説明

伝播性を有するクロチアニジン製剤

【課題】殺蟻効果の適度な遅効性と、優れた伝播性とを発揮できるクロチアニジン製剤を提供すること。
【解決手段】伝播性を有するクロチアニジン製剤は、例えば、クロチアニジンをマイクロカプセルに内包したものであり、上記マイクロカプセルの壁膜の厚みが、1.8〜4μmである。この伝播性を有するクロチアニジン製剤は、シロアリを防除するための防蟻剤であり、例えば、土壌や木材の表面または内部に散布または注入して使用する。
【効果】シロアリに対する殺蟻効果の適度な遅効性と、優れた伝播性とを発揮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝播性を有するクロチアニジン製剤に関し、詳しくは、シロアリの防除に用いられる伝播性および遅効性を有するクロチアニジン製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ネオニコチノイド系化合物であるクロチアニジンは、即効性の殺蟻効果を有する防除剤として、広く知られている(特許文献1参照)。
シロアリは、コロニー内での活動に際し、本能的に触角やグルーミングによる相互検査(アログルーミング)を行うことが知られている。このため、シロアリに対する忌避性が乏しく、かつ殺蟻効果の遅効性を有する防蟻剤(シロアリ防除剤)によれば、一部のシロアリが防蟻剤と接触することで、殺蟻効果を他のシロアリに伝播させることができ、効率よくシロアリを駆除することができる。
【0003】
しかし、クロチアニジンの殺蟻効果は極めて早期に発現することから、クロチアニジンと接触し、またはクロチアニジンを摂取したシロアリ(薬剤暴露シロアリ)から他のシロアリ(薬剤未暴露シロアリ)へと殺蟻効果が伝播される前に、薬剤暴露シロアリに異常行動が発現することが多い。また、薬剤未暴露の健全なシロアリは、異常行動が発現したシロアリを避けることがある。このため、クロチアニジンの防蟻効果をシロアリのコロニー全体に伝播させることは困難である。
【0004】
一方、特許文献2には、ネオニコチノイド系化合物のマイクロカプセルを含有し、長期に亘って効力を持続できる有害生物防除組成物が記載されている。
【特許文献1】特許第3349551号公報
【特許文献2】特開2000−95621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、特許文献2には、同文献に記載のマイクロカプセルによれば、例えば、3ヶ月間、半年間などの長期間にわたってシロアリの防除効果を維持できることが記載されている(例えば、[発明の効果]欄参照)。
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献2に記載の有害生物防除組成物において、有効成分としてクロチアニジンを用いたときには、シロアリに対する殺蟻効果の遅効性(伝播性)を発現させることが困難である。
【0006】
そこで、本発明の目的は、殺蟻効果の適度な遅効性と、優れた伝播性とを発揮できるクロチアニジン製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために、クロチアニジン製剤のシロアリに対する遅効性の程度について、鋭意検討したところ、所定の試験において、シロアリ個体間での薬効の伝播が観察されたクロチアニジン製剤については、実際の使用においても、効率よくシロアリを防除できるとの知見を見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1) 予め標識がつけられたシロアリの職蟻と、シロアリの兵蟻とを、長さおよび幅の内法がそれぞれ10cmの容器内で土砂が厚さ3cmに敷き詰められ、かつクロチアニジンが表面1m2あたり3gの割合で散布された薬剤処理土壌に放虫し、1時間徘徊させた後、前記薬剤処理土壌を徘徊した薬剤接触シロアリの健全な職蟻10頭および兵蟻1頭と、前記薬剤処理土壌と接触していない薬剤非接触シロアリの職蟻100頭および兵蟻10頭とを、長さおよび幅の内法がそれぞれ10cmの容器内で土砂が厚さ3cmに敷き詰められた薬剤非処理土壌に放虫したときに、
前記薬剤非接触シロアリの職蟻は、前記薬剤非処理土壌への放虫から2時間後に、総数の50%以上が健全で、前記薬剤非処理土壌への放虫から3日以内に、全頭が死亡し、転倒し、または歩行障害を来し、かつ、
前記薬剤接触シロアリの兵蟻および前記薬剤非接触シロアリの兵蟻は、前記薬剤非処理土壌への放虫から2時間後に、総数の80%以上が健全で、前記薬剤非処理土壌への放虫から5日以内に、全頭が死亡し、転倒し、または歩行障害を来すことを特徴とする、伝播性を有するクロチアニジン製剤、
(2) 前記クロチアニジン製剤が、クロチアニジンをマイクロカプセルに内包したものであり、前記マイクロカプセルの壁膜の厚みが、1.8〜4μmであることを特徴とする、前記(1)に記載の伝播性を有するクロチアニジン製剤、
(3) シロアリを防除するための防蟻剤であることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の伝播性を有するクロチアニジン製剤、
(4) 土壌の表面または内部に散布または注入するための防蟻剤であることを特徴とする、前記(3)に記載の伝播性を有するクロチアニジン製剤、
(5) 木材の表面または内部に散布または注入するための防蟻剤であることを特徴とする、前記(3)に記載の伝播性を有するクロチアニジン製剤、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のクロチアニジン製剤によれば、シロアリに対し、殺蟻効果の適度な遅効性と、優れた伝播性とを発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のクロチアニジン製剤は、例えば、クロチアニジン((E)−1−(2−クロロ−1,3−チアゾール−5−イルメチル)−3−メチル−2−ニトログアニジン)をマイクロカプセルに内包したものであり、前記マイクロカプセルの壁膜の厚みが、1.8〜4μmである。
マイクロカプセルの調製方法としては、特に限定されず、化学的方法、物理化学的方法、物理的および機械的方法など、公知の方法が挙げられる。
【0011】
化学的方法としては、例えば、界面重合法、in situ 重合法、液中硬化被膜法などが挙げられる。
