説明

低い硬化温度を有するレドックス誘導カチオン重合性組成物

(i)カチオン重合性樹脂、(ii)オニウム塩、(iii)アゾまたはペルオキシド開始剤を含むカチオン重合性組成物は、反応に(iv)触媒量またはサブ化学量論的な量の電子リッチなビニル樹脂を添加することでより低い硬化温度を示す。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、低下された硬化温度を示す、レドックス誘導カチオン重合性組成物およびカチオン重合性組成物の硬化温度を低下させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(関連技術の簡単な説明)
多くの製造工程において、工程速度によってスループットはより高く、組立経費はより低くなる。製造工程の一部で接着剤、コーティング、または封止材料を使用する場合、接着剤、コーティング、または封止材料を比較的低い硬化温度で迅速に硬化できれば、工程速度を上げることができる。
【0003】
電子部品実装産業では、例えば、低温、高速(急速)硬化接着剤および封止材料が様々な用途で望まれている。電子部品実装の一般的な方式では、接着剤または封止材料を用いて半導体デバイスを基板上に取り付ける。より代表的な利用は、金属リードフレームへの集積回路チップの結合、およびプリント配線基板への回路パッケージまたは組立品の結合であり、例えば、配列パッケージのためのダイ接着、RFIDパッケージのためのダイ接着、およびインクジェットカートリッジ組立のための構成部品接着が含まれる。インクジェットカートリッジに対しては、低温硬化の組立は、噴射軌道歪みを最小限にして印刷品質を改善することができる。例えば、RFID用途での紙ベースのアンテナおよび有機基板中のカメラセンサーのような、温度の影響を受け易い部品または基板に対しては、低温での配線が非常に好ましい。すなわち、低温、好ましくは100℃未満の温度で硬化する重合性組成物が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、(i)カチオン重合性樹脂、(ii)オニウム塩、(iii)アゾまたはペルオキシド開始剤、および(iv)電子リッチなビニル樹脂、を含む重合性組成物である。
【0005】
別の実施形態では、本発明は、(i)カチオン重合性樹脂、(ii)オニウム塩、(iii)アゾまたはペルオキシド開始剤、および(iv)触媒量またはサブ化学量論的(substoichiometric)な量の電子リッチなビニル樹脂、を含む重合性組成物である。
【0006】
別の実施形態では、本発明は、カチオン重合性樹脂の硬化温度を低下させるための方法であり、ここで樹脂の硬化は、樹脂にオニウム塩およびアゾまたはペルオキシド開始剤を添加することによって触媒され、この方法は、樹脂、オニウム塩およびアゾまたはペルオキシド開始剤の混合物に電子リッチなビニル樹脂を添加することを含む。
【0007】
別の実施形態では、本発明は、カチオン重合性樹脂の硬化温度を低下させるための方法であり、ここで樹脂の硬化は、樹脂にオニウム塩およびアゾまたはペルオキシド開始剤を添加することによって触媒され、この方法は、樹脂、オニウム塩およびアゾまたはペルオキシド開始剤の混合物に触媒量またはサブ化学量論的な量の電子リッチなビニル樹脂を添加することを含む。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(発明の詳細な説明)
【0009】
電子リッチなビニル種の存在下、オニウム塩およびアゾ開始剤を使用するカチオン重合のための反応スキームは、ここに示すように起こり:
【0010】
【化1】

ここで、RおよびR’は、任意の有機部分である。
【0011】
また、オニウム塩との反応のために、ペルオキシドを使用してラジカルを発生させることができる。
【0012】
本明細書および特許請求の範囲内の使用では、硬化が可能な樹脂は架橋を伴って、または伴わず重合性樹脂である。硬化が可能および重合が可能の用語は、互換的に使用され、カチオン硬化が可能な樹脂または組成物は、重合性樹脂または組成物である。任意のカチオン重合性樹脂を上記反応で使用してもよい。例となるカチオン重合性樹脂としては、オキセタン、エポキシ、スピロオルトカーボネート、スピロオルトエステル、およびベンゾキサジン、またはこれらの任意の混合物が挙げられる。
【0013】
適したオキセタン樹脂は、米国特許第7,034,064号、同6,982,338号、同6,953,862号、同6,943,258号、同6,753,434号各公報に開示されたもの、および構造:
【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

