説明

低分子量ポリテトラフルオロエチレン水性分散液の製造方法

【課題】分散安定性に優れる低分子量ポリテトラフルオロエチレン水性分散液の製造方法の提供。
【解決手段】平均粒径が0.1〜0.5μmであり、平均分子量が70万〜3000万であるポリテトラフルオロエチレンの微粒子を10〜70質量%含有し、pHが6.0〜13.0であるポリテトラフルオロエチレン水性分散液に、γ線を2〜100kGy照射する低分子量ポリテトラフルオロエチレン(例えば、平均分子量は1万〜50万)水性分散液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子量ポリテトラフルオロエチレン水性分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低分子量ポリテトラフルオロエチレン(以下、ポリテトラフルオロエチレンをPTFEともいう。)は、平均分子量が1万〜50万であり、平均粒径が数μm〜数100μmの粉末として市販されている。低分子量PTFEは、汎用樹脂、ゴム、塗料等の改質用添加剤として使用され、潤滑性、撥水性等の優れた機能を付与する効果が有する。低分子量PTFEを水性塗料や水性樹脂に添加する場合には、低分子量PTFEが水性分散液の形態であることが望ましい。
【0003】
低分子量PTFEの粉末は撥水性が高く、水中への分散性に乏しく、ボールミル等により水へ機械的に分散しても、水中への低分子量PTFE粉末の分散安定性が不充分である。また、粉砕ボールや容器の材料の一部が水性分散液中に混入するおそれもある。このため、市販の低分子量PTFE分散液は、有機溶媒を媒体とした分散液が多く、これは水性塗料や水性樹脂と混和しにくいうえ、環境面でも好ましくない。
テローゲンの存在下にテトラフルオロエチレン(以下、TFEという。)を水性媒体中で重合して低分子量PTFEの水性分散液を製造方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)が、重合反応の制御が容易でないうえ、得られる低分子量PTFEの水性分散液中に未反応のテローゲンが残留するので環境面の問題があった。
【0004】
【特許文献1】特公昭51−25275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような問題のない、低分子量PTFE水性分散液の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、平均粒径が0.1〜0.5μmであり、平均分子量が70万〜3000万であるPTFEの微粒子を10〜70質量%含有し、pHが6.0〜13.0であるPTFE水性分散液に、γ線を2〜100kGy照射することを特徴とする低分子量PTFE水性分散液の製造方法を提供する。
また、本発明は、該製造方法で製造されてなる低分子量PTFE水性分散液を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法は、低分子量PTFE水性分散液の生産性に優れる。製造過程で発生する、PTFEの酸性分解ガスが吸収、中和され、また、低分子量PTFE水性分散液中にテローゲンや粉砕媒体等の異物が混入されない。本発明の製造方法で製造された低分子量PTFE水性分散液は、分散安定性に優れ、水性塗料、水性樹脂等への分散性、混合性に優れる。該低分子量PTFE水性分散液を添加された樹脂、ゴム、塗料等には、潤滑性、撥水性等の優れた特性が付与される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下の明細書において、低分子量PTFEの原料となる、平均分子量が70万〜3000万であるPTFEをc−PTFEと記す。
【0009】
本発明において、c−PTFE微粒子の平均粒径は、0.1〜0.5μmであり、0.15〜0.4μmが好ましく、0.2〜0.35μmがより好ましい。平均粒径がこの範囲より小さいと低分子量PTFEの収率が低く、この範囲より大きいとc−PTFE微粒子が沈降しやすく分散安定性が充分でない。平均粒径がこの範囲にあると、低分子量PTFEの収率が高く、c−PTFE微粒子の分散安定性にも優れる。c−PTFE微粒子は、例えば、ふっ素樹脂ハンドブック(里川編、日刊工業新聞社、1990年)の第28頁に記載されるような公知の乳化重合法により製造できる。
【0010】
本発明において、c−PTFEの平均分子量は、70万〜3000万であり、80万〜1500万が好ましく、100万〜1200万がより好ましい。平均分子量がこの範囲より低いとテローゲンを使用して製造する必要がある。また、この範囲より高いと低分子量化するためにγ線の過大な照射が必要である。平均分子量がこの範囲であると、未反応テローゲンによる環境問題がなく、γ線の過大な照射を必要としない。なお、c−PTFE及び低分子量PTFEの平均分子量は、前述のふっ素樹脂ハンドブックの第36頁に記載のように、示差熱分析で測定される結晶化熱から計算される値である。
