説明

低チタン濃度を有する高活性および高安定性の酸化鉄系脱水素化触媒およびこの製造ならびに使用

高活性および高安定性脱水素化触媒、その製造およびその使用。この触媒は、低チタン含有量を有する酸化鉄成分を含み、酸化鉄成分は、鉄塩の溶液から黄色酸化鉄沈殿物を沈殿させることにより作製される黄色酸化鉄沈殿物の加熱処理により作製され、場合により、更なる脱水素化触媒成分を含み、酸化鉄系脱水素化触媒組成物は、チタンの低濃度を有する。低チタン含有酸化鉄系脱水素化触媒は、脱水素化可能な炭化水素の脱水素化において使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低チタン濃度を有する、酸化鉄系脱水素化触媒およびこの製造ならびに使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキル芳香族炭化水素のアルケニル芳香族炭化水素への接触脱水素化の分野においては、高活性および選択性の性質を有し、使用時には高安定性を示す改善された触媒を開発するためのたゆまぬ努力が続けられている。触媒の安定性とは、使用時における触媒的不活性化または減退のその速度に関連する。触媒の不活性化の速度は、その有用な寿命に影響を与え、一般的に、触媒は、高度に安定であって、その有用な寿命を増加し、あまり厳しくない工程条件で生成物収率を改善することが好ましい。
【0003】
酸化鉄系触媒は、アルキル芳香族化合物、例えば、エチルベンゼン等の、相当するアルケニル芳香族化合物、例えば、スチレン等を生成するための脱水素化において通常使用されている。これらの酸化鉄系触媒は、例えば、合成赤鉄鉱または再生酸化鉄を含めて、黄色酸化鉄(針鉄鉱、FeOOH)、黒色酸化鉄(磁鉄鉱、Fe)、および赤色酸化鉄(赤鉄鉱、Fe)を含む酸化鉄の種々の源および形態を使用して組成されてもよい。
【0004】
酸化鉄系脱水素化触媒の成分として使用可能な候補の酸化鉄の1つのタイプとしては、塩化鉄溶液の噴霧焙焼により生成される酸化鉄を挙げることができる。そのような酸化鉄の製造方法の一例は、米国特許第5911967号において開示されており、塩化鉄含有溶液が熱分解されて酸化鉄を生成する反応室内での、塩化鉄含有溶液の噴霧焙焼による酸化鉄の製造方法が記載されている。
【0005】
再構造化された酸化鉄は、脱水素化触媒の調製において使用される場合は、増大した触媒選択性を与えることが分かっている。米国特許第5668075号は、酸化鉄系脱水素化触媒を形成する際の使用に特に望ましい成分である再構造化酸化鉄の製造方法を開示している。米国特許第5668075号は、再構造化剤の有効量を出発酸化鉄物質と接触させまたは一緒にし、次いで、得られた混合物を再構造化が起るまで加熱処理することによる再構造化酸化鉄の調製方法を開示している。得られた再構造化酸化鉄は、酸化鉄系脱水素化触媒の調製において適当に使用される。
【0006】
米国特許公開第US2003/0144566号は、米国特許第5911967号において開示されているものなどのハロゲン化鉄の加熱分解により得られる酸化鉄、および黄色酸化鉄を一緒にして得られる酸化鉄系脱水素化触媒を開示している。この組合せまたは混合物は、か焼され、最終触媒組成物を生成する。この特許公開は、また、酸化鉄の別のタイプの少量が、ハロゲン化鉄の加熱分解により得られる酸化鉄と組み合わされてもよいことを指摘している。そのような例の1つは、米国特許第1368748号により教示されているペンニマン(Penniman)法により作製されるものなどのペンニマン赤色酸化鉄である。その他の例としては、上述の針鉄鉱、赤鉄鉱および磁鉄鉱ならびにマグヘマイトおよび鱗鉄鉱が挙げられる。
【0007】
酸化鉄系脱水素化触媒の成分としての所謂ペンニマン赤色酸化鉄の使用に関して、米国特許第5689023号は、黄色α−FeOOH中間体、即ち、換言すれば、ペンニマン法により調製された黄色酸化鉄由来の酸化鉄の脱水によりスクラップ鉄から生じる酸化鉄から組成された大粒子酸化鉄の好ましい使用を開示している。
【0008】
米国特許第5190906号は、触媒の触媒機能を高める目的で、酸化鉄系脱水素化触媒への酸化チタンの添加を教示している。この’906号特許は、酸化鉄系脱水素化触媒の触媒成分の混合物に対して、0.005から0.95重量%(50ppmwから9500ppmw)の酸化チタンを添加することが触媒の性能を改善すると主張している。この’906号特許は、更に、その触媒形成において使用される酸化鉄は、沈殿法により生成される酸化鉄を含めて、多数の異なる源からのものであってもよいことを指摘している。そのような酸化鉄が使用される場合、酸化チタンは、酸化鉄および酸化鉄前駆体の製造において使用される鉄塩水溶液中への水溶性チタン塩の添加により触媒中に混合されてもよい。
【0009】
前述の従来方法において言及した通り、ペンニマン赤色酸化鉄またはペンニマン沈殿法により生成された赤色酸化鉄の前駆体は、酸化鉄系脱水素化触媒の配合物における使用にとって酸化鉄の望ましい源である。従来技術の触媒を超える改善された触媒特性を有する脱水素化触媒組成物の開発において、そのような酸化鉄源を使用するための努力が続けられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、改善された触媒特性を有する、酸化鉄系脱水素化触媒を提供することである。
【0011】
本発明のその他の目的は、沈殿法により得られる酸化鉄または酸化鉄前駆体を触媒成分として利用する脱水素化触媒を提供することである。
【0012】
本発明の更にその他の目的は、沈殿法により作製される酸化鉄または酸化鉄前駆体を利用する、酸化鉄系脱水素化触媒の製造方法を提供することである。