を有する東亞合成社からOXT−221、OXT−121、OXT−101、OXT−212、OXT−211、CHOX、OX−SC、PNOX−1009の商標名で入手できるものである。
【0016】
適したエポキシ樹脂としては、ビスフェノールエポキシ樹脂、ナフタレンエポキシ樹脂、および脂肪族タイプのエポキシ樹脂が挙げられる。市販の入手可能な材料としては、ビスフェノール型のエポキシ樹脂(例えば、大日本インキ化学工業社からEPICLON 830LVP、830CRP、835LV、850CRPの商標名で入手できる市販品);ナフタレン型のエポキシ樹脂(例えば、大日本インキ化学工業社からEPICLON HP4032の商標名で入手できる市販品);脂肪族エポキシ樹脂(例えば、Ciba Specialty Chemicals社からARALDITE CY179、184、192、175、179の商標名で入手できる市販品;Dow Corporationから入手できるEPOXY1234、249、206;およびダイセル化学工業社から入手できるEHPE−3150)が挙げられる。
【0017】
別の適したエポキシ樹脂としては、脂環式エポキシ樹脂、例えば、Union carbide社からERL−4221として、Ciba−Geigy社からARALDITE CY−179として入手できる3,4−エポキシ−シクロヘキシルメチル3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート;Ciba−Geigy社からCY−184として入手できるヘキサヒドロ−フタル酸無水物のジグリシジルエステル;Union carbide社からERL−4229として入手できるビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)−アジペート;ならびに他のビスフェノール−A型のエポキシ樹脂、ビスフェノール−F型のエポキシ樹脂、エポキシノボラック樹脂、ビフェニル型のエポキシ樹脂、ナフタレン型のエポキシ樹脂、およびジシクロペンタジエンフェノール型のエポキシ樹脂(これらの全ては、異なった供給源から市販品が入手可能である)が挙げられる。
【0018】
スピロオルトカーボネートおよびビニルスピロオルトカーボネートの例としては、下記の構造:
【0019】
【化4】

を有するものが挙げられる。
【0020】
電子リッチなビニルスピロカーボネートの例としては、下記の構造:
【0021】
【化5】

を有するものが挙げられる。
【0022】
スピロオルトエステルの例としては、
【0023】
【化6】

が挙げられ、ここで、Pivは、トリメチルアセチル基:
【0024】
【化7】

である。
【0025】
電子リッチなビニルスピロオルトエステルの例としては、
【0026】
【化8】

が挙げられる。
【0027】
適したベンゾキサジンとしては、構造:
【0028】
【化9】

を含有する化合物が挙げられ、ここで、RおよびRは、任意の有機部分構造であり、別のベンゾキサジン構造であってもよい。
【0029】
ベンゾキサジン化合物の例としては、式:
【0030】
【化10】

で表されるものが挙げられ、ここで、Rは、脂肪族、芳香族、または脂肪族および芳香族の組合せであってもよい二価の基であり(この基は、酸素、窒素、硫黄、リン、またはハロゲンのようなヘテロ原子を含んでいてもよい)、または単一結合であってもよく、またはS、S、SO、SO、O、またはCOであってもよく;Rは、水素、アルキルまたは置換アルキル、芳香族または置換芳香族である。
【0031】
具体的に適したベンゾキサジン化合物としては:
【0032】
【化11】

【0033】
【化12】

【0034】
【化13】

【0035】
【化14】

が挙げられる。
【0036】
上記のような化合物に加えて、また、ベンゾキサジンは下記の構造:
【0037】
【化15】

で示される重合体種で存在してもよく、ここで、Rは、前記と同様であり、nは、ベンゾキサジンが従属する重合体の組成によって変化する整数であり、各々のQは、例えば、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリ(ブタジエン)またはポリスチレンのような重合体構成要素である。
【0038】
オニウム塩の例としては、ヨードニウム塩、スルフォニウム塩、ジアゾニウム塩、アンモニウム塩またはこれらの塩の混合物が挙げられる。1つの実施形態では、このオニウム塩は、式:
【0039】
【化16】

