説明

位相型回折格子および位相型回折格子の製造方法ならびにX線撮像装置

【課題】本発明は、表面の粗さをより低減し得る位相型回折格子および該製造方法ならびにこれを用いたX線撮像装置を提供する。
【解決手段】本発明の位相型回折格子は、第1光学的距離に対応する第1厚さを有して所定の規則に従って配列された複数の第1光学的距離部分12aと、これらを通過したX線に対して所定の位相差を生じさせる第2光学的距離に対応する第2厚さを有して複数の第1光学的距離部分12aに応じて配列された第2光学的距離部分12bとを入射面と射出面との間に備え、第2光学的距離部分12bは、複数の光学的要素で構成され、これら複数の光学的要素のうちで最も外部に露出する最外露出の光学的要素部分12b2の光学的要素は、仕様によって許容される表面粗さを持つ厚さであり、第1光学的距離部分12aは、第2光学的距離部分12bの複数の光学的要素における各屈折率よりも高い屈折率を持つ1個の光学的要素で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相型回折格子に関し、特に、表面の粗さをより低減することができる位相型回折格子に関する。そして、本発明は、この位相型回折格子を製造する位相型回折格子の製造方法および該位相型回折格子を用いたX線撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回折格子は、多数の平行な周期構造を備えた分光素子として様々な装置の光学系に利用されており、近年では、X線撮像装置への応用も進展しつつある。回折格子には、回折方法で分類すると、透過型回折格子と反射型回折格子とがあり、さらに、透過型回折格子には、光を透過させる基板上に光を吸収する部分を周期的に配列した振幅型回折格子(吸収型回折格子)と、光を透過させる基板上に光の位相を変化させる部分を周期的に配列した位相型回折格子とがある。ここで、吸収とは、50%より多くの光が回折格子によって吸収されることをいい、透過とは、50%より多くの光が回折格子を透過することをいう。
【0003】
この位相型回折格子は、例えば、第1光学的距離に対応する第1屈折率および第1厚さを有して一方向に線状に延びる複数の第1光学的距離部分と、前記第1光学的距離部分を通過した波に対して所定の位相差を生じさせる第2光学的距離に対応する第2屈折率および第2厚さを有して前記一方向に線状に延びる複数の第2光学的距離部分とを入射面と射出面との間に備え、これら複数の第1光学的距離部分と複数の第2光学的距離部分とは、交互に平行に配設される。なお、光路中に複数の媒質が存在する場合では、この光路における光学的距離は、各媒質での各光学的距離の和となる。このような位相型回折格子は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0004】
この特許文献1に開示の位相格子は、シリコンウェハ内に長方形構造体である複数の隙間をドライエッチングで空けることによって形成された、交互に平行に配設される複数の突条部および複数の前記隙間を備えている。そして、この特許文献1に開示の位相格子は、さらに、前記突条部を通過したX線と前記隙間を通過したX線との強度(振幅)を一致させ、0次回折光を消すために、前記複数の隙間における各底部には、充填材料がさらに配設されている([0032]段落、[0049]段落および図4)。そして、このような構成の位相格子は、特許文献1の[0050]段落によれば、前記充填材料を格子にスパッタリングし、引き続き格子の表面、つまり突条部の末端を化学−機械的に研磨することによって製造される。
【0005】
一方、このような位相型回折格子は、前記特許文献1やあるいは特許文献2に開示されているように、X線干渉計、例えばタルボ干渉計に利用され、さらに、このタルボ干渉計を用いたいわゆる位相コントラスト法によるX線撮像装置に利用されている。
【0006】
図16は、従来技術におけるX線撮像装置の概略的な構成を示す図である。図16(A)は、特許文献2に記載のX線撮像装置の概略的な構成を示す説明図であり、図16(B)は、その上面図である。図16において、この特許文献2に記載のX線撮像装置1000は、X線源1001と、X線源1001から照射されるX線を回折する位相型回折格子1002と、位相型回折格子1002により回折されたX線を回折することにより画像コントラストを形成する振幅型回折格子1003と、振幅型回折格子1003により画像コントラストの生じたX線を検出するX線画像検出器1004とを備え、位相型回折格子1002および振幅型回折格子1003がタルボ干渉計を構成する条件に設定される。この条件は、次の式1および式2によって表される。式2は、X線源1001側に配置される回折格子1002が位相型回折格子であることを前提としている。
l=λ/(a/(L+Z1+Z2)) ・・・(式1)
Z1=(m+1/2)×(d/λ) ・・・(式2)
ここで、lは、可干渉距離であり、λは、X線の波長(通常は中心波長)であり、aは、回折格子の回折部材にほぼ直交する方向におけるX線源1001の開口径であり、Lは、X線源1001から位相型回折格子1002までの距離であり、Z1は、位相型回折格子1002から振幅型回折格子1003までの距離であり、Z2は、振幅型回折格子1003からX線画像検出器1004までの距離であり、mは、整数であり、dは、回折部材の周期(回折格子の周期、格子定数、隣接する回折部材の中心間距離)である。
【0007】
このような構成のX線撮像装置1000では、X線源1001と位相型回折格子1002との間に被検体1010が配置され、X線源1001から位相型回折格子1002に向けてX線が照射される。この照射されたX線は、位相型回折格子1002でタルボ効果を生じ、タルボ像を形成する。このタルボ像が振幅型回折格子1003で作用を受け、モアレ縞の画像コントラストを形成する。そして、この画像コントラストがX線画像検出器1004で検出される。このモアレ縞は、被検体1010によって変調を受けており、この変調量が被検体1010による屈折効果によってX線が曲げられた角度に比例する。このため、モアレ縞を解析することによって被検体1010およびその内部の構造を検出することができる。
【0008】
ここで、タルボ効果とは、回折格子に光が入射されると、或る距離に前記回折格子と同じ像(前記回折格子の自己像)が形成されることをいい、この或る距離をタルボ距離Lといい、この自己像をタルボ像という。タルボ距離Lは、回折格子が位相型回折格子の場合では、上記式2に表されるZ1となる(L=Z1)。タルボ像は、Lの奇数倍(=(2m+1)L、mは、整数)では、反転像が現れ、Lの偶数倍(=2mL)では、正像が現れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−203064号公報
【特許文献2】国際公開第2004/058070号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、このような位相型回折格子に入射されるX線、あるいは、位相型回折格子から射出されるX線は、その表面が粗いとその粗い表面によって散乱してしまう。その結果、設計値に応じた位相型回折格子の性能が達成されなくなってしてしまう。前記特許文献1では、この点の言及は全くなく、考慮されていない。
【0011】
例えば、第1および第2光学的距離部分が金属および空気で形成される場合であって、28keV(波長0.04nm)のX線に適用されるπ/2型位相型回折格子を設計する場合に、比較的大きく位相を変化させる金が前記金属として用いられる場合、その金の厚さは、2.7μmとなる。このような膜(層)としては比較的厚い金を形成する手法は、電鋳法(湿式電界メッキ法)が好適であるが、このような厚さの金を電鋳法で形成すると、その表面が粗くなってしまう。
【0012】
そこで、これを回避するべく、上記金属、上記例では金に代え、表面を比較的平滑に加工の可能なシリコン基板が用いられる場合、上述と同じ条件で、すなわち、28keVのX線に適用されるπ/2型位相型回折格子では、シリコンの厚さは、18μmとなる。このような厚さの格子を持つ位相型回折格子では、X線源1001から放射したX線は、X線源1001が一般に略点光源であるため、放射状に拡がるので、位相型回折格子1002の中心領域では、X線が格子と略平行に入射され、タルボ干渉計として機能するが、位相型回折格子1002の両サイドの各領域では、X線が格子に対して斜めに入射されるため、位相型回折格子の機能を適切に発揮することができず、タルボ干渉計として適切に機能しなくなってしまう。
【0013】
すなわち、比較的大きく位相を変化させる例えば金等の比較的重い元素を用いる位相型回折格子の製造方法は、厚さの薄い位相型回折格子となるため、斜め入射による位相型回折格子の機能劣化を低減することができる。しかしながら、位相型回折格子に適した厚さの金を形成すると、その表面が粗くなってしまう場合がある。
【0014】
一方、表面を比較的平滑に加工の可能なシリコン基板や石英基板を用いる位相型回折格子の製造方法は、表面の粗さを低減することができるが、厚さの厚い位相型回折格子となるため、斜め入射による位相型回折格子の機能劣化が生じてしまう。