【0011】
本発明において、c−PTFEとは、TFEの単独重合体に加えて、クロロトリフルオロエチレン等のハロゲン化エチレン、ヘキサフルオロプロピレン等のハロゲン化プロピレン、ペルフルオロアルキルビニルエーテル等のフルオロビニルエーテル等のコモノマーに基づく繰り返し単位の微量を含有し、実質的に溶融加工性を有しない、変性PTFEをも意味する。
【0012】
本発明におけるc−PTFEの水性分散液は、c−PTFEの微粒子を10〜70質量%含有する。c−PTFEの微粒子の含有量は20〜68質量%が好ましく、40〜65質量%がより好ましい。c−PTFEの微粒子の含有量が、この範囲より少ないと、水性分散液の粘度が低く、c−PTFEの微粒子の分散安定性が充分でない。また、この範囲より多いと水性分散液の製造時の濃縮工程での歩留まりが低い。含有量がこの範囲であると、c−PTFEの微粒子の分散安定性に優れ、濃縮工程での歩留まりが高い。
【0013】
本発明において、c−PTFEの水性分散液には、種々の界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤を含有するとc−PTFEの微粒子の分散安定性に優れる。該界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル系界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合系界面活性剤等の非イオン系界面活性剤が好ましい。
【0014】
より好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤である。界面活性剤の含有量は、c−PTFEの質量に対して1〜10質量%が好ましく、2〜8質量%がより好ましい。
また、c−PTFEの水性分散液には、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルアリル硫酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤、パラフィンオイル、ケロシン、へキサン等の非極性溶媒等が分散安定剤として含有されていてもよい。
【0015】
本発明において、c−PTFEの水性分散液のpHは6.0〜13.0であり、7.0〜12.0が好ましく、8.0〜11.0がより好ましい。この範囲より低いとγ線照射によりc−PTFEの低分子量化が不充分となり、この範囲より高いと分散安定性が低下しc−PTFEの微粒子が凝集する場合がある。pHがこの範囲であると、低分子量化が充分に進行し、また、c−PTFEの微粒子の分散安定性にも優れる。通常、乳化重合で得られるc−PTFEの水性分散液のpHは2〜4程度であるので、アルカリ性物質を添加して、c−PTFEの水性分散液のpHを本発明の範囲にすることが好ましい。アルカリ性物質の例として、アンモニア、アンモニア水、苛性ソーダ、苛性カリ、水酸化リチウム、炭酸アンモニウム、くえん酸アンモニウム等が挙げられる。アンモニア水、苛性ソーダ、及び苛性カリが好ましい。これらは、使用が簡便で、得られるc−PTFEの水性分散液においてc−PTFEの微粒子の分散安定性が優れる。
【0016】
本発明において、c−PTFEの水性分散液に、γ線を2〜100kGy照射する。γ線の線源としては、コバルト60、セレン75、イッテルビウム169、イリジウム192等が挙げられる。このうち一般的であるコバルト60が好ましい。
γ線の照射線量は2〜100kGyであり、2〜70kGyが好ましく、5〜50kGyがより好ましい。照射線量がこの範囲より少ないとc−PTFEの低分子量化が不充分であり、この範囲より大きいとγ線照射に要する費用が大きくなる。また、ポリエチレン等の樹脂容器を用いる場合には容器の強度低下を生ずる場合がある。この範囲であると低分子量化が充分に進行し、また、経済上も有利である。
【0017】
本発明において、c−PTFEの水性分散液を種々の容器に充填して、γ線を照射できる。該容器としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂容器、ガラス製容器、ステンレス鋼、アルミニウム等の金属容器、樹脂ライニングされた鉄製ドラム、樹脂内袋を有する鉄製ドラム、樹脂内袋を有する段ボール箱、樹脂内袋を有する金属製コンテナ容器等が挙げられる。γ線は浸透力が非常に強く、容器の肉厚は通常10mm以下であるため、材質差による影響は受けにくい。
【0018】