で表されるヨードニウム塩であり、ここで、Rは、独立して、フェニル、ハロフェニル(例えば、クロロフェニル)およびC−C20アルキルフェニル(例えば、ドデシルフェニル)から選択される。Xは、任意の適した対アニオンであり、例えば、ハロゲンアニオン、CFSO、CSO、NO、AsF、SbF、FeCl、SbCl、BF、PF、および(C)Bである。
【0040】
市販品で入手可能なヨードニウム塩としては、Gelest社からのRHODORSIL2074として(p−イソプロピルフェニル)(p−メチルフェニル)ヨードニウム・テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、およびGeneral Electric社からのUV9380としてビスドデシルフェニルヨ−ドニウム・ヘキサフルオロアンチモネートが挙げられる。このオニウム塩は、有効な量で使用される。1つの実施形態では、有効な量は、全樹脂の0.1から10重量%の範囲内にある。
【0041】
アゾ開始剤の例としては、例えば、アゾイソブチロニトリル、2,2’−アゾビスプロパン、2,2’−アゾビス(2−メチルブタンニトリル)、およびm,m’−アゾスチレンが挙げられる。市販品の入手可能なアゾ開始剤は、Wako Specialty Companyから入手できる、例えば、VA−044、VA−057、VA−085、V−70、VF−096、V−65、V−601、V−59、V−40、VF−096、V−30の商標名で市販されているもの、およびAkzo Nobel社から入手できる、例えば、PERKADOX ACCN、PERKADOX AIBN、PERKADOX AMBN−GRの商標名で市販されているもの、およびDupont社から入手できる、例えば、VAZO−52、VAZO−64、VAZO−67およびVAZO−88の商標名で市販されているものである。アゾ開始剤は、有効な量で使用される。1つの実施形態では、有効な量は全樹脂含量の0.1から10重量%の範囲内にある。
【0042】
ペルオキシド開始剤の例としては、Akzo Nobel社から入手できる、例えば、PERKADOXおよびTRIGONOXの商標名で市販されているものが挙げられる。オニウム塩との反応のためにビニル樹脂でラジカルを発生する限り、他のペルオキシド開始剤も適する。例となるペルオキシドとしては、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、ブチルペルオクトエート、ジクミルペルオキシド、アセチルペルオキシド、パラ−クロロベンゾイルペルオキシドおよびジ−t−ブチルジペルフタレートが挙げられる。これらのペルオキシド開始剤は、有効な量で使用される。1つの実施形態では、有効な量は全樹脂含量の0.1から10重量%の範囲内にある。
【0043】
電子リッチなビニル樹脂の例としては、ビニルエーテル、スピロ環状ビニルエーテル、スチレン系(スチレン部分構造を含有する化合物)、シンナミル系(本明細書および特許請求の範囲において:シンナミル部分構造を含有する化合物)、N−ビニルアミド、およびN−ビニルアミンが挙げられる。
【0044】
適したビニルエーテル樹脂としては、例えば、ポリ(ブタジエン)、ポリ(カーボネート)、ポリ(ウレタン)、ポリ(エーテル)、ポリ(エステル)、単純炭化水素、およびカルボニル、カルボキシル、アミド、カルバメート、尿素、エステル、またはエーテルのような官能基を含有する単純炭化水素が挙げられ、これらはビニルエーテル官能基も含有する。適した市販品で入手可能なビニルエーテル樹脂としては、International Specialty Products社(IPS)から入手できるシクロヘキサン−ジメタノールジビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、シクロへキシルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、およびブタンジオールジビニルエーテル;Sigma−Aldrich社からVECTOMER4010、4020、4030、4040、4051、4210、4220、4230、4060、5015の商標名で市販されているビニルエーテルが挙げられる。
【0045】
適したスピロ環状ビニルエーテルとしては、例えば、構造:
【0046】
【化17】

を有するものが挙げられる。
【0047】
適したスチレン樹脂としては、例えば、米国特許第6,953,862号、同6,908,969号、同6,908,957号、同6,809,155号、同6,803,406号、同6,716,992号、同6,441,213号、同6,441,121号、同6,307,001号、同6,300,456号各公報に開示されたもの、ならびに市販品で入手可能なスチレン、置換スチレン、ジビニルベンゼン、ジフェニルエチレンの樹脂、およびスチレン官能基を有する任意の他の樹脂(以下、スチレン系という)が挙げられる。そのような樹脂は、例えば、ポリエステル、カルバメート、尿素であってもよい。スチレン樹脂の例としては、下記の構造:
【0048】
【化18】

