説明

伸線装置用のキャプスタン

【課題】 減面率αを異なる工程間あるいは同一工程内で変更した場合にも、細線とキャプスタンとの間のスリップ率を、小さいレベルで一定とできると共に、生産コストを低減できる伸線装置用のキャプスタンを提供することを目的とする。
【解決手段】 伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにつれて線径が段階的に縮径されつつ伸線される細線が巻き架けられる伸線装置用のキャプスタン3Rは、モータMRにより回転駆動されるシャフト部材31と、シャフト部材31の軸線方向に着脱自在に重ねて取り付けられ、それぞれの外径DR〜DRn−1が、伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにつれて段階的に大径とされた複数のプーリPR〜PRn−1とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金等の貴金属又は貴金属合金からなる細線の伸線装置用のキャプスタンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにつれて線径が段階的に縮径されつつ伸線される細線が巻き架けられる伸線装置用のキャプスタンが知られている(例えば特許文献1参照)。
この特許文献1の伸線装置における一対の第1キャプスタンと第2キャプスタンとは、モータにより回転駆動されるシャフト部材の互いの軸線が平行となるように配置されると共に、それぞれのキャプスタンは、同軸で結合された外径の異なる複数のプーリを備えている。
【0003】
この一対のキャプスタンの間には、伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにつれて段階的に小径とされた複数のダイスが設けられており、伸線される細線は、最初のダイスを通過した後に第1キャプスタンに設けられた1番目のプーリの外周に巻き架けられて半周し、次に、第2キャプスタンに設けられた1番目のプーリの外周に巻き架けられて半周し、次に、第2のダイスを通過して、以後、同様にして、第1キャプスタン及び第2キャプスタンに設けられた複数のプーリのそれぞれの外周に巻き架けられて各半周することを繰り返しながら、各ダイスを通過する際に次第に縮径して伸線されていき、最終的には仕上げダイスを通過した後に巻取りボビンに巻き取られる。
細線長さは、各ダイスを通過して縮径されるにつれて長くなっていくので、たるみを生じないように伸線を行うために、前記複数のプーリの外径は、伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにつれて段階的に大きくされている。
【特許文献1】特開2002−205111号公報(図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載されているキャプスタンに設けられた複数のプーリの外径は、各ダイスの減面率αが、ある一定の値にあることを前提として設計されている。
ここで、減面率αは、一のダイスを通過される前の線径をd、一のダイスを通過された後の線径をdとすると、
式(i) α=1−(d/d
で定義されるものである。
【0005】
これにより、細線が、減面率αを有する一のダイスを通過された場合、減面前の細線長さLと減面後の細線長さLとの関係は、
式(ii) L=L/(1−α)
となる。
【0006】
同様に、細線とプーリとの間のスリップ率が一定であると仮定すると、細線が、減面率αを有する一のダイスを通過された場合、減面前のプーリ径Dと、減面後のプーリ径Dとの関係は、
式(iii) D=D/(1−α)
となる。
【0007】
ここでスリップ率とは、キャプスタンの周速度に対するキャプスタン周上を通る細線の遅れを表すものであり、例えばプーリ径D[mm]のプーリが回転数R[rpm]で回転しており、このプーリ周上を通過する細線の速度をV[mm/min]とすると、スリップ率は、
式(iv) 1−(V/πD
となる。
【0008】
伸線工程中に細線とプーリとの間に大きなスリップが生じると、これらの間の摩擦力に伴う張力が細線に作用し、細線に曲がり等のクセが発生したり、甚だしくは、断線が発生する場合があるので、細線とプーリとの間のスリップ率は、ある程度は必要であるが、なるべく小さいレベルで一定とされることが望ましい。
