伝熱管、及び、伝熱管の製造方法
【課題】本発明は、凝縮管、蒸発管のいずれとして用いても、圧力損失を増大させることなく、管内熱伝達率の向上を図ることができる伝熱管、及び、その製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】
管内面10に、管軸方向D1に対する所定角度の螺旋状のフィン12が形成された伝熱管10であって、前記フィン12を、副溝14によって分断されるとともに、管内面に螺旋状に突出する複数のフィン構成部12Aにより形成し、前記フィン構成部12Aの少なくとも螺旋方向下流側D2dに、管軸方向上流側D1uで隣り合う前記フィン12との間に突出する突出片16を備えた伝熱管11。
【解決手段】
管内面10に、管軸方向D1に対する所定角度の螺旋状のフィン12が形成された伝熱管10であって、前記フィン12を、副溝14によって分断されるとともに、管内面に螺旋状に突出する複数のフィン構成部12Aにより形成し、前記フィン構成部12Aの少なくとも螺旋方向下流側D2dに、管軸方向上流側D1uで隣り合う前記フィン12との間に突出する突出片16を備えた伝熱管11。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機、空調機などの熱交換器に使用される伝熱管およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に空調機や冷凍機などに用いられる伝熱管は、管内の冷媒を蒸発または凝縮させて管外を流れる流体との間で熱交換を行なうもので、熱交換器の高効率化や省エネルギー化の観点から内面溝付管の使用が多くなっている。
【0003】
この内面溝付管は、管内面に微細な三角形断面や台形断面の溝が管軸に対して直線状もしくは螺旋状に形成されている。これらの溝を管内面に備えたことにより、平滑管に比べ伝熱面積が増大するとともに、冷媒液を撹拌させる攪拌作用によって伝熱性能を向上することができる。
【0004】
近年、特に空調機用熱交換器に対して高性能化や小型軽量化が強く求められており、また省エネ法の改正に伴って伝熱管の高性能化がより一層求められている。
しかしながら、従来の内面螺旋溝付管においては溝数、リード角、溝形状などの改良は行なわれているものの、上述したように求められている性能には不十分であった。
【0005】
そこで、これら従来の螺旋フィン付管に代わる伝熱管として、例えば、特許文献1には、冷媒液の攪拌作用を促進するため、管内面に主溝と、フィンを分断する深さの副溝とで形成したクロス溝付き伝熱管が開示されている。
【0006】
このクロス溝付き伝熱管は、フィンを副溝によって分断した平面視略S字形状をした複数の三次元突起(3)を管内面に備えている。
より詳しくは、三次元突起(3)は、その先端部に、主溝に沿う冷媒流れを副溝の方向へ誘導可能に突出したバリ(3a)を備えるとともに、後端部に、該バリ(3a)と逆方向に突出したバリ(3b)を備えている。
【0007】
特許文献1によれば、主溝を流れる冷媒をバリ(3a)によって副溝方向へ誘導することで、冷媒の複雑な流れによる攪拌作用を得ることができ、結果的に、熱伝達率を得ることができる旨の記載がされている。
【0008】
しかし、特許文献1における伝熱管は、三次元突起(3)に備えたバリ(3a),(3b)により、冷媒の管内周面側付近での攪拌を図ることができるが、管の半径方向中心側を流れる冷媒については、攪拌されず、結果的に、上述した要求を満足する伝達性能を得ることができなかった。
【0009】
【特許文献1】特開平8−178574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、圧力損失を増大させることなく、管内熱伝達率の向上を図ることができる伝熱管、及び、その製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、管内面に、管軸方向に対する所定角度の螺旋状のフィンが形成された伝熱管であって、前記フィンを、副溝によって分断されるとともに、管内面に螺旋状に突出する複数のフィン構成部により形成し、前記フィン構成部の少なくとも螺旋方向下流側に、管軸方向上流側で隣り合う前記フィンとの間に突出する突出片を備えた伝熱管であることを特徴とする。
【0012】
この発明の態様として、前記突出片を、前記フィンに対して5°〜90°の角度で形成することができる。
【0013】
この発明の態様として、前記副溝を、管周あたり4〜60の数に形成することができる。
【0014】
この発明の態様として、前記突出片を、前記フィン間の間隔に対して0.1〜0.9の割合から成る突出長さで形成したすることができる。
【0015】
また、本発明は、管内面に、管軸方向に対する所定の角度の螺旋状のフィンを備えた伝熱管の製造方法であって、螺旋状溝を外周に備えた溝付プラグにより管内面を押潰して、該管内面に管軸方向に対する所定角度の螺旋状のフィンを形成するフィン加工工程と、前記フィンに対して所定の交差角で交差する複数の刃を外周に備えた切欠きプラグを管内面に所定の深さで押し付けて、前記フィンを分断する副溝を形成して複数のフィン構成部を形成するとともに、前記フィン構成部の少なくとも螺旋方向下流側に、管軸方向上流側で隣り合う前記フィンとの間に突出する突出片を形成する突出片加工工程とを行う伝熱管の製造方法であることを特徴とする。
【0016】
この発明の態様として、前記刃は、平らな頂部を備えることができる。
【0017】
本発明は、上述したように前記フィン構成部の少なくとも螺旋方向下流側に、管軸方向上流側で隣り合う前記フィンとの間に突出する突出片を備えた構成である。
【0018】
係る構成により、前記フィン間を流れる冷媒の一部は、前記突出片に衝突し、管半径方向内側へかき上げられるため、三次元的な非定常流れを効果的に発生させることができる。
【0019】
従って、単に、管内周面にクロス溝を形成した従来の伝熱管と比較して、管半径方向内側も含めた乱流促進を図ることができ、優れた熱伝達率を得ることができる。
【0020】
さらに、前記突出片により、前記フィン間を流れる冷媒を、フィン形成方向における複数のフィン構成部の間に流れ込ませることができるため、二次流れ、すなわち、特に冷媒がフィンを跨いだ管内周面全体における拡散を図ることができる。
【0021】
従って、優れた乱流促進効果を得ることができるとともに、圧力損失の増大を防止することができる。
【0022】
本発明は、前記突出片を、上述したように前記フィンに対して5°以上の角度で形成することにより、前記フィン間を流れる冷媒を前記突出片に衝突させ、フィン間から複数のフィン構成部の間への積極的な誘導が可能となるため、上述した効果をより一層得ることができる。
【0023】
一方、本発明は、上述したように前記突出片を、前記フィンに対して90°以下の角度(鋭角)で形成することにより、フィン間を流れる冷媒がフィン形成方向における複数のフィン構成部の間へ流れ込み易くなり、より優れた拡散作用によって熱伝達率の向上を図ることができる。
さらに、管軸方向への冷媒流量が増大するため、圧力損失の増大を防止することができる。
【0024】
さらにまた、前記突出片を、前記フィンに対して90°以下の角度で形成すれば、該突出片の加工を容易に行うことができる。
また、本発明は、前記副溝を、管周あたり4以上の数で形成することにより、フィン形成方向におけるフィン構成部間の間隔が大きくなりすぎず、十分な冷媒攪拌作用を得ることができる。
【0025】
一方、本発明は、上述したように前記副溝を、管周あたり60以下の数で形成することにより、機械拡管時に耐え得るフィン強度を確保することができる。
【0026】
特に、前記副溝を、管周あたり8〜30の数で形成することがより好ましい。
前記副溝を、このように管周あたり8〜30の範囲内の数で形成することにより、伝熱性能は大きく変化せず、冷媒攪拌作用とフィン強度との好ましいバランスを得ることができる。
【0027】
また、本発明は、上述したように、前記突出片を、前記フィン間の間隔に対して0.1以上の割合から成る突出長さで形成することにより、フィン間を流れる冷媒がフィン形成方向におけるフィン構成部の間へ流れ込み易くなるとともに、半径方向内側への冷媒のかき上げを促進することができるため、大きな冷媒攪拌作用を得ることができ、熱伝達率の向上を図ることができる。
【0028】
一方、上述したように前記突出片を、前記フィン間の間隔に対して0.9以下の割合から成る突出長さで形成することにより、フィン間に突出片が突き出しすぎず、該突出片によって前記フィン間に流れる冷媒の流れが阻害されすぎないため、圧力損失の増大を防止することができる。
【0029】
また、本発明における伝熱管の製造方法は、上述したとおり、前記突出片加工工程を備えているため、該突出片加工工程において、フィン構成部の少なくとも螺旋方向下流側に、管軸方向上流側で隣り合う前記フィンとの間に突出する突出片を確実に形成することができる。
【0030】