【0013】
本発明の更にその他の目的は、沈殿法により得られる酸化鉄または酸化鉄前駆体で調製される酸化鉄系脱水素化触媒を利用する改善された脱水素化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、1つの発明は、低チタン含有量酸化鉄成分を含み、酸化鉄成分が、鉄塩の溶液から黄色酸化鉄沈殿物を沈殿させて作製される黄色酸化鉄沈殿物の加熱処理により作製され、チタンの第1濃度を有する酸化鉄系脱水素化触媒組成物である。酸化鉄系脱水素化触媒組成物は、更なる脱水素化触媒成分を更に含んでもよい。
【0015】
その他の発明は、チタンの第1濃度を有する酸化鉄系脱水素化触媒の製造方法を含む。この方法は、鉄塩の溶液から黄色酸化鉄沈殿物の沈殿により作製される、チタンの第2濃度を有する黄色酸化鉄沈殿物を加熱処理することにより、低チタン含有量を有する赤色酸化鉄成分を形成することを含む。赤色酸化鉄成分は、更なる脱水素化触媒成分および水と混合されて混合物を形成し、それから粒子が形成され、この粒子を加熱処理して酸化鉄系脱水素化触媒を与える。
【0016】
更にその他の発明は、脱水素化条件下で、脱水素化可能な炭化水素を、酸化鉄系脱水素化触媒組成物と接触させ、脱水素化生成物を生成することを含む。酸化鉄系脱水素化触媒組成物は、低チタン含有量を有する酸化鉄成分を含み、酸化鉄成分は、鉄塩の溶液から黄色酸化鉄沈殿物を沈殿させて作製される黄色酸化鉄沈殿物の加熱処理により作製され、酸化鉄系脱水素化触媒組成物はチタンの第1濃度を有する。酸化鉄系脱水素化触媒は、更なる脱水素化触媒成分を更に含んでもよい。
【0017】
更にその他の発明においては、チタンの活性低下濃度を有する脱水素化触媒の最初の容量を含む脱水素化反応器を含む脱水素化反応器系の操作を改善する方法が提供される。この方法は、脱水素化触媒を脱水素化反応器から除去し、低チタン含有量を有する酸化鉄成分および更なる脱水素化触媒成分を含む酸化鉄系脱水素化触媒組成物で置き換え、それによって第2脱水素化反応器系を用意することを含む。酸化鉄成分は、鉄塩の溶液から黄色酸化鉄沈殿物を沈殿させて作製される黄色酸化鉄沈殿物を加熱処理することにより作製される。次いで、第2脱水素化反応器系は、脱水素化反応条件下で操作することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
チタンの低濃度を有する或る種の酸化鉄系脱水素化触媒配合物は、チタンの高濃度を有する或る種のその他の酸化鉄系脱水素化触媒配合物を越える改善された触媒特性を示すことが分かった。しかし、上述の米国特許第5190906号においては、酸化鉄および酸化カリウム触媒系への二酸化チタンの添加は、その触媒特性、例えば、活性、選択性および安定性等における改善を与えることが教示されている。この’906号特許は、酸化鉄成分の源が沈殿法からの場合は、酸化チタンは、酸化鉄が沈殿により得られる鉄塩水溶液への水溶性チタン塩の添加により、酸化鉄が触媒粒子に形成される前に酸化鉄に添加されてもよいことを更に教示している。しかしながら、これらの教示とは逆に、かなりのチタン成分を有し、前述の沈殿法により得られる酸化鉄の酸化鉄系脱水素化触媒の成分としての使用は、むしろ改善されたというより望ましくない触媒特性を有する脱水素化触媒を与えることが分かった。
【0019】
本発明の触媒は、脱水素化可能な炭化水素の脱水素化において有用な酸化鉄系脱水素化触媒である。本発明の触媒は、本発明の触媒のチタンの濃度に比べてチタンの高濃度を含む或る種のその他の酸化鉄系脱水素化触媒を超える改善された安定性を示す。
【0020】
触媒の安定性について本明細書において言及する場合のその意味するところは、使用時の触媒不活性化または減退のその速度である。したがって、安定性と言う用語は、特定の反応条件での触媒の使用の一定期間の触媒活性における変化の割合によって表される、脱水素化触媒が不活性化する速度を意味する(Δ活性/Δ時間)。触媒が不活性化する速度は、触媒が利用される反応条件に大きく依存し、したがって異なる触媒の安定性を比較する場合は、同じかまたは類似の工程条件下で使用される場合のそれらの安定性能を比較することが妥当である。
【0021】
本明細書における触媒の活性とは、特定の触媒に関わる温度パラメータを指すことを意味する。スチレン製造触媒の場合においては、その温度パラメータは、スチレン製造触媒が、一定の定義された工程条件下で、エチルベンゼン供給物の特定の転換率を与える温度(℃)である。活性の例示的例は、エチルベンゼンの70モル%の転換率が、或る特定の反応条件下で接触した場合に達成される温度である。そのような温度パラメータは、一定の温度が、70モル%の転換率を与えることを意味する「T(70)」の記号で表示される。T(70)温度値は、高活性が低温度パラメータで表示され、低活性が高温度パラメータで表示される、温度パラメータに逆比例する触媒の活性で関連触媒の活性を表わす。
【0022】
本明細書において使用される「転換率」と言う用語は、他の化合物に転換した特定の化合物のモル%における割合を意味する。
【0023】
「選択性」と言う用語は、所望の化合物を生成する転換される化合物のモル%における割合を本明細書においては意味する。
【0024】
本発明の酸化鉄系脱水素化触媒組成物の1つの特徴は、低チタン含有量を有するものとして特徴付けられることである。鉄塩の溶液から形成される黄色酸化鉄沈殿物由来の赤色酸化鉄の、特定のタイプの触媒成分としての使用と、黄色酸化鉄沈殿物の低チタン含有量との組合せが、本発明の最終触媒にその改善された安定性能を与えるものと考えられる。
【0025】
