伝達比可変装置
【課題】フレクスプラインに噛合するサーキュラスプラインの軸ずれを好適に吸収することにより各スプライン間の良好な噛み合い状態を維持することができる伝達比可変装置を提供する。
【解決手段】ドリブン側のサーキュラスプライン64に対するアダプタシャフト65の径方向への相対変位を許容した。このため、アダプタシャフト65に出力軸42を圧入するに際して、アダプタシャフト65の軸心が出力軸42の軸心に倣ったとしても、これに追従してドリブン側のサーキュラスプライン64が変位することはない。したがって、ドリブン側のサーキュラスプライン64の内歯と、フレクスプラインの外歯との噛み合い状態は、前述した圧入の前後で変化することなく、圧入前の良好な噛み合い状態に維持される。
【解決手段】ドリブン側のサーキュラスプライン64に対するアダプタシャフト65の径方向への相対変位を許容した。このため、アダプタシャフト65に出力軸42を圧入するに際して、アダプタシャフト65の軸心が出力軸42の軸心に倣ったとしても、これに追従してドリブン側のサーキュラスプライン64が変位することはない。したがって、ドリブン側のサーキュラスプライン64の内歯と、フレクスプラインの外歯との噛み合い状態は、前述した圧入の前後で変化することなく、圧入前の良好な噛み合い状態に維持される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入出力軸間の回転伝達比(速度伝達比)を変化させる伝達比可変装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示されるように、ステアリング操作に基づく入力軸の回転に対してモータ駆動に基づく回転を上乗せして出力軸に伝達する伝達比可変装置が知られている。図10に示されるように、この伝達比可変装置101では、そのハウジング102が転舵系のラック軸103を収容するラックハウジング104に一体的に設けられている。そしてこのハウジング102に内包された状態で、モータ105を構成する中空状のモータ軸105aに嵌挿された入力軸106が波動歯車機構107を介して出力軸108に連結されている。
【0003】
波動歯車機構107は、入力軸106と一体回転可能に設けられる楕円状のウェーブジェネレータ109、当該ウェーブジェネレータ109の外周に装着されるフレクスプライン110、当該フレクスプライン110の外周側に配設されるステータ側及びドリブン側の2つのサーキュラスプライン111,112を備えてなる。これらサーキュラスプライン111,112は、入力軸106の軸心方向において並設されている。
【0004】
ウェーブジェネレータ109は、モータ軸105aに外嵌固定される楕円状のカム113、及び当該カム113に外嵌される薄肉のボール軸受114を備えてなる。このボール軸受114の内輪はカム113の外周面に固定され、同じく外輪はボールを介して弾性変形する。
【0005】
フレクスプライン110は、金属等により薄肉円筒状に形成されることにより弾性変形可能とされるとともに、その外周面には多数の歯が形成されている。そしてこのフレクスプライン110はウェーブジェネレータ109の楕円状をなす外周面にその全周にわたって接した状態で装着されている。このため、フレクスプライン110は、ウェーブジェネレータ109、正確にはカム113の回転に伴い楕円状にたわめられる。
【0006】
ステータ側のサーキュラスプライン111は、円筒状に形成されている。当該サーキュラスプライン111は、モータ軸105aの端部から突出する入力軸106に圧入状態で外嵌固定された入力側アダプタ部材115に対して一体回転可能に連結されている。当該サーキュラスプライン111の内周面にはフレクスプライン110の外歯に噛合する多数の歯が形成されている。当該歯数はフレクスプライン110の歯数と同じに設定されている。
【0007】
ドリブン側のサーキュラスプライン112は、ステータ側のサーキュラスプライン111と同様の円環状に形成されるとともに、自身に外嵌される出力側アダプタ部材116を介して出力軸108に対して一体回転可能に連結されている。当該サーキュラスプライン112の内周面にもフレクスプライン110の外歯に噛合する多数の歯が形成されるとともに、当該歯数はステータ側のサーキュラスプライン111の歯数よりも多く設定されている。なお、出力側アダプタ部材116は、入力側アダプタ部材115及び両サーキュラスプライン111,112を内包するかたちで、出力軸108の内端部に外嵌固定されている。
【0008】
なお、両サーキュラスプライン111,112の内歯には、ウェーブジェネレータ109の外周面形状に倣って変形した楕円形のフレクスプライン110の外歯のうち長軸部分のみが噛合する。また、両サーキュラスプライン111,112の内歯とフレクスプライン110の外歯のうち短軸部分との間には隙間が形成される。出力軸108の先端外周面には転舵系のラック軸103に噛合されるピニオンギヤ117が設けられている。
【0009】
さて、運転者によりステアリング操作が行われた際には、入力軸106が回転するとともに、図示しない各種のセンサを通じて取得される操舵角及び車速等に基づきモータ105が駆動制御される。モータ軸105aが回転すると、ウェーブジェネレータ109のカム113が一体的に回転する。前述したように、カム113は楕円状をなしているので、これが回転すると、ボール軸受114を介してフレクスプライン110が楕円状に弾性変形する。カム113の回転に伴い、フレクスプライン110の外歯と両サーキュラスプライン111,112の内歯との噛合する位置が周方向へ順次移動する。
【0010】
ここで、フレクスプライン110及びドリブン側のサーキュラスプライン112の歯数は異なるため、カム113が一回転すると、当該歯数差の分だけ、ドリブン側のサーキュラスプライン112がフレクスプライン110に対して回転する。モータ軸105aの回転数が大きいほど、フレクスプライン110に対するドリブン側のサーキュラスプライン112の相対回転数差は大きくなる。ドリブン側のサーキュラスプライン112は、入力軸106の回転による回転角にモータ軸105aの回転による回転角が加えられた回転角が転舵角として出力側アダプタ部材116を介して出力軸108に伝達される。すなわち、モータ105の駆動制御を通じて、入力軸106と出力軸108との間の回転伝達比、換言すればステアリング操舵角と転舵輪側の転舵角との伝達比を変化させることができる。
【0011】
ところが、このように構成される伝達比可変装置101においては、ステータ側のサーキュラスプライン111の軸心は入力軸106の軸心により、またドリブン側のサーキュラスプライン112の軸心は出力軸108の軸心によりそれぞれ規制される。このため、入力軸106に圧入嵌合されるステータ側のサーキュラスプライン111の軸心と、出力軸108に圧入嵌合されるドリブン側のサーキュラスプライン112の軸心とが製造上一致しない場合がある。このような場合には、フレクスプライン110と両サーキュラスプライン111,112との間の噛合いに不具合が発生し、これに起因して振動の発生あるいは作動音の増大が懸念される。
【0012】
そこで、当該文献1では、次のような構成を採用している。すなわち、図11に示すように、入力側アダプタ部材115は、入力軸106の端部にセレーション結合される内側筒部材121、及び当該内側筒部材121の外周側に弾性部材122を介してステータ側のサーキュラスプライン111に回転伝達可能に係合される外側筒部材123の2部材に分割して形成されている。
【0013】
具体的には、内側筒部材121の外周面には4つの突部121aが十字状に配置形成されている。外側筒部材123の内周面には内側筒部材121の各突部121aに対応する凹部123aが十字状に配置形成されている。また、外側筒部材123の外周面には2つの係合突部123b,123bが互いに反対側へ突設されるとともに、これら係合突部123b、123bはステータ側のサーキュラスプライン111の端部に形成された2つの係合凹部111a,111aに係合している。弾性部材122は、内側筒部材121及び外側筒部材123を同軸上に配置した状態において、これらの間に形成される隙間形状に対応する外形形状を有する円筒状に形成されている。このため、入力軸106が回転した際には、内側筒部材121、弾性部材122及び外側筒部材123、並びにステータ側のサーキュラスプライン111は、これらの間の凹凸関係を通じて回転方向において相互に係合して一体回転する。
【0014】
そして、例えば両サーキュラスプライン111,112の軸心が平行にずれている場合には、次のような作用により、両サーキュラスプライン111,112の軸心が一致する。すなわち、ウェーブジェネレータ109のカム113とモータ軸105aとの間には僅かながたを持たせてあるため、ウェーブジェネレータ109及びフレクスプライン110はドリブン側のサーキュラスプライン111に倣うように径方向へ変位する。これにより、フレクスプライン110の外歯はドリブン側のサーキュラスプライン112の内歯に滑らかに噛み合う。また、弾性部材122がその径方向において変形することにより、外側筒部材123は内側筒部材121に対してその径方向へ変位可能とされている。このため、ステータ側のサーキュラスプライン111はフレクスプライン110に倣うように、すなわちドリブン側のサーキュラスプライン112の軸心と一致するように径方向へ変位する。これにより、ステータ側のサーキュラスプライン111の内歯は、フレクスプライン110の外歯に滑らかに噛み合う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2006−143024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところが、前記従来の伝達比可変装置には、次のような懸念があった。すなわち、入力側アダプタ部材115を構成する内側筒部材121と弾性部材122の間、並びに外側筒部材123と弾性部材122との間には隙間がない状態とされている。そして、両サーキュラスプライン111,112間に軸ずれが存在する場合には、当該軸ずれを無くす方向へ弾性部材122が変形することにより、当該軸ずれを吸収する構成とされている。
【0017】
このため、両サーキュラスプライン111,112間に軸ずれが存在する場合には、その組み付け状態において、弾性部材122にはこの軸ずれ方向への力が常時印加される。そして弾性部材122が軸ずれを無くす方向へ弾性変形することにより、逆にこの弾性部材122の弾性力がステータ側のサーキュラスプライン111とフレクスプライン110との噛み合い部分に作用するおそれがある。その結果、フレクスプライン110に対する両サーキュラスプライン111,112の噛み合い状態に差が発生し、これに起因して振動が発生することも考えられる。このように、前記従来の伝達比可変装置には、ステータ側のサーキュラスプライン111とフレクスプライン110との間の噛み合い状態が良好に維持できないおそれが依然として残されていた。
【0018】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、フレクスプラインに噛合するサーキュラスプラインの軸ずれを好適に吸収することにより各スプライン間の良好な噛み合い状態を維持することができる伝達比可変装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1に記載の発明は、入力軸の回転にモータ駆動に基づく回転を上乗せして出力軸に伝達する差動機構として、中空状のモータ軸に一体回転可能に設けられる楕円状の波動発生器と、当該波動発生器の外周面に装着される柔軟性を有する筒状のフレクスプラインと、当該フレクスプラインの外周側且つ前記モータ軸と同軸状に重ねて配設されて前記波動発生器の外周面形状に倣って変形した楕円形のフレクスプラインの長軸部分で噛合する一対の円筒状のサーキュラスプラインとを備えてなる波動歯車機構を採用し、第1のサーキュラスプラインには、前記モータ軸内に挿通された入力軸又は出力軸が圧入嵌合される円筒状のアダプタ部材が回転伝達可能に嵌合連結されるとともに、前記出力軸又は前記入力軸はその軸端に形成された拡径部の内部に前記波動歯車機構及び前記アダプタ部材を収容する態様で当該拡径部の内周面が第2のサーキュラスプラインの外周面に固定されてなる伝達比可変装置において、前記アダプタ部材と前記第1のサーキュラスプラインとの嵌合部位に隙間を形成することによりこれら両部材間の回転伝達状態を維持しつつ前記アダプタ部材の第1のサーキュラスプラインに対する径方向への相対変位を許容するとともに、前記嵌合部位には弾性部材を配設してなることをその要旨とする。
【0020】
この構成よれば、入力軸又は出力軸がアダプタ部材に圧入される際に、第1のサーキュラスプラインに対してアダプタ部材が相対的に変位するため、当該圧入作業に際してアダプタ部材の軸心が入力軸又は出力軸の軸心に倣ったとしても、これに追従して第1のサーキュラスプラインがその径方向へ変位することはない。したがって、第1のサーキュラスプラインとフレクスプラインとの噛み合い状態は、前述した圧入の前後で変化することなく、圧入前の良好な噛み合い状態に維持される。第1のサーキュラスプラインとフレクスプラインとの噛み合い部分に無理な力が加わることもない。また、アダプタ部材と第1のサーキュラスプラインとの嵌合部位に形成される隙間には弾性部材が配設される。このため、アダプタ部材と第1のサーキュラスプラインとの接触音の発生が抑制される。