上述したように前記刃は、平らな頂部を備えた構成とすれば、該刃をフィンに押し付けたときに、所望の形態の前記突出片を、より一層、容易に形成できるため、好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、圧力損失を増大させることなく、管内熱伝達率の向上を図ることができる伝熱管、及び、その製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
本実施形態における伝熱管11は、図1〜3に示すように、管内面10に、螺旋状のフィン12を形成している。
なお、本実施形態における伝熱管11は、管内面10に螺旋状のフィン12を形成することによりフィン12間に、主溝13を備えている。
さらに、前記伝熱管11は、前記フィン12を、該フィン12を螺旋方向D2(フィン形成方向)に分断することによって複数のフィン構成部12Aを形成している。
なお、本実施形態における伝熱管11は、管内面10にフィン構成部12Aを形成することにより、螺旋方向D2のフィン構成部12Aの間には、副溝14によってフィン12を分断する副溝形成部分15を備えている。
なお、図1は、本実施形態の伝熱管11の管内面10の様子を模式的に示した部分拡大展開斜視図であり、図2は、本実施形態の伝熱管11の縦断面図であり、図3は、フィン構成部12A付近の拡大平面図である。なお、図2、及び、図3では、前記フィン構成部12Aと管内面10との稜線を省略して模式的に示している。
さらに、前記フィン構成部12Aは、螺旋方向下流側D2dに、管軸方向上流側D1uの前記主溝13に突出する突出片16(第1突出片16a)を備えている。
【0033】
前記第1突出片16aは、前記主溝13に対して5°〜90°の範囲内である12°の角度(α)で形成している。
【0034】
前記副溝14は、螺旋状の前記フィン12に、管周あたり4〜60条の範囲内である32の条数で形成している。
【0035】
前記第1突出片16aは、前記主溝13の幅(W2)に対して0.1〜0.9の範囲内である0.3の割合(W1/W2)から成る前記主溝13への突出長さ(W1)で形成している。
【0036】
より詳しくは、本実施形態の伝熱管11は、外径が7.0mmであり、螺旋状のフィン12は、管軸方向D1に対して30°の角度(β)で形成している。さらに、管周あたりのフィン数を48、フィン高さ(主溝深さ)を、0.25mm、フィン12の断面形状を略台形形状で形成している。
また、副溝14は、深さが0.25mmであり、内角が30度の逆三角断面の溝形状で形成している。
【0037】
さらに、前記フィン構成部12Aは、螺旋方向下流側D2dに、管軸方向下流側D1dの前記主溝13に突出する突出片16(第2突出片16b)を備えている。
【0038】
一方、前記フィン構成部12Aは、螺旋方向上流側D2uにも、それぞれ管軸方向上流側D1uの前記主溝13に突出する突出片16(第3突出片16c)、管軸方向下流側D1dの前記主溝13に突出する突出片16(第4突出片16d)を備えている。
【0039】
従って、図3に示すように、フィン構成部12Aは、平面視するとHの文字を傾けた形状(傾斜型H形状)で形成している。
【0040】
続いて、上述した伝熱管11の製造装置17について図4,図5とともに説明する。
なお、図4は、本実施形態における伝熱管11の製造装置17を断面により示した模式図であり、図5は、切欠きプラグの詳細図である。
【0041】
引抜き方向Xの上流側(図4において左側)には、第1縮径ダイス23とフローティングプラグ24を備えている。
【0042】
管内に配されたフローティングプラグ24の下流側には、該フローティングプラグ24と下流側で連結された第1連結棒25により、管内において回動自在に連結保持され、外周面に複数の螺旋状の溝26aが形成された溝付プラグ26を備えている。
溝付プラグ26は、管軸方向D1に対して右ねじり方向に40°のリード角で構成している。
【0043】
管外側において溝付プラグ26と対向する位置には、銅管11aを押圧しながら公転する複数個の転造ボール27を備えている。
【0044】
さらに、溝付プラグ26の下流側には、該溝付プラグ26と下流側で連結された第2連結棒28により回動自在に連結保持された切欠きプラグ29を備えている。
【0045】
切欠きプラグ29は、図5(a),(b)に示すように、外周面に凸状の切欠き刃29aを複数備えている。
前記切欠き刃29aは、管軸方向D1に対して右ねじり方向に25°のリード角で構成している。さらに、図5(a)の要部拡大図に示すように、前記切欠き刃29aは、その高さを0.25mmで形成するとともに、その頂角を、30°で形成しているが、該頂部を平坦状に構成している。
【0046】
また、管外側において前記切欠きプラグ29と対向する位置には、銅管11aをさらに縮径する第2縮径ダイス33を備えている。
【0047】
ここで、銅管11aの縮径は、前記第2縮径ダイス33を用いるに限定せず、例えば、ボールによる転造により行なってもよいが、上述した第2縮径ダイス33を用いて銅管11aを縮径することにより、該銅管11aの断面を円形状に保てるので好ましい。
【0048】
本実施形態の伝熱管11は、上述した製造装置17を用いて以下の製造方法により製造する。
先ず銅管11aを第1縮径ダイス23とフローティングプラグ24により、縮径する加工を行なう。そして、前記溝付プラグ26と前記転造ボール27により銅管11aをさらに縮径するとともに、管内に、管軸方向D1に対して所定のリード角の螺旋状のフィン12を形成するとともに、該フィン12間に主溝13を形成するフィン加工工程を行う。
【0049】
続いて、前記切欠きプラグ29と第2縮径ダイス33により、前記フィン12を分断した前記フィン構成部12Aを複数形成するとともに、前記フィン構成部12Aの少なくとも螺旋方向下流側D2dに、管軸方向上流側D1uの前記主溝13に突出する第1突出片16aを形成する突出片加工工程とを行う。
【0050】
上述した製造方法により、図1から3に示したように、平面視すると傾斜型H形状をした複数の分断された前記フィン構成部12Aを管内に備えた伝熱管11を製造することができる。
【0051】
上述した伝熱管11は、以下のような様々な作用、効果を得ることができる。
本実施形態の伝熱管11は、上述したように、前記フィン構成部12Aの少なくとも螺旋方向下流側D2dに、管軸方向上流側D1uの前記主溝13に突出する前記第1突出片16aを備えている。
【0052】
このため、前記主溝13を流れる冷媒の一部は、前記第1突出片16aに衝突し、管半径方向内側へかき上げられるため、三次元的な非定常流れを発生させることができる。
【0053】
従って、管の半径方向内側も含めた乱流促進効果を得ることができるため、単に、管内面にクロス溝を形成した従来の伝熱管や、副溝近傍にバリを有した従来の伝熱管と比較して、更なる熱伝達率の向上を図ることができる。
【0054】
さらに、上述したように螺旋状の前記フィン12は、特に、前記フィン構成部12Aの少なくとも螺旋方向上流側D2uに、管軸方向上流側D1uの主溝13側へ突出した第3突出片16cを備えているため、前記主溝13を流れる冷媒が前記副溝14に、より一層、流れ込み易くなるため、二次流れが発生し、特に管内周面付近において冷媒の攪拌効果を得ることができるとともに、圧力損失の増大を防止することができる。
【0055】
また、螺旋状のフィン12は、上述したように管軸に対して25°〜50°の角度(β)である30°で形成している。
【0056】
このように、フィン12を、管軸に対して25°以上のリード角で形成することにより、十分な伝熱性能を得ることができる一方、50°以下のリード角で形成することにより、フィン加工工程において、フィン加工を容易に行うことができる。
【0057】
また、本実施形態の伝熱管11は、前記突出片16を、上述したように前記主溝13に対して5°〜90°の範囲である12°の角度(α)で形成している。
このため、前記主溝13を流れる冷媒の流れを過度に妨げることがなく、その一部を前記突出片16に衝突させて主溝13から副溝14への流れ込みが可能となるため、より大きな冷媒攪拌作用によって熱伝達率の向上を図ることができる。
【0058】
さらに、管軸方向D1への冷媒流量が増大するため、圧力損失の増大を防止することができる。
【0059】
特に、本実施形態の伝熱管11のように、前記突出片16を、前記主溝13に対して5°〜20°の角度範囲で形成することにより、より一層、熱伝達率の向上と圧力損失増大の防止を図ることができる。
【0060】
また、本実施形態の伝熱管11は、上述したように前記副溝14を、螺旋状の前記フィン12に、管周あたり32の条数で形成することにより、副溝14による切欠きピッチが適切な大きさになるため、十分な冷媒攪拌作用を得することができるとともに、機械拡管時に耐え得るフィン強度を得ることができる。
【0061】
