説明

伸長性布帛と製法

【課題】緻密で嵩高でボリューム感に富み、触感・風合いがよく、縫製加工や成形加工によって立体的に仕立てることが出来、衣料品や車両内装材に適した伸長性布帛を得る。
【解決手段】熱収縮性ウェブ12を非弾性繊維糸条を主材として構成された原布15に全面接着させて貼り合わせ、そのウェブを15%以上加熱収縮させ、原布15の収縮状態を固定セットする。又は、熱収縮性ウェブによって原布15を収縮させることなく原布の織編目を固定セットし、その後、原布に減量、抜蝕、溶解処理を施して原布の繊維素材の一部を除去する。そうすると、荷重伸度曲線Fにおいて、その曲線Fに接する接線の勾配αが3倍以上変化する変曲点Hを有し、その変曲点における布帛の伸び率Lが0.1以上であり、その変曲点の破断伸度側の曲線Fに接する接線の勾配α2 がその変曲点Hの初期伸度側の曲線Fに接する接線の勾配α1 よりも大きい伸長性布帛が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縫製加工や成形加工、特に車両の座席やインストルメントパネル、サンバイザー、天井等の表面材に使用される成形加工に適した伸長性布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成皮革の基布として使用される織物の経糸や緯糸を間欠的に切断して合成皮革に伸長性を付与し、合成皮革を車両天井等に成形し易くすることは公知である(例えば、特許文献1参照)。 パイル布帛の地糸に未延伸高配向のポリエステル繊維を用い、アルカリ処理して地糸のポリエステル繊維を減量かつ胞化して伸び易くした自動車成型用パイル布帛(例えば、特許文献2参照)、或いは、加熱延伸処理を施すことなく未延伸状態で加熱収縮させたポリエステル繊維を地糸に用いて深絞り成形を可能にした成形加工用パイル布帛は公知である(例えば、特許文献3参照)。 パイル経編地の地糸にポリウレタン弾性糸を用い、100%伸長時の応力保持率を60%以下にして深絞り成形可能にし、自動車インストルメントパネル等に適した成形用布帛は公知である(例えば、特許文献4参照)。 成形加工用パイル布帛の地糸に、溶解性糸条を芯糸とする芯鞘複合糸条を用い、布帛形成後に芯糸を溶解除去して伸長し易くすること公知である(例えば、特許文献5参照)。 縫製加工して仕立てられる車両内装用パイル布帛の地組織(基布)に熱収縮性ポリエステル繊維を用い、加熱収縮処理を施して地組織(基布)を緻密にし、ストレッチ性を付与することは公知である(例えば、特許文献6参照)。
【特許文献1】実開昭58−124498号公報
【特許文献2】特開昭57−066149号公報(特公昭62−12335)
【特許文献3】特開2000−144554号公報
【特許文献4】特開昭58−049237号公報(特公平02−08064)
【特許文献5】特開平08−302564号公報
【特許文献6】特開平03−051347号公報(特許第2845502号)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前掲特許文献1の糸条が裁断分割されている基布では、経糸や緯糸が解れ出し易く、又、経糸や緯糸を部分的に細かく切断するにも限度があり、その切断に手間が掛かって実用的ではなく、品質が均等で耐久性のある伸長性合成皮革は得られない。 前掲特許文献2・3のパイル布帛では、伸長性のあるポリエステル繊維糸条によって地糸が構成されているので、伸長性があって成形加工に適したものになるが、強いテンションを掛けて地糸を緻密に織・編み込むことは出来ず、従って、緻密なパイル布帛は得られず、地糸が特定の繊維に限定されるので多様なパイル布帛を得ることは出来ない。 前掲特許文献4の弾性布帛では、弾性糸を経糸に用いて緻密に織・編み込むことは出来ても、地糸が特定の弾性繊維に限定されて多様な伸長性パイル布帛は得られない。 そして、緯糸はテンションの作用しない弛緩状態で織・編み込まれるので、弾性糸を緯糸に用いても緻密な伸長性パイル布帛が得られる訳でもない。 