界面重合法としては、例えば、多塩基酸ハライドとポリオールとを界面重合させてポリエステルからなる膜を形成する方法、多塩基酸ハライドとポリアミンとを界面重合させてポリアミドからなる膜を形成する方法、ポリイソシアネートとポリオールとを界面重合させてポリウレタンからなる膜を形成する方法、ポリイソシアネートとポリアミンとを界面重合させてポリウレアからなる膜を形成する方法などが挙げられる。
【0012】
in situ 重合法としては、例えば、スチレンとジビニルベンゼンとを共重合させてポリスチレン共重合体からなる膜を形成する方法、メチルメタクリレートとn−ブチルメタクリレートとを共重合させてポリメタクリレート共重合体からなる膜を形成する方法などが挙げられる。
液中硬化法としては、例えば、ゼラチン、ポリビニルアルコール、エポキシ樹脂、アルギン酸ソーダなどを液中で硬化させる方法が挙げられる。
【0013】
物理化学的方法としては、例えば、単純コアセルベーション法、複合コアセルベーション法、pHコントロール法、非溶媒添加法などの水溶液からの相分離法や、有機溶媒からの相分離法などのコアセルベーション法などが挙げられる。この物理化学的方法における膜形成成分には、例えば、ゼラチン、セルロース、ゼラチン−アラビアゴムなどが挙げられる。また、ポリスチレンなどを用いる界面沈降法などを採用することもできる。
【0014】
物理的および機械的方法としては、例えば、スプレードライ法、気中懸濁被膜法、真空蒸着被膜法、静電的合体法、融解分散冷却法、無機質壁カプセル化法などが用いられる。この物理的および機械的方法における膜形成成分には、例えば、ゼラチン、アラビアゴム、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0015】
マイクロカプセルの調製方法は、クロチアニジンをマイクロカプセルに高濃度で内包させるという観点より、上記例示の調整方法の中でも特に、界面重合法が好適である。
次に、界面重合法によるマイクロカプセルの調製方法について、より詳細に説明する。
界面重合法によるマイクロカプセルの調製では、まず、有効成分としてのクロチアニジンと、油溶性膜形成成分と、溶媒とを含む油相成分を調製する。
【0016】
油溶性膜形成成分としては、例えば、ポリイソシアネート、ポリカルボン酸クロライド、ポリスルホン酸クロライドなどが挙げられる。
ポリイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネートなどの脂環族ポリイソシアネート、例えば、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの芳香脂肪族ポリイソシアネートなどが挙げられる。また、これらポリイソシアネートの誘導体、例えば、ダイマー、トリマー、ビウレット、アロファネート、カルボジイミド、ウレットジオン、オキサジアジントリオンなどや、これらポリイソシアネートの変性体、例えば、トリメチロールプロパンなどの低分子量のポリオールやポリエーテルポリオールなどの高分子量のポリオールを予め反応させることにより得られるポリオール変性ポリイソシアネートなども挙げられる。
【0017】
ポリカルボン酸クロライドとしては、例えば、セバシン酸ジクロライド、アジピン酸ジクロライド、アゼライン酸ジクロライド、テレフタル酸ジクロライド、トリメシン酸ジクロライドなどが挙げられる。
ポリスルホン酸クロライドとしては、例えば、ベンゼンスルホニルジクロライドなどが挙げられる。
【0018】
上記例示の油溶性膜形成成分は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。上記例示の油溶性膜形成成分の中では、特に、ポリイソシアネートを用いることが好ましく、さらには、脂肪族および脂環族のポリイソシアネート、とりわけ、ヘキサメチレンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネートのトリマーやポリオール変性ポリイソシアネートを用いることが好ましい。
【0019】
溶媒としては、上記の有効成分や油溶性膜形成成分を溶解しまたは分散し得るものであればよく、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソオクチル、アジピン酸ジノニル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジデシル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジドデシル、アジピン酸ジテトラデシル、アジピン酸ジヘキサデシル、アジピン酸ジオクタデシル、アジピン酸デシルイソオクチル、スベリン酸ジオクチル、スベリン酸ジイソノニル、セバシン酸ジオクチル、セバシン酸ジイソノニルなどの脂肪酸エステル類、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのエチレングリコールエステル類、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素類、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、例えば、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、例えば、ヘキサノール、オクタノール、ベンジルアルコール、フルフリルアルコールなどのアルコール類、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコール類、例えば、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、例えば、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアニリン、ピリジン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドなどの含窒素化合物類、例えば、アルキルベンゼン類、アルキルナフタレン類、アルキルフェノール類、フェニルキシリルエタンなどの石油系溶媒(より具体的には、石油留分より得られる種々の市販の有機溶媒、例えば、サートレックス48(高沸点芳香族系溶剤、蒸留範囲254〜386℃、モービル石油(株)製)、アルケンL(アルキルベンゼン、蒸留範囲285〜309℃、日本石油化学(株)製)、ソルベッソ150(アルキルベンゼン、蒸留範囲188〜209℃、エクソン化学(株)製)、ソルベッソ200(アルキルナフタレン、蒸留範囲226〜286℃、エクソン化学(株)製)、KMC−113(ジイソプロピルナフタレン、沸点300℃、呉羽化学工業(株)製)、SAS296(フェニルキシリルエタン、蒸留範囲290〜305℃、日本石油化学(株)製)など)、なたね油などの油類などが挙げられる。