【0021】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の伝達比可変装置において、前記嵌合部位は、前記第1のサーキュラスプラインに内嵌されるアダプタ部材の外周面に設けられた係合突部と、前記第1のサーキュラスプラインにおける前記第2のサーキュラスプラインと反対側の端面に設けられて前記係合突部と回転方向において係合する係合凹部とを含むとともに、これら係合突部及び係合凹部間の回転方向における係合関係を通じて前記アダプタ部材と前記第1のサーキュラスプラインとの間で回転伝達が行われるようにし、前記第1のサーキュラスプラインの内周面と前記アダプタ部材の外周面との間、並びに前記係合突部と前記係合凹部との間にそれぞれ隙間を形成することにより前記アダプタ部材の第1のサーキュラスプラインに対する径方向への相対変位が許容されるとともに、前記弾性部材は、少なくとも前記係合突部と前記係合凹部との回転方向における隙間に介在されてなることをその要旨とする。
【0022】
この構成によれば、第1のサーキュラスプラインの内周面と前記アダプタ部材の外周面との間、並びに前記係合突部と前記係合凹部との間にそれぞれ形成される隙間を通じて、アダプタ部材の第1のサーキュラスプラインに対する径方向への相対変位が許容される。また、係合突部と係合凹部との回転方向における隙間に介在される弾性部材により、係合突部と係合凹部との回転方向における接触音の発生が抑制される。
【0023】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の伝達比可変装置において、前記弾性部材は、前記係合突部と前記係合凹部の内底面との間にも介在されてなることをその要旨とする。
【0024】
この構成によれば、係合突部と係合凹部の内底面とは弾性部材を介して接触する。係合突部と係合凹部の内底面の直接的な接触が回避されることから、これらの間の傷付き、あるいは摩耗等が抑制される。
【0025】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の伝達比可変装置において、前記各弾性部材はゴムにより一体形成されることにより相互に連結されるとともに、前記係合突部又は前記係合凹部に一括して装着されてなることをその要旨とする。この構成によれば、弾性部材の装着が簡単になる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、フレクスプラインに噛合するサーキュラスプラインの軸ずれを好適に吸収することにより各スプライン間の良好な噛み合い状態を維持することができる。また、各スプライン間の噛み合い状態が良好に維持されることから、波動歯車機構の作動に伴う振動の発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施の形態における伝達比可変装置を備えた車両用操舵装置の概略構成図。
【図2】同じく伝達比可変装置の縦断面図。
【図3】同じく伝達比可変装置の入力軸側の要部を示す拡大断面図。
【図4】同じくドリブン側サーキュラスプライン及びアダプタシャフトの組み付けの態様を示す伝達比可変装置の要部拡大断面図。
【図5】同じくアダプタシャフト、ドリブン側サーキュラスプライン及び弾性部材の組み立ての態様を示す分解斜視図。
【図6】同じくアダプタシャフト及びドリブン側サーキュラスプラインの組み付けの態様を示す図4の1−1線断面図。
【図7】同じくアダプタシャフトに対する出力軸の圧入工程を示す伝達比可変装置の要部断面図。
【図8】同じく波動歯車機構の構成及び動作を示す概略平面図。
【図9】他の実施の形態におけるアダプタシャフト、ドリブン側サーキュラスプライン及び弾性部材の組み付けの態様を示す分解斜視図。
【図10】従来の伝達比可変装置の構成を示す縦断面図。
【図11】図10の2−2線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を車両用操舵装置に具体化した一実施の形態を図面に従って説明する。
<車両用操舵装置の概要>
図1に示すように、車両用操舵装置において、ステアリングホイール11が固定されたステアリングシャフト12は、ラックアンドピニオン機構13を介してラック軸14に連結されている。詳述すると、ステアリングシャフト12は、自在継手15a,15bを介して、コラムシャフト16、インターミディエイトシャフト17及びピニオンシャフト18が連結されてなる。また、ラックアンドピニオン機構13は、ピニオンシャフト18のラック軸14側の端部に形成されたピニオン歯18aとラック軸14側に形成されたラック歯14aとが噛合されてなる。そしてステアリング操作に伴うステアリングシャフト12の回転運動は、ラックアンドピニオン機構13によりラック軸14の往復直線運動に変換される。このラック軸14の往復直線運動が当該ラック軸14の両端に連結されたタイロッド19を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪20の舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0029】
また、ラック軸14を収容するラックハウジング21には、モータ22を駆動源としてラック軸14を軸方向移動させることにより操舵系にアシスト力を付与するEPSアクチュエータ23が設けられている。ピニオンシャフト18には、パワーアシスト制御に使用される操舵トルクを検出するトルクセンサ24、並びにステアリングホイール11と転舵輪20との間の伝達比(ギヤ比)が可変とされた伝達比可変装置25が設けられている。
【0030】
図2に示すように、ラックハウジング21の上面には、略円筒状に形成されたピニオンハウジング31が固定されている。このピニオンハウジング31は、ラックハウジング21に固定されるロアハウジング32、及び当該ロアハウジング32の上部に固定されるアッパーハウジング33からなる。このピニオンハウジング31の内部には、前述したトルクセンサ24及び伝達比可変装置25が収容されている。またこのピニオンハウジング31には、ピニオンシャフト18が回転可能に挿通支持されている。
【0031】
ピニオンシャフト18は、インターミディエイトシャフト17に連結される入力軸41(図3参照)、及び一端にピニオン歯18aが形成された出力軸42からなる。入力軸41は、アッパーハウジング33の上端開口部に設けられた軸受43を介して回転自在に支持されている。出力軸42は、ロアハウジング32の両端開口部に設けられた一対の軸受45a、45bを介して回転可能に支持されている。この出力軸42の上端はアッパーハウジング33の内部に、同じく下端はラックハウジング21の内部にそれぞれ突出している。ラックハウジング21の内部において、出力軸42のピニオン歯18aはラック歯14aに噛合した状態に保持されている。
【0032】
出力軸42は、後述する波動歯車機構45に連結される第1の軸部材51と、当該第1の軸部材51と反対側の端部にピニオン歯18aが形成された第2の軸部材52とを、トーションバー53を介して連結することにより形成されている。詳述すると、第1の軸部材51には、その第2の軸部材52側の端面に開口する中空部51aが形成されている。そしてこの中空部51aにトーションバー53が収容されている。また、第2の軸部材52には、その第1の軸部材51側に開口する中空部52aが形成されている。この中空部52aには第1の軸部材51の軸端が遊嵌されている。これら第1及び第2の軸部材51,52は、前述した2つの軸受45a,45bによってそれぞれ独立して支承されている。すなわち、第1及び第2の軸部材51,52は相対回転可能とされている。また、トーションバー53は、その一端が第1の軸部材51側の中空部51aの内頂部に固定されるとともに、その他端は同中空部51aから軸方向に突出して第2の軸部材52側の中空部52aの内底部に固定されている。
【0033】
トルクセンサ24は、ロアハウジング32の内部において、出力軸42と同軸状に並設された第1及び第2のレゾルバ24a,24b、並びにこれらからの出力信号に基づき操舵トルクを検出する検出回路24cを備えてなる。第1のレゾルバ24aは第1の軸部材51に、第2のレゾルバ24bは第2の軸部材52に装着されている。検出回路24cは、第1及び第2のレゾルバ24a,24bからの出力信号に基づき第1及び第2の軸部材51,52間の回転角度の差を検出するとともに、当該検出される回転角度の差に基づきトーションバー53の捻れ角を演算する。そして検出回路24cは、当該演算結果に基づき操舵トルクを検出し、その検出結果を操舵装置の図示しない制御装置などの各種の車載システムへ出力する。
【0034】
<伝達比可変装置>
伝達比可変装置25は、これら入力軸41及び出力軸42の間に設けられる差動機構としての波動歯車機構45、及び当該波動歯車機構45を駆動するモータ46からなる。波動歯車機構45及びモータ46は、入力軸41及び出力軸42の軸線方向において並設されている。波動歯車機構45は、モータ46と、アッパーハウジング33の上部開口付近に設けられた軸受43との間に設けられている。
【0035】
<モータ>
モータ46は、中空状のモータ軸47を有するブラシレスモータが採用されている。このモータ46のステータ48はアッパーハウジング33の内周面に固定されている。すなわち、ステータ48は、非回転部材であるアッパーハウジング33(ピニオンハウジング31)に対して相対回転不能に設けられている。モータ軸47にはアッパーハウジング33の内部に突出された出力軸42が挿通されている。この出力軸42の上端部はアッパーハウジング33の上端部の近傍位置(軸受43の近傍に対応する位置)まで延設された状態で、波動歯車機構45の出力側となる部位に作動連結されている。
【0036】
<波動歯車機構>
図3及び図8に示すように、波動歯車機構45は、モータ軸47に外嵌固定される楕円状のウェーブジェネレータ(波動発生器)61、当該ウェーブジェネレータ61の外周に装着されるフレクスプライン62、当該フレクスプライン62の外周側に配設される円筒状の2つのサーキュラスプライン63,64を備えてなる。両サーキュラスプライン63,64はそれぞれ両端が開口した円筒状に形成されるとともに、モータ軸47に対して同軸状に且つその軸線方向において上下に並んで設けられている。以下の説明では、下側のものをステータ側のサーキュラスプライン63、上側のものをドリブン側のサーキュラスプライン64という。
【0037】
ウェーブジェネレータ61は、モータ軸47に一体回転可能に外嵌固定(スプライン結合)される楕円状のカム61a、及び当該カム61aに外嵌される薄肉のボール軸受61bを備えてなる。このボール軸受61bの内輪はカム61aの外周面に固定され、同じく外輪はボールを介して弾性変形する構成とされている。
【0038】
フレクスプライン62は、金属等により薄肉円筒状に形成されることにより弾性変形可能とされるとともに、その外周面には多数の歯が形成されている。そしてこのフレクスプラインはウェーブジェネレータ61の楕円状をなす外周面にその全周にわたって接した状態で装着されている。このため、フレクスプライン62は、ウェーブジェネレータ61、正確にはカム61aの回転に伴い楕円状にたわめられる。
【0039】
ステータ側のサーキュラスプライン63は、入力軸41に対して一体回転可能に連結されている。すなわち、入力軸41は両端が開口した円筒状に形成されるとともに、その内端部には波動歯車機構45を内包する拡径部41aが形成されている。拡径部41aの内径は両サーキュラスプライン63,64の外径よりも大きく設定されていて、当該拡径部41aの開口側の内周面にステータ側のサーキュラスプライン63の外周面が嵌合固定されている。当該サーキュラスプライン63の内周面にはフレクスプライン62の外歯に噛合する多数の歯が形成されるとともに、当該歯数はフレクスプライン62の歯数と同じに設定されている。
【0040】
ドリブン側のサーキュラスプライン64は、モータ軸47から突出する出力軸42にアダプタシャフト65を介して一体回転可能に連結される。このアダプタシャフト65については、後に詳述する。このドリブン側のサーキュラスプライン64の内周面にもフレクスプライン62の外歯に噛合する多数の歯が形成されるとともに、当該歯数はステータ側のサーキュラスプライン63の歯数よりも多く設定されている。
【0041】
そしてステータ側及びドリブン側の両サーキュラスプライン63,64の内歯には、ウェーブジェネレータ61の外周面形状に倣って変形した楕円形のフレクスプライン62の外歯のうち長軸部分のみが噛合する。また、両サーキュラスプライン63,64の内歯とフレクスプライン62の外歯のうち短軸部分との間には隙間が形成される。すなわち、両サーキュラスプライン63,64の内歯とフレクスプライン62の外歯のうち短軸部分とはこれらが完全に離れた状態となる。
【0042】
