形断面における直径方向に対応する部位をD字状にカットされており、このDカットによって、図2,4に示すように、互いに平行になった平坦な摺動面8c,8cがその外周面に形成されている。また、この摺動面8c,8cの両側縁を結ぶ両サイドの円弧面が、上記支持部13bの外周面によって形成されている。
【0052】
また、上記支持部13bは、その内部に軸方向に延びて形成された挿入孔91と、径方向に相対向して、それぞれ軸方向に延びる2つの長穴92と、を備えている。この支持部13bにおいて、上記取付部13aとは逆側の端(以下、取付部13aとは逆側の端を支持部13bの先端と呼び、取付部13a側の端を支持部13bの基端と呼ぶ)にはエアシリンダ71が取り付けられており、上記挿入孔91はエアシリンダ71の内部に連通している。この挿入孔91には、上記エアシリンダ71内に配設されたピストン72のピストンロッド73が内挿される。また、上記各長穴92は、プーリ本体5のプーリ幅よりも短い長さに設定されている。
【0053】
2つの摺動面8c,8cの内の、図1に示す状態で下側に位置する摺動面8cには、ピン状の規制部材9が、プーリ軸C1方向に所定の間隔を空けて2つ嵌め込まれており、この規制部材9によって後述するように、プーリ本体5(軸部材11)がピン17周りに揺動することを許容しつつ、上記プーリ本体5(軸部材11)がプーリ軸C1方向に移動することを規制している。
【0054】
上記軸部材11は、上記支持部13bに外挿されており、その内周面には、それぞれ断面D字状を有する2つの摺動部材19が、直径方向に相対向して取り付けられている。この摺動部材19によって、上記軸部材11の内面には、上記支持部13bの摺動面8c,8cが摺動自在に接触する平坦な摺動面11a,11aが相対向するように形成されている。また、この摺動面11a,11aの両側縁を結ぶ両サイドの円弧面が、上記軸部材11の内周面によって形成されている。そうして、上記軸部材11が支持部13bに外挿された状態では、上記支持部13bの両サイドの円弧面と、軸部材11の両サイドの円弧面との間に、隙間15,15が形成される。
【0055】
また、この2つの摺動部材19,19の内の、図1に示す状態で下側に位置する摺動部材19は、図3に示すように、その両端面が円弧状に形成されており、この円弧状端面33が、上記支持部13bに嵌め込まれた規制部材9に当接している。
【0056】
さらに、上記摺動部材19及び軸部材11には、上記摺動面11a,11aに直交する方向に開口する長穴31,32が、軸部材11の軸方向に延びて形成されており、この長穴31,32は、上記軸部材11を支持部13bに外挿した状態において、上記支持部13bに形成された長穴92と一体となって、その支持部13bから軸部材11までの間を径方向に延びる穴を形成する。尚、上記の摺動部材19は樹脂製としてもよい。
【0057】
上記ピン17は、上記ピストンロッド73に形成された孔に嵌め込まれてこのピストンロッド73を径方向に貫通しており、その両端部はそれぞれ、上記支持部13bに形成された長穴92,92を通って、上記軸部材11及び摺動部材19に形成された長穴31,32内に配設されている。このピン17は、図2に示すように、軸荷重方向Lに対しプーリ本体5の回転方向前側に所定の傾倒角αで傾倒して配置されている。
【0058】
そうして、支持部13bの両サイドの円弧面と軸部材11の両サイドの円弧面との間の隙間15,15と、規制部材9に当接する摺動部材19の円弧状端面33とによって、軸部材11がプーリ本体5と共に、ピン17によって構成される枢軸C2周りに、支持部13bに対して揺動することが可能とされている。また、上記ピン17は、上記長穴92,31,32内をプーリ軸C1方向に往復動可能であり、上記ピン17プーリ軸C1方向に対する位置を変更することによって、上記軸部材11及びプーリ本体5の揺動中心が変更されることになる。
【0059】
上記エアシリンダ71は、その内部がピストン72によって2室に仕切られ、その各室には接続口が設けられている。この各接続口を介してピストン72内の各室にエアを供給又は排出することによって上記2室の間に圧力差を設け、それによって上記ピストン72は上記エアシリンダ71内を往移動する。