【0020】
上記例示の溶媒は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
油相成分における各成分の配合割合は、特に限定されるものではないが、例えば、有効成分の配合割合は、油相成分の総量100重量部に対して、0.02〜99.9重量部、好ましくは、0.05〜99重量部である。
油溶性膜形成成分の配合割合は、油相成分100重量部に対して、0.1〜99.9重量部の範囲において配合可能である。なお、油溶性膜形成成分の配合割合が多くなると、得られるマイクロカプセルの壁膜が厚くなりすぎて、有効成分であるクロチアニジンによる防蟻効果が低下するおそれがあり、逆に、油溶性膜形成成分の配合割合が少なくなると、マイクロカプセルの壁膜を形成できなくなるおそれや、殺蟻効果の遅効性、伝播性が得られなくなるおそれがある。
【0021】
また、溶媒の配合割合は、各成分の残余の割合でよい。
油相成分は、有効成分および油溶性膜形成成分を溶媒に配合して、攪拌混合することにより調製することができる。
また、油相成分には、有効成分の分散性を向上させるべく、分散剤を配合してもよい。分散剤は特に限定されるものではなく、例えば、エチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、エステルゴム、フローレンDOPA・15B(変性アクリル共重合物、共栄社製)、フローレン700(分岐カルボン酸の部分エステル、共栄社製)などが挙げられる。また、本発明においては、分散剤として、例えば、3級アミンを含む分子量1000以上のものが好ましく用いられる。
【0022】
3級アミンを含む分子量1000以上の分散剤としては、3級アミンを含有するカチオン系の高分子重合体、例えば、3級アミン含有ポリエステル変性ポリウレタン系高分子重合体、3級アミン含有変性ポリウレタン系高分子重合体などが挙げられる。より具体的には、市販の分散剤、例えば、Disperbyk−161(3級アミン含有ポリエステル変性ポリウレタン系高分子重合体、分子量100000、ビッグケミー(株)製)、Disperbyk−163(3級アミン含有ポリエステル変性ポリウレタン系高分子重合体、分子量50000、ビッグケミー(株)製)、Disperbyk−164(3級アミン含有ポリエステル変性ポリウレタン系高分子重合体、分子量10000〜50000、ビッグケミー(株)製)、EFKA46(3級アミン含有変性ポリウレタン系高分子重合体、分子量8000、EFKAケミカル(株)製)、EFKA47(3級アミン含有変性ポリウレタン系高分子重合体、分子量13000、EFKAケミカル(株)製)、EFKA48(3級アミン含有変性ポリウレタン系高分子重合体、分子量18000、EFKAケミカル(株)製)、EFKA4050(3級アミン含有変性ポリウレタン系高分子重合体、分子量12000、EFKAケミカル(株)製)、EFKA4055(3級アミン含有変性ポリウレタン系高分子重合体、分子量12000、EFKAケミカル(株)製)、EFKA4009(3級アミン含有変性ポリウレタン系高分子重合体、分子量5000、EFKAケミカル(株)製)、EFKA4010(3級アミン含有変性ポリウレタン系高分子重合体、分子量5000、EFKAケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0023】
このような分散剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、上記した市販の分散剤は、通常、上記した溶媒などに、その濃度が50重量%以上となるような割合で希釈されている。
分散剤は、有効成分と、油溶性膜形成成分と、溶媒と、分散剤との、総量100重量部に対して、0.01〜99.99重量部の範囲において配合可能である。特に、20重量部以下、さらには10重量部以下で配合することが好ましい。
【0024】
油相成分の調製において、有効成分に防蟻防虫剤が配合される場合には、例えば、有効成分と、溶媒と、分散剤とを含むスラリーを調製し、さらに、スラリーを湿式粉砕した後、このスラリーに油溶性膜形成成分を配合することが好ましい。
湿式粉砕は、例えば、ビーズミル、ボールミル、またはロッドミルなどの公知の粉砕機を用いて、所定時間実施すればよい。湿式粉砕することにより、有効成分を微細な粒子として分散させることができ、カプセル化率の向上、製剤安定性の向上、および効力増強を図ることができる。
【0025】
また、このような湿式粉砕においては、有効成分の平均粒子径を、例えば、5μm以下、さらには2.5μm以下とすることが好ましい。平均粒子径がこれより大きいと、マイクロカプセルに良好に内包できない場合がある。
そして、湿式粉砕されたスラリーに、油溶性膜形成成分を配合するには、油溶性膜形成成分をスラリーに加えて攪拌混合すればよい。
【0026】
界面重合法によるマイクロカプセルの調製では、次いで、このようにして調製された油相成分を、水相成分に配合して、攪拌により界面重合させる。
水相成分は、例えば、水に、必要により、分散安定剤を配合することによって調製することができる。
分散安定剤としては、例えば、アラビヤガムなどの天然多糖類、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの半合成多糖類、ポリビニルアルコールなどの水溶性合成高分子、例えば、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン重縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩などのアニオン界面活性剤、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステルなどのノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。これら分散安定剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