本発明の触媒の酸化鉄成分は、当業者に知られている任意の適当な方法により調製される黄色酸化鉄沈殿物の加熱処理により得ることができるが、酸化鉄成分を形成するために加熱処理される黄色酸化鉄沈殿物は、十分に低いチタン含有量を含むことが条件である。黄色酸化鉄は、黄色酸化鉄の製造のための任意の知られているペンニマンまたは変更ペンニマン方法により作製されることが好ましい。そのような方法は、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第1327061号、米国特許第1368748号、米国特許第2127907号および米国特許第5032180号等の例示的特許において記載されている。したがって、本発明の触媒の酸化鉄成分を生成するために加熱処理される黄色酸化鉄沈殿物は、一般に、金属鉄を鉄塩の溶液に導入すること、この溶液中に酸素等の酸化剤を導入すること、および黄色酸化鉄沈殿物を生成することを含む方法により調製される。鉄塩の溶液中に導入されるまたは浸漬される金属鉄は、溶液内に懸濁されるスクラップ鉄であってもよく、多くの場合、スクラップ鉄である。黄色酸化鉄沈殿物の形成において更に手助けするために、核または種粒子、例えば、鉄のコロイド状水和物等が溶液に添加されてもよい。
【0026】
最終の酸化鉄系脱水素化触媒の赤色酸化鉄成分の前駆体としての、前述の沈殿、またはペンニマン方法により調製される黄色酸化鉄の使用に伴う問題の1つは、その製造において使用される原料が、最終の酸化鉄系脱水素化触媒の性能に悪影響を与える不純物を含む可能性のある点である。特に、ペンニマン方法の鉄塩の溶液において使用される金属鉄は、その使用が好ましくない高チタン含有量を有する黄色酸化鉄沈殿物を与える結果となる程高レベルのチタンを含むことがある。また、ペンニマン方法において使用されるその他の原料、例えば、水溶液を形成するために使用される鉄塩および種材として使用される鉄水和物等は、得られる沈殿黄色酸化鉄が、チタンの好ましくない高レベルまたは濃度を有するほどの、チタンのかなりの十分なレベルを有することがある。
【0027】
したがって、低チタン含有量を有することは、本発明の触媒の赤色酸化鉄成分の前駆体として使用される黄色酸化鉄沈殿物に対する本発明の顕著で重要な特徴である。そのような低チタン含有量黄色酸化鉄沈殿物を用意するためには、その製造において使用される成分が、チタンの十分に低い濃度を含み、その結果、本発明の触媒の酸化鉄成分の前駆体として使用される黄色酸化鉄沈殿物が、チタンの低濃度を有することを確実にすることが重要である。実に、これは、例えば、酸化鉄沈殿物が形成される鉄塩水溶液中への水溶性チタン塩の導入により、チタンがその酸化鉄中に導入されてもよいことを示している米国特許第5190906号等の従来方法の教示とは一致しない本発明の触媒の1つの態様である。これは、実際は、本明細書における本発明の望ましい特徴ではなく、本発明の触媒の赤色酸化鉄成分の前駆体として有用であるにはチタン含有量が高過ぎる黄色酸化鉄沈殿物を与える効果を有する可能性がある。米国特許公開第2003/0223942号は、本発明の触媒の酸化鉄成分の調製における使用に適した、低チタン濃度を有する黄色酸化鉄を調製するのに使用されてもよい高純度黄色酸化鉄の製造方法を記載している。この公開は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0028】
先に言及した通り、本発明の酸化鉄系脱水素化触媒組成物の酸化鉄成分は、低チタン含有量、例えば、重量で100万当たり約1500部(ppmw)未満の濃度等を有することが本発明の重要な特徴である。しかし、一般に、酸化鉄成分のチタン濃度は、より低い、例えば600ppmw未満、更に500ppmw未満であることが望ましい。好ましくは、酸化鉄成分は、250ppmw未満、最も好ましくは、150ppmw未満のチタンの濃度を有する。実際の考慮すべき事項によるこれらの制限以外には、酸化鉄成分におけるチタンの濃度範囲に対する特定の下限は存在しない。したがって、酸化鉄成分におけるチタン濃度範囲の下限は低くすることができ、例えば、重量で10億当たり1部(ppbw)であることができる。しかしながら、酸化鉄成分におけるチタン濃度範囲に対する好ましい下限は1ppmwである。
【0029】
本明細書における酸化鉄成分におけるチタンの濃度またはチタン含有量とは、チタンが、幾つかのその他の形態、例えば、酸化物等、例えば、TiOとして酸化鉄成分において恐らく存在するとしても元素形態のチタンを意味する。また、重量部でのチタン濃度測定は、黄色酸化鉄沈殿物の加熱処理により得られる酸化鉄成分を基準とする。
【0030】
必要とされる低チタン含有量を有する酸化鉄成分を用意するためには、前駆体の黄色酸化鉄沈殿物は、低チタン濃度を有するべきである。したがって、黄色酸化鉄沈殿物の製造においては、約1500ppmw未満の低チタン濃度を有する、本発明の酸化鉄系脱水素化触媒組成物の酸化鉄成分の調製における使用のための黄色酸化鉄沈殿物を与えるために、チタンの低濃度を含む成分または原料を使用することが重要である。しかしながら、黄色酸化鉄沈殿物のチタン濃度は、1000ppmw未満であることが望ましい。好ましくは、黄色酸化鉄沈殿物におけるチタンの濃度は、500ppmw未満、最も好ましくは、200ppmw未満である。本明細書における黄色酸化鉄沈殿物におけるチタンの濃度とは、チタンが、幾つかのその他の形態、例えば、酸化物等、例えば、TiOの酸化鉄沈殿物において実際に存在できるとしてもそれは元素形態にあるチタンを意味する。
【0031】
