説明

位相差板の製造方法

【課題】一枚のポリマーフイルムを用いて広い波長領域でλ/4を達成し、液晶表示装置の視野角を拡大する。
【解決手段】セルロースアセテート、および少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物を含むセルロースアセテート溶液を調製する工程;調製したセルロースアセテート溶液をドラムまたはバンド上に流延し、セルロースアセテートフイルムを形成する工程;形成したセルロースアセテートフイルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取る工程、そして;波長450nmで測定したレターデーション値(Re450)が100乃至125nmの範囲になり、波長590nmで測定したレターデーション値(Re590)が120乃至160nmの範囲になり、Re590−Re450≧2nmの関係を満足し、厚みが10乃至70μmの範囲になるように、セルロースアセテートフイルムを延伸する工程を以上の順序で実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーフイルムからなる位相差板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
λ/4板およびλ/2板などの位相差板は、反射防止膜や液晶表示装置に関連する多くの用途を有している。しかし、λ/4板あるいはλ/2板と称していても、ある特定波長でλ/4やλ/2を達成しているものが大部分であった。
特許文献1および2には、レターデーションが大きい複屈折性フイルムと、レターデーションが小さい複屈折率フイルムとを、それらの光軸が直交するように積層させた位相差板が開示されている。二枚のフイルムのレターデーションの差が可視光域の全体にわたりλ/4またはλ/2であれば、位相差板は理論的には、可視光域の全体にわたりλ/4板またはλ/2板として機能する。
【0003】
特許文献3に、特定波長においてλ/4となっているポリマーフイルムと、それと同一材料からなり同じ波長においてλ/2となっているポリマーフイルムとを積層させて、広い波長領域でλ/4が得られる位相差板が開示されている。
特許文献4にも、二枚のポリマーフイルムを積層することにより広い波長領域でλ/4を達成できる位相差板が開示されている。
以上のポリマーフイルムとしては、ポリカーボネートのような合成ポリマーの延伸フイルムが使用されていた。
【特許文献1】特開平5−27118号公報
【特許文献2】特開平5−27119号公報
【特許文献3】特開平10−68816号公報
【特許文献4】特開平10−90521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
二枚のポリマーフイルムを積層することにより、広い波長領域でλ/4またはλ/2を達成することができる。しかし、そのためには、二枚のポリマーフイルムの角度を厳密に調整しながら積層する必要がある。
一枚のポリマーフイルムからなるλ/4板またはλ/2板も提案されている。しかし、広い波長領域でλ/4またはλ/2が達成されている一枚のフイルムは、ほとんど存在していない。さらに、一枚のポリマーフイルムからなるλ/4板またはλ/2板を液晶表示装置に組み込んで使用しても、液晶表示装置の視野角が期待される程には改善されないことも判明した。そして、フイルムを一枚用いた反射型液晶表示装置は、上述の二枚タイプのλ/4フイルムと同等以上のコントラストが得られたが、反射型液晶表示装置の主な用途である携帯端末(特に面積の大きなディスプレイ)として使用した場合、熱等の歪みにより耐久性に問題のあることがわかった。具体的には、液晶表示装置のバックライトなどから発生する熱によりフイルムに歪みを生じ、フイルム面内でレターデーション値のムラや遅相軸方向の変化が生じてしまい、黒表示時において液晶セルの周辺部の透過率が上昇し、「額縁状の表示ムラ」を生じる。
本発明者の鋭意研究により、この歪みは位相差板の厚みと相関のあることがわかった。詳細は後述するが、厚みを厚くすると額縁状の透過率の上昇が顕著になり、薄くするほど額縁状の透過率の上昇が抑えられることが判明した。即ち、位相差板を使用する環境条件の変化により生じる、位相差板の光学特性の面内でのぶれを抑えるには、位相差板の厚みを薄くする必要がある。
【0005】
本発明の目的は、一枚で、耐久性に優れ、且つ広い波長領域でλ/4またはλ/2を達成する位相差板を提供することである。別の本発明の目的は、耐久性に優れ、広い波長域で円偏光を達成するする円偏光板、およびそれを用いた表示品位が高く、そして額縁状の表示ムラが軽減された、液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、下記(1)〜(14)の位相差板の製造方法により達成された。
(1)
酢化度57.0乃至61.5%であるセルロースアセテート、およびセルロースアセテート100質量部に対して、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物を0.01乃至20質量部含むセルロースアセテート溶液を調製する工程;調製したセルロースアセテート溶液をドラムまたはバンド上に流延し、セルロースアセテートフイルムを形成する工程;形成したセルロースアセテートフイルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取る工程、そして;波長450nmで測定したレターデーション値(Re450)が100乃至125nmの範囲になり、波長590nmで測定したレターデーション値(Re590)が120乃至160nmの範囲になり、Re590−Re450≧2nmの関係を満足し、厚みが10乃至70μmの範囲になるように、セルロースアセテートフイルムを延伸する工程を以上の順序で実施することを特徴とする位相差板の製造方法。
【0007】
(2)
波長450nmで測定したレターデーション値(Re450)が108乃至120nmの範囲になり、波長550nmで測定したレターデーション値(Re550)が125乃至142nmの範囲になり、波長590nmで測定したレターデーション値(Re590)が130乃至152nmの範囲になり、Re590−Re550≧2nmの関係を満足するように、セルロースアセテートフイルムを延伸する工程を実施する(1)に記載の製造方法。
(3)
延伸倍率が3乃至100%である(1)に記載の製造方法。
(4)
延伸方向と流延方向とが平行である(1)に記載の製造方法。
(5)
延伸方向が流延方向に対して横方向である(1)に記載の製造方法。
(6)
延伸方向が流延方向に対して45°の方向である(1)に記載の製造方法。
(7)
芳香族化合物の芳香族環の結合関係がいずれも連結基として−NH−を介しての結合である(1)に記載の製造方法。
【0008】
(8)
酢化度57.0乃至61.5%であるセルロースアセテート、およびセルロースアセテート100質量部に対して、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物を0.01乃至20質量部含むセルロースアセテート溶液を調製する工程;調製したセルロースアセテート溶液をドラムまたはバンド上に流延し、セルロースアセテートフイルムを形成する工程;形成したセルロースアセテートフイルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取る工程、そして;波長450nmで測定したレターデーション値(Re450)が200乃至250nmの範囲になり、波長590nmで測定したレターデーション値(Re590)が240乃至320nmの範囲になり、Re590−Re450≧4nmの関係を満足し、厚みが10乃至70μmの範囲になるように、セルロースアセテートフイルムを延伸する工程を以上の順序で実施することを特徴とする位相差板の製造方法。
【0009】
(9)
波長450nmで測定したレターデーション値(Re450)が216乃至240nmの範囲になり、波長550nmで測定したレターデーション値(Re550)が250乃至284nmの範囲になり、波長590nmで測定したレターデーション値(Re590)が260乃至304nmの範囲になり、Re590−Re550≧4nmの関係を満足するように、セルロースアセテートフイルムを延伸する工程を実施する(8)に記載の製造方法。
(10)
延伸倍率が3乃至100%である(8)に記載の製造方法。
(11)
延伸方向と流延方向とが平行である(8)に記載の製造方法。
(12)
延伸方向が流延方向に対して横方向である(8)に記載の製造方法。
(13)
延伸方向が流延方向に対して45°の方向である(8)に記載の製造方法。
(14)
芳香族化合物の芳香族環の結合関係がいずれも連結基として−NH−を介しての結合である(8)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明者は、ポリマーの素材と製造方法を調節することにより、広い波長領域でλ/4またはλ/2を達成する位相差板を提供することに成功した。さらに、この位相差板を液晶表示装置に取り付けて使用することにより、視野角が著しく改善される。また、位相差板の厚みを調整することにより、環境条件の変化に対する面内の光学特性のぶれが改善され、液晶表示装置の額縁状の表示ムラを解消することができる。これにより、従来の厚み以下で、しかも耐久性に優れる液晶表示装置を得ることができる。
