説明

位相差フィルムの製造方法

【課題】Reが40以上と高くヘイズが0.5%以下と小さい位相差フィルムを製造する。
【解決手段】セルロースアシレートフィルム11を190℃に達するように加熱する。この加熱工程は、セルロースアシレートフィルム11の両側部をクリップ13で把持しながらクリップテンタ18で実施する。クリップテンタ18では、加熱工程の後、このセルロースアシレートフィルムを結晶化温度Tcよりも低い温度に下げる降温工程と幅を拡げる拡幅工程とをこの順で行う。拡幅時のセルロースアシレートフィルム11の温度はガラス転移点Tgよりも高くTcよりも低い。拡幅工程での拡幅率は1.1以上とし、この拡幅工程により位相差フィルム17が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、低電圧・低消費電力で小型化・薄膜化が可能など様々な利点からパーソナルコンピューターや携帯機器のモニター、テレビ用途に広く利用されている。このような液晶表示装置は液晶セル内の液晶の配列状態により様々なモードが提案されているが、従来は液晶セルの下側基板から上側基板に向かって約90°捩れた配列状態になるTNモードが主流であった。
【0003】
一般に液晶表示装置は液晶セル、光学補償シート、偏光子から構成される。光学補償シートは画像着色を解消したり、視野角を拡大したりするために用いられており、延伸した複屈折フィルムや透明フィルムに液晶を塗布したフィルムが使用されている。
【0004】
例えば、特許文献1ではディスコティック液晶をトリアセチルセルロースフィルム上に塗布し配向させて固定化した光学補償シートをTNモードの液晶セルに適用し、視野角を広げる技術が開示されている。しかしながら、大画面で様々な角度から見ることが想定されるテレビ用途の液晶表示装置は視野角依存性に対する要求が厳しく、前述のような手法をもってしても要求を満足することはできていない。そのため、IPS(In−plane Switching)モード、OCB(Optically Compensatory Bend)モード、VA(Vertically Aligned)モードなど、TNモードとは異なる液晶表示装置が研究されている。特にVAモードはコントラストが高く、比較的製造の歩留まりが高いことからTV用の液晶表示装置として着目されている。
【0005】
液晶表示装置の位相差フィルムには、光学的異方性(高いレターデーション値)が要求される。特にVA用の光学補償シートでは40nm以上の面内レターデーション(Re)が必要とされる。
【0006】
位相差フィルムは、液晶ディスプレイにおける液晶層の位相差と合わせることにより、液晶層を通過した後の楕円偏光を直線偏光に近い状態へ変換するものである。そして、液晶層の位相差は一律ではなく、様々である。そのために、用いる液晶層に応じて、組み合わせるべき位相差フィルムを選択する必要がある。
【0007】
位相差フィルムとして用いられるポリマーフィルムには、様々なものがあり、代表的なものとしては、セルロースアシレートからなるフィルムがある。セルロースアシレートフィルムは、所定の方向に引っ張る延伸工程を経て、位相差フィルムとされる。長尺の位相差フィルムを製造する場合には、例えば、セルロースアシレートフィルムの側端部をクリップ等の保持手段により保持して、幅方向に張力を付与して幅を拡げる。この延伸工程により、面方向レタデーションReを上昇させる。なお、Reは、フィルムの厚み方向に直交する方向、すなわちフィルム面方向におけるレタデーション値であり、以下の式(1)により求められる。Nxは位相差フィルムの面での遅相軸方向であるX軸における屈折率、Nyは進相軸方向であるY軸における屈折率、dはフィルムの厚み(nm)である。
Re=(Nx−Ny)×d・・・(1)
【0008】
また、厚み方向におけるレタデーションRthが高いセルロースアシレートフィルムが望まれる場合もある。Rthは以下の式により求められる。なお、Nzは位相差フィルムの厚み方向であるZ軸における屈折率である。
Rth={(Nx+Ny)/2−Nz}×d・・・(2)
【0009】
非特許文献1には、高いレタデーション値を有するセルロースアセテートフィルムが開示されている。非特許文献1の29ページには、ガラス転移点以下の温度で一軸方向あるいは二軸方向に30〜160℃で延伸するセルロースアシレート位相差板の製法が開示されており、溶液製膜法による製膜工程と延伸工程とを逐次あるいは連続して行い、フィルム中に溶媒が残存する状態で延伸することが好ましいとしている。
【0010】
特許文献2ではセルローストリアセテートで高いレタデーション値を実現するために、少なくとも2つの芳香環を有する芳香族化合物、中でも1,3,5−トリアジン環を有する化合物を添加し、延伸処理を行っている。一般にセルローストリアセテートは延伸しにくい高分子素材であり、複屈折率を大きくすることは困難であることが知られているが、添加剤を延伸処理で同時に配向させることにより複屈折率を大きくすることを可能にし、高いレタデーション値を実現している。このフィルムは偏光板の保護膜を兼ねることができるため、安価で薄膜な液晶表示装置を提供することができる利点がある。
【0011】
特許文献3には残留溶媒量10〜100質量%の範囲で温度15〜160℃で少なくとも一方向に1.2〜4.0倍延伸するセルロースエステル光学二軸フィルムが開示されている。
【0012】
また、特許文献4には、残留溶媒量が3%未満のロール状フィルムを送り出し装置から送り出し、延伸温度よりも10℃から40℃低い温度で予熱した後、140℃から180℃に加熱したテンター装置中で幅方向に1.1倍から1.6倍に延伸したことを特徴とする光学用セルロースアシレートフィルムが開示されている。
【特許文献1】特許第2587398号公報
【特許文献2】欧州特許出願公開第911656号明細書
【特許文献3】特開2002−187960号公報
【特許文献4】特開2006−83203号公報
【非特許文献1】発明協会公開技法第2001−1745号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
非特許文献1,特許文献1〜4の方法で高いレタデーション値を有する位相差フィルムを得るにはより高倍率の延伸が必要となるが、これらの方法で得られた位相差フィルムはヘイズ値が高くなり、これらの位相差フィルムを用いた液晶表示装置はコントラストが低下してしまう。さらにこれらの方法で得られる位相差フィルムは寸法安定性が経時的に悪くなりやすく、これを用いた液晶表示装置は、表示画面における外周部や角部に光漏れを生じやすくなるなどの問題点があった。
【0014】
そこで、本発明では、上記問題に鑑み、Reが40以上と高いにも関わらず、ヘイズが0.5%以下と小さく、さらに寸法変化率が小さい位相差フィルムを製造することができる位相差フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の位相差フィルムの製造方法は、長尺のセルロースアシレートフィルムの両側部を保持した状態で、前記セルロースアシレートフィルムを190℃に達するように加熱する加熱工程と、この加熱工程を経たセルロースアシレートフィルムを、190℃未満の温度に保持した状態で拡幅して位相差フィルムとする拡幅工程と、を有することを特徴として構成されている。
【0016】
前記製造方法では、拡幅工程前のセルロースアシレートフィルムの幅をL1、拡幅工程後の幅をL2とし、セルロースアシレートの結晶化温度をTc、ガラス転移点をTgとするときに、拡幅工程では、セルロースアシレートフィルムをTgよりも高くTcよりも低い範囲に温度を保持した状態で、L2≧1.1×L1となるように拡幅することが好ましい。
【0017】
位相差フィルム製造方法は、さらに、セルロースアシレートが溶媒に溶解しているドープを、走行する支持体に連続的に流延して流延膜とする流延工程と、前記溶媒が含まれる流延膜を支持体から湿潤フィルムとして剥がす剥離工程と、湿潤フィルムを、溶媒残留率が2%に達するまで乾燥して前記セルロースアシレートフィルムとする乾燥工程とを有することが好ましい。
【0018】