酸化鉄成分を調製するために、黄色酸化鉄沈殿物は、黄色酸化鉄(FeOOH)の少なくとも一部、好ましくは、大部分または実質的に全部を赤色酸化鉄(α−Fe)に転換する加熱処理に掛けられる。黄色酸化鉄沈殿物の加熱処理またはか焼は、窒素、酸素、二酸化炭素、空気およびこれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される気体を含むガス状雰囲気の存在において行うことができる。好ましくは、ガス状雰囲気は空気を含む。
【0032】
加熱処理が行われる際の温度範囲は、黄色酸化鉄沈殿物を、本発明の触媒の成分として適切に使用することのできる酸化鉄に転換する任意の温度であることができる。したがって、加熱処理温度は、400℃から1000℃、好ましくは、500℃から950℃の範囲であることができる。最も好ましくは、黄色酸化鉄沈殿物の加熱処理は、空気の雰囲気において、600℃から900℃の範囲における温度で行われる。
【0033】
酸化鉄成分を調製するために使用されてもよく、必要とされる低チタン濃度を有する酸化鉄を与えることのできる1つの方法は、米国特許出願第212196号に対して優先権を主張するヨーロッパ特許公開EP1388523において記載されている。これらの特許文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0034】
チタンの低濃度を有する本発明の酸化鉄系脱水素化触媒は、低チタン含有量を有する黄色酸化鉄沈殿物の加熱処理により形成される前述の酸化鉄成分と、少なくとも1つの更なる脱水素化触媒成分とを組み合わせて成分の混合物を形成し、成分の混合物を粒子に成形し、粒子を加熱処理またはか焼して、チタンの低濃度を有する酸化鉄系脱水素化触媒を生成することにより調製される。
【0035】
代替的調製方法においては、混合物の酸化鉄成分として、加熱処理された黄色酸化鉄沈殿物の使用に代えて、低チタン含有量を有する非加熱処理黄色酸化鉄沈殿物が、粒子に形成され次いでか焼される混合物の成分として使用される。粒子のか焼は、所望の赤色酸化鉄への黄色酸化鉄の転換を行う。
【0036】
更にその他の代替的調製方法においては、黄色酸化鉄沈殿物および黄色酸化鉄沈殿物の加熱処理により形成される赤色酸化鉄の両方の組合せ(但し、両者共、必要な低チタン濃度を有する。)が、成分の混合物を形成するために、少なくとも1つの更なる脱水素化触媒成分と組み合わされる。この混合物は、次いで、粒子に形成され、粒子は加熱処理されて、チタンの低濃度を有する酸化鉄系脱水素化触媒を生成する。
【0037】
本発明の酸化鉄系脱水素化触媒の調製において形成される粒子は、例えば、押出し物、ペレット、錠剤、球状、ピル、鞍型、三葉状、四葉状等を含めて、触媒粒子としての使用のための凝集体または形状の適当なタイプとして当業者に知られている粒子の任意のタイプであることができる。本発明の酸化鉄系脱水素化触媒を作製するための1つの好ましい方法は、成分を水、または可塑剤、あるいは両方と混合し、押出し可能なペーストを形成し、ペーストから押出し物を形成することである。押出し物は乾燥され、か焼される。か焼は、好ましくは、酸化雰囲気、例えば空気等において、1200℃までの温度で、好ましくは、500℃から1100℃、最も好ましくは、700℃から1050℃で行われる。
【0038】
一緒に混合される成分の割合は、10重量%から98重量%までまたはそれ以上の酸化鉄の範囲における酸化鉄含有量を有する本発明の酸化鉄系脱水素化触媒を最終的に与えるようなものであり、重量%は、酸化鉄系脱水素化触媒組成物の全重量を基準とし、Feとして計算される。しかしながら、酸化鉄含有量は、40から90重量%、最も好ましくは、60から85重量%の範囲にあることが好ましい。本発明の酸化鉄系脱水素化触媒の調製において、赤色酸化鉄および黄色酸化鉄が一緒に混合される場合は、この2つの任意の適当な割合は、加熱処理される粒子に凝集される混合物を形成するために一緒に混合されてもよい。しかしながら、一般的には、混合物において使用される黄色酸化鉄の割合は、混合物における酸化鉄の全重量の約50重量%までの範囲、好ましくは、0から30重量%である。
【0039】
本発明の酸化鉄系脱水素化触媒は、更なる脱水素化触媒成分、例えば、カリウムおよび或る種のその他の促進剤金属等を更に含んでもよい。カリウムおよび促進剤金属は、一般に、酸化物の形態で存在する。促進剤金属は、Sc、Y、La、Mo、W、Ce、Rb、Ca、Mg、V、Cr、Co、Ni、Mn、Cu、Zn、Cd、Al、Sn、Bi、希土類およびこれらの任意の2つ以上の混合物からなる群から選択されてもよい。促進剤金属の中では、Ca、Mg、Mo、W、Ce、La、Cu、Cr、Vおよびこれらの任意の2つ以上の混合物からなる群から選択されるものが好ましい。カリウムに加えて、最も好ましい更なる脱水素化触媒成分は、Ca、Mg、W、Mo、Ce、およびこれらの任意の2つ以上からなる群から選択される。
【0040】
カリウム(K)成分は、酸化鉄系脱水素化触媒の全重量を基準として、KOとして計算された重量%で5から40重量%の範囲において、酸化鉄系脱水素化触媒において存在してもよい。好ましくは、カリウムは、5から35重量%、最も好ましくは、10から30重量%の範囲において、酸化鉄系脱水素化触媒において存在する。
【0041】
本発明の最終の酸化鉄系脱水素化触媒において含まれる酸化鉄(Fe)に関して、カリウム成分は、約200ミリモルK/モルFeから約1600ミリモルK/モルFeの範囲にある、Kとして計算されるカリウム成分対酸化鉄の比を与えるような量においてその中に存在してもよい。好ましくは、カリウム対酸化鉄比は、200ミリモルK/モルFeから1400ミリモルK/モルFe、最も好ましくは、400ミリモルK/モルFeから1200ミリモルK/モルFeの範囲である。