また、本実施形態の伝熱管11は、上述したように、前記突出片16を前記主溝13の幅(W2)に対して0.3の割合(W1/W2)から成る前記主溝13への突出長さ(W1)で形成することにより、半径方向内側への冷媒のかき上げが促進され、優れた冷媒攪拌作用を得ることができ、結果的に熱伝達率の向上を図ることができる。
【0062】
しかも、前記主溝13に流れる冷媒の流れが阻害されすぎることがない突出長さであるため、主溝13を流れる冷媒が副溝14へ流れ込みを許容しつつ、圧力損失の増大を防止することができる。
【0063】
また、前記副溝14は、本実施形態の伝熱管11のように、主溝13の深さの30〜100%の深さで構成することが好ましい。
【0064】
副溝14を、主溝13の深さの30%以上の深さで構成することにより、主溝13を流れる冷媒が副溝14へ流れ込み易くなり、優れた熱伝達率を得ることができるとともに、圧力損失の増大を防止することができる。
【0065】
一方、副溝14を、主溝13の深さの100%以下の深さで構成することにより、管肉厚に主溝深さよりも深い切り込みを形成することがないため、管の品質(底肉厚の仕様)を保つことができる。
【0066】
なお、前記副溝14は、前記切欠きプラグ29で形成する際の加工の容易さと性能とのバランスから、主溝13の深さの70〜80%の深さで構成することが特に好ましい。
【0067】
また、上述した伝熱管11の製造方法では、特に前記突出片加工工程を行うことにより、平面視傾斜型H形状をした複数のフィン構成部12Aを管内面10に備えた伝熱管11を容易に製造することができる。
【0068】
本実施形態の伝熱管11の製造方法によれば、フィン12に副溝14を形成する際において、管内面10では塑性変形により副溝14が形成されるため、切り粉による伝熱管11内部の汚染がない。
【0069】
さらに、本実施形態における製造装置17では、第2縮径ダイス33により、前記切欠きプラグ29への押圧を行うため、銅管11aの断面を円形状に保つことができる。
【0070】
また、前記切欠きプラグ29は、切欠き刃29aの頂部を、平坦状に構成している。このような切欠き刃29aをフィン12に押し付けることにより、主溝13側に突出した前記突出片16を、より一層、形成することができる。
【0071】
以上、本発明の一実施形態である伝熱管11について詳述したが、続いて、本発明の伝熱管の性能を検証するために行った実験について説明する。
【0072】
本実験では、本発明の伝熱管として実施例1から5までの5種類製作するとともに、比較対象として用いる伝熱管を、比較例1として製作した。
実施例1から5までの伝熱管は、それぞれ上述した実施形態の伝熱管11と同様の製造方法により、表1に示すような外径、フィン、副溝、突出片を有する形状に製作している。
【0073】
【表1】
ここで、実施例4の伝熱管は、表1に示した各部の形状からも明らかなとおり、前述した実施形態の伝熱管11と同じ形状の伝熱管を用いている。
【0074】
また、実施例1から4の伝熱管は、いずれも平面視傾斜型H形状をした複数の分断されたフィン構成部12Aを備えて形成している。一方、実施例5の伝熱管21は、図6、及び、図7に示すように、平面視したとき、J字形をした形状(平面視J形状)をした複数のフィン構成部42Aを備えて形成している。
【0075】
より詳しくは、実施例5の伝熱管21における、平面視J形状をした分断されたフィン構成部42Aは、該フィン構成部42Aに第1突出片16aを備えるに加えて、第2突出片16b、及び、第3突出片16cを備えた形態である。
ここで、図6は、実施例5の伝熱管21の管内面10の様子を模式的に示した部分拡大展開斜視図であり、図7は、実施例5の伝熱管21の管内面10の分断したフィン近傍の拡大平面図である。なお、図7では、前記フィン構成部42Aと管内面10との稜線を省略して模式的に示している。
【0076】
なお、比較例1の伝熱管は、従来の伝熱管であり、表1に示すとおり管内面にフィンを形成しているが、該フィンに副溝(フィン形成部)を形成していない伝熱管である。
【0077】
また、実施例1から5、及び、比較例1の伝熱管は、それぞれ表2に示すような形状の溝付プラグ、及び、表3に示すような形状の切欠きプラグを備えた製造装置を用いて製造した。
なお、表3中の切欠きプラグの外径とは、外周部に備えた刃の高さを含む外径を示し、該切欠きプラグの中心を通る刃の頂部間を結ぶ直線距離を示すものとする。
【表2】
【0078】
【表3】
すなわち、表2に示すように、溝付プラグは、いずれの実施例においても同じ形態のものを用い、また、表3に示すように、切欠きプラグは、適宜、異なる形態のものに変更して伝熱管を製作した。
【0079】
この実験では、伝熱管の管内の凝縮性能を検証する凝縮実験を図8(a)に示すような管内凝縮性能測定装置50Aを用いて行うとともに、蒸発性能を検証する蒸発実験を図8(b)に示すような管内蒸発性能測定装置50Bを用いて行った。
なお、図8(a),(b)は、それぞれ管内凝縮性能測定装置50A,管内蒸発性能測定装置50Bの概略図を示し、いずれの装置50A,50Bにおいても、一般の空調機と同様に全体が冷凍サイクルにより構成されている。
【0080】
詳しくは、凝縮実験では、実施例1から5までの伝熱管、及び、比較例1の伝熱管のそれぞれを、図8(a)に示すように凝縮器に供試管44として組み込んだ。この場合における、実施例1から5までの各伝熱管の比較例1の伝熱管に対する熱伝達率の比(熱伝達率比)、圧力損失の比(圧力損失比)を測定することにより、凝縮性能の検証を行った。
蒸発実験では、実施例1から5までの伝熱管、及び、比較例1の伝熱管のそれぞれを、図8(b)に示すように蒸発器に供試管44として組み込んだ。この場合における、実施例1から5までの各伝熱管の比較例1の伝熱管に対する熱伝達率の比(熱伝達率比)、圧力損失の比(圧力損失比)を測定することにより、蒸発性能の検証を行った。
【0081】
図8(a),(b)に示すように、管内凝縮性能測定装置50A,管内蒸発性能測定装置50Bにおけるテストセクションは、二重管式熱交換器で構成しており、供試管44内に冷媒を流し、外側シェルを構成する環状部45の内部には、その冷媒流れと対向する方向へ熱交換用の水(以下、「熱交換用水」という。)を流して供試管44の有効長さを4mに設定して熱交換を行った。
なお、としては、凝縮実験における熱交換用水としては、低温水を流し、蒸発実験における熱交換用水としては、高温水を流している。
【0082】
また、図8(a),(b)に示すように、テストセクションの各所定部位には、温度計、圧力計、流量計を配設している。なお、図8(a),(b)中、Tは、温度計、Pは、圧力計、Gは、流量計を示す。
【0083】
続いて、供試管44の冷媒の入口と出口とにおける実験条件として、凝縮実験では、冷媒入口過熱度、冷媒出口過冷却度を、蒸発実験では、冷媒入口乾き度、冷媒出口過熱度を、それぞれ表4に示すように設定した。
【0084】
【表4】
これら凝縮実験、蒸発実験における実験条件は、いずれも空調機の熱交換器入口条件と同一となるように、水温を調節した後に測定を行った。
さらまた、供試管44の入口と出口における冷媒平均飽和温度は、表4に示すように凝縮実験では48℃に設定するとともに、蒸発実験では5℃に設定した。
【0085】
冷媒には、代替フロンとしてR410Aを使用し、該R410Aは混合冷媒であるため実験中に圧縮機出口部に設置している冷媒採取部(図8(a),(b)参照)で冷媒を採取し、ガスクロマトグラフにより冷媒組成比を測定しながら実験を行った。
なお、ガスクロの分析結果は、計算により後述のts1とts2に反映している。
【0086】
凝縮性能、蒸発性能を示す供試管44の管内での圧力損失比、及び、熱伝達率比αiは、以下のようにして求めている。
先ず管内での圧力損失比は、供試管44の入口、出口の圧力差として求めている。
管内での熱伝達率比αiは、本実験での測定値をもとに式(1)から式(4)を用いて算出する。
【0087】
【数1】
【0088】
【数2】
【0089】
【数3】
【0090】
【数4】
ここで、数式(1)中のQは、交換熱量(kW)、Aは、供試管外表面積(m2)、tmは、対数平均温度(℃)、αoは、管外熱伝達率(kW/m2K)を示す。
【0091】
数式(2)中のGは、熱交換用水の流量(kg/s)、Cpは、熱交換用水の比熱(kJ/kgK)、tw1は、熱交換用水の入口温度(℃)、tw2は、熱交換用水の出口温度(℃)を示す。
【0092】
数式(3)中のts1は、冷媒入口飽和温度(℃)を示し、ts2は、冷媒出口飽和温度(℃)を示す。
【0093】
数式(4)中のkは、熱交換用水の熱伝導率(kw/mK)、Deは、環状部相当直径(m)を示す。Dは、シェル内径(m)を示し、dは、供試管外径(m)、Reは、熱交換用水のレイノルズ数(−)、Prは、熱交換用水のプラントル数(−)を示す。
【0094】
すなわち、温度などの測定値、設定パラメータをもとに数式(2)よりQ、数式(3)より凝縮時、蒸発時のtm、数式(4)よりαoを算出し、これら算出した値を数式(1)に代入することにより熱伝達率比αiを算出することができる。
