説明

位置測定方法及び位置測定装置

【課題】簡素な測定装置を使用してスプロケットやギヤなどの部品に形成される小孔やピンなどの位置の測定を簡便に短時間で行えるようにすることを課題としている。
【解決手段】歯溝14に支持ピン1を係合させてスプロケット10を回動可能に支持する回動支持点Iを形成し、その回動支持点Iを中心にしてスプロケット10を、回動支持点Iとの相対位置が固定された回動位置決め点IIに位置決めされるところまで回動させ、回動位置決め点IIにおいて測定点IIIにセットされたゲージ3の測定子3aをスプロケット10の小孔15に嵌めた測定ピン5に接触させてマスター部品を使用して設定した基準点Aからの小孔15の振れ量を計測するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、部品に設けられる小孔などの位置や設置角度の簡易測定を短時間で効率よく行える位置測定方法と位置測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転軸に装着して使用するスプロケットやギヤなどの部品の中に、本体部に設けられた中心穴と本体部の外周との間に小孔を設けたものがある。図4に具体例としてのスプロケットを示す。このスプロケット10は、本体部11の中心に穴12(軸穴)を有する。また、本体部11の外周に交互に定ピッチで形成された歯13と歯溝14を有し、さらに、本体部11の径方向途中に小孔15を有する。その小孔15が、例えば、スプロケット10の回転角の検出を目的として設けられるものであると、小孔15の設置点に精度が求められる。
【0003】
要求される精度は、中心穴12の中心Oを基準にした角度で表されることがある。例えば、図示のスプロケット10は、歯山の中心線を基点Cにして、中心穴の穴中心基準で基点Cから小孔15までの角度θが公差内に納まっているか否かを測定している。
【0004】
その測定は、スプロケット10を規定された向きにして定位置に位置決めし、市販の三次元測定器を用いて小孔15の位置を測定する方法でなされていたが、その方法では測定に時間がかかり、スプロケットなどの部品の生産性に悪影響がでている。量産品については、抜き取り検査でもトータルの検査回数が多くなって測定に多大の時間を費やす。製品によっては、全数検査が要求されることもあり、従って、時間のかからない簡易な方法で測定が行えるようにすることが望まれる。
【0005】
なお、下記特許文献1は、ねじ孔の位置の計測方法として、測定するねじ孔に、そのねじ孔と同心上に位置決めされる位置計測治具を取り付け、この治具の位置を三次元測定器やノギスで測定してねじ孔の位置精度を求める方法を開示している。ノギスによる測定は三次元測定器による測定に比べると簡易に行えるが、特許文献1が開示している方法では、穴中心を基準にした基点から被測定部までの角度の測定などは行えず、その測定は三次元測定器に頼らざるを得ないのが現状である。
【特許文献1】特開2005−61979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、簡素な測定装置を使用してスプロケットやギヤなどの部品に形成される小孔やピンなどの位置の測定を簡易に短時間で行えるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、この発明においては、部品の特定箇所に部品を回動可能に支持する回動支持点を形成し、その回動支持点を中心にして前記部品を、回動支持点との相対位置が固定された回動位置決め点に位置決めされるところまで回動させ、回動位置決め点において測定点にセットされたゲージの測定子を部品に設けられた被測定部に接触させてマスター部品を使用して設定した基準点からの被測定部の振れ量を計測し、その振れ量から部品の被測定部の位置を測定する位置測定方法を提供する。
【0008】
この方法での回動支持点は、定位置に固定された丸ピンを部品の内周又は外周に設けられた歯溝に係合させる方法で形成することができる。
【0009】
また、部品の被測定部がゲージの測定子を挿入できない小孔の場合、その孔に測定ピンを嵌め、その測定ピンの位置をゲージで測定する方法を採ることで、被測定部の位置測定を行うことができる。
【0010】
なお、この発明の方法は、回動支持点から回動位置決め点までの距離を回動支持点から測定点までの距離よりも小として部品を位置決めすると好ましい。
【0011】
この発明の方法で、本体部が中心穴を有する部品の前記中心穴と本体部の外周との間に設けられた被測定部の振れ量(マスター部品を使用して設定した基準点からの被測定部の振れ量)を測定し、その振れ量を角度の振れ量に換算し、換算した角度の振れ量を基点から前記基準点までの角度に加算することで穴中心基準で基点から被測定部までの角度を算出することができる。この発明においては、かかる部品の被測定部の設置角度測定方法も提供する。
【0012】
また、下記(1)、(2)の測定装置も提供する。
(1)部品の基準点との相対位置が定まった箇所に係止させて回動支持点を形成する支持ピンと、前記回動支持点を中心にして回動させた部品に当接させて部品を回動位置決め点に位置決めする位置決めピンと、定位置にセットされたゲージを有し、上述したこの発明の方法で部品の被測定部の位置を測定する位置測定装置。