前掲特許文献5の溶解性糸条を用いてパイル布帛に伸長性を付与する方法では、その溶解性糸が溶解しても目付けが減るだけで布帛がボリュームアップする訳でも緻密化する訳でもなく、地糸が特定の繊維に限定され、緻密で多様な伸長性パイル布帛は得られない。 前掲特許文献6の熱収縮性ポリエステル繊維を地糸に用いる方法では、熱収縮して繊度を増した太デニールのポリエステル繊維を用いて緻密にパイル布帛を形成した場合と同じ結果になるので、格別伸長性が付与されることにはならない。 このように、縫製加工や成形加工に適した伸長性布帛を得るための幾多の試みがなされているが、繊維素材に限定されることなく、緻密で嵩高でボリューム感に富み、触感・風合いのよい伸長性布帛は得られていない。
【0004】
被加工布帛に熱収縮性シートをパターン状に塗着した接着剤を介して部分的に接着して貼り合わせ、熱収縮性シートを加熱収縮させると共に、加熱収縮に伴って被加工布帛に生じたシボ立ち皺を加熱セットし、熱収縮性シートを剥離してシボ立ち(凹凸)布帛を得ることは公知であり(例えば、特許文献7参照)、又、布帛を収縮率の異なる2種類の糸条によって構成し、その高収縮性糸条を収縮させ、低収縮性糸条によって布帛表面にシボ立ち凹凸を形成する所謂縮緬加工法は公知である(例えば、特許文献8参照)。 しかし、シボ立ち布帛では、成形加工時に布帛が局部的に伸長され、又、シボ立ち凹凸が押し潰されるので、シボ立ち模様の外観が損なわれる。そして、パイル布帛や起毛布帛、人工皮革等の厚手の布帛を部分的に収縮させてもシボ立ち模様は形成されず、シボ立ち加工や縮緬加工によってパイル布帛等の厚手の布帛に伸縮性を付与することは出来ない。
【特許文献7】特開平06−240563号公報(特許第2554981号)
【特許文献8】特開平07−305265号公報(特許第2895319号)
【0005】
そこで本発明は、緻密で嵩高でボリューム感に富み、触感・風合いがよく、縫製加工や成形加工によって立体的に仕立てることが出来、衣料品や車両内装材に適した伸長性布帛を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る伸長性布帛は、非弾性繊維糸条を主材として構成され、そのJIS−L−1096・A法(定速伸長法)によって測定される荷重伸度曲線Fにおいて、その荷重伸度曲線Fに接する接線Tの勾配αが荷重伸度測定開始時に比して3倍以上変化する変曲点Hを有し、その変曲点Hにおける布帛の伸び率Lが0.1以上であり、その変曲点Hから破断点Bに到る破断伸度側において荷重伸度曲線Fに接する接線T2 の勾配α2 が、引張開始点Oから変曲点Hに到る初期伸度側において荷重伸度曲線Fに接する接線T1 の勾配α1 よりも大きいことを第1の特徴とする。
【0007】
本発明に係る伸長性布帛の第2の特徴は、JIS−L−1096・A法(定速伸長法)によって測定される荷重伸度曲線Fにおいて、破断時の伸び率LB が0.28以上であり、伸び率Lが0.24〜0.28となる伸長状態における平均増加荷重Q2 〔N/5cm〕が、伸び率Lが0.08〜0.12となる伸長開始状態における平均増加荷重Q1 〔N/5cm〕の3倍以上(Q2 /Q1 ≧3)であり、非弾性繊維糸条を主材として構成され、その非弾性繊維糸条11が曲折して絡み合って布帛13を構成しており、その非弾性繊維糸条11の曲折した曲折形状が固定セットされている点にある。
【0008】
本発明に係る伸長性布帛の第3の特徴は、上記第1と第2の何れかの特徴に加えて、プラスチックフイルムが貼り合わされている点にある。
【0009】
本発明に係る成形加工用布帛は、熱収縮率が0.15以上であり、熱収縮率0.03以上に熱収縮を開始する熱収縮開始温度が130℃以上である熱収縮性プラスチックフイルム12を、非弾性繊維糸条を主材として構成された原布15に全面接着させて貼り合わせ、130℃以上に加熱して熱収縮性プラスチックフイルム12を15%以上収縮させ、そのプラスチックフイルム12と一体になっている原布15の収縮状態を固定セットして成り、プラスチックフイルム12が裏面に貼り合わされていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る伸長性布帛の第1の製法は、熱収縮率が0