を有する化合物が挙げられ、ここで、Rは、脂肪族または芳香族炭化水素であり、ヘテロ原子を有するものも含まれる。
【0049】
適したシンナミル樹脂としては、例えば、米国特許第6,943,258号、同6,753,434号、同6,716,992号、同6,908,969号、同6,908,957号、同6,809,155号、同6,803,406号、同6,753,434号、同6,570,032号、同6,441,121号、同6,307,001号、同6,300,456号各公報に開示されたものが挙げられる。これらのシンナミル化合物は、構造式:
【0050】
【化19】

で表されるシンナミル官能基を含む、任意の小分子、オリゴマー、または重合体材料であってもよい(以下、シンナミル系という)。
【0051】
適した市販品の入手可能なN−ビニルアミド樹脂としては、例えば、N−ビニル−ピロリドン、N−ビニルホルムアミドおよびN−ビニルカプロラクトンが挙げられる。
【0052】
適した市販品の入手可能なN−ビニルアミンとしては、例えば、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルピロール、N−ビニルイミダゾール、および2−メチル−N−ビニルイミダゾールが挙げられる。
【0053】
別の実施形態では、本発明は、カチオン重合性組成物をオニウム塩、アゾまたはペルオキシド開始剤、および電子リッチなビニル樹脂の存在下で反応させることを含む、1種以上のカチオン重合性モノマーの前記カチオン重合性組成物を重合するための方法である。そのようなカチオン重合性組成物の成分は、本明細書において前に説明したものと同じである。
【0054】
別の実施形態では、本発明は、カチオン重合性組成物をオニウム塩、アゾまたはペルオキシド開始剤、および触媒量またはサブ化学量論的な量の電子リッチなビニル樹脂の存在下で反応させることを含む、1種以上のカチオン重合性モノマーの前記カチオン重合性組成物を重合するための方法である。そのようなカチオン重合性組成物の成分は、本明細書において前に説明したものと同じである。
【0055】
別の実施形態では、本発明は、1種以上のカチオン重合性モノマー、オニウム塩、およびアゾまたはペルオキシド開始剤を含むカチオン重合性組成物の硬化温度を低下させるための方法であり、この方法は、前記カチオン重合性組成物に電子リッチなビニル樹脂を添加することを含む。そのようなカチオン重合性組成物の成分は、本明細書において前に説明したものと同じである。
【0056】
別の実施形態では、本発明は、1種以上のカチオン重合性モノマー、オニウム塩、およびアゾまたはペルオキシド開始剤を含むカチオン重合性組成物の硬化温度を低下させるための方法であり、この方法は、前記カチオン重合性組成物に触媒量またはサブ化学量論的な量の電子リッチなビニル樹脂を添加することを含む。そのようなカチオン重合性組成物の成分は、本明細書において前に説明したものと同じである。
【0057】
別の実施形態では、本発明は、2パートのカチオン重合性組成物であり、第1のパートはカチオン重合性モノマーおよびオニウム塩を含み、第2のパートはカチオン重合性モノマーおよびアゾまたはペルオキシド開始剤を含む。前記第1のパートまたは前記第2のパートのいずれか、もしくは前記第1のパートおよび前記第2のパートは共に電子リッチなビニル樹脂を含むことができる。これらのパートの成分は、本明細書において前に説明された。前記2つのパートは、配合直前に機械的に混合されてもよい。
【0058】
別の実施形態では、本発明は、2パートのカチオン重合性組成物であり、第1のパートはカチオン重合性モノマーおよびオニウム塩を含み、第2のパートはカチオン重合性モノマーおよびアゾまたはペルオキシド開始剤を含む。前記第1のパートまたは前記第2のパートのいずれか、もしくは前記第1のパートおよび前記第2のパートは共に触媒量またはサブ化学量論的な量の電子リッチなビニル樹脂を含むことができる。これらのパートの成分は、本明細書において前に説明された。前記2つのパートは、配合直前に機械的に混合することができる。
【0059】
これらの2つのパートの重合は、同時にまたは独立して起こってもよく、特定のアゾまたはペルオキシド開始剤の選択および開始剤が分解して開始ラジカル種を形成する温度によって決まる。カチオン重合性物質のカチオン重合およびビニルモノマーのラジカル重合は、開始剤の適切な選択で共に100℃未満で起こりうる。
【0060】
別の実施形態において、1種以上のカチオン重合性モノマーの重合では、この重合混合物中に、さらに、オニウム塩、アゾまたはペルオキシド開始剤、および電子リッチなビニル樹脂が含まれ、この重合を1種以上の別のビニルモノマー(すなわち、典型的には電子リッチなものとされないビニルモノマー)、例えば、アクリレート、メタクリレート、マレイミド、マレエート、またはフマレート、もしくはこれらの混合物の存在下で実施することができる。この重合では、前記アゾまたはペルオキシド開始剤は前記別のビニルモノマーのラジカル重合を開始することができる。前記カチオン重合性材料のカチオン重合および前記別のビニルモノマーのラジカル重合は、同時にまたは独立して起こり、特定のアゾまたはペルオキシド開始剤の選択および開始剤が分解して開始ラジカル種を形成する温度によって決まりうる。あらゆる場合において、硬化が100℃以下で起こるように開始剤を選択することができる。
【0061】
別の実施形態において、1種以上のカチオン重合性モノマーの重合では、この重合混合物中に、さらに、オニウム塩、アゾまたはペルオキシド開始剤、および電子リッチなビニル樹脂が含まれ、この重合をサブ化学量論的な量の1種以上の別のビニルモノマー、例えば、アクリレート、メタクリレート、マレイミド、マレエート、またはフマレート、もしくはこれらの混合物の存在下で実施することができる。この実施形態では、前記カチオン重合は、下記の反応スキームで示されるように、ラジカル重合およびその後の酸化によって生成されるカチオンマクロ開始剤によって開始される。2つの重合プロセスが相互依存している。このマクロ開始剤を生成するために、前記電子リッチなビニル樹脂は、前記別のビニル樹脂に比較してわずかに過剰に存在しなければならない。この実施形態は、2パート系でよく機能し、第1のパートはカチオン重合性樹脂を含み、第2のパートは電子リッチなビニル樹脂および別のビニル樹脂を含む。
【0062】
【化20】