【0095】
かくして得られた凝縮性能および蒸発性能の評価結果を表5に示す。
【0096】
【表5】
表5より明らかなように、熱伝達率に関しては、実施例1から5のいずれの伝熱管においても、凝縮性能、蒸発性能ともに、比較例1の伝熱管より高い熱伝達性能を示した。
【0097】
これにより、前記主溝を流れる冷媒の一部が、特に第1突出片に衝突し、管半径方向内側へかき上げられるため、管半径方向内側も含めた顕著な乱流促進を図ることができる。さらに、前記主溝を流れる冷媒の一部が、前記副溝に流れ込むことにより、管内周面全体において冷媒が拡散し、結果的に熱伝達率の向上を図ることができることを実証することができた。
【0098】
また、凝縮性能についてはフィンに対する主溝と副溝との成す角(α)の大きい実施例1,2,5の伝熱管が高性能となり、蒸発性能については、逆に、主溝と副溝とのなす角(α)の小さい実施例3,4の伝熱管が高性能となった。
【0099】
特に、実施例1,2の伝熱管は、表3に示すように、切欠きプラグのリード角が小さく(0°)、副溝が管軸に対して略平行である。このため、凝縮した冷媒が速やかに管軸方向に流れて排除されることも凝縮性能が向上した要因として考えられる。
【0100】
逆に、実施例3,4の伝熱管は、切欠きプラグのリード角が、実施例1,2の伝熱管のリード角(0°)よりも大きいため(25°)、管内に冷媒が長時間保持され、蒸発を繰り返し、結果的に蒸発性能が向上したと考えられる。
【0101】
また、表5より明らかなように、圧力損失に関しては、実施例3,4の伝熱管は、比較例1の伝熱管と比較して同等以下となった。
【0102】
これにより、フィンに対する突出片のなす角(α)、及び、主溝幅に対する突出片の主溝側への突出長さ(W1/W2)の値を比較的小さく設定することにより、圧力損失が増大することなく高性能化を図れることが確認できた。
特に、実施例5の伝熱管は、他の実施例、及び、比較例の伝熱管と比較して、フィンに対する突出片のなす角(α)が大きいため(44°)、圧力損失が大きくなっている(123.6)と考えられる。
このことから、フィンに対する突出片のなす角(α)は、大よそ30°以下であることが、圧力損失の増加を抑える上で好ましいことを確認できた。
【0103】
一方、実施例1,2,5の伝熱管は、比較例1の伝熱管と比較して熱伝達率比を含めたトータルの凝縮性能、蒸発性能は、いずれも向上したが、特に実施例2の伝熱管の圧力損失は、凝縮時、蒸発時ともに10%以上増大した。
【0104】
これは、表3に示すとおり、実施例2以外の伝熱管における切欠きプラグの頂角がいずれも30°であるのに対して、実施例2の伝熱管における切欠きプラグの頂角のみを60°としていることが要因として考えられる。
【0105】
すなわち、頂角が大きな(60°)切欠きプラグを用いて実施例2の伝熱管を製造することにより、主溝幅(W2)に対する突出片の主溝側への突出長さ(W1)の比(W1/W2)が0.63と最も大きくなったことが要因として考えられる。
【0106】
さらに、実施例1の伝熱管は、それぞれ主溝幅(W2)に対する突出片の主溝側への突出長さ(W1)の比(W1/W2)が実施例3,4における比(W1/W2)よりも大きい値(0.50)で形成している。
【0107】
以上より主溝幅(W2)に対する突出片の主溝側への突出長さ(W1)の比(W1/W2)は、0.5より小さいことが、圧力損失の増加を抑える上で好ましいことを確認できた。
【0108】
また、表5の結果より明らかなように、実施例4の伝熱管は、凝縮実験、蒸発実験のいずれにおいても、実施例3の伝熱管よりも熱伝達率が向上した。
【0109】
これは、実施例3の伝熱管は、実施例4の伝熱管と比較すると、切り欠き数、すなわち、副溝の数が実施例4の伝熱管の副溝の数(8)よりも多い(32)が、その他の形態については、全て同じ形態であることから、実施例3の伝熱管は、実施例4の伝熱管よりも、副溝の数が多い分、管半径方向内側も含めた管内全体の乱流効果を図ることができたことが要因として考えられる。
【0110】
また、本発明は、上述した実施例1から5の伝熱管、或いは、上述した伝熱管の製造方法に限らず、様々な形態、態様で構成することができる。
【0111】
例えば、本発明の伝熱管は、上述した実施形態(実施例4)の伝熱管11、或いは、実施例5の伝熱管21のように、前記フィン構成部12A,42Aに、少なくとも第1突出片16aを備えた構成で形成することができる。
【0112】
このように、前記第1突出片16aを備えることにより、主溝13を流れる冷媒の一部が前記第1突出片16aに衝突し、管半径方向へかき上げられ、三次元的な非定常流れを発生させ、更なる乱流促進による熱伝達率の向上を図ることができるからである。
【0113】
具体的には、本発明の伝熱管は、例えば、図9に示すように、平面視するとZの字形を傾斜させた形状(平面視傾斜型Z形状)をした複数のフィン構成部52Aを備えた伝熱管31として形成することもできる。
なお、図9は、平面視Z形状をしたフィン構成部52Aを有する管内面の拡大平面図である。但し、図9中、フィン構成部52Aと、管内面との稜線を省略して模式的に示している。
【0114】
平面視Z形状をした分断されたフィン構成部52Aは、該フィン構成部52Aに第1突出片16aを備えるに加えて、第4突出片16dを備えた形態である。
【0115】
さらに、前記伝熱管31は、管軸方向D1の上流側と下流側を図9に示した方向と逆にして、冷媒を流しても、第4突出片16dが前記フィン構成部52Aの螺旋方向下流側D2dに、管軸方向上流側D1uの前記主溝13に突出した構成となる(図9中、括弧内に示した矢印参照)。
【0116】
すなわち、上述した構成の伝熱管31は、管内に、管軸方向D1の一方側と他方側のいずれの側を上流側として下流側へ冷媒を流しても、第1突出片16a、第4突出片16dのいずれか一方が必ず、前記フィン構成部52Aの螺旋方向下流側D2dに、管軸方向上流側D1uの前記主溝13に突出した構成となる。
【0117】
よって、前記構成の伝熱管は、熱交換器への取り付け方向に関らず、上述した優れた性能を確保することができ、取り付け方向を意識することなく容易に熱交換器に対して取り付ることができる。
本発明は、上述した本実施形態のように様々な構成により形成することができるが、上述した構成に限定されるものではなく、多くの実施形態を得ることができる。
なお、上述した実施形態と、この発明の構成との対応において、この実施形態の切欠き刃29aは、この発明の刃に対応し、この実施形態の主溝13は、この発明のフィン間に対応するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本実施形態の伝熱管を示す部分拡大展開斜視図。
【図2】本実施形態の伝熱管を示す縦断面図。
【図3】本実施形態の伝熱管におけるフィン構成部を有する管内面の拡大平面図。
【図4】本実施形態における伝熱管の製造装置を示す模式図。
【図5】本実施形態の伝熱管の製造に用いた切欠きプラグの概略図。
【図6】本発明伝熱管の一例を示す部分拡大展開斜視図。
【図7】本発明の伝熱管の一例を示すフィン構成部を有する管内面の拡大平面図。
【図8】本実施形態の伝熱管の性能評価に用いた実験装置の概略図。
【図9】本発明の伝熱管の一例を示すフィン構成部を有する管内面の拡大平面図。
【符号の説明】
【0119】
11,21,31…伝熱管
10…管内面
12,42,52…フィン
12A,42A,52A…フィン構成部
14…副溝
16…突出片
16a…第1突出片
26…溝付プラグ
29…切欠きプラグ
33…第2縮径ダイス
D1…管軸方向
D2…螺旋方向
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機、空調機などの熱交換器に使用される伝熱管およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に空調機や冷凍機などに用いられる伝熱管は、管内の冷媒を蒸発または凝縮させて管外を流れる流体との間で熱交換を行なうもので、熱交換器の高効率化や省エネルギー化の観点から内面溝付管の使用が多くなっている。
【0003】
この内面溝付管は、管内面に微細な三角形断面や台形断面の溝が管軸に対して直線状もしくは螺旋状に形成されている。これらの溝を管内面に備えたことにより、平滑管に比べ伝熱面積が増大するとともに、冷媒液を撹拌させる攪拌作用によって伝熱性能を向上することができる。
【0004】
近年、特に空調機用熱交換器に対して高性能化や小型軽量化が強く求められており、また省エネ法の改正に伴って伝熱管の高性能化がより一層求められている。
しかしながら、従来の内面螺旋溝付管においては溝数、リード角、溝形状などの改良は行なわれているものの、上述したように求められている性能には不十分であった。
【0005】