溶媒残留率が60%であるときの湿潤フィルムの幅をL3、10%であるときの幅をL4とするときに、乾燥工程は、溶媒残留率が60%から10%に減る間の前記湿潤フィルムを、L4≧1.1×L3となるように拡幅する乾燥拡幅工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、Reが40以上と高いにも関わらず、ヘイズが0.5%以下と小さく、さらには、寸法変化率が小さい位相差フィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明の実施様態について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施様態に限定されるものではない。
【0021】
位相差フィルムを製造するために用いるポリマーフィルムとしては、セルロースアシレートからなるセルロースアシレートフィルムを用いる。セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、つまりアシル基の置換度(以下、アシル基置換度と称する)が下記式(I)〜(III)の全ての条件を満足するものがより好ましい。なお、(I)〜(III)において、A及びBはともにアシル基置換度であり、Aにおけるアシル基はアセチル基であり、Bにおけるアシル基は炭素原子数が3〜22のものである。
2.5≦A+B≦3.0・・・(I)
0≦A≦3.0・・・(II)
0≦B≦2.9・・・(III)
【0022】
セルロースを構成しβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部がエステル化されて、水酸基の水素が炭素数2以上のアシル基に置換された重合体(ポリマー)である。なお、グルコース単位中のひとつの水酸基のエステル化が100%されていると置換度は1であるので、セルロースアシレートの場合には、2位、3位および6位の水酸基がそれぞれ100%エステル化されていると置換度は3となる。
【0023】
ここで、グルコース単位の2位のアシル基置換度をDS2、3位のアシル基置換度をDS3、6位のアシル基置換度をDS6とする。DS2+DS3+DS6で求められる全アシル基置換度は2.00〜3.00であることが好ましく、2.22〜2.90であることがより好ましく、2.40〜2.88であることがさらに好ましい。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.32以上であることが好ましく、0.322以上であることがより好ましく、0.324〜0.340であることがさらに好ましい。
【0024】
アシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上であってもよい。アシル基が2種類以上であるときには、そのひとつがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基の水素のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位、3位及び6位におけるアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は2.2〜2.86であることが好ましく、2.40〜2.80であることが特に好ましい。DSBは1.50以上であることが好ましく、1.7以上であることが特に好ましい。そして、DSBはその28%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましいが、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは31%以上、特に好ましくは32%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また、セルロースアシレートの6位のDSA+DSBの値が0.75以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましく、0.85以上であることが特に好ましい。以上のようなセルロースアシレートを用いることにより、溶解性が好ましいドープや、粘度が低く、ろ過性がよいドープを製造することができる。特に非塩素系有機溶媒を用いる場合には、上記のようなセルロースアシレートが好ましい。
【0025】
炭素数が2以上であるアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定されない。例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどがあり、これらは、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることが出来る。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、プロピオニル基、ブタノイル基が特に好ましい。
【0026】
セルロースアシレートフィルム中には、セルロースアシレートの他に各種添加剤が含まれていてもよい。各種添加剤としては、可塑剤、劣化防止剤、紫外線吸収剤、染料、滑り性を向上させるいわゆるマット剤としての微粒子、Re及びRthを上昇させるためのレタデーション上昇剤等が挙げられる。なお、セルロースアシレートフィルムを溶液製膜方法で製造する場合には、流延支持体からの剥離性を良くするためのいわゆる剥離剤を用いることができ、この剥離剤がセルロースアシレートフィルム中に含まれていてもよい。
【0027】
レタデーション上昇剤をセルロースアシレートフィルム中に含ませておくと、含ませない場合に比べて、後述の位相差フィルムの製造工程における拡幅率を小さくしても同様の高さのRe及びRthを発現させることができる。レタデーション上昇剤は、特に限定されず、例えば、特開2006−235483号公報の段落[0030]〜[0142]に記載されるものを用いることができる。中でも、特に好ましいレタデーション上昇剤としては、化1の構造式で示す化合物を挙げることができる。
【0028】
【化1】

【0029】
レタデーション上昇剤を用いる場合には、セルロースアシレートの質量に対して好ましくは2%以上10%以下の割合となるように、より好ましくは3%以上10%以下の割合となるようにレタデーション上昇剤を用いるとよい。この百分率の値は、セルロースアシレートフィルムの質量をx、レタデーション上昇剤の質量をyとするときに、100×x/yで求める値である。
【0030】
図1は、位相差フィルム製造設備の概略図である。位相差フィルム製造設備10は、セルロースアシレートフィルム11を送り出す送出装置12と、この送出装置12から送られてきたセルロースアシレートフィルム11の両側部を保持手段としてのクリップ13により保持して搬送し、搬送されるセルロースアシレートフィルム11の温度制御と、幅を拡げる拡幅とを実施して位相差フィルム17とするクリップテンタ18と、位相差フィルム17の両側部を切断除去する耳切装置21と、位相差フィルム17の温度を調整する温度調整装置22と、位相差フィルム17を巻き取る巻取装置23とを備える。
【0031】
セルロースアシレートフィルム11は、乾燥されたものであり、本実施形態では溶液製膜方法によってつくられて、一旦ロール状に巻き取られたものである。溶液製膜方法によりつくられたセルロースアシレートフィルムを用いる場合には、溶媒含有率が多くても2重量%、すなわち2重量%以下にされているものを用いることが好ましい。これにより、後述の加熱工程と拡幅工程とを実施するヘイズ抑制効果をより高めることになる。
【0032】
セルロースアシレートフィルム11のロールは送出装置12により巻き出されて、クリップテンタ18に送られる。送出装置12は、セルロースアシレートフィルム11のロールの回転を制御する駆動制御部(図示無し)を有し、これによりクリップテンタ18への送り速度が調整される。
【0033】