従って、前記式(iii)の関係から、ある一定の減面率αに対し、減面前のプーリ径Dと減面後のプーリ径Dとがほぼ一義的に決定される。
【0009】
実際の生産現場では、種々の線径の細線が扱われるが、線径が大きい場合、大きな減面率αをもって伸線工程に供することが生産効率の観点からも望ましい。
一方、線径が小さい場合、減面率αが大きいとダイスからの引き抜き荷重が細線の破断荷重に達して断線を生じてしまうので、小さい減面率αをもって伸線工程に供することが望ましい。
上記の点は、同一の伸線工程で細線が縮径される場合にも妥当するものであって、伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにつれて、前記複数のダイスの減面率αを徐々に小さくできることが望ましい。
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載されているキャプスタンにあっては、外径の異なる複数のプーリがシャフト部材に結合して固着されているため、予め決まった減面率αでの伸線工程にしか供することができず、一つのキャプスタンを、細線の線径の変更に伴って減面率αを変更した伸線工程に供したり、同一工程内で各ダイス毎に減面率αを異ならせた伸線工程に供したりすると、各段毎にスリップ率が異なることとなり、細線の曲がりや断線が生じてしまう。
細線とプーリとの間のスリップ率は、ある特定の減面率に合った外径を備えるプーリが組み合わせられたキャプスタンの場合、シャフト部材の回転速度を調整することによって一定に制御できるものの、減面率が様々に変化する場合、シャフト部材の回転速度の調整だけでは各プーリでのスリップ率を一定にすることができなかった。
【0011】
このため、異なる工程間で減面率αを変更したい場合や、同一工程内で減面率αを変更したい場合には、キャプスタン全体を新たに製作しなければならず、生産コストの増大を招いていた。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、減面率αを異なる工程間あるいは同一工程内で変更した場合にも、細線とキャプスタンとの間のスリップ率を、小さいレベルで一定とできると共に、生産コストを低減できる伸線装置用のキャプスタンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決して、前記目的を達成するために、請求項1記載の伸線装置用のキャプスタンは、伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにつれて線径が段階的に縮径されつつ伸線される細線が巻き架けられるものであって、該キャプスタンは、駆動手段により回転駆動されるシャフト部材と、該シャフト部材の軸線方向に着脱自在に重ねて取り付けられ、それぞれの外径が、伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにつれて段階的に大径とされた複数のリング部材とを備えることを特徴とするものである。
また、前記シャフト部材と重ねて取り付けられた前記複数のリング部材とは、例えばキー結合により回転方向の位置決めがされると共に、シャフト部材の一端側に設けられたストッパ部と、シャフト部材の他端側から装着される固定部材とにより挟持されて前記軸線方向の位置決めがされることが望ましい(請求項2)。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る伸線装置用のキャプスタンによれば、伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにつれて、それぞれの外径を段階的に大径とされた複数のリング部材を、シャフト部材に着脱自在に取り付ける構成としたので、異なる工程間あるいは同一工程内で減面率αを変更する場合に、キャプスタン全体を新たに製作しなくても、一部のリング部材のみを前記式(iii)に基づいて決定される外径のものと組み替えることによって、種々の減面率αに対して細線とキャプスタンとの間のスリップ率を、小さいレベルで一定とできるので、キャプスタンの生産コストを低減することができる。
【0015】
また、線径が大きい場合、大きな減面率αとして生産効率を向上させることができる一方、線径が小さい場合、小さい減面率αとして細線の断線を防止することができる。
更に、異なる工程間で減面率αを変更した場合には、一部のリング部材を、これら異なる工程間で共用させることができるので、生産コストを一層低減することができる。