.15以上であり、熱収縮率0.03以上に熱収縮を開始する熱収縮開始温度が130℃以上である熱収縮性ウェブ12を原布15に全面接着させて貼り合わせ、130℃以上に加熱して熱収縮性ウェブ12を15%以上収縮させ、そのウェブ12と一体になっている原布15の収縮状態を固定セットすることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る伸長性布帛の第2の製法は、原布15の織編目を構成している非弾性繊維糸条の曲折形状を固定セットし、その後、原布15に減量処理、抜蝕処理、溶解処理の何れかの処理を施して原布を構成している繊維糸条の繊維素材の一部を溶解除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明(請求項1)の伸長性布帛は、その引張試験における荷重伸度曲線Fに接する接線Tの勾配αが荷重伸度測定開始時に比して3倍以上変化する変曲点Hを有し、その変曲点Hにおける布帛の伸び率Lが0.1以上であり、その変曲点Hから破断点Bに到る破断伸度側において荷重伸度曲線Fに接する接線T2 の勾配α2 が、引張開始点Oから変曲点Hに到る初期伸度側において荷重伸度曲線Fに接する接線T1 の勾配α1 よりも大きいので、可撓性に富み、伸び率が0.1(伸度10%)に達する初期伸度の範囲において伸び易い。
【0013】
本発明(請求項2)の伸長性布帛は、その引張試験における荷重伸度曲線Fに現れる伸び率Lが0.24〜0.28となる伸長状態における平均増加荷重Q2 〔N/5cm〕が、伸び率Lが0.08〜0.12となる伸長開始状態における平均増加荷重Q1 〔N/5cm〕の3倍以上(Q2 /Q1 ≧2)であり、その構成する糸条の織編組織に応じた曲折形状が固定セットされているので、伸長し易い伸び率(伸度)が0.1(10%)に達する初期伸度の状態では、糸条がコイルバネのように弾性的に伸縮し、縫製過程や成形過程で皺が発生しない。 この伸縮性は、固定セットされた非弾性繊維糸条の曲折形状に起因するものであるため、その伸長状態において弾性繊維糸条から受けるような収縮応力は作用しない。 このため、本発明の伸長性布帛13を衣料生地として縫製加工するときは、着用して身体に良く馴染み、窮屈感を与えず、着心地のよい衣類が得られ、又、本発明の伸長性布帛13を車両内装布帛として成形加工するときは、収縮応力によって元の平板な形状に復元することがなく、保形性のよい座席やインストルメントパネル、サンバイザー、天井等に立体的に仕上げることが出来る。
【0014】
本発明(請求項3)に係る伸長性布帛は、上記のように成形加工による保形性が良いうえ、その裏面にプラスチックフイルムが貼り合わされているので、真空成形加工時に瞬時に金型に吸引密着させることが出来、大型バキュームを必要とせず、簡便且つ効率的に成形加工することが出来る。
【0015】
本発明(請求項5)によると、原布が熱収縮性ウェブに全面接着しているので、熱収縮性ウェブと共に収縮するとき、原布は、織編組織に応じた糸条の曲折形状の曲折角度θが鋭くなるように全面均等に細かく収縮し、シボ立ち凹凸が模様状に発生することはなく、又、原布が熱収縮性ウェブと共に収縮するとしても、糸条は織編組織に応じた曲折角度θが鋭くなるだけであり、糸条自体が収縮して繊度が太くなる訳ではなく、従って、原布が収縮して織編組織密度が緻密になっても、糸条の引張強度が強くなる訳ではなく、糸条の曲折角度θが鋭くなった分だけ布帛の見掛け厚みが増えて嵩高に脹らみ、布帛内部の繊維糸条間の隙間14が拡がり、その嵩高に脹らんだ状態で鋭くなった曲折角度θが固定セットされるので、元の曲折角度θに戻る余裕が糸条に生じる。従って本発明(請求項5)によると、非弾性繊維糸条を主材として構成されていても嵩高で伸縮性に富み、糸条の曲折角度θが元の曲折角度θ′に戻るまでは極めて伸長し易く、JIS−L−1096・A法(定速伸長法)によって測定される荷重伸度曲線Fにおいて、その荷重伸度曲線Fに接する接線Tの勾配αが3倍以上変化する変曲点Hを有し、その変曲点Hにおける布帛の伸び率Lが0.1以上であり、その変曲点Hから破断点Bに到る破断伸度側において荷重伸度曲線Fに接する接線T2 の勾配α2 が、引張開始点Oから変曲点Hに到る初期伸度側において荷重伸度曲線Fに接する接線T1 の勾配α1 よりも大きい伸長性布帛が得られる。