クリップテンタ18には、セルロースアシレートフィルム11の搬送路の両側部に、セルロースアシレートフィルム11の側部を把持する複数のクリップ13と、この複数のクリップ13が取り付けられ無端で走行するチェーン(図示無し)と、チェーンの軌道を決めるレール(図示無し)と、セルロースアシレートフィルム11の幅方向に延びているスリットを搬送方向に複数有し、これらのスリットから空気をセルロースアシレートフィルム11に向けて送り出す送風ダクト26と、この送風ダクト26に空気を送る送風機27とが備えられる。送風ダクト26は、内部がセルロースアシレートフィルム11の搬送方向で複数に区画されており、前記スリットはフィルム搬送路に対向するように各区画に形成されている。各スリットから流出される空気は、送風ダクト26に接続された送風機27により送風ダクト26に送られる。送風機27には、送風ダクト26の各区画のスリットからの空気の送り出しのオン・オフ、風量、風速、空気の温度及び湿度を制御するコントローラ(図示無し)が備えられ、このコントローラが、区画毎に、送り出す空気の温湿度と流量とを独立して制御する。レールにはシフト機構(図示無し)が備えられ、このシフト機構は、レールをセルロースアシレートフィルム11の幅方向に移動させ、これによりチェーンは変位する。
【0034】
セルロースアシレートフィルム11は、クリップテンタ18に案内されると、各側部をクリップ13で把持され、クリップ13の走行により搬送される。両側部のうち一方のクリップ13と他方のクリップ13との距離を変化させることによりセルロースアシレートフィルム11の幅方向に付与される張力を変化させ、これにより幅を変えることができる。クリップテンタ18における工程についての詳細は、別の図面を用いて後述する。
【0035】
クリップテンタ18の位相差フィルム17は、耳切装置21に案内されて両側部を連続的に切断除去される。これにより、クリップ13で把持されていた把持箇所が、製品となる中央部と分離される。切り取られた両側部は、ロータリカッタ(図示無し)を備えるクラッシャ28に送られて細かいチップ状に切断される。
【0036】
温度調整装置22には、位相差フィルム17を周面で支持してローラ31が複数備えられる。これらのローラ31の中には、周方向に回転駆動することにより位相差フィルム17を搬送する駆動ローラが含まれる。温度調整装置22の内部には、位相差フィルム17の幅方向に延びたスリット(図示せず)が搬送方向に複数設けられた送風ダクト32が備えられており、この送風ダクト32から冷風が流出することにより位相差フィルム17を冷却する。
【0037】
温度調整装置22で冷却された位相差フィルム17は、巻取装置23に送られてロール状に巻かれる。
【0038】
図2は、クリップテンタ18におけるセルロースアシレートフィルム11の説明図である。矢線Yは、セルロースアシレートフィルム11の搬送方向である。クリップテンタ18では、セルロースアシレートフィルム11に、矢線X1,X2で示す幅方向に張力を加える。クリップ13(図1参照)によるセルロースアシレートフィルム11の保持を開始する位置を保持開始位置PS、保持を解除する位置を保持解除位置PEとする。クリップテンタ18の入口は保持開始位置PSよりも上流側、出口は保持解除位置よりも下流側にあるが、図2においては図示を略す。
【0039】
セルロースアシレートフィルム11は、クリップテンタ18に入ると、送風ダクト26から流出される空気により加熱され、温度が上昇する。そして、セルロースアシレートの結晶化温度Tc以上の温度になるようにセルロースアシレートフィルム11を加熱する。この工程を加熱工程と称するものとする。従来は、ポリマーフィルムを加熱するに際してはポリマーができるだけ結晶化しないように、つまり非晶質部分ができるだけ多くなるように条件を設定し、温度条件については結晶化温度Tcよりも低い温度に抑えられてきた。これは、ポリマーが結晶化すると、通常は、透明性が落ちるからである。これに対し、本発明では、位相差フィルム17の素材としてセルロースアシレートフィルムを用い、後述の拡幅工程の前に、結晶化温度Tc以上の温度になるようにセルロースアシレートフィルム11を加熱する加熱工程を実施する。すなわち、積極的、意図的に、セルロースアシレートフィルム11を昇温させてセルロースアシレートの結晶化温度Tc以上にする。これにより、セルロースアシレートフィルム11の透明性が向上、すなわちヘイズが低下する。
【0040】
なお、セルロースアシレートは非晶質ポリマーの代表的存在であるが、結晶化温度Tcが検出される場合がある。しかし、結晶化温度Tcよりも高い温度で結晶化がもし起きていたとしても、他のポリマーと比べて、結晶部の体積が非常に小さいのではないかと考えられる。このために、結晶化しても、ヘイズを上昇させるほどには結晶部が大きくならずに微結晶領域が点在したものとなると推察する。そして、この結晶部の発生及び成長により起こりうるヘイズの上昇よりも、セルロースアシレートフィルム11の中に通常存在している極微小なボイド(空隙)が高温加熱により消失するという加熱の効果の方が非常に大きく、このため位相差フィルム17としてのヘイズが低減する結果が得られるものと考えられる。
【0041】
セルロースアシレートフィルム11を加熱により昇温させて結晶化温度Tcに達した位置を温度保持開始位置P1、結晶化温度Tc以上の温度に保持することを終了する、すなわち、降温させて結晶化温度Tc未満の温度になった位置を温度保持終了位置P2と称する。本実施形態では、セルロースアシレートフィルム11の搬送路に沿って、非接触式の温度検知手段を複数設け、搬送されるセルロースアシレートフィルム11の温度を複数位置で測定し、セルロースアシレートフィルム11の温度がTcに達した位置を検知するが、この方法に限定されない。例えば、送風ダクト26からの空気の温度と、この空気によるセルロースアシレート11の単位時間あたりの上昇温度すなわち温度上昇速度との関係を予め求めておき、送風ダクト26からの空気の温度及び流量とクリップ13の走行速度との関係から温度保持開始位置P1を求めることはできる。
【0042】
結晶化温度Tcには、昇温結晶と降温結晶との両温度があり、加熱工程を開始した場合の上記結晶化温度Tcは昇温結晶での温度である。昇温結晶の温度は、JIS K7121に従って示差走査熱量測定により求めることができる。温度保持開始位置P1は、送風ダクト26(図1参照)からの空気の温度や流量によって変位するが、変位させることの容易さの観点からは、温度保持終了位置P2を変位させる方が好ましい。例えば、セルロースアシレートフィルム11のヘイズが小さくなりにくい場合には、小さくなりやすい場合よりも、温度保持終了位置P2が下流側になるように、送風ダクト26からの空気の温度や風量を設定するとよい。
【0043】
温度保持開始時位置P1から温度保持終了位置P2までの距離は、例えば、以下の(1)〜(3)の方法でそれぞれ決定することができる。ただし、この方法に限られるものではない。
(1)位相差フィルム17とすべきセルロースアシレートフィルム11からサンプリングして、そのサンプルにつきTs以上の温度に加熱する。加熱した後、ヘイズを測定する。このようにして温度保持時間とヘイズとの関係を予め求めておき、この関係とクリップ13の移動速度とから温度保持開始時位置P1から温度保持終了位置P2までの距離を求める。この場合には、Tc以上での温度保持の後に、一方向へ延伸して広げたサンプルでヘイズと温度保持時間との関係を求めることがより好ましい。
(2)クリップテンタ18の下流側の搬送路に、位相差フィルム17に向けて光を射出する光源と、位相差フィルム17を介してこの光源に対向するように設けられ、入射光の強度を測定する受光部とにより、位相差フィルム17の透明度を測定し、目標とする透明度との差に応じて温度保持開始時位置P1から温度保持終了位置P2までの距離を求める。目標とする透明度に至っていない場合には、両位置P1,P2の距離をさらに長く設定する。なお、この方法を用いる場合には、目標とするヘイズと上記光源及び受光部により求める透明度との関係を予め求めておくことが好ましい。
(3)位相差フィルム17とすべきセルロースアシレートフィルム11からサンプリングし、このサンプルをTc以上に加熱する。加熱したサンプルにつき、示差走査熱量測定(DSC)を実施し、結晶化温度Tcが検出されるか否かを確認する。検出される場合には、他のサンプルにつき温度保持時間がさらに長くなるように加熱する。そして、結晶化温度Tcが認められない程度にまで温度保持時間を長くする。つまり結晶化温度Tcが認められない程度となる温度保持時間を求め、これとクリップ13の移動速度とにより両位置P1,P2の距離を決定する。
