説明

伸線用インゴットの成分濃度傾斜化方法

【課題】 軸線方向には成分濃度が基本的に均一で、軸線を中心とする半径方向には成分濃度の傾斜を有する伸線用インゴットを作製する。
【解決手段】 高比重の金属元素成分と低比重の金属元素成分とからなる伸線用インゴットにおいて、インゴットを真空または不活性雰囲気中で加熱するとともにインゴットの高さ方向の中心線を回転軸として超高速で回転することによって最外周部に存在する二種以上の金属元素成分に異なる遠心力を発生させ、インゴットの最外周部で低比重の金属元素成分を希釈化させる。また、インゴットの最外周部で高比重の金属元素成分を濃縮させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高比重の金属元素成分と低比重の金属元素成分とからなる伸線用インゴットの成分濃度傾斜化方法、特に半導体装置用のボンディングワイヤまたはバンプワイヤに適した伸線用インゴットの成分濃度傾斜化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、半導体装置用のボンディングワイヤにおいては、酸化の速さの異なる2種類以上の元素からなる伸線用インゴットの微量の金属材料を、酸素を含む気体中で一定時間加熱し、その後、形成した表面酸化物を機械的または化学的に除去することを特徴とする金属材料の製造方法が開発されている(特許文献1参照)。しかし、この方法では、微量の添加元素群と酸素とが結合しやすく、局所的に結合した添加元素群が金などのベースをなす金属・合金(以下、単にベースという)中を移動して、金などのベース金属中に部分的な添加元素群の集合体を形成したり、特定の添加元素が強固な酸化物を形成したりするおそれがある。そのため本発明者らは、窒素雰囲気中で伸線用インゴットを一定時間加熱する傾斜化方法を開発した(特許文献2参照)。
【0003】
しかし、特許文献1や特許文献2に開示された方法は、いずれも、加熱時間が20時間以上と長いため製造コストが高くなり、なかなか利用されなかった。また、長時間加熱するためか、一連の作業後に添加元素の平均組成が変化してしまい、引き続く処理工程が安定しないという欠点があった。添加元素の金属元素成分が微量な場合は、このような傾斜化処理後に含有量が半分以下になることもあった。特にBeなどの熱拡散しやすい微量の添加元素がインゴット中に存在したりすると、長時間の加熱によってインゴット表面に高濃度で濃縮されるため微量添加元素の平均組成の制御が難しくなるという問題があった。
また、金属元素成分が純度99.9質量%以上のAu、Ag、Cu、PtまたはPdなどの場合は、酸化や窒化が困難な金属元素である。これらのAu、Ag、Cu、PtまたはPdなどの金属またはこれらを主成分とする合金、たとえばAu−Pd合金については、熱拡散によって傾斜化することができないという問題があった。
【0004】
他方、学術的には、20万G以上、望ましくは81万G以上の超高加速度場を、60℃を超える高温下で発生させて、固体中の成分組成を傾斜化させる方法を提供しようとするものがある(特許文献3参照)。
しかし、この方法は、これまでの液体中の固体を分離する遠心分離機を利用したに過ぎず、超高速の加速度場を実現させるため、試料容器は回転軸からできるだけ離れた端部に設置していた。そのため20万rpm以上の超高速回転を実現したとしても、試料中の成分は試料内で偏在してしまう欠点があった。インゴット中で金属元素成分が偏析しているような場合には、その後の伸線工程でワイヤが蛇行したり断線したりする原因となる。よって、超高速の加速度場を利用するやり方は実用的な方法としては考えられていなかった。
【0005】
上記のように、これまでは溶解鋳造したインゴットの最外周部の金属元素成分を半径方向にコントロールする実用的な方法が存在しなかった。また、特許文献1や特許文献2に開示された方法では、長時間の加熱処理を伴うため、加熱によって揮発する金属元素は使用できず、利用できるインゴットの金属元素に制約があった。しかも、最外周部のインゴットの固体と気体の界面反応が複雑なため、金属元素成分を半径方向にコントロールするのに特定の合金成分について個別的に多数の実験を必要とし、特許文献1や特許文献2に開示された方法は実用的な製造方法ではなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2006−32934号公報