【0015】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、表面の粗さをより低減することができる位相型回折格子を提供することである。そして、本発明は、この位相型回折格子を製造する位相型回折格子の製造方法および該位相型回折格子を用いたX線撮像装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる位相型回折格子は、第1光学的距離に対応する第1厚さを有して所定の規則に従って配列された複数の第1光学的距離部分と、前記第1光学的距離部分を通過したX線に対して所定の位相差を生じさせる第2光学的距離に対応する第2厚さを有して前記複数の第1光学的距離部分に応じて配列された第2光学的距離部分とを入射面と射出面との間に備え、前記第1光学的距離部分は、1個の光学的要素で構成され、前記第2光学的距離部分は、複数の光学的要素で構成され、前記第1光学的距離部分の1個の光学的要素は、前記第2光学的距離部分の複数の光学的要素における各屈折率よりも高い屈折率を持ち、前記第2光学的距離部分の複数の光学的要素のうちで最も外部に露出する最外露出の光学的要素は、仕様によって許容される表面粗さを持つ厚さであることを特徴とする。そして、好ましくは、この位相型回折格子において、前記複数の光学的要素の各厚さの和は、前記第2光学的距離部分の前記第2厚さに等しく、かつ、前記複数の光学的要素のそれぞれについて求められる屈折率と厚さとの積のそれぞれの和は、前記第2光学的距離に等しい。
【0017】
このような構成の位相型回折格子では、第2光学的距離部分の複数の光学的要素のうちで最も外部に露出する最外露出の光学的要素が、仕様によって許容される表面粗さを持つ厚さで形成される。このため、このような構成の位相型回折格子は、表面の粗さを低減することができる。
【0018】
なお、光学的要素とは、当該媒質を伝播する電磁波の光学的距離に作用するものであり、例えば、物質、空気および真空等である。光学的距離は、入射する電磁波の波長に対し、その屈折率とその厚さ(長さ)との積によって与えられる。
【0019】
また、他の一態様では、これら上述の位相型回折格子において、前記第1光学的距離部分の1個の光学的要素は、気体または真空であり、前記第2光学的距離部分の前記最外露出の光学的要素は、前記第2光学的距離部分の複数の光学的要素における前記最外露出の光学的要素を除く残余の光学的要素の屈折率よりも低い屈折率を持つ物質である。
【0020】
このような構成の位相型回折格子では、第2光学的距離部分は、複数の光学的要素で構成され、第2光学的距離部分の最外露出の光学的要素は、第2光学的距離部分の複数の光学的要素における前記最外露出の光学的要素を除く残余の光学的要素の屈折率よりも低い屈折率を持つ物質で形成される。このため、このような構成の位相型回折格子は、第1光学的距離部分の光学的要素が空気または真空で形成されるともに第2光学的距離部分の光学的要素が前記残余の光学的要素で形成される場合に較べて、その厚さをより薄くすることが可能となる。
【0021】
また、他の一態様では、これら上述の位相型回折格子において、前記第2光学的距離部分の前記最外露出の光学的要素は、金、白金およびイリジウムのうちのいずれかであり、前記第2光学的距離部分の前記残余の光学的要素は、シリコン、石英およびアルムニウムのうちのいずれかである。
【0022】
この構成によれば、相対的に、屈折率が小さく単位長さ当たりの位相変化が相対的に小さな物質である金、白金およびイリジウムのうちのいずれかと、シリコン、石英およびアルムニウムのうちのいずれかとによって第2光学的距離部分を形成した位相型回折格子が提供される。したがって、このような構成の位相型回折格子は、第1光学的距離部分の光学的要素が空気または真空で形成されるともに第2光学的距離部分の光学的要素がシリコン、石英およびアルムニウムのうちのいずれかで形成される場合に較べて、その厚さをより薄くすることが可能となる。
【0023】
また、他の一態様では、これら上述の位相型回折格子において、前記第1光学的距離部分の1個の光学的要素は、気体または真空であり、前記第2光学的距離部分の前記最外露出の光学的要素に隣接する最外露出隣接の光学要素は、前記第2光学的距離部分の複数の光学的要素における前記最外露出隣接の光学的要素を除く残余の光学的要素の屈折率よりも低い屈折率を持つ物質であることを特徴とする。
【0024】
このような構成の位相型回折格子では、第2光学的距離部分は、複数の光学的要素で構成され、第2光学的距離部分の最外露出隣接の光学的要素は、第2光学的距離部分の複数の光学的要素における前記最外露出隣接の光学的要素を除く残余の光学的要素の屈折率よりも低い屈折率を持つ物質で形成される。このため、このような構成の位相型回折格子は、第1光学的距離部分の光学的要素が空気または真空で形成されるともに第2光学的距離部分の光学的要素が前記残余の光学的要素で形成される場合に較べて、その厚さをより薄くすることが可能となる。そして、第2光学的距離部分の最外露出の光学的要素は、第2光学的距離部分の最外露出隣接の光学的要素に対して、相対的に、屈折率の高い材料で形成されるため、第2光学的距離部分の最外露出の光学的要素の厚さを調整することによって、第2光学的距離部分の光学的距離を設計値に微調整することが可能となる。すなわち、第2光学的距離部分の最外露出の光学的要素は、相対的に、屈折率の高い材料で形成されるため、第2光学的距離部分の光学的距離を調整する調整しろとして効果的である。あるいは、第2光学的距離部分の最外露出隣接の光学的要素の保護膜として、第2光学的距離部分の最外露出の光学的要素を用いることも可能となる。
【0025】
また、他の一態様では、これら上述の位相型回折格子において、前記第2光学的距離部分の前記最外露出隣接の光学的要素は、金、白金およびイリジウムのうちのいずれかであり、前記第2光学的距離部分の前記残余の光学的要素は、シリコン、石英およびアルムニウムのうちのいずれかであることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、相対的に、屈折率が小さく単位長さ当たりの位相変化が相対的に小さな物質である金、白金およびイリジウムのうちのいずれかと、シリコン、石英およびアルムニウムのうちのいずれかとを含む第2光学的距離部分を形成した位相型回折格子が提供される。したがって、このような構成の位相型回折格子は、第1光学的距離部分の光学的要素が空気または真空で形成されるともに第2光学的距離部分の光学的要素がシリコン、石英およびアルムニウムのうちのいずれかで形成される場合に較べて、その厚さをより薄くすることが可能となる。
【0027】
また、他の一態様では、これら上述の位相型回折格子において、前記第1光学的距離部分の1個の光学的要素は、樹脂材料であることを特徴とする。
【0028】
このような構成の位相型回折格子は、第1光学的距離部分の1個の光学的要素が樹脂材料であるので、第1光学的距離部分の1個の光学的要素が気体または真空である場合に較べて、その機械的な強度を向上することができる。
【0029】
また、他の一態様にかかる位相型回折格子の製造方法は、基板上に、所定の規則に従って配列された複数のパターン部材を仕様によって許容される表面粗さを持つ厚さで形成するパターン部材形成工程と、所定の位相差を生じさせるように、前記パターン部材形成工程によって形成された前記複数のパターン部材の厚さに応じた深さで、前記パターン部材形成工程で前記複数のパターン部材が形成されていない前記基板の部分をエッチングするエッチング工程とを備える。
【0030】
このような構成の位相型回折格子の製造方法では、前記パターン部材に基づく光学的距離部分の露出面が、仕様によって許容される表面粗さを持つ厚さで形成される。このため、このような構成の位相型回折格子の製造方法は、表面の粗さをより低減することができる位相型回折格子を製造することができる。
【0031】
また、他の一態様では、上述の位相型回折格子の製造方法において、前記パターン部材形成工程は、基板上に、仕様によって許容される表面粗さを持つ厚さで前記パターン部材の材料の膜を形成する成膜工程と、前記成膜工程で形成された前記膜を、前記所定の規則に従って配列された複数のパターン部材となるようにパターニングするパターニング工程とを備えることを特徴とする。
【0032】
このような構成では、いわゆるエッチング法を用いてパターン部材形成工程を実現した位相型回折格子の製造方法が提供される。
【0033】
また、他の一態様では、上述の位相型回折格子の製造方法において、前記パターン部材形成工程は、所定の規則に従って配列された複数のパターン部材に対応する領域の基板が外部に臨むようにパターニングされたパターニング層を基板上に形成するパターニング層形成工程と、前記パターニング層形成工程後の基板上に、仕様によって許容される表面粗さを持つ厚さで前記パターン部材の材料の膜を形成する成膜工程と、前記パターニング層を除去する除去工程とを備えることを特徴とする。
【0034】
このような構成では、いわゆるリフトオフ法を用いてパターン部材形成工程を実現した位相型回折格子の製造方法が提供される。
【0035】
また、他の一態様では、これら上述の位相型回折格子の製造方法において、前記エッチング工程のエッチングは、ウェットエッチングまたはドライエッチングであることを特徴とする。
【0036】
このような構成では、いわゆる、ウェットエッチングまたはドライエッチングを用いてエッチング工程を実現した位相型回折格子の製造方法が提供される。
【0037】
また、他の一態様では、これら上述の位相型回折格子の製造方法は、X線タルボ干渉計またはX線タルボ・ロー干渉計に用いられる位相型回折格子を製造する場合に用いられる。
【0038】