【0044】
セルロースアシレートフィルム11の温度を結晶化温度Tc以上に保持する時間は、3秒以上3分以下の範囲であることが好ましい。そして、この時間は連続することが好ましい。3秒よりも短いとセルロースアシレートフィルム11の中に通常存在している極微小なボイド(空隙)が消失せず、そのためヘイズが0.5以下であるような位相差フィルムが得られない場合がある。セルロースアシレートフィルム11の中にシリカ等の微粒子を含まれている場合には、3秒以上という時間を継続して結晶化温度Tc以上に保持することでヘイズの低減効果が顕著にみられる。3分よりも長くても、ヘイズの低減効果のさらなる上昇の見込みが極めて薄いので、3分よりも長く継続して温度保持する必要はほとんどない。また、3分よりも長くした場合には、Reを40nm以上に大きくすることができない場合がある。
【0045】
保持すべき温度(以降、保持温度と称する)の上限値は、セルロースアシレートの熱劣化やセルロースアシレートフィルム11に含まれる添加剤の種類を考慮する点を除くと、特に限定されない。添加剤を同定することができない場合には、Tc+50℃を上限値とするとよく、すなわち、加熱工程でのセルロースアシレートフィルム11の保持温度は、Tc以上(Tc+50℃)以下の範囲にするとよい。なお、上記の時間連続してこの範囲にあるならば、保持温度は一定である必要はなく、変化していてもよい。つまり、温度保持開始位置P1から温度保持終了位置P2までの搬送区間におけるセルロースアシレートフィルム11の温度は上記温度範囲で変化してよい。
【0046】
セルロースアシレートの結晶化温度Tcは、アシル基の種類、アシル基置換度により異なるので、用いるセルロースアシレートフィルム11毎に結晶化温度Tcを実際に測定することが好ましい。しかしながら、実際に測定せずとも、加熱工程で190℃に達するようにセルロースアシレートフィルム11を加熱すればよく、保持温度は190℃以上240℃以下の範囲とすることが好ましく、200℃以上220℃以下の範囲とすることがより好ましい。保持温度が190℃よりも低いと、例えばセルロースアシレートの種類やセルロースアシレートフィルム11の性状によっては、ヘイズの低減する効果が十分には得られない場合がある。つまり、ヘイズが0.5よりも大きくなる場合が無いとは言えない。一方、240℃よりも高い保持温度では、セルロースアシレートフィルム11に含まれる低分子化合物の添加剤が気化してしまうことがあるし、250℃よりも高い保持温度ではセルロースアシレートが分解してしまうことがある。
【0047】
また、セルロースアセテート(TAC)のように結晶化温度Tcが検出されるものの他に、セルロースアシレートの中には、アシル基の種類により、結晶化温度Tcが検出されないものもある。このようなセルロースアシレートとしては、例えば、アシル基としてアシル基とプロピオニル基との両方をもつセルロースアセテートプロピオネート(CAP)がある。CAPは、TACよりも融点が低く、また部分的にでも結晶化するものか否かについては未確認である。しかし、このように結晶化温度Tcが検出されないセルロースアシレートの場合にも、加熱工程を実施し、この加熱工程で190℃に達するようにセルロースアシレートフィルム11を加熱すればよく、保持温度は190℃以上240℃以下の範囲とすることが好ましく、200℃以上220℃以下の範囲とすることがより好ましい。
【0048】
セルロースアシレートフィルム11の温度を上記の範囲に保持するためには、セルロースアシレートフィルム11の搬送路の温度が190℃以上240℃以下の範囲に保持されるように送風ダクト26からの空気の温度と流量とを制御することが好ましい。
【0049】
加熱工程は、セルロースアシレートフィルム11を拡幅せずに、すなわち非拡幅で実施することが好ましく、幅を一定に保持した状態で実施することがより好ましい。つまり、拡幅も縮幅(幅を小さくすること)もせずに、保持開始位置P2における第1幅L1を一定に保持するように、クリップ13を走行させることが最も好ましい。なお、図2において符号KLは、クリップ13で保持されるセルロースアシレートフィルム11の保持対象部のうち、セルロースアシレートフィルム11の幅方向における最も中央部側の位置を表し、セルロースアシレートフィルム11及び位相差フィルム17の幅とは、いずれも両側の保持対象ラインKL間の距離である。
【0050】
クリップテンタ18では、加熱工程の後を経たセルロースアシレートフィルム11を、Tcよりも低い温度あるいは190℃未満の温度に保持した状態で拡幅する拡幅工程を実施する。拡幅を開始する位置を拡幅開始位置P3、拡幅を終了する位置を拡幅終了位置P4と称する。この拡幅工程の前に、加熱工程を終えたセルロースアシレートフィルム11の温度を、Tcよりも低い温度に下げる降温工程を実施することがより好ましい。拡幅は、セルロースアシレートフィルム11の温度がTcよりも低い温度になった後に開始することが好ましく、拡幅開始位置P3ができるだけ上流側になるようにすることが生産効率の上では好ましいからである。
【0051】
温度保持終了位置P2の下流の搬送路における送風ダクト26からの空気の温度を、温度保持終了位置P2の上流側におけるよりも低く設定しておくことにより、降温工程を実施することができる。
【0052】
この降温工程により、セルロースアシレートフィルム11の温度をTcよりも低い温度にまで下げる。セルロースアシレートの結晶化温度につき、昇温結晶での温度と降温結晶での温度とが互いに異なる場合には、加熱工程の場合と同様に昇温結晶での温度をTcとみなしてよい。
【0053】
セルロースアシレートフィルム11に含まれるセルロースアシレートのガラス転移点をTgとするときに、後工程である拡幅工程では、Tgよりも高くTcよりも低い範囲にセルロースアシレートフィルム11の温度を保持した状態で拡幅することが好ましいので、降温工程では、セルロースアシレートフィルム11をTgよりも高くTcよりも低い温度範囲になるように送風ダクト26からの空気により温度調整することが好ましい。Tgは、JIS K7121に従い、示差走査熱量測定により測定することができる。
【0054】
TgやTcを測定することができない場合等、これらを予め測定しない場合には、降温工程で150℃よりも高く190℃よりも低い温度になるようにセルロースアシレートフィルム11の温度を下げればよく、160℃以上180℃以下の範囲とすることがより好ましい。190℃以上では、拡幅工程を実施してもレタデーションが位相差フィルムとして用いるに十分な程度には上がらない場合があるからである。一方、150℃よりも低い温度にまでセルロースアシレートフィルム11の温度を下げてしまってそのまま拡幅工程に移行すると、拡幅工程での張力付与により、セルロースアシレートフィルム11が裂けてしまったり、位相差フィルム17のヘイズが高くなってしまう等、前述の加熱工程の効果が薄れることがある。そこで、降温工程でも、150℃よりも低い温度とならないように、送風ダクト26からの送風による加熱は実施してもよい。
【0055】
セルロースアシレートフィルム11の搬送路に沿って複数設けられる非接触式の温度検知手段により、搬送されるセルロースアシレートフィルム11の温度を測定し、セルロースアシレートフィルム11の温度がTcに達した位置を検知し、これを降温終了位置P5とすることができるが、この方法に限定されない。例えば、温度保持開始位置P1を求める場合と同様に、送風ダクト26からの空気の温度と、この空気によるセルロースアシレート11の単位時間あたりの下降温度すなわち温度下降速度との関係を予め求めておき、送風ダクト26からの空気の温度及び流量とクリップ13の走行速度との関係から降温終了位置P5を求めることができる。
【0056】
降温工程でも加熱工程と同様に、非拡幅とし、第1幅L1を保持することが好ましい。
【0057】