【特許文献2】特願2007−8135号
【特許文献3】特開平9−290178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑み、軸線方向には成分濃度が基本的に均一で、軸線を中心とする半径方向には成分濃度の傾斜を有する伸線用インゴットを作製することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の伸線用インゴットの成分濃度傾斜化方法は、高比重の金属元素成分と低比重の金属元素成分とからなる伸線用インゴットにおける低比重の金属元素成分濃度を最外周部から中心部側へ傾斜化させるための方法であって、前記インゴットを真空または不活性雰囲気中で加熱するとともにインゴットの高さ方向の中心線を回転軸として超高速で回転することによって最外周部に存在する二種以上の金属元素成分に異なる遠心力を発生させ、インゴットの最外周部で低比重の金属元素成分を希釈化させることを特徴とする方法(a)である。
【0009】
また、高比重の金属元素成分と低比重の金属元素成分とからなる伸線用インゴットにおける高比重の金属元素成分濃度を中心部側から最外周部へ傾斜化させるための方法であって、前記インゴットを真空または不活性雰囲気中で加熱するとともにインゴットの高さ方向の中心線を回転軸として超高速で回転することによって二種以上の金属元素成分に異なる遠心力を発生させ、インゴットの最外周部で高比重の金属元素成分を濃縮させることを特徴とする方法(b)である。
【0010】
また、高比重の金属元素成分と低比重の金属元素成分とからなる伸線用インゴットにおける低比重の金属元素成分濃度を最外周部から中心部側へ傾斜化させるための方法であって、前記インゴットを真空または不活性雰囲気中で加熱するとともにインゴットの高さ方向の中心線を回転軸として超高速で回転することによって最外周部に存在する二種以上の金属元素成分に異なる遠心力を発生させ、インゴットの最外周部で低比重の金属元素成分でを希釈化させた後、このインゴットを熱処理することを特徴とする方法(c)である。
【0011】
また、高比重の金属元素成分と低比重の金属元素成分とからなる伸線用インゴットにおける高比重の金属元素成分濃度を中心部側から最外周部へ傾斜化させるための方法であって、前記インゴットを真空または不活性雰囲気中で加熱するとともにインゴットの高さ方向の中心線を回転軸として超高速で回転することによって二種以上の金属元素成分に異なる遠心力を発生させ、インゴットの最外周部で高比重の金属元素成分を濃縮させた後、このインゴットを熱処理することを特徴とする方法(d)である。
【0012】
また、高比重の金属元素成分と低比重の金属元素成分とからなる伸線用インゴットにおける低比重の金属元素成分濃度を最外周部から中心部側へ傾斜化させるための方法であって、前記インゴットを真空または不活性雰囲気中で加熱するとともにインゴットの高さ方向の中心線を回転軸として超高速で回転することによって最外周部に存在する二種以上の金属元素成分に異なる遠心力を発生させ、インゴットの最外周部で低比重の金属元素成分を希釈化させた後、このインゴットを熱処理してから表面エッチングすることを特徴とする方法(e)である。
【0013】
また、高比重の金属元素成分と低比重の金属元素成分とからなる伸線用インゴットにおける高比重の金属元素成分濃度を中心部側から最外周部へ傾斜化させるための方法であって、前記インゴットを真空または不活性雰囲気中で加熱するとともにインゴットの高さ方向の中心線を回転軸として超高速で回転することによって二種以上の金属元素成分に異なる遠心力を発生させ、インゴットの最外周部で高比重の金属元素成分を濃縮させた後、このインゴットを熱処理してから表面エッチングすることを特徴とする方法(f)である。
【0014】