上述したように、これら上述の位相型回折格子の製造方法は、表面の粗さをより低減することができるとともにその厚さをより薄くすることができる位相型回折格子を製造することができるので、この構成によれば、性能の高いX線タルボ干渉計またはX線タルボ・ロー干渉計を実現することが可能となる。
【0039】
また、本発明の他の一態様にかかる位相型回折格子は、これら上述のいずれかの位相型回折格子の製造方法によって製造される。
【0040】
この構成によれば、表面の粗さをより低減することができるとともにその厚さをより薄くすることができる位相型回折格子を実現することが可能となる。
【0041】
また、本発明の他の一態様にかかるX線撮像装置は、X線を放射するX線源と、前記X線源から放射されたX線が照射されるタルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計と、前記タルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計によるX線の像を撮像するX線撮像素子とを備え、前記タルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計は、これら上述のいずれかの位相型回折格子を含むことを特徴とする。
【0042】
このような構成のX線撮像装置は、タルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計を構成する位相型回折格子に、表面の粗さをより低減することができるとともにその厚さをより薄くすることができる位相型回折格子を用いるので、より確実に回折され、より鮮明なX線の像を得ることができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明にかかる位相型回折格は、表面の粗さをより低減することができる。本発明にかかる位相型回折格子の製造方法は、表面の粗さをより低減することができる位相型回折格子を提供することができる。そして、本発明は、この位相型回折格子を用いたX線撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施形態における位相型回折格子の構成を示す斜視図である。
【図2】実施形態における位相型回折格子の第1製造方法を説明するための図(その1)である。
【図3】実施形態における位相型回折格子の第1製造方法を説明するための図(その2)である。
【図4】実施形態における位相型回折格子の第2製造方法を説明するための図(その1)である。
【図5】実施形態における位相型回折格子の第2製造方法を説明するための図(その2)である。
【図6】第1光学的距離部分を空気で形成するとともに第2光学的距離部分をシリコンおよび金で形成した位相型回折格子の場合における前記シリコンの長さ(厚さ)と前記金の長さ(厚さ)との関係を示す図である。
【図7】第1光学的距離部分を空気で形成するとともに第2光学的距離部分を石英および金(金表面に膜状に厚さ100nmのクロムを含む)で形成した位相型回折格子の場合における前記石英の長さ(厚さ)と前記金の長さ(厚さ)との関係を示す図である。
【図8】第1光学的距離部分を空気で形成するとともに第2光学的距離部分を石英および金(膜状にクロム無し)で形成した位相型回折格子の場合における前記石英の長さ(厚さ)と前記金の長さ(厚さ)との関係を示す図である。
【図9】第1光学的距離部分を空気で形成するとともに第2光学的距離部分を石英および白金で形成した位相型回折格子の場合における前記石英の長さ(厚さ)と前記白金の長さ(厚さ)との関係を示す図である。
【図10】第1光学的距離部分をポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)で形成するとともに第2光学的距離部分をシリコンおよび金で形成した位相型回折格子の場合における前記シリコンの長さ(厚さ)と前記金の長さ(厚さ)との関係を示す図である。
【図11】第1光学的距離部分を空気で形成するとともに第2光学的距離部分をシリコン8.1μmおよび金1.5μmで第1製造方法によって形成した位相型回折格子の場合における前記金の表面の様子を示す図である。
【図12】電鋳法によって比較的厚い金で光学的距離部分を形成した場合における前記金の表面の様子を示す図である。
【図13】実施形態におけるX線用タルボ干渉計の構成を示す斜視図である。
【図14】実施形態におけるX線用タルボ・ロー干渉計の構成を示す上面図である。
【図15】実施形態におけるX線撮像装置の構成を示す説明図である。
【図16】従来技術におけるX線撮像装置の概略的な構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。また、本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0046】
(第1実施形態の位相型回折格子)
図1は、実施形態における位相型回折格子の構成を示す斜視図である。本実施形態の位相型回折格子DGは、図1に示すように、支持体部分11と、支持体部分11上に形成された回折格子12とを備えて構成される。支持体部分11は、図1に示すようにDxDyDzの直交座標系を設定した場合に、DxDy面に沿った板状または層状である。回折格子12は、位相型回折格子であって、入射面と射出面との間に複数の第1光学的距離部分12aと、複数の第2光学的距離部分12b(12b1、12b2)とを備えている。複数の第1光学的距離部分12aは、第1光学的距離h1に対応する第1屈折率n1および第1厚さH1を有して所定の規則に従って配列され、複数の第2光学的距離部分12bは、この第1光学的距離部分12aを通過した例えばX線や光等の電磁波に対して所定の位相差Cを生じさせる第2光学的距離h2に対応する第2屈折率n2および第2厚さH2を有して複数の第1光学的距離部分12aに応じて配列される。
【0047】
より具体的には、位相型回折格子DGが図1に示すように1次元である場合に、回折格子12は、前記第1厚さH1(格子面DxDyに垂直なDz方向(格子面DxDyの法線方向)の長さ)を有して一方向Dxに線状に延びる複数の第1光学的距離部分12aと、前記第2厚さH2(格子面DxDyに垂直なDz方向(格子面DxDyの法線方向)の長さ、H2=H1)を有して前記一方向Dxに線状に延びる複数の第2光学的距離部分12bとを備え、これら複数の第1光学的距離部分12aと複数の第2光学的距離部分12bとは、交互に平行に配設される。このため、複数の第1光学的距離部分12aは、前記一方向Dxと直交する方向Dyに所定の間隔を空けてそれぞれ配設される。言い換えれば、複数の第2光学的距離部分12bは、前記一方向Dxと直交する方向Dyに所定の間隔を空けてそれぞれ配設される。この所定の間隔(ピッチ)Pは、本実施形態では、一定とされている。すなわち、複数の第1光学的距離部分12a(複数の第2光学的距離部分12b)は、前記一方向Dxと直交する方向Dyに等間隔Pでそれぞれ配設されている。第1光学的距離部分12aは、前記DxDy面に直交するDxDz面に沿った板状または層状であり、第2光学的距離部分12bもこのDxDz面に沿った板状または層状である。
【0048】
そして、第1光学的距離部分12aは、1個の光学的要素で構成されている。光学的要素とは、上述したように、当該媒質を伝播する電磁波の光学的距離に作用するものであり、例えば、物質、空気および真空等である。光学的距離hは、入射する例えばX線や光等の電磁波の波長に対し、その屈折率nとその厚さ(長さ)Hとの積によって与えられる(h=n×H)。したがって、第1光学的距離h1は、n1×H1である(h1=n1×H1)。第1光学的距離部分12aの前記1個の光学的要素は、当該位相型回折格子DGに用いられる所定の電磁波の波長(例えばX線の波長等)に対し、第2光学的距離部分12bの複数の光学的要素における各屈折率よりも高い屈折率を持っており、例えば、気体または所定の真空度の真空である。気体は、1種類の単体または化合物で構成された純物質だけでなく、例えば空気等の複数種類で構成された混合物を含む。また例えば、第1光学的距離部分12aの前記1個の光学的要素は、樹脂材料であってもよい。このように第1光学的距離部分12aを空間ではなく固体で埋めて形成することによって、このような構成の位相型回折格子DGは、第1光学的距離部分12aを空間で形成する場合に較べて、その機械的な強度を向上することができる。
【0049】
また、第2光学的距離部分12bは、互いに屈折率の異なる複数の光学的要素で構成されており、好ましくは、これら複数の光学的要素の各厚さの和は、第2光学的距離部分12bの第2厚さH2に等しく、かつ、これら複数の光学的要素のそれぞれについて求められる屈折率と厚さとの積のそれぞれの和は、第2光学的距離h2に等しい。そして、第2光学的距離部分12bの複数の光学的要素のうちで最も外部に露出する最外露出の光学的要素は、当該位相型回折格子DGを伝播する電磁波に生じる例えば散乱等に対して仕様によって許容される表面粗さを持つ厚さで形成されている。第1および第2光学的距離部分12a、12bの各幅Wは、前記一方向(長尺方向)Dxに直交する方向(幅方向)Dyにおける各光学的距離部分12a、12bの各長さであり、第1および第2光学的距離部分12a、12bの各厚さは、前記一方向Dxとこれに直交する前記方向Dyとで構成される平面DxDyの法線方向(深さ方向)Dzにおける各光学的距離部分12a、12bの各長さである。例えば、第2光学的距離部分12bは、2個の第1および第2光学的要素で構成されており、第1光学的要素部分12b1の屈折率および厚さをそれぞれn21およびH21とし、第2光学的要素部分12b2の屈折率および厚さをそれぞれn22およびH22とする場合に、H21+H22=H2(=H1)であり、n21×H21+n22×H22=h2である。ここで、前記特許文献1に開示の位相格子では、前記充填材料は、前記突条部を通過したX線と前記隙間を通過したX線との強度(振幅)を一致させ、0次回折光を消すために、前記複数の隙間における各底部に設けられるものであるから、充填材料の光学的距離だけでなく、充填材料での減衰量も考慮されており、前記特許文献1に開示の位相格子では、充填材料は、本実施形態の位相型回折格子DGのような上記関係式だけでは決定(設計)することができず、本実施形態の位相型回折格子DGとは異なる。