【0042】
酸化鉄系脱水素化触媒のアルカリ土類金属成分としては、マグネシウム(Mg)成分もしくはカルシウム(Ca)成分、または両方の成分を挙げることができ、それぞれのそのような成分は、単独で、または組合せにおいて、酸化鉄系脱水素化触媒の全重量を基準にした重量%で、酸化物として計算されるアルカリ土類金属として、0.1から15重量%の範囲において、酸化鉄系脱水素化触媒において存在してもよい。好ましくは、アルカリ土類金属は、0.2から10重量%、最も好ましくは、0.3から5重量%の範囲において、酸化鉄系脱水素化触媒において存在する。
【0043】
本発明の最終の酸化鉄系脱水素化触媒において含まれる酸化鉄(Fe)に関して、アルカリ土類金属成分は、約5ミリモルアルカリ土類金属/モルFeから750ミリモルアルカリ土類金属/モルFeの範囲にある、元素として計算されるアルカリ土類金属成分対酸化鉄の比を与えるような量においてその中に存在してもよい。好ましくは、アルカリ土類金属対酸化鉄比は、10ミリモルアルカリ土類金属/モルFeから500ミリモルアルカリ土類金属/モルFe、最も好ましくは、15ミリモルアルカリ土類金属/モルFeから250ミリモルアルカリ土類金属/モルFeの範囲である。
【0044】
セリウム(Ce)成分は、酸化鉄系脱水素化触媒の全重量を基準にして、CeOとして計算される重量%で、1から25重量%の範囲において、酸化鉄系脱水素化触媒において存在してもよい。好ましくは、セリウムは、2から20重量%、最も好ましくは、3から15重量%の範囲において、酸化鉄系脱水素化触媒において存在する。
【0045】
本発明の最終の酸化鉄系脱水素化触媒において含まれる酸化鉄(Fe)に関して、セリウム成分は、約14ミリモルCe/モルFeから350ミリモルCe/モルFeの範囲にある、Ceとして計算されるセリウム成分対酸化鉄の比を与えるような量においてその中に存在してもよい。好ましくは、セリウム対酸化鉄比は、28ミリモルCe/モルFeから280ミリモルCe/モルFe、最も好ましくは、42ミリモルCe/モルFeから200ミリモルCe/モルFeの範囲である。
【0046】
モリブデン(Mo)成分もしくはタングステン(W)成分、または両方の成分、およびそれぞれのそのような成分は、単独で、または組合せにおいて、酸化鉄系脱水素化触媒の全重量を基準にして、考慮される成分によってMoOまたはWOとして計算される重量%で、0.1から15重量%の範囲において、酸化鉄系脱水素化触媒において存在してもよい。好ましくは、モリブデンもしくはタングステン、または両方は、0.2から10重量%、最も好ましくは、0.3から5重量%の範囲において、酸化鉄系脱水素化触媒において存在する。
【0047】
本発明の最終の酸化鉄系脱水素化触媒において含まれる酸化鉄(Fe)に関して、モリブデンまたはタングステン成分は、約2ミリモルMoまたはW/モルFeから300ミリモルMoまたはW/モルFeの範囲にある、MoまたはWとしてそれぞれに計算されるモリブデンまたはタングステン成分対酸化鉄の比を与えるような量においてその中に存在してもよい。好ましくは、モリブデン対酸化鉄比は、4ミリモルMoまたはW/モルFeから200ミリモルMoまたはW/モルFe、最も好ましくは、6ミリモルMoまたはW/モルFeから100ミリモルMoまたはW/モルFeの範囲である。
【0048】
本発明の好ましい酸化鉄系脱水素化触媒組成物は、低チタン濃度を有する、即ち、チタンが存在しないか実質的に存在せず、本明細書において記載されている通り、Feとして計算して、酸化鉄成分の40から90重量%、KOとして計算して、カリウム成分の5から40重量%を含む。酸化鉄系脱水素化触媒組成物は、CeOとして計算して、セリウム成分の1から25重量%を更に含むことができ、MoOとして計算して、モリブデン成分の0.1から15重量%を更に含むことができ、酸化物として計算して、アルカリ土類金属成分を0.1から15重量%を更に含むことができる。
【0049】
その他の好ましい酸化鉄系脱水素化触媒組成物は、低チタン濃度を有する、即ち、チタンが存在しないか実質的に存在せず、本明細書において記載されている通り、Feとして計算して、酸化鉄成分の40から90重量%および、約200ミリモルK/モルFeから約1600ミリモルK/モルFeの範囲にある、Kとして計算されるカリウム成分対酸化鉄の比を与えるような量において酸化鉄系脱水素化触媒組成物において存在するカリウム成分を更に含む。酸化鉄系脱水素化触媒組成物は、約14ミリモルCe/モルFeから350ミリモルCe/モルFeの範囲にある、Ceとして計算されるセリウム成分対酸化鉄の比を与えるような量において酸化鉄系脱水素化触媒組成物において存在するセリウム成分を更に含むことができ、それは、約2ミリモルMo/モルFeから300ミリモルMo/モルFeの範囲にある、Moとして計算されるモリブデン成分対酸化鉄の比を与えるような量において存在するモリブデン成分を更に含むことができ、それは、約5ミリモルアルカリ土類金属/モルFeから750ミリモルアルカリ土類金属/モルFeの範囲にある、元素として計算されるアルカリ土類金属成分対酸化鉄の比を与えるような量において存在するアルカリ土類金属成分を更に含むことができる。
【0050】
本発明のその他の好ましい酸化鉄系脱水素化触媒は低チタン含有量を有し、本明細書において記載されている酸化鉄成分、カリウム成分、セリウム成分、モリブデン成分またはタングステン成分、およびアルカリ土類成分から本質的になる。
【0051】