(2)部品の基準点との相対位置が定まった箇所に係止させて回動支持点を形成する支持ピンと、前記回動支持点を中心にして回動させた部品に当接させて部品を回動位置決め点に位置決めする位置決めピンと、定位置にセットされたゲージと、被測定部の振れ量を角度に換算する演算装置を有し、前記ゲージによる測定データを用いて演算装置で基点から被測定部までの角度を算出するようにした部品の被測定部の設置角度測定装置。
【発明の効果】
【0013】
この発明の位置測定方法及び測定装置によれば、部品の特定箇所に形成した回動支持点を中心にして部品を回動位置決め点に位置決めされるところまで回動させ、回動位置決め点においてゲージの測定子を部品の被測定部に接触させるので、測定条件が常時一定に保たれる。その状態で、マスター部品を使用して設定した基準点からの被測定部の振れ量を求めるので、スプロケットなどに設けられる小孔などの被測定部の位置、角度を簡易に短時間で効率的に測定することができる。
【0014】
なお、回動支持点から回動位置決め点までの距離を回動支持点から測定点までの距離よりも小さくして部品を位置決めすると、測定装置が無駄に大きくならず、また、被測定部が回動支持点から180°回転した位置の最外周にある場合にも支障なく測定を行うことができる。
【0015】
また、定位置に固定された丸ピンを回動の支点にすると、丸ピンを部品の歯溝に係合させて前記回動支持点を構成することができる。測定する部品がスプロケットやギヤなどの場合、部品が元々備える歯溝を利用して測定を行うことができ、部品に測定のための専用の係止部を設ける必要がない。
【0016】
また、部品の被測定部がゲージの測定子を挿入できない小孔の場合、その孔に測定ピンを設け、その測定ピンの位置をゲージで測定する方法を採ることで、被測定部の位置測定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の位置測定方法の実施の形態を添付図面の図1〜図3に基づいて説明する。ここでは、図4で説明したスプロケット10を測定対象として挙げる。測定の内容は、歯山の中心線を基点Cにして、中心穴12の穴中心基準で基点Cからスプロケット10の本体部11に設けられた小孔15までの角度θを、その角度θが公差内に納まっているか否かを知るために求める。
【0018】
ここで用いる測定装置は、回動支持点Iを構成する支持ピン1と、回動位置決め点IIを構成する位置決めピン2と、測定点IIIに配置されるゲージ3を備えて構成されている。支持ピン1と位置決めピン2は、平面のベース面4上に立設されており、相対位置が固定されている。
【0019】
支持ピン1は、測定する部品の特定箇所に係止させる。図示のスプロケット10は外周に歯溝14を有しており、その歯溝14の指定された箇所に支持ピン1を係止させてスプロケット10を回動可能に支持する回動支持点Iを構成する。図1に示すように、支持ピン1に歯溝14を押しつけて隣り合う歯の歯先から歯底に至る歯の側面を支持ピン1に接触させて係合し、その係合部を回動支持点Iとし、支持ピン1を中心に歯の側面をその支持ピン1に接触させた状態でスプロケット10を回動させる。回動支持点Iは、部品の内径側に設けてもよい。例えば、内歯歯車などのように内径部に溝があれば、その溝に支持ピン1を係止させて回動支持点を構成することができる。
【0020】
支持ピン1によって構成された回動支持点Iを支点にしてスプロケット10を図1の矢印方向に回動させ、中心穴12の内面を位置決めピン2に当接させてその位置(回動位置決め点II)にスプロケット10を位置決めする。その位置決めは、位置決めピン2を部品の外周に当接させて行うこともできる。支持ピン1と位置決めピン2は相対位置が固定されており、その2点が基準になってスプロケットが位置決めされるので、同一スプロケットであればゲージ3による測定条件が常に一定し、その一定した条件が測定の度に再現される。
【0021】
ゲージ3は、市販のマイクロメータを採用したゲージであって、測定点IIIにセットされている。このゲージ3は、高精度に加工されたマスター部品(実施例においてはマスタースプロケット)を使用してそのマスター部品を回動支持点を支点にして回動させ、回動位置決め点に位置決めされたときの被測定部の位置(これを基準点にする)を求めてその位置で表示目盛りがゼロになるようにゲージのゼロ点調整を予め行っている。このゲージ3の測定子3aを、位置決めされたスプロケット10の被測定部に接触させて測定を行う。
【0022】
ここでの測定は、測定子3aを直接接触させることができない小孔15を対象にしているので、その小孔15に適合したサイズの測定ピン5を嵌め、その測定ピン5の位置を測定するようにしている。被測定部がピンなどの突起物である場合には、それに測定子3aを直接接触させることができる。また、被測定部が測定子3aを直接入り込ませることができる孔や凹部などである場合にはその孔や凹部の内面に測定子3aを直接接触させて測定を行うことができ、測定ピン5を使う必要はない。
【0023】
支持ピン1で支持したスプロケット10を、回動支持点Iを支点にして回動させて回動位置決め点IIに位置決めし(図2参照)、このときの測定ピン5の位置をゼロ点調整を行ったゲージ3で測定すると、基準点からの振れ量がわかる。
【0024】
図3のAが基準点を示している。B点はスプロケット10を回動位置決め点IIに位置決めしたときの測定ピン5の位置であり、ゲージ3による測定を行ってB点が基準点Aからどれだけ振れた(ずれた)かを求める。回動支持点Iから測定点IIIまでの距離L1は事前にわかっているので、振れ量Sがわかればその振れ量Sを角度に換算して基準点AからB点までの角度の振れ量Δθを求めることができる。その振れ量Δθが公差内に納まっているか否かで小孔15の位置の良否を知る。