【0016】
本発明(請求項6)によると、原布の織編組織に応じた糸条の曲折形状を固定セットしてから、その原布15に減量処理、抜蝕処理、溶解処理の何れかの処理を施して原布を構成している繊維糸条の繊維素材の一部を溶解除去すると、その固定セットされた布帛内部の繊維糸条間に、その繊維素材の溶解除去された嵩に応じた隙間14が生じるので、上記の熱収縮性ウェブと共に収縮した原布の糸条の曲折形状を固定セットする場合と同様に、JIS−L−1096・A法(定速伸長法)によって測定される荷重伸度曲線Fにおいて、その荷重伸度曲線Fに接する接線Tの勾配αが荷重伸度測定開始時に比して3倍以上変化する変曲点Hを有し、その変曲点Hにおける布帛の伸び率Lが0.1以上であり、その変曲点Hから破断点Bに到る破断伸度側において荷重伸度曲線Fに接する接線T2 の勾配α2 が、引張開始点Oから変曲点Hに到る初期伸度側において荷重伸度曲線Fに接する接線T1 の勾配α1 よりも大きい伸長性布帛が得られる。熱収縮性ウェブを使用しない伸長性布帛の製法では、原布を収縮させる必要がなく、従って、熱収縮性ウェブによる収縮を妨げる弾性繊維糸条を使用して原布を構成することも出来、繊維素材の一部を溶解除去することによって弾性繊維糸条を伸縮し易くする隙間14が布帛内部の繊維糸条間に生じるので、固定セットされた糸条の曲折形状に起因する伸縮性と弾性繊維糸条固有の伸縮性とが相乗して更に伸縮性に富む伸長性布帛を得ることが出来る。
【0017】
成形加工時に車両内装布帛は加熱されるが、本発明(請求項4)に係る成形加工用布帛は、その裏面にプラスチックフイルムが貼り合わされているので、成形加工時に加熱されて熱収縮性ウェブと共に収縮して成形加工用布帛に伸縮性が生じ、成形加工用布帛が無理に引っ張られることなく、綺麗に成形加工される。 特に、熱収縮性ウェブ12として熱収縮性プラスチックフイルムを使用する場合、真空成形加工においては、裏面に熱収縮したプラスチックフイルムが貼り合わされた状態になっているので、上記のように簡便且つ効率的に成形加工することが出来る。 本発明(請求項4)では、その金型に吸着し易くするプラスチックフイルムが成形加工用布帛に伸縮性を付与する手段を兼ねているので、成形加工用布帛を経済的に得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、起毛布帛、人工皮革、パイル布帛等のパイルや毛羽等の立毛が基布から突き出た有毛布帛にも適用される。本発明において「非弾性繊維糸条を主材とする」とは、ゴムやスパンデックスのように伸度(伸び率)が40%(0.4)以上の伸縮性を有し、且つ、40%(0.4)前後の伸度(伸び率)における弾性回復率を略100%となる弾性繊維糸条は除外されることを意味し、有毛布帛では、基布が非弾性繊維糸条によって構成されていれば、立毛に使用する繊維の種類は特に限定されることなく、弾性繊維糸条を立毛に使用することが出来ることを意味する。 非弾性繊維糸条としては、ポリエステル繊維やナイロン等の非弾性熱可塑性繊維を使用するとよい。 熱収縮性ウェブ12の熱収縮処理は、原布15を構成する非弾性熱可塑性繊維の熱収縮開始温度よりも低温で行う。
【0019】
図1と図2は、本発明の効果を図解説明するものである。図1において、分図1−aは、本発明の伸長性布帛の断面を示し、分図1−bは、伸長性布帛の原布の断面を示し、分図1−cは、従来技術に従って繊維糸条を収縮させて緻密化された縮絨布帛の断面を示す。図2は、布帛の荷重伸度曲線図である。
【0020】