そこで、これら従来の螺旋フィン付管に代わる伝熱管として、例えば、特許文献1には、冷媒液の攪拌作用を促進するため、管内面に主溝と、フィンを分断する深さの副溝とで形成したクロス溝付き伝熱管が開示されている。
【0006】
このクロス溝付き伝熱管は、フィンを副溝によって分断した平面視略S字形状をした複数の三次元突起(3)を管内面に備えている。
より詳しくは、三次元突起(3)は、その先端部に、主溝に沿う冷媒流れを副溝の方向へ誘導可能に突出したバリ(3a)を備えるとともに、後端部に、該バリ(3a)と逆方向に突出したバリ(3b)を備えている。
【0007】
特許文献1によれば、主溝を流れる冷媒をバリ(3a)によって副溝方向へ誘導することで、冷媒の複雑な流れによる攪拌作用を得ることができ、結果的に、熱伝達率を得ることができる旨の記載がされている。
【0008】
しかし、特許文献1における伝熱管は、三次元突起(3)に備えたバリ(3a),(3b)により、冷媒の管内周面側付近での攪拌を図ることができるが、管の半径方向中心側を流れる冷媒については、攪拌されず、結果的に、上述した要求を満足する伝達性能を得ることができなかった。
【0009】
【特許文献1】特開平8−178574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、圧力損失を増大させることなく、管内熱伝達率の向上を図ることができる伝熱管、及び、その製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、管内面に、管軸方向に対する所定角度の螺旋状のフィンが形成された伝熱管であって、前記フィンを、副溝によって分断されるとともに、管内面に螺旋状に突出する複数のフィン構成部により形成し、前記フィン構成部の少なくとも螺旋方向下流側に、管軸方向上流側で隣り合う前記フィンとの間に突出する突出片を備えた伝熱管であることを特徴とする。
【0012】
この発明の態様として、前記突出片を、前記フィンに対して5°〜90°の角度で形成することができる。
【0013】
この発明の態様として、前記副溝を、管周あたり4〜60の数に形成することができる。
【0014】
この発明の態様として、前記突出片を、前記フィン間の間隔に対して0.1〜0.9の割合から成る突出長さで形成したすることができる。
【0015】
また、本発明は、管内面に、管軸方向に対する所定の角度の螺旋状のフィンを備えた伝熱管の製造方法であって、螺旋状溝を外周に備えた溝付プラグにより管内面を押潰して、該管内面に管軸方向に対する所定角度の螺旋状のフィンを形成するフィン加工工程と、前記フィンに対して所定の交差角で交差する複数の刃を外周に備えた切欠きプラグを管内面に所定の深さで押し付けて、前記フィンを分断する副溝を形成して複数のフィン構成部を形成するとともに、前記フィン構成部の少なくとも螺旋方向下流側に、管軸方向上流側で隣り合う前記フィンとの間に突出する突出片を形成する突出片加工工程とを行う伝熱管の製造方法であることを特徴とする。
【0016】
この発明の態様として、前記刃は、平らな頂部を備えることができる。
【0017】
本発明は、上述したように前記フィン構成部の少なくとも螺旋方向下流側に、管軸方向上流側で隣り合う前記フィンとの間に突出する突出片を備えた構成である。
【0018】
係る構成により、前記フィン間を流れる冷媒の一部は、前記突出片に衝突し、管半径方向内側へかき上げられるため、三次元的な非定常流れを効果的に発生させることができる。
【0019】
従って、単に、管内周面にクロス溝を形成した従来の伝熱管と比較して、管半径方向内側も含めた乱流促進を図ることができ、優れた熱伝達率を得ることができる。
【0020】
さらに、前記突出片により、前記フィン間を流れる冷媒を、フィン形成方向における複数のフィン構成部の間に流れ込ませることができるため、二次流れ、すなわち、特に冷媒がフィンを跨いだ管内周面全体における拡散を図ることができる。
【0021】
従って、優れた乱流促進効果を得ることができるとともに、圧力損失の増大を防止することができる。
【0022】
本発明は、前記突出片を、上述したように前記フィンに対して5°以上の角度で形成することにより、前記フィン間を流れる冷媒を前記突出片に衝突させ、フィン間から複数のフィン構成部の間への積極的な誘導が可能となるため、上述した効果をより一層得ることができる。
【0023】
一方、本発明は、上述したように前記突出片を、前記フィンに対して90°以下の角度(鋭角)で形成することにより、フィン間を流れる冷媒がフィン形成方向における複数のフィン構成部の間へ流れ込み易くなり、より優れた拡散作用によって熱伝達率の向上を図ることができる。
さらに、管軸方向への冷媒流量が増大するため、圧力損失の増大を防止することができる。
【0024】
さらにまた、前記突出片を、前記フィンに対して90°以下の角度で形成すれば、該突出片の加工を容易に行うことができる。
また、本発明は、前記副溝を、管周あたり4以上の数で形成することにより、フィン形成方向におけるフィン構成部間の間隔が大きくなりすぎず、十分な冷媒攪拌作用を得ることができる。
【0025】
一方、本発明は、上述したように前記副溝を、管周あたり60以下の数で形成することにより、機械拡管時に耐え得るフィン強度を確保することができる。
【0026】
特に、前記副溝を、管周あたり8〜30の数で形成することがより好ましい。
前記副溝を、このように管周あたり8〜30の範囲内の数で形成することにより、伝熱性能は大きく変化せず、冷媒攪拌作用とフィン強度との好ましいバランスを得ることができる。
【0027】
また、本発明は、上述したように、前記突出片を、前記フィン間の間隔に対して0.1以上の割合から成る突出長さで形成することにより、フィン間を流れる冷媒がフィン形成方向におけるフィン構成部の間へ流れ込み易くなるとともに、半径方向内側への冷媒のかき上げを促進することができるため、大きな冷媒攪拌作用を得ることができ、熱伝達率の向上を図ることができる。
【0028】
一方、上述したように前記突出片を、前記フィン間の間隔に対して0.9以下の割合から成る突出長さで形成することにより、フィン間に突出片が突き出しすぎず、該突出片によって前記フィン間に流れる冷媒の流れが阻害されすぎないため、圧力損失の増大を防止することができる。
【0029】
また、本発明における伝熱管の製造方法は、上述したとおり、前記突出片加工工程を備えているため、該突出片加工工程において、フィン構成部の少なくとも螺旋方向下流側に、管軸方向上流側で隣り合う前記フィンとの間に突出する突出片を確実に形成することができる。
【0030】
上述したように前記刃は、平らな頂部を備えた構成とすれば、該刃をフィンに押し付けたときに、所望の形態の前記突出片を、より一層、容易に形成できるため、好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、圧力損失を増大させることなく、管内熱伝達率の向上を図ることができる伝熱管、及び、その製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
本実施形態における伝熱管11は、図1〜3に示すように、管内面10に、螺旋状のフィン12を形成している。
なお、本実施形態における伝熱管11は、管内面10に螺旋状のフィン12を形成することによりフィン12間に、主溝13を備えている。
さらに、前記伝熱管11は、前記フィン12を、該フィン12を螺旋方向D2(フィン形成方向)に分断することによって複数のフィン構成部12Aを形成している。
なお、本実施形態における伝熱管11は、管内面10にフィン構成部12Aを形成することにより、螺旋方向D2のフィン構成部12Aの間には、副溝14によってフィン12を分断する副溝形成部分15を備えている。
なお、図1は、本実施形態の伝熱管11の管内面10の様子を模式的に示した部分拡大展開斜視図であり、図2は、本実施形態の伝熱管11の縦断面図であり、図3は、フィン構成部12A付近の拡大平面図である。なお、図2、及び、図3では、前記フィン構成部12Aと管内面10との稜線を省略して模式的に示している。
さらに、前記フィン構成部12Aは、螺旋方向下流側D2dに、管軸方向上流側D1uの前記主溝13に突出する突出片16(第1突出片16a)を備えている。
【0033】
前記第1突出片16aは、前記主溝13に対して5°〜90°の範囲内である12°の角度(α)で形成している。
【0034】
前記副溝14は、螺旋状の前記フィン12に、管周あたり4〜60条の範囲内である32の条数で形成している。
【0035】
前記第1突出片16aは、前記主溝13の幅(W2)に対して0.1〜0.9の範囲内である0.3の割合(W1/W2)から成る前記主溝13への突出長さ(W1)で形成している。
【0036】
より詳しくは、本実施形態の伝熱管11は、外径が7.0mmであり、螺旋状のフィン12は、管軸方向D1に対して30°の角度(β)で形成している。さらに、管周あたりのフィン数を48、フィン高さ(主溝深さ)を、0.25mm、フィン12の断面形状を略台形形状で形成している。