本発明における低分子量PTFEの平均分子量は1万〜50万が好ましく、2万〜40万がより好ましく、5万〜20万が最も好ましい。低分子量PTFEの平均分子量がこの範囲より小さいと撥水性、潤滑性等の付与効果が充分でなく、また、γ線照射に多大なエネルギーを必要とする。この範囲より大きいと低分子量PTFEがフィブリル化し易く汎用樹脂、ゴム、塗料等との混合性が不充分であり、また、得られた混合物が不均一になりやすい。この範囲あると、撥水性、潤滑性等に優れ、混合が均一となる。なお、γ線照射前後で水性分散液中に分散されているc−PTFE及び低分子量PTFEの微粒子の平均粒径は大きく変化しない。
【0019】
本発明において、PTFEの分子量低下率は、75%以上が好ましく、82%以上がより好ましく、89%以上が最も好ましい。ここで、PTFEの分子量低下率とは、γ線照射前のc−PTFEの平均分子量をM、γ線照射後に得られる低分子量PTFEの平均分子量をMとし、100×(M−M)/Mで表される値であり、分子量低下率が高いほど、c−PTFEの低分子量化が適切に進行したことを示す。この範囲にあると、低分子量PTFEが円滑に得られる。
【0020】
本発明において、TFEの乳化重合で得られた、c−PTFEの微粒子を10〜40質量%含有する乳化重合液を原料として用い、該乳化重合液のpHを本発明に規定の範囲とした後、γ線を照射することが好ましい。また、該乳化重合液に安定剤として界面活性剤等を添加後にγ線を照射する方法、乳化重合液に界面活性剤を添加し、公知の電気濃縮法、加熱濃縮法、その他の方法で濃縮した後にpHを本発明の範囲とし、c−PTFEの微粒子の含有量を30〜70質量%とした後、γ線を照射する方法、該乳化重合液を濃縮後にpHを本発明の範囲とし、ついで界面活性剤等の安定剤を配合してc−PTFEの微粒子の含有量を10〜68質量%としたc−PTFEの水性分散液にγ線を照射する方法、を用いることも好ましい。前記いずれの方法においても、c−PTFEの微粒子を10〜70質量%含有し、pHが6.0〜13.0の範囲に調整したc−PTFEの水性分散液にγ線を照射する。
【0021】
本発明の低分子量PTFE水性分散液は、各種樹脂等の配合剤を配合して水性撥水塗料や水性潤滑塗料として使用できる。
配合剤としては、水性アクリル樹脂、水性ウレタン樹脂、水性アクリルシリコーン樹脂、水性アルキド樹脂、水性紫外線硬化樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性エポキシ樹脂、等の塗料成分が挙げられる。また、塗料成分に加えて、フッ素系やシリコーン系等の非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、チキソトロピ性付与剤、無機塩類、水溶性有機溶剤、トルエン、キシレン等の有機溶媒、アンモニア等の防腐剤、レベリング剤、酸化チタン、酸化カドミウム、酸化鉄、酸化クロム等の顔料、コバルトブルー、カーボンブラック、硝子粉末、中空ガラスビーズ、黒鉛微粒子、シリカ微粒子、酸化チタン微粒子、雲母又は酸化チタン被覆雲母粉末等の着色剤等、を併用できる。
【0022】
また、本発明の低分子量PTFE水性分散液を、水性ポリエチレン樹脂、水性水性ポリエステル樹脂、水性ウレタン樹脂等の水性汎用樹脂分散液に混合した後、乾燥させたり、多価カチオン系凝集剤を用いて凝集させることにより、低分子量PTFEが均一に混合された汎用樹脂粉末を得ることができる。
【0023】
また、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、各種生分解性プラスチック等の樹脂の粉末やペレットに本発明の低分子量PTFE水性分散液を散布等の方法で混合し、必要に応じて混練し、乾燥させることにより、低分子量PTFEが混合された種々の樹脂を得ることができる。
【0024】
本発明の低分子量PTFE水性分散液は、一次電池や二次電池や燃料電池の用途において、電極表面の撥水処理剤として使用できる。本発明の低分子量PTFE水性分散液を用いた撥水剤は、低分子量PTFEがフィブリル化せず、フィブリル化する通常のc−PTFEの水性分散液のみを用いた場合に比較して加工性に優れる。
【0025】
また、従来、一次電池や二次電池や燃料電池の製造工程において、c−PTFEの水性分散液を電極活物質と混練することによりc−PTFEをフィブリル化させてペースト化し、極板に固定するためのバインダーとして使用する場合、従来のc−PTFEの水性分散液を用いると平均分子量が高すぎるためにペーストが硬くなりすぎて加工性に劣る場合があった。このような場合には、本発明の低分子量PTFE水性分散液とc−PTFEの水性分散液とを併用することによりペーストの硬度を適切に調節できるので、加工性を向上できる。
【0026】