【0060】
上記ピストン72にはピストンロッド73が取り付けられており、このピストンロッド73は上述したように、ピン17が嵌め込まれた状態で上記支持部13bの挿入孔91内に配設されている。そうして、上記ピストン・シリンダを駆動することによって、上記ピストンロッド73が挿入孔91内をプーリ軸C1方向に往復動するに伴い、上記ピン17は、上記長穴92,31,32内を軸方向に往復動し、それによって、枢軸C2が上記プーリ本体5のプーリ幅内において上記プーリ軸C1方向に往復動するようになっている。上記ピン17は、上記長穴92,31,32によって上記従動側プーリ2の動力伝達プーリ22位置に対応した動力伝達位置(図1の仮想線参照)と、クラッチプーリ23位置に対応した動力遮断位置(図1の実線参照)との2つの位置に、その位置が変更される。
【0061】
次に上記テンションプーリ4の動作について、図2,4〜6を参照しながら説明する。ここでは、理解容易のために、上記ピン17がプーリ本体5の幅方向中央に位置付けられていると仮定して、テンションプーリ4の動作を説明する。
【0062】
図5に示すように、プーリ本体5の幅の中央付近、つまりピン17の位置に掛かっていた伝動ベルト3が鎖線で示す如くプーリ本体5の中央からその片側へ寄ると、軸荷重はピン17の位置からプーリ本体5の片側にずれて軸部材11に作用するようになる。これにより、軸部材11にピン17を中心とする回転モーメントが働き、この軸部材11がプーリ本体5と共にピン17の回りに回転変位する。
【0063】
すなわち、図4に支持部13b、ピン17及び軸部材11を示すように、軸荷重の方向がピン17と平行であるとき(L0のとき)は、伝動ベルト3がピン17の位置からその片側へずれたとしても、このピン17周りの回転モーメントは発生しない。これに対して、軸荷重の方向がピン17の方向に対して角度αだけ傾いたLになると、伝動ベルト3がピン17の位置からその片側へ寄ったときに、その分力L1によってピン17周りの回転モーメントが発生し、軸部材11は回転変位することになる。上記角度αは、軸荷重Lの方向を基準とするピン17の傾倒角αに相当する。
【0064】
そうして、図2の場合は、軸荷重Lによって、プーリ本体5が傾倒したピン17周りに回転変位することにより、プーリ本体5は、図5(平面図)に示すように、伝動ベルト3ピン17に対してずれた側がベルト走行方向の先側になるようにこの伝動ベルト3に対して斜交い状態になり、また、図6(図2のVI矢視図)に示すように、伝動ベルト3がずれた側が低く、反対側が高くなるように軸荷重Lの方向において傾斜する。図2,5,6ではプーリ本体5が回転変位した状態を鎖線で示している。
【0065】
従って、伝動ベルト3には、プーリ本体5が斜交い状態になることによる戻し力(片寄りを戻す力)と、プーリ本体5が傾斜することによる戻し力とが働き、これによって、伝動ベルト3はそのピン17の位置で走行することになる。すなわち、ピン17をプーリ軸C1方向に対し静止させた状態では、伝動ベルト3の蛇行が防止される。
【0066】
上記実施形態の如く、上記プーリ4をテンションプーリとして使用すると、伝動ベルト3に対して安定した張力を与えることができ、伝動ベルト3の伝動能力を十分に発揮させる上で有利になる。
【0067】
尚、支持部13b及び軸部材11の摺動面8c,11aが軸荷重によって接触し、この両摺動面8c,11a間に適度の摺動抵抗が働く。よって、伝動ベルト3がピン17の位置付近を走行しているときに、プーリ本体5が伝動ベルト3の走行振動等によって微小揺動することが避けられるとともに、伝動ベルト3の位置がピン17に対してずれたときに、プーリ本体5が過敏に反応して回転変位し、それによって、プーリ本体5が左右に小刻みに揺動するハンチングを生ずることが防止される。
【0068】
このように、上記プーリ4は伝動ベルト3をピン17の位置で走行させることができるため、上記ピン17のプーリ軸C1方向に対する位置を変えることによって、ベルト3の走行位置を変更することができる。
【0069】