一枚のポリマーフイルムを用いて広い波長領域でλ/4またはλ/2を達成できる位相差板が得られたことで、従来の二枚のポリマーフイルムの角度を厳密に調整しながら積層する工程が不要となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[位相差板]
位相差板をλ/4板として使用する場合は、波長450nmで測定したレターデーション値(Re450)が100乃至125nmであり、かつ波長590nmで測定したレターデーション値(Re590)が120乃至160nmであり、そして、Re590−Re450≧2nmの関係を満足する。Re590−Re450≧5nmであることがさらに好ましく、Re590−Re450≧10nmであることが最も好ましい。
波長450nmで測定したレターデーション値(Re450)が108乃至120nmであり、波長550nmで測定したレターデーション値(Re550)が125乃至142nmであり、波長590nmで測定したレターデーション値(Re590)が130乃至152nmであり、そして、Re590−Re550≧2nmの関係を満足することが好ましい。Re590−Re550≧5nmであることがさらに好ましく、Re590−Re550≧10nmであることが最も好ましい。また、Re550−Re450≧10nmであることも好ましい。
また、位相差板の厚みは、10乃至70μmの範囲にある。位相差板の厚みは、20乃至60μmの範囲にあることがさらに好ましく、30乃至50μmの範囲にあることが最も好ましい。
【0012】
位相差板をλ/2板として使用する場合は、波長450nmで測定したレターデーション値(Re450)が200乃至250nmであり、かつ波長590nmで測定したレターデーション値(Re590)が240乃至320nmであり、そして、Re590−Re450≧4nmの関係を満足する。Re590−Re450≧10nmであることがさらに好ましく、Re590−Re450≧20nmであることが最も好ましい。
波長450nmで測定したレターデーション値(Re450)が216乃至240nmであり、波長550nmで測定したレターデーション値(Re550)が250乃至284nmであり、波長590nmで測定したレターデーション値(Re590)が260乃至304nmであり、そして、Re590−Re550≧4nmの関係を満足することが好ましい。またRe590−Re550≧10nmであることがさらに好ましく、Re590−Re550≧20nmであることが最も好ましい。また、Re550−Re450≧20nmであることも好ましい。
また、位相差板の厚みは、10乃至70μmの範囲にある。位相差板の厚みは、20乃至60μmの範囲にあることがさらに好ましく、30乃至50μmの範囲にあることが最も好ましい。
【0013】
レターデーション値(Re)は、下記式に従って算出する。
レターデーション値(Re)=(nx−ny)×d
式中、nxは、位相差板の面内の遅相軸方向の屈折率(面内の最大屈折率)であり;nyは、位相差板の面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率であり;そして、dは、位相差板の厚さ(nm)である。
【0014】
さらに、本発明の位相差板は一枚で下記式を満足することが好ましい。
1≦(nx−nz)/(nx−ny)≦2
式中、nxは、位相差板の面内の遅相軸方向の屈折率であり;nyは、位相差板の面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率であり;そして、nzは、厚み方向の屈折率である。
【0015】
以上のような光学的性質を有する位相差板は、レターデーション上昇剤を含むセルロースエステルフイルム一枚で得られる。
位相差板のレターデーション値とその波長依存性は、(1)セルロースエステルの組成(特に平均酢化度)の調整、(2)レターデーション上昇剤の種類と使用量の調整、および(3)フイルムの厚さにより制御できる。特に(2)のレターデーション上昇剤の使用によって、従来は光学的等方性と考えられていたセルロースエステルフイルムを、位相差板として使用できるようになった。
以上のような光学的性質を有する位相差板は、以下に述べる材料と方法により製造することができる。
【0016】
[ポリマーフイルム]
本発明に用いるポリマーフイルムとしては、光透過率が80%以上であるポリマーフイルムを用いることが好ましい。ポリマーフイルムとしては、外力により複屈折が発現しにくいもの、すなわち、光弾性係数の小さいものが好ましい。ポリマーフイルムを形成するポリマーの例としては、セルロース系ポリマー、商品名アートン(JSR(株)製)および商品名ゼオネックス(日本ゼオン(株)製)などのノルボルネン系ポリマー、および、ポリメチルメタクリレートなどが挙げられる。セルロース系ポリマーとしては、セルロースエステルが好ましく、セルロースの低級脂肪酸エステルがさらに好ましい。低級脂肪酸とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味する。炭素原子数は、2(セルロースアセテート)、3(セルロースプロピオネート)または4(セルロースブチレート)であることが好ましい。セルロースアセテートが特に好ましい。セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートのような混合脂肪酸エステルを用いてもよい。セルロースアセテートの例としては、トリアセチルセルロースなどが挙げられる。
【0017】
また、ポリマーフイルムの粘度平均重合度(DP)は、250以上であることが好ましく、290以上であることがさらに好ましい。また、ポリマーフイルムは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるMw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量)の分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0乃至1.7であることが好ましく、1.3乃至1.65であることがさらに好ましく、1.4乃至1.6であることが最も好ましい。
【0018】
本発明者の鋭意研究により、額縁状の透過率の上昇は、偏光膜と液晶セルの間に介在するポリマーフィルム(位相差板)の湿熱による寸度変化が、粘着剤により抑制され、これにより発生した応力によって複屈折が発生する(光弾性)ことが原因であることがわかった。透過率は、この発現した複屈折と位相差板の厚みの積(位相差)と相関があり、位相差が大きくなるほど、透過率は大きくなる。
従って、ポリマーフイルムの厚みを薄くすることで、同じ複屈折が発現しても位相差が小さくなるため、額縁状の透過率上昇を小さくすることができる。しかし、あまりポリマーフイルムの厚さが薄くなると、ハンドリングが悪くなる等の問題を生じる。
このような位相差板を使用する環境条件の変化に対する面内での光学特性のぶれの抑制と、位相差板の生産時におけるハンドリングとのバランスを保つポリマーフイルムの厚みは以下の通りである。
ポリマーフイルムの厚みは、10乃至70μmの範囲とする。ポリマーフイルムの厚みは、20乃至60μmの範囲にあることがさらに好ましく、30乃至50μmの範囲にあることが最も好ましい。
【0019】
本発明に用いるポリマーフイルムとしては、酢化度が57.0乃至61.5%であるセルロースアセテートフイルムを用いることが好ましい。セルロースアセテートフイルムの酢化度は、59.0乃至60.5であることが好ましく、59.5乃至60.0であることが最も好ましい。
酢化度とは、セルロース単位重量当たりの結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験法)におけるアセチル化度の測定および計算に従う。
【0020】
これらのポリマーフイルムは、紫外線吸収剤等を含むことが好ましい。また、特開平7−333433号公報に記載のようにポリマーフイルム上に接着層(下塗り層)を設けてもよい。接着層の厚みは0.1乃至2μmの範囲にあることが好ましく、0.2乃至1μmの範囲にあることがさらに好ましい。
【0021】
[レターデーション制御]
ポリマーフイルムのレターデーションを調整するためには延伸等の外力を与える方法が一般的であるが、欧州特許0911656A2号明細書に記載のような、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物をレターデーション上昇剤として使用することもできる。
芳香族化合物は、セルロースアセテート100質量部に対して、0.01乃至20質量部の範囲で使用する。芳香族化合物は、セルロースアセテート100質量部に対して、0.05乃至15質量部の範囲で使用することが好ましく、0.1乃至10質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。二種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。
芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。
【0022】
芳香族化合物が有する芳香族環の数は、2乃至20であることが好ましく、2乃至12であることがより好ましく、2乃至8であることがさらに好ましく、3乃至6であることが最も好ましい。
二つの芳香族環の結合関係は、(a)縮合環を形成する場合、(b)単結合で直結する場合および(c)連結基を介して結合する場合に分類できる(芳香族環のため、スピロ結合は形成できない)。結合関係は、(a)〜(c)のいずれでもよい。
【0023】
(a)の縮合環(二つ以上の芳香族環の縮合環)の例には、インデン環、ナフタレン環、アズレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環、アセナフチレン環、ナフタセン環、ピレン環、インドール環、イソインドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドリジン環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、プリン環、インダゾール環、クロメン環、キノリン環、イソキノリン環、キノリジン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フタラジン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェナントリジン環、キサンテン環、フェナジン環、フェノチアジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環およびチアントレン環が含まれる。ナフタレン環、アズレン環、インドール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環およびキノリン環が好ましい。
(b)の単結合は、二つの芳香族環の炭素原子間の結合であることが好ましい。二以上の単結合で二つの芳香族環を結合して、二つの芳香族環の間に脂肪族環または非芳香族性複素環を形成してもよい。
【0024】
(c)の連結基も、二つの芳香族環の炭素原子と結合することが好ましい。連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、−CO−、−O−、−NH−、−S−またはそれらの組み合わせであることが好ましい。組み合わせからなる連結基の例を以下に示す。なお、以下の連結基の例の左右の関係は、逆になってもよい。
c1:−CO−O−
c2:−CO−NH−
c3:−アルキレン−O−
c4:−NH−CO−NH−
c5:−NH−CO−O−
c6:−O−CO−O−
c7:−O−アルキレン−O−
c8:−CO−アルケニレン−
c9:−CO−アルケニレン−NH−
c10:−CO−アルケニレン−O−
c11:−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−
c12:−O−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−O−
c13:−O−CO−アルキレン−CO−O−
c14:−NH−CO−アルケニレン−
c15:−O−CO−アルケニレン−
【0025】
芳香族環および連結基は、置換基を有していてもよい。
置換基の例には、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル、カルボキシル、シアノ、アミノ、ニトロ、スルホ、カルバモイル、スルファモイル、ウレイド、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂肪族アシル基、脂肪族アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基、脂肪族アミド基、脂肪族スルホンアミド基、脂肪族置換アミノ基、脂肪族置換カルバモイル基、脂肪族置換スルファモイル基、脂肪族置換ウレイド基および非芳香族性複素環基が含まれる。
【0026】
アルキル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。環状アルキル基よりも鎖状アルキル基の方が好ましく、直鎖状アルキル基が特に好ましい。アルキル基は、さらに置換基(例、ヒドロキシ、カルボキシ、アルコキシ基、アルキル置換アミノ基)を有していてもよい。アルキル基の(置換アルキル基を含む)例には、メチル、エチル、n−ブチル、n−ヘキシル、2−ヒドロキシエチル、4−カルボキシブチル、2−メトキシエチルおよび2−ジエチルアミノエチルが含まれる。
アルケニル基の炭素原子数は、2乃至8であることが好ましい。環状アルケニル基よりも鎖状アルケニル基の方が好ましく、直鎖状アルケニル基が特に好ましい。アルケニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルケニル基の例には、ビニル、アリルおよび1−ヘキセニルが含まれる。
アルキニル基の炭素原子数は、2乃至8であることが好ましい。環状アルキケニル基よりも鎖状アルキニル基の方が好ましく、直鎖状アルキニル基が特に好ましい。アルキニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルキニル基の例には、エチニル、1−ブチニルおよび1−ヘキシニルが含まれる。
【0027】
脂肪族アシル基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アシル基の例には、アセチル、プロパノイルおよびブタノイルが含まれる。
脂肪族アシルオキシ基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アシルオキシ基の例には、アセトキシが含まれる。
アルコキシ基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。アルコキシ基は、さらに置換基(例、アルコキシ基)を有していてもよい。アルコキシ基の(置換アルコキシ基を含む)例には、メトキシ、エトキシ、ブトキシおよびメトキシエトキシが含まれる。
アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニルおよびエトキシカルボニルが含まれる。
アルコキシカルボニルアミノ基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。アルコキシカルボニルアミノ基の例には、メトキシカルボニルアミノおよびエトキシカルボニルアミノが含まれる。
【0028】
アルキルチオ基の炭素原子数は、1乃至12であることが好ましい。アルキルチオ基の例には、メチルチオ、エチルチオおよびオクチルチオが含まれる。
アルキルスルホニル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。アルキルスルホニル基の例には、メタンスルホニルおよびエタンスルホニルが含まれる。脂肪族アミド基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アミド基の例には、アセトアミドが含まれる。
脂肪族スルホンアミド基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。脂肪族スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド、ブタンスルホンアミドおよびn−オクタンスルホンアミドが含まれる。
脂肪族置換アミノ基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族置換アミノ基の例には、ジメチルアミノ、ジエチルアミノおよび2−カルボキシエチルアミノが含まれる。
脂肪族置換カルバモイル基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。脂肪族置換カルバモイル基の例には、メチルカルバモイルおよびジエチルカルバモイルが含まれる。
脂肪族置換スルファモイル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。脂肪族置換スルファモイル基の例には、メチルスルファモイルおよびジエチルスルファモイルが含まれる。
脂肪族置換ウレイド基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。脂肪族置換ウレイド基の例には、メチルウレイドが含まれる。
非芳香族性複素環基の例には、ピペリジノおよびモルホリノが含まれる。
レターデーション上昇剤の分子量は、300乃至800であることが好ましい。
【0029】
[赤外線吸収剤]
各波長におけるレターデーション値を調整するため、赤外線吸収剤をポリマーフイルムに添加することができる。
赤外線吸収剤は、ポリマー100重量部に対して、0.01乃至5重量部の範囲で使用することが好ましく、0.02乃至2重量部の範囲で使用することがより好ましく、0.05乃至1重量部の範囲で使用することがさらに好ましく、0.1乃至0.5重量部の範囲で使用することが最も好ましい。二種類以上の赤外線吸収剤を併用してもよい。