本発明の製造方法において、c−PTFEの低分子量化が効率的に進行する機構については以下のように考えられる。一般に、粉末状のc−PTFEに空気中でγ線を照射すると、c−PTFEの分子鎖が切断され、空気中の酸素によってカルボキシル基等の末端基が生じ、分子量が低下する。一方、c−PTFEの水性分散液では、c−PTFEの微粒子が水と接触しているので酸化されにくく、分子量が低下しにくい。しかし、本発明では、c−PTFEの水性分散液のpHを6.0〜13.0に調整することにより、水酸イオンが、空気中における酸素に近い酸化作用を示すためにc−PTFEの分子量が低下しやすいものと考えられる。さらに、粉末状のc−PTFEでは、空気中でγ線を照射すると、フッ酸等の酸性分解ガスを生ずるが、本発明においては、酸性分解ガスが発生しても水性分散媒に吸収され、また、中和される等の好ましい効果も考えられる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、例1〜5が実施例であり、例6〜8は比較例である。安定剤として使用した非イオン系界面活性剤の平均的分子構造を表1に示す。また、サンプルの作製方法及び各項目の評価方法を以下に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
[PTFEの微粒子の含有量及び安定剤の含有量]JIS K6893に準じて、PTFEの水性分散液の10gをアルミ皿にとり、120℃で1時間乾燥後の残存質量%のx及び380℃で35分乾燥後の残存質量%のyを求め、yをPTFEの微粒子の含有量(質量%)とした。また、(x−y)/x×100をPTFEに対する安定剤の含有量(質量%)とした。
[粘度]ブルックフィールド型粘度計を用い、23℃で60rpmにて粘度を測定した。
【0030】
[pH]JIS K6893に準じて、ガラス電極を用いたpHメーター(堀場製作所製)を使用し、23℃で測定した。
[PTFEの平均分子量]380℃で35分乾燥して得たPTFEの10mgを採取し、示差熱分析装置(SSC5200、セイコー電子社製)を用いて、380℃から室温まで10℃/分で冷却したときの295℃と325℃の間に生ずる結晶化熱を測定し、下記式(1)から平均分子量を算出した。
M=2.1×1010ΔHc−5.16 (1)
ここで、Mは平均分子量、ΔHcは結晶化熱(cal/g)である。
【0031】
[PTFEの分子量低下率]γ線照射前のc−PTFEの平均分子量をM、γ線照射後に得られる低分子量PTFEの平均分子量をMとし、100×(M−M)/Mで表される値をPTFEの分子量低下率とした。分子量低下率が高いほど、低分子量化が良好に進行したことを示す。
[PTFEの平均粒径]PTFEの水性分散液を希釈し、レーザー散乱方式の粒度測定機(LA920、堀場製作所製)を使用して得られたメジアン径を平均粒径とした。
【0032】
[例1]
乳化重合により、c−PTFEの微粒子の平均粒子径が0.25μmであり、pHが3.2である乳化重合液を得た。これに水酸化アンモニウムを57%含有するアンモニア水を添加し、pHが7.9であり、c−PTFEの微粒子の含有量が25質量%であるc−PTFEの水性分散液を得た。該c−PTFEの水性分散液を、500mLのポリエチレンビンに満充填し、γ線を5kGy照射し、低分子量PTFE水性分散液を得た。c−PTFEの平均分子量は220万であり、得られた低分子量PTFEの平均分子量は24.1万であり、PTFEの分子量低下率は89.0%であった。
【0033】
[例2]
例1と同様にして得た乳化重合液に、安定剤として界面活性剤(a)をc−PTFEの固形分に対して4質量%添加し、電気濃縮法で濃縮後、アンモニア水を0.1質量%添加し、pHが9.8であり、c−PTFEに対する界面活性剤(a)の含有量が2.5質量%であり、c−PTFEの微粒子の含有量が66質量%であるc−PTFEの水性分散液を得た。例1と同様にして、γ線を15kGy照射し、低分子量PTFE水性分散液を得た。評価結果を表2に示す。
【0034】
[例3]
例1と同様にして得た乳化重合液に、安定剤として界面活性剤(a)をc−PTFEの固形分に対して5質量%溶解し、電気濃縮法で濃縮を行ない、さらに界面活性剤(a)及びアンモニア水を添加し、水酸化アンモニウムを0.1質量%含有し、pHが9.4であり、PTFEに対する界面活性剤(a)の含有量が6.0質量%であり、c−PTFEの微粒子の含有量が60質量%であるc−PTFEの水性分散液を得た。これに例1と同様に15kGyのγ線を照射し、低分子量PTFE水性分散液を得た。評価結果を表2に示す。
【0035】
[例4]
アンモニア水を水酸化カリウム水溶液に変更する以外は例2と同様にして得たc−PTFEの水性分散液を用い、γ線を5kGy照射し、低分子量PTFE水性分散液を得た。評価結果を表2に示す。