なお、分散安定剤の配合割合は、例えば、水相成分100重量部に対して、例えば、20重量部以下、好ましくは、10重量部以下である。
油相成分を水相成分に配合するには、油相成分を水相成分中に加えて、常温下、微小滴になるまでミキサーなどによって攪拌すればよい。
そして、攪拌により界面重合させるには、例えば、油相成分の分散後に、水溶性膜形成成分を水溶液として滴下すればよい。
【0028】
水溶性膜形成成分としては、油溶性膜形成成分と反応して界面重合するものであれば、特に制限されず、例えば、ポリアミンやポリオールなどが挙げられる。
ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノトルエン、フェニレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ピペラジンなどが挙げられる。
【0029】
ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。
【0030】
これら水溶性膜形成成分は、単独で使用してもよく、また2種以上併用してもよい。好ましくは、ポリアミンが用いられる。
また、水溶性膜形成成分を水溶液とするには、約50重量%以下の濃度とすることが好ましく、このような水溶液を、例えば、水溶性膜形成成分が、油溶性膜形成成分に対してほぼ等しい当量(例えば、ポリイソシアネートとポリアミンとが用いられる場合では、イソシアネート基/アミノ基の当量比がほぼ1となる割合)となるまで滴下する。
【0031】
このような水溶性膜形成成分の滴下により、水溶性膜形成成分と油溶性膜形成成分とが、油相成分(溶媒)と水相成分(水)との界面で反応することにより、有効成分が内包されるマイクロカプセルを、水分散液として得ることができる。
この反応を促進するために、例えば、約25〜85℃、好ましくは、約40〜80℃で、約30分〜24時間、好ましくは、約1〜3時間攪拌しつつ加熱することが好ましい。
【0032】
そして、このようにして得られるマイクロカプセル(水分散液として調製されるものを含む。)には、必要により、増粘剤、凍結防止剤、比重調節剤などの公知の添加剤を適宜配合する。
本発明の伝播性を有するクロチアニジン製剤においては、殺蟻効果の適度な遅効性を発現させて、殺蟻効果の優れた伝播性を発揮させる観点より、マイクロカプセルの壁膜の厚さを1.8〜4μm、とりわけ、1.8〜3.5μmとすることが好ましい。
【0033】
マイクロカプセルを、その壁膜の厚さが1.8〜4μm、とりわけ、1.8〜3.5μmとなるように調製するには、例えば、界面重合法によるマイクロカプセルの調製において、油相成分を水相成分に配合した後の攪拌速度を適宜調節すればよい。
マイクロカプセルの壁膜の平均膜厚T(μm)は、後述するマイクロカプセルの体積平均粒子径D(μm)より、下記式(1)に基づいて求められる。
【0034】
T=(D/6)×(W1/W2)×(D2/D1) …(1)
(式(1)中、W1は、壁膜形成物質の重量(g)を示し、W2は、膜内物質の重量(g)を示し、D1は、壁膜形成物質の平均密度(g/cm3)を示し、D2は、膜内物質の平均密度(g/cm3)を示す。
マイクロカプセルの粒子径は、体積基準の平均粒子径(体積平均粒子径)を1〜200μm、とりわけ、6〜100μmに調整することが好ましい。また、マイクロカプセルの粒度分布は、特に限定されないが、正規分布に近く、かつ分布の幅が狭いことが好ましい。
【0035】
マイクロカプセルの体積平均粒子径は、例えば、レーザ回折/散乱式粒度分布装置により測定された粒子径の大きさとその分布状態(粒度分布)に基づいて、求めることができる。
なお、粒子径分布が正規分布となるマイクロカプセルを、目的とする平均粒子径に調整する方法は、マイクロカプセルの調製方法によって異なる。例えば、マイクロカプセルを界面重合法により調製する場合には、油相成分を水相成分に配合した後の攪拌速度を調節することで、平均粒子径を適宜調整することができる。例えば、平均粒子径が1〜200μmのマイクロカプセルを得るには、水相成分の粘度が例えば、0.1〜1Pa・s、好ましくは0.3〜0.6Pa・sである場合において、その攪拌速度を、周速13m/s未満、好ましくは0.1〜12m/sに設定すればよい。
【0036】
本発明の伝播性を有するクロチアニジン製剤をマイクロカプセル剤として調製した場合には、例えば、界面重合法によって製造されたマイクロカプセルのままの状態(水懸濁剤)で用いることができる。
また、上記マイクロカプセル剤を含む水懸濁液に、必要により、分散剤、界面活性剤、沈降防止剤などを適宜配合した上で、得られた水分散液を乾燥させることにより、あるいは、適当な溶媒に溶解、分散させて、スプレードライ法などで乾燥させることにより、例えば、粉状物(粉剤)、粒状物(粒剤)などとして用いることができる。
【0037】
本発明の伝播性を有するクロチアニジン製剤を粉状物または粒状物として調製した場合には、その平均粒子径を0.1〜2000μm、好ましくは、1〜500μmに調整することが好ましい。粉状物または粒状物の平均粒子径は、例えば、マイクロカプセル化剤の場合と同様にして、求めることができる。
上記粉状物または粒状物は、樹脂エマルションに配合し、攪拌、混合して用いることができる。
【0038】
また、上記粉状物または粒状物は、合成樹脂微粒子と混合し、互いに付着させた状態で用いることができる。
合成樹脂微粒子は、特に限定されるものではなく、公知の各種の合成樹脂微粒子を用いることができる。また、合成樹脂微粒子を形成する樹脂としては、熱硬化性樹脂、および熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0039】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、架橋剤により架橋させたビニル重合性モノマー重合体よりなる樹脂などが挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性ポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、ビニル重合性モノマー重合体よりなる樹脂などが挙げられる。
【0040】
合成樹脂微粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、シロアリのコロニー内への防除作用の伝播効果を向上させるという観点から、好ましくは、0.1〜200μm、より好ましくは、1〜60μm、さらに好ましくは、1〜50μmである。
