説明

佃煮及びその製造方法

【課題】新しい味の佃煮であって、健康上好ましい成分を多く含む佃煮を提供する。
【解決手段】食酢を含み、かつ酸度が0.8%以上である。好ましくは、さらに酵母エキスを含む佃煮。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は佃煮及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
佃煮は、佃煮用食材を醤油,味醂,砂糖で味濃く煮しめた保存食品であり、佃煮用食材の調味により保存性が同時に付与される加工食品である。
【0003】
佃煮用食材としては、例えばいかなご,しじみ等の魚介類、ふき等の野菜類、しいたけ等のきのこ類、昆布,海苔等の海藻類が用いられている。これらの食材には、健康維持に有効な成分が含まれている。例えば、昆布には、糖尿病や高血圧等の生活習慣病防止に効果があるとして知られるアルギン酸,フコイダン,ビタミン,ミネラル,タウリン,ポリフェノール等の成分が含まれている。
【0004】
佃煮は、これら健康維持に有効な成分を多く含む食材を手軽に摂取できる、米の摂取を促進させる等の理由から、日本の伝統的食品の一つとして親しまれてきている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、佃煮は、他の側面では、味が画一である、塩分や糖分が非常に高く健康上好ましくない等の理由により消費者に敬遠される傾向があった。保存性を確保できないとの観点から塩分や糖分を低くすることは困難であった。
【0006】
本発明は、上記のような実情に鑑みてなされたものであり、消費者の様々なニーズに対応することにより佃煮の需要拡大を図るため、これまでにない味の佃煮であって、健康志向の強い消費者の要求をも満たし得る佃煮を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の佃煮は、上記目的を達成するためになされたものであり、食酢を含み、かつ酸度が0.8%以上である。従来の佃煮は通常酸度が0.3%程度であり、酸度0.8%以上の佃煮はこれまでにない食味の佃煮である。食酢により、佃煮の酸度を0.8%以上に調製することができる。また、上記佃煮は、好ましくはさらに酵母エキスを含み、さらに好ましくはパン酵母由来の酵母エキスを含むものとする。酵母エキスの添加により、佃煮の酢カド,塩カド,苦味,不快臭等が低減されうる。
【0008】
上記佃煮において、食酢としては好ましくは黒酢が用いられる。また、本発明に係る佃煮用の食材としては種々の食材を用いることができ、例えば昆布が好ましく用いられる。
【0009】
また本発明は、上記佃煮の製造方法であって、食材に、醤油,砂糖,及び食酢を含む調味液を混合する工程を含む、佃煮の製造方法である。上記製造方法において調味液は、好ましくは酵母エキスをさらに含むものとする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る佃煮の摂取により同時に食酢を摂取することができる。食酢には様々な効用があることが知られている。例えば、食酢には、血液浄化作用があり、細胞の働きを活発にして中性脂肪を抑制する働きがあることが知られている。また、食酢には、ビタミンやミネラルの吸収を促す働きがあることが知られている。本発明によると、佃煮の摂取により同時に食酢を摂取することができるので、健康上好ましい食酢を簡単に摂取することができる。また、食酢を含むことによりこれまでにない味の佃煮が提供される。また、食酢により保存性が付与されるので、食塩濃度を低濃度としても保存性を確保でき、十分な保存性を有する塩濃度の低い佃煮を提供することができる。
【0011】
さらに、昆布佃煮に酵母エキスを添加することにより、より良好な味覚の酸度の高い佃煮を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、食酢を含み、かつ酸度0.8%以上の佃煮である。本発明にかかる佃煮の佃煮用食材としては、魚介類,野菜類,きのこ類,海藻類等を用いることができ、特に限定されないが、食酢を用いた調味による味覚の点等から昆布が好ましく用いられる。
【0013】
以下、佃煮用原料として昆布を用いた昆布佃煮の一実施形態について説明する。図1は、昆布佃煮の製造工程を示すフローチャートである。まず、昆布を軟化のために適当な濃度の酢酸溶液につけ前処理を行う(St1)。使用する昆布は、真昆布、利尻昆布、日高昆布、長昆布などその種類を問わない。また、生昆布であっても乾燥昆布であっても良い。乾燥昆布を用いる場合は、St1の後に水戻しを行う。その後、昆布を所定の大きさに切断する(St2)。昆布は、例えば、2〜3cm四方形に切断する。その後、昆布を水洗し酢酸や異物を洗い流す(St3)。このときの水温は、昆布の持つ旨味成分が流出しないように30〜40℃が好ましい。
【0014】