赤外線吸収剤は、750乃至1100nmの波長領域に最大吸収を有することが好ましく、800乃至1000nmの波長領域に最大吸収を有することがさらに好ましい。赤外線吸収剤は、可視領域に実質的に吸収を有していないことが好ましい。
【0030】
赤外線吸収剤としては、赤外線吸収染料または赤外線吸収顔料を用いることが好ましく、赤外線吸収染料を用いることが特に好ましい。
赤外線吸収染料には、有機化合物と無機化合物が含まれる。有機化合物である赤外線吸収染料を用いることが好ましい。有機赤外線吸収染料には、シアニン化合物、金属キレート化合物、アミニウム化合物、ジイモニウム化合物、キノン化合物、スクアリリウム化合物およびメチン化合物が含まれる。赤外線吸収染料については、色材、61〔4〕215−226(1988)、および化学工業、43−53(1986、5月)に記載がある。
【0031】
赤外線吸収機能あるいは吸収スペクトルの観点で染料の種類を検討すると、ハロゲン化銀写真感光材料の技術分野で開発された赤外線吸収染料が優れている。ハロゲン化銀写真感光材料の技術分野で開発された赤外線吸収染料には、ジヒドロペリミジンスクアリリウム染料(米国特許5380635号明細書および特願平8−189817号明細書記載)、シアニン染料(特開昭62−123454号、同3−138640号、同3−211542号、同3−226736号、同5−313305号、同6−43583号の各公報、特願平7−269097号明細書および欧州特許0430244号明細書記載)、ピリリウム染料(特開平3−138640号、同3−211542号の各公報記載)、ジイモニウム染料(特開平3−138640号、同3−211542号の各公報記載)、ピラゾロピリドン染料(特開平2−282244号記載)、インドアニリン染料(特開平5−323500号、同5−323501号の各公報記載)、ポリメチン染料(特開平3−26765号、同4−190343号の各公報および欧州特許377961号明細書記載)、オキソノール染料(特開平3−9346号明細書記載)、アントラキノン染料(特開平4−13654号明細書記載)、ナフタロシアニン色素(米国特許5009989号明細書記載)およびナフトラクタム染料(欧州特許568267号明細書記載)が含まれる。
【0032】
[ポリマーフイルムの製造]
ソルベントキャスト法によりポリマーフイルムを製造することが好ましい。ソルベントキャスト法では、ポリマー材料を有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフイルムを製造する。
本発明のポリマーフイルムの製造を、セルロースアセテートを例に具体的に説明する。
有機溶媒は、炭素原子数が3乃至12のエーテル、炭素原子数が3乃至12のケトン、炭素原子数が3乃至12のエステルおよび炭素原子数が1乃至6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。
エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0033】
炭素原子数が3乃至12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。
炭素原子数が3乃至12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。
炭素原子数が3乃至12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。
二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。
ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25乃至75モル%であることが好ましく、30乃至70モル%であることがより好ましく、35乃至65モル%であることがさらに好ましく、40乃至60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。
二種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0034】
一般的な方法でセルロースアセテート溶液を調製できる。一般的な方法とは、0℃以上の温度(常温または高温)で、処理することを意味する。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特にメチレンクロリド)を用いることが好ましい。
セルロースアセテートの量は、得られる溶液中に10乃至40質量%含まれるように調整する。セルロースアセテートの量は、10乃至30質量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
溶液は、常温(0乃至40℃)でセルロースアセテートと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、セルロースアセテートと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60乃至200℃であり、さらに好ましくは80乃至110℃である。
【0035】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶剤中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0036】
冷却溶解法により、溶液を調製することもできる。冷却溶解法では、通常の溶解方法では溶解させることが困難な有機溶媒中にもセルロースアセテートを溶解させることができる。なお、通常の溶解方法でセルロースアセテートを溶解できる溶媒であっても、冷却溶解法によると迅速に均一な溶液が得られるとの効果がある。
冷却溶解法では最初に、室温で有機溶媒中にセルロースアセテートを撹拌しながら徐々に添加する。
セルロースアセテートの量は、この混合物中に10乃至40質量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースアセテートの量は、10乃至30質量%であることがさらに好ましい。さらに、混合物中には後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
【0037】
次に、混合物を−100乃至−10℃(好ましくは−80乃至−10℃、さらに好ましくは−50乃至−20℃、最も好ましくは−50乃至−30℃)に冷却する。冷却は、例えば、ドライアイス・メタノール浴(−75℃)や冷却したジエチレングリコール溶液(−30乃至−20℃)中で実施できる。このように冷却すると、セルロースアセテートと有機溶媒の混合物は固化する。
冷却速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。冷却速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、冷却速度は、冷却を開始する時の温度と最終的な冷却温度との差を冷却を開始してから最終的な冷却温度に達するまでの時間で割った値である。
【0038】
さらに、これを0乃至200℃(好ましくは0乃至150℃、さらに好ましくは0乃至120℃、最も好ましくは0乃至50℃)に加温すると、有機溶媒中にセルロースアセテートが溶解する。昇温は、室温中に放置するだけでもよし、温浴中で加温してもよい。
加温速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。加温速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、加温速度は、加温を開始する時の温度と最終的な加温温度との差を加温を開始してから最終的な加温温度に達するまでの時間で割った値である。
以上のようにして、均一な溶液が得られる。なお、溶解が不充分である場合は冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断することができる。
【0039】
冷却溶解法においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却加温操作において、冷却時に加圧し、加温時に減圧すると、溶解時間を短縮することができる。加圧および減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。
なお、セルロースアセテート(酢化度:60.9%、粘度平均重合度:299)を冷却溶解法によりメチルアセテート中に溶解した20質量%の溶液は、示差走査熱量測定(DSC)によると、33℃近傍にゾル状態とゲル状態との疑似相転移点が存在し、この温度以下では均一なゲル状態となる。従って、この溶液は疑似相転移温度以上、好ましくはゲル相転移温度プラス10℃程度の温度で保する必要がある。ただし、この疑似相転移温度は、セルロースアセテートの酢化度、粘度平均重合度、溶液濃度や使用する有機溶媒により異なる。
【0040】
調製したセルロースアセテート溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースアセテートフイルムを製造する。ドープには、前記のレターデーション上昇剤を添加することが好ましい。
ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフイルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18乃至35%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延および乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。
ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。流延してから2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフイルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0041】
調整したセルロースアセテート溶液(ドープ)を用いて2層以上の流延を行いフイルム化することもできる。この場合、ソルベントキャスト法によりセルロースアセテートフイルムを作製することが好ましい。ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフイルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が10乃至40%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。
【0042】
2層以上の複数のセルロースアセテート液を流延する場合、複数のセルロースアセテート溶液を流延することが可能で、支持体の進行方向に間隔をおいて設けられた複数の流延口からセルロースアセテートを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフイルムを作製してもよい。例えば、特開昭61−158414号、特開平1−122419号、および、特開平11−198285号の各明細書に記載の方法を用いることができる。また、2つの流延口からセルロースアセテート溶液を流延することによってもフイルム化することもできる。例えば、特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、および、特開平6−134933号の各明細書に記載の方法を用いることができる。また、特開昭56−162617号明細書に記載の高粘度セルロースアセテート溶液の流れを低粘度のセルロースアセテート溶液で包み込み、その高、低粘度のセルロースアセテート溶液を同時に押し出すセルロースアセテートフイルム流延方法を用いることもできる。
【0043】
また、2個の流延口を用いて、第一の流延口により支持体に成形したフイルムを剥ぎ取り、支持体面に接していた側に第二の流延を行うことにより、フイルムを作製することもできる。例えば、特公昭44−20235号明細書に記載の方法を挙げることができる。
流延するセルロースアセテート溶液は同一の溶液を用いてもよいし、異なるセルロースアセテート溶液を用いてもよい。複数のセルロースアセテート層に機能をもたせるために、その機能に応じたセルロースアセテート溶液を、それぞれの流延口から押し出せばよい。
さらに本発明のセルロースアセテート溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、紫外線吸収層、偏光層など)と同時に流延することもできる。
【0044】
従来の単層液では、必要なフイルム厚さにするためには高濃度で高粘度のセルロースアセテート溶液を押し出すことが必要であり、その場合セルロースアセテート溶液の安定性が悪くて固形物が発生し、ブツ故障となったり、平面性が不良となったりして問題となることが多かった。この問題の解決方法として、複数のセルロースアセテート溶液を流延口から流延することにより、高粘度の溶液を同時に支持体上に押し出すことができ、平面性も良化し優れた面状のフイルムが作製できるばかりでなく、濃厚なセルロースアセテート溶液を用いることで乾燥負荷の低減化が達成でき、フイルムの生産スピードを高めることができる。
【0045】
セルロースアセテートフイルムには、機械的物性を改良するため、または乾燥速度を向上するために、可塑剤を添加することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルホスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。フタル酸エステル系可塑剤(DMP、DEP、DBP、DOP、DPP、DEHP)が好ましく用いられる。DEPおよびDPPが特に好ましい。
可塑剤の添加量は、セルロースエステルの量の0.1乃至25質量%であることが好ましく、1乃至20質量%であることがさらに好ましく、3乃至15質量%であることが最も好ましい。
【0046】
セルロースアセテートフイルムには、劣化防止剤(例、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)を添加してもよい。劣化防止剤については、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号の各公報に記載がある。劣化防止剤の添加量は、調製する溶液(ドープ)の0.01乃至1質量%であることが好ましく、0.01乃至0.2質量%であることがさらに好ましい。添加量が0.01質量%未満であると、劣化防止剤の効果がほとんど認められない。添加量が1質量%を越えると、フイルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)が認められる場合がある。特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、トリベンジルアミン(TBA)を挙げることができる。
【0047】
セルロースアセテートフイルムは、さらに延伸処理によりレターデーションをを調整することができる。延伸倍率は、3乃至100%であることが好ましい。
セルロースアセテートフイルムの厚さは、10乃至70μmが好ましく、20乃至60μmが更に好ましく、最も好ましくは30乃至50μmである。
従って、複屈折は、550nmの光で、0.00196乃至0.01375であることが好ましく、0.00168乃至0.006875が更に好ましく、最も好ましくは0.00275乃至0.00458である。
【0048】
[ポリマーフイルムの表面処理]
ポリマーフイルムには、表面処理を施すことが好ましい。具体的方法としては、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理または紫外線照射処理を実施する。フイルムの平面性を保持する観点から、これらの処理においてポリマーフイルムの温度をTg(ガラス転移温度)以下とすることが好ましい。
偏光板を作製する際の、ポリマーフイルムと偏光膜との接着性の観点から、酸処理またはアルカリ処理を実施することが特に好ましい。以下、アルカリ鹸化処理を例に、具体的に説明する。
アルカリ鹸化処理は、ポリマーフイルム表面をアルカリ溶液に浸漬した後、酸性溶液で中和し、水洗して乾燥するサイクルで行われることが好ましい。
アルカリ溶液としては、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液が挙げられ、水酸化イオンの規定濃度は0.1N乃至3.0Nであることが好ましく、0.5N乃至2.0Nであることがさらに好ましい。アルカリ溶液温度は、室温乃至90℃の範囲にあることが好ましく、40℃乃至70℃の範囲にあることがさらに好ましい。
以上のようにして、本発明のポリマーフイルムからなる位相差板を作製することができる。
【0049】
[円偏光板]
本発明のλ/4板(位相差板)と偏光膜とを、λ/4板の面内の遅相軸と偏光膜の透過軸との角度が実質的に45°になるように積層すると円偏光板が得られる。実質的に45°とは、40乃至50°であることを意味する。λ/4板の面内の遅相軸と偏光膜の透過軸との角度は、41乃至49°であることが好ましく、42乃至48°であることがより好ましく、43乃至47°であることがさらに好ましく、44乃至46°であることが最も好ましい。
偏光膜には、ヨウ素系偏光膜、二色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜がある。ヨウ素系偏光膜および染料系偏光膜は、一般にポリビニルアルコール系フイルムを用いて製造する。偏光膜の透過軸は、フイルムの延伸方向に垂直な方向に相当する。
偏光膜のλ/4とは反対側の面には、透明保護膜を設けることが好ましい。透明保護膜としては、通常のセルロースアセテートフイルムを用いてもよい。
【0050】
[液晶表示装置]
上記のポリマーフイルムからなる位相差板、または上記のポリマーフイルムを用いた偏光板は、液晶表示装置に有利に用いられる。
【0051】
図1は、反射型液晶表示装置の基本的な構成を示す模式図である。
図1に示す反射型液晶表示装置は、下から順に、下基板(1)、反射電極(2)、下配向膜(3)、液晶層(4)、上配向膜(5)、透明電極(6)、上基板(7)、λ/4板(8)、そして偏光膜(9)からなる。