上記クロチアニジン製剤による殺蟻(殺シロアリ)、防除(シロアリの駆除およびシロアリによる被害の予防)の対象となるシロアリとしては、シロアリ(等翅)目に属する昆虫であること以外は特に限定されず、具体的には、例えば、イエシロアリ(Coptotermes formosanus)、ヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)などのミゾガシラシロアリ科に属するもの、アメリカカンザイシロアリ、ダイコクシロアリなどのレイビシロアリ科に属するものなどが挙げられる。
【0041】
また、上記シロアリについて、兵蟻とは、兵隊アリまたは大型働きアリを示しており、職蟻とは、働きアリ(偽職アリ)を示している。
本発明のクロチアニジン製剤は、予め標識がつけられたシロアリの職蟻と、シロアリの兵蟻とを、長さおよび幅の内法がそれぞれ10cmの容器内で土砂が厚さ3cmに敷き詰められ、かつクロチアニジンが表面1m2あたり3gの割合で散布された薬剤処理土壌に放虫し、1時間徘徊させた後、上記薬剤処理土壌を徘徊した薬剤接触シロアリの健全な職蟻10頭および兵蟻1頭と、上記薬剤処理土壌と接触していない薬剤非接触シロアリの職蟻100頭および兵蟻10頭とを、長さおよび幅の内法がそれぞれ10cmの容器内で土砂が厚さ3cmに敷き詰められた薬剤非処理土壌に放虫して、シロアリの状態の変化を観察する、いわゆる伝播性試験において、(i)上記薬剤非接触シロアリの職蟻と、(ii)上記薬剤接触シロアリの兵蟻および上記薬剤非接触シロアリの兵蟻とに、下記の観察結果が得られることを特徴としている。
(i) 薬剤非接触シロアリの職蟻: 薬剤非処理土壌への放虫から2時間後に、総数の50%以上が健全であり、薬剤非処理土壌への放虫から3日以内に、全頭が死亡し、転倒し、または歩行障害を来す。好ましくは、薬剤非処理土壌への放虫から2時間後に、総数の50%以上が健全であり、薬剤非処理土壌への放虫から1日後に、総数の10%以上70%未満が健全で、薬剤非処理土壌への放虫から3日以内に、全頭が死亡し、転倒し、または歩行障害を来す。
(ii) 薬剤接触シロアリの兵蟻および薬剤非接触シロアリの兵蟻: 薬剤非処理土壌への放虫から2時間後に、総数の80%以上が健全であり、薬剤非処理土壌への放虫から5日以内に、全頭が死亡し、転倒し、または歩行障害を来す。
【0042】
シロアリについて、「歩行障害」とは、シロアリが転倒を生じないものの、シロアリの行動が緩慢になり、または、不自然になる(運動失調を生じる)状態をいう。また、「健全」とは、シロアリに、死亡、転倒および歩行障害のいずれも生じていない状態をいう。
なお、上記伝播性試験において、クロチアニジン製剤に殺蟻効果の即効性が認められる場合には、伝播性が現れない。このため、上記薬剤処理土壌でシロアリを1時間徘徊させた時点で、薬剤接触シロアリの職蟻のうち50%以上の個体に、死亡、転倒および歩行障害のいずれかが観察された場合には、殺蟻効果の即効性が認められると判定し、薬剤非処理土壌での試験を中止した。
【0043】
また、シロアリの職蟻に標識をつける方法としては、例えば、ナイルブルーなどの生体染色用の色素を染み込ませたろ紙を職蟻に食害させる方法が挙げられる。
また、上記伝播性試験に用いられるシロアリとしては、上記例示のシロアリから適宜選択することができるが、なかでも好ましくは、イエシロアリが挙げられる。
上記のクロチアニジン製剤によれば、クロチアニジンを内包するマイクロカプセルの壁膜の厚みが上記範囲に設定されていることで、殺蟻効果の適度な遅効性と、優れた伝播性とを発揮することができる。
【0044】
それゆえ、上記のクロチアニジン製剤は、殺蟻剤(殺シロアリ剤)や防蟻剤(シロアリ防除剤)として好適である。また、上記のクロチアニジン製剤は、例えば、土壌用の処理剤として、または、一般工業用や土木工業用に用いられる各種木材用の処理剤として好適に使用できる。
土壌用処理剤としての使用方法は、特に限定されないが、例えば、公知の散布方法(例えば、スプレーなど)によって処理対象の土壌に散布すればよい。より具体的には、例えば、クロチアニジンがマイクロカプセルに1〜60重量%の割合で内包されているクロチアニジン製剤の場合、このクロチアニジン製剤を、土壌の表面に対し、0.003〜3g/m2、とりわけ、0.03〜3g/m2の分量で散布すればよい。
【0045】
木材用処理剤としての使用方法は、特に限定されないが、例えば、公知の散布方法(例えば、スプレーなど)によって処理対象の木材に散布し、または、公知の塗布方法(例えば、刷毛塗りなど)によって処理対象の木材に塗布すればよい。より具体的には、例えば、クロチアニジンがマイクロカプセルに1〜60重量%の割合で内包されているクロチアニジン製剤の場合、このクロチアニジン製剤を、木材の表面に対し、0.0002〜0.2g/m2、とりわけ、0.002〜0.2g/m2の分量で散布または塗布すればよい。
【実施例】
【0046】
次に、実施例、比較例および試験例を挙げて本発明を説明するが、本発明は、下記の実施例および試験例によって限定されるものではない。
以下の実施例および比較例において、マイクロカプセルの平均粒子径は、コールターカウンタ(ベックマン・コールター(株)製の商品名「マルチサイザー3」)で測定された体積平均粒子径D(μm)である。また、マイクロカプセルの壁膜の平均膜厚T(μm)は、下記式(1)に基づいて算出した。
【0047】
T=(D/6)×(W1/W2)×(D2/D1) …(1)
(式(1)中、W1は、壁膜形成物質の重量(g)を示し、W2は、膜内物質の重量(g)を示し、D1は、壁膜形成物質の平均密度(g/cm3)を示し、D2は、膜内物質の平均密度(g/cm3)を示す。
クロチアニジン製剤の製造
実施例1
KMC113(ジイソプロピルナフタレン、沸点300℃、呉羽化学工業(株)製)318gと、アルケンL(アルキルベンゼン、蒸留範囲285〜309℃、新日本石油化学(株)製)154gと、Disperbyk−164(3級アミン含有ポリエステル変性ポリウレタン系高分子重合体、分子量10000〜50000、ビッグケミー(株)製)48gとを配合して、均一になるまで攪拌した。次いで、得られた混合溶液にクロチアニジン480gを配合し、T.K.オートホモディスパー(特殊機化工業(株)製)にて攪拌することにより、クロチアニジンを含有するスラリー液(1)を得た。このスラリー液(1)のクロチアニジン濃度は、48重量%であった。