したがって、ステアリング操作に伴う入力軸41の回転力は、ステータ側のサーキュラスプライン63、フレクスプライン62を介してドリブン側のサーキュラスプライン64に伝達され、さらにアダプタシャフト65を介して出力軸42に伝達される。また、ステアリング操作が行われたときには、図示しない各種のセンサを通じて取得される操舵角及び車速等に基づきモータ46が駆動制御される。これによりモータ軸47が回転すると、ウェーブジェネレータ61のカム61aが一体的に回転する。そして先の図8に示されるように、また前述したように、カム61aは楕円状をなしているのでこれが回転すると、ボール軸受61bを介してフレクスプライン62が楕円状に弾性変形する。カム61aの回転に伴い、フレクスプライン62の外歯とステータ側及びドリブン側の両サーキュラスプライン63,64の内歯との噛合する位置が周方向へ順次移動する。
【0043】
ここで、フレクスプライン62及びドリブン側のサーキュラスプライン64の歯数は異なるため、カム61aが一回転すると、当該歯数差の分だけ、ドリブン側のサーキュラスプライン64がフレクスプライン62に対して回転する。モータ軸47の回転数が大きいほど、フレクスプライン62に対するドリブン側のサーキュラスプライン64の相対回転数差は大きくなる。ドリブン側のサーキュラスプライン64は、入力軸41の回転による回転角にモータ軸47の回転による回転角が加えられた回転角が転舵角としてアダプタシャフト65を介して出力軸42に伝達される。すなわち、モータ46の駆動制御を通じて、入力軸41と出力軸42との間の回転伝達比、換言すればステアリング操舵角と転舵輪側の転舵角との伝達比を変化させることができる。
【0044】
<アダプタシャフト及びその周辺部分>
次に、アダプタシャフト65及びその周辺部分の構成について詳細に説明する。
図4に示すように、アダプタシャフト65は、出力軸42(第1の軸部材51)が圧入嵌合される筒状の嵌合部71と、その下部側の開口端縁の全周にわたって形成されたフランジ部72とが一体形成されてなる。また、図5に示されるように、このフランジ部72の上面には円環板状の張出部73が当該フランジ部72の外周よりも外側に張り出すように形成されている。この張出部73の外径は、ドリブン側のサーキュラスプライン64の外径と同じ、もしくは若干小径とされている。そしてさらに、フランジ部72の外周面には、直方体状の2つの係合突部74,74が互いに反対方向へ突設されている。これら係合突部74,74の上部は張出部73の下面に連続している。またこれら係合突部74,74は、ドリブン側のサーキュラスプライン64の上端縁において、その径方向において互いに反対側に位置するように形成された2つの係合凹部75,75に収容可能とされている。これら係合突部74,74が係合凹部75,75に収容された状態において、係合突部74,74は、係合凹部75,75の互いに対向する2つの内側面に係合可能となる。すなわち、ドリブン側のサーキュラスプライン64の回転力は両係合突部74,74を介してアダプタシャフト65に伝達される。
【0045】
図4に示されるように、アダプタシャフト65の嵌合部71は拡径部41aの内底面(内頂面)に形成された逃げ凹部76に下方から挿入されている。この逃げ凹部76の内底面と嵌合部71の先端面との間には、座金77が介在されている。この座金77は、入力軸41及びアダプタシャフト65よりも軟質の金属材料により円環板状に形成されている。また、座金77の下面には、樹脂層78が形成されている。なお、逃げ凹部76の深さL1は、嵌合部71のフランジ部72の上面に対する突出長さL2よりも短く設定されている。
【0046】
前述したように、嵌合部71にはその下方から出力軸42(第1の軸部材51)が圧入されるところ、この際には、逃げ凹部76の内底面は、座金77及び樹脂層78を介して嵌合部71の上端面を押圧する押圧面として機能する。このとき、逃げ凹部76の内底面及び出力軸42の上端面に生ずる軸方向応力の集中が緩和されるとともに、これら両面の接触による傷付き等が抑制される。なお、出力軸42の嵌合部71に対する圧入作業については、後に詳述する。
【0047】
また、張出部73の内周面、フランジ部72の上面及び嵌合部71の外周面から形成される環状の収容凹部65aには、円環状の板材を湾曲させることによりその全周に亘って起伏が形成されたウェーブワッシャ79が配設されている。このウェーブワッシャ79は、収容凹部65aの内底面、すなわちフランジ部72の上面と、これに対向する入力軸41の拡径部41aの内底面(内頂面)との間に挟持されることにより、入力軸41及びアダプタシャフト65をこれらの軸方向において離間させる方向へ付勢する弾性力を発揮する。ここで、入力軸41は軸受43を介してアッパーハウジング33に対する軸方向への変位が規制された状態で回転可能に支持されるとともに、アッパーハウジング33はロアハウジング32を介してラックハウジング21に固定されていることから、アダプタシャフト65はウェーブワッシャ79の弾性力により常時下方へ付勢される。すなわち、アダプタシャフト65の両係合突部74,74は、ドリブン側のサーキュラスプライン64の両係合凹部75,75の内底面に押し付けられた状態に保持される。これにより、係合突部74の係合凹部75に対する脱落等が規制される。
【0048】
また、前述したウェーブワッシャ79と拡径部41aの内底面(内頂面)との間には、合成樹脂材料により円環状に形成された滑りシート80が介在されている。この滑りシート80において、ウェーブワッシャ79に対する摺動面となる下面には、図示しない多数の微細な凹凸が形成されている。入力軸41とアダプタシャフト65との相対回転に際して、ウェーブワッシャ79は滑りシート80に対して滑らかに摺動する。これにより、伝達比可変装置25の円滑な作動が担保される。
【0049】
<伝達比可変装置の組み立て方法>
さて、前述のように構成された伝達比可変装置25は、次のような手順で組み立てられる。すなわち、図2の左側に矢印で示されるように、まずトルクセンサ24、軸受45a,45b、及び出力軸42等をロアハウジング32に組み付けることにより単一の下部ユニットU1を構成する。またこれとは別に、モータ46、波動歯車機構45、入力軸41及び軸受43等をアッパーハウジング33に組み付けることにより単一の上部ユニットU2を構成する。そして次に、下部ユニットU1を治具台等に固定した状態で、当該下部ユニットU1の上方へ突出する出力軸42を上部ユニットU2に挿通する。すなわち、上部ユニットU2は出力軸42にその上方から挿通される。これに伴いモータ軸47には出力軸42が下方から挿通され、図7に示されるように、当該出力軸42の先端部はアダプタシャフト65における嵌合部71の下部開口に浅く挿入される。
【0050】
この状態で、上部ユニットU2を、入力軸41を介してその軸心に沿って下方へ押圧する。具体的には、当該押圧に際して、入力軸41の上部開口から棒状の治具81を挿入してその内端部を出力軸42(正確には、第1の軸部材51)の上端面に形成された雌ねじ部42aに螺合させる。この状態で、治具81に沿って押圧板82を押し下げる。この押圧力Fに基づき入力軸41における逃げ凹部76の内底面によりアダプタシャフト65が下方へ押圧され、当該アダプタシャフト65の嵌合部71に対し出力軸42が相対的に圧入される。これにより、入力軸41と出力軸42との同軸性を確保しつつ、入力軸41に印可される押圧力は嵌合部71の上端面に対して均等に伝達される。そして、当該圧入作業の完了後、ロアハウジング32及びアッパーハウジング33を相互に締結すれば、伝達比可変装置25の組み立て作業は完了となる。
【0051】
なお、出力軸42を介して下部ユニットU1を上方へ引っ張り上げることにより、出力軸42をアダプタシャフト65に圧入嵌合することも可能である。また、下部ユニットU1をラックハウジング21に固定した状態で、前述の圧入作業を行うようにしてもよい。すなわち、下部ユニットU1及び上部ユニットU2を互いに近接する方向へ相対変位させることができるのであれば、どのような圧入方法を採用してもよい。
【0052】
<軸ずれの影響について>
このように、本例の伝達比可変装置25では、入力軸41の軸方向位置を固定するために、波動歯車機構45のドリブン側のサーキュラスプライン64に回転伝達可能に連結されるアダプタシャフト65に出力軸42が圧入される構成とされている。ここで、アダプタシャフト65とドリブン側のサーキュラスプライン64との嵌合部分にがたつきがある場合には、これらの間の回転伝達の際に接触音等が発生する等、波動歯車機構45の作動音の増大が懸念される。このため、当該作動音を抑制する観点から、アダプタシャフト65とドリブン側のサーキュラスプライン64とは圧入等により相互に完全固定することが好ましい。しかしこの場合には、前述の圧入作業に際して波動歯車機構45における噛み合い部分に不具合が生じるおそれがある。すなわち、伝達比可変装置25の組み立て公差などに起因して、アダプタシャフト65の軸心と、出力軸42の軸心とが一致しない状態で、前述の圧入作業が行われる場合が想定されるところ、この場合にはアダプタシャフト65、ひいてはこれを含む上部ユニットU2の軸心は、固定側となる下部ユニットU1の出力軸42の軸心に倣う。
【0053】
ここで、ステータ側のサーキュラスプライン63の軸心は入力軸41の軸心により規制される。また、ドリブン側のサーキュラスプライン64の軸心は出力軸42、ひいてはアダプタシャフト65の軸心により規制される。このため、アダプタシャフト65の軸心と、出力軸42の軸心とが一致しない状態で前述した圧入作業が行われてアダプタシャフト65の軸心が出力軸42の軸心に倣った場合には、ドリブン側のサーキュラスプライン64とフレクスプライン62との噛み合い状態が前述した圧入の前後で変化する。
【0054】
たとえば前述したように、ドリブン側のサーキュラスプライン64の内歯には、ウェーブジェネレータ61の外周面形状に倣って変形した楕円形のフレクスプライン62の外歯のうち長軸部分のみが噛合するところ、この一方の長軸部分と他方の長軸部分との間で、ドリブン側のサーキュラスプライン64の内歯に対する噛み合い深さが異なる状況の発生が考えられる。すなわち、前述の圧入前においては、一方の長軸部分と他方の長軸部分との間でドリブン側のサーキュラスプライン64の内歯に対する噛み合い深さに大きな差はなく、同程度に噛み合った状態に保持される。しかし、アダプタシャフト65の軸心が出力軸42の軸心に倣うことにより、ドリブン側のサーキュラスプライン64は、圧入前の当初位置に対して出力軸42の軸心に直交する方向へ前述した軸ずれの分だけ変位する。その結果、ドリブン側のサーキュラスプライン64の内歯に対するフレクスプライン62の両長軸部分の噛み合い状態は、フレクスプライン62の一方の長軸部分と他方の長軸部分とで異なる状況となる。このような状況では、フレクスプライン62の円滑な回転、ひいては波動歯車機構45の円滑な作動が阻害されることも懸念される。
【0055】
<軸ずれの吸収構造>
そこでこうした懸念を払拭するべく、本実施の形態では、次のような構成を採用している。すなわち、アダプタシャフト65は、ドリブン側のサーキュラスプライン64に対してその半径方向へ相対変位可能とされている。具体的には、図6に示されるように、アダプタシャフト65のフランジ部72の外径D1は、ドリブン側のサーキュラスプライン64の内径D2に対して、わずかに小さく設定されている。このため、アダプタシャフト65及びドリブン側のサーキュラスプライン64を同軸状に保持した状態おいて、フランジ部72の外周面とドリブン側のサーキュラスプライン64の内周面との間には若干の隙間A1が形成される。また、アダプタシャフト65の回転方向における両係合突部74,74の幅W1は、ドリブン側のサーキュラスプライン64の回転方向における両係合凹部75,75の幅W2よりも小さく設定されている。このため、アダプタシャフト65及びドリブン側のサーキュラスプライン64を同軸状に保持した状態おいて、係合突部74の互いに反対側に位置する両外側面と、係合凹部75の互いに対向する両内側面との間には、隙間A2が形成される。この隙間A2が前述の隙間A1よりも大きくなるように、係合突部74の幅W1及び係合凹部75の幅W2は設定されている。
【0056】
<弾性部材>
また、前述した両係合突部74,74にはそれぞれ弾性部材91が装着されている。図5の右上に拡大して示されるように、弾性部材91は、ゴム等の弾性体により中空の直方体状に一体形成されるとともに、その上面及びフランジ部72側の側面は連続するように開放されている。この弾性部材91の内形形状は、係合突部74の外径形状に対応して形成されている。具体的には、この弾性部材91は、係合突部74の下面に対応する長方形板状の底壁91a、当該底壁91aの上面における両長側縁部に立設された2つの側壁91b,91c、及びこれら側壁91b,91cの底壁91aに直交する方向へ延びる側縁部間を連結する連結壁91dを備えてなる。両側壁91b,91cの間隔、すなわち弾性部材91の内底面において両側壁91b,91cに直交する方向の長さは、係合突部74の幅W1(図6参照)とほぼ同じに設定されている。また、弾性部材91の内底面において、両側壁91b,91cに沿う方向の長さは、係合突部74のフランジ部72の外周面に対する突出長さとほぼ同じに設定されている。
【0057】