[例5]
乳化重合時の触媒量を調整し、例1よりも高分子量のc−PTFEを得た後、安定剤として界面活性剤(b)をc−PTFEの固形分に対して5質量%添加し、電気濃縮法で濃縮を行ない、さらに界面活性剤(b)及び水酸化ナトリウム水溶液を加え、c−PTFEの微粒子の含有量が60質量%であり、pHが11.6であり、であり、c−PTFEに対する界面活性剤(b)の含有量が6.0質量%であるc−PTFEの水性分散液を得たのち、γ線を50kGy照射し、低分子量PTFE水性分散液を得た。評価結果を表2に示す。
【0036】
[例6]
例1と同様にして得た乳化重合液を用い、pH調整を行なわずにpHが3.2のままでポリエチレンビンに満充填し、γ線を5kGy照射した。照射後のPTFE分子量は57.6万であり、分子量が充分に低下しなかった。また、該PTFEは、汎用樹脂、ゴム、塗料等との混合性が不充分であった。評価結果を表2に示す。
[例7]
添加する水酸化カリウム水溶液の濃度を0.5質量%として、pHを13.3とした以外は例4と同様にしてc−PTFEの水性分散液にγ線を照射したが、得られた低分子量PTFE水性分散液は増粘しゲル化した。評価結果を表2に示す。
【0037】
[例8]
フルオンCD1(PTFEファインパウダー、旭硝子社製)にγ線を15kGy照射して得た分子量8.5万のパウダーの40部、トライトンX100の3部、水の57部をボールミルに仕込み、10分間回転させ、低分子量PTFE水性分散液を得たが、1日放置すると低分子量PTFEの微粒子が沈降しており、分散安定性が低かった。
【0038】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の低分子量PTFE水性分散液の製造方法は、低分子量PTFE水性分散液の生産性に優れ、c−PTFEの酸性分解ガスが発生せず、製品中にテローゲンや粉砕媒体等の異物が混入しない。
また、本発明の低分子量PTFE水性分散液の製造方法を用いて製造した低分子量PTFE水性分散液は、配合剤を配合して水性撥水塗料や水性潤滑塗料のほか、耐熱塗料、低誘電率塗料又は低誘電損失塗料、その他水性機能性塗料として使用できる。
【0040】
また、本発明の低分子量PTFE水性分散液と水性汎用樹脂分散液を用いて、低分子量PTFEが均一に混合された汎用樹脂粉末を得ることができる。これは潤滑性樹脂部品、撥水性樹脂部品、耐熱性樹脂部品、低誘電率性又は低誘電損失樹脂部品、その他機能性樹脂部品として使用できる。
【0041】
また、本発明の低分子量PTFE水性分散液と樹脂粉末を用いて、低分子量PTFEが混合された各種樹脂を得ることができる。この樹脂も潤滑性樹脂部品、撥水性樹脂部品、耐熱性樹脂部品、低誘電率性又は低誘電損失樹脂部品、その他機能性樹脂部品として使用できる。
また、本発明の低分子量PTFE水性分散液は、二次電池や燃料電池の電極表面の撥水処理剤等として使用できる。また、本発明の低分子量PTFE水性分散液は、電池の製造工程において、バインダーの硬度調整剤として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が0.1〜0.5μmであり、平均分子量が70万〜3000万であるポリテトラフルオロエチレンの微粒子を10〜70質量%含有し、pHが6.0〜13.0であるポリテトラフルオロエチレン水性分散液に、γ線を2〜100kGy照射することを特徴とする低分子量ポリテトラフルオロエチレン水性分散液の製造方法。
【請求項2】
前記低分子量ポリテトラフルオロエチレンの平均分子量が1万〜50万である請求項1に記載の低分子量ポリテトラフルオロエチレン水性分散液の製造方法。
【請求項3】
γ線照射前のポリテトラフルオロエチレンの平均分子量をM、γ線照射後に得られる低分子量ポリテトラフルオロエチレンの平均分子量をMとし、100×(M−M)/Mで表される、ポリテトラフルオロエチレンの分子量低下率が75%以上である請求項1又は2に記載の低分子量ポリテトラフルオロエチレン水性分散液の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法で製造されてなる低分子量ポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法で製造されてなる低分子量ポリテトラフルオロエチレン粉末。


【公開番号】特開2006−63140(P2006−63140A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−245265(P2004−245265)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】