【0048】
次に、上記スラリー液(1)を、ビーズミル(ダイノーミル KDL A型、ガラスビーズ径1.5mm)に投入し、20分間湿式粉砕した。湿式粉砕後のスラリー液(1)中におけるクロチアニジンの平均粒子径は、480nmであった。
さらに、湿式粉砕後のスラリー液(1)283gに対し、タケネートD−140N(イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパン変性体、三井化学ポリウレタン(株)製)の溶剤置換物213gを配合し、均一になるまで攪拌することにより、スラリー液(2)を得た。
【0049】
上記スラリー液(2)を、クラレポバール217(ポリビニルアルコール、登録商標、クラレ(株)製)42gと、ニューカルゲンFS−4(ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アニオン界面活性剤、竹本油脂(株)製)0.9gとを含有する水溶液492g中に加え、常温下で微少滴になるまでT.K.オートホモミキサー(特殊機化工業(株)製)で数分間攪拌し、混合した。この際、T.K.オートホモミキサーの回転数は、800回転/分とした。
【0050】
次いで、得られた混合液(1)を、75℃の恒温槽中で3時間緩やかに攪拌させながら反応させ、その際、ジエチレントリアミンを7.6g滴下した。
反応後、得られた分散液に凍結防止剤と、増粘剤とを配合し、さらに、全体の重量が1800gとなるように水を配合して、クロチアニジンを7.5重量%含有するマイクロカプセル剤を得た。
【0051】
得られたマイクロカプセルは、体積平均粒子径が75μmであり、壁膜の平均膜厚が2.5μmであった。
実施例2
T.K.オートホモミキサーの回転数を1000回転/分としたこと以外は、実施例1と同様にして、クロチアニジン7.5重量%を含有するマイクロカプセル剤を得た。得られたマイクロカプセルは、体積平均粒子径が62μmであり、壁膜の平均膜厚が2.0μmであった。
【0052】
実施例3
T.K.オートホモミキサーの回転数を1200回転/分としたこと以外は、実施例1と同様にして、クロチアニジン7.5重量%を含有するマイクロカプセル剤を得た。得られたマイクロカプセルは、体積平均粒子径が54μmであり、壁膜の平均膜厚が1.8μmであった。
【0053】
比較例1
T.K.オートホモミキサーの回転数を1600回転/分としたこと以外は、実施例1と同様にして、クロチアニジン7.5重量%を含有するマイクロカプセル剤を得た。得られたマイクロカプセルは、体積平均粒子径が48μmであり、壁膜の平均膜厚が1.6μmであった。
【0054】
比較例2
T.K.オートホモミキサーの回転数を2000回転/分としたこと以外は、実施例1と同様にして、クロチアニジン7.5重量%を含有するマイクロカプセル剤を得た。得られたマイクロカプセルは、体積平均粒子径が42μmであり、壁膜の平均膜厚が1.4μmであった。
【0055】
比較例3
T.K.オートホモミキサーの回転数を3000回転/分としたこと以外は、実施例1と同様にして、クロチアニジン7.5重量%を含有するマイクロカプセル剤を得た。得られたマイクロカプセルは、体積平均粒子径が21μmであり、壁膜の平均膜厚が0.7μmであった。
【0056】
実施例4
上記スラリー液(1)に対するタケネートD−140Nの配合量を357gとし、上記混合液(1)に対するジエチレントリアミンの配合量を12.8gとしたこと以外は、実施例1と同様にして、クロチアニジンを7.5重量%含有するマイクロカプセル剤を得た。得られたマイクロカプセルは、体積平均粒子径が75μmであり、壁膜の平均膜厚が3.75μmであった。
【0057】
実施例5
上記スラリー液(1)に対するタケネートD−140Nの配合量を357gとし、上記混合液(1)に対するジエチレントリアミンの配合量を12.8gとしたこと以外は、実施例2と同様にして、クロチアニジンを7.5重量%含有するマイクロカプセル剤を得た。得られたマイクロカプセルは、体積平均粒子径が62μmであり、壁膜の平均膜厚が3.1μmであった。
【0058】
実施例6
上記スラリー液(1)に対するタケネートD−140Nの配合量を357gとし、上記混合液(1)に対するジエチレントリアミンの配合量を12.8gとしたこと以外は、比較例2と同様にして、クロチアニジンを7.5重量%含有するマイクロカプセル剤を得た。得られたマイクロカプセルは、体積平均粒子径が42μmであり、壁膜の平均膜厚が2.1μmであった。
【0059】
実施例7
上記スラリー液(1)に対するタケネートD−140Nの配合量を357gとし、上記混合液(1)に対するジエチレントリアミンの配合量を12.8gとし、T.K.オートホモミキサーの回転数を2200回転/分としたこと以外は、実施例1と同様にして、クロチアニジンを7.5重量%含有するマイクロカプセル剤を得た。得られたマイクロカプセルは、体積平均粒子径が36μmであり、壁膜の平均膜厚が1.8μmであった。
【0060】
比較例4
上記スラリー液(1)に対するタケネートD−140Nの配合量を357gとし、上記混合液(1)に対するジエチレントリアミンの配合量を12.8gとし、T.K.オートホモミキサーの回転数を2500回転/分としたこと以外は、実施例1と同様にして、クロチアニジンを7.5重量%含有するマイクロカプセル剤を得た。得られたマイクロカプセルは、体積平均粒子径が32μmであり、壁膜の平均膜厚が1.6μmであった。
【0061】
比較例5
上記スラリー液(1)に対するタケネートD−140Nの配合量を357gとし、上記混合液(1)に対するジエチレントリアミンの配合量を12.8gとしたこと以外は、比較例3と同様にして、クロチアニジンを7.5重量%含有するマイクロカプセル剤を得た。得られたマイクロカプセル剤は、体積平均粒子径が21μmであり、壁膜の平均膜厚が1.05μmであった。
【0062】
比較例6
実施例1で得られたスラリー液(1)83gに対し、タケネートD−140N(三井化学ポリウレタン(株)製)260gを配合し、均一になるまで攪拌することにより、スラリー液(3)を得た。
上記スラリー液(3)を、クラレポバール217(ポリビニルアルコール、登録商標、クラレ(株)製)60gと、ニューカルゲンFS−4(ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アニオン界面活性剤、竹本油脂(株)製)0.15gとを含有する水溶液885g中に加え、常温下で微少滴になるまでT.K.オートホモミキサー(特殊機化工業(株)製)にて数分間攪拌し、混合した。この際、T.K.オートホモミキサーの回転数は、800回転/分とした。