弾性部材91は、係合突部74にその外方から装着される。この際、弾性部材91は、その両内側面が係合突部74の両外側面に、同じく内底面が係合突部74の底面に案内されるかたちで円滑に装着される。そして弾性部材91が係合突部74に装着された状態において、当該係合突部74の両外側面には弾性部材91の両内側面が、同じく係合突部74の底面には弾性部材91の内底面、同じく係合突部74の先端面には連結壁91dの内面がそれぞれ密接した状態に保持される。このとき、図6に示されるように、アダプタシャフト65及びドリブン側のサーキュラスプライン64を同軸状に保持した状態おいて、係合突部74に装着された弾性部材91の互いに反対側に位置する両外側面と、係合凹部75の互いに対向する両内側面との間には、隙間A3が形成される。この隙間A3が前述の隙間A1と同程度となるように、係合突部74の幅W1及び係合凹部75の幅W2は設定されている。
【0058】
したがって、アダプタシャフト65はドリブン側のサーキュラスプライン64に対してその半径方向へ相対的に変位可能となる。このアダプタシャフト65の変位量は、前述した隙間A1〜A3及び弾性部材91の弾性率等により決まる。
【0059】
なお、当該隙間A3を設けないようにすることも可能である。この場合であれ、ドリブン側のサーキュラスプライン64に対するアダプタシャフト65の半径方向への相対変位は、弾性部材91が弾性変形することにより許容される。また、係合突部74と弾性部材91とは接着剤により接着固定することが好ましい。このようにすれば、弾性部材91の係合突部74からの脱落が防止される。
【0060】
以上のような構成を採用することにより、アダプタシャフト65の軸心と出力軸42の軸心とが一致しない状態で前述の圧入作業が行われた場合であれ、波動歯車機構45における噛み合い部分に不具合が生じることはない。すなわち、ドリブン側のサーキュラスプライン64に対するアダプタシャフト65の半径方向へ相対変位が許容されることから、前述した圧入作業に際してアダプタシャフト65の軸心が出力軸42の軸心に倣ったとしても、これに追従してドリブン側のサーキュラスプライン64が変位することはない。このため、ドリブン側のサーキュラスプライン64の内歯と、フレクスプライン62の外歯との噛み合い状態は、前述した圧入の前後で変化することなく、圧入前の好適な噛み合い状態に維持される。ひいては、フレクスプライン62に噛合するステータ側及びドリブン側のサーキュラスプライン63,64の軸ずれが好適に吸収されることにより、各スプライン間の良好な噛み合い状態が保たれる。
【0061】
また、アダプタシャフト65とドリブン側のサーキュラスプライン64との間の回転伝達時には、係合突部74は弾性部材91を介して係合凹部75の内側面に係合する。係合突部74と係合凹部75とが直接的に接触することがないので、当該接触音の発生も抑制される。
【0062】
<実施の形態の効果>
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ドリブン側のサーキュラスプライン64に対するアダプタシャフト65の径方向への相対変位を許容した。このため、前述した圧入作業に際してアダプタシャフト65の軸心が出力軸42の軸心に倣ったとしても、これに追従してドリブン側のサーキュラスプライン64が変位することはない。したがって、ドリブン側のサーキュラスプライン64の内歯と、フレクスプライン62の外歯との噛み合い状態は、前述した圧入の前後で変化することなく、圧入前の良好な噛み合い状態に維持される。ドリブン側のサーキュラスプライン64とフレクスプラインとの噛み合い部分に無理な力が加わることもない。
【0063】
(2)アダプタシャフト65とドリブン側のサーキュラスプライン64との嵌合部分、すなわち係合突部74と係合凹部75との間には弾性部材91を介在させた。このため、アダプタシャフト65とドリブン側のサーキュラスプライン64との間の回転伝達時において、これらの接触音の発生が抑制される。
【0064】
(3)また、ドリブン側のサーキュラスプライン64とフレクスプライン62との噛み合い部分でわずかな振動が発生することも想定されるところ、当該振動は弾性部材91により吸収される。このため、波動歯車機構45の作動に伴う振動が弾性部材91によって吸収される。ひいては、ステアリングホイール11側での振動の発生をも抑制される。
【0065】
(4)弾性部材91は中空の直方体状に形成した。ある程度の剛性が確保されることにより指などで把持しやすくなる。このため、弾性部材91をアダプタシャフト65の係合突部74への装着作業が簡単である。
【0066】
(5)基本的には、弾性部材91を装着するだけでよく、波動歯車機構45の構成の大幅な変更も不要である。このため、製品コストの点でも有利である。
(6)前述した圧入作業時には、アダプタシャフト65を介してドリブン側のサーキュラスプライン64に押圧力Fが印加されることにより、係合突部74の底面及び係合凹部75の内底面には軸方向応力が集中することが懸念される。こうした応力集中は、係合突部74の底面と係合凹部75の内底面との間に介在される弾性部材91の底壁91aにより吸収緩和されるとともに、これら両面の接触による傷付き等が抑制される。
【0067】
(7)係合突部74に装着された弾性部材91と係合凹部75との間には、若干の隙間A3が形成されるようにした。弾性部材91に対して大きな外力が作用するのは、基本的には、波動歯車機構45の作動時のみである。このため、弾性部材91に対して何らかの外力が常時印加されることが抑制される。したがって、弾性部材91の経年劣化が抑制され、製品寿命に対する信頼性が確保される。
【0068】
<他の実施の形態>
なお、前記実施の形態は、次のように変更して実施してもよい。
・本例では、アダプタシャフト65の係合突部74に直方体状の弾性部材91を装着することにより、係合突部74と係合凹部75との接触音の発生を抑制するようにしたが、次のような構成を採用することも可能である。すなわち、図9に示されるように、アダプタシャフト65の外周面、正確には係合突部74を含めたフランジ部72の外周面に沿って環状の溝92を形成し、当該溝92に沿って異形Oリング93を装着する。この異形Oリングは、フランジ部72の外周面に対応する本体部93a及び両係合突部74に対応するU字状の異形部93bを備えてなる。そして、この異形Oリング93は、アダプタシャフト65の溝92に装着された状態において、当該溝92から若干はみ出る程度の外径とされている。こうした構成を採用した場合であれ、ドリブン側のサーキュラスプライン64に対するアダプタシャフト65の相対変位を許容しつつ、係合突部74と係合凹部75との接触音の発生が抑制される。これは、係合突部74と係合凹部75との間に異形Oリング93(正確には、異形部93b)のはみ出し部分が介在するからである。また、異形Oリング93のアダプタシャフト65への装着も簡単である。
【0069】
・本例では、アダプタシャフト65には2つの係合突部74を設けたが、単数としてもよい。また、係合突部74は、3つ、4つ又はそれ以上設けてもよい。この場合、係合突部74の個数に応じて係合凹部75を形成する。すなわち、ドリブン側のサーキュラスプライン64に対するアダプタシャフト65の相対変位を許容しつつ、これら部材間の回転伝達が可能となればよい。
【0070】
・本例では、係合突部74は直方体状に形成したが、当該形状は適宜変更してもよい。例えば、係合突部74は、円柱状、多角柱状等に形成することもできる。この場合、弾性部材91は、これら係合突部74の外形形状に応じてその内径形状を設定する。
【0071】
・本例では、弾性部材91は、ゴムにより形成したが、軟質の合成樹脂材料等、他の弾性体により形成してもよい。
・本例では、弾性部材91を係合突部74に装着したが、係合凹部75側に装着してもよい。このようにしても、本例と同様の効果を得ることができる。
【0072】
・弾性部材91の形成方法は特に限定されず、種々の方法で形成することが可能である。例えば、金型を使用して形成してもよいし、プレスにより形成してもよい。また、ゴム材あるいは軟質の合成樹脂材料等の弾性体を係合突部74あるいは係合凹部75にスプレーすることにより、係合突部74の外面あるいは係合凹部75の内面を前記弾性体によりコーティングするかたちで、弾性部材91を形成するようにしてもよい。
【0073】
・本例では、アダプタシャフト65に係合突部74を、ドリブン側のサーキュラスプライン64に係合凹部75を形成したが、これら凹凸関係を逆にしてもよい。すなわち、アダプタシャフト65に係合凹部75を、ドリブン側のサーキュラスプライン64に係合突部74を形成する。このようにしても、アダプタシャフト65及びドリブン側のサーキュラスプライン64はそれらの回転方向において係合するとともに、ドリブン側のサーキュラスプライン64に対するアダプタシャフト65の径方向への変位が許容される。なお、ドリブン側のサーキュラスプライン64及びアダプタシャフト65の細部の構成については、適宜変更して形成してもよい。
【0074】
・本例では、アダプタシャフト65をドリブン側のサーキュラスプライン64に対して内嵌状態に設けたが、当該サーキュラスプライン64の外部に配設する態様も採用可能である。この場合、係合突部74を下方へ延設してその先端部を係合凹部75に係合させる。このようにしても、ドリブン側のサーキュラスプライン64に対するアダプタシャフト65の径方向への変位が許容される。
【0075】
・本例の伝達比可変装置25は、例えば先の図10及び図11に示されるものに適用してもよい。すなわち、伝達比可変装置の基本的な構成として先の図10及び図11に示される構成を採用しつつ、ステータ側のサーキュラスプライン111に連結される入力側アダプタ部材115を本例のアダプタシャフト65に置換する。このようにしても、本例と同様の効果が得られる。
【0076】
・本例の伝達比可変装置は、電動式及び油圧式のいずれのタイプのパワーステアリング装置を備える車両用操舵装置にも適用可能である。また、本例の伝達比可変装置の用途は、車両機器に限定されない。
【0077】
<他の技術的思想>
次に、前記実施の形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
・前記入力軸にはステアリング操作による回転力が印加されること。
【0078】
・前記弾性部材は前記係合突部を含む前記アダプタ部材の外周面形状に倣って装着される異形Oリングであること。この構成によれば、弾性部材をアダプタ部材の外周面に簡単に装着することができる。
【0079】
・前記各弾性部材は、ゴムにより前記係合突部の外形形状に対応する内形形状を有して一体形成されるとともに、前記係合突部に装着されてなる。この構成によれば、弾性部材を係合突部に簡単に装着することができる。
【符号の説明】
【0080】
25…伝達比可変装置、41…入力軸、41a…拡径部、42…出力軸、45…波動歯車機構、46…モータ、47…モータ軸、61…ウェーブジェネレータ(波動発生器)、62…フレクスプライン、63,64…サーキュラスプライン、65…アダプタシャフト(アダプタ部材)、74…嵌合部位を構成する係合突部、75…嵌合部位を構成する係合凹部、91…弾性部材。
【技術分野】
【0001】
本発明は、入出力軸間の回転伝達比(速度伝達比)を変化させる伝達比可変装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示されるように、ステアリング操作に基づく入力軸の回転に対してモータ駆動に基づく回転を上乗せして出力軸に伝達する伝達比可変装置が知られている。図10に示されるように、この伝達比可変装置101では、そのハウジング102が転舵系のラック軸103を収容するラックハウジング104に一体的に設けられている。そしてこのハウジング102に内包された状態で、モータ105を構成する中空状のモータ軸105aに嵌挿された入力軸106が波動歯車機構107を介して出力軸108に連結されている。
【0003】
波動歯車機構107は、入力軸106と一体回転可能に設けられる楕円状のウェーブジェネレータ109、当該ウェーブジェネレータ109の外周に装着されるフレクスプライン110、当該フレクスプライン110の外周側に配設されるステータ側及びドリブン側の2つのサーキュラスプライン111,112を備えてなる。これらサーキュラスプライン111,112は、入力軸106の軸心方向において並設されている。
【0004】
ウェーブジェネレータ109は、モータ軸105aに外嵌固定される楕円状のカム113、及び当該カム113に外嵌される薄肉のボール軸受114を備えてなる。このボール軸受114の内輪はカム113の外周面に固定され、同じく外輪はボールを介して弾性変形する。
【0005】
フレクスプライン110は、金属等により薄肉円筒状に形成されることにより弾性変形可能とされるとともに、その外周面には多数の歯が形成されている。そしてこのフレクスプライン110はウェーブジェネレータ109の楕円状をなす外周面にその全周にわたって接した状態で装着されている。このため、フレクスプライン110は、ウェーブジェネレータ109、正確にはカム113の回転に伴い楕円状にたわめられる。
【0006】