降温工程を経てTc未満の温度、好ましくは150℃以上190℃以下の温度にされたセルロースアシレートフィルム11は、位相差フィルム17としてのレタデーション値を発現するための拡幅工程に供される。拡幅工程の間は、上記温度範囲にセルロースアシレートフィルム11の温度を保持し、160℃以上180℃以下の範囲に保持することがより好ましい。これにより、後述の拡幅率で拡幅する場合のレタデーション値の上昇とセルロースアシレートフィルム11が裂けないように防止することとの両効果がより向上する。
【0058】
拡幅工程により得られる位相差フィルム17の幅、すなわち拡幅終了位置P4における位相差フィルム17の幅を第2幅L2と称する。L2/L1で求める拡幅率が1.1以上となるように、すなわち、L2≧1.1×L1となるように、拡幅することが好ましい。この拡幅は、2.0×L1≧L2≧1.1×L1となるように実施することがより好ましく、1.7×L1≧L2≧1.1×L1がさらに好ましい。拡幅率が1.1よりも小さいと、レタデーション値、特にReが、レタデーション上昇剤を用いた場合でも位相差フィルムとして十分な程度に高くはならないことがある。一方、拡幅率が2.0よりも大きいと、セルロースアシレートフィルム11が裂けてしまうことを防止するためにセルロースアシレートフィルム11の温度をTc以上に上げなければならない場合があり、これにより、レタデーション上昇剤を加えてもレタデーションが十分に上がらなくなることがある。
【0059】
セルロースアシレートフィルムに対して、以上のような加熱工程と加熱工程後の拡幅工程とを実施することにより、レタデーションが40以上と高いにも関わらずヘイズが0.5以下と低い位相差フィルムをセルロースアシレートフィルムからつくることができる。得られる位相差フィルムは、さらに、Rthも70以上と高いものとなる。
【0060】
上記の方法によると、セルロースアシレートフィルム11が、溶液製膜工程で拡幅されているか否かに関わらず、すなわち、セルロースアシレートフィルム11として非拡幅のものを用いても、高いReと低いヘイズとを有する位相差フィルムを製造することができる。そして、さらに、溶液製膜工程でも所定条件の拡幅を実施する場合には、ヘイズをより低くするとともに、ヘイズ低減のための上記加熱工程を実施することにより、溶液製膜工程での拡幅により生じた歪みが緩和されるので寸法安定性が向上した、すなわち寸法変化率がより小さな位相差フィルムをつくることができる。以下に溶液製膜工程と組み合わせた態様につき説明する。
【0061】
[ドープの原料及び製造方法]
セルロースアシレートフィルム11を溶液製膜方法で製造する場合には、セルロースアシレートが溶媒に溶解されたドープをつくる。前述の各種添加剤も、このドープ中に含ませておく。
【0062】
セルロースアシレートを溶解し、ドープの溶媒成分となる液体としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが例示される。なお、添加剤の中には、これらに溶解せずに分散して使用されるものもある。
【0063】
上記溶媒の中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく、ジクロロメタンが最も好ましい。そして、セルロースアシレートの溶解性、流延支持体からの流延膜の剥ぎ取り性、位相差フィルムの機械的強度、位相差フィルムの光学特性等の観点から、炭素原子数1〜5のアルコールを一種ないし数種類を、ジクロロメタンに混合して用いることが好ましい。このとき、アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%であることが好ましく、5重量%〜20重量%であることがより好ましい。アルコールの好ましい具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノール等が挙げられるが、中でも、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0064】
環境に対する影響を最小限に抑えることを目的にした場合には、ジクロロメタンを用いずにドープを製造してもよい。この場合の溶剤としては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルが好ましく、これらを適宜混合して用いることがある。これらのエーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−,−CO−及び−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。また、溶媒は、例えばアルコール性水酸基のような他の官能基を化学構造中に有するものであってもよい。
【0065】
各種添加剤及び溶剤については、特開2005−104148号公報の段落[0196]から段落[0516]に詳細に記載されており、これに記載される各種添加剤及び溶剤も本発明に適用することができる。
【0066】
流延すべきドープの製造方法は特に限定されず、公知の製造方法を適用してよい。ただし、流延されたドープからなる流延膜を冷却により固化させて剥ぎ取るいわゆる冷却流延の場合には、流延膜を乾燥して剥ぎ取るいわゆる乾燥流延の場合のドープよりも、セルロースアシレート等の固形分の濃度が高くなるように、ドープを製造することが好ましい。固形分濃度が高くする方法としては、いわゆるフラッシュ濃縮法を用いることが好ましい。フラッシュ濃縮法とは、目的とする濃度よりも低い濃度のドープを一旦つくり、このドープ51を公知のフラッシュ装置で吹き出させることにより溶媒の一部を蒸発させる方法である。
【0067】
流延すべきドープは、セルロースアシレートの濃度が5重量%〜40重量%であることが好ましく、15重量%以上30重量%以下の範囲とすることがより好ましく、17重量%以上25重量%以下の範囲とすることがさらに好ましい。
【0068】
[フィルム製造設備及び方法]
図3は、溶液製膜部を含む位相差フィルム17の製造設備の概略図である。図3の位相差フィルム製造設備50においては、図1の位相差フィルム製造設備10と同じ装置や部材については、図1と同じ符号を付し、説明を略す。
【0069】
位相差フィルム製造設備50は、ドープ51からセルロースアシレートフィルム11をつくる溶液製膜部52と、溶液製膜部52で得られたセルロースアシレートフィルム11を位相差フィルム17とする光学制御部53とを備える。この位相差フィルム製造設備50は、図1の位相差フィルム製造設備10の送出装置12に代えて溶液製膜部52が備えられたものとされている。すなわち、溶液製膜部52の下流側には、位相差フィルム製造設備10のクリップテンタ18が接続し、このクリップテンタ18から下流側が光学制御部53である。
【0070】
溶液製膜部52には、ドープ51を流延して流延膜56を形成し、溶媒を含んだ湿潤フィルム57とするための流延室58と、湿潤フィルム57の両側端部を保持手段としてのクリップ61により保持して湿潤フィルム57を拡幅するクリップテンタ62と、湿潤フィルム57の両側端部を切り離す耳切装置87と、湿潤フィルム57を複数のローラ66に掛け渡して搬送しながら乾燥してセルロースアシレートフィルム11とする乾燥室67とが上流側から順に備えられる。
【0071】
流延室58には、案内されてきたドープ51を連続的に流出する流延ダイ71と、流延ダイ71のドープ流出口に対向して備えられる無端のバンド72と、バンド72がかけ渡されこれを連続走行させるふたつのバックアップローラ73とを備える。
【0072】
流延ダイ71には、バンド72に向けて流出するドープ51の温度が所定温度に保持されるように、流延ダイ71の温度を制御する温度コントローラ(図示なし)が取り付けられる。ふたつのバックアップローラ73のうち、少なくともいずれか一方は、駆動手段(図示せず)により周方向へ回転する。走行するバンド72の上に流延ダイ71から連続的にドープ51を流出することにより、バンド72の上でドープ51が流延されて流延膜56が形成される。
【0073】
バックアップローラ73には、バックアップローラ73に所定の温度の伝熱媒体を供給して、バックアップローラ73の周面温度を制御する伝熱媒体循環装置76が備えられる。バックアップローラ73の内部には、伝熱媒体の流路(図示せず)が形成されており、その流路中を、伝熱媒体が通過することにより、バックアップローラ73の周面温度が所定の値に保持され、このバックアップローラ73に接触するバンド72の温度が制御される。バンド72の温度は、溶媒の種類、固形成分の種類、ドープ51の濃度等に応じて適宜設定する。