【0063】
次いで、得られた混合液(2)を、75℃の恒温槽中で3時間緩やかに攪拌させながら反応させ、その際、ジエチレントリアミンを10g滴下した。
反応後、得られた分散液に凍結防止剤と、増粘剤と、防腐剤とを配合し、さらに、全体の重量が1992gとなるように水を配合して、クロチアニジンを2重量%含有するマイクロカプセル剤を得た。
【0064】
得られたマイクロカプセルは、体積平均粒子径が75μmであり、壁膜の平均膜厚が5.0μmであった。
比較例7
T.K.オートホモミキサーの回転数を900回転/分としたこと以外は、比較例6と同様にして、クロチアニジンを2重量%含有するマイクロカプセル剤を得た。得られたマイクロカプセルは、体積平均粒子径が67.5μmであり、壁膜の平均膜厚が4.5μmであった。
【0065】
実施例8
T.K.オートホモミキサーの回転数を1000回転/分としたこと以外は、比較例6と同様にして、クロチアニジンを2重量%含有するマイクロカプセル剤を得た。得られたマイクロカプセルは、体積平均粒子径が62μmであり、壁膜の平均膜厚が4.0μmであった。
【0066】
実施例9
T.K.オートホモミキサーの回転数を2000回転/分としたこと以外は、比較例6と同様にして、クロチアニジンを2重量%含有するマイクロカプセル剤を得た。得られたマイクロカプセルは、体積平均粒子径が42μmであり、壁膜の平均膜厚が2.8μmであった。
【0067】
実施例10
T.K.オートホモミキサーの回転数を2600回転/分としたこと以外は、比較例6と同様にして、クロチアニジンを2重量%含有するマイクロカプセル剤を得た。得られたマイクロカプセルは、体積平均粒子径が27μmであり、壁膜の平均膜厚が1.8μmであった。
【0068】
比較例8
T.K.オートホモミキサーの回転数を2800回転/分としたこと以外は、比較例6と同様にして、クロチアニジンを2重量%含有するマイクロカプセル剤を得た。得られたマイクロカプセルは、体積平均粒子径が24μmであり、壁膜の平均膜厚が1.6μmであった。
【0069】
比較例9
T.K.オートホモミキサーの回転数を3000回転/分としたこと以外は、比較例6と同様にして、クロチアニジンを2重量%含有するマイクロカプセル剤を得た。得られたマイクロカプセルは、体積平均粒子径が21μmであり、壁膜の平均膜厚が1.4μmであった。
【0070】
実施例11
実施例1で得られたマイクロカプセル剤20重量部と、ガンツパール1105(懸濁重合架橋ポリスチレン微粒子、平均粒子径10μm、ガンツ化成(株)製)80重量部とを配合し、攪拌、混合後、乾燥することにより、マイクロカプセル剤(体積平均粒子径が75μm、壁膜の平均膜厚が2.5μmのマイクロカプセル)にガンツパール1105が付着された、クロチアニジンを2重量%含有する粉状物を得た。
【0071】
実施例12
実施例1で得られたマイクロカプセル剤に代えて、実施例2で得られたマイクロカプセル剤を用いたこと以外は、実施例11と同様にして、マイクロカプセル剤(体積平均粒子径が62μm、壁膜の平均膜厚が2.0μmのマイクロカプセル)にガンツパール1105が付着された、クロチアニジンを2重量%含有する粉状物を得た。
【0072】
実施例13
実施例1で得られたマイクロカプセル剤に代えて、実施例3で得られたマイクロカプセル剤を用いたこと以外は、実施例11と同様にして、マイクロカプセル剤(体積平均粒子径が54μm、壁膜の平均膜厚が1.8μmのマイクロカプセル)にガンツパール1105が付着された、クロチアニジンを2重量%含有する粉状物を得た。
【0073】
比較例10
実施例1で得られたマイクロカプセル剤に代えて、比較例1で得られたマイクロカプセル剤を用いたこと以外は、実施例11と同様にして、マイクロカプセル剤(体積平均粒子径が48μm、壁膜の平均膜厚が1.6μmのマイクロカプセル)にガンツパール1105が付着された、クロチアニジンを2重量%含有する粉状物を得た。
【0074】
比較例11
実施例1で得られたマイクロカプセル剤に代えて、比較例2で得られたマイクロカプセル剤を用いたこと以外は、実施例11と同様にして、マイクロカプセル剤(体積平均粒子径が42μm、壁膜の平均膜厚が1.4μmのマイクロカプセル)にガンツパール1105が付着された、クロチアニジンを2重量%含有する粉状物を得た。
【0075】
比較例12
実施例1で得られたマイクロカプセル剤に代えて、比較例3で得られたマイクロカプセル剤を用いたこと以外は、実施例11と同様にして、マイクロカプセル剤(体積平均粒子径が21μm、壁膜の平均膜厚が0.7μmのマイクロカプセル)にガンツパール1105が付着された、クロチアニジンを2重量%含有する粉状物を得た。
【0076】
比較例13
SAS310(ジフェニルアルカン、新日本石油化学(株)製)500gと、アルケンL(アルキルベンゼン、新日本石油化学(株)製)150gと、ナロアクテイーHN100(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、三洋化成(株)製)150gとを配合し、均一になるまで攪拌した後、得られた混合溶液に、クロチアニジン200gを配合し、T.K.オートホモディスパー(特殊機化工業(株)製)にて攪拌することにより、クロチアニジンを20重量%含有するスラリー液(4)を得た。
【0077】
上記スラリー液(4)を、ビーズミル(ダイノーミル KDL A型、ガラスビーズ径0.5mm)に投入し、20分間湿式粉砕して、クロチアニジンを20重量%含有するフロアブル剤を得た。このフロアブル剤中でのクロチアニジンの体積平均粒子径は、0.8μmであった。
比較例14
メチルジグリコール(日本乳化剤(株)製)700gと、SAS310(ジフェニルアルカン、新日本石油化学(株)製)90gと、ナロアクテイーHN100(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、三洋化成(株)製)200gとを配合し、混合させた後、得られた混合溶液に、クロチアニジン10gを溶解させ、クロチアニジン1重量%を含有する乳剤を得た。
【0078】
比較例15
クロチアニジン1gを、アセトン100gに溶解させて、クロチアニジンのアセトン1重量%溶液を調製した。