ステータ側のサーキュラスプライン111は、円筒状に形成されている。当該サーキュラスプライン111は、モータ軸105aの端部から突出する入力軸106に圧入状態で外嵌固定された入力側アダプタ部材115に対して一体回転可能に連結されている。当該サーキュラスプライン111の内周面にはフレクスプライン110の外歯に噛合する多数の歯が形成されている。当該歯数はフレクスプライン110の歯数と同じに設定されている。
【0007】
ドリブン側のサーキュラスプライン112は、ステータ側のサーキュラスプライン111と同様の円環状に形成されるとともに、自身に外嵌される出力側アダプタ部材116を介して出力軸108に対して一体回転可能に連結されている。当該サーキュラスプライン112の内周面にもフレクスプライン110の外歯に噛合する多数の歯が形成されるとともに、当該歯数はステータ側のサーキュラスプライン111の歯数よりも多く設定されている。なお、出力側アダプタ部材116は、入力側アダプタ部材115及び両サーキュラスプライン111,112を内包するかたちで、出力軸108の内端部に外嵌固定されている。
【0008】
なお、両サーキュラスプライン111,112の内歯には、ウェーブジェネレータ109の外周面形状に倣って変形した楕円形のフレクスプライン110の外歯のうち長軸部分のみが噛合する。また、両サーキュラスプライン111,112の内歯とフレクスプライン110の外歯のうち短軸部分との間には隙間が形成される。出力軸108の先端外周面には転舵系のラック軸103に噛合されるピニオンギヤ117が設けられている。
【0009】
さて、運転者によりステアリング操作が行われた際には、入力軸106が回転するとともに、図示しない各種のセンサを通じて取得される操舵角及び車速等に基づきモータ105が駆動制御される。モータ軸105aが回転すると、ウェーブジェネレータ109のカム113が一体的に回転する。前述したように、カム113は楕円状をなしているので、これが回転すると、ボール軸受114を介してフレクスプライン110が楕円状に弾性変形する。カム113の回転に伴い、フレクスプライン110の外歯と両サーキュラスプライン111,112の内歯との噛合する位置が周方向へ順次移動する。
【0010】
ここで、フレクスプライン110及びドリブン側のサーキュラスプライン112の歯数は異なるため、カム113が一回転すると、当該歯数差の分だけ、ドリブン側のサーキュラスプライン112がフレクスプライン110に対して回転する。モータ軸105aの回転数が大きいほど、フレクスプライン110に対するドリブン側のサーキュラスプライン112の相対回転数差は大きくなる。ドリブン側のサーキュラスプライン112は、入力軸106の回転による回転角にモータ軸105aの回転による回転角が加えられた回転角が転舵角として出力側アダプタ部材116を介して出力軸108に伝達される。すなわち、モータ105の駆動制御を通じて、入力軸106と出力軸108との間の回転伝達比、換言すればステアリング操舵角と転舵輪側の転舵角との伝達比を変化させることができる。
【0011】
ところが、このように構成される伝達比可変装置101においては、ステータ側のサーキュラスプライン111の軸心は入力軸106の軸心により、またドリブン側のサーキュラスプライン112の軸心は出力軸108の軸心によりそれぞれ規制される。このため、入力軸106に圧入嵌合されるステータ側のサーキュラスプライン111の軸心と、出力軸108に圧入嵌合されるドリブン側のサーキュラスプライン112の軸心とが製造上一致しない場合がある。このような場合には、フレクスプライン110と両サーキュラスプライン111,112との間の噛合いに不具合が発生し、これに起因して振動の発生あるいは作動音の増大が懸念される。
【0012】
そこで、当該文献1では、次のような構成を採用している。すなわち、図11に示すように、入力側アダプタ部材115は、入力軸106の端部にセレーション結合される内側筒部材121、及び当該内側筒部材121の外周側に弾性部材122を介してステータ側のサーキュラスプライン111に回転伝達可能に係合される外側筒部材123の2部材に分割して形成されている。
【0013】
具体的には、内側筒部材121の外周面には4つの突部121aが十字状に配置形成されている。外側筒部材123の内周面には内側筒部材121の各突部121aに対応する凹部123aが十字状に配置形成されている。また、外側筒部材123の外周面には2つの係合突部123b,123bが互いに反対側へ突設されるとともに、これら係合突部123b、123bはステータ側のサーキュラスプライン111の端部に形成された2つの係合凹部111a,111aに係合している。弾性部材122は、内側筒部材121及び外側筒部材123を同軸上に配置した状態において、これらの間に形成される隙間形状に対応する外形形状を有する円筒状に形成されている。このため、入力軸106が回転した際には、内側筒部材121、弾性部材122及び外側筒部材123、並びにステータ側のサーキュラスプライン111は、これらの間の凹凸関係を通じて回転方向において相互に係合して一体回転する。
【0014】
そして、例えば両サーキュラスプライン111,112の軸心が平行にずれている場合には、次のような作用により、両サーキュラスプライン111,112の軸心が一致する。すなわち、ウェーブジェネレータ109のカム113とモータ軸105aとの間には僅かながたを持たせてあるため、ウェーブジェネレータ109及びフレクスプライン110はドリブン側のサーキュラスプライン111に倣うように径方向へ変位する。これにより、フレクスプライン110の外歯はドリブン側のサーキュラスプライン112の内歯に滑らかに噛み合う。また、弾性部材122がその径方向において変形することにより、外側筒部材123は内側筒部材121に対してその径方向へ変位可能とされている。このため、ステータ側のサーキュラスプライン111はフレクスプライン110に倣うように、すなわちドリブン側のサーキュラスプライン112の軸心と一致するように径方向へ変位する。これにより、ステータ側のサーキュラスプライン111の内歯は、フレクスプライン110の外歯に滑らかに噛み合う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2006−143024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところが、前記従来の伝達比可変装置には、次のような懸念があった。すなわち、入力側アダプタ部材115を構成する内側筒部材121と弾性部材122の間、並びに外側筒部材123と弾性部材122との間には隙間がない状態とされている。そして、両サーキュラスプライン111,112間に軸ずれが存在する場合には、当該軸ずれを無くす方向へ弾性部材122が変形することにより、当該軸ずれを吸収する構成とされている。
【0017】
このため、両サーキュラスプライン111,112間に軸ずれが存在する場合には、その組み付け状態において、弾性部材122にはこの軸ずれ方向への力が常時印加される。そして弾性部材122が軸ずれを無くす方向へ弾性変形することにより、逆にこの弾性部材122の弾性力がステータ側のサーキュラスプライン111とフレクスプライン110との噛み合い部分に作用するおそれがある。その結果、フレクスプライン110に対する両サーキュラスプライン111,112の噛み合い状態に差が発生し、これに起因して振動が発生することも考えられる。このように、前記従来の伝達比可変装置には、ステータ側のサーキュラスプライン111とフレクスプライン110との間の噛み合い状態が良好に維持できないおそれが依然として残されていた。
【0018】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、フレクスプラインに噛合するサーキュラスプラインの軸ずれを好適に吸収することにより各スプライン間の良好な噛み合い状態を維持することができる伝達比可変装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1に記載の発明は、入力軸の回転にモータ駆動に基づく回転を上乗せして出力軸に伝達する差動機構として、中空状のモータ軸に一体回転可能に設けられる楕円状の波動発生器と、当該波動発生器の外周面に装着される柔軟性を有する筒状のフレクスプラインと、当該フレクスプラインの外周側且つ前記モータ軸と同軸状に重ねて配設されて前記波動発生器の外周面形状に倣って変形した楕円形のフレクスプラインの長軸部分で噛合する一対の円筒状のサーキュラスプラインとを備えてなる波動歯車機構を採用し、第1のサーキュラスプラインには、前記モータ軸内に挿通された入力軸又は出力軸が圧入嵌合される円筒状のアダプタ部材が回転伝達可能に嵌合連結されるとともに、前記出力軸又は前記入力軸はその軸端に形成された拡径部の内部に前記波動歯車機構及び前記アダプタ部材を収容する態様で当該拡径部の内周面が第2のサーキュラスプラインの外周面に固定されてなる伝達比可変装置において、前記アダプタ部材と前記第1のサーキュラスプラインとの嵌合部位に隙間を形成することによりこれら両部材間の回転伝達状態を維持しつつ前記アダプタ部材の第1のサーキュラスプラインに対する径方向への相対変位を許容するとともに、前記嵌合部位には弾性部材を配設してなることをその要旨とする。
【0020】
この構成よれば、入力軸又は出力軸がアダプタ部材に圧入される際に、第1のサーキュラスプラインに対してアダプタ部材が相対的に変位するため、当該圧入作業に際してアダプタ部材の軸心が入力軸又は出力軸の軸心に倣ったとしても、これに追従して第1のサーキュラスプラインがその径方向へ変位することはない。したがって、第1のサーキュラスプラインとフレクスプラインとの噛み合い状態は、前述した圧入の前後で変化することなく、圧入前の良好な噛み合い状態に維持される。第1のサーキュラスプラインとフレクスプラインとの噛み合い部分に無理な力が加わることもない。また、アダプタ部材と第1のサーキュラスプラインとの嵌合部位に形成される隙間には弾性部材が配設される。このため、アダプタ部材と第1のサーキュラスプラインとの接触音の発生が抑制される。
【0021】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の伝達比可変装置において、前記嵌合部位は、前記第1のサーキュラスプラインに内嵌されるアダプタ部材の外周面に設けられた係合突部と、前記第1のサーキュラスプラインにおける前記第2のサーキュラスプラインと反対側の端面に設けられて前記係合突部と回転方向において係合する係合凹部とを含むとともに、これら係合突部及び係合凹部間の回転方向における係合関係を通じて前記アダプタ部材と前記第1のサーキュラスプラインとの間で回転伝達が行われるようにし、前記第1のサーキュラスプラインの内周面と前記アダプタ部材の外周面との間、並びに前記係合突部と前記係合凹部との間にそれぞれ隙間を形成することにより前記アダプタ部材の第1のサーキュラスプラインに対する径方向への相対変位が許容されるとともに、前記弾性部材は、少なくとも前記係合突部と前記係合凹部との回転方向における隙間に介在されてなることをその要旨とする。
【0022】
この構成によれば、第1のサーキュラスプラインの内周面と前記アダプタ部材の外周面との間、並びに前記係合突部と前記係合凹部との間にそれぞれ形成される隙間を通じて、アダプタ部材の第1のサーキュラスプラインに対する径方向への相対変位が許容される。また、係合突部と係合凹部との回転方向における隙間に介在される弾性部材により、係合突部と係合凹部との回転方向における接触音の発生が抑制される。
【0023】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の伝達比可変装置において、前記弾性部材は、前記係合突部と前記係合凹部の内底面との間にも介在されてなることをその要旨とする。
【0024】
この構成によれば、係合突部と係合凹部の内底面とは弾性部材を介して接触する。係合突部と係合凹部の内底面の直接的な接触が回避されることから、これらの間の傷付き、あるいは摩耗等が抑制される。
【0025】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の伝達比可変装置において、前記各弾性部材はゴムにより一体形成されることにより相互に連結されるとともに、前記係合突部又は前記係合凹部に一括して装着されてなることをその要旨とする。この構成によれば、弾性部材の装着が簡単になる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、フレクスプラインに噛合するサーキュラスプラインの軸ずれを好適に吸収することにより各スプライン間の良好な噛み合い状態を維持することができる。また、各スプライン間の噛み合い状態が良好に維持されることから、波動歯車機構の作動に伴う振動の発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施の形態における伝達比可変装置を備えた車両用操舵装置の概略構成図。
【図2】同じく伝達比可変装置の縦断面図。
【図3】同じく伝達比可変装置の入力軸側の要部を示す拡大断面図。
【図4】同じくドリブン側サーキュラスプライン及びアダプタシャフトの組み付けの態様を示す伝達比可変装置の要部拡大断面図。
【図5】同じくアダプタシャフト、ドリブン側サーキュラスプライン及び弾性部材の組み立ての態様を示す分解斜視図。