最外周部で希釈化または濃縮される金属元素成分が0.1質量%以下の微量添加元素であること、最外周部から中心部側へ傾斜化させる金属元素成分が純度99.9質量%以上のAu、Ag、Cu、PtまたはPdのいずれかであること、中心部側から最外周部へ傾斜化させる金属元素成分が純度99.9質量%以上のAl、GeまたはSiのいずれかであること、が好ましく、最外周部で希釈化または濃縮される金属元素成分が0.1質量%以下の微量添加元素たるBeであること、はさらに好ましい。
Al、GeまたはSiとするのは、これらの軽金属元素は高純度化がしやすいからである。
Beは熱処理によっては傾斜化することができない元素だからである。
【0015】
また、高比重の金属元素成分がAu、Ag、CuまたはPtのいずれかであり、かつ、低比重の金属元素成分がPdであることも、好ましい態様である。これらは貴金属元素であり、半導体装置の接続線として利用しやすいからである。また、Cuも貴金属元素のものに準じて取り扱うことができるからである。加えて、貴金属成分とCuだけから構成されるので、貴金属成分の回収が容易になるからである。
さらに、インゴットを回転させる場合の最外周層の回転加速度が1,000G(G=9.8m/秒2)以上であること、伸線用インゴットが半導体装置用のボンディングワイヤまたはバンプワイヤ用インゴットであること、もまた、好ましい態様である。
1,000G未満では、添加元素成分を移動しやすくするため加熱温度を高くする必要があり、インゴットの剛性が低下するからである。
傾斜化されたボンディングワイヤまたはバンプワイヤは、その2重構造によって均質に合金化されたワイヤよりも機械的性質が優れていると考えられる。
なお、ここで、「最外周部」というのは、傾斜化されたインゴットを表面エッチングして最外周層を除去した後の、微量添加元素が偏析している部分をいう。
【発明の効果】
【0016】
本発明の高温・高速回転による傾斜化では、主に合金成分の比重差によって遠心分離されるため、成分の添加量はさほど影響せずにあらゆる元素が傾斜化できる。特に完全固溶するAu−Pd合金であっても、実施例に示すように機械的に分離することができていることから、回転軸の回転スピードとインゴットの保持温度によってインゴット表面からの合金成分元素の傾斜化の勾配を制御することができる。
また、これまでの傾斜化のようにインゴット自体を融点(Auでは1063℃、Alでは659℃である。)近くの高温度にまで加熱して保持することを必要としなくなる効果がある。このためBeやZnなどのように揮発しやすい微量添加元素やCaやYのように基礎金属(実施例ではAu)中を移動しやすい微量添加金属であっても、基礎金属の表面から傾斜化させることができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、インゴットの軸線を中心として回転させ、比重の異なる元素に異なる大きさの回転によって生ずる遠心力を作用させ、その遠心力によって元素の比重に基づいて異なる移動挙動を行わせることを基本とする。すなわち、本発明は、インゴットの高さ方向の中心線を回転軸として超高速で回転することによって、最外周部に存在する二種以上の金属元素成分に異なる遠心力を発生させ、最外周部の金属元素成分を半径方向にコントロールすることによって、伸線に適したインゴットを得ようとするものである。本発明は、基本的に遠心力を利用するため、インゴットの金属元素成分は比重差が大きいものほど処理時間が短縮される。さらに、遠心力に加え加熱することによってインゴット中の金属元素成分の移動を速めることができ、最外周部の金属元素成分を半径方向にコントロールする処理時間が短縮される。
【0018】
金属元素の比重は周知なので、インゴットの直径と回転数および加熱源が定まれば、本発明は最外周部のインゴットの金属元素成分を半径方向に機械的にコントロールすることができる。本発明はインゴット表面の界面反応を伴わないので、インゴットの中へ異物が混入することはない。
本発明の伸線用インゴットの傾斜化方法において、インゴットの最外周部で低比重の金属元素成分を希釈化させるには、高比重の単数または複数の金属元素成分を主成分とした基礎金属または基礎合金に低比重の金属元素成分を単数または複数で添加または微量添加したインゴットを用いる。