原布15には熱収縮性ウェブ12が貼り合わされ、熱収縮性ウェブが収縮して経糸間隔や緯糸間隔、或いは、編目間隔等の繊維糸条11の配置間隔Gが挟まって原布15の織編組織密度が緻密化する。 そのとき、原布15が熱収縮性ウェブ12と一体になって収縮しても、繊維糸条自体が収縮することはなく、ただ織編組織に応じた曲折角度θが鋭くなるだけである。 そのように、繊維糸条自体が収縮して繊度が太くなる訳ではないので、繊維糸条11の曲折角度θが鋭くなった分だけ布帛の見掛け厚みが増えて嵩高に脹らみ、布帛内部の繊維糸条間の隙間14が拡がり、その嵩高に脹らんだ状態で鋭くなった曲折角度θが固定セットされるので、元の曲折角度θに戻る余裕が糸条に生じる。 このため、その嵩高になった伸長性布帛13を引っ張るとき、繊維糸条11の曲折角度θが元に戻り、繊維糸条間11・11の配置間隔Gが拡がって元に戻り、繊維糸条間11・11の隙間14も狭まり、熱収縮性ウェブと一緒に収縮した分だけ伸ばされて原布15と同じ織編組織密度になるまで伸長される過程において強い引張荷重が作用せず、その間の荷重伸度曲線Fは勾配αの少ないなだらかな直線を描くことになる。 そして、その原布15と同じ織編組織密度になってから更に引っ張るときは、原布15を引っ張る場合と同様に強い引張荷重が作用し、荷重伸度曲線Fは勾配αが急な直線を描くことになる(図2)。
【0021】
図1は、熱収縮性ウェブと一体になって収縮した原布の糸条の曲折形状の曲折角度θを固定セットする伸長性布帛の製法と、原布の糸条の曲折形状を固定セットしてから糸条の繊維素材の一部を溶解除去する伸長性布帛の製法との関連性を図解説明するものでもある。即ち、繊維糸条が収縮して繊度が太くなり、織編組織密度が緻密化した縮絨布帛(分図1−c)は、元々繊度が太い繊維糸条を用い、織編組織密度を緻密に構成することが出来る。その繊度が太い繊維糸条を用い、織編組織密度を緻密に構成され、糸条の曲折形状の固定セットされた原布(分図1−c参照)に減量処理や抜蝕処理或いは溶解処理を施して繊維糸条の繊維素材の一部を溶解除去すると、隙間14が布帛内部の繊維糸条間に生じ、熱収縮性ウェブと一体になって収縮した原布の糸条の曲折形状の曲折角度θを固定セットした伸長性布帛(分図1−a)と同様に、繊維糸条の繊度と織編組織密度が同じであり、糸条の曲折形状の固定セットされた伸長性布帛が得られることになる。このように、本発明に係る伸長性布帛は、熱収縮性ウェブと一体になって収縮した原布の糸条の曲折形状の曲折角度θを固定セットする方法と、原布の糸条の曲折形状を固定セットしてから糸条の繊維素材の一部を溶解除去する方法との何れの製法によっても得ることが出来る。
【0022】
かくして、本発明によると、非弾性繊維糸条を主材として構成されていても、図2に示すように、JIS−L−1096・A法(定速伸長法)によって測定される荷重伸度曲線Fにおいて、その荷重伸度曲線Fに接する接線Tの勾配αが荷重伸度測定開始時に比して3倍以上変化する変曲点Hを有し、その変曲点Hにおける布帛の伸び率Lが0.1以上であり、その変曲点Hから破断点Bに到る破断伸度側において荷重伸度曲線Fに接する接線T2 の勾配α2 が、引張開始点Oから変曲点Hに到る初期伸度側において荷重伸度曲線Fに接する接線T1 の勾配α1 よりも大きく、嵩高で伸縮性の富む伸長性布帛13が得られる。図2において、F′とB′とH′は、それぞれ本発明の伸長性布帛13の荷重伸度曲線Fと破断点Bと変曲点Hから推定される原布15の荷重伸度曲線と破断点と変曲点であり、本発明の伸長性布帛13の荷重伸度曲線Fは、熱収縮性ウェブと一体になって収縮した分だけ原布15の荷重伸度曲線F′を横軸(伸び率)の方向に平行移動した形になるものと思われる。
【0023】
この点、熱収縮性繊維糸条(11)を用いて原布(15)が構成され、加熱処理して収縮させて緻密化した従来の布帛16は、その収縮による緻密化が熱収縮した熱収縮性繊維糸条(11)によってもたらされるものであり、その繊維糸条自体が熱収縮して繊度が太くなるので、元々太い繊維糸条(11)を用いて緻密に構成した高密度布帛(16)と同じようなものになり、格別な隙間(14)は繊維糸条間(11・11)になく、本発明における原布を引っ張る場合と同様に、その荷重伸度曲線(F)の勾配(α)は急になり、伸び率Lが0.08(8%)以上になって荷重Pに比例して荷重伸度曲線(F)が勾配(α)の一定した直線を描くまでに、勾配(α)が荷重伸度測定開始時に比して大きく変化する変曲点(H′)は荷重伸度曲線(F′)に生じない。
【0024】