【0074】
バンド72の走行方向における流延ダイ71の上流側には、空気を吸引する減圧チャンバ77が備えられる。減圧チャンバ77による空気の吸引により、ビードとして流出されたドープ51の上流側のエリアを減圧して下流側のエリアよりも低い圧力にする。
【0075】
流延室58には、その内部温度を所定の値に保つための温調装置78と、ドープ51及び流延膜56から蒸発した溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)81とが設けられる。そして、凝縮液化した溶媒を回収するための回収装置82が流延室58の外部には設けられてある。
【0076】
流延室58の下流に設けられるクリップテンタ62は、光学制御部53のクリップテンタ18と同じ構成とされており、すなわち、湿潤フィルム57の搬送方向に延び、温度調整された空気を湿潤フィルム57に対して上方から吹き付けるように送り出す送風ダクト83と、この送風ダクト83に空気を送る送風機86とを備える。
【0077】
耳切装置87は、光学制御部53の耳切装置21と同じ構成とされており、湿潤フィルムの両側部を切り取る。そして、この耳切装置87は、切り取られた湿潤フィルム17の側端部屑を細かく切断処理するためのクラッシャ88を備える。
【0078】
乾燥室67には、湿潤フィルム57から蒸発した溶媒、すなわち溶媒ガスを吸着して回収する吸着回収装置91が接続する。
【0079】
次に、位相差フィルム製造設備50により位相差フィルム17を製造する方法の一例を説明する。ドープ51は、伝熱媒体により冷却されたバンド72に流延ダイ71から流延される。流延時におけるドープ51の温度は30〜35℃の範囲で一定、バンド72の表面温度は35〜40℃の範囲で一定とされることが好ましい。流延室58の温度は、温調装置78により30℃〜35℃とされることが好ましい。なお、流延室58の内部で蒸発した溶媒は回収装置82により回収された後、再生させてドープ製造用の溶媒として再利用される。
【0080】
流延ダイ71からバンド72にかけては流延ビードが形成され、バンド72の上には流延膜56が形成される。流延ビードの様態を安定させるために、このビードに関し上流側のエリアは、所定の圧力値となるように減圧チャンバ77で制御される。ビードに関して上流側のエリアの圧力は、下流側のエリアよりも2000Pa〜10Pa低くすることが好ましい。なお、減圧チャンバ77にジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つようにすることが好ましい。この温度は、ドープの溶媒の凝縮点以上であることが好ましい。
【0081】
流延膜56をバンド72から剥ぎ取るに十分な程度にまで乾燥する。乾燥は、バンド72の近傍に送風ダクト(図示無し)を設け、この送風ダクトから流延膜56に空気を送ることにより実施することができる。剥ぎ取りは、バンド72の下流側から湿潤フィルム57を引っ張り、この湿潤フィルム57が搬送路に備えられたローラ92に支持されることにより、なされる。剥ぎ取り時の流延膜の溶媒残留率は、20%以上100%以下であることが好ましい。本明細書において溶媒残留率(単位;%)は乾量基準の値であり、具体的には、溶媒の重量をx、流延膜56の重量をyとするときに、{x/(y−x)}×100で求める値である。
【0082】
溶媒を含んだ状態でバンド72から剥ぎ取られた湿潤フィルム57は、クリップテンタ62に案内されると、その両側端部が保持手段としてのクリップ61に把持されて下流側へ搬送される。この搬送の間に、湿潤フィルム57は送風ダクト83から送り出される空気により乾燥をすすめられる。
【0083】
なお、湿潤フィルム57の温度は、送風ダクト83から流出される空気により制御される。送風ダクト83のスリットは、湿潤フィルム57の搬送路近傍に設けられており、流出される空気の温度と湿潤フィルム57の温度とは同じ温度とみなしてよい。なお、クリップテンタ62における湿潤フィルムの温度については、別の図面を用いて後述する。
【0084】
なお、クリップテンタ62では湿潤フィルム57が下流に進むに従い湿潤フィルム57の溶媒残留率は徐々に減る。そこで、下流に進むほど湿潤フィルム57の温度が高くなるように、下流ほど高い温度の空気を送風ダクト83から送り出してもよい。そして、湿潤フィルム57は、溶媒残留率が10%に達するまではこのクリップテンタ62で乾燥を進められる。したがって、10%より低い溶媒残留率になってもこのクリップテンタ62で乾燥を続けてもよい。
【0085】
クリップテンタ62では、湿潤フィルム57を、幅方向に引っ張る。湿潤フィルム57は、溶媒の減少に伴い幅方向に縮む、すなわち縮幅することがあるが、このクリップテンタ62では縮幅、幅の保持、拡幅のいずれを実施してもよいが、後述のように、拡幅工程を所定条件で実施することがより好ましい。
【0086】
なお、乾燥流延に代えて冷却流延を実施する場合には、クリップテンタ62に代えて、保持手段がピンである公知のいわゆるピンテンタを用いることが好ましい。
【0087】
クリップテンタ62からの湿潤フィルム57は、ピンで保持されていた両側端部を耳切装置87により切断除去される。切り離された両側端部はカッターブロワ(図示なし)によりクラッシャ88に送られる。クラッシャ88により、側端部は粉砕されてチップとなる。このチップはドープ製造用に再利用されるので、原料の有効利用を図ることができる。
【0088】
一方、両側端部を切断除去された湿潤フィルム57は、乾燥室67に送られて、さらに乾燥される。この乾燥は、溶媒残留率が2%に達するまで、すなわち0以上2%以下の範囲になるまで実施し、この乾燥によりセルロースアシレートフィルム11が得られる。乾燥室67では、湿潤フィルム57はローラ66に巻き掛けられながら搬送される。乾燥室67の内部温度は、特に限定されるものではないが、50〜160℃とすることが好ましい。なお、乾燥室67は、送風温度を変えるために、湿潤フィルム57の搬送方向で複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置87と乾燥室67との間に予備乾燥室(図示せず)を設けて位相差フィルム17を予備乾燥すると、乾燥室67で位相差フィルム17の温度が急激に上昇することが防止されるので、乾燥室67での湿潤フィルム57の形状変化を抑制することができる。
【0089】
乾燥室67で蒸発して発生した溶媒ガスは、吸着回収装置91により吸着回収される。溶媒成分が除去された空気は、乾燥室67の内部に乾燥風として再度送られる。
【0090】
溶媒残留率が0以上2%以下の範囲とされたセルロースアシレートフィルム11は、光学制御部のクリップテンタ18に送られる。そして、図1の位相差フィルム製造設備10を用いた場合と同様の工程を経て位相差フィルム17が製造される。
【0091】
流延ダイ、減圧チャンバ、支持体などの構造、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取り方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されており、これらの記載は本発明に適用することができる。
【0092】
図4は、クリップテンタ62のクリップ61(図3参照)での保持を開始してから解除するまでの湿潤フィルム57の説明図である。矢線Yは、湿潤フィルム57の搬送方向である。クリップテンタ62では、湿潤フィルム57を矢線X1,X2で示す幅方向に張力を加える。クリップテンタ62において、クリップ61による保持を開始する位置を保持開始位置PS、保持を解除する位置を保持解除位置PE、バンド72からの剥ぎ取り位置を剥ぎ取り位置PPとする。なお、クリップテンタ62の入口は保持開始位置PSよりも上流側、出口は保持解除位置PEよりも下流側にあるが、図4においては図示を略す。
【0093】