【0050】
さらに、本実施形態では、第2光学的距離部分12bの前記最外露出の光学的要素は、第2光学的距離部分12bの前記複数の光学的要素における前記最外露出の光学的要素を除く残余の光学的要素の屈折率よりも低い屈折率を持つ物質である。例えば、第2光学的距離部分12bの前記最外露出の光学的要素(上述の例では第2光学的距離部分12bの第2光学要素部分12b2を形成する光学的要素)は、金(Au)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)およびイリジウム(Ir)のうちのいずれかであり、第2光学的距離部分12の前記残余の光学的要素(上述の例では第2光学的距離部分12bの第1光学要素部分12b1を形成する光学的要素)は、シリコン、石英およびアルムニウムのうちのいずれかである。このような金、白金、ロジウム、ルテニウムおよびイリジウムは、当該位相型回折格子DGに用いられる所定の電磁波の波長(例えばX線の波長等)に対し、相対的に、屈折率が小さく単位長さ当たりの位相変化が相対的に小さな物質である。これに対し、シリコン、石英およびアルムニウムは、相対的に屈折率が大きく単位長さ当たりの位相変化が相対的に大きな物質であるが、加工性が高い物質である。
【0051】
このような位相差Cを生じさせる部分が複数の光学的要素から成る位相型回折格子DGは、基板上に、所定の規則に従って配列された所定形状の複数のパターン部材を仕様によって許容される表面粗さを持つ厚さで形成するパターン部材形成工程と、所定の位相差を生じさせるように、前記パターン部材形成工程によって形成された前記複数のパターン部材の厚さに応じた深さで、前記パターン部材形成工程で前記複数のパターン部材が形成されていない前記基板の部分をエッチングするエッチング工程とによって製造される。より具体的には、このような位相型回折格子DGは、いわゆるエッチング法またはリフトオフを用いたパターン部材形成工程と、ウェットエッチング法またはドライエッチング法を用いたエッチング工程とによって製造される。
【0052】
前記パターン部材の所定形状は、1次元格子では、例えば、前記厚さを持つ平面視にてストライプ形状(所定の幅Wを持つ線形状、所定の幅Wを持つ帯形状)であり、また2次元格子では、例えば、円柱、角柱等の柱形状等である。以下、前記パターン部材が前記厚さを持つストライプ形状である1次元の前記位相型回折格子DGの製造方法について、詳述する。なお、前記パターン部材が前記厚さを持つ例えば柱形状等の他の形状であっても同様である。
【0053】
以下、まず、エッチング法を用いた第1製造方法について説明し、次に、リフトオフ法を用いた第2製造方法について説明する。
【0054】
(第1製造方法)
図2は、実施形態における位相型回折格子の第1製造方法を説明するための図(その1)である。図3は、実施形態における位相型回折格子の第1製造方法を説明するための図(その2)である。
【0055】
この第1製造方法は、前記パターン部材形成工程として、基板30上に、仕様によって許容される表面粗さを持つ厚さで前記パターン部材の材料の膜33を形成する成膜工程が実施され、前記成膜工程で形成された前記膜33を、前記所定の規則に従って配列された複数のパターン部材33となるようにパターニングするパターニング工程が実施される。
【0056】
より具体的には、本実施形態の位相型回折格子DGを製造するために、まず、基板30が用意される(図2(A))。この基板30は、後述の各工程で処理されることによって、支持体部分11および第2光学的距離部分12bの第1光学的要素部分12b1となるので、第2光学的距離部分12bにおける第1光学的要素部分12b1の光学的要素の材料が選択される。基板30には、好ましくは、表面を、当該位相型回折格子DGを伝播する電磁波にとって平滑に加工することが可能な材料が採用される。例えば、基板30は、シリコン基板30aである。また例えば、基板30は、石英基板30bである。また例えば、基板30は、アルミニウム基板30cである。基板30がシリコン基板30aである場合で、かつ後述の膜33の形成の際に電鋳法等の湿式メッキを用いる場合では、シリコン基板30aは、多数キャリアが電子であるn型シリコンであることが好ましい。このn型シリコンは、伝導体電子を豊富に持つため、シリコンを陰極に接続して負電位を印加しカソード分極をすると、後述の電鋳工程では、メッキ液といわゆるオーミック接触になり、電流が流れて還元反応が起き易くなり、結果として金属がより析出し易くなる。
【0057】
次に、基板30上に、仕様によって許容される表面粗さを持つ厚さでパターン部材33の材料の膜(層)33が所定の成膜法によって形成される(成膜工程、図2(B))。この膜33は、後述の各工程で処理されることによって、第2光学的距離部分12bの第2光学的要素部分12b2となるので、第2光学的距離部分12bにおける第2光学的要素部分12b2の光学的要素の材料が選択される。例えば、膜33の材料は、金である。これによって後述の各工程を経ることで金のパターン部材33aとなる。また例えば、膜33の材料は、白金である。これによって後述の各工程を経ることで白金のパターン部材33bとなる。また例えば、膜33の材料は、イリジウムである。これによって後述の各工程を経ることでイリジウムのパターン部材33cとなる。
【0058】
成膜法には、例えば、真空蒸着法、スパッタ法および化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition、CVD)等の乾式メッキ法や、電鋳法等の湿式メッキ法が用いられる。前記乾式メッキ法は、表面の粗さをオングストロームレベルで膜を形成することができ、仕様によって許容される表面粗さを比較的容易に達成することができるが、膜厚が例えば3μmや5μm等の数μm以上となると、成膜時間が著しく長くなったり、成膜の際に応力によって剥がれ易くなってり等してしまう。この点、湿式メッキ法の電鋳法は、有利であるが、膜厚の増加に従って表面粗さが大きくなってしまい、膜厚が数μm以上となると、X線を散乱してしまう。このため、乾式メッキ法では、膜厚は、好ましくは、2μm以下であり、また、仕様によって許容される表面粗さを実現するために、少なくとも、湿式メッキ法では、膜厚は、好ましくは、1.5μm以下である。
【0059】
次に、膜33をパターン部材33に形成するべく、基板30上に形成された膜33をパターニングするために、この膜33上に感光性樹脂層40が例えばスピンコート等によって形成される(図2(C))。ここで、感光性樹脂層40は、リソグラフィーにおいて使用され、光(可視光だけでなく紫外線等も含む)や電子線等によって溶解性等の物性が変化する材料である。なお、これに限定されるものではなく、例えば、感光性樹脂層40に代え、電子線露光用のレジスト層であってもよい。
【0060】
次に、フォトリソグラフィー工程として、リソグラフィー法によって感光性樹脂層40がパターニングされ(図2(D))、このパターニングした部分の感光性樹脂層40が除去される(図3(A))。より具体的には、感光性樹脂層40にリソグラフィーマスク41を押し当てて、感光性樹脂層40にリソグラフィーマスク41を介して紫外線42が照射され、感光性樹脂層40がパターン露光され、現像される(図2(D))。そして、露光されなかった部分(あるいは露光された部分)の感光性樹脂層40が除去される(図3(A))。
【0061】
次に、パターニングされた感光性樹脂層40をマスクに、エッチングによって感光性樹脂層40の除去された部分の膜33が除去されて膜33がパターニングされ、パターン部材33となる(図3(A))。より具体的には、例えば、膜33が金である場合には、いわゆる王水に浸漬され、ウェットエッチングによってパターニングされる。また例えば、膜33が白金である場合には、ヨウ化水素ガスを用いたICP(Inductively Coupled Plasma)ドライエッチングによってパターニングされる。
【0062】
次に、所定の位相差を生じさせるように、パターン部材33の厚さに応じた深さで、パターン部材33が形成されていない基板30の部分が前記法線方向Dzにエッチングされる(エッチング工程、図3(C))。この図3(A)に示す膜33のエッチングによって残ることで形成されたパターン部材33および図3(C)に示す基板30のエッチングによって残ることでDxDz面に沿って形成されたパターン部材33に続く基板30の板状部分30b(基板30の壁部32)が第2光学的距離部分12bとなる。より詳しくは、前記パターン部材33は、第2光学的距離部分12bの第2光学的要素部分12b2となり、前記基板30の壁部32は、第2光学的距離部分12bの第1光学的要素部分12b1となる。そして、この図3(A)に示す膜33のエッチングによって形成された空間(第1空間)34(互いに隣接するパターン部材33によって挟まれた空間34)および図3(C)に示す基板30のエッチングによって形成された前記第1空間に続く空間(第2空間)35(互いに隣接する基板30の壁部32によって挟まれた空間35)が第1光学的距離部分12a(36)となる。