【図6】同じくアダプタシャフト及びドリブン側サーキュラスプラインの組み付けの態様を示す図4の1−1線断面図。
【図7】同じくアダプタシャフトに対する出力軸の圧入工程を示す伝達比可変装置の要部断面図。
【図8】同じく波動歯車機構の構成及び動作を示す概略平面図。
【図9】他の実施の形態におけるアダプタシャフト、ドリブン側サーキュラスプライン及び弾性部材の組み付けの態様を示す分解斜視図。
【図10】従来の伝達比可変装置の構成を示す縦断面図。
【図11】図10の2−2線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を車両用操舵装置に具体化した一実施の形態を図面に従って説明する。
<車両用操舵装置の概要>
図1に示すように、車両用操舵装置において、ステアリングホイール11が固定されたステアリングシャフト12は、ラックアンドピニオン機構13を介してラック軸14に連結されている。詳述すると、ステアリングシャフト12は、自在継手15a,15bを介して、コラムシャフト16、インターミディエイトシャフト17及びピニオンシャフト18が連結されてなる。また、ラックアンドピニオン機構13は、ピニオンシャフト18のラック軸14側の端部に形成されたピニオン歯18aとラック軸14側に形成されたラック歯14aとが噛合されてなる。そしてステアリング操作に伴うステアリングシャフト12の回転運動は、ラックアンドピニオン機構13によりラック軸14の往復直線運動に変換される。このラック軸14の往復直線運動が当該ラック軸14の両端に連結されたタイロッド19を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪20の舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0029】
また、ラック軸14を収容するラックハウジング21には、モータ22を駆動源としてラック軸14を軸方向移動させることにより操舵系にアシスト力を付与するEPSアクチュエータ23が設けられている。ピニオンシャフト18には、パワーアシスト制御に使用される操舵トルクを検出するトルクセンサ24、並びにステアリングホイール11と転舵輪20との間の伝達比(ギヤ比)が可変とされた伝達比可変装置25が設けられている。
【0030】
図2に示すように、ラックハウジング21の上面には、略円筒状に形成されたピニオンハウジング31が固定されている。このピニオンハウジング31は、ラックハウジング21に固定されるロアハウジング32、及び当該ロアハウジング32の上部に固定されるアッパーハウジング33からなる。このピニオンハウジング31の内部には、前述したトルクセンサ24及び伝達比可変装置25が収容されている。またこのピニオンハウジング31には、ピニオンシャフト18が回転可能に挿通支持されている。
【0031】
ピニオンシャフト18は、インターミディエイトシャフト17に連結される入力軸41(図3参照)、及び一端にピニオン歯18aが形成された出力軸42からなる。入力軸41は、アッパーハウジング33の上端開口部に設けられた軸受43を介して回転自在に支持されている。出力軸42は、ロアハウジング32の両端開口部に設けられた一対の軸受45a、45bを介して回転可能に支持されている。この出力軸42の上端はアッパーハウジング33の内部に、同じく下端はラックハウジング21の内部にそれぞれ突出している。ラックハウジング21の内部において、出力軸42のピニオン歯18aはラック歯14aに噛合した状態に保持されている。
【0032】
出力軸42は、後述する波動歯車機構45に連結される第1の軸部材51と、当該第1の軸部材51と反対側の端部にピニオン歯18aが形成された第2の軸部材52とを、トーションバー53を介して連結することにより形成されている。詳述すると、第1の軸部材51には、その第2の軸部材52側の端面に開口する中空部51aが形成されている。そしてこの中空部51aにトーションバー53が収容されている。また、第2の軸部材52には、その第1の軸部材51側に開口する中空部52aが形成されている。この中空部52aには第1の軸部材51の軸端が遊嵌されている。これら第1及び第2の軸部材51,52は、前述した2つの軸受45a,45bによってそれぞれ独立して支承されている。すなわち、第1及び第2の軸部材51,52は相対回転可能とされている。また、トーションバー53は、その一端が第1の軸部材51側の中空部51aの内頂部に固定されるとともに、その他端は同中空部51aから軸方向に突出して第2の軸部材52側の中空部52aの内底部に固定されている。
【0033】
トルクセンサ24は、ロアハウジング32の内部において、出力軸42と同軸状に並設された第1及び第2のレゾルバ24a,24b、並びにこれらからの出力信号に基づき操舵トルクを検出する検出回路24cを備えてなる。第1のレゾルバ24aは第1の軸部材51に、第2のレゾルバ24bは第2の軸部材52に装着されている。検出回路24cは、第1及び第2のレゾルバ24a,24bからの出力信号に基づき第1及び第2の軸部材51,52間の回転角度の差を検出するとともに、当該検出される回転角度の差に基づきトーションバー53の捻れ角を演算する。そして検出回路24cは、当該演算結果に基づき操舵トルクを検出し、その検出結果を操舵装置の図示しない制御装置などの各種の車載システムへ出力する。
【0034】
<伝達比可変装置>
伝達比可変装置25は、これら入力軸41及び出力軸42の間に設けられる差動機構としての波動歯車機構45、及び当該波動歯車機構45を駆動するモータ46からなる。波動歯車機構45及びモータ46は、入力軸41及び出力軸42の軸線方向において並設されている。波動歯車機構45は、モータ46と、アッパーハウジング33の上部開口付近に設けられた軸受43との間に設けられている。
【0035】
<モータ>
モータ46は、中空状のモータ軸47を有するブラシレスモータが採用されている。このモータ46のステータ48はアッパーハウジング33の内周面に固定されている。すなわち、ステータ48は、非回転部材であるアッパーハウジング33(ピニオンハウジング31)に対して相対回転不能に設けられている。モータ軸47にはアッパーハウジング33の内部に突出された出力軸42が挿通されている。この出力軸42の上端部はアッパーハウジング33の上端部の近傍位置(軸受43の近傍に対応する位置)まで延設された状態で、波動歯車機構45の出力側となる部位に作動連結されている。
【0036】
<波動歯車機構>
図3及び図8に示すように、波動歯車機構45は、モータ軸47に外嵌固定される楕円状のウェーブジェネレータ(波動発生器)61、当該ウェーブジェネレータ61の外周に装着されるフレクスプライン62、当該フレクスプライン62の外周側に配設される円筒状の2つのサーキュラスプライン63,64を備えてなる。両サーキュラスプライン63,64はそれぞれ両端が開口した円筒状に形成されるとともに、モータ軸47に対して同軸状に且つその軸線方向において上下に並んで設けられている。以下の説明では、下側のものをステータ側のサーキュラスプライン63、上側のものをドリブン側のサーキュラスプライン64という。
【0037】
ウェーブジェネレータ61は、モータ軸47に一体回転可能に外嵌固定(スプライン結合)される楕円状のカム61a、及び当該カム61aに外嵌される薄肉のボール軸受61bを備えてなる。このボール軸受61bの内輪はカム61aの外周面に固定され、同じく外輪はボールを介して弾性変形する構成とされている。
【0038】
フレクスプライン62は、金属等により薄肉円筒状に形成されることにより弾性変形可能とされるとともに、その外周面には多数の歯が形成されている。そしてこのフレクスプラインはウェーブジェネレータ61の楕円状をなす外周面にその全周にわたって接した状態で装着されている。このため、フレクスプライン62は、ウェーブジェネレータ61、正確にはカム61aの回転に伴い楕円状にたわめられる。
【0039】
ステータ側のサーキュラスプライン63は、入力軸41に対して一体回転可能に連結されている。すなわち、入力軸41は両端が開口した円筒状に形成されるとともに、その内端部には波動歯車機構45を内包する拡径部41aが形成されている。拡径部41aの内径は両サーキュラスプライン63,64の外径よりも大きく設定されていて、当該拡径部41aの開口側の内周面にステータ側のサーキュラスプライン63の外周面が嵌合固定されている。当該サーキュラスプライン63の内周面にはフレクスプライン62の外歯に噛合する多数の歯が形成されるとともに、当該歯数はフレクスプライン62の歯数と同じに設定されている。
【0040】
ドリブン側のサーキュラスプライン64は、モータ軸47から突出する出力軸42にアダプタシャフト65を介して一体回転可能に連結される。このアダプタシャフト65については、後に詳述する。このドリブン側のサーキュラスプライン64の内周面にもフレクスプライン62の外歯に噛合する多数の歯が形成されるとともに、当該歯数はステータ側のサーキュラスプライン63の歯数よりも多く設定されている。
【0041】
そしてステータ側及びドリブン側の両サーキュラスプライン63,64の内歯には、ウェーブジェネレータ61の外周面形状に倣って変形した楕円形のフレクスプライン62の外歯のうち長軸部分のみが噛合する。また、両サーキュラスプライン63,64の内歯とフレクスプライン62の外歯のうち短軸部分との間には隙間が形成される。すなわち、両サーキュラスプライン63,64の内歯とフレクスプライン62の外歯のうち短軸部分とはこれらが完全に離れた状態となる。
【0042】
したがって、ステアリング操作に伴う入力軸41の回転力は、ステータ側のサーキュラスプライン63、フレクスプライン62を介してドリブン側のサーキュラスプライン64に伝達され、さらにアダプタシャフト65を介して出力軸42に伝達される。また、ステアリング操作が行われたときには、図示しない各種のセンサを通じて取得される操舵角及び車速等に基づきモータ46が駆動制御される。これによりモータ軸47が回転すると、ウェーブジェネレータ61のカム61aが一体的に回転する。そして先の図8に示されるように、また前述したように、カム61aは楕円状をなしているのでこれが回転すると、ボール軸受61bを介してフレクスプライン62が楕円状に弾性変形する。カム61aの回転に伴い、フレクスプライン62の外歯とステータ側及びドリブン側の両サーキュラスプライン63,64の内歯との噛合する位置が周方向へ順次移動する。
【0043】
ここで、フレクスプライン62及びドリブン側のサーキュラスプライン64の歯数は異なるため、カム61aが一回転すると、当該歯数差の分だけ、ドリブン側のサーキュラスプライン64がフレクスプライン62に対して回転する。モータ軸47の回転数が大きいほど、フレクスプライン62に対するドリブン側のサーキュラスプライン64の相対回転数差は大きくなる。ドリブン側のサーキュラスプライン64は、入力軸41の回転による回転角にモータ軸47の回転による回転角が加えられた回転角が転舵角としてアダプタシャフト65を介して出力軸42に伝達される。すなわち、モータ46の駆動制御を通じて、入力軸41と出力軸42との間の回転伝達比、換言すればステアリング操舵角と転舵輪側の転舵角との伝達比を変化させることができる。
【0044】
<アダプタシャフト及びその周辺部分>
次に、アダプタシャフト65及びその周辺部分の構成について詳細に説明する。
図4に示すように、アダプタシャフト65は、出力軸42(第1の軸部材51)が圧入嵌合される筒状の嵌合部71と、その下部側の開口端縁の全周にわたって形成されたフランジ部72とが一体形成されてなる。また、図5に示されるように、このフランジ部72の上面には円環板状の張出部73が当該フランジ部72の外周よりも外側に張り出すように形成されている。この張出部73の外径は、ドリブン側のサーキュラスプライン64の外径と同じ、もしくは若干小径とされている。そしてさらに、フランジ部72の外周面には、直方体状の2つの係合突部74,74が互いに反対方向へ突設されている。これら係合突部74,74の上部は張出部73の下面に連続している。またこれら係合突部74,74は、ドリブン側のサーキュラスプライン64の上端縁において、その径方向において互いに反対側に位置するように形成された2つの係合凹部75,75に収容可能とされている。これら係合突部74,74が係合凹部75,75に収容された状態において、係合突部74,74は、係合凹部75,75の互いに対向する2つの内側面に係合可能となる。すなわち、ドリブン側のサーキュラスプライン64の回転力は両係合突部74,74を介してアダプタシャフト65に伝達される。
【0045】
図4に示されるように、アダプタシャフト65の嵌合部71は拡径部41aの内底面(内頂面)に形成された逃げ凹部76に下方から挿入されている。この逃げ凹部76の内底面と嵌合部71の先端面との間には、座金77が介在されている。この座金77は、入力軸41及びアダプタシャフト65よりも軟質の金属材料により円環板状に形成されている。また、座金77の下面には、樹脂層78が形成されている。なお、逃げ凹部76の深さL1は、嵌合部71のフランジ部72の上面に対する突出長さL2よりも短く設定されている。
【0046】