【0063】
適したアクリレートおよびメタクリレート樹脂としては、包括的な構造:
【0064】
【化21】

を有するものが挙げられ、ここで、nは1から6であり、Rは−Hまたは−CHであり、Xは芳香族または脂肪族基である。例となるXの構成要素としては、ポリ(ブタジエン)、ポリ−(カーボネート)、ポリ(ウレタン)、ポリ(エーテル)、ポリ(エステル)、単純炭化水素、および例えば、カルボニル、カルボキシル、アミド、カルバメート、尿素、エステル、またはエーテルのような官能基を含有する単純炭化水素が挙げられる。市販品の入手可能な材料としては、共栄社化学社から入手できるブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)−アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)−アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−フェノキシエチル(メタ)−アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ペルフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ノニルフェノール・ポリプロポキシレート(メタ)アクリレート、およびポリペントキシレート・テトラヒドロフルフリルアクリレート;Sartomer Company社から入手できるポリブタジエン・ウレタンジメタクリレート(CN302、NTX6513)およびポリブタジエンジメタクリレート(CN301、NTX6039、PRO6270);根上化学工業社から入手できるポリカーボネート・ウレタンジアクリレート(ARTRESIN UN9200A);Radcure Specialities社から入手できるアクリレート化脂肪族ウレタンオリゴマー(EBECRYL230、264、265、270、284、4830、4833、4834、4835、4866、4881、4883、8402、8800−20R、8803、8804);Radcure Specialities社から入手できるポリエステルアクリレートオリゴマー(EBECRYL657、770、810、830、1657、1810、1830);およびSartomer Company社から入手できるエポキシアクリレート樹脂(CN104、111、112、115、116、117、118、119、120、124、136)が挙げられる。1つの実施形態では、前記アクリレート樹脂は、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、アクリレート官能基を有するポリ(ブタジエン)およびメタクリレート官能基を有するポリ(ブタジエン)からなる群より選択される。
【0065】
適したマレイミド樹脂としては、包括的な構造:
【0066】
【化22】