下基板(1)と反射電極(2)が反射板を構成する。下配向膜(3)〜上配向膜(5)が液晶セルを構成する。λ/4板(8)は、反射板と偏光膜(9)との間の任意の位置に配置することができる。
カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を設ける。カラーフィルター層は、反射電極(2)と下配向膜(3)との間、または上配向膜(5)と透明電極(6)との間に設けることが好ましい。
図1に示す反射電極(2)の代わりに透明電極を用いて、別に反射板を取り付けてもよい。透明電極と組み合わせて用いる反射板としては、金属板が好ましい。反射板の表面が平滑であると、正反射成分のみが反射されて視野角が狭くなる場合がある。そのため、反射板の表面に凹凸構造(特許275620号公報記載)を導入することが好ましい。反射板の表面が平坦である場合は(表面に凹凸構造を導入する代わりに)、偏光膜の片側(セル側あるいは外側)に光拡散フイルムを取り付けてもよい。
【0052】
液晶セルは、TN(twisted nematic )型、STN(Supper Twisted Nematic)型またはHAN(Hybrid Aligned Nematic)型であることが好ましい。
TN型液晶セルのツイスト角は、40乃至100°であることが好ましく、50乃至90°であることがさらに好ましく、60乃至80°であることが最も好ましい。液晶層の屈折率異方性(Δn)と液晶層の厚み(d)との積(Δnd)の値は、0.1乃至0.5μmであることが好ましく、0.2乃至0.4μmであることがさらに好ましい。
STN型液晶セルのツイスト角は、180乃至360°であることが好ましく、220乃至270°であることがさらに好ましい。液晶層の屈折率異方性(Δn)と液晶層の厚み(d)との積(Δnd)の値は、0.3乃至1.2μmであることが好ましく、0.5乃至1.0μmであることがさらに好ましい。
HAN型液晶セルは、片方の基板上では液晶が実質的に垂直に配向しており、他方の基板上のプレチルト角が0乃至45°であることが好ましい。液晶層の屈折率異方性(Δn)と液晶層の厚み(d)との積(Δnd)の値は、0.1乃至1.0μmであることが好ましく、0.3乃至0.8μmであることがさらに好ましい。液晶を垂直配向させる側の基板は、反射板側の基板であってもよいし、透明電極側の基板であってもよい。
反射型液晶表示装置は、印加電圧が低い時に明表示、高い時に暗表示であるノーマリーホワイトモードでも、印加電圧が低い時に暗表示、高い時に明表示であるノーマリーブラックモードでも用いることができる。ノーマリーホワイトモードの方が好ましい。
【0053】
[ゲストホスト反射型液晶表示素子]
図2は、ゲストホスト反射型液晶表示素子の代表的な態様を示す断面模式図である。
図2に示すゲストホスト反射型液晶表示素子は、下基板(11)、有機層間絶縁膜(12)、金属反射板(13)、λ/4板(14)、下透明電極(15)、下配向膜(16)、液晶層(17)、上配向膜(18)、上透明電極(19)、光拡散板(20)、上基板(21)および反射防止層(22)が、この順に積層された構造を有する。
下基板(11)および上基板(21)は、ガラス板またはプラスチックフイルムからなる。下基板(11)と有機層間絶縁膜(12)との間には、TFT(23)が取り付けられている。
液晶層(17)は、液晶と二色性色素との混合物からなる。液晶層は、スペーサー(24)により形成されているセルギャップに液晶と二色性色素との混合物を注入して得られる。
光拡散板(20)を設ける代わりに、金属反射板(13)の表面に凹凸を付けることで、金属反射板(13)に光拡散機能を付与してもよい。
反射防止層(22)は、反射防止機能に加えて、防眩機能も有していることが好ましい。
【0054】
図3は、ゲストホスト反射型液晶表示素子の別の代表的な態様を示す断面模式図である。
図3に示すゲストホスト反射型液晶表示素子は、下基板(31)、有機層間絶縁膜(32)、コレステリックカラー反射板(33)、λ/4板(34)、下透明電極(35)、下配向膜(36)、液晶層(37)、上配向膜(38)、上透明電極(39)、上基板(41)および反射防止層(42)が、この順に積層された構造を有する。
下基板(31)および上基板(41)は、ガラス板またはプラスチックフイルムからなる。下基板(31)と有機層間絶縁膜(32)との間には、TFT(43)が取り付けられている。
λ/4板(34)は、光拡散板としても機能させてもよい。
液晶層(37)は、液晶と二色性色素との混合物からなる。液晶層は、スペーサー(44)により形成されているセルギャップに液晶と二色性色素との混合物を注入して得られる。
上透明電極(39)と上基板(41)との間には、ブラックマトリックス(45)が取り付けられている。
反射防止層(42)は、反射防止機能に加えて、防眩機能も有していることが好ましい。
【0055】
本発明に従うλ/4板は、図1で説明した反射型液晶表示装置のλ/4板(8)、そして、図2および図3で説明したゲストホスト反射型液晶表示素子のλ/4板(14)および(34)として使用できる。
λ/4板を備えたゲストホスト反射型液晶表示素子については、特開平6−222350号、同8−36174号、同10−268300号、同10−292175号、同10−293301号、同10−311976号、同10−319442号、同10−325953号、同10−333138号、同11−38410号の各公報に記載がある。
本発明に従うλ/4板は、上記各公報記載のゲストホスト反射型液晶表示素子にも利用することができる。
【実施例】
【0056】
[実施例1]
(位相差板の作製)
室温において、平均酢化度57.5%のセルロースアセテート120質量部、トリフェニルホスフェート9.36質量部、ビフェニルジフェニルホスフェート4.68質量部、下記のレターデーション上昇剤3.00質量部、トリベンジルアミン2.00質量部、メチレンクロリド543.14質量部、メタノール99.35質量部およびn−ブタノール19.87質量部を混合して、溶液(ドープ)を調製した。
【0057】
【化1】

【0058】
得られたドープを、製膜バンド上に流延し、室温で1分間乾燥後、45℃で5分間乾燥させた。乾燥後の溶剤残留量は30質量%であった。セルロースアセテートフイルムをバンドから剥離し、120℃で10分間乾燥した後、130℃で流延方向とは平行な方向に延伸した。延伸方向と垂直な方向は、自由に収縮できるようにした。延伸後、120℃で30分間乾燥した後、延伸フイルムを取り出した。延伸後の溶剤残留量は0.1質量%であった。
得られたポリマーフイルムフイルム(位相差板)の厚さは、54μmであり、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用いて、波長450nm、550nmおよび590nmにおけるレターデーション値(Re)を測定したところ、それぞれ、118.3nm、137.2nmおよび140.7nmであった。従って、このセルロースアセテートフイルムは、広い波長領域でλ/4を達成していた。このようにしてλ/4板を得た。
さらに、アッベ屈折率計による屈折率測定と、レターデーションの角度依存性の測定から、波長550nmにおける面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率nyおよび厚み方向の屈折率nzを求め、(nx−nz)/(nx−ny)の値を計算したところ、1.58であった。
【0059】
[実施例2]
(位相差板の作製)
実施例1で得られたドープを、バンド流延機を用いて流延した。残留溶剤量が15質量%のフイルムを、150℃の条件で、テンターを用いて45%の延伸倍率で横延伸して、ポリマーフイルムを製造した。
得られたポリマーフイルム(位相差板)の厚さは、40μmであり、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用いて、波長450nm、550nmおよび590nmにおけるレターデーション値(Re)を測定したところ、それぞれ、118.3nm、137.2nmおよび140.7nmであった。従って、このセルロースアセテートフイルムは、広い波長領域でλ/4を達成していた。このようにしてλ/4板を得た。
さらに、アッベ屈折率計による屈折率測定と、レターデーションの角度依存性の測定から、波長550nmにおける面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率nyおよび厚み方向の屈折率nzを求め、(nx−nz)/(nx−ny)の値を計算したところ、1.70であった。
【0060】
[実施例3]
(位相差板の作製)
室温において、平均酢化度59.0%のセルロースアセテート120質量部、実施例1で用いたレターデーション上昇剤2.0質量部、トリフェニルホスフェート9.36質量部、ビフェニルジフェニルホスフェート4.68質量部、メチレンクロリド543.14質量部、メタノール99.35質量部およびn−ブタノール19.87質量部を混合して、溶液(ドープ)を調製した。
