説明

低たんぱくイカ様食品の製造法

【課題】 こんにゃくを主原料に用いて低たんぱくイカ様食品を提供する。
【解決手段】(1)リン酸架橋コーンスターチと、(2)こんにゃく精粉を含有し、(2)に対する(1)の重量比が2:1〜8:1であり、水、塩基を加えた後加熱し、熱水中でゲル化させることを特徴として構成されている。こんにゃくにリン酸架橋コーンスターチを混合して茹でて固める。その後、調味料を含む液で調理し、更に油ちょうして唐揚げなどを得る。あるいは煮物や酢の物を作ることができる。この方法により、イカ独特の食感を有する、従来の製法よりもさらにイカに近い食品素材を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低たんぱくで、イカ様の食感を有する加工食品を簡便に提供できる低たんぱくイカ様食品の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
先天性代謝異常疾患、あるいは糖尿病合併症による腎臓疾患などの理由により、たんぱく質の摂取を制限されている患者向けの食品がこれまでに開発されてきた。しかし、たんぱく質の量が極端に制限されているため、肉や魚介類などの動物性たんぱく含有食品を多く摂取することができず、これらの患者は食事に満足感が得られず、時に食事制限を止めてしまう場合があり、その結果、重篤な病状に陥るなど深刻な問題となっている。
【0003】
一方で近年、健常な人々の間では健康に対する関心が高まり、肉含有量を軽減することにより、動物脂肪、コレステロールやカロリーを減らした加工食品を好む消費者が増えている。最近ではおからとこんにゃくを混合した低カロリー肉様食品が出回り、肉に似た食感を有するため、現在ダイエット志向の消費者に広く普及している(特許文献1〜2)。また、代謝異常疾患患者さん達にとって、肉はもとより、魚介類も憧れの食品であり、イカ、海老、かになどは特に人気がある。しかし、たんぱく含有量が多いため、ほんの僅かしか食することができない。
【0004】
これまでこんにゃくを主原料とするイカ代替食品、その製造に関する発明については以下のものが知られている。こんにゃくと大豆たんぱくを混合し、乾燥させ、のしイカ様の食感を有する食品、その製造法が知られたが、コンニャク粉に対して大豆たんぱくを2:1の量比で混合している(特許文献3)。また、イカすり身と魚肉すり身をこんにゃくと混合し、イカ刺身様の食感を持つ食品、及びその製造法が提案されたが、こんにゃくゼリーの比が僅かに1〜20%程度であり、これもたんぱく量が多い(特許文献4)。また、こんにゃくとイカ甲骨の焼成粒状物を混合した食品、及びその製造法が提案されたが、石灰の代替凝固材としてイカ甲骨を用いているものであり、イカ様食感を追求した食品ではない(特許文献5)。さらに、イカ墨をこんにゃくと混ぜて凝固させた黒色の食品製造法が提案されたが、それは鯨肉代替食品である(特許文献6)。一方で、ココナッツミルクとこんにゃくを混合した食品、その製造方法が提案されたが、白色の食品が得られるものの、その食感はこんにゃくそのものである(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−272401号公報
【特許文献2】特開2007−312680号公報
【特許文献3】特開平2−255050号公報
【特許文献4】特開平7−99939号公報
【特許文献5】特開平9−234003号公報
【特許文献6】特開平7−59522号公報
【特許文献7】特開2009−55889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の技術は必ずしも目的とする低たんぱくイカ様食品を製造するための十分な方法ではない。特許文献3〜4においては、たんぱく質を多量に用いている。特に特許文献4では本物のイカを多量に混合しているため、代謝異常疾患患者たちはこれらの十分量を食することができない。また、特許文献5〜7においてはイカ様食感を有さない。したがって、これまでにたんぱく質を殆ど含まない食品素材とこんにゃくを混合してイカ様食感を再現した食品は全く存在しなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは、種々検討の結果、たんぱく質を殆ど含まない食品素材としてリン酸架橋コーンスターチを選択し、これを水酸化カルシウムなどの塩基と混ぜ、こんにゃくと混練しゲル化させたものを茹でることにより、きわめてイカに類似した食感を有する低たんぱくイカ様食品素材が簡便に製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は(1)リン酸架橋されたコーンスターチと、(2)こんにゃく精粉を含有し、(2)に対する(1)の重量比が2:1〜8:1であり、水、塩基を加えた後加熱し、熱水中でゲル化させることにより、イカ状にすることを特徴とする低たんぱくイカ様食品の製造法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、たんぱく含有量を極端に減らしてもイカ様の弾力感と歯ごたえを有する低たんぱくイカ様食品が得られる。