剥ぎ取り位置PPでバンド72から剥がされてから保持開始位置PSに至るまでも湿潤フィルム57からは徐々に溶媒が蒸発し、また、クリップテンタ62では送風ダクト83からの乾燥風の流出によりさらに蒸発が進められて湿潤フィルム57の溶媒残留率はさらに低くされる。溶媒残留率が60重量%となる位置を第11位置P11、10重量%となる位置を第12位置P12とする。
【0094】
クリップテンタ62では、湿潤フィルム57は結晶化温度Tcよりも低い温度に保持されて乾燥を進められる。クリップテンタ62における湿潤フィルム57の温度は、100℃以上160℃以下の範囲で一定であることがより好ましく、110℃以上150℃以下の範囲で一定であることがより好ましい。
【0095】
そして、前述の通り、クリップテンタでは拡幅を実施することがより好ましい。ただし、この拡幅は、溶媒残留率が60%以上10%以下の範囲で実施する。つまり、第11位置P11から第12位置P12までの間の搬送路にて実施する。この工程を、以下、乾燥拡幅工程と称する。乾燥拡幅工程の開始位置である第13位置P13は、第11位置P11と同じまたは第11位置P11と第12位置P12との間であり、乾燥拡幅工程の終了位置である第14位置P14は、第12位置P12と同じまたは第13位置P11と第12位置P12との間である。
【0096】
第13位置P13における湿潤フィルム57の幅を第3幅L3、第14位置における幅を第4幅L4とする。ここで、図4では、保持開始位置PSから第13位置P13までの間は、湿潤フィルム57の幅を一定に保持しておく態様を示している。そして、乾燥拡幅工程では、L4/L3で求める拡幅率が1.1以上となるように、すなわち、L4≧1.1×L3となるように、拡幅することが好ましい。この拡幅は、1.5×L3≧L4≧1.1×L3となるように実施することがより好ましく、1.4×L3≧L4≧1.1×L3がさらに好ましい。
【0097】
光学制御部53における拡幅工程に加えてこの乾燥拡幅工程を実施することにより、得られる位相差フィルム17のヘイズはより低いものとなり、さらに寸法安定性が向上するという効果が得られる。この寸法安定性は、温度が60℃、相対湿度が90%の環境下でのものである。
【0098】
この乾燥拡幅工程を実施する場合には、光学制御部53のクリップテンタ18における拡幅工程での拡幅率をより小さくすることができる。そして、所定のReを発現するための拡幅率をRAとするときに、乾燥拡幅工程を実施せずに拡幅工程での拡幅率L2/L1をRAとする場合よりも、拡幅工程での拡幅率L2/L1と乾燥拡幅工程L4/L3とをともにゼロより大きくして結果的にL2/L3がRAとなるようにする場合の方が好ましい。これにより、Re値が等しくても、ヘイズの低さと寸法安定性とにおいて、より優れた位相差フィルム17をつくることができる。
【0099】
上記のようなタイミング及び拡幅率で乾燥拡幅工程を実施することにより、位相差フィルム17のヘイズをより低下させ、かつ、寸法安定性も向上させることができる。
【0100】
この実施態様では、湿潤フィルム57の乾燥を、溶媒残留率が2%以下となるようにクリップテンタ62と乾燥室67とで実施する。さらに、本実施形態ではふたつのクリップテンタ62,18を用いているが、これをひとつのクリップテンタとし、かつ、乾燥室67を用いずに、ひとつのクリップテンタ内で、湿潤フィルムの乾燥工程と、この乾燥工程に含まれる乾燥拡幅工程と、乾燥工程の後の加熱工程と、拡幅工程とを実施してもよい。
【0101】
また、本実施形態は、溶液製膜部52と光学制御部53とを接続し、乾燥工程と加熱工程とを連続して実施するものを挙げているが、これに限定されない。例えば、溶液製膜部52で得られるセルロースアシレートフィルム11を巻取装置で一旦巻きとり、このセルロースアシレート11をつかって図1の位相差フィルム製造設備10により位相差フィルム17を製造することができる。
【0102】
本発明は、以上の態様により、Reが40nm以上100nm以下の位相差フィルムをつくる場合にヘイズの抑制と寸法安定性との両効果があり、Reが40nm以上60nm以下の位相差フィルムをつくる場合により効果がある。具体的には、ヘイズを0.5以下、さらには0.3以下にまで低く抑えることができ、また、寸法安定性については、位相差フィルムの長手方向における寸法変化率を−0.3〜+0.3程度の範囲にまで、幅方向における寸法変化率を−0.2〜+0.2程度の範囲にまで、それぞれ小さく抑えることができる。また、本発明は、上記のヘイズと寸法安定性とを満足し、70nm以上250nm以下の範囲のRthをもつ位相差フィルムをつくることができ、より確実には110〜120nmのRthをもつ位相差フィルムをつくることができる。
【0103】
さらに、本発明では、レタデーション上昇剤をもちいることにより、拡幅工程と乾燥拡幅工程での拡幅率をより小さく設定しても上記のRe、ヘイズ、寸法安定性を満たす位相差フィルムを、より容易に製造することができる。
【0104】
本発明は、幅が1400mm以上2500mm以下、中でも1800mm以上2500mm以下である位相差フィルムを製造する場合に特に効果があり、また、厚みが20μm以上60μm以下の薄い位相差フィルムを製造する場合に特に効果がある。
【実施例1】
【0105】
下記の処方のドープ51をつくった。固形分濃度は19.4重量%である
セルロースアシレート 100重量部
(置換度2.81のセルローストリアセテート、粘度平均重合度305.6%、ジクロロメタン溶液6質量%の粘度 350mPa・s)
ジクロロメタン(溶媒の第1成分) 403重量部
メタノール(溶媒の第2成分) 60.2重量部
化1に示すレタデーション上昇剤 7.4重量部
トリフェニルホスフェート 7.9重量部
ビフェニルジフェニルホスフェート 3.9重量部
【0106】
なお、レタデーション上昇剤の量を5.4重量部に代えたドープ51もつくった。
【0107】
上記ドープ51を用いて、位相差フィルム製造設備50により、互いに異なる12の条件で、表1に示す厚みとなるように位相差フィルムを製造した。製造速度は50m/分である。各条件は表1に示す。「実験」は本発明の態様であり、「比較実験」は本発明に対する比較例である。なお、実験1〜実験3,実験5〜実験8,比較実験1は、レタデーション上昇剤の量が7.4重量部であるドープを用い、他の実験及び比較実験は、レタデーション上昇剤の量が5.4重量部であるドープを用いた。
【0108】
ドープ51をギアポンプで溶液製膜部52に送り、得られたセルロースアシレートフィルムを巻き取った。なお流延膜の剥ぎ取りは、溶媒残留率が40%のときに実施した。そして、このセルロースアシレートフィルムを位相差フィルム製造設備10で位相差フィルムとした。
【0109】
いずれの実験、比較実験とも、第13位置P13における溶媒残留率は45%で、第14位置P14における溶媒残留率は25%である。乾燥室67では、溶媒残留率が0.2%以下になるまで乾燥し、これを巻き取った。このセルロースアシレートフィルムにつきガラス転移点Tgと結晶化温度Tcとを測定したところ、Tgは126℃、Tcは187℃であった。
【0110】
巻き取ったセルロースアシレートフィルムを送出装置12によりクリップテンタ18に案内した。そして、比較実験1を除く実験及び比較実験につき、加熱工程を実施した。表1の「加熱工程」欄の温度はこの加熱工程におけるセルロースアシレートフィルムの温度である。加熱工程の実施時間は5秒である。また、拡幅開始位置P1における溶媒残留率は0.2%である。次に、比較実験1を除く実験及び比較実験につき、拡幅工程を実施した。
【0111】
表1の「乾燥拡幅工程」の「拡幅率」は、L4/L3の値であり、「拡幅工程」の「拡幅率」は「L2/L1」の値である。そして、「乾燥拡幅工程」と「拡幅工程」との「温度」は湿潤フィルムの温度とセルロースアシレートフィルムの温度をそれぞれ意味する。
「拡幅率」各延伸工程のテンター入口フィルム幅に対するテンター出口フィルム幅の倍率で表している。なお、表1の各欄において「−」の記載は、該当する工程を実施しなかったことを意味する。
【0112】
そして、得られた12種の位相差フィルムにつき、ヘイズ、Re、Rth、寸法変化率を評価した。
【0113】
ヘイズ(単位;%)は、各位相差フィルムから40mm×80mmの大きさでサンプリングし、各サンプルにつき、25℃60%RHでヘイズメータ(型式:HGM−2DP、スガ試験機)でJIS K−6714に従って測定し、以下の基準で評価した。