【0063】
なお、図3(C)に示す基板30のエッチングによってDxDy面に沿って残った基板30の板状部分30a(基板30の基部31)が支持体部分11となる。
【0064】
以上のような各製造工程を経ることによって、図1に示す構成の位相型回折格子DGが製造される。
【0065】
(第2製造方法)
図4は、実施形態における位相型回折格子の第2製造方法を説明するための図(その1)である。図5は、実施形態における位相型回折格子の第2製造方法を説明するための図(その2)である。
【0066】
この第2製造方法は、前記パターン部材形成工程として、所定の規則に従って配列された複数のパターン部材に対応する領域の基板30が外部に臨むようにパターニングされたパターニング層40を基板30上に形成するパターニング層形成工程が実施され、このパターニング層形成工程後の基板30上に、仕様によって許容される表面粗さを持つ厚さで前記パターン部材の材料の膜33を形成する成膜工程が実施され、前記パターニング層を除去する除去工程が実施される。
【0067】
より具体的には、本実施形態の位相型回折格子DGを製造するために、まず、第1製造方法と同様に、基板30が用意される(図4(A))。
【0068】
次に、所定の規則に従って配列された複数のパターン部材33に対応する領域の基板30が外部に臨むようにパターニングされたパターニング層40が基板30上に形成される(パターニング層形成工程、図4(A)〜図4(D))。すなわち、基板30上に、所定の規則に従って配列された複数のパターン部材33を形成するためのリフトオフのマスクとなるようにパターニングされたパターニング層40が形成される。
【0069】
より具体的には、基板30上にパターニング層40を形成するために、まず、基板30上に感光性樹脂層40が例えばスピンコート等によって形成され(図4(B))、続いて、フォトリソグラフィー工程として、リソグラフィー法によって感光性樹脂層40がパターニングされ(図4(C))、このパターニングした部分の感光性樹脂層40が除去される(図4(D))。より具体的には、感光性樹脂層40にリソグラフィーマスク41を押し当てて、感光性樹脂層40にリソグラフィーマスク41を介して紫外線42が照射され、感光性樹脂層40がパターン露光され、現像される(図4(C))。そして、露光されなかった部分(あるいは露光された部分)の感光性樹脂層40が除去される(図4(D))。
【0070】
次に、このパターニング層形成工程後の基板30上に、仕様によって許容される表面粗さを持つ厚さでパターン部材の材料の膜33が所定の成膜法によって形成される(成膜工程、図5(A))。この膜33は、後述の各工程で処理されることによって、第2光学的距離部分12bの第2光学的要素部分12b2となるので、第2光学的距離部分12bにおける第2光学的要素部分12b2の光学的要素の材料が選択される。この成膜法には、成膜中にパターニング層40が失われない成膜方法が用いられる。例えば、この成膜法として、真空蒸着法が用いられる。また例えば、電鋳法が用いられる。図5(A)には、成膜法として真空蒸着法が用いられた場合の膜33が示されている。
【0071】
上述したように、前記真空蒸着法は、乾式メッキ法の一つであるから、表面の粗さをオングストロームレベルで膜を形成することができ、仕様によって許容される表面粗さを比較的容易に達成することができるが、膜厚が例えば3μmや5μm等の数μm以上となると、成膜の際に応力によって剥がれ易くなってしまう。この点、湿式メッキ法の電鋳法は、有利であるが、膜厚の増加に従って表面粗さが大きくなってしまい、膜厚が数μm以上となると、X線を散乱してしまう。このため、真空蒸着法では、膜厚は、好ましくは、2μm以下であり、また、仕様によって許容される表面粗さを実現するために、少なくとも、湿式メッキ法では、膜厚は、好ましくは、1.5μm以下である。
【0072】
次に、パターニング層40が除去される(除去工程、図5(B))。これによって所定の規則に従って配列された複数のパターン部材33が基板30上に形成される。
【0073】
次に、図3(C)に示す第1製造方法のエッチング工程と同様に、所定の位相差を生じさせるように、パターン部材33の厚さに応じた深さで、パターン部材33が形成されていない基板30の部分が前記法線方向Dzにエッチングされる(エッチング工程、図5(C))。この図5(B)に示すパターニング層40の除去によって残ることで形成されたパターン部材33および図5(C)に示す基板30のエッチングによって残ることでDxDz面に沿って形成されたパターン部材33に続く基板30の板状部分32(基板30の壁部32)が第2光学的距離部分12bとなる。より詳しくは、前記パターン部材33は、第2光学的距離部分12bの第2光学的要素部分12b2となり、前記基板30の壁部32は、第2光学的距離部分12bの第1光学的要素部分12b1となる。そして、この図5(B)に示すパターニング層40が除去されることによって形成された空間(第1空間)34および図5(D)に示す基板30のエッチングによって形成された前記第1空間に続く空間(第2空間)35が第1光学的距離部分12a(36)となる。
【0074】
なお、図5(C)に示す基板30のエッチングによってDxDy面に沿って残った基板30の板状部分30a(基板30の基部31)が支持体部分11となる。
【0075】
以上のような各製造工程を経ることによって、図1に示す構成の位相型回折格子DGが製造される。
【0076】
これら第1および第2製造方法における前記エッチング工程において、基板30をDz方向にエッチングする深さは、次のように設計される。
【0077】
第2光学的距離部分12bが2個の第1および第2光学的要素で形成されている場合を例にすると、第1および第2光学的要素部分12b1、12b2の各屈折率をそれぞれnb1およびnb2とし、第1および第2光学的要素部分12b1、12b2の各長さ(各厚さ)をそれぞれHb1およびHb2とし、X線の波長をλとし、位相差をN(位相差πの場合はN=1であり、位相差π/2の場合はN=2である)とする場合に、次式1の関係がある。
b1={−(1−nb2)×Hb2+(λ/(2×N))}/(1−nb1) ・・・(1)
これら式1は、第2光学的要素部分12b2の長さ(厚さ)が決定された後に、第1光学的要素部分12b1の長さ(厚さ)を如何に決定するかを示している。なお、第2光学的距離部分12bが3個以上の複数の光学的要素で形成されている場合も同様の式を導出することができる。
【0078】
28keV(波長0.04nm)のX線に対し、π/2位相型回折格子である場合における式1の計算例が図6ないし図10に示されている。図6は、第1光学的距離部分を空気で形成するとともに第2光学的距離部分をシリコンおよび金で形成した位相型回折格子の場合における前記シリコンの長さ(厚さ)と前記金の長さ(厚さ)との関係を示す図である。図7は、第1光学的距離部分を空気で形成するとともに第2光学的距離部分を石英および金(金表面に膜状に厚さ100nmのクロムを含む)で形成した位相型回折格子の場合における前記石英の長さ(厚さ)と前記金の長さ(厚さ)との関係を示す図である。図8は、第1光学的距離部分を空気で形成するとともに第2光学的距離部分を石英および金(膜状にクロム無し)で形成した位相型回折格子の場合における前記石英の長さ(厚さ)と前記金の長さ(厚さ)との関係を示す図である。図9は、第1光学的距離部分を空気で形成するとともに第2光学的距離部分を石英および白金で形成した位相型回折格子の場合における前記石英の長さ(厚さ)と前記白金の長さ(厚さ)との関係を示す図である。図10は、第1光学的距離部分をポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)で形成するとともに第2光学的距離部分をシリコンおよび金で形成した位相型回折格子の場合における前記シリコンの長さ(厚さ)と前記金の長さ(厚さ)との関係を示す図である。これら図6ないし図10において、横軸は、μm単位で表す第2光学的要素部分12b2の厚さであり、その縦軸は、μm単位で表す第1光学的要素部分12b1の厚さである。なお、図7では、金上にクロムが積層された第2光学的要素部分12b2の場合を示している。すなわち、第2光学的距離部分12bが石英、金およびクロムの3個の光学的要素で形成されている。
【0079】
ここで、28keV(波長0.04nm)のX線に対し、シリコンの屈折率nSiは、0.999999384−i1.2829685e−9であり、石英の屈折率nSiO2は、0.999999418−i7.1412670e−10であり、金の屈折率nAuは、0.999995960−i2.1238481e−7であり、白金の屈折率nPtは、0.999995477−i2.3151473e−7であり、そして、クロムの屈折率nCrは、0.999998229−i1.8515591e−8である。また、PMMAの屈折率nPMMAは、0.999999660−i1.1778217e−10である。ここで、iは、虚数単位であり、i=−1である。
【0080】