前述したように、嵌合部71にはその下方から出力軸42(第1の軸部材51)が圧入されるところ、この際には、逃げ凹部76の内底面は、座金77及び樹脂層78を介して嵌合部71の上端面を押圧する押圧面として機能する。このとき、逃げ凹部76の内底面及び出力軸42の上端面に生ずる軸方向応力の集中が緩和されるとともに、これら両面の接触による傷付き等が抑制される。なお、出力軸42の嵌合部71に対する圧入作業については、後に詳述する。
【0047】
また、張出部73の内周面、フランジ部72の上面及び嵌合部71の外周面から形成される環状の収容凹部65aには、円環状の板材を湾曲させることによりその全周に亘って起伏が形成されたウェーブワッシャ79が配設されている。このウェーブワッシャ79は、収容凹部65aの内底面、すなわちフランジ部72の上面と、これに対向する入力軸41の拡径部41aの内底面(内頂面)との間に挟持されることにより、入力軸41及びアダプタシャフト65をこれらの軸方向において離間させる方向へ付勢する弾性力を発揮する。ここで、入力軸41は軸受43を介してアッパーハウジング33に対する軸方向への変位が規制された状態で回転可能に支持されるとともに、アッパーハウジング33はロアハウジング32を介してラックハウジング21に固定されていることから、アダプタシャフト65はウェーブワッシャ79の弾性力により常時下方へ付勢される。すなわち、アダプタシャフト65の両係合突部74,74は、ドリブン側のサーキュラスプライン64の両係合凹部75,75の内底面に押し付けられた状態に保持される。これにより、係合突部74の係合凹部75に対する脱落等が規制される。
【0048】
また、前述したウェーブワッシャ79と拡径部41aの内底面(内頂面)との間には、合成樹脂材料により円環状に形成された滑りシート80が介在されている。この滑りシート80において、ウェーブワッシャ79に対する摺動面となる下面には、図示しない多数の微細な凹凸が形成されている。入力軸41とアダプタシャフト65との相対回転に際して、ウェーブワッシャ79は滑りシート80に対して滑らかに摺動する。これにより、伝達比可変装置25の円滑な作動が担保される。
【0049】
<伝達比可変装置の組み立て方法>
さて、前述のように構成された伝達比可変装置25は、次のような手順で組み立てられる。すなわち、図2の左側に矢印で示されるように、まずトルクセンサ24、軸受45a,45b、及び出力軸42等をロアハウジング32に組み付けることにより単一の下部ユニットU1を構成する。またこれとは別に、モータ46、波動歯車機構45、入力軸41及び軸受43等をアッパーハウジング33に組み付けることにより単一の上部ユニットU2を構成する。そして次に、下部ユニットU1を治具台等に固定した状態で、当該下部ユニットU1の上方へ突出する出力軸42を上部ユニットU2に挿通する。すなわち、上部ユニットU2は出力軸42にその上方から挿通される。これに伴いモータ軸47には出力軸42が下方から挿通され、図7に示されるように、当該出力軸42の先端部はアダプタシャフト65における嵌合部71の下部開口に浅く挿入される。
【0050】
この状態で、上部ユニットU2を、入力軸41を介してその軸心に沿って下方へ押圧する。具体的には、当該押圧に際して、入力軸41の上部開口から棒状の治具81を挿入してその内端部を出力軸42(正確には、第1の軸部材51)の上端面に形成された雌ねじ部42aに螺合させる。この状態で、治具81に沿って押圧板82を押し下げる。この押圧力Fに基づき入力軸41における逃げ凹部76の内底面によりアダプタシャフト65が下方へ押圧され、当該アダプタシャフト65の嵌合部71に対し出力軸42が相対的に圧入される。これにより、入力軸41と出力軸42との同軸性を確保しつつ、入力軸41に印可される押圧力は嵌合部71の上端面に対して均等に伝達される。そして、当該圧入作業の完了後、ロアハウジング32及びアッパーハウジング33を相互に締結すれば、伝達比可変装置25の組み立て作業は完了となる。
【0051】
なお、出力軸42を介して下部ユニットU1を上方へ引っ張り上げることにより、出力軸42をアダプタシャフト65に圧入嵌合することも可能である。また、下部ユニットU1をラックハウジング21に固定した状態で、前述の圧入作業を行うようにしてもよい。すなわち、下部ユニットU1及び上部ユニットU2を互いに近接する方向へ相対変位させることができるのであれば、どのような圧入方法を採用してもよい。
【0052】
<軸ずれの影響について>
このように、本例の伝達比可変装置25では、入力軸41の軸方向位置を固定するために、波動歯車機構45のドリブン側のサーキュラスプライン64に回転伝達可能に連結されるアダプタシャフト65に出力軸42が圧入される構成とされている。ここで、アダプタシャフト65とドリブン側のサーキュラスプライン64との嵌合部分にがたつきがある場合には、これらの間の回転伝達の際に接触音等が発生する等、波動歯車機構45の作動音の増大が懸念される。このため、当該作動音を抑制する観点から、アダプタシャフト65とドリブン側のサーキュラスプライン64とは圧入等により相互に完全固定することが好ましい。しかしこの場合には、前述の圧入作業に際して波動歯車機構45における噛み合い部分に不具合が生じるおそれがある。すなわち、伝達比可変装置25の組み立て公差などに起因して、アダプタシャフト65の軸心と、出力軸42の軸心とが一致しない状態で、前述の圧入作業が行われる場合が想定されるところ、この場合にはアダプタシャフト65、ひいてはこれを含む上部ユニットU2の軸心は、固定側となる下部ユニットU1の出力軸42の軸心に倣う。
【0053】
ここで、ステータ側のサーキュラスプライン63の軸心は入力軸41の軸心により規制される。また、ドリブン側のサーキュラスプライン64の軸心は出力軸42、ひいてはアダプタシャフト65の軸心により規制される。このため、アダプタシャフト65の軸心と、出力軸42の軸心とが一致しない状態で前述した圧入作業が行われてアダプタシャフト65の軸心が出力軸42の軸心に倣った場合には、ドリブン側のサーキュラスプライン64とフレクスプライン62との噛み合い状態が前述した圧入の前後で変化する。
【0054】
たとえば前述したように、ドリブン側のサーキュラスプライン64の内歯には、ウェーブジェネレータ61の外周面形状に倣って変形した楕円形のフレクスプライン62の外歯のうち長軸部分のみが噛合するところ、この一方の長軸部分と他方の長軸部分との間で、ドリブン側のサーキュラスプライン64の内歯に対する噛み合い深さが異なる状況の発生が考えられる。すなわち、前述の圧入前においては、一方の長軸部分と他方の長軸部分との間でドリブン側のサーキュラスプライン64の内歯に対する噛み合い深さに大きな差はなく、同程度に噛み合った状態に保持される。しかし、アダプタシャフト65の軸心が出力軸42の軸心に倣うことにより、ドリブン側のサーキュラスプライン64は、圧入前の当初位置に対して出力軸42の軸心に直交する方向へ前述した軸ずれの分だけ変位する。その結果、ドリブン側のサーキュラスプライン64の内歯に対するフレクスプライン62の両長軸部分の噛み合い状態は、フレクスプライン62の一方の長軸部分と他方の長軸部分とで異なる状況となる。このような状況では、フレクスプライン62の円滑な回転、ひいては波動歯車機構45の円滑な作動が阻害されることも懸念される。
【0055】
<軸ずれの吸収構造>
そこでこうした懸念を払拭するべく、本実施の形態では、次のような構成を採用している。すなわち、アダプタシャフト65は、ドリブン側のサーキュラスプライン64に対してその半径方向へ相対変位可能とされている。具体的には、図6に示されるように、アダプタシャフト65のフランジ部72の外径D1は、ドリブン側のサーキュラスプライン64の内径D2に対して、わずかに小さく設定されている。このため、アダプタシャフト65及びドリブン側のサーキュラスプライン64を同軸状に保持した状態おいて、フランジ部72の外周面とドリブン側のサーキュラスプライン64の内周面との間には若干の隙間A1が形成される。また、アダプタシャフト65の回転方向における両係合突部74,74の幅W1は、ドリブン側のサーキュラスプライン64の回転方向における両係合凹部75,75の幅W2よりも小さく設定されている。このため、アダプタシャフト65及びドリブン側のサーキュラスプライン64を同軸状に保持した状態おいて、係合突部74の互いに反対側に位置する両外側面と、係合凹部75の互いに対向する両内側面との間には、隙間A2が形成される。この隙間A2が前述の隙間A1よりも大きくなるように、係合突部74の幅W1及び係合凹部75の幅W2は設定されている。
【0056】
<弾性部材>
また、前述した両係合突部74,74にはそれぞれ弾性部材91が装着されている。図5の右上に拡大して示されるように、弾性部材91は、ゴム等の弾性体により中空の直方体状に一体形成されるとともに、その上面及びフランジ部72側の側面は連続するように開放されている。この弾性部材91の内形形状は、係合突部74の外径形状に対応して形成されている。具体的には、この弾性部材91は、係合突部74の下面に対応する長方形板状の底壁91a、当該底壁91aの上面における両長側縁部に立設された2つの側壁91b,91c、及びこれら側壁91b,91cの底壁91aに直交する方向へ延びる側縁部間を連結する連結壁91dを備えてなる。両側壁91b,91cの間隔、すなわち弾性部材91の内底面において両側壁91b,91cに直交する方向の長さは、係合突部74の幅W1(図6参照)とほぼ同じに設定されている。また、弾性部材91の内底面において、両側壁91b,91cに沿う方向の長さは、係合突部74のフランジ部72の外周面に対する突出長さとほぼ同じに設定されている。
【0057】
弾性部材91は、係合突部74にその外方から装着される。この際、弾性部材91は、その両内側面が係合突部74の両外側面に、同じく内底面が係合突部74の底面に案内されるかたちで円滑に装着される。そして弾性部材91が係合突部74に装着された状態において、当該係合突部74の両外側面には弾性部材91の両内側面が、同じく係合突部74の底面には弾性部材91の内底面、同じく係合突部74の先端面には連結壁91dの内面がそれぞれ密接した状態に保持される。このとき、図6に示されるように、アダプタシャフト65及びドリブン側のサーキュラスプライン64を同軸状に保持した状態おいて、係合突部74に装着された弾性部材91の互いに反対側に位置する両外側面と、係合凹部75の互いに対向する両内側面との間には、隙間A3が形成される。この隙間A3が前述の隙間A1と同程度となるように、係合突部74の幅W1及び係合凹部75の幅W2は設定されている。
【0058】
したがって、アダプタシャフト65はドリブン側のサーキュラスプライン64に対してその半径方向へ相対的に変位可能となる。このアダプタシャフト65の変位量は、前述した隙間A1〜A3及び弾性部材91の弾性率等により決まる。
【0059】
なお、当該隙間A3を設けないようにすることも可能である。この場合であれ、ドリブン側のサーキュラスプライン64に対するアダプタシャフト65の半径方向への相対変位は、弾性部材91が弾性変形することにより許容される。また、係合突部74と弾性部材91とは接着剤により接着固定することが好ましい。このようにすれば、弾性部材91の係合突部74からの脱落が防止される。
【0060】
以上のような構成を採用することにより、アダプタシャフト65の軸心と出力軸42の軸心とが一致しない状態で前述の圧入作業が行われた場合であれ、波動歯車機構45における噛み合い部分に不具合が生じることはない。すなわち、ドリブン側のサーキュラスプライン64に対するアダプタシャフト65の半径方向へ相対変位が許容されることから、前述した圧入作業に際してアダプタシャフト65の軸心が出力軸42の軸心に倣ったとしても、これに追従してドリブン側のサーキュラスプライン64が変位することはない。このため、ドリブン側のサーキュラスプライン64の内歯と、フレクスプライン62の外歯との噛み合い状態は、前述した圧入の前後で変化することなく、圧入前の好適な噛み合い状態に維持される。ひいては、フレクスプライン62に噛合するステータ側及びドリブン側のサーキュラスプライン63,64の軸ずれが好適に吸収されることにより、各スプライン間の良好な噛み合い状態が保たれる。
【0061】
また、アダプタシャフト65とドリブン側のサーキュラスプライン64との間の回転伝達時には、係合突部74は弾性部材91を介して係合凹部75の内側面に係合する。係合突部74と係合凹部75とが直接的に接触することがないので、当該接触音の発生も抑制される。
【0062】
<実施の形態の効果>
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ドリブン側のサーキュラスプライン64に対するアダプタシャフト65の径方向への相対変位を許容した。このため、前述した圧入作業に際してアダプタシャフト65の軸心が出力軸42の軸心に倣ったとしても、これに追従してドリブン側のサーキュラスプライン64が変位することはない。したがって、ドリブン側のサーキュラスプライン64の内歯と、フレクスプライン62の外歯との噛み合い状態は、前述した圧入の前後で変化することなく、圧入前の良好な噛み合い状態に維持される。ドリブン側のサーキュラスプライン64とフレクスプラインとの噛み合い部分に無理な力が加わることもない。
【0063】