【0019】
また、本発明の伸線用インゴットの傾斜化方法において、インゴットの最外周部で高比重の金属元素成分を濃縮させるには、低比重の単数または複数の金属元素成分を主成分とした基礎金属または基礎合金に高比重の金属元素成分を単数または複数で添加または微量添加したインゴットを用いる。
本発明は金属元素の比重差を利用するため、添加元素または微量添加元素は基礎金属または基礎合金の粒界または粒内に微細な金属粒子として析出していることが好ましい。
【0020】
本発明の伸線用インゴットの傾斜化方法において、インゴットの形状は円柱体であることが好ましい。インゴット最外周部の表面を伸線時に均質な状態に保つためである。円柱体は扁平なほど、同じ回転数でも最外周部の遠心力が大きくなるので好ましい。特に最外周部で低比重の金属元素成分を希釈化させた場合には、インゴットの表面に表面偏析による酸化物層がないので、酸化物による伸線ダイスの摩耗が少なくなる。
本発明のインゴットが半導体装置用の純度99.99質量%以上のAu合金(微量添加金属成分が0.01質量%未満で、残部が純度99.99質量%以上のAuからなるもの。ただし、残部には微量添加金属成分が含まれない。)の場合、十分希釈化させると、伸線後のボンディングワイヤは表面が高純度のAu組成だけになっているので、リードフレームなどへのセカンド接合性が向上するだけでなく、表皮効果による高周波抵抗が改善される。
【0021】
微量添加金属成分がBeであっても、比重差によってBeがインゴットの表面に表面偏析することはない。また、本発明のインゴットが半導体装置用の純度99.9質量%以上のAl合金に0.1質量%のNiを添加したものである場合、十分濃縮化させると、インゴットの表面はNiリッチのAl層が形成され、伸線作業が容易になるだけでなく、耐食性のあるボンディングワイヤを作ることができる。このワイヤ全体としてはAlの含有量が高いので、第一ボンド時のチップダメージが少なくなる。
【0022】
本発明の伸線用インゴットの傾斜化方法において、インゴットの温度が高くなればなるほど、遠心力による移動が容易になると考えられるので、加熱は大きいほど好ましい。ただし、加熱はインゴットの形状が変形しない程度で行われる。加熱方法には誘導加熱、抵抗加熱、高周波加熱、レーザ加熱などがあるが、レーザ加熱が必要な個所だけを加熱することができるので好ましい。具体的にはインゴットの最外周層の表面温度がインゴットの融点または共晶点の85%以上の温度から融点までの温度が好ましい。
【0023】
本発明の伸線用インゴットの傾斜化方法において、インゴットの回転数が高くなればなるほど、遠心力による金属元素成分の比重差による移動が容易になるので、回転数は高いほど好ましい。ただし、回転数が高くなると、回転軸からインゴットが外れた場合に危険度が増すので、毎分5千回転から毎分5万回転の間が好ましい。
本発明において、回転装置としては、高速回転の穴あけドリル機のシャフトを利用することができる。また、回転動力として自動車のモータやタービンモータ、高周波モータなどを利用して回転装置を作成することができる。大抵の場合、1万rpm以上の高速回転が容易に得られる。
回転時間は、使用する金属元素の種類やインゴットの最外周部にかかる遠心力によって異なるが、5時間〜30時間の範囲が好ましい。5時間未満では分離時間が十分ではなく、30時間以上では費用対効果がはなはだ低下するからである。
【0024】
本発明の伸線用インゴットの傾斜化方法において、後処理として熱処理するのはインゴットを調質させるためである。高速回転による金属元素の移動に伴い、インゴット中では目に見えない転移やボイドが発生していると予想される。後処理としての熱処理によってインゴット中のこれらの不均質さを解消し、伸線しやすくするためである。
また、本発明の伸線用インゴットの傾斜化方法において、後処理として熱処理後にエッチングをするのは、インゴット表層の汚れを取り除くだけでなく、合金組成の分布むら等が生じるのを防ぐためである。エッチングは、インゴットの最外周層の汚れ等をとる目的に着眼すれば、化学エッチングが好ましい。