続いて予め調整した1次調味液内に水洗後の昆布を投入し煮込む(St4)。佃煮用食材として用いる昆布の種類や厚さ等によって適切な煮込み時間は異なるが、St4においては、好ましくは、昆布を投入し再沸騰後60〜90分間煮る。続いて、1次調味液内に2次調味液を添加し煮込む(St5)。St5においては、好ましくは、調味液再沸騰後30〜60分間煮る。
【0015】
1次調味液、2次調味液ともに、醤油,砂糖,及び食酢を含み、味醂,酒等他の調味料を適宜含んでいても良い。また、保存料,安定剤,着色剤,着香剤等の添加剤を含んでいても良い。醤油,砂糖等の調味料の配合量は完成品の味付けに応じて任意の量とする。食酢の配合量は、完成品の酸度が0.8%以上、好ましくは1.2%以上となるように調整する。また、味覚の点から、完成品の酸度が1.7%以下となるように食酢を配合することが好ましい。1次調味液として、例えば、乾燥昆布の重量に対して100〜200重量%の醤油を含み、130〜180重量%の砂糖を含み、100〜200重量%の食酢を含むものが用いられる。また、2次調味液として、例えば、乾燥昆布の重量に対して50〜100重量%の醤油を含み、30〜80重量%の砂糖を含み、30〜80重量%の食酢を含むものが用いられる。
【0016】
調味液に使用する食酢としては、醸造酢、合成酢いずれであっても良いが風味の点から醸造酢が好ましい。また、醸造酢としては、米酢,玄米酢,赤酢,黒酢等の穀物酢、りんご酢,ぶどう酢等の果実酢いずれであっても用いることができるが、風味の良さ及びアミノ酸高含有等の点から黒酢が好ましく用いられる。また、調味液に使用する醤油としては、濃口醤油,淡口醤油,溜り醤油,再仕込み醤油,白醤油いずれであってもよい。また、調味液に使用する砂糖としては、上白糖,中白糖,三温糖等いずれであってもよい。さらに、1次調味液、2次調味液の少なくとも一方は、好ましくは酵母エキスを含む。酵母エキスとして、特にパン酵母由来の酵母エキスが好ましく用いられる。パン酵母由来の酵母エキスを添加することにより、高い酸度の佃煮の酢カド,塩カド,苦味,不快臭が低減されることを下記実施例で示す。
【0017】
続いて昆布を液切りした後(St6)、25℃以下になるまで冷却する(St7)。その後、予め調製したまぶし液を昆布にまぶす(St8)。まぶし液は、St6にて回収した液に寒天を添加し加熱して溶解して調製する。その後、袋詰めし(St9)、昆布佃煮が完成する。
【実施例】
【0018】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
1.酸度及び塩分濃度の異なる種々の試料
(酸度及び塩分濃度の異なる種々の試料の製造)
上記実施形態に記載の方法により、表1及び表2に示す種々の酸度及び塩分濃度の昆布佃煮を製造した。表1において、第1行に記載の数値は塩分濃度を表し、第1列に記載の数値は酸度を表す。1次調味液の配合は、佃煮原料の乾燥昆布重量に対して上白糖150重量%とし、黒酢を所望の酸度に応じて配合し、濃口醤油を所望の塩分濃度に応じて配合した。2次調味液の配合は、佃煮原料の昆布重量に対して上白糖70重量%とし、黒酢を所望の酸度に応じて配合し、濃口醤油を所望の塩分濃度に応じて配合した。1次調味液による煮込み時間は60分とし、2次調味液による煮込み時間は60分とした。1次調味液と2次調味液の濃口醤油の配合比は、1.5:1〜3:1の範囲内となるように調製した。また、1次調味液と2次調味液の黒酢の配合比も、1.5:1〜3:1の範囲内となるように調製した。
【0019】
各昆布佃煮の酸度は、醤油分析法に準じて以下のように測定し、計算した結果得られる酢酸換算濃度{(酢酸重量/完成品重量)%}で表したものである。具体的には、試料の昆布佃煮3gに蒸留水40mLを加え沸騰するまで加熱する。そして、抽出液を室温まで急冷した後、N/10水酸化ナトリウム溶液を用い、pHメータでpHを測定しながらpH7.0となるまで滴定を行う。酢酸換算濃度は式(1)により算出される。
【0020】
滴定量(mL)×0.006(g/mL)÷試料重量(g)×100(%)・・・・式(1)
以下に示す酸度もかかる測定方法による。塩分濃度は、モール法により測定した。続いて、各試料について保存性及び味覚の評価を行った。保存性評価は、昆布佃煮製品を25℃の恒温下で一定期間保管し、微生物の増殖の有無により評価した。微生物の検出には標準寒天培地(栄研化学社製)およびボテトデキストロース寒天培地(ニッスイ製)を使用して、一ヶ月以内にいずれかの培地に10個/g以上の微生物が検出された場合は×、三カ月以内に検出された場合は△、三ヶ月を超えても検出されなかった場合を○として評価した。保存性を評価した結果を表1に示す。味覚評価は、専門の味覚評価員5名により酸味,塩味,甘味について官能評価を実施し、その平均とした。酸味,塩味,甘味のバランスが良く、おいしいと感じられた場合を○、やや酸味が突出しているが、味覚上問題無い場合を△、酸味が強く、食べるのに抵抗を感じた場合を×として評価した。味覚評価の結果を表2に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