【0016】
また、請求項2に係る伸線装置用のキャプスタンによれば、リング部材を、回転方向と軸線方向に確実に位置決めできるので、安定した伸線を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図1から図4に基づいて本発明の第1の実施形態について説明する。
図1は、第1の実施形態を適用した伸線装置1の概略構成図であって、この伸線装置1は、互いの回転軸線が平行となるように配置された一対の第1キャプスタン3R及び第2キャプスタン3Lと、これら第1キャプスタン3R及び第2キャプスタン3Lとの間に、細線5を縮径して伸線を行うために、伸線方向上流側から伸線方向下流側に向けて順次配置された(n−1)個の中間ダイスB〜Bn−1と、前記中間ダイスBn−1よりも伸線方向の下流側に配置された仕上げダイスBと、この仕上げダイスBの更に伸線方向の下流側に設けられた巻取りボビン7とを備えている。
【0018】
中間ダイスB〜Bn−1及び仕上げダイスBの図示しないダイス孔は、細線5を順次縮径させるために伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにつれて段階的に小径とされていると共に、本実施の形態においては、中間ダイスB〜Bn−1及び仕上げダイスBのそれぞれの減面率α〜αも、α>α>α>α4・・・>αのごとく、段階的に小さくされている。
また、図1においてMR及びMLは、それぞれ第1キャプスタン3R及び第2キャプスタン3Lを矢印Nの方向に回転させるための駆動源としてのモータである。
【0019】
第1の実施形態のキャプスタンの構造の詳細について、第1キャプスタン3Rを例として図2から図4を参照しつつ説明するが、第2キャプスタン3Lも第1キャプスタン3Rと同様の構成とされている。
【0020】
図2は、第1キャプスタン3Rの図1におけるX方向矢視図であって、第1キャプスタン3Rは、伸線方向上流側の一端がモータMRに連結されたシャフト部材31と、このシャフト部材31に嵌着された(n−1)個のプーリ(リング部材)PR〜PRn−1と、これらプーリPR〜PRn−1をシャフト部材31に形成されたストッパ部31bとの間で挟持して軸線方向に位置決めするための固定部材33とを備えている。
【0021】
シャフト部材31は、その軸線方向に延在される円柱状の軸部31aと、この軸部31aの前記一端近傍に所定の軸方向長さをもって径方向外側に向けて張り出して形成されたストッパ部31bと、軸線と直交するストッパ部31bの一の端面31fと軸部31aの伸線方向下流側の他端との間で、軸部31aから径方向外側に向けて延在して突設されたキー部31cとを備えている。
このキー部31cの途中には、前記一の端面31fから長さt1の位置において、軸線と平行に延在され、軸部31aの前記他端近傍に向かう長さt2の切欠き31dが形成されている。
【0022】
次に、各プーリPR〜PRn−1の形状について、図3に基づいて説明する。
ここで、図3(a)は平面図を、図3(b)は図3(a)のY−Y断面図をそれぞれ示すものである。
これら各プーリPR〜PRn−1はリング状を為し、互いに平行な2つの円形の平面の中心間を貫通して形成され、前記シャフト部材31の軸部31aと嵌合される貫通孔41と、この貫通孔41の内壁から径方向外側に向けて切り欠かれると共に軸方向の全長に亘って設けられたキー溝43とを備えており、このキー溝43は、シャフト部材31のキー部31cと係合可能に形成されている。
【0023】
また、各プーリPR〜PRn−1それぞれの外径DR〜DRn−1は、
式(1) プーリPRの外径DRを基準として、
式(2) DR=DR/(1−α
式(3) DR=DR/{(1−α)*(1−α)}



式(n−1) DRn−1=DR/{(1−α)*(1−α)*・・・*(1−αn−2)}
により決定され、DR<DR<DR<DR4・・・<DRn−1のごとく、段階的に大きくされている。
【0024】
また、第2キャプスタン3L側の各プーリPL〜PLn−1それぞれの外径DL〜DLn−1も同様にして決定され、DL<DL<DL<DL4・・・<DLn−1のごとく、段階的に大きくされている。
【0025】
次に、固定部材33の形状について、図4に基づいて説明する。
ここで、図4(a)は平面図を、図4(b)は図4(a)のZ−Z断面図をそれぞれ示すものである。