を有するものが挙げられ、ここで、nは1から3であり、Xは脂肪族または芳香族基である。例となるXの構造要素としては、ポリ(ブタジエン)、ポリ(カーボネート)、ポリ(ウレタン)、ポリ(エーテル)、ポリ(エステル)、単純炭化水素、および、例えば、カルボニル、カルボキシル、アミド、カルバメート、尿素、エステル、またはエーテルのような官能基を含有する単純炭化水素が挙げられる。これらの型の樹脂は、市販品が入手可能であり、例えば、大日本インキ化学工業社から得ることができる。
【0067】
追加の適したマレイミド樹脂の非限定的な例としては、固体状芳香族ビスマレイミド(BMI)樹脂、特に、構造:
【0068】
【化23】

を有するものが挙げられ、ここで、Qは芳香族基である。芳香族ブリッジ基を有する適したビスマレイミド樹脂は市販品が入手可能であり、例えば、Sartomer(米国)またはHOS−Technic GmbH(オーストリア)から得ることができる。
【0069】
別の適したマレイミド樹脂としては:
【0070】
【化24】

ここで、C36は炭素原子36個の直鎖または分岐鎖炭化水素鎖(環状部分が存在するかまたは存在しない)を表し;
【0071】
【化25】

が挙げられる。
【0072】
適したフマレートおよびマレエートとしては、例えば、ジオクチルマレエート、ジブチルマレエート、ジオクチルフマレート、およびジブチルフマレートが挙げられる。
【0073】
すべての実施形態において、前記カチオン重合性組成物は、さらに他の単官能および/または多官能性カチオン重合性樹脂、および/または反応性カチオン重合性希釈剤を含んでいてもよい。
【0074】
すべての実施形態において、前記カチオン重合性組成物は、さらにフィラーを含んでいてもよい。適した非伝導性フィラーの例としては、アルミナ、アルミニウムヒドロキシド、シリカ、溶融シリカ、ヒュームド・シリカ、バーミキュライト、雲母、珪灰石、炭酸カルシウム、チタニア、砂、ガラス、バリウム硫酸塩、ジルコニウム、カーボンブラック、有機フィラー、およびハロゲン化エチレンポリマー、例えば、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、および塩化ビニルが挙げられる。適した伝導性フィラーの例としては、カーボンブラック、グラファイト、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、シリコンカーバイド、窒化ホウ素、ダイヤモンド、およびアルミナが挙げられる。
【0075】
前記フィラー粒子は、ナノサイズから数mmの範囲内で任意の適した大きさであってもよい。適したフィラーの大きさは、実施者によって決定されうるが、一般に20ナノメータから100ミクロンの範囲であってよい。あらゆる特定の最終用途に対する、そのような大きさの選択は、当業者の専門知識の範囲内である。フィラーは任意の有効な量で存在してよく、典型的には、有効な量は全組成物の10から90重量%の範囲内にあると考えられる。1種を超えるフィラー型を組成物において使用してもよく、このフィラーは、表面処理されていても、または表面処理されていなくてもよい。
【0076】
別の物質、例えば、接着促進剤、染料、顔料、およびレオロジー改質剤は、最終特性の改質に対する要望通り添加されてもよい。そのような材料および必要とされる量は、当業者の専門知識の範囲内である。
【0077】
カチオン重合性モノマーがエポキシではない場合、前記組成物の作業時間を、エポキシ樹脂またはラジカル禁止剤の添加によって長くすることができる。作業時間を長くするための添加物として、このエポキシ樹脂は全樹脂の1から90重量%の量で存在してもよい。適したエポキシ樹脂は、本明細書で先に開示されたものである。ラジカル禁止剤が作業時間を長くするために使用される場合、このラジカル禁止剤は、10ppmから2000ppmの量で存在することができる。適したラジカル禁止剤としては、例えば、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、t−ブチルカテコール、フェノチアジン、および構造:
【0078】
【化26】