第1製造方法での一具体例を挙げると、28keV(波長0.04nm)のX線用にπ/2位相型回折格子DGを製造する場合において、まず、シリコン基板30aが用意され、このシリコン基板30a上にスパッタリング法によって金(Au)が厚さ1.5μmで成膜された。続いて、この成膜した金の膜33の主面上に感光性樹脂層40が例えばスピンコート等によって塗布され、続いて、フォトリソグラフィー工程として、リソグラフィー法によって感光性樹脂層40がパターニングされ、このパターニングした部分の感光性樹脂層40が除去された。続いて、このシリコン基板30aが王水に浸漬され、パターニングされた感光性樹脂層40をマスクにウェットエッチングによって、感光性樹脂層40の除去された部分の金の膜33が除去されて金の膜33がパターニングされ、金のパターン部材33aが形成された。続いて、このパターニングされた金のパターン部材33aをマスクに、ICPドライエッチングによって所定の位相差π/2を生じさせるように、パターン部材33aの厚さ1.5μmに応じた深さ8.1μmで(図6参照)、パターン部材33aが形成されていないシリコン基板30aの部分が前記法線方向Dzにエッチングされた。これによって28keV(波長0.04nm)のX線用にπ/2位相型回折格子DGが製造された。
【0081】
また、第1製造方法での他の一具体例を挙げると、28keVのX線用にπ/2位相型回折格子DGを製造する場合において、まず、石英基板30bが用意され、この石英基板30b上にスパッタリング法によって白金(Pt)が厚さ1.5μmで成膜された。続いて、この成膜した白金の膜33の主面上に感光性樹脂層40が例えばスピンコート等によって塗布され、続いて、フォトリソグラフィー工程として、リソグラフィー法によって感光性樹脂層40がパターニングされ、このパターニングした部分の感光性樹脂層40が除去された。続いて、パターニングされた感光性樹脂層40をマスクにヨウ化水素ガスを用いたICPドライエッチングによって、感光性樹脂層40の除去された部分の白金の膜33が除去されて白金の膜33がパターニングされた。続いて、このパターニングされた白金の膜33をマスクに、ICPドライエッチングによって所定の位相差π/2を生じさせるように、白金のパターン部材33の厚さ1.5μmに応じた深さ7.4μmで(図9参照)、パターン部材33が形成されていないシリコン基板30aの部分が前記法線方向Dzにエッチングされた。これによって28keV(波長0.04nm)のX線用にπ/2位相型回折格子DGが製造された。
【0082】
そして、第2製造方法での一具体例を挙げると、28keV(波長0.04nm)のX線用にπ/2位相型回折格子DGを製造する場合において、まず、シリコン基板30aが用意され、このシリコン基板33aの主面上に感光性樹脂層40が例えばスピンコート等によって1.5μmで塗布され、続いて、フォトリソグラフィー工程として、リソグラフィー法によって感光性樹脂層40がパターニングされ、このパターニングした部分の感光性樹脂層40が除去された。続いて、このパターニングされた感光性樹脂層40を形成したシリコン基板30aがメッキ液に浸漬され、電鋳法(電界メッキ法)によってシリコン基板30a上に金(Au)が厚さ1.0μmで成膜された。続いて、この金の膜33aが成膜されたシリコン基板30aが感光性樹脂層40を溶解する有機溶媒に浸漬され、パターニングされた感光性樹脂層40が除去され、金のパターン部材33aが形成された。続いて、この金のパターン部材33aをマスクに、ICPドライエッチングによって所定の位相差π/2を生じさせるように、パターン部材33aの厚さ1.0μmに応じた深さ11.4μmで(図6参照)、パターン部材33aが形成されていないシリコン基板30aの部分が、前記法線方向Dzにエッチングされた。これによって28keV(波長0.04nm)のX線用にπ/2位相型回折格子DGが製造された。
【0083】
また、第2製造方法での他の一具体例を挙げると、28keV(波長0.04nm)のX線用にπ/2位相型回折格子DGを製造する場合において、まず、石英基板30bが用意され、この石英基板33bの主面上に感光性樹脂層40が例えばスピンコート等によって2.0μmで塗布され、続いて、フォトリソグラフィー工程として、リソグラフィー法によって感光性樹脂層40がパターニングされ、このパターニングした部分の感光性樹脂層40が除去された。続いて、このパターニングされた感光性樹脂層40を形成した石英基板30bが真空蒸着法によって石英基板30b上に金(Au)が厚さ1.6μmで成膜され、さらに、真空蒸着法によって金の膜33a上にクロム(Cr)が厚さ0.1μmで成膜された。ここで、後述のエッチング工程において、石英と金とでは、エッチングの選択比に差が少ないため、エッチングの際の金の保護膜として、このクロムの膜が用いられている。なお、このクロム膜は、その膜厚を調整することによって第2光学的距離部分の光学的距離の調整しろとして用いられてもよい。続いて、この金/クロムの膜33が成膜された石英基板30bが感光性樹脂層40を溶解する有機溶媒に浸漬され、パターニングされた感光性樹脂層40が除去され、金/クロムのパターン部材33が形成された。続いて、この金/クロムのパターン部材33をマスクに、ICPドライエッチングによって所定の位相差π/2を生じさせるように、この金/クロムのパターン部材33の厚さ1.7μm(=1.6μm+0.1μm)に応じた深さ7.6μmで(図7参照)、この金/クロムのパターン部材33が形成されていない石英基板30bの部分が、前記法線方向Dzにエッチングされた。これによって28keV(波長0.04nm)のX線用にπ/2位相型回折格子DGが製造された。
【0084】
そして、このような各具体例において、機械的な強度を向上するために、第1光学的距離部分12aの空間を固体で埋める工程がさらに行われてもよい。この一具体例を挙げると、28keV(波長0.04nm)のX線用にπ/2位相型回折格子DGを製造する場合において、まず、シリコン基板30aが用意され、このシリコン基板30a上にスパッタリング法によって金(Au)が厚さ2.0μmで成膜された。続いて、この成膜した金の33の主面上に感光性樹脂層40が例えばスピンコート等によって塗布され、続いて、フォトリソグラフィー工程として、リソグラフィー法によって感光性樹脂層40がパターニングされ、このパターニングした部分の感光性樹脂層40が除去された。続いて、このシリコン基板30aが王水に浸漬され、パターニングされた感光性樹脂層40をマスクにウェットエッチングによって、感光性樹脂層40の除去された部分の金の膜33が除去されて金の膜33がパターニングされ、金のパターン部材33aが形成された。続いて、このパターニングされた金のパターン部材33aをマスクに、ICPドライエッチングによって所定の位相差π/2を生じさせるように、パターン部材33の厚さ2.0μmに応じた深さ13.3μmで(図10参照)、パターン部材33aが形成されていないシリコン基板30aの部分が前記法線方向Dzにエッチングされた。続いて、金のパターン部材33aおよびシリコン基板30aの壁部32によって形成される空間がPMMAで埋められた。これによって機械的な強度を向上させた28keV(波長0.04nm)のX線用にπ/2位相型回折格子DGが製造された。
【0085】
以上、説明したように、本実施形態における位相型回折格子DGでは、第2光学的距離部分12bの複数の光学的要素のうちで最も外部に露出する最外露出の光学的要素、図1に示す例では、第2光学的要素部分12b2が、当該位相型回折格子DGを伝播する電磁波の例えば散乱に対し、仕様によって許容される表面粗さを持つ厚さで形成される。このため、表面の荒れを考慮することなく、第2光学的距離部分12bを単一の光学的要素として金(Au)で例えば電鋳法によって例えばπ/2型の場合には厚さ約3μmでまた例えばπ型の場合には厚さ約6μmで形成してしまうと、成膜としては比較的厚いため、例えば前記厚さ約3μmのπ/2型の場合、レーザ顕微鏡の観察結果である図12に示すように、その表面は、X線のような波長の電磁波にとって、非常に荒れた状態となってしまうが、本実施形態における位相型回折格子DGは、上述のように、表面の粗さを考慮しているので、表面の粗さをより低減することができる。例えば、本実施形態における位相型回折格子DGの一具体例として、上述の第1製造方法によるシリコン8.1μm/金(Au)1.5μmの位相型回折格子DGにおけるレーザ顕微鏡の観察結果である図11に示す如くである。図12に示す例では、粗さRaは、32Å(オングストローム)であるが、図11に示す例では、その粗さRaは、1Åである(粗さRaは、JIS B0601;2001による算術平均粗さである)。この結果、本実施形態における位相型回折格子DGの性能が向上し、より精度よく電磁波を回折することができる。
【0086】
また、本実施形態における位相型回折格子DGでは、第1光学的距離部分12aの1個の光学的要素は、気体または真空であり、第2光学的距離部分12bは、複数の光学的要素で構成され、第2光学的距離部分12bの最外露出の光学的要素は、第2光学的距離部分12bの複数の光学的要素における前記最外露出の光学的要素を除く残余の光学的要素の屈折率よりも低い屈折率を持つ物質で形成される。このため、このような位相型回折格子DGは、第1光学的距離部分12bの光学的要素が空気または真空で形成されるともに第2光学的距離部分12bの光学的要素が前記残余の光学的要素で形成される場合に較べて、位相型回折格子DGの厚さをより薄くすることが可能となる。この結果、位相型回折格子DGが点波源から放射された例えばX線等の電磁波に対する回折に用いられた場合でも、位相型回折格子の周辺部領域におけるいわゆる斜め入射が低減され、位相型回折格子DGの性能劣化を低減することができる。
【0087】