既に言及した通り、本発明の重要な特徴は、本発明の酸化鉄系脱水素化触媒が低チタン濃度を持つこと、および安定性を最大にすることであり、チタン濃度は、900ppmw未満であるべきである。黄色酸化鉄沈殿物のチタン含有量は、本発明の酸化鉄系脱水素化触媒におけるチタンの濃度に最も、さもなければ唯一影響を及ぼす。したがって、本発明の酸化鉄系脱水素化触媒のチタン濃度は、殆どの場合において、上述のようなチタン濃度を有するべきである本発明の触媒の調製において使用される黄色酸化鉄におけるチタン濃度によって制御される。いずれにしても、本発明の酸化鉄系脱水素化触媒のチタン濃度は、300ppmw未満、好ましくは、150ppmw未満であることが望ましい。最も好ましくは、チタン濃度は、125ppmw未満である。本発明の酸化鉄系脱水素化触媒のチタン濃度は、50ppmw未満、最も好ましくは30ppmw未満であることが特に好ましい。
【0052】
本明細書に記載の本発明の触媒は、脱水素化可能な炭化水素の脱水素化において適切に使用されてもよく、更に、これらは、本発明の触媒に関して好ましくない安定性を持たせることになる高チタン含有量もしくはチタンの活性低下濃度、または両方を有する脱水素化触媒の容量が含まれる脱水素化反応容器を含む現行の脱水素化反応器系の操作を改善するために使用されてもよい。脱水素化触媒の許容できない触媒特性の原因となる、または活性を低下させるものである高チタン含有量は、チタンの低濃度であるとして本明細書のいずれかで記載されている濃度よりも高い濃度範囲を含むものと理解される。現行の脱水素化反応器系の操作は、そのような低安定性脱水素化触媒を、本発明の触媒で置き換えることにより改善される。脱水素化方法においては、本発明の触媒は、脱水素化供給物と、脱水素化反応条件下で接触して、脱水素化反応生成物を与える。更に詳しく言えば、脱水素化供給物は、脱水素化反応器に導入され、そこにおいて、脱水素化触媒床と接触する。
【0053】
脱水素化反応器または脱水素化反応器系は、1つより多い脱水素化反応器または反応帯を含むことができることは認識されている。単一脱水素化反応器よりも多い反応器が使用される場合は、これらは、連続してまたは平行して操作されてもよく、またはこれらは、互いに独立に、もしくは同じか異なる工程条件下で操作されてもよい。
【0054】
脱水素化供給物は、任意の適当な供給物であることができ、更に詳しく言えば、それは、脱水素化可能な任意の炭化水素を含むことができる。脱水素化可能な炭化水素の例としては、アルキル芳香族、例えば、アルキル置換ベンゼンおよびアルキル置換ナフタレン等、イソアミレン(イソプレンに脱水素化することができる。)、およびブテン(ブタジエンに脱水素化することができる。)が挙げられる。好ましい脱水素化供給物は、アルキル芳香族化合物、好ましくは、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、メチルプロピルベンゼン、メチルエチルベンゼン、およびジエチルベンゼンからなる化合物の群から選択されるものを含む。最も好ましい脱水素化供給物は、希釈剤以外の、例えば、蒸気、主にエチルベンゼン等を含むエチルベンゼン供給原料である。エチルベンゼンは、スチレンに脱水素化される。脱水素化供給物は、また、希釈剤を含めたその他の成分を含むこともできる。エチルベンゼンが、スチレンを形成するために脱水素化される供給物成分である場合は、供給物希釈剤として蒸気を使用するのが一般的である。
【0055】
脱水素化条件は、約500℃から約1000℃、好ましくは525℃から750℃、最も好ましくは、550℃から700℃の範囲における脱水素化反応器入口温度を含むことができる。エチルベンゼンのスチレンへの脱水素化においては、反応は吸熱的であることが認識されている。そのような脱水素化反応が行われる場合は、等温的にまたは断熱的に行うことができる。脱水素化反応が断熱的に行われる場合においては、脱水素化触媒床を横断する温度、即ち、脱水素化反応器入口および脱水素化反応器出口との間の温度は、150℃程度低下することができるが、更に一般的には、この温度は、10℃から120℃低下することができる。
【0056】
反応圧力は、相対的に低く、真空圧から約200kPa(29psi)までの範囲であることができる。一般的に、反応圧力は、20kPa絶対(2.9psia)から200kPa(29psi)の範囲である。エチルベンゼンのスチレンへの脱水素化反応の反応動力学により、反応圧力は、商業的に可能な程度低いことが一般に好ましい。
【0057】
液空間速度(LHSV)は、約0.01/時間から約10/時間、好ましくは、0.1/時間から2/時間の範囲にあることができる。本明細書において使用される「液空間速度」と言う用語は、触媒床の容量、または2つ以上の触媒床が存在する場合は、触媒床の合計容量で割った、標準状態(即ち、0℃および1bar絶対)において測定される脱水素化供給物、例えば、エチルベンゼンの液容量流量として定義される。スチレンがエチルベンゼンの脱水素化により製造される場合は、通常、0.1から20の範囲における蒸気対エチルベンゼンのモル比において、希釈剤として蒸気を使用することが一般的に望ましい。一般的に、蒸気対エチルベンゼンのモル比は、2から15、更に一般的には、4から12の範囲である。蒸気は、また、その他の脱水素化可能な炭化水素と一緒に希釈剤として使用されてもよい。
【実施例】
【0058】
以下の実施例は、本発明を例示するために提供されるが、これらは、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0059】
(実施例I)
この実施例Iは、チタンの種々の濃度を有する幾つかの酸化鉄系脱水素化触媒の調製を記載する。これらの触媒は、実施例IIにおいて示される通り、これらの性能および安定性に関して試験した。
【0060】