さらには魚肉、卵白を使用せずとも、イカ様の食感を有する食品を製造できる。このことにより、フェニルケトン尿症やメープルシロップ尿症、ホモシステイン尿症などの遺伝性代謝疾患患者や、糖尿病合併症の腎不全患者など、低たんぱく食を強いられている患者にイカ様食感を有する食品を安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は本発明の低たんぱくイカ様食品をイカリング状に調理した例の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に用いるリン酸架橋コーンスターチは、とうもろこしから分離されたものを加工したものであり、粉状で市販品として販売されている。混合比はこんにゃく精粉1重量部に対し2〜8重量部、より好ましくは4〜8重量部である。混合比がこの範囲内でない場合は食感が好ましくない。
【0012】
本発明に用いるこんにゃく精粉はこんにゃく芋から抽出されるものであり、市販品でもこんにゃく芋から新たに調製したものでも良い。こんにゃく精粉1重量部に対し15〜30重量部、好ましくは18〜20重量部の水を加え、単独で混練し、ゲル状にしてからリン酸架橋コーンスターチ及び塩基を添加し混練することが望ましい。塩基としては例えば、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、焼成貝殻粉末等が挙げられ、こんにゃくを固める際に使用される。
【0013】
これらこんにゃく含有混合物に、所定量の水、塩基を加え、70〜100℃の熱水中でゲル化後、室温に冷却し、イカ状となす処理が施される。
【0014】
リン酸架橋コーンスターチ入りこんにゃくを調味する際には、調味料のたんぱく含量に気をつけなければならない。例えば、フェニルケトン尿症の患者には一回の食事で許容されているたんぱく質量はおよそ2gである。本発明によるリン酸架橋コーンスターチ入りこんにゃく100g中のたんぱく質量は約0.1gと極端に少ない。このため、調味料をできるだけ多く使用することができ、患者にとってきわめて有利となる。
【0015】
以下、本発明について比較例および実施例によって順次説明する。
【0016】
まず、各種加工でんぷんと既知文献中の素材のイカ様食感を比較検証した。特許文献7に記載されたココナッツミルクをこんにゃくと混合し、凝固させたもの、さらにはこれを冷凍解凍したものと、本発明に用いる加工でんぷんとこんにゃくを混合し、凝固させたもの、さらには冷凍解凍した場合の食感の比較実験を下記に示す。
[比較実験]
【0017】
こんにゃく精粉(大河原商店製)1部に水18部を加え、良く攪拌した。時々攪拌しながら1時間放置し、ゲル状物を得た。別の容器に加工でんぷん5g、および水3gを添加した。また比較としてでんぷんとは別にココナッツミルク[ユウキ食品(株)]6g〜25gを添加したものを調製した。なお、加工でんぷんは松谷化学工業(株)、三和澱粉(株)、日本食品化工(株)製のものを用いた。さらに1%水酸化カルシウム水溶液7.5mLを加えた。この混合物を先のこんにゃくゲル25gと混ぜて手でよく攪拌して固めた後、沸騰水で1時間ゆでた。こんにゃく製粉に対する各種でんぷんの重量比は4である。まず、ゆでた後に一部スライスして食べた。次いで残りを冷凍後室温で解凍し、スライスした後に絞って水を切り、表1に示す調味料で味付けをした。これに片栗粉をつけて植物油で揚げ、担当者1名で評価した。表2に官能評価結果を示す。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
表2の結果から明らかなように、各種でんぷんのうち、リン酸架橋コーンスターチが、唯一イカ様の食感を有することが分かった。比較例のココナッツミルク添加こんにゃくは添加量を変えてもイカ様の食感を得ることができなかった。
【実施例1】
【0021】
リン酸架橋コーンスターチのイカ様食感付与効果を詳細に検討するため、それらの異なる量を添加したこんにゃくを調製し、評価した。
こんにゃく精粉(大河原商店製)1部に水18部を加え、良く攪拌した。時々攪拌しながら1時間放置し、ゲル状物を得た。別の容器にリン酸架橋コーンスターチを入れ、これに水をでんぷんの半分の重量だけ加え、さらに1%水酸化カルシウム水溶液15mLを加えた。この混合物を先のこんにゃくゲル50gと混ぜて手でよく攪拌して固めた後、沸騰水で1時間ゆでた。リン酸架橋コーンスターチ:こんにゃく粉の乾燥重量比は1:1〜8:1である。コントロールとして、でんぷんを加えないこんにゃくも併せて調製した。厚さ5mm〜8mm程度にスライスした後に絞って水を切り、表1に示す調味料で味付けをした。これに片栗粉をつけて植物油で揚げた。下記の方法に従って官能評価した。
【0022】
<官能評価>
官能評価は7名で行った。評価結果を表3に示す。実施例1で調製したリン酸架橋コーンスターチ入りこんにゃくを、こんにゃくのみからなる唐揚げを1点、本物のイカフライを5点として5点法で評価した。
【0023】
【表3】