また、副溝14は、深さが0.25mmであり、内角が30度の逆三角断面の溝形状で形成している。
【0037】
さらに、前記フィン構成部12Aは、螺旋方向下流側D2dに、管軸方向下流側D1dの前記主溝13に突出する突出片16(第2突出片16b)を備えている。
【0038】
一方、前記フィン構成部12Aは、螺旋方向上流側D2uにも、それぞれ管軸方向上流側D1uの前記主溝13に突出する突出片16(第3突出片16c)、管軸方向下流側D1dの前記主溝13に突出する突出片16(第4突出片16d)を備えている。
【0039】
従って、図3に示すように、フィン構成部12Aは、平面視するとHの文字を傾けた形状(傾斜型H形状)で形成している。
【0040】
続いて、上述した伝熱管11の製造装置17について図4,図5とともに説明する。
なお、図4は、本実施形態における伝熱管11の製造装置17を断面により示した模式図であり、図5は、切欠きプラグの詳細図である。
【0041】
引抜き方向Xの上流側(図4において左側)には、第1縮径ダイス23とフローティングプラグ24を備えている。
【0042】
管内に配されたフローティングプラグ24の下流側には、該フローティングプラグ24と下流側で連結された第1連結棒25により、管内において回動自在に連結保持され、外周面に複数の螺旋状の溝26aが形成された溝付プラグ26を備えている。
溝付プラグ26は、管軸方向D1に対して右ねじり方向に40°のリード角で構成している。
【0043】
管外側において溝付プラグ26と対向する位置には、銅管11aを押圧しながら公転する複数個の転造ボール27を備えている。
【0044】
さらに、溝付プラグ26の下流側には、該溝付プラグ26と下流側で連結された第2連結棒28により回動自在に連結保持された切欠きプラグ29を備えている。
【0045】
切欠きプラグ29は、図5(a),(b)に示すように、外周面に凸状の切欠き刃29aを複数備えている。
前記切欠き刃29aは、管軸方向D1に対して右ねじり方向に25°のリード角で構成している。さらに、図5(a)の要部拡大図に示すように、前記切欠き刃29aは、その高さを0.25mmで形成するとともに、その頂角を、30°で形成しているが、該頂部を平坦状に構成している。
【0046】
また、管外側において前記切欠きプラグ29と対向する位置には、銅管11aをさらに縮径する第2縮径ダイス33を備えている。
【0047】
ここで、銅管11aの縮径は、前記第2縮径ダイス33を用いるに限定せず、例えば、ボールによる転造により行なってもよいが、上述した第2縮径ダイス33を用いて銅管11aを縮径することにより、該銅管11aの断面を円形状に保てるので好ましい。
【0048】
本実施形態の伝熱管11は、上述した製造装置17を用いて以下の製造方法により製造する。
先ず銅管11aを第1縮径ダイス23とフローティングプラグ24により、縮径する加工を行なう。そして、前記溝付プラグ26と前記転造ボール27により銅管11aをさらに縮径するとともに、管内に、管軸方向D1に対して所定のリード角の螺旋状のフィン12を形成するとともに、該フィン12間に主溝13を形成するフィン加工工程を行う。
【0049】
続いて、前記切欠きプラグ29と第2縮径ダイス33により、前記フィン12を分断した前記フィン構成部12Aを複数形成するとともに、前記フィン構成部12Aの少なくとも螺旋方向下流側D2dに、管軸方向上流側D1uの前記主溝13に突出する第1突出片16aを形成する突出片加工工程とを行う。
【0050】
上述した製造方法により、図1から3に示したように、平面視すると傾斜型H形状をした複数の分断された前記フィン構成部12Aを管内に備えた伝熱管11を製造することができる。
【0051】
上述した伝熱管11は、以下のような様々な作用、効果を得ることができる。
本実施形態の伝熱管11は、上述したように、前記フィン構成部12Aの少なくとも螺旋方向下流側D2dに、管軸方向上流側D1uの前記主溝13に突出する前記第1突出片16aを備えている。
【0052】
このため、前記主溝13を流れる冷媒の一部は、前記第1突出片16aに衝突し、管半径方向内側へかき上げられるため、三次元的な非定常流れを発生させることができる。
【0053】
従って、管の半径方向内側も含めた乱流促進効果を得ることができるため、単に、管内面にクロス溝を形成した従来の伝熱管や、副溝近傍にバリを有した従来の伝熱管と比較して、更なる熱伝達率の向上を図ることができる。
【0054】
さらに、上述したように螺旋状の前記フィン12は、特に、前記フィン構成部12Aの少なくとも螺旋方向上流側D2uに、管軸方向上流側D1uの主溝13側へ突出した第3突出片16cを備えているため、前記主溝13を流れる冷媒が前記副溝14に、より一層、流れ込み易くなるため、二次流れが発生し、特に管内周面付近において冷媒の攪拌効果を得ることができるとともに、圧力損失の増大を防止することができる。
【0055】
また、螺旋状のフィン12は、上述したように管軸に対して25°〜50°の角度(β)である30°で形成している。
【0056】
このように、フィン12を、管軸に対して25°以上のリード角で形成することにより、十分な伝熱性能を得ることができる一方、50°以下のリード角で形成することにより、フィン加工工程において、フィン加工を容易に行うことができる。
【0057】
また、本実施形態の伝熱管11は、前記突出片16を、上述したように前記主溝13に対して5°〜90°の範囲である12°の角度(α)で形成している。
このため、前記主溝13を流れる冷媒の流れを過度に妨げることがなく、その一部を前記突出片16に衝突させて主溝13から副溝14への流れ込みが可能となるため、より大きな冷媒攪拌作用によって熱伝達率の向上を図ることができる。
【0058】
さらに、管軸方向D1への冷媒流量が増大するため、圧力損失の増大を防止することができる。
【0059】
特に、本実施形態の伝熱管11のように、前記突出片16を、前記主溝13に対して5°〜20°の角度範囲で形成することにより、より一層、熱伝達率の向上と圧力損失増大の防止を図ることができる。
【0060】
また、本実施形態の伝熱管11は、上述したように前記副溝14を、螺旋状の前記フィン12に、管周あたり32の条数で形成することにより、副溝14による切欠きピッチが適切な大きさになるため、十分な冷媒攪拌作用を得することができるとともに、機械拡管時に耐え得るフィン強度を得ることができる。
【0061】
また、本実施形態の伝熱管11は、上述したように、前記突出片16を前記主溝13の幅(W2)に対して0.3の割合(W1/W2)から成る前記主溝13への突出長さ(W1)で形成することにより、半径方向内側への冷媒のかき上げが促進され、優れた冷媒攪拌作用を得ることができ、結果的に熱伝達率の向上を図ることができる。
【0062】
しかも、前記主溝13に流れる冷媒の流れが阻害されすぎることがない突出長さであるため、主溝13を流れる冷媒が副溝14へ流れ込みを許容しつつ、圧力損失の増大を防止することができる。
【0063】
また、前記副溝14は、本実施形態の伝熱管11のように、主溝13の深さの30〜100%の深さで構成することが好ましい。
【0064】
副溝14を、主溝13の深さの30%以上の深さで構成することにより、主溝13を流れる冷媒が副溝14へ流れ込み易くなり、優れた熱伝達率を得ることができるとともに、圧力損失の増大を防止することができる。
【0065】
一方、副溝14を、主溝13の深さの100%以下の深さで構成することにより、管肉厚に主溝深さよりも深い切り込みを形成することがないため、管の品質(底肉厚の仕様)を保つことができる。
【0066】
なお、前記副溝14は、前記切欠きプラグ29で形成する際の加工の容易さと性能とのバランスから、主溝13の深さの70〜80%の深さで構成することが特に好ましい。
【0067】
また、上述した伝熱管11の製造方法では、特に前記突出片加工工程を行うことにより、平面視傾斜型H形状をした複数のフィン構成部12Aを管内面10に備えた伝熱管11を容易に製造することができる。
【0068】
本実施形態の伝熱管11の製造方法によれば、フィン12に副溝14を形成する際において、管内面10では塑性変形により副溝14が形成されるため、切り粉による伝熱管11内部の汚染がない。
【0069】
さらに、本実施形態における製造装置17では、第2縮径ダイス33により、前記切欠きプラグ29への押圧を行うため、銅管11aの断面を円形状に保つことができる。
【0070】
また、前記切欠きプラグ29は、切欠き刃29aの頂部を、平坦状に構成している。このような切欠き刃29aをフィン12に押し付けることにより、主溝13側に突出した前記突出片16を、より一層、形成することができる。
【0071】
以上、本発明の一実施形態である伝熱管11について詳述したが、続いて、本発明の伝熱管の性能を検証するために行った実験について説明する。
【0072】