すなわち、図1に実線で示すように、上記ピストン・シリンダの駆動によって上記ピン17を動力遮断位置に位置付けた状態では、伝動ベルト3は、そのピン17の位置で走行することから、ベルト3はクラッチプーリ23に巻きかけられることになる。
【0070】
この状態で、上記ピストン・シリンダの駆動によって上記ピン17を支持ロッド13の先端側(図1の右側)に移動させると、伝動ベルト3がピン17に対して支持ロッド13の基端側に相対的にずれることになり、軸荷重Lが枢軸C2の位置からプーリ本体5幅方向の片側にずれて軸部材11に作用するようになる。その軸荷重Lによって、上述したように、プーリ本体5は枢軸C2回りに回転変位し、プーリ本体5から伝動ベルト3に、支持ロッド13の先端側(図1の右側)に向かう力が働く。上記ピン17を支持ロッド13の先端側へ移動させ続けると、上記伝動ベルト3には支持ロッド13の先端側に向かう力が働き続けることになり、上記伝動ベルト3は、上記ピン17の移動に追従して支持ロッド13の先端側に移動をする。そうして、図1に仮想線で示すように、上記ピン17が動力伝達位置に位置することによって、上記伝動ベルト3は、動力伝達プーリ22に巻き掛けられることになり、ギヤ24への動力伝達が開始されることになる。
【0071】
逆に、ピン17が動力伝達位置に位置付けられて、伝動ベルト3が動力伝達プーリ22に巻き掛けられた状態から、上記ピストン・シリンダを駆動することによって上記ピン17を支持ロッド13の基端側(図1の左側)に移動させると、伝動ベルト3がピン17に対して支持ロッド13の先端側に相対的に片寄ることになり、軸荷重Lが枢軸C2の位置からプーリ本体5幅方向の片側にずれて軸部材11に作用するようになる。その軸荷重Lによって、上述したように、プーリ本体5は枢軸C2回りに回転変位し、プーリ本体5から伝動ベルト3に、支持ロッド13の基端側(図1の左側)に向かう力が働く。そのため、上記ピン17を支持ロッド13の基端側へ移動させ続けると、上記伝動ベルト3には支持ロッド13の基端側に向かう力が働き続けることになり、上記伝動ベルト3は、上記ピン17の移動に追従して支持ロッド13の基端側に移動をする。そうして、図1に実線で示すように、上記ピン17が動力遮断位置に位置することによって、上記伝動ベルト3は、クラッチプーリ23に巻き掛けられることになり、ギヤ24への動力伝達が遮断されることになる。
【0072】
このように、上記ベルト伝動装置は、伝動ベルト3を、例えばプーリ本体5に設けたフランジに当てることによって強制的にその走行位置を変えるものではなく、プーリ本体5から伝動ベルト3に働く戻し力によって、その伝動ベルト3の走行位置を変更するものであるため、上記プーリ本体5にフランジは必要ない。つまり、フランジ接触によるベルト寿命の低下はない。尚、プーリ本体5には、フランジを設けてもよい。
【0073】
ここで、上記ピン17のプーリ軸C1方向への移動速度は、伝動ベルト3の走行速度が低速であるときは特に、伝動ベルト3がピン17の移動に追従可能な程度の速度に設定することが必要である。伝動ベルト3の移動速度は、ベルトの走行速度、ベルト長さ、スパン長さ、負荷、ベルトの特性(癖)、伝動レイアウト、傾倒角αの大きさ、プーリ本体5の回転変位の大きさ、その他の因子によって決まるため、ピン17の移動速度も、それらの因子を踏まえて適宜設定すればよい。
【0074】
また、ベルト伝動装置は、電磁クラッチが無くても動力伝達の断続を実現するものであり、動力伝達の断続又は変速をスムースに行って、伝動ベルトの負荷変動を小さくする上で有利になる。
【0075】
さらに、上記プーリ4は、ピン17を往復動させるだけで、ベルト3の走行位置を変更することが可能である。軸荷重は、支持ロッド13及び軸部材11に作用し、ピン17には作用しないことから、ピン17を往復動させる動力を小さくすることができる。その結果、移動機構6の大きさを小さくしたり、その構造を簡易にしたりすることができる。
【0076】
尚、プーリ本体5の外周面には緩やかなクラウンを付けるようにしてもよい。クラウンが緩やかであれば、伝動ベルト3に大きな負荷がかかることは避けられる。
【0077】
