説明

伸線方法

【課題】強加工度伸線においてもワイヤの脆化が抑制できる硬鋼線の伸線方法を提供することを目的とする。
【解決手段】駆動キャプスタン3a、3bと従動キャプスタン2a、2bとの間にダイスホルダー4aを具備した細物硬鋼線用の連続湿式伸線装置1において、伸線機入り口側Aから連続した2段以上をダブルダイスにして、伸線加工の仕上がり側Bに向かってのワイヤWの温度の蓄積・上昇をより小さく抑えて脆化を抑制し、また、ダブルダイスでの逆張力でダイスへの負担を軽減して発熱を抑えて脆化を抑制するとともにワイヤの表層部と内部との加工歪差を小さくすることができカッピー断線も防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炭素を含有する硬鋼線を直径0.1〜0.4mm程度まで連続湿式伸線機により伸線する伸線方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチールコード用素線やワイヤソー用線等の細物硬鋼線の伸線は、一般に連続湿式伸線機により行う。この種の伸線機には駆動キャプスタンと従動キャプスタンとの間に設けたダイスホルダーにダイスをセットした、一般に「コーン式」と呼称される伸線機が一般的である。そして、この伸線機はダイスを含む部分は潤滑液で全没するか、または潤滑液のシャワーにより潤滑および冷却を行うようにしている。
【0003】
近年、より強度の高い硬鋼線が要求されるようになったが、その要求に対し伸線加工のトータル加工度を上げて対応している。しかし、トータル加工度を上げると、設備の関係からダイス1枚当たりの加工度を増やす必要が生じるが、ダイス1枚当たりの加工度を増やすと延性が低下(脆化)するといった問題があった。
【0004】
これに対し、ダイスホルダーの1段に2個のダイス(ダブルダイス)をセットして伸線加工する方法が提案されている。この方法によればダイス1枚の加工度を2枚のダイスに分割することでダイス1枚当たりの負荷を低減でき、伸線加工の仕上がり側にこのダブルダイス使用する伸線方法が各種提案されているが、その例として、延性の低下やそれに起因する破断のリスクが高まる領域への導入部として鋼線の引張強さが2500MPa以上となる領域、すなわち、引き抜かれた鋼線の引張強さが2500MPa以上となる段以降にダブルダイス方式を適用することで、延性の低下を抑制させるというものがある(特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−34102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載された鋼線の引張強さが2500MPa以上となる段以降にダブルダイスを用いても、トータル加工度が95%を超え、ダイス1枚当たりの加工度が15%超えるような強加工伸線においてはワイヤの脆化を完全に防ぐことはできないことが判明した。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、強加工度伸線においてもワイヤの脆化が抑制できる硬鋼線の伸線方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、従来技術においてワイヤの脆化が完全に抑制できない原因がワイヤ温度に起因することを見出し本発明に至ったのである。
すなわち、本発明は、駆動キャプスタンと従動キャプスタンとの間にダイスホルダーを具備した細物硬鋼線用の連続湿式伸線装置において、伸線機入り口側から連続した2段以上をダブルダイスにしたことを特徴とする。
【0007】
連続湿式伸線装置ではダイスを含む部分は潤滑液で全没するか、または潤滑液のシャワーで潤滑および冷却を行うようにしているが、この冷却作用はダイスの冷却が主であってワイヤの冷却は伸線加工速度が高速であるがために不完全である。よってワイヤ温度は伸線の仕上がり側に向かって徐々に蓄積されていって伸線装置出口部ではワイヤ温度は高温に達している。従来技術のように鋼線の引張強さが2500MPa以上となる段以降にダブルダイスを採用してもワイヤ温度は脆化を誘発する温度にまで達しており、これによって脆化が完全に抑制できないということを見出し、本発明を成すに至った。
【0008】
本発明の伸線方法によれば、ダブルダイスによってダイス1枚当たりの加工度を下げながら強加工が可能となる。しかも伸線加工初期段階のワイヤがまだ軟らかいうちに強加工するから、仕上がりでの発熱を従来技術による場合より小さく抑えることができる。よって、伸線加工の仕上がり側に向かってのワイヤ温度の蓄積(上昇)をより小さく抑えることが可能となって脆化を抑制することができる。
【0009】
さらに、ダブルダイスであるからワイヤとダイスとの接触面積が通常のシングルダイスの2倍となるので次のダイスへ導かれるワイヤには従来よりも大きな逆張力が作用する。逆張力は伸線加工(減面作用)を補助するので、逆張力が高い程ダイスへの負担が軽減できて、これによっても発熱を抑えることができる。さらに、ダイス1枚当たりの加工度を高くすると、ワイヤの表層部と内部との加工歪の差に起因する、一般的に言われるカッピー断線が発生し易くなるが、本発明の伸線方法によれば、逆張力が伸線加工を補助するのでワイヤの表層部と内部との加工歪差を小さくすることができ、カッピー断線も防止することができる。ただし、ダブルダイスとする段数は、伸線機入り口側から全段数の半分まで(全20段として10段目まで)とするのが好ましい。というのは、ダブルダイスとする段数を全段数の半分以上とするとワイヤにかかる逆張力が多くなりすぎて、ワイヤを引っ張る駆動キャプスタンへの巻きつけ回数を増やさなければならなくなり、これによって線踏み(ワイヤのからみ)が発生して断線し易くなるからである。
なお、ダブルダイスを伸線機入り口側から連続した2段以上としたのは、1段のみでは少なすぎて仕上がりでの発熱を抑えることができないからである。
【発明の効果】
【0010】
このように、本発明の伸線方法によれば、伸線加工の仕上がり側に向かってのワイヤ温度の蓄積・上昇をより小さく抑えることが可能となって脆化を抑制することができる。また、ダブルダイスで次のダイスへ導かれるワイヤには従来よりも大きな逆張力が作用するから、逆張力が伸線加工(減面作用)を補助してダイスへの負担が軽減され、これによっても発熱を抑えることができ脆化を抑制できるとともにワイヤの表層部と内部との加工歪差を小さくすることができ、カッピー断線も防止することができる。
【0011】
本発明の製造方法は通常の加工度における伸線加工においても効果を奏するが、トータル加工度が95%以上、あるいはダブルダイスのトータル減面率が15%以上の強加工伸線において特に効果が顕著となる。
ダブルダイスのトータル減面率とは1枚のダイスで伸線したとしたときの加工度と同じで、ダブルダイスへ入るワイヤとダブルダイスを出たときのワイヤとの断面積の変化率を意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1は、本発明の伸線方法を説明するための4軸の連続湿式伸線装置1の概要を示す概略図で、2つの段付フリーキャプスタン2a、2bと、2つの段付駆動キャプスタン3a、3bとが、段付フリーキャプスタンと段付駆動キャプスタンとが対になるように配置され、段付フリーキャプスタンと段付駆動キャプスタン間(2a−3a間、2b−3b間)にダイス4を装着するダイスホルダー4a、4bを配置してなる。段付フリーキャプスタン2a、2bと段付駆動キャプスタン3a、3bの段数はそれぞれ10段前後であり(図1では各6段)である。図1において図面左側がワイヤWの伸線機への入り口側Aで右側が出口側Bであって、矢印はワイヤWの進行方向を示す。本発明においては、ワイヤWの入り口側Aから2段以上(図1では4箇所)をダブルダイス5とする。
【実施例】
【0013】
SWRH80相当の5.5mm線材を、パテンチング処理後、線径1.65mmまで冷間乾式伸線加工したものに熱処理および真鍮メッキを施し、さらに図1に示す伸線装置にて線径0.25mmまで連続湿式伸線(最終伸線)を行った。最終伸線のダイススケジュールは表1に示すとおりである。トータル加工度は97.6%である。
【0014】
【表1】