【実施例】
【0025】
以下に、図面も交えながら、実施例によって本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の回転方法を示す模式的概念図である。
[実施例1]
図1において、伸線用インゴット1は、中空の凸型ホルダー2に載置してネジで固定する。この凸型ホルダー2を回転シャフト3にはめ込み、モータによって回転シャフト3を高速回転させる。
純度99.999質量%以上のAuに10質量ppmのBe、20質量ppmのMgおよび25質量ppmのFeを添加したAu合金インゴット(直径30mm、高さ55mm)を、凸型ホルダー2にセットし、先端のとがった黒鉛電極を用い、Ar雰囲気中で、あらかじめアークの発生条件出しした数ミリの極間距離を保ちながらアーク放電を1時間行い、Au合金インゴットの表面温度を950℃にした。
【0026】
この状態で180分間、10,000回転/分の高速回転させた。
回転終了後、大気中で冷却してからインゴットを凸型ホルダーから取り出し、その表面を酸洗いした。そして、形状の崩れたインゴットの頭部の部分を取り除き、その直下の部分を長手方向に切断した。インゴット側面表層からの添加元素の分布をICP質量分析装置を用いて測定した。結果を表1、表2および図2のグラフにして示す。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
図2のグラフから次のことがわかる。
a.Be添加元素の測定値が当初の添加量よりも低いことがわかった。これは、インゴット最外層の表面に偏析されたためと思われる。
b.Be添加元素とFe添加元素の分布は滑らかな曲線上に載っている。このことから、Be添加元素とFe添加元素は、他の添加元素が存在していても、Auインゴット中で均一に分散しやすい元素であると考えられる。これまで高純度のAu中で、Be添加元素が均一に分散しているものは報告されていなかった。従って、本発明の方法によって傾斜化されたAuインゴットを伸線して半導体装置用のボンディングワイヤやバンプワイヤに用いると、これまでにない安定した品質のワイヤが得られる。
c.他方、Mg添加元素の分布は滑らかな曲線上に載っているとはいえない。これは、これら3添加元素のうちでMg添加元素が高温のAuインゴット中でもっとも移動しやすい元素であると考えられる。
【0030】
[実施例2]
各々純度99.9質量%以上のAu−1質量%Pd合金に0.1質量%のCaを添加したインゴット(直径30mm、高さ55mm)を、インゴットの回転数は5,000回転/分、表面温度は580℃で、180分間回転させた。
回転終了後、大気中で冷却してからインゴットを取り出し、その表面を酸洗いした。そして、インゴットを切断してインゴット表面からの添加元素の分布をICP質量分析装置にて測定した。結果を表3、表4および図3のグラフにして示す。
【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
図3のグラフから次のことがわかる。
d.1質量%のPdがAu中に存在していても、このPdは滑らかな曲線に沿って傾斜化されている。
e.また、これまでAu中での分布が安定しなかったCa添加元素およびY添加元素の分布も、うまく傾斜化できていることが示されている。
f.また、1質量%のPdがAu中に存在していても、微量のCa添加元素およびY添加元素は、Pdの影響を受けていないことがわかる。これは、Au−1質量%Pd合金中における傾斜化が、主に機械的に遠心分離されていることを物語るものである。
【0034】
[実施例3]
純度99.999質量%以上のAl金属(比重2.70)に比重の大きなCu(比重8.95)を15質量ppm、Ni(比重8.90)を50質量ppmおよびFe(比重7.87)を10質量ppm添加したインゴット(直径30mm、高さ70mm)を、インゴットの回転数は10,000回転/分、表面温度は580℃で、180分間回転させた。