【0024】
表3に示すように、リン酸架橋コーンスターチは、こんにゃく精粉に対する量比が2:1〜8:1の添加量の場合に効果があり、より好ましくは4:1〜8:1の場合にイカ様の歯ごたえのある食感であった。
【実施例2】
【0025】
次にこれらの冷凍耐性を調べるため、リン酸架橋コーンスターチの添加量がこんにゃく精粉に対して4:1の比で、冷凍後室温で解凍し、スライスした後に絞って水を切り、イカ様フライを調製し、被検者5人で官能評価を行った。
こんにゃく精粉(大河原商店製)1部に水18部を加え、良く攪拌した。時々攪拌しながら1時間放置し、ゲル状物を得た。別の容器にリン酸架橋コーンスターチを入れ、これに水をでんぷんの半分の重量だけ加え、さらに1%水酸化カルシウム水溶液30mLを加えた。この混合物を先のこんにゃくゲル100gと混ぜて手でよく攪拌して固めた後、沸騰水で1時間ゆでた。リン酸架橋コーンスターチの場合、添加量は20.4g(こんにゃく粉との乾燥重量比は4:1)である。コントロールとして、でんぷんを加えないこんにゃくも併せて調製した。冷凍後室温で解凍し、厚さ5mm〜8mm程度にスライスした後に絞って水を切り、表1に示す調味料で味付けをした。これに片栗粉、塩、胡椒をつけて植物油で揚げた。また、冷凍前と比較をした。下記の方法に従って官能評価した。
【0026】
<官能評価>
官能評価は5名で行った。評価結果を表4に示す。実施例2で調製したリン酸架橋コーンスターチ入りこんにゃくを、こんにゃくのみからなる唐揚げを1点、本物の市販イカフライを5点として5点法で比較した。リン酸架橋コーンスターチ入りこんにゃくの場合はいずれも冷凍前と比較して食感がやや劣るものの、こんにゃくのみの場合と比較していずれもイカに近い評価を得た。以上の結果からリン酸架橋コーンスターチ入りこんにゃくは冷凍耐性があることが分かった。
【0027】
【表4】

[利用例]
【0028】
また、これらのこんにゃくをゲル化させる際に、混練後に丸めて団子状にして茹でても良いが、すりこ木状の棒などに巻きつけて茹でた後、棒を抜いて包丁などで薄く切って味付けしフライにすると、本物のイカリング状に調理することができる。その調理例の写真を図1に示す。
【0029】
次に、煮物向けイカ様こんにゃくの製造工程について説明する。実施例1とほぼ同様の方法で調製した。リン酸架橋コーンスターチにさらに塩化ナトリウムを添加すると、水で茹でた後に塩味を付与することができる。塩化ナトリウムは少量であれば添加しても食感に対する影響はない。
塩化ナトリウムの添加量は乾燥重量比で、こんにゃく粉1部に対して0.1〜1重量部である。次いでこれらの混合物に塩基とこんにゃくゲルをよく混合する。次いで沸騰水で茹で、イカ様こんにゃくの塊が調製できる。その実施例3を以下に示す。
【実施例3】
【0030】
こんにゃく精粉(大河原商店製)1部に水18部を加え、良く攪拌した。時々攪拌しながら1時間放置し、ゲル状物を得た。別の容器にリン酸架橋コーンスターチを入れ、これに水をでんぷんの半分の重量だけ加え、さらに塩化ナトリウム0.5g(こんにゃく精粉に対して0.2:1)、1%水酸化カルシウム水溶液15mLを加えた。この混合物を先のこんにゃくゲル50gと混ぜて手でよく攪拌し、棒に巻きつけて固めた後、沸騰水で1時間ゆでた。リン酸架橋コーンスターチ:こんにゃく粉の乾燥重量比は1:1〜10:1である。コントロールとして、でんぷんを加えないこんにゃくも併せて調製した。厚さ5mm〜10mm程度に輪切りにした後に絞って水を切り、表5に示す調味料で味付けをした。これとは別にサトイモ321gを表6に示す割合で調味料を加えて煮たあと、このサトイモ入り煮物汁を均等に分け、でんぷん入りこんにゃくとを一緒に弱火で3分煮た。下記の方法に従って官能評価した。
【0031】
【表5】