3つの触媒A、B、およびCを、初めに、次の成分を混合することにより作製されるペーストを形成することにより調製した:沈殿黄色酸化鉄の加熱処理により作製された赤色酸化鉄、炭酸カリウム、炭酸セリウム、三酸化モリブデン、炭酸カルシウム、および水(乾燥混合物の全重量に関して約10重量%。)。次いで、ペーストを押出して、3mm直径の円筒を形成し、これを6mm長さに切断してペレットを形成した。次いで、これらのペレットを、空気中で、170℃で15分間乾燥し、その後、空気中で、825℃で1時間か焼した。触媒Aを作製するために使用された赤色酸化鉄は、ペンニマン方法により作製された沈殿黄色酸化鉄の加熱処理により形成されたが、約84ppmのチタンの低濃度を有し、したがって、得られた赤色酸化鉄もまた、低チタン濃度を含んでいた。触媒BおよびCを作製するために使用された赤色酸化鉄は、ペンニマン方法により作製された沈殿黄色酸化鉄の加熱処理により形成され、約310ppmのチタンの高濃度を有していた。得られた触媒A、B、およびCは、Feとして計算される酸化鉄の1モル当たり、約0.516モルのカリウム、0.066モルのセリウム、0.022モルのモリブデン、および0.027モルのカルシウムを名目上含んでいた。触媒Aは、触媒BおよびCにおけるチタンの濃度に比べて、チタンの低濃度を有していた。触媒Aは、約96ppmのチタン濃度を含んでいた。触媒BおよびCは、それぞれに、約255ppmおよび287ppmのチタン濃度を含んでいた。
【0061】
(実施例II)
実施例IIは、実施例Iにおいて記載された触媒の性能を試験するための手順を記載し、そのような試験の結果を提示する。
【0062】
触媒A、B、およびCのサンプルを、連続操作のために設計された反応器において、等温試験条件下で、エチルベンゼンからスチレンの脱水素化製造におけるこれらの性能に関して試験した。3つの触媒サンプルのそれぞれのサンプルを、次の試験条件下で個々に試験した:絶対圧力76kPa、蒸気対エチルベンゼンモル比10、LHSV0.65l/l.時間。各回の試験において、反応器温度は、最初の3日間は600℃に設定し、次いで、反応器温度は、各回の試験において、エチルベンゼンの70モル%転換率が達成される様に毎日調整した。
【0063】
表1においては、3つの触媒サンプルの試験からの要約データが示されている。
【0064】
【表1】

【0065】
表1および図1において示されているデータから見て分かる通り、触媒Aは、3から13日の活性(T70)において極めて少ない減退を示したが、触媒BおよびCは、同じ期間において10℃を超える活性減退を示した。更に、触媒BおよびCの活性は、試験期間の残りの間に直線的に減退を続け、その速度は、触媒Aの活性における減退よりも著しく大きかった。また、触媒Aは、70%転換率において、触媒BおよびCと比肩し得るまたは触媒BおよびCよりも幾分良好な選択率、即ち、S(70)を示した点が注目されるべきである。
【0066】
図1は、本発明の利点の正しい認識を更に例示するために、および助けるために用意される。図1は、使用における時間の関数として、3つの触媒のそれぞれの活性のプロットを示す。このプロットから観察される通り、低チタン濃度を含む触媒Aは、チタンの高濃度を有する触媒BおよびCよりも、使用に伴う不活性化の著しく低い速度を示した。触媒BおよびCは、低いT(70)温度で証明されている通り、使用の短期間後は、触媒Aよりも幾分高い初期活性を示したと思われるが、その低チタン濃度を伴う触媒Aは、高チタン濃度を含む触媒BおよびCよりも著しく高い活性を示した。これは、低チタン含有触媒の明らかに大きな安定性に寄与し得る。
【0067】
本発明の妥当な変化、変更および改変は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、記載された開示および添付の特許請求の範囲の範囲内ででき得る。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】1つが高チタン含有量を有する触媒および今1つが低チタン含有量を有する触媒である2つの脱水素化触媒に対する、時間の関数としての脱水素化活性のプロットを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低チタン含有量を有する酸化鉄成分を含む酸化鉄系脱水素化触媒組成物であり、前記酸化鉄成分が、鉄塩の溶液から黄色酸化鉄沈殿物を沈殿させることにより作製される前記黄色酸化鉄沈殿物の加熱処理により作製され、および前記酸化鉄系脱水素化触媒組成物がチタンの第1濃度を有する、組成物。
【請求項2】
前記酸化鉄成分の前記低チタン含有量が、約300ppm未満であるチタンの前記第1濃度を与えるような量である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記黄色酸化鉄沈殿物が、約300ppm未満であるチタンの第2濃度を有する、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記黄色酸化鉄沈殿物が、鉄塩の水溶液(前記水溶液内に含まれているのは金属鉄である。)に鉄のコロイド状水和物を添加し、酸化剤を前記水溶液に導入し、前記黄色酸化鉄沈殿物を沈殿させ回収することにより形成されるものとして更に定義される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記酸化鉄系脱水素化触媒組成物が、カリウム化合物、セリウム化合物、モリブデン化合物、タングステン化合物およびカルシウム化合物からなる化合物の群から選択される追加の脱水素化触媒成分を更に含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記酸化鉄系脱水素化触媒組成物が更に、10重量%から98重量%の範囲における酸化鉄の量を含み、重量%が、前記酸化鉄系脱水素化触媒組成物の全重量を基準とし、Feとして計算される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記加熱処理が、温度範囲400℃から1000℃の空気を含む雰囲気において行われる、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