回転終了後、大気中で冷却してからインゴットを取り出し、その表面を酸洗いした。そして、インゴットを切断してインゴット表面からの添加元素の分布をICP質量分析装置にて測定した。結果を表5、表6および図4のグラフにして示す。
【0035】
【表5】

【0036】
【表6】

【0037】
図4のグラフから次のことがわかる。
g.各元素の測定値が当初の添加量よりも低く測定されていることがわかった。これは、インゴット最外層の表面に偏析されたためである。NiよりもCuとFeの添加元素の濃度が低いのは、高温のAlインゴット中でこれらの元素が移動しやすいためと考えられる。
h.Ni添加元素の濃度が他の元素に比べて高くて安定しているのは、Alインゴット中で均一に分散しやすい元素であると考えられる。しかも、Ni添加元素の濃度が表面近傍で高く表面以外で安定しているのは、高温のAlインゴット中で安定している領域が50質量ppm前後であることを示すものである。
【0038】
i.Fe添加元素の濃度が表面付近では低く表面から少し入ったところで高くなっているのは、Fe添加元素よりもCu添加元素のほうが高温のAlインゴット中で優先してインゴット最外層の表面に偏析され、相対的にFe添加元素がAlインゴットの中心側へ押しやられたためであると考えられる。また、Fe添加元素の濃度が中心部へ進むほど低くなっているのは、高温のAlインゴット中でFe添加元素がこれら3添加元素のうちAlインゴットの中でもっとも移動しやすい元素であると考えられる。
j.Cu添加元素の濃度が表面近傍で高く表面以外で安定しているのは、高温のAlインゴット中で安定している領域が10質量ppm前後であることを示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、ボンディングワイヤまたはバンプワイヤにおいて、ワイヤの中心から半径方向に外周に向かって添加元素の濃度勾配を簡易の導入することができるので、接合性と機械的特性等で調和のとれた好ましいボンディングワイヤまたはバンプワイヤを簡便に得ることができ、ボンディングワイヤまたはバンプワイヤを利用する技術分野に益する処大である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の回転方法を示す概念図である。
【図2】実施例1中で傾斜化したAu中のBe、MgおよびFeの、それぞれの濃度分析曲線を示すトレース図。
【図3】実施例2中で傾斜化したAu−Pd合金中のY・Ca、およびPdの、それぞれの濃度分析曲線を示すトレース図。
【図4】実施例3中で傾斜化したAl中のCu、FeおよびNiの、それぞれの濃度分析曲線を示すトレース図。
【符号の説明】
【0041】
1:伸線用インゴット
2:(中空の)凸型ホルダー
3:回転シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高比重の金属元素成分と低比重の金属元素成分とからなる伸線用インゴットにおける低比重の金属元素成分濃度を最外周部から中心部側へ傾斜化させるための方法であって、前記インゴットを真空または不活性雰囲気中で加熱するとともにインゴットの高さ方向の中心線を回転軸として超高速で回転することによって最外周部に存在する二種以上の金属元素成分に異なる遠心力を発生させ、インゴットの最外周部で低比重の金属元素成分を希釈化させることを特徴とする伸線用インゴットの成分濃度傾斜化方法。
【請求項2】
高比重の金属元素成分と低比重の金属元素成分とからなる伸線用インゴットにおける高比重の金属元素成分濃度を中心部側から最外周部へ傾斜化させるための方法であって、前記インゴットを真空または不活性雰囲気中で加熱するとともにインゴットの高さ方向の中心線を回転軸として超高速で回転することによって二種以上の金属元素成分に異なる遠心力を発生させ、インゴットの最外周部で高比重の金属元素成分を濃縮させることを特徴とする伸線用インゴットの成分濃度傾斜化方法。
【請求項3】
高比重の金属元素成分と低比重の金属元素成分とからなる伸線用インゴットにおける低比重の金属元素成分濃度を最外周部から中心部側へ傾斜化させるための方法であって、前記インゴットを真空または不活性雰囲気中で加熱するとともにインゴットの高さ方向の中心線を回転軸として超高速で回転することによって最外周部に存在する二種以上の金属元素成分に異なる遠心力を発生させ、インゴットの最外周部で低比重の金属元素成分を希釈化させた後、このインゴットを熱処理することを特徴とする伸線用インゴットの成分濃度傾斜化方法。