【0032】
【表6】

【0033】
<官能評価>
官能評価は6名で行った。評価結果を表7に示す。実施例3で調製したリン酸架橋コーンスターチ入りこんにゃくを、こんにゃくのみからなる煮物を1点、本物のイカ入り煮物を5点として5点法で比較したところ、リン酸架橋コーンスターチ:こんにゃく粉の乾燥重量比が2:1〜6:1の場合に、イカに近く好ましいことが判った。
【0034】
【表7】

【0035】
次に、イカ様こんにゃくの酢の物について説明する。イカの酢の物は、なますに含まれており、また駄菓子屋でも串に刺して売られている食べ物である。実施例3とほぼ同様の方法で調製した。その実施例4を以下に示す。
【実施例4】
【0036】
こんにゃく精粉(大河原商店製)1部に水18部を加え、良く攪拌した。時々攪拌しながら1時間放置し、ゲル状物を得た。別の容器にリン酸架橋コーンスターチを入れ、これに水をでんぷんの半分の重量だけ加え、さらに塩化ナトリウム0.5g(こんにゃく精粉に対して0.2:1)、1%水酸化カルシウム水溶液15mLを加えた。この混合物を先のこんにゃくゲル50gと混ぜて手でよく攪拌し、棒に巻きつけて固めた後、沸騰水で1時間ゆでた。リン酸架橋コーンスターチ:こんにゃく粉の乾燥重量比は1:1〜10:1である。コントロールとして、でんぷんを加えないこんにゃくも併せて調製した。厚さ5mm〜10mm程度に輪切りにした後に絞って水を切り、表8に示す調味料を加えて弱火で10分煮たあと、一晩冷蔵庫で放置した。下記の方法に従って官能評価した。
【0037】
【表8】

【0038】
<官能評価>
官能評価は5名で行った。評価結果を表9に示す。実施例3で調製したリン酸架橋コーンスターチ入りこんにゃくを、こんにゃくのみからなる酢の物を1点、本物のイカ入り酢の物を5点として比較したところ、リン酸架橋コーンスターチ:こんにゃく粉の乾燥重量比が4:1〜6:1の場合に、イカに近く好ましいと答えた。
【0039】
【表9】

【0040】
本発明において、こんにゃくにリン酸架橋コーンスターチを混合して茹でて固めた後、調味料を含む液で調理し、油ちょうして唐揚げなどを得る。あるいは煮物または酢の物に調理することで、イカ独特の弾力感と歯ごたえを有する、従来の製法よりもさらにイカに近い食品素材を得る。これらを実際に製造するには冷蔵などの保存形態が好ましく、本発明品はゆでて固めた段階のものを冷蔵して保存してもよく、一旦冷凍解凍後に味付けしたものを冷凍しても長期間冷凍保存が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、イカ代替としてこんにゃくとリン酸架橋コーンスターチを用い、高たんぱく含有素材を一切使用することなく、イカ様の食感を有する食品を製造することができる。さらに揚げ物や煮物、酢の物向けイカ独特の弾力感と歯ごたえを有する、従来のイカ様食品よりもさらにイカに近い食品素材を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)リン酸架橋コーンスターチと、(2)こんにゃく精粉を含有し、(2)に対する(1)の重量比が2:1〜8:1であり、水、塩基を加えた後加熱し、熱水中でゲル化させることを特徴とする低たんぱくイカ様食品の製造法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−172503(P2011−172503A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38483(P2010−38483)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】