表1に示す結果より、酸度を高くとすることにより、塩分濃度が3%程度であってもある程度の保存性を有する昆布佃煮が得られることがわかった。従来の佃煮は、通常塩分濃度が6%以上であり、保存性の点から低塩分濃度に製造することは困難であった。また、酸度を0.8%以上とすることにより、十分な保存性を有する塩分5%程度の昆布佃煮を製造することができることがわかった。
1.試料1〜9
(試料1〜9の昆布佃煮の製造)
上記実施形態に記載の方法により試料1〜9の昆布佃煮を製造した。各試料の製造時に使用した1次調味液は、佃煮用食材の乾燥昆布の重量に対して、濃口醤油を180重量%、上白糖を150重量%、黒酢を120重量%含み、2次調味液は、佃煮用食材の乾燥昆布の重量に対して、濃口醤油を80重量%、上白糖を70重量%、黒酢を40重量%含み、さらに試料1以外は表3に示す旨味調味料を表3に示す含有量で含むものを使用した。表3に示す旨味調味料の含有量は佃煮用食材の乾燥昆布の重量に対する重量%で示す。試料1〜9の昆布佃煮の酸度は0.85%であった。
【0023】
【表3】

(試料1〜9の昆布佃煮の官能試験)
試料1〜9の昆布佃煮について、パネラー5名による官能試験を行った。その結果を表4に示す。官能試験は試料1をコントロールとして、酢カド,塩カド,苦味,不快臭それぞれの評価項目について試料1より強いと感じた場合は5、同じと感じた場合は3、弱いと感じた場合は1として評価し、パネラー5名の平均値でその結果を表した。また、総合評価については、上記項目に加え、甘味,旨味,味のバランスの項目を考慮して総合的に評価し、試料1より良いと感じた場合は5、同じと感じた場合は3、悪いと感じた場合は1として評価し、パネラー5名の平均値でその結果を表した。
【0024】
【表4】