【請求項4】
高比重の金属元素成分と低比重の金属元素成分とからなる伸線用インゴットにおける高比重の金属元素成分濃度を中心部側から最外周部へ傾斜化させるための方法であって、前記インゴットを真空または不活性雰囲気中で加熱するとともにインゴットの高さ方向の中心線を回転軸として超高速で回転することによって二種以上の金属元素成分に異なる遠心力を発生させ、インゴットの最外周部で高比重の金属元素成分を濃縮させた後、このインゴットを熱処理することを特徴とする伸線用インゴットの成分濃度傾斜化方法。
【請求項5】
高比重の金属元素成分と低比重の金属元素成分とからなる伸線用インゴットにおける低比重の金属元素成分濃度を最外周部から中心部側へ傾斜化させるための方法であって、前記インゴットを真空または不活性雰囲気中で加熱するとともにインゴットの高さ方向の中心線を回転軸として超高速で回転することによって最外周部に存在する二種以上の金属元素成分に異なる遠心力を発生させ、インゴットの最外周部で低比重の金属元素成分を希釈化させた後、このインゴットを熱処理してから表面エッチングすることを特徴とする伸線用インゴットの成分濃度傾斜化方法。
【請求項6】
高比重の金属元素成分と低比重の金属元素成分とからなる伸線用インゴットにおける高比重の金属元素成分濃度を中心部側から最外周部へ傾斜化させるための方法であって、前記インゴットを真空または不活性雰囲気中で加熱するとともにインゴットの高さ方向の中心線を回転軸として超高速で回転することによって二種以上の金属元素成分に異なる遠心力を発生させ、インゴットの最外周部で高比重の金属元素成分を濃縮させた後、このインゴットを熱処理してから表面エッチングすることを特徴とする伸線用インゴットの成分濃度傾斜化方法。
【請求項7】
最外周部で希釈化または濃縮される金属元素成分が0.1質量%以下の微量添加元素である請求項1から請求項6までのいずれかに記載の伸線用インゴットの成分濃度傾斜化方法。
【請求項8】
最外周部から中心部側へ傾斜化させる金属元素成分が純度99.9質量%以上のAu、Ag、Cu、PtまたはPdのいずれかである請求項1、請求項3または請求項5のいずれかに記載の伸線用インゴットの成分濃度傾斜化方法。
【請求項9】
中心部側から最外周部へ傾斜化させる金属元素成分が純度99.9質量%以上のAl、GeまたはSiのいずれかである請求項2、請求項4または請求項6のいずれかに記載の伸線用インゴットの成分濃度傾斜化方法。
【請求項10】
最外周部で希釈化または濃縮される金属元素成分が0.1質量%以下の微量添加元素たるBeである請求項1、請求項3または請求項5のいずれかに記載の伸線用インゴットの成分濃度傾斜化方法。
【請求項11】
高比重の金属元素成分がAu、Ag、CuまたはPtのいずれかであり、かつ、低比重の金属元素成分がPdである請求項1、請求項3または請求項5のいずれかに記載の伸線用インゴットの成分濃度傾斜化方法。
【請求項12】
インゴットを回転させる場合の最外周層の回転加速度が1,000G(G=9.8m/秒2)以上である請求項1から請求項6までのいずれかに記載の伸線用インゴットの成分濃度傾斜化方法。
【請求項13】
伸線用インゴットが半導体装置用のボンディングワイヤまたはバンプワイヤ用インゴットである請求項1から請求項6までのいずれかに記載の伸線用インゴットの成分濃度傾斜化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−62588(P2009−62588A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232296(P2007−232296)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000217332)田中電子工業株式会社 (51)
【Fターム(参考)】