伝播性試験
イエシロアリの職蟻数十頭に対し、あらかじめナイルブルーを染み込ませたろ紙を食害させて、これらイエシロアリの職蟻を生体染色し、標識をつけた。
【0079】
次いで、予め標識がつけられたシロアリの職蟻数十頭と、シロアリの兵蟻数頭とを、長さおよび幅の内法がそれぞれ10cmの容器内で土砂が厚さ3cmに敷き詰められ、かつクロチアニジンが表面1m2あたり3gの割合で散布された薬剤処理土壌に放虫し、1時間徘徊させた。徘徊後、上記薬剤処理土壌を徘徊した薬剤接触シロアリの健全な職蟻10頭および兵蟻1頭と、上記薬剤処理土壌と接触していない薬剤非接触シロアリの職蟻100頭および兵蟻10頭とを、長さおよび幅の内法がそれぞれ10cmの容器内で土砂が厚さ3cmに敷き詰められた薬剤非処理土壌に放虫して、シロアリの状態の変化を観察した。
【0080】
上記薬剤非接触シロアリの職蟻(生体染色が施されていない職蟻)については、薬剤非処理土壌への放虫から2時間後において、その総数に占める健全な個体数の割合と、薬剤非処理土壌への放虫から1日後および3日後における状態とを観察した。
また、上記薬剤接触シロアリの兵蟻および上記薬剤非接触シロアリの兵蟻とについては、薬剤非処理土壌への放虫から2時間後において、その総数に占める健全な個体数の割合と、薬剤非処理土壌への放虫から5日後における状態とを観察した。
【0081】
なお、上記薬剤処理土壌でイエシロアリの職蟻を1時間徘徊させた時点で、薬剤接触イエシロアリの職蟻のうち50%以上の個体に、死亡、転倒および歩行障害のいずれかが観察された場合には、殺蟻効果の即効性が認められると判定し、薬剤非処理土壌での試験を中止した。この場合において、表1および表2中の試験結果は、「試験不能」とした。
上記観察結果を表1および表2に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
表1および表2中、「1時間徘徊後の健全率」は、薬剤処理土壌に放虫されたイエシロアリの職蟻(生体染色が施された職蟻)と、薬剤処理土壌に放虫されたイエシロアリの兵蟻とについて、それぞれの総数に占める健全な個体の割合(%)を、薬剤処理土壌への放虫から1時間経過後に観察した結果である。「2時間経過後の健全率」は、薬剤非処理土壌に放虫されたイエシロアリのうち、薬剤非接触職蟻(生体染色が施されていない職蟻)と、兵蟻(薬剤接触兵蟻および薬剤非接触兵蟻)とについて、それぞれの総数に占める健全な個体の割合(%)を、薬剤非処理土壌への放虫から2時間経過後に観察した結果である。
【0085】
また、表1および表2中、「薬剤非接触職蟻の健全率」は、薬剤非処理土壌に放虫されたイエシロアリのうち、薬剤非接触職蟻(生体染色が施されていない職蟻)について、それぞれの総数に占める健全な個体の割合(%)を、薬剤非処理土壌への放虫から1日経過後および3日経過後に観察した結果である。「5日後の兵蟻の状態」は、薬剤非処理土壌に放虫されたイエシロアリの兵蟻について、総数に占める健全な個体の割合(%)を、薬剤非処理土壌への放虫から5日経過後に観察した結果である。
【0086】
なお、表1および表2中、「A+」は、観察対象の個体全頭が死亡していたことを示し、「A」観察対象の個体全頭に、死亡および転倒のいずれかが生じていたことを示し、「A−」は、観察対象の個体全頭に、死亡、転倒および歩行障害のいずれかが生じていたことを示す。また、「B」は、観察対象の一部に、健全な個体が観察されたことを示し、「C」は、観察対象の個体全頭が健全であったことを示す。
【0087】
木材に対する処理例
実施例10のクロチアニジン製剤(体積平均粒子径27μm、壁膜の平均膜厚1.8μmのマイクロカプセル剤)を水で20倍に希釈した。
この希釈物を、大阪市内にある建物の木部に対して散布し、かつ、上記木部のうち、ヤマトシロアリによる加害が進行した部位に(ヤマトシロアリによる穿孔内に)注入した。
【0088】
上記希釈物の散布および注入から1週間後の観察により、ヤマトシロアリの駆除が完了していることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め標識がつけられたシロアリの職蟻と、シロアリの兵蟻とを、長さおよび幅の内法がそれぞれ10cmの容器内で土砂が厚さ3cmに敷き詰められ、かつクロチアニジンが表面1m2あたり3gの割合で散布された薬剤処理土壌に放虫し、1時間徘徊させた後、前記薬剤処理土壌を徘徊した薬剤接触シロアリの健全な職蟻10頭および兵蟻1頭と、前記薬剤処理土壌と接触していない薬剤非接触シロアリの職蟻100頭および兵蟻10頭とを、長さおよび幅の内法がそれぞれ10cmの容器内で土砂が厚さ3cmに敷き詰められた薬剤非処理土壌に放虫したときに、
前記薬剤非接触シロアリの職蟻は、前記薬剤非処理土壌への放虫から2時間後に、総数の50%以上が健全で、前記薬剤非処理土壌への放虫から3日以内に、全頭が死亡し、転倒し、または歩行障害を来し、かつ、
前記薬剤接触シロアリの兵蟻および前記薬剤非接触シロアリの兵蟻は、前記薬剤非処理土壌への放虫から2時間後に、総数の80%以上が健全で、前記薬剤非処理土壌への放虫から5日以内に、全頭が死亡し、転倒し、または歩行障害を来すことを特徴とする、伝播性を有するクロチアニジン製剤。
【請求項2】
前記クロチアニジン製剤が、クロチアニジンをマイクロカプセルに内包したものであり、前記マイクロカプセルの壁膜の厚みが、1.8〜4μmであることを特徴とする、請求項1に記載の伝播性を有するクロチアニジン製剤。
【請求項3】
シロアリを防除するための防蟻剤であることを特徴とする、請求項1または2に記載の伝播性を有するクロチアニジン製剤。
【請求項4】
土壌の表面または内部に散布または注入するための防蟻剤であることを特徴とする、請求項3に記載の伝播性を有するクロチアニジン製剤。
【請求項5】
木材の表面または内部に散布または注入するための防蟻剤であることを特徴とする、請求項3に記載の伝播性を有するクロチアニジン製剤。

【公開番号】特開2008−184391(P2008−184391A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16887(P2007−16887)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(503140056)日本エンバイロケミカルズ株式会社 (95)
【Fターム(参考)】