【0015】
表1に示すとおり、本発明の実施例では入り口側から4段(ダイスNo.1〜4)までをダブルダイスとし、他をシングルダイスとした。また、従来例1は全てをシングルダイスとしたもので、従来例2は出口側の3段をダブルダイスとし、他はシングルダイスとした。
【0016】
次に、表1の実施例と従来例1、2に示すダイススケジュールで、伸線速度1000m/分で、それぞれ量産テストを実施し、断線回数、捻回値を比較した。その結果を表2に示す。
【0017】
【表2】

【0018】
上記表2において、断線回数は断線回数/総伸線量(ton)を示す。
また捻回値は、ワイヤの脆化を示すもので、加工後のワイヤ(0.25mm)を、線径の100倍(25mm)離して両端固定し、片端をワイヤの軸芯まわりに回転させて、ワイヤが捻れ切れするまでの回数である。この値は各50本の平均値であり、大きい方が脆化が小さいことを意味する。
【0019】
表2から明らかなように、本発明の伸線方法で伸線したワイヤは高加工であるにもかかわらず断線がなく、しかも従来の伸線方法で伸線したワイヤに比べ捻回値が大きく脆化が抑制されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の伸線方法を説明するための伸線装置の概略図である。
【符号の説明】
【0021】
1 伸線装置
2a、2b 段付フリーキャプスタン
3a、3b 段付駆動キャプスタン
4 ダイス
4a、4b ダイスホルダー
5 ダブルダイス
W ワイヤ
A 伸線装置入り口側
B 伸線装置出口側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動キャプスタンと従動キャプスタンとの間にダイスホルダーを具備した、細物硬鋼線用の連続湿式伸線装置にて伸線加工する伸線方法において、伸線機入り口側から連続した2段以上にダブルダイスを用いたことを特徴とする細物硬鋼線の伸線方法。
【請求項2】
ダブルダイスの減面率がトータルで15%以上である請求項1に記載の細物硬鋼線の伸線方法。
【請求項3】
全減面率が95%以上である請求項1又は請求項2のいずれかに記載の細物硬鋼線の伸線方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−175741(P2007−175741A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378579(P2005−378579)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(394010506)
【Fターム(参考)】