◎;0以上0.3以下で非常に良好
○;0.3より大きく0.5以下で良好
×;0.5より大きく不良
【0114】
寸法変化率は、位相差フィルムの長手方向と幅方向との両方における評価を実施した。まず、各位相差フィルムから30mm×120mmをサンプリングし、評価対象とすべきサンプルを2つずつ用意する。この2つのうち一方は、得られた長尺の位相差フィルムの長手方向で120mm、幅方向で30mmのものであり、他方は、長手方向で30mm、幅方向で120mmの各寸法で切り取ったものである。そして、25℃、60%RHで24時間調湿し、ピンゲージ(ミツトヨ(株)製 EF−PH)にて、120mm長の方向での両端に直径6mmの穴を略100mmの間隔でふたつ開け、穴と穴との距離をL20とする。サンプルをESPEC製 temp. & humid.chamber PR−45にて、60℃、90%RH、24時間処理した後の穴と穴との距離(L21)を測定する。なお、この寸法変化率は、すべての距離の測定において最小目盛り1/1000mmまで測定した値である。そして、下記式により各サンプルの寸法変化率を求めることができる。
60℃、90%RHの寸法変化率={(L20−L21)/L20}×100
【0115】
なお、寸法変化率は、−0.3〜+0.3の範囲であるときには、良好と評価することができる。
【0116】
【表1】

【実施例2】
【0117】
実施例1の実験と比較実験とで得られたそれぞれの位相差フィルムを用いて、液晶表示装置を以下の方法でつくった。
【0118】
[偏光板の作製]
厚さ80μmのポリビニルアルコール(PVA)フィルムを、ヨウ素濃度0.05質量%のヨウ素水溶液中に30℃で60秒浸漬して染色し、次いでホウ酸濃度4質量%濃度のホウ酸水溶液中に60秒浸漬している間に元の長さの5倍に縦延伸した後、50℃で4分間乾燥させて、厚さ20μmの偏光膜を得た。
【0119】
実施例1で得られた位相差フィルム、および市販のセルローストリアセテートフィルム(フジタックTD80UL(富士写真フイルム(株)製、ヘイズ0.3%、厚みムラ0.7μm))を1.5モル/リットルで55℃の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬した後、水で十分に水酸化ナトリウムを洗い流した。その後、0.005モル/リットルで35℃の希硫酸水溶液に1分間浸漬した後、水に浸漬し希硫酸水溶液を十分に洗い流した。最後に位相差フィルムとセルローストリアセテートフィルムとを120℃で十分に乾燥させた。
【0120】
前記のようにけん化処理を行った市販のセルローストリアセテートフィルムを前記偏光膜の一方の面にポリビニルアルコール系接着剤を用いて貼り合せた後に、同じく前記のようにけん化処理を行った位相差フィルムを前記の偏光膜の他方の面に貼り合わせ、偏光板を作製した。なお、偏光膜、位相差フィルム、セルローストリアセテートフィルムはいずれもロール形態で作製されているため各ロールフィルムの長手方向が平行となっており連続的に貼り合わされる。偏光膜のセル側に配置される位相差フィルムは、その遅相軸と偏光子の透過軸とが平行になるように貼り合わされる。
【0121】
作製した偏光板のセル側の面にはアクリル系の粘着材、さらにその粘着材の上にセパレートフィルムを貼り付けた。セルと反対側の面にはプロテクトフィルムを貼り付けた。
【0122】
[VAモード液晶パネルへの実装]
VAモードの液晶テレビ(LC−37GX3W、シャープ(株)製)の液晶セルの両面に配されてある偏光板をそれぞれ剥がした。そして、偏光板が剥がされた液晶セルの各面に、作成した偏光板を貼り付けた。その際、実施例1の実験1〜8、および比較実験1〜4で作製した位相差フィルムが液晶セル側となるように粘着剤を介して、液晶セルの観察者側およびバックライト側に一枚ずつ貼り付け12種の液晶表示装置をつくった。表2における実験番号及び比較実験番号は、使用した位相差フィルムが実施例1のいずれの実験及び比較実験で得られたものかを示す。観察者側の偏光板の透過軸が上下方向に、そして、バックライト側の偏光板の透過軸が左右方向になるように、クロスニコル配置とした。得られた液晶表示装置について、正面コントラストを求めた。この正面コントラストは、測定機(EZ−Contrast160D、ELDIM社製)を用いて、25℃、60%RHの条件にて、白表示状態における輝度と黒表示状態における輝度を測定し、両者の比を計算することにより求めた。正面コントラストの値は表2に示す。
【0123】
さらに、60℃90%の状態に500時間静置した後、さらに25℃60%にて24時間静置した後に、表示画面における外周部及び角部での光漏れの有無を黒表示にて評価した。この結果を表2に示す。表2の「光漏れ評価」欄は、以下の基準で評価した結果である。
「○」;光漏れがまったく見えない
「△」;外周部及び角部に、光漏れがわずかに視認される
「×」;外周部及び角部に、光漏れがはっきりと視認される
【0124】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明を実施した位相差フィルム製造設備の概略図である。
【図2】クリップテンタにおけるセルロースアシレートフィルムの保持状態を示す説明図である。
【図3】溶液製膜部を含む位相差フィルム製造設備の概略図である。
【図4】溶液製膜部のクリップテンタにおける湿潤フィルムの保持状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0126】
10 位相差フィルム製造設備
11 セルロースアシレートフィルム
17 位相差フィルム
18 テンタ
50 位相差フィルム製造設備
52 溶液製膜部
53 光学制御部
62 クリップテンタ
67 乾燥室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺のセルロースアシレートフィルムの両側部を保持した状態で、前記セルロースアシレートフィルムを190℃に達するように加熱する加熱工程と、
前記加熱工程を経た前記セルロースアシレートフィルムを、190℃未満の温度に保持した状態で拡幅して位相差フィルムとする拡幅工程と、
を有することを特徴とする位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記拡幅工程前の前記セルロースアシレートフィルムの幅をL1、前記拡幅工程後の幅をL2とし、セルロースアシレートの結晶化温度をTc、ガラス転移点をTgとするときに、
前記拡幅工程では、前記セルロースアシレートフィルムをTgよりも高くTcよりも低い範囲に温度を保持した状態で、L2≧1.1×L1となるように拡幅することを特徴とする請求項1記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記セルロースアシレートが溶媒に溶解しているドープを、走行する支持体に連続的に流延して流延膜とする流延工程と、
前記溶媒が含まれる前記流延膜を前記支持体から湿潤フィルムとして剥がす剥離工程と、
前記湿潤フィルムを、溶媒残留率が2%に達するまで乾燥して前記セルロースアシレートフィルムとする乾燥工程と、
を有することを特徴とする請求項1または2記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項4】
溶媒残留率が60%であるときの前記湿潤フィルムの幅をL3、10%であるときの幅をL4とするときに、
前記乾燥工程は、溶媒残留率が60%から10%に減る間の前記湿潤フィルムを、L4≧1.1×L3となるように拡幅する乾燥拡幅工程を有することを特徴とする請求項3記載の位相差フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−14994(P2010−14994A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175203(P2008−175203)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】