本実験では、本発明の伝熱管として実施例1から5までの5種類製作するとともに、比較対象として用いる伝熱管を、比較例1として製作した。
実施例1から5までの伝熱管は、それぞれ上述した実施形態の伝熱管11と同様の製造方法により、表1に示すような外径、フィン、副溝、突出片を有する形状に製作している。
【0073】
【表1】
ここで、実施例4の伝熱管は、表1に示した各部の形状からも明らかなとおり、前述した実施形態の伝熱管11と同じ形状の伝熱管を用いている。
【0074】
また、実施例1から4の伝熱管は、いずれも平面視傾斜型H形状をした複数の分断されたフィン構成部12Aを備えて形成している。一方、実施例5の伝熱管21は、図6、及び、図7に示すように、平面視したとき、J字形をした形状(平面視J形状)をした複数のフィン構成部42Aを備えて形成している。
【0075】
より詳しくは、実施例5の伝熱管21における、平面視J形状をした分断されたフィン構成部42Aは、該フィン構成部42Aに第1突出片16aを備えるに加えて、第2突出片16b、及び、第3突出片16cを備えた形態である。
ここで、図6は、実施例5の伝熱管21の管内面10の様子を模式的に示した部分拡大展開斜視図であり、図7は、実施例5の伝熱管21の管内面10の分断したフィン近傍の拡大平面図である。なお、図7では、前記フィン構成部42Aと管内面10との稜線を省略して模式的に示している。
【0076】
なお、比較例1の伝熱管は、従来の伝熱管であり、表1に示すとおり管内面にフィンを形成しているが、該フィンに副溝(フィン形成部)を形成していない伝熱管である。
【0077】
また、実施例1から5、及び、比較例1の伝熱管は、それぞれ表2に示すような形状の溝付プラグ、及び、表3に示すような形状の切欠きプラグを備えた製造装置を用いて製造した。
なお、表3中の切欠きプラグの外径とは、外周部に備えた刃の高さを含む外径を示し、該切欠きプラグの中心を通る刃の頂部間を結ぶ直線距離を示すものとする。
【表2】
【0078】
【表3】
すなわち、表2に示すように、溝付プラグは、いずれの実施例においても同じ形態のものを用い、また、表3に示すように、切欠きプラグは、適宜、異なる形態のものに変更して伝熱管を製作した。
【0079】
この実験では、伝熱管の管内の凝縮性能を検証する凝縮実験を図8(a)に示すような管内凝縮性能測定装置50Aを用いて行うとともに、蒸発性能を検証する蒸発実験を図8(b)に示すような管内蒸発性能測定装置50Bを用いて行った。
なお、図8(a),(b)は、それぞれ管内凝縮性能測定装置50A,管内蒸発性能測定装置50Bの概略図を示し、いずれの装置50A,50Bにおいても、一般の空調機と同様に全体が冷凍サイクルにより構成されている。
【0080】
詳しくは、凝縮実験では、実施例1から5までの伝熱管、及び、比較例1の伝熱管のそれぞれを、図8(a)に示すように凝縮器に供試管44として組み込んだ。この場合における、実施例1から5までの各伝熱管の比較例1の伝熱管に対する熱伝達率の比(熱伝達率比)、圧力損失の比(圧力損失比)を測定することにより、凝縮性能の検証を行った。
蒸発実験では、実施例1から5までの伝熱管、及び、比較例1の伝熱管のそれぞれを、図8(b)に示すように蒸発器に供試管44として組み込んだ。この場合における、実施例1から5までの各伝熱管の比較例1の伝熱管に対する熱伝達率の比(熱伝達率比)、圧力損失の比(圧力損失比)を測定することにより、蒸発性能の検証を行った。
【0081】
図8(a),(b)に示すように、管内凝縮性能測定装置50A,管内蒸発性能測定装置50Bにおけるテストセクションは、二重管式熱交換器で構成しており、供試管44内に冷媒を流し、外側シェルを構成する環状部45の内部には、その冷媒流れと対向する方向へ熱交換用の水(以下、「熱交換用水」という。)を流して供試管44の有効長さを4mに設定して熱交換を行った。
なお、としては、凝縮実験における熱交換用水としては、低温水を流し、蒸発実験における熱交換用水としては、高温水を流している。
【0082】
また、図8(a),(b)に示すように、テストセクションの各所定部位には、温度計、圧力計、流量計を配設している。なお、図8(a),(b)中、Tは、温度計、Pは、圧力計、Gは、流量計を示す。
【0083】
続いて、供試管44の冷媒の入口と出口とにおける実験条件として、凝縮実験では、冷媒入口過熱度、冷媒出口過冷却度を、蒸発実験では、冷媒入口乾き度、冷媒出口過熱度を、それぞれ表4に示すように設定した。
【0084】
【表4】
これら凝縮実験、蒸発実験における実験条件は、いずれも空調機の熱交換器入口条件と同一となるように、水温を調節した後に測定を行った。
さらまた、供試管44の入口と出口における冷媒平均飽和温度は、表4に示すように凝縮実験では48℃に設定するとともに、蒸発実験では5℃に設定した。
【0085】
冷媒には、代替フロンとしてR410Aを使用し、該R410Aは混合冷媒であるため実験中に圧縮機出口部に設置している冷媒採取部(図8(a),(b)参照)で冷媒を採取し、ガスクロマトグラフにより冷媒組成比を測定しながら実験を行った。
なお、ガスクロの分析結果は、計算により後述のts1とts2に反映している。
【0086】
凝縮性能、蒸発性能を示す供試管44の管内での圧力損失比、及び、熱伝達率比αiは、以下のようにして求めている。
先ず管内での圧力損失比は、供試管44の入口、出口の圧力差として求めている。
管内での熱伝達率比αiは、本実験での測定値をもとに式(1)から式(4)を用いて算出する。
【0087】
【数1】
【0088】
【数2】
【0089】
【数3】
【0090】
【数4】
ここで、数式(1)中のQは、交換熱量(kW)、Aは、供試管外表面積(m2)、tmは、対数平均温度(℃)、αoは、管外熱伝達率(kW/m2K)を示す。
【0091】
数式(2)中のGは、熱交換用水の流量(kg/s)、Cpは、熱交換用水の比熱(kJ/kgK)、tw1は、熱交換用水の入口温度(℃)、tw2は、熱交換用水の出口温度(℃)を示す。
【0092】
数式(3)中のts1は、冷媒入口飽和温度(℃)を示し、ts2は、冷媒出口飽和温度(℃)を示す。
【0093】
数式(4)中のkは、熱交換用水の熱伝導率(kw/mK)、Deは、環状部相当直径(m)を示す。Dは、シェル内径(m)を示し、dは、供試管外径(m)、Reは、熱交換用水のレイノルズ数(−)、Prは、熱交換用水のプラントル数(−)を示す。
【0094】
すなわち、温度などの測定値、設定パラメータをもとに数式(2)よりQ、数式(3)より凝縮時、蒸発時のtm、数式(4)よりαoを算出し、これら算出した値を数式(1)に代入することにより熱伝達率比αiを算出することができる。
【0095】
かくして得られた凝縮性能および蒸発性能の評価結果を表5に示す。
【0096】
【表5】
表5より明らかなように、熱伝達率に関しては、実施例1から5のいずれの伝熱管においても、凝縮性能、蒸発性能ともに、比較例1の伝熱管より高い熱伝達性能を示した。
【0097】
これにより、前記主溝を流れる冷媒の一部が、特に第1突出片に衝突し、管半径方向内側へかき上げられるため、管半径方向内側も含めた顕著な乱流促進を図ることができる。さらに、前記主溝を流れる冷媒の一部が、前記副溝に流れ込むことにより、管内周面全体において冷媒が拡散し、結果的に熱伝達率の向上を図ることができることを実証することができた。
【0098】
また、凝縮性能についてはフィンに対する主溝と副溝との成す角(α)の大きい実施例1,2,5の伝熱管が高性能となり、蒸発性能については、逆に、主溝と副溝とのなす角(α)の小さい実施例3,4の伝熱管が高性能となった。
【0099】
特に、実施例1,2の伝熱管は、表3に示すように、切欠きプラグのリード角が小さく(0°)、副溝が管軸に対して略平行である。このため、凝縮した冷媒が速やかに管軸方向に流れて排除されることも凝縮性能が向上した要因として考えられる。
【0100】
逆に、実施例3,4の伝熱管は、切欠きプラグのリード角が、実施例1,2の伝熱管のリード角(0°)よりも大きいため(25°)、管内に冷媒が長時間保持され、蒸発を繰り返し、結果的に蒸発性能が向上したと考えられる。
【0101】
また、表5より明らかなように、圧力損失に関しては、実施例3,4の伝熱管は、比較例1の伝熱管と比較して同等以下となった。
【0102】
これにより、フィンに対する突出片のなす角(α)、及び、主溝幅に対する突出片の主溝側への突出長さ(W1/W2)の値を比較的小さく設定することにより、圧力損失が増大することなく高性能化を図れることが確認できた。
特に、実施例5の伝熱管は、他の実施例、及び、比較例の伝熱管と比較して、フィンに対する突出片のなす角(α)が大きいため(44°)、圧力損失が大きくなっている(123.6)と考えられる。
このことから、フィンに対する突出片のなす角(α)は、大よそ30°以下であることが、圧力損失の増加を抑える上で好ましいことを確認できた。
【0103】