布帛の荷重伸度曲線Fにおける平均増加荷重Qは、伸び率が0.02(伸度2%)異なる荷重伸度曲線上Fの2点における引張荷重P1 とP2 の差ΔQを、それら2点の伸び率の差(0.02)で除して算出される。 荷重伸度曲線Fに接する接線Tの勾配αは、その2点の伸び率の差(0.02)を限りなくゼロ(0)に近づけて算定される。 従って、平均増加荷重Pは、荷重伸度曲線Fに接する接線Tの勾配αの推定値を意味する。
本発明において、平均増加荷重Qや荷重伸度曲線Fに対する接線Tの勾配αを、布帛の伸び率が0.08(8%)以上となる領域で算定するのは、伸び率が0.08(4%)未満の領域では測定にバラツキが生じるためである。
【0025】
伸長性布帛には、織物、編物、不織布の何れをも適用することが出来るが、効果の点では織物を適用するとよい。 何故なら、編物は、その編目の構造からして元々伸縮性に富み、格別本発明を適用する必要がないものが多く、又、不織布は、織物や編物に比して割安で本発明による経済的効果が余り期待されないからである。 一方で、織物は、その構成する経糸や緯糸が一直線状に連続していて伸長し難いので本発明による効果が顕著に現れ、又、経糸や緯糸が一直線状に連続しているとは言っても接結点において大きく曲折しており、織物が熱収縮性ウェブと一体になって収縮するとき、その接結点における経糸や緯糸の曲折角度θが大きく変化し、その鋭くなった分だけ伸長する余裕が織物に生じ、又、経糸や緯糸の繊度が変わることなく織物が収縮すると、嵩高に脹らんでボリューム感を増し、触感・風合いがよくなるからである。 しかし、このことは、編物や不織布が本発明の適用範囲から除外されることを意味せず、特に、深絞り成形加工をする上では、横編地に比して伸縮性の少ない経編地に本発明は有効である。
【0026】
熱収縮性ウェブ12には、素材自体が熱収縮性を有する熱収縮性プラスチックフイルム、熱収縮性糸条によって織成された熱収縮性織物が使用されるが、それらの熱収縮性プラスチックフイルムや熱収縮性織物は、その表面に樹脂組成物の塗膜や非収縮性プラスチックフイルムや非収縮性織物が積層されていてもよい。熱収縮性ウェブには、比較的低温域の60℃前後で熱収縮を開始し、130℃〜150℃においてフイルムに熱収縮応力が顕在化し、15%〜40%の熱収縮率を示す熱収縮性ポリエステル・フイルム(東洋紡株式会社製品S7200)、熱収縮性オルト・ポリプロピレン・フイルム(大倉工業株式会社製品OPシュリンY)、熱収縮性ポリ塩化ビニル・フイルム(三菱樹脂株式会社製品SA10−F)、或いは、熱収縮性織物(帝人株式会社製品テビロンV−7052)を使用することが出来る。真空成形加工に用いる伸長性布帛には、非通気性熱収縮性プラスチックフイルムを使用する。
【0027】
接着剤17には、塗膜形成後に接着性を帯びるようにすることの出来る感圧接着剤や再湿接着剤等の再接着性接着剤を使用する。作業現場の環境衛生の点では、水系エマルジョン樹脂、例えば酢酸ビニル・エマルジョン樹脂、塩化ビニル・エマルジョン樹脂、アクリル・エマルジョン樹脂、ポリウレタン・エマルジョン樹脂、スチレン・ブタジエン、ブチルゴム、アクリロニトリルゴム等のラテックス・エマルジョン樹脂を接着剤に用いることが望ましいが、それらの樹脂をメタノール、エタノール、メチルエチルケトン、アセトン等の有機溶剤に溶解した有機溶剤溶解樹脂を使用することも出来る。接着剤に有機質の充填剤を配合する場合、接着剤17の溶媒は、充填剤に対して非溶解性のものとする。接着剤17の加熱乾燥時に熱収縮性ウェブ12が熱収縮を開始しないようにするために、熱収縮性ウェブ12には、熱収縮開始温度が150℃以上のものを使用することが推奨される。
【0028】