チタンの前記第1濃度が、250ppmw未満である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
チタンの第1濃度を有する、酸化鉄系脱水素化触媒の製造方法であり、前記方法が、
鉄塩の溶液からのこの沈殿により作製される黄色酸化鉄沈殿物(前記黄色酸化鉄はチタンの第2濃度を有する)を加熱処理することにより、低チタン含有量を有する赤色酸化鉄成分を形成する工程、
前記赤色酸化鉄成分を、追加の脱水素化触媒成分および水と混合して混合物を形成する工程、
前記混合物から粒子を形成する工程、および
前記粒子を加熱処理して、前記酸化鉄系脱水素化触媒を得る工程
を含む、方法。
【請求項10】
前記酸化鉄成分の前記低チタン含有量が、約300ppm未満であるチタンの前記第1濃度を与えるような量である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記黄色酸化鉄沈殿物が、約300ppm未満であるチタンの第2濃度を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記黄色酸化鉄沈殿物が、鉄塩の水溶液(前記水溶液内に含まれているのは金属鉄である。)に鉄のコロイド状水和物を添加し、酸化剤を前記水溶液に導入し、および前記黄色酸化鉄沈殿物を沈殿させ回収することにより形成されるものとして更に定義される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記追加の脱水素化触媒成分が、カリウム化合物、セリウム化合物、モリブデン化合物、タングステン化合物、アルカリ土類金属化合物、およびカルシウム化合物からなる化合物の群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記酸化鉄系脱水素化触媒組成物が更に、10重量%から98重量%の範囲における酸化鉄の量を含み、重量%が、前記酸化鉄系脱水素化触媒組成物の全重量を基準とし、Feとして計算される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記黄色酸化鉄沈殿物の前記加熱処理が、温度範囲400℃から1000℃の空気を含む雰囲気において行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
チタンの前記第1濃度が、250ppmw未満である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
チタンの前記第2濃度が、250ppmw未満である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
脱水素化条件下で、脱水素可能な炭化水素を、低チタン含有量を有する酸化鉄成分(前記酸化鉄成分は、鉄塩の溶液から黄色酸化鉄沈殿物を沈殿させることにより作製される前記黄色酸化鉄沈殿物の加熱処理により作製される)および追加の脱水素化触媒成分を含む酸化鉄系脱水素化触媒組成物(前記酸化鉄系脱水素化触媒組成物はチタンの第1濃度を有する)と接触させ、および脱水素化生成物を生成する、脱水素化方法。
【請求項19】
脱水素化条件下で、脱水素化可能な炭化水素を、請求項2、3、4、5、6、7、または8の触媒と接触させ、および脱水素化生成物を生成する、脱水素化方法。
【請求項20】
請求項9、10、11、12、13、14、15、16、または17の方法のいずれか1つにより作製される触媒組成物。
【請求項21】
第1の容量の脱水素化触媒を含有する脱水素化反応器を含む脱水素化反応システムの操作を改善する方法であり、前記方法が、前記脱水素化反応器から前記脱水素化触媒を除去しおよびこれを、低チタン含有量を有する酸化鉄成分(前記酸化鉄成分は、鉄塩の溶液から黄色酸化鉄沈殿物を沈殿させることにより作製される前記黄色酸化鉄沈殿物の加熱処理により作製される)および追加の脱水素化触媒成分を含む酸化鉄系脱水素化触媒組成物(前記酸化鉄系脱水素化触媒組成物はチタンの第1濃度を有する)で置き換えることにより第2の脱水素化反応システムを用意し、および前記第2の反応システムを脱水素化条件で操作する、方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−520431(P2008−520431A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−543238(P2007−543238)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【国際出願番号】PCT/US2005/041685
【国際公開番号】WO2006/055712
【国際公開日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(590002105)シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー (301)
【Fターム(参考)】