この固定部材33はリング状を為し、互いに平行な円形の一の平面33eの中心と他の平面33fの中心との間を貫通して形成され、前記シャフト部材31の軸部31aと嵌合される貫通孔33aを備えている。
また、固定部材33は、貫通孔33aの内壁から径方向外側に向けて切り欠かれると共に軸方向の全長に亘って設けられた扇形のキー溝33bと、このキー溝33bの周方向に連設され、平面視においてキー溝33bとほぼ同じ形状の扇形を為すと共に、前記他の平面33fから長さt3の位置まで凹設された凹部33dとが形成されている。
ここで長さt3は、前記切欠き31dの長さt2よりも僅かに小さくされており、凹部33dが凹設されないで残った部分は、壁部33cとされる。
また、前記キー溝33bは、シャフト部材31のキー部31cと係合可能に形成されている。
【0026】
以上のような構成とされた第1キャプスタン3Rを組み立てる場合には、まずプーリPRのキー溝43とシャフト部材31のキー部31cとを係合させると共に、プーリPRを前記一の端面31fに当接するまでシャフト部材31に嵌合させて押し込む。
次に、プーリPRのキー溝43とシャフト部材31のキー部31cとを係合させると共に、プーリPRを、対向されるプーリPRの円形の平面に当接して重ねるようにしてシャフト部材31に嵌合させて押し込む。
以下、同様にして、プーリPR、プーリPR・・・プーリPRn−1を順次重ねてシャフト部材31に嵌合させて押し込む。
【0027】
これにより、シャフト部材31と各プーリPR〜PRn−1とは、キー結合されて回転方向の位置決めがされる。
なお、プーリPR〜PRn−1を重ねたときの軸線方向のトータルの長さt4(図2参照)は、ストッパ部31bの一の端面31fと切欠き31dの始端までの前記長さt1よりも僅かに大きくされている。
【0028】
次に、固定部材33の他の平面33fをプーリPRn−1に対向させ、キー溝33bとシャフト部材31のキー部31cとを係合させると共に、固定部材33の他の平面33fが、プーリPRn−1の円形の平面に当接するまでシャフト部材31に嵌合させて押し込む。
押し込みが完了した後、固定部材33を図4(a)の方向から見て反時計方向に回動させて、前記壁部33cと前記切欠き31dとを係合させる。
上述の通り、プーリPR〜PRn−1のトータルの長さt4は、前記長さt1よりも僅かに大きくされているので、これらプーリPR〜PRn−1は、ストッパ部31bと固定部材33とにより強固に挟持され、シャフト部材31と各プーリPR〜PRn−1とは軸線方向にも確実に位置決めがされる。
【0029】
以上のような構成とされた第1キャプスタン3R及び第2キャプスタン3Lを備えた伸線装置1の動作について説明すると、細線5は、下引線5aの状態で伸線方向の最上流側から装置内に導入され、1番目の中間ダイスBを通過した後に第1キャプスタン3Rに設けられた1番目のプーリPRの外周に巻き架けられて半周し、次に、第2キャプスタン3Lに設けられた1番目のプーリPLの外周に巻き架けられて半周し、次に、2番目の中間ダイスBを通過した後に第1キャプスタン3Rに設けられた2番目のプーリPRの外周に巻き架けられて半周し、以後、同様にして、第1キャプスタン3Rに設けられたプーリPR〜PRn−1及び第2キャプスタン3Lに設けられたプーリPL〜PLn−1のそれぞれの外周に巻き架けられて各半周することを繰り返しながら、各中間ダイスB〜Bn−1を通過する際に次第に縮径して伸線されていき、最終的には仕上げダイスBを通過して仕上り線5eとされた後に巻取りボビン7に巻き取られる。
なお、第1キャプスタン3Rのシャフト部材31及び第2キャプスタン3Lのシャフト部材33の回転速度は、それぞれモータMR及びモータMLにより独立に制御可能とされているので、これらシャフト部材の回転速度を個々に調整することにより、それぞれのキャプスタンにおける細線5とプーリとの間のスリップ率を制御することができる。
【0030】
ここで、第1の実施形態を適用したキャプスタンの一例として、段数nを10とし、減面率αを1段目の中間ダイスBでは0.100(10%)とし、以後、0.005(0.5%)ずつ減少させて、仕上げダイスB10における減面率α10を0.055(5.5%)とした場合に、各段におけるプーリ径を前述した式(1)〜式(9)に基づいて決定したものを[表1]に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