繊維糸条11の曲折形状を固定セットするためには、植物繊維(木綿や麻)に成る繊維糸条に対しては、水酸化アルカリか液体アンモニアで処理してセルロースI型結晶50%未満のセルロース繊維に改質し、潜在性酸性触媒を付与してホルムアルデヒド蒸気に曝し、セルロースとホルムアルデヒドを架橋反応させる(特許第2780746号・特開平7−279042)。アミドホスファゼン誘導体と酸性触媒との組成物で処理する(特許第2517993号・特開平2−14074)。ポリカルボン酸類で改質処理してから水溶性塩の存在下で加熱処理する(特開平7−258967)。1・2・3・4・ブタンテトラカルボン酸とリン酸モノナトリウムの水溶液で処理してからエチレンオキシド2モル付加物とリン酸モノナトリウムの水溶液で処理する(特開平7−207576)。セリウムイオンを用いてアジピン酸ジビニル、ジビニルベンゼン、トリアリルイソシアヌレート等のビニルモノマをグラフト共重合させて架橋させる(特公昭62−57744・特開昭56−53278)。ウレタン系樹脂とシリコン系柔軟仕上剤の水分散液に浸漬して熱処理してからエポキシ化合物で架橋処理して繊維を被覆する(特開平8−81884)。水溶性ウレタンプレポリマーを付与し熱処理し、セルロース架橋剤を吸収させて架橋反応させる(特開平6−346374)、イソシアネート基保有水溶性ウレタンポリマーとホルムアルデヒド反応物またはホルムアルデヒド含有熱硬化性樹脂初期縮合物との配合組成物で処理する(特公平1−43070・特開昭62−97983)。反応型ウレタン樹脂と撥水剤とアミノプラス樹脂(メラミンホルマリン樹脂、N−メチロール樹脂など)の処理液を付与する(特開平8−209547)。
【0029】
動物繊維(獣毛や絹)に成る繊維糸条に対しては、システインを羊毛繊維のジサルファド結合に反応させ、酸化剤を付与して酸化処理する(特公平5−61386・特開平3−249267)。ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールジメタクリサート、ポリエチレングリコールω(α・α′ジメタクリロキシメチル)アセテートω′アクリレート等のアクリル系化合物で繊維を被覆する(特許第2596103号(特開平2−160978)。テトラキスヒドロキシメチルホスホニウムサルファードで処理してからポリウレタン樹脂で繊維を被覆する(特公平6−86706・特開平5−78983)。オルガノポリシロキサンを付与する(特公昭61−51070・特開昭54−138697)。これらの繊維糸条の凹凸形状を固定セットする処理剤は、熱収縮性ウェブ12と貼り合わせる前に原布15に付与しておくとよい。
【0030】
熱可塑性合成繊維糸条に成る原布では、熱収縮性ウェブと共に原布を収縮させてから更に熱可塑性合成繊維の融点付近まで高温加熱して繊維糸条の曲折形状を熱セットする。熱可塑性合成繊維としてはポリエステル繊維とナイロン、特に融点の高いポリエステル繊維を使用するとよい。原布の糸条の曲折形状を固定セットしてから糸条の繊維素材の一部を溶解除去する伸長性布帛の製法では、原布の糸条にアルカリ減量可能なポリエステル繊維、水溶性繊維と非水溶性繊維の混用糸条、抜蝕剤に対する溶解性の異なる数種類の繊維の混用糸条が適用される。その場合でも、非水溶性繊維や非抜蝕(非溶解)性繊維としてポリエステル繊維を適用することが、その曲折形状を固定セットする上で有効である。曲折形状を固定セットするためには、熱融着性繊維を繊維糸条に混用してもよい。
【0031】
真空成形加工に適用しない伸長性布帛では、繊維糸条11の曲折形状を固定セットしてから熱収縮したウェブ12を剥離除去する。
【0032】
伸び率の大きい伸長性布帛13を得るには、熱収縮率が大きく、熱収縮時に強い熱収縮応力が顕現して原布15に作用する熱収縮性ウェブ12を使用する。又、原布15が熱収縮性ウェブ12の熱収縮率に応じて収縮し、その収縮率に応じて伸び率の大きい伸長性布帛13を得るには、熱収縮性ウェブ12の熱収縮率に応じて収縮し得るように原布15の経糸間隔や緯糸間隔、或いは、編目間隔等の繊維糸条11の配置間隔Gを粗く設定するとよい。そうすると、図2に図示する伸長性布帛13の荷重伸度曲線Fと原布15の荷重伸度曲線F′の横軸(伸び率)方向における距離、即ち、伸び率の差を大きくなり、伸び率の大きい伸長性布帛13が得られる。
【0033】