を有するNPALが挙げられる。
【実施例】
【0079】
実施例1 カチオン重合性組成物の硬化温度に対する電子リッチなビニル化合物の効果
【0080】
カチオン重合性組成物を、本明細書の上記構造を有するオキセタン(OXT−221)、ヨードニウム塩(RHODORSIL−2074)、およびアゾ開始剤(VAZO−52)を含むコントロールとして製造した。追加の組成物を、コントロール組成物および触媒量の下記の構造を有するビニルエーテルI、ビニルエーテルII、またはスチレン化合物を含むように製造した。これらの組成物の試料を硬化して、ピーク温度(Tピーク)を記録した。同じ組成物の別の試料を室温で貯蔵し、作業時間を測定するためにゲル時間を記録した。
【0081】
【化27】

【0082】
組成物に対する配合および結果を表1に報告する。この結果は、ヨードニウム塩およびアゾ開始剤の存在下、ビニルエーテルをカチオン重合性オキセタンに添加すると、組成物の硬化温度が低下することを示している(No.1コントロールをNo.2と比較)。ヨードニウム塩の量を1モル%から2モル%(No.3)へ増加すると、硬化温度の影響を受けることなくゲル時間が増加した。ビニルエーテル単独では、最低の硬化温度を示すが、短いゲル時間を示した(No.5)。2官能スチレン化合物、別の電子リッチなビニル化合物は、ビニルエーテルと同様に硬化温度を低下した(No.6)。等温示差走査熱量測定を2つの試料に関して実施した。No.2で示すピーク温度76℃の試料は、85℃において約45秒で硬化し、およびNo.5で示すピーク温度65℃の試料は、85℃において30秒で硬化した。
【0083】
【表1】

【0084】
実施例2 カチオン重合性組成物の作業時間に対するエポキシまたはラジカル禁止剤の効果
【0085】
組成物の作業時間を改善するために、配合にエポキシまたはラジカル禁止剤を添加した。コントロールとしてのカチオン重合性組成物を上記の構造を有するオキセタン(OXT−221)、ヨードニウム塩(RHODORSIL)、アゾ開始剤(VAZO−52)、および上記の構造を有するビニルエーテルIまたはIIを含むように製造した。これに、エポキシ樹脂またはラジカル禁止剤としてメチルヒドロキノン(MeHQ)を添加した。この使用したエポキシ樹脂は、Dow chemicals社からCYRACURE UVR6128の商標名で市販されている脂環式エポキシ、またはHexion chemicals社からEPON 834の商標名で市販されているエポキシ樹脂である。
【0086】
組成物成分および結果を表2に報告し、この組成物へのエポキシの添加は、配合を安定化してゲル時間を改善(No.2および3)することを示している。オキセタンがなく、触媒量のビニルエーテルを有する前記エポキシ系は、ピーク温度95℃で良好な作業時間を有することを示した(No.4)。ビニルエーテルIからビニルエーテルIIへの変更が、わずかにゲル時間を増加し(No.5)、作業時間が使用するビニルエーテルの型に依存しうることを示した。ラジカル禁止剤の使用は、配合物の作業時間を改善したが、付随するピーク温度は増加し、これは使用する禁止剤の量に対応していた(No.6、7、8、9)。
【0087】
【表2】

【0088】
実施例3 カチオン重合性組成物の硬化温度に対するペルオキシド開始剤の効果
【0089】
アゾ開始剤は、分解してN2ガスを解放することができ、これは低いガス放出が要求される用途では望ましくない。アゾ開始剤をペルオキシドで交換して成功するかどうかは、選択するペルオキシドによって決まると考えられる。アゾ開始剤をベンゾイルペルオキシドおよびRIGONOX−23の商標名で市販されている商品ペルオキシドで置き換えて、カチオン重合性組成物を前の実施例のように製造した。組成物の配合および結果を表3に報告する。
【0090】
【表3】