一方、実施例1,2,5の伝熱管は、比較例1の伝熱管と比較して熱伝達率比を含めたトータルの凝縮性能、蒸発性能は、いずれも向上したが、特に実施例2の伝熱管の圧力損失は、凝縮時、蒸発時ともに10%以上増大した。
【0104】
これは、表3に示すとおり、実施例2以外の伝熱管における切欠きプラグの頂角がいずれも30°であるのに対して、実施例2の伝熱管における切欠きプラグの頂角のみを60°としていることが要因として考えられる。
【0105】
すなわち、頂角が大きな(60°)切欠きプラグを用いて実施例2の伝熱管を製造することにより、主溝幅(W2)に対する突出片の主溝側への突出長さ(W1)の比(W1/W2)が0.63と最も大きくなったことが要因として考えられる。
【0106】
さらに、実施例1の伝熱管は、それぞれ主溝幅(W2)に対する突出片の主溝側への突出長さ(W1)の比(W1/W2)が実施例3,4における比(W1/W2)よりも大きい値(0.50)で形成している。
【0107】
以上より主溝幅(W2)に対する突出片の主溝側への突出長さ(W1)の比(W1/W2)は、0.5より小さいことが、圧力損失の増加を抑える上で好ましいことを確認できた。
【0108】
また、表5の結果より明らかなように、実施例4の伝熱管は、凝縮実験、蒸発実験のいずれにおいても、実施例3の伝熱管よりも熱伝達率が向上した。
【0109】
これは、実施例3の伝熱管は、実施例4の伝熱管と比較すると、切り欠き数、すなわち、副溝の数が実施例4の伝熱管の副溝の数(8)よりも多い(32)が、その他の形態については、全て同じ形態であることから、実施例3の伝熱管は、実施例4の伝熱管よりも、副溝の数が多い分、管半径方向内側も含めた管内全体の乱流効果を図ることができたことが要因として考えられる。
【0110】
また、本発明は、上述した実施例1から5の伝熱管、或いは、上述した伝熱管の製造方法に限らず、様々な形態、態様で構成することができる。
【0111】
例えば、本発明の伝熱管は、上述した実施形態(実施例4)の伝熱管11、或いは、実施例5の伝熱管21のように、前記フィン構成部12A,42Aに、少なくとも第1突出片16aを備えた構成で形成することができる。
【0112】
このように、前記第1突出片16aを備えることにより、主溝13を流れる冷媒の一部が前記第1突出片16aに衝突し、管半径方向へかき上げられ、三次元的な非定常流れを発生させ、更なる乱流促進による熱伝達率の向上を図ることができるからである。
【0113】
具体的には、本発明の伝熱管は、例えば、図9に示すように、平面視するとZの字形を傾斜させた形状(平面視傾斜型Z形状)をした複数のフィン構成部52Aを備えた伝熱管31として形成することもできる。
なお、図9は、平面視Z形状をしたフィン構成部52Aを有する管内面の拡大平面図である。但し、図9中、フィン構成部52Aと、管内面との稜線を省略して模式的に示している。
【0114】
平面視Z形状をした分断されたフィン構成部52Aは、該フィン構成部52Aに第1突出片16aを備えるに加えて、第4突出片16dを備えた形態である。
【0115】
さらに、前記伝熱管31は、管軸方向D1の上流側と下流側を図9に示した方向と逆にして、冷媒を流しても、第4突出片16dが前記フィン構成部52Aの螺旋方向下流側D2dに、管軸方向上流側D1uの前記主溝13に突出した構成となる(図9中、括弧内に示した矢印参照)。
【0116】
すなわち、上述した構成の伝熱管31は、管内に、管軸方向D1の一方側と他方側のいずれの側を上流側として下流側へ冷媒を流しても、第1突出片16a、第4突出片16dのいずれか一方が必ず、前記フィン構成部52Aの螺旋方向下流側D2dに、管軸方向上流側D1uの前記主溝13に突出した構成となる。
【0117】
よって、前記構成の伝熱管は、熱交換器への取り付け方向に関らず、上述した優れた性能を確保することができ、取り付け方向を意識することなく容易に熱交換器に対して取り付ることができる。
本発明は、上述した本実施形態のように様々な構成により形成することができるが、上述した構成に限定されるものではなく、多くの実施形態を得ることができる。
なお、上述した実施形態と、この発明の構成との対応において、この実施形態の切欠き刃29aは、この発明の刃に対応し、この実施形態の主溝13は、この発明のフィン間に対応するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本実施形態の伝熱管を示す部分拡大展開斜視図。
【図2】本実施形態の伝熱管を示す縦断面図。
【図3】本実施形態の伝熱管におけるフィン構成部を有する管内面の拡大平面図。
【図4】本実施形態における伝熱管の製造装置を示す模式図。
【図5】本実施形態の伝熱管の製造に用いた切欠きプラグの概略図。
【図6】本発明伝熱管の一例を示す部分拡大展開斜視図。
【図7】本発明の伝熱管の一例を示すフィン構成部を有する管内面の拡大平面図。
【図8】本実施形態の伝熱管の性能評価に用いた実験装置の概略図。
【図9】本発明の伝熱管の一例を示すフィン構成部を有する管内面の拡大平面図。
【符号の説明】
【0119】
11,21,31…伝熱管
10…管内面
12,42,52…フィン
12A,42A,52A…フィン構成部
14…副溝
16…突出片
16a…第1突出片
26…溝付プラグ
29…切欠きプラグ
33…第2縮径ダイス
D1…管軸方向
D2…螺旋方向
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管内面に、管軸方向に対する所定角度の螺旋状のフィンが形成された伝熱管であって、
前記フィンを、副溝によって分断されるとともに、管内面に螺旋状に突出する複数のフィン構成部により形成し、
前記フィン構成部の少なくとも螺旋方向下流側に、管軸方向上流側で隣り合う前記フィンとの間に突出する突出片を備えた
伝熱管。
【請求項2】
前記突出片を、
前記フィンに対して5°〜90°の角度で形成した
請求項1に記載の伝熱管。
【請求項3】
前記副溝を、
管周あたり4〜60の数に形成した
請求項1または2に記載の伝熱管。
【請求項4】
前記突出片を、前記フィン間の間隔に対して0.1〜0.9の割合から成る突出長さで形成した
請求項1から3のいずれかに記載の伝熱管。
【請求項5】
管内面に、管軸方向に対する所定の角度の螺旋状のフィンを備えた伝熱管の製造方法であって、
螺旋状溝を外周に備えた溝付プラグにより管内面を押潰して、該管内面に管軸方向に対する所定角度の螺旋状のフィンを形成するフィン加工工程と、
前記フィンに対して所定の交差角で交差する複数の刃を外周に備えた切欠きプラグを管内面に所定の深さで押し付けて、前記フィンを分断する副溝を形成して複数のフィン構成部を形成するとともに、
前記フィン構成部の少なくとも螺旋方向下流側に、管軸方向上流側で隣り合う前記フィンとの間に突出する突出片を形成する突出片加工工程とを行う
伝熱管の製造方法。
【請求項6】
前記刃は、平らな頂部を備えることを特徴とする
請求項5に記載の伝熱管の製造方法。
【請求項1】
管内面に、管軸方向に対する所定角度の螺旋状のフィンが形成された伝熱管であって、
前記フィンを、副溝によって分断されるとともに、管内面に螺旋状に突出する複数のフィン構成部により形成し、
前記フィン構成部の少なくとも螺旋方向下流側に、管軸方向上流側で隣り合う前記フィンとの間に突出する突出片を備えた
伝熱管。
【請求項2】
前記突出片を、
前記フィンに対して5°〜90°の角度で形成した
請求項1に記載の伝熱管。
【請求項3】
前記副溝を、
管周あたり4〜60の数に形成した
請求項1または2に記載の伝熱管。
【請求項4】
前記突出片を、前記フィン間の間隔に対して0.1〜0.9の割合から成る突出長さで形成した
請求項1から3のいずれかに記載の伝熱管。
【請求項5】
管内面に、管軸方向に対する所定の角度の螺旋状のフィンを備えた伝熱管の製造方法であって、
螺旋状溝を外周に備えた溝付プラグにより管内面を押潰して、該管内面に管軸方向に対する所定角度の螺旋状のフィンを形成するフィン加工工程と、
前記フィンに対して所定の交差角で交差する複数の刃を外周に備えた切欠きプラグを管内面に所定の深さで押し付けて、前記フィンを分断する副溝を形成して複数のフィン構成部を形成するとともに、
前記フィン構成部の少なくとも螺旋方向下流側に、管軸方向上流側で隣り合う前記フィンとの間に突出する突出片を形成する突出片加工工程とを行う
伝熱管の製造方法。
【請求項6】
前記刃は、平らな頂部を備えることを特徴とする
請求項5に記載の伝熱管の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2009−162389(P2009−162389A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339242(P2007−339242)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】
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