得られたドープを、製膜バンド上に流延し、室温で1分間乾燥後、45℃で5分間乾燥させた。乾燥後の溶剤残留量は30質量%であった。セルロースアセテートフイルムをバンドから剥離し、120℃で5分間乾燥した後、130℃で流延方向と45度方向に延伸した。延伸後、130℃で20分間乾燥した後、延伸フイルムを取り出した。延伸後の溶剤残留量は0.1質量%であった。
得られたポリマーフイルム(位相差板)の厚さは、63μmであり、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用いて、波長450nm、550nmおよび590nmにおけるレターデーション値(Re)を測定したところ、それぞれ、115.7nm、137.4nmおよび141.1nmであった。従って、このセルロースアセテートフイルムは、広い波長領域でλ/4を達成していた。このようにしてλ/4板を得た。
さらに、アッベ屈折率計による屈折率測定と、レターデーションの角度依存性の測定から、波長550nmにおける面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率nyおよび厚み方向の屈折率nzを求め、(nx−nz)/(nx−ny)の値を計算したところ、1.50であった。
【0061】
[実施例4]
(円偏光板の作製)
実施例1で作製したセルロースアセテートフイルムと市販の偏光板((株)サンリッツ製)を、セルロースアセテートフイルムの遅相軸と偏光板の透過軸が45度となるように配置して、粘着剤で貼り合わせて円偏光板を作製した。
得られた円偏光板の光学的性質を調べたところ、いずれも広い波長領域(450〜590nm)において、ほぼ完全な円偏光が達成されていた。
【0062】
[実施例5]
(偏光膜の作製)
平均重合度4000、ケン化度99.8mol%のPVAを水に溶解し、4.0%の水溶液を得た。この溶液をバンド流延、乾燥し、バンドから剥ぎ取り、ドライで流延方向に延伸し、そのままヨウ素0.5g/リットル、ヨウ化カリウム50g/リットルの水溶液(液温30℃)に1分間浸漬した。次いでホウ酸100g/リットル、ヨウ化カリウム60g/リットルの水溶液(液温70℃)に5分間浸漬し、さらに水洗層(水温20℃)で10秒間水洗した。水洗したフイルムをさらに80℃で5分間乾燥して長尺偏光膜を得た。フイルムの幅は1290mm、厚みは20μmであった。
【0063】
(円偏光板の作製)
実施例3で作製したセルロースアセテートフイルム、作製した偏光膜、および市販のセルロースアセテートフイルム(フジタック、富士写真フイルム(株)製)をこの順にロールtoロールで積層して円偏光板を得た。
得られた円偏光板の光学的性質を調べたところ、いずれも広い波長領域(450〜590nm)において、ほぼ完全な円偏光が達成されていた。
【0064】
[実施例6]
(TN型反射型液晶表示装置の作製)
ITO透明電極を設けたガラス基板と、微細な凹凸が形成されたアルミニウム反射電極を設けたガラス基板とを用意した。二枚のガラス基板の電極側に、それぞれポリイミド配向膜(SE−7992、日産化学(株)製)を形成し、ラビング処理を行った。3.4μmのスペーサーを介して、二枚の基板を配向膜が向かい合うように重ねた。二つの配向膜のラビング方向は、110°の角度で交差するように、基板の向きを調節した。基板の間隙に、液晶(MLC−6252、メルク社製)を注入し、液晶層を形成した。このようにして、ツイスト角が70°、Δndの値が269nmのTN型液晶セルを作製した。
ITO透明電極を設けたガラス基板の側に、実施例1で作製したλ/4板を、粘着剤を介して貼り付けた。その上に、さらに偏光板(表面がAR処理された保護膜を積層した偏光膜)を貼り付けた。
作製した反射型液晶表示装置に、1kHzの矩形波電圧を印加した。白表示1.5V、黒表示4.5Vとして目視で評価を行ったところ、白表示においても、黒表示においても、色味がなく、ニュートラルグレイが表示されていることが確認できた。
次に、測定機(EZ contrast 160D、Eldim社製)を用いて反射輝度のコントラスト比を測定したところ、正面からのコントラスト比が25であり、コントラスト比3となる視野角は、上下120°以上、左右120°以上であった。また、温度60℃、相対湿度90%、500時間の耐久テストでも表示上、何の問題も発生しなかった。
【0065】
[実施例7]
(STN型反射型液晶表示装置の作製)
ITO透明電極を設けたガラス板と、平坦なアルミニウム反射電極を設けたガラス基板とを用意した。二枚のガラス基板の電極側に、それぞれポリイミド配向膜(SE−150、日産化学(株)製)を形成し、ラビング処理を行った。6.0μmのスペーサーを介して二枚の基板を配向膜が向かい合うように重ねた。二つの配向膜のラビング方向は、60°の角度で交差するように、基板の向きを調節した。基板の隙間に、液晶(ZLI−2977、メルク社製)を注入し、液晶層を形成した。このようにしてツイスト角が240°、Δndの値が791nmのSTN型液晶セルを作製した。
ITO透明電極を設けたガラス基板の側に、内部拡散シート(IDS、大日本印刷(株)製)と、実施例5で作製した円偏光板を、この順序でそれぞれ粘着を介して、偏光板が最外層となるように貼り付けた。
作製した反射型液晶表示装置に、55Hzの矩形波電圧を印加した。黒表示2.0V、白表示2.5Vとして目視で評価を行ったところ、白表示においても黒表示においても、色味がなく、ニュートラルグレイが表示されていることが確認できた。
次に測定器(EZ contrast 160D、Eldim社製)を用いて反射輝度のコントラスト比を測定したところ、正面からのコントラスト比が8であり、コントラスト比3となる視野角は、上下90°、左右105°であった。
【0066】
[実施例8]
(HAN型反射型液晶表示装置の作製)
ITO透明電極を設けたガラス基板と、平坦なアルミニウム反射電極を設けたガラス基板とを用意した。ITO透明電極を設けたガラス基板の電極側に、ポリイミド配向膜(SE−610、日産化学(株)製)を形成し、ラビング処理を行った。アルミニウム反射電極を設けたガラス基板の電極側に垂直配向膜(SE−1211、日産化学(株)製)を形成した。アルミニウム反射電極上の配向膜にはラビング処理を行わなかった。4.0μmのスペーサーを介して二枚の基板を配向膜が向かい合うように重ねた。基板の隙間に、液晶(ZLI−1565、メルク社製)を注入し、液晶層を形成した。このようにしてΔndの値が519nmのHAN型液晶セルを作製した。
ITO透明電極を設けたガラス基板の側に、実施例1で作製したλ/4板を、粘着剤を介して貼り付けた。その上に偏光板(NPF−G1225DU、日東電工(株)製)を貼り付け、さらにその上に光拡散膜(ルミスティ、住友化学(株)製)を貼り付けた。
作製した反射型液晶表示装置に55Hzの矩形波電圧を印加した。黒表示0.8V、白表示2.0Vとして目視で評価を行ったところ、白表示においても、黒表示においても、色味がなく、ニュートラルグレイが表示されていることが確認できた。
次に測定器(EZ contrast 160D、Eldim社製)を用いて反射輝度のコントラスト比を測定したところ、正面からのコントラスト比が8であり、コントラスト比3となる視野角は、上下120°以上、左右120°以上であった。
【0067】
[実施例9]
(G/H型液晶表示素子の作製)
ITO透明電極が設けられたガラス基板の上に、垂直配向膜形成ポリマー(LQ−1800、日立化成デュポンマイクロシステムズ社製)の溶液を塗布し、乾燥後、ラビング処理を行った。
反射板としてアルミニウムを蒸着したガラス基板の上に、実施例2で作製したλ/4板を粘着剤で貼り付けた。λ/4板の上に、スパッタリングによりSIO層を設け、その上にITO透明電極を設けた。透明電極の上に、垂直配向膜形成ポリマー(LQ−1800、日立化成デュポンマイクロシステムズ社製)の溶液を塗布し、乾燥後、λ/4板の遅相軸方向から45°の方向にラビング処理を行った。
7.6μmのスペーサーを介して、二枚のガラス基板を、配向膜が向かい合うように重ねた。配向膜のラビング方向が反平行となるように、基板の向きを調節した。基板の間隙に、二色性色素(NKX−1366、日本感光色素社製)2.0質量%と液晶(ZLI−2806、メルク社製)98.0質量%との混合物を、真空注入法により注入し、液晶層を形成した。
作製したゲストホスト反射型液晶表示素子のITO電極間に、1kHzの矩形波電圧を印加した。白表示1V、黒表示10Vでの透過率は、それぞれ65%、6%であった。白表示と黒表示との透過率の比(コントラスト比)は、11:1であった。また、上下左右でコントラスト比2:1が得られる視野角を測定したところ、上下、左右ともに120°以上であった。電圧を上昇、下降させながら透過率測定を行ったが、透過率−電圧の曲線にヒステリシスは観察されなかった。
【0068】
[比較例1]
(λ/4板の作製)
質量平均分子量10万のポリカーボネートを塩化メチレンに溶解して、濃度17質量%のポリカーボネート溶液を得た。この溶液をガラス板上に、乾燥膜厚が80μmとなるように流延し、室温で30分乾燥後、70℃で30分乾燥した。ポリカーボネートフイルム(揮発分:約1質量%)をガラス板から剥離し、5cm×10cmのサイズに裁断した。158℃で一軸延伸し、ポリカーボネートの延伸複屈折フイルムを得た。