このようにプーリ径を決定することにより、同一の伸線工程内で減面率αを段階的に変化させながら、細線5と各プーリとの間のスリップ率は、小さいレベルで一定とされる。
なお、[表1]における細線速度の値は、仕上げダイスB10を通過した後の細線5の伸線方向の速度を100とした時の、各中間ダイスB〜Bを通過した後の細線5の伸線方向の速度を表したものである。
また、減面率αの減少のさせ方は、[表1]に示した例に限定されるものではなく、異なる伸線工程において線径の比較的大きな細線5を伸線する場合には、例えば、減面率αを0.010(1.0%)ずつ減少させることも可能である。
【0033】
以上説明した通り、第1の実施形態によれば、第1キャプスタン3RのプーリPR〜プーリPRn−1及び第2キャプスタン3LのプーリPL〜プーリPLn−1を、それぞれシャフト部材31及びシャフト部材33に対して着脱自在に重ねて取り付ける構成としたので、同一工程内で減面率αを変更する場合に、キャプスタン全体を新たに製作しなくても、一部のリング部材のみを前記式(iii)に基づいて決定される外径のものと組み替えることによって、種々の減面率αに対して細線5とプーリとの間のスリップ率を、小さいレベルで一定とできるので、キャプスタンの生産コストを低減することができる。
【0034】
また、第1の実施形態によれば、中間ダイスB〜Bn−1及び仕上げダイスBのそれぞれの減面率α〜αも、α>α>α>α4・・・>αのごとく、段階的に小さくされているので、比較的線径の大きな下引線5aに近い状態においては、大きな減面率αをもって伸線を行うことにより生産効率が向上されると共に、比較的線径の小さな仕上り線5eに近い状態においては、小さな減面率αをもって伸線を行うことにより、細線5の断線を防止することができる。
更に、第1の実施形態によれば、各プーリPL〜プーリPLn−1を、これらに形成されたキー溝33bとシャフト部材31のキー部31cとにより係合させて回転方向の位置決めを行うと共に、固定部材33により軸線方向の位置決めを行っているので、安定した伸線を行うことが可能となる。
【0035】
次に、本発明の第2の実施形態について、図5を参照しつつ説明する。
なお、以下の説明においては、第1の実施形態と共通する部分については、同一符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0036】
図5は、第2の実施形態を適用した伸線装置51の概略構成図であって、この第2の実施形態においては、異なる伸線工程の間では、減面率αを異ならせているが、同一の伸線工程における各中間ダイスB〜Bn−1及び仕上げダイスBの減面率αは一定とされており、この第2の実施形態を適用した一例として、伸線工程#1〜伸線工程#5における段数nはいずれも10とし、伸線工程#1における減面率αは0.050(5%)一定、伸線工程#2における減面率αは0.075(7.5%)一定、伸線工程#3における減面率αは0.100(10%)一定、伸線工程#4における減面率αは0.125(12.5%)一定、及び伸線工程#5における減面率αは0.150(15%)一定とした場合に、各段におけるプーリ径を前述した式(1)〜式(9)に基づいて決定したものを[表2]に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
このようにプーリ径を決定することにより、各伸線工程内では、細線5と各プーリとの間のスリップ率は、小さいレベルで一定とされる。
また、第1キャプスタン3Rの1段目のプーリPRを伸線工程#1〜伸線工程#5の全てで同一とすれば、この1段目のプーリPRを全ての伸線工程で共用化できると共に、[表2]においてプーリ径の値がほぼ等しいものを共用化することができる。
すなわち、
(a)伸線工程#1の4段目のプーリPR、伸線工程#2の3段目のプーリPR、及び伸線工程#5の2段目のプーリPR
(b)伸線工程#1の5段目のプーリPR、及び伸線工程#3の3段目のプーリPR
(c)伸線工程#1の7段目のプーリPR、伸線工程#2の5段目のプーリPR、伸線工程#3の4段目のプーリPR、及び伸線工程#5の3段目のプーリPR
(d)伸線工程#1の9段目のプーリPR、及び伸線工程#3の5段目のプーリPR
(e)伸線工程#2の9段目のプーリPR、及び伸線工程#3の7段目のプーリPR
(f)伸線工程#4の7段目のプーリPR、及び伸線工程#5の6段目のプーリPR
のそれぞれを共用化することが可能となる。
また、第2キャプスタン3Lにおいても同様に、[表2]においてプーリ径の値がほぼ等しいものを共用化することができる。