立体的に成形加工して座席やインストルメントパネル、サンバイザー、天井等の表面材に使用される伸長性布帛13では、成形加工によって伸長された状態での経糸間隔や緯糸間隔、或いは、編目間隔等の繊維糸条11の配置間隔Gを、原布15の経糸間隔や緯糸間隔、或いは、編目間隔等の繊維糸条11の配置間隔Gから予測して設定するとよい。即ち、原布15の経糸間隔や緯糸間隔、或いは、編目間隔等の繊維糸条11の配置間隔Gは、伸長性布帛13の成形加工後の経糸間隔や緯糸間隔、或いは、編目間隔等の繊維糸条11の配置間隔Gを想定して設定することが推奨される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る伸長性布帛と原布と従来技術に係る布帛の断面図である。
【図2】本発明に係る伸長性布帛の荷重伸度曲線図である。
【符号の説明】
【0035】
11:繊維糸条
12:熱収縮性ウェブ
13:伸長性布帛
14:隙間
15:原布
16:従来の布帛
17:接着剤
B:破断点
F:荷重伸度曲線
G:配置間隔
H:変曲点
L:伸び率
O:引張開始点
P:荷重
T:接線
α:勾配
θ:曲接角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非弾性繊維糸条を主材として構成された布帛であり、その布帛のJIS−L−1096・A法(定速伸長法)によって測定される荷重伸度曲線(F)において、その荷重伸度曲線(F)に接する接線(T)の勾配(α)が荷重伸度測定開始時に比して3倍以上変化する変曲点(H)を有し、その変曲点(H)における布帛の伸び率(L)が0.1以上であり、その変曲点(H)から破断点(B)に到る破断伸度側において荷重伸度曲線(F)に接する接線(T2 )の勾配(α2 )が、引張開始点(O)から変曲点(H)に到る初期伸度側において荷重伸度曲線(F)に接する接線(T1 )の勾配(α1 )よりも大きいことを特徴とする伸長性布帛。
【請求項2】
JIS−L−1096・A法(定速伸長法)によって測定される荷重伸度曲線(F)において、破断時の伸び率(LB )が0.28以上であり、伸び率(L)が0.24〜0.28となる伸長状態における平均増加荷重(Q2 )〔N/5cm〕が、伸び率(L)が0.08〜0.12となる伸長開始状態における平均増加荷重(Q1 )〔N/5cm〕の3倍以上(Q2 /Q1 ≧3)であり、非弾性繊維糸条を主材として構成され、その非弾性繊維糸条(11)が曲折して絡み合って布帛(13)を構成しており、その非弾性繊維糸条(11)の曲折した曲折形状が固定セットされている伸長性布帛。
【請求項3】
プラスチックフイルムが貼り合わされている前掲請求項1と請求項2の何れかに記載の伸長性布帛。
【請求項4】
熱収縮率が0.15以上であり、熱収縮率0.03以上に熱収縮を開始する熱収縮開始温度が130℃以上である熱収縮性プラスチックフイルム(12)を、非弾性繊維糸条を主材として構成された原布(15)に全面接着させて貼り合わせ、130℃以上に加熱して熱収縮性プラスチックフイルム(12)を15%以上収縮させ、そのプラスチックフイルム(12)と一体になっている原布(15)の収縮状態を固定セットして成り、プラスチックフイルム(12)が裏面に貼り合わされている伸長性布帛。
【請求項5】
熱収縮率が0.15以上であり、熱収縮率0.03以上に熱収縮を開始する熱収縮開始温度が130℃以上である熱収縮性ウェブ(12)を原布(15)に全面接着させて貼り合わせ、130℃以上に加熱して熱収縮性ウェブ(12)を15%以上収縮させ、そのウェブ(12)と一体になっている原布(15)の収縮状態を固定セットする伸長性布帛の製法。
【請求項6】
原布(15)の織編目を構成している非弾性繊維糸条の曲折形状を固定セットし、その後、原布(15)に減量処理、抜蝕処理、溶解処理の何れかの処理を施して原布を構成している繊維糸条の繊維素材の一部を溶解除去する伸長性布帛の製法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−16734(P2006−16734A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197466(P2004−197466)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(504024586)
【Fターム(参考)】