【0025】
なお、角度換算は、換算表を事前に準備し、その換算表を使って行うと作業性が向上する。角度換算は、支持ピン1、位置決めピン2、ゲージ3を備える位置測定装置に演算装置(図示せず)を含ませ、その演算装置で計測の都度演算する方法で行うこともできる。この角度換算までを行う装置をこの発明では設置角度測定装置と称し、角度換算を作業者が行う装置を位置測定装置と称している。
【0026】
なお、ベース面4は、水平な面にしてもよいが、このベース面を傾斜面又は起立した面にするとスプロケット10の自重で支持ピン1に対する歯溝14の密着状態が維持され、測定がしやすい。ベース面4を起立させるときには、支持ピン1と位置決めピン2の少なくとも一方を測定する部品の内径側に入り込ませるとよい。作業者が誤って部品から手を離しても部品の内径側に入り込んだピンによって部品が吊り下げられ、部品の落下が防止される。
【0027】
以上述べた実施例の方法で、図示のスプロケット10に設けられた直径φ3mmの小孔15について、基点C(歯山の中心線)から小孔15までの角度を測定した。その結果、
三次元測定器を使用した測定値とほぼ同一の測定結果が得られた。一方、スプロケット1個当たりの測定時間が三次元測定器による測定時間より短縮され、生産性向上の効果が顕著であることを確認できた。
【0028】
なお、以上の説明は、スプロケットを測定対象としたが、この発明で測定する部品はスプロケットに限定されない。ギヤやその他の回転体などに設ける孔やピン、突起などの位置の測定に有効に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の測定方法の一例のスプロケット回動工程を示す図
【図2】この発明の測定方法の一例のスプロケット位置決め状態を示す図
【図3】測定するピンの基準点からの振れを示す図
【図4】測定対象の一例のスプロケットを示す図
【符号の説明】
【0030】
1 支持ピン
2 位置決めピン
3 ゲージ
3a 測定子
4 ベース面
5 測定ピン
10 スプロケット
11 本体部
12 中心穴
13 歯
14 歯溝
15 小孔
I 回動支持点
II 回動位置決め点
III 測定点
A 基準点
B ピン位置
C 基点
S 振れ量
θ 中心穴の穴中心を基準にした小孔の設置角度
Δθ 振れ角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品の特定箇所に部品を回動可能に支持する回動支持点(I)を形成し、その回動支持点(I)を中心にして前記部品を、前記回動支持点(I)との相対位置が固定された回動位置決め点(II)に位置決めされるまで回動させ、回動位置決め点(II)において測定点(III)にセットされたゲージ(3)の測定子(3a)を部品に設けられた被測定部に接触させてマスター部品を使用して設定した基準点(A)からの被測定部の振れ量を計測する位置測定方法。
【請求項2】
定位置に固定された丸ピンの支持ピンを前記部品の内周又は外周に設けられた歯溝に係合させて前記回動支持点(I)を構成し、前記丸ピンの支持ピンを支点にして部品を回動させる請求項1に記載の位置測定方法。
【請求項3】
前記回動支持点(I)から回動位置決め点(II)までの距離を、回動支持点(I)から測定点(III)までの距離よりも小として部品を位置決めする請求項1又は2に記載の位置測定方法。
【請求項4】
本体部(11)が中心穴(12)を有する部品の前記中心穴(12)と本体部(11)の外周との間に設けられた被測定部の基準点(A)からの振れ量を請求項1〜3のいずれかに記載の方法で測定し、マスター部品を使用して設定した被測定部の基準点(A)からの振れ量を基準点(A)からの角度の振れ量に換算し、換算した角度の振れ量を基点(C)から前記基準点(A)までの角度に加算して前記中心穴(12)の穴中心(O)基準で前記基点(C)から被測定部までの角度を算出する被測定部の設置角度測定方法。
【請求項5】
部品の基準点(A)との相対位置が定まった箇所に係止させて回動支持点(I)を形成する支持ピン(1)と、前記回動支持点(I)を中心にして回動させた部品に当接させて部品を回動位置決め点(II)に位置決めする位置決めピン(2)と、定位置にセットされたゲージ(3)を有し、請求項1〜3のいずれかに記載の方法で被測定部の位置を測定する位置測定装置。
【請求項6】
部品の基準点(A)との相対位置が定まった箇所に係止させて回動支持点(I)を形成する支持ピン(1)と、前記回動支持点(I)を中心にして回動させた部品に当接させて部品を回動位置決め点(II)に位置決めする位置決めピン(2)と、定位置にセットされたゲージ(3)と、被測定部の振れ量を角度に換算する演算装置を有し、請求項4に記載の方法で前記基点(C)から被測定部までの角度を算出するようにした被測定部の設置角度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−171007(P2007−171007A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369548(P2005−369548)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】