表4に示す結果より、酵母エキスを添加することにより、酢カド,塩カド,苦味,不快臭が低減され、総合的に良好な昆布佃煮が得られることがわかった。かかる効果は、旨味調味料の添加により必ず得られるものではなく、また旨味調味料の種類によりその効果に差があり、酵母エキスが他の旨味調味料と比較して優れていることがわかった。
2.試料10〜17
(試料10〜17の昆布佃煮の製造)
上記実施形態に記載の方法により試料10〜17の昆布佃煮を製造した。各試料の製造時に使用した1次調味液は、佃煮用食材の乾燥昆布の重量に対して、濃口醤油を180重量%、上白糖を150重量%含むものを使用し、2次調味液は、佃煮用食材の乾燥昆布の重量に対して、濃口醤油を80重量%、上白糖を70重量%含み、また、さらに表5に示す含有量の酸度が4.5%の黒酢を含むものを使用した。さらに、試料10,12,14,16の1次調味液は、酵母エキス(パン酵母由来)(酵母エキスL(協和発酵社製))を佃煮用食材の乾燥昆布の重量に対して10重量%含むものを使用した。
【0025】
(試料10〜17の昆布佃煮の官能試験)
試料10〜17の昆布佃煮について、パネラー5名による官能試験を行った。その結果を表2に示す。官能試験は試料10をコントロールとして試料11を評価し、試料12をコントロールとして試料13を評価し、試料14をコントロールとして試料15を評価し、試料16をコントロールとして試料17を評価した。酢カド,塩カド,苦味,不快臭,総合評価について上述の試料1〜9の官能試験と同じように評価し、パネラー5名の平均値でその結果を表した。また、試料10〜17の昆布佃煮の酸度を測定した。その結果を表5に表す。
【0026】
【表5】

表5に示す結果より、パン酵母の添加により酢カド、塩カド、苦味、不快臭が低減され、総合的に良好な昆布佃煮が得られることがわかる。また、パン酵母の添加によりもたらされるかかる効果は、酸度が0.7以上の昆布佃煮においてより顕著であることがわかる。
4.試料18〜22
(試料18〜22の昆布佃煮の製造)
上記実施形態に記載の方法により試料18〜22の昆布佃煮を製造した。各試料の製造時に使用した1次調味液は、佃煮用食材の乾燥昆布の重量に対して、濃口醤油を180重量%、上白糖を150重量%、黒酢を120重量%含むものを使用し、2次調味液は、佃煮用食材の乾燥昆布の重量に対して、濃口醤油を80重量%、上白糖を70重量%、黒酢を40重量%含むものを使用した。さらに、試料18以外は、1次調味液として、表6に示す酵母エキスを表6に示す含有量で含むものを使用した。
【0027】
【表6】

(試料18〜22の昆布佃煮の官能試験)
試料18〜22の昆布佃煮について、パネラー5名による官能試験を行った。その結果を表2に示す。官能試験は試料18をコントロールとして、酢カド、塩カド、苦味、不快臭、総合それぞれの評価項目について試料1〜9の官能試験と同じように評価し、パネラー5名の平均値でその結果を表した。表7に結果を示す。
【0028】
【表7】

表7に示す結果からわかるように、酵母エキスの種類により添加効果に差が生じたことがわかった。酵母エキスを添加することにより昆布佃煮の酢カド,塩カド,苦味,不快臭の少なくともいずれかは低減されることがわかった。ただし、添加する酵母エキスの種類によっては酵母エキス特有の風味が強く影響することがわかった。したがって、総合評価も考慮すると酵母エキスとしてパン酵母由来の酵母エキスを単独で用いたものが最も好ましいことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、新しい味覚であって、健康上好ましい成分を多く含む佃煮を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施形態の昆布佃煮の製造工程を示すフローチャート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食酢を含み、かつ酸度が0.8%以上の佃煮。
【請求項2】
酵母エキスをさらに含む請求項1に記載の佃煮。
【請求項3】
前記酵母エキスがパン酵母由来である、請求項2に記載の佃煮。
【請求項4】
前記食酢が黒酢である、請求項1乃至3いずれかに記載の佃煮。
【請求項5】
昆布を含む食材を加工してなる、請求項1乃至4いずれかに記載の佃煮。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかに記載の佃煮の製造方法であって、食材に、醤油,砂糖,及び食酢を含む調味液を混合する工程を含む、佃煮の製造方法。
【請求項7】
前記調味液が酵母エキスをさらに含む、請求項6に記載の佃煮の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−187207(P2006−187207A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−381782(P2004−381782)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(591183625)フジッコ株式会社 (15)
【Fターム(参考)】