また、本実施形態における位相型回折格子DGでは、第2光学的距離部分12bの前記最外露出の光学的要素は、金、白金およびイリジウムのうちのいずれかであり、第2光学的距離部分12bの前記残余の光学的要素は、シリコン、石英およびアルムニウムのうちのいずれかである。図1に示す例では、前記残余の光学的要素としてシリコン、石英およびアルムニウムのうちのいずれかで形成された第1光学的要素部分12b1と、前記最外露出の光学的要素として金、白金およびイリジウムのうちのいずれかで形成された第2光学的要素部分12b2とで第2光学的距離部分12bが形成されている。
【0088】
このように本実施形態では、比較的屈折率が大きく単位長さ当たりの位相変化が比較的大きな物質である金、白金およびイリジウムのうちのいずれかと、シリコン、石英およびアルムニウムのうちのいずれかとによって第2光学的距離部分12bを形成した位相型回折格子が提供される。したがって、このような本実施形態における位相型回折格子DGは、第1光学的距離部分12aの光学的要素が空気または真空で形成されるともに第2光学的距離部分12bの光学的要素がシリコン、石英およびアルムニウムのうちのいずれかで形成される場合に較べて、その厚さをより薄くすることが可能となる。したがって、位相型回折格子DGが点波源から放射された例えばX線等の電磁波に対する回折に用いられた場合でも、位相型回折格子の周辺部領域におけるいわゆる斜め入射が低減され、位相型回折格子DGの性能劣化を低減することができる。
【0089】
また、本実施形態における位相型回折格子DGの製造方法では、パターン部材33に基づく光学的距離部分の露出面が、仕様によって許容される表面粗さを持つ厚さで形成される。このため、このような本実施形態における位相型回折格子DGの製造方法は、表面の粗さをより低減することができる位相型回折格子DGを製造することができる。
【0090】
(タルボ干渉計およびタルボ・ロー干渉計)
上記実施形態の位相型回折格子の製造方法は、表面の粗さをより低減しつつ比較的厚さの薄い位相型回折格子DGを製造することができるので、この位相型回折格子DGは、X線用のタルボ干渉計およびタルボ・ロー干渉計に好適に用いることができる。この位相型回折格子DGを用いたX線用タルボ干渉計およびX線用タルボ・ロー干渉計について説明する。
【0091】
図13は、実施形態におけるX線用タルボ干渉計の構成を示す斜視図である。図14は、実施形態におけるX線用タルボ・ロー干渉計の構成を示す上面図である。
【0092】
実施形態のX線用タルボ干渉計100Aは、図13に示すように、所定の波長のX線を放射するX線源101と、X線源101から照射されるX線を回折する位相型の第1回折格子102と、第1回折格子102により回折されたX線を回折することにより画像コントラストを形成する振幅型の第2回折格子103とを備え、第1および第2回折格子102、103がX線タルボ干渉計を構成する条件に設定される。そして、第2回折格子103により画像コントラストの生じたX線は、例えば、X線を検出するX線画像検出器105によって検出される。そして、このX線用タルボ干渉計100Aでは、第1回折格子102が前記位相型回折格子DGである。タルボ干渉計100Aを構成する前記条件は、上述した式1および式2によって表される。
【0093】
このような構成のX線用タルボ干渉計100Aでは、X線源101から第1回折格子102に向けてX線が照射される。この照射されたX線は、第1回折格子102でタルボ効果を生じ、タルボ像を形成する。このタルボ像が第2回折格子103で作用を受け、モアレ縞の画像コントラストを形成する。そして、この画像コントラストがX線画像検出器105で検出される。
【0094】
ここで、X線源101と第1回折格子102との間に被検体Sが配置されると、前記モアレ縞は、被検体Sによって変調を受け、この変調量が被検体Sによる屈折効果によってX線が曲げられた角度に比例する。このため、モアレ縞を解析することによって被検体Sおよびその内部の構造が検出される。
【0095】
このような図13に示す構成のタルボ干渉計100Aでは、X線源101は、単一の点光源であり、このような単一の点光源は、単一のスリット(単スリット)を形成した単スリット板をさらに備えることで構成することができ、X線源101から放射されたX線は、前記単スリット板の前記単スリットを通過して被写体Sを介して第1回折格子102に向けて放射される。前記スリットは、一方向に延びる細長い矩形の開口である。
【0096】
一方、タルボ・ロー干渉計100Bは、図14に示すように、X線源101と、マルチスリット板104と、第1回折格子102と、第2回折格子103とを備えて構成される。すなわち、タルボ・ロー干渉計100Bは、図13に示すタルボ干渉計100Aに加えて、X線源101のX線放射側に、複数のスリットを並列に形成したマルチスリット板104をさらに備えて構成される。このタルボ・ロー干渉計100Bでは、このマルチスリット板104を用いることによって、マルチスリット板104の各スリットがそれぞれX線の点光源となるから、タルボ干渉計100Aよりも、被写体Sを介して第1回折格子102に向けて放射されるX線量が増加する。このため、このタルボ・ロー干渉計100Bは、より良好なモアレ縞が得られる。
【0097】
(X線撮像装置)
前記位相型回折格子DGは、種々の光学装置に利用することができるが、例えば、X線撮像装置に好適に用いることができる。特に、X線タルボ干渉計を用いたX線撮像装置は、X線を波として扱い、被写体を通過することによって生じるX線の位相シフトを検出することによって、被写体の透過画像を得る、位相コントラスト法の一つであり、被写体によるX線吸収の大小をコントラストとした画像を得る吸収コントラスト法に較べて、約1000倍の感度改善が見込まれ、それによってX線照射量が例えば1/100〜1/1000に軽減可能となるという利点がある。本実施形態では、前記位相型回折格子DGを用いたX線タルボ干渉計を備えたX線撮像装置について説明する。
【0098】
図15は、実施形態におけるX線撮像装置の構成を示す説明図である。図15において、X線撮像装置200は、X線撮像部201と、第2回折格子202と、第1回折格子203と、X線源204とを備え、さらに、本実施形態では、X線源204に電源を供給するX線電源部205と、X線撮像部201の撮像動作を制御するカメラ制御部206と、本X線撮像装置200の全体動作を制御する処理部207と、X線電源部205の給電動作を制御することによってX線源204におけるX線の放射動作を制御するX線制御部208とを備えている。
【0099】
X線源204は、X線電源部205から給電されることによって、X線を放射し、第1回折格子203へ向けてX線を照射する装置である。X線源204は、例えば、X線電源部205から供給された高電圧が陰極と陽極との間に印加され、陰極のフィラメントから放出された電子が陽極に衝突することによってX線を放射する装置である。
【0100】
第1回折格子203は、X線源204から放射されたX線によってタルボ効果を生じる透過型の回折格子である。第1回折格子203は、例えば、上述した実施形態における位相型回折格子DGの製造方法によって製造された位相型回折格子DGである。第1回折格子203は、タルボ効果を生じる条件を満たすように構成されており、X線源204から放射されたX線の波長よりも充分に粗い格子、例えば、格子定数(回折格子の周期)dが当該X線の波長の約20以上である位相型回折格子である。
【0101】
第2回折格子202は、第1回折格子203から略タルボ距離L離れた位置に配置され、第1回折格子203によって回折されたX線を回折する透過型の振幅型回折格子である。
【0102】
これら第1および第2回折格子203、202は、上述の式1および式2によって表されるタルボ干渉計を構成する条件に設定されている。
【0103】
X線撮像部201は、第2回折格子202によって回折されたX線の像を撮像する装置である。X線撮像部201は、例えば、X線のエネルギーを吸収して蛍光を発するシンチレータを含む薄膜層が受光面上に形成された二次元イメージセンサを備えるフラットパネルディテクタ(FPD)や、入射フォトンを光電面で電子に変換し、この電子をマイクロチャネルプレートで倍増し、この倍増された電子群を蛍光体に衝突させて発光させるイメージインテンシファイア部と、イメージインテンシファイア部の出力光を撮像する二次元イメージセンサとを備えるイメージインテンシファイアカメラなどである。
【0104】
処理部207は、X線撮像装置200の各部を制御することによってX線撮像装置200全体の動作を制御する装置であり、例えば、マイクロプロセッサおよびその周辺回路を備えて構成され、機能的に、画像処理部271およびシステム制御部272を備えている。
【0105】
システム制御部272は、X線制御部208との間で制御信号を送受信することによってX線電源部205を介してX線源204におけるX線の放射動作を制御すると共に、カメラ制御部206との間で制御信号を送受信することによってX線撮像部201の撮像動作を制御する。システム制御部272の制御によって、X線が被写体Sに向けて照射され、これによって生じた像がX線撮像部201によって撮像され、画像信号がカメラ制御部206を介して処理部207に入力される。
【0106】
画像処理部271は、X線撮像部201によって生成された画像信号を処理し、被写体Sの画像を生成する。
【0107】