得られたポリカーボネートフイルム(λ/4板)について、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用いて、波長450nm、550nmおよび590nmにおけるレターデーション値(Re)を測定したところ、それぞれ、147.8nm、137.5nmおよび134.9nmであった。
【0069】
(λ/2板の作製)
λ/4板の作製で用いたポリカーボネート溶液を用いて、乾燥膜厚が100μmとなるように流延した以外はλ/4の作製と同様にして、λ/2板を作製した。
得られたポリカーボネートフイルム(λ/2板)について、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用いて、波長450nm、550nmおよび590nmにおけるレターデーション値(Re)を測定したところ、それぞれ、295.0nm、275.0nmおよび269.8nmであった。
【0070】
(TN反射型液晶表示装置の作製)
実施例6で作製したTN型液晶セルのITO透明電極を設けたガラス基板の側に、λ/4板、λ/2板、そして偏光板(表面がAR処理された保護膜を積層した偏光膜)を、この順序で接着剤を介して貼り付けた。偏光膜の透過軸とλ/2板の遅相軸との角度は20°、λ/2板の遅相軸とλ/4板の遅相軸との角度は55°となるように配置した。
作製した反射型液晶表示装置に、1kHzの矩形波電圧を印加した。白表示1.5V、黒表示4.5Vとして目視で評価を行ったところ、白表示ではやや黄色みが、黒表示においてはやや青色味が認められた。
次に、測定機(EZ contrast 160D、Eldim社製)を用いて反射輝度のコントラスト比を測定したところ、正面からのコントラスト比が10であり、コントラスト比3となる視野角は、上下100°、左右80°であった。
また、温度60℃、相対湿度90%、500時間の耐久テストを実施したところ、ディスプレイの周囲に光漏れ(額縁状の表示ムラ)が生じた。
【0071】
[実施例10]
レターデーション上昇剤の添加量を6.00質量部とし、得られるフイルムの厚さが65μmとなるようにした以外は、実施例1と同様にしてセルロースアセテートフイルムを作製した。
得られたセルロースアセテートフイルム(位相差板)について、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用いて、波長450nm、550nmおよび590nmにおけるレターデーション値(Re)を測定したところ、それぞれ、236.6nm、274.4nmおよび281.4nmであった。従って、このセルロースアセテートフイルムは、広い波長領域でλ/2を達成していた。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】反射型液晶表示装置の基本的な構成を示す模式図である。
【図2】ゲストホスト反射型液晶表示素子の代表的な態様を示す断面模式図である。
【図3】ゲストホスト反射型液晶表示素子の別の代表的な態様を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0073】
1 下基板
2 反射電極
3 下配向膜
4 液晶層
5 上配向膜
6 透明電極
7 上基板
8 λ/4板
9 偏光膜
11 下基板
12 有機層間絶縁膜
13 金属反射板
14 λ/4板
15 下透明電極
16 下配向膜
17 液晶層
18 上配向膜
19 上透明電極
20 光拡散板
21 上基板
22 反射防止層
23 TFT
24 スペーサー
31 下基板
32 有機層間絶縁膜
33 コレステリックカラー反射板
34 λ/4板
35 下透明電極
36 下配向膜
37 液晶層
38 上配向膜
39 上透明電極
41 上基板
42 反射防止層
43 TFT
44 スペーサー
45 ブラックマトリックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢化度57.0乃至61.5%であるセルロースアセテート、およびセルロースアセテート100質量部に対して、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物を0.01乃至20質量部含むセルロースアセテート溶液を調製する工程;調製したセルロースアセテート溶液をドラムまたはバンド上に流延し、セルロースアセテートフイルムを形成する工程;形成したセルロースアセテートフイルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取る工程、そして;波長450nmで測定したレターデーション値(Re450)が100乃至125nmの範囲になり、波長590nmで測定したレターデーション値(Re590)が120乃至160nmの範囲になり、Re590−Re450≧2nmの関係を満足し、厚みが10乃至70μmの範囲になるように、セルロースアセテートフイルムを延伸する工程を以上の順序で実施することを特徴とする位相差板の製造方法。
【請求項2】
波長450nmで測定したレターデーション値(Re450)が108乃至120nmの範囲になり、波長550nmで測定したレターデーション値(Re550)が125乃至142nmの範囲になり、波長590nmで測定したレターデーション値(Re590)が130乃至152nmの範囲になり、Re590−Re550≧2nmの関係を満足するように、セルロースアセテートフイルムを延伸する工程を実施する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
延伸倍率が3乃至100%である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
延伸方向と流延方向とが平行である請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
延伸方向が流延方向に対して横方向である請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
延伸方向が流延方向に対して45°の方向である請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
芳香族化合物の芳香族環の結合関係がいずれも連結基として−NH−を介しての結合である請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
酢化度57.0乃至61.5%であるセルロースアセテート、およびセルロースアセテート100質量部に対して、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物を0.01乃至20質量部含むセルロースアセテート溶液を調製する工程;調製したセルロースアセテート溶液をドラムまたはバンド上に流延し、セルロースアセテートフイルムを形成する工程;形成したセルロースアセテートフイルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取る工程、そして;波長450nmで測定したレターデーション値(Re450)が200乃至250nmの範囲になり、波長590nmで測定したレターデーション値(Re590)が240乃至320nmの範囲になり、Re590−Re450≧4nmの関係を満足し、厚みが10乃至70μmの範囲になるように、セルロースアセテートフイルムを延伸する工程を以上の順序で実施することを特徴とする位相差板の製造方法。
【請求項9】
波長450nmで測定したレターデーション値(Re450)が216乃至240nmの範囲になり、波長550nmで測定したレターデーション値(Re550)が250乃至284nmの範囲になり、波長590nmで測定したレターデーション値(Re590)が260乃至304nmの範囲になり、Re590−Re550≧4nmの関係を満足するように、セルロースアセテートフイルムを延伸する工程を実施する請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
延伸倍率が3乃至100%である請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
延伸方向と流延方向とが平行である請求項8に記載の製造方法。
【請求項12】
延伸方向が流延方向に対して横方向である請求項8に記載の製造方法。
【請求項13】
延伸方向が流延方向に対して45°の方向である請求項8に記載の製造方法。
【請求項14】
芳香族化合物の芳香族環の結合関係がいずれも連結基として−NH−を介しての結合である請求項8に記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−48204(P2009−48204A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241545(P2008−241545)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【分割の表示】特願2000−265651(P2000−265651)の分割
【原出願日】平成12年9月1日(2000.9.1)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】