このデータは、(TRIGONOX)ペルオキシドが開始剤としてベンゾイルペルオキシドよりも有効であったことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)カチオン重合性樹脂、(ii)オニウム塩、(iii)アゾまたはペルオキシド開始剤、および(iv)電子リッチなビニル樹脂、を含む重合性組成物。
【請求項2】
前記カチオン重合性樹脂が、オキセタン、エポキシ樹脂、スピロオルトカーボネート、スピロオルトエステル、およびベンゾキサジン、またはこれらの任意の混合物からなる群より選択される、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項3】
前記電子リッチなビニル樹脂が、ビニルエーテル、スピロ環状ビニルエーテル、スチレン系、シンナミル系、N−ビニルアミド、およびN−ビニルアミンからなる群より選択される、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項4】
前記電子リッチなビニル樹脂が、触媒量またはサブ化学量論的な量で存在する、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項5】
前記カチオン重合性樹脂が、オキセタン、エポキシ樹脂、スピロオルトカーボネート、スピロオルトエステル、およびベンゾキサジン、またはこれらの任意の混合物からなる群より選択される、請求項4に記載の重合性組成物。
【請求項6】
前記電子リッチなビニル樹脂が、ビニルエーテル、スピロ環状ビニルエーテル、スチレン系、シンナミル系、N−ビニルアミド、およびN−ビニルアミンからなる群より選択される、請求項4に記載の重合性組成物。
【請求項7】
(i)カチオン重合性樹脂、(ii)オニウム塩、(iii)アゾまたはペルオキシド開始剤を含むカチオン重合性組成物の硬化温度を下げるための方法であって、この方法が、(iv)電子リッチなビニル樹脂の存在下で、前記カチオン重合性組成物を反応させることを含む、方法。
【請求項8】
前記カチオン重合性樹脂が、オキセタン、エポキシ樹脂、スピロオルトカーボネート、スピロオルトエステル、およびベンゾキサジン、またはこれらの任意の混合物からなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記電子リッチなビニル樹脂が、ビニルエーテル、スピロ環状ビニルエーテル、スチレン系、シンナミル系、N−ビニルアミド、およびN−ビニルアミンからなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記電子リッチなビニル樹脂が、触媒量またはサブ化学量論的な量で存在する、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記カチオン重合性樹脂が、オキセタン、エポキシ樹脂、スピロオルトカーボネート、スピロオルトエステル、およびベンゾキサジン、またはこれらの任意の混合物からなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記電子リッチなビニル樹脂が、ビニルエーテル、スピロ環状ビニルエーテル、スチレン系、シンナミル系、N−ビニルアミド、およびN−ビニルアミンからなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
(i)カチオン重合性樹脂、(ii)オニウム塩、(iii)アゾまたはペルオキシド開始剤を含むカチオン重合性組成物を重合するための方法であって、この方法が、(iv)電子リッチなビニル樹脂の存在下で、前記カチオン重合性組成物を反応させることを含む、方法。
【請求項14】
前記カチオン重合性樹脂が、オキセタン、エポキシ樹脂、スピロオルトカーボネート、スピロオルトエステル、およびベンゾキサジン、またはこれらの任意の混合物からなる群より選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記電子リッチなビニル樹脂が、ビニルエーテル、スピロ環状ビニルエーテル、スチレン系、シンナミル系、N−ビニルアミド、およびN−ビニルアミンからなる群より選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記電子リッチなビニル樹脂が、触媒量またはサブ化学量論的な量で存在する、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記カチオン重合性樹脂が、オキセタン、エポキシ樹脂、スピロオルトカーボネート、スピロオルトエステル、およびベンゾキサジン、またはこれらの任意の混合物からなる群より選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記電子リッチなビニル樹脂が、ビニルエーテル、スピロ環状ビニルエーテル、スチレン系、シンナミル系、N−ビニルアミド、およびN−ビニルアミンからなる群より選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
2パートのカチオン重合性組成物であって、この組成物において、第1のパートがカチオン重合性樹脂およびオニウム塩を含み、第2のパートがカチオン重合性モノマーおよびアゾまたはペルオキシド開始剤を含み、前記第1のパートまたは第2のパートのいずれか一方、もしくは両方が、さらに電子リッチなビニル樹脂を含む、組成物。
【請求項20】
前記電子リッチなビニル樹脂が、触媒量またはサブ化学量論的な量で存在する、請求項19に記載の2パートのカチオン重合性組成物。

【公表番号】特表2011−503340(P2011−503340A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534925(P2010−534925)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【国際出願番号】PCT/US2007/085272
【国際公開番号】WO2009/067112
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(391008825)ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン (309)
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
【住所又は居所原語表記】Henkelstrasse 67,D−40589 Duesseldorf,Germany
【Fターム(参考)】