次に、本実施形態のX線撮像装置の動作について説明する。被写体Sが例えばX線源204を内部(背面)に備える撮影台に載置されることによって、被写体SがX線源204と第1回折格子203との間に配置され、X線撮像装置200のユーザ(オペレータ)によって図略の操作部から被写体Sの撮像が指示されると、処理部207のシステム制御部272は、被写体Sに向けてXを照射すべくX線制御部208に制御信号を出力する。この制御信号によってX線制御部208は、X線電源部205にX線源204へ給電させ、X線源204は、X線を放射して被写体Sに向けてX線を照射する。
【0108】
照射されたX線は、被写体Sを介して第1回折格子203を通過し、第1回折格子203によって回折され、タルボ距離L(=Z1)離れた位置に第1回折格子203の自己像であるタルボ像Tが形成される。
【0109】
この形成されたX線のタルボ像Tは、第2回折格子202によって回折され、モアレを生じてモアレ縞の像が形成される。このモアレ縞の像は、システム制御部272によって例えば露光時間などが制御されたX線撮像部201によって撮像される。
【0110】
X線撮像部201は、モアレ縞の像の画像信号をカメラ制御部206を介して処理部207へ出力する。この画像信号は、処理部207の画像処理部271によって処理される。
【0111】
ここで、被写体SがX線源204と第1回折格子203との間に配置されているので、被写体Sを通過したX線には、被写体Sを通過しないX線に対し位相がずれる。このため、第1回折格子203に入射したX線には、その波面に歪みが含まれ、タルボ像Tには、それに応じた変形が生じている。このため、タルボ像Tと第2回折格子202との重ね合わせによって生じた像のモアレ縞は、被写体Sによって変調を受けており、この変調量が被写体Sによる屈折効果によってX線が曲げられた角度に比例する。したがって、モアレ縞を解析することによって被写体Sおよびその内部の構造を検出することができる。また、被写体Sを複数の角度から撮像することによってX線位相CT(computed tomography)により被写体Sの断層画像が形成可能である。
【0112】
そして、本実施形態のX線撮像装置200では、タルボ干渉計を構成する第1回折格子201に、表面の粗さをより低減しつつ比較的厚さの薄い位相型回折格子DGを用いるので、より確実に回折され、より鮮明なX線の像を得ることができる。
【0113】
なお、上述のX線撮像装置200は、X線源204、第1回折格子203および第2回折格子202によってタルボ干渉計を構成したが、X線源204のX線放射側にマルチスリット板をさらに配置することで、タルボ・ロー干渉計を構成してもよい。このようなタルボ・ロー干渉計とすることで、単スリットの場合よりも被写体Sに照射されるX線量を増加することができ、より良好なモアレ縞が得られ、より高精度な被写体Sの画像が得られる。
【0114】
また、上述のX線撮像装置200では、X線源204と第1回折格子203との間に被写体Sが配置されたが、第1回折格子203と第2回折格子202との間に被写体Sが配置されてもよい。
【0115】
また、上述のX線撮像装置200では、X線の像がX線撮像部201で撮像され、画像の電子データが得られたが、X線フィルムによって撮像されてもよい。
【0116】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0117】
DG 位相型回折格子
11 支持体部分
12 格子
12a 第1光学的距離部分
12b 第2光学的距離部分
30 基板
31 基板の基部
32 基板の壁部
33 パターン部材
100A X線用タルボ干渉計
100B X線用タルボ・ロー干渉計
102、203 第1回折格子
103、202 第2回折格子
104 マルチスリット板
200 X線撮像装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1光学的距離に対応する第1厚さを有して所定の規則に従って配列された複数の第1光学的距離部分と、前記第1光学的距離部分を通過したX線に対して所定の位相差を生じさせる第2光学的距離に対応する第2厚さを有して前記複数の第1光学的距離部分に応じて配列された第2光学的距離部分とを入射面と射出面との間に備え、
前記第1光学的距離部分は、1個の光学的要素で構成され、
前記第2光学的距離部分は、複数の光学的要素で構成され、
前記第1光学的距離部分の1個の光学的要素は、前記第2光学的距離部分の複数の光学的要素における各屈折率よりも高い屈折率を持ち、
前記第2光学的距離部分の複数の光学的要素のうちで最も外部に露出する最外露出の光学的要素は、仕様によって許容される表面粗さを持つ厚さであること
を特徴とする位相型回折格子。
【請求項2】
前記第1光学的距離部分の1個の光学的要素は、気体または真空であり、
前記第2光学的距離部分の前記最外露出の光学的要素は、前記第2光学的距離部分の複数の光学的要素における前記最外露出の光学的要素を除く残余の光学的要素の屈折率よりも低い屈折率を持つ物質であること
を特徴とする請求項1に記載の位相型回折格子。
【請求項3】
前記第2光学的距離部分の前記最外露出の光学的要素は、金、白金およびイリジウムのうちのいずれかであり、
前記第2光学的距離部分の前記残余の光学的要素は、シリコン、石英およびアルムニウムのうちのいずれかであること
を特徴とする請求項2に記載の位相型回折格子。
【請求項4】
前記第1光学的距離部分の1個の光学的要素は、気体または真空であり、
前記第2光学的距離部分の前記最外露出の光学的要素に隣接する最外露出隣接の光学要素は、前記第2光学的距離部分の複数の光学的要素における前記最外露出隣接の光学的要素を除く残余の光学的要素の屈折率よりも低い屈折率を持つ物質であること
を特徴とする請求項1に記載の位相型回折格子。
【請求項5】
前記第2光学的距離部分の前記最外露出隣接の光学的要素は、金、白金およびイリジウムのうちのいずれかであり、
前記第2光学的距離部分の前記残余の光学的要素は、シリコン、石英およびアルムニウムのうちのいずれかであること
を特徴とする請求項4に記載の位相型回折格子。
【請求項6】
前記第1光学的距離部分の1個の光学的要素は、樹脂材料であること
を特徴とする請求項1に記載の位相型回折格子。
【請求項7】
前記複数の光学的要素の各厚さの和は、前記第2光学的距離部分の前記第2厚さに等しく、かつ、前記複数の光学的要素のそれぞれについて求められる屈折率と厚さとの積のそれぞれの和は、前記第2光学的距離に等しいこと
を特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の位相型回折格子。
【請求項8】
基板上に、所定の規則に従って配列された複数のパターン部材を仕様によって許容される表面粗さを持つ厚さで形成するパターン部材形成工程と、
所定の位相差を生じさせるように、前記パターン部材形成工程によって形成された前記複数のパターン部材の厚さに応じた深さで、前記パターン部材形成工程で前記複数のパターン部材が形成されていない前記基板の部分をエッチングするエッチング工程とを備えること
を特徴とする位相型回折格子の製造方法。
【請求項9】
前記パターン部材形成工程は、
基板上に、仕様によって許容される表面粗さを持つ厚さで前記パターン部材の材料の膜を形成する成膜工程と、
前記成膜工程で形成された前記膜を、前記所定の規則に従って配列された複数のパターン部材となるようにパターニングするパターニング工程とを備えること
を特徴とする請求項8に記載の位相型回折格子の製造方法。
【請求項10】
前記パターン部材形成工程は、
前記所定の規則に従って配列された複数のパターン部材に対応する領域の前記基板が外部に臨むようにパターニングされたパターニング層を前記基板上に形成するパターニング層形成工程と、
前記パターニング層形成工程後の基板上に、仕様によって許容される表面粗さを持つ厚さで前記パターン部材の材料の膜を形成する成膜工程と、
前記パターニング層を除去する除去工程とを備えること
を特徴とする請求項8に記載の位相型回折格子の製造方法。
【請求項11】
前記エッチング工程のエッチングは、ウェットエッチングまたはドライエッチングであること
を特徴とする請求項8ないし請求項10のいずれか1項に記載の位相型回折格子の製造方法。
【請求項12】
X線タルボ干渉計またはX線タルボ・ロー干渉計に用いられる位相型回折格子を製造する請求項8ないし請求項11のいずれか1項に記載の位相型回折格子の製造方法。
【請求項13】
請求項8ないし請求項11のいずれか1項に記載の位相型回折格子の製造方法によって製造された位相型回折格子。
【請求項14】
X線を放射するX線源と、
前記X線源から放射されたX線が照射されるタルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計と、
前記タルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計によるX線の像を撮像するX線撮像素子とを備え、
前記タルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計は、請求項1ないし請求項7および請求項13のいずれか1項に記載の位相型回折格子を含むこと
を特徴とするX線撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−57520(P2013−57520A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194596(P2011−194596)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】