【0039】
この第2の実施形態によれば、第1キャプスタン3RのプーリPR〜プーリPRn−1及び第2キャプスタン3LのプーリPL〜プーリPLn−1を、それぞれシャフト部材31及びシャフト部材33に対して着脱自在に重ねて取り付ける構成としたので、異なる工程間で減面率αを変更する場合に、キャプスタン全体を新たに製作しなくても、一部のリング部材のみを前記式(iii)に基づいて決定される外径のものと組み替えることによって、種々の減面率αに対して細線5とプーリとの間のスリップ率を、小さいレベルで一定とできるので、キャプスタンの生産コストを低減することができる。
また、第2の実施形態においても、各プーリPL〜プーリPLn−1を、これらに形成されたキー溝33bとシャフト部材31のキー部31cとにより係合させて回転方向の位置決めを行うと共に、固定部材33により軸線方向の位置決めを行っているので、安定した伸線を行うことが可能となる。
【0040】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限られるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能なものである。
具体的には、上述した実施の形態においては、第1キャプスタン3Rのシャフト部材31及び第2キャプスタン3Lのシャフト部材33の回転速度は、それぞれモータMR及びモータMLにより独立に制御可能とされているが、モータを1つのみとして、2つの変速機構を介してシャフト部材31及びシャフト部材33と連結するようにしても良い。
また、上述した実施の形態においては、固定部材33により各プーリの軸線方向での位置決めを行っているが、これに代えて、各シャフト部材の前記他端に雄ネジを形成し、各プーリをシャフト部材に重ねて取り付けた後に、締め付けナットにより固定するようにしても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
減面率αを異なる工程間あるいは同一工程内で変更した場合にも、細線とキャプスタンとの間のスリップ率を、小さいレベルで一定とできると共に、生産コストを低減できる伸線装置用のキャプスタンを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1の実施形態を適用した伸線装置1の概略構成図である。
【図2】第1キャプスタン3Rの図1におけるX方向矢視図である。
【図3】(a)はプーリPR〜PRn−1の平面図、(b)は(a)のY−Y線視断面図である。
【図4】(a)は固定部材33の平面図、(b)は(a)のZ−Z線視断面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態を適用した伸線装置51の概略構成図である。
【符号の説明】
【0043】
1,51 伸線装置 3R 第1キャプスタン 3L 第2キャプスタン 5 細線 31,33 シャフト部材 33 固定部材 B〜Bn−1 中間ダイス B 仕上げダイス DR〜DRn−1,DL〜DLn−1 プーリ外径 PR〜PRn−1,PL〜PLn−1 プーリ(リング部材) α〜α 減面率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにつれて線径が段階的に縮径されつつ伸線される細線が巻き架けられる伸線装置用のキャプスタンであって、
該キャプスタンは、駆動手段により回転駆動されるシャフト部材と、
該シャフト部材の軸線方向に着脱自在に重ねて取り付けられ、それぞれの外径が、伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにつれて段階的に大径とされた複数のリング部材とを備えることを特徴とする伸線装置用のキャプスタン。
【請求項2】
前記シャフト部材と重ねて取り付けられた前記複数のリング部材とは、キー結合により回転方向の位置決めがされると共に、シャフト部材の一端側に設けられたストッパ部と、シャフト部材の他端側から装着される固定部材とにより挟持されて前記軸線方向の位置決めがされることを特徴とする請求項1に記載の伸線装置用のキャプスタン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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