(2)アダプタシャフト65とドリブン側のサーキュラスプライン64との嵌合部分、すなわち係合突部74と係合凹部75との間には弾性部材91を介在させた。このため、アダプタシャフト65とドリブン側のサーキュラスプライン64との間の回転伝達時において、これらの接触音の発生が抑制される。
【0064】
(3)また、ドリブン側のサーキュラスプライン64とフレクスプライン62との噛み合い部分でわずかな振動が発生することも想定されるところ、当該振動は弾性部材91により吸収される。このため、波動歯車機構45の作動に伴う振動が弾性部材91によって吸収される。ひいては、ステアリングホイール11側での振動の発生をも抑制される。
【0065】
(4)弾性部材91は中空の直方体状に形成した。ある程度の剛性が確保されることにより指などで把持しやすくなる。このため、弾性部材91をアダプタシャフト65の係合突部74への装着作業が簡単である。
【0066】
(5)基本的には、弾性部材91を装着するだけでよく、波動歯車機構45の構成の大幅な変更も不要である。このため、製品コストの点でも有利である。
(6)前述した圧入作業時には、アダプタシャフト65を介してドリブン側のサーキュラスプライン64に押圧力Fが印加されることにより、係合突部74の底面及び係合凹部75の内底面には軸方向応力が集中することが懸念される。こうした応力集中は、係合突部74の底面と係合凹部75の内底面との間に介在される弾性部材91の底壁91aにより吸収緩和されるとともに、これら両面の接触による傷付き等が抑制される。
【0067】
(7)係合突部74に装着された弾性部材91と係合凹部75との間には、若干の隙間A3が形成されるようにした。弾性部材91に対して大きな外力が作用するのは、基本的には、波動歯車機構45の作動時のみである。このため、弾性部材91に対して何らかの外力が常時印加されることが抑制される。したがって、弾性部材91の経年劣化が抑制され、製品寿命に対する信頼性が確保される。
【0068】
<他の実施の形態>
なお、前記実施の形態は、次のように変更して実施してもよい。
・本例では、アダプタシャフト65の係合突部74に直方体状の弾性部材91を装着することにより、係合突部74と係合凹部75との接触音の発生を抑制するようにしたが、次のような構成を採用することも可能である。すなわち、図9に示されるように、アダプタシャフト65の外周面、正確には係合突部74を含めたフランジ部72の外周面に沿って環状の溝92を形成し、当該溝92に沿って異形Oリング93を装着する。この異形Oリングは、フランジ部72の外周面に対応する本体部93a及び両係合突部74に対応するU字状の異形部93bを備えてなる。そして、この異形Oリング93は、アダプタシャフト65の溝92に装着された状態において、当該溝92から若干はみ出る程度の外径とされている。こうした構成を採用した場合であれ、ドリブン側のサーキュラスプライン64に対するアダプタシャフト65の相対変位を許容しつつ、係合突部74と係合凹部75との接触音の発生が抑制される。これは、係合突部74と係合凹部75との間に異形Oリング93(正確には、異形部93b)のはみ出し部分が介在するからである。また、異形Oリング93のアダプタシャフト65への装着も簡単である。
【0069】
・本例では、アダプタシャフト65には2つの係合突部74を設けたが、単数としてもよい。また、係合突部74は、3つ、4つ又はそれ以上設けてもよい。この場合、係合突部74の個数に応じて係合凹部75を形成する。すなわち、ドリブン側のサーキュラスプライン64に対するアダプタシャフト65の相対変位を許容しつつ、これら部材間の回転伝達が可能となればよい。
【0070】
・本例では、係合突部74は直方体状に形成したが、当該形状は適宜変更してもよい。例えば、係合突部74は、円柱状、多角柱状等に形成することもできる。この場合、弾性部材91は、これら係合突部74の外形形状に応じてその内径形状を設定する。
【0071】
・本例では、弾性部材91は、ゴムにより形成したが、軟質の合成樹脂材料等、他の弾性体により形成してもよい。
・本例では、弾性部材91を係合突部74に装着したが、係合凹部75側に装着してもよい。このようにしても、本例と同様の効果を得ることができる。
【0072】
・弾性部材91の形成方法は特に限定されず、種々の方法で形成することが可能である。例えば、金型を使用して形成してもよいし、プレスにより形成してもよい。また、ゴム材あるいは軟質の合成樹脂材料等の弾性体を係合突部74あるいは係合凹部75にスプレーすることにより、係合突部74の外面あるいは係合凹部75の内面を前記弾性体によりコーティングするかたちで、弾性部材91を形成するようにしてもよい。
【0073】
・本例では、アダプタシャフト65に係合突部74を、ドリブン側のサーキュラスプライン64に係合凹部75を形成したが、これら凹凸関係を逆にしてもよい。すなわち、アダプタシャフト65に係合凹部75を、ドリブン側のサーキュラスプライン64に係合突部74を形成する。このようにしても、アダプタシャフト65及びドリブン側のサーキュラスプライン64はそれらの回転方向において係合するとともに、ドリブン側のサーキュラスプライン64に対するアダプタシャフト65の径方向への変位が許容される。なお、ドリブン側のサーキュラスプライン64及びアダプタシャフト65の細部の構成については、適宜変更して形成してもよい。
【0074】
・本例では、アダプタシャフト65をドリブン側のサーキュラスプライン64に対して内嵌状態に設けたが、当該サーキュラスプライン64の外部に配設する態様も採用可能である。この場合、係合突部74を下方へ延設してその先端部を係合凹部75に係合させる。このようにしても、ドリブン側のサーキュラスプライン64に対するアダプタシャフト65の径方向への変位が許容される。
【0075】
・本例の伝達比可変装置25は、例えば先の図10及び図11に示されるものに適用してもよい。すなわち、伝達比可変装置の基本的な構成として先の図10及び図11に示される構成を採用しつつ、ステータ側のサーキュラスプライン111に連結される入力側アダプタ部材115を本例のアダプタシャフト65に置換する。このようにしても、本例と同様の効果が得られる。
【0076】
・本例の伝達比可変装置は、電動式及び油圧式のいずれのタイプのパワーステアリング装置を備える車両用操舵装置にも適用可能である。また、本例の伝達比可変装置の用途は、車両機器に限定されない。
【0077】
<他の技術的思想>
次に、前記実施の形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
・前記入力軸にはステアリング操作による回転力が印加されること。
【0078】
・前記弾性部材は前記係合突部を含む前記アダプタ部材の外周面形状に倣って装着される異形Oリングであること。この構成によれば、弾性部材をアダプタ部材の外周面に簡単に装着することができる。
【0079】
・前記各弾性部材は、ゴムにより前記係合突部の外形形状に対応する内形形状を有して一体形成されるとともに、前記係合突部に装着されてなる。この構成によれば、弾性部材を係合突部に簡単に装着することができる。
【符号の説明】
【0080】
25…伝達比可変装置、41…入力軸、41a…拡径部、42…出力軸、45…波動歯車機構、46…モータ、47…モータ軸、61…ウェーブジェネレータ(波動発生器)、62…フレクスプライン、63,64…サーキュラスプライン、65…アダプタシャフト(アダプタ部材)、74…嵌合部位を構成する係合突部、75…嵌合部位を構成する係合凹部、91…弾性部材。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸の回転にモータ駆動に基づく回転を上乗せして出力軸に伝達する差動機構として、中空状のモータ軸に一体回転可能に設けられる楕円状の波動発生器と、当該波動発生器の外周面に装着される柔軟性を有する筒状のフレクスプラインと、当該フレクスプラインの外周側且つ前記モータ軸と同軸状に重ねて配設されて前記波動発生器の外周面形状に倣って変形した楕円形のフレクスプラインの長軸部分で噛合する一対の円筒状のサーキュラスプラインとを備えてなる波動歯車機構を採用し、
第1のサーキュラスプラインには、前記モータ軸内に挿通された入力軸又は出力軸が圧入嵌合される円筒状のアダプタ部材が回転伝達可能に嵌合連結されるとともに、前記出力軸又は前記入力軸はその軸端に形成された拡径部の内部に前記波動歯車機構及び前記アダプタ部材を収容する態様で当該拡径部の内周面が第2のサーキュラスプラインの外周面に固定されてなる伝達比可変装置において、
前記アダプタ部材と前記第1のサーキュラスプラインとの嵌合部位に隙間を形成することによりこれら両部材間の回転伝達状態を維持しつつ前記アダプタ部材の第1のサーキュラスプラインに対する径方向への相対変位を許容するとともに、前記嵌合部位には弾性部材を配設してなる伝達比可変装置。
【請求項2】
請求項1に記載の伝達比可変装置において、
前記嵌合部位は、前記第1のサーキュラスプラインに内嵌されるアダプタ部材の外周面に設けられた係合突部と、前記第1のサーキュラスプラインにおける前記第2のサーキュラスプラインと反対側の端面に設けられて前記係合突部と回転方向において係合する係合凹部とを含むとともに、これら係合突部及び係合凹部間の回転方向における係合関係を通じて前記アダプタ部材と前記第1のサーキュラスプラインとの間で回転伝達が行われるようにし、
前記第1のサーキュラスプラインの内周面と前記アダプタ部材の外周面との間、並びに前記係合突部と前記係合凹部との間にそれぞれ隙間を形成することにより前記アダプタ部材の第1のサーキュラスプラインに対する径方向への相対変位が許容されるとともに、前記弾性部材は、少なくとも前記係合突部と前記係合凹部との回転方向における隙間に介在されてなる伝達比可変装置。
【請求項3】
請求項2に記載の伝達比可変装置において、
前記弾性部材は、前記係合突部と前記係合凹部の内底面との間にも介在されてなる伝達比可変装置。
【請求項4】
請求項3に記載の伝達比可変装置において、
前記各弾性部材はゴムにより一体形成されることにより相互に連結されるとともに、前記係合突部又は前記係合凹部に一括して装着されてなる伝達比可変装置。
【請求項1】
入力軸の回転にモータ駆動に基づく回転を上乗せして出力軸に伝達する差動機構として、中空状のモータ軸に一体回転可能に設けられる楕円状の波動発生器と、当該波動発生器の外周面に装着される柔軟性を有する筒状のフレクスプラインと、当該フレクスプラインの外周側且つ前記モータ軸と同軸状に重ねて配設されて前記波動発生器の外周面形状に倣って変形した楕円形のフレクスプラインの長軸部分で噛合する一対の円筒状のサーキュラスプラインとを備えてなる波動歯車機構を採用し、
第1のサーキュラスプラインには、前記モータ軸内に挿通された入力軸又は出力軸が圧入嵌合される円筒状のアダプタ部材が回転伝達可能に嵌合連結されるとともに、前記出力軸又は前記入力軸はその軸端に形成された拡径部の内部に前記波動歯車機構及び前記アダプタ部材を収容する態様で当該拡径部の内周面が第2のサーキュラスプラインの外周面に固定されてなる伝達比可変装置において、
前記アダプタ部材と前記第1のサーキュラスプラインとの嵌合部位に隙間を形成することによりこれら両部材間の回転伝達状態を維持しつつ前記アダプタ部材の第1のサーキュラスプラインに対する径方向への相対変位を許容するとともに、前記嵌合部位には弾性部材を配設してなる伝達比可変装置。
【請求項2】
請求項1に記載の伝達比可変装置において、
前記嵌合部位は、前記第1のサーキュラスプラインに内嵌されるアダプタ部材の外周面に設けられた係合突部と、前記第1のサーキュラスプラインにおける前記第2のサーキュラスプラインと反対側の端面に設けられて前記係合突部と回転方向において係合する係合凹部とを含むとともに、これら係合突部及び係合凹部間の回転方向における係合関係を通じて前記アダプタ部材と前記第1のサーキュラスプラインとの間で回転伝達が行われるようにし、
前記第1のサーキュラスプラインの内周面と前記アダプタ部材の外周面との間、並びに前記係合突部と前記係合凹部との間にそれぞれ隙間を形成することにより前記アダプタ部材の第1のサーキュラスプラインに対する径方向への相対変位が許容されるとともに、前記弾性部材は、少なくとも前記係合突部と前記係合凹部との回転方向における隙間に介在されてなる伝達比可変装置。
【請求項3】
請求項2に記載の伝達比可変装置において、
前記弾性部材は、前記係合突部と前記係合凹部の内底面との間にも介在されてなる伝達比可変装置。
【請求項4】
請求項3に記載の伝達比可変装置において、
前記各弾性部材はゴムにより一体形成されることにより相互に連結されるとともに、前記係合突部又は前記係合凹部に一括して装着されてなる伝達比可変装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−223320(P2010−223320A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70683(P2009−70683)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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