また、上記ベルト伝動装置は、従動側プーリ2を、動力伝達プーリ22とクラッチプーリ23とから構成してクラッチ機構を有する装置としたが、これに限らず、従動側プーリ2を、高速比用プーリと低速比用プーリとから構成して変速機構を有する装置に構成することも可能である。
【0078】
さらに、上記ベルト伝動装置は、ピン17を往復動させるための駆動源をシリンダ71によって構成したが、駆動源はこれに限らず、モータ、リニアモータ、ソレノイド、油圧シリンダ等、種々のデバイスを利用可能である。加えて、上記ベルト伝動装置は、伝動ベルト3が、互いに異なる2つの走行位置を走行するようにしているが、ピン17の駆動源をステッピングモータ等によって構成することで、伝動ベルト3を2以上の走行位置で走行させるようにすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】ベルト伝動装置の断面図である。
【図2】プーリの縦断面図である。
【図3】一部の部材を省略した図2のIII−III断面図である。
【図4】同プーリの使用状態において軸荷重によって軸部材に回転モーメントが発生することを説明する図である。
【図5】同プーリの使用状態を示す平面図である。
【図6】図2のVI矢視図である。
【符号の説明】
【0080】
1 原動側プーリ
2 従動側プーリ
3 伝動ベルト
4 テンションプーリ(伝動ベルト用プーリ)
5 プーリ本体
6 移動機構
10 支持手段
11 軸部材
13 支持ロッド
17 ピン
22 動力伝達プーリ
23 クラッチプーリ
71 エアシリンダ
72 ピストン
73 ピストンロッド
C1 プーリ軸
C2 枢軸
α 傾倒角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝動ベルトが巻き掛けられるプーリ本体と、
上記プーリ本体を、プーリ軸周りに回転自在にかつ、所定の枢軸周りに揺動自在に支持する支持手段と、を備え、
上記枢軸は、上記プーリ軸方向に沿って見て軸荷重の方向に対して上記プーリ本体の回転方向前側に所定の傾倒角で傾倒し、
上記支持手段は、上記枢軸を、上記プーリ本体のプーリ幅内において上記プーリ軸方向に往復動可能に構成されている伝動ベルト用プーリ。
【請求項2】
請求項1に記載のプーリにおいて、
上記枢軸の傾倒角は、0度を超え90度を超えない角度範囲に設定されている伝動ベルト用プーリ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のプーリにおいて、
上記プーリ本体は、上記プーリ軸方向に並んだ2以上のベルト走行位置にわたる幅を有し、
上記支持手段は、上記枢軸を上記各ベルト走行位置に位置付けるように構成されている伝動ベルト用プーリ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のプーリにおいて、
上記支持手段は、
上記プーリ本体に一体に設けられて、該プーリ本体を上記プーリ軸周りに回転自在に支持する筒状の軸部材と、
上記筒状の軸部材に内挿されかつ、上記プーリ軸と同軸に延びる支持ロッドと、
上記支持ロッドに対してその軸方向に往復動可能に支持されかつ、上記軸部材を上記プーリ本体と共に上記支持ロッドに対して揺動可能に支持するピンと、
上記ピンを往復動させるための動力を発生する動力源と、を含んでいる伝動ベルト用プーリ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載された伝動ベルト用プーリと、
原動側プーリと、
従動側プーリと、
上記伝動ベルト用プーリ、原動側プーリ及び従動側プーリ間に巻き掛けられた伝動ベルトと、を備えているベルト伝動装置。
【請求項6】
請求項5に記載のベルト伝動装置において、
上記原動側プーリ及び従動側プーリの内のいずれか一方は、その回転軸方向に並設されかつ、互いに略面一の外周面